• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1378525
審判番号 不服2020-12131  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-28 
確定日 2021-10-01 
事件の表示 特願2015-145410「導体を通る電流を感知する際に使用するためのセンサデバイスおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月10日出願公開、特開2016- 33512〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)7月23日(パリ条約による優先権主張2014年(平成26年)7月30日 米国)の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成30年 7月18日 :手続補正書の提出
令和 元年 5月22日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 4月17日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 4月30日 :原査定の謄本の送達
令和 2年 8月28日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年8月28日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲についての補正である。本件補正前(令和元年11月28日に提出された手続補正書による補正の後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前
「【請求項1】
電気エネルギーを電源から使用者に伝送する際に使用するための需給計器であって、
導体の中を流れる電流を感知するために及び感知した電流を表す信号を出力するために、前記導体の周りに少なくとも部分的に配置可能なセンサデバイスを有し、
前記センサデバイスは、非磁性基板と、コイルと、誘電材料を有し、
前記コイルは、前記非磁性基板の周りに巻かれた複数の巻き部を有し、且つ、開口を定め、前記導体は、前記開口の中に受入れられ、
前記非磁性基板は、複数の環状ボビンを有し、前記複数の巻き部の少なくとも1つは、前記複数の環状ボビンの各々の周りに巻かれ、
前記誘電材料は、誘電率を有し、
前記誘電材料は、前記導体が前記開口の中に受入れられるときに前記誘電材料が前記コイルと前記導体の間にあるように、前記コイルに隣接し且つ前記開口内に少なくとも部分的に配置され、
更に、感知した電流を表す前記信号を前記センサデバイスから受取るために、及び、時間経過とともに前記導体を通して前記電源から使用者に伝送された電力の量を決定するために、前記センサデバイスに連絡した計器制御盤を有し、
前記誘電材料の誘電率は、前記コイルと前記導体との間の容量結合を低減するように選択され、且つその結果として、前記計器制御盤がある電流範囲にわたって前記センサデバイスを校正するための1つの校正係数だけを有するように、前記センサデバイスの感度を低減するように選択される、需給計器。」

(2)本件補正後
「【請求項1】
電気エネルギーを電源から使用者に伝送する際に使用するための需給計器であって、
導体の中を流れる電流を感知するために及び感知した電流を表す信号を出力するために、前記導体の周りに少なくとも部分的に配置可能な電圧非依存の電流センサデバイスを有し、
前記電流センサデバイスは、非磁性基板と、コイルと、誘電材料を有し、
前記コイルは、前記非磁性基板の周りに巻かれた複数の巻き部を有し、且つ、開口を定め、前記導体は、前記開口の中に受入れられ、
前記非磁性基板は、複数の環状ボビンを有し、前記複数の巻き部の少なくとも1つは、前記複数の環状ボビンの各々の周りに巻かれ、
前記誘電材料は、誘電率を有し、
前記誘電材料は、前記導体が前記開口の中に受入れられるときに前記誘電材料が前記コイルと前記導体の間にあるように、前記コイルに隣接し且つ前記開口内に少なくとも部分的に配置され、
更に、感知した電流を表す前記信号を前記電流センサデバイスから受取るために、及び、時間経過とともに前記導体を通して前記電源から使用者に伝送された電力の量を決定するために、前記電流センサデバイスに連絡した計器制御盤を有し、
前記誘電材料の誘電率は、前記コイルと前記導体との間の容量結合を低減するように選択され、且つその結果として、前記計器制御盤がある電流範囲にわたって前記電流センサデバイスを校正するための1つの校正係数だけを有するように、前記電流センサデバイスの感度を低減するように選択される、需給計器。」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した事項である「センサデバイス」について、「電流センサデバイス」であることを限定するとともに、「電圧非依存の」との記載を追加して、その態様を限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討を行う。

3 独立特許要件についての判断
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)引用文献
以下に示す引用文献1は、原査定の拒絶の理由に引用された文献であり、発行日は本願の優先日より前である。

引用文献1:特開2013-61329号公報

(3)引用文献に記載された発明
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の記載がある。下線は当合議体が付した。

「【0002】
電力源から利用者に供給される電気を測定するために、少なくともいくつかの需給計器が使用されている。利用者に供給されるエネルギーの量を正確に計測できるようにするために、多くの需給計器は、電力源と利用者の間の導体を流れる電流を感知するためのセンサ装置を1つまたは複数含む。需給計器に含まれるセンサ装置は、電圧および/または電流の動作範囲で正確に機能するようになっている。」

「【0008】
図1は、例示的な需給計器10を示すブロック図である。この例示的な実施形態では、需給計器10は、センサ装置12、導体14、およびセンサ装置12に結合された計器制御盤17を含む。導体14としては、母線、マルチストランドワイヤ、シングルストランドワイヤ、ケーブル、またはその他の、電力源から電力利用者に電気を伝送する適当な導体などが挙げられる。電力源としては、ガスタービンエンジン、水力発電タービン、風力タービン、ソーラーパネル、ならびに/あるいは別の適当な発電および/または伝送システムなどの、電力網および/または発電システムが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。電力源としては、計器制御盤17と通信するスマートグリッドもある。利用者としては、一般家庭利用者、商用利用者、および/またはその他の任意レベルの任意の電気利用者が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。センサ装置12は、導体14に結合されて、導体14を流れる電流を感知する。センサ装置12は、感知した電流を表す信号を、計器制御盤17に提供する。センサ装置12から受信した信号に基づいて、計器制御盤17は、ある期間にわたって電力源から利用者に導体14を通じて伝送される電気の量を決定する。
【0009】
課金は、電力源から利用者に伝送される電気に対して行われることがあるので、センサ装置12の精度を高くして、電力源の運営業者が当該利用者に伝送した実質的に全ての電気に対して課金されるのではなく、当該利用者が実質的に受け取った電気に対してのみ課金されることが確実になされるようにすることが望ましい。
【0010】
この例示的な実施形態では、需給計器10は、導体15および16と、導体15に結合された別のセンサ装置12とをさらに含む。なお、他の需給計器の実施態様では、任意数の導体および/またはセンサ装置(例えば、1つでも、3つでも、6つでもよい)を使用することができることを理解されたい。さらに、センサ装置12は、需給計器10内の使用のみに限定されず、発電分野、公共事業分野、自動車分野、電化製品分野、電気通信分野など、実質的にどのような適用分野でも、導体を流れる電流を感知するために利用することができることも理解されたい。
【0011】
図2は、例示的なセンサ装置12を示す部分分解図である。この例示的な実施形態では、センサ装置12は、基体102、基体102の周りに巻き付けた複数ターンからなるコイル104、および誘電材料108を含む。コイル104には開口110が画定されており、この開口110は、その中に導体14を受けるように(例えばサイズ、向き、および/または形状などが)構成されている。誘電材料108は、コイル104に近接して、少なくとも一部が開口110内に入るように位置決めされる。さらに詳細には、本実施形態では、誘電材料108は、導体14を開口110に通して位置決めしたときに、少なくとも一部がコイル104と導体14の間に位置決めされる。
【0012】
誘電材料108としては、様々に構成される様々な特徴を有する1つまたは複数の誘電材料が挙げられる。例えば、誘電材料108は、約10?1000Hzで約3.0以上の誘電率を有することができる。実施形態によっては、誘電率は、約3.5、約4.0、約5.0、約8.0、約12.0、約17.0および/またはその他の任意の適当な値を超えることもある。例示的な1実施形態では、誘電材料108の誘電率は、約3.5に等しくすることができる。別の例示的な実施形態では、誘電材料108の誘電率は、約6.0に等しくすることができる。
【0013】
さらに、誘電材料108は、少なくとも1つの厚さを有するが、複数の厚さを有していてもよい。例示的な本実施形態では、コイル104に近接して少なくとも一部が開口110の中に位置決めされる誘電材料108の厚さは、約3.0ミリメートルである。また、本実施形態では、コイル104に近接するが開口110に対向して位置決めされる誘電材料108の厚さは、約1.2ミリメートルである。誘電材料108は、任意の1つまたは複数の厚さを有することができ、それによってセンサ装置12が本明細書に記載するような機能を発揮することができることを理解されたい。一般に、誘電材料108の厚さは、少なくとも部分的には、誘電材料108の誘電率、コイル104の1つまたは複数の導体14、15および16に対する近さ、および/または所期の環境内におけるセンサ装置の設置に利用できるスペースなどに基づいて選択される。いくつかの例示的な実施形態では、誘電材料108の厚さは、約1.0ミリメートルから約3.0ミリメートルの間とすることができるが、他の実施形態では、それより大きいこともある。」

「【0015】
図3は、導体14が開口110を通して延在している状態のセンサ装置12の組み立てられた状態を示す斜視図である。上述のように、センサ装置12は、導体14を流れる電流を感知する。詳細には、導体14に電流が流れると、コイル104に電流が誘導される。コイル104に誘導された電流の量は、導体14に流れる電流の量を表している。センサ装置12が導体14の周りに位置決めされているとき、コイル104は、導体14からある距離だけ離間している。したがって、コイル104と導体14の間に静電容量が存在する。この静電容量は、様々な動作電圧(例えば約30Vから約277Vの範囲)でセンサ装置12の精度に影響を及ぼす可能性がある。例示的な実施形態では、誘電材料108は、コイル104と導体14の間に画定されたエアギャップ106の少なくとも一部分の中に位置決めされる。その結果、誘電材料108は、コイル104および導体14を近接させたまま、コイル104と導体14の間の静電容量の低下に影響を及ぼし、および/またはそれを促進する。
【0016】
このように静電容量を低下させることにより、センサ装置12は、既知のロゴスキーコイルまたはその他のエアギャップコイルと比較して、より高い精度で導体14を流れる電流を感知することができるようになる。さらに詳細には、コイル104と導体14の間の容量結合を低減することにより、動作電圧に対する感度を低下させる。その結果、高電流および定電流を含む様々な電流範囲にわたって、様々な動作電圧で、一貫した電流検知が行われる。したがって、需給計器10がセンサ装置12を含む場合には、既知のセンサ装置の較正に必要な1つまたは複数のプロセスを省略することができる。具体的には、例示的な本実施形態では、様々な動作電圧にわたって正確に電流を検出するセンサ装置12の一貫性により、既知の需給計器を様々な電圧で使用するためには複数の較正係数が必要であるのに対して、計器制御盤17は、複数の動作電圧に対して較正係数を1つ使用するだけでよい。さらに、コイル104と導体14の間の静電容量が低下することにより、較正プロセスの削減および/または簡略化が容易になるだけでなく、動作電圧/電流範囲にわたって精度を最低でも同等に維持しながら、また多くの場合には向上させながら、製造に要するコスト、資源および/または時間を削減することが容易になる。」

「【0026】
例示的な本実施形態では、コイル104は、例示的なロゴスキーコイルを含む。ただし、センサ装置12は、ロゴスキーコイル以外のコイルを含むことができることを理解されたい。さらに、本開示の態様は、本明細書で説明および例示するようにロゴスキーコイルとともに使用する態様のみに限定されるわけではない。
【0027】
図5は、筐体112から分離した基体102およびコイル104を示す斜視図である。例示的な本実施形態では、基体102は、6個のボビン124、126、128、130、132および134(まとめてボビン124?134と記載する)を含む。各ボビン124?134は、ほぼ円形の断面を有し、さらに詳細には、両端にコイル104を保持するためのフランジ135を備えた直円柱である。その他の実施形態では、基体102は、異なる数、形状および/またはサイズのボビンを有することができる。例えば、基体102が備えるボビンの数は、5個であっても、8個であっても、10個であっても、30個であっても、あるいはそれ以外の偶数または奇数の数であってもよい。さらに、基体102は、異なる形状を有し、および/または卵形、楕円形または方形の断面などを有するボビンを備えることもできる。さらに別の実施形態では、基体102は、フランジ35に加えて、またはフランジ35の代わりに、コイル104を支持する別の構造を備えることもできる。少なくとも1つの実施形態では、コイル104は、基体102を省略することができるだけの剛性を有している。
【0028】
例示的な本実施形態では、ボビン124?134は、ヒンジ接合137によって互いに結合される。さらに詳細には、ボビン124と126は、ヒンジで結合されてその間で枢動することができる。様々な実施形態で、ボビン124?134は、コイル104を効率的に巻くことができるように一直線に整列させ、その後互いに枢動させて、図5に示すようにほぼ円形の形状を形成することができる。
【0029】
基体102の各ボビン124?134は非磁性構造であり、ボビン124?134が、例えば熱可塑性材料、セラミック材料、木材料またはその他の1種類または複数種類の適当な材料などを含めて、1つまたは複数の非磁性材料で構成されるようになっている。例示的な本実施形態では、各ボビン124?134は、誘電材料で作製され、この誘電材料は、おそらく誘電材料108と一致している。非磁性基体102を使用することにより、1つまたは複数の磁心を備える既知のセンサ装置に優るコスト削減が可能になる。さらに、例示的な本実施形態では、基体102は、嵩張る磁心を備える既知のセンサ装置と比較して、需給計器10内および/または計器制御盤17への取付けが改善されるような形状および/またはサイズを有している。さらに、例示的な本実施形態では、ボビン124?134は、筐体112とは別個に形成される。ただし、その他のセンサ装置の実施形態では、ボビン124?134は、筐体112と一体的に形成し、および/または筐体112の1つまたは複数の部分を形成していてもよいことを理解されたい。
【0030】
例示的な本実施形態では、コイル104は、各ボビン124?134に複数のコイルターン巻き付けられる。さらに詳細には、例示的な本実施形態では、コイル104は、1本のマグネットワイヤを備え、これにより、コイル104を、各ボビン124?134にそれぞれ複数のコイルターン巻き付けながらボビン124から134に順に巻いていき、その後、各ボビン124?134にさらに巻き付けながらボビン124まで戻すことができる。その他の実施形態では、その他の異なるボビン124?134への巻き付けパターンを用いることもできることを理解されたい。ボビン124?134に対する上記の巻き付けパターンに従うと、コイル104の第1の端部および第2の端部は、ボビン124で終端する。図7に示すように、また以下でさらに述べるように、コイル104の第1の端部は、リード線136で終端し、コイル104の第2の端部は、リード線138で終端する。」

「【0039】
さらに、第1および第2のシールド140および142は、EMIがセンサ装置12の精度に影響を及ぼすことを実質的に防止する。さらに詳細には、第1および第2のシールド140および142は、センサ装置12および/または需給計器10の精度を損なうようになっている近接する電子機器および/または装置など、センサ装置12に近接して位置決めされたEMI源の影響を阻止することを容易にする。さらに、磁心を省略することにより、既知のセンサと比較して、センサ装置12は、精度へのEMIの影響に対する耐性が向上している。したがって、センサ装置12は、1つまたは複数のEMI源が存在する状況にある既知のその他のセンサ装置と比較して、よりロバストおよび/または正確な電流センサ装置となる。」

「【図1】



「【図2】



「【図3】



「【図4】



「【図5】



引用発明の認定
引用文献1の前記アの記載事項をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「電力源から利用者に供給される電気を測定するために使用される需給計器10であって(【0002】、【0008】)、
導体14を流れる電流を感知し、感知した電流を表す信号を提供するセンサ装置12であって、導体14の周りに位置決めされているセンサ装置12を含み(【0008】、【0015】)、
前記センサ装置12は、基体102、コイル104、および誘電材料108を含み(【0011】)、
前記コイル104は、前記基体102の周りに巻き付けた複数ターンからなり、かつ、前記コイル104には開口110が画定されており、この開口110は、その中に前記導体14を受けるように構成されており(【0011】)、
前記コイル104は、ロゴスキーコイルであり(【0026】)、
前記基体102は、6個のボビン124、126、128、130、132および134を含み、各ボビン124?134は、非磁性構造であって、ほぼ円形の断面を有し、前記コイル104は、各ボビン124?134に複数のコイルターン巻き付けられ(【0027】、【0029】、【0030】)、
前記誘電材料108は、約10?1000Hzで約3.0以上の誘電率を有し(【0012】)、
前記誘電材料108は、導体14を開口110に通して位置決めしたときに、少なくとも一部がコイル104と導体14の間に位置決めされ、かつ、コイル104に近接して少なくとも一部が開口110の中に位置決めされ(【0011】、【0013】)、
前記センサ装置12に結合された計器制御盤17であって、感知した電流を表す信号を前記センサ装置12から受信し、ある期間にわたって電力源から利用者に導体14を通じて伝送される電気の量を決定する計器制御盤17を含み(【0008】)、
前記誘電材料108は、コイル104と導体14の間の静電容量を低下させることにより、センサ装置12の感度を低下させ、その結果、前記計器制御盤17は、複数の動作電圧に対して較正係数を1つ使用するだけでよい(【0015】、【0016】)、需給計器10。」

(4)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「電気」、「電力源」、「利用者」及び「需給計器10」は、それぞれ、本件補正発明の「電気エネルギー」、「電源」、「使用者」及び「需給計器」に相当する。
そして、引用発明において、「電気」が「電力源」から「利用者」に「供給」されることは、本件補正発明において、「電気エネルギー」が「電源」から「使用者」に「伝送」されることに相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「電気エネルギーを電源から使用者に伝送する際に使用するための需給計器」である点で一致する。

イ 引用発明の「導体14を流れる電流を感知し、感知した電流を表す信号を提供するセンサ装置12」は、本件補正発明の「導体の中を流れる電流を感知するために及び感知した電流を表す信号を出力するため」の「電流センサデバイス」に相当する。
そして、引用発明において、「センサ装置12」が「導体14の周りに位置決めされている」ことは、本件補正発明において、「電流センサデバイス」が「導体の周りに少なくとも部分的に配置可能」であることに相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「導体の中を流れる電流を感知するために及び感知した電流を表す信号を出力するために、前記導体の周りに少なくとも部分的に配置可能な」「電流センサデバイス」を有する点で共通する。

ウ 引用発明の「基体102」は、「非磁性構造」の「ボビン124?134」を含むから、本件補正発明の「非磁性基板」に相当する。
そうすると、引用発明の「基体102」、「コイル104」及び「誘電材料108」は、それぞれ、本件補正発明の「非磁性基板」、「コイル」、「誘電材料」に相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「前記電流センサデバイスは、非磁性基板と、コイルと、誘電材料」を有する点で一致する。

エ 引用発明の「複数ターン」及び「開口110」は、それぞれ、本件補正発明における「複数の巻き部」及び「開口」に相当する。
そして、引用発明において、「開口110は、その中に前記導体14を受ける」ことは、本件補正発明において、「前記導体は、前記開口の中に受入れられ」ることに相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「前記コイルは、前記非磁性基板の周りに巻かれた複数の巻き部を有し、且つ、開口を定め、前記導体は、前記開口の中に受入れられ」る点で一致する。

オ 引用発明における「6個のボビン124、126、128、130、132および134」は、「ほぼ円形の断面」を有するから、本件補正発明における「複数の環状ボビン」に相当する。
そして、引用発明において、「前記コイル104は、各ボビン124?134に複数のコイルターン巻き付けられ」ることは、本件補正発明において、「前記複数の巻き部の少なくとも1つは、前記複数の環状ボビンの各々の周りに巻かれ」ることに相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「前記非磁性基板は、複数の環状ボビンを有し、前記複数の巻き部の少なくとも1つは、前記複数の環状ボビンの各々の周りに巻かれ」る点で一致する。

カ 引用発明において、「前記誘電材料108は、約10?1000Hzで約3.0以上の誘電率を有」することは、本件補正発明において、「前記誘電材料は、誘電率を有」することに相当する。

キ 引用発明において、「前記誘電材料108は、導体14を開口110に通して位置決めしたときに、少なくとも一部がコイル104と導体14の間に位置決めされ」ることは、本件補正発明において、「前記誘電材料は、前記導体が前記開口の中に受入れられるときに前記誘電材料が前記コイルと前記導体の間にある」ことに相当する。
そして、引用発明において、「前記誘電材料108は」「コイル104に近接して少なくとも一部が開口110の中に位置決めされ」ることは、本件補正発明において、「前記誘電材料は」「前記コイルに隣接し且つ前記開口内に少なくとも部分的に配置され」ることに相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「前記誘電材料は、前記導体が前記開口の中に受入れられるときに前記誘電材料が前記コイルと前記導体の間にあるように、前記コイルに隣接し且つ前記開口内に少なくとも部分的に配置され」る点で一致する。

ク 引用発明の「前記センサ装置12に結合された計器制御盤17」は、本件補正発明の「前記電流センサデバイスに連絡した計器制御盤」に相当する。
そして、引用発明において、「計器制御盤17」は「感知した電流を表す信号を前記センサ装置12から受信し、ある期間にわたって電力源から利用者に導体14を通じて伝送される電気の量を決定する」ものであり、本件補正発明において、「計器制御盤」は「感知した電流を表す前記信号を前記電流センサデバイスから受取るために、及び、時間経過とともに前記導体を通して前記電源から使用者に伝送された電力の量を決定するため」のものであるところ、引用発明における「ある期間にわたって電力源から利用者に導体14を通じて伝送される電気の量」と、本件補正発明における「時間経過とともに前記導体を通して前記電源から使用者に伝送された電力の量」は、「時間経過とともに前記導体を通して前記電源から使用者に伝送された電気に関する量」である点で共通する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「更に、感知した電流を表す前記信号を前記電流センサデバイスから受取るために、及び、時間経過とともに前記導体を通して前記電源から使用者に伝送された電気に関する量を決定するために、前記電流センサデバイスに連絡した計器制御盤」を有する点で共通する。

ケ 引用発明において、「前記誘電材料108は、コイル104と導体14の間の静電容量を低下させることにより、センサ装置12の感度を低下させ」ることは、本件補正発明において、「前記誘電材料」は、「前記コイルと前記導体との間の容量結合を低減」させ、「前記電流センサデバイスの感度を低減」させることに相当する。
また、引用発明の「較正係数」は本件補正発明の「校正係数」に相当し、引用発明の「動作電圧」と本件補正発明の「電流範囲」は、導体に印加する電圧又は電流の範囲という意味で共通する。
さらに、引用発明において、「誘電材料108」の「誘電率」は、「前記計器制御盤17は、複数の動作電圧に対して較正係数を1つ使用するだけでよい」という結果が得られるように「選択」されたものであることは自明である。
よって、本件補正発明と引用発明は、「前記誘電材料の誘電率は、前記コイルと前記導体との間の容量結合を低減するように選択され、且つその結果として、前記計器制御盤が導体に印加する電圧又は電流の範囲にわたって前記電流センサデバイスを校正するための1つの校正係数だけを有するように、前記電流センサデバイスの感度を低減するように選択される」ものである点で共通する。

(5)一致点及び相違点
前記(4)の対比の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点
「電気エネルギーを電源から使用者に伝送する際に使用するための需給計器であって、
導体の中を流れる電流を感知するために及び感知した電流を表す信号を出力するために、前記導体の周りに少なくとも部分的に配置可能な電流センサデバイスを有し、
前記電流センサデバイスは、非磁性基板と、コイルと、誘電材料を有し、
前記コイルは、前記非磁性基板の周りに巻かれた複数の巻き部を有し、且つ、開口を定め、前記導体は、前記開口の中に受入れられ、
前記非磁性基板は、複数の環状ボビンを有し、前記複数の巻き部の少なくとも1つは、前記複数の環状ボビンの各々の周りに巻かれ、
前記誘電材料は、誘電率を有し、
前記誘電材料は、前記導体が前記開口の中に受入れられるときに前記誘電材料が前記コイルと前記導体の間にあるように、前記コイルに隣接し且つ前記開口内に少なくとも部分的に配置され、
更に、感知した電流を表す前記信号を前記電流センサデバイスから受取るために、及び、時間経過とともに前記導体を通して前記電源から使用者に伝送された電気に関する量を決定するために、前記電流センサデバイスに連絡した計器制御盤を有し、
前記誘電材料の誘電率は、前記コイルと前記導体との間の容量結合を低減するように選択され、且つその結果として、前記計器制御盤が導体に印加する電圧又は電流の範囲にわたって前記電流センサデバイスを校正するための1つの校正係数だけを有するように、前記電流センサデバイスの感度を低減するように選択される、需給計器。」

イ 相違点
(ア)相違点1
本件補正発明は、「電流センサデバイス」が「電圧非依存」のものであるのに対して、引用発明は、「センサ装置12」が「電圧非依存」のものとはされていない点。

(イ)相違点2
本件補正発明は、「計器制御盤」が決定するのが「電力の量」であるのに対して、引用発明は、「計器制御盤17」が決定するのが「電気の量」である点。

(ウ)相違点3
本件補正発明は、「1つの校正係数だけを有する」のが「ある電流範囲にわたっ」たものであるのに対して、引用発明は、「較正係数を1つ使用するだけでよい」のが「複数の動作電圧に対する」ものである点。

(6)相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア)引用発明の「センサ装置12」が有する「コイル104」は「ロゴスキーコイル」である。ここで、ロゴスキーコイルが磁心を有しない空芯コイルであることは、例を挙げるまでもない技術常識であり、また、引用文献1の【0039】にも、「センサ装置12」が「磁心を省略」したものであることが記載されている。

(イ)一方、本願明細書の【0049】には、「センサデバイス12は、飽和する芯を有しないインダクタである。」と記載されており、【0050】には、「空芯を有するインダクタとして、センサデバイス12は、電圧非依存である。」と記載されている。さらに、審判請求人は令和3年4月8日付け上申書において、「すなわち、飽和する芯を有しないことにより、電圧非依存の電流センサデバイスとしています。」と主張している。
したがって、本願明細書において、電流センサデバイスが空芯コイルを有することと、電流センサデバイスが「電圧非依存」であることは、同義であるといえる。

(ウ)前記(ア)によると、引用発明の「センサ装置12」は空芯コイルを有するものであり、前記(イ)によると、空芯コイルを有する電流センサデバイスは「電圧非依存」である。
そうすると、引用発明の「センサ装置12」が「電圧非依存」のものであることは明らかであるから、相違点1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
需給計器により測定する電気の量には、主に電圧、電流及び電力があり、どの量を測定するかは当業者が適宜選択すべき事項である。
よって、引用発明において、「電気の量」として「電力の量」を選択し、相違点2に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
(ア)引用文献1の【0016】には、「その結果、高電流および定電流を含む様々な電流範囲にわたって、様々な動作電圧で、一貫した電流検知が行われる。」と記載されており、「さらに、コイル104と導体14の間の静電容量が低下することにより、較正プロセスの削減および/または簡略化が容易になるだけでなく、動作電圧/電流範囲にわたって精度を最低でも同等に維持し」と記載されている(下線は当合議体が付した。)。

(イ)また、ある電気抵抗値を有する導体に対して印加する電圧値と、当該導体を流れる電流値の間には一対一の関係が成立するから、複数の「動作電圧」のそれぞれに一対一に対応する複数の電流値が存在することは明らかであるし、当該複数の電流値が一つの「電流範囲」を構成することも明らかである。

(ウ)前記(ア)及び(イ)を総合すると、複数の「動作電圧」に対して較正係数が1つであることと、ある「電流範囲」にわたって較正係数が1つであることとの間には実質的な差違がない。
したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。

(7)作用効果について
本件補正発明の奏する作用効果として、引用発明及び技術常識から予測されるものを超える格別顕著なものは、認めることができない。

(8)審判請求人の主張について
審判請求人は令和2年8月28日付け審判請求書において、「引用文献1は、センサ装置12を開示していますが(段落[0003]等参照)、電圧非依存の電流センサデバイスを開示していないだけでなく、その示唆すらしていません。」と主張している。
また、審判請求人は令和3年4月8日付け上申書において、「引用文献1の明細書は、コイルと導体の間の結合容量を低減することにより動作電圧に対する感度を低下させることを開示するに過ぎず、飽和する芯を有しないことにより、電圧非依存のセンサデバイスを達成することを開示も示唆もしていません。」と主張している。
しかしながら、前記(6)アで説示したとおり、引用発明の「センサ装置12」が「電圧非依存」のものであることは明らかであるから、審判請求人の主張は採用することができない。

(9)独立特許要件についての判断のまとめ
よって、本件補正発明は、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
以上検討のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2で説示したとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
本願発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献1:特開2013-61329号公報(前掲)

3 引用文献に記載された発明等
引用文献1には、前記第2の3(3)イにおいて記載したとおりの引用発明が記載されている。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「電圧非依存の電流センサデバイス」について、「電圧非依存の電流」という記載を省き、単なる「センサデバイス」としたものである。
そうすると、本願発明と引用発明は、前記第2の3(5)イ(イ)で示した相違点2及び前記第2の3(5)イ(ウ)で示した相違点3のみにおいて相違する。
そして、前記第2の3(6)イで示したとおり、相違点2に係る構成は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。また、前記第2の3(6)ウで示したとおり、相違点3は実質的な相違点ではない。
よって、本願発明は、引用文献1に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2021-05-06 
結審通知日 2021-05-10 
審決日 2021-05-21 
出願番号 特願2015-145410(P2015-145410)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01R)
P 1 8・ 575- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島▲崎▼ 純一名取 乾治  
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 中塚 直樹
岸 智史
発明の名称 導体を通る電流を感知する際に使用するためのセンサデバイスおよび方法  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山本 泰史  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 須田 洋之  
代理人 松下 満  
代理人 渡邊 徹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ