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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G07D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G07D
管理番号 1379338
審判番号 不服2021-573  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-15 
確定日 2021-11-16 
事件の表示 特願2016-164906号「紙葉類鑑別装置および自動取引装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年3月1日出願公開、特開2018-32260号、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年8月25日の出願であって、令和2年3月25日付けで拒絶理由が通知され、同年5月27日に意見書が提出されたが、同年10月15日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)され、これに対して、令和3年1月15日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年5月13日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月14日に手続補正書が提出されたものである。

第2 当審拒絶理由について
当審では、請求項4の「請求項1?3のいずれか一項に記載の紙葉類鑑別装置および自動取引装置。」という記載等が明確でなく、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨の拒絶の理由を通知したが、令和3年7月14日付けの手続補正により、以下の第3のとおり、特許請求の範囲の請求項4記載において「請求項1?3のいずれか一項に記載の紙葉類鑑別装置。」と補正された結果、請求項1?3に記載された「紙葉類鑑別装置」と関連することが明確になり、特許請求の範囲の記載は明確になった。
したがって、当審拒絶理由は解消した。

第3 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、令和3年7月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりの発明である。
「 【請求項1】
媒体が搬送される搬送路と、
前記搬送路に設けられ、前記媒体を搬送する搬送ローラと、
前記媒体の搬送方向と直交する方向に並べて設けられ、該媒体の磁気情報を取得する複数の磁気センサとを備え、
前記搬送ローラは、前記複数の磁気センサに対して前記搬送方向にずれた位置で、かつ、隣り合った複数の前記磁気センサとの間隔が等間隔となる位置に配置される、
ことを特徴とする紙葉類鑑別装置。
【請求項2】
前記複数の磁気センサのうち、一対の磁気センサを、前記搬送ローラのベアリングを頂点位置とする二等辺三角形の底辺両側に位置させたことを特徴とする請求項1記載の紙葉類鑑別装置。
【請求項3】
前記複数の磁気センサは、等間隔で並べられていることを特徴とする請求項1または2記載の紙葉類鑑別装置。
【請求項4】
制御部を更に備え、
前記制御部は、前記搬送ローラの特定のベアリングから等間隔に位置する両側の磁気センサにて検出された各検出値の差分をとる演算を行うことを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の紙葉類鑑別装置。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載の紙葉類鑑別装置を備えた自動取引装置。」

第4 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
この出願の以下の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1-5
・刊行物等
1.特開2015-87896号公報
2.特公昭57-32377号公報
以下、刊行物等1?2をそれぞれ引用文献1?2という。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様である。)。
(1a)
「【請求項1】
磁気センサにより紙葉類の磁性体を検出する紙葉類磁気検出装置であって、
紙葉類を1枚ずつ搬送する搬送路と、
前記磁気センサによる磁性体検出のために利用される少なくとも1つの磁石と、
前記磁気センサに近接配置されて前記搬送路で前記紙葉類を搬送する複数の搬送用ローラと
を備え、
全ての搬送用ローラは前記搬送路に面する外周面が非磁性材により形成されていることを特徴とする紙葉類磁気検出装置。」
(1b)
「【0008】
本発明は、上記従来技術の課題を解消するためになされたもので、磁気検出対象となる紙葉類を搬送するローラが磁気を帯びることにより磁気検出精度が低下することを回避する紙葉類磁気検出装置を提供することを目的とする。」
(1c)
「【0027】
磁気センサ20に対する磁石21、24の配置位置や極性の方向、磁石21、24の形状や数等については、磁気センサ20の種類や磁気検出の方法によって適宜設定されるものである。例えば、磁石21が、磁気センサ20の外部近傍に配置される場合もある。また、図2(b)では、着磁用磁石24と磁気センサ20に内蔵される磁石21との間に一対の搬送用ローラ(30a、40a)が配置された例を示しているが、2つの磁石21、24の間に搬送用ローラが複数設けられる場合もある。また、着磁用磁石24の搬送方向上流側に、一対の搬送用ローラがさらに設けられる場合もある。また、搬送用ローラは、磁石21、24又は磁気センサ20の搬送方向上流側及び下流側の両方(図2で左右両側)に配置される場合もある。
【0028】
図2に示すように、紙幣識別装置10は、紙幣処理装置100内で紙幣90が1枚ずつ搬送される搬送路12に沿って設けられており、紙幣90の磁気特性を検出するための磁気センサ20と、紙幣90の厚みを検出するための厚み検出センサ50と、紙幣90の表面及び裏面の反射画像と透過画像とを取得するためのラインセンサ60とを有している。また、紙幣識別装置10は、搬送路12に沿って設けられ、紙幣90に搬送力を与えるための駆動ローラ40a、40bと、この駆動ローラ40a、40bに対向して配置されたピンチローラ30a、30bと、磁気センサ20の検出面に対向して配置された毛ローラ23を有している。
・・・
【0030】
なお、図2では、紙幣識別装置10を、紙幣90の搬送方向に垂直な方向から見た側面図を示しているが、磁気センサ20、厚み検出センサ50及びラインセンサ60は、搬送方向に垂直な方向(図2紙面奥行方向)に延在する形状を有し、搬送路12を搬送される紙幣90の全面を走査して、各特徴量を取得するようになっている。また、ピンチローラ30a、30bと駆動ローラ40a、40bから成るローラ対(30aと40a、30bと40b)は、搬送方向に垂直な方向に複数対(例えば4対)設けられている。」
(1d)
「【符号の説明】
【0059】
10 紙幣識別装置(紙葉類磁気検出装置)
・・・」
(1e)
図2は、以下のとおりである。
【図2】

(2)引用文献1に記載された発明
紙幣は紙葉類といえるから、摘記(1c)の段落【0030】の「搬送路12を搬送される紙幣90」は、「搬送路12を搬送される紙葉類」として特定できる。
このことと、摘記(1a)、(1c)、(1d)、(1e)及び図2(摘記(1e)参照)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「搬送方向に垂直な方向に延在する形状を有し搬送路12を搬送される紙葉類の全面を走査する磁気センサ20により紙葉類の磁性体を検出する紙葉類磁気検出装置10であって、
紙葉類を1枚ずつ搬送する搬送路12と、
前記磁気センサ20による磁性体検出のために利用される少なくとも1つの磁石21と、
前記磁気センサ20に近接配置されて前記搬送路12で前記紙葉類を搬送する、搬送方向に垂直な方向に4対設けられている複数の搬送用ローラとを備え、
全ての搬送用ローラは前記搬送路12に面する外周面が非磁性材により形成されている、紙葉類磁気検出装置10。」

2 引用文献2について
引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)
「第3図において、印刷物2は磁石11,12および13,14により作られる同方向の磁界中を通過したことにより、H_(1)およびH_(2)なる残留磁界が同一方向に発生する。すなわち、磁気検出器31には下方向にH_(1)なる磁界が、また磁気検出器32には同じく下方向にH_(2)なる磁界が入力される。一方、両磁気検出器に共通に雑音磁界ΔHが入力するものとすると、磁気検出器31にはH_(l)+ΔH、32にはH_(2)+ΔHなる磁界が入力され、その磁界の強さに比例した電圧信号AおよびBが出力される。これらの信号を差動増幅器などの差を取る回路4で減算すると、その出力信号Xは
X∝A-B∝H_(1)+ΔH-(H_(2)+ΔH)=H_(1)-H_(2)となり、雑音成分を含まない信号を得ることができる。」(3ページ5欄13?28行)
(2b)
第1?3図は、以下のとおりである。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「紙葉類」及び「搬送路12」は、それぞれ、本願発明1の「媒体」及び「搬送路」に相当する。

上記アを踏まえると、以下のことがいえる。
引用発明の「紙葉類を1枚ずつ搬送する搬送路12」は、本願発明1の「媒体が搬送される搬送路」に相当する。
引用発明の「前記磁気センサ20に近接配置されて前記搬送路12で前記紙葉類を搬送する、搬送方向に垂直な方向に4対設けられている複数の搬送用ローラ」は、本願発明1の「前記搬送路に設けられ、前記媒体を搬送する搬送ローラ」に相当する。
引用発明の「搬送方向に垂直な方向に延在する形状を有し搬送路12を搬送される紙葉類の全面を走査する磁気センサ20」は、「紙葉類の磁性体を検出する」から、媒体の磁気情報を取得するといえる。
このことから、引用発明の「紙葉類の磁性体を検出する」「搬送方向に垂直な方向に延在する形状を有し搬送路12を搬送される紙葉類の全面を走査する磁気センサ20」と、本願発明1の「前記媒体の搬送方向と直交する方向に並べて設けられ、該媒体の磁気情報を取得する複数の磁気センサ」とは、「前記媒体の搬送方向と直交する方向に設けられ、該媒体の磁気情報を取得する磁気センサ」において共通している。

引用発明の「紙葉類磁気検出装置10」は、本願発明1の「紙葉類鑑別装置」に相当する。

以上から、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「媒体が搬送される搬送路と、
前記搬送路に設けられ、前記媒体を搬送する搬送ローラと、
前記媒体の搬送方向と直交する方向に設けられ、該媒体の磁気情報を取得する磁気センサとを備える、
紙葉類鑑別装置。」
<相違点>
「磁気センサ」及び「搬送ローラ」について、本願発明1では、前記媒体の搬送方向と直交する方向に「並べて」設けられ、該媒体の磁気情報を取得する「複数の」磁気センサ、及び、「前記搬送ローラは、前記複数の磁気センサに対して前記搬送方向にずれた位置で、かつ、隣り合った複数の前記磁気センサとの間隔が等間隔となる位置に配置される」のに対して、引用発明では、「搬送方向に垂直な方向に延在する形状を有し搬送路12を搬送される紙葉類の全面を走査する磁気センサ20により紙葉類の磁性体を検出」し、「前記磁気センサ20による磁性体検出のために利用される少なくとも1つの磁石21」「を備え」る、及び、「前記磁気センサ20に近接配置されて前記搬送路12で前記紙葉類を搬送する、搬送方向に垂直な方向に4対設けられている複数の搬送用ローラ」「を備え」、「全ての搬送用ローラは前記搬送路12に面する外周面が非磁性材により形成されている」点。

(2)判断
相違点について以下検討する。

引用発明の「搬送方向に垂直な方向に延在する形状を有し搬送路12を搬送される紙葉類の全面を走査する磁気センサ20」は、「紙葉類の全面を走査する」機能を備えるものであるところ、この「磁気センサ20」を、複数に分割して媒体の搬送方向と直交する方向に並べて配置しようとすると、「磁気センサ20」の形状などを変えた上で複数に分割した個々のセンサは上記の機能を備えない構成とする必要があり、また、上記の機能を維持して複数に分割するためには複数に分割した個々のセンサを隙間なく並べて配置することが必要となり分割すること自体に意味がなく、そのようなことは、いずれも想定し得ないことである。
要するに、当業者であれば、「紙葉類の全面を走査する磁気センサ20」を、分割しようとしない。

一方、引用文献2には、「両磁気検出器に共通に雑音磁界ΔHが入力するものとすると、磁気検出器31にはH_(l)+ΔH、32にはH_(2)+ΔHなる磁界が入力され、その磁界の強さに比例した電圧信号AおよびBが出力される。これらの信号を差動増幅器などの差を取る回路4で減算すると、・・・雑音成分を含まない信号を得ることができる。」(摘記(2a))と記載されているが、搬送用ローラ自体が記載されておらず(摘記(2b)など)、上記相違点に係る本願発明1の「前記搬送ローラは、前記複数の磁気センサに対して前記搬送方向にずれた位置で、かつ、隣り合った複数の前記磁気センサとの間隔が等間隔となる位置に配置される」構成は、記載も示唆もされていない。

上記アのとおりであるから、引用発明において、「磁気センサ20」を、媒体の搬送方向と直交する方向に並べて設けられた複数の磁気センサとすることはできず、さらに、上記イのとおりであるから、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用しても、上記相違点に係る本願発明1の構成にはならない。

したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

そして、本願発明1は、「搬送ローラから等間隔となるように配置された隣り合うそれぞれの磁気センサによって、搬送ローラの着磁している部分が生じさせる磁気ノイズ(着磁ノイズとも記す)が同じパターンの磁気データとして検出される。このため、着磁ノイズと媒体の磁気情報とを区別することができ、着磁ノイズによる誤検出を防止することができる。」(本願明細書の段落【0008】)という格別に顕著な作用効果を奏するものである。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに請求項2?5の発明特定事項を付加して限定したものであるから、上記1と同じ理由により、引用発明び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 まとめ
上記1、2のとおりであるから、本願発明1?5は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-10-26 
出願番号 特願2016-164906(P2016-164906)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G07D)
P 1 8・ 121- WY (G07D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 島田 信一
出口 昌哉
発明の名称 紙葉類鑑別装置および自動取引装置  
代理人 町田 能章  
代理人 大塚 義文  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

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