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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特29条の2  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1378754
異議申立番号 異議2021-700478  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-20 
確定日 2021-10-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6789495号発明「アンダーフィル用樹脂組成物、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6789495号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6789495号(請求項の数11。以下、「本件特許」という。)は、平成27年10月7日の出願であって、令和2年11月6日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年11月25日である。)。
その後、令和3年5月20日に、本件特許の請求項1?11に係る特許に対して、特許異議申立人である野口昌徳(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 特許請求の範囲の記載
特許第6789495号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?11に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?11に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明11」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン化合物、(C)無機充填材及び(D)有機リン化合物を含有してなり、前記(A)エポキシ樹脂がビスフェノール型エポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂を含有し、前記(D)有機リン化合物がホスフィン化合物を含有するアンダーフィル用樹脂組成物であって、
前記ホスフィン化合物が、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン及びアルキルジアリールホスフィンからなる群から選ばれる1種以上であり、且つ前記ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノール型エポキシ樹脂:グリシジルアミン型エポキシ樹脂)が60:40?95:5である、アンダーフィル用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂が、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含有する、請求項1に記載のアンダーフィル用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂と前記ビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂との質量比(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂:ビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂)が5:95?50:50である、請求項2に記載のアンダーフィル用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)芳香族アミン化合物が1分子中に第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群から選ばれる1種以上を2個以上含む化合物である、請求項1?3のいずれか1項に記載のアンダーフィル用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)芳香族アミン化合物が、ジエチルトルエンジアミン、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン及びジメチルチオトルエンジアミンからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1?4のいずれか1項に記載のアンダーフィル用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)無機充填材の含有量が、アンダーフィル用樹脂組成物全量に対して40?80質量%である、請求項1?5のいずれか1項に記載のアンダーフィル用樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)無機充填材の含有量が、アンダーフィル用樹脂組成物全量に対して60?75質量%である、請求項1?6のいずれか1項に記載のアンダーフィル用樹脂組成物。
【請求項8】
前記(D)有機リン化合物の含有量が、(C)無機充填材に対して0.001?10質量%である、請求項1?7のいずれか1項に記載のアンダーフィル用樹脂組成物。
【請求項9】
E型粘度計により、110℃、せん断速度32.5s^(-1)の条件にて測定した粘度が0.01?0.25Pa・sである、請求項1?8のいずれか1項に記載のアンダーフィル用樹脂組成物。
【請求項10】
支持部材と、前記支持部材上に配置された電子部品と、前記支持部材と前記電子部品との接続部の少なくとも一部を封止している請求項1?9のいずれか1項に記載のアンダーフィル用樹脂組成物の硬化物と、を含む電子部品装置。
【請求項11】
支持部材と電子部品とが接続部を介して電気的に接続された電子部品装置の製造方法であって、前記接続部の少なくとも一部を、請求項1?9のいずれか1項に記載のアンダーフィル用樹脂組成物を用いて封止する工程を含む、電子部品装置の製造方法。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
申立人がした申立ての理由の概要及び証拠方法は、以下に示すとおりである。
1 申立理由の概要
(1)申立理由1
本件発明1?4、6?8は、本件出願日前に頒布された以下の刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件発明1?4、6?8に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由2
本件発明1?11は、本件出願日前に頒布された以下の刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?11に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由3
本件発明1?11は、本件特許の出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた下記の特許出願又は実用新案登録出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許又は実用新案登録出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?11に係る特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

特願2014-101923号
以下の刊行物である甲第8号証は、上記の出願(「先願」という。)の公開公報であり、当該公報には、先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲の内容(「先願明細書等」という。)が記載されている。

(4)申立理由4
本件明細書の発明の詳細な説明は、概略、下記の点で当業者が本件発明1?11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?11に係る特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

理由の概略は、下記「第4 3(3)イ?エ」を参照。

(5)申立理由5
本件の特許請求の範囲の請求項1?11の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、概略、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?11に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

理由の概略は、下記「第4 3(3)ア?エ」を参照。

(6)申立理由6
本件の特許請求の範囲の請求項1?11の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、概略、下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。
よって、本件発明1?11に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

理由の概略は、下記「第4 3(3)ア?ウ」を参照。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2007-31556号公報
甲第2号証:日本化薬株式会社 Epoxy Resins Reactive Flame Retardants Hardeners Thermosetting Resins 第13版、2016年3月発行
甲第3号証:特開2014-19823号公報
甲第4号証:特開2015-108155号公報
甲第5号証:特開2011-231137号公報
甲第6号証:特開2013-71941号公報
甲第7号証:特開2013-185106号公報
甲第8号証:特開2015-218229号公報
甲第9号証:特開2007-182561号公報
甲第10号証:特開2015-134928号公報
甲第11号証:特開2013-64152号公報
甲第12号証:特開2014-237837号公報
甲第13号証:特開2011-79973号公報
甲第14号証:特開2013-163747号公報
甲第15号証:友井正男著、熱硬化性樹脂の基礎、エレクトロニクス実装学会誌、Vol. 4 No.6(2001)、第537?542頁
以下、「甲第1号証」?「甲第15号証」を「甲1」?「甲15」という。

第4 特許異議申立ての理由についての当審の判断
1 申立理由1及び2について
(1)各甲号証の記載
ア 甲1
甲1には以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂として、下記式(A)で示される骨格を有する常温で液体のエポキシ樹脂と平均エポキシ当量が400?1200である常温で液体のエポキシ樹脂のうち、少なくとも一方のエポキシ樹脂を用いると共に、硬化剤として、常温で液体の芳香族アミン硬化剤を用いて成ることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】

・・・
【請求項4】
エポキシ樹脂組成物全量に対して無機充填材を40?80質量%含有して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
・・・
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を用いて封止成形して成ることを特徴とする半導体装置。」

(1b)「【0001】
本発明は、半導体素子等を封止するのに用いられるエポキシ樹脂組成物及びこの組成物で半導体素子等を封止することによって得られる半導体装置に関するものである。」

(1c)「【0023】
上記のエポキシ樹脂のほか、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等のエポキシ樹脂を1種又は2種以上併用することができる。中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、下記官能基を有するエポキシ樹脂(アミノ型エポキシ樹脂)が、組成物の粘度と硬化物の物性の点から、好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
また、本発明において硬化剤としては、常温で液体の芳香族アミン硬化剤を用いるものである。このような硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジエチルトルエンジアミン、芳香族ポリアミン、下記化学式で示されるもの等を用いることができる。特にジアミノジフェニルメタンを用いるのが好ましく、これにより、その他の硬化剤を用いる場合に比べて耐湿性を高めることができるものである。
【0026】
【化3】



(1d)「【0028】
また、本発明において硬化促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、トリアゾール類若しくはその塩、イミダゾール類若しくはその塩、ジアザビシクロアルケン類若しくはその塩、トリフェニルホスフィン等のリン系硬化促進剤等を1種又は2種以上用いることができる。特にイミダゾール系硬化促進剤(イミダゾール骨格を有する化合物)を用いるのが好ましく、これにより、硬化性に優れた組成物を得ることができるものである。また、イミダゾール骨格を有する化合物からなる核の表面を熱硬化性樹脂の被膜で被覆した微細球(いわゆるマイクロカプセル)やアミンアダクト粒子を用いるのも好ましい。
【0029】
また、本発明においては無機充填材(フィラー)を用いることができる。無機充填材としては、特に限定されるものではないが、例えば、結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、微粉シリカ、マグネシア、窒化珪素等を用いることができる。
【0030】
ここで、エポキシ樹脂組成物全量に対して無機充填材を40?80質量%含有するのが好ましい。これにより、組成物の粘度が高くならず、封止成形を容易に行うことができると共に、封止成形後においては硬化物の線膨張係数を低減することができるものである。しかしながら、無機充填材の含有量が40質量%未満であると、線膨張係数を低減することが難しくなるおそれがあり、逆に、無機充填材の含有量が80質量%を超えると、組成物の粘度が高くなり、実際に使用するのが困難となるおそれがある。」

(1e)「【0040】
また、本発明に係る半導体装置は、上記のエポキシ樹脂組成物を用いて封止成形することによって、製造することができる。例えば、ガラス・エポキシ配線基板(ガラエポ基板)に搭載されたICチップ等の半導体素子をエポキシ樹脂組成物でポッティング方式によりモールドすることによって、半導体素子をエポキシ樹脂組成物による封止樹脂で封止した半導体装置を製造することができる。」

(1f)「【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0043】
(エポキシ樹脂組成物)
エポキシ樹脂として、上記式(A)で示される骨格を有する常温で液体のエポキシ樹脂(旭電化工業(株)製「EPU78-13S」)、高分子量エポキシA(大日本インキ化学工業(株)製「EXA4850-150」、エポキシ当量450)、高分子量エポキシB(大日本インキ化学工業(株)製「EXA4850-1000」、エポキシ当量1000)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828」、エポキシ当量189)、アミノ型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「GOT-H」)を用いた。
【0044】
硬化剤として、ジエチルトルエンジアミン(旭電化工業(株)製)、ジアミノジフェニルメタン(日本化薬(株)製「カヤハードA-A」)、芳香族ポリアミン(ジャパンエポキシレジン(株)製「W」)を用いた。
【0045】
硬化促進剤として、イミダゾール系マイクロカプセル型潜在性触媒(旭エポキシ(株)製「HX3941HP」)、トリフェニルホスフィン(北興化学工業(株)製「TPP」)、1-ベンジル-2-メチルイミダゾールを用いた。
【0046】
添加剤であるイオントラップ剤として、東亜合成(株)製「IXE700F」を用いた。
【0047】
カップリング剤として、エポキシシランカップリング剤(日本ユニカー(株)製「A-187」)を用いた。
【0048】
無機充填材として、溶融シリカ((株)トクヤマ製「SE15」、平均粒径15μm)を用いた。
【0049】
そして、上記のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、イオントラップ剤、カップリング剤を下記[表1]に示す配合量(質量部)で配合し、撹拌、溶解、混合、分散を行った。次に、この混合物に上記の無機充填材を下記[表1]に示す配合量(質量部)で加えて、再度、撹拌、溶解、混合、分散を行うことによって、実施例1?14及び比較例1のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0050】
(評価用パッケージ)
評価用のアルミ回路を形成した3mm角のチップを、FR4グレード相当のガラエポ基板(50mm×50mm、厚さt=0.6mm)に搭載し、25μmの金線ワイヤーをボンディングすることによって、TEG(テストエレメントグループ)を作製した。次いで、上記のエポキシ樹脂組成物を1.5?3g程度用いてチップ及び金線ワイヤーが見えなくなるようにTEGを封止し、100℃で1時間硬化させた後に、さらに150℃で2時間硬化させることによって、評価用パッケージを得た。
・・・
【0054】
【表1】

【0055】
上記[表1]にみられるように、比較例1のものは、樹脂クラックの判定は「○」であるものの、デバイス動作不良判定及びPCT試験の結果がいずれも「×」であるのに対し、実施例1?14のものは、温度サイクル試験及びPCT試験の結果はいずれも「○」又は「△」であり、耐熱衝撃性及び耐湿性を共に高く得ることができることが確認される。」

イ 甲2
甲2には以下の事項が記載されている。
(2a)
「エポキシ樹脂
液状エポキシ樹脂
商品名 構造
・・・

」(第12頁上段)

ウ 甲7
甲7には以下の事項が記載されている。
(7a)「【0002】
近年、樹脂封止型半導体装置は、高密度化、高集積化、および動作の高速化の傾向にあり、パッケージ形態はピン挿入型から表面実装型に移行するとともに小型、薄型化が積極的に行われてきた。
【0003】
しかし樹脂封止型半導体装置は、半導体チップのサイズに比べてパッケージの外形がかなり大きく、高密度実装の観点からは非効率である。そのため、従来型のパッケージよりもさらに小型化、薄型化できる半導体チップのパッケージが要求されている。
【0004】
そこで最近では、パッケージ用基板に半導体チップを搭載する方法として、実装効率のほか電気特性、多ピン化対応に優れるフリップチップ実装の採用が増えている。
【0005】
フリップチップ実装では、半導体チップの外部接続用パッドにバンプ電極を直接形成し、このバンプ電極を用いて回路基板にフェースダウンで接続、搭載する。そして半導体チップと回路基板との隙間には封止材料としてアンダーフィルが充填される。
【0006】
アンダーフィルは、バンプを保護し、半導体チップと回路基板との熱膨張率の差異により発生するはんだ接合部の応力を緩和し、耐湿性、気密性を確保するなどの機能を有している。
【0007】
フリップチップ実装に用いられる封止材料としては、常温で液状のエポキシ樹脂を主剤とし、これに硬化剤、無機充填剤などを配合した液状のエポキシ樹脂組成物が代表的なものとして用いられている(特許文献1、2)。」

エ 甲13
(13a)「【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高性能化に伴い、より多ピン化・高速化が可能なBGA(ボールグリッドアレイ)やCSP(チップサイズパッケージ)のエリア実装パッケージが広く用いられようになってきており、これらのパッケージ構造は、回路を形成した有機基板の片面上に半導体素子を搭載し、その素子搭載面、即ち基板の片面のみが封止樹脂組成物で成形、封止されている。また、基板の半導体素子搭載面の反対面には半田ボールを2次元的に並列して形成し、パッケージを実装する回路基板との接合を行う特徴を有している。また近年、更なる高密度実装に対応するパッケージとしてSiP(システムインパッケージ)やPoP(パッケージオンパッケージ)といった3次元実装パッケージが種々考案されている。PoPは、基板上の半導体素子搭載面と非搭載面の両側に接続端子を有したBGAやCSPを高さ方向に接続させ、平面的な実装から3次元的な実装を可能としている。(図1参照)
【0003】
このようなパッケージにおける半導体素子は、主に固形の封止樹脂組成物を用いたトランスファー成型により封止されるが、ゲートと呼ばれる注入口から樹脂を射出成型するため、ゲート付近で薄型半導体素子にダメージが発生したり、樹脂の流入時に、接続ワイヤーを押し流してワイヤー同士が接触したりするという不具合が問題とされている。一方、封止用液状樹脂組成物を用いたコンプレッション成型では、半導体素子上にあらかじめ封止用液状樹脂組成物を塗布し加圧成型させるため、射出成型のような半導体素子へのダメージやワイヤー同士の接触の不具合を低減させたりすることができる。また、封止用液状樹脂組成物は流動性に優れるため、狭い封止領域を封止することも可能となり、薄型パッケージの分野、特に図1の封止材2に適用される封止樹脂組成物には、封止用液状樹脂組成物を用いたコンプレッション成型方式が適用され始めている。」

(2)甲1に記載された発明
甲1には、概略、その特許請求の範囲の請求項1に、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂として、式(A)(式の記載は省略する。)で示される常温で液体のエポキシ樹脂と平均エポキシ当量が400?1200である常温で液体のエポキシ樹脂のうち、少なくとも一方のエポキシ樹脂を用いると共に、硬化剤として、常温で液体の芳香族アミン硬化剤を用いるエポキシ樹脂組成物が記載され、請求項4に、無機充填材を含有すること、請求項7に、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物を用いて封止成形した半導体装置が記載され(摘記(1a))、その具体例として、実施例13に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828」、エポキシ当量189)を50.0質量部、アミノ型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「GOT-H」)を50.0質量部、式(A)で示される骨格を有する常温で液体のエポキシ樹脂(旭電化工業(株)製「EPU78-13S」)を100.0質量部、硬化剤として、ジアミノジフェニルメタン(日本化薬(株)製「カヤハードA-A」)を69.0質量部、イオントラップ剤として、東亜合成(株)製「IXE700F」を20.0質量部、硬化促進剤として、トリフェニルホスフィン(北興化学工業(株)製「TPP」)を3.0質量部及び1-ベンジル-2-メチルイミダゾールを3.0質量部、エポキシシランカップリング剤(日本ユニカー(株)製「A-187」)を5.0質量部、溶融シリカ((株)トクヤマ製「SE15」、平均粒径15μm)を700.0質量部からなるエポキシ樹脂組成物が記載されている(摘記(1f))。

そうすると、甲1には、実施例13に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828」、エポキシ当量189)を50.0質量部、アミノ型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「GOT-H」)を50.0質量部、式(A)で示される骨格を有する常温で液体のエポキシ樹脂(旭電化工業(株)製「EPU78-13S」)を100.0質量部、硬化剤として、ジアミノジフェニルメタン(日本化薬(株)製「カヤハードA-A」)を69.0質量部、イオントラップ剤として、東亜合成(株)製「IXE700F」を20.0質量部、硬化促進剤として、トリフェニルホスフィン(北興化学工業(株)製「TPP」)を3.0質量部及び1-ベンジル-2-メチルイミダゾールを3.0質量部、エポキシシランカップリング剤(日本ユニカー(株)製「A-187」)を5.0質量部、溶融シリカ((株)トクヤマ製「SE15」、平均粒径15μm)を700.0質量部からなるエポキシ樹脂組成物」(以下「甲1発明」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「式(A)で示される骨格を有する常温で液体のエポキシ樹脂(旭電化工業(株)製「EPU78-13S」)」は、繰り返し単位にビスフェノール単位を含むことは明らかであるから、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」のうち「ビスフェノール型エポキシ樹脂」に相当し、また、甲1発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828」、エポキシ当量189)」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」のうち「ビスフェノール型エポキシ樹脂」に相当することは明らかである。
甲1発明の「アミノ型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「GOT-H」)」は、甲1の段落【0023】によると、下記の2つのグリシジル基が置換したアミノ基を分子中に有するものと記載されている。

また、甲2は、日本化薬株式会社が作成したエポキシ樹脂のパンフレットであるが、甲2においても、「GOT」と称する商品名のものは、2つのグリシジル基が置換したアミノ基を含むエポキシ樹脂であることが記載されている。
そうすると、甲1及び甲2の記載からすれば、甲1発明の「アミノ型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「GOT-H」)」は、2つのグリシジル基が置換したアミノ基を分子中に有するものと認められるから、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」のうち「グリシジルアミン型エポキシ樹脂」に相当する。
そして、甲1発明では、「式(A)で示される骨格を有する常温で液体のエポキシ樹脂(旭電化工業(株)製「EPU78-13S」)」を50.0質量部、及び「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828」、エポキシ当量189)」を100.0質量部含み、また、「アミノ型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「GOT-H」)」を50.0質量部含むから、ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂との質量比は、75:25であり、これは、本件発明1の「ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノール型エポキシ樹脂:グリシジルアミン型エポキシ樹脂)が60:40?95:5である」に相当する。
甲1発明の硬化剤としての「ジアミノジフェニルメタン(日本化薬(株)製「カヤハードA-A」)」は、本件発明1の「(B)芳香族アミン化合物」に相当することは明らかである。
甲1発明の「溶融シリカ((株)トクヤマ製「SE15」、平均粒径15μm)」は、本件発明1の「(C)無機充填材」に相当する。
甲1発明の硬化促進剤としての「トリフェニルホスフィン(北興化学工業(株)製「TPP」)」は、本件発明1の「(D)有機リン化合物」であって「(D)有機リン化合物がホスフィン化合物」であり「ホスフィン化合物」が、「トリフェニルホスフィン」からなるに相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とでは、
「(A)エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン化合物、(C)無機充填材及び(D)有機リン化合物を含有してなり、前記(A)エポキシ樹脂がビスフェノール型エポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂を含有し、前記(D)有機リン化合物がホスフィン化合物を含有する樹脂組成物であって、
前記ホスフィン化合物が、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン及びアルキルジアリールホスフィンからなる群から選ばれる1種以上であり、且つ前記ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノール型エポキシ樹脂:グリシジルアミン型エポキシ樹脂)が60:40?95:5である、樹脂組成物」で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)樹脂組成物が、本件発明1では、アンダーフィル用であるのに対し、甲1発明では用途が明らかでない点

(イ)判断
甲1には、エポキシ樹脂組成物の用途に関し、特許請求の範囲の請求項7に、エポキシ樹脂組成物を用いて封止成形して成る半導体装置が記載され(摘記(1a))、具体的には、段落【0040】に、ガラス・エポキシ配線基板(ガラエポ基板)に搭載されたICチップ等の半導体素子をエポキシ樹脂組成物でポッティング方式によりモールドすることによって、半導体素子をエポキシ樹脂組成物による封止樹脂で封止した半導体装置を製造することが記載され(摘記(1e))、そして、同【0050】には、実施例において、概略、評価用のチップをガラエポ基板に搭載し、金線ワイヤーをボンディングしTEGを作製し、チップ及び金線ワイヤーが見えなくなるようにTEGを封止し、硬化させ評価用パッケージを製造すること、この評価用パッケージを用いて各種試験を行い、物性を評価したことが記載されている(摘記(1f))。
ここで、本件出願日当時、エポキシ樹脂組成物を半導体装置の封止材に用いるに当たり、具体的な方法や用途について検討すると、甲1に記載されるように、ガラエポ基板に搭載したチップにエポキシ樹脂組成物をポッティングしモールドして封止成形する方法や、甲7に記載されるように、フリップチップ実装されバンプ電極を介して接続された半導体チップと回路基板との隙間にアンダーフィル剤を充填して封止する方法や(摘記(7a))、甲13に記載されるように、コンプレッション成型方法(摘記(13a))が知られている。そして、申立人が提示した甲号証をみても、甲1に記載された、ポッティング方式によりモールドする方法で用いる封止材を、処方調整を行うことなく、そのまま、アンダーフィル用に転用できることを示す記載は見当たらないし、半導体装置の封止材とアンダーフィル用の封止材は、用途上区別がなされておらず、同義であるという技術常識が、本件出願時に存したとも認められない。
そうすると、相違点1は実質的な相違点であると認められ、甲号証に記載された技術事項を参酌しても、甲1発明において、相違点1を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)申立人の主張の検討
申立人は、アンダーフィル用樹脂組成物は半導体素子等の封止に用いられる組成物であるから甲1の半導体封止に用いられるエポキシ樹脂組成物であるという記載は、本件発明1のアンダーフィル用樹脂組成物と同義である旨の主張をする(意見書第26頁第19?22行)。
しかしながら、アンダーフィル用樹脂組成物が、半導体素子等の封止に用いられる組成物の一つと解せるにしても、上記(イ)で述べたように、本件出願日当時、半導体を封止する方法は複数知られており、半導体封止に用いられるという記載があればアンダーフィル用樹脂組成物と同義であるとはいえず、また、申立人は両者が同義であるとする証拠を提示していない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(エ)小括
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

イ 本件発明2?11について
本件発明2?11は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、本件発明2?4、6?11は、甲1に記載された発明であるといえず、また、本件発明2?11は、甲1に記載された発明及び甲1?7に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1及び2によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3について
(1)各甲号証の記載
ア 甲8
上記「第3 1(3)」で示したとおり、申立人は、甲8を先願明細書等の内容を示すものとして提出している。ここでは、甲8の記載事項から、先願明細書等に記載された発明を認定する。
甲8には以下の事項が記載されている。
(8a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液状エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランで表面処理された平均粒径7?50nmのシリカフィラー、および、(D)平均粒径0.2?5μmのシリカフィラーを含み、
液状封止材の全成分の合計100質量部に対し、前記(C)成分のシリカフィラー、および、前記(D)成分のシリカフィラーの合計含有量が、45?77質量部であり、
前記(C)成分のシリカフィラーと、前記(D)成分のシリカフィラーと、の配合割合(質量比)が1:10.2?1:559であることを特徴とする液状封止材。
・・・
【請求項3】
前記(B)成分の硬化剤がアミン系硬化剤である、請求項1または2に記載の液状封止材。
・・・
【請求項5】
さらに、(E)ルイス塩基もしくはその塩を含有する、請求項1?4のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項6】
前記(E)成分が、トリフェニルホスフィンである、請求項5に記載の液状封止材。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載の液状封止材を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する半導体装置。」

(8b)「【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高性能化に伴い半導体の実装形態がワイヤーボンド型からフリップチップ型へと変化してきている。
フリップチップ型の半導体装置は、バンプ電極を介して基板上の電極部と半導体素子とが接続された構造を持っている。この構造の半導体装置は、温度サイクル等の熱付加が加わった際に、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数の差によってバンプ電極に応力がかかり、バンプ電極にクラック等の不良が発生することが問題となっている。この不良発生を抑制するためにアンダーフィルと呼ばれる液状封止剤を用いて、半導体素子と基板との間のギャップを封止し、両者を互いに固定することによって、耐サーマルサイクル性を向上させることが広く行われている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載の発明では、無機充填剤をシランカップリング剤で表面処理することにより、無機充填材の配合量を高めているが、シランカップリング剤で表面処理しているのは平均粒径5?40μmの無機充填剤である。 より微細な粒径がnmオーダーの無機充填剤を、特許文献2に記載のシランカップリング剤で表面処理したところ、アンダーフィル材の粘度が増加して、半導体素子と基板との間のギャップへの注入性の低下や、貯蔵安定性およびポットライフの悪化といった問題が生じることが明らかになった。
【0010】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決するため、低熱膨張化と、半導体素子と基板との間のギャップへの注入性を両立する液状封止材、および、液状封止材を用いて封止部位を封止してなる電子部品を提供することを目的とする。」

(8c)「【0020】
(A)液状エポキシ樹脂
(A)成分の液状エポキシ樹脂は、本発明の液状封止材の主剤をなす成分である。
本発明において、液状エポキシ樹脂とは常温で液状のエポキシ樹脂を意味する。
本発明における液状エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の平均分子量が約400以下のもの;p-グリシジルオキシフェニルジメチルトリスビスフェノールAジグリシジルエーテルのような分岐状多官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂の平均分子量が約570以下のもの;ビニル(3,4-シクロヘキセン)ジオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルカルボン酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、アジピン酸ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)5,1-スピロ(3,4-エポキシシクロヘキシル)-m-ジオキサンのような脂環式エポキシ樹脂;3,3´,5,5´-テトラメチル-4,4´-ジグリシジルオキシビフェニルのようなビフェニル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル、3-メチルヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル、ヘキサヒドロテレフタル酸ジグリシジルのようなグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、テトラグリシジルビス(アミノメチル)シクロヘキサンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ならびに1,3-ジグリシジル-5-メチル-5-エチルヒダントインのようなヒダントイン型エポキシ樹脂;ナフタレン環含有エポキシ樹脂が例示される。また、1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのようなシリコーン骨格をもつエポキシ樹脂も使用することができる。さらに、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグルシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルのようなジエポキシド化合物;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテルのようなトリエポキシド化合物等も例示される。
中でも好ましくは、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状アミノフェノール型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂である。さらに好ましくは液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、p-アミノフェノール型液状エポキシ樹脂、1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサンである。
(A)成分としての液状エポキシ樹脂は、単独でも、2種以上併用してもよい。
また、常温で固体のエポキシ樹脂であっても、液状のエポキシ樹脂と併用することにより、混合物として液状を示す場合は用いることができる。」

(8d)「【実施例】
【0048】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1?15、比較例1?6)
下記表に示す配合割合となるように、ロールミルを用いて原料を混練して実施例1?15、比較例1?6の液状封止材を調製した。但し、(A)成分の液状エポキシ樹脂と、(C)成分のシリカフィラー(1)を先に混合し、残りの成分を後から混合した。なお、表中の各組成に関する数値は質量部を表している。
【0050】
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂A-1:ビスフェノールF型エポキシ樹脂、製品名YDF8170、新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量158
エポキシ樹脂A-2:アミノフェノール型エポキシ樹脂、製品名jER630、三菱化学株式会社製、エポキシ当量94g/eq
エポキシ樹脂A-3:1,4ヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、製品名EP-4085S、株式会社ADEKA製、エポキシ当量135g/eq
【0051】
(B)硬化剤
硬化剤B-1:4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、製品名カヤハードA-A、日本化薬株式会社製
硬化剤B-2:ジエチルトリエンジアミン、製品名エタキュア100、アルベマール日本株式会社製
・・・
【0052】
(C)シリカフィラー(1)
・・・
シリカフィラーC-2:2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン表面処理シリカフィラー(平均粒径:10nm)、製品名YA010A-JGP、株式会社アドマテックス製
・・・
【0053】
(D)シリカフィラー(2)
シリカフィラーD-1:表面未処理シリカフィラー(平均粒径:0.3μm)、製品名SP-03B、扶桑化学株式会社製
シリカフィラーD-2:シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)表面処理シリカフィラー(平均粒径:0.25μm)、製品名SE1053-SEO、株式会社アドマテックス製
・・・
シリカフィラーD-4:シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)表面処理シリカフィラー(平均粒径:1.5μm)、製品名SE5050-SEJ、株式会社アドマテックス製
(E)ルイス塩基
ルイス塩基E-1:トリフェニルホスフィン、製品名TPP、北興化学工業株式会社製
・・・
【0057】

【0058】



(2)甲8に記載された発明
甲8には、概略、その特許請求の範囲の請求項1に、(A)液状エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランで表面処理された平均粒径7?50nmのシリカフィラー、および、(D)平均粒径0.2?5μmのシリカフィラーを含む液状封止材が記載され、請求項3に、(B)硬化剤がアミン系硬化剤であること、請求項5に、さらに(E)ルイス塩基を含有すること、請求項6に(E)成分がトリフェニルホスフィンであること、請求項7に請求項1に記載の液状封止材を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する半導体装置が記載され(摘記(8a))、その具体例として、実施例7に、エポキシ樹脂a-1としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(製品名YDF8170、新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量158)を32.08質量部、硬化剤B-1として4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン(製品名カヤハードA-A、日本化薬株式会社製)を11.7質量部、シリカフィラーC-2として2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン表面処理シリカフィラー((平均粒径:10nm)、製品名YA010A-JGP、株式会社アドマテックス製)を1質量部、シリカフィラーD-1として表面未処理シリカフィラー((平均粒径:0.3μm)、製品名SP-03B、扶桑化学株式会社製)を55質量部、ルイス塩基E-1としてトリフェニルホスフィン(製品名TPP、北興化学工業株式会社製)を0.22質量部からなる液状封止材が記載されている(摘記(8d))。

そうすると、甲8には、実施例7に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「ビスフェノールF型エポキシ樹脂(製品名YDF8170、新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量158)を32.08質量部、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン(製品名カヤハードA-A、日本化薬株式会社製)を11.7質量部、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン表面処理シリカフィラー((平均粒径:10nm)、製品名YA010A-JGP、株式会社アドマテックス製)を1質量部、表面未処理シリカフィラー((平均粒径:0.3μm)、製品名SP-03B、扶桑化学株式会社製)を55質量部、トリフェニルホスフィン(製品名TPP、北興化学工業株式会社製)を0.22質量部からなる液状封止材」(以下「甲8発明」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲8発明とを対比する。
甲8発明の「ビスフェノールF型エポキシ樹脂(製品名YDF8170、新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量158)」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」のうち「ビスフェノール型エポキシ樹脂」に相当することは明らかであり、甲8発明の「4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン(製品名カヤハードA-A、日本化薬株式会社製)」は、本件発明1の「(B)芳香族アミン化合物」に相当することは明らかであり、甲8発明の「2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン表面処理シリカフィラー((平均粒径:10nm)、製品名YA010A-JGP、株式会社アドマテックス製)及び表面未処理シリカフィラー((平均粒径:0.3μm)、製品名SP-03B、扶桑化学株式会社製)は、本件発明1の「(C)無機充填材」に相当し、甲8発明の「トリフェニルホスフィン(製品名TPP、北興化学工業株式会社製)」は、本件発明1の「(D)有機リン化合物」であって「(D)有機リン化合物がホスフィン化合物」であり「ホスフィン化合物」が、「トリフェニルホスフィン」からなるに相当する。

そうすると、本件発明1と甲8発明とでは、
「(A)エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン化合物、(C)無機充填材及び(D)有機リン化合物を含有してなり、前記(A)エポキシ樹脂がビスフェノール型エポキシ樹脂を含有し、前記(D)有機リン化合物がホスフィン化合物を含有する樹脂組成物であって、
前記ホスフィン化合物が、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン及びアルキルジアリールホスフィンからなる群から選ばれる1種以上である樹脂組成物」で一致し、次の点で相違する。

(相違点2)本件発明1では、(A)エポキシ樹脂がビスフェノール型エポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂を含有し、ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノール型エポキシ樹脂:グリシジルアミン型エポキシ樹脂)が60:40?95:5であるのに対し、甲8発明では、エポキシ樹脂がビスフェノール型エポキシ樹脂であり、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含有せず、ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノール型エポキシ樹脂:グリシジルアミン型エポキシ樹脂)が特定されていない点

(相違点3)樹脂組成物が、本件発明1では、アンダーフィル用であるのに対し、甲8発明では用途が明らかでない点

(イ)判断
a 相違点2について
上記で示したとおり、甲8発明はエポキシ樹脂としてグリシジルアミン型エポキシ樹脂を含有せず、ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノール型エポキシ樹脂:グリシジルアミン型エポキシ樹脂)も特定されていない。
そこで、甲8の記載をみてみると、甲8には、より微細な粒径がnmオーダーの無機充填剤を、シランカップリング剤で表面処理したところ、アンダーフィル材の粘度が増加して、半導体素子と基板との間のギャップへの注入性の低下や、貯蔵安定性およびポットライフの悪化といった問題が生じることが明らかになったため、低熱膨張化と、半導体素子と基板との間のギャップへの注入性を両立する液状封止材を提供することを課題とすることが記載され(摘記(8b))、この上で甲8の請求項1に記載された液状封止材を発明したということができる。そして、エポキシ樹脂としては、種々のエポキシ樹脂が例示され、その中には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂といったビスフェノール型エポキシ樹脂や、グリシジルアミン型エポキシ樹脂も例示されており、2種以上併用してもよいことも記載されており(摘記(8c))、実施例14には、エポキシ樹脂として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(製品名YDF8170、新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量158)を4.85質量部及びアミノフェノール型エポキシ樹脂(製品名jER630、三菱化学株式会社製、エポキシ当量94g/eq)を7.1質量部用いた具体例も記載されてはいる。
しかしながら、上記実施例14におけるビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比は41:59であり、相違点2における質量比を満足しない。また、甲8には、エポキシ樹脂として、甲8発明として認定した実施例7のように、甲8に例示されたエポキシ樹脂を単独で使用する具体例も記載されており、甲8には、ビスフェノール型エポキシ樹脂を単独で使用した実施例7であっても、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とアミノフェノール型エポキシ樹脂とを併用した実施例14であっても、それぞれ甲8に記載された課題を解決できたことが記載され、それぞれ独立した具体例が記載されているということができる。
そうすると、いくら甲8の実施例14にビスフェノールF型エポキシ樹脂とアミノフェノール型エポキシ樹脂とを併用した具体例が記載されていたとしても、甲8発明において、アミノフェノール型エポキシ樹脂を更に含有させること、そして、ビスフェノール型エポキシ樹脂との割合を60:40?95:5と特定することが甲8に記載されているに等しいということはできず、また、これらの発明特定事項が、課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。
よって、相違点2は実質的な相違点である。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は甲8発明と同一であるとはいえない。

(ウ)申立人の主張の検討
申立人は、甲9?甲13をみれば、ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂との質量比を60:40?95:5とすることは周知技術に過ぎず、新たな効果を奏するものではないから、本件発明1と甲8発明とは実質的に同一であると主張する。(申立書第38頁第4行?第40頁第20行)
しかしながら、甲9?甲13には、あくまでそれぞれの甲号証に記載された課題を解決するために、エポキシ樹脂としてビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂との質量比を60:40?95:5の範囲としたアンダーフィル用のエポキシ樹脂組成物が記載されているだけであり、甲9?13が、ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂を併用する際の質量比として、60:40?95:5の範囲が一般的であることを示すものでもないから、本件発明1と甲8発明とは実質的に同一であるということはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(エ)小括
よって、本件発明1は、甲8に記載された発明、すなわち、先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

イ 本件発明2?11について
本件発明2?11は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?11は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、甲8に記載された発明、すなわち、先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由4?6について
申立人は、以下の「(3)ア?エ」で示す観点について、サポート要件、実施可能要件明確性について主張するから、以下では、それらの観点について検討する。
(1)申立理由4?6の判断の前提
ア 特許法第36条第4項第1号の考え方について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
また、物の製造方法の発明では、その物を製造すること、その方法により生産した物の利用について具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。

イ 特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

ウ 特許法第36条第6項第2号の考え方について
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)本件発明の課題
本願発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0007】の記載からみて、流動性、充填性、成形性、耐温度サイクル性及び耐湿性に優れたアンダーフィル用樹脂組成物、並びに該アンダーフィル用樹脂組成物により少なくとも一部が封止された信頼性の高い電子部品装置の製造方法を提供することであると認める。

(3)判断
ア ホスフィン化合物の選択肢について
(ア)申立人の主張
申立人は、特許請求の範囲の請求項1には、「ホスフィン化合物が、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン及びアルキルジアリールホスフィンからなる群から選ばれる1種以上であり」と記載されているが、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できると確認できるのは、実施例1?5で記載されたトリフェニルホスフィンの場合だけであり、トリフェニルホスフィン以外のその他のホスフィン化合物の場合は、本件発明の課題が解決できると認識できないと主張し、また、請求項1に記載されるホスフィン化合物のうち、トリス(アルキルフェニル)ホスフィンは、実施例6で用いられたトリス(p-メトキシフェニル)ホスフィンと化学構造が類似しているから、実施例6と実質同一の粘度特性を示すことが容易に予想されると主張し、さらに、請求項1に記載されたホスフィン化合物の選択肢が類似の性質又は機能を有していると容易に理解できないから本件発明1は不明確であると主張する。(申立書第50頁第1行?第51頁最下行)

(イ)判断
a サポート要件について
本件明細書の段落【0030】には、本件発明において(D)有機リン化合物を使用すると粘度を低下させる効果の作用機序の推察が記載され、また、流動性、充填性、耐温度サイクル性及び耐湿性の観点からホスフィン化合物が好ましいことが記載され、同【0031】には、具体的な有機リン化合物として、請求項1に記載されるホスフィン化合物が記載されている。そして、同【0050】以降に記載される実施例1?5では、ホスフィン化合物としてトリフェニルホスフィンを用いると、本件発明の課題が解決できたことが具体的なデータと共に記載されている。
また、実施例6の評価結果をみても、比較例1?4に比べると、流動性、充填性、成形性、信頼性のいずれにも優れているから、トリフェニルホスフィン以外のホスフィン化合物であっても、本件発明の課題が全く解決できないとまではいえない。
一方、申立人は反証を挙げてトリフェニルホスフィン以外のホスフィン化合物の場合は、本件発明の課題が解決できないことを主張している訳でもない。
以上のとおりであるから、上記した発明の詳細な説明の記載をみた当業者であれば、本件発明1が発明の課題を解決できると認識できるといえる。

b 明確性について
特許請求の範囲の請求項1には、「ホスフィン化合物が、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン及びアルキルジアリールホスフィンからなる群から選ばれる1種以上であり」と記載されており、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。申立人の上記主張は上記判断を左右しない主張である。

(ウ)小括
よって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、明確である。さらに、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?11も同様である。

イ 請求項1におけるエポキシ樹脂の質量比について
(ア)申立人の主張
申立人は、特許請求の範囲の請求項1には、「ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノール型エポキシ樹脂:グリシジルアミン型エポキシ樹脂)が60:40?95:5である」と記載されているが、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できると確認できるのは、実施例1?5で記載された70:30の場合だけであり、その他の質量比の場合は、本件発明の課題が解決できると認識できないと主張し、また、質量比が70:30以外の場合には、発明の詳細な説明には、本件発明1を実施できる程度の明確かつ十分に記載されているとはいえないと主張し、さらに、質量比が60:40?95:5の範囲内であることと接着性の改善との間の技術的関連性が全く理解できないから本件発明1は不明確であると主張する。(申立書第52頁第1行?第54頁第7行)

(イ)判断
a サポート要件について
本件明細書の段落【0014】には、耐熱性、接着性及び流動性の観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂とを併用することが好ましいと記載され、その質量比(ビスフェノール型エポキシ樹脂:グリシジルアミン型エポキシ樹脂)は、耐熱性、接着性及び流動性の観点から20:80?95:5であることが好ましく、60:40?80:20であることがさらに好ましいと記載されている。そして、同【0050】以降に記載される実施例1?5では、本件発明1の「60:40?95:5」範囲の中央近辺の質量比が70:30の場合には、本件発明の課題が解決できたことが具体的なデータと共に記載されている。
一方、申立人は反証を挙げて質量比が60:40?95:5であって、70:30以外の場合は、本件発明の課題が解決できないことを主張している訳でもない。
以上のとおりであるから、上記した発明の詳細な説明の記載をみた当業者であれば、本件発明1が発明の課題を解決できると認識できるといえる。

b 実施可能要件について
当業者であれば、発明の詳細な説明の記載のうち実施例1?5の記載をみた上で、ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比を60:40?95:5の範囲で適宜変更することができるといえるから、本件発明1を製造できるといえ、また、使用することもできるといえる。

c 明確性について
特許請求の範囲の請求項1には、「ビスフェノール型エポキシ樹脂とグリシジルアミン型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノール型エポキシ樹脂:グリシジルアミン型エポキシ樹脂)が60:40?95:5である」と記載されており、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。申立人の上記主張は上記判断を左右しない主張である。

(ウ)小括
よって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、明確である。さらに、発明の詳細な説明は本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされている。そして、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?11も同様である。

ウ 請求項3におけるエポキシ樹脂の質量比について
(ア)申立人の主張
申立人は、特許請求の範囲の請求項3には、「前記ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂と前記ビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂との質量比(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂:ビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂)が5:95?50:50である」と記載されているが、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できると確認できるのは、実施例1?5で記載された28.6:71.4の場合だけであり、その他の質量比の場合は、本件発明の課題が解決できると認識できないと主張し、また、質量比が28.6:71.4以外の場合には、発明の詳細な説明には、本件発明3を実施できる程度の明確かつ十分に記載されているとはいえないと主張し、さらに、質量比が5:95?50:50の範囲内であることと接着性の改善との間の技術的関連性が全く理解できないから本件発明3は不明確であると主張する。(申立書第54頁第8行?第56頁第20行)

(イ)判断
a サポート要件について
本件明細書の段落【0013】には、流動性の観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)及びビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂を併用する場合、その質量比(ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ビスフェノールF型エポキシ樹脂)は、耐熱性、接着性及び流動性の観点から、5:95?50:50であることが好ましいことが記載されている。そして、同【0050】以降に記載される実施例1?5では、本件発明3の「5:95?50:50」範囲の中央近辺の質量比が28.6:71.4の場合には、本件発明の課題が解決できたことが具体的なデータと共に記載されている。
一方、申立人は反証を挙げて質量比が5:95?50:50であって、28.6:71.4以外の場合は、本件発明の課題が解決できないことを主張している訳でもない。
以上のとおりであるから、上記した発明の詳細な説明の記載をみた当業者であれば、本件発明3が発明の課題を解決できると認識できるといえる。

b 実施可能要件について
当業者であれば、発明の詳細な説明の記載のうち実施例1?5の記載をみた上で、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂との質量比を5:95?50:50の範囲で適宜変更することができるといえるから、本件発明3を製造できるといえ、また、使用することもできるといえる。

c 明確性について
特許請求の範囲の請求項3には、「前記ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂と前記ビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂との質量比(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂:ビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂)が5:95?50:50である」と記載されており、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。申立人の上記主張は上記判断を左右しない主張である。

(ウ)小括
よって、本件発明3は発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、明確である。さらに、発明の詳細な説明は実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされている。そして、本件発明3を直接的又は間接的に引用する本件発明4?11も同様である。

エ 無機充填材の含有量について
(ア)申立人の主張
申立人は、特許請求の範囲の請求項1には、(C)無機充填材の含有量は特定して記載されていないが、本件明細書の段落【0005】、【0007】及び【0008】の記載をみれば、無機充填材を高充填した状態を前提として本件発明の課題を見出したものであると解され、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できると確認できるのは、実施例1?5で記載された無機充填材の含有量が65?70質量%の場合だけであり、無機充填材が低い含有量の場合は、本件発明の課題が解決できると認識できないと主張し、また、無機充填材の含有量が、同請求項6には40?80質量%と特定して記載され、同請求項7には、60?75質量%と特定して記載されているが、実施例1?5では無機充填材の含有量が65質量%又は70質量%の場合が記載されているだけであり、その他の質量比の場合は、本件発明の課題が解決できると認識できないと主張する。さらに、無機充填材の含有量が特定されていない本件発明1、40?80質量%である本件発明6、又は、60?75質量%である本件発明7について、発明の詳細な説明には、これらの本件発明を実施できる程度の明確かつ十分に記載されているとはいえないと主張する。(申立書第56頁第21行?第59頁第23行)

(イ)判断
a サポート要件について
本件発明は、概略、アンダーフィル用樹脂組成物という発明であり、この樹脂組成物に含有される(C)無機充填材の含有量は、本件明細書の段落【0029】に記載されるように、特に制限はないが、熱膨張係数の低減効果、耐温度サイクル性の向上効果から、40質量%以上とすること、また、粘度の上昇を抑制し、流動性、浸透性及びディスペンス性のため、80質量%以下とすることは技術常識であるといえ、特許請求の範囲に無機充填材の含有量が記載されていなくても、一定の範囲の含有量で無機充填材が配合されるものであると解することができる。
そして、本件明細書の段落【0029】の上記記載や同【0050】以降に記載される実施例1?5は、無機充填材の含有量を65質量%及び70質量%に設定した場合に、本件発明の課題が解決できたことを裏付けるものであるが、当該実施例のみから、65質量%よりも低い含有量では、本件発明の課題が解決できないことを当業者が認識するとは認められない。
申立人が主張する、本件明細書の段落【0005】、【0007】及び【0008】の記載をみれば、無機充填材を高充填した状態を前提として本件発明の課題を見出したものであり、無機充填材が低充填の場合には本件発明の課題が解決できると認識できないとの主張について検討する。
上記【0005】には、「流動性及び温度サイクル性が良好なアンダーフィル用樹脂組成物の需要が高まっているが、耐温度サイクル性等を向上させるために無機充填材を高充填すると、アンダーフィル用樹脂組成物の粘度が著しく増大して流動性が低下し、成形性が悪化するという問題が生じる場合がある。」と記載され、同【0007】には、「狭ピッチ化及び狭ギャップ化により、使用できる無機充填材の粒径は小さくなっており、そのため、アンダーフィル用樹脂組成物へ無機充填材を高充填することが難しくなってきている。」と記載され、同【0008】には、「エポキシ樹脂、芳香族アミン化合物、無機充填材及び有機リン化合物を含有してなるアンダーフィル用樹脂組成物であれば、無機充填材を高充填しながらも低粘度を達成することができ、その結果、流動性、充填性、成形性、耐温度サイクル性及び耐湿性を満足し得ることを見出した。」と記載されている。
しかしながら、【0005】に記載されている文献が教示している無機充填材の含有量は、65質量%及び70質量%ではないし、【0008】に記載されている「高充填」を「65?70質量%」に限定的に解釈すべき理由もない。
また、甲号証を参照しても、本件発明の課題が、通常のアンダーフィル用樹脂組成物における無機充填材の含有量では解決できないとする、本件出願時の技術常識も見当たらない。
そして、申立人は反証を挙げて本件発明の課題が解決できないことを主張している訳でもない。
よって、申立人がする主張はいずれも採用することはできず、本件発明は、本件出願時の技術常識に照らすと、無機充填材の含有量が、「65?70質量%」以外の範囲であっても、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものと認められる。

b 実施可能要件について
当業者であれば、発明の詳細な説明の記載のうち実施例1?5の記載をみた上で、無機充填材の含有量を適宜変更することができるといえるから、本件発明1、6及び7を製造できるといえ、また、使用することもできるといえる。

(ウ)小括
よって、本件発明1、6及び7は発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、発明の詳細な説明は実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされている。さらに、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?5、8?11も同様である。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由4?6によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-09-30 
出願番号 特願2015-199761(P2015-199761)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 16- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 尾立 信広  
特許庁審判長 福井 悟
特許庁審判官 佐藤 健史
橋本 栄和
登録日 2020-11-06 
登録番号 特許第6789495号(P6789495)
権利者 昭和電工マテリアルズ株式会社
発明の名称 アンダーフィル用樹脂組成物、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法  
代理人 平澤 賢一  
代理人 澤山 要介  
代理人 大谷 保  
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