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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1378476
審判番号 不服2021-2455  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-25 
確定日 2021-10-19 
事件の表示 特願2017-520822「円偏光分離フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 1日国際公開、WO2016/190435、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017-520822号(以下「本件出願」という。)は、2016年(平成28年)5月27日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年5月28日、平成27年9月29日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 4月17日付け:拒絶理由通知書
令和2年 7月28日提出:手続補正書
令和2年 7月28日提出:意見書
令和2年11月26日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和3年 2月25日提出:手続補正書
令和3年 2月25日提出:審判請求書


第2 原査定の概要
本件出願の請求項1?10に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献等一覧
引用文献1:特開2011-148762号公報
引用文献2:国際公開第2014/010325号
引用文献3:特開2014-174321号公報
引用文献4:特開2003-131213号公報
引用文献5:特開2010-111104号公報
引用文献6:特開2001-4830号公報
(当合議体注:主引用例は、引用文献1であり、引用文献2?6は周知技術を示す文献である。)


第3 本願発明
本件出願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、令和3年2月25日にされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項によって特定される、以下のものである。

「 【請求項1】
重合性液晶化合物の重合体を含む樹脂層を備え、
前記重合性液晶化合物が、前記重合性液晶化合物の分子中に、主鎖メソゲンと、前記主鎖メソゲンに結合した側鎖メソゲンとを含み、
前記重合体が、コレステリック規則性を有し、
前記樹脂層が、円偏光を反射しうる半値幅50nm以下の波長帯域を有し、
前記樹脂層の少なくとも一方の表面に、前記波長帯域にある波長の光を回折する回折格子として機能できる凹凸構造を備える、円偏光分離フィルムの製造方法であって、
前記製造方法が、
基材上に、前記重合性液晶化合物を含む液晶性組成物の層を形成する工程と、
前記液晶性組成物の層に含まれる前記重合性液晶化合物を重合する工程と、を含み、
前記重合性液晶化合物を重合する工程が、照度が500mW/cm^(2)を超え5000mW/cm^(2)以下、且つ、照射エネルギーが300mJ/cm^(2)以上7000J/cm^(2)以下の紫外線を前記液晶性組成物の層に照射することを含む、円偏光分離フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記重合性液晶化合物の前記側鎖メソゲンが、窒素、炭素、塩素、臭素、ヨウ素及び硫黄からなる群から選ばれる元素を含む請求項1記載の円偏光分離フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記重合性液晶化合物の前記側鎖メソゲンが、ベンゾチアゾール環を有する、請求項1記載の円偏光分離フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記重合性液晶化合物が、下記式(I)で表される、請求項1記載の円偏光分離フィルムの製造方法。
【化1】

(前記式(I)において、
Y^(1)?Y^(8)は、それぞれ独立して、化学的な単結合、-O-、-S-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-NR^(1)-C(=O)-、-C(=O)-NR^(1)-、-O-C(=O)-NR^(1)-、-NR^(1)-C(=O)-O-、-NR^(1)-C(=O)-NR^(1)-、-O-NR^(1)-、又は、-NR^(1)-O-を表す。ここで、R^(1)は、水素原子又は炭素数1?6のアルキル基を表す。
G^(1)及びG^(2)は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、炭素数1?20の二価の脂肪族基を表す。また、前記脂肪族基には、1つの脂肪族基当たり1以上の-O-、-S-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-NR^(2)-C(=O)-、-C(=O)-NR^(2)-、-NR^(2)-、又は、-C(=O)-が介在していてもよい。ただし、-O-又は-S-がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。ここで、R^(2)は、水素原子又は炭素数1?6のアルキル基を表す。
Z^(1)及びZ^(2)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2?10のアルケニル基を表す。
A^(x)は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2?30の有機基を表す。
A^(y)は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1?20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2?20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3?12のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2?20のアルキニル基、-C(=O)-R^(3)、-SO_(2)-R^(4)、-C(=S)NH-R^(9)、又は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2?30の有機基を表す。ここで、R^(3)は、置換基を有していてもよい炭素数1?20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2?20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3?12のシクロアルキル基、又は、炭素数5?12の芳香族炭化水素環基を表す。R^(4)は、炭素数1?20のアルキル基、炭素数2?20のアルケニル基、フェニル基、又は、4-メチルフェニル基を表す。R^(9)は、置換基を有していてもよい炭素数1?20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2?20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3?12のシクロアルキル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数5?20の芳香族基を表す。前記A^(x)及びA^(y)が有する芳香環は、置換基を有していてもよい。また、前記A^(x)とA^(y)は、一緒になって、環を形成していてもよい。
A^(1)は、置換基を有していてもよい三価の芳香族基を表す。
A^(2)及びA^(3)は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数3?30の二価の脂環式炭化水素基を表す。
A^(4)及びA^(5)は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、炭素数6?30の二価の芳香族基を表す。
Q^(1)は、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1?6のアルキル基を表す。
m及びnは、それぞれ独立に、0又は1を表す。)
【請求項5】
前記重合性液晶化合物の屈折率異方性Δnが、0.01以上0.1以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載の円偏光分離フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記重合性液晶化合物の液晶相から等方性相への相転移温度が、100℃以上である、請求項1?5のいずれか一項に記載の円偏光分離フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記円偏光分離フィルムが、加飾用フィルムである、請求項1?6のいずれか一項に記載の円偏光分離フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記重合性液晶化合物を重合する工程は、
前記液晶性組成物の層を半硬化させる工程と、
前記半硬化させた液晶性組成物の層の表面に凹凸構造を形成する工程と、
前記液晶性組成物の層を本硬化させる工程と、を含む、請求項1?7のいずれか一項に記載の製造方法。」


第4 引用文献、引用発明等
1. 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2011-148762号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、分子の短軸方向にベンジルエステル骨格を有する化合物、この化合物を含む重合性液晶組成物、この重合性液晶組成物から得られる異方性ポリマー、ポリマーフィルムおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶相を有する重合性化合物は、重合によって光学補償(optical compensation)などの機能を有する重合体をあたえる。これは、液晶分子の配向が重合によって固定されるからである。このような重合体の機能を活用するために、種々の重合性化合物が開発されている。しかし、1つの重合性化合物では充分な機能を満たさないようである。そこで、幾つかの重合性化合物から組成物を調製し、この組成物を重合させるという試みがなされている(特許文献1?2参照)。
【0003】
本明細書では、液晶分子がホモジニアス(水平配向)、チルト(傾斜配向)、ホメオトロピック(垂直配向)、ツイスト(ねじれ配向)等の配向状態を示すことを、「ホモジニアス配向を有する」、「チルト配向を有する」、「ホメオトロピック配向を有する」、「ツイスト配向を有する」などと記すことがある。例えば、ホモジニアス分子配列の液晶フィルム即ちホモジニアスに配向された液晶フィルムを、ホモジニアス配向を有する液晶フィルムまたはホモジニアス配向の液晶フィルムのように記すことがある。
【0004】
ホモジニアス配向を有する重合体は、例えば、1/2波長板、1/4波長板、または他の光学機能を有するフィルムと組み合わせて使用できる(特許文献3参照)。
【0005】
上記の用途においては、重合性液晶材料はガラス基板、表面をプラスチック薄膜で被覆したガラス基板(例えば、カラーフィルター上に形成したオーバーコート膜)、カラーフィルター基板(特許文献4参照)、またはプラスチック基板上に積層される場合がある。プラスチック基板として用いられる材料の例は、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリカーボネート、PET、およびシクロオレフィン系樹脂類の重合体である。
【0006】
これまでに本発明者らは、室温下でも液晶相を安定して維持でき、均一な配向性を示す重合性液晶組成物を見出している(特許文献5参照)。しかしながら、これらの組成物では、光学特性、特に光学異方性(Δn)を小さくする必要がある場合に組成比を変更していくと、液晶相を常に維持できないという課題があった。また、光学異方性を制御する方法として、メソゲンの短軸方向に芳香環を持つ化合物(トリプチセン環を有する化合物)の添加が提案されているが、その方法でも多量に添加した場合に結晶化が起こることがあり、光学異方性の制御方法に課題があった(特許文献6参照)。
・・・省略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、液晶性および良好な混和性(miscibility)を有する化合物、ならびに、この化合物を含有し、適切な光学異方性や良好な塗布性等を有する重合性液晶組成物を提供することを課題とする。また、重合性液晶組成物の重合によって、光学異方性、透明性、化学的安定性、耐熱性、硬度、寸法安定性、接着性、密着性および機械的強度等に優れる重合体およびその特性を利用した用途を提供することも課題とする。更に、位相差フィルム、光学補償フィルム、反射フィルムなどを提供し、これらのフィルムを含む液晶表示装置、有機EL表示装置、PDPなどの画像表示装置を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはベンジルエステル骨格を分子の短軸方向に有する重合性液晶化合物を重合性液晶組成物の成分として用いるとき、異方性ポリマーの均一な配向性が確保でき、光学異方性が効果的に制御できることを見いだした。また、重合性トリプチセン誘導体と組み合わせることでも光学異方性を低下させることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。このベンジルエステル骨格を短軸方向に有する重合性液晶化合物は、重合性基を1つ以上有しており、他の重合性液晶化合物と同様に重合可能である。この化合物を含有する重合性液晶組成物を、ラビング等の機械的な表面処理、光配向処理、または化学的な表面処理を行った支持基板上へ塗布し、重合させた場合、均一に配向が制御された異方性ポリマーを形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化合物は重合性基を有するとともに分子の短軸方向にベンジルエステル骨格を有し、液晶相および良好な混和性(miscibility)を有する。この化合物を含有する本発明の重合性液晶組成物は光学異方性の制御が容易であり、適切な光学異方性、良好な塗布性等を有する。この組成物の重合によって得られる本発明の異方性ポリマーおよびポリマーフィルムは、光学異方性、透明性、化学的安定性、耐熱性、硬度、寸法安定性、接着性、密着性および機械的強度等の特性に優れる。従って、本発明の重合体は、位相差膜、偏光素子、円偏光素子、楕円偏光素子、反射防止膜、選択反射膜、色補償膜、視野角補償膜および液晶配向膜のような光学的な用途に適している。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、分子の短軸方向にベンジルエステル骨格を有する化合物、この化合物を含有する重合性液晶組成物、この組成物から得られる重合体およびその用途に関する本発明について、詳細に説明する。なお、本明細書における用語の使い方は、以下のとおりである。
「液晶性化合物」は、ネマチック相、スメクチック相等の液晶相を有する化合物および液晶相を有さないが液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。「化合物(1)」は、式(1)で表わされる1つの化合物を意味する。「化合物(1)」は、式(1)で表わされる化合物の少なくとも1つの化合物を意味することもある。「組成物(1)」は化合物(1)から選択される少なくとも1つの化合物を含有する組成物を意味する。「異方性ポリマー(1)およびポリマーフイルム(1)」は化合物(1)または組成物(1)を重合させることによって得られる重合体を意味する。
・・・省略・・・
【0014】
本発明は下記の[1]?[33]項で構成される。
[1] 式(1)で表される重合性液晶化合物:

ここに、R^(a)の少なくとも1つは重合性の基であって、重合性の基でないR^(a)は塩素、フッ素、シアノ、炭素数1?10のアルキル、炭素数1?10のアルコキシ、-CF_(3)または-OCF_(3)であり;環Aは独立して1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリジン-2,6-ジイル、ピリダジン-3,6-ジイル、ピリミジン-2,6-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル、フルオレン-2,7-ジイル、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、または任意の水素がハロゲン、シアノ、-NO_(2)、炭素数1?5のアルキルもしくは炭素数1?5のハロゲン化アルキルで置き換えられてもよい1,4-フェニレンであり;環Bは任意の水素がハロゲン、シアノ、-NO_(2)、炭素数1?5のアルキル、炭素数1?5のハロゲン化アルキル、炭素数1?5のアルコキシまたは炭素数1?5のハロゲン化アルコキシで置き換えられてもよいフェニルであり;Zは独立して単結合または炭素数1?20のアルキレンであって、このアルキレンにおいて任意の-CH_(2)-は-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられてもよく、そして任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;Yは独立して単結合または炭素数1?20のアルキレンであって、このアルキレンにおいて任意の-CH_(2)-は-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCOO-または-CH=CH-で置き換えられてもよく、そして任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;mおよびnは独立して0?5の整数である。
・・・省略・・・
【0024】
[12] 式(1)で表される重合性液晶化合物の少なくとも1つと、式(M1)、式(M2-1)?式(M2-5)、式(M3)および式(M4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの重合性化合物とを含有する重合性液晶組成物:

ここに、R^(a)の少なくとも1つは重合性の基であって式(a-1)?式(a-9)で表される基から選択される基であり、重合性の基でないR^(a)は塩素、フッ素、シアノ、炭素数1?10のアルキル、炭素数1?10のアルコキシ、-CF_(3)または-OCF_(3)であり;

(ここに、R^(b1)およびR^(b2)は独立して水素、ハロゲン、炭素数1?5のアルキル、または炭素数1?5のハロゲン化アルキルである。)
環Aは独立して1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリジン-2,6-ジイル、ピリダジン-3,6-ジイル、ピリミジン-2,6-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル、フルオレン-2,7-ジイル、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、または任意の水素がハロゲン、シアノ、-NO_(2)、炭素数1?5のアルキルもしくは炭素数1?5のハロゲン化アルキルで置き換えられてもよい1,4-フェニレンであり;
環Bは任意の水素がハロゲン、シアノ、-NO_(2)、炭素数1?5のアルキル、炭素数1?5のハロゲン化アルキル、炭素数1?5のアルコキシまたは炭素数1?5のハロゲン化アルコキシで置き換えられてもよいフェニルであり;
Zは独立して単結合または炭素数1?20のアルキレンであって、このアルキレンにおいて任意の-CH_(2)-は-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられてもよく、そして任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
Yは独立して単結合または炭素数1?20のアルキレンであって、このアルキレンにおいて任意の-CH_(2)-は-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCOO-または-CH=CH-で置き換えられてもよく、そして任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
mおよびnは独立して0?5の整数である:

ここに、R^(1)は独立して前記の式(a-4)、式(a-5)または式(a-9)で表される基であり;
R^(2)は炭素数1?10のアルキル、炭素数1?10のアルコキシ、塩素、フッ素、シアノ、-CF_(3)または-OCF_(3)であり;
環A^(1)は独立して1,4-シクロヘキシレンまたは任意の水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4-フェニレンであり;
Z^(1)は独立して単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCH_(2)-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CHCOO-、-OCOCH=CH-、-(CH_(2))_(2)COO-または-OCO(CH_(2))_(2)-であり;
Y^(1)は独立して単結合または炭素数1?20を有するアルキレンであり、このアルキレンにおける任意の-CH_(2)-は-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCOO-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;
L^(1)は独立して水素、フッ素または-CH_(3)であり;
L^(21)は独立して水素、ハロゲン、シアノ、炭素数1?8のアルキルまたは炭素数1?8のハロゲン化アルキルであり;
L^(25)は独立して水素、ハロゲン、炭素数1?8のアルキル、炭素数1?8のアルコキシ、シアノ、または炭素数1?8のハロゲン化アルキルであり;
p^(25)は1または2であり;
そして、p^(3)は1または2である。
・・・省略・・・
【0032】
[20] [12]?[18]のいずれか1項に記載の重合性液晶組成物を重合することによって得られる異方性ポリマー。
【0033】
[21] 重合性液晶組成物の配向形態がホモジニアス配向、チルト配向、ツイスト配向、ホメオトロピック配向のいずれか1つである、[20]項に記載の異方性ポリマー。
・・・省略・・・
【0038】
[28] [20]?[27]のいずれか1項に記載の異方性ポリマーを有する光学補償フィルム。
[29] [20]?[27]のいずれか1項に記載の異方性ポリマーを有する反射フィルム。
・・・省略・・・
【0041】
本発明の化合物は式(1)で表される。

【0042】
式(1)において、R^(a)の少なくとも1つは重合性の基である。即ち、式(1)は次の2つの式に展開される。

【0043】
式(1-A)および式(1-B)において、R^(a1)は重合性の基であり、下記の式(a-1)?式(a-9)で表される基から選択される基であることが好ましい。このとき、式(1-B)における2つのR^(a1)はそれぞれ異なる基であってもよいが、同じ基であることが好ましい。
・・・省略・・・
【0052】
本発明の化合物(1)は高い重合反応性を有する。化合物(1)は、分子の短軸方向にベンジル骨格を有することから内部自由体積が大きく、これが光学異方性を低減する効果を有する。化合物(1)は、液晶骨格を有するので液晶相を維持しやすく、そして他の液晶性化合物や重合性化合物等と混合させた場合、容易に相溶して均一になりやすい。なお、化合物(1)は、不斉炭素を有する場合には光学活性を有することになる。
【0053】
化合物(1)の末端基、環および結合基を適宜選択することによって、光学異方性等の物性を任意に調整することが可能である。末端基R^(a)、環Aおよび結合基Zの種類が、化合物(1)の物性に与える効果を以下に説明する。
【0054】
末端基R^(a)が塩素、フッ素、シアノ、炭素数1?10のアルキル、炭素数1?10のアルコキシ、-CF_(3)または-OCF_(3)である場合、融点や溶剤への溶解性、他の化合物との相溶性等の特性に影響を与えるようである。炭素数1?10のアルキルまたは炭素数1?10のアルコキシである場合に融点や溶解性に影響があり、塩素、フッ素、シアノ、-CF_(3)または-OCF_(3)である場合、融点や溶剤への溶解性、他の化合物との相溶性等の特性にも影響を与えるようである。
【0055】
環Aが、1,4-フェニレン、任意の水素がフッ素で置き換えられている1,4-フェニレン、ピリジン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイルまたはピリダジン-3,6-ジイルの場合、光学異方性が大きい。環Aが1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレンまたは1,3-ジオキサン-2,5-ジイルの場合、光学異方性が小さい。複数の環Aのうち少なくとも2つの環Aが1,4-シクロヘキシレンの場合、透明点が高く、光学異方性が小さく、粘度が小さい。少なくとも1つの環Aが1,4-フェニレンの場合、光学異方性が比較的大きく、配向秩序パラメーター(orientational order parameter)が大きい。少なくとも2つの環Aが1,4-フェニレンの場合、光学異方性が大きく、液晶相の温度範囲が広く、透明点が高い。
【0056】
環Bが任意の水素がハロゲン、シアノ、-NO_(2)、炭素数1?5のアルキル、炭素数1?5のハロゲン化アルキル、炭素数1?5のアルコキシまたは炭素数1?5のハロゲン化アルコキシで置き換えられているフェニルである場合、融点や溶剤への溶解性、他の化合物との相溶性等の特性にも影響を与えるようである。
【0057】
結合基Zが、単結合、-(CH_(2))_(2)-、-CH_(2)O-、-OCH_(2)-、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-、-CH=CH-、-CF=CF-または-(CH_(2))_(4)-の場合、粘度が小さい。結合基Zが、単結合、-(CH_(2))_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CH=CH-または-(CH_(2))_(4)-の場合、粘度がより小さい。結合基Zが、-CH=CH-または-CF=CF-の場合、液晶相の温度範囲が広い。結合基Zが-C≡C-の場合、光学異方性が大きい。
【0058】
化合物(1)が3つ以下の環Aを有するときは粘度が低く、3つ以上の環Aを有するときは透明点が高い。化合物(1)は、光学活性であってもよいし、光学的に不活性でもよい。光学活性な場合における不斉炭素の立体配置はRでもSでもよい。不斉炭素を有する場合は相溶性がよい。
【0059】
以上のように、末端基、環および結合基の種類や、環の数を適宜選択することにより目的の物性を有する化合物を得ることができる。
【0060】
化合物(1)は、有機合成化学の手法を組み合わせることにより合成できる。
・・・省略・・・
【0074】
上記のような方法で合成される化合物の例を以下に示す。なお、上記のようにして合成された化合物の構造は、たとえば、プロトンNMRスペクトルにより確認することができる。
・・・省略・・・
【0078】

・・・省略・・・
【0083】
本発明の組成物(1)は良好な塗布性等の特性を有する。本発明の組成物(1)の第1の態様は、化合物(1)から選択された1つの化合物を含有する。この組成物の重合によって単独重合体が得られる。第2の態様は、化合物(1)から選択された少なくとも2つの化合物を含有する。この組成物の重合によって共重合体が得られる。これらの組成物は添加物をさらに含有してもよい。第3の態様は、化合物(1)から選択された少なくとも1つの化合物と、その他の重合性化合物とを含有する。その他の重合性化合物は、重合性基を有する化合物ではあるが、化合物(1)とは異なる。この組成物の重合によっても共重合体が得られる。また、本発明の組成物(1)は、その他の重合性化合物、液晶性化合物、光学活性化合物、重合開始剤、溶媒、添加物などをさらに含有してよい。添加物は、界面活性剤、有機ケイ素化合物、連鎖移動剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などである。これらの化合物と添加物を順に説明する。
・・・省略・・・
【0086】
本発明の重合体の特徴と共重合体の特徴を顕著に発現させるために、組成物(1)は、化合物(1)以外の重合性化合物を、好ましくは10?97重量%、より好ましくは20?85重量%の範囲で含有することが望ましい。液晶性を有する重合性化合物および液晶性でない重合性化合物の割合については、これらの全重量が上述する範囲内であれば自由に変更することができる。また、どちらか一方の化合物だけを含有していてもよい。
【0087】
上記液晶性を有するその他の重合性化合物の好ましい例は、式(M1)、式(M2-1)、式(M2-2)、式(M2-3)、式(M2-4)、式(M2-5)、式(M3)および式(M4)で表される化合物である。これらの化合物を総称して、化合物(M)と表すことがある。
・・・省略・・・
【0095】
化合物(M1)、化合物(M2-1)、化合物(M2-2)、化合物(M2-3)、化合物(M2-4)、化合物(M2-5)、化合物(M3)および化合物(M4)の好ましい例として、化合物(M1-1)?(M1-3)、化合物(M2-1-1)?(M2-1-12)、化合物(M2-2-1)?化合物(M2-2-4)、化合物(M3-1)?(M3-16)および化合物(M4-1)?(M4-5)が挙げられる。
・・・省略・・・
【0106】
化合物(M2-1-1)?化合物(M2-1-15)の具体例を次に示す。以下の具体例において、nおよびmは独立して2?12の整数である。

・・・省略・・・
【0109】
化合物(M2-2-1)?化合物(M2-2-5)の具体例を次に示す。以下の具体例において、nおよびmは独立して2?12の整数である。

・・・省略・・・
【0152】
重合性液晶組成物は光学活性化合物を含有してもよい。光学活性を有する化合物を適当量含有した重合性液晶組成物、または、光学活性を有する重合性化合物を適当量含有した重合性液晶組成物を、配向処理した基板上に塗布して重合することによって、らせん構造(ツイスト構造)を示す位相差フィルムが得られる。重合性液晶化合物(M)の重合によって、このらせん構造が固定される。得られる異方性ポリマーの特性は、得られたらせん構造のらせんピッチに依存する。このらせんピッチ長は、光学活性化合物の種類および添加量により調整できる。添加する光学活性化合物は1つでもよいが、らせんピッチの温度依存性を相殺する目的で複数の光学活性化合物を用いてもよい。なお、重合性液晶組成物には、重合性液晶化合物(M)および光学活性化合物の他に、その他の重合性化合物が含まれてもよい。
【0153】
上記のような異方性ポリマーの特性である可視光の選択反射は、らせん構造が入射光に作用し、円偏光や楕円偏光を反射させるものである。選択反射特性はλ=n・Pitch(λは選択反射の中心波長、nは平均屈折率、Pitchはらせんピッチ)で表されるため、nまたはPitchを変えることにより中心波長(λ)および波長幅(Δλ)を適宜調整することができる。色純度を良くするには波長幅(Δλ)を小さくすればよいし、広帯域の反射を所望する際には波長幅(Δλ)を大きくすればよい。さらにこの選択反射は重合体の厚みの影響も大きく受ける。色純度を保つためには、厚みが小さくなりすぎないようにしなければならない。均一な配向性を保つためには、厚みが大きくなりすぎないようにしなければならない。したがって、適度な厚みの調整が必要であり、0.5?25μmが好ましく、1?10μmがより好ましい。
・・・省略・・・
【0159】
以下に重合性光学活性化合物の具体例を示す。これらの具体例において、nおよびmは独立して2?12の整数である。Rは炭素数1?10のアルキルである。

・・・省略・・・
【0204】
本発明では、重合性液晶組成物の配向を制御して重合することで得られる本発明のポリマーを異方性ポリマーと称する。異方性ポリマーは、次のようにして形成させることができる。まず、溶剤で希釈された重合性液晶組成物をラビング法や偏向光を利用した光配向法により表面処理された支持基板上に塗布し、これを乾燥させて液晶分子が配向した塗膜を形成させる。つぎに、その塗膜に光照射あるいは加熱を行い、液晶状態の重合性液晶組成物を重合させ、ネマチック配向を固定化する。
・・・省略・・・
【0211】
重合性液晶層中に形成された重合性液晶化合物のネマチック配向状態は、この重合性液晶化合物を光照射や加熱により重合することによって固定化される。光照射に用いられる光の波長は特に限定されない。電子線、紫外線、可視光線、赤外線(熱線)などを利用することができる。通常は、紫外線または可視光線を用いればよい。好ましい波長は150?500nmの範囲である。さらに好ましい波長は250?450nmの範囲であり、最も好ましい波長は300?400nmの範囲である。光源の例は、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などである。光源の好ましい例は、メタルハライドランプやキセノンランプ、超高圧水銀ランプおよび高圧水銀ランプである。光源と重合性液晶層との間に設置したフィルターを通すことにより、照射光の特定の波長範囲(または、特定の波長)を選択してもよい。光の好ましい量は、2?5000mJ/cm^(2)である。より好ましい量は10?3000mJ/cm^(2)の範囲であり、最も好ましい量は100?2000の範囲は、mJ/cm^(2)である。光照射時の温度条件は、上記の熱処理温度と同様に設定されることが好ましい。加熱による重合を行う場合は、熱重合開始剤の熱分解温度を目安に設定するとよい。また、光照射あるいは加熱による重合環境の雰囲気は窒素雰囲気、不活性ガス雰囲気、空気雰囲気のいずれでも良いが、窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気が硬化性を向上させる観点から好ましい。
・・・省略・・・
【0215】
異方性ポリマーの適切な厚さは、レタデーションや光学異方性(複屈折)の値に依存する。一般的には、異方性ポリマーの好ましい厚さは、およそ0.05?50μmである。そして、より好ましい厚さは0.5?20μmであり、さらに好ましい厚さは1?10μmである。異方性ポリマーの好ましいヘイズ値は1.5% 以下であり、より好ましいヘイズ値は1.0%以下である。好ましい透過率は80%以上であり、より好ましい透過率は95%以上である。透過率については、可視光領域でこれらの条件を満たすことが好ましい。
・・・省略・・・
【0218】
重合性液晶組成物が重合性または非重合性の光学活性化合物を含有するとき、異方性ポリマーは固定化されたらせん構造(helical structure)を有する。
【0219】
らせん構造が固定化された異方性ポリマーは、位相差膜、偏光素子、円偏光素子、楕円偏光素子、反射防止膜、選択反射膜、色補償膜、視野角補償膜の用途に適している。
【0220】
らせん構造の固定化は熱重合や光重合が適している。熱重合は、熱ラジカル発生剤またはカチオン重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。例えば、光カチオン重合開始剤の存在下、紫外線または電子線等を照射する重合法によって、分子が偏光の方向に配列した重合体が得られる。このような重合体は、ラビング処理をしなくても液晶配向膜等に使用できる。
【0221】
ラビング処理、光配向処理あるいは延伸処理をした支持基板上においても、重合性または非重合性の光学活性化合物を含有する重合性液晶組成物を重合するとき、らせん構造が固定された異方性ポリマーが得られる。らせん構造を有する異方性ポリマーの特性は、らせん構造におけるピッチに依存する。このらせんピッチは、光学活性化合物の種類および添加量により調整できる。この添加量は、重合性液晶組成物全体(溶媒を除く)に対して、通常、重量比0.0001?0.5、好ましくは重量比0.01?0.3である。光学活性化合物は1つでもよいが、複数の光学活性化合物を添加してらせんピッチを制御することできる。」

(3)「【実施例】
【0224】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されない。化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル、赤外吸収スペクトル、質量スペクトル等で確認した。相転移温度の単位は℃であり、Cは結晶を、Nはネマチック相を、Iは等方性液体相を示す。括弧内表示はモノトロピックの液晶相を示す。以下に、物性値の測定法を示す。
【0225】
<重合条件>
窒素雰囲気下または大気中において、室温で250Wの超高圧水銀灯を用いて30mW/cm^(2)(365nm)の強度の光を30秒間試料に照射した。
<ガラス基板の前処理>
厚さ1.1mmのガラス板に、配向剤(チッソ(株)製、商品名:リクソンアライナー PIA-5370)をスピンコートした。溶媒を乾燥後、ガラス板を210℃で30分間焼成し、表面をラビング処理した。このガラス板をガラス基板として用い、この上に液晶フィルムを調製した。
<液晶配向状態の確認>
基板上の液晶フィルムを偏光顕微鏡観察し、配向欠陥の有無を確認した。
<偏光解析装置による測定>
シンテック(株)製のOPTIPRO偏光解析装置を用い、基板上の液晶フィルムに波長が550nmの光を照射した。この光の入射角度をフィルム面に対して90度から減少させながらレタデーションを測定した。レタデーション(retardation;位相遅れ)は、Δn×dで表される。記号Δnは光学異方性であり、記号dは重合体フィルムの厚さである。
<膜厚測定>
ガラス基板上の液晶フィルムの厚さを微細形状測定装置(KLA TENCOR(株)製 アルファステップIQ)を用いて測定した。
<光学異方性(Δn)の評価>
ホモジニアス配向を有する液晶フィルムについて求めたレタデーションと膜厚の値から、レタデーション/膜厚として算出した。
<選択反射波長の確認>
選択反射を有するフィルムの透過スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製 V-670)を用いて評価した。選択反射域は、最大透過率と最小透過率の中央に位置する透過率の波長幅で示した。選択反射の中心波長は、波長幅の中央の値とした。
・・・省略・・・
[実施例2]
【0230】
下記に示す化合物(1-B-10)を以下のようにして合成した。

【0231】
上記化合物(ex2-1)74mmol、2,5-ジヒドロ安息香酸ベンジルエステル35mmolおよび4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)21mmolを、ジクロロメタン200mLに加え、窒素雰囲気下で撹拌した。そこへ、1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)74mmolのジクロロメタン100mL溶液を滴下した。滴下後、室温で8時間撹拌した。析出した沈殿物を濾別し、有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶剤を留去し、残査をカラムクロマトグラフィーで精製し、エタノールから再結晶することにより、上記化合物(1-B-10)16mmolを得た。得られた化合物(1-B-10)の融点は以下のとおりである。
相転移温度:C 79(N 65) I
【0232】
実施例3?17で使用した化合物を以下に示す。
【0233】

【0234】

・・・省略・・・
[実施例3]
【0241】
<重合性液晶組成物(1)の調製>
化合物(1-B-10):化合物(M2-1-2-1):化合物(M2-2-1-1)=34:23:43の重量比で、これらの化合物を混合した。この組成物をMIX1とする。このMIX1に対して、重量比0.002の非イオン性のフッ素系界面活性剤(ネオス(株)製、商品名フタージェント FTX-218)、重量比0.03の重合開始剤イルガキュアー907(チバ・ジャパン(株))を添加した。この組成物にシクロペンタノン/PGMEA=1/1(重量比)を加えて、溶剤の割合が75重量%である重合性液晶組成物(1)とした。なお、PGMEAは、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの略称である。
【0242】
次に、重合性液晶組成物(1)を、ラビング処理済配向膜付きガラス基板上へスピンコートにより塗布した。この基板を80℃で3分間加熱、室温で3分間冷却し、溶剤が除去された塗膜を紫外線により窒素気流下で重合させて、配向が固定された異方性ポリマーを得た。この異方性ポリマーを偏光顕微鏡観察したところ、配向欠陥はなく均一な配向を有していた。この異方性ポリマーのレタデーションを測定したところ、図1のような結果であり、ホモジニアス配向であることが分かった。フィルム面に対して90度のレタデーション測定値は137nmであり、膜厚は1160nmであったことからΔnは0.12と算出された。
【0256】
・・・省略・・・
[実施例12]
【0257】
MIX1に対して、重量比0.06の重合性光学活性化合物(OP-1)を添加し、重量比0.03の重合開始剤イルガキュアー907(チバ・ジャパン(株)製)と重量比0.01の重合開始剤CPI-110P(サンアプロ製)とを添加したこと以外は実施例3と同様にして調製した重合性液晶組成物(16)から重合体を得た。これを評価したところ、配向欠陥のない均一なツイスト配向の異方性ポリマーであった。また、この異方性ポリマーのレタデーションを測定したところ、図2のようになり、ネガティブCプレートであることが分かった。
【0258】
・・・省略・・・
[実施例14]
【0259】
MIX1に対して、重量比0.06の重合性光学活性化合物(OP-1)の代わりに重量比0.045の重合性光学活性化合物(OP-1)を添加したこと以外は、実施例12と同様にして調製した重合性液晶組成物(18)から重合体を得た。これを評価したところ、青色の選択反射を有し、配向欠陥のない均一なプラナー配向の異方性ポリマーであった。選択反射波長中心は455nmで、約50nmの選択反射域を有していた。」

2.引用発明
引用文献1の【0225】には、ガラス板に、配向剤をスピンコートし、溶媒を乾燥後、ガラス板を210℃で30分間焼成し、表面をラビング処理したガラス板をガラス基板として用い、この上に液晶フィルムを調製したことが記載されている。また、引用文献1の【0259】によれば、実施例14として、重合性液晶組成物(18)から得た重合体が、青色の選択反射を有し、プラナー配向の異方性ポリマーであり、選択反射波長中心は455nmで、約50nmの選択反射域を有していることが評価されたことが記載されている。ここで、引用文献1の【0204】、【0215】、【0242】等の記載から、引用文献1の実施例14の「異方性ポリマー」は、【0225】の「液晶フィルム」と同じものとして使われていることは明らかである。
そうしてみると、引用文献1の実施例14では、ガラス板に、配向剤をスピンコートし、溶媒を乾燥後、ガラス板を210℃で30分間焼成し、表面をラビング処理したガラス板をガラス基板として用い、この上に、重合性液晶組成物(18)から重合体を得て、異方性ポリマーを製造していることは明らかである。
すると、引用文献1の実施例14には、異方性ポリマーの製造方法として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ガラス板に、配向剤をスピンコートし、溶媒を乾燥後、ガラス板を210℃で30分間焼成し、表面をラビング処理したガラス板をガラス基板として用い、この上に、化合物(1-B-10):化合物(M2-1-2-1):化合物(M2-2-1-1)=34:23:43の重量比で混合した組成物のMIX1に対して、重量比0.045の重合性光学活性化合物(OP-1)を添加し、重量比0.03の重合開始剤イルガキュアー907(チバ・ジャパン(株)製)と重量比0.01の重合開始剤CPI-110P(サンアプロ製)とを添加し、この組成物にシクロペンタノン/PGMEA=1/1(重量比)を加えて、溶剤の割合が75重量%である重合性液晶組成物(18)から重合体を得て、異方性ポリマーを製造し、異方性ポリマーは、青色の選択反射を有し、配向欠陥のない均一なプラナー配向の異方性ポリマーであり、選択反射波長中心は455nmで、約50nmの選択反射域を有しており、重合条件は、窒素雰囲気下または大気中において、室温で250Wの超高圧水銀灯を用いて30mW/cm^(2)(365nm)の強度の光を30秒間試料に照射したものである、異方性ポリマーの製造方法。」


第5 対比・判断
1. 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のとおりとなる。

ア 重合性液晶化合物、重合性液晶化合物の重合体
引用発明の「異方性ポリマー」は、「化合物(1-B-10):化合物(M2-1-2-1):化合物(M2-2-1-1)」を含む「重合性液晶組成物(18)から重合体を得て」「製造」されたものである。
その化学構造式及び引用文献1の【0052】、【0074】、【0086】、【0087】、【0095】、【0106】、【0109】の記載からみて、引用発明の「化合物(1-B-10)」、「化合物(M2-1-2-1)」及び「化合物(M2-2-1-1)」は、本願発明1の「重合性液晶化合物」に相当する。
また、その化学構造式からみて、引用発明の「化合物(1-B-10)」は、分子中に、主鎖メソゲンと、前記主鎖メソゲンに結合した側鎖メソゲンとを含むものであるといえる。
そうすると、引用発明の「化合物(1-B-10)」は、本願発明1の「重合性液晶化合物」における、「前記重合性液晶化合物が、前記重合性液晶化合物の分子中に、主鎖メソゲンと、前記主鎖メソゲンに結合した側鎖メソゲンとを含み、」という要件を満たす。
また、その文言からみて、引用発明の「重合性液晶組成物(18)から」得た「重合体」は、本願発明1の「重合体」に相当し、本願発明1の「重合性液晶化合物の」という要件を満たす。
さらに、引用発明の「重合性液晶組成物(18)」には、「重合性光学活性化合物(OP-1)」が「添加」されている。引用文献1の【0152】、【0159】、【0218】の記載からみて、重合性光学活性化合物を添加した重合性液晶組成物は、配向処理した基板上に塗布して重合することによって、らせん構造(ツイスト構造)を示すフィルムが得られるものである。
そうしてみると、引用発明の「重合性液晶組成物(18)から」得た「重合体」は、本願発明1の「前記重合体が、コレステリック規則性を有し」という要件を満たす。

イ 樹脂層
上記アの製造方法及び引用文献1の【0215】の記載からみて、引用発明の「異方性ポリマー」が、層状であることは明らかである。
上記の点及びその文言からみて、引用発明の「異方性ポリマー」は、本願発明1の「樹脂層」に相当する。
また、上記アの構成及び上記アの対比結果からみて、引用発明の「異方性ポリマー」は、本願発明1の「樹脂層」における、本願発明1の「重合性液晶化合物の重合体を含む」という要件を満たす。
さらに、上記構成及び引用文献1の【0153】の記載からみて、引用発明の「異方性ポリマー」は、選択反射特性を有し、円偏光を反射させるものであるといえる。
そうしてみると、引用発明の「異方性ポリマー」は、本願発明1の「樹脂層」に対し、本願発明1の「樹脂層が、円偏光を反射しうる」「波長帯域を有し」という点で共通する。

ウ 液晶性組成物の層を形成する工程、重合性液晶化合物を重合する工程
引用発明は、「ガラス基板」「の上に」「重合性液晶組成物(18)から重合体を得て、異方性ポリマーを製造」するものである。
その文言からして、引用発明の「ガラス基板」は、本願発明1の「基材」に相当する。
また、引用発明の「重合性液晶組成物(18)」は、「溶剤の割合が75重量%である」。その材料及び製造方法からみて、引用発明は、重合性液晶組成物(18)をガラス基板上に塗布して重合性液晶組成物(18)の層を形成する工程と、その層に含まれる重合性液晶組成物(18)を重合する工程を含むことは自明であり(引用文献1の【0242】の記載からも明らかである。)、その「重合性液晶組成物(18)の層」は、本願発明1の「液晶性組成物の層」に相当する。
上記の点及び上記アの対比結果からみて、引用発明は、本願発明1の「基材上に、前記重合性液晶化合物を含む液晶性組成物の層を形成する工程と、前記液晶性組成物の層に含まれる前記重合性液晶化合物を重合する工程と、を含み」という要件を満たす。
また、引用発明の「重合条件」は、「窒素雰囲気下または大気中において、室温で250Wの超高圧水銀灯を用いて30mW/cm^(2)(365nm)の強度の光を30秒間試料に照射したものである」。ここで、「365nm」の光が紫外線であることは技術常識である。また、30mW/cm^(2)(365nm)の強度の光を30秒間試料に照射したときの照射エネルギーは、30mW/cm^(2)×30秒=900mJ/cm^(2)であると認められる。
そうしてみると、上記の点からみて、引用発明は、本願発明1と、「前記重合性液晶化合物を重合する工程が、」「照射エネルギーが300mJ/cm^(2)以上7000J/cm^(2)以下の紫外線を前記液晶性組成物の層に照射する」という点で共通する。

エ 円偏光分離フィルム
上記イの検討事項からみて、引用発明の「異方性ポリマー」は、本願の明細書の【0013】に定義されている円偏光分離機能を有し、フィルム状であるといえる。そうしてみると、引用発明の「異方性ポリマー」は、本願発明1の「円偏光分離フィルム」に相当し、さらに、引用発明の「異方性ポリマーの製造方法」は、本願発明1の「円偏光分離フィルムの製造方法」に相当する。

以上上記ア?エによれば、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「 重合性液晶化合物の重合体を含む樹脂層を備え、
前記重合性液晶化合物が、前記重合性液晶化合物の分子中に、主鎖メソゲンと、前記主鎖メソゲンに結合した側鎖メソゲンとを含み、
前記重合体が、コレステリック規則性を有し、
前記樹脂層が、円偏光を反射しうる波長帯域を有する、円偏光分離フィルムの製造方法であって、
前記製造方法が、
基材上に、前記重合性液晶化合物を含む液晶性組成物の層を形成する工程と、
前記液晶性組成物の層に含まれる前記重合性液晶化合物を重合する工程と、を含み、
前記重合性液晶化合物を重合する工程が、照射エネルギーが300mJ/cm^(2)以上7000J/cm^(2)以下の紫外線を前記液晶性組成物の層に照射することを含む、円偏光分離フィルムの製造方法。」

(相違点)
(相違点1)「樹脂層」が、本願発明1では、「樹脂層の少なくとも一方の表面に、前記波長帯域にある波長の光を回折する回折格子として機能できる凹凸構造を備える」のに対して、引用発明では、回折格子として機能できる凹凸構造を備えていない点。

(相違点2)「樹脂層」の「円偏光を反射しうる波長帯域」が、本願発明1では「半値幅50nm以下」であるのに対し、引用発明では「約50nmの選択反射域」であり、さらに、「重合性液晶化合物を重合する工程」において「液晶性組成物の層に照射する」「紫外線」について、両者の「照射エネルギー」が一致する一方で、「照度」が、本願発明1では「500mW/cm^(2)を超え5000mW/cm^(2)以下」であるのに対して、引用発明では、「30mW/cm^(2)」である点。
(当合議体注:本件明細書の【0004】、【0005】の記載及び令和3年2月25日に提出された審判請求書の記載から、重合性液晶化合物を重合する工程の照度と照射エネルギーが大きくなることにより、樹脂層の円偏光を反射しうる波長帯域が広くなるという技術的関連性の観点から、ひとまとまりの構成(相違点)として認定した。)

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
引用文献1には、「重合性液晶組成物」を重合するための紫外線の照度を、500mW/cm^(2)を超え5000mW/cm^(2)以下とすることは記載も示唆もない。また、照度が500mW/cm^(2)を超え5000mW/cm^(2)以下、且つ照射エネルギーが300mJ/cm^(2)以上7000J/cm^(2)以下の紫外線を液晶性組成物の層に照射することは、引用文献2?6にも記載はない。
確かに、製造時間の短縮は当該技術分野においても一般的な課題ではあるが、重合性液晶組成物を重合するための紫外線の照度を500mW/cm^(2)を超え5000mW/cm^(2)以下とすることが公知でない状況では、引用発明の製造方法をもとに照射エネルギーを同程度に維持しながら照度を大きくすることで、照射時間を短縮し、以て製造時間の短縮をすることに当業者が容易に着想できるとは、俄には認められない。
仮に、当業者が、引用発明の製造方法をもとに、重合性液晶組成物(18)を重合する際の照射エネルギーを900mJ/cm^(2)に維持しながら、照射時間を短くする目的で照度を「500mW/cm^(2)を超え5000mW/cm^(2)以下」と大きくすることを着想したとしても、そのような変更を施してなる方法で製造される円偏光分離フィルムは、異方性ポリマーの円偏光を反射しうる波長帯域が「50nm以下」を維持していないおそれが高い(当合議体注:照射エネルギーを変えず照度を大きくすると、液晶化合物の温度が上昇し、液晶相が損なわれて所望の螺旋構造が得られないので、円偏光を選択的に反射する帯域を狭くすることは難しくなる。)。
以上総合すると、当業者であっても、引用発明において、本願発明1の相違点2に係る構成とすることは、容易になし得たこととはいえない。
したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2?8について、
本願発明2?8は、いずれも、本願発明1の「前記樹脂層が、円偏光を反射しうる半値幅50nm以下の波長帯域を有し」、「前記重合性液晶化合物を重合する工程が、照度が500mW/cm^(2)を超え5000mW/cm^(2)以下、且つ、照射エネルギーが300mJ/cm^(2)以上7000J/cm^(2)以下の紫外線を前記液晶性組成物の層に照射することを含む」という相違点2に係る本願発明1の構成を具備するものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1は「前記重合性液晶化合物を重合する工程が、照度が500mW/cm^(2)を超え5000mW/cm^(2)以下、且つ、照射エネルギーが300mJ/cm^(2)以上7000J/cm^(2)以下の紫外線を前記液晶性組成物の層に照射することを含む」という事項を有するものとなっており、上記「第5」で述べたとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 他の拒絶の理由について
本願発明1の製造方法では、「重合性液晶化合物が、前記重合性液晶化合物の分子中に、主鎖メソゲンと、前記主鎖メソゲンに結合した側鎖メソゲンとを含」むこと、「重合性液晶化合物を重合する工程が、照度が500mW/cm^(2)を超え5000mW/cm^(2)以下、且つ、照射エネルギーが300mJ/cm^(2)以上7000J/cm^(2)以下の紫外線を前記液晶性組成物の層に照射すること」に加えて、発明の方法により製造された(すなわち、高い照度の紫外線の照射を受けた)樹脂層が「円偏光を反射しうる半値幅50nm以下の波長帯域を有」することが特定されている。
これに対応するように、円偏光分離フィルムの製造に用いる重合性液晶化合物を選定する条件として、(a)分子中に、主鎖メソゲンと、前記主鎖メソゲンに結合した側鎖メソゲンとを含み、(b)その重合体がコレステリック規則性を有し、(c)その重合体を含む樹脂層が円偏光を反射しうる半値幅50nm以下の波長帯域を有する(重合性液晶化合物の屈折率異方性Δnが小さい)という特徴に加え、さらに(d)液晶相から等方性相への相転移温度が高いという特徴にも着目して選定することが、本件出願の明細書に説明されているから、本願発明1の製造方法は、当業者が発明の課題を解決できる程度に、当該明細書の記載によって支持されている。また、本件出願の明細書には、その実施例として、上記(a)?(d)の特徴を満たす具体的な重合性液晶化合物も示されている。
してみれば、出願時の技術常識に照らしても請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない、又は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している、とまではいえない。
したがって、本件出願は、特許請求の範囲が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明1?8は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-30 
出願番号 特願2017-520822(P2017-520822)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 説志下村 一石  
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 井亀 諭
関根 洋之
発明の名称 円偏光分離フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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