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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A41D
管理番号 1379188
審判番号 不服2019-15974  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-27 
確定日 2021-10-28 
事件の表示 特願2018-191750「フルハーネス型墜落制止用器具の上から着用できる反射標識帯を備えた安全チョッキ」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年4月16日出願公開、特開2020-59944〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、平成30年10月10日の出願であって、その主な手続は以下のとおりである。

平成31年1月28日付け
拒絶理由通知
同年3月15日
意見書及び手続補正書の提出
令和元年6月11日付け
拒絶理由通知(最後)
同年8月1日
意見書及び手続補正書の提出
同年10月29日付け
拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年11月27日
拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提出
令和2年6月12日付け
令和元年11月27日付けの手続補正の却下の決定及び拒絶理由通知
同年8月11日
意見書及び手続補正書の提出


第2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、令和2年8月11日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
フルハーネス型墜落制止用器具(51)の上から、ランヤード(60)とD環(58)とを引き出した状態で着用できる、フルハーネス型墜落制止用器具の上から着用できる反射標識帯を備えた安全チョッキ(11)であって、
袖がなく丈の短い、前身頃(14,15)と後身頃(16)で構成されるチョッキ本体(13)と、
前記チョッキ本体(13)の前身頃(14,15)と後身頃(16)の肩部から下端の裾部(14a,15a,16a)に掛けてそれぞれ備えられている反射標識帯(18)と、
前記チョッキ本体(13)の後身頃(16)の襟に相当する位置から下方の位置に、前記フルハーネス型墜落制止用器具(51)のランヤード(60)とD環(58)とを引き出すために上下方向に開けられた通し穴(12)と、
前記通し穴(12)に取り付けられたファスナー(20)と、を備え、
前記フルハーネス型墜落制止用器具(51)を既に装着している着用者が、前記安全チョッキ(11)を着用する際に、前記チョッキ本体(13)の両アームホール(袖ぐり)に腕を通しながら羽織り、
前記ファスナー(20)を開けて通し穴(12)を開放し、該通し穴(12)からフルハーネス型墜落制止用器具(51)のD環(58)とランヤード(60)を引き出せるように構成された、ことを特徴とするフルハーネス型墜落制止用器具の上から着用できる反射標識帯を備えた安全チョッキ。」


第3.当審で通知した拒絶理由の概要
当審において令和2年6月12日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

1)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

1.理由1(特許法第29条第2項)
本願発明1?4は、引用発明1、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

2.理由2(特許法第36条第6項第1号)
請求項1に記載された「前記フルハーネス型墜落制止用器具(51)を既に装着している着用者が、前記安全チョッキ(11)を装着する際に、前記チョッキ本体(13)の両アームホール(袖ぐり)に腕を通しながら羽織り、
前記ファスナー(20)を開けて通し穴(12)を開放し、該通し穴(12)からフルハーネス型墜落制止用器具(51)のD環(58)とランヤード(60)を引き出せるように構成された」点は、発明の詳細な説明に記載されていない。

引用文献1:特開2018-80412号公報
引用文献2:特開2018-21289号公報
引用文献3:実願平3-32180号(実開平4-120757号)のマイクロフィルム
引用文献4:登録実用新案第3063889号公報
引用文献5:特開2006-176893号公報


第4.当審の判断
1.理由1(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献の記載
ア.引用文献1(特開2018-80412号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
安全帯を装着した上に着用する衣服であって、
前記衣服の身頃に設けられた略V字状の第1スリット部と、
前記第1スリット部を開閉可能とする開閉部材と、を有する通し部を備え、
前記開閉部材を開いて略三角形状の返し片を捲ることにより、前記身頃の一部を開口することができるように構成した、ことを特徴とする衣服。
・・・
【請求項3】
前記通し部は、
前記第1スリット部の中央部から、該第1スリット部から離れるように延びる第2スリット部を有する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の衣服。
【請求項4】
前記第2スリット部を開閉可能とする開閉部材を備えた、ことを特徴とする請求項3に記載の衣服。
【請求項5】
前記開閉部材は、ファスナー又は面ファスナーである、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の衣服。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、体温調節や演出のために着用する衣服に関し、特に、墜落の虞のある場所での作業や演技のためにハーネス型安全帯を装着した場合でも、その上に着用することのできる衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高所など墜落の虞のある場所で作業をする際には、作業者を危険から守るために安全帯の装着が義務付けられている。近年においては、腰ベルト型安全帯に替えて、墜落時の荷重を分散させることのできるハーネス型安全帯が用いられることが多くなっている。しかし、ハーネス型安全帯は装着した際にランヤード(命綱)が背中の中央上部に取り付けられるので、冬場や寒冷地での作業の際には、上着等の防寒服を着用することができないという問題があった。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の「作業服」は、・・・特許文献2の「ハーネス型安全帯の着用可能な空調服」では、・・・
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、ランヤードなどの部材を容易に着脱又は挿通することができる開閉可能な開口部を有する衣服を提供することを目的としている。」

(エ)「【0015】
作業服10は、図1に示すように、前身頃11と後身頃12と両袖13と襟14とを備えたものであり、後述するランヤード通し部(通し部)20により、作業者がハーネス型安全帯を装着した際でもその上に着用することができるものである。ランヤード通し部20は、その中心線が作業服10の後身頃12の中心線と同一直線となるように、後身頃12の上部(着用者の背中部分)に設けられている。
【0016】
ランヤード通し部20は、図2に示すように、後身頃12に略Y字状のスリット部21を形成することにより設けられており、スリット部21の上側の、ランヤードを着脱する際に開閉する開閉部(第1スリット部)31と、スリット部21の下側の、ランヤードのロープ部104(図3(d)参照)を通すための開孔部(第2スリット部)35とからなる。・・・
【0017】
開閉部31は、図2に示すように、右側の右側開閉部32と左側の左側開閉部33とからなり、右側開閉部32は右上がりに傾斜した直線状であり、左側開閉部33は左上がりに傾斜した直線状となっている。右側開閉部32及び左側開閉部33は、スリット部21のV字状部分を開閉可能とするための開閉部材が取り付けられており、本実施例においては、開閉部材として、後身頃12の裏面側から右ファスナー(右係着具)32a及び左ファスナー(左係着具)33aが、上述の玉縁仕上げの際に縫い付けられている。・・・
【0018】
開孔部35は、上述したハーネス型安全帯本体部101の係止具102にランヤード103を取り付けた際に、そのロープ部104を挿通するために設けられており(図9参照)、本実施例においては、上下方向に延びた長孔として設けられている。・・・」

(オ)「【0021】
次に、ランヤード通し部20の使用方法について説明する。
図3は、ハーネス型安全帯の係止具102(D環など)にランヤード103を取り付ける手順について説明する概略説明図であり、・・・
【0022】
ハーネス型安全帯本体部101を身体に装着し、作業服10を着用した着用者は、まず、図3(a)に示すように、図2の状態から、右側開閉部32及び左側開閉部33(右ファスナー32a及び左ファスナー33a)を開く。
【0023】
そして、図3(b)に示すように、上返し片41を捲り上げて、ランヤード通し部20の開口部40の一部を略逆二等辺三角形状に開いて係止具102の一部又は全部を露出させ、この係止具102にランヤード(図示せず)を取り付ける。・・・」

(カ)「【0031】
作業服10_(2)のランヤード通し部20_(2)は、作業服10における開孔部35に、後身頃12の裏面側から下ファスナー(下係着具)36aを縫い付けて、開閉可能な下開閉部36とした構成となっている。なお、下ファスナー36aは、ロック機能を有するスライダーzを備えている。」

(キ)「【0035】
上記実施例等においては、作業服10,10_(1),10_(2)を、防寒を目的とした長袖の作業服として説明したが、これに限らず、ハーネス型安全帯の上から着用する衣服であればよい。また、少なくとも、ハーネス型安全帯101の係止具102に対向するように、ランヤード通し部20,20_(1),20_(2)を設けることのできる部分を有していればよく、例えば、ベスト型の上着やつなぎなどでもよい。・・・」

(ク)「【0054】
また、本発明の上述した実施形態においては、ハーネス型安全帯の本体部101を装着して作業服10や空調服60を着用した着用者に、後からランヤード103を着脱する場合について説明したが、必ずしも、このような使用方法に限らない。例えば、着用者が、ランヤード103が付いている状態のハーネス型安全帯を装着している場合には、ランヤード通し部20,20_(1),20_(2)やカバー部70を用いて、予め後身頃12,62の内側(裏側)から外側(表側)にランヤード103の先端側のフック106(図9参照)を取り出すとともにロープ部104を通した状態としてから、作業服10や空調服60を着用すればよい。・・・」

(ケ)「【図1】



(コ)「【図2】



(サ)「【図3】



(シ)「【図4】



上記(ア)?(シ)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「安全帯を装着した上に着用する衣服であって、
前記衣服の身頃に設けられた略V字状の第1スリット部と、
前記第1スリット部を開閉可能とする開閉部材と、を有する通し部を備え、
前記通し部は、前記第1スリット部の中央部から、該第1スリット部から離れるように延びる第2スリット部を有し、前記第2スリット部を開閉可能とする開閉部材を備え、
前記開閉部材は、ファスナー又は面ファスナーである、衣服。」

イ.引用文献2(特開2018-21289号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【0008】
装着体の一例として、安全帯を挙げることができる。・・・
なお、安全帯としては、使用者の腰に着用するベルト型、使用者の上半身および下半身に装着される所謂フルハーネス型などを使用することができる。ハンガーフックは、ロープ(安全綱)を介して安全帯と接続される。ハンガーフックとロープとを総称してランヤードと称することがある。」

(イ)「【0053】
(作業上着の動作)
上述した構成により・・・
特に、使用者が安全帯300を装着している状態であっても、図4に示す通り作業上着100Aの背側開口部150からハンガーフック311を容易に取り出し、安全に作業を行うことができる。・・・」

(ウ)「【図4】



ウ.引用文献3(実願平3-32180号(実開平4-120757号)のマイクロフィルム)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】 高所作業用安全帯4とベスト5の下端部とを連結し、ベスト5又は安全帯4、又は両方4,5に注意喚起機能6を設けたことを特徴とする墜落防止用安全帯。
【請求項2】 注意換気機能6として夜光,蛍光,反射のベルト7又はシートをベスト5又は安全帯4に設けたことを特徴とする請求項1の墜落防止用安全帯。」
(第2ページ左欄第2行?第8行)

(イ)「【従来の技術】
従来より、高所作業者が腰部に装着する安全帯は、・・・又近年電力,通信の需要拡大に伴ない、延線,保守点検等の夜間作業が増える傾向にあり、作業者の車輌等による衝突事故防止、又地上の監督者による柱上作業者の確認の必要性も出てきた。」
(第3ページ第5行?第11行)

(ウ)「【実施例】
本考案の第1実施例を示す・・・注意換気機能6としては夜光,蛍光,反射のベルト7とLED,電球の発光体8を組み合わせて設けるものであるが、実施例は図示する様に背中から胸にかけての二本のベルト7と胴部の一本のベルト7を縫着し、・・・」
(第3ページ第21行?第28行)

エ.引用文献4(登録実用新案第3063889号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【0029】
図5は、本考案の本体が衣服形状をとった場合の本体外観概念図の一例である。本体は不燃性の化学合成繊維等に防水加工された二層構造の外皮と内皮に包まれ、外皮上には防食樹脂製ジッパー、逆反射性テープ、蓋付きポケット、透明ドキュメントホルダーを備え、・・・」

(イ)「【図2】



オ.引用文献5(特開2006-176893号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【0016】
上記図1?図6において、この実施の形態の安全チョッキは、身体に装着するように形成したチョッキ本体1を備えている。チョッキ本体1は、本体1の前面の左右、即ち、左の前身頃11と右の前身頃12及び背面の左右、即ち、後身頃13の左右に、チョッキ本体1の左右の肩部(上端部)から裾部(下端部)に掛けて縫着等により添着して設けた反射標識帯2,3を備えている。また、実施の形態のチョッキ本体1は裾部の全体にわたり、縫着等により添着して設けた反射標識帯4を備え、裾部により胴ベルト部14が形成してある。」

(イ)「【図1】



(2)対比・判断
ア.対比
(ア)引用発明1の「安全帯」は、「ハーネス型安全帯」(上記(1)ア.(エ))であり、さらに「ハーネス型安全帯」は、「腰ベルト型安全帯に替えて、墜落時の荷重を分散させることのできるハーネス型安全帯」(上記(1)ア.(イ))である。
よって、引用発明1の「安全帯」は、本願発明1の「フルハーネス型墜落制止用器具(51)」に相当する。

(イ)引用発明1の「衣服」は、「墜落の虞のある場所での作業や演技のためにハーネス型安全帯を装着した場合でも、その上に着用することのできる衣服」(上記(1)ア.(イ))であって、「ベスト型の上着」(上記(1)ア.(キ))でもよいと明記されているものである。また、「ベスト」と「チョッキ」が同義であることは、被服分野における技術常識である。
よって、引用発明1の「衣服」は、「フルハーネス型墜落制止用器具の上から着用できるチョッキ」の限りにおいて、本願発明1の「フルハーネス型墜落制止用器具の上から着用できる反射標識帯を備えた安全チョッキ(11)」と一致する。
また、引用発明1の「衣服」は、「前身頃11と後身頃12と両袖13と襟14とを備えたもの」(上記(1)ア.(エ))であるところ、「ベスト型の上着」の身頃丈は短く袖を備えていないことは被服分野における技術常識である。
そうすると、引用発明1の「前身頃11」と「後身頃12」を備えた「ベスト型の上着」は、本願発明1の「袖がなく丈の短い、前身頃(14,15)と後身頃(16)で構成されるチョッキ本体(13)」に相当する。

(ウ)引用発明1の「安全帯を装着した上に着用する」ことは、「ランヤードなどの部材を容易に着脱又は挿通することができる開閉可能な開口部を有する衣服」(上記(1)ア.(ウ))において、「ハーネス型安全帯の係止具102(D環など)」の「一部又は全部を露出させ、この係止具102にランヤード(図示せず)を取り付ける。・・・」(上記(1)ア.(オ))ものである。
よって、引用発明1の「安全帯を装着した上に着用する」ことは、「フルハーネス型墜落制止用器具(51)の上から、ランヤードを出した状態で着用できる」ことの限りにおいて、本願発明1の「フルハーネス型墜落制止用器具(51)の上から、ランヤード(60)とD環(58)とを引き出した状態で着用できる」ことと一致する。

(エ)引用発明1の「通し部」は、「前記衣服の身頃に設けられた略V字状の第1スリット部」と「前記第1スリット部の中央部から、該第1スリット部から離れるように延びる第2スリット部」で構成されるものである。
この「第1スリット部」である「開閉部31」は、「右側の右側開閉部32と左側の左側開閉部33とからなり、右側開閉部32は右上がりに傾斜した直線状であり、左側開閉部33は左上がりに傾斜した直線状」(上記(1)ア.(エ))であるから、上下方向成分を有する開口部である。
また「第2スリット部」は、「開孔部35は、・・・上下方向に延びた長孔として設けられている。」(上記(1)ア.(エ))であるから、上下方向の開口部である。
一方、本願発明1は、「通し穴(12)」の開口方向について「上下方向に開けられた」と記載されるのみであり、上下方向成分のみを有する開口であるとは特定されておらず、また、本願の明細書を参酌すると【図2】等に示されているように左右方向に伸びるD環58を引き出すために、通し穴12は左右方向にも開口するものであるから、上下方向成分に加えて水平方向成分も有する開口を含むものである。
よって、引用発明1の「通し部」は、本願発明1の「上下方向に開けられた」「通し穴(12)」に相当する。

(オ)引用発明1の「通し部」を設ける位置は、「ランヤード通し部20は、その中心線が作業服10の後身頃12の中心線と同一直線となるように、後身頃12の上部(着用者の背中部分)に設けられている。」(上記(1)ア.(エ))ものである。
よって、引用発明1の「通し部」の設けられた位置が「後身頃12の上部(着用者の背中部分)」であることは、本願発明1の「後身頃(16)の襟に相当する位置から下方の位置」であることに相当する。

(カ)引用発明1の「第1スリット部」と「第2スリット部」に設けられた「開閉部材」である「ファスナー又は面ファスナー」は、本願発明1の「前記通し穴(12)に取り付けられたファスナー(20)」に相当する。

(キ)引用発明1の「衣服」の着用は、「ハーネス型安全帯本体部101を身体に装着し、作業服10を着用」(上記(1)ア.(オ))するものであるところ、「ベスト型の上着」の着用がベストの両アームホール(袖ぐり)に腕を通しながら羽織るようになされることは被服分野における技術常識である。
よって、引用発明1の「衣服」である「ベスト型の上着」の着用が、「ハーネス型安全帯本体部101を身体に装着し、作業服10を着用」するものであることは、「前記フルハーネス型墜落制止用器具(51)を既に装着している着用者が、チョッキを着用する際に、チョッキ本体(13)の両アームホール(袖ぐり)に腕を通しながら羽織」ることの限りにおいて、本願発明1の「前記フルハーネス型墜落制止用器具(51)を既に装着している着用者が、前記安全チョッキ(11)を着用する際に、前記チョッキ本体(13)の両アームホール(袖ぐり)に腕を通しながら羽織」るものであることと一致する。

(ク)よって、本願発明1と引用発明1は、以下の点で一致している。
<一致点>
「フルハーネス型墜落制止用器具の上から、ランヤードを出した状態で着用できる、フルハーネス型墜落制止用器具の上から着用できるチョッキであって、
袖がなく丈の短い、前身頃と後身頃で構成されるチョッキ本体と、
前記チョッキ本体の後身頃の襟に相当する位置から下方の位置に、上下方向に開けられた通し穴と、
前記通し穴に取り付けられたファスナーと、を備え、
前記フルハーネス型墜落制止用器具を既に装着している着用者が、前記チョッキを着用する際に、前記チョッキ本体の両アームホール(袖ぐり)に腕を通しながら羽織る、
フルハーネス型墜落制止用器具の上から着用できるチョッキ。」

(ケ)そして、本願発明1と引用発明1は、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明1は、「前記フルハーネス型墜落制止用器具(51)のランヤード(60)とD環(58)とを引き出すために上下方向に開けられた通し穴(12)」であり、「前記ファスナー(20)を開けて通し穴(12)を開放し、該通し穴(12)からフルハーネス型墜落制止用器具(51)のD環(58)とランヤード(60)を引き出せるように構成された」ものであって、「ランヤード(60)とD環(58)とを引き出した状態で着用できる」のに対して、引用発明1は、そのようなものではない点。

<相違点2>
本願発明1は、「前記チョッキ本体(13)の前身頃(14,15)と後身頃(16)の肩部から下端の裾部(14a,15a,16a)に掛けてそれぞれ備えられている反射標識帯(18)」を有する「安全チョッキ(11)」であるのに対して、引用発明1は、ベスト型の上着である点。

イ.相違点についての判断
(ア)<相違点1>について
上記<相違点1>に係る本願発明1の構成は、着用手順に関する機能的・作用的なものであるから、「安全チョッキ」という物の構成を限定するものではない。
よって、上記<相違点1>のうち、本願発明1の「前記フルハーネス型墜落制止用器具(51)のランヤード(60)とD環(58)とを引き出すために上下方向に開けられた」「通し穴(12)」であり、「前記ファスナー(20)を開けて通し穴(12)を開放し、該通し穴(12)からフルハーネス型墜落制止用器具(51)のD環(58)とランヤード(60)を引き出せるように構成された」点は、実質的な相違点ではない。
よって、上記<相違点1>は、実質的な相違点ではない。

さらに念のため着用手順について検討する。
引用発明1の通し部は、ベスト型の上着を着用した後に、ファスナーを開けて係止具102(D環など)の一部又は全部を露出させ、この係止具102にランヤードを取り付けるもの(上記(1)ア.(オ))であるから、着用後にD環とランヤードを引き出すものではない点で、本願発明1と相違するものである。
ここで、引用文献2(上記(1)イ.)には、フルハーネス型安全帯の上から着用する衣服において、衣服を着用した後に、通し穴(背側開口部150)を通じてハンガーフックやロープを引き出すことが記載(以下「引用文献2記載事項」という。)されている。
そして、引用文献1には、通し部を通じてフック106やロープ部104を引き出してもよいことが示唆(上記(1)ア.(ク))されている。
よって、引用発明1において、上記示唆に基づき引用文献2記載事項を適用し、その着用手順を、ベスト型の上着を着用した後に、ファスナーを開けて係止具102(D環など)とロープ部104を引き出すようにすることで、<相違点1>に係る本願発明1の着用手順とすることは、単なる着用手順の変更にすぎない。

そして、<相違点1>に係る本願発明1が奏する作用効果は、引用発明1及び引用文献2記載事項から予測可能なものである。
よって、引用発明1において、上記示唆に基づき引用文献2記載事項を適用し、<相違点1>に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が適宜なし得るものである。

(イ)<相違点2>について
高所作業者が着用する衣服において、安全確認・注意喚起が重要な課題であること、また安全確認・注意喚起のため当該衣服に反射標識帯を設けることは、本願出願日前に周知(例えば、引用文献3について上記(1)ウ.(ア)及び(イ)、引用文献4について上記(1)エ.を参照。)であり、引用発明1は、高所作業者が着用する衣服であるのだから、当該周知技術を適用する動機付けがある。
また、反射標識帯の配置について、前身頃と後身頃の肩部から下端の裾部に掛けてそれぞれ備えられているような配置は、本願出願日前に周知(例えば、引用文献3について上記(1)ウ.(ウ)、引用文献5について上記(1)オ.を参照。)である。
そして、<相違点2>に係る本願発明1が奏する作用効果は、引用発明1及び周知技術から予測可能なものである。
よって、引用発明1において、周知技術を適用し、<相違点2>に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が適宜なし得るものである。

ウ.審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、令和2年8月11日付け意見書(以下「意見書」という。)において以下のように主張している。
a.「・・・しかし、引用発明1(引用文献1)において開示された、「衣服」が「ベスト型の上着」に相当するとのご認定は受け入れることができない。

なぜなら、引用発明1(引用文献1)の発明は、体温調節できる作業服、いわゆる空調服(冷却服)にランヤードを通す「通し穴」を開けたものである、例えば、引用発明1(引用文献1)の段落「0049」には、「空気の漏れを防ぐこと」、「略密閉した状態とすること」といった記載がある。衣服(作業服)に「通し穴」を開けるが、この衣服(作業服)から、この空調のために空気を漏らさないように工夫を施すことが引用発明1(引用文献1)の技術目的と解する。
そこで、ベスト型の上着(安全チョッキ)は、「空気の漏れを防ぐこと」、「略密閉した状態とすること」が必要の無いものである。
この引用発明1(引用文献1)の「衣服」に「ベスト型の上着」は考えられない。「通し穴」に何らの工夫を施す必要がないため、引用発明1(引用文献1)の技術目的と矛盾すると解される。」(意見書2.(3))

b.「・・・しかし、「安全チョッキは、ハーネス安全帯との関連性は高いものである。」とのご認定は受け入れることができない。

なぜなら、引用文献3(引用文献5)には、反射標識帯を設けた安全衣服(安全チョッキ)が開示されているが、これはベルトの中央部に墜落時の引止め用ロープを結合するリングを設けた安全帯が開示されているものである。本願発明の対象となる「フルハーネス型安全帯」とは、まったく異なるものであると思料する。
この引用文献3(引用文献5)に開示された「安全帯」は、ランヤード(引止め用ロープ)は、腰の回りのベルトのリングに、掛け止める構成であるために、安全チョッキの後身頃に「通し穴」を開けるものでない。既に安全帯が取り付けられている安全チョッキに、更に安全帯のランヤードを通す「通し穴」を開ける発想は生じないと解される。」(意見書2.(4))

c.「(b)副引用発明(引用文献5、周知技術(引用文献3))について、
引用文献5の課題は,「照明用の機能も具備した安全チョッキを提供すること」である。

このように、主引用発明は空調服のような密閉性が重要機能である衣服に、安全帯のランヤードを通す「通し穴」を開けたもので、この通し穴から内部の空気が漏れないよう工夫することが技術目的(課題)である。
副引用例は、単に照明用の機能も具備した安全チョッキについてである。

そこで、主引用発明の衣服は、長い袖を有し、首部分と腰部分を絞ることで衣服内に空気を溜めることができるようにした衣服である。このように空気が漏れない衣服が対象である。
副引用例の安全チョッキは、このように密閉性を要する空調服のような衣服とは相異なる衣服である。そこで、この主引用例の衣服には、密閉性が全く必要のない「安全チョッキ」は含まれないと解する。

因みに、引用文献3の課題は,「落下時の腹部に加わる集中荷重を分散させること」であり、既に安全帯と安全チョッキが一体化したものである。このように既に安全帯が取り付けられている安全チョッキに、更に安全帯のランヤードを通す「通し穴」を開ける発想は生じないと解される。

従って、主引用発明(引用文献1,2)と副引用発明(引用文献5、周知技術(引用文献3))から本願発明を容易に創案することは、困難であると解される。本願発明は進歩性を有する発明であると信ずる。」(意見書2.(5)(b))

(イ)審判請求人の上記主張について検討する
主張a.について検討すると、引用文献1の段落【0035】には、「上記実施例等においては、作業服10,101,102を、防寒を目的とした長袖の作業服として説明したが、これに限らず、ハーネス型安全帯の上から着用する衣服であればよい。また、少なくとも、ハーネス型安全帯101の係止具102に対向するように、ランヤード通し部20,201,202を設けることのできる部分を有していればよく、例えば、ベスト型の上着やつなぎなどでもよい。・・・」と記載され、「衣服」が「ベスト型の上着」でもよいことが明記されている。
よって、引用発明1を空調服(冷却服)に限るとする請求人の主張a.は採用することができない。

次に、主張b.及びc.について検討すると、引用文献3及び5は、高所作業者が着用する衣服において、安全確認・注意喚起が重要な課題であること、また安全確認・注意喚起のため当該衣服に反射標識帯を設けること、及び反射標識帯の配置について、前身頃と後身頃の肩部から下端の裾部に掛けてそれぞれ備えられているような配置が本願出願日前に周知であることを示す文献である。
そして、高所作業者が、安全確保のためにハーネス型安全帯を装着することが技術常識であることを踏まえると、安全チョッキとハーネス型安全帯とを同時に着用するという意味において、両者の関連性が高いとする判断に誤りはない。
よって、請求人の主張b.及びc.は採用することができない。

以上のとおり、審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。

エ.小括
したがって、本願発明1は、引用発明1、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)本願発明2?4について
上記(2)のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

2.理由2(特許法第36条第6項第1号)
上記1.のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。


第5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項、及びその余の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-30 
結審通知日 2020-10-01 
審決日 2020-10-20 
出願番号 特願2018-191750(P2018-191750)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木原 裕二長尾 裕貴  
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 杉山 悟史
横溝 顕範
発明の名称 フルハーネス型墜落制止用器具の上から着用できる反射標識帯を備えた安全チョッキ  
代理人 特許業務法人 武政国際特許商標事務所  

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