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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1378685
審判番号 不服2021-1490  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-03 
確定日 2021-10-07 
事件の表示 特願2018-556666「円偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月21日国際公開、WO2018/110503〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2018-556666号(以下「本件出願」という。)は、平成29年12月11日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年12月12日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 3月10日付け:拒絶理由通知書
令和2年 5月15日提出:意見書
令和2年10月23日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和3年 2月 3日提出:審判請求書
令和3年 2月 3日提出:手続補正書

第2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和3年2月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「偏光子と、λ/4板として機能する位相差層20aと、着色層とをこの順に備え、
該偏光子の吸収軸と該位相差層20aの遅相軸とのなす角度が35°?55°であり、
該偏光子と該着色層とから構成される積層体の偏光度が、99.9%以上であり、
該着色層のヘイズ値が、15%以下である、
円偏光板。」
なお、令和3年2月3日提出の手続補正書による補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる事項(特許法第36条第5項に規定する請求項の削除)を目的としたものである。

第3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?11に係る発明(令和3年2月3日に提出された手続補正書による補正前のもの)は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1:特開2016-105166号公報
引用文献2:特開2011-191738号公報
引用文献3:特開2004-198614号公報
引用文献4:特開2003-202569号公報
引用文献5:特開2015-212368号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献1であり、引用文献2は副引用例、引用文献3?5は周知技術を示す文献である。)

第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されている引用文献1(特開2016-105166号公報)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と、λ/4板として機能する位相差層と、バリア層と、バリア機能を有する粘着剤層と、をこの順に備え、
該偏光子の吸収軸と該位相差層の遅相軸とのなす角度が35°?55°である、
有機EL表示装置用円偏光板。」

(2)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置用円偏光板および有機EL表示装置に関する。
・・省略・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、優れた反射防止機能を有し、かつ、優れた有機ELパネル保護機能を有する有機EL表示装置用円偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の円偏光板は、有機EL表示装置に用いられる。この円偏光板は、偏光子と、λ/4板として機能する位相差層と、バリア層と、バリア機能を有する粘着剤層と、をこの順に備え、該偏光子の吸収軸と該位相差層の遅相軸とのなす角度が35°?55°である。
・・省略・・
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、有機EL表示装置用円偏光板において、位相差層表面にバリア層を形成することにより有機ELパネル保護機能を付与することができる。さらに、本発明によれば、位相差フィルム(位相差層)の光学特性および機械的特性を所望の範囲に維持しつつバリア層を形成することができるので、優れた反射防止機能と優れた有機ELパネル保護機能とを両立する円偏光板を得ることができる。加えて、本発明の1つの実施形態によれば、位相差層としてλ/4板を1枚のみ用い、かつ、当該λ/4板が偏光子の内側保護フィルムを兼ねるので、顕著な薄型化を実現することができる。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
・・省略・・
【0010】
A.円偏光板
A-1.円偏光板の全体構成
本発明の実施形態による円偏光板は、有機EL表示装置に用いられる。本発明の1つの実施形態による円偏光板は、偏光子と、λ/4板として機能する位相差層と、バリア層と、バリア機能を有する粘着剤層と、をこの順に備える。本発明の別の実施形態による円偏光板は、偏光子と位相差層との間にλ/2板として機能する別の位相差層をさらに備える。以下、これらの代表的な実施形態について円偏光板の全体的な構成を具体的に説明し、その後で、円偏光板を構成する各層および光学フィルムを詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の1つの実施形態による円偏光板の概略断面図である。本実施形態の円偏光板100は、偏光子10と位相差層20とバリア層30と粘着剤層40とをこの順に備える。上記のとおり、位相差層20はλ/4板として機能し、粘着剤層40はバリア機能を有する。図示例の円偏光板100は、偏光子の位相差層20と反対側に保護フィルム50を備える。また、円偏光板は、偏光子と位相差層との間に別の保護フィルム(内側保護フィルムとも称する:図示せず)を備えてもよい。図示例においては、内側保護フィルムは省略されている。この場合、位相差層20が内側保護フィルムとしても機能し得る。このような構成であれば、円偏光板のさらなる薄型化が実現され得る。
【0012】
本実施形態においては、偏光子10の吸収軸と位相差層20の遅相軸とのなす角度は35°?55°であり、好ましくは38°?52°であり、より好ましくは40°?50°であり、さらに好ましくは42°?48°であり、特に好ましくは44°?46°である。当該角度がこのような範囲であれば、所望の円偏光機能が実現され得る。なお、本明細書において角度に言及するときは、特に明記しない限り、当該角度は時計回りおよび反時計回りの両方の方向の角度を包含する。
・・省略・・
【0015】
A-2.偏光子
偏光子10としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。具体例としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理および延伸処理が施されたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。好ましくは、光学特性に優れることから、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子が用いられる。
・・省略・・
【0020】
A-3.位相差層
位相差層20は、上記のとおりλ/4板として機能し得る。
・・省略・・
【0092】
A-5.バリア層
バリア層30は、水分およびガス(例えば酸素)に対するバリア性を有する。バリア層の40℃、90%RH条件下での水蒸気透過率(透湿度)は、好ましくは0.2g/m^(2)/24hr以下であり、より好ましくは0.1g/m^(2)/24hr以下であり、さらに好ましくは0.05g/m^(2)/24hr以下である。一方、透湿度の下限は、例えば0.001g/m^(2)/24hrであり、好ましくは0.005g/m^(2)/24hrである。バリア層の60℃、90%RH条件下でのガスバリア性は、好ましくは1.0×10^(-7)g/m^(2)/24hr?0.5g/m^(2)/24hrであり、より好ましくは1.0×10^(-7)g/m^(2)/24hr?0.1g/m^(2)/24hrである。透湿度およびガスバリア性がこのような範囲であれば、円偏光板を有機ELパネルに貼り合わせた場合に、有機ELパネルを空気中の水分および酸素から良好に保護し得る。また、ガスバリア層は、光学特性の点から、全光線透過率が好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。
【0093】
バリア層30としては、上記所望の特性を有する限り、任意の適切な構成を採用することができる。バリア層30は、1つの実施形態においては、無機薄膜とアンカーコート層との積層構造を含む。この場合、バリア層30は、無機薄膜が有機ELパネル側(偏光子から遠い側)となるようにして位相差層に形成され得る。別の実施形態においては、無機薄膜は、位相差層に直接形成してもよい。
・・省略・・
【0118】
A-6.粘着剤層
粘着剤層40は、上記のとおりバリア機能を有する。円偏光板の粘着剤層にバリア機能を付与することにより、バリア層との相乗的な効果により、優れた有機ELパネル保護機能を有する円偏光板を得ることができる。さらに、有機ELパネルにバリア層を形成する場合に比べて、優れた製造効率で有機EL表示装置を作製することができる。バリア機能を有する粘着剤としては、例えば、ゴム系ポリマーをベースポリマーとするゴム系粘着剤組成物が挙げられる。
・・省略・・
【0128】
粘着剤組成物は、ゴム系ポリマーに加えて、任意の適切な添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、架橋剤(例えば、ポリイソシアネート、エポキシ化合物、アルキルエーテル化メラミン化合物など)、粘着付与剤(例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂、ビニルトルエン樹脂など)、可塑剤、充填剤(例えば、層状シリケート、クレイ材料など)、老化防止剤が挙げられる。粘着剤組成物に添加される添加剤の種類、組み合わせ、添加量等は、目的に応じて適切に設定され得る。粘着剤組成物における添加剤の含有量(総量)は、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。
・・省略・・
【0130】
粘着剤層40は、上記のとおりバリア性を有し、代表的には水分およびガス(例えば酸素)に対するバリア性を有する。粘着剤層の厚み100μmにおける40℃、90%RH条件下での水蒸気透過率(透湿度)は、好ましくは200g/m^(2)/24hr以下であり、より好ましくは150g/m^(2)/24hr以下であり、さらに好ましくは100g/m^(2)/24hr以下であり、特に好ましくは70g/m^(2)/24hr以下である。透湿度の下限は、例えば5g/m^(2)/24hrであり、好ましくは15g/m^(2)/24hrである。粘着剤層の透湿度がこのような範囲であれば、上記のバリア層のバリア性との相乗的な効果により、円偏光板を有機ELパネルに貼り合わせた場合に、有機ELパネルを空気中の水分および酸素から良好に保護し得る。
・・省略・・
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明の円偏光板は、有機EL表示装置に好適に用いられる。」

(4)「【図1】




2 引用発明
引用文献1の請求項1には「有機EL表示装置用円偏光板」の発明として以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「偏光子と、λ/4板として機能する位相差層と、バリア層と、バリア機能を有する粘着剤層と、をこの順に備え、
該偏光子の吸収軸と該位相差層の遅相軸とのなす角度が35°?55°である、有機EL表示装置用円偏光板。」

3 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献2(特開2011-191738号公報)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。
(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタ及びこれを具備する有機発光装置に関する。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面は、新しい構造の光学フィルタを提供することである。
【0007】
本発明の他の側面は、前記光学フィルタを含む有機発光装置を提供することである。」

(3)「【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面によって、光変色性層、偏光フィルム、位相差フィルム及びカラー粘着層を含み、前記光変色性層が、波長460ないし540nmの第1光線を選択的に吸収する第1染料、及び波長560ないし665nmの第2光線を選択的に吸収する第2染料を含み、前記カラー粘着層が、前記第1光線及び前記第2光線を選択的に吸収する光吸収物質を含む光学フィルタが提供される。
・・省略・・
【発明の効果】
【0025】
本発明による光学フィルタは、外光視認性が向上し、輝度及び消費電力が改善される。」

(4)「【0032】
光変色性層は、光変色性染料を含む。光変色性染料は、太陽光または電気的装置によって発生した紫外線などによって色変換が起こる染料を意味する。光変色性染料には、例えば、紫外線が照射されたとき、AgOが分離されつつ色相が暗くなるサングラスのような製品に使われる染料がある。一般的に、光変色性材料を光学フィルタに使用すれば、可視光線領域帯の波長を吸収するために、野外で黒色の視感は向上するが、一方で、内光も吸収するために、内光損失が発生し、結局、黒色の視感が向上する効果が半減する。しかし、特定染料を使用し、特定波長帯で光吸収が選択的に起これば、内光の損失なしに黒色の視感を高め、外光視認性を改善できる。
【0033】
有機発光素子で使われる色相の波長帯域は、青色に該当する440ないし460nm、緑色に該当する540ないし560nm、及び赤色に該当する665ないし685nmであるので、前記範囲の波長は吸収せずに、それ以外の波長は吸収させることによって、有機発光装置の外光視認性を向上させることができる。前記光変色性層が、波長460ないし540nmの第1光線を選択的に吸収する第1染料、及び波長560ないし665nmの第2光線を選択的に吸収する第2染料を含むことによって、青色、緑色及び赤色以外の波長を吸収できる。
【0034】
カラー粘着層は、基本的に、偏光フィルム及び基材層を接着させたり、光学フィルタと有機発光素子とを接着させる役割を行う。カラー粘着層は、主にバインダ物質からなり、アクリル系高分子、シリコン系高分子、エステル系高分子、ウレタン系高分子、アミド系高分子、エーテル系高分子、フルオロ系高分子及びゴムからなる群から選択されたいずれか一つ以上を含むことができる。具体的には、前記バインダは、アクリル系高分子及びシリコン系高分子でありうる。前記カラー粘着層は、青色、緑色及び赤色以外の波長帯域である、波長460ないし540nmの第1光線と、波長560ないし665nmの第2光線とを選択的に吸収する光吸収物質を含む。
【0035】
光変色性層に対する波長460ないし540nmの第1光線の透過率、及び波長560ないし665nmの第2光線の透過率は、それぞれ50%以下でありうる。透過率が、前記範囲を満足する場合、外光の反射率が低くなり、視感が優秀になりうる。
・・省略・・
【0040】
光変色性層が第1染料及び第2染料を同時に含み、波長460ないし540nmの第1光線、及び波長560ないし665nmの第2光線を同時に吸収することによって、発光スペクトルで、青色と緑色とのピーク波長が交差する点、及び緑色と赤色とのピーク波長が交差する点の感度(intensity)が低くなり、このような光変色性層を含むフィルタを使用する有機発光素子の色純度及び色再現が向上しうる。
【0041】
光変色性層の厚みは、一般的に、0.1μmないし20μmでありうる。光変色性層の厚みが、0.1μm以上であるならば、均一な厚みにコーティングが可能であり、光吸収率が適切なレベルに達することができ、光変色性層の厚みが、20μm以下であるならば、製造工程で、気泡が発生したり、またはコーティング層が剥がれる現象が減ることになる。
【0042】
カラー粘着層は、波長460ないし540nmの第1光線、及び波長560ないし665nmの第2光線を選択的に吸収する光吸収物質を含むことができる。前記カラー粘着層を通過しつつ、第1光線及び第2光線の透過率は、50%以下になり、青色光、緑色光及び赤色光の透過率は、それ以上になりうる。前記第1光線及び第2光線の透過率が、50%以下であるならば、黒色の視感が低下せずに、有機発光素子の色再現を向上させることができる利点がある。
【0043】
カラー粘着層に含まれる光吸収物質は、波長460ないし540nmの第1光線、及び波長560ないし665nmの第2光線を吸収する物質であるならば、いかなるものでも使用可能である。
【0044】
前記光吸収物質は、例えば、カーボンブラック、黒色無機物、黒色有機物、黒色色素系及びその他金属などがある。カラー粘着層に使われる光吸収物質の種類及び濃度は、カラー粘着層に吸収される光線によって限定されるものではない。
【0045】
具体的には、前記光吸収物質は、カーボンブラックでありうる。
・・省略・・
【0058】
偏光フィルムは、吸収軸と偏光軸とを具備する。吸収軸は、ヨウ素イオン鎖及び第3染料イオン鎖が延伸配向された軸であり、任意の方向に振動する光線の2つの垂直成分のうち一方の成分が偏光フィルムの電子と相互作用し、光線の電気的エネルギーが電子のエネルギーに変わる過程で、その成分を消滅させる。偏光軸は、このような吸収軸に垂直な軸であり、偏光軸方向に振動する光を透過させる。
・・省略・・
【0060】
位相差フィルムは、一般的にλ/4位相差フィルムでありうる。λ/4位相差フィルムは、位相差フィルムの光軸に平行であり、互いに垂直である2偏光成分に、λ/4ほどの位相差を付与し、線偏光を円偏光に変えたり、あるいは円偏光を線偏光に変える役割を果たす。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)偏光子
引用発明の「偏光子」は、本願発明の「偏光子」に相当する。

(2)位相差層20a
引用発明の「位相差層」は、「λ/4板として機能する」ものであることから、本願発明の「位相差層20a」に相当し、また、本願発明の「λ/4板として機能する」という要件も満たすものである。

(3)偏光子と位相差層20aの順
引用発明の「有機EL表示装置用円偏光板」において「偏光子」と「位相差層」は「この順に備え」られたものである。そうすると、本願発明と引用発明は、「偏光子」と「位相差層20a」が「この順に備え」られる点で共通する。

(4)偏光子の吸収軸と位相差層20aの遅相軸とのなす角度
引用発明は「該偏光子の吸収軸と該位相差層の遅相軸とのなす角度が35°?55°である」ことから、引用発明における「偏光子」と「位相差層」は、本願発明の「該偏光子の吸収軸と該位相差層20aの遅相軸とのなす角度が35°?55°であり」という要件を満たすものである。

(5)円偏光板
引用発明における「有機EL表示装置用円偏光板」は、引用発明の構成及びその名称のとおり「円偏光板」としての機能を有するものであることから、本願発明の「円偏光板」に相当する。

2 一致点及び相違点
以上より、本願発明と引用発明とは、
「偏光子と、λ/4板として機能する位相差層20aとをこの順に備え、
該偏光子の吸収軸と該位相差層20aの遅相軸とのなす角度が35°?55°である、
円偏光板。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明の「円偏光板」は、「着色層」を備え、また、その層構成として「偏光子と、λ/4板として機能する位相差層20aと、着色層とをこの順に備え」ているのに対して、引用発明は「着色層」についての特定がない点。

(相違点2)
本願発明は、「偏光子と該着色層とから構成される積層体の偏光度が、99.9%以上であ」るのに対して、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

(相違点3)
本願発明は、「着色層のヘイズ値が、15%以下である」のに対して、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

3 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1及び相違点3について
相違点1及び相違点3はいずれも「着色層」に関するものであることから、併せて検討する。
引用文献2には、有機発光装置に用いられる光学フィルタにおいて、波長460ないし540nmの第1光線を選択的に吸収する第1染料、及び波長560ないし665nmの第2光線を選択的に吸収する第2染料を含む光変色性層と、第1光線及び第2光線を選択的に吸収する光吸収物質を含んだカラー粘着層とを設けたものが記載されている(【0007】、【0008】)。そして、このような構成とすることにより、外光の反射率が低くなり、視感が優秀になり、さらに、有機発光素子の色純度及び色再現が向上することが記載されている(【0035】、【0040】、【0042】)。また、引用文献2に記載の光学フィルタは、偏光フィルム、位相差フィルムを含んでおり、偏光フィルムは吸収軸と偏光軸とを具備するものであり(【0058】)、位相差フィルムはλ/4位相差フィルムである(【0060】)から引用文献2に記載の光学フィルムは円偏光板としての機能を有することは当業者であれば明らかである。
また、光学部材一般において、偏光解消が生じると望ましくない層のヘイズ値を小さく構成することは周知の事項であり(引用文献5【0159】)、着色剤を含むことができる光学フィルム用粘着剤層においても同様に、偏光解消が生じると望ましくない場合に、ヘイズ値を小さく構成することは周知の事項である(特開2012-126889号公報【0098】、【0108】及び特開2015-96579号公報【0062】、【0068】等参照。)。
そして、引用発明と引用文献2に記載の事項は、どちらも有機EL装置に用いられる円偏光板に関する点で共通している。ここで、有機EL装置の技術分野において、外光の反射率を低くすること並びに色純度及び色再現性を向上させることは当業者にとって自明な課題であり、また、円偏光板の技術分野において、円偏光板を構成する粘着剤層で偏光解消が生じると、円偏光板としての機能に対し望ましくない影響を与えることは当業者にとって自明なことである。
以上より、引用文献2の記載に接した当業者であれば、引用発明においても、外光の反射率を低くすること並びに色純度及び色再現性を向上させることを目的として、引用文献2に記載の事項を採用し、引用発明の「粘着剤層」として、「第1光線及び第2光線を選択的に吸収する光吸収物質を含」むようにすることは、通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎず(なお、この点について、引用文献1【0128】には「粘着剤組成物は、ゴム系ポリマーに加えて、任意の適切な添加剤をさらに含んでいてもよい。」との記載がある。)、また、具体的に構成するにあたって、円偏光板としての機能に望ましくない影響を与える偏光解消が生じないよう、その(光吸収物質を含む)粘着剤層について、ヘイズ値を検討し、その結果として、本願発明の相違点3に係る数値範囲に含まれる程度のものとして構成することは、上記周知の事項を心得ている当業者であれば適宜設計する事項にすぎない。
そうすると、そのような構成において「第1光線及び第2光線を選択的に吸収する光吸収物質を含」んだ「粘着剤層」は、本願発明の「着色層」に相当することとなり、また、引用発明の層構成からみて「偏光子と、λ/4板として機能する位相差層20aと、着色層とをこの順に備え」という要件を満たすこととなる。(なお、引用発明において引用文献2に記載の事項を採用するときは、「光変色性層」を併せて設けることも想定されるが、本願発明は、そのような層の存在を排除していない。)

(2)相違点2について
円偏光板において、円偏光板自体の偏光度が高い方がよいことは当業者にとって自明であり(引用文献3【0087】?【0089】及び引用文献4【0022】、【0083】等参照。)、そのためには円偏光板のうち、一方の偏光成分を透過し、他方の偏光成分を吸収する偏光子について偏光度を高める必要があることについても当業者にとって自明である。そして、そのような偏光子として偏光度が99.9%以上のものは周知である(特開2004-37880号公報【0008】等参照。)。そうすると、円偏光板の偏光度を高めるために、引用発明における「偏光子」として、偏光度が99.9%以上のものを用いることは当業者が容易に想到することである。
そして、偏光度が99.9%以上の「偏光子」と、上記(1)の検討において、円偏光板としての機能に望ましくない影響を与える偏光解消が生じないようヘイズ値を小さなものとして構成した「粘着剤層」とからなる積層体は、「粘着剤層」のヘイズ値が小さく、偏光解消が生じないことから、相違点2に係る「偏光度が、99.9%以上」という要件を満たす蓋然性が高いと認められる。
あるいは、「円偏光板」自体の偏光度を高めることは当業者にとって自明な課題であり、そのことを目的として、「偏光子」の偏光度を高めること、及び「粘着剤層」のヘイズ値を適宜設定することの両者によって、「偏光子と粘着剤層からなる積層体」について「偏光度が、99.9%以上」の数値範囲とすることは、上記周知の事項を心得ている当業者が適宜設計する事項にすぎない。

4 効果
本件明細書の【0007】には、本願発明の効果について「本発明によれば、着色層を形成することにより、反射防止特性に優れる円偏光板を得ることができる。また、本発明の円偏光板は、着色層の吸収波長を適切に設定することにより、反射色相を調整して色相がニュートラルな光を出射し得る。さらに、本発明の円偏光板を用いれば、画像表示装置の広色域化が可能となる。」との記載がある。このうち、「反射防止特性に優れる円偏光板を得ることができる」及び「画像表示装置の広色域化が可能となる」との効果については、引用発明に引用文献2に記載の事項及び上記周知の事項を採用することにより、当業者が予測できる、あるいは期待される範囲内のものにすぎない。
また、「反射色相を調整して色相がニュートラルな光を出射し得る」点については、その効果を奏する前提として「着色層の吸収波長を適切に設定する」ことが必要であるところ、本願発明では、そのような特定がなされておらず、したがって、「反射色相を調整して色相がニュートラルな光を出射し得る」との効果について本願発明が奏する格別な効果と認めることはできない。

5 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「本願発明は、「着色層」のヘイズ値を所定値以下とすることで、「偏光子と該着色層とから構成される積層体」の偏光度を高くすることを特徴とする発明です。「偏光子と着色層とから構成される積層体」の偏光度を特定値以上とすることを開示も示唆もしていない引用文献1?4と、着色させないように設計された未延伸フィルムのヘイズ値しか記載していない引用文献5とを組み合わせて、上記特徴を有する本願発明に想到することは容易ではありません。」と主張する。しかしながら、偏光解消の観点からヘイズ値が小さい方がよいこと及び偏光子とヘイズ値の小さな粘着剤層における偏光度との関係については上記「3 判断」に記載のとおりである。してみると、審判請求書における請求人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載の事項及び周知技術に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-07-28 
結審通知日 2021-08-03 
審決日 2021-08-19 
出願番号 特願2018-556666(P2018-556666)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 下村 一石菅原 奈津子  
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 関根 洋之
早川 貴之
発明の名称 円偏光板  
代理人 籾井 孝文  
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