• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F28F
管理番号 1379164
審判番号 不服2020-1102  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-27 
確定日 2021-10-13 
事件の表示 特願2018-178724「一体型構造を含む印刷基板型熱交換器」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月 6日出願公開、特開2019- 86278〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年 9月25日(パリ条約による優先権主張2017年11月3日、大韓民国、2017年12月14日、大韓民国)の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

令和 元年 9月 5日付け:拒絶理由通知書
同年10月16日 :意見書、手続補正書の提出
同年12月13日付け:拒絶査定
令和 2年 1月27日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出
同年 4月 9日 :上申書の提出
同年10月29日付け:当審による拒絶理由通知書
令和 3年 2月 2日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?17に係る発明は、令和 3年 2月 2日提出の手続補正書に記載された請求項1?17により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
A流体とB流体が互いに熱交換できるようにA流体流路およびB流体流路が形成されたプリント回路熱交換器であって、
平面上からみて、長手方向および短手方向を有する長方形構造であり、第2チャンネルプレートと積層され、前記A流体流路が一側面に形成され、前記A流体流路の両端部にA流体引込口およびA流体排出口が形成され、B流体引込部およびB流体排出部に対応する構造が前記短手方向の両側に形成された板状型構造の第1チャンネルプレートと、
平面上からみて、長手方向および短手方向を有する長方形構造であり、前記第1チャンネルプレートと積層され、一側面に前記B流体流路が、平面上からみて、前記A流体流路と部分的に交差する方向に、且つ、前記B流体を前記長手方向および前記短手方向のそれぞれにおいて一方向だけに流すように延びて形成され、前記B流体流路の両端部に前記B流体引込部と前記B流体排出部が一体型構造に形成された板状型構造の第2チャンネルプレートと、
前記第1チャンネルプレートと前記第2チャンネルプレートがそれぞれ2つ以上交互積層されたチャンネルプレート積層構造の上部面に装着され、前記チャンネルプレート積層構造の前記上部面を密閉する構造の上板と、
前記第1チャンネルプレートと前記第2チャンネルプレートがそれぞれ2つ以上交互積層された前記チャンネルプレート積層構造の下部面に装着され、前記チャンネルプレート積層構造の前記下部面を密閉する構造の下板と、を含み、
前記A流体流路は、平面上からみて、複数の折り曲げ構造がそれぞれ互いに当接して隣接するように配置され、前記A流体引込口から前記長手方向に延び、2つの方向に分岐して互いに対称をなす構造である、
プリント回路熱交換器。」

第3 拒絶の理由
令和 2年10月29日付けで当審が通知した請求項1についての拒絶理由2の概要は次のとおりである。

本件出願の請求項1に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用例に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2015-31420号公報
2.特開2004-28538号公報

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
令和 2年10月29日付けで当審より通知した拒絶理由において引用した引用文献1には、以下の事項が記載されている(なお、下線は参考のために当審が付与したものである。他の文献でも同様である。)。

「【0035】
熱交換器10は、圧縮機100で圧縮されて高圧となった水素ガスを低温のブラインとの間で熱交換させて冷却するものである。この熱交換器10は、多数のマイクロチャネル(微細流路)を有し、その各マイクロチャネルにそれぞれ流体を流通させながら、その流体同士の間で熱交換を行わせる、いわゆるマイクロチャネル熱交換器である。
【0036】
熱交換器10は、多数の流路が内部に設けられた積層体26と、積層体26内の後述する第2流路34にブラインを供給するための供給ヘッダ28と、後述する第2流路34からブラインを排出するための排出ヘッダ30とを有する。
【0037】
積層体26は、直方体状の外形を有している。積層体26の内部には、図4に示すように、マイクロチャネル(微細流路)である多数の第1流路32と、マイクロチャネル(微細流路)である多数の第2流路34とが設けられている。第1流路32は、水素ガスを流通させるものであり、第2流路34は、水素ガスを冷却するためのブラインを流通させるものである。
【0038】
積層体26は、図3に示すように、複数の第1基板38と、複数の第2基板40と、一対の端板42とによって形成されている。具体的には、第1基板38と第2基板40とが交互に繰り返し積層され、その積層方向の両端に一対の端板42が分かれて積層されることによって積層体26が形成されている。積層体26では、第1基板38の厚み方向の両側に第2基板40がそれぞれ積層されている。各第1基板38には、複数の第1流路32がそれぞれ配列され、各第2基板40には、複数の第2流路34がそれぞれ配列されている。各基板38,40は、例えばステンレス鋼等によって形成された薄い平板である。積層された基板38,40は、それらの互いに接触する板面同士が拡散接合されることによって一体化されている。なお、第1基板38は、本発明の第1層の一例であり、第2基板40は、本発明の第2層の一例である。
【0039】
各第1基板38の厚み方向における一方の板面(図5参照)には、複数の第1流路32を形成するための複数の第1流路用溝部48が形成されている。なお、図5では、第1基板38に形成された複数の第1流路用溝部48全体の外形を示しており、第1流路用溝部48の1本ずつの図示については省略しているが、図5に示した外形内に複数の第1流路用溝部48が並列配置されている。第1基板38の前記一方の板面における複数の第1流路用溝部48の開口がその板面上に積層された第2基板40で封止されることによって、その一方の板面側に配列されるとともにその一方の板面に沿うように複数の第1流路32が形成されている。
【0040】
積層体26のうち第1基板38の長手方向の一端近傍(積層体26の上端近傍)で且つ第1基板38の幅方向の一端近傍の位置には、各第1流路32へ水素ガスを導入するための第1導入口50が形成されている。この第1導入口50は、本発明による第1流路の入口の一例である。第1導入口50は、各基板38,40と一対の端板42のうちの一方の端板42とを同じ位置で厚み方向に貫通して連通する貫通穴によって形成されている。これにより、第1導入口50は、基板38,40の積層方向に連続し、前記一方の端板42の表側の板面において開口した穴となっている。また、各第1基板38に形成された複数の第1流路32は、全て、この第1導入口50に繋がっている。すなわち、第1導入口50は、積層体26内に設けられた全ての第1流路32に共通の水素ガスの導入口となっている。
【0041】
積層体26のうち第1基板38の長手方向及び幅方向において第1導入口50と反対側の端部近傍の位置には、各第1流路32を流れた水素ガスを排出するための第1排出口52が形成されている。この第1排出口52は、本発明による第1流路の出口の一例である。第1排出口52は、第1導入口50と同様、各基板38,40と前記一方の端板42を同じ位置で厚み方向に貫通して連通する貫通穴によって形成されている。また、第1排出口52は、第1導入口50と同様、積層体26内に設けられた全ての第1流路32に共通の水素ガスの排出口となっている。
【0042】
第1流路32は、第1導入口50と第1排出口52の間で、第1基板38の幅方向の一方側から他方側へ直線的に延びる部分と、その部分から折り返されて第1基板38の幅方向の前記他方側から前記一方側へ直線的に延びる部分とが繰り返し設けられた蛇行した形状を有する。
【0043】
各第2基板40の厚み方向における一方の板面(図6参照)には、複数の第2流路34を形成するための複数の第2流路用溝部54が形成されている。なお、図6では、図5と同様、第2基板40に形成された複数の第2流路用溝部54全体の外形を示しており、第2流路用溝部54の1本ずつの図示については省略しているが、図6に示した外形内に複数の第2流路用溝部54が並列配置されている。第2基板40の前記一方の板面における複数の第2流路用溝部54の開口がその板面上に積層された第1基板38で封止されることによって、その一方の板面側に配列されるとともにその一方の板面に沿うように複数の第2流路34が形成されている。
【0044】
各第2基板40に形成された複数の第2流路34は、2系統に分かれている。具体的には、この複数の第2流路34は、第2基板40の幅方向の中心から一方側に配置された一方の群の第2流路34と、第2基板40の幅方向の中心から他方側に配置された他方の群の第2流路34とによって構成されている。前記一方の群の第2流路34は、第2基板40の幅方向の中心側からその第2基板40の幅方向の前記一方側の端縁側へ直線的に延びる部分と、その部分から折り返されて第2基板40の幅方向の中心側へ直線的に延びる部分とが繰り返し設けられた蛇行した形状を有する。また、前記他方の群の第2流路34は、前記一方の群の第2流路34と第2基板40の幅方向の中心に対して対称となる蛇行した形状を有する。
【0045】
第2基板40に形成された各第2流路34の一端は、第2基板40の長手方向に沿う積層体26の長手方向の一方側の端面、具体的には前記第1排出口52が配置された側の端面において開口している。これらの開口は、各第2流路34へブラインを導入するための第2導入口34aとなっている。第2導入口34aは、本発明による第2流路の入口の一例である。第2基板40に形成された各第2流路34の第2導入口34aと反対側の端部は、第2基板40の長手方向に沿う積層体26長手方向の他方側の端面、具体的には前記第1導入口50が配置された側の端面において開口している。これらの開口は、各第2流路34からブラインを排出するための第2排出口34bとなっている。第2排出口34bは、本発明による第2流路の出口の一例である。
【0046】
以上のように構成された積層体26において、第1基板38の一方の板面側に配列された複数の第1流路32のうち第1基板38の幅方向に直線的に延びる部分の形成領域と、第2基板40の一方の板面側に配列された複数の第2流路34のうち第2基板40の幅方向に直線的に延びる部分の形成領域とは、基板38,40の積層方向から見て互いに重なって一致している。また、熱交換器10(積層体26)は、第1導入口50及び第2排出口34bが上側に位置するとともに第1排出口52及び第2導入口34aが下側に位置し、且つ、積層体26の長手方向(各基板38,40の長手方向)が上下方向に一致するように配置される。すなわち、熱交換器10の積層体26では、各第1流路32の第1導入口50及び第1排出口52が、第1導入口50から導入されて各第1流路32を第1排出口52側へ流れる水素ガスが総体的には第1基板38及び第2基板40の積層方向に直交する鉛直方向において上側から下側へ向かうように配置されている。また、各第2流路34の第2導入口34a及び第2排出口34bが、第2導入口34aから導入されて各第2流路34を第2排出口34b側へ流れるブラインが総体的には鉛直方向において下側から上側へ向かうように配置されている。」

「【0067】
例えば、第1流路及び第2流路の形状としては、上記以外の様々な形状を適用することができる。例えば、第1流路及び第2流路は、上記のような折り返しを繰り返す蛇行形状をなすものに限定されず、例えば、直線状に延びるものであってもよい。」



」(図3)



」(図4)



」(図5)



」(図6)

(2)引用文献1から理解できる事項
上記(1)の各記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

ア 熱交換器10は、ブラインと水素ガスとの間で熱交換させるための、ブラインを流通させる第2流路34と水素ガスを流通させる第1流路32が設けられたマイクロチャネル熱交換器である(段落【0035】-【0037】、図3-6参照)。

イ 熱交換器10では、ステンレス鋼によって形成された薄い平板である第1基板38と第2基板40とが交互に繰り返し積層されている(段落【0036】、【0038】、図3、図4参照)。

ウ 第2基板40は、積層方向から見て長手方向および幅方向を有する(段落【0044】-【0046】、図6参照)。

エ 第2基板40の厚み方向における一方の板面には第2流路34が形成されている(段落【0043】、図4、図6参照)。

オ 第2流路34の両端にブラインを導入するための第2導入口34aおよびブラインを排出するための第2排出口34bが形成されている(段落【0045】、図6参照)。

カ 第2基板40は水素ガスを導入するための第1導入口50および水素ガスを排出するための第1排出口52が幅方向の両側に形成されている(段落【0040】、【0041】、図6参照)。

キ 第1基板38は、積層方向から見て長手方向および幅方向を有する(段落【0040】、【0041】、【0046】、図5参照)。

ク 第1基板38の厚み方向における一方の板面には第1流路32が形成されている(段落【0039】、図4、図5参照)。

ケ 第1流路32の両端に水素ガスを導入するための第1導入口50および水素ガスを排出するための第1排出口52が第1基板38に厚み方向に貫通して形成されている(段落【0040】、【0041】、図5参照)。

コ 段落【0046】の「積層体26において、第1基板38の一方の板面側に配列された複数の第1流路32のうち第1基板38の幅方向に直線的に延びる部分の形成領域と、第2基板40の一方の板面側に配列された複数の第2流路34のうち第2基板40の幅方向に直線的に延びる部分の形成領域とは、基板38,40の積層方向から見て互いに重なって一致している。」との記載、並びに、図5及び図6の記載内容を考慮すると、積層方向から見て、幅方向中心側における第1流路32の流れ方向が変化する領域において、第1流路32内の水素ガスの流れ方向と第2流路34内のブラインの流れ方向が交差するよう構成されていることは明らかである。

サ 第1流路32は、第1導入口50と第1排出口52の間で、第1基板38の幅方向の一方側から他方側へ直線的に延びる部分と、その部分から折り返されて第1基板38の幅方向の他方側から一方側へ直線的に延びる部分とが繰り返し設けられた蛇行した形状を有する(段落【0042】、図5参照)。

シ 熱交換器10では、一対の端板42が積層方向の両端に積層されている(段落【0036】、【0038】、図3参照)。

ス 段落【0039】における「第1基板38の前記一方の板面における複数の第1流路用溝部48の開口がその板面上に積層された第2基板40で封止される」との記載、段落【0043】における「第2基板40の前記一方の板面における複数の第2流路用溝部54の開口がその板面上に積層された第1基板38で封止される」との記載、及び、熱交換器において流路から流体が漏れ出ることのないように封止することは技術常識であることを踏まえると、一対の端板42も、第2基板40や第1基板38と同様、隣接する基板を封止するものであることは明らかである。

セ 第2流路34は、積層方向から見て、第2基板40の幅方向の中心側からその第2基板40の幅方向の端縁側へ直線的に延びる部分と、その部分から折り返されて第2基板40の幅方向の中心側へ直線的に延びる部分とが繰り返し設けられた蛇行した形状を有し、第2流路34は、2系統に分かれるものであって、第2導入口34aから長手方向に延びた後、第2基板40の幅方向の中心側から第2基板40の幅方向のそれぞれの端縁側へ直線的に延びるよう構成され、幅方向の中心に対して対称をなしている(段落【0044】、図6参照)。

ソ 複数の第1基板38と、複数の第2基板40と、一対の端板42とによって形成される積層体26は、直方体状の外形を有している(段落【0037】、【0038】参照)。

(3)引用発明
上記(1)、(2)から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ブラインと水素ガスとの間で熱交換させるための、ブラインを流通させる第2流路34と水素ガスを流通させる第1流路32が設けられたマイクロチャネル熱交換器であって、
積層方向から見て長手方向および幅方向を有し、第1基板38と積層され、厚み方向における一方の板面には第2流路34が形成され、第2流路34の両端にブラインを導入するための第2導入口34aおよびブラインを排出するための第2排出口34bが形成され、水素ガスを導入するための第1導入口50および水素ガスを排出するための第1排出口52が幅方向の両側に形成された、薄い平板である第2基板40と、
積層方向から見て長手方向および幅方向を有し、第2基板40と積層され、厚み方向における一方の板面には第1流路32が形成され、積層方向から見て、幅方向中心側における第1流路32の流れ方向が変化する領域において、第1流路32内の水素ガスの流れ方向と第2流路34内のブラインの流れ方向が交差するよう構成され、かつ、第1流路32は、第1導入口50と第1排出口52の間で、第1基板38の幅方向の一方側から他方側へ直線的に延びる部分と、その部分から折り返されて第1基板38の幅方向の他方側から一方側へ直線的に延びる部分とが繰り返し設けられた蛇行した形状を有し、第1流路32の両端に水素ガスを導入するための第1導入口50および水素ガスを排出するための第1排出口52が厚み方向に貫通して形成された、薄い平板である第1基板38と、
積層方向の両端に設けられ、隣接する基板を封止するよう積層された一対の端板42と、
を有し、
第2流路34は、積層方向から見て、第2基板40の幅方向の中心側からその第2基板40の幅方向の端縁側へ直線的に延びる部分と、その部分から折り返されて第2基板40の幅方向の中心側へ直線的に延びる部分とが繰り返し設けられた蛇行した形状を有し、第2流路34は、2系統に分かれるものであって、第2導入口34aから長手方向に延びた後、第2基板40の幅方向の中心側から第2基板40の幅方向のそれぞれの端縁側へ直線的に延びるよう構成され、幅方向の中心に対して対称をなし、
複数の第1基板38と、複数の第2基板40と、一対の端板42とによって形成される積層体26は、直方体状の外形を有し、
第1基板38と第2基板40はステンレス鋼によって形成された、
マイクロチャネル熱交換器。」

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
令和 2年10月29日付けで当審より通知した拒絶理由において引用した引用文献2には、次の事項が記載されている。

「【0001】
この発明は、超小型のガスタービンにおける燃焼排気ガスと空気との熱交換を行うガスタービン用再生熱交換器に係り、例えばシリコンウェーハにフォトリソエッチングにて通路形成した燃焼排気ガスと空気用の2種の通路基板を積層して構成した小型で構造の簡単なマイクロガスタービン用再生熱交換器に関する。」

「【0012】
この発明において、再生熱交換器を構成する基板には、特に限定しないが、シリコンウェーハ、シリコンカーバイトウェーハなど、種々公知の耐熱特性にすぐれた半導体デバイス用基板、あるいはさらにステンレス鋼、耐熱合金鋼などを利用することが可能である。
【0013】
かかる基板への加工方法は、半導体デバイスの製造に用いられる公知の切断、切削を初め、ドライエッチング、ウエットエッチング等の手段並びに装置を用いることが可能であり、効率よく量産を行うことができる。また、ステンレス鋼等にも同様の加工方法が採用できる。さらに、かかる材料からなる基板は、積層後に材料種に応じた温度、圧力にて拡散接合にて一体化することができる。」

(2)引用文献2に記載された技術的事項
上記(1)の記載から、引用文献2には以下の技術的事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

「燃焼排気ガスと空気との熱交換を行う再生熱交換器において、
燃焼排気ガスと空気用の2種の通路基板が積層して構成され、
ステンレス鋼が利用される通路基板にエッチングによって通路が形成される点。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを、その機能、構造または技術的意義を考慮して対比する。
引用発明の「ブライン」は、本願発明の「A流体」に、
引用発明の「水素ガス」は、本願発明の「B流体」に、
引用発明の「第2流路34」は、ブラインを流通させるものであるから、本願発明1の「A流体流路」に、
引用発明の「第1流路32」は、水素ガスを流通させるものであるから、本願発明の「B流体流路」に、
引用発明の「第2基板40」は、本願発明の「第1チャンネルプレート」に、
引用発明の「第1基板38」は、本願発明の「第2チャンネルプレート」に、
引用発明の「長手方向」は、本願発明の「長手方向」に、
引用発明の「幅方向」は、本願発明の「短手方向」に、
引用発明の「厚み方向における一方の板面」は、本願発明の「一側面」に、
引用発明の「第2導入口34a」は、ブラインを導入するためのものであるから、本願発明1の「A流体引込口」に、
引用発明の「第2排出口34b」は、ブラインを排出するためのものであるから、本願発明1の「A流体排出口」に、
引用発明の「第1基板38」の「第1導入口50」は、水素ガスを導入するためのものであるから、本願発明の「第2チャンネルプレート」の「B流体引込部」に、
引用発明の「第1基板38」の「第1排出口52」は、水素ガスを排出するためのものであるから、本願発明の「第2チャンネルプレート」の「B流体排出部」に、
引用発明の「第2基板40」の「第1導入口50」は、本願発明の「第1チャンネルプレート」の「B流体引込部」「に対応する構造」に、
引用発明の「第2基板40」の「第1排出口52」は、本願発明の「第1チャンネルプレート」の「B流体排出部に対応する構造」に、
引用発明の「積層方向の両端に設けられ」た「一対の端板42」は、「積層体26」が「複数の第1基板38と、複数の第2基板40と、一対の端板42とによって形成される」ことを踏まえると、本願発明の「前記第1チャンネルプレートと前記第2チャンネルプレートがそれぞれ2つ以上交互積層されたチャンネルプレート積層構造の上部面に装着され」た「上板」、及び、「前記第1チャンネルプレートと前記第2チャンネルプレートがそれぞれ2つ以上交互積層された前記チャンネルプレート積層構造の下部面に装着され」た「下板」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の「ブラインと水素ガスとの間で熱交換させる」ことは、本願発明の「A流体とB流体が互いに熱交換できる」ことに、
引用発明の「積層方向から見」ることは、本願発明の「平面上からみ」ることに、
引用発明の「複数の第1基板38と、複数の第2基板40と、一対の端板42とによって形成される積層体26は、直方体状の外形を有」することは、本願発明の「第1チャンネルプレート」と「第2チャンネルプレート」が「長方形構造であ」ることに、
引用発明の「薄い平板である」ことは、本願発明の「板状型構造」であることに、
引用発明の「積層方向から見て、幅方向中心側における第1流路32の流れ方向が変化する領域において、第1流路32内の水素ガスの流れ方向と第2流路34内のブラインの流れ方向が交差するよう構成され」ていることは、本願発明の「前記B流体流路が、平面上からみて、前記A流体流路と部分的に交差する方向に」「形成され」ていることに、
引用発明の「第1基板38」に「水素ガスを導入するための第1導入口50および水素ガスを排出するための第1排出口52が厚み方向に貫通して形成された」ことは、本願発明の「第2チャンネルプレート」に「前記B流体引込部と前記B流体排出部が一体型構造に形成された」ことに、
引用発明の「一対の端板42」が「隣接する基板を封止するよう積層された」ことは、「積層体26」が「複数の第1基板38と、複数の第2基板40と、一対の端板42とによって形成される」ことを踏まえると、本願発明の「上板」が「前記チャンネルプレート積層構造の前記上部面を密閉する構造」であること、及び、「下板」が「前記チャンネルプレート積層構造の前記下部面を密閉する構造」であることに、
引用発明の「第2流路34は、積層方向から見て、第2基板40の幅方向の中心側からその第2基板40の幅方向の端縁側へ直線的に延びる部分と、その部分から折り返されて第2基板40の幅方向の中心側へ直線的に延びる部分とが繰り返し設けられた蛇行した形状を有」することは、本願発明の「前記A流体流路は、平面上からみて、複数の折り曲げ構造がそれぞれ互いに当接して隣接するように配置され」ていることに、
引用発明の「第2流路34は、2系統に分かれるものであって、第2導入口34aから長手方向に延びた後、第2基板40の幅方向の中心側から第2基板40の幅方向のそれぞれの端縁側へ直線的に延びるよう構成され、幅方向の中心に対して対称をなし」ていることは、本願発明の「前記A流体流路は、」「前記A流体引込口から前記長手方向に延び、2つの方向に分岐して互いに対称をなす構造である」ことに、それぞれ相当する。

そして、引用発明の「マイクロチャネル熱交換器」は、本願発明の「プリント回路熱交換器」と「熱交換器」である点で共通する。

したがって、両者は以下の点で一致する一方、以下の各点で相違する。

<一致点>
「A流体とB流体が互いに熱交換できるようにA流体流路およびB流体流路が形成された熱交換器であって、
平面上からみて、長手方向および短手方向を有する長方形構造であり、第2チャンネルプレートと積層され、前記A流体流路が一側面に形成され、前記A流体流路の両端部にA流体引込口およびA流体排出口が形成され、B流体引込部およびB流体排出部に対応する構造が前記短手方向の両側に形成された板状型構造の第1チャンネルプレートと、
平面上からみて、長手方向および短手方向を有する長方形構造であり、前記第1チャンネルプレートと積層され、一側面に前記B流体流路が、平面上からみて、前記A流体流路と部分的に交差する方向に形成され、前記B流体流路の両端部に前記B流体引込部と前記B流体排出部が一体型構造に形成された板状型構造の第2チャンネルプレートと、
前記第1チャンネルプレートと前記第2チャンネルプレートがそれぞれ2つ以上交互積層されたチャンネルプレート積層構造の上部面に装着され、前記チャンネルプレート積層構造の前記上部面を密閉する構造の上板と、
前記第1チャンネルプレートと前記第2チャンネルプレートがそれぞれ2つ以上交互積層された前記チャンネルプレート積層構造の下部面に装着され、前記チャンネルプレート積層構造の前記下部面を密閉する構造の下板と、を含み、
前記A流体流路は、平面上からみて、複数の折り曲げ構造がそれぞれ互いに当接して隣接するように配置され、前記A流体引込口から前記長手方向に延び、2つの方向に分岐して互いに対称をなす構造である、
熱交換器。」

<相違点1>
熱交換器の形態に関して、本願発明は「プリント回路熱交換器」であるのに対して、引用発明は「マイクロチャネル熱交換器」であり、「プリント回路熱交換器」かどうかは不明である点。

<相違点2>
第2チャンネルプレートに形成されるB流体流路の形状に関して、本願発明の「B流体流路」は、「前記B流体を前記長手方向および前記短手方向のそれぞれにおいて一方向だけに流すように延びて形成され」ているのに対して、引用発明の「第1流路32」は、「第1導入口50と第1排出口52の間で、第1基板38の幅方向の一方側から他方側へ直線的に延びる部分と、その部分から折り返されて第1基板38の幅方向の他方側から一方側へ直線的に延びる部分とが繰り返し設けられた蛇行した形状を有し」ている点。

2 判断
上記各相違点について検討する。

<相違点1について>
引用発明と引用文献2記載事項は、通路(流路)が形成された2種の通路(流路)基板を積層して構成した熱交換器に関する点で技術分野が共通している。
そして、引用発明の第1基板38と第2基板40はステンレス鋼によって形成されたものであり、また、引用文献2記載事項の通路基板もステンレス鋼が利用されていることから、引用発明に引用文献2記載事項を適用するにあたっての阻害要因もない。
したがって、引用発明の第2基板40及び第1基板34において、それぞれ第2流路34及び第1流路32を形成するにあたり、引用文献2記載事項の通路基板のようにエッチング、すなわち、プリント回路の製造工程で用いられる技術により流路を形成するようにして、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2について>
上述したとおり、引用文献1の段落【0067】には、「例えば、第1流路及び第2流路の形状としては、上記以外の様々な形状を適用することができる。例えば、第1流路及び第2流路は、上記のような折り返しを繰り返す蛇行形状をなすものに限定されず、例えば、直線状に延びるものであってもよい。」と記載されており、第1流路32の形状を変更することの示唆がある。
そうすると、引用文献1の上記示唆のもと、引用発明において、流路抵抗や熱交換効率等を考慮して第1流路32を様々な形状に変更することは当業者であれば適宜なし得ることであって、また、例えば、特開平3-140797号公報の第2ページ左上欄第10行-右上欄第4行、第2図に記載された、積層型熱交換器のプレート15に形成された冷媒流路15aに示されるように、複数の基板を積層して形成される熱交換器において、基板に形成する流路を流体が長手方向と短手方向のそれぞれにおいて一方向だけに流れるように延びる形状に構成することは、本願優先日前から広く知られた周知技術(以下、「周知技術」という。)であるから、当該周知技術のもと、引用発明において、第1流路32の形状を、水素ガスが長手方向および幅方向のそれぞれにおいて一方向だけに流れるように延ばして、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、第1流路32の形状をそのように変更したとしても、第1流路32内の水素ガスの流れ方向と第2流路34内のブラインの流れ方向が完全に一致することはないから、依然として、積層方向から見て、第1流路32内の水素ガスの流れ方向と第2流路34内のブラインの流れ方向が部分的に交差することは明らかである。

3 効果
本願発明の効果である「構造を簡単に構成して製作工程を簡素化できる構造を含む印刷基板型熱交換器を提供することができる」(段落【0045】)ことや「作業時間の短縮、製作費用の節減」(段落【0062】)は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術から予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-05-07 
結審通知日 2021-05-11 
審決日 2021-05-28 
出願番号 特願2018-178724(P2018-178724)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F28F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 笹木 俊男  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 林 茂樹
後藤 健志
発明の名称 一体型構造を含む印刷基板型熱交換器  
代理人 龍華国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ