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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1379244
審判番号 不服2021-2558  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-26 
確定日 2021-11-09 
事件の表示 特願2016- 67011「Mn系強磁性薄膜およびその製造方法、ならびにMn系強磁性薄膜を有する磁気トンネル接合素子」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月18日出願公開、特開2017- 85076、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月30日(優先権主張 平成27年10月27日)の出願であって、令和元年8月23日付けで拒絶理由通知がされ、令和元年10月16日に手続補正がされ、令和2年3月5日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年5月18日に手続補正がされ、令和2年10月30日付けで拒絶査定され、令和3年2月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。
「●理由2(特許法第29条第2項)について
理由(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(1)引用文献1が主引用文献の場合
・請求項 1ないし16
・引用文献等 1、2、4ないし6

(2)引用文献7が主引用文献の場合
・請求項 1ないし16
・引用文献等 7、2、4ないし6

(3)引用文献8が主引用文献の場合
・請求項 1ないし16
・引用文献等 8、2、4ないし6

<引用文献等一覧>
1.特開2008-252018号公報
2.特開2008-252036号公報
4.特開平4-127508号公報
5.特開2011-146089号公報
6.特開平2-79210号公報
7.松本光功,森迫昭光,神代直人,Mn-Al-Ni強磁性薄膜の結晶構造と磁気特性,日本応用磁気学会誌,1990年,Vol.14,No.2,P.327-330
8.特開昭58-84411号公報」

第3 本願発明
本願の請求項1ないし17に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明17」という。)は、令和2年5月18日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
Mnと、Alと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とを有し、Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)であることを特徴とするMn系強磁性薄膜。
【請求項2】
MnAl合金に、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上が固溶されていることを特徴とする請求項1記載のMn系強磁性薄膜。
【請求項3】
Mnを50?60at%含み、Alを40?50at%含むことを特徴とする請求項1または2記載のMn系強磁性薄膜。
【請求項4】
L1_(0)型構造を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のMn系強磁性薄膜。
【請求項5】
磁化容易軸が膜の表面に対して垂直に配向していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のMn系強磁性薄膜。
【請求項6】
膜厚が3 nm?50 nmであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のMn系強磁性薄膜。
【請求項7】
スパッタリングにより、Mnと、Alと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とを有し、Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である合金を、基板上に成膜することを特徴とするMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記合金を、層厚3 nm?50 nmで成膜することを特徴とする請求項7記載のMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記基板の温度を200℃?350℃として前記合金を成膜することを特徴とする請求項7または8記載のMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記合金を成膜後、200℃以上350℃以下で熱処理を行うことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載のMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記合金は、Mnを50?60at%含み、Alを40?50at%含むことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載のMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項12】
スパッタリングにより、前記基板上にCrとRuとを含む下地層を作製し、その下地層の上に前記合金を成膜することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載のMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項13】
前記下地層は、層厚20 nm?40 nmで作製することを特徴とする請求項12記載のMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項14】
前記下地層は、室温で前記基板上に成膜した後、熱処理を行って作製することを特徴とする請求項12または13記載のMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項15】
スパッタリングにより、層厚が1.2乃至50nmで、Mnを50?60at%含み、Alを40?50at%含むMnAl合金層の表面に、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上を有する金属を、0.8乃至1.7nmの厚さで成膜することを特徴とするMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項16】
前記MnAl合金層は基板上に設けられ、前記基板を200℃?350℃に加熱した状態でスパッタリングを行うことを特徴とする請求項15記載のMn系強磁性薄膜の製造方法。
【請求項17】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のMn系強磁性薄膜を有することを特徴とする磁気トンネル接合素子。」

第4 引用発明、引用文献等
1 引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子およびそれを用いた磁気ランダムアクセスメモリに関し、例えば、スピン注入書き込み方式の磁気抵抗効果素子に関する。」

「【0009】
本発明は、熱的に安定であると同時に低電流の磁化反転を可能とするスピン注入書き込み方式用の磁気抵抗効果素子およびそれを用いた磁気ランダムアクセスメモリを提供しようとするものである。」

「【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態は、MR素子に関する。
・・・(中略)・・・
【0018】
図1に示すように、MR素子1は、少なくとも、2つの磁性層2、3と、磁性層2、3の間に設けられたスペーサ層(中間層)4を有する。磁性層2は、膜面を貫く方向、典型例として膜面に垂直な方向を向いて磁化容易軸を有し、膜面と交わる面に沿って回転する。以下、磁性層2をフリー層(自由層、磁化自由層、磁化可変層、記録層)と称する。フリー層2のより詳細な性質については後述する。以下、膜面を貫く方向の磁化を垂直磁化と称する。
【0019】
磁性層3は、その磁化を膜面と交わる方向、典型例として膜面に垂直な方向に固定されている。または、フリー層2の保持力よりも大きい保持力を有する構成とされていてもよい。以下、磁性層3を、ピン層(固定層、磁化固定層、参照層、磁化参照層、基準層、磁化基準層)と称する。典型例として、フリー層2の磁化容易軸の方向は、ピン層3の磁化の方向に沿っている。ピン層3のより詳細な性質については後述する。なお、ピン層3の磁化方向は、図では、上を向いているが、下を向いていても構わない。」


【0020】
スペーサ層(中間層)4は、非磁性金属、非磁性半導体、絶縁膜等から構成される。スペーサ層4のより詳細な性質については、後述する。」

「【0036】
(2-1)フリー層に求められる性質
ある層が垂直磁化を有するためには、結晶磁気異方性エネルギーKuが高くなければならず、実効的な(有効)異方性エネルギーKeが、
Ke=Ku-2πMs^(2)>0 ・・・(式1)
ただし、
Ms:飽和磁化
でなければ垂直磁化状態が安定ではない。したがって、安定な垂直磁化膜を形成するには、適度な実効的異方性エネルギーKeを確保することが重要である。このためには、結晶磁気異方性エネルギーKuを大きくするか、飽和磁化Msを低減することが考えられる。結晶磁気異方性エネルギーKuは、材料の性質に大きく依存するため、結晶磁気異方性エネルギーKuを大きくすることには限界がある。
【0037】
また、フリー層2が情報を保持するために必要な活性化エネルギーEaは、
Ea=Ke・V_(M)
ただし、
Ke:実効磁気異方性エネルギー
V_(M):有効磁化体積
で表される。」

「【0040】
以上の制約から、安定な垂直磁化膜を形成する、すなわち、十分な熱耐性を有する垂直磁化膜を形成するためには、飽和磁化Msを低減することが重要である。」

「【0056】
また、フリー層2の材料として、MnAl合金を用いることができる。MnAl合金によっても、実効的磁気異方性エネルギーKeを正の範囲で高く維持しつつ結晶磁気異方性エネルギーKuおよび飽和磁化Msの小さなフリー層2を実現できる。」

「【0060】
また、フリー層2は、以下の面関係および方位関係を有することができる。すなわち、NaCl構造を有する酸化物層上に、
面関係:NaCl構造酸化物(100)//L1_(0)構造合金(001)
方位関係:NaCl構造酸化物[100]//L1_(0)構造合金[100]
で結晶成長させることによって、L1_(0)規則構造のc軸が膜面に対して垂直な層を形成することが可能となる。ここで、//は、平行であることを意味している。そこで、後述のように、スペーサ層4として用いることができるNaCl構造を有する酸化物層上に、上記の面関係および方位関係を持って結晶成長させることができる。これにより、より安定な垂直磁化を実現できる。」

「【0067】
(2-2-3)実施例(MnAl合金)
別の具体的な実施例として、MnAl合金について説明する。
・・・(中略)・・・
【0069】
L1_(0)構造のMnAl合金は、Mnの組成比が50at%で強磁性体である。Mnの組成比がこれよりも多くなると、MnのAlサイトへの置換が起こり、AlサイトのMnは、MnサイトのMnと反平行なスピン配列をとる。この結果、このようなMnAl合金は、フェリ磁性体となる。
【0070】
Alの原子組成が50at%以上の場合においても、Mn_(50)Al_(50)(at%)をAlで希釈する効果となる。したがって、結晶磁気異方性エネルギーKuも単純に減少し、同時に、飽和磁化Msも低下する。従って、L1_(0)構造のMnAl規則相を析出させることが、高い結晶磁気異方性エネルギーKuの維持のためには必要である。その観点から、L1_(0)構造のMnAl規則相を析出させるためには、Alの原子組成は70at%以下であることが好ましいといえる。
【0071】
L1_(0)構造のMnAl合金は、低い飽和磁化Msで高い結晶磁気異方性エネルギーKuを有するがために、高い活性化エネルギーEaを有する。そこで、活性化エネルギーEaを適切な値へと調整するために、第3の元素Xおよび第4の元素Yが添加される。また、第3の元素Xは、MnAl合金の分極率を向上させ、TMR比を向上させる効果も有する。同時に、第3の元素Xは、飽和磁化Msを上げて、活性化エネルギーEaを下げるための添加元素である。
【0072】
第3の元素Xとしては、Fe、Co、Niがある。Fe、Co、Ni元素は、Mnサイトに置換型に配置される。これにより、MnXAlとなり、飽和磁化Msが増大するために、実効的な垂直磁化の結晶磁気異方性エネルギーKu-effectを下げることが可能となり、これによっても活性化エネルギーEaを下げることができる。ここで、Ku-effectは、
Ku-effect=Ku-2πMs^(2)
で表される。第3の元素Xは、Mnサイトに置換されるが、置換する量としては、Mnと元素Xの原子組成比で、1以下(0を除く)であることが好ましい。これは、Feの原子組成比が1を超えると、急激に飽和磁化Msが増大すると考えられるからである。」

(2)引用文献1に記載された技術事項について
上記記載から、引用文献1には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 段落【0018】より、「MR素子1」が「有する」「磁性層2は」、「膜面に垂直な方向を向いて磁化容易軸を有し、」「フリー層」「と称する」との技術的事項を読み取ることができる。

イ 段落【0056】より、「フリー層2の材料として、MnAl合金を用いることができる」との技術的事項を読み取ることができる。

ウ 段落【0060】より、「フリー層2は」「酸化物層上に」「結晶成長させ」るとの技術的事項を読み取ることができる。

エ 段落【0069】より、「L1_(0)構造のMnAl合金は、Mnの組成比が50at%で強磁性体である」との技術的事項を読み取ることができる。

オ 段落【0071】、【0072】より、「活性化エネルギーEaを適切な値へと調整するために」、「L1_(0)構造のMnAl合金」に「第3の元素X」「が添加され」、「第3の元素Xとしては、Fe、Co、Niがあ」り、「Fe、Co、Ni元素は、Mnサイトに置換型に配置され」、「これにより、MnXAlとなり、飽和磁化Msが増大するために、」「活性化エネルギーEaを下げることができる」との技術的事項を読み取ることができる。

カ 段落【0072】より、「第3の元素Xは、Mnサイトに置換されるが、置換する量としては、Mnと元素Xの原子組成比で、1以下(0を除く)であることが好ましい」との技術的事項を読み取ることができる。

(3)引用文献1に記載された発明について
上記(2)アないしカより、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「MR素子1が有する磁性層2は、膜面に垂直な方向を向いて磁化容易軸を有し、フリー層と称し、
フリー層2の材料として、MnAl合金を用いることができ、
フリー層2は酸化物層上に結晶成長させ、
L1_(0)構造のMnAl合金は、Mnの組成比が50at%で強磁性体であり、
活性化エネルギーEaを適切な値へと調整するために、L1_(0)構造のMnAl合金に第3の元素Xが添加され、第3の元素Xとしては、Fe、Co、Niがあり、Fe、Co、Ni元素は、Mnサイトに置換型に配置され、これにより、MnXAlとなり、飽和磁化Msが増大するために、活性化エネルギーEaを下げることができ、
第3の元素Xは、Mnサイトに置換されるが、置換する量としては、Mnと元素Xの原子組成比で、1以下(0を除く)であることが好ましい、
磁性層2。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子及び磁気メモリに係り、例えば双方向に電流を供給することで情報を記録することが可能な磁気抵抗素子及び磁気メモリに関する。」

「【0021】
垂直磁化型MTJ素子の場合、強磁性体としては例えば、Fe_(50)Pt_(50)、Fe_(50)Pd_(50)、Co_(50)Pt_(50)、Co_(50)Pd_(50)、Fe_(30)Ni_(20)Pt_(50)、Co_(30)Fe_(20)Pt_(50)、Co_(30)Ni_(20)Pt_(50)、Mn_(50)Al_(50)、或いはFe_(50)Ni_(50)の規則合金があげられる。これらの規則合金の組成比は一例であり、上記組成比に限定されない。なお、これらの規則合金に、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Cr、(クロム)、V(バナジウム)、Ti(チタン)、Os(オスミウム)等の不純物元素若しくはその合金、又は絶縁物を加えて磁気異方性エネルギー、及び飽和磁化を低く調整することができる。また、組成比を調整することによってL1_(2)型の規則合金を用いても良い。」

(2)引用文献2に記載された技術事項について
上記記載より、引用文献2には、次の技術(以下「引用文献2に記載された技術」というが記載されているものと認められる。
「垂直磁化型MTJ素子の強磁性体としては、Mn_(50)Al_(50)規則合金があげられ、規則合金に、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Cr、(クロム)、V(バナジウム)、Ti(チタン)、Os(オスミウム)等の不純物元素若しくはその合金、又は絶縁物を加えて磁気異方性エネルギー、及び飽和磁化を低く調整する」技術。

3 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「上記本発明の目的は、Mn-A1薄膜を、MgO単結品基板の{100}面上に.0?350℃の温度範囲で形成後、形成時の基板温度より高くかつ200?500℃の範囲の温度で熱処理することにより達成できる。この方法で作製したMn-A1薄膜は、パルク合金と同等あるいはそれ以上の自発磁化を示し、特性のばらつきも小さい。」(第2頁左上欄第3-9行)

よって、引用文献4には、次の技術が記載されているものと認められる。
「Mn-A1薄膜を、基板面上に.0?350℃の温度範囲で形成後、形成時の基板温度より高くかつ200?500℃の範囲の温度で熱処理することにより、パルク合金と同等あるいはそれ以上の自発磁化を示し、特性のばらつきも小さいMn-A1薄膜を作製する」技術。

4 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0029】
また、上記配向制御層は、上記シード層による作用効果と相俟って、FePt合金を主成分とする材料からなる磁性層(垂直磁気記録層)におけるL1_(0)結晶構造の磁化容易軸の垂直配向性( 結晶配向を基板面に対して垂直方向に配向させる)、結晶粒径の均一な微細化、及びグラニュラー構造を形成する場合の粒界偏析、等を好適に制御するために用いられる。このような配向制御層は、例えばMgの金属単体やMgAl合金などが挙げられるが、これらに限定はされない。本発明においては、配向制御層の材料として、具体的には、MgO、MgAl_(2)O_(4),CrRu、AlRu、Pt、Crなどが好ましく用いられるが、これらに限定はされない。・・・(以下、省略)」

よって、引用文献5には、次の技術(以下、「引用文献5に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「配向制御層は、FePt合金を主成分とする材料からなる磁性層(垂直磁気記録層)におけるL1。結晶構造の磁化容易軸の垂直配向性等を好適に制御するために用いられ、具体的には、MgO、MgAl_(2)O_(4),CrRu、AlRu、Pt、Crなどが好ましく用いられる」技術。

5 引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「[作用]
この発明においては、Mn-Al合金からなる第1の極薄層と、Sbからなる第2の極薄層とを交互に且つ周期的に積層した薄膜を形成し、熱処理により各層間に原子拡散を生じさせ、前述したMn_(x)AI_(y)Sb_(z)で表わされる組成の磁気記録薄膜を形成する。この組成の磁性薄膜は膜面に垂直に磁化容易軸が存在し、垂直磁気メモリや光磁気メモリの高密度記録に適用することができる。また、熱処理前の構造を互いに組成が異なる極薄膜を交互に積層した構造としたので、熱処理による原子拡散が積層薄膜全体に亘って生じるのではなく、主に層界面を通してのみ生じる。従って、結品粒成長が抑制され、微細結品の薄膜を得ることができる。」(第2頁右上欄第3-16行)

よって、引用文献6には、次の技術(以下、「引用文献6に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「Mn-Al合金からなる第1の極薄層と、Sbからなる第2の極薄層とを交互に且つ周期的に積層した薄膜を形成し、熱処理により各層間に原子拡散を生じさせ、前述したMn_(x)AI_(y)Sb_(z)で表わされる組成の磁気記録薄膜を形成する」技術。

6 引用文献7について
(1)引用文献7に記載された事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。なお、オングストロームを「A」と記載した。)。
ア 「2.実験方法
薄膜は,直流マグネトロンスパッタ法により作製した.Table 1に薄膜作製条件を示す.薄膜の組成を,Mn_(60-x)Al_(40)Ni_(x)として,x=0?35の範囲で変化した.組成制御は,Alターゲット(1OOmmφ)上のMn片(5mm角)の個数およびNi線の本数や長さを変化させることにより行った.基板温度T_(s)を150℃,アルゴンガス圧P_(Ar)を2mTorrとした.膜厚は7000Aとした。」(第327頁右下欄第16-23行)

イ 「3.3 磁気特性
Fig.4に飽和磁化MsのNi組成依存性を示す.同図中にはτおよびκ相の形成領域を併せて示している.MsはNi組成3at%までは増加し,最大値240emu/ccとなる.一方,τ相とκ相の混相領域になるとMsは減少傾向を示す.さらにκ相単相となるNi組成10?20at%付近では,ほぼl80emu/ccとなった.以上のことからNi3at%まではAlサイトに入っている過剰なMnが,Niによって有効に置換されたため反強磁性結合が減少し,Msが増加したと考えられる.またτ相とκ相の混相状態では,各相の規則度の低下のためMsが減少するものと考えられる.」(第328頁右下欄第25行-第329頁左下欄第5行)


Fig.4

ウ 「Fig.6に保磁力HcのNi組成依存性を示す.2元系薄膜ではHcは最大1.8kOeであったが,Niの添加によりHcは増加し,Ni3at%で最大値2.9kOeとなった.そしてこれ以上のNi添加ではHcはなだらかに減少している.3at%付近でHcが増加する原因は,τ相の結晶構造が歪むために結晶磁気異方性が増加したためと推測される.」(第329頁右下欄第1-7行)


Fig.6

エ 「Fig.7にMnAlNiτ相薄膜の磁化曲線の一例を示す.//は膜面内方向に,⊥は膜面に垂直方向に磁界を加えた場合である.膜面に垂直方向の磁化曲線は膜面方向のものと比較してヒステリシスが小さくまた飽和しにくい.形状異方性磁界(?4πMs)は約3kOe程度と見積られるが,この薄膜を垂直方向で飽和させるのには10kOe以上の磁界が必要であることが分かる.すなわち,膜面内に大きな磁気異方性が存在することを示している.」(当審註:略等号を「?」と表記した。)(第329頁右下欄第9-16行)

Fig.7

(2)引用文献7に記載された技術事項について
よって、引用文献7には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア (1)アより、(1)イないしエの記載は「直流マグネトロンスパッタ法により作製した」「薄膜」であって、「薄膜の組成をMn_(60-x)Al_(40)Ni_(x)として,x=0?35の範囲で変化」させた場合の磁化特性に関してのものであることがわかる。

イ (1)イより、「飽和磁化MsのNi組成依存性」は、「Ni組成3at%までは増加し.最大値240emu/ccとな」り、「一方τ相とκ相の混相領域になるとMsは減少傾向を示」し、「さらにκ相単相となるNi組成10?20at%付近では,ほぼl80emu/ccとなった」との技術的事項を読み取ることができる。

ウ (1)ウより、「保磁力HcのNi組成依存性」は、「Niの添加によりHcは増加し,Ni3at%で最大値2.9kOeとな」り「そしてこれ以上のNi添加ではHcはなだらかに減少している」との技術的事項を読み取ることができる。

エ (1)エより、「MnAlNiτ相薄膜の磁化曲線」は、「膜面に垂直方向の磁化曲線は膜面方向のものと比餃してヒステリシスが小さくまた飽和しにく」く、「膜面内に大きな磁気異方性が存在する」との技術的事項を読み取ることができる。

(3)引用文献7に記載された発明について
上記「(2)」アないしエから、引用文献7には、次の発明(以下「引用発明7」という。)が記載されているものと認められる。
「直流マグネトロンスパッタ法により作製した薄膜であって、薄膜の組成をMn_(60-x)Al_(40)Ni_(x)として、x=0?35の範囲で変化させた場合、
飽和磁化MsのNi組成依存性は、Ni組成3at%までは増加し、最大値240emu/ccとなり、一方τ相とκ相の混相領域になるとMsは減少傾向を示し、さらにκ相単相となるNi組成10?20at%付近では、ほぼl80emu/ccとなり、保磁力HcのNi組成依存性は、Niの添加によりHcは増加し.Ni3at%で最大値2.9kOeとなり、そしてこれ以上のNi添加ではHcはなだらかに減少し、
MnAlNiτ相薄膜の磁化曲線は、膜面に垂直方向の磁化曲線は膜面方向のものと比較してヒステリシスが小さくまた飽和しにくく、膜面内に大きな磁気異方性が存在する、
薄膜。」

7 引用文献8について
(1)引用文献8に記載された事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア 「実施例
高周波マグネトロンスパック装置を用いて、 Mn-Al-Cu系薄膜を作成した。組成は、Cu7wt%とし、残余の93w%が,重量比で71:29のMnとAlで構成されるものとした。スパッタ条件は、バックグランドガス圧が5. 0 ×1 0^(-7)Torr(チャンバー内)、A rガス流量(Arを流し、平衡状態でのチャンバー内の圧力で表示)4.0×10^(-5)Torr、Arガス圧4.0×10^(-3)Torr (ダイレクトフロー)、高周波電力1.6kWそして基板温度230℃である。基板としてはポリイミドフィルムを用い、スパッタ時間は5分とした。
得られた膜へ磁気特性を測定したところ、保磁力は520Oe、飽和磁束密度は4270G、そして角形比は0.57であつた。これらの磁気特性は磁気記録媒体として使用するに良好なものであり、特に飽和磁束密度は蒸着法による同じ膜の数倍にも及んでいる。」(第2頁右下欄第14行-第3頁左上欄第11行)

イ 「次いで、Cuの比率を変えて先きと同条件にてスパッタを行い.生成された膜の磁気特性を測定した。Cu以外の残余を構成するMnとAlとは71:29の重量比にて一定を保持した。結果を添付グラフに示す。グラフからCuの比率としては25重量%以下が適していることがわかる。Cu5?20%の範囲において保磁力が左程に低下せず高い飽和磁束密度の材料が得られることがわかる。」(第3頁左上欄第12-19行)

ウ 図面には「Cu」の比率について「Cuの比率(重量%)」と記載されている。



(2)引用文献8に記載された技術事項について
したがって、引用文献8には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 上記(1)アより、「高周波マグネトロンスパック装置を用いて」「作成した」「Mn-Al-Cu系薄膜」との技術事項を読み取ることができる。

イ 上記(1)アないしウより、「MnとAlとは71:29の重量比にて一定を保持し」、「Cuの比率を変えて」「生成され」、「Cuの比率(重量%)5?20%の範囲において保磁力が左程に低下せず」、「飽和磁束密度」の「高い」「薄膜」との技術事項を読み取ることができる。

(3)引用文献8に記載された発明について
上記(2)アないしイより、引用文献8には、次の発明(以下、「引用発明8」という。)が記載されているものと認められる。
「高周波マグネトロンスパック装置を用いて作成したMn-Al-Cu系薄膜であって、
MnとAlとは71:29の重量比にて一定を保持し、Cuの比率を変えて生成され、Cuの比率(重量%)5?20%の範囲において保磁力が左程に低下せず、飽和磁束密度の高い薄膜」。

第5 対比・判断
1 引用発明1を主引用例にした場合
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1における「磁性層2」は、「酸化物層上に結晶成長させ」た膜、つまり薄膜であって、「Mnの組成比が50at%で強磁性体であ」るから、本願発明1における「Mn系強磁性薄膜」に相当する。

(イ)引用発明1における「MnAl合金」の「活性化エネルギーEaを適切な値へと調整するために、L1_(0)構造のMnAl合金に第3の元素Xが添加され、第3の元素Xとしては、Fe、Co」「があり、Fe、Co」「元素は、Mnサイトに置換型に配置され」ていることは、本願発明1における「Mnと、Alと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とを有」するとの要件を満たしている。

(ウ)本願発明1では「Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である」のに対し、引用発明1では「第3の元素X」である「Fe、Co」は、Mnサイトに置換されるが、置換する量としては、Mnと元素Xの原子組成比で、1以下(0を除く)であることが好ましい」、つまり、「Mnと元素Xの原子組成比」「%」が「1-x:x(0<x≦50)であることが好ましい」とされているものの、特に該比を「1-x:x(0<x≦0.06)」とする点は示されていない点で相違する。

よって、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「Mnと、Alと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とを有するMn系強磁性薄膜。」

(相違点1)
本願発明1では「Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である」のに対し、引用発明1では「第3の元素X」である「Fe、Co」は、「Mnサイトに置換されるが、置換する量としては、Mnと元素Xの原子組成比で、1以下(0を除く)であることが好ましい」、つまり、「Mnと元素Xの原子組成比」「%」が「1-x:x(0<x≦50)であることが好ましい」とされているものの、特に該比を「1-x:x(0<x≦0.06)」とする点は示されていない点。

イ 判断
そこで、上記相違点1について検討すると、
(ア)引用発明1では、「Fe、Co、Ni元素は、Mnサイトに置換型に配置され、これにより、MnXAlとなり、飽和磁化Msが増大するために、活性化エネルギーEaを下げることができ」るとの効果を期待して添加されているのであるから、これとは真逆に、「磁気異方性エネルギー、及び飽和磁化を低く調整する」ために「Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Cr、(クロム)、V(バナジウム)、Ti(チタン)、Os(オスミウム)等の不純物元素」を添加している引用文献2に記載された技術を適用する動機付けは見出せない。

(イ)また、仮に動機付けがあったとしても、引用文献2に記載された技術の内容は、Mn_(50)Al_(50)規則合金に不純物元素若しくはその合金を添加することで、磁気異方性エネルギー、及び飽和磁化を低く調整することができる、との一般的な知見を示すにすぎず、例示された不純物元素若しくはその合金の中から、特に「Co(コバルト)、Fe(鉄)」、「Cr(クロム)」を選択し、さらにその添加量を「Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である」ように特定したうえで引用発明1に適用し、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。

(ウ)また、引用文献4ないし6に記載された技術は、「Mn系強磁性薄膜」に「Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上」を添加することを何ら開示していない。

ウ まとめ
よって、本願の請求項1に係る発明は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(2)本願発明2ないし6、17について
本願発明2ないし6、17は、本願発明1に係る請求項1を引用する請求項2ないし6、17に係る発明であるから、上記相違点1に係る構成を備えるものである。
よって、本願の請求項2ないし6、17に係る発明は、本願発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(3)本願発明7について
本願の請求項7に係る発明は、本願発明1を製造する方法に関する発明であって、上記相違点1と同様の構成を備えているから、本願発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(4)本願発明8ないし14について
本願発明8ないし14は、本願発明7に係る請求項7を引用する請求項8ないし14に係る発明であるから、上記相違点1と同様の構成を備えるものである。
よって、本願の請求項8ないし14に係る発明は、本願発明7について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(5)本願発明15について
ア 対比
上記「(1)」「ア」を踏まえつつ、本願発明15と引用発明1とを対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「Mnを50?60at%含み、Alを40?50at%含むMnAl合金層からなるMn系強磁性薄膜の製造方法。」

(相違点2)
本願発明15では、「スパッタリングにより」Mn系強磁性薄膜を製造しているのに対し、引用発明1では、どのような方法により薄膜を製造しているか示されていない点。

(相違点3)
本願発明15では、「MnAl合金層の表面に、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上を有する金属を、0.8乃至1.7nmの厚さで成膜する」のに対し、引用発明1では、そのような成膜をすることについて、示されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点3について検討すると、引用文献2、4ないし6には、「MnAl合金層の表面に、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上を有する金属を、0.8乃至1.7nmの厚さで成膜する」ことについて、記載も示唆もされていない。

ウ まとめ
よって、本願の請求項15に係る発明は、上記相違点2について検討するまでもなく、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(6)本願発明16について
本願の請求項16に係る発明は、本願発明15に係る請求項15を引用して記載された請求項16に係る発明であって、上記相違点3に係る構成を備えているから、本願発明15について述べたのと同様の理由によって、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

2 引用発明7を主引用例とした場合
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明7とを対比する。
引用発明7における「Mn_(60-x)Al_(40)Ni_(x)として、x=0?35の範囲」の「薄膜」は、その「磁化曲線」が「膜面に垂直方向の磁化曲線は膜面方向のものと比餃してヒステリシスが小さくまた飽和しにくく、膜面内に大きな磁気異方性が存在する」から、本願発明1とは、「Mnと、Alと、他の金属元素とを有するMn系強磁性薄膜」の点で一致する。
しかしながら、本願発明1では「他の金属元素」が「Alと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とを有し、Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である」のに対し、引用発明7では、「他の金属元素」が「Ni」であって、「薄膜の組成をMn_(60-x)Al_(40)Ni_(x)として、x=0?35の範囲で変化させ」ている点で相違する。

よって、本願発明1と引用発明7との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「Mnと、Alと、他の金属元素とを有するMn系強磁性薄膜。」

(相違点4)
本願発明1では「他の金属元素」が「Alと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とを有し、Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である」のに対し、引用発明7には、「他の金属元素」が「Ni」であって、「薄膜の組成をMn_(60-x)Al_(40)Ni_(x)として、x=0?35の範囲で変化させ」ている点。

イ 判断
そこで、上記相違点4について検討すると、
(ア)引用文献2に記載された技術の内容は、不純物元素若しくはその合金を添加することで、磁気異方性エネルギー、及び飽和磁化を低く調整することができる、との一般的な知見にすぎないから、引用文献2に記載された技術をみても、当業者が、引用発明7に示された「Ni」に代え、引用文献2に例示された不純物元素若しくはその合金の中から、特に「Co(コバルト)、Fe(鉄)」、「Cr(クロム)」を選択して用いることは動機付けられないことである。
また、仮に、動機付けられたとしても、さらに進んで、その添加量を「Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である」ようにし、上記相違点7に係る構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。

(イ)また、引用文献4ないし6に記載された技術は、「Mn系強磁性薄膜」に「Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上」を添加することを何ら開示していない。

ウ まとめ
よって、本願の請求項1に係る発明は、当業者であっても、引用文献7に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(2)本願発明2ないし6、17について
本願発明2ないし6、17は、本願発明1に係る請求項1を引用して記載された請求項2ないし6、17に係る発明であるから、上記相違点4に係る構成を備えるものである。
よって、本願の請求項2ないし6、17に係る発明は、本願発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献7に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(3)本願発明7について
本願の請求項7に係る発明は、本願発明1を製造する方法に関する発明であって、上記相違点4と同様の構成を備えているから、本願発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献7に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(4)本願発明8ないし14について
本願発明8ないし14は、本願発明7に係る請求項7を引用する請求項8ないし14に係る発明であるから、上記相違点1と同様の構成を備えるものである。
よって、本願の請求項8ないし14に係る発明は、本願発明7について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(5)本願発明15について
ア 対比
引用発明7における「直流マグネトロンスパッタ法により」が、本願発明17における「スパッタリングにより」に相当する。そして、上記「(1)」「ア」を踏まえると、本願発明15と引用発明7とは、次の一致点、相違点を有しているといえる。
(一致点)
「スパッタリングによる、Mnを50?60at%含み、Alを40?50at%含むMnAl合金層からなるMn系強磁性薄膜の製造方法。」

(相違点5)
本願発明15では、「MnAl合金層の表面に、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上を有する金属を、0.8乃至1.7nmの厚さで成膜する」のに対し、引用発明7では、そのような成膜をすることについて、示されていない点。

イ 判断
上記相違点5について検討すると、引用文献2、4ないし6には、「MnAl合金層の表面に、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上を有する金属を、0.8乃至1.7nmの厚さで成膜する」ことについて、記載も示唆もされていない。

ウ まとめ
よって、本願の請求項15に係る発明は、当業者であっても、引用文献7に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(6)本願発明16について
本願の請求項16に係る発明は、本願発明15に係る請求項15を引用して記載された請求項16に係る発明であって、上記相違点5に係る構成を備えているから、本願発明15について述べたのと同様の理由によって、当業者であっても、引用文献7に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

3 引用文献8を主引用例とした場合
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明8とを対比する。
引用発明8における「MnとAlとは71:29の重量比にて一定を保持し」、「Cuの比率(重量%)5?20%の範囲において」「生成され」、「保磁力が左程に低下せず高い飽和磁束密度の材料が得られた薄膜」と、本願発明1とは「Mnと、Alと、他の金属元素とを有するMn系強磁性薄膜」の点で一致する。
しかしながら、本願発明1では「他の金属元素」が「Alと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とを有し、Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である」のに対し、引用発明8では、「他の金属元素」が「Cu」であって、その比率(質量%)が「5?20%の範囲」である点で相違する。

よって、本願発明1と引用発明8との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「Mnと、Alと、他の金属元素とを有するMn系強磁性薄膜。」

(相違点6)
本願発明1では「他の金属元素」が「Alと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とを有し、Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である」のに対し、引用発明8では、「他の金属元素」が「Cu」であって、その比率(質量%)が「5?20%の範囲」である点。

イ 判断
そこで、上記相違点6について検討すると、
(ア)引用文献2に記載された技術の内容は、不純物元素若しくはその合金を添加することで、磁気異方性エネルギー、及び飽和磁化を低く調整することができる、との一般的な知見すぎないから、引用文献2に記載された技術をみても、当業者が、引用発明8に示された「Cu」に代え、引用文献2に例示された不純物元素若しくはその合金の中から、特に「Co(コバルト)、Fe(鉄)」、「Cr(クロム)」を選択して用いることは動機付けられないことである。
また、仮に、動機付けられたとしても、さらに進んで、その添加量を「Mnと、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上とのat%比が、1-x:x(0<x≦0.06)である」ようにし、上記相違点6に係る構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。

(イ)また、引用文献4ないし6に記載された技術は、「Mn系強磁性薄膜」に「Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上」を添加することを何ら開示していない。

ウ まとめ
よって、本願の請求項1に係る発明は、当業者であっても、引用文献8に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(2)本願発明2ないし6、17について
本願発明2ないし6、17は、本願発明1に係る請求項1を引用して記載された請求項2ないし6、17に係る発明であるから、上記相違点6に係る構成を備えるものである。
よって、本願の請求項2ないし6、17に係る発明は、本願発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献8に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(3)本願発明7について
本願の請求項7に係る発明は、本願発明1を製造する方法に関する発明であって、上記相違点6と同様の構成を備えているから、本願発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献8に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(4)本願発明8ないし14について
本願発明8ないし14は、本願発明7に係る請求項7を引用する請求項8ないし14に係る発明であるから、上記相違点6と同様の構成を備えるものである。
よって、本願の請求項8ないし14に係る発明は、本願発明7について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易になし得たものではない。

(5)本願発明15について
ア 対比
上記引用発明8が「高周波マグネトロンスパック装置を用いて」いることが、本願発明15における「スパッタリングにより」に相当する。そして、「(1)」「ア」を踏まえつつ、本願発明15と引用発明8とを対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「スパッタリングによる、Mnを50?60at%含み、Alを40?50at%含むMnAl合金層からなるMn系強磁性薄膜の製造方法。」

(相違点7)
本願発明15では、「MnAl合金層の表面に、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上を有する金属を、0.8乃至1.7nmの厚さで成膜する」のに対し、引用発明8では、そのような成膜をすることについて、示されていない点。

イ 判断
上記相違点7について検討すると、引用文献2、4ないし6には、「MnAl合金層の表面に、Co,FeおよびCrのうちのいずれか1つまたは2つ以上を有する金属を、0.8乃至1.7nmの厚さで成膜する」ことについて、記載も示唆もされていない。

ウ まとめ
よって、本願の請求項15に係る発明は、当業者であっても、引用文献8に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて発明をすることができたものではない。

(6)本願発明16について
本願の請求項16に係る発明は、本願発明15に係る請求項15を引用して記載された請求項16に係る発明であって、上記相違点7に係る構成を備えているから、本願発明15について述べたのと同様の理由によって、当業者であっても、引用文献8に記載された発明及び引用文献2、4ないし6に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-10-19 
出願番号 特願2016-67011(P2016-67011)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 清水 稔
須原 宏光
発明の名称 Mn系強磁性薄膜およびその製造方法、ならびにMn系強磁性薄膜を有する磁気トンネル接合素子  
代理人 楠 修二  
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