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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G21F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G21F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G21F
管理番号 1378726
異議申立番号 異議2019-701053  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-23 
確定日 2021-08-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6595333号発明「放射性物質収納容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6595333号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第6595333号の請求項1ないし14に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6595333号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成27年12月25日に出願され、令和元年10月4日にその特許権の設定登録がされ、令和元年10月23日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 元年12月23日 :特許異議申立人松川哲広(以下「申立人」と
いう。)による請求項1?14に係る特許に
対する特許異議の申立て
令和 2年 7月29日付け:取消理由通知書
令和 2年10月 2日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年11月18日 :申立人による意見書の提出
令和 2年12月18日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 3年 3月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 4月19日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「を備えることを特徴とする放射性物質収納容器。」を「を備え、前記放射線遮蔽部材は、平板形状を有するとともに前記軸方向に沿って延在する少なくとも1つの遮蔽板、及び、前記少なくとも1つの遮蔽板を所望の位置へ配置する支持部材を有することを特徴とする放射性物質収納容器。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?14も同様に訂正する。)。

なお、訂正前の請求項1ないし14は、請求項2?14が請求項1の記載を直接または間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1ないし14について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に対してさらなる限定を加えるものであり、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の請求項1を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。そのため、かかる訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の段落【0035】には「このうち、図5(A)に示す放射線遮蔽部材26(26a)の遮蔽板30a及び30bは互いに接続され、図5(B)に示す放射線遮蔽部材26(26b)の遮蔽板30a及び30bは互いに分離して配置され、図5(C)に示す放射線遮蔽部材26(26c)の遮蔽板30a及び30bは、別の部材32に取り付けられる。」との記載があり、願書に添付した明細書の段落【0052】には「図5(C)に示すように、放射線遮蔽部材26(26c)において遮蔽板30a及び30bは別の部材32に取り付けられるので、遮蔽板30a及び30bの所望の位置への配置が容易になると共に、遮蔽板30a及び30bの支持強度を向上できる。」との記載がある。

以上より、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

3 小括
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし14に係る発明(以下順に「本件発明1」ないし「本件発明14」という。)は、下記のとおりのものである。

「【請求項1】
内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体と、
前記胴本体に収容され、前記胴本体の横断面において、放射性物質を収容するための矩形空間が格子状に配列されてなる収容領域を有するバスケットと、
前記バスケット及び前記胴本体間に形成された隙間に前記胴本体の軸方向に沿って延在し、前記矩形空間の対角線に平行でかつ前記胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を中心とした周方向領域に設けられた放射線遮蔽部材と、
前記胴本体の側面のうち、前記胴本体の周方向において前記放射線遮蔽部材と異なる位置に設けられたトラニオンと、
を備え、
前記放射線遮蔽部材は、平板形状を有するとともに前記軸方向に沿って延在する少なくとも1つの遮蔽板、及び、前記少なくとも1つの遮蔽板を所望の位置へ配置する支持部材を有することを特徴とする放射性物質収納容器。
【請求項2】
前記収容領域は、
前記胴本体の内側に対向する位置に設けられ、第1の放射線量を有する放射性物質を収容するための第1の収容領域と、
前記第1の収容領域より前記胴本体の径方向内側に設けられ、前記第1の放射線量より高い第2の放射線量を有する放射性物質を収容する第2の収容領域と、
を有し、
前記放射線遮蔽部材は、前記胴本体の周方向において、前記胴本体の内側と前記第2の収容領域との間の距離が最も小さくなる領域を含むように配置れていることを特徴とする請求項1に記載の放射性物質収納容器。
【請求項3】
前記トラニオンは、前記胴本体の周方向において、前記距離が最も大きくなる領域を含むように配置されていることを特徴とする請求項2に記載の放射性物質収納容器。
【請求項4】
前記胴本体の横断面において、前記横断面の中心点と前記トラニオンの中心とを結ぶ線と前記横断面の中心点と前記放射線遮蔽部材の配置位置とを結ぶ線との角度が10°以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項5】
前記バスケットは、前記横断面上において互いに交差するように組み合わされた複数の 板状部材で構成され、
前記放射線遮蔽部材は、前記隙間のうち、前記複数の板状部材のうち前記収容領域より径方向外側に至るまで延在する延在部と前記胴本体の内側とによって規定される閉空間内に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項6】
前記放射線遮蔽部材は、前記閉空間を構成する壁面の少なくとも一部に沿って形成されていることを特徴とする請求項5に記載の放射性物質収納容器。
【請求項7】
前記放射線遮蔽部材は、前記横断面において前記閉空間のうち径方向内側に形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の放射性物質収納容器。
【請求項8】
前記放射線遮蔽部材は、前記バスケットに対向配置される少なくとも2つの板材で構成されていることを特徴とする請求項7に記載の放射性物質収納容器。
【請求項9】
前記放射線遮蔽部材は、中空の構造体であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項10】
前記放射線遮蔽部材は、前記胴本体の内壁面に固定されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項11】
前記放射線遮蔽部材の内部に前記胴本体の軸方向に配置されたドレン流路をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項12】
前記放射線遮蔽部材は中空空間が密閉された構成を有することを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項13】
前記放射線遮蔽部材は7000kg/m^(3)以上の密度を有する材料で構成されることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項14】
前記放射線遮蔽部材は前記胴本体より熱伝達率が大きい材料で構成されることを特徴とする請求項1乃至13の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。」

第4 取消理由(決定の予告)の概要
1 訂正前の請求項1?14に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した令和2年12月18日付け取消理由の概要は、次のとおりである。

2 本件発明1、4?8は、甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1、4?8に係る特許は取り消すべきものである。
本件発明1は、甲1に記載された発明及び周知技術、
甲2に記載された発明及び周知技術、
又は、甲3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明2、3は、甲1に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
甲2に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
甲3に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
又は、甲4に記載された発明及び甲5の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明4は、甲1に記載された発明及び周知技術、
甲2に記載された発明及び周知技術、
又は、甲3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明5-8は、甲1に記載された発明及び周知技術、
甲2に記載された発明、甲4に記載された発明及び周知技術、
又は、甲3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明9、10、12は、甲1に記載された発明及び周知技術、
甲2に記載された発明及び周知技術、
甲3に記載された発明及び周知技術、
又は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明11は、甲1に記載された発明、甲6の技術的事項及び周知技術、
甲2に記載された発明、甲6の技術的事項及び周知技術、
甲3に記載された発明、甲6の技術的事項及び周知技術、
又は、甲4に記載された発明及び甲6の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明13、14は、甲1に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
甲2に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
甲3に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
又は、甲4に記載された発明及び甲5の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

3 引用文献等一覧
甲第1号証:特開2002-250790号公報
甲第2号証:特開2004-125763号公報
甲第3号証:特開2004-69620号公報
甲第4号証:特開昭63-159794号公報
甲第5号証:特開昭58-27100号公報
甲第6号証:特開2007-225524号公報
甲第7号証:「使用済燃料中間貯蔵施設における金属製乾式キャスクについて(MSF-26PJ型)」、三菱重工業株式会社、平成19年3月、改1 平成21年5月、p.4,8-12,35
(以下、甲第1ないし7号証を順に「甲1」ないし「甲7」と略して記載する。)
周知技術を示す文献:特開2002-55195号公報(以下「周知文献1」という。当審で追加した文献。)
周知技術を示す文献:特開平6-94892号公報(以下「周知文献2」という。当審で追加した文献。)

第5 当審の判断
1 引用文献の記載事項
(1)甲1には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。
ア 「【0002】
【従来の技術】核燃料サイクルの終期にあって燃焼を終え使用できなくなった核燃料集合体を、使用済み核燃料という。使用済み核燃料は、FPなど高放射能物質を含むので熱的に冷却する必要があるから、原子力発電所の冷却ピットで所定期間(1?3年間)冷却される。その後、遮蔽容器であるキャスクに収納され、トラック等で再処理施設に搬送、貯蔵される。使用済み燃料集合体をキャスク内に収容するにあたっては、バスケットと称する格子状断面を有する保持要素を用いる。当該使用済み燃料集合体は、当該バスケットに形成した複数の収納空間であるセルに1体ずつ挿入され、これにより、輸送中の振動などに対する適切な保持力を確保している。」

イ 「【0024】[実施の形態1]図1は、この発明の実施の形態1にかかるキャスクを示す斜視図である。図2は、図1に示したキャスクの軸方向断面図である。図3は、図1に示したキャスクの径方向断面図である。この実施の形態1にかかるキャスク100は、胴本体101のキャビティ102内面をバスケット130の外周形状に合わせて機械加工したものである。キャビティ102内面の機械加工は、後述する専用の加工装置によってフライス加工する。胴本体101および底板104は、γ線遮蔽機能を有する炭素鋼製の鍛造品である。なお、炭素鋼の代わりにステンレス鋼を用いることもできる。前記胴本体101と底板104は、溶接により結合する。また、耐圧容器としての密閉性能を確保するため、一次蓋110と胴本体101との間には金属ガスケットを設けておく。
【0025】胴本体101と外筒105との間には、水素を多く含有する高分子材料であって中性子遮蔽機能を有するレジン106が充填されている。また、胴本体101と外筒105との間には熱伝導を行う複数の銅製内部フィン107が溶接されており、前記レジン106は、この内部フィン107によって形成される空間に流動状態で注入され、冷却固化される。なお、内部フィン107は、放熱を均一に行うため、熱量の多い部分に高い密度で設けるようにするのが好ましい。また、レジン106と外筒105との間には、数mmの熱膨張しろ108が設けられる。この熱膨張しろ108は、ホットメルト接着剤等にヒーターを埋め込んだ消失型を外筒105内面に配し、レジン106を注入固化した後、ヒーターを加熱して溶融排出することにより形成する(図示省略)。」

ウ 「【0027】キャスク本体116の両側には、キャスク100を吊り下げるためのトラニオン117が設けられている。なお、図1では、補助遮蔽体115を設けたものを示したが、キャスク100の搬送時には補助遮蔽材115を取り外して緩衝体118を取り付ける(図2参照)。緩衝体118は、ステンレス鋼材により作成した外筒120内にレッドウッド材などの緩衝材119を組み込んだ構造である。
【0028】図4は、図1に示したバスケットの組立図である。このバスケット130は、矩形の板状部材135を直交して交互に積み上げて構成したものである。矩形の板状部材135の両側には、一定間隔をもって切込部136が形成され、この切込部136の間隔はセル幅、すなわち使用済み燃料集合体の幅によって決定される。矩形の板状部材135は、この切込部136が相互に差し込むように直交して交互に積み重ねられる。これによって、全体的に複数のセルを有するバスケット130が構成される。また、板状部材135の材料には、AlまたはAl合金粉末に中性子吸収性能を持つBまたはB化合物の粉末を添加したアルミニウム複合材またはアルミニウム合金を用いる。また、中性子吸収材としては、ボロンの他にカドミウムを用いることができる。」

エ 「【0033】図6の(a)は、図3に示したダミーパイプを示す斜視図である。図3に示すように、キャビティ102のうちセル数が5個または7個となるセル列の両側には、それぞれダミーパイプ133が挿入されている。このダミーパイプ133は、胴本体101の重量を軽減すると共に胴本体101の厚みを均一化することを目的とする。特に、厚みの均一化は、胴本体の特定部分に応力が集中するのを防止するのに効果がある。また、バスケット130を確実に固定する目的で用いることもできる。このダミーパイプ133の材料にはボロン入りアルミニウム合金を用い、上記同様の工程により製作する。
【0034】また、ダミーパイプ133は角パイプ状であるが、その両端は蓋133aによって閉じられている(図3では蓋は図示省略)。蓋133aを溶接してダミーパイプ133内を密封すれば、燃料取扱施設において純水を注入した際、当該ダミーパイプ133内に純水が侵入しないので、キャスク軽量化の効果がある。具体的には、キャスクの重量が制限されるのは、燃料収納後、キャスク内に水が入った状態でキャスクピットから吊り上げるとき、燃料取り出しの為に注水し、キャスクピットに吊り降ろすときであり、ダミーパイプ133内に純水が侵入しないことによって当該吊り上げ又は吊り降ろしのときのキャスク重量が小さくなることを意味する。
【0035】また、ダミーパイプ133の内部を密封することにより、内部に別の材料を充填することもできる。例えば内部にヘリウムガスを予め充填しておくことで、貯蔵の際のヘリウムガス導入作業を容易にできる。また、ヘリウムガスを封入することにより貯蔵時の熱伝導性を向上させることができる。なお、ヘリウムガスを導入する場合には、一方の蓋133aにバルブを設けるようにするのが好ましい。また、ガス導入後はバルブを封止するようにするのが好ましい。ヘリウムガスのほか、熱伝導性の高い気体或いは流体を封入することでキャスクの熱伝導性を高めることができる。また、ダミーパイプ133の内部に上記レジンを封入することもできる。このようにすれば、デッドスペースとなるダミーパイプ133の内部空間を有効利用して、中性子吸収性能を向上させることができる。
【0036】図6の(b)は、ダミーパイプの変形例を示す斜視図である。同図に示すように、ダミーパイプ134の断面形状が扇形になるようにしてもよい。この場合、キャビティ102のダミーパイプ対応部分が曲面になる(図示省略)。また、両側に蓋134aを溶接することで内部を密封し、この中にヘリウムガスやレジンを導入できるのは、図6の(a)に示したダミーパイプ133と同様である。
【0037】つぎに、ダミーパイプ133は、上記のように胴本体101の重量を軽減すると共に胴本体101の厚みを均一化することを目的とするから、必ずしも密封構造であることを要しない。このため、ダミーパイプ133の蓋133aを省略してもよいし、図7の(a)に示すような、断面がH字形状のダミー部材137に代替することもできる。また、図7の(b)に示すような、断面がN字形状のダミー部材138を用いることもできる。特に、断面がN字形状の場合は、弾性変形させて挿入することで、バスケット130を確実に固定することができる。なお、上記ダミーパイプ133は省略することもできる。」

オ 「【0046】図10は、上記キャスクの変形例を示す径方向断面図である。このキャスク200の胴本体201では、バスケット130の外周面が完全に当接するようにキャビティ202内を平面加工するのではなく、一部が当接して多少の空間Sa、Sbが残るように加工する。すなわち、キャビティ202内部が円筒形状をしたキャビティ202の12箇所に対し、バスケット130の一部が係合するような複数条の溝205を加工する。また、キャビティ202とバスケット130との間に形成される空間Sbには、当該空間Sbの形状に応じたダミーパイプを挿入する(図6の(b)に示したダミーパイプ134が好適である)。」

カ 図1及び図10の記載から、胴本体101の側面で、バスケット110の格子状断面の辺に対向する領域に設けられたトラニオン117が、見て取れる。
また、図10の記載から、バスケット110の格子状断面の対角線に平行で胴本体201の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたキャビティ202とバスケット130との間に形成される空間Sbの形状に応じたダミーパイプが、見て取れる。
さらに、図1、図10を見つつ、図6(b)を見れば、ダミーパイプ134は、2つの平板形状と1つの曲面形状を有し、断面形状が扇形であり、2つの平板形状と1つの曲面形状は胴本体201の軸方向に沿って延びていることが見て取れる。

キ したがって、甲1には、以下の発明が記載されている。
「胴本体では、キャビティ内部が円筒形状をしたキャビティに対し、バスケットの一部が係合するような複数条の溝を加工され、
使用済み燃料集合体をキャスク内に収容し、格子状断面を有するバスケットと、
バスケットの格子状断面の対角線に平行で胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたキャビティとバスケットとの間に形成される空間Sbには、当該空間Sbの形状に応じたダミーパイプを挿入され、
バスケットは、矩形の板状部材を直交して交互に積み上げて構成したものであり、
ダミーパイプの材料にはボロン入りアルミニウム合金を用い、ダミーパイプの内部に中性子遮蔽機能を有するレジンを封入し、ダミーパイプの内部空間を有効利用して、中性子吸収性能を向上させることができ、
胴本体の側面で、バスケットの格子状断面の辺に対向する領域に設けられたトラニオンが設けられ、
ダミーパイプは、2つの平板形状と1つの曲面形状を有し、断面形状が扇形であり、2つの平板形状と1つの曲面形状は胴本体の軸方向に沿って延びており、その両端は蓋によって閉じられているキャスク。」(以下「甲1発明」という。)

(2)甲2には、以下の記載がある。
ア 「【0043】
(実施の形態5)
図11は、この発明の実施の形態1に係るキャスクを示す軸方向断面図である。図12は、図11に示したキャスクの径方向断面図である。このキャスク500は、γ線を遮蔽する胴本体501と、胴本体501の周囲に配置した中性子遮蔽体502と、中性子遮蔽体502を収納する外筒503と、胴本体501のキャビティ504内に配置したバスケット505とから構成される。バスケット505は、複数の角パイプ506をキャビティ504内に収納した構成であり、原子力発電の燃料として用いたリサイクル燃料集合体を収納する複数のセル507を構成する。角パイプ506は、例えばアルミニウム材またはアルミニウム合金にボロン又はボロン化合物を添加した材料から構成される。ボロン添加は、アルミニウム母材と共に溶融しても良いし、アルミニウム粉末にボロン粉末を混合し、ミキサーによる混合またはメカニカルアロイングによる機械的合金化を施すようにしても良い。この角パイプ506は、ボロンアルミニウム合金のビレットをポートホールダイス等により押し出し成形される。」

イ 「【0046】
更に図12において点線で示すように、外容器509は軸方向に分割されており、各分割体509a同士をボルトや溶接により固定するようにすることもできる。この場合、内容器508の外側から外容器509の分割体509aを貼り付けるようにして固定できるので、内容器508の外容器509に対するシュリンクフィット作業の必要はない。このように、胴本体501を内容器508と外容器509から構成し、且つ内容器508にステンレス鋼等の耐食性を有し且つ密封機能を与え、その一方で外容器509には密封機能を与えず遮蔽機能を与え且つ安価な炭素鋼を用いることで、キャスク500を簡単かつ安価に製造できる。また、外容器509の強度と密閉性を高めるために、底板513を筒体512に突合せ溶接するとなお良い。突合せ溶接には、高周波誘導溶接、高周波抵抗溶接或いはフラッシュ溶接等を用いる。この溶接により筒体512と底板513との当接面の略全面で溶接が行われるので、外容器509の密封性を向上させ且つ機械的強度を向上させる。」

ウ 「【0048】
バスケット505を構成する角パイプ506と胴本体501のキャビティ504との間には、スペーサ516が介装されている。このスペーサ516は、リサイクル燃料集合体の崩壊熱を角パイプ506から胴本体501に効率的に伝熱させ得る。角パイプ506同士の結束は、外部で予めバンド等で結束してキャビティ504内に挿入しても良いし、前記スペーサ516を用いてキャビティ504内部で角パイプ506を拘束するようにしても良い。また、内容器508の内側に予めスペーサ516をスポット溶接しても良い。」

エ 図11及び図12の記載から、内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体501が、見て取れる。
図12の記載から、矩形空間が格子状に配列されてなる複数のセル507を有するバスケット505が、見て取れ、また、複数のセル507の矩形空間の対角線に平行でかつ胴本体501の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたバスケット505を構成する角パイプ506と胴本体501との間に介装されたスペーサ516が、見て取れる。
さらに、図12の記載から、スペーサ516は、2つの辺と1つの曲線により断面形状が扇形になっていることが見て取れる。そして、上記「2つの辺」は、図11及び図12の記載からみて、胴本体501の軸方向に沿って延びる平板形状であると解される。


オ したがって、甲2には、以下の発明が記載されている。
「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体501と、
胴本体501のキャビティ504内に配置したバスケット505とから構成され、
バスケット505は、複数の角パイプ506をキャビティ504内に収納した構成であり、原子力発電の燃料として用いたリサイクル燃料集合体を収納する矩形空間が格子状に配列されてなる複数のセル507を構成し、
複数のセル507の矩形空間の対角線に平行でかつ胴本体501の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたバスケット505を構成する角パイプ506と胴本体501との間にスペーサ516が介装され、
スペーサ516は、2つの辺と1つの曲線により断面形状が扇形になっており、当該2つの辺は胴本体501の軸方向に沿って延びる平板形状であり、内容器508の内側に予めスペーサ516をスポット溶接しているキャスク500。」(以下「甲2発明」という。)

(3)甲3には、以下の記載がある。
ア 「【0045】
(実施の形態1)
まず、この発明の前提となるキャスク及びキャニスタの概要について説明する。図1は、キャスクの概要を示す説明図である。キャスク200は、胴本体201と、胴本体201の外周に取り付けられた伝熱フィン207と、伝熱フィン207のもう一方の長辺側端部に取り付けられた外筒205とで構成される。胴本体201は、γ線遮蔽機能を発揮するのに十分な厚みを有している。十分なγ線遮蔽機能を発揮させるために、胴本体201の厚さは20?30cmとしている。」

イ 「【0047】
胴本体201の内部は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットが収納されるキャビティ201cとなる。このキャビティ201cに収納されるバスケットは本発明に係るバスケットであるが、その詳細については後述する。このキャビティ201cの軸方向(図中Zで示す方向)に垂直な断面内形状は円形であるが、キャスク200の仕様に応じてこの他にも八角形や略十字型・階段状等の断面内形状をもつキャビティも使用できる。キャビティ201c内にリサイクル燃料集合体を収納した後は、胴本体放射性物質の漏洩を防止するため、一次蓋及び二次蓋(図示せず)によって二重に密封する。密封性能を確保するため、一次蓋及び二次蓋と胴本体201との間には金属ガスケットを設けておく(図示省略)。」

ウ 「【0054】
図3(a)及び(b)に示すように、板状部材20の長辺側端部同士が組み合わされて、リサイクル燃料集合体を格納するセル10を構成する。また、
セル10の外周部にはスペーサ30a、30bが配置されている。そして、板状部材20の長手側端部と組み合わされて、板状部材20を支持することによって、セル10の形を一定に保つようになっている。また、二個のスペーサ30aと二枚の板状部材20とで囲まれる空間がセル10’を、スペーサ30a、スペーサ30b及び二枚の板状部材20で囲まれる空間がセル10’’を形成する。そして、セル10’及びセル10’’にもリサイクル燃料集合体が格納される。このように、このバスケット100では、スペーサ30a、30bによってもリサイクル燃料集合体を支持する。」

エ 「【0056】
なお、リサイクル燃料集合体格納用バスケット100の外周に設けられたスペーサ30a及び30bは、必ずしもB-Al材を使用する必要はない。リサイクル燃料集合体格納用バスケット100の最外周においては、リサイクル燃料集合体から放射される中性子によって、リサイクル燃料集合体が臨界に達するおそれはないからである。したがって、押し出し成形の容易な他の材料を使用してもよく、また、バスケット100の強度を向上させるためにB-Al材を使用してもよい。」

オ 「【0058】
図4は、バスケットの回転を防止する構造を示す説明図である。この発明の実施の形態1に係るバスケット100(図3参照)は、胴本体201のキャビティ201c内に板状部材20とスペーサ30a、30bを差込み、それぞれを拘束せずに配置する。このため、バスケット100全体が回転するおそれがある。これを防止するために、図4(a)、(b)に示すように、キャビティ201cの内壁に回転止め部材202を取り付ける。そして、この回転止め部材202を二個のスペーサ30bの間に配置して、これらと係合させることによりバスケット100の回転を防止する。なお、この回転止め部材202は、スペーサ30a(図3参照)同士の間に配置してもよい。このような構成により、バスケット100の回転を防止して、キャスク等の格納容器を輸送している最中においてもバスケット100をキャスク200等の格納容器に対して正しい位置に保持することができる。」

カ 「【0131】
(板状部材や角状パイプ等の製造法)
ここでは、上記板状部材や上記角状パイプの製造方法について説明する。なお、上記スペーサにB-Al材を使用する場合にも同じ製造方法が適用できる。図26は、この発明に係る板状部材の製造方法を示すフローチャートである。まず、アトマイズ法などの急冷凝固法によりAl又はAl合金粉末を作製するとともに(ステップS201)、B又はB化合物の粉末を用意する(ステップS202)。これら両粒子は、次に説明するMA(Mechanical Alloying:メカニカルアロイング)によって混合される(ステップS203)。なお、混合は、アルゴンに代表される不活性ガス雰囲気中で行うようにしてもよい。なお、Al又はAl合金にB又はB化合物を添加するのは、リサイクル燃料集合体格納用バスケット100等には格納したリサイクル燃料集合体が臨界に達することを防止する機能が必要だからである。
【0132】
ここで、天然ボロンには中性子の吸収に寄与するB^(10)と中性子の吸収には寄与しないB^(11)がある。したがって中性子吸収能を有するB^(10)を濃縮した濃縮ボロンを使用すると、同じボロンの添加量であれば天然ボロンをそのまま使用した場合と比較してB^(10)が多くなる分だけ中性子吸収能を高くできる。したがって濃縮ボロンを使用すると、同じ中性子吸収能であれば、天然ボロンをそのまま使用した場合よりも薄い肉厚の板状部材で済む。このため、濃縮ボロンを使用するとより薄い板厚で同じ中性子吸収能を持たせることができるので、リサイクル燃料集合体格納用バスケットを軽量化したい場合は濃縮ボロンを使用することが好ましい。一方、天然ボロンやB_(4)Cをそのまま使用した場合と同じ量の濃縮ボロンを添加すればそれだけ中性子吸収能を高くできるので、燃焼度の高いリサイクル燃料集合体を格納する場合でも臨界に対する安全性を十分に確保できる。
【0133】
前記Al又はAl合金には、純アルミニウム地金、Al-Cu系アルミニウム合金、Al-Mg系アルミニウム合金、Al-Mg-Si系アルミニウム合金、Al-Zn-Mg系アルミニウム合金、Al-Fe系アルミニウム合金などを用いることができる。また、前記B又はB化合物には、B_(4)C、B_(2)O_(3)などを用いることができる。ここで、アルミニウムに対するB_(4)Cを前提としたボロンの添加量は、1.5質量%以上、9質量%以下とするのが好ましい。1.5質量%以下では十分な中性子吸収能が得られず、9質量%より多くなると引っ張りに対する延びが低下するためである。さらに、加工性を向上させる観点からは、ボロンの添加量を7質量%以下にするのが好ましい。なお、濃縮ボロンを使用すれば、加工性を損なわずにより多くのB_(10)を添加できることは言うまでもない。
【0134】
B以外の中性子吸収材としては、ボロンの他にカドミウム、ハフニウム、希土類元素などの中性子吸収断面積の大きなものを用いることができる。希土類元素には、ユーロピウム、ディスプロシウム、サマリウム、ガドリニウムなどの酸化物を用いることができる。ここで、沸騰水型炉(BWR)の場合には、主にB又はB化合物が用いられるが、加圧水型炉(PWR)の場合には、Ag-In-Cd合金が用いられる。Ag-In-Cd合金の組成は、Inを15質量%、Cdを5質量%にするのが一般的である。」

キ 図1及び図3の記載から、内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体201が、見て取れる。
図3の記載から、バスケット100を構成する矩形空間が格子状に配列されてなるセル10が、見て取れ、また、セル10の対角線に平行でかつ胴本体201の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたセル10の外周部に配置されたスペーサ30aが、見て取れる。
さらに、図7の記載から、スペーサ30aは、2つの平板形状と1つの曲面形状を有し、当該2つの平板形状と1つの曲面形状は胴本体201の軸方向に沿って延びていることが見て取れる。


ク したがって、甲3には、以下の発明が記載されている。
「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体201と、
胴本体201の内部は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットが収納されるキャビティ201cとなり、このキャビティ201cに収納されるバスケットと、
板状部材20の長辺側端部同士が組み合わされて、リサイクル燃料集合体を格納し、バスケット100を構成する矩形空間が格子状に配列されてなるセル10とで構成され、
セル10の対角線に平行でかつ胴本体201の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたセル10の外周部にスペーサ30aが配置され、
スペーサ30aはB-Al材を使用し、Bは中性子吸収能を有するB^(10)を濃縮した濃縮ボロンを使用し、
スペーサ30aは2つの平板形状と1つの曲面形状を有し、当該2つの平板形状と1つの曲面形状は胴本体201の軸方向に沿って延びており、
回転止め部材202は、スペーサ30aに係合させ配置するキャスク200。」(以下「甲3発明」という。)

(4) 甲4には、以下の記載がある。
ア 「特許請求の範囲
1.放射性物質を収容する金属製の筒形の容器本体中に挿入されるバスケットであって、帯状の金属板を互いの交差部に形成した切欠部に嵌合させることにより格子状に組合せ、これを各段の格子目が合致するように複数段積重ねることにより各格子目を収納物用の区画とし、各段の金属板の外周端部付近の2箇所以上の交差部で、各段の交差部に沿うように連結部材が配置され、この連結部材と少なくとも最上段および最下段の金属板とを結合させることによって全体を一体化させてなることを特徴とする放射性物質の輸送兼貯蔵用容器のバスケット。」(特許請求の範囲)

イ 「第1図において、炭素鋼等の鍛造品からなる容器本体1は有底筒形に形成され、その開口部には本体と同材質の内蓋4が取付けられ、さらにその外側に外蓋(保護カバー)5が取付けられている。」(第2頁右上欄第2-5行)

ウ 「11は容器を運搬する際に取手として利用するトラニオンである。」(第2頁右上欄第11-12行)

エ 「容器本体内に収納されたバスケットは、第2図?第5図に示すように、ホウ素入りアルミニウムやホウ素入りステンレス鋼等により構成された帯状の板材からなる縦部材6と横部材8とが格子状に配置されて多数の燃料収納用の区画10が形成されている。」(第2頁左下欄第3-8行)

オ 「またバスケットの外周端部付近の区画10を形成させない部分(デッドスペース)の交差部で、各段の交差部に沿うように連結部材9を配置し、この連結部材9と各段の縦部材6および横部材8とをボルト90により結合させている。」(第2頁左下欄第17行-右上欄第1行)

カ 第1図及び第2図の記載から、容器本体1の側面で、縦部材6に対向する領域及び横部材8に対向する領域に設けられトラニオン11が、見て取れる。
また、第2図の記載から、縦部材6及び横部材8で形成される区画10の対角線に平行で容器本体1の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたバスケットの外周端部付近の区画10を形成させない部分(デッドスペース)の交差部で、各段の交差部に沿うように配置した連結部材9が、見て取れる。
さらに、第2図の記載から、連結部材9の断面が略L字形状であることが見て取れる。



キ したがって、甲4には、以下の発明が記載されている。
「容器本体1は有底筒形に形成され、
容器本体1内に収納されたバスケットは、帯状の板材からなる縦部材6と横部材8とが格子状に配置されて多数の燃料収納用の区画10が形成され、
縦部材6及び横部材8で形成される区画10の対角線に平行で容器本体1の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたバスケットの外周端部付近の区画10を形成させない部分(デッドスペース)の交差部で、各段の交差部に沿うように配置した連結部材9を配置し、
トラニオン11は、容器本体1の側面で、縦部材6に対向する領域及び横部材8に対向する領域に設けられ、
連結部材9の断面が略L字形状であり、この連結部材9と各段の縦部材6および横部材8とをボルト90により結合させている放射性物質の輸送兼貯蔵用容器。」(以下「甲4発明」という。)

(5)甲5には、以下の記載がある。
ア 「以上を要するに、使用済核燃料から放出されるガンマ線強度は燃焼度が高い程大きくなる。」(第2頁右下欄第3、4行)

イ 「なお、使用済核燃料からの中性子放出率は、燃焼度が進むにつれ指数関数に近い程急激に増大する。」(第2頁右下欄第17-19行)

ウ 「第1図、第2図は本発明による輸送容器内の使用済核燃料配置の例を示している。第1図においては、輸送容器1の中心部には4体の高燃焼度使用済核燃料2が正方形断面を呈する如くまとめて収納され、前記正方形の各辺にそれぞれ2体の低燃焼度使用済核燃料3が当接して収納されている。容器1内には水を充填するか、または水の充填を行わないタイプの容器にあっては、前記正方形の各辺に当接して配置した低燃焼度使用済核燃料間に形成される凹角に、断面直角二等辺三角形状の鉄水層等のガンマ線、中性子に対する遮蔽体4を配置する。」(第3頁右上欄第4-15行)

エ 第1図は、以下のとおりである。


オ したがって、甲5には、以下の技術的事項が記載されている。
「使用済核燃料から放出されるガンマ線強度は燃焼度が高い程大きくなり、使用済核燃料からの中性子放出率は、燃焼度が進むにつれ指数関数に近い程急激に増大し、
輸送容器1の中心部には4体の高燃焼度使用済核燃料2が正方形断面を呈する如くまとめて収納され、前記正方形の各辺にそれぞれ2体の低燃焼度使用済核燃料3が当接して収納され、
前記正方形の各辺に当接して配置した低燃焼度使用済核燃料間に形成される凹角に、断面直角二等辺三角形状の鉄水層等のガンマ線、中性子に対する遮蔽体4を配置する。」(以下「甲5技術的事項」という。)

(6) 甲6には、以下の記載がある。
ア 「【0033】
また、一次蓋23には、これを貫通してベント・ドレン孔33が形成されており、このベント・ドレン孔33にベント・ドレンプラグ34が嵌合して固定されており、ベント・ドレンプラグ34の上部にこれを被覆するプラグカバー35が固定されている。そして、キャビティ14の側部にはドレンパイプ36が上下方向に沿って配設されており、上端部がベント・ドレン孔33に接続する一方、下端部が胴本体12(キャビティ14)の底面近傍まで延出されている。」

イ 図4-6は、以下のとおりである


ウ したがって、甲6には、以下の技術的事項が記載されている。
「キャビティ14の側部にはドレンパイプ36が上下方向に沿って配設されており、上端部がベント・ドレン孔33に接続する一方、下端部が胴本体12(キャビティ14)の底面近傍まで延出されている。」(以下「甲6技術的事項」という。)

2 理由1(新規性)について
本件発明1、4-8について
(1)甲4発明の「『有底筒形に形成され』た『容器本体1』」は、本件発明1の「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体」に、
甲4発明の「『帯状の板材からなる縦部材6と横部材8とが格子状に配置されて多数の燃料収納用の区画10が形成され』た『容器本体1内に収納されたバスケット』」は、本件発明1の「前記胴本体に収容され、前記胴本体の横断面において、放射性物質を収容するための矩形空間が格子状に配列されてなる収容領域を有するバスケット」、本件発明5の「『前記横断面上において互いに交差するように組み合わされた複数の板状部材で構成され』た『バスケット』」に、
甲4発明の「『容器本体1の側面で、縦部材6に対向する領域及び横部材8に対向する領域に設けられている』『トラニオン11』」は、本件発明1の「前記胴本体の側面のうち、前記胴本体の周方向において前記放射線遮蔽部材と異なる位置に設けられたトラニオン」に、
甲4発明の「放射性物質の輸送兼貯蔵用容器」は、本件発明1の「放射性物質収納容器」に、
甲4発明の「縦部材6及び横部材8で形成される区画10の対角線に平行で容器本体1の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたバスケットの外周端部付近の区画10を形成させない部分(デッドスペース)の交差部で、各段の交差部に沿うように配置した連結部材9を配置し、トラニオン11は、容器本体1の側面で、縦部材6に対向する領域及び横部材8に対向する領域に設けられている」は、本件発明4の「前記胴本体の横断面において、前記横断面の中心点と前記トラニオンの中心とを結ぶ線と前記横断面の中心点と前記放射線遮蔽部材の配置位置とを結ぶ線との角度が10°以上である」に、
それぞれ相当する。

(2)甲4発明の連結部材9は、縦部材6および横部材8がホウ素入りアルミニウムやホウ素入りステンレス鋼により構成され、縦部材6および横部材8とにボルト90により結合しているものである。
そうすると、甲4発明の連結部材9は、ある程度の放射線遮蔽機能を有する金属材料の部材と考えるのが自然であることから、
甲4発明の「縦部材6及び横部材8で形成される区画10の対角線に平行で容器本体1の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたバスケットの外周端部付近の区画10を形成させない部分(デッドスペース)の交差部で、各段の交差部に沿うように配置した連結部材9」は、本件発明1の「前記バスケット及び前記胴本体間に形成された隙間に前記胴本体の軸方向に沿って延在し、前記矩形空間の対角線に平行でかつ前記胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を中心とした周方向領域に設けられた放射線遮蔽部材」、本件発明5の「『前記隙間のうち、前記複数の板状部材のうち前記収容領域より径方向外側に至るまで延在する延在部と前記胴本体の内側とによって規定される閉空間内に設けられている』『放射線遮蔽部材』」、本件発明6の「『前記閉空間を構成する壁面の少なくとも一部に沿って形成されている』『放射線遮蔽部材』」、本件発明7の「『前記横断面において前記閉空間のうち径方向内側に形成されている』『放射線遮蔽部材』」、本件発明8の「『前記バスケットに対向配置される少なくとも2つの板材で構成されている』『放射線遮蔽部材』」に、相当する。

(3)甲4発明の「縦部材6及び横部材8で形成される区画10の対角線に平行で容器本体1の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたバスケットの外周端部付近の区画10を形成させない部分(デッドスペース)の交差部で、各段の交差部に沿うように配置した連結部材9を配置し、」「連結部材9の断面がL字形状であり」によれば、甲4発明の「連結部材9」は、2つの平板形状を有することにより断面が略L字形状であり、容器本体1の中心軸を通る線の方向に沿って配置されているといえ、甲4発明の「この連結部材9と各段の縦部材6および横部材8とをボルト90により結合させている」によれば、甲4発明の「連結部材9」は「各段の縦部材6および横部材8」にボルト90によって取り付けられている(配置されている)といえるから、甲4発明の「ボルト90」は、本件発明1の「支持部材」に、相当する。
そうすると、甲4発明の「連結部材9の断面が略L字形状であり、この連結部材9と各段の縦部材6および横部材8とをボルト90により結合させているこの連結部材9と各段の縦部材6および横部材8とをボルト90により結合させている」は、本件発明1の「前記放射線遮蔽部材は、平板形状を有するとともに前記軸方向に沿って延在する少なくとも1つの遮蔽板、及び、前記少なくとも1つの遮蔽板を所望の位置へ配置する支持部材を有する」に、相当するといえる。

(4)したがって、本件発明1、4-8は甲4発明である。

3 理由2(進歩性)について
(1)甲1を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)甲1発明の「使用済み燃料集合体をキャスク内に収容し、格子状断面を有するバスケット」は、本件発明1の「前記胴本体に収容され、前記胴本体の横断面において、放射性物質を収容するための矩形空間が格子状に配列されてなる収容領域を有するバスケット」に、
甲1発明の「キャスク」は、本件発明1の「放射性物質収納容器」に、
それぞれ相当する。

(イ)甲1発明の「ダミーパイプ」は、「材料にはボロン入りアルミニウム合金を用い、ダミーパイプの内部に中性子遮蔽機能を有するレジンを封入し、ダミーパイプの内部空間を有効利用して、中性子吸収性能を向上させることができ」ることから、ボロンやレジンによって、放射線遮蔽機能を有することは明らかである。
そうすると、甲1発明の「『バスケットの格子状断面の対角線に平行で胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたキャビティとバスケットとの間に形成される空間Sbには、当該空間Sbの形状に応じたダミーパイプ』であって、『材料にはボロン入りアルミニウム合金を用い、ダミーパイプの内部に中性子遮蔽機能を有するレジンを封入し、ダミーパイプの内部空間を有効利用して、中性子吸収性能を向上させることができ』る『ダミーパイプ』」は、本件発明1の「前記バスケット及び前記胴本体間に形成された隙間に前記胴本体の軸方向に沿って延在し、前記矩形空間の対角線に平行でかつ前記胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を中心とした周方向領域に設けられた放射線遮蔽部材」に、相当する。

(ウ)甲1発明の「『キャビティ内部が円筒形状をしたキャビティに対し、バスケットの一部が係合するような複数条の溝を加工され』た『胴本体』」は、本件発明1の「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体」と、「内壁面の一部が円形断面である円筒形状を有する胴本体」である点で一致する。

(エ)甲1発明の「トラニオン」は、「胴本体の側面で、バスケットの格子状断面の辺に対向する領域に設けられ」ており、甲1発明の「ダミーパイプ」は、「バスケットの格子状断面の対角線に平行で胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたキャビティとバスケットとの間に形成される空間Sb」「の形状に応じた」配置である。当該配置状況から、甲1発明の「トラニオン」と甲1発明の「ダミーパイプ」は、胴本体の周方向で異なる位置に設けられていると解される。
そうすると、甲1発明の「胴本体の側面で、バスケットの格子状断面の辺に平行な方向の領域に設けられたキャスクを吊り下げるためのトラニオン」は、本件発明1の「前記胴本体の側面のうち、前記胴本体の周方向において前記放射線遮蔽部材と異なる位置に設けられたトラニオン」に相当する。

(オ)甲1発明の「平板形状」の部分は、本件発明1の「平板形状」に相当するから、甲1発明の「ダミーパイプは、2つの平板形状と1つの曲面形状を有し、断面形状が扇形であり、2つの平板形状と1つの曲面形状は胴本体201の軸方向に沿って延びており」は、本件発明1の「前記放射線遮蔽部材は、平板形状を有するとともに前記軸方向に沿って延在する少なくとも1つの遮蔽板」「を有する」に相当する。

(カ)したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「内壁面の一部が円形断面である円筒形状を有する胴本体と、
前記胴本体に収容され、前記胴本体の横断面において、放射性物質を収容するための矩形空間が格子状に配列されてなる収容領域を有するバスケットと、
前記バスケット及び前記胴本体間に形成された隙間に前記胴本体の軸方向に沿って延在し、前記矩形空間の対角線に平行でかつ前記胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を中心とした周方向領域に設けられた放射線遮蔽部材と、
前記胴本体の側面のうち、前記胴本体の周方向において前記放射線遮蔽部材と異なる位置に設けられたトラニオンと、
を備え、
前記放射線遮蔽部材は、平板形状を有するとともに前記軸方向に沿って延在する少なくとも1つの遮蔽板を有する放射性物質収納容器。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)胴本体の内壁面について、本件発明1は、円形断面である円筒形状であるのに対し、甲1発明は、キャビティ内部が円筒形状をしたキャビティに対し、バスケットの一部が係合するような複数条の溝を加工されたものである点。

(相違点2)放射線遮蔽部材について、本件発明1は、「少なくとも1つの遮蔽板を所望の位置へ配置する支持部材を有する」のに対し、甲1発明は、そのような支持部材を有しているのか明らかでない点。

(キ)相違点1についての検討
放射性物質収納容器に関する技術において、胴本体の内壁面が円形断面である円筒形状を有することは、甲2-4にも記載されているように周知技術にすぎない。
そうすると、甲1発明のキャビティ内部が円筒形状をしたキャビティにおいて、上記周知技術を考慮し、キャビティ内部を複数条の溝の加工を小さくするなどして略円形断面である円筒形状とすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

なお、本件発明1の「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体」との特定では、内壁面の全てが完全に円形断面である円筒形状を有する胴本体とまでは特定されておらず、内壁面が略円形断面である円筒形状を有する胴本体を含むと解すると、相違点1は、甲1発明との相違点にならない。

(ク)相違点2についての検討
甲1発明は「ダミーパイプは、」「その両端は蓋によって閉じられている」と特定されており、蓋は、ダミーパイプの両端を支持しているから、ダミーパイプの平板形状のものを所望の位置に配置しているといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違点とはならない。
仮に、上記蓋が支持部材に相当しないとしても、ダミーパイプと同様な位置に配置されるスペーサをボルトや回転止め部材等で支持することは、甲4や甲3等に記載されているように周知技術であることから、ダミーパイプを所望な位置へ配置する支持部材を設けるようになすことは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

イ 本件発明2、3について
本件発明2、3と甲1発明を比較すると、上記相違点1、2に加えて以下の点で相違する。
(相違点3)バスケットの収容領域について、本件発明2は、前記胴本体の内側に対向する位置に設けられ、第1の放射線量を有する放射性物質を収容するための第1の収容領域と、前記第1の収容領域より前記胴本体の径方向内側に設けられ、前記第1の放射線量より高い第2の放射線量を有する放射性物質を収容する第2の収容領域と、を有し、前記放射線遮蔽部材は、前記胴本体の周方向において、前記胴本体の内側と前記第2の収容領域との間の距離が最も小さくなる領域を含むように配置されているのに対し、甲1発明は、そのようなものか明らかでない点。

(相違点4)トラニオンについて、本件発明3は、前記胴本体の周方向において、前記距離が最も大きくなる領域を含むように配置されているのに対し、甲1発明は、そのようなものか明らかでない点。

甲5の技術的事項には「使用済核燃料から放出されるガンマ線強度は燃焼度が高い程大きくなり、使用済核燃料からの中性子放出率は、燃焼度が進むにつれ指数関数に近い程急激に増大」する旨記載されている。
そうすると、甲5の技術的事項の「『輸送容器1の中心部には4体の高燃焼度使用済核燃料2が正方形断面を呈する如くまとめて収納』する領域」は、本件発明2の「前記胴本体の内側に対向する位置に設けられ、第1の放射線量を有する放射性物質を収容するための第1の収容領域」に、
甲5の技術的事項の「『前記正方形の各辺にそれぞれ2体の低燃焼度使用済核燃料3が当接して収納され』る領域」は、本件発明2の「前記第1の収容領域より前記胴本体の径方向内側に設けられ、前記第1の放射線量より高い第2の放射線量を有する放射性物質を収容する第2の収容領域」に、
甲5の技術的事項の「前記正方形の各辺に当接して配置した低燃焼度使用済核燃料間に形成される凹角に、断面直角二等辺三角形状の鉄水層等のガンマ線、中性子に対する遮蔽体4を配置する」は、本件発明2の「前記放射線遮蔽部材は、前記胴本体の周方向において、前記胴本体の内側と前記第2の収容領域との間の距離が最も小さくなる領域を含むように配置されている」に、
それぞれ相当する。

甲1、甲5は、使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術なので、甲1発明に甲5の技術的事項を採用し、上記相違点3、4に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

また、甲1発明の「胴本体の側面で、バスケットの格子状断面の辺に対向する領域に設けられたトラニオンが設けられている」ことから、甲1発明に甲5の技術的事項を採用した場合には、胴本体の周方向において、胴本体の内側と高燃焼度使用済核燃料を収納する領域との距離が最も大きくなる領域を含むように配置されていることになると解される。

ウ 本件発明4について
甲1発明において「胴本体の側面で、バスケットの格子状断面の辺に対向する領域に設けられたトラニオン」、「バスケットの格子状断面の対角線に平行で胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたキャビティとバスケットとの間に形成される空間Sbには、当該空間Sbの形状に応じたダミーパイプを挿入」と特定されている。
そして、当該特定から、バスケットの格子状断面の辺に対向する領域とバスケットの格子状断面の対角線に平行な方向は、略45°異なる方向であることが理解できるので、胴本体の中心点とトラニオンの中心とを結ぶ線と胴本体の横断面の中心点とダミーパイプの配置位置とを結ぶ線との角度を、10°以上とすることは、甲1発明において満たしている。

エ 本件発明5-10、12について
甲1発明の「バスケットは、矩形の板状部材を直交して交互に積み上げて構成したものであり」は、本件発明5の「前記バスケットは、前記横断面上において互いに交差するように組み合わされた複数の板状部材で構成され」に相当する。そして、板状部材を空間に配する際にどのように配置するかは当業者が適宜設計しうる事項にすぎず、甲1発明には「キャビティとバスケットとの間に形成される空間Sbには、当該空間Sbの形状に応じたダミーパイプを挿入され」と特定されていることから、本件発明5-7に係る構成のようにすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。
また、甲1発明の「『ダミーパイプは、2つの平板形状』『を有し、』『2つの平板形状』『は胴本体の軸方向に沿って延びており』」は、本件発明8の「前記放射線遮蔽部材は、前記バスケットに対向配置される少なくとも2つの板材で構成されている」に相当することから、本件発明8に係る構成とすることは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。
そして、甲1発明には「キャビティとバスケットとの間に形成される空間Sbには、当該空間Sbの形状に応じたダミーパイプを挿入され」と特定され、甲1の【0033】-【0037】には、ダミーパイプは、角パイプ状、蓋によって閉じられている角パイプ状、断面形状が扇形、H字形状、N字形状と各種形状について記載されていることから、甲1発明の、ダミーパイプを、中空の構造体、または、蓋によって閉じられている角パイプ状などの各種形状にし、本件発明9、12に係る構成とすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。
さらに、甲1発明において、ダミーパイプを胴本体の内壁面にスポット溶接、ボルトや回転止め部材等で固定し、本件発明10に係る構成とすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。

オ 本件発明11について
甲1、甲6は、使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術であり、甲1のダミーパイプは角パイプ状が記載されていることから、甲1発明に甲6の技術的事項を採用し、ダミーパイプの内部に胴本体の上下方向に沿ってドレンパイプを配設することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

カ 本件発明13、14について
甲5には、遮蔽体として鉄水層についても記載され、甲1発明のダミーパイプの材料に鉄を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
また、甲1の【0024】には、胴本体として炭素鋼製が記載されていることから、ダミーパイプの材料に鉄を採用した場合には、甲1発明において、ダミーパイプは、胴本体より熱伝達率の大きな材料となると解される。

(2)甲2を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)甲2発明の「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体501」は、本件発明1の「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体」に、
甲2発明の「『胴本体501のキャビティ504内に配置したバスケット505』であって、『複数の角パイプ506をキャビティ504内に収納した構成であり、原子力発電の燃料として用いたリサイクル燃料集合体を収納する矩形空間が格子状に配列されてなる複数のセル507を構成し』ている『バスケット』」は、本件発明1の「前記胴本体に収容され、前記胴本体の横断面において、放射性物質を収容するための矩形空間が格子状に配列されてなる収容領域を有するバスケット」に、
甲2発明の「キャスク500」は、本件発明1の「放射性物質収納容器」に、
それぞれ相当する。

(イ)甲2発明のスペーサ516は、内容器508の内側にスポット溶接しても良いものであることから金属といえる。
そうすると、甲2発明のスペーサ516は、放射線遮蔽機能を有すると考えるのが自然であることから、甲2発明の「『複数のセル507の矩形空間の対角線に平行でかつ胴本体501の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたバスケット505を構成する角パイプ506と胴本体501との間に』『介装されている』『スペーサ516』」は、本件発明1の「前記バスケット及び前記胴本体間に形成された隙間に前記胴本体の軸方向に沿って延在し、前記矩形空間の対角線に平行でかつ前記胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を中心とした周方向領域に設けられた放射線遮蔽部材」に、相当する。

(ウ)甲2発明の「スペーサ516は、2つの辺と1つの曲線により断面形状が扇形になっており、当該2つの辺は胴本体501の軸方向に沿って延びる平板形状であり」は、甲2発明の「平板形状」の部分は、本件発明1の「平板形状」に相当するから、本件発明1の「前記放射線遮蔽部材は、平板形状を有するとともに前記軸方向に沿って延在する少なくとも1つの遮蔽板」「を有する」に相当する。

(エ)したがって、本件発明1と甲2発明とは、
「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体と、
前記胴本体に収容され、前記胴本体の横断面において、放射性物質を収容するための矩形空間が格子状に配列されてなる収容領域を有するバスケットと、
前記バスケット及び前記胴本体間に形成された隙間に前記胴本体の軸方向に沿って延在し、前記矩形空間の対角線に平行でかつ前記胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を中心とした周方向領域に設けられた放射線遮蔽部材と、
を備える放射性物質収納容器。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点5)本件発明1は、前記胴本体の側面のうち、前記胴本体の周方向において前記放射線遮蔽部材と異なる位置に設けられたトラニオンを備えるのに対し、甲2発明は、トラニオンを備えるかどうか明らかでない点。

(相違点6)放射線遮蔽部材について、本件発明1は、「前記少なくとも1つの遮蔽板を所望の位置へ配置する支持部材を有する」のに対し、甲2発明は、そのようなものか明らかでない点。

(オ)相違点5についての検討
使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術において、胴本体の側面で、バスケットの格子状断面の辺に対向する領域にトラニオンを設けることは、周知技術(必要ならば、甲1、周知技術1(特に、図2、図5参照。)、周知技術2(特に、図5参照。)を、参照されたい。)である。
そして、甲2発明に、周知技術を採用し、胴本体501の周方向においてスペーサ516と異なる位置にトラニオンを設けるようになすことは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。

(カ)相違点6についての検討
甲2発明は「内容器508の内側に予めスペーサ516をスポット溶接している」と特定されていることから、スペーサ516を所望に位置へ配置することも示唆されている。そして、スペーサをボルトや回転止め部材等で支持することは、甲4や甲3等に記載されているように周知技術であることから、スペーサ516を所望に位置へ配置する支持部材を設けるようになすことは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

イ 本件発明2、3について
本件発明2、3と甲2発明を比較すると、上記相違点5、6に加えて以下の点で相違する。
(相違点7)バスケットの収容領域について、本件発明2は、前記胴本体の内側に対向する位置に設けられ、第1の放射線量を有する放射性物質を収容するための第1の収容領域と、前記第1の収容領域より前記胴本体の径方向内側に設けられ、前記第1の放射線量より高い第2の放射線量を有する放射性物質を収容する第2の収容領域と、を有し、前記放射線遮蔽部材は、前記胴本体の周方向において、前記胴本体の内側と前記第2の収容領域との間の距離が最も小さくなる領域を含むように配置されているのに対し、甲2発明は、そのようなものか明らかでない点。
(相違点8)トラニオンについて、本件発明3は、前記胴本体の周方向において、前記距離が最も大きくなる領域を含むように配置されているのに対し、甲2発明は、そのようなものか明らかでない点。

甲5の技術的事項と本件発明2、3の相当関係については、上記(1)イで検討したとおりである。
甲2、甲5は、使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術なので、甲2発明に甲5の技術的事項を採用し、上記相違点7、8に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

ウ 本件発明4について
本件発明4の角度の限定については、スペーサ516と異なる位置にトラニオンを設けるに際し、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。
甲2発明に、上記ア(オ)で説示した周知技術を採用し、トラニオンとスペーサ516を、当該角度として配置することは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

エ 本件発明5-10、12について
甲4発明には「容器本体内に収納されたバスケットは、帯状の板材からなる縦部材6と横部材8とが格子状に配置されて多数の燃料収納用の区画10が形成され」と特定されている。
そうすると、甲2発明及び甲4発明は、共に使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術に関するものなので、甲2発明に甲4発明を適用して、矩形空間が格子状に配列されてなる複数のセル507を構成するバスケット505を胴本体501内に収容し、帯状の板材からなる縦部材と横部材とを格子状に配置して構成するようになし、スペーサ516を当該構成を考慮し配置し、上記(1)エで説示したように、本件発明5-7に係る構成とすることは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。
また、甲2発明の「スペーサ516は、2つの辺と1つの曲線により断面形状が扇形になっており、当該2つの辺は胴本体501の軸方向に沿って延びる平板形状であり」は、本件発明8の「前記放射線遮蔽部材は、前記バスケットに対向配置される少なくとも2つの板材で構成されている」に相当することから、本件発明8に係る構成とすることは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。
そして、甲2の【0048】には「内容器508の内側に予めスペーサ516をスポット溶接しても良い」と記載され、甲2発明のスペーサ516は、バスケット505を構成する角パイプ506と胴本体501との間に介装されていればよいので、スペーサ516を中空の構造体、または、中空空間が密閉された構成を有する形状にし、本件発明9、12に係る構成とすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。
さらに、甲2発明において、スペーサ516を胴本体501の内壁面にスポット溶接、ボルトや回転止め部材等で固定し、本件発明10に係る構成とすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。

オ 本件発明11について
甲2、甲6は、使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術であり、甲2発明に甲6の技術的事項を採用し、スペーサ516の内部に胴本体501の上下方向に沿ってドレンパイプを配設することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

カ 本件発明13、14について
甲5には、遮蔽体として鉄水層についても記載され、甲2発明のスペーサ516の材料に鉄を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
また、胴本体には炭素鋼を用いることも一般に知られているので、スペーサ516の材料に鉄を採用した場合には、甲2発明において、スペーサ516は、胴本体501より熱伝達率の大きな材料となると解される。

(3)甲3を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)甲3発明の「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体201」は、本件発明1の「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体」に、
甲3発明の「『胴本体201の内部は、リサイクル燃料集合体を格納するバスケットが収納されるキャビティ201cとなり、このキャビティ201cに収納されるバスケット』であり、『板状部材20の長辺側端部同士が組み合わされて、リサイクル燃料集合体を格納し、バスケット100を構成する矩形空間が格子状に配列されてなるセル10とで構成され』る『バスケット』」は、本件発明1の「前記胴本体に収容され、前記胴本体の横断面において、放射性物質を収容するための矩形空間が格子状に配列されてなる収容領域を有するバスケット」に、
甲3発明の「キャスク200」は、本件発明1の「放射性物質収納容器」に、
それぞれ相当する。

(イ)甲3発明の「スペーサ30a」は、「B-Al材を使用し、Bは中性子吸収能を有するB^(10)を濃縮した濃縮ボロンを使用」することから、B^(10)を濃縮した濃縮ボロンによって、放射線遮蔽機能を有することは明らかである。
そうすると、甲3発明の「『セル10の対角線に平行でかつ胴本体201の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたセル10の外周部にスペーサ30a』であって、『B-Al材を使用し、Bは中性子吸収能を有するB^(10)を濃縮した濃縮ボロンを使用』する『スペーサ30a』」は、本件発明1の「前記バスケット及び前記胴本体間に形成された隙間に前記胴本体の軸方向に沿って延在し、前記矩形空間の対角線に平行でかつ前記胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を中心とした周方向領域に設けられた放射線遮蔽部材」に、相当する。

(ウ)甲3発明の「『スペーサ30aは2つの平板形状』『を有し、当該2つの平板形状』『は胴本体201の軸方向に沿って延びており』」は、本件発明1の「『平板形状を有するとともに前記軸方向に沿って延在する少なくとも1つの遮蔽板』『を有する』」に、
甲3発明の「回転止め部材202は、スペーサ30aに係合させ配置する」によれば、甲3発明の「回転止め部材202」は「スペーサ30a」を所望の位置に配置されているといえるから、甲3発明の「回転止め部材202」は、本件発明1の「支持部材」に、相当するといえる。

(エ)したがって、本件発明1と甲3発明とは、
「内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体と、
前記胴本体に収容され、前記胴本体の横断面において、放射性物質を収容するための矩形空間が格子状に配列されてなる収容領域を有するバスケットと、
前記バスケット及び前記胴本体間に形成された隙間に前記胴本体の軸方向に沿って延在し、前記矩形空間の対角線に平行でかつ前記胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を中心とした周方向領域に設けられた放射線遮蔽部材と、
を備え、
前記放射線遮蔽部材は、平板形状を有するとともに前記軸方向に沿って延在する少なくとも1つの遮蔽板、及び、前記少なくとも1つの遮蔽板を所望の位置へ配置する支持部材を有する放射性物質収納容器。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点9)本件発明1は、前記胴本体の側面のうち、前記胴本体の周方向において前記放射線遮蔽部材と異なる位置に設けられたトラニオンを備えるのに対し、甲3発明は、トラニオンを備えるかどうか明らかでない点。

(オ)相違点9についての検討
使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術において、胴本体の側面で、バスケットの格子状断面の辺に対向する領域に設けられたトラニオンを設けることは、周知技術(必要ならば、甲1、周知技術1(特に、図2、図5参照。)、周知技術2(特に、図5参照。)を、参照されたい。)である。
そして、甲3発明に、周知技術を採用し、胴本体201の周方向においてスペーサ30aと異なる位置にトラニオンを設けるようになすことは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。

イ 本件発明2、3について
本件発明2、3と甲3発明を比較すると、上記相違点9に加えて以下の点で相違する。
(相違点10)バスケットの収容領域について、本件発明2は、前記胴本体の内側に対向する位置に設けられ、第1の放射線量を有する放射性物質を収容するための第1の収容領域と、前記第1の収容領域より前記胴本体の径方向内側に設けられ、前記第1の放射線量より高い第2の放射線量を有する放射性物質を収容する第2の収容領域と、を有し、前記放射線遮蔽部材は、前記胴本体の周方向において、前記胴本体の内側と前記第2の収容領域との間の距離が最も小さくなる領域を含むように配置されているのに対し、甲3発明は、そのようなものか明らかでない点。
(相違点11)トラニオンについて、本件発明3は、前記胴本体の周方向において、前記距離が最も大きくなる領域を含むように配置されているのに対し、甲3発明は、そのようなものか明らかでない点。

甲5の技術的事項と本件発明2、3の相当関係は、上記(1)イで検討したとおりである。
甲3、甲5は、使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術なので、甲3発明に甲5の技術的事項を採用し、上記相違点10、11に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

ウ 本件発明4について
本件発明4の角度の限定については、スペーサ30aと異なる位置にトラニオンを設けるに際し、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。
甲3発明に、上記ア(オ)で説示した周知技術を採用し、トラニオンとスペーサ30aを、当該角度として配置することは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

エ 本件発明5-10、12について
甲3発明の「板状部材20の長辺側端部同士が組み合わされて、リサイクル燃料集合体を格納し、バスケット100を構成する矩形空間が格子状に配列されてなるセル10とで構成され」は、本件発明5の「前記バスケットは、前記横断面上において互いに交差するように組み合わされた複数の板状部材で構成され」に相当し、甲3発明のスペーサ30aは、セル10の外周部に、セル10の対角線に平行でかつ胴本体201の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたセル10の外周部に配置されればよいので、上記(1)エで説示したように、本件発明5-7に係る構成とすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。
また、甲3発明の「『スペーサ30aは2つの平板形状』『を有し、当該2つの平板形状』『は胴本体201の軸方向に沿って延びており』」は、本件発明8の「前記放射線遮蔽部材は、前記バスケットに対向配置される少なくとも2つの板材で構成されている」に相当することから、本件発明8に係る構成とすることは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。
そして、甲3発明のスペーサ30aは、セル10の外周部に、セル10の対角線に平行でかつ胴本体201の中心軸を通る線と交差する領域を略中心としたセル10の外周部に配置されればよいので、スペーサ30aを中空の構造体、または、中空空間が密閉された構成を有する形状にし、本件発明9、12に係る構成とすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。
さらに、甲3発明において、スペーサ30aを胴本体201の内壁面に固定し、本件発明10に係る構成とすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。

オ 本件発明11について
甲3、甲6は、使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術であり、甲3発明に甲6の技術的事項を採用し、スペーサ30aの内部に胴本体201の上下方向に沿ってドレンパイプを配設することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

カ 本件発明13、14について
甲5には、遮蔽体として鉄水層についても記載され、甲3発明のスペーサ30aの材料に鉄を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
また、胴本体には炭素鋼を用いることも一般に知られているので、スペーサ30aの材料に鉄を採用した場合には、甲3発明において、スペーサ30aは、胴本体201より熱伝達率の大きな材料となると解される。

(4)甲4を主引用例とした場合
本件発明2、3と甲4発明を比較すると、以下の点で相違する。
ア 本件発明2、3について
(相違点12)バスケットの収容領域について、本件発明2は、前記胴本体の内側に対向する位置に設けられ、第1の放射線量を有する放射性物質を収容するための第1の収容領域と、前記第1の収容領域より前記胴本体の径方向内側に設けられ、前記第1の放射線量より高い第2の放射線量を有する放射性物質を収容する第2の収容領域と、を有し、前記放射線遮蔽部材は、前記胴本体の周方向において、前記胴本体の内側と前記第2の収容領域との間の距離が最も小さくなる領域を含むように配置されているのに対し、甲4発明は、そのようなものか明らかでない点。
(相違点13)トラニオンについて、本件発明3は、前記胴本体の周方向において、前記距離が最も大きくなる領域を含むように配置されているのに対し、甲4発明は、そのようなものか明らかでない点。

甲5の技術的事項と本件発明2、3の相当関係については、上記(1)イで検討したとおりである。
甲4、甲5は、使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術なので、甲4発明に甲5の技術的事項を採用し、上記相違点12、13に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

イ 本件発明9、10、12について
甲4発明の連結部材9は、バスケットの外周端部付近の区画10を形成させない部分(デッドスペース)の交差部で、各交差部に沿うように配置したものであればよいので、連結部材9を中空の構造体、または、中空空間が密閉された構成を有する形状にし、本件発明9、12に係る構成とすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。
また、連結部材9を配置するに際し、連結部材9を容器本体の内壁面にも固定し、本件発明10に係る構成とすることは、当業者が適宜設計する事項にすぎない。

ウ 本件発明11について
甲4、甲6は、使用済み核燃料を搬送、貯蔵する容器に関する技術であり、甲4発明に甲6の技術的事項を採用し、連結部材9の内部に容器本体1の上下方向に沿ってドレンパイプを配設することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

エ 本件発明13、14について
甲5には、遮蔽体として鉄水層についても記載され、甲4発明の連結部材9の材料に鉄を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
また、胴本体には炭素鋼を用いることも一般に知られているので、連結部材9の材料に鉄を採用した場合には、甲4発明において、連結部材9は、容器本体1より熱伝達率の大きな材料となると解される。

(5)特許権者の意見書での主張について
ア 特許権者は、令和3年3月4日に提出した意見書において、
「したがって甲1には、本件発明1の遮蔽板のように平板形状を有して軸方向に沿って延在する部材は開示されていない。また、甲1には、このように遮蔽板に相当する構成が開示されていないため、ましてや、遮蔽板を支持する支持部材についても開示されていない。」、
「甲2には、図12等のように閉断面を有するスペーサ516しか示されておらず、本件発明1のように、放射線遮蔽部材を構成する部材として平板形状を有する遮蔽板が含まれておらず、ましてや、遮蔽板を支持する支持部材についても開示がない。」、
「甲3には、図3等のように閉断面を有するスペーサ30aしか示されておらず、本件発明1のように、放射線遮蔽部材を構成する部材として平板形状を有する遮蔽板が含まれておらず、ましてや、遮蔽板を支持する支持部材についても開示がない。」、
「これに対して甲4発明では、連結部材9は上述のように略L字形状を有しているため、そもそも平板形状を有しておらず、また連結部材9を支持するための支持部材も備えていない。」
旨主張する。

イ 上記主張に対して、上記2(3)、3(1)ア(オ)及び(ク)、3(2)ア(ウ)及び(カ)、並びに3(3)ア(ウ)において説示したとおりである。
また、本件発明1を引用する本件発明9には「前記放射線遮蔽部材は、中空の構造体である」と記載され、本件発明1を引用する本件発明12には「前記放射線遮蔽部材は中空空間が密閉された構成を有する」と記載され、本件明細書の【0036】、【0037】の記載を見ると、本件においても複数の平坦な板材で構成され、内部が中空の横断面を有する放射線遮蔽部材が記載され、また、放射線遮蔽部材は、ボルト、固定具、又は上端に設けられた蓋の上面に設けられた固定具でも支持されるものが記載されていることから、甲1、甲3のような態様を排除しているとはいえない。

したがって、当該主張は採用できない。

第6 小括
本件発明1、4?8は、甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1、4?8に係る特許は取り消すべきものである。
本件発明1は、甲1に記載された発明及び周知技術、
甲2に記載された発明及び周知技術、
又は、甲3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明2、3は、甲1に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
甲2に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
甲3に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
又は、甲4に記載された発明及び甲5の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明4は、甲1に記載された発明及び周知技術、
甲2に記載された発明及び周知技術、
又は、甲3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明5-8は、甲1に記載された発明及び周知技術、
甲2に記載された発明、甲4に記載された発明及び周知技術、
又は、甲3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明9、10、12は、甲1に記載された発明及び周知技術、
甲2に記載された発明及び周知技術、
甲3に記載された発明及び周知技術、
又は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明11は、甲1に記載された発明、甲6の技術的事項及び周知技術、
甲2に記載された発明、甲6の技術的事項及び周知技術、
甲3に記載された発明、甲6の技術的事項及び周知技術、
又は、甲4に記載された発明及び甲6の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明13、14は、甲1に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
甲2に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
甲3に記載された発明、甲5の技術的事項及び周知技術、
又は、甲4に記載された発明及び甲5の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1、4?8は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件特許の請求項1?14は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明の請求項1?14に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁面が円形断面である円筒形状を有する胴本体と、
前記胴本体に収容され、前記胴本体の横断面において、放射性物質を収容するための矩形空間が格子状に配列されてなる収容領域を有するバスケットと、
前記バスケット及び前記胴本体間に形成された隙間に前記胴本体の軸方向に沿って延在し、前記矩形空間の対角線に平行でかつ前記胴本体の中心軸を通る線と交差する領域を中心とした周方向領域に設けられた放射線遮蔽部材と、
前記胴本体の側面のうち、前記胴本体の周方向において前記放射線遮蔽部材と異なる位置に設けられたトラニオンと、
を備え、
前記放射線遮蔽部材は、平板形状を有するとともに前記軸方向に沿って延在する少なくとも1つの遮蔽板、及び、前記少なくとも1つの遮蔽板を所望の位置へ配置する支持部材を有することを特徴とする放射性物質収納容器。
【請求項2】
前記収容領域は、
前記胴本体の内側に対向する位置に設けられ、第1の放射線量を有する放射性物質を収容するための第1の収容領域と、
前記第1の収容領域より前記胴本体の径方向内側に設けられ、前記第1の放射線量より高い第2の放射線量を有する放射性物質を収容する第2の収容領域と、
を有し、
前記放射線遮蔽部材は、前記胴本体の周方向において、前記胴本体の内側と前記第2の収容領域との間の距離が最も小さくなる領域を含むように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の放射性物質収納容器。
【請求項3】
前記トラニオンは、前記胴本体の周方向において、前記距離が最も大きくなる領域を含むように配置されていることを特徴とする請求項2に記載の放射性物質収納容器。
【請求項4】
前記胴本体の横断面において、前記横断面の中心点と前記トラニオンの中心とを結ぶ線と前記横断面の中心点と前記放射線遮蔽部材の配置位置とを結ぶ線との角度が10°以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項5】
前記バスケットは、前記横断面上において互いに交差するように組み合わされた複数の板状部材で構成され、
前記放射線遮蔽部材は、前記隙間のうち、前記複数の板状部材のうち前記収容領域より径方向外側に至るまで延在する延在部と前記胴本体の内側とによって規定される閉空間内に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項6】
前記放射線遮蔽部材は、前記閉空間を構成する壁面の少なくとも一部に沿って形成されていることを特徴とする請求項5に記載の放射性物質収納容器。
【請求項7】
前記放射線遮蔽部材は、前記横断面において前記閉空間のうち径方向内側に形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の放射性物質収納容器。
【請求項8】
前記放射線遮蔽部材は、前記バスケットに対向配置される少なくとも2つの板材で構成されていることを特徴とする請求項7に記載の放射性物質収納容器。
【請求項9】
前記放射線遮蔽部材は、中空の構造体であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項10】
前記放射線遮蔽部材は、前記胴本体の内壁面に固定されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項11】
前記放射線遮蔽部材の内部に前記胴本体の軸方向に配置されたドレン流路をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項12】
前記放射線遮蔽部材は中空空間が密閉された構成を有することを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項13】
前記放射線遮蔽部材は7000kg/m^(3)以上の密度を有する材料で構成されることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
【請求項14】
前記放射線遮蔽部材は前記胴本体より熱伝達率が大きい材料で構成されることを特徴とする請求項1乃至13の何れか1項に記載の放射性物質収納容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-18 
出願番号 特願2015-255427(P2015-255427)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (G21F)
P 1 651・ 113- ZAA (G21F)
P 1 651・ 851- ZAA (G21F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鳥居 祐樹  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 松川 直樹
野村 伸雄
登録日 2019-10-04 
登録番号 特許第6595333号(P6595333)
権利者 三菱重工業株式会社
発明の名称 放射性物質収納容器  
代理人 誠真IP特許業務法人  
代理人 誠真IP特許業務法人  

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