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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F |
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管理番号 | 1378724 |
異議申立番号 | 異議2019-701059 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-25 |
確定日 | 2021-08-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6536570号発明「光硬化性組成物、及びそれを含有する光硬化性インクジェットインク、光硬化性組成物を用いた記録方法、並びに光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6536570号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6536570号の請求項1、3ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6536570号(請求項の数9。以下、「本件特許」という。)は、平成27年3月19日(優先権主張:平成26年3月31日、日本国)を国際出願日とする特許出願(特願2016-511530号)に係るものであって、令和1年6月14日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和1年7月3日である。)。 その後、令和1年12月25日に、本件特許の請求項1、3?9に係る特許に対して、特許異議申立人である加藤浩志(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 それ以降の手続の経緯は、以下のとおりである。 令和1年12月25日 特許異議申立書 令和2年 3月 6日付け 取消理由通知書 同年 4月30日 訂正請求書、意見書(特許権者) 同年 6月29日付け 通知書 同年 7月29日 意見書(申立人) 同年10月19日付け 訂正拒絶理由通知書 同年11月24日 手続補正書、意見書(特許権者) 令和3年 2月15日付け 取消理由通知書(決定の予告) 同年 4月23日 訂正請求書、意見書(特許権者) 同年 5月17日付け 通知書 なお、令和3年4月23日提出の訂正の請求及び意見書に対する申立人からの応答はなかった。 また、この訂正の請求により、令和2年4月30日提出の訂正の請求は取り下げられたものと見なす(特許法第120条の5第7項)。 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 令和3年4月23日提出の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の訂正事項1のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。 ・訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「光重合性化合物、及び光開始剤を含有し、 前記光重合性化合物はラジカル重合性モノマーであり、前記光開始剤は光ラジカル開始剤である光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインクであって、 前記光硬化性組成物は金属キレート化合物を、前記光硬化性組成物に溶解した状態で含有し、 前記金属キレート化合物の中心金属元素は2族、4族、8族、及び13族の何れかから選択されると共に、前記金属キレート化合物は前記光硬化性組成物全体の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下で含有されることを特徴とする光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインク。」と記載されているものを、 「光重合性化合物、及び光開始剤を含有し、 前記光重合性化合物はラジカル重合性モノマーであり、前記光開始剤は光ラジカル開始剤である光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインクであって、 前記光重合性化合物は、エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の 多官能の(メタ)アクリレート化合物を含み、 前記光硬化性組成物は金属キレート化合物を、前記光硬化性組成物に溶解した状態で含有し、 前記金属キレート化合物の中心金属元素は2族、4族、8族、及び13族の何れかから選択されると共に、前記金属キレート化合物は前記光硬化性組成物全体の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下で含有されることを特徴とする光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインク。」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2?9も同様に訂正する。) なお、訂正前の請求項2?9は、訂正前の請求項1を直接または間接的に引用する関係にあり、訂正事項1により、訂正前の請求項2?9も、訂正前の請求項1に連動して訂正されることになるから 、訂正前の請求項1?9は、一群の請求項に該当するものである。 したがって、本件訂正は、請求項〔1-9〕の一群の請求項についてなされたものといえる。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更 の存否 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「光重合性化合物」を、その下位概念にあたる、「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 また、本件特許の願書に添付した明細書の【0024】には、「光重合性化合物として、本発明においてはラジカル重合性モノマーを用いることができ、例えば(メタ)アクリレート基、ビニル基、アリルエーテル基、マレイミド基、を有する化合物が用いられる。」と記載され、(メタ)アクリレート基を有する化合物の具体例として、同【0025】に「…具体的には、イソアミルアクリレート…t-ブチルシクロヘキシルアクリレート等の単官能モノマー;トリエチレングリコールジアクリレート…ポリテトラメチレングリコールジアクリレート等の二官能モノマー;トリメチロールプロパントリアクリレート…カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の三官能以上の多官能モノマー…等のメタクリル誘導体が挙げられる。」との記載がある。 そして、同【0028】には、「本発明で好ましく用いることのできる化合物として、エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド(EO)変性モノマーが挙げられる。このようなEO変性モノマーは、エチレンオキサイド基中に酸素原子を有しているため、金属キレート化合物と比較的緩やかな配位結合しうる部位が多い。そのため、本願発明の効果をより効果的に発揮することができる。」との記載があり、「多官能モノマー」と「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド(EO)変性モノマー」の両方の要件を満たすものが、「[光重合性化合物(L)]エトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート:分子量692(SR502、サートマー社製)」として、実施例39の光硬化性組成物や試料43のインクジェットインク組成物において使用されている(同【0152】、同【0177】の【表4】の試料39、同【0186】の【表5】の試料43)。 そうすると、「光重合性化合物」を「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物」とする訂正事項1が、新規事項の追加に該当するとはいえない。 さらに、「光重合性化合物」を、その下位概念にあたり、本件明細書の実施例に、その具体例の記載がある「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物」に限定しても、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更することになるとはいえない。 3.本件訂正後の発明の独立特許要件について 上記の「第1 手続の経緯」で述べたように、本件特許異議の申立ては、本件請求項1?9に係る特許のうち請求項1、3?9に係る特許に対して申立てられたものであり、請求項2に係る特許に対しては申立てられていない。 そこで、本件特許異議の申立てがなされていない請求項2に係る発明についての独立特許要件について、以下で検討する。 訂正前の請求項1に対する訂正事項1は、上記2.で述べたように特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、訂正事項1により、訂正前の請求項2についても、訂正前の請求項1に連動して、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がなされるものということができる。 そして、下記の「第5 当審の判断」で示すように、本件訂正後の請求項1に係る発明には取消理由がなく、当該発明を直接又は間接的に引用する本件訂正後の請求項2に係る発明においても、他に取り消すべき理由を発見しないから、本件訂正後の請求項2に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。 4.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。 したがって、本件の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?9に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明9」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである(下線部は訂正箇所を示す。)。 「【請求項1】 光重合性化合物、及び光開始剤を含有し、 前記光重合性化合物はラジカル重合性モノマーであり、前記光開始剤は光ラジカル開始剤である光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインクであって、 前記光重合性化合物は、エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物を含み、 前記光硬化性組成物は金属キレート化合物を、前記光硬化性組成物に溶解した状態で含有し、 前記金属キレート化合物の中心金属元素は2族、4族、8族、及び13族の何れかから選択されると共に、前記金属キレート化合物は前記光硬化性組成物全体の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下で含有されることを特徴とする光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインク。 【請求項2】 前記光硬化性組成物は架橋促進剤を含有し、前記架橋促進剤は部分構造として活性メチレン部を有し、前記光硬化性組成物全体の質量に対して前記架橋促進剤の含有量は5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインク。 【請求項3】 前記光硬化性組成物は有機溶剤を含有し、前記有機溶剤の含有量は、前記光硬化性組成物全体の質量に対して3質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインク。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインクに色材を含有させることを特徴とする光硬化性インクジェットインク。 【請求項5】 前記色材は顔料であり、さらに顔料分散剤を含有させることを特徴とする請求項4に記載の光硬化性インクジェットインク。 【請求項6】 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインクを記録媒体に付与した後、活性光線を照射して前記光硬化性インクジェットインクを硬化させることを特徴とする光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。 【請求項7】 前記記録媒体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラートのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。 【請求項8】 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインクを吐出するインクジェットヘッドと、 活性光線を照射する照射部と、 記録媒体を搬送する搬送部と、 を備えるインクジェット記録装置における光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法において、 前記インクジェットヘッドによって前記光硬化性インクジェットインクを前記記録媒体に付与した後、前記照射部による活性光線の照射によって前記光硬化性インクジェットインクを硬化させることを特徴とする光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。 【請求項9】 前記記録媒体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラートのいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。」 第4 異議申立ての理由と当審が通知した取消理由 1.異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。) (1)申立理由の概要 本件特許の請求項1、3?9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (本件異議申立てに係る審理対象は、請求項1、3?9に係る特許についてであり、請求項2に係る特許については、審理対象外である。) (2)証拠方法 申立人が、特許異議申立書に添付した証拠方法(甲第1?3号証)及び令和2年7月29日提出の意見書に添付した証拠方法(甲第4?5号証)は、以下のとおりである。 ・甲第1号証:特開2013-159716号公報 ・甲第2号証:「高性能重合禁止剤 Q-1300,Q-1301」の カタログ、和光純薬工業株式会社、2014年9月 17日、p.4 ・甲第3号証:「Organic Square」、和光純薬工業株式 会社、2012年6月、No.40、p.12 ・甲第4号証:特開2006-28403号公報 ・甲第5号証:特開2010-185054号公報 (以下、「甲第1号証」?「甲第5号証」を「甲1」?「甲5」という。) これに対して、特許権者が、令和3年4月23日提出の意見書に添付した証拠方法(乙第1号証)は、以下のとおりである。 ・乙第1号証:令和3年4月20日付け実験結果報告書 (コニカミノルタ株式会社宮野雅士) (以下、「乙第1号証」を「乙1」という。) 2.当審が通知した取消理由の概要 (1)当審が令和2年3月6日付け取消理由通知書で通知した取消理由 令和2年3月6日付け取消理由通知書により、下記の理由1、2の取消理由が通知された。 ア.理由1 本件特許の請求項1、4?9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 イ.理由2 本件特許の請求項3、6?9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)当審が令和3年2月15日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知 した取消理由 令和2年4月30日提出の訂正請求書に記載された訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項とはいえず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではないから、当該訂正請求書に基づく請求項1?9からなる一群の請求項に係る訂正は認めることができず、令和2年3月6日付け取消理由通知書と同旨の取消理由が通知された。 第5 当審の判断 当審は、以下に述べるように、当審が通知した取消理由、及び、申立理由によっては、本件訂正発明1、3?9に係る特許は取り消すことはできない、と判断する。 1.当審が通知した取消理由の検討 (1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明 ア.甲1に記載された事項 (甲1-1) 「【請求項1】 少なくともエチレン性不飽和二重結合を有する化合物と、重合禁止剤と、光重合開始剤とを含有し、前記重合禁止剤が、フェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含む、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。 【請求項2】 更に顔料を含有する、請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。 【請求項3】 インクジェットインク組成物全体における、前記フェノチアジン類重合禁止剤の含有量が0.001?0.2質量%であり、前記ニトロソアミン類重合禁止剤の含有量が0.001?0.2質量%である、請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。 【請求項4】 被記録媒体上に、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を硬化させて形成された層を有する印刷物。」 (甲1-2) 「【0007】 本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、無酸素雰囲気下、及び酸素存在下のいずれの場合においても長期間安定で、且つ、硬化性に優れた、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物、並びに、当該活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を用いることにより、均質で再現性の高いインク層を有する印刷物を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、少なくともエチレン性不飽和二重結合を有する化合物と、重合禁止剤と、光重合開始剤とを含有し、前記重合禁止剤が、フェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含むことを特徴とする。 また、本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、更に顔料を含有してもよい。 【0009】 本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物においては、インクジェットインク組成物全体における、前記フェノチアジン類重合禁止剤の含有量が0.001?0.2質量%であり、前記ニトロソアミン類重合禁止剤の含有量が0.001?0.2質量%であることが、無酸素雰囲気下、及び酸素存在下のいずれの場合においても長期間安定で、且つ、硬化性に優れる点から好ましい。 【0010】 また、本発明は、被記録媒体上に、前記本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を硬化させて形成された層を有する印刷物を提供する。 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、無酸素雰囲気下、及び酸素存在下のいずれの場合においても長期間安定で、且つ、硬化性に優れた、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物、並びに、当該活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を用いることにより、均質で再現性の高いインク層を有する印刷物を提供することができる。」 (甲1-3) 「【0017】 (エチレン性不飽和二重結合を有する化合物) 本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物において用いられるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、後述する光重合開始剤の作用によって重合可能なものであればよく、特に限定されない。 エチレン性不飽和二重結合は上記化合物中に1個のみ有していても2個以上有していてもよい。得られるインクの硬化性及び膜強度の点からは、エチレン性不飽和二重結合を2個以上有する化合物が好ましい。一方、硬化時の収縮が小さく、被記録媒体への密着性の点からは、エチレン性不飽和二重結合を1個のみ有する化合物が好ましい。 【0018】 エチレン性不飽和二重結合を有する化合物におけるエチレン性不飽和二重結合の構造は、特に限定されない。例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。中でも、エチレン性不飽和二重結合が(メタ)アクリロイル基であることが、インクの硬化性の点から好ましい。 【0019】 本発明においては、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、中でも、低粘度であって、得られるインクの硬化性に優れ、かつ硬化時の収縮が小さい点から、(メタ)アクリレート基を化合物中に1個のみ有する単官能(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリレート基を化合物中に2個有する二官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。単官能(メタ)アクリレートは、低粘度で、かつ、硬化収縮が小さいため柔軟性を要する用途に特に適している。また二官能(メタ)アクリレートは、低粘度で、かつ、硬化時に架橋密度が高くなるため、耐性を要する用途に特に適している。」 (甲1-4) 「【0031】 (重合禁止剤) 本発明において用いられる重合禁止剤は、フェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含むものである。重合禁止剤としてフェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを組み合わせて用いることにより、無酸素雰囲気下、及び酸素存在下のいずれの場合においても長期間安定で、且つ、硬化性に優れた、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物が得られる。 本発明において用いられる重合禁止剤は、少なくともフェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含むものであり、他の重合禁止剤を含んでいても良いものである。 以下、本発明において用いられる重合禁止剤の各成分について順に説明する。 【0032】 (1)フェノチアジン類重合禁止剤 本発明において用いられるフェノチアジン類重合禁止剤は、フェノチアジン及びその誘導体からなる重合禁止剤をいう。 なお、フェノチアジン類重合禁止剤を用いることで、長期間保存後であっても黄変が少なく、特に顔料を含有しないインクジェットインク組成物を、黄変のないクリアなものとすることができる。 【0033】 フェノチアジン類重合禁止剤の具体例としては、例えば、フェノチアジン、2-メトキシフェノチアジン、2-シアノフェノチアジン、ビス(α-メチルベンジル)フェノチアジン、3,7-ジオクチルフェノチアジン、ビス(α、α-ジメチルベンジン)フェノチアジン等が挙げられる。中でも、フェノチアジン類重合禁止剤は、フェノチアジン、2-メトキシフェノチアジン、又は2-シアノフェノチアジンであることが好ましい。 【0034】 フェノチアジン類重合禁止剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせても良い。上記フェノチアジン類重合禁止剤の含有量は特に限定されない。中でも、上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合反応を効率的に抑え、且つインクの硬化性が良好な点から、インクジェットインク組成物全体に対して0.001?0.2質量%であることが好ましく、0.01?0.1質量%であることがより好ましく、0.02?0.05質量%であることが更により好ましい。 【0035】 (2)ニトロソアミン類重合禁止剤 本発明において用いられるニトロソアミン類重合禁止剤は、ニトロソアミン及びニトロソアミン誘導体からなる重合禁止剤をいう。ニトロソアミン類重合禁止剤は、無酸素雰囲気下でのラジカル補足性能に特に優れており、更にニトロソアミンが遊離酸を中和するため、酸による重合反応を抑制することができる。上記ニトロソアミン類重合禁止剤は加熱下においても、上記の機能を発揮し、重合反応を抑制することができる。 また、ニトロソアミン類重合禁止剤をフェノチアジン類重合禁止剤に組み合わせて用いることで、酸素存在下での安定性を更に向上し、無酸素雰囲気下での安定性を特に向上する。ニトロソアミン類重合禁止剤をフェノチアジン類重合禁止剤に組み合わせによる相乗効果により、インク組成物中の重合禁止剤の含有割合を従来よりも低くした場合であっても、重合反応を充分に抑制することがでる。このため、活性エネルギー線を照射した際には、光重合開始剤が効率よく機能するため、エチレン性不飽和二重結合の重合反応が充分に進行し、硬化性にも優れている。 【0036】 本発明において用いられるニトロソアミン類重合禁止剤は、例えば、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンアンモニウム塩、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンアルミニウム塩、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンセリウム塩、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンナトリウム塩、N-ニトロソ-ジフェニルアミン、N-ニトロソ-N-シクロへキシルアニリン、N-ニトロソ-N-メチルアニリン、N-ニトロソジメチルアミン、等が挙げられる。中でも、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンアンモニウム塩、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンアルミニウム塩、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンセリウム塩、及びN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンナトリウム塩であることが好ましい。 【0037】 ニトロソアミン類重合禁止剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせても良い。上記ニトロソアミン類重合禁止剤の含有量は特に限定されない。中でも、上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合反応を効率的に抑え、且つインク層の硬化性が良好な点から、インクジェットインク組成物全体に対して0.001?0.2質量%であることが好ましく、0.002?0.1質量%であることがより好ましく、0.005?0.05質量%であることが更により好ましい。」 (甲1-5) 「【0084】 (活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の製造方法) 本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の製造方法は、特に限定されない。 インクジェットインク組成物が顔料を含有しない場合には、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物に、重合禁止剤と、光重合開始剤を加えて、均一になるまで攪拌することによりインクジェットインク組成物を得ることができる。… 【0086】 <印刷物> 本発明に係る印刷物は、被記録媒体上に、前記本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を硬化させて形成された層を有することを特徴とする。 本発明の印刷物は、保存安定性に優れ、且つ、硬化性にも優れた前記本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を用いることにより、再現性が良く、高品質なものとなる。 以下、本発明の印刷物について説明するが、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は前述したとおりであるため、ここでの説明は省略する。 【0087】 (被記録媒体) 本発明の印刷物において、被記録媒体は特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等、インク非吸収性樹脂や、合成紙、ガラス類、金属類、ゴムなどを挙げることができる。 【0088】 (印刷物の製造方法) 上記印刷物の製造方法は特に限定されないが、被記録媒体上に、前記本発明に係るインクジェットインク組成物を吐出する工程、及び、吐出されたインクジェットインク組成物に活性エネルギー線を照射して、該インクジェットインク組成物を硬化させる工程を含む、インクジェット記録方法を用いることが好ましい。 以下、上記各工程について説明する。 【0089】 (1)被記録媒体上に、インクジェットインク組成物を吐出する工程 本工程では、通常、インクジェット方式により被記録媒体上に、インクジェットインク組成物を吐出する。インクジェット組成物を吐出して、所望の像を描画してもよいし、比較的広範囲にクリア層を形成してもよい。本発明においては、安定性に優れ、粘度の変化が少ない前記本発明に係るインクジェットインク組成物を用いるため、吐出安定性に優れる。 【0090】 (2)活性エネルギー線を照射して、インクジェットインク組成物を硬化させる工程 活性エネルギー線の線種は、上記光重合開始剤との組み合わせで、適宜選択されるものであり、特に制限されない。例えば、波長365nmの紫外線等が好適に用いられる。 活性エネルギー線の光源としては、紫外線を照射する場合には、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、発光ダイオード(LED)等を用いることができ、特に制限されない。 インクジェットインク組成物が、被記録媒体に着弾後、直ちに活性エネルギー線を照射することが好ましい。 【実施例】 【0091】 以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を表す。 【0092】 (製造例1:黒色顔料分散体Aの調製) フェノキシエチルアクリレート(SR339A、sartomer製)76部に高分子分散剤(byk168、ビックケミー製、アミン価11mgKOH/g、有効成分約30質量%)12部を溶解させ、カーボンブラック(degusa製 ブラック顔料)12部を加え、ペイントシェイカーで、1mm直径のジルコニアビーズを用いて顔料粒子径(メジアン径)が200nm以下となるように分散し、黒色顔料分散体Aを得た。粒子径は、大塚電子製 FPAR-1000によって測定した。… 【0094】 (実施例1:活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物(1)の調製) 製造例1で得られた黒色顔料分散体Aに、エチレン性二重結合を有する化合物であるフェノキシエチルアクリレート(SR339A)、t-ブチルシクロへキシルアクリレート(LaromerTBCH、BASF社製)、及びイソボルニルアクリレート(ZA-IBXA、共栄社化学社製)と、光重合開始剤である、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(Lucirin TPO、BASF社製)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(イルガキュア369、BASF社製)、及び1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184、BASF社製)と、シリコン系界面活性剤(Tegorad2300)を下記表1の黒色インクAの組成になるようにそれぞれ配合し、黒色インクAを調製した。次いで、重合禁止剤として、フェノチアジン類重合禁止剤であるフェノチアジン(TDP、精工化学社製)を0.02部、ニトロソアミン類重合禁止剤であるN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩(Q-1301、和光純薬社製)を0.01部加えて攪拌した後、メンブランフィルターで濾過し、実施例1の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物(1)を得た。 【0095】 ![]() … 【0099】 (実施例5:活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物(5)の調製) 実施例1において、TDPの配合量を0.05部とし、Q?1301の配合量を0.1部とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物(5)を得た。… 【0102】 (比較例3:比較活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物(3)の調製) 実施例1において、Q-1301の配合量を0.2部とし、TDPを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例3の比較活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物(3)を得た。」 (甲1-6) 「【0117】 <硬化性評価> 上記実施例1?7及び比較例1?12の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物をそれぞれ、インクジェットヘッド(KM512MHヘッド:コニカミノルタ製)を用いて360dpiになるようにPET原反(東洋紡績製A4300)に印字した。その後、UVランプ(LightHammer6:フュージョンUVシステムズ・ジャパン製)により積算光量30mJ/cm^(2)、ピーク照度90mW/cm^(2)となるように紫外線照射し、塗膜を得た。結果は下記評価基準に従って判断した。評価結果を表2に示す。・・・ 【0119】 ![]() 」 イ.甲1に記載された発明 甲1には、特に摘記(甲1-5)の比較例3の記載からみて、以下の発明が記載されている。 「フェノキシエチルアクリレート(SR339A、sartomer製)76部に高分子分散剤(byk168、ビックケミー製、アミン価11mgKOH/g、有効成分約30質量%)12部を溶解させ、カーボンブラック(degusa製 ブラック顔料)12部を加え、ペイントシェイカーで、1mm直径のジルコニアビーズを用いて顔料粒子径(メジアン径)が200nm以下となるように分散して得た、黒色顔料分散体Aに、 各配合成分が、カーボンブラック(degusa製 ブラック顔料)2質量部、高分子分散剤(byk168、ビックケミー製、アミン価11mgKOH/g、有効成分約30質量%)2質量部、エチレン性二重結合を有する化合物であるフェノキシエチルアクリレート(SR339A)15.8質量部、t-ブチルシクロへキシルアクリレート(LaromerTBCH、BASF社製)8質量部、及びイソボルニルアクリレート(ZA-IBXA、共栄社化学社製)60質量部と、光重合開始剤である、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(Lucirin TPO、BASF社製)4質量部、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(イルガキュア369、BASF社製)4質量部、及び1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184、BASF社製)4質量部と、シリコン系界面活性剤(Tegorad2300)0.2質量部の組成になるように配合して、黒色インクA(100質量部)を調製し、 次いで、重合禁止剤として、ニトロソアミン類重合禁止剤であるN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩(Q-1301、和光純薬社製)を0.2質量部加えて攪拌した後、メンブランフィルターで濾過して得た、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。」(以下「甲1発明1」という。) 甲1発明1の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、上記摘記(甲1-6)によると、インクジェットヘッドを用いて印字し、塗膜とするものであるから、次の発明が記載されているといえる。 「甲1発明1の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッド(KM512MHヘッド:コニカミノルタ製)を用いて360dpiになるようにPET原反(東洋紡績製A4300)に印字し、その後、UVランプ(LightHammer6:フュージョンUVシステムズ・ジャパン製)により積算光量30mJ/cm^(2)、ピーク照度90mW/cm^(2)となるように紫外線照射し、塗膜を得る方法。」(以下「甲1発明2」という。) (2)甲2?甲5に記載された事項 ア.甲2に記載された事項 (甲2-1) 「 ![]() 」(第4頁上部) イ.甲3に記載された事項 (甲3-1) 「 ![]() 」(12頁) ウ.甲4に記載された事項 (甲4-1) 「【請求項1】 重合性化合物、 光重合開始剤、及び N-ニトロソアミン化合物又はその金属塩の少なくとも1種 を含有するインク組成物。」 (甲4-2) 「【0012】 重合禁止剤は単独で使用しても、2種以上併用してもよい。 重合禁止剤は、重合性化合物に対して100?10,000ppm添加することが好ましく、100?2,000ppm添加することがより好ましい。」 (甲4-3) 「【0024】 本発明において、インク組成物が重合性化合物として多官能の(メタ)アクリレートを少なくとも1種含むことが好ましい。また、重合性化合物が(a)少なくとも1種の三官能以上の(メタ)アクリレート、並びに(b)少なくとも1種の単官能および/または二官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。また、(a)三官能以上の(メタ)アクリレートが、四官能、五官能または六官能の(メタ)アクリレートであることがさらに好ましい。」 (甲4-4) 「【0057】 (その他の添加剤) 本発明の効果を害しない範囲内において、目的に応じて適宜選択したその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、例えば、溶剤やポリマー、表面張力調整剤、貯蔵安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、導電性塩類、pH調整剤、連鎖移動剤等の公知の添加剤が挙げられる。」 (甲4-5) 「【0063】 以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。 本発明の実施例で使用する材料は、以下のとおりである。 PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート、ダイセル・ユーシー ビー製 ジプロピレングリコールジアクリレート:ダイセル・ユーシービー製 Lucirin TPO:アシルフォスフィンオキサイド化合物、 BASF製 Lucirin TPOの化学構造を以下に示す。 【0064】 【化4】 ![]() Lucirin TPO 重合禁止剤(1):N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウ ム塩、和光純薬工業(株)製Q-1301 重合禁止剤(2):N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、和光純薬 工業(株)製Q-1300 重合禁止剤(3):2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチル )ハイドロキノン、和光純薬工業(株)製DOHQ 重合禁止剤(4):2,5-ビス(1,1-ジメチルブチル)ハイドロキ ノン、和光純薬工業(株)製DHHQ」 「【0071】 (実施例II-1) 重合性化合物:PETA 5g 重合性化合物:ジプロピレングリコールジアクリレート 15g 光重合開始剤:Lucirin TPO 0.6g 重合禁止剤(1) 0.02g 着色剤:M-1 0.4g 以上の成分を撹拌混合し、マゼンタインク組成物を得た。」 エ.甲5に記載された事項 (甲5-1) 「【0017】 インクは、ベースコート層のバインダー樹脂を溶解できる組成であることが望ましい。それにより、形成される画像のベースコート層への密着性がより良好なものとなる。換言すると、ベースコート層に含まれるバインダー樹脂は、UVインクに溶解できるものであることが好ましい。…」 (甲5-2) 「【0023】 皮革印刷物の製造方法は、皮革表面にベースコート層を形成する工程;ベースコート層表面に紫外線硬化型インクを用いて画像(印刷層)を形成する工程;画像を備えたベースコート層上にさらにトップコート層を形成する工程;を含むことができる。画像形成工程は、任意の印刷機を用いてインクジェット記録法により行なわれることが好ましい。」 (甲5-3) 「【0029】 (1)インクの調製 表1に示した組成に従い、各成分を高速撹拌機を用いて充分に混合し、各UVインクを調製した。 使用した成分の詳細は次のとおりである。 顔料:カーボンブラック(三菱化学(株)製MA11) 顔料分散剤:ソルスパース24000(ノヴェオン社製) 多官能モノマー(1):1,9-ノナンジオールジアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレート、1,9-NDA) 多官能モノマー(2):1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(共栄社化学(株)製) 多官能モノマー(3):ポリエチレングリコールジアクリレート(第一工業製薬(株)製PE-300) 多官能モノマー(4):PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート(第一工業製薬(株)製NPG-2PO) 多官能モノマー(5):ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬(株)製MANDA) 単官能モノマー:イソボニルアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレート、IB-XA) オリゴマー:ウレタンアクリレート(日本合成(株)製UV3000B) 重合開始剤:イルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ(株)) 増感剤(1):日本化薬(株)製DETX-S 増感剤(2):日本化薬(株)製EPA 重合禁止剤:和光純薬工業(株)製Q-1301 【0030】 ![]() 」 (3)本件訂正発明1について ア.甲1発明1との対比 本件訂正発明1と甲1発明1を対比する。 甲1発明1の「光重合開始剤」である、「2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(Lucirin TPO、BASF社製)」、「2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(イルガキュア369、BASF社製)」、及び「1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184、BASF社製)」は、本件訂正発明1の「光開始剤」である「光ラジカル開始剤」に相当する。 甲1発明1の「N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩(Q-1301、和光純薬社製)」は、13族の金属元素であるアルミニウムを有する化合物であるから、本件訂正発明1の「金属キレート化合物」と、「中心金属元素は2族、4族、8族、及び13族の何れかから選択される」金属化合物である限りにおいて共通し、その配合量は黒色インクA(100質量部)に対し0.2質量部であるところ、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物(黒色インクA:100質量部+Q-1301:0.2質量部)に対する質量%に換算すると0.1996質量%(=0.2/100.2×100)となるので、本件訂正発明1の「光硬化性組成物全体の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下」の範囲を満たしている。 甲1発明1の「活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物」は、活性エネルギー線が光を包含することから、本件訂正発明1の「光硬化性インクジェットインク」に相当する。 甲1発明1の得られた樹脂の組成分析の「エチレン性二重結合を有する化合物」である「フェノキシエチルアクリレート(SR339A)」、「t-ブチルシクロへキシルアクリレート(LaromerTBCH、BASF社製)」、及び「イソボルニルアクリレート(ZA-IBXA、共栄社化学社製)」は、本件訂正発明1の「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物を含」み、「ラジカル重合性モノマーであ」る「光重合性化合物」とは、「ラジカル重合性モノマーであ」る「光重合性化合物」である限りにおいて一致する。 なお、甲1発明1においてさらにシリコン系界面活性剤などの他の成分を含有することについて、本件訂正発明1において「…含有する光硬化性インクジェットインク。」と記載されていることから、他の成分を含有するものを包含しており、この点は相違点ではない。 そうすると、本件訂正発明1と甲1発明1は、 「光重合性化合物、及び光開始剤を含有し、 前記光重合性化合物はラジカル重合性モノマーであり、前記光開始剤は光ラジカル開始剤である光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインクであって、 前記光硬化性組成物は金属化合物を含有し、 前記金属化合物の金属元素は2族、4族、8族、及び13族の何れかから選択されると共に、前記金属化合物は前記光硬化性組成物全体の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下で含有される光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインク。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 上記光重合性化合物について、本件訂正発明1では、「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物」を用いているのに対して、甲1発明1では、「フェノキシエチルアクリレート」、「t-ブチルシクロへキシルアクリレート」、及び「イソボルニルアクリレート」を用いている点。 <相違点2> 上記金属化合物について、本件訂正発明1では、「金属キレート化合物の中心金属元素は2族、4族、8族、及び13族の何れかから選択される」「金属キレート化合物」を用いているのに対して、甲1発明1では、「N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩(Q-1301、和光純薬社製)」であり、「金属キレート化合物」であることを特定していない点。 <相違点3> 本件訂正発明1では、金属キレート化合物を、「前記光硬化性組成物に溶解した状態で含有する」のに対し、甲1発明1では、金属化合物が光硬化性組成物に溶解した状態であることを特定していない点。 イ.判断 相違点1について検討する。 甲1には、「本発明においては、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、中でも、低粘度であって、得られるインクの硬化性に優れ、かつ硬化時の収縮が小さい点から、(メタ)アクリレート基を化合物中に1個のみ有する単官能(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリレート基を化合物中に2個有する二官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。」との記載があるものの(【0019】)、(メタ)アクリレートを「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド」を変性することについては、記載も示唆もされていない。 また、甲2、3には、「N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩」に関する情報を示すに止まり、「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物」は、記載も示唆もされていない。 さらに、甲4には、「本発明において、インク組成物が重合性化合物として多官能の(メタ)アクリレートを少なくとも1種含むことが好ましい。」との記載があり(【0024】)、具体例として、「PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート」、「ジプロピレングリコールジアクリレート」が挙げられ(【0063】)、(実施例II-1)として、「PETA 5g」、「ジプロピレングリコールジアクリレート 15g」と「重合禁止剤(1):N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、和光純薬工業(株)製Q-1301 0.02g」を組み合わせた、マゼンタインク組成物が記載されている(【0064】、【0071】)。 同じく、甲5には、「多官能モノマー(1):1,9-ノナンジオールジアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレート、1,9-NDA)、多官能モノマー(2):1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(共栄社化学(株)製)、多官能モノマー(3):ポリエチレングリコールジアクリレート(第一工業製薬(株)製PE-300)、多官能モノマー(4):PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート(第一工業製薬(株)製NPG-2PO)、多官能モノマー(5):ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬株)製MANDA)」と「重合禁止剤:和光純薬工業(株)製Q-1301」を組み合わせた、インク(1)?(5)が記載されている(【0029】、【0030】)。 しかしながら、甲4、5のいずれにも、甲1発明1で、「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物」を用いることを当業者に動機付ける記載や示唆は、何ら存在しない。 しかも、本件明細書の【0028】には、「本発明で好ましく用いることのできる化合物として、エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド(EO)変性モノマーが挙げられる。このようなEO変性モノマーは、エチレンオキサイド基中に酸素原子を有しているため、金属キレート化合物と比較的緩やかな配位結合しうる部位が多い。そのため、本願発明の効果をより効果的に発揮することができる。」との記載があるところ、それを裏付けるように、本件明細書の表4,表5には、本件訂正発明1の「エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物」の一つである「エトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート」を含む試料が、記録材料が異なっても良好な密着性を示すとともに、硬化収縮を抑制できることが示されており(同【0177】の【表4】の試料39、同【0186】の【表5】の試料43)、本件訂正発明1は、相違点1として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することにより、甲1?5に記載の無い効果を奏するものであることが理解できる。 そうすると、甲1?5の記載事項を参酌しても、甲1発明1において、相違点1として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たとすることはできない。 ウ.小括 以上からすると、相違点2、3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載されたものではなく、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明に、甲1?5に記載された事項を組み合わせても、当業者が本件訂正発明1を容易に想到し得たとすることはできない。 (4)本件訂正発明3?5について 本件訂正発明3は、本件訂正発明1、2に記載の光硬化性組成物について、「有機溶剤を含有し、前記有機溶剤の含有量は、前記光硬化性組成物全体の質量に対して3質量%以下である」ことを特定するものである。 本件訂正発明4、5は、それぞれ、本件訂正発明1?3に記載の光硬化性組成物に、「色材を含有させる」、「色材は顔料であり、さらに顔料分散剤を含有させる」ことを特定するものである。 しかし、本件訂正発明3?5と甲1発明1は、少なくとも上記の相違点1((3)ア)で相違しており、かかる相違点1に想到することは、甲1?5の記載事項に接した当業者といえども容易ではないから((3)イ)、本件訂正発明1で説示したものと同様の理由により、本件訂正発明3?5は、甲1に記載されたものではなく、甲1に記載された発明に、甲1?5に記載された事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (5)本件訂正発明6について ア.甲1発明2との対比 本件訂正発明6と甲1発明2を対比する。 甲1発明2の「活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物をインクジェットヘッド(KM512MHヘッド:コニカミノルタ製)を用いて360dpiになるようにPET原反(東洋紡績製A4300)に印字し」は、甲1発明2の「PET原反」が、被記録媒体であり、かつPETは一般的にポリエチレンテレフタレートの略称であることから、本件訂正発明6の「光硬化性インクジェットインクを記録媒体に付与した」に相当する。 甲1発明2の「その後、UVランプ(LightHammer6:フュージョンUVシステムズ・ジャパン製)により積算光量30mJ/cm^(2)、ピーク照度90mW/cm^(2)となるように紫外線照射し」は、UVランプから活性光線であるUVを照射していることからみて、本件訂正発明6の「した後、活性光線を照射して」に相当する。 甲1の【0086】?【0089】によると、甲1発明2の「塗膜を得る方法」は、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を印字したものを活性エネルギー線である紫外線照射により硬化させて塗膜とするものであるから、本件訂正発明6の「光硬化性インクジェットインクを硬化させる」「光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法」に相当する。 そうすると、本件訂正発明6と甲1発明2は、 「光硬化性インクジェットインクを記録媒体に付与した後、活性光線を照射して前記光硬化性インクジェットインクを硬化させる光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。」で一致し、本件訂正発明6では、 「請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインク」を用いているのに対し、甲1発明2では、 「甲1発明1の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物」を用いている点(相違点4)で相違している。 イ.判断 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインク、すなわち本件訂正発明1?5の光硬化性インクジェットインクと、甲1発明1の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、少なくとも上記の相違点1((3)ア)で相違している。 そして、かかる相違点1に想到することは、甲1?5の記載に接した当業者といえども容易ではないことから((3)イ)、本件訂正発明6は、本件訂正発明1で説示したものと同様の理由により、甲1に記載されたものではなく、甲1に記載された発明に、甲1?5に記載された事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (6)本件訂正発明7について 本件訂正発明7は、本件訂正発明6について、さらに「記録媒体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラートのいずれかであること」を特定するものであるが、本件訂正発明7と甲1発明2は、少なくとも上記の相違点4((5)ア)で相違する。 そして、上記のとおり、かかる相違点4に想到することは、甲1?5の記載に接した当業者といえども容易ではないから((5)イ)、本件訂正発明7は、甲1に記載されたものではなく、甲1に記載された発明に、甲1?5に記載された事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (7)本件訂正発明8について ア.甲1発明2との対比 本件訂正発明8は、本件訂正発明1において、さらに本件訂正発明1?5の「光硬化性インクジェットインク」を「吐出するインクジェットヘッドと、 活性光線を照射する照射部と、 記録媒体を搬送する搬送部と、 を備えるインクジェット記録装置における光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法において、 前記インクジェットヘッドによって前記光硬化性インクジェットインクを前記記録媒体に付与した後、前記照射部による活性光線の照射によって前記光硬化性インクジェットインクを硬化させることを特徴とする光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。」であることを特定するものである。 本件訂正発明8と甲1発明2を対比する。 甲1発明2の「活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッド(KM512MHヘッド:コニカミノルタ製)を用いて360dpiになるようにPET原反(東洋紡績製A4300)に印字し」は、インクジェット方式により被記録媒体上にインクジェットインク組成物を吐出することであり、「PET原反」が被記録媒体であり、かつPETは一般的にポリエチレンテレフタレートの略称であることから、本件訂正発明8の「光硬化性インクジェットインクを吐出するインクジェットヘッド」及び「前記インクジェットヘッドによって前記光硬化性インクジェットインクを前記記録媒体に付与した後」に相当する。 甲1発明2の「その後UVランプ(LightHammer6:フュージョンUVシステムズ・ジャパン製)により積算光量30mJ/cm^(2)、ピーク照度90mW/cm^(2)となるように紫外線照射し」は、UVランプから活性光線であるUVを照射していることからみて、本件訂正発明8の「活性光線を照射する照射部と」、「前記照射部による活性光線の照射」に相当する。 甲1発明2の「塗膜を得る方法」は、甲1発明2の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を印字したものを紫外線照射により硬化させて塗膜とすることから、本件訂正発明8の「光硬化性インクジェットインクを硬化させる」「光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法」に相当する。 そうすると、本件訂正発明8と甲1発明2は、 「光硬化性インクジェットインクを吐出するインクジェットヘッドと、 活性光線を照射する照射部と、 記録媒体を搬送する搬送部と、 を備えるインクジェット記録装置における光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法において、 前記インクジェットヘッドによって前記光硬化性インクジェットインクを前記記録媒体に付与した後、前記照射部による活性光線の照射によって前記光硬化性インクジェットインクを硬化させる光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。」で一致し、 本件訂正発明8では、 「請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインク」を用いているのに対し、甲1発明2では、 「甲1発明1の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物」を用いている点(相違点5)で相違している。 イ.判断 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインク、すなわち本件訂正発明1?5の光硬化性インクジェットインクは、甲1発明1の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物とは、少なくとも上記の相違点1((3)ア)で相違している。 そして、かかる相違点1に想到することは、甲1?5の記載に接した当業者といえども容易ではないことから((3)イ)、本件訂正発明8は、本件訂正発明1で説示したものと同様の理由により、甲1に記載されたものではなく、甲1に記載された発明に、甲1?5に記載された事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (8)本件訂正発明9について 本件訂正発明9は、本件訂正発明8について、さらに「記録媒体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラートのいずれかであること」を特定するものであるが、本件訂正発明9と甲1発明2は、少なくとも上記の相違点5((7)ア)で相違する。 そして、上記のとおり、かかる相違点5に想到することは、甲1?5の記載に接した当業者といえども容易ではないから((7)イ)、本件訂正発明9は、甲1に記載されたものではなく、甲1に記載された発明に、甲1?5に記載された事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 2.取消理由で採用しなかった申立理由について 当審が通知した取消理由と申立人が主張した申立理由は、甲1を主引用例として、本件発明の新規性の欠如(特許法第29条第1項第3号)、進歩性の欠如(同法同条第2項)を、取消理由にしている点で共通するものであるが、当審が通知した取消理由では、甲1の特に比較例3に基づき甲1に記載された発明を認定しているのに対し、申立理由では、甲1の実施例1、5に基づき甲1に記載された発明を認定している点で異なっている。 しかし、甲1の実施例5に記載された「Q-1301」の配合量は、黒色インクA(100質量部)に対し0.1質量部であるところ、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物(黒色インクA:100質量部+Q-1301:0.1質量部+TDP:0.05質量部)に対する質量%に換算すると、「Q-1301」の配合量は、0.999質量%(=0.1/(100+0.1+0.05)×100)となり、本件訂正発明1の「光硬化性組成物全体の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下」の発明特定事項を満たしていない。 よって、申立理由に記載された、甲1の実施例1、5に基づき認定できる発明は、本件訂正発明1と当審が認定した甲1発明1の相違点である、相違点1?3の他に、金属キレート化合物の含有量においても本件訂正発明1と相違していることになる。 したがって、申立理由に記載された、甲1の実施例1、5に基づき認定できる発明を検討しても、当審が通知した取消理由と同様に、本件訂正発明1,3?9は、甲1に記載された発明ではなく、甲1?5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 3.当審が通知した取消理由および申立理由の検討のまとめ 以上のとおり、本件訂正発明1、3?9は、甲1に記載された発明ではなく、甲1?5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。 また、本件異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件訂正発明1、3?9に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 光重合性化合物、及び光開始剤を含有し、 前記光重合性化合物はラジカル重合性モノマーであり、前記光開始剤は光ラジカル開始剤である光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインクであって、 前記光重合性化合物は、エチレンオキサイド基の数が6以上であるエチレンオキサイド変性の多官能の(メタ)アクリレート化合物を含み、 前記光硬化性組成物は金属キレート化合物を、前記光硬化性組成物に溶解した状態で含有し、 前記金属キレート化合物の中心金属元素は2族、4族、8族、及び13族の何れかから選択されると共に、前記金属キレート化合物は前記光硬化性組成物全体の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下で含有されることを特徴とする光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインク。 【請求項2】 前記光硬化性組成物は架橋促進剤を含有し、前記架橋促進剤は部分構造として活性メチレン部を有し、前記光硬化性組成物全体の質量に対して前記架橋促進剤の含有量は5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインク。 【請求項3】 前記光硬化性組成物は有機溶剤を含有し、前記有機溶剤の含有量は、前記光硬化性組成物全体の質量に対して3質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光硬化性組成物を含有する光硬化性インクジェットインク。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインクに色材を含有させることを特徴とする光硬化性インクジェットインク。 【請求項5】 前記色材は顔料であり、さらに顔料分散剤を含有させることを特徴とする請求項4に記載の光硬化性インクジェットインク。 【請求項6】 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインクを記録媒体に付与した後、活性光線を照射して前記光硬化性インクジェットインクを硬化させることを特徴とする光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。 【請求項7】 前記記録媒体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラートのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。 【請求項8】 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインクを吐出するインクジェットヘッドと、 活性光線を照射する照射部と、 記録媒体を搬送する搬送部と、 を備えるインクジェット記録装置における光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法において、 前記インクジェットヘッドによって前記光硬化性インクジェットインクを前記記録媒体に付与した後、前記照射部による活性光線の照射によって前記光硬化性インクジェットインクを硬化させることを特徴とする光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。 【請求項9】 前記記録媒体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラートのいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-08-06 |
出願番号 | 特願2016-511530(P2016-511530) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
YAA
(C08F)
P 1 652・ 113- YAA (C08F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤本 保 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
近野 光知 福井 悟 |
登録日 | 2019-06-14 |
登録番号 | 特許第6536570号(P6536570) |
権利者 | コニカミノルタ株式会社 |
発明の名称 | 光硬化性組成物、及びそれを含有する光硬化性インクジェットインク、光硬化性組成物を用いた記録方法、並びに光硬化性インクジェットインクを用いた記録方法 |
代理人 | 特許業務法人鷲田国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人鷲田国際特許事務所 |