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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1379161
審判番号 不服2019-17470  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-24 
確定日 2021-10-13 
事件の表示 特願2015-210897「表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月23日出願公開、特開2016- 91026〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)10月27日(パリ条約による優先権主張2014年11月 7日、韓国)の出願であって、その出願後の手続の経緯の概略は、次のとおりである。
平成31年 4月22日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 8月 5日 :手続補正書、意見書の提出
令和 元年 8月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(原査定の謄本の送達日:令和元年 9月 3日)
令和 元年12月24日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年12月10日付け:審尋


第2 令和元年12月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年12月24日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和元年12月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするものである。本件補正により、本件補正前(令和元年8月5日にされた手続補正後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。

(1)本件補正前
「複数の画素が配列された表示パネルであって、各画素がゲートライン及びデータラインに連結された薄膜トランジスタ、並びに前記薄膜トランジスタに連結された表示素子を含む表示パネルと、
ゲートオン電圧及び複数のゲートオフ電圧を生成する駆動電圧発生部と、
初期駆動区間を複数の設定区間に分割し、前記複数の設定区間の各々に対応して該当するレベルのゲートオフ電圧を出力するように制御するタイミングコントローラと、
前記ゲートオン電圧及び前記複数の設定区間の各々に対応するゲートオフ電圧を用いてゲート信号を生成し、前記ゲートラインに前記ゲート信号を出力するゲート駆動回路と、
前記設定区間の開始時点で周辺温度をセンシングする温度センサーと、
前記センシングされた周辺温度に対応して少なくとも1つの補償電圧レベルを格納する温度補償部と、を備え、
前記複数の設定区間の各々に対応するゲートオフ電圧のレベルは、前記初期駆動区間における駆動時間が増加するほどネガティブ方向に移動し、
前記複数の設定区間のうちの第1設定区間に対応する第1ゲートオフ電圧のレベルは、他の設定区間におけるレベルと比較して最も0Vに近いネガティブレベルを有し、
前記駆動電圧発生部は、
前記周辺温度が増加するほどネガティブ方向に移動する補償電圧レベルに基づいて温度補償電圧を生成し、
前記複数の設定区間の各々の温度補償電圧を該当するゲートオフ電圧に加算して前記ゲート駆動回路に提供することを特徴とする表示装置。」

(2)本件補正後
「 複数の画素が配列された表示パネルであって、各画素がゲートライン及びデータラインに連結された薄膜トランジスタ、並びに前記薄膜トランジスタに連結された表示素子を含む表示パネルと、
ゲートオン電圧及び複数のゲートオフ電圧を生成する駆動電圧発生部と、
初期駆動区間を複数の設定区間に分割し、前記複数の設定区間の各々に対応して該当するレベルのゲートオフ電圧を出力するように制御するタイミングコントローラと、
前記ゲートオン電圧及び前記複数の設定区間の各々に対応するゲートオフ電圧を用いてゲート信号を生成し、前記ゲートラインに前記ゲート信号を出力するゲート駆動回路と、
前記複数の設定区間の各々の開始時点で周辺温度をセンシングする温度センサーと、
前記センシングされた周辺温度に対応して少なくとも1つの補償電圧レベルを格納する温度補償部と、を備え、
前記複数の設定区間は、少なくとも第1設定区間、第2設定区間、及び第3設定区間を含み、
前記複数の設定区間の各々に対応するゲートオフ電圧のレベルは、前記初期駆動区間における駆動時間が増加するほどネガティブ方向に移動し、
前記複数の設定区間のうちの第1設定区間に対応する第1ゲートオフ電圧のレベルは、他の設定区間におけるレベルと比較して最も0Vに近いネガティブレベルを有し、
前記温度センサーは、前記第1設定区間の第1温度、前記第1温度よりも低い前記第2設定区間の第2温度、及び前記第2温度よりも低い前記第3設定区間の第3温度をセンシングし、
前記温度補償部は、前記第1温度に対応する第1補償電圧、前記第1補償電圧よりも低い前記第2温度に対応する第2補償電圧、及び前記第2補償電圧よりも低い前記第3温度に対応する第3補償電圧を格納し、
前記駆動電圧発生部は、
第1補償電圧レベルに基づく第1温度補償電圧、第2補償電圧レベルに基づく前記第1温度補償電圧よりも低い第2温度補償電圧、及び第3補償電圧レベルに基づく前記第2温度補償電圧よりも低い第3温度補償電圧を生成し、
前記複数の設定区間の各々の温度補償電圧を該当するゲートオフ電圧に加算して前記ゲート駆動回路に提供することを特徴とする表示装置。」


2 本件補正の適否
(1)審尋
当審は、令和2年12月10日付けで次の内容の審尋を行ったところ、請求人は応答をしなかった。

<令和2年12月10日付けの審尋の内容>
「 この審判事件について、下記の点に対する回答書を、この審尋の発送の日から3ヶ月以内に提出してください。



1 請求項1の記載における誤記について
請求項1については、次の記載があります(下線は当審による。)。
「 前記温度センサーは、前記第1設定区間の第1温度、前記第1温度よりも低い前記第2設定区間の第2温度、及び前記第2温度よりも低い前記第3設定区間の第3温度をセンシングし、
前記温度補償部は、前記第1温度に対応する第1補償電圧、前記第1補償電圧よりも低い前記第2温度に対応する第2補償電圧、及び前記第2補償電圧よりも低い前記第3温度に対応する第3補償電圧を格納し、
前記駆動電圧発生部は、
第1補償電圧レベルに基づく第1温度補償電圧、第2補償電圧レベルに基づく前記第1温度補償電圧よりも低い第2温度補償電圧、及び第3補償電圧レベルに基づく前記第2温度補償電圧よりも低い第3温度補償電圧を生成し、
前記複数の設定区間の各々の温度補償電圧を該当するゲートオフ電圧に加算して前記ゲート駆動回路に提供すること」

本願の明細書の段落【0116】には、次のとおり記載されています(下線は当審による。)。
「【0116】
上記第2オフ電圧(VS2)は、駆動時間が増加するほど、薄膜トランジスタの特性がネガティブ方向にシフトする特徴を考慮して、上記第1オフ電圧(VS1)よりネガティブ方向にシフトされたレベルに設定される。例えば、上記第2オフ電圧(VS2)は約-6.0Vに設定される。上記第2温度は、上記第1温度より高い場合であり、これによって、上記第2温度補償電圧(Vtc2)は温度が増加するほど、薄膜トランジスタの特性がネガティブ方向にシフトする特徴を考慮して、上記第1温度補償電圧(Vtc1)よりネガティブ方向にシフトされたレベルに設定される。例えば、第2温度補償電圧(Vtc2)は-0.5Vでありうる。従って、上記第2ゲートオフ電圧(VSS2)は約-6.5Vに設定される。」

前記明細書の段落【0116】の記載を参酌すると、当審は、請求項1の「前記第1温度よりも低い前記第2設定区間の第2温度」は、「前記第1温度よりも高い前記第2設定区間の第2温度」の誤りであると考えます。当審は、同様に、請求項1におけるそのほかの温度の高低関係の記載にも誤りがあると考えます。
したがって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?5に係る発明は、出願当初の明細書等に記載されたものではなく、特許法17条2第3項違反(新規事項違反)があると考えます。
また、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?5に係る発明は、明細書に記載されたものではなく、36条6項1号違反(サポート要件違反)があると考えます。
上記当審の考えについて、請求人の回答をお願いいたします。

2 第2設定区間等の温度について
請求項1においては、前記1で指摘したように、「前記温度センサーは、前記第1設定区間の第1温度、前記第1温度よりも低い前記第2設定区間の第2温度、及び前記第2温度よりも低い前記第3設定区間の第3温度」等の記載があるところ、これらの記載における「低い」が「高い」の誤記であるとして、当審は、第1設定区間の第1温度と第2設定区間の第2温度の関係は、予め決まっているものではないと、考えます。当審は、第2設定区間の第2温度と第3設定区間の第3温度の関係も同様と、考えております。(本願明細書の段落【0103】には、温度センサーがセンシングするものは「表示装置の温度及び周辺温度」と記載されており、これが時系列で増加するか減少するかは環境条件によるものと考えられます。)
したがって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?5に係る発明は、出願当初の明細書等に記載されたものではなく、特許法17条2第3項違反(新規事項違反)があると考えます。
また、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?5に係る発明は、明細書に記載されたものではなく、36条6項1号違反(サポート要件違反)があると考えます。
上記当審の考えについて、請求人の回答をお願いいたします。
また、第1設定区間の第1温度と第2設定区間の第2温度の等の関係が、予め決まっているといえる場合には、どうして決まっているといえるのか、また、出願当初の明細書等の記載からどうしてそれが理解できるのかについて、必要な立証を行いつつ、説明をお願いいたします。

3 図11に記載されたものの効果
本願の図11に記載されたものにおいては、温度に基づく補償は、第2設定区間などの各設定区間の開始時点の温度に基づいて行っており、随時に温度を計測して補償するものでないところ、前者は後者に比較して有利な効果があるのか、有利な効果があるとすればそれはどのような効果であるのか、それはどのような仕組みで生じるのか、そのような効果は出願当初の明細書の記載からどうして当業者は理解することができるのかなどについて、必要な立証を行いつつ、説明をお願いいたします。」

(2)新規事項
請求項1に記載された事項のうち、次の技術事項(以下「技術事項A」という。)について検討する。
<技術事項A>
「 前記温度センサーは、前記第1設定区間の第1温度、前記第1温度よりも低い前記第2設定区間の第2温度、及び前記第2温度よりも低い前記第3設定区間の第3温度をセンシングし、
前記温度補償部は、前記第1温度に対応する第1補償電圧、前記第1補償電圧よりも低い前記第2温度に対応する第2補償電圧、及び前記第2補償電圧よりも低い前記第3温度に対応する第3補償電圧を格納し、
前記駆動電圧発生部は、
第1補償電圧レベルに基づく第1温度補償電圧、第2補償電圧レベルに基づく前記第1温度補償電圧よりも低い第2温度補償電圧、及び第3補償電圧レベルに基づく前記第2温度補償電圧よりも低い第3温度補償電圧を生成し、
前記複数の設定区間の各々の温度補償電圧を該当するゲートオフ電圧に加算して前記ゲート駆動回路に提供すること」

令和2年12月10日付け審尋に指摘したとおり、技術事項Aのうち、第1設定区間の第1の温度と第2設定区間の第2の温度との高低の関係及び前記第2の温度と第3設定区間の第3の温度との高低の関係は、明細書の記載と逆になっており、出願当初の明細書等に記載されたものではなく、記載されているに同然であるということもできない。
また、そもそも、第1設定区間の第1温度と第2設定区間の第2温度との関係及び第2設定区間の第2温度と第3設定区間の第3温度との関係は、予め決まっているものではないと考えるのが常識的であって、第1の温度が第2の温度より高いと補正したとしても、そのような技術事項は出願当初の明細書等に記載されているということはできず、記載されているに同然であるということもできない。
以上検討のとおり、技術事項Aは、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(3)本件補正の目的
本件補正における特許請求の範囲についての補正のうち、請求項1に係る補正は、次のアからエの、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する補正を行うものである。
ア 「複数の設定区間」について、「少なくとも第1設定区間、第2設定区間、及び第3設定区間を含」むものに限定し、当該記載と整合するように、本件補正前の「前記設定区間の開始時点で周辺温度をセンシングする温度センサー」を「前記複数の設定区間の各々の開始時点で周辺温度をセンシングする」と補正すること。
イ 「温度センサー」の動作について、「前記温度センサーは、前記第1設定区間の第1温度、前記第1温度よりも低い前記第2設定区間の第2温度、及び前記第2温度よりも低い前記第3設定区間の第3温度をセンシング」すると限定する補正をすること。
ウ 「前記センシングされた周辺温度に対応して少なくとも1つの補償電圧レベルを格納する温度補償部」の制御内容について、「前記温度補償部は、前記第1温度に対応する第1補償電圧、前記第1補償電圧よりも低い前記第2温度に対応する第2補償電圧、及び前記第2補償電圧よりも低い前記第3温度に対応する第3補償電圧を格納」すると限定する補正をすること。
エ 「前記駆動電圧発生部」の動作内容について「前記駆動電圧発生部は、第1補償電圧レベルに基づく第1温度補償電圧、第2補償電圧レベルに基づく前記第1温度補償電圧よりも低い第2温度補償電圧、及び第3補償電圧レベルに基づく前記第2温度補償電圧よりも低い第3温度補償電圧を生成」すると限定する補正をすること。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正による特許請求の範囲についての補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討を行う。

(4)独立特許要件について
補正後の請求項1の記載のうち、技術事項Aが出願当初の明細書等に記載された技術事項であるということができないことは、前記(2)で説示したとおりである。そして、その後の手続補正によって、明細書は補正されていないから、前記技術事項Aが本件補正後の明細書等に記載された技術事項であるといえないことは、明らかである。
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、明細書に記載された発明であるとは認められず、本願は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
上記2において検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定及び同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本件発明について
1 本件発明の認定
本件補正は却下したので、本願の請求項1?5に係る発明は、本件補正前の、令和元年8月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものである。そのうち、請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由のうち、本件発明に対する拒絶の理由は、本件発明は、次の優先日前に頒布された引用文献1、2、3又は4に記載された発明と優先日前に頒布された引用文献5、6又は7に記載された技術に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。
1.特開2013-186447号公報
2.特開2009-69373号公報
3.韓国公開特許第10-2010-0032184号公報
4.米国特許出願公開第2014/0168186号明細書
5.特開2006-154529号公報
6.特開2010-44388号公報
7.特開平10-31204号公報

3 引用文献に記載された発明の認定等
(1)引用文献3について
ア 引用文献3に記載された技術事項
前記引用文献3(韓国公開特許第10-2010-0032184号公報)には、次の技術事項が記載されている。なお、日本語訳は当審による。日本語訳における下線は、当審が付した。


(中略)

(中略)

(中略)

(中略)



<日本語訳>
「発明の詳細な説明
技術分野
[0001]表示パネルの駆動方法及びこれを用いた表示装置に関し、より詳細には、酸化物半導体からなるトランジスタを備える表示パネルの駆動方法及びそれを用いた表示装置に関する。
背景技術
[0002]一般的に、画像を表示する平板表示装置は、基板、基板上に備えられる複数の薄膜トランジスタ、及び前記薄膜トランジスタと一対一に対応して電気的に接続される画素電極を含む。
[0003]薄膜トランジスタは、画素電極側で提供されるデータ信号をスイッチングするために特定条件の下で導体になる半導体物質を含む。半導体材料としては、シリコンが広く用いられており、シリコン以外にも、有機物半導体及び酸化物半導体が使用されている。
[0004]特に、酸化物半導体はIn-Ga-Zn-O系物質からなり、各元素間の組成比を調節して半導体特性を有することができる。酸化物半導体は、電気移動度がシリコンに比べて優れており、薄膜トランジスタのスイッチング特性を向上させることができるという長所があるため、最近多く使用されている。
[0005]しかし、酸化物半導体は、しきい電圧のシフト現象があってトランジスタの駆動信頼性を低下させる。

発明の概要
解決しようとする課題
[0006]そこで、本発明の目的は、酸化物半導体からなるトランジスタの信頼性を向上させるための表示パネルの駆動方法を提供することである。
[0007]本発明の他の目的は、前記表示パネルの駆動方法が適用される表示装置を提供することである。

課題解決手段
[0008]本発明の一実施形態による表示パネルの駆動方法は、表示パネルの各画素に備えられたトランジスタに駆動電圧を印加して前記トランジスタを駆動させる段階と、一定期間ごとに前記トランジスタに印加される前記駆動電圧の電圧レベルを変化させ、変化した駆動電圧を前記トランジスタに印加して経時的に変化する前記トランジスタのしきい電圧を補償する段階とを含む。
(中略)
[0010]本発明による表示装置は、表示パネル、ゲートドライバ、データドライバ及び補償回路を含む。前記表示パネルは、少なくとも一つのトランジスタが備えられた複数の画素からなり、ゲート電圧及びデータ電圧を入力されて映像を表示する。前記ゲートドライバは、ゲートオン電圧及びゲートオフ電圧を入力されて前記トランジスタのゲート電極に前記ゲート電圧を提供する。前記データドライバは、前記トランジスタのソース電極に前記データ電圧を提供する。前記補償回路は一定期間ごとに前記比較信号を出力して前記ゲートオン電圧及び前記ゲートオフ電圧を減少させて時間によって変化する前記トランジスタのしきい電圧を補償する。

効果
[0011]このような表示パネルの駆動方法及びこれを利用した表示装置によると、時間によってトランジスタに印加されるターンオン電圧とターンオフ電圧との電圧レベルを可変させることによって、時間によってシフトされる前記トランジスタのしきい電圧による前記トランジスタの駆動信頼性の低下を防止することができる。

発明を実施するための形態
[0012]以下、添付した図面を参照して本発明の望ましい実施形態をより詳細に説明する。
[0013]図1は、本発明の一実施形態による表示パネルの駆動方法を示したフローチャートである。図2及び図3は、時間によってしきい電圧がシフトされることを示したグラフである。
[0014]図1を参照すると、表示パネルの各画素には一つ以上のトランジスタが具備される。前記トランジスタは、外部から提供された信号をスイッチングするために備えられたものである。前記トランジスタは、駆動電圧に応答してターンオン又はターンオフされる。本発明において、前記トランジスタは、酸化物半導体トランジスタからなることができ、前記酸化物半導体は、In-Ga-Zn-O(IGZO)系からなることができる。
[0015]まず、前記トランジスタに駆動電圧を印加して前記表示パネルを駆動させる(S101)。次に、前記表示パネルの駆動時間をカウントする(S102)。以後、カウント値を予め設定された基準値と比較する(S103)。具体的には、前記カウント値が前記基準値と同じか比較して、二つの値が同一でなければ駆動電圧を変化させない。したがって、前記トランジスタには初期駆動電圧がそのまま印加される。
[0016]前記カウント値が前記基準値と同一であれば、前記駆動電圧を予め設定された基準電圧ほど減少させる(S104)。具体的には、前記駆動電圧は、前記トランジスタをターンオンさせるためのターンオン電圧及び前記トランジスタをターンオフさせるためのターンオフ電圧を含む。前記カウント値が前記基準値と同じであれば、前記ターンオン電圧と前記ターンオフ電圧を前記基準電圧だけそれぞれ減少させる。
[0017]本発明の一実施形態では、前記基準値は、1000時間に対応する値であってもよく、前記基準電圧は、1Vであってもよい。したがって、前記ターンオン電圧とターンオフ電圧とが初期に20V及び-5Vの電圧レベルを有する場合、1000時間の経過後に前記ターンオン電圧と前記ターンオフ電圧はそれぞれ19V及び-6Vに減少することができる。
[0018]一方、前記カウント値が前記基準値と同じであるとき、前記基準値がアップデートされる(S105)。本発明の一例として、前記基準値は、2000時間に対応する値でアップデートされることができる。更新された基準値は、カウント値と比較するためにステップ103に提供される。
[0019]図2及び図3において、x軸はゲート-ソース間電圧(Vgs)であり、y軸はトランジスタのソース-ドレイン電流(Ids)である。図2は、トランジスタのゲート電極に20Vの電圧を印加し、ドレイン電極に0.1Vの電圧を印加した場合に時間によるしきい値電圧の変化を示す。図3は、トランジスタのゲート電極に-20Vの電圧を印加し、ドレイン電極に10Vの電圧を印加した場合の、時間によるしきい値電圧の変化を示す。
[0020]図2に示すように、トランジスタのゲート電極に正の極性の電圧が長時間提供された場合、トランジスタのしきい値電圧が増加したが、図3に示すように、トランジスタのゲート電極に負の極性の電圧が長時間提供された場合には、トランジスタのしきい値電圧が減少した。
[0021]しかし、表示パネルを駆動する際、トランジスタのゲート電極には多くの時間、負の極性のターンオフ電圧が印加されるので、表示パネルの駆動時間が経過するにつれて、前記トランジスタのしきい電圧は減少する側にシフトされる。
[0022]したがって、本発明では表示パネルの駆動時間をカウントし、カウント値に応じてトランジスタで提供される駆動電圧を減少させる。これにより、前記トランジスタのしきい電圧がシフトされてもトランジスタの駆動信頼性を確保することができる。
(中略)
[0031]図7及び図8は、図4の電圧ストレス印加段階を具体的に説明するための図面である。

[0032]図7及び図8を参照すると、表示パネル(10)は、映像を表示する表示領域(DA)及び前記表示領域(DA)に隣接した周辺領域(PA)に区分される。前記表示領域(DA)には、一定間隔で配列された多数のゲートライン(GL1?GLn)と一定間隔で配列された多数のデータライン(DL1?DLm)が具備される。前記多数のゲートライン(GL1?Gln)と多数のデータライン(DL1?DLm)は、互いに直交する方向に絶縁されるように交差して前記表示領域(DA)にマトリックス形態で多数の画素領域を定義する。各画素領域には画素が具備されて、画素はトランジスタ(TFT)及び液晶キャパシタ(Clc)を含む。ここで、トランジスタ(TFT)は、酸化物半導体トランジスタからなることができる。前記酸化物半導体は、IGZO系列からなるものであってもよい。
[0033]図7及び図8では前記表示パネル(10)が液晶表示パネルの場合を図示したが、本発明はここに限定されず、有機電界発光表示パネルなどのような他の表示パネルにも適用されることができる。
(中略)
[0037]図9は、本発明の他の実施形態による表示装置のブロック図である。
[0038]図9を参照すると、表示装置(300)は、タイミングコントローラ(110)、データドライバ(120)、ゲートドライバ(130)、直流/直流コンバータ(以下、DC/DCコンバータ)(140)、補正回路(150)及び液晶表示パネル(200)を含む。
[0039]前記タイミングコントローラ(110)は、外部装置からデータイネーブル信号(DE)、垂直及び水平同期信号(Vsync、Hsync)、メインクロック信号(MCLK)及び映像データ(I-data)を入力される。前記タイミングコントローラ(110)は、前記映像データ(I-data)をレッド、グリーン及びブルーデータ(RGB-data)に変換して前記データドライバー(120)に提供する。前記タイミングコントローラ(110)は、データイネーブル信号(DE)、メインクロック信号(MCLK)、垂直及び水平同期信号(Vsync、Hsync)を用いてデータ側制御信号及びゲート側制御信号を生成し、それぞれデータドライバー(120)とゲートドライバ(130)に出力する。
[0040]前記データドライバ(120)は、前記データ側制御信号及びレッド、グリーン及びブルーデータ(RGB-data)を前記タイミングコントローラ(110)から入力され、多数のデータ電圧(DV1?DVm)を出力する。ここで、前記データ側制御信号は、水平開始信号(STH)、反転信号(REV)及び出力開始信号(TP)を含む。前記水平開始信号(STH)は、データドライバ(120)の動作を開始する信号であり、前記反転信号(REV)は、前記データ電圧(DV1?DVm)の極性を反転させる信号であり、前記出力開始信号(TP)は、前記データドライバ(120)から前記データ電圧(DV1?DVm)が出力される時点を決定する信号である。
[0041]前記ゲートドライバ(130)は、前記ゲート側制御信号に応答して複数のゲート電圧(GV1?GVn)を出力する。前記ゲート側制御信号は、垂直開始信号(STV)、第1及び第2クロック信号(CKV、CKVB)を含む。前記垂直開始信号(STV)は、前記ゲートドライバ(130)の動作を開始する信号であり、前記第1及び第2クロック信号(CKV、CKVB)は、前記ゲート電圧(GV1?GVn)のハイ区間を決定する。
[0042]前記ゲートドライバ(130)は、前記DC/DCコンバータ(140)からゲートオン電圧(Von)及びゲートオフ電圧(Voff)を入力される。前記ゲートオン電圧(Von)及び前記ゲートオフ電圧(Voff)は、前記ゲートドライバ(130)から出力されるゲート電圧(GV1?GVn)の電圧レベルを決定する。各ゲート電圧(GV1?GVn)は、一フレームのうち一水平走査区間の間のみ前記ゲートオン電圧(Voff)の電圧レベルを有し、残りの区間の間は前記ゲートオフ電圧(Von)の電圧レベルを有する。
[0043]ここで、各ゲート電圧(GV1?GVn)が前記ゲートオン電圧(Von)の電圧レベルを有する区間をハイ区間と定義する。前記多数のゲート電圧(GV1?GVn)は、前記第1及び第2クロック信号(CKV、CKVB)によって順次にハイ区間を有する。
[0044]前記液晶表示パネル(200)の構造は、図8に図示された表示パネル(10)の構造と同一であるので、これに対する説明は省略する。
[0045]前記データドライバ(120)は、前記液晶表示パネル(200)に備えられた前記多数のデータライン(DL1?DLm)に電気的に接続され、前記ゲートドライバ(130)は、前記液晶表示パネル(200)に備えられた前記多数のゲートライン(GL1?GLn)に電気的に接続される。
[0046]前記ゲートドライバ(130)は、多数のゲート電圧(GV1?GVn)を前記多数のゲートライン(GL1?GLn)に印加する。各ゲート電圧(GV1?GVn)のハイ区間に対応してゲートラインに接続されたトランジスタ(TFT)がターンオンされて、ターンオンされたトランジスタ(TFT)を通じてデータドライバー(120)から提供されたデータ電圧(DV1?DVm)が液晶キャパシタ(Clc)に入力される。これにより、データ電圧(DV1?DVm)に対応する映像を表示することができる。
[0047]前述したように、前記トランジスタ(TFT)はゲートオン電圧(Von)によって1フレームのうち1水平走査区間の間だけターンオンされ、残りの区間ではゲートオフ電圧(Voff)によってターンオフされるので、前記液晶表示パネル(200)を長時間駆動することによって前記トランジスタ(TFT)のしきい電圧が減少する側にシフトされる。
[0048]したがって、本発明の一実施形態による表示装置(300)は、前記しきい電圧を補償するための補正回路(150)をさらに備える。前記液晶表示パネル(200)の駆動時間によって前記しきい電圧が変化するので、前記補正回路(150)は、前記液晶表示パネル(200)の駆動時間に基づいて前記しきい電圧を補償する。
[0049]図10は、図9に図示した補償回路のブロック図であり、図11は、図10に示した信号の波形図である。
[0050]図10及び図11を参照すると、前記補正回路(150)は、カウンタ(151)及び比較機(152)を含む。前記カウンタ(151)は、前記液晶表示パネル(200)の駆動時間が分かる信号(Ts)及び予め設定された基準クロック(RCLK)を入力される。前記カウンタ(151)は、前記基準クロック(RCLK)に基づいて前記信号(Ts)をカウントする。
[0051]カウントした値(CNTt)は、前記比較機(152)に提供され、前記比較機(152)は、予め設定された基準値(CNTr)と前記カウント値(CNTt)を比較する。具体的には、前記比較機(152)は、前記カウント値(CNTt)が前記基準値(CNTr)と一致するか比較する。前記カウント値(CNTt)と前記基準値(CNTr)が一致しなければ、‘0’状態の比較信号(COM)を出力し、前記カウント値(CNTt)と前記基準値(CNTr)が一致すると、‘1’状態の比較信号(COM)を出力する。
[0052]前記比較信号(COM)は、前記DC/DCコンバータ(140)で提供される。前記DC/DCコンバータ(140)は、前記比較信号(COM)の状態に基づいて前記ゲートオン電圧(Von)及び前記ゲートオフ電圧(Voff)の電圧レベルを制御する。具体的には、前記比較信号(COM)が‘0’状態である場合、前記DC/DCコンバータ(140)は、前記ゲートオン電圧(Von)及び前記ゲートオフ電圧(Voff)の電圧レベルを変化させないが、前記比較信号(COM)が‘1’状態である場合、前記DC/DCコンバータ(140)は、前記ゲートオン電圧(Von)及び前記ゲートオフ電圧(Voff)を予め設定された基準電圧(Vref)だけダウンさせる。
[0053]例えば、前記基準値(CNTr)が1000時間に対応する値であり、前記基準電圧(Vref)が1Vであり、前記ゲートオン電圧(Von)とゲートオフ電圧(Voff)が初期に20V及び-5Vの電圧レベルをそれぞれ有すると仮定する。すると、1000時間が経過した後、前記DC/DCコンバータから出力される前記ゲートオン電圧(Von)と前記ゲートオフ電圧(Voff)は、それぞれ1Vずつ減少された19V及び-6Vの電圧レベルを有するようになり、しきい値電圧がシフトされた各トランジスタの駆動電圧、ゲート-ソース電圧(Vgs)値を補償することができる。
[0054]本発明の一実施例として、前記基準電圧(Vref)は、前記基準値(CNTr)に設定された時間でシフトされるしきい電圧の変化量に基づいて設定されることができる。
[0055]このように、時間によって前記ゲートオン電圧(Von)と前記ゲートオフ電圧(Voff)を可変させることによって、前記トランジスタ(TFT)のしきい電圧のシフトによる前記トランジスタ(TFT)の駆動信頼性の低下を防止することができる。
[0056]以上実施例を参照して説明したが、当業者は、特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から脱しない範囲内で本発明を多様に修正及び変更させることができることを理解することができるであろう。

図面の簡単な説明
[0057]図1は、本発明の一実施形態による表示パネルの駆動方法を示すフローチャートである。
[0058]図2及び図3は、時間によってしきい電圧がシフトされることを示すグラフである。
(中略)
[0062]図7及び図8は、図4の電圧ストレス印加段階を具体的に説明するための図面である。
[0063]図9は、本発明の他の実施形態による表示装置のブロック図である。
[0064]図10は、図9に図示された補償回路のブロック図である。
[0065]図11は、図10に示された信号の波形図である。」

図1


図3


図7


図8


図9


図10


図11


引用発明の認定
上記アの記載から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
タイミングコントローラ(110)、データドライバ(120)、ゲートドライバ(130)、DC/DCコンバータ(140)、補正回路(150)及び液晶表示パネル(200)を含む表示装置(300)であって、([0038])
前記液晶表示パネル(200)は、一定間隔で配列された多数のゲートライン(GL1?GLn)と一定間隔で配列された多数のデータライン(DL1?DLm)が具備され、前記多数のゲートライン(GL1?Gln)と多数のデータライン(DL1?DLm)は、互いに直交する方向に絶縁されるように交差して前記表示領域(DA)にマトリックス形態で多数の画素領域を定義し、各画素領域には画素が具備されて、画素はトランジスタ(TFT)及び液晶キャパシタ(Clc)を含み、([0032]、[0044])
前記ゲートドライバ(130)は、前記ゲート側制御信号に応答して複数のゲート電圧(GV1?GVn)を出力するものであり、([0041])
前記ゲートドライバ(130)は、多数のゲート電圧(GV1?GVn)を前記多数のゲートライン(GL1?GLn)に印加するものであり、[0046]
前記ゲートドライバ(130)は、前記DC/DCコンバータ(140)からゲートオン電圧(Von)及びゲートオフ電圧(Voff)を入力され、前記ゲートオン電圧(Von)及び前記ゲートオフ電圧(Voff)は、前記ゲートドライバ(130)から出力されるゲート電圧(GV1?GVn)の電圧レベルを決定し、各ゲート電圧(GV1?GVn)は、一フレームのうち一水平走査区間の間のみ前記ゲートオン電圧(Voff)の電圧レベルを有し、残りの区間の間は前記ゲートオフ電圧(Von)の電圧レベルを有するものであり、([0042])
前記補正回路(150)は、カウンタ(151)及び比較機(152)を含み、前記カウンタ(151)は、前記液晶表示パネル(200)の駆動時間が分かる信号(Ts)及び予め設定された基準クロック(RCLK)を入力され、前記カウンタ(151)は、前記基準クロック(RCLK)に基づいて前記信号(Ts)をカウントするものであり、([0050])
前記比較機(152)は、前記カウント値(CNTt)が前記基準値(CNTr)と一致するか比較し、前記カウント値(CNTt)と前記基準値(CNTr)が一致しなければ、‘0’状態の比較信号(COM)を出力し、前記カウント値(CNTt)と前記基準値(CNTr)が一致すると、‘1’状態の比較信号(COM)を出力するものであり、([0051])
前記比較信号(COM)が‘0’状態である場合、前記DC/DCコンバータ(140)は、前記ゲートオン電圧(Von)及び前記ゲートオフ電圧(Voff)の電圧レベルを変化させないが、前記比較信号(COM)が‘1’状態である場合、前記DC/DCコンバータ(140)は、前記ゲートオン電圧(Von)及び前記ゲートオフ電圧(Voff)を予め設定された基準電圧(Vref)だけダウンさせるものであり、([0052])
例えば、前記基準値(CNTr)が1000時間に対応する値であり、前記基準電圧(Vref)が1Vであり、前記ゲートオン電圧(Von)とゲートオフ電圧(Voff)が初期に20V及び-5Vの電圧レベルをそれぞれ有すると仮定する。すると、1000時間が経過した後、前記DC/DCコンバータから出力される前記ゲートオン電圧(Von)と前記ゲートオフ電圧(Voff)は、それぞれ1Vずつ減少された19V及び-6Vの電圧レベルを有するようになり、しきい値電圧がシフトされた各トランジスタの駆動電圧、ゲート-ソース電圧(Vgs)値を補償することができる、([0053])
表示装置(300)。」

(2)引用文献7について
ア 引用文献7に記載された技術事項
前記引用文献7(特開平10-31204号公報)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は、当審が付した。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶表示装置に関し、特には温度変化に伴って生じる表示不具合を防止したアクティブマトリクス駆動の液晶表示装置に関する。
(中略)
【0057】TFT特性の温度依存性は、図9に示するように、一定のゲート電圧下におけるドレイン-ソース間電流(以下「ドレイン電流」という)は、温度上昇につれて増大することが知られている。そこで、ドレイン電流が十分小さくなる、ある電流値における、ゲート-ソース間電圧をTFTの閾値電圧とみなせば、温度上昇につれてTFTの閾値電圧は低下する。
(中略)
【0064】従って、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、温度上昇に伴う画素電極電圧の面内ばらつきの拡大を補正し、広い温度範囲において表示品質のよい液晶表示装置を提供することにある。
【0065】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の液晶表示装置は、液晶表示装置動作時のパネル筐体の温度を検出する温度センサをパネル筐体の内部または側面等に設け、走査信号パルスのハイレベル電圧またはハイレベル電圧とローレベル電圧との両方を温度センサの出力に応じて変化させ、高温時にはその電圧レベルを下げ、低温時には電圧レベルを上げるように自動調整する温度補償回路を含むことを特徴とする。
(中略)
【0080】
【実施例】次に、本発明の実施例として、上記した本発明の実施の形態として説明した液晶表示装置に用いることのできる温度補償回路の具体的な構成例を説明する。
【0081】[実施例1]図3は、本発明に係る液晶表示装置における温度補償回路の第1の実施例の構成を示す図である。図3を参照すると、温度補償回路は、温度センサ21と、温度センサ21のアナログ出力をデジタル変換するA/Dコンバータ(ADC)24と、読み出し専用メモリ(ROM)等の記憶回路25と、記憶回路25のデータを読み出して電圧出力するD/Aコンバータ(DAC)26を含む一般的な温度補償回路を利用して簡単に構成することができる。図3では、温度センサとしてサーミスタ21を用い、サーミスタ21と抵抗素子22との接続点23の電圧をA/Dコンバータ24に入力し、デジタル信号に変換する。このデジタル信号に応じて記憶回路25に予め設定してある走査信号パルスのハイレベル電圧またはローレベル電圧の電圧データを選択し、その電圧データをD/Aコンバータ26でアナログ変換して、走査信号ハイレベル電圧(Vgh)またはローレベル電圧(Vgl)として走査ドライバへ供給する。
【0082】記憶回路25に予め設定するデータとしては、温度に対して最適な走査信号の電圧出力をもつような任意の温度補正テーブルを設定することができる。」

「【図9】



イ 技術常識の認定
引用文献7に記載されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識(以下「技術常識A」という。)であると認められる。
<技術常識A>
液晶表示装置を駆動するTFTにおいて、温度上昇につれてTFTの閾値電圧は低下することに対処するため、液晶表示装置動作時のパネル筐体の温度を検出する温度センサをパネル筐体に設け、ハイレベル電圧及びローレベル電圧を温度センサの出力に応じて変化させ、高温時にはその電圧レベルを下げ、低温時には電圧レベルを上げるようにすること、及び、その駆動をするため、温度に対して最適な走査信号の電圧出力をもつような温度補正テーブルを設定して、駆動すること。」

4 対比・判断
(1)本件発明と引用発明の対比
ア 本件発明と引用発明の構成ごとの対比
(ア)本件発明と引用発明は、表示装置に係る発明の点で一致する。

(イ)引用発明における「ゲートライン(GL1?GLn)」は、本件発明の「ゲートライン」に相当し、引用発明における「データライン(DL1?DLm)」は、本件発明の「データライン」に相当する。引用発明における、「液晶キャパシタ(Clc)」は、本件発明の「表示素子」に相当する。
そうすると、引用発明における、「一定間隔で配列された多数のゲートライン(GL1?GLn)と一定間隔で配列された多数のデータライン(DL1?DLm)が具備され、前記多数のゲートライン(GL1?Gln)と多数のデータライン(DL1?DLm)は、互いに直交する方向に絶縁されるように交差して前記表示領域(DA)にマトリックス形態で多数の画素領域を定義し、各画素領域には画素が具備されて、画素はトランジスタ(TFT)及び液晶キャパシタ(Clc)を含」む「前記液晶表示パネル(200)」は、本件発明における「複数の画素が配列された表示パネルであって、各画素がゲートライン及びデータラインに連結された薄膜トランジスタ、並びに前記薄膜トランジスタに連結された表示素子を含む表示パネル」に相当する。

(ウ) 引用発明における「ゲートドライバ(130)」に「ゲートオン電圧(Von)及びゲートオフ電圧(Voff)を入力」する「DC/DCコンバータ(140)」は、本件発明における「ゲートオン電圧」及び「ゲートオフ電圧」を「生成する駆動電圧発生部」に相当する。
引用発明においては、「前記比較信号(COM)が‘1’状態である場合、前記DC/DCコンバータ(140)」は、「前記ゲートオフ電圧(Voff)を予め設定された基準電圧(Vref)だけダウンさせる」から、ゲートオフ電圧(Voff)は、複数の値を有する。
したがって、本件発明と引用発明は、「ゲートオン電圧及び複数のゲートオフ電圧を生成する駆動電圧発生部」を備える点で一致する。

(エ) 引用発明における「前記補正回路(150)」は、「カウンタ(151)及び比較機(152)を含み、前記カウンタ(151)は、前記液晶表示パネル(200)の駆動時間が分かる信号(Ts)及び予め設定された基準クロック(RCLK)を入力され、前記カウンタ(151)は、前記基準クロック(RCLK)に基づいて前記信号(Ts)をカウントするものであり」、「前記比較機(152)は、前記カウント値(CNTt)が前記基準値(CNTr)と一致するか比較し、前記カウント値(CNTt)と前記基準値(CNTr)が一致しなければ、‘0’状態の比較信号(COM)を出力し、前記カウント値(CNTt)と前記基準値(CNTr)が一致すると、‘1’状態の比較信号(COM)を出力するものであ」るところ、引用発明は、「前記比較信号(COM)が‘0’状態である場合」と「前記比較信号(COM)が‘1’状態である場合」で、駆動を始めてからの駆動区間は2つの区間に分割されているということができる。そして、引用発明は、「前記比較信号(COM)が‘0’状態である場合、前記DC/DCコンバータ(140)」は、「前記ゲートオフ電圧(Voff)の電圧レベルを変化させない」が、「前記比較信号(COM)が‘1’状態である場合」、「前記DC/DCコンバータ(140)」は、「前記ゲートオフ電圧(Voff)を予め設定された基準電圧(Vref)だけダウンさせるものである」から、引用発明の「前記比較信号(COM)」の値に対応する、複数の「ゲートオフ電圧(Voff)」は、本件発明の「前記複数の設定区間の各々に対応して該当するレベルのゲートオフ電圧」に相当するということができる。
以上を総合すると、引用発明における、「前記比較信号(COM)」の値に応じて「前記ゲートオフ電圧(Voff)」を制御する「補正回路(150)」は、本件発明における「前記複数の設定区間の各々に対応して該当するレベルのゲートオフ電圧を出力するように制御するタイミングコントローラ」に相当するということができる。

(オ)引用発明における「多数のゲート電圧(GV1?GVn)」は、「前記多数のゲートライン(GL1?GLn)に印加する」ものであるから、引用発明の「ゲート電圧」は、本件発明の「ゲート信号」に相当し、引用発明の「複数のゲート電圧(GV1?GVn)を出力する」「前記ゲートドライバ(130)」は、本件発明の「前記ゲートラインに前記ゲート信号を出力するゲート駆動回路」に相当する。
引用発明においては、「前記ゲートドライバ(130)は、前記DC/DCコンバータ(140)からゲートオン電圧(Von)及びゲートオフ電圧(Voff)を入力され、前記ゲートオン電圧(Von)及び前記ゲートオフ電圧(Voff)は、前記ゲートドライバ(130)から出力されるゲート電圧(GV1?GVn)の電圧レベルを決定」するから、引用発明の「前記ゲートドライバ(130)」は、「ゲートオン電圧(Von)」及び「ゲートオフ電圧(Voff)」を用いて「ゲート電圧」を生成するものであるということができる。
前記(ウ)において検討したとおり、引用発明の「ゲートオフ電圧(Voff)」は、複数の値を有し、前記(エ)における検討も踏まえると、引用発明における複数の「ゲートオフ電圧(Voff)」は、「前記複数の設定区間の各々に対応するゲートオフ電圧」である。
以上を総合すると、本件発明と引用発明は、「前記ゲートオン電圧及び前記複数の設定区間の各々に対応するゲートオフ電圧を用いてゲート信号を生成し、前記ゲートラインに前記ゲート信号を出力するゲート駆動回路」を有している点で一致する。

(カ)引用発明の「補正回路(150)」は、「前記比較信号(COM)が‘0’状態である場合、前記DC/DCコンバータ(140)」は、「前記ゲートオフ電圧(Voff)の電圧レベルを変化させない」が、「前記比較信号(COM)が‘1’状態である場合」、「前記DC/DCコンバータ(140)」は、「前記ゲートオフ電圧(Voff)を予め設定された基準電圧(Vref)だけダウンさせるものであり」、「例えば、前記基準値(CNTr)が1000時間に対応する値であり、前記基準電圧(Vref)が1Vであり、前記ゲートオン電圧(Von)とゲートオフ電圧(Voff)が初期に20V及び-5Vの電圧レベルをそれぞれ有すると仮定する。すると、1000時間が経過した後、前記DC/DCコンバータから出力される前記ゲートオン電圧(Von)と前記ゲートオフ電圧(Voff)は、それぞれ1Vずつ減少された19V及び-6Vの電圧レベルを有するようにな」るから、本件発明と引用発明は、「前記複数の設定区間の各々に対応するゲートオフ電圧のレベルは、前記初期駆動区間における駆動時間が増加するほどネガティブ方向に移動し」、「前記複数の設定区間のうちの第1設定区間に対応する第1ゲートオフ電圧のレベルは、他の設定区間におけるレベルと比較して最も0Vに近いネガティブレベルを有」する点で一致する。

イ 本件発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
上記アの本件発明と引用発明の構成ごとの対比の結果を総合すると、本件発明と引用発明は、次の「(ア)一致点」の点で一致し、「(イ)相違点」の点において相違する。
(ア)一致点
「複数の画素が配列された表示パネルであって、各画素がゲートライン及びデータラインに連結された薄膜トランジスタ、並びに前記薄膜トランジスタに連結された表示素子を含む表示パネルと、
ゲートオン電圧及び複数のゲートオフ電圧を生成する駆動電圧発生部と、
初期駆動区間を複数の設定区間に分割し、前記複数の設定区間の各々に対応して該当するレベルのゲートオフ電圧を出力するように制御するタイミングコントローラと、
前記ゲートオン電圧及び前記複数の設定区間の各々に対応するゲートオフ電圧を用いてゲート信号を生成し、前記ゲートラインに前記ゲート信号を出力するゲート駆動回路と、
を備え、
前記複数の設定区間の各々に対応するゲートオフ電圧のレベルは、前記初期駆動区間における駆動時間が増加するほどネガティブ方向に移動し、
前記複数の設定区間のうちの第1設定区間に対応する第1ゲートオフ電圧のレベルは、他の設定区間におけるレベルと比較して最も0Vに近いネガティブレベルを有する、
表示装置。」

(イ)相違点
本件発明の表示装置は、
「前記設定区間の開始時点で周辺温度をセンシングする温度センサーと、前記センシングされた周辺温度に対応して少なくとも1つの補償電圧レベルを格納する温度補償部と、を備え、
前記駆動電圧発生部は、
前記周辺温度が増加するほどネガティブ方向に移動する補償電圧レベルに基づいて温度補償電圧を生成し、
前記複数の設定区間の各々の温度補償電圧を該当するゲートオフ電圧に加算して前記ゲート駆動回路に提供する」のに対して、引用発明の表示装置は、温度センサー及び温度補償部を備えておらず、前記駆動電圧発生部は、前記周辺温度が増加するほどネガティブ方向に移動する補償電圧レベルに基づいて温度補償電圧を生成し、前記複数の設定区間の各々の温度補償電圧を該当するゲートオフ電圧に加算して前記ゲート駆動回路に提供するという制御をしてない点。

(2)判断
ア 相違点の想到容易性について
前記第3の3(2)イにおいて認定したとおり、「液晶表示装置を駆動するTFTにおいて、温度上昇につれてTFTの閾値電圧は低下することに対処するため、液晶表示装置動作時のパネル筐体の温度を検出する温度センサをパネル筐体に設け、ハイレベル電圧及びローレベル電圧を温度センサの出力に応じて変化させ、高温時にはその電圧レベルを下げ、低温時には電圧レベルを上げるようにすること、及び、その駆動をするため、温度に対して最適な走査信号の電圧出力をもつような温度補正テーブルを設定して、駆動すること。」(「技術常識A」)は、技術常識である。したがって、引用発明において、このような駆動をするようにすることは、当業者には自明の設計変更にすぎない。
そうすると、引用発明において、「前記比較信号(COM)が‘0’状態である場合」から「前記比較信号(COM)が‘1’状態である場合」に駆動電圧を変更するに際して技術常識Aを採用すると、このタイミングで温度を測定して制御するために温度センサを表示装置に設けることとなるから、本件発明の「前記設定区間の開始時点で周辺温度をセンシングする温度センサー」に相当する構成を備えるようにすることは、当業者にとっては、技術常識Aの採用によりなされる、自明の設計変更である。
そしてまた、「温度補正テーブルを設定して用い、ゲートオン電圧(Von)及びゲートオフ電圧(Voff)を温度センサの出力に応じて、高温時にはその電圧レベルを下げ駆動する」ようにすること、すなわち、本件発明の「前記センシングされた周辺温度に対応して少なくとも1つの補償電圧レベルを格納する温度補償部を備え、前記駆動電圧発生部は、前記周辺温度が増加するほどネガティブ方向に移動する補償電圧レベルに基づいて温度補償電圧を生成し、前記複数の設定区間の各々の温度補償電圧を該当するゲートオフ電圧に加算して前記ゲート駆動回路に提供する」に相当する構成を備えるようにすることは、当業者にとっては、技術常識Aの採用によりなされる、自明の設計変更である。
そして、本件発明効果については、当業者の予測を超える格別顕著な効果は、認めることができない。
したがって、相違点は、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 請求人の主張について
(ア)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、次の主張をしている。
<請求人の主張>
引用文献1?4は「時間を考慮してゲートオフ電圧のレベルを調整するための構成」を開示し、引用文献6、7は「温度に応じてゲートオフ電圧のレベルを調整する機能」を開示しているが、引用文献1?7には、「特に、時間及び温度の両方を考慮してゲートオフ電圧のレベルを調整するための構成」を開示していない。

(イ)請求人の主張についての検討
上記請求人の主張は、事実関係としては主張のとおりであると認められるものの、上記アにおいて検討したとおり、技術常識Aは、技術常識であり、当該技術常識を引用発明に適用することに困難性は認められないところ、請求人の上記主張は、当該適用の容易性を反証し否定するものではないから、当該請求人の主張は、上記アの結論を左右するものではない。

ウ 判断の小括
上記ア及びイにおいて検討したとおり、前記相違点は、引用発明及び技術常識Aに基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、本件発明は、引用発明及び技術常識Aに基づいて当業者が容易に想到し得たものである。


第4 むすび
以上検討のとおり、本件発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2021-04-30 
結審通知日 2021-05-11 
審決日 2021-05-28 
出願番号 特願2015-210897(P2015-210897)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 575- Z (G09G)
P 1 8・ 537- Z (G09G)
P 1 8・ 55- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 岡田 吉美
濱本 禎広
発明の名称 表示装置  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

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