• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1378592
審判番号 不服2020-971  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-24 
確定日 2021-10-06 
事件の表示 特願2016-548186「新生物の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月30日国際公開、WO2015/109367、平成29年 2月 2日国内公表、特表2017-503846〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2015年1月23日(パリ条約による優先権主張 2014年1月24日 (AU)オーストラリア)を国際出願日とする特許出願であり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。

平成30年 1月10日 手続補正書の提出
同年10月26日付け 拒絶理由通知
平成31年 4月24日 手続補正書及び意見書の提出
同年 4月25日 手続補足書の受付
令和 1年 9月17日付け 拒絶査定
令和 2年 1月24日 手続補正書及び審判請求書の提出
同年12月 9日 上申書の提出

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?21に係る発明は、令和2年1月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」ということがある。)は、次のとおりである。

「治療を必要とする患者における転移性大腸がんの治療のための医薬の製造におけるオキサリプラチン(OXA)、ロイコボリン(LV)、及び5-フルオロウラシル(5-FU)の組合せの使用であって、
(i)以下を含む第1の化学療法治療レジメンの第1日目に前記患者に前記医薬が送達され、
(a)60mg/m^(2)?80mg/m^(2)の用量でのOXAの2時間の注入;
(b)約100mg/m^(2)?400mg/m^(2)の用量でのLVの2時間の注入;
(c)続けて、約300mg/m^(2)?500mg/m^(2)の用量での5-FUのボーラス、及び次いで約2.0g/m^(2)?2.6g/m^(2)の用量での約40時間?50時間の5-FUの注入;
(ii)治療サイクルの間に1週間?3週間の間隔を空けて(i)を3サイクル反復され;
(iii)(i)の開始に続き、又は(i)の反復に続き、第3日目?第14日目の間に選択的内部照射療法(SIRT)が前記患者に送達され;及び
(iv)(ii)において送達される最後の治療から2週間後に、前記患者は以下を含む第2の化学療法治療レジメンが送達される
(a)80mg/m^(2)?100mg/m^(2)の用量でのOXAの2時間の注入;
(b)100mg/m^(2)?400mg/m^(2)の用量でのLVの2時間の注入;
(c)続けて、300mg/m^(2)?500mg/m^(2)の用量での5-FUのボーラス、及び次いで2.0g/m^(2)?2.6g/m^(2)の用量での40時間?50時間の5-FUの注入;
ことを特徴とする使用。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、請求項1についての理由は、概略、以下のとおりである。

本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2?3に記載された事項に基づいて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.American Journal of Clinical Oncology,2013年,Vol.36, No.5,pp. 455-460
2.Journal of Clinical Oncology,2007年,Vol.25, No.9,pp.1099-1106
3.FOLFOX Plus SIR-SPHERES MICROSPHERES Versus FOLFOX Alone in Patients With Liver Mets From Primary Colorectal Cancer (SIRFLOX)[オンライン],2008年,[検索日 2018.07.12], インターネット:

4 引用例の記載事項
(1)引用例1について
引用例1(American Journal of Clinical Oncology,2013年,Vol.36, No.5,pp.455-460)には、次のとおり記載されている(当審による訳文にて示す。下線は当審で付した。)。

(引1ア)
「大腸がん肝転移に対する化学療法を伴うイットリウム-90ミクロスフィア選択的内部放射腺療法(Chemo-SIRT)」(455頁表題)

「目的:イットリウム90(^(90)Y)ミクロスフィアを用いた選択的内部放射線療法(SIRT)は、大腸がん肝転移の治療に有利な奏効率を有する効果的な肝指向性療法である。本研究の目的は、CRCLM(大腸がん肝転移)の患者におけるフロントライン(一次又は二次治療)の現代の化学療法と組み合わせた、^(90)Yミクロスフィア治療により得られる客観的な反応を調査することである。

方法:本研究では、右肝葉と左肝葉を生体内において比較した。全身化学療法は全身投与により両方の肝葉に供給されたが、SIRTは標的肝葉のみに選択的に投与された。治療に対する反応は、4週間、2?4か月及び6?8か月後に実施された連続フルデオキシグルコース陽電子放出断層撮影コンピュータ断層撮影によって評価した。標準的な取り込み値、解剖学的体積、機能的腫瘍体積及び総糖代謝量(TLG)の計算を各時点で測定した。

結果:フルデオキシグルコース陽電子放出断層撮影コンピュータ断層撮影画像でのTLGの減少は、20人の患者のうち19人で見られた。化学療法-SIRTを受けた腫瘍と化学療法のみの治療を受けた腫瘍とにおけるTLG値の平均減少は、治療後4週間、2?4か月、6?8か月で、それぞれ、86.26%±18.57%と31.74%±80.99%(P<0.01)、93.13%±11.81%と40.80%±73.32%(P=0.01)、90.55%±19.75%と54.91%±38.55%(P<0.01)であった。機能的及び解剖学的腫瘍体積の変化は、TLGの変化と一致していた。

結論:この研究は、患者と腫瘍の特徴に関してほぼ同じ条件下で、化学療法とSIRTとの併用が、大腸がん肝転移患者のフロントライン治療における化学療法のみの治療と比較して優れた客観的反応をもたらしたことを示した。」(455頁左欄)

(引1イ)
「患者と方法

原発性大腸がんからの複数の肝転移を有する患者であって、化学療法感受性である患者(n=18)又は全身化学療法の最初の治療(n=2)に失敗した…患者が集まった。」(455頁右欄18行、20?23行)

「試験計画及び治療プロトコール

患者は、一次治療としてFOLFOX6(オキサリプラチン100mg/m^(2) 2時間静注、ロイコボリン200mg/m^(2) 2時間静注、5-フルオロウラシル(5-FU)400mg/m^(2) 2?4分ボーラス静注、引き続き5-FU2400mg/m^(2)46時間連続注入)、二次治療としてFOLFIRI(イリノテカン180mg/m^(2)120分静注、ロイコボリン200mg/m^(2)2時間静注、5-FU400mg/m^(2)2?4分ボーラス静注、引き続き5-FU2400mg/m^(2)46時間連続注入)のいずれかの全身化学療法を受けた。本研究においては、生物学的薬剤であるベバシズマブとセツキシマブは、プロトコル治療の一部としては使用されなかった。プロトコル化学療法は、^(90)Yミロスフィア投与の予定時間の24時間前に開始した。

化学療法サイクルは、2週間ごとに8サイクルまで繰り返した。」(456頁左欄1行、14?25行、44?45行)

(引1ウ)
「結果
16.5ヶ月(範囲、2?27.7か月)の追跡期間中央値を有する20人の患者(男性13人と女性7人、平均年齢61歳、38?86歳)を登録した。…
18人の患者が、FOLFOX6化学療法を一次治療として受け、2人の患者が、FOLFIRI化学療法を二次治療として受けた。…2人の患者において、化学療法治療を行った肝臓領域における代謝反応が欠如していたため、4週間後に、化学療法をFOLFOX6からFOLFIRIに変更した。」(456頁右欄29?32行、44?46行、51?54行)

(引1エ)



図3.解剖学的腫瘍体積(%):治療前と、治療後4週間、2?4か月、6?8か月」(457頁右下欄の図3)

(2)引用例2について
引用例2(Journal of Clinical Oncology,2007年,Vol.25, No.9,pp.
1099-1106)には、次のとおり記載されている(当審による訳文を示す。下線は当審で付した。)。

(引2ア)
「オキサリプラチン、フルオロウラシル及びロイコボリンの全身化学療法を併用したイットリウム-90ミクロスフィアを使用した大腸がんからの肝転移の放射線塞栓療法」(1099頁表題)

「目的
肝転移は、進行性大腸がん(CRC)患者の主な死因である。樹脂ミクロスフィア(SIR Spheres)-β線を放射するイットリウム-90を含む-の肝臓の動脈への注入は、転移部位の放射線塞栓を引き起こすことができる。この治療法を、放射線増感化学療法であるオキサリプラチンと一緒に試験することは、まだ行われておらず、オキサリプラチンは、フルオロウラシル及びロイコボリンと組み合わせた場合(FOLFOX)にCRCの治療において相乗的であるとされている。

患者と方法
修正FOLFOX4全身化学療法と併用したSIR-Spheres療法の第I相試験は、転移性疾患の化学療法を受けたことがないCRCからの手術不能な肝転移のある患者を対象に実施された。オキサリプラチン(30?85mg/m^(2))は、サイクル4からサイクル12までのFOLFOX4の全用量で、最初の3サイクルに投与された。主要なエンドポイントは毒性であった。

結果
20人の患者が研究に登録された。5人の患者が国立がん研究所(…)のグレード3の腹痛を経験し、そのうち2人はミクロスフィア誘発性の胃潰瘍を患っていた。用量制限毒性はグレード3又は4の好中球減少症であり、12人の患者で記録された。一過性のグレード3の肝毒性の1つのエピソードが記録された。プロトコル療法の6か月後、平均脾臓容積は92%増加した。部分奏効は18人の患者で示され、安定した状態は2人の患者で示された。2人の患者はプロトコル療法の後に部分的な肝切除を受けた。無増悪生存期間の中央値は9.3か月、肝臓における無増悪期間の中央値は12.3か月であった。

結論
最初の3サイクルにおけるオキサリプラチンの最大耐量は60mg/m^(2)であり、その後はFOLFOX4の全用量を投与した。この化学放射線療法は、第II-III相試験での評価に値する。」(1099頁要約)

(引2イ)
「固形悪性腫瘍からの肝転移の発生は、疾患が外科的切除に適している場合を除いて、予後不良である。大腸がん(CRC)と診断された患者の場合、死亡の大部分は肝転移に起因する。…
放射線塞栓術(RE)は、1回の手順で肝臓内の複数の疾患部位を標的にするために開発された技術である。…REには、SIR-Spheres(Sirtex Medical Limited、オーストラリア、シドニー)などの放射性核種が充填された塞栓粒子の血管注射が含まれる。…REは、正常な肝臓の放射線被曝を許容レベルに維持しながら、腫瘍区画に高線量の電離放射線を照射するため、近接照射療法の一種と見なすことができ、選択的内部放射線療法とも呼ばれている。…
CRCの全身治療における重要な進歩は、フルオロウラシル(FU)及びロイコボリン(LV)の注入へのオキサリプラチンの追加である。オキサリプラチンは、細胞内でかさばる疎水性DNA付加物を形成し、前臨床モデルでFUとの細胞毒性相乗効果を示すジアミノシクロヘキサン-白金化合物である。転移性CRC患者のファーストライン治療としてのオキサリプラチン、FU及びLV(FOLFOX)の組合せの大規模な第III相試験では、無増悪生存期間(PFS)の中央値が7?9.2か月であることが示されている。この薬剤の組合せは、現在、転移性CRC患者の国際的な標準的一次治療である。
子宮頸がん、頭頸がん、食道がんの化学放射線治療で日常的に使用されている他のプラチナ化合物と同様に、オキサリプラチンはin vitroで増殖したがん細胞に対する放射線増感剤である。FOLFOXと体外照射(総線量45?50.4Gy)の組合せは、直腸がんと食道がんの第I相及び第II相試験で評価されており、オキサリプラチンの用量レベルが60mg/m^(2)を超える場合の毒性が記録されている。REと併用するFU及びLV化学療法の併用が転移性CRCの患者によって十分に許容されることを示唆するデータに基づいて、FOLFOX化学療法を併用したREの忍容性を評価するための第I相試験を設計した。オキサリプラチンによる正常組織の放射線増感のリスクのために、試験の最初の2つの用量レベルでは、全用量のFOLFOX4化学療法(試験デザインとプロトコル治療を参照)と比較して、この薬剤の減量が最初の3サイクルで使用された。」(1099?1100頁の「INTRODUCTION」の項全体)

(引2ウ)
「患者とベースライン調査
選択基準は次のとおりである。結腸又は直腸の組織学的に証明された腺がんの患者であって、明確で測定可能なコンピュータ断層撮影(CT)による肝転移の証拠を有する患者である。」(1100頁左欄「Patients and Baseline Investigations」の項1?4行)

「研究デザインと治療プロトコル
研究デザインは、最初の3サイクルで投与されるオキサリプラチン用量の段階的増加を伴う非盲検の非ランダム化第I相臨床試験であった(表1)。全ての患者は、FOLFOX4投与スケジュールに従ってFUとLVの全投与を受けた。そして、オキサリプラチンの全用量(85mg/m^(2))をサイクル4以降の全ての用量レベルで患者に投与した。…患者は最大12サイクルのプロトコル化学療法を受けた。各サイクルは14日であった。最初の4サイクルの要約タイムスケールを表2に示す。患者は、各サイクルの1日目に、オキサリプラチン(30-85mg/m^(2)(グルコース5%を含む250mLとして) 2時間の静注)として投与した。LV(200mg/m^(2)(グルコース5%を含む250mLとして) 2時間の静注)は、各サイクルの1日目と2日目に、別々の静脈内ラインを介してオキサリプラチン注入と同時に投与した。LV注入が完了するとすぐに、FUを、ボーラス投与(400mg/m^(2))し、直後に、長い静脈内カテーテルを介して22時間の持続注入(600mg/m^(2))した。患者に、各サイクルの最初の3日間、オンダンセトロン(8mgを1日2回経口投与)とデキサメタゾン(8mgを1日2回経口投与)を投与した。
経大腿カテーテル挿入後、SIR-Spheresを、最初のサイクルの3日目又は4日目に単一のRE手順として蛍光透視ガイダンスの下で投与した。

化学療法治療は、用量制限毒性(DLT)が発生するか、疾患の進行が確立されるか、同意が取り消されるまで継続された。同意が取り消されない限り、患者は死亡するまで追跡された。毒性は、NCI共通毒性基準(バージョン3)を使用して分類された。DLTは、FOLFOX4化学療法単独から予想されるよりも約25%多い患者におけるグレード3又は4の毒性の発生として定義された(考察を参照)。最大耐量は、DLTが観察された用量レベルのすぐ下の用量レベルとして定義された。」(1100頁右欄8?27行、同頁右欄の最後の段落の1?8行)

(引2エ)


」(1100頁右欄下表1)

(引2オ)
「ここで報告された試験の最初の2つの用量レベルで観察された骨髄抑制の程度は、これらの第III相試験で報告されたレベルと同等であるが、最高用量レベルの患者のほぼ80%でグレード3から4の好中球減少症、44%で白血球減少症が生じたことは、この患者グループのFOLFOX4化学療法から予想されるよりも大きい。サンプルサイズが小さいことによる第I相試験の統計的制約を考慮すると、好中球減少症を発症している患者の割合は、DLTについて上記で定義された基準を満たしている。したがって、REを併用した全身FOLFOX4化学療法における最初の3サイクルのオキサリプラチンの最大耐量は60mg/m^(2)であると結論付けられる。」(1104頁左欄下から3行?右欄8行)

(3)引用例3について
引用例3は、ClinicalTrials.govのインターネットサイトにおいて2008
年に公開された、サーテックス・メディカル社(Sirtex Medical)による臨床試験計画であり、次のとおり記載されている(当審による訳文を示す。)。

(引3ア)
「原発性大腸がん由来の肝転移患者におけるFOLFOXとSIR-Spheresミクロスフィアの組合せとFOLFOX単独との比較(SIRFLOX)」(表題)

(引3イ)
「ClinicalTrials.gov 識別番号 NCT00724503」
「最初の登録:2008年7月29日」

(引3ウ)
「デバイス:SIR-Spheresイットリウム-90ミクロスィア
SIR-Spheresミクロスィアは、最初の化学療法の
最初の週の3日目又は4日目に一回投与された。
別名 :SIRT
SIR-SpheresY-90ミクロスィア

薬剤 :全身化学療法(FOLFOX)
オキサリプラチン 60mg/m2,
静注点滴、最初の3サイクル、2週間間隔
オキサリプラチン 85mg/m2,
静注点滴、4サイクル以降、2週間間隔
ロイコボリン 200mg/m2,
静注点滴、2週間間隔
5-フルオロウラシル 400mg/m2,
静注ボーラス、2週間間隔
5-フルオロウラシル 2.4g/m2、
静注点滴、2週間間隔
別名 :FOLFOX6m 」

5 引用発明
引用例1には、大腸がん肝転移を有する患者において、以下の用法・用量であるFOLFOX6化学療法(引1イ、引1ウ)、及び、イットリウム90(^(90)Y)ミクロスフィアを用いた選択的内部照射療法(SIRT)の併用療法が、FOLFOX6化学療法のみの治療と比較して優れた客観的反応をもたらしたこと(引1ア、引1エ)が記載されている。

「(i)以下のFOLFOX6化学療法を、2週間ごとに8サイクルまで繰り返す。
オキサリプラチン 100mg/m^(2) 2時間静注、
ロイコボリン 200mg/m^(2) 2時間静注、
5-フルオロウラシル 400mg/m^(2) 2?4分ボーラス静注、引き続き2400mg/m^(2) 46時間連続注入
(ii)FOLFOX6化学療法は、^(90)Yミクロスフィア投与である選択的内部照射療法の予定時間の24時間前に開始した。」

また、上記(ii)の「^(90)Yミクロスフィア投与である選択的内部照射療法」は、FOLFOX6化学療法の開始後24時間後に行ったとものと解される。
そして、引用例1には、上記の併用療法に用いられる医薬の製造における、オキサリプラチン、ロイコボリン及び5-フルオロウラシルの組合せの使用について記載されているといえる。
そうすると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「大腸がん肝転移を有する患者の治療のための医薬の製造における、オキサリプラチン、ロイコボリン及び5-フルオロウラシルの組合せの使用であって、
上記組合せは、次の用法・用量で上記患者の治療のために用いられるものである、使用。
(i)以下のFOLFOX6化学療法を、2週間ごとに8サイクルまで繰り返す。
オキサリプラチン 100mg/m^(2) 2時間静注、
ロイコボリン 200mg/m^(2) 2時間静注、
5-フルオロウラシル 400mg/m^(2) 2?4分ボーラス静注、引き続き2400mg/m^(2) 46時間連続注入
(ii)FOLFOX6化学療法を開始して24時間後に、^(90)Yミクロスフィア投与である選択的内部照射療法を行う。 」

6 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「大腸がん肝転移を有する患者の治療のための医薬」及び「^(90)Yミクロスフィア投与である選択的内部照射療法」は、それぞれ本願発明の「治療を必要とする患者における転移性大腸がんの治療のための医薬」及び「選択的内部照射療法(SIRT)」に相当する。
引用発明の「オキサリプラチン 100mg/m^(2) 2時間静注」と本願発明の「(a)60mg/m^(2)?85mg/m^(2)の用量でのOXAの2時間の注入」とは、「OXAの2時間の注入」の限りで一致し、また、引用発明の「オキサリプラチン 100mg/m^(2) 2時間静注」は、本願発明の「(a)80mg/m^(2)?100mg/m^(2)の用量でのOXAの2時間の注入」に相当する。
引用発明の「ロイコボリン 200mg/m^(2) 2時間静注、\(当審注:改行。以下同様。)5-フルオロウラシル 400mg/m^(2) 2?4分ボーラス静注、引き続き2400mg/m^(2) 46時間連続注入」は、本願発明の「(b)(約)100mg/m^(2)?400mg/m^(2)の用量でのLVの2時間の注入;\(c)続けて、(約)300mg/m^(2)?500mg/m^(2)の用量での5-FUのボーラス、及び次いで(約)2.0g/m^(2)?2.6g/m^(2)の用量での(約)40時間?50時間の5-FUの注入」に相当する。
引用発明の「FOLFOX6化学療法を、2週間ごとに」「繰り返す」ことは、本願発明の「化学療法治療レジメンの第1日目に前記患者に前記医薬が送達され、」「(ii)治療サイクルの間に1週間?3週間の間隔を空けて」「反復され」に相当する。
引用発明の「(ii)FOLFOX6化学療法を開始して24時間後に、^(90)Yミクロスフィア投与である選択的内部照射療法を行う」は、本願発明の「(iii)(i)の開始に続き、又は(i)の反復に続き、」「選択的内部照射療法(SIRT)が前記患者に送達され」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「治療を必要とする患者における転移性大腸がんの治療のための医薬の製造におけるオキサリプラチン(OXA)、ロイコボリン(LV)、及び5-フルオロウラシル(5-FU)の組合せの使用であって、
(i)以下を含む化学療法治療レジメンの第1日目に前記患者に前記医薬が送達され、
(a)OXAの2時間の注入;
(b)約100mg/m^(2)?400mg/m^(2)の用量でのLVの2時間の注入;
(c)続けて、約300mg/m^(2)?500mg/m^(2)の用量での5-FUのボーラス、及び次いで約2.0g/m^(2)?2.6g/m^(2)の用量での約40時間?50時間の5-FUの注入;
(ii)治療サイクルの間に1週間?3週間の間隔を空けて(i)を反復され;
(iii)(i)の開始に続き、又は(i)の反復に続き、選択的内部照射療法(SIRT)が前記患者に送達され;及び
(iv)(ii)において送達される最後の治療から2週間後に、前記患者は以下を含む化学療法治療レジメンが送達される
(a)80mg/m^(2)?100mg/m^(2)の用量でのOXAの2時間の注入;
(b)100mg/m^(2)?400mg/m^(2)の用量でのLVの2時間の注入;
(c)続けて、300mg/m^(2)?500mg/m^(2)の用量での5-FUのボーラス、及び次いで2.0g/m^(2)?2.6g/m^(2)の用量での40時間?50時間の5-FUの注入;
ことを特徴とする使用。」

<相違点1>
化学療法治療レジメンにおけるオキサリプラチンの用法・用量が、本願発明においては、「3サイクル反復」される「第1の化学療法治療レジメン」では「60mg/m^(2)?80mg/m^(2)」であって、「第2の化学療法治療レジメン」における「80mg/m^(2)?100mg/m^(2)」と、同じ(80mg/m^(2))か、それより少ない用量であるのに対し、引用発明においては、8サイクル全て同じ「100mg/m^(2)」である点。

<相違点2>
選択的内部照射療法(SIRT)が患者に送達されるのが、本願発明においては、(i)の開始に続き、又は(i)の反復に続き、「第3日目?第14日目の間」であるのに対し、引用発明においては、FOLFOX6化学療法を開始して「24時間後」である点。

(2)判断
ア 相違点1について
(ア)大腸がんに対する化学療法であるFOLFOX療法とは、ロイコボリン(LV)、5-フルオロウラシル(5-FU)及びオキサリプラチン(OXA。L-OHP)という3薬剤併用療法であり、レジメン開発の過程でいくつかのバリエーションが存在し、レジメンの内容を詳しく述べる場合には、FOLFOXの後に番号を付けて、FOLFOX4、FOLFOX6等と呼ばれている(日本化学療法学会雑誌,2006年,Vol.54,No.3,pp.232-238。特にp.235の右欄下から12?6行)。
引用発明は、大腸がん肝転移を有する患者における、FOLFOX6療法と選択的内部照射療法を併用した治療に関するものである(引1イ)。
他方、引用例2には、結腸又は直腸の組織学的に証明された腺がんの患者であって肝転移の証拠を有する患者、すなわち大腸がん肝転移患者における、修正したFOLFOX4療法と選択的内部照射療法とを併用した治療について記載されている(引2ア?ウ)。
また、引用例3には、原発性大腸がん由来の肝転移患者、すなわち大腸がん肝転移患者における、FOLFOX6m療法と選択的内部照射療法(SIRT)とを併用した治療の臨床試験計画について記載されている(引3ア、引3ウ)。
したがって、引用発明及び引用例2、3は、いずれも大腸がん肝転移患者におけるFOLFOX療法と選択的内部照射療法とを併用した治療という、同じ技術分野に関するものである。

(イ)引用例2には、オキサリプラチンが、がん細胞に対する放射線増感剤であり、直腸がんと食道がんの第I相及び第II相試験で評価されたFOLFOXと体外照射(総線量45?50.4Gy)の組合せにおいて、オキサリプラチンが60mg/m^(2)を超える場合の毒性が記録されていることから、修正FOLFOX4全身化学療法と併用したSIR-Spheres療法において、化学療法の最初の3サイクルにおけるオキサリプラチンとして、30mg/m^(2)、60mg/m^(2)、85mg/m^(2)の3つの用量レベルを試験したことが記載されている(引2ア?ウ)。
具体的には、大腸がん肝転移患者に対して次の処置を行ったことが記載されている。
(i)全身化学療法(修正FOLFOX4、各サイクルは2週間)
オキサリプラチン:1?3サイクルは、30、60又は85mg/m^(2)を、2時間の静注、4?12サイクルは、85mg/m^(2)を、各サイクルの1日目に2時間の静注
ロイコボリン:200mg/m^(2)を、各サイクルの1日目と2日目に2時間の静注
5-フルオロウラシル:ロイコボリンの注入が完了するとすぐに400mg/m^(2)をボーラス投与し、その直後に、600mg/m^(2) 22時間の持続注入
(ii)選択的内部放射線療法
SIR-Spheresを、1サイクルの3日目又は4日目に投与

そして、上記の処置を行った結果、1?3サイクルにおけるオキサリプラチンの毒性等を考慮した場合の最大耐量は、4サイクル以降におけるオキサリプラチンの全用量(85mg/m^(2))よりも少ない「60mg/m^(2)」の用量レベルであったことが記載されている(引2ア、引2オ)。

(ウ)引用例2の上記記載に接した当業者は、オキサリプラチンは、放射線増感剤であることから、選択的内部放射線療法を併用する場合には、毒性を低下させ許容可能な量(耐量)とするために、1?3サイクルにおけるオキサリプラチンの用量を、85mg/m^(2)から60mg/m^(2)へと減らす必要があることを理解するものといえる。

(エ)また、引用例3には、ClinicalTrials.govのインターネットサイトにおいて公開された臨床試験計画として、FOLFOX6m療法と選択的内部放射線療法(SIRT)とを併用した治療が記載され、1?3サイクルにおけるオキサリプラチンの用量を、4サイクル以降の用量(85mg/m^(2))よりも少ない「60mg/m^(2)」とすることが記載されている。
引用例3の上記記載は、臨床試験計画であって、その試験の結果については記載されていないものの、FOLFOX療法と選択的内部放射線療法とを併用した治療において、オキサリプラチンの用量を1?3サイクルにおいて減らすという技術思想は、引用例2に記載されたFOLFOX4療法を用いる場合に限られるものではないと、当業者が認識していたことを裏付けるものと解される。

(オ)以上によれば、引用発明は、オキサリプラチンを100mg/m^(2)投与するFOLFOX療法であるFOLFOX6療法と選択的内部放射線療法とを併用するものであるから、1?3サイクルにおいてオキサリプラチン100mg/m^(2)を投与すれば、引用例2に記載された85mg/m^(2)よりも多い量であることから、毒性が発生することを当業者が容易に想到でき、その毒性を低下させるために、引用発明において、1?3サイクルにおけるオキサリプラチンの用量を腫瘍に対する効果が維持される範囲内で減らして、引用例2に記載された60mg/m^(2)を含む「60?80mg/m^(2)」程度とし、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とする動機付けがあるといえる。

イ 相違点2について
引用発明では、FOLFOX療法を開始して24時間後に、選択的内部放射線療法を行っているが、特に24時間後に行う理由については引用例1に記載されていない。

他方、引用例2には、FOLFOX療法を開始してから、3日目又は4日目に選択的内部放射線療法を行うことが記載されている(引2ウ)。
また、引用例3においても、選択的内部放射線療法は、FOLFOX療法の最初の週の3日目又は4日目に行うことが記載されている(引3ウ)。

そうすると、引用例1?3の記載に接した当業者であれば、引用発明における選択的内部放射線療法を行う時期について、FOLFOX療法を開始して24時間後、すなわち2日目に行うべきものと限定解釈する必要はなく、引用例2、3に記載されるように、3日目又は4日目に行うことができることを、容易に想到し得たものといえる。
したがって、引用発明において、選択的内部放射線療法を、FOLFOX療法を開始してから3日目又は4日目に行い、相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 効果について
(ア)本願明細書には、本願発明に対応する実施例において、化学療法に選択的内部照射線療法(SIRT)を加えた組合せの患者の無憎悪期間中央値は約12.5ヶ月であり、化学療法にベバシズマブを単独で加えた患者の無憎悪期間中央値約9.4ヶ月よりも長く、ハザード比は0.75に等しいことが記載されている(【0110】)。
また、本願明細書には、「本方法によれば、本発明の最初の3サイクルで患者に投与されるOXAの用量は、4サイクル以降の薬物投与サイクルで投与されるOXAの用量よりも少ないであろう。主な安全性の懸念は、化学療法レジメンにおけるOXAが、SIRTと組み合わせて使用した場合に、最初に投与されたのよりも多い用量で毒性を示す放射性感作物質であるという点である。」(【0035】)と記載されている。

(イ)本願発明に対応する実施例である化学療法に選択的内部照射線療法を加えた組合せが、選択的内部照射線療法を行わないものよりも、患者の無憎悪期間中央値が長いことは、引用例1及び2の記載から、当業者が予測し得る程度のものである。
また、本願明細書の【0035】に記載された内容は、オキサリプラチンは、選択的内部照射療法と組み合わせて使用すると、放射線感作物質であり毒性を示すことから、最初の3サイクルのオキサリプラチンの用量を、4サイクル以降の用量よりも少なくするというものあって、これは、引用例2に記載された事項から、当業者が予測可能な程度のものにすぎない。
さらに、本願発明は、本願明細書の実施例に記載された治療を含む非常に選択肢の多い用法・用量を含むものであって、実施例を含む本願発明の全体にわたって、引用例1又は引用例2に記載された、FOLFOX療法と選択的内部照射線療法との併用療法に比べて、格別顕著な効果を奏することが裏付けられているわけではない。
そうすると、本願発明が、当業者が予測できない顕著な効果を奏するものとはいえない。

(3)小括
以上によれば、本願発明は、引用例1に記載された発明、及び、引用例2?3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 請求人の主張について
(1)請求人は、引用例1は、テストされた治療が効果的であることが判明したため、引用例1の結論は変更を行うことを避けており、所望の結果を達成するためには全用量が必要であると教示しているため、当業者は、第1の化学療法におけるオキサリプラチンの用量を減らすことによる疾患の治療の成功を期待しない旨を主張する(審判請求書25頁)。

しかしながら、引用例1に、テストされた治療が効果的であることが判明したと記載されているからといって、引用例1の記載に接した当業者が、引用発明を出発点として用量について更に改良を加えることはないということはできない。
そして、上記6に説示したように、引用例2及び3の記載を参照して、引用発明において、オキサリプラチンの毒性を低下させるために、腫瘍に対する効果が維持される範囲内でオキサリプラチンの用量を減らす動機付けがあるといえる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(2)請求人は、引用例2は、FOLFOX4以外の化学療法レジメンでSIRTを使用する場合に、最初の3サイクルと4サイクル目以降でオキサリプラチンの用量を変更することを適用可能であることを当業者に教示又は示唆するものではなく、また、本願発明におけるレジメンは、引用例2に記載の変更されたFOLFOX4治療レジメンとは全く異なるから、当業者が、本願発明に到達するために、引用例2に記載のレジメンを調整する動機付けとなるものはない旨を主張する(審判請求書24?25頁)。
また、請求人は、引用例3には、どのFOLFOXレジメンが使用されているか明らかではなく、異なるFOLFOXレジメン(FOLFOX4、FOLFOX6,FOLFOX6m、mFOLFOX6)間では、異なる化学療法剤の投与の用量とタイミングが異なるところ、引用例3には、治療レジメンのどの段階でも、オキサリプラチン、ロイコボリン及び5-フルオロウラシルの注入のタイミングを教示しておらず、当業者は、本願発明の特定のタイミングに到達するように導かれることはない旨を主張する(審判請求書24頁)。

しかしながら、上記6に説示したように、引用例2に記載されたオキサリプラチンを選択的内部照射線療法と併用した場合の毒性が、引用発明においても生じ得ることは、当業者が容易に想到し得るから、引用例2において、FOLFOX4以外のレジメンへの適用可能性について教示又は示唆がなくても、引用発明において、引用例2に記載されたオキサリプラチンの用量の変更を適用する動機付けがある。
また、上記6に説示したように、引用例2に記載された毒性を低下させるために1?3サイクルにおけるオキサリプラチンの用量を減らすという技術思想が、FOLFOX4以外には適用できないと限定解釈することはないことを裏付けるものとして引用例3を提示したのであるから、引用例3に、注入のタイミングが教示されていないことは、上記6に説示した判断に影響しない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(3)請求人は、治療プロトコルの変更には、登録と承認が必要であるという事実は、化学療法治療の新しい用量と投与時間は、単にルーチンの最適化での問題ではないということを示しており、用量や用法を調節することは、非常に困難なことである旨を主張する(審判請求書26頁)。

しかしながら、治療プロトコルの変更には登録と承認が必要であり、用量や用法を調節することは非常に困難なことである旨の主張は、上記6に説示した容易想到性の阻害要因となるものではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

8 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-04-13 
結審通知日 2021-04-20 
審決日 2021-05-18 
出願番号 特願2016-548186(P2016-548186)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原口 美和  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 藤原 浩子
小川 知宏
発明の名称 新生物の治療  
代理人 廣田 浩一  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 流 良広  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ