• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23C
審判 全部申し立て 特174条1項  A23C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23C
管理番号 1378774
異議申立番号 異議2021-700564  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-14 
確定日 2021-10-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6799899号発明「風味付きナチュラルチーズの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6799899号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6799899号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年2月10日に出願され、平成30年11月29日付けで拒絶理由通知がされ、平成31年2月1日受付けの手続補正書、意見書が提出され、平成31年2月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和元年6月17日に 拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、令和2年5月25日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年7月22日受付けの手続補正書、意見書が提出され、令和2年10月16日付けで特許すべきものとする審決がなされ、令和2年11月26日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年6月14日に特許異議申立人 白田耕二(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?3に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
チーズカードを塩水中に浸漬させることで加塩する加塩工程を含むナチュラルチーズの製造方法であって、前記加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与することを特徴とする風味付きナチュラルチーズの製造方法。
【請求項2】
前記、塩水中に溶解または均等に分散させる呈味物質が、少なくとも調味料、香料、果汁、野菜汁、アミノ酸のうち、いずれか1以上であることを特徴とする請求項1記載の風味付きナチュラルチーズの製造方法。
【請求項3】
前記ナチュラルチーズが、カビ系チーズ、硬質チーズ、又は、非熟成チーズのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2記載の風味付きナチュラルチーズの製造方法。」
(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明3」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)

第3 申立理由の概要
(1)申立人の主張の概要
申立人は、異議申立書において、証拠として次の甲第1号証?甲第8号証を提出し、次の申立ての理由を主張している。

甲第1号証:Patrick F.Fox, et al.,Gouda and Related Cheeses,CHEESE Chemistry,Physics and Microbiology,2004年,Third Edition,Vol.2,p.112-115(抄訳添付)
甲第2号証:Patrick F.Fox, et al.,Cheese Varieties Ripened in Brine,CHEESE Chemistry,Physics and Microbiology,2004年,Third Edition,Vol.2,p.227-249(抄訳添付)
甲第3号証:特開2007-289085号公報
甲第4号証:特開2011-193838号公報
甲第5号証:特開2011-167183号公報
甲第6号証:特開平1-218544号公報
甲第7号証:“うずらチーズの新生姜漬け(符尾が上向きの八分音符が入る)”,[online],平成24年11月7日に公開したとされるもの,[令和3年5月24日検索],インターネット,<URL:https://cookpad.com/recipe/2019921>
甲第8号証:“ガトー仕立ての*トマト&チーズ*マリネ”,[online],平成21年3月5日に公開したとされるもの,[令和3年5月24日検索],インターネット,<URL:https://cookpad.com/recipe/748304>

理由1-1 本件特許発明1?3は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものである。

理由1-2 本件特許発明1?3は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものである。

理由1-3 本件特許発明1?3は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものである。

理由2 本件特許発明1?3は、甲第1?8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

理由3 本件特許発明1?3にかかる「呈味物質」の範囲が不明確であるため、本件特許発明1?3は明確でないから、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由4 本件特許発明1?3にかかる「呈味物質は、塩水への溶解性が低い材料を含むのに対して、本件特許明細書には、どのようにして呈味物質を塩水中に溶解または均等に分散させるかについての記載がないため、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、その特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由5 本件特許の請求項1?3は、令和2年7月22日受付けの手続補正書によってなされた請求項1?3についての補正が、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、請求項1?3に係る発明についての特許は同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。

第4 甲号証及びその記載

甲第1号証:Patrick F.Fox, et al.,Gouda and Related Cheeses,CHEESE Chemistry,Physics and Microbiology,2004年,Third Edition,Vol.2,p.112-115(抄訳添付)
(訳文にて示す。)

記載(1a)
「ブライニング
最近は、圧搾後1時間以内のカードに残余の乳糖が存在しているときに、チーズが塩水に入れられる。」(113頁左欄20?23行)

記載(1b)
「塩水への浸漬は、主としてチーズに必要な塩分を付与するために行われる。」(113頁右欄9?10行)

記載(1c)
「ねばねばした皮膜の原因となる、チーズタンパク質の溶解を避けるために、塩水は、十分なCa^(2+)(0.2% at 17% NaCl)及び酸(pH4.5)を含有すべきである。」(114頁左欄30?33行)

甲第2号証:Patrick F.Fox, et al.,Cheese Varieties Ripened in Brine,CHEESE Chemistry,Physics and Microbiology,2004年,Third Edition,Vol.2,p.227-249(抄訳添付)
(訳文にて示す。)

記載(2a)
「2. セミハードチーズ(水分量、45-55%):Halloumi(キプロス)、編み込んだMeddafara及びMagdula(シリア、スーダン)、Nabulsi(ヨルダン)」(227頁右欄33?35行)

記載(2b)
「Mish チーズ
・・・
このフレッシュチーズ(Kariesh)は、そのまま消費されるか、あるいは、陶器の容器内の濃縮・加塩したバターミルク(laban zier)に1年以上漬け込まれ、ミッシュを得る(El-Gendy,1983; Abou Donia,1991)。通常、モルタ(boiling-off法によりバターオイル(ghee/samna)を製造した後に残る、凝固したプロテインリッチな沈殿物)、レッドペッパー、パプリカがミッシュチーズの塩水として用いられるバターミルクに加えられる。」(239頁右欄下から3行?240頁左欄12行)

記載(2c)
「Mudaffara チーズ
・・・
酸性にしたカードは、湯(75℃)で茹でられる(5-10分)。熱いペーストにグラッククミン(Nigella sativa)が添加され、これが熱いうちに混練され引き延ばされて、ひもを形成する(2m長)。3本のひもが編み込まれて編み込みを形成し、適当な長さに裁断され、塩水または加塩されたホエイに2日間浸漬される。」(240頁右欄1?23行)

記載(2d)
「Nabulsi チーズ
・・・
チーズのピースは、塩水でボイルされ、ボイル中にマスティック(Pistacia lentiscus)やマフレブ(Prunus mahlab)などのスパイスで香り付けされる。」(241頁左欄1?14行)

甲第3号証:特開2007-289085号公報

記載(3a)
「チーズカードが、乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除し、圧搾脱水した後、細断し、食塩含有溶液にカードを浸漬したもの又は食塩含有溶液をカードに噴霧したものである請求項1記載の繊維状チーズの製造方法。」(請求項3)

記載(3b)
「以上のような状況を鑑み、本発明者らは、3週間程度保管しても繊維性の発現可能な繊維状チーズの原料に関して鋭意研究を行ったところ、乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除した後、食塩をカードに直接添加して得た食塩含量が1?5重量%のチーズカードは、繊維状チーズの原料としての特性を長期にわたって維持することが可能であることを究明し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の構成上の特徴は、乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除した後、食塩をカードに直接添加して1?5重量%の食塩含量のチーズカードを形成する。あるいは、カードをカッティングし、ホエー排除し、圧搾脱水した後、細断し、食塩含有溶液にカードを浸漬したもの又は食塩含有溶液をカードに噴霧して1?5重量%の食塩含量のチーズカードを形成する。このチーズカードを必要に応じて粉砕又はスライスして加熱媒体にて加温し、組織を溶融させて結着させてから、一定の延伸をかけ、棒状又は板状に成形し、冷却・固化させることにある。」(段落0007)

記載(3c)
「本発明においては、乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングしてホエー排除した後、食塩をカードに直接添加し、さらに圧搾脱水するか、あるいは乳に凝乳酵素及び/又は酸を添加して凝固させたカードをカッティングし、ホエー排除し、圧搾脱水した後、細断し、食塩含有溶液にカードを浸漬し、又は食塩含有溶液をカードに噴霧して、食塩含量が1?5重量%のチーズカードを形成し、このチーズカードを必要に応じて粉砕又はスライスして加熱媒体にて加温し、組織を溶融させて結着させてから、一定の延伸をかけ、棒状又は板状に成形し、冷却・固化させて、繊維状チーズを製造する。」(段落0009)

記載(3d)
「このようにして調製したチーズカードを加温し延伸して成形し、冷却して本発明の繊維状チーズを得ることができる。なお、ここでいう延伸とは、チーズカードを一定の方向に引き伸ばすことを言う。例えば、チーズカードを熱水中で練圧し、熱水から取り出した後、押出孔を通して押し出し延伸する方法が、繊維状チーズを連続的に製造することができ好ましい。この場合の熱水としては、カードの品温が40?75℃となるような熱水を用いるのが好ましい。また、チーズカードの練圧は、例えば2軸のエクストルーダーによって行うことができるが、チーズを練圧し延伸できる装置であれば特に限定されない。
押出孔を通して押出し延伸したものは、そのまま、あるいは適当に板状又は棒状等に成形して切断し、必要ならば濃厚食塩水(ブライン)中で加塩する。このブライン浸漬が一般的なチーズ製造における加塩に相当する。チーズカードの状態での加塩量が多い場合には、このブライン浸漬を省略することができる。」(段落0015)

記載(3e)
「風味物質として、油脂成分、香辛料、あるいはフレーバー等を添加することも可能である。さらに、チーズ、チーズフード又は乳等を主要原料とする食品には、細片化したハムやサーモン等の固形食品や、調味料等を配合して風味の変化を図ることもできる。調製したチーズカードを練圧する際や成形後の加塩時に、これらを配合する。」(段落0017)

甲第4号証:特開2011-193838号公報

記載(4a)
「調味付け前の繊維状組織を有するチーズの製造方法に関しては種々提案されているが、繊維状組織を有するチーズの調味付けに関する提案は少く、工業的連続製造において、繊維状組織を有するチーズの調味付け方法としては、浸漬法が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。」(段落0003)

記載(4b)
「(実施例1)
限外濾過して乳タンパクを濃縮した乳をpH5.4以下に酸性化後、ホエーを排除し凝固物を得た。次に、55℃で加熱混練してチーズカードを生成し、その後一定の延伸をかけて直径25mmの棒状に成形する際(50℃)に、内径0.3mmの調味液注入ノズルをチーズの延伸方向に沿って角度をつけて倒し、ノズルをチーズカードの円周に等間隔で4本配置し、チーズカードの外周部から中心への深さが8mmとなるよう挿入し、チーズカード内部に直接的に高塩濃度のスモーク風味の調味液をチーズ100g当り4ml注入後、更に延伸をかけ、直径20mm、長さ100mmでカットし、包装した(実施品1)。対照品としては、実施品1と同様の工程から調味液の注入工程のみを除いた工程で行い、カット後に加塩槽にて高塩濃度のスモーク風味の調味液へ60分間浸漬後、包装した(対照品1)。対照品1は、調味付けと着色を目的とする浸漬工程が必要となり、製造時間も長時間に及び、生産性が低いという課題を有する。また、製品の表面から中心にかけてスモーク風味の調味付けと着色に差が生じるため製品として好ましくない。一方、実施品1は、調味付けの工程が必要なく繊維状組織を有するチーズの製造工程中に調味付けを連続的に行うことができ生産性において極めて優れている。また、繊維状組織を有するチーズの特性である繊維性やシコシコとした非常に好ましい食感を有している。更に、製品全体への均一な調味付けと着色が行われており、引き裂きながら食べても棒状製品の中心まで充分なスモーク風味を有しており、従来の調味付け繊維状チーズには見られない製品全体の風味と着色の均一性に優れた調味付け繊維状チーズとなる。」(段落0022)

記載(4c)
「(実施例3)
限外濾過して乳タンパクを濃縮した乳をpH5.4以下に酸性化後、ホエーを排除し凝固物を得た。次に、55℃で加熱混練してチーズカードを生成し、その後一定の延伸をかけ、幅20mm、長さ60mm、厚さ5mmの板状に成形後(30℃)、長さ28mm、内径0.2mmの調味液注入ノズルを8本、ノズルの開口部複数(ノズルの配置は図2参照)有するインジェクターを両切断面に配置し直接的に高塩濃度のビーフジャーキー風味の調味液をチーズ100g当り4ml注入後、冷風(15℃以下)により水分40%程度まで乾燥させ、包装した(実施品3)。対照品としては、延伸による板状成形までは実施品と同様の工程で行い、板状成形後に高塩濃度のビーフジャーキー風味の調味液へ10分間浸漬後、冷風(15℃以下)により水分40%程度まで乾燥させ、包装した(対照品3)。対照品3は、調味付けを目的とする浸漬工程が必要となり、大型の設備が必要となり、製造時間もやや長時間に及び、生産性が低いという課題を有する。水分40%まで乾燥させるため、製品の表面から中心にかけてビーフジャーキー風味の調味付けの差が目立ち製品として好ましくない。また、表面は調味液の濃度が高いため組織劣化が生じる(まだら、一部脂肪が流出)。一方、実施品3は、浸漬工程が必要なく、かつ製品全体への均一な調味付けが行われており、生産性において優れている。また、繊維状組織を有するチーズの特性である繊維性やシコシコとした非常に好ましい食感を有している。実施品3は、これまでの調味付け繊維状チーズには見られない製品全体の風味の均一性に優れた調味付け繊維状チーズとなる。」(段落0027)

記載(4d)
「(実施例5)
全乳(脂肪率3.5%)を75℃で15秒間加熱殺菌した後、30℃に冷却した。この殺菌乳に塩化カルシウム0.02%を加え、0.5%の乳酸菌スターターを添加した。さらに、凝乳酵素0.003%を加えて30分間静置し、乳を凝固させてカードを得た。このカードをカッティングし、撹拌しながらカード中心温度が36℃になるように温湯を加えた。ホエーを排除後、残ったカードに食塩2.3%を直接添加して混合した。得られたチーズカードを熱水中で60℃に加熱後、エクストルーダーで押出し、延伸して直径25mmの棒状に成形する際に(40℃)、内径0.3mmの調味液注入ノズルをチーズの延伸方向に沿って角度をつけて倒し、ノズルをチーズカードの円周に等間隔で4本配置し(ノズルの配置は図3参照)、チーズカードの外周部から中心への深さが8mmとなるよう挿入し、チーズカード内部に直接的に高塩濃度のスモーク風味の調味液をチーズ100g当り4ml注入後、更に延伸をかけ、直径20mm、長さ100mmでカットし、包装した(実施品5)。対照品としては、延伸による棒状成形までは実施品5と同様の工程で行い、カット後に加塩槽にて高塩濃度のスモーク風味の調味液へ60分間浸漬後、包装した(対照品5)。
対照品5は、調味付けと着色を目的とする浸漬工程が必要となり、製造時間も長時間に及び、生産性が低いという課題を有する。また、製品の表面から中心にかけてスモーク風味の調味付けと着色に差が生じ製品として好ましくない。一方、実施品5は、調味付けの工程が必要なく繊維状組織を有するチーズの製造工程中に調味付けを連続的に行うことができ生産性において極めて優れている。また、繊維状組織を有するチーズの特性である繊維性やシコシコとした非常に好ましい食感を有している。更に、製品全体への均一な調味付けと着色が行われており、引き裂きながら食べても棒状製品の中心まで充分なスモーク風味を有しており、これまでの調味付け繊維状チーズには見られない製品全体の風味と着色の均一性に優れた調味付け繊維状チーズとなる。」(段落0031)

甲第5号証:特開2011-167183号公報

記載(5a)
「生乳を65℃30分間殺菌し、43℃まで冷却、乳酸菌の添加。使用する乳酸菌はストレプトコッカス-サーモフィラス(Streptococcus-thermophilus)をフリーズドライ状の物を2.4g/100Lダイレクト添加する。レンネットは0.0001%?0.0002%添加。上記のように原料乳に乳酸菌とレンネットを添加して乳が凝固したら2?5ミリメートル大に切断し、10分に一回全体が馴染む程度に2回撹拌する。カードが程良い硬さになったら、ホエイを排除し、カードをマッティングする。このようにして得られたカードを、80?90℃の熱水で練上げ繊維状の組織を生成させる。練り上げたカードを10℃以下冷水で良く冷やし、繊維状の組織をもつカードにする。この状態の繊維状チーズを、紐ないし極細繊維状で直径8mm?0.5mm、長さ10mm?200mmの状態まで手で裂き解してゆく。この状態で出来た繊維状チーズを、紐ないし極細繊維状で直径8mm?0.5mm、長さ10mm?200mmの状態まで手で裂き、繊維状チーズ素材に調味料の浸み込む味付けをする場合でも、水:醤油=1:1の濃さで、10℃?15℃の温度に10?15秒間の短時間で均一に味・色が浸み込み、かつチーズの味・風味は損なわない乾燥チーズで、保存場所も限られること無く長期常温保存が可能になることを特徴とする烏賊の珍味様の常温保存繊維状チーズの製造方法。」(請求項1)

甲第6号証:特開平1-218544号公報

記載(6a)
「2 特許請求の範囲
1. イ.野菜に塩ふりしたものを水洗して水を
切る。
ロ.水を切った野菜にキムチにする為に調合した
キムチのタレを塗る。
ハ.チーズの切り方形状いかんを問わずチーズ
にキムチにする為の調味料を混合させたキム
チのタレを塗る。
ニ.キムチのタレの付いた野菜とキムチのタレの付い
たチーズとを同時に付け込む。
以上のごとく講成された野菜とチーズのキム
チ漬。」(特許請求の範囲)

甲第7号証:“うずらチーズの新生姜漬け(符尾が上向きの八分音符が入る)”,[online],平成24年11月7日に公開したとされるもの,[令和3年5月24日検索],インターネット,<URL:https://cookpad.com/recipe/201921>

記載(7a)
「作り方
1 うずらの卵はゆでて皮をむく。新生姜は食べやすい大きさにカット、チーズも大きさを合わせてカット。
2 ジップ袋に1の材料を入れ、材料が浸るくらいの量の新生姜の漬け汁を加え、空気を抜き、冷蔵庫で寝かせる。(2時間?1晩)
3 ピックにさして、完成!(うずらの卵はお好みで半分にカットしてください)」(‘作り方’の項)

甲第8号証:“ガトー仕立ての*トマト&チーズ*マリネ”,[online],平成21年3月5日に公開したとされるもの,[令和3年5月24日検索],インターネット,<URL:https://cookpad.com/recipe/748304>

記載(8a)
「作り方
1 洗って水けをふいたプチトマトの底に、浅く十字の切れ目を入れる。チーズは小さめのサイコロ状に切る。
2 お酢・はちみつ・塩・胡椒を合わせたら、オリーブオイルを加えよく混ぜる。
3 2のマリネ液に、トマト・チーズを30分以上漬ければ出来上がり。」(‘作り方’の項)

第5 新規事項の追加(理由5)について
1 判断
令和2年7月22日受付け手続補正書により、請求項1の記載「前記加塩工程において、塩水中に溶解または均等に分散される性質を有する呈味物質を、使用する塩水に添加することで風味を付与する」が、「前記加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」に補正された。
「前記加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」との記載に変更する補正が、本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてしたものであるかについて検討する。
本件特許にかかる出願の願書に最初に添付した明細書の段落0011には、「また、本発明で使用できる呈味物質は、目的とする風味に合わせて適宜選択すればよいが、例えば各種の香料や調味料、果汁、野菜汁、グルタミン等のアミノ酸などが挙げられる。これらの呈味物質は、単一の呈味物質のみを用いても良いし、複数の呈味物質を組み合わせて用いても良い。呈味物質は、安定して多量のチーズを製造する場合には塩水中に溶解または均等に分散される性質を有することが望ましいが、少量生産を目的とする場合には特に制限はない。また、呈味物質の塩水への添加量についても目的とする風味に合わせて適宜調整すればよい。」との記載があるから、加塩工程に用いられる呈味物質として、「塩水中に溶解または均等に分散される性質を有する」ものを用いることが記載されている。そして、本件特許にかかる出願の願書に最初に添付した明細書の段落0016には、実施例3として、「混練後のチーズを、旨み調味料を添加した1.0%塩水に30分間浸漬し、旨みを強化したモザレラチーズを得た。」との、呈味物質である旨み調味料を塩水に添加して、その旨み調味料が添加された塩水にチーズを浸漬する加塩工程を行ったことが記載されている。ここで、旨み調味料とは、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸、又はそれらの塩等のうま味物質を精製し、溶けやすくした調味料であり、塩水に溶解するものであることは技術常識である。
してみると、段落0016には、加塩工程において、段落0011に記載された「塩水中に溶解または均等に分散される性質を有する」呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与することが記載されているといえるから、「前記加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」点は、当初明細書等に記載された事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではない。

2 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書40頁11行?41頁11行において、「本件特許の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という)の段落【0011】には、「呈味物質は、安定して多量のチーズを製造する場合には塩水中に溶解または均等に分散される性質を有することが望ましいが、少量生産を目的とする場合には特に制限はない。また、呈味物質の塩水への添加量についても目的とする風味に合わせて適宜調整すればよい。」と記載されている。この段落【0011】には、呈味物質として望ましい材料の性質が記載されていると言えるが、呈味物質が塩水中に溶解または均等に分散される性質を有することと、補正後の請求項1に記載される「呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させ」ることとは同義ではない。・・・
また、呈味物質として、塩水中に溶解する性質を有する材料を使用するとしても、呈味物質の添加量や、呈味物質の粒子(塊)の大きさ、塩水の温度によっては、必ずしも呈味物質が溶解するとは限らない。したがって、当初明細書の段落【0011】に、塩水中に溶解または均等に分散される性質を有する呈味物質が望ましいことが記載されているからといって、当該記載が、呈味物質を「塩水中に溶解または均等に分散させ」ることの根拠にはなり得ない。
これらの理由から、令和2年7月22日付手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。」と主張している。
しかしながら、上記1で検討したとおり、「前記加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」点は、当初明細書等に記載された事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、上記主張は採用できないから、上記1で検討したとおり、「前記加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」との記載に変更する補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものである。

第6 明確性要件(理由3)について
1 判断
本件特許発明の「呈味物質」との用語が明確であるかについて検討する。
「呈味物質」とは、その言葉のとおり、味を呈する物質のことであると理解できる。
そして、請求項1には「呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」との記載があり、請求項2?3も請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明にかかる「呈味物質」は、風味を付与するものであって、塩水中に溶解又は均等に分散されるものである。
してみると、本件特許発明にかかる「呈味物質」は、風味を付与するものであって、塩水中に溶解又は均等に分散される、味を呈する物質のことであり、その範囲は明確である。
そして、そのほかにも、本件特許発明に不明確な記載はないことから、本件特許発明1?3は、明確である。

2 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、呈味物質なる技術用語が、本件特許明細書の段落0011に記載された以外に如何なる物質を含むものであるかが不明であり、呈味物質の技術的範囲を確定することができない旨主張している。
しかしながら、上記1で検討したとおり、本件特許発明の「呈味物質」は、風味を付与するものであって、塩水中に溶解又は均等に分散される、味を呈する物質のことであり、明確である。
よって、上記主張は採用できないから、上記1で検討したとおり、本件特許発明1?3は、明確である。

第7 実施可能要件(理由4)について
1 判断
本件特許発明1?3において、製造方法を構成する工程として唯一特定されている、「加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」ことについて、本件明細書の発明の詳細な説明に、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているかを検討する。
上記第6で検討したとおり、本件特許発明の「呈味物質」は、風味を付与するものであって、塩水中に溶解又は均等に分散される、味を呈する物質のことである。
かかる「呈味物質」を用いるのであるから、加塩工程において、「呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」ことを実施できると、当業者は理解する。
そして、本件特許発明には、このほかにも、当業者が実施することができないとする理由は見出せない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

2 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書39頁16?24行において、「本件特許の請求項1に記載の「呈味物質」は、油溶性の香料や調味料、乳化した香料や調味料、固形分を含む果汁や野菜中のような塩水への溶解性が低い材料を含むのに対して、本件特許明細書には、どのようにして呈味物質を塩水中に溶解または均等に分散させるかについて記載がない。したがって、本件特許明細書における発明の詳細な説明は、経済産業省令に定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」と主張している。
しかしながら、上記第6で検討したとおり、本件特許発明の「呈味物質」は、風味を付与するものであって、塩水中に溶解又は均等に分散される、味を呈する物質のことである。かかる「呈味物質」を用いるのであるから、呈味物質が塩水中に溶解または均等に分散されることは当業者によって理解されることである。
よって、上記主張は採用できないから、上記1で検討したとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

第8 新規性(理由1)、進歩性(理由2)について
1 甲第1号証を主引用例とした場合について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、ゴーダチーズまたはゴーダチーズ類の製造において、塩分を付与するために、チーズが塩水に浸漬されることが記載されており(記載(1a)、(1b))、チーズタンパク質の溶解を避けるために、塩水は、十分なカルシウムイオン及び酸を含有すべきことが記載されている(記載(1c))。
よって、甲第1号証には、
「チーズカードを塩水中に浸漬させることで加塩する加塩工程を含むゴーダチーズの製造方法であって、前記加塩工程は、カルシウムイオン及び酸を含有する塩水で行われる、ゴーダチーズの製造方法。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

(2)対比・判断
新規性について
(ア)本件特許発明1について
ゴーダチーズが硬質系ナチュラルチーズであることは、技術常識である。
また、上記第6で検討したように、本件特許発明における「呈味物質」とは、風味を付与するものであって、塩水中に溶解又は均等に分散される、味を呈する物質のことである。
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は、「チーズカードを塩水中に浸漬させることで加塩する加塩工程を含むナチュラルチーズの製造方法」である点で一致し、
前者は加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与するのに対して、後者は塩水工程を、カルシウムイオン及び酸を含有する塩水で行う点(以下、「相違点1」という。)で相違する。
上記相違点1について検討すると、甲第1号証には、カルシウムイオン及び酸は、ねばねばした皮膜の原因となる、チーズタンパク質の溶解を避けるために含有されるものであることは記載されているものの(記載(1c))、カルシウムイオン及び酸を、風味を付与する目的で用いることや、カルシウムイオン及び酸が、呈味物質であることを示す記載はない。また、カルシウムイオン及び酸が、必ず風味を付与する目的で用いられるものであるという技術常識も存在しない。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(イ)本件特許発明2?3について
本件特許発明2?3は、本件特許発明1を引用し、さらに技術的に限定するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明ではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の25頁9?12行において、「甲1発明におけるカルシウムイオンは、苦み様の特有の味を呈するものであり、酸は酸味を呈するものである。したがって、甲1発明におけるカルシウムイオン及び酸味(「酸」の誤記と考えられる)は、本件特許発明1に係る呈味物質に相当する。」と主張している。
しかしながら、上記第6で述べたとおり、本件特許発明にかかる「呈味物質」は、単に味を呈する物質ではなく、風味を付与するもの、つまり、風味を付与する目的で用いられるものである。そして、上記(ア)で検討したとおり、甲第1号証には、カルシウムイオン及び酸を、風味を付与する目的で用いることや、カルシウムイオン及び酸が、風味を付与する目的で用いられる呈味物質であることを示す記載はない。
よって、上記主張は採用できないから、上記(ア)及び(イ)で検討したとおり、本件特許発明1?3は、甲第1号証に記載された発明ではない。

進歩性について
(ア)本件特許発明1について
上記ア(ア)で検討したとおり、本件特許発明1と甲1発明を対比すると、上記相違点1で相違する。
上記相違点1について検討する。
甲第1号証には、カルシウムイオン及び酸を、風味を付与する目的で用いることや、カルシウムイオン及び酸が、呈味物質であることを示す記載はない。また、甲第2?8号証の記載をみても、甲1発明において、風味を付与する目的で呈味物質を加塩工程における塩水に添加する動機付けとなる記載は見当たらない。
よって、本件特許発明1は、甲第1?8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件特許発明2?3について
本件特許発明2?3は、本件特許発明1を引用し、さらに技術的に限定するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1?8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、チーズカードを浸漬する塩水中に呈味物質を添加して、チーズカードに所望の風味付けを行うことは、従来一般的に行われている手法に過ぎず、「加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」ことは、甲第2?8号証に示すとおり本件特許の出願前に公知な事項であるから、甲第1号証において、カルシウムイオン及び酸に加えて、あるいは、カルシウムイオン及び酸に代えて、チーズカードを浸漬させる塩水に、甲第2?8号証に記載される呈味物質を配合することに特段の困難性は認められない旨主張している。
しかしながら、甲第2?8号証は、ナチュラルチーズの製造方法の「加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与する」ことが記載されたものでもなく、甲1発明において、甲第2?8号証に記載の物質を用いることの動機付けとなる記載も見当たらない。
よって、上記主張は採用できないことから、上記(ア)及び(イ)で検討したとおり、本件特許発明1?3は、甲第1?8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 甲第2号証を主引用例とした場合について
(1)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、Nabulsiチーズの製造方法において、チーズのピースは、塩水でボイルされ、ボイル中にマスティックやマフレブなどのスパイスで香り付けされることが記載されている(記載(2d))。そして、甲第2号証には、Mishチーズの製造方法として、フレッシュチーズであるKarieshを、濃縮・加塩したバターミルクに1年以上漬け込むことが記載されており、通常、モルタ、レッドペッパー及びパプリカがMishチーズの塩水として用いられるバターミルクに加えられることが記載されている(記載(2b))。さらに、甲第2号証には、Mudaffaraチーズの製造方法として、カードを茹で、熱いペーストにブラッククミンが添加され、混練されて引き延ばされて得られたひもを編み込んで裁断したものを、加塩されたホエイに浸漬することが記載されている(記載(2c))。
そして、塩水でボイルされるか、加塩されたバターミルク又は加塩されたホエイに漬け込まれれば、チーズが加塩されることは当然である。
よって、甲第2号証には、
「チーズカードを加塩したホエイに浸漬させることで加塩する加塩工程を含むMudaffaraチーズの製造方法。」の発明(以下、「甲2-A発明」という。)、
「チーズカードを塩水中で浸漬させてボイルすることで加塩する加塩工程を含むNabulsi チーズの製造方法であって、前記加塩工程において、マスティックやマフレブなどのスパイスをボイルに使用する塩水に添加し、香り付けするNabulsiチーズの製造方法。」の発明(以下、「甲2-B発明」という。)及び
「チーズカードを濃縮・加塩したバターミルクに浸漬させることで加塩する加塩工程を含むMishチーズの製造方法であって、前記加塩工程において、モルタ、レッドペッパー、パプリカを使用する濃縮・加塩したバターミルクに添加するMishチーズの製造方法。」の発明(以下、「甲2-C発明」という。)
が記載されているといえる。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)甲2-A発明について
本件特許発明1と甲2-A発明を対比する。
甲2-A発明の「Mudaffaraチーズ」は、その製造方法にナチュラルチーズの加熱溶解の工程がないことから明らかなように、本件特許発明1の「ナチュラルチーズ」に相当する。
また、ホエイは水を主体としたものであるから、甲2-A発明の、加塩されたホエイは、本件特許発明1の「塩水」に相当する。
そうすると、両者は「チーズカードを塩水中で浸漬させることで加塩する加塩工程を含むナチュラルチーズの製造方法。」である点で一致し、
前者は加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与するのに対して、後者は加塩工程において、加塩したホエイを用いる点(以下、「相違点2」という。)で相違する。
上記相違点2について検討する。甲第2号証には、Mudaffaraチーズの製造において、ホエイを風味を付与するために用いることは記載されておらず、ホエイが必ず風味付与に用いられるという技術常識も存在しない。また、加塩したホエイが、呈味物質を塩水に添加するという工程を経て得られるものであるとも認められない。
よって、上記相違点2は、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(イ)甲2-B発明について
本件特許発明1と甲2-B発明を対比する。
甲2-B発明の「Nabulsiチーズ」は、記載(2a)に記載されているように、セミハードチーズであり、「セミハードチーズ」は、ナチュラルチーズの一種に対する呼称であるから、Nabulsiチーズは、本件特許発明1の「ナチュラルチーズ」に相当する。また、甲2-B発明における、チーズの製造方法におけるスパイスによる「香り付け」は、本件特許発明1の「風味を付与する」ことに相当する。
そうすると、両者は「チーズカードを塩水中で浸漬させることで加塩する加塩工程を含むナチュラルチーズの製造方法であって、前記加塩工程において、物質を、使用する塩水に添加し、風味を付与する風味付きナチュラルチーズの製造方法。」である点で一致し、
前者は呈味物質を塩水中に溶解または均等に分散させているのに対して、後者はマスティックやマフレブなどのスパイスを使用する塩水に添加している点(以下、「相違点3」という。)で、相違する。
上記相違点3について検討すると、甲第2号証には、マスティックやマフレブが塩水中に溶解することや、均等に分散されることを示す記載はない。また、マスティックは、樹脂状のスパイスであり、マフレブは植物の種からなるスパイスであるところ、これらが、塩水に添加されれば、必ず溶解するか、均等に分散されるという技術常識も存在しない。
よって、上記相違点3は、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(ウ)甲2-C発明について
本件特許発明1と甲2-C発明を対比する。
チーズは、ナチュラルチーズとプロセスチーズに大別され、プロセスチーズ以外のものはナチュラルチーズである。そして、プロセスチーズとは、一種又は複数種のナチュラルチーズを加熱溶解して乳化し、成形したもののことをいう。
甲2-C発明の「Mishチーズ」は、その製造方法にナチュラルチーズの加熱溶解の工程がないことからも明らかなように、本件特許発明1の「ナチュラルチーズ」に相当する。
また、一般的には、バターミルクは、水を主体としたものであるから、甲2-C発明の、濃縮・加塩されたバターミルクは、本件特許発明1の「塩水」に相当する。
そうすると、両者は「チーズカードを塩水中で浸漬させることで加塩する加塩工程を含むナチュラルチーズの製造方法であって、前記加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加するナチュラルチーズの製造方法。」である点で一致し、
前者は呈味物質を塩水中に溶解または均等に分散させてチーズに風味を付与しているのに対して、後者はモルタ、レッドペッパー、パプリカを塩水に添加している点(以下、「相違点4」という。)で相違する。
上記相違点4について検討すると、甲第2号証には、モルタ、レッドペッパー、パプリカが、塩水に溶解または均等に分散されることや、風味の付与を目的として加えられることを示す記載はない。また、モルタは、凝固したプロテインリッチな沈殿物であるから、必ず塩水に溶解または均等に分散されるとはいえないものである。レッドペッパー及びパプリカは、果実を細かくしない状態でそのまま用いることも一般的に行われている食材であることから、塩水であるバターミルクに必ず溶解または均等に分散されるものとはいえない。そして、パプリカは、着色を目的として用いられることもある食材であるから、甲2-C発明において、必ず風味の付与を目的として加えられたものであるとは言えない。
よって、モルタ、レッドペッパー、パプリカが、塩水であるバターミルクに溶解または均等に分散されて、風味を付与しているとはいえないことから、上記相違点4は、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。

イ 本件特許発明2?3について
本件特許発明2?3は、本件特許発明1を引用し、さらに技術的に限定するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)甲2-A発明について
申立人は、特許異議申立書の27頁9?16行において、Mudaffaraチーズに関する申立人のいう甲2-1発明について、
「加塩されたホエイは、タンパク質であるホエイを含有する塩水に相当する。塩水に含まれるホエイは、薄い牛乳の様な味を呈するものであるから、本件特許発明1の呈味物質に相当する。また、ホエイは、塩水中に溶解または均等に分散するものである。
したがって、甲2-1発明に係る製造方法においては、「呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解又は均等に分散させて、風味を付与」している。」
と主張している。
しかしながら、本件特許発明は、呈味物質を、使用する塩水に添加する工程を有するものである。Mudaffaraチーズに関する甲2-A発明では、呈味物質が添加される対象である塩水に相当するものは、加塩したホエイであって、そのほかに塩水に相当するものはないことから、ホエイは塩水に添加される呈味物質とはなり得ない。また、甲第2号証には、Mudaffaraチーズの製造において、ホエイを風味を付与するために用いることは記載されておらず、ホエイが必ず風味付与に用いられるという技術常識も存在しないことからも、ホエイが呈味物質であるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できないから、上記ア(ア)及びイで検討したとおり、本件特許発明1?3は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(イ)甲2-B発明について
申立人は、特許異議申立書28頁2?8行において、Nabulsiチーズに関する申立人のいう甲2-2発明について、
「甲2-2発明におけるマスティックやマフレブなどのスパイスは、本件特許発明1の呈味物質に相当する。また、これらのスパイスは、塩水中に均等に分散していると考えられる。
したがって、甲2-2発明に係る製造方法においては、「呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解又は均等に分散させて、風味を付与」している。」
と主張している。
しかしながら、スパイスには、多種多様なものがあり、全てのスパイスが、塩水中に溶解または均等に分散されるとはいえない。また、甲2-B発明で具体的に記載されているスパイスである、マスティックは、樹脂状のスパイスであり、マフレブは、植物の種からなるスパイスであるところ、これらが、塩水に添加されれば、必ず溶解するか、均等に分散されるという技術常識も存在しない。してみると、甲2-B発明のスパイスが、塩水に溶解又は均等に分散されるものであるとは認められない。
よって、申立人の上記主張は採用できないから、上記ア(イ)及びイで検討したとおり、本件特許発明1?3は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(ウ)甲2-C発明について
申立人は、特許異議申立書の28頁25行?29頁5行において、Mishチーズに関する申立人のいう甲2-3発明について、
「甲2-3発明における加塩したバターミルクは、バターミルクの成分を含む塩水に相当する。また、甲2-3発明におけるモルタやレッドペッパー、バターミルクは、本件特許発明1の呈味物質に相当するものであり、塩水中に溶解または均等に分散していると考えられる。
(g)したがって、甲2-3発明に係る製造方法においては、「呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解又は均等に分散させて、風味を付与」している。」
と主張している。
しかしながら、本件特許発明は、呈味物質を、使用する塩水に添加する工程を有するものである。Mishチーズに関する甲2-C発明では、呈味物質が添加される対象である塩水に相当するものは、加塩したバターミルクであって、そのほかに塩水に相当するものはないことから、ホバターミルクは塩水に添加される呈味物質とはなり得ない。
そして、上記ア(ウ)で検討したとおり、モルタ、レッドペッパー、パプリカは、塩水であるバターミルクに溶解または均等に分散されて、風味を付与しているとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できないから、上記ア(ウ)及びイで検討したとおり、本件特許発明1?3は、甲第2号証に記載された発明ではない。

3 甲第3号証を主引用例とした場合について
(1)甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、繊維状チーズの製造方法において、チーズカードを必要ならば濃厚食塩水(ブライン)中で加塩することが記載されている(記載(3a)?(3c))。
よって、甲第3号証には、
「チーズカードを食塩水中に浸漬させることで加塩する加塩工程を含む繊維状チーズの製造方法。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明の繊維状チーズは、その製造方法から、本件特許発明1の「ナチュラルチーズ」に相当する。
そうすると、両者は、「チーズカードを塩水中に浸漬させることで加塩する加塩工程を含むナチュラルチーズの製造方法。」である点で一致し、
前者は加塩工程において、呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与するのに対して、後者は呈味物質を、使用する塩水に添加し、塩水中に溶解または均等に分散させて、風味を付与することを特定していない点(以下、「相違点5」という。)で相違する。
上記相違点5について検討すると、甲第3号証には、繊維状チーズは風味物質として、香辛料やフレーバー等を添加することも可能であり、調味料等を配合して風味の変化を図ることもできること、調製したチーズカードを練圧する際や成形後の加塩時に、これらを配合することが記載されている(記載(3d))。
しかしながら、甲第3号証には、加塩工程の塩水中に呈味物質を添加する点が記載されていない。
よって、上記相違点5は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明ではない。

イ 本件特許発明2?3について
本件特許発明2?3は、本件特許発明1を引用し、さらに技術的に限定するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第3号証に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の31頁1?6行において、「甲第3号証には、甲3発明として、
「チーズを塩水中に浸漬させることで加塩する加塩工程を含むナチュラルチーズの製造方法であって、
前記加塩工程において、風味物質や調味料を、使用する塩水に添加し、風味を付与することを特徴とする、
ナチュラルチーズの製造方法。」が記載されている。」
と主張している。
しかしながら、上記アで述べたとおり、甲第3号証には、加塩工程の塩水中に調味料等の呈味物質を添加する点が記載されていない。
よって、申立人の上記主張は採用できないから、上記ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1?3は、甲第3号証に記載された発明ではない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-10-04 
出願番号 特願2015-24021(P2015-24021)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23C)
P 1 651・ 536- Y (A23C)
P 1 651・ 113- Y (A23C)
P 1 651・ 55- Y (A23C)
P 1 651・ 121- Y (A23C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 冨永 みどり
吉岡 沙織
登録日 2020-11-26 
登録番号 特許第6799899号(P6799899)
権利者 雪印メグミルク株式会社
発明の名称 風味付きナチュラルチーズの製造方法  
代理人 特許業務法人 もえぎ特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ