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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
管理番号 1378759
異議申立番号 異議2021-700381  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-26 
確定日 2021-10-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6804008号発明「塗料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6804008号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6804008号の請求項1?5に係る特許についての出願は、令和2年8月31日に出願され、令和2年12月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年4月26日(受付日)に特許異議申立人エスケー化研株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6804008号の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
塗膜形成樹脂(A)、非水分散型アクリル樹脂(B)及びドライヤー(C)を含む塗料組成物であって、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アルキド変性アクリル樹脂(A1)を含み、
前記アルキド変性アクリル樹脂(A1)は、アクリル樹脂に由来するアクリル樹脂部分と、アルキド部分とを有し、
前記アルキド変性アクリル樹脂(A1)における、前記アルキド部分の割合であるアルキド変性率が、5?50質量%であり、
前記非水分散型アクリル樹脂(B)は、コア部とシェル部とを有し、
コア部のガラス転移温度(Tg_(1))は、-10?40℃の範囲にあり、
シェル部のガラス転移温度(Tg_(2))は、30?100℃の範囲にあり、
Tg_(2)-Tg_(1)の値は、20?110℃である、
塗料組成物。
【請求項2】
前記コア部と前記シェル部との質量比(コア部質量/シェル部質量)は、7/3?3/7の範囲にある、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記塗膜形成樹脂(A)と前記非水分散型アクリル樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]は、1/99?50/50の範囲にある、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記ドライヤー(C)が、コバルト、バリウム、カルシウム、マンガン及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
金属基板用である、請求項1?4のいずれか1項に記載の塗料組成物。」

第3 申立理由の概要
特許法第29条第1項第3号(新規性)
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:特開平1-261450号公報

1 甲号証の記載について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「【特許請求の範囲】
1.油長30?80%の(半)乾性油及び/又は(半)乾性油脂肪酸変性アルキド樹脂(A)10?70重量%及びビニル系重合体(B)90?30重量%からなるビニル系グラフトアルキド樹脂( I )で、且つ該ビニル系重合体(B)の構成成分である単量体(a)がSP値8.25以下、Tg20℃以上のビニル系不飽和単量体(b)を該単量体(a)に対して少なくとも30重量%含有してなる、該樹脂(I)を分散安定剤として用い、該樹脂(I)は可溶性または部分的に可溶性であり、また単量体は可溶性であるが形成される重合体が不溶性である有機溶剤中において、ビニル系不飽和単量体(c)を分散重合して得られる、該有機溶剤に不溶性の重合体ゲル粒子を有する常温乾燥型非水分散性樹脂液。
2. 請求項1記載の常温乾燥型非水分散性樹脂液に、油長30?80%の(半)乾性油及び/又は(半)乾性油脂肪酸変性アルキド樹脂(A)5?80重量%及びビニル系重合体(B)95?20重量%からなるビニル系グラフトアルキド樹脂(II)を、該常温乾燥型非水分散性樹脂液と該樹脂(II)との合計固型分換算で80重量%以下含有させた常温乾燥型非水分散性樹脂液。」
1b「上記脂環式炭化水素環を有するアルキド樹脂(A)及びビニル系単量体(a)を用いてビニル系グラフトアルキド樹脂(I)を製造するには、樹脂(A)の存在下にラジカル重合開始剤を用いて、有機溶剤中でビニル系単量体(a)を重合させればよい、樹脂(A)とビニル系単量体(a)の配合割合は、樹脂(A)10?70重量%、好ましくは15?50重量%、ビニル系単量体(a)90?30重量%、好ましくは85?50重量%の範囲であり、ビニル系単量体(a)が90重量%より多いと、酸化硬化が困難となり、他方、ビニル系単量体(a)が30重量%より少ないとビニル系重合体成分による硬度、耐候性等の発現が困難となり、塗り重ねの際にチヂミ等の塗膜欠陥を生ずる。重合には、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t一ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等の過酸化物系のラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。」(第4ページ右下欄第1?20行)
1c「本発明非水分散性樹脂液は、下記の有機溶剤を用いて、ビニル系グラフトアルキド樹脂(I)の存在下にゲル分散粒子となるビニル系単量体(c)を分散重合させることによって得られるものである。ビニル系グラフトアルキド樹脂(I)とビニル系単量体(c)の配合割合は重量比で(I)/(c)=10/90?80/20好ましくは20/80?70/30の範囲である。ビニル系グラフトアルキド樹脂(I)が10重量部より少ないと分散樹脂液の貯蔵安定性が不良となったり、粗大粒子が生成したりし、また、80重量部より多いと分散粒子による塗膜物性、耐候性、樹脂液低粘度化等の向上が困難となる。
ゲル分散粒子を形成するためのビニル系単量体(c)は1分子中に不飽和二重結合を2個以上有する多官能性モノマーおよび/またはグリシジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸を該不飽和ビニルモノマー(c)中に1?20重量%含有させればよい、含有量が1%より少ないと十分なゲル分散粒子が得られず、塗膜物性、硬度、耐候性等が劣る塗膜となったり、完全乾燥前の塗膜表面に塗り重ねるとチヂミ等の塗膜欠陥を生じたりする。他方、含有量が20%より多いと分散粒子の製造時に樹脂液の系全体がゲル化したり、増粘したりして好ましくない、上記ビニル系単量体としてグリシジル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリル酸を使用する場合には第3級アミン等の触媒を使用することが好ましい。ここで、多官能性モノマーの好ましい例としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。上記ビニル系単量体と併用して使用できるものとしては、例えば
スチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の01?CL2アルキルエステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド;酢酸ビニルなどを用いることができ、1種または2種以上混合して使用してもよい。」(第5頁右上欄第14行?第6頁左上欄第8行)
1d「かくして得られる本発明の常温乾燥型非水分散性樹脂には、チタン白、カーボンブラック、ベンガラ、フタロシアニンブルー等の着色顔料;タンカル、硫酸バリウム、タルク、マイカ等の体質顔料;コバルト、マグネシウム、マンガン等のナフテン酸塩またはオクテン酸塩などの乾燥剤(ドラヤー);メチルエチルケトオキシム等の皮張り防止剤を添加し、塗料組成物が得られる。
本発明塗膜の形成方法は、透明もしくは着色塗料組成物を基材表面に所定膜厚になる様に1回塗りするか、もしくは該塗料組成物を基材表面に塗布したのち、塗装置後から固化乾燥、好ましくは指触乾燥から固化乾燥にいたるまでの塗着塗料の乾燥状態で該塗料組成物を塗り重ね、必要に応じて所定膜厚に達するまで塗り重ねして実施することができる。基材としては、例えばコンクリート、木材、紙、金属、プラスチック、塗膜等が挙げられる。」(第6頁左下欄第15行?右下欄第12行)
1e「[実施例]
以下、本発明を実施例にしたがい具体的に説明する。なお、部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
アルキド樹脂の製造例
撹はん機、コンデンサ、温度計、N_(2)ガス導入管を付した5lフラスコに
ペンタエリスリトール 397(部)
エチレングリコール 41
無水フタル酸 372
テトラヒドロ無水フタル酸 123
大豆油脂肪酸 1645
を仕込み、N_(2)ガスを流しながら少量のキシレン還流下、240℃で脱水しながら酸価8.5となるまで約7時間反応させた後
キシレン 246(部)
ミネラルスピリット 575
で希釈し、固型分75%、油長67%、テトラヒドロ無水フタル酸含有量5%のアルキド樹脂を得た。
ビニル系グラフトアルキド樹脂の製造側製造例○1(当審注:原文は丸付き数字であるが、○の次に数字で表す。以下同じ。)
撹はん機、コンデンサ、温度計、N_(2)ガス導入管を付した5lフラスコを用いて下記混合物
前記75%アルキド樹脂 1260(部)
ミネラルスピリット 740
t-ブチルメタ クリレート 1260
スチレン 840
t-ブチルパーオキシ
ベンソエート 42
ミネラルスピリット 210
を130°Cで8時間反応させたのち、下記希釈剤
ミネラルスピリット 625(部)
を加えて冷却し固型分60%、ビニル成分中に60%のt-ブチルメタクリレートを含有する、アルキド/ビニル=20/80(固型分)のビニル系グラフトアルキド樹脂○1を得た。このものの数平均分子量は約30000であった。
・・・
製造例○4
製造例○1においてt-ブチルメタクリレートのかわりにi-ブチルメタクリレートへ変更した以外は同一の組成、方法により製造した固型分60%、ビニル成分中にi-ブチルメタクリレートを60%含有する、アルキド/ビニル=20/80のビニル系グラフトアルキド樹脂○4を得た。このものの数平均分子量は約30000であった。
・・・
非水分散性樹脂液○1の製造例
前記製造例○1と同様の5lフラスコに
60%ビニル系
グラフトアルキド樹脂○1 834(部)
ミネラルスピリット 654
を仕込み、90℃に昇温し、
メチルアクリレート 358
スチレン 142
アクリロニトリル 71
2-ヒドロキシエチル
アクリレート 142
1.6-ヘキサンジオールジ
アクリレート 37.5
t-ブチルパーオキシ-
2-エチルヘキサノエート 7.5
イソプロパノール 37.5
ミネラルスピリツト 113
の混合物を8時間かけて滴下したのち、希釈溶剤
ミネラルスピリット 113(部)
を加えて、固型分50%、分散安定剤/分散粒子=40/60(固型分重量)の非水分散性樹脂○1を得た。このものは平均粒径は0.3μmであり、ガードナー粘度はCD、粗大粒子は無く、良好な貯蔵安定性を有していた。
非水分散性樹脂液○2?○8
非水分散性樹脂液○1製造例においてビニル系グラフトアルキド樹脂○1を○2、○3、○4、○5および○6に変更しただけで、他は同じ組成、方法により製造しそれぞれ固形分50%の非水分散性樹脂○2?○6を得た。これらの平均粒径は0.21?0.4μmの範囲内であった。
・・・
上記の各種のビニル系グラフトアルキド樹脂(○1?○6)、および非水分散性樹脂液○1?○7を表-1に示すような固型分配合比でブレンドし、ドライヤーとしてナフテン酸鉛を3部、ナフテン酸コバルトを1部を固型分100部にたいして添加し試験を行った。それらの結果を表-2に示す。
・・・
表-1

・・・
[試験方法]
貯蔵安定性:密閉状態で室温3ヶ月貯蔵後の増粘及び沈降物の程度を評価した。
乾燥性:JISK-5400に従って行なった。
光沢:塗膜表面の光沢を目視で観察した。O:良好
鉛筆硬度:JISK-5400に従って行なった。
塗り重ね性:ガラス板上に、実施例及び比較例の塗料組成物をwet膜厚で100、200、300、400、500μになる様に塗布し、その後室温(20°C)で乾燥時間が2時間から74時間まで4時間毎、74時間から170時間まで8時間毎に同種類の塗料組成物を塗り重ねたのち、乾燥(20℃で1週間)後塗膜面のチヂミを目視で観察した。O:良好、〇-:極くわずかチヂミ発生、○△:チヂミ発生、Δ:チヂミ多く発生、×;著しくチヂミ発生
ゲル分率:ガラス板上に実施例及び比較例の塗料組成物を塗布後、室温で1週間乾燥を行なった。次に、このものをガラス板からはがしとってソックスレー抽出器でアセトン溶媒を用いて8時間以上抽出したのち乾燥して、次式に従ってゲル分率の算出を行なった。(抽出後の塗膜重量/抽出前の塗膜重量)×100」(第7ページ左上欄第19行?第10ページ右下欄最終行)

(2)甲第2号証(特開2019-81908号公報、以下、「甲2」という。)
2a「【0041】
コアポリマーを構成するポリマーが単独重合体である場合、単独重合体のTgは各種文献(例えばポリマーハンドブック等)に記載されているものを使用することができる。また、コアポリマーを構成するポリマーが共重合体である場合、共重合体のTgは、各種単独重合体のTg_(n)(単位:K)と、単量体の質量分率(W_(n))とから下記FOX式によって算出することができる。
【0042】
【数1】

W_(n) ;各単量体の質量分率
Tg_(n);各単量体の単独重合体のTg(単位:K)
Tg ;共重合体のTg(単位:K)
【0043】
単独重合体としては、特に限定されないが、例えば、2-エチルヘキシルアクリレート単独重合体(Tg:-70℃)、2-エチルヘキシルメタクリレート単独重合体(Tg:-10℃)、2-ヒドロキシエチルアクリレート単独重合体(Tg:-15℃)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート単独重合体(Tg:55℃)、2-ヒドロキシブチルアクリレート単独重合体(Tg:-7℃)、2-ヒドロキシブチルメタクリレート単独重合体(Tg:26℃)、2-メトキシエチルアクリレート単独重合体(Tg:-50℃)、4-ヒドロキシブチルアクリレート単独重合体(Tg:-80℃)、iso-オクチルメタクリレート単独重合体(Tg:-45℃)、iso-ブチルアクリレート単独重合体(Tg:43℃)、iso-ブチルメタクリレート単独重合体(Tg:53℃)、iso-プロピルアクリレート単独重合体(Tg:-3℃)、iso-プロピルメタクリレート単独重合体(Tg:81℃)、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート単独重合体(Tg:20℃)、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート単独重合体(Tg:18℃)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート単独重合体(Tg:18℃)、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド単独重合体(Tg:134℃)、n-ブチルアクリレート単独重合体(Tg:-54℃)、tert-ブチルアクリレート単独重合体(Tg:43℃)、tert-ブチルメタクリレート単独重合体(Tg:20℃)、アクリルアミド単独重合体(Tg:179℃)、アクリル酸単独重合体(Tg:106℃)、アクリロニトリル単独重合体(Tg:125℃)、イソアミルアクリレート単独重合体(Tg:-45℃)、イソブチルアクリレート単独重合体(Tg:-26℃)、イソブチルメタアクリレート単独重合体(Tg:48℃)、イソボルニルアクリレート単独重合体(Tg:94℃)、イソボルニルメタクリレート単独重合体(Tg:155℃?180℃)、イタコン酸単独重合体(Tg:100℃)、エチルアクリレート単独重合体(Tg:-22℃?-24℃)、エチルカルビトールアクリレート単独重合体(Tg:-67℃)、エチルメタクリレート単独重合体(Tg:65℃)、エトキシエチルアクリレート単独重合体(Tg:-50℃)、エトキシエチルメタクリレート単独重合体(Tg:15℃)、エトキシジエチレングリコールアクリレート単独重合体(Tg:-70℃)、オクチルアクリレート単独重合体(Tg:-65℃)iso-オクチルアクリレート単独重合体(Tg:-70℃)、シクロヘキシルアクリレート単独重合体(Tg:15℃?19℃)、シクロヘキシルメタクリレート単独重合体(Tg:66℃?83℃)、ジシクロペンタニルアクリレート単独重合体(Tg:120℃)、ジシクロペンタニルメタクリレート単独重合体(Tg:175℃)、スチレン単独重合体(Tg:100℃)、ステアリルアクリレート単独重合体(Tg:35℃)、ターシャリーブチルアクリレート単独重合体(Tg:41℃)、ターシャリーブチルメタクリレート単独重合体(Tg:107℃)、テトラデシルアクリレート単独重合体(Tg:24℃)、テトラデシルメタクリレート単独重合体(Tg:-72℃)、テトラヒドロフルフリルアクリレート単独重合体(Tg:-12℃)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート単独重合体(Tg:60℃)、ノニルアクリレート単独重合体(Tg:58℃)、フェノキシエチルアクリレート単独重合体(Tg:-22℃)、フェノキシエチルメタクリレート単独重合体(Tg:54℃)、ブチルアクリレート単独重合体(Tg:-56℃)、ブチルメタクリレート単独重合体(Tg:20℃)、プロピルアクリレート単独重合体(Tg:3℃)、プロピルメタクリレート単独重合体(Tg:35℃)、ヘキサデシルアクリレート単独重合体(Tg:35℃)、ヘキサデシルメタクリレート単独重合体(Tg:15℃)、ヘキシルアクリレート単独重合体(Tg:-57℃)、ヘキシルメタクリレート単独重合体(Tg:-5℃、ベンジルアクリレート単独重合体(Tg:6℃)、ベンジルメタクリレート単独重合体(Tg:54℃)、ペンチルアクリレート単独重合体(Tg:22℃)、ペンチルメタクリレート単独重合体(Tg:-5℃)、マレイン酸単独重合体(Tg:130℃)、メタクリル酸単独重合体(Tg:185℃)カルボキシエチルアクリレート単独重合体(Tg:37℃)、メチルアクリレート単独重合体(Tg:8℃)、メチルメタクリレート単独重合体(Tg:105℃)、メトキシエチルアクリレート単独重合体(Tg:-50℃)、メトキシメタクリレート単独重合体(Tg:-16℃)、ラウリルアクリレート単独重合体(Tg:10℃)、ラウリルメタクリレート単独重合体(Tg:-65℃)、酢酸ビニル単独重合体(Tg:32℃)が挙げられる。なお、Tgは単独重合体の製造方法や立体規則性によって異なる場合があるため、上記に限定されない。」

2 甲1号証に記載された発明
甲1には、実施例6として、ビニル系グラフトアルキド樹脂○4(固形分)を30部、非水分散性樹脂液○4(固形分)を70部、ドライヤーとしてナフテン酸鉛を3部、ナフテン酸コバルトを1部含む塗料組成物が、記載されており(摘記1e参照)、ビニル系グラフトアルキド樹脂○4(固形分)は、アルキド/ビニル=20/80であり(摘記1e参照)、非水分散性樹脂液○4は、ビニル系グラフトアルキド樹脂○4と、メチルメタクリレートを358部、スチレンを142部、アクリロニトリルを71部、2-ヒドロキシエチルアクリレートを142部及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレート35.5部から形成される重合体を含み(摘記1e参照)、非水分散性樹脂液○4において、ビニル系グラフトアルキド樹脂○4は分散安定剤であり(摘記1a参照)、メチルメタクリレート、スチレン、2-ヒドロキシエチルアクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレートから形成される重合物は、分散粒子であり(摘記1a参照)、分散安定剤/分散粒子=40/60(固形分重量)であり(摘記1e参照)、ビニル系グラフトアルキド樹脂○4は、i-ブチルメタクリレートを1260部、スチレンを840部の重合体によって形成されている。
そうすると、甲1には、「アルキド/ビニル=20/80であるビニル系グラフトアルキド樹脂○4(固形分)を30部、i-ブチルメタクリレートを1260部、スチレンを840部から形成される重合体によって形成されたビニル系グラフトアルキド樹脂○4からなる分散安定剤と、メチルメタクリレートを358部、スチレンを142部、アクリロニトリルを71部、2-ヒドロキシエチルアクリレートを142部及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレートを35.5部から形成される重合体からなる分散粒子を含む、分散安定剤/分散粒子=40/60(固形分重量)である非水分散性樹脂液を70部、ドライヤーとしてナフテン酸鉛を3部、ナフテン酸コバルトを1部含む塗料組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が、記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)本件特許発明1
ア 引用発明との対比
本件特許発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「ビニル系グラフトアルキド樹脂○4(固形分)」は、本件特許発明1の「塗膜形成樹脂(A)」及び「前記塗膜形成樹脂(A)は、アルキド変性アクリル樹脂(A1)を含み、
前記アルキド変性アクリル樹脂(A1)は、アクリル樹脂に由来するアクリル樹脂部分と、アルキド部分とを有し」に相当する。
引用発明の「アルキド/ビニル=20/80である」は、本件特許発明の「前記アルキド変性アクリル樹脂(A1)における、前記アルキド部分の割合であるアルキド変性率が、5?50質量%であり」に相当する。
引用発明の「i-ブチルメタクリレートを1260部、スチレンを840部から形成される重合体によって形成されたビニル系グラフトアルキド樹脂○4からなる分散安定剤、及び、メチルメタクリレートを358部、スチレンを142部、アクリロニトリルを71部、2-ヒドロキシエチルアクリレートを142部及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレート35.5部から形成される重合物からなる分散粒子を含む、分散安定剤/分散粒子=40/60(固形分重量)」は、その分散安定剤/分散粒子の製造方法からみて、分散粒子の周囲に分散安定剤が形成されていることは明らかであるから、「分散安定剤」、「分散粒子」及び「分散安定剤/分散粒子=40/60(固形分重量)」は、本件特許発明1の「シェル部」、「コア部」及び「非水分散型アクリル樹脂(B)」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件特許発明1と引用発明は、「塗膜形成樹脂(A)、非水分散型アクリル樹脂(B)及びドライヤー(C)を含む塗料組成物であって、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アルキド変性アクリル樹脂(A1)を含み、
前記アルキド変性アクリル樹脂(A1)は、アクリル樹脂に由来するアクリル樹脂部分と、アルキド部分とを有し、
前記アルキド変性アクリル樹脂(A1)における、前記アルキド部分の割合であるアルキド変性率が、5?50質量%であり、
前記非水分散型アクリル樹脂(B)は、コア部とシェル部とを有する、
塗料組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本件特許発明1はコア部のガラス転移温度(Tg_(1))は、-10?40℃の範囲にあり、
シェル部のガラス転移温度(Tg_(2))は、30?100℃の範囲にあり、
Tg_(2)-Tg_(1)の値は、20?110℃であると特定されるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

イ 相違点についての検討
<相違点>について
甲2には、共重合体のTgは、各種単独重合体のTg_(n)(単位:K)と、単量体の質量分率(W_(n))とから下記FOX式によって算出することができることが、記載されている(摘記2a参照)。

W_(n) ;各単量体の質量分率
Tg_(n);各単量体の単独重合体のTg(単位:K)
Tg ;共重合体のTg(単位:K)
そして、引用発明のシェル部に相当する分散安定剤は、60%ビニル系グラフトアルキド樹脂○4を834部含み、ビニル系グラフトアルキド樹脂○4は、75%ビニル系グラフトアルキド樹脂を1260部、i-ブチルメタクリレートを1260部、スチレンを840部、t-ブチルパーオキシベンゾエートを42部含み、ビニル系グラフトアルキド樹脂は、ペンタエリスリトールを397部、エチレングリコールを41部、無水フタル酸を373部、大豆油脂脂肪酸を1645部、キシレンを246部含む。
ここで、i-ブチルメタクリレート単独重合体及びスチレン単独重合体のガラス転移温度は甲第2号証からわかる。
しかし、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、無水フタル酸、大豆油脂脂肪酸、キシレンから形成されるビニル系グラフトアルキド樹脂のガラス転移温度は不明であるから、ビニル系グラフトアルキド樹脂○4全体のガラス転移温度も不明である。
そうすると、ビニル系グラフトアルキド樹脂○4から形成される、シェル部に相当する分散安定剤のガラス転移温度も不明といわざるを得ない。
したがって、引用発明が、シェル部のガラス転移温度(Tg_(2))は、30?100℃の範囲にあり、Tg_(2)-Tg_(1)の値は、20?110℃であるという特定を充足するとはいえない。
よって、「コア部のガラス転移温度(Tg_(1))は、-10?40℃の範囲にあり、
シェル部のガラス転移温度(Tg_(2))は、30?100℃の範囲にあり、
Tg_(2)-Tg_(1)の値は、20?110℃である」点は、実質的な相違点である。

ウ 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は以下のとおり主張する。
甲1における「非水分散性樹脂○4」の「ビニル系グラフトアルキド樹脂(I)(分散安定剤)」は、以下のビニル系不飽和単量体の重合体によって形成されている。なお、( )の数字は、ビニル系不飽和単量体の合計を1.000部とした場合の換算値である。
i-ブチルメタクリレート 1260部(0.600)
スチレン 840部(0.400)
合計 2100部(1.000)

これらビニル系不飽和単量体のホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は、甲2等に記載の通り、それぞれ下記の値である。
i-ブチルメタクリレート 53℃(326K)
スチレン 100℃(373K)

そうすると、「非水分散性樹脂○4」の「ビニル系グラフトアルキド樹脂(I)(分散安定剤)を構成するビニル系重合体のガラス転移温度は、1/Tg=0.600/326+0.400/373から、343K=70℃と算出される。

特許異議申立人は以下のとおり主張について
上記イのとおり、ビニル系グラフトアルキド樹脂○4は、i-ブチルメタクリレート及びスチレン以外に、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、無水フタル酸及び大豆油脂脂肪酸を含むものであり、一方、特許異議申立人の「非水分散性樹脂○4」の「ビニル系グラフトアルキド樹脂(I)(分散安定剤)を構成するビニル系重合体のガラス転移温度の上記算出は、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、無水フタル酸及び大豆油脂脂肪酸を考慮していないので、採用できない。

エ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2?5
本件特許発明2?5は、「コア部のガラス転移温度(Tg_(1))は、-10?40℃の範囲にあり、
シェル部のガラス転移温度(Tg_(2))は、30?100℃の範囲にあり、
Tg_(2)-Tg_(1)の値は、20?110℃である」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件特許発明1と引用発明との相違点と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2?5についても、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?5は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
よって、本件特許発明1?5についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、この理由によって取り消されるべきものではない。

第4 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-09-29 
出願番号 特願2020-146195(P2020-146195)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 瀬下 浩一
門前 浩一
登録日 2020-12-03 
登録番号 特許第6804008号(P6804008)
権利者 日本ペイント・インダストリアルコ-ティングス株式会社
発明の名称 塗料組成物  
代理人 山本 宗雄  
代理人 吉田 環  
代理人 山尾 憲人  

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