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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D06F
管理番号 1379169
審判番号 不服2020-10719  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-03 
確定日 2021-10-13 
事件の表示 特願2017-522591「衣類スチーム器具」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月 6日国際公開、WO2016/066725、平成29年11月 9日国内公表、特表2017-533022〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)10月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年10月31日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和元年11月25日付けの拒絶理由通知に対し、令和2年2月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、令和2年4月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対して令和2年8月3日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 令和2年8月3日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年8月3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
ソールプレートアセンブリを含む衣類スチーム器具であって、
- 蒸気の流れを受ける蒸気経路と、
- アイロンかけ表面及び反対の上面を含むアイロンかけプレートであり、前記蒸気経路内の蒸気が、前記アイロンかけ表面に対して実質的に平行である方向において前記上面に沿って流れるように、前記蒸気経路が、当該アイロンかけプレートの上面に沿って延びる、アイロンかけプレートと、
- 前記上面から前記アイロンかけ表面まで、前記アイロンかけプレートを通って延びる通気孔と、
- 前記蒸気経路内に提供され、前記通気孔を部分的に取り囲む整流装置と、
を含み、
前記整流装置が、前記アイロンかけ表面に対して実質的に平行である前記上面に沿って流れる複数の流路に、前記アイロンかけ表面に対して実質的に平行である方向において前記上面に沿って流れる前記蒸気を分けるように構成され、前記整流装置の位置及び/又はサイズを制御することによって、前記複数の流路のそれぞれに流れる蒸気の流れの大きさが個々に制御され、その結果、前記上面に沿って異なる方向から前記通気孔の上で集まった蒸気の流れの、前記アイロンかけ表面に対する前記通気孔からの方向が制御される、衣類スチーム器具。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、令和2年2月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ソールプレートアセンブリを含む衣類スチーム器具であって、
- 蒸気の流れを受ける蒸気経路と、
- アイロンかけ表面及び反対の上面を含むアイロンかけプレートであり、前記蒸気経路内の蒸気が、前記アイロンかけ表面に対して実質的に平行である方向において前記上面に沿って流れるように、前記蒸気経路が、当該アイロンかけプレートの上面に沿って延びる、アイロンかけプレートと、
- 前記上面から前記アイロンかけ表面まで、前記アイロンかけプレートを通って延びる通気孔と、
- 前記蒸気経路内に提供され、前記通気孔を部分的に取り囲む整流装置と、
を含み、
前記整流装置が、前記アイロンかけ表面に対して実質的に平行である前記上面に沿って流れる複数の流路に、前記アイロンかけ表面に対して実質的に平行である方向において前記上面に沿って流れる前記蒸気を分けるように構成され、前記整流装置を制御することによって、前記複数の流路のそれぞれに流れる蒸気が個々に制御され、その結果、前記上面に沿って異なる方向から前記通気孔の上で集まった蒸気の流れの、前記アイロンかけ表面に対する前記通気孔からの方向が制御される、衣類スチーム器具。」

2.補正の適否
本件補正後の請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に係る発明(以下、「補正前発明」という。)を特定するために必要な事項である「整流装置」について、その「位置及び/又はサイズを制御する」との限定を付加し、また「複数の流路のそれぞれに流れる蒸気」について、その「流れの大きさが個々に制御され」るとの限定を付加するものであって、補正前発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(1)の請求項1に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載及び引用発明
ア.引用文献1の記載
原査定(令和2年4月13日付け拒絶査定)の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開昭59-168897号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。以下、同様である。)。

(ア)「従来のこの種スチームアイロンにあっては、スチーム通路へ流動してきたスチームをそのままスチーム噴出口より噴出するようにしていた。しかし、この構成では、特に増量スチーム時に、スチーム通路内の流動力がスチーム噴出口より噴出するスチームに附加され、その結果、上記スチームの噴出方向がベース下面に対して極端に傾斜してしまうものであった。
上記傾斜したスチームの噴出は、布地にベースを当てて使用する一般的なアイロンがけ作業時には問題がないが、ウール布地のスチームがけのように布地からベースを離して使用する場合はスチーム噴出方向が確認しにくく、非常に使い勝手の悪いものとなっていた。」(第1ページ左下欄第19行-右下欄第12行)

(イ)「第1図?第5図において、1はU字状のヒーター2を埋設するとともに、このヒーター2間に位置する上面に気化室3を凹設したベース、4はベースカバー、5はベース1の下面と面一に取着されたベース蓋である。6,7は上記ベース1を間に、その上下面とベースカバー4およびベース蓋5とで形成された上下2段のスチーム通路で、各先端は連通孔8により、また上段のスチーム通路6の基端は気化室3に連通部9を介してそれぞれ連絡してある。10は同スチーム通路6を実質的に蛇行状に設定して残留水滴の気化とスチーム流動速度を高めるリブ、11は下段のスチーム通路7と連通させてベース蓋5に形成したスチーム噴出口にして、内外両側に2列配列してある。そして、12がこれらスチーム噴出口11の入口側の一部にそれぞれ近接して設けた略円弧状のスチーム制御壁で、ベース1の下面よりベース蓋5の上面に向けて突設してある。さらに述べると、これらスチーム制御壁12は、スチーム通路7内でのスチーム流動方向に対してスチーム噴出口11の入口側上流に位置設定してある。」(第2ページ左上欄第9行-右上欄第9行)

(ウ)「気化室3に達した水はその場で直ちに、あるいはスチーム通路6を流動するうちすべて気化され、スチームとして連通孔8を通り下段のスチーム通路7に流動するものである。そして、このスチーム通路7のスチームはスチーム制御壁12によってスチーム噴出口11へ直線的に達することはなく、一旦迂回した状態で同スチーム噴出口11に流入し、次いで噴出される。
上記スチーム噴出口11へ至るまでの迂回流動動作によって、スチーム通路7でのスチームの流れ方向成分はほぼ消却され、したがって、スチーム噴出口11からは所定方向へのスチーム噴出が行われるものである。」(第2ページ左下欄第6-18行)

(エ)「以上のように本発明によれば、スチーム噴出口からのスチーム噴出を所定方向に設定できるところから、スチームがけ時の操作性がよく、またアイロンがけ時にも布地の奥深くまでスチームが行きわたり、シワのばしなどを確実とすることができるもので、著しくアイロンのスチーム性能を向上し得るものである。」(第2ページ右下欄第2-8行)

(オ)「第4図はベースの下面図、第5図はベース蓋の下面図である。」(第2ページ右下欄第12-13行)

(カ)記載事項(イ)、(オ)及び第3-5図の図示内容によると、スチームアイロンは、ベース1とベース蓋5を含んでいるといえる。

(キ)記載事項(ア)によると、スチームアイロンは、布地に対してスチームを噴出するものといえる。

(ク)記載事項(イ)、(ウ)及び第1、3、4図の図示内容によると、スチーム流路7は気化したスチームを流動させるものであるから、スチームの流れを受けているといえる。

(ケ)記載事項(イ)、(ウ)、(オ)及び第1、3-5図の図示内容によると、ベース蓋5は下面及び上面を含んでいるといえる。また、気化されたスチームは、ベース1に形成された連通孔8を通ってベース蓋5の上面とベース1の下面との間に形成されたスチーム通路7に流動し、スチーム通路7内をベース蓋5の下面に対して実質的に平行に流れて、ベース蓋5に形成された複数のスチーム噴出口11に達していることがわかる。すると、スチーム通路7内のスチームが、ベース蓋5の下面に対して実質的に平行である方向においてベース蓋5の上面に沿って流れるように、スチーム通路7がベース蓋5の上面に沿って延びているといえる。

(コ)記載事項(イ)、(ウ)及び第1、3、5図の図示内容によると、スチーム噴出口11は、ベース蓋5の上面から流入したスチームをベース蓋5の下面から噴出するものであるから、スチーム噴出口11は、上面から下面までベース蓋5を通って延びているといえる。

(サ)記載事項(イ)、(ウ)及び第4、5図の図示内容によると、スチーム制御壁12は、スチーム通路7内に設定されて、スチーム噴出口11を部分的に取り囲んでいるといえる。

(シ)第4図には、スチームの流動方向にスチーム制御壁12が配置されることによって、複数の流路にスチームが分けられることが示されているから、スチーム制御壁12は、ベース蓋5の上面に沿って流れる複数の流路にスチームを分けるように構成されているといえる。

(ス)記載事項(イ)及び第4図の図示内容によると、スチーム制御壁12の位置が、スチーム通路7内でのスチームの流動方向に対してスチーム噴射口11の入口側上流に設定されているといえる。

(セ)記載事項(ウ)、(エ)及び第4図の図示内容によると、スチーム制御壁12は、スチーム噴出口11へ至るまでのスチームの迂回流動動作によって、スチーム通路7でのスチームの流れ方向の成分がほぼ消却されて、スチーム噴出口11からのスチーム噴出を所定方向に設定できるものといえる。

イ.引用発明
上記引用文献1の記載事項(ア)-(セ)及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ベース1とベース蓋5とを含む布地にスチームを噴出するスチームアイロンであって、
スチームの流れを受けるスチーム通路7と、
下面及び上面を含むベース蓋5であり、前記スチーム通路7内のスチームが、前記下面に対して実質的に平行である方向において前記上面に沿って流れるように、前記スチーム通路7が、当該ベース蓋5の上面に沿って延びる、ベース蓋5と、
前記上面から前記下面まで、前記ベース蓋5を通って延びるスチーム噴出口11と、
前記スチーム通路7内に設定され、前記スチーム噴出口11を部分的に取り囲むスチーム制御壁12と、
を含み、
前記スチーム制御壁12が、前記ベース蓋5の前記上面に沿って流れる複数の流路にスチームを分けるように構成され、前記スチーム制御壁12の位置が、前記スチーム通路7内でのスチームの流動方向に対して前記スチーム噴射口11の入口側上流に設定され、前記スチーム噴出口11へ至るまでのスチームの迂回流動動作によって、前記スチーム通路7でのスチームの流れ方向の成分がほぼ消却されて、前記スチーム噴出口11からのスチーム噴出を所定方向に設定できる、布地にスチームを噴出するスチームアイロン。」

(3)対比
以下、本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「ベース1」と「ベース蓋5」との組み合わせは、本件補正発明の「ソールプレートアセンブリ」に相当する。また、引用発明の「スチームアイロン」は、布地に対してスチームを噴出するものであるところ、衣類の多くが布地で作られていることは本願出願時の技術常識であり、引用発明の「布地」には、衣類の「布地」が当然にスチームを噴出させる対象物として想定されているから、引用発明の「布地にスチームを噴出するスチームアイロン」は、本件補正発明の「衣類スチーム器具」に相当する。
イ.引用発明の「スチーム」及び「スチーム通路7」は、それぞれ本件補正発明の「蒸気」及び「蒸気経路」に相当する。
ウ.引用発明のベース蓋5の「下面」及び「上面」、「ベース蓋5」は、それぞれ本件補正発明の「アイロンかけ表面」及び「反対の上面」、「アイロンかけプレート」に相当する。すると、引用発明の「下面及び上面を含むベース蓋5」は、本件補正発明の「アイロンかけ表面及び反対の上面を含むアイロンかけプレート」に相当する。
エ.引用発明の「スチーム噴出口11」は、本件補正発明の「通気孔」に相当する。
オ.引用発明の「スチーム通路7内に設定され」るという事項は、本件補正発明の「蒸気経路内に提供され」るという事項に相当し、引用発明の「スチーム制御壁12」は、本件補正発明の「整流装置」に相当する。
カ.したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「ソールプレートアセンブリを含む衣類スチーム器具であって、
蒸気の流れを受ける蒸気経路と、
アイロンかけ表面及び反対の上面を含むアイロンかけプレートであり、前記蒸気経路内の蒸気が、前記アイロンかけ表面に対して実質的に平行である方向において前記上面に沿って流れるように、前記蒸気経路が、当該アイロンかけプレートの上面に沿って延びる、アイロンかけプレートと、
前記上面から前記アイロンかけ表面まで、前記アイロンかけプレートを通って延びる通気孔と、
前記蒸気経路内に提供され、前記通気孔を部分的に取り囲む整流装置と、
を含む、衣類スチーム器具。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
整流装置について、本件補正発明では、「前記整流装置が、前記アイロンかけ表面に対して実質的に平行である前記上面に沿って流れる複数の流路に、前記アイロンかけ表面に対して実質的に平行である方向において前記上面に沿って流れる前記蒸気を分けるように構成され、前記整流装置の位置及び/又はサイズを制御することによって、前記複数の流路のそれぞれに流れる蒸気の流れの大きさが個々に制御され、その結果、前記上面に沿って異なる方向から前記通気孔の上で集まった蒸気の流れの、前記アイロンかけ表面に対する前記通気孔からの方向が制御される」のに対し、引用発明では、「前記スチーム制御壁12が、前記ベース蓋5の前記上面に沿って流れる複数の流路にスチームを分けるように構成され、前記スチーム制御壁12の位置が、前記スチーム通路7内でのスチームの流動方向に対して前記スチーム噴射口11の入口側上流に設定され、前記スチーム噴出口11へ至るまでのスチームの迂回流動動作によって、前記スチーム通路7でのスチームの流れ方向の成分がほぼ消却されて、前記スチーム噴出口11からのスチーム噴出を所定方向に設定できる」点。

(4)判断
ア.相違点について
以下、上記相違点について検討する。
本件補正発明の「前記整流装置の位置及び/又はサイズを制御することによって、前記複数の流路のそれぞれに流れる蒸気の流れの大きさが個々に制御され、その結果、前記上面に沿って異なる方向から前記通気孔の上で集まった蒸気の流れの、前記アイロンかけ表面に対する前記通気孔からの方向が制御される」という事項に関して、本件補正後の請求項1の全体の記載を総合すれば、本件補正発明は「衣類スチーム器具」の発明であって、当該「衣類スチーム器具」が製造された後は、通気孔からのスチーム噴射が行われる動作時に、整流装置の位置及び/又はサイズが変化するものとは解されず、整流装置の位置及び/又はサイズは固定されるものであると解される。そうすると、上記事項は、衣類スチーム器具の設計段階において、「前記複数の流路のそれぞれに流れる蒸気の流れの大きさが個々に制御され、その結果、前記上面に沿って異なる方向から前記通気孔の上で集まった蒸気の流れの、前記アイロンかけ表面に対する前記通気孔からの方向が制御される」ように、「整流装置の位置及び/又はサイズ」が決定されたものであることを意味すると解される。そして、そのように解することは発明の詳細な説明の記載とも整合し、本件補正発明は、少なくともそのようなものを含むものと認められる。

引用発明では、スチーム通路7がベース蓋5の上面に沿って延び、スチーム通路7内のスチームがベース蓋5の下面に対して実質的に平行である方向においてベース蓋5の上面に沿って流れるものであるから、引用発明のスチーム制御壁12は、ベース蓋5の下面に対して実質的に平行であるベース蓋5の上面に沿って流れる複数の流路に、ベース蓋5の下面に対して実質的に平行である方向においてベース蓋5の上面に沿って流れるスチームを分けるように構成されているといえる。そして、スチーム制御壁12の位置がスチームの流動方向に対してスチーム噴出口11の入口側上流に設定されることによってスチームを迂回流動させるものであるから、複数の流路のそれぞれに流れるスチームの流れの方向が個々に制御されるような位置にスチーム制御壁12が決定されているといえる。また、引用文献1の第4図には、スチーム制御壁12の位置に応じてスチーム制御壁12のサイズが異なることも示されているから、スチーム制御壁12の位置に加えてサイズもスチームの流れを制御するように決定されているといえる。さらに、引用発明において、複数の流路のそれぞれに流れるスチームの迂回流動動作によってスチームの流れ方向成分はほぼ消却されるから、その流れの大きさもスチーム制御壁12によって制御されているといえる(流れ方向成分がほぼ消却されれば、その方向の流れの大きさも小さくなるものである。)。加えて、引用文献1に記載の「上記スチームの噴出方向がベース下面に対して極端に傾斜してしまう」(第1ページ右下欄第4-6行)という従来の問題点を解決するために、引用発明は、スチームの流れ方向の成分をほぼ消却させることによって、スチーム噴出口11からのスチーム噴出を所定方向に設定できるものであるから、引用発明において、ベース蓋5の下面に対するスチーム噴射口11からの方向は制御されているものといえる。
そうすると、上記相違点は形式的な相違点であって、実質的な相違点であるとはいえない。
また、仮に実質的な相違点であったとしても、スチーム噴出口からのスチーム噴出を所定方向に設定できる引用発明において、スチーム噴射口11から噴出されるスチームの方向がベース蓋5の下面に対して極端に傾斜しない範囲に制御されるように、スチーム制御壁12の位置及び/又はサイズを適宜決定して、複数の流路のそれぞれに流れるスチームの流れの大きさを個々に制御することは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ.本件補正発明の作用効果について
本件補正発明の作用効果については、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

ウ.請求人の主張について
審判請求人は、「引用文献1は、補正後の請求項1に係る発明の一特徴である「前記整流装置の位置及び/又はサイズを制御することによって、前記複数の流路のそれぞれに流れる蒸気の流れの大きさが個々に制御され」る構成を開示も示唆もしておりません。上記の一特徴によって、蒸気の噴出を、アイロンかけ表面に相対して所望の角度にて通気孔から出すように、不均等な蒸気の流れ又は不均等な強度の流れ等を通気孔の上で集めることができます。すなわち、通気孔を出る蒸気の流れを、所定の方向において流れるように制御することができ、従って、より効率の良いアイロンかけを行うことができます。」(審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由 (2)第29条第1項第3号及び第29条第2項の拒絶理由がないことの説明」)と主張している(下線は、当審で付与した。)。
しかし、上記(4)ア.で検討したように、引用発明は、複数の流路のそれぞれに流れるスチームの流れ方向成分がほぼ消却されるように、スチーム制御壁12の位置及びサイズを決定するものであるから、引用文献1には「前記整流装置の位置及び/又はサイズを制御することによって、前記複数の流路のそれぞれに流れる蒸気の流れの大きさが個々に制御され」る構成が開示も示唆もされていないという請求人の上記主張を採用することはできない。
また、引用文献1には、従来の問題点として「上記スチームの噴出方向がベース下面に対して極端に傾斜してしまう」(第1ページ左下欄第4-6行)ことが記載され、これを解決するために「上記スチーム噴出口11へ至るまでの迂回流動動作によって、スチーム通路7でのスチームの流れ方向成分はほぼ消却され、したがって、スチーム噴出口11からは所定方向へのスチーム噴出が行われる」(第2ページ左下欄第14-18行)こと、また、発明の効果として「本発明によれば、スチーム噴出口からのスチーム噴出を所定方向に設定できる」(第2ページ右下欄第1-2行)ことが記載されているから、引用発明における、スチーム噴出口11から噴出されるスチームの上記「所定方向」は、ベース下面に対して極端に傾斜しない範囲に制御されるものといえる。そうすると、引用発明においても、請求人が主張する「通気孔を出る蒸気の流れを、所定の方向において流れるように制御することができ」るという本件補正発明の効果と同様の効果を奏するものと認められる。

エ.まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、又は本件補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
令和2年8月3日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の各請求項に係る発明は、令和2年2月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみてその請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2[理由]1.(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-7、9-14に係る発明は、この出願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、また、この出願の請求項1-14に係る発明は、この出願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願の優先権主張の日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開昭59-168897号公報

3.引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記「第2[理由]1.(2)」に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]2.」で検討した本件補正発明から、整流装置「の位置及び/又はサイズ」を制御するという限定、及び複数の流路のそれぞれに流れる蒸気「の流れの大きさ」が個々に制御されるという限定を削除したものであり、その余の発明特定事項は本件補正発明と同じである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本件補正発明が、上記「第2[理由]2.(3)、(4)」に記載したとおり、引用文献1に記載された発明であり、又は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明であり、又は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-04-30 
結審通知日 2021-05-11 
審決日 2021-05-26 
出願番号 特願2017-522591(P2017-522591)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (D06F)
P 1 8・ 121- Z (D06F)
P 1 8・ 575- Z (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 粟倉 裕二  
特許庁審判長 窪田 治彦
特許庁審判官 神山 貴行
長馬 望
発明の名称 衣類スチーム器具  
代理人 伊東 忠重  
代理人 宮崎 修  
代理人 伊東 忠彦  

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