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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1378771
異議申立番号 異議2021-700552  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-08 
確定日 2021-10-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6797797号発明「セラミックス金属回路基板およびそれを用いた半導体装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6797797号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6797797号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成28年6月1日(優先権主張、平成27年7月9日、日本国)を国際出願日とする出願であり、令和2年11月20日にその特許権が設定登録され、令和2年12月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年6月8日に特許異議申立人佐藤徹(以下、「申立人」という。)により、請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
1 本件発明について
特許第6797797号の請求項1ないし12に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
セラミックス基板と、このセラミックス基板の第1の面及び第2の面にそれぞれ接合層を介して接合された第1の金属板及び第2の金属板とを備えるセラミックス金属回路基板において、
前記第1の金属板の、前記セラミックス基板との接合面の反対側の面に金属被膜が設けられ、
前記第2の金属板の、前記セラミックス基板との接合面の反対側の面の一部には半導体素子又は金属端子を実装するために金属被膜が設けられていない箇所が存在し、
前記第1の金属板及び前記第2の金属板は、それぞれ、銅と、銅合金と、アルミニウムと、アルミニウム合金とから選ばれた1種類からなり、
前記第1の金属板及び/又は前記第2の金属板の、前記金属被膜が設けられた面の最大高さRzは、1.5μm以下であり、
前記金属被膜の平均膜厚は、10μm以下である、
ことを特徴とするセラミックス金属回路基板。
【請求項2】
前記接合層には前記第1の金属板及び前記第2の金属板の側面からはみ出たはみ出し部が形成されていることを特徴とする請求項1記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項3】
前記第1の金属板及び前記第2の金属板の側面および前記はみ出し部を覆うように金属被膜が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項4】
前記接合層はAg、Cu、Alから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項5】
前記金属被膜がニッケル、金、またはこれらを主成分とする合金から選択される選ばれる1種であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項であることを特徴とするセラミックス金属回路基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板が、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、酸化アルミニウム基板から選択される1種であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項7】
前記第2の金属板の表面の前記金属被膜が設けられていない箇所に前記金属端子を接合したことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項8】
前記第1の金属板が再結晶組織を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項9】
前記第1の金属板及び前記第2の金属板の平均結晶粒径は、200μm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のセラミックス金属回路基板。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の前記セラミックス金属回路基板に半導体素子を実装したことを特徴とする半導体装置。
【請求項11】
前記第2の金属板の表面の金属被膜が設けられていない箇所に半田層を介して前記半導体素子を実装したことを特徴とする請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記半田層は鉛フリー半田で構成されることを特徴とする請求項11に記載の半導体装置。」

2 本件発明1ないし12の優先権主張の効果の有効性について
本件発明1に関し、本件発明1の発明特定事項のうち、「前記第1の金属板及び/又は前記第2の金属板の、前記金属被膜が設けられた面の最大高さRzは、1.5μm以下」については、本件特許に係る出願の優先権の基礎となる出願(特願2015-138036号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない。
よって、本件発明1について、優先権主張は認められない。
また、本件発明1を直接または間接的に引用する本件発明2ないし12についても、優先権主張は認められない。
したがって、本件発明1ないし12について、現実の出願日である平成28年6月1日が、特許法第29条の規定の適用についての基準日となる。

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記甲第1ないし4号証を提出して、以下の申立理由1ないし2により、請求項1ないし12に係る本件特許を取り消すべきである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び周知技術(甲第2号証ないし甲第3号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
また、本件発明2ないし12は、甲第1号証に記載された発明、甲第4号証に記載された技術及び周知技術(甲第2号証ないし甲第3号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるあるから、本件発明2ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2 申立理由2(実施可能要件)
発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

〈証拠方法〉
甲第1号証:特開2013-237100号公報
甲第2号証:特開2007-81217号公報
甲第3号証:国際公開第2015/114987号
甲第4号証:特開2003-112980号公報

第4 甲号証の記載、甲号証に記載された発明
1 甲第1号証
甲第1号証には、「セラミックス回路基板」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「【請求項1】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一面にろう材層を介し接合された銅を主体とした回路板と、前記回路板の表面に被着されたNiめっき層を有するセラミックス回路基板の製造方法であって、ろう材を介しセラミックス基板の一面に回路原板を配置する配置工程と、セラミックス基板の一面に回路原板を加熱し接合する接合工程と、接合工程で形成されてなる回路板を化学研磨する化学研磨工程と、化学研磨工程の後に回路板の表面にNiめっき層を被着するめっき工程と、を含み、前記回路原板は、調質記号1/2H?H相当の銅または銅合金からなる銅板であり、前記接合工程は、その温度プロファイルにおいて、第1の温度域と、前記第1の温度域の後に配置された、ろう材が溶融する温度で加熱する第2の温度域とを有し、前記第1の温度域の温度が400?750℃であることを特徴するセラミックス回路基板の製造方法。」

「【請求項4】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一面にろう材層を介し接合された銅または銅合金からなる回路板と、前記回路板の表面に被着されたNiめっき層を有するセラミックス回路基板であって、前記回路板は下記で定義される第1再結晶相および第2再結晶相を含み、前記Niめっき層は、前記第1再結晶相の表面上に形成された粒状相および前記第2再結晶相の表面上に形成された平滑相を含み、前記粒状相と平滑相との境界部における酸素濃度が25.0原子%以下であるセラミックス回路基板。」
第1再結晶相:成長方位が回路板の表面の垂直方向に対して±30°以内である結晶子からなり、当該結晶子の長軸長の平均値が100?400μmである相
第2再結晶相:成長方位が回路板の表面の平行方向に対して±30°以内である結晶子からなり、当該結晶子の長軸長の平均値が100?400μmである相」

「【0001】
本発明は、セラミックス基板の一面に銅を主体とした回路板がろう材を介して接合されたセラミックス回路基板の製造方法およびセラミックス回路基板に係る発明である。
【背景技術】
【0002】
かかる技術分野に関連する先行技術が、下記特許文献1?3に開示されている。特許文献1に開示されたセラミックス回路基板は、「セラミックス基板の表面に金属回路板をろう材を介して取着するとともに、該金属回路基板の表面にニッケルめっき層を被着させて成るセラミックス回路基板であって、前記ニッケルめっき層の表面粗さを十点平均粗さ(Rz)で10μm以下としたことを特徴とする」セラミックス回路基板である。また、特許文献1には、そのようなセラミックス回路基板の製造方法として、セラミックス基板にろう材を介して接合された金属回路板を過酸化水素が5?15%添加された3?7%硫酸浴に5?10分間(室温)で酸洗いし、当該金属回路板の表面を十点平均粗さ(Rz)で10μm以下となし、その後無電解めっき法や電界めっき法でニッケルめっき層を金属回路板の表面に形成する製造方法が記載されている。」

「【0007】
すなわち、接合工程は、回路板の出発材である銅からなる回路原板とセラミックス基板とをろう材を介して接合する加熱プロセスである。そして、接合工程では、周知のように、回路原板に付加される熱により回路原板を構成する結晶子は再結晶し、粗粒化する。そして、回路原板をセラミックス基板に接合するため、図3(d)において温度プロファイルPOとして示すように、単に、ろう材が溶融する温度域P5まで昇温すると、接合工程を経て形成されてなる回路板9aには、図5(a)に示すように、回路板9aを鉛直方向(厚み方向)に沿い切断してその切断面を見たとき、回路板9aの表面の垂直方向に対して±30°以内の成長方位を有する結晶子C1を主体とした第1再結晶相N1、回路板9aの表面の平行方向に対して±30°以内の成長方位を有する結晶子C2を主体とした第2再結晶相N2、および結晶子C1の成長方位と結晶子C2の成長方位の間の成長方位を有する結晶子C3を主体とした第3再結晶相N3が生じる場合がある。なお、図5(a)において、符号1eはセラミックス基板、符号1dは、セラミックス基板1eと回路板9aとを接合しているろう材層である。ここで、図5(a)は、接合工程を経た後の回路板9aの組織の模式的な拡大断面図であり、理解のため結晶子C1?C3は矩形状に描いており、また各構成要素のハッチングは省略している(図5(b)および(c)において同様である)。さらに、概念的な図である図5(a)では、第1再結晶相N1および第2再結晶相N2ともに一つの結晶子C1?C3がその成長方向と直交する方向に並列した状態で構成された第1再結晶相N1?第3再結晶相N3となっているが、現実の第1再結晶相N1?第3再結晶相N3では、成長方向においても複数の結晶子C1?C3を有している。」

「【0009】
そして、化学研磨工程後のNiめっき工程において、図5(c)に示すように、回路板9aの表面にNiめっき層9iが被着される。上記のような表面状態の回路板9aの表面に形成されたNiめっき層9iには、上記第1再結晶相N1の表面状態が転写された表面が粗い粒状相M1と、上記第2再結晶相N2の表面状態が転写された表面が平滑な平滑相M2および上記第3再結晶相N3の表面状態が転写された相M3が形成されるとともに、上記第1再結晶相N1と第2再結晶相N2の境界部Kに生じた段差D1や凹部O1も粒状相M1と平滑相M2の境界に転写される。すると、Niめっき工程後の例えば洗浄工程において、上記粒状相M1と平滑相M2の境界に存在する凹部O2や段差D2に水分が残留し、または雰囲気の酸素により選択的に酸化され、溶融半田との濡れ性の悪い酸化層が当該境界部Kに形成されるため溶融半田の濡れ広がりの障壁となり、Niめっき層9iの表面における溶融半田の濡れ広がりを阻害する。」

「【0012】
かかる知見に基づき構成された本発明の一態様は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一面にろう材層を介し接合された銅を主体とした回路板と、前記回路板の表面に被着されたNiめっき層を有するセラミックス回路基板の製造方法であって、ろう材を介しセラミックス基板の一面に回路原板を配置する配置工程と、セラミックス基板の一面に回路原板を加熱し接合する接合工程と、接合工程で形成されてなる回路板を化学研磨する化学研磨工程と、化学研磨工程の後に回路板の表面にNiめっき層を被着するめっき工程と、を含み、前記回路原板は、調質記号1/2H?H相当の銅または銅合金からなる銅板であり、前記接合工程は、その温度プロファイルにおいて、第1の温度域と、前記第1の温度域の後に配置された、ろう材の溶融温度で加熱する第2の温度域とを有し、前記第1の温度域の温度が400?750℃であることを特徴するセラミックス回路基板の製造方法である。」

「【0014】
ここで、上記配置工程において配置される回路原板は、配置工程の後行われる接合工程において回路原板に付加される熱により再結晶して組織が変化し、回路基板を構成する回路板となる回路板の出発材料である。この回路原板としては、定義される調質記号1/2H?H相当の銅または銅合金からなる銅板を選択する。
【0015】
銅または銅合金からなる回路原板の平均結晶粒径は100μm以下とすることが好ましく、より好ましくは50μm以下である。結晶粒径を評価する際のエッチングは、10%硫酸溶液を用い50℃×1minの条件で行った。
【0016】
さらに、上記態様の回路基板の製造方法において、図3(a)に示すように、接合工程の温度プロファイルPAは、ろう材が溶融する温度で加熱する第2の温度域P5の前に、400?750℃の温度で加熱する第1の温度域P3が配置されている。その結果、図4(a)に示すように、接合工程を経て回路原板が加熱することにより形成された接合体3の回路板1aは、成長方位が回路板1aの表面の垂直方向に対して±30°以内である結晶子S1からなり当該結晶子S1の長軸長L1の平均値が100?400μmである第1再結晶相Q1と、成長方位が回路板1aの表面の平行方向に対して±30°以内である結晶子S2からなり当該結晶子S2の長軸長の平均値L2が100?400μmである第2再結晶相Q2とを有することとなる。なお、回路板1aは、図示するように、成長方位が回路板1aの表面に対して傾斜した結晶子S3からなる第3再結晶相Q3も含み、当該結晶子S3の長軸長の平均値も100?400μm程度となっている。
【0017】
このように、特に、それぞれ第1再結晶相Q1および第2再結晶相Q2を構成する結晶子S1,S2の長軸長L1,L2は所定範囲に制御されて結晶子が微細化されるため、その後の化学研磨工程において、図4(b)に示すように、第1再結晶相Q1と第2再結晶相Q2との境界部Kに形成される段差T1および凹部U1は従来の段差O1および凹部D1に比べて非常に小さい。そして、化学研磨工程後、めっき工程を行うことにより、図4(c)に示すように、回路基板1のNiめっき層1iには、上記第1再結晶相Q1の表面上に粒状相R1が、上記第2再結晶相Q2の表面上に平滑相R2が形成される。ここで、上記したように回路板1aの第1再結晶相Q1および第2再結晶相Q2との境界部Kには過大な大きさの段差や凹部が形成されていないので、Niめっき層1iの粒状相R1および平滑相R2の境界部に形成される段差T2および凹部U2は従来の段差O2および凹部D2に比べて非常に小さいので、当該境界部に、溶融半田の濡れ広がりを阻害する酸化層が形成されることが抑制され、もって所望の溶融半田の濡れ広がり性を確保することができる。なお、第1の温度域の温度が400℃未満の場合、および750℃を超える場合、いずれにおいても第1再結晶相および第2再結晶相を構成する結晶子が粗粒化し、その長軸長が400μmを超えるので好ましくない。さらに、第1の温度域の温度域は、500℃?600℃であればより好適である。」

「【0020】
本発明の別の態様は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一面にろう材層を介し接合された銅または銅合金からなる回路板と、前記回路板の表面に被着されたNiめっき層を有するセラミックス回路基板であって、前記回路板は下記で定義される第1再結晶相および第2再結晶相を含み、前記Niめっき層は、前記第1再結晶相の表面上に形成された粒状相および前記第2再結晶相の表面上に形成された平滑相を含み、前記粒状相と平滑相との境界部における酸素濃度が25.0原子%以下であるセラミックス回路基板である。但し、酸素濃度が低すぎると、Niめっき表面に極微量の不動態膜を形成して過剰の酸化を防止することができにくくなる。このため、前記粒状相と平滑相との境界部における酸素濃度が2原子%以上となることが好ましい。一方、酸素濃度が25原子%超となると、半導体素子の実装過程で用いるはんだを酸化させてしまい、所望のはんだ濡れ性が確保できず、半導体素子と回路基板との接合を介するはんだ相内においてボイドが散在する不具合が生じることがある。
第1再結晶相:成長方位が回路板の表面の垂直方向に対して±30°以内である結晶子からなり、当該結晶子の長軸長の平均値が100?400μmである相
第2再結晶相:成長方位が回路板の表面の平行方向に対して±30°以内である結晶子からなり、当該結晶子の長軸長の平均値が100?400μmである相」

「【0026】
加えて、粒状相と平滑相との境界部に形成された段差が1.0?10.0μmであるか、前記粒状相と平滑相との境界部に形成された凹部の深さが5.0?25.0μmであることが望ましい。境界部に形成された段差や凹部の大きさが上位範囲とすることにより、境界部に形成された酸化層による障壁のみならず、境界部に形成された該段差や凹部が物理的な障壁となり溶融半田の濡れ広がりを阻害することを効果的に抑制でき、溶融半田の濡れ広がり性をさらに高めることができる。」

「【0030】
まず、本発明に係る回路基板の基本的構成について、その正断面図である図1(a)および平面図である図1(b)を参照して説明する。なお、図1(a)は、図1(b)のA-A断面図である。回路基板1は、セラミックス基板1eと、セラミックス基板1eの一面に配置されたろう材層1dを介してセラミックス基板1eに接合された銅または銅合金からなる回路板1aと、セラミックス基板1eの他面に配置されたろう材層1fを介してセラミックス基板1eに接合された金属製の放熱板1hと、回路板1aおよび金属製の放熱板1hの表面に形成されたNiめっき層1i,1kとを、その基本的な構成として有している。
【0031】
図1(b)に示すように、回路板1aは、平面方向において形成された間隙1gを介し配置された第1の回路板1bおよび第2の回路板1cの二の銅板で構成されており、これらにより回路パターンが形成されている。なお、回路板1aは、1枚であってもよく、3枚以上であってもよい。ここで、放熱板1hおよびろう材層1fは任意に配置される要素であるが、以下の説明では、ろう材層1dと同一構成のろう材層1fを介して銅またはそ銅合金からなる放熱板1hがセラミックス基板1eに接合された構成の回路基板1の製造方法について説明する。さらに、回路基板の製造工程において、回路板1aおよび放熱板1hに係る各工程の内容は同一であるので、回路板1aに係る内容のみ詳述し、放熱板1hに係る内容の説明は省略する。
【0032】
回路板1aの表面に形成されたNiめっき層の構成をその要旨とする本発明で使用されるセラミックス基板1eの材質は特に限定されず、酸化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体、炭化珪素質焼結体、窒化アルミニウム質焼結体等、基本的に電気絶縁材料からなる焼結体で構成すればよい。しかしながら、回路基板に実装される半導体素子は、近年、発熱量が増大しかつその動作速度も高速化しているため、強度および破壊靭性など機械的強度が高く、高い熱伝導率を有する窒化珪素質焼結体でセラミックス基板1eを構成することが望ましい。
【0033】
窒化珪素質焼結体でセラミックス基板1eを構成する場合には、例えば窒化珪素90?97質量%、MgまたはYその他希土類元素を含む焼結助剤3?10質量%を含む原料粉末に、適量の有機バインダ、可塑剤、分散剤および有機溶剤を添加し、ボールミル等で混合し、スラリーを形成し、当該スラリーをドクターブレード法やカレンダーロール法で成形し、薄板状の成形体であるセラミックスグリーンシートを形成し、しかる後に、セラミックスグリーンシートを所望の形状となるよう打ち抜きまたは裁断をし、1700?1900℃の温度で焼成することにより、窒化珪素質焼結体からなるセラミックス基板1eを得ることができる。なお、以下の実施例・比較例では、セラミックス基板1eとして、全原料粉100重量部においてSi_(3)N_(4)を93質量%、Mgを酸化物換算で4質量%、Yを酸化物換算で3質量%含む、縦横の大きさが其々30mmおよび40mm、厚みが0.32mmの窒化珪素基板を使用した。
【0034】
以下、上記窒化珪素基板を使用した回路基板の製造方法について説明する。
【0035】
[配置工程]
まず、配置工程を行う。図2(a)に示すように、上記セラミックス基板1eの一面にろう材2dを塗布しておく。次いで、ろう材2dを介しセラミックス基板1eの一面に回路原板2aを配置し、被接合体2を形成する。この回路原板2aは、配置工程後に引き続き行われる、回路原板2aとセラミックス基板1eとの接合工程において回路原板2aに付加される熱によりその組織が変化し、回路基板1を構成する回路板1a(図1参照)となる回路板1aの出発材料であり、上記したように調質記号1/2H?H相当の銅または銅合金からなる銅板を使用する。以下の実施例では、回路原板2aとして2種、厚みが0.5mmの無酸素銅基板C1020H材(JIS規格 H3100)で調質記号1/2H相当の回路原板2aおよび同材質で調質記号H相当の回路原板2aを使用した。回路原板2の縦横の大きさは、接合工程における熱膨張を考慮し、各々29.5mmおよび39.5mmとセラミックス基板1eの大きさより小さいものを使用した。また、比較例としては、同材質および同寸法で調質記号のみO相当および1/4H相当の回路原板を使用した。
【0036】
接合工程を経た後にろう材層1d(図1(a)参照)となるろう材2dの材質は、特段限定されないが、代表的には、高強度・高封着性等が得られる、共晶組成であるAgとCuを主体としTi,Zr,Hf等の活性金属を添加したAg-Cu系活性ろう材、さらにセラミックス基板Sと回路板の接合強度の観点から好ましくはこれにInが添加された三元系のAg-Cu-In系活性ろう材を使用することが好ましい。以下の実施例では、表1に示す、溶解温度が異なる3種のろう材としてA?Cの組成となるよう調整されたろう材粉末100質量部に対し、有機バインダとしてアクリル系樹脂を5.3質量部、有機溶剤としてα-テルピネオール19.1質量部、界面活性剤および分散剤0.5質量部を混合したろう材ペーストを使用した。なお、表1には、図3(a)に示す温度プロファイルPAにおいて、ろう材を溶融させる温度である第2の温度域P5の温度を、「第2の温度域 加熱温度」の欄に示している。
【0037】
【表1】



「【0040】
[化学研磨工程]
必要に応じ行うエッチング工程の後、化学研磨工程において、接合工程において形成された接合体の回路板の表面を化学研磨する。なお、この回路板は、上記したように加熱プロセスである接合工程を経て回路原板の組織が再結晶化したものである。化学研磨工程は、接合工程等で荒れた回路板の表面を清浄化し、その平滑性を回復させるために行われるプロセスであり、例えば、接合体を50℃程度の温度で管理された化学研磨液に3?10分程度浸漬して行う。この化学研磨液としては、例えば、硫酸(H_(2)SO_(4))と過酸化水素水(H2O2)からなる混合溶液を用いることができる。そして、第1再結晶相および第2再結晶相の境界部に過大な大きさの段部や凹部を形成させないという点からは、好ましくは硫酸5.0?30.0重量%、過酸化水素2.0?10.0重量%を含む混合溶液を使用することが望ましい。下記の実施例・比較例の化学研磨工程では、硫酸および過酸化水素の組成範囲を変化させつつ、50℃に管理された化学研磨液に接合体を5分間浸漬する条件で化学研磨を行った。
【0041】
[めっき工程]
化学研磨工程の後、図2(c)に示すめっき工程において、回路板1dの表面にNiめっき層1iを被着する。ここで、Niめっき層1iは、電界めっき法・無電解めっき法いずれで形成してもよいが、以下の実施例・比較例では無電解めっき法でNiめっき層1iを形成した。具体的には、化学研磨工程を経た接合体3を、ニッケル(Ni)を主成分としリン(P)の濃度が8重量%に調整された無電解メッキ液を85℃に管理し、その無電解メッキ液中に25分間浸漬し、厚みが5μmのNiめっき層1iが回路板1aの表面に形成された回路基板1を得た。」

「【0044】
有機バインダを除去するための温度域P1の後には、図3(a)に示すように、第1の昇温部P2を介し、400?750℃の範囲で温度が制御される第1の温度域P3が配置され、第1の保持帯P3の後には、第2の昇温部P4を介し、ろう材が溶融する温度、具体的にはろう材の融点に対し25?75℃高い温度範囲から選択される所望の温度で制御される第2の温度域P5が配置されている。ここで、第1の温度域P3は、400?750℃の範囲で温度制御されていればよく、例えば図3(a)に示す温度プロファイルPAの第1の温度域P3のように400?750℃の範囲から選択された一の温度で保持するようにしてもよく、図3(b)に示す温度プロファイルPBの第1の温度域P3のように当該温度範囲の中で序々に昇温するようにしてもよい。また、図3(c)に示す温度プロファイルPCの第1の温度域P3のように、400?750℃の温度の中から選択された一の温度P31を前段で一定に保持し、その後昇温部P32を介し、当該温度範囲の中で選択された前記温度P31よりも高い温度P33で一定に保持するよう、第1の温度域P3の中に二の温度域P31およびP33を設けてもよい。なお、以下の実施例・比較例では、図3(a)に示す温度プロファイルで温度を制御した。
【0045】
第1の昇温部P2の昇温速度は、上記したように2.0?20.0℃/分とすることが好ましい。昇温速度をこの範囲にすることにより、Niめっき層を構成する粒状相および平滑相のうち、Niめっき層の表面における任意の10mm×10mmの領域における粒状相の面積率が40%以下となる。すなわち、理由は不明であるが、第1の昇温部P2の昇温速度を上記範囲にすることにより、回路板を構成する第1再結晶相および第2再結晶相のうち、回路板の表面における任意の10mm×10mmの領域における第1再結晶相の面積率は40%以下となる。ここで、第1再結晶相は、結晶成長方向が回路板の表面の垂直方向に対して±30°以内の結晶子から構成され、その表面に露出した結晶子の粒界が化学研磨工程において侵食されやすい。その結果、Niめっき層のうち上記第1再結晶相の表面上に形成された粒状相は、当該第1再結晶相の表面において結晶子の粒界が腐食した状態が反映され、平滑相の表面粗さ(Ra)が0.1?0.3μm程度であるのに対し、粒状相の表面粗さ(Ra)は1.0?2.0μmと粗い。このため、Niめっき層の表面から選択された10mm×10mmの領域における粒状相の面積率が40%を超えると、溶融半田の濡れ広がり性が低下する。このため、第1の昇温部P2の昇温速度は、2.0?20.0℃/分とすることが好ましい。」

「【0051】
各実施例および比較例で得られた回路基板の特性を表3に示す。なお、回路板を構成する第1再結晶相および第2再結晶相の各々の結晶子の長軸長の平均値は、回路基板を厚み方向に切断し、その回路板の切断面を500番および1000番のエメリー紙で粗研磨、粒径0.1μmのダイヤモンド砥粒で仕上げ研磨、硫酸20質量%および過酸化水素5.5質量%の化学研磨液で化学研磨(エッチング)し、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で撮像して得られた切断面の画像から各々第1再結晶相および第2再結晶相を確認した。そして、第1再結晶相および第2再結晶相各々の相の中から選択した任意の10区画の1mm×1mmの領域にある結晶子の長軸長を確認し、その平均値を求めた。
「【0052】
【表3】



「【0056】
Niめっき層の粒状相と平滑相の境界部に形成された段差または凹部の深さは、当該境界部から選択した任意の10点について、レーザー式3次元評価装置(オリンパス株式会社製、OLS3000)で測定し、その平均値を求めた。
【0057】
溶融半田の濡れ広がり性の指標である濡れ広がり率には次のようにして求めた。Sn3.5質量%、Ag0.5質量%、残部Cuの組成で、縦横が各々10mm、厚みが0.15mmの半田シートを準備し、この半田シートを回路板の表面にセットし、50%H2-50%N2に混合ガス雰囲気中において、270℃×5分間の条件にて加熱し、その後冷却した。そして、回路板の表面において溶融凝固した後の半田面積のA1、半田シート面積をA0とし、(A1/A0)×100を濡れ広がり率とし、溶融前の半田シートに対し、溶融後の半田シートがどの程度濡れ広がったかを評価した。なお、回路板に接続される半導体素子との接合強度の面から、濡れ広がり率は85%以上であることが望ましく、より好ましくは90%以上である。また、回路板への接続時に半導体素子の接続端子同士を短絡させないという点から、濡れ広がり率は120%以下であることが望ましく、より好ましくは110%以下である。
【0058】
表3に示す実施例1?27および比較例1?4によれば、次のことが確認された。回路原板として調質記号が1/2H?H相当の銅または銅合金からなる銅板を用い、第1の温度域が400?750℃である実施例1?27によれば、いずれも回路板を構成する第1再結晶相および第2再結晶相の結晶子の長軸長は100?400μmとなり、Niめっき層の粒状相と平滑相の境界部に形成された段差の深さは10μm以下、凹部の深さは20μmいずれとも小さく、当該境界部における酸素濃度は25%以下となり、その結果濡れ広がり率も85%以上となった。なお、実施例7および8はろう材組成が他の実施例と異なり、ろう材を溶融させる第2の温度域の設定温度が異なるが、同様な結果であった。一方で、第1の温度域が480℃の比較例1、780℃の比較例2、回路原板が調質記号O相当である比較例3、調質記号1/4相当である比較例4においては、いずれも第1再結晶相および第2再結晶相の結晶子の長軸長が400μmを超え、そのためNiめっき層の粒状相と平滑相の境界部に形成された段差の深さは10μmを超えるとともに凹部の深さも25μmを超え、当該境界部における酸素濃度は25%を超え、その結果濡れ広がり率も85%以下となった。」





上記摘記事項の記載より、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されているといえる。
・段落【0030】の記載によれば、「回路基板1は、セラミックス基板1eと、セラミックス基板1eの一面に配置されたろう材層1dを介してセラミックス基板1eに接合された銅または銅合金からなる回路板1aと、セラミックス基板1eの他面に配置されたろう材層1fを介してセラミックス基板1eに接合された金属製の放熱板1hと、回路板1aおよび金属製の放熱板1hの表面に形成されたNiめっき層1i,1kとを」「構成として有している」。
・段落【0032】の記載によれば、「回路基板」には「半導体素子」が実装される。そして、「回路基板」は「回路板1a」を有するものであるから、「半導体素子」が「回路板1a」に実装されるのは明らかである。
・段落【0031】の記載によれば、「放熱板1h」は「銅またはそ銅合金からなる」。
・段落【0041】の記載によれば、「Niめっき層1i」は「厚みが5μm」である。そして、段落【0031】に「回路基板の製造工程において、回路板1aおよび放熱板1hに係る各工程の内容は同一である」と記載されていることを考慮すれば、「回路板1aおよび金属製の放熱板1hの表面に形成されたNiめっき層1i,1k」は「厚みが5μm」である。

上記技術的事項より、甲第1号証には、回路基板として以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「セラミックス基板と、セラミックス基板の一面に配置されたろう材層を介してセラミックス基板に接合された銅または銅合金からなる回路板と、セラミックス基板の他面に配置されたろう材層を介してセラミックス基板に接合された金属製の放熱板と、回路板および金属製の放熱板の表面に形成されたNiめっき層とを有し、
放熱板は銅または銅合金からなり、
半導体素子が回路板に実装され、
回路板および金属製の放熱板の表面に形成されたNiめっき層は厚みが5μmである
回路基板。」

2 甲第2号証
甲第2号証には、「回路基板」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に金属回路、他方の面に金属放熱板が設けられた回路基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の一方の面に前記金属回路を形成し、他方の面に前記金属放熱板を形成した後に化学研磨を行ない、
前記化学研磨を行った後に防錆剤を付与することを特徴とする回路基板の製造方法。」

「【0005】
しかしながら、近年、鉛のもつ有毒性のために、回路基板上に半導体素子を実装する際に用いるはんだとしては、特に鉛レスはんだが広く用いられるようになった。鉛レスはんだは鉛を全く含まず、例えば、錫、銀等を主成分とする。具体的には、Sn-3.5%Ag、Sn-5%Ag-0.5%Cu、Sn-2.5%Ag-1%Bi-0.5%Cu、Sn-8%Zn-3%Bi等が用いられている。この場合、上記の化学研磨と無電解Ni-Pめっきを用いた方法で製造された金属回路上にこれらのはんだ層を形成すると、金属回路表面のめっき層に含まれるP(隣)成分と、鉛レスはんだ層とが反応を起こし脆性層が生成される場合がある。これにより、はんだ層が脆くなり半導体モジュールの信頼性が低下するという問題があった。さらに、無電解Ni-Pめっきの工程を行う場合には、このめっき工程だけでなく、めっき前の脱脂、酸化スケール除去および硫酸パラジュウムあるいは塩化パラジュウム溶液などの触媒付与処理、さらに、セラミックス部分の残留パラジュウムの除去処理等、めっき後にはめっき液を洗浄除去する工程等、これに付随して多数の工程も必要になるため、回路基板製造コストが上昇するという問題もある。従って、このめっきの工程を行わないで信頼性の高い回路基板を製造することが望まれた。
【0006】
本発明は斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、はんだ濡れ性及び耐腐食性に優れ、ワイヤーボンディングが容易にできる回路基板を、めっき工程を用いずに得る回路基板の製造方法を提供し、これによって半導体素子の実装が容易な回路基板、及びこの回路基板を用いた信頼性の高い半導体モジュールを提供することにある。」

「【0008】
本発明は以上のように構成されているので、はんだ濡れ性及び耐腐食性に優れ、ワイヤーボンディングが容易にできる金属回路が形成された回路基板をめっき工程を経ることなしに得ることができる。これによって低コストで信頼性の優れた回路基板を提供することができる。」

「【0021】
次に、防錆剤付与工程を行なう。この工程は、金属回路表面に防錆の効果をもつ防錆層を形成する工程である。このためには、前記の工程を経た基板を例えば有機防錆剤であるベンゾトリアゾール系防錆剤をIPA(イソプロピルアルコール)に溶かした0.5?5%溶液を用い、主に室温(25℃)で0.5?5分間浸漬することにより行われる。ベンゾトリアゾール系防錆剤の具体的な好適例としては、1、2、3-ベンゾトリアゾール、4-メチルベンゾトリアゾール等である。ここで、塩素を含む防錆剤を用いた場合、塩素成分が、はんだ濡れ性およびワイヤーボンディング性を劣化させる不具合があり、また、多湿環境下では防錆効果が維持することができなくなる。したがって、塩素を含む1-クロロ-1、2、3-ベンゾトリアゾールなどの使用は望ましくない。また、防錆剤の形成方法としては、上記の浸漬法の他に、回路基板を減圧環境下において、ベンゾトリアゾールの昇華性を利用して、ベンゾトリアゾール固形物を100?200℃で加熱することで、回路基板表面に蒸着させることも可能である。これらによって、例えば金属回路表面がCuの場合には0.05?10μmの防錆層が形成される。この防錆層によって、金属回路等の表面への酸素供給が遮断されるために、金属回路の腐食が抑制される。また、はんだ濡れ性ならびにワイヤーボンディングの容易さを確保するためにも防錆層の厚さの範囲を制御することが肝要である。また、鉛レスはんだを実装に用いる場合には、Cu回路およびCu放熱板表面のはんだ濡れ性を向上させることが必要となるため、ロジンアミン、ドデシルアミンなどの有機アミン石鹸を用いて、上記の防錆層の範囲に制御することがより望ましい。」

「【0053】
金属配線パターン認識度は、ワイヤーボンダー(MPB-1000:カイジョー製)において金属配線のパターン認識におけるパターン位置精度を調べ、基準位置に対する位置ずれが±0.1mm以下となっている場合を「良好」とした。」

「【0056】
【表2】



上記摘記事項の記載より、甲第2号証には、次の技術的事項(以下、「甲第2号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「セラミックス基板の一方の面に金属回路を形成し他方の面に金属放熱板を形成した後に化学研磨を行ない、化学研磨を行った後に防錆剤を付与することにより、はんだ濡れ性及び耐腐食性に優れ、ワイヤーボンディングが容易にできる回路基板を、めっき工程を用いずに得る」技術。

3 甲第3号証
甲第3号証には、「パワーモジュール用基板」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「[請求項1] 単体又は複数個の金属銅板(12)からなる回路銅板(13)がセラミック基板(11)の一方の主面に接合され、少なくとも1の前記金属銅板(12)上にパワー半導体素子(15)を含む電子部品(17)が接合されると共に、前記電子部品(17)のうちの前記パワー半導体素子(15)と前記金属銅板(12)がボンディングワイヤ(18)で接続されて実装されるパワーモジュール用基板(10,10a,10b)において、
前記金属銅板(12)の少なくとも前記パワー半導体素子(15)が接合される部位の表面に銀又は金を主成分とするコーティング被膜(19)を有すると共に、前記金属銅板(12)の前記ボンディングワイヤ(18)の端部が接続される部位の表面に前記コーティング被膜(19)を有さないことを特徴とするパワーモジュール用基板(10,10a,10b)。」





上記摘記事項の記載より、甲第3号証には、次の技術的事項(以下、「甲第3号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「金属銅板からなる回路銅板がセラミック基板の一方の主面に接合され、金属銅板上にパワー半導体素子が接合されると共に、パワー半導体素子と金属銅板がボンディングワイヤで接続されて実装されるパワーモジュール用基板において、金属銅板のパワー半導体素子が接合される部位の表面に銀又は金を主成分とするコーティング被膜を有すると共に、ボンディングワイヤの端部が接続される部位の表面に前記コーティング被膜を有さないパワーモジュール用基板」とする技術。

4 甲第4号証
甲第4号証には、「金属-セラミックス接合体」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「【請求項1】 セラミックス基板とこのセラミックス基板上にろう材を介して接合された金属板とを有する金属-セラミックス接合体において、金属板の底面からはみ出すろう材の長さが30μmより長く且つ250μm以下であることを特徴とする、金属-セラミックス接合体。」

「【0007】ろう材を介して熱衝撃などに対する信頼性を高めるためには、銅板の端部からろう材をはみ出させることが、金属とセラミックスとの接合においてこれらの熱膨張係数から発生する熱応力の緩和に効果的であることがわかっている。例えば、特開平10-326949号公報には、金属回路板に周縁部の底部と上部における寸法差(金属板の底部の一端における金属板の主面の方向に垂直な面とその一端と同じ側の金属板の上部の一端における金属板の主面の方向に垂直な面との間の距離、すなわち、図5においてaで示す長さであり、上面の面積よりも底面の面積の方が大きい場合を正(+)とする)(本明細書中において「スカート量」という))が50?100μmで、金属板とろう材との接合境界からろう材がはみ出す長さ(図5においてbで示す長さ)(本明細書中において「ろう材はみ出し量」という)が-50?+30μmである構造の基板が提案されている。また、特許第2797011号公報には、金属板とろう材との接合境界からのろう材はみ出し量が250μm以上である構造の基板が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、金属板とろう材との接合境界からのろう材はみ出し量が-30?+50μmであっても、市場の要求に対して十分な耐熱衝撃性が得られない。また、金属板とろう材との接合境界からのろう材はみ出し量が250μm以上では、十分に高い耐熱衝撃性が得られるが、近年の著しい軽薄短小の市場動向においては、このはみ出し量が大きいため、基板の外形寸法も設計上許容し難い大きさとなり、より小さいサイズにしてもはみ出し量が250μmの場合と比べて遜色のない耐熱衝撃性が求められている。
【0009】したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、十分な耐熱衝撃性を確保し、且つ基板の外形が小さく、高信頼性と小型化を両立した金属-セラミックス接合体を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、部品搭載面積をできるだけ大きく設計できるようにろう材のはみ出し量を最適に制御することにより、十分な耐熱衝撃性を確保し、且つ基板の外形が小さく、高信頼性と小型化を両立した金属-セラミックス接合体を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】すなわち、本発明による金属-セラミックス接合体は、セラミックス基板とこのセラミックス基板上にろう材を介して接合された金属板とを有する金属-セラミックス接合体において、金属板の底面からはみ出すろう材の長さが30μmより長く且つ250μm以下、好ましくは50μm乃至200μm、または金属板の底面からはみ出すろう材の長さが金属板の厚さの25%以上、好ましくは30%以上であることを特徴とする。
【0012】上記の金属-セラミックス接合体において、金属板のスカート量が50μm以下であるのが好ましい。セラミックス基板の材料は、酸化物、窒化物または炭化物のいずれかであるのが好ましい。金属板は、Cu、Alまたはこれらを主成分とする合金のいずれかからなるのが好ましい。ろう材は、少なくともAgと活性金属を含むか、あるいは少なくともAlを含むのが好ましい。また、金属板およびろう材の部分にNiめっき、Ni合金めっき、Auめっき、防錆処理の少なくとも一つが施されているのが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明による金属-セラミックス接合体の実施の形態では、セラミックス基板とこのセラミックス基板上にろう材を介して接合された金属板とを有する金属-セラミックス接合体において、金属板の底面からはみ出すろう材の長さが30μmより長く且つ250μm、好ましくは50μm乃至200μm、または金属板の底面からはみ出すろう材の長さが金属板の厚さの25%以上、好ましくは30%以上とする。」

「【0027】次に、この回路パターン間や基板の縁面の不要なろう材を除去するため、1.4%EDTA、6%過酸化水素、3%アンモニアの液組成からなる混合溶液にディップして、ろう材12を除去した(図3(a))。その後、 再度Cu板14の両面に所望の回路パターンのUV硬化アルカリ剥離型レジスト18を塗布し(図3(b))、塩化銅と過酸化水素水と塩酸からなるエッチング液によりCu板14を15分間再度エッチングした(図3(c))。その後、3.5%水酸化ナトリウム水溶液によりレジスト18を除去し(図4(a))、Ni-P無電解メッキ20を施した(図4(b))。」



上記摘記事項の記載より、甲第4号証には、次の技術的事項(以下、「甲第4号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「セラミックス基板とこのセラミックス基板上にろう材を介して接合された金属板とを有する金属-セラミックス接合体において、金属板の底面からはみ出すろう材の長さが30μmより長く且つ250μm以下とすることにより、十分な耐熱衝撃性を確保し、且つ基板の外形が小さく、高信頼性と小型化を両立する」技術。

第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)請求項1について
ア 対比
(ア)甲1発明の「セラミックス基板」は、本件発明1の「セラミックス基板」に相当する。
甲1発明の「セラミックス基板の一面に配置されたろう材層」及び「セラミックス基板の他面に配置されたろう材層」は、セラミックス基板と回路板とを接合する層及びセラミックス基板と放熱板とを接合する層であるから、本件発明1の「接合層」に相当する。
甲1発明の「セラミックス基板の他面に配置されたろう材層を介してセラミックス基板に接合された金属製の放熱板」は、本件発明1の「このセラミックス基板の第1の面」に「接合層を介して接合された第1の金属板」に相当する。
また、甲1発明の「セラミックス基板の一面に配置されたろう材層を介してセラミックス基板に接合された銅または銅合金からなる回路板」は、本件発明1の「このセラミックス基板の」「第2の面」に「接合層を介して接合された」「第2の金属板」に相当する。
そして、甲1発明の「回路基板」は、「セラミックス基板と、セラミックス基板の一面に配置されたろう材層を介してセラミックス基板に接合された銅または銅合金からなる回路板と、セラミックス基板の他面に配置されたろう材層を介してセラミックス基板に接合された金属製の放熱板」を有するから、本件発明1の「セラミックス基板と、このセラミックス基板の第1の面及び第2の面にそれぞれ接合層を介して接合された第1の金属板及び第2の金属板とを備えるセラミックス金属回路基板」に相当する。

(イ)甲1発明において「金属製の放熱板の表面に形成されたNiめっき層」を有することは、本件発明1の「前記第1の金属板の、前記セラミックス基板との接合面の反対側の面に金属被膜が設けられ」ることに相当する。

(ウ)甲1発明の「半導体素子が回路板に実装され」ることは、本件発明1の「前記第2の金属板の、前記セラミックス基板との接合面の反対側の面の一部には半導体素子」「を実装する」「箇所が存在」することに相当する。
ただし、半導体素子を実装する箇所について、本件発明1は、「金属被膜が設けられていない」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(エ)甲1発明が「銅または銅合金からなる回路板」を有し「放熱板は銅または銅合金からな」ることは、本件発明1の「前記第1の金属板及び前記第2の金属板は、それぞれ、銅と、銅合金」「とから選ばれた1種類からな」ることに相当する。

(オ)本件発明1は「前記第1の金属板及び/又は前記第2の金属板の、前記金属被膜が設けられた面の最大高さRzは、1.5μm以下」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(カ)甲1発明の「回路板および金属製の放熱板の表面に形成されたNiめっき層は厚みが5μmである」ことは、本件発明1の「前記金属被膜の平均膜厚は、10μm以下である」ことに含まれる。

以上を総合すると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
「セラミックス基板と、このセラミックス基板の第1の面及び第2の面にそれぞれ接合層を介して接合された第1の金属板及び第2の金属板とを備えるセラミックス金属回路基板において、
前記第1の金属板の、前記セラミックス基板との接合面の反対側の面に金属被膜が設けられ、
前記第2の金属板の、前記セラミックス基板との接合面の反対側の面の一部には半導体素子を実装する箇所が存在し、
前記第1の金属板及び前記第2の金属板は、それぞれ、銅と、銅合金とから選ばれた1種類からなり、
前記金属被膜の平均膜厚は、10μm以下である、
ことを特徴とするセラミックス金属回路基板。」

〈相違点1〉
半導体素子を実装する箇所について、本件発明1は、「金属被膜が設けられていない」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

〈相違点2〉
本件発明1は「前記第1の金属板及び/又は前記第2の金属板の、前記金属被膜が設けられた面の最大高さRzは、1.5μm以下」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み相違点2について検討する。
甲第1号証の段落【0017】に記載されるように、甲1発明は、回路基板のNiめっき層に形成される段差および凹部を非常に小さくすることにより所望の溶融半田の濡れ広がり性を確保するものである。
そして、段落【0026】には、粒状相と平滑相との境界部に形成された凹部の深さが5.0?25.0μmであることが望ましいと記載され、段落【0057】ないし【0058】には、Niめっき層に形成された段差の深さは10μm以下、凹部の深さは20μmで望ましい濡れ広がり率となると記載され、また、【表3】には、実施例におけるNiめっき層の段差が3.2?11.7μm、凹部の深さ(当審注:表3の「凹部」は「凹部の深さ」と認める。)が2.5?26.3μmであることが記載されている。
してみると、甲1発明は、回路基板のNiめっき層に形成される段差が3.2μm以上、凹部の深さが2.5μm以上であっても溶融半田の濡れ広がり性を確保できるものであり、Niめっき層に形成される段差や凹部の深さを、わざわざ甲第1号証に記載された最小値(2.5μm)よりも小さい1.5μm以下とする動機は認められない。
ここで、段落【0056】の記載によれば、Niめっき層の段差または凹部の深さは、任意の10点について測定しその平均値を求めたものであるから、甲第1号証におけるNiめっき層の段差または凹部の深さは、Niめっき層が設けられた面の最大高さRzより小さい値であることは明らかである。
してみると、甲1発明において、Niめっき層が設けられた面の最大高さRzを1.5μm以下とする動機はない。
また、甲第2号証ないし甲第4号証には、上記「第4」の「2」ないし「4」に記載された甲第2号証記載の技術事項ないし甲第4号証記載の技術事項が記載されているものの、金属被膜が設けられた面の最大高さRzを1.5μm以下とすることは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明に甲第2号証記載の技術事項ないし甲第4号証記載の技術事項を適用しても、上記相違点2に係る本件発明1の構成を導き出すことはできない。
そして、本件発明1は、本件明細書の段落【0035】に記載されるように、「金属板表面に金属被膜を設けることにより、最大高さ粗さRzを1.5μm以下、さらには0.8μm以下にすることができる。最大高さ粗さRzを小さくすることにより、放熱部材との密着性を向上させることができる。」ものである。
よって、甲1発明において相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ)小括
以上のことより、相違点1について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)請求項2ないし12について
本件発明2ないし12は、本件発明1にさらに限定した構成を追加したものであるから、相違点2に係る構成を有したものである。よって、上記(1)に示した理由と同じ理由により、請求項2ないし12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)申立人の主張
申立人は特許異議申立書(第31頁第19行?第32頁第19行)において、概略次のように主張している。
本件特許明細書の段落【0035】には、「前述のように接合温度が高い接合方法を用いた場合、銅板やアルミニウム板は2次再結晶まで起きる。2次再結晶粒は平均粒径が200?1000μmになる。この程度の大きな結晶粒となると金属板表面の最大高さ粗さRzが2μm以上となり、さらには4μm以上となってしまう。金属板表面に金属被膜を設けることにより、最大高さ粗さRzを1.5μm以下、さらには0.8μm以下にすることができる。」と記載されるのに対し、実施例及び比較例には、銅板やアルミニウム板の2次再結晶の平均粒径について一切記載されておらず、そのうえ、比較例1では、実施例1と同じ金属板を有する試料1について金属板の表裏に金属被膜を全く設けない金属板の最大高さ(粗さ)Rzは3.5μmと記載され、比較例2では、同じ試料1を用いて表裏に金属被膜を設けた金属板の最大高さ(粗さ)Rzが4.4μmである一方、裏面のみ金属被膜を設けた実施例1では、金属被膜が設けられた面の最大高さ(粗さ)Rzが1.2μmと記載されており、実施例及び比較例を考慮すると、同じ金属板を用いても、金属被膜を形成する箇所や、金属被膜の形成方法によって、最大高さRzは変動すると考えられる。
したがって、本件特許明細書の段落【0035】に記載のとおり、再結晶組織になることにより結晶粒が調整され表面に凹凸が形成された金属板表面に金属被膜を形成すればRzを調整できるのか、それとも、実施例の表等から読み取れるとおり、金属被膜の形成方法がRzに影響を与えるのかが判然としない。
そして、本件特許明細書等には、金属被膜を形成するための条件の中からどの条件に着目し、着目した条件をどのように調整すれば、Rzを小さく調整できるかについて記載されていないので、本件特許明細書等の記載から、最大高さRzが1.5μm以下である金属被膜を得ることは、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とする。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)当審の判断
上記主張について検討する。
本件請求項1では、金属被膜を設けた面の最大粗さRzが1.5μm以下であることを特定しているのであって、金属被膜を設けさえすれば、その面の最大粗さRzが1.5μm以下となることを特定しているのではない。
そして、出願時の技術水準からみて、金属被膜を設けた面の最大粗さRzを1.5μm以下とする手段は当業者が容易に採用し得たものと認められるから、当業者は本件請求項に係る発明を実施できるものと認められる。
つまり、実施例1と比較例2との比較より、金属被膜を形成する箇所や金属被膜の形成方法によって、金属被膜を設けた面の最大高さ粗さRzは変動するものと認められるとしても、金属被膜の形成条件の調整や金属被膜を成膜した後の処理等により、金属被膜を設けた面の最大高さ粗さRzを1.5μm以下とすることは、当業者が過度な試行錯誤をすることなく実施し得ることと認められる。
したがって、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、申立人の主張は採用できない。

(3)まとめ
以上のとおり、請求項1ないし12に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-09-30 
出願番号 特願2017-527123(P2017-527123)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小池 英敏  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 山田 正文
須原 宏光
登録日 2020-11-20 
登録番号 特許第6797797号(P6797797)
権利者 東芝マテリアル株式会社 株式会社東芝
発明の名称 セラミックス金属回路基板およびそれを用いた半導体装置  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  
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