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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1378768
異議申立番号 異議2021-700512  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-25 
確定日 2021-10-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6790711号発明「ポリプロピレン系樹脂組成物、それからなる積層体及び二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6790711号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6790711号(請求項の数5。以下、「本件特許」という。)は、平成28年10月19日の出願であって、令和2年11月9日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年11月25日である。)。
その後、令和3年5月25日に、本件特許の請求項1?5に係る特許に対して、特許異議申立人である栗暢行(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 特許請求の範囲の記載
特許第6790711号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?5に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?5に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
融点が150℃以上であるプロピレン系重合体(a)及びプロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)を含有するポリプロピレン系樹脂組成物(A)であって、プロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)が、融点が110?140℃であるプロピレン-α-オレフィン共重合体(b)及びアンチブロッキング剤を配合してなる組成物であり、アンチブロッキング剤が、レーザー回折法による平均粒径が1.0?5.0μm、BET法による比表面積が1?300m^(2)/g及び細孔容積が0.7ml/g未満の定形球状シリカ(c)又はレーザー回折法による平均粒径が1.0?5.0μmの有機系アンチブロッキング剤(d)であり、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)におけるアンチブロッキング剤の含有量が、プロピレン系重合体(a)100重量部に対して、0.01?1重量部であり、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)における樹脂成分の割合が、プロピレン系重合体(a)100重量部に対して、プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)が1?15重量部であり、プロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)における樹脂成分の割合が、樹脂成分100重量部に対して、プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)が50?100重量部であり、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)における樹脂成分及びプロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)における樹脂成分がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物(A)。
【請求項2】
前記プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)が、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が1?20g/10分であり、融点が120?140℃であるプロピレン-エチレンランダム共重合体又はプロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体であり、プロピレン-エチレンランダム共重合体がプロピレンとエチレンの2成分の共重合体である請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
少なくとも層(1)と層(2)の異なる2層からなる積層体であって、前記層(1)が請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物からなり、前記層(2)が前記プロピレン系重合体(a)を含み、且つ、前記定形球状シリカ(c)又は有機系アンチブロッキング剤(d)の含有量がプロピレン系重合体(a)100重量部に対して、0.01重量部未満である積層体。
【請求項4】
請求項3に記載の積層体からなる二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルムからなる食品包装フィルム。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
申立人がした申立ての理由の概要及び証拠方法は、以下に示すとおりである。
1 申立理由の概要
本件発明1?5は、本件出願日前に頒布された以下の甲第1号証に記載された発明及び甲第2?3号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?5の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2008-260848号公報
甲第2号証:特開2000-343659号公報
甲第3号証:特開2000-169638号公報
参考文献1:特開2000-229391号公報
以下、「甲第1号証」?「甲第3号証」を「甲1」?「甲3」という。

第4 特許異議申立ての理由についての当審の判断
1 申立理由について
(1)各甲号証の記載
ア 甲1
甲1には以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂に対し、平均粒子径1.0?5.0μm、見掛比重が0.1?0.5g/cm^(3)であり、走査電子顕微鏡観察で見られる1μm以下の粒子数が20%以下である単分散シリカ微粉末0.05?0.60重量%、および下記一般式(I)で示される亜リン酸エステル類0.01?0.20重量%を含むことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【化1】

(式中、R_(1),R_(2),R_(4)およびR_(5)はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1?8のアルキル基、炭素原子数5?8のシクロアルキル基、炭素原子数6?12のアルキルシクロアルキル基、炭素原子数7?12のアラルキル基又はフェニル基を表し、R_(3)は水素原子又は炭素原子数1?8のアルキル基を表す。Xは硫黄原子もしくは-CHR_(6)-基(R_(6)は水素原子、炭素数1?8のアルキル基、又は炭素数5?8のシクロアルキル基を表す。)を表し、nは0又は1である。Aは炭素数2?8のアルキレン基又は、*-CO(R_(7))_(m)-基(R_(7)は炭素数1?8のアルキレン基を、*は酸素原子と結合する部分である事を示し、mは0または1である。)を表す。Y、Zは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素原子数1?8のアルコキシ基又は炭素原子数7?12のアラルキルオキシ基を表し、もう一方が水素原子又は炭素原子数1?8のアルキル基を表す。)
・・・
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリプロピレン系樹脂組成物を主体とする層を少なくとも一層以上含む事を特徴とするポリプロピレン系フィルム。」

(1b)「【0002】
ポリプロピレン系フィルムは透明性や剛性、フィルム強度、ヒートシール性能に優れるだけでなく、食品と接した場合の衛生性にも優れる為、食品包装用途を中心に使用されてきた。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の目的は、フィルムの耐ブロッキング性や耐傷つき性に優れ、フィルムを長時間生産した際、メヤニやフィッシュアイを発生しにくいポリプロピレン系樹脂組成物、および、それからなるポリプロピレン系フィルムを提供する事にある。」

(1c)「【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のポリプロピレン系樹脂は、主にプロピレンからなるモノマーを重合して得られる重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-α-オレフィン三元共重合体、主にプロピレンからなるモノマーを重合して得られる重合体成分とプロピレンとエチレンおよび/または炭素原子数4?12のα-オレフィンからなるモノマーを重合させて得られる共重合体成分を少なくとも2段階以上の多段で製造して得られるポリプロピレン系共重合体(プロピレン-エチレンブロック共重合体という事がある。)等が挙げられる。好ましくはプロピレンの単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-α-オレフィン三元共重合体である。これらは単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。」

(1d)「【0034】
本発明のポリプロピレンフィルムは、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物からなる単層フィルムであってもよく、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物からなる層を少なくとも1層以上含む積層フィルムであってもよい。積層フィルムの場合、上記ポリプロピレン系樹脂組成物からなる層は、フィルム最表面に構成されることが好ましい。
・・・」

(1e)「【0035】
・・・
本発明のポリプロピレン系フィルムが多層フィルムの場合の製造方法としては、通常用いられる共押出法、押出ラミネート法、熱ラミネート法、ドライラミネート法等が挙げられる。
また本発明のポリプロピレン系フィルムは、事前に成形して得られたフィルムまたはシートを延伸してフィルムを製造する事もできる。延伸方法としては、例えばロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等により一軸または二軸に延伸する方法が挙げられる。」

(1f)「【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例によって本発明を説明する。
・・・
【0045】
実施例および比較例で用いた各成分は以下のとおりである。
・・・
【0046】
・・・
[シリカ微粉末(2)]
商品名 水澤化学株式会社製 商品名ミズパールK300
レーザー回折式粒度分布測定法による平均粒子径が2.7μm、見掛比重0.41g/cm^(3)、走査電子顕微鏡観察で見られる1μm以下の粒子数が9%であった。
・・・
【0047】
[ポリプロピレン系樹脂(1)]
Ti-Mg系触媒系のチーグラー・ナッタ型触媒を用いて気相中でプロピレンとエチレン、ブテン-1の共重合体を重合した。得られた樹脂粉末は、エチレン含有量が2.2重量%、ブテン-1含有量が4.5重量%であり、分子量分布Aw/Anは3.2であった。
[ポリプロピレン系樹脂(2)]
Ti-Mg系触媒系のチーグラー・ナッタ型触媒を用いて気相中でプロピレンとエチレンの共重合体を重合した。得られた樹脂粉末は、エチレン含有量が4重量%であり、分子量分布Aw/Anは3.8であった。
[ポリプロピレン系樹脂組成物(1)]
上記のポリプロピレン系樹脂(1)に、フェノール系酸化防止剤0.09重量%と亜リン酸エステル類0.05重量%をヘンシェルミキサーで混合した後、溶融押出を行ってペレット化した。
[ポリプロピレン系樹脂組成物(2)]
上記のポリプロピレン系樹脂(1)に、フェノール系酸化防止剤0.13重量%をヘンシェルミキサーで混合した後、溶融押出を行ってペレット化した。
[ポリプロピレン系樹脂組成物(3)]
上記のポリプロピレン系樹脂(1)に、亜リン酸エステル類0.18重量%をヘンシェルミキサーで混合した後、溶融押出を行ってペレット化した。
【0048】
[高密度ポリエチレン(1)]
商品名 京葉ポリエチレン社製 G1801
・・・
【0049】
・・・
[シリカ微粉末マスターバッチ(2)]
30mmφ異方向2軸造粒機を用い、シリンダー設定温度230℃、押出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpmの条件で、ポリプロピレン系樹脂(2)に対しシリカ微粉末(2)2.3重量%、フェノール系酸化防止剤0.15重量%、リン系酸化防止剤0.5重量%を含むペレットを造粒した。
・・・
【0050】
実施例1
ポリプロピレン系樹脂組成物(3)91.5重量%、およびシリカ微粉末マスターバッチ(2)7.0重量%、高密度ポリエチレン(2)1.5重量%をペレットブレンドした後、ろ過精度60μmの金属焼結フィルターを使用した90mmφ押出機、および、2台の65mmφ押出機を用いて280℃で溶融混練し、フィードブロック型のTダイ(ダイ幅1250mm、リップ開度0.8mm)に導入して、ダイ温度260℃で溶融押出を行った。
押し出された溶融膜を50m/分で回転する冷却水温度40℃のチルロールで冷却固化させ、厚さ70μmの未延伸フィルムを2時間製膜しながらメヤニ、フィッシュアイの発生状況を評価した。
前記メヤニ、フィッシュアイ評価終了後、溶融膜の引取速度を135m/minへ増速し、フィルム物性評価用フィルム(厚さ25μm)を得た。
実施例2
ポリプロピレン系樹脂組成物(2)91.5重量%、およびシリカ微粉末マスターバッチ(2)7.0重量%、高密度ポリエチレン(1)1.5重量%をペレットブレンドした後は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。
・・・
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
本発明の要件を満足する実施例1?3は、耐ブロッキング性と耐傷つき性に優れ、フィルム製膜時のメヤニやフィッシュアイを発生しにくいポリプロピレン系樹脂組成物である事がわかる。
これに対して、本発明の要件であるシリカ微粉末の見掛比重や1μm以下のシリカ微粉末の比率、酸化防止剤の種類を満足しない比較例1?3は、フィルム製膜時のメヤニ・フィッシュアイの低減効果やフィルム物性が不十分であり、本発明の要件であるシリカ微粉末の見掛比重を満足しない比較例4はフィルムの耐傷つき性に劣る事がわかる。」

イ 甲2
甲2には以下の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリオレフィン系樹脂からなるA層、C層の間に、下記(1)?(3)のいずれか1種からなる高分子ガスバリア層からなるB層を有していることを特徴とする積層フィルム。
(1)金属アルコキシドおよびケイ素アルコキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコキシドの部分加水分解重縮合物と水溶性高分子との混合物。
(2)該部分加水分解重縮合物と水溶性高分子との反応生成物。
(3)該部分加水分解重縮合物、水溶性高分子および該反応生成物との混合物。」

(2b)「【0019】本発明で用いられるA層及びC層には、必要に応じて帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、滑剤、紫外線吸収剤、滑り性付与およびアンチブロッキング性付与を目的とした界面活性剤等の公知の添加剤を、本発明の効果を阻害しない程度配合してもよい。」

(2c)「【0022】本発明において、上記A層およびC層は、同種のポリオレフィン系樹脂を用いてもよいし、異種のポリオレフィン系樹脂を用いてもよい。また、A層及びC層は、ポリオレフィン系樹脂を用いていれば、単層で構成されていても2層以上の複層で構成されていてもよい。」

(2d)「【0024】上記包装袋用途において、A層に用いるポリオレフィン系樹脂としては、外層としての機械強度、表面光沢、防湿性、耐熱性、透明性等を勘案すると、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン三元共重合体等のポリプロピレン系樹脂が好ましく、その中でもプロピレン単独重合体がより好ましい。
【0025】上記ポリプロピレン系樹脂の示差走査熱測定(以下、DSCと記す)におけるピークトップの測定値は、フィルムの耐熱性(一般的に、ヒートシール時に高温のシールバーが接触する際耐熱性)を勘案すると、130?165℃であることが好ましく、135?165℃であることがより好ましい。また、メルトフローレート(以下、MFRと記す)は、押出性を勘案すると、0.1?10g/10分であることが好ましい。」

(2e)「【0067】実施例1
テトラエトキシシラン30重量部、エタノール20重量部、2N塩酸1重量部、水4重量部を混合し、室温で1時間攪拌した。次いで、γ-グリシドキシトリメトキシシラン3重量部、ソアノール20L(日本合成化学工業社製エチレン-ビニルアルコール水/IPA溶液)40重量部、N,N-ジメチルベンジルアミン0.15重量部を加えて攪拌し、コート液Aとした。次いで、表2に示したポリオレフィン系樹脂フィルムのコロナ処理面に、アンカーコート剤(東洋モートン社製AD335AE/CAT-10 100重量部/10重量部を、酢酸エチル/トルエン溶剤にて、不揮発分が10重量%となるよう調整)をバーコーターにより乾燥重量が0.5g/m^(2)となるようにコートし、90℃で1分間乾燥させた後、該アンカーコート面上に、上記コート液Aをバーコーターにより厚み2μm(乾燥時)となるようにコートし、120℃で2分間乾燥硬化させた。さらに、該硬化面上に、ドライラミネート用接着剤(東洋モートン社製TM329/CAT-8B 100重量部/100重量部を、酢酸エチル溶剤にて、不揮発分が10重量%となるよう調整)をバーコーターにより乾燥重量が2g/m^(2)となるようにコートし、90℃で2分間乾燥させた後、該ドライラミネート用接着剤面上に、表2に示したポリオレフィン系樹脂フィルムをドライラミネートし、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表3に示した。
【0068】実施例2
表1、2に示したポリオレフィン系樹脂フィルムを使用すること以外は、実施例1と同様の操作をおこない、積層フィルムを得た。評価結果を表3に示した。
・・・
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】



(2)甲1に記載された発明
甲1には、段落【0004】に、発明が解決しようとする課題として、フィルムの耐ブロッキング性や耐傷つき性に優れ、フィルムを長時間生産した際、メヤニやフィッシュアイを発生しにくいポリプロピレン系樹脂組成物を提供することが記載され(摘記(1b))、その特許請求の範囲の請求項1に、「ポリプロピレン系樹脂に対し、平均粒子径1.0?5.0μm、見掛比重が0.1?0.5g/cm^(3)であり、走査電子顕微鏡観察で見られる1μm以下の粒子数が20%以下である単分散シリカ微粉末0.05?0.60重量%、および下記一般式(I)で示される亜リン酸エステル類0.01?0.20重量%を含むことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。(一般式(I)の記載は省略する。)」が記載されている(摘記(1a))。

そして、段落【0050】には、実施例2として、ポリプロピレン系樹脂組成物(2)91.5重量%、およびシリカ微粉末マスターバッチ(2)7.0重量%、高密度ポリエチレン(1)1.5重量%をペレットブレンドした後は、実施例1と同様にしてフィルムを得たことが記載され(摘記(1f))、同【0052】の表1には、実施例及び比較例においてポリプロピレン樹脂組成物に含まれる成分が記載され、同【0053】の表2には、実施例及び比較例において製造されたフィルムのHaze、耐傷付き性、耐ブロッキング性、メヤニ評価及びフィッシュアイ評価が具体的なデータと共に記載されている(摘記(1f))。

ここで、上記実施例2について、段落【0050】には、ポリプロピレン系樹脂組成物(2)を91.5重量%使用したことが記載されている(摘記(1f))が、同【0052】における表1には、PP系樹脂組成物(1)を91.5重量%使用したことが記載されており(摘記(1f))、両者の記載は一致していない。
そこで、いずれの記載が正しいのかを検討するに当たり、ポリプロピレン系樹脂組成物(1)及び同(2)の構成成分をみてみると、同【0047】には、ポリプロピレン系樹脂組成物(1)は、「ポリプロピレン系樹脂(1)に、フェノール系酸化防止剤0.09重量%と亜リン酸エステル類0.05重量%をヘンシェルミキサーで混合した後、溶融押出を行ってペレット化した。」と記載され(摘記(1f))、請求項1に記載されている亜リン酸エステル類を含むが、一方、ポリプロピレン系樹脂組成物(2)は、「ポリプロピレン系樹脂(1)に、フェノール系酸化防止剤0.13重量%をヘンシェルミキサーで混合した後、溶融押出を行ってペレット化した。」(摘記(1f))と記載され、請求項1に記載されている一般式(I)で示される亜リン酸エステル類を含まないものである。
そして、実施例2は、同【0053】の表2には、本件発明の課題を解決できたことが具体的なデータと共に記載されており(摘記(1f))、また、「実施例」という記載から本件の請求項1に記載された亜リン酸エステル類を含むポリプロピレン系樹脂組成物の具体例であると考えられることからすると、実施例2は、請求項1に記載された亜リン酸エステル類を配合するもの、すなわち、段落【0052】の表1に記載されているポリプロピレン系樹脂組成物(1)が正しい記載であるといえる。
よって、同【0050】における実施例2の「ポリプロピレン系樹脂組成物(2)」を使用したという記載は、同【0052】における表1の記載のとおり「ポリプロピレン系樹脂組成物(1)」を使用したとする誤記であるといえる。

以上のとおりであるから、甲1には、実施例2に着目し、また、同【0050】に記載された実施例2中のポリプロピレン系樹脂組成物(1)およびシリカ微粉末マスターバッチ(2)を書き下すと、以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリプロピレン系樹脂(1)に、フェノール系酸化防止剤0.09重量%と亜リン酸エステル類0.05重量%を含むポリプロピレン系樹脂組成物(1)91.5重量%、およびポリプロピレン系樹脂(2)に対しシリカ微粉末(2)2.3重量%、フェノール系酸化防止剤0.15重量%、リン系酸化防止剤0.5重量%含むシリカ微粉末マスターバッチ(2)7.0重量%、高密度ポリエチレン(1)1.5重量%からなるポリプロピレン系樹脂組成物」(以下「甲1発明」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物(1)」を本件発明1の「融点が150℃以上であるプロピレン系重合体(a)」に対応させ、また、甲1発明の「シリカ微粉末マスターバッチ(2)」を本件発明1の「プロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)」に対応させた上で検討する。

a まず、成分について検討する。
甲1発明のシリカ微粉末マスターバッチ(2)に含まれるシリカ微粉末(2)は、同【0046】によれば、商品名 水澤化学株式会社製 商品名ミズパールK300であり、レーザー回折式粒度分布測定法による平均粒子径が2.7μm、見掛比重0.41g/cm^(3)、走査電子顕微鏡観察で見られる1μm以下の粒子数が9%である。
このように、甲1発明のシリカ微粉末(2)は、商品名 水澤化学株式会社製 商品名ミズパールK300であるところ、本件発明1の定形球状シリカ(c)の具体例として、本件明細書の段落【0066】には、水澤化学工業(株)製 商品名「ミズパールK-300」が記載されており、これは、甲1発明のシリカ微粉末(2)と同じ商品名であるといえるから、甲1発明のシリカ微粉末(2)は、上記【0066】に記載されたように、平均粒径 2.8μm、BET比表面積 146m^(2)/g、細孔容積 0.5ml/gであるといえる。
そうすると、甲1発明のシリカ微粉末(2)は、本件発明1の「アンチブロッキング剤」であって、「レーザー回折法による平均粒径が1.0?5.0μm、BET法による比表面積が1?300m^(2)/g及び細孔容積が0.7ml/g未満の定形球状シリカ(c)」に相当する。
また、甲1発明のシリカ微粉末マスターバッチ(2)に含まれるポリプロピレン系樹脂(2)は、甲1の段落【0047】によれば、Ti-Mg系触媒系のチーグラー・ナッタ型触媒を用いて気相中でプロピレンとエチレンの共重合体を重合し、得られた樹脂粉末は、エチレン含有量が4重量%であり、分子量分布Aw/Anは3.8であり、上記「エチレン」はα-オレフィンの具体例であるから、甲1発明のシリカ微粉末マスターバッチ(2)に含まれるポリプロピレン系樹脂(2)は、本件発明1の「プロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)」に含まれる「融点が110?140℃であるプロピレン-α-オレフィン共重合体(b)」と、「プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)」の限りにおいて一致する。
さらに、甲1発明のポリプロピレン系樹脂組成物(1)に含まれるポリプロピレン系樹脂(1)は、本件発明1の「融点が150℃以上であるプロピレン系重合体(a)」と、「プロピレン系重合体(a)」の限りにおいて一致する。
そして、甲1発明において、ポリプロピレン系樹脂組成物における樹脂成分及びシリカ微粉末マスターバッチにおける樹脂成分がポリプロピレン系樹脂であることは明らかである。

b 次に、成分の含有割合について検討する。
甲1発明のシリカ微粉末(2)は、甲1発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物」中に7.0重量%含む「シリカ微粉末マスターバッチ(2)」中に2.3重量%含むから、「ポリプロピレン系樹脂組成物」中に0.16重量%(=0.07×0.023×100)含むと計算され、また、甲1発明のポリプロピレン系樹脂(1)は、甲1発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物」中に91.5重量%含む「ポリプロピレン系樹脂組成物(1)」中に98.6(=100-0.09-0.05)重量%含むと計算される。
そうすると、甲1発明のシリカ微粉末(2)の含有量は、ポリプロピレン系樹脂(1)100重量部に対して、0.162(=100×0.16÷98.6)重量部と計算されるから、これは、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂組成物(A)におけるアンチブロッキング剤の含有量が、プロピレン系重合体(a)100重量部に対して、0.01?1重量部」に相当する。

甲1発明のポリプロピレン系樹脂(2)は、甲1発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物」中に7.0重量%含む「シリカ微粉末マスターバッチ(2)」中に97.05(=100-2.3-0.15-0.5)重量%含むから、「ポリプロピレン系樹脂組成物」中に6.79重量%(=0.07×0.9705×100)含むと計算され、また、上記のとおり、甲1発明の「ポリプロピレン系樹脂(1)」は、98.6重量%含むと計算される。
そうすると、甲1発明のポリプロピレン系樹脂(2)の含有量は、ポリプロピレン系樹脂(1)100重量部に対して、6.88(=100×6.79÷98.6)重量部と計算されるから、これは、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂組成物(A)における樹脂成分の割合が、プロピレン系重合体(a)100重量部に対して、プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)が1?15重量部であり」に相当する。

甲1発明のシリカ微粉末マスターバッチ(2)中における樹脂成分は、ポリプロピレン系樹脂(2)のみである、すなわち100重量%であるから、これは、本件発明1の「プロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)における樹脂成分の割合が、樹脂成分100重量部に対して、プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)が50?100重量部であり」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とでは、
「プロピレン系重合体(a)及びプロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)を含有するポリプロピレン系樹脂組成物(A)であって、プロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)が、プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)及びアンチブロッキング剤を配合してなる組成物であり、アンチブロッキング剤が、レーザー回折法による平均粒径が1.0?5.0μm、BET法による比表面積が1?300m^(2)/g及び細孔容積が0.7ml/g未満の定形球状シリカ(c)又はレーザー回折法による平均粒径が1.0?5.0μmの有機系アンチブロッキング剤(d)であり、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)におけるアンチブロッキング剤の含有量が、プロピレン系重合体(a)100重量部に対して、0.01?1重量部であり、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)における樹脂成分の割合が、プロピレン系重合体(a)100重量部に対して、プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)が1?15重量部であり、プロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)における樹脂成分の割合が、樹脂成分100重量部に対して、プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)が50?100重量部であり、ポリプロピレン系樹脂組成物(A)における樹脂成分及びプロピレン-α-オレフィン樹脂組成物(B)における樹脂成分がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物(A)。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本件発明1では、プロピレン系重合体(a)の融点が150℃以上であるのに対し、甲1発明では明らかでない点

(相違点2)本件発明1では、プロピレン-α-オレフィン共重合体(b)の融点が110?140℃であるのに対し、甲1発明では明らかでない点

(イ)判断
a 相違点1について
甲1発明のポリプロピレン系樹脂組成物(1)に含まれるポリプロピレン系樹脂(1)は、「Ti-Mg系触媒系のチーグラー・ナッタ型触媒を用いて気相中でプロピレンとエチレン、ブテン-1の共重合体を重合した。得られた樹脂粉末は、エチレン含有量が2.2重量%、ブテン-1含有量が4.5重量%であり、分子量分布Aw/Anは3.2であった。」であり、融点は明らかでない。また、甲1には、ポリプロピレン系樹脂の融点に関する記載はなく、融点が150℃より高い方が好ましいという記載はない。
また、甲2には、請求項1に、概略、ポリオレフィン系樹脂からなるA層、C層の間に、高分子ガスバリア層からなるB層を有している積層フィルムが記載され、甲2の段落【0022】、【0024】及び【0025】には、A層およびC層は、ポリオレフィン系樹脂を用いること、ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン系樹脂が好ましく、DSCによる融点が130?165℃が好ましいことが記載され、実施例では、この融点が161℃、140℃及び120℃の各種ポリオレフィン樹脂が記載されている。
このように、甲2には、ポリオレフィン系樹脂をA層及びC層とし、その間に、高分子ガスバリア層からなるB層を有している積層フィルムが記載され、A層及びC層を構成するポリオレフィン系樹脂のDSCによる融点を130?165℃とすることが好ましいという記載があるが、その融点を150℃以上とする記載はない。
そうすると、ポリプロピレン系樹脂の融点について何も記載されていない甲1に記載された甲1発明において、いくら甲2にポリオレフィンからなる層を含む積層体が記載され、その融点が150℃以上であることを含むとしても、甲2に記載された融点の範囲の一部にすぎず、また、融点を150℃以上とすることが好ましいとも記載されていないから、相違点1を構成する動機づけがあるとはいえない。

b 効果について
上記のとおり、相違点1を構成することは動機づけられるものではないが、念のため、効果について検討する。

本件発明1は、【0012】に記載されているように、耐ブロッキング性及び分散性に優れ、白斑やアンチブロッキング剤の脱落等による汚れを低減し、さらに製袋時のヒートシール工程におけるシールバーへの融着がない、という効果を奏する発明であり、実施例において上記効果について具体的にデータが示されている。
一方、甲1には、段落【0004】に、本発明の目的は、フィルムの耐ブロッキング性や耐傷つき性に優れ、フィルムを長時間生産した際、メヤニやフィッシュアイを発生しにくいポリプロピレン系樹脂組成物を提供する旨の記載がされ、また、甲2には、段落【0010】に、本発明の目的は、高湿度下での酸素バリアー性と防湿性に優れた積層フィルムを得ることにあると記載がされ、そして、甲1及び甲2の実施例において、上記したそれぞれの課題を解決した効果が具体的に記載されているだけである。
そうすると、甲1及び甲2の記載をみても、本件発明1の上記効果を予測できるとはいえず、本件発明1は格別顕著な効果を奏するものであるといえる。

(ウ)小括
上記のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び甲1及び甲2に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できたとはいえない。

イ 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?5は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、甲1に記載された発明及び甲1及び甲2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-09-30 
出願番号 特願2016-205110(P2016-205110)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岸 智之  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 佐藤 玲奈
佐藤 健史
登録日 2020-11-09 
登録番号 特許第6790711号(P6790711)
権利者 日本ポリプロ株式会社
発明の名称 ポリプロピレン系樹脂組成物、それからなる積層体及び二軸延伸ポリプロピレンフィルム  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  
代理人 重森 一輝  
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