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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B23K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1379413
審判番号 不服2021-3010  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-05 
確定日 2021-11-16 
事件の表示 特願2019-157283「溶接部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 3月 1日出願公開、特開2021- 30299、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和1年8月29日の出願であって、令和2年9月17日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年11月20日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、令和2年12月7日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和3年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるか、当業者が、引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献
引用文献1:特許第5934890号公報

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、令和3年3月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
溶接ワイヤの先端が、母材としての複数の溶融Zn系めっき鋼板同士が当接することによって形成される被溶接部へ向けてアーク期間中は前進し、短絡期間中は前記被溶接部から後退するように前記溶接ワイヤの送り出しを制御しながら、前記母材同士をシールドガスの雰囲気中でアーク溶接する工程を含み、
前記シールドガスとして、100体積%の二酸化炭素ガスを用い、
前記溶融Zn系めっき鋼板の、前記被溶接部を形成する面におけるめっき付着量が15g/m^(2)以上250g/m^(2)以下であり、
前記溶接ワイヤの先端と前記被溶接部との間の距離をD、前記溶接ワイヤの直径をRとしたときに、前記短絡期間から前記アーク期間へ移行する際に、1.25R≦D≦8Rを満たす位置に前記溶接ワイヤを引き上げる、溶接部材の製造方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1(特許第5934890号公報)について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

ア 「【0020】図1に、図示しない溶接電源装置やワイヤ送給装置や産業用ロボット等を用いて溶接を行っている場合の、溶接部分の状態を示している。図1において、例えば産業用ロボットを構成するマニピュレータ(図示せず)に取り付けられた溶接用のトーチ1を介して、溶接用のワイヤ2をワイヤ送給装置(図示せず)により自動的に送給する。このとき、溶接電源装置(図示せず)によりワイヤ2に電力を供給し、ワイヤ2と亜鉛メッキ鋼板である上板3および下板4との間にアーク5を発生させ、ワイヤ2と上板3および下板4とを溶融して溶接を行う。」

イ 「【0038】また、表1は、一例として、溶接方法がMAG溶接であり、ワイヤ径が1.2mmのソリッドワイヤを用い、板厚が2.3mmの重ね継ぎ手であり、目付け量が45g/m2である場合の溶接の結果を示している。」(なお、「m2」は「m^(2)」の誤記と認める。)

ウ 「【0039】なお、溶接方法をCO_(2)溶接とした場合、MAG溶接に比べてアークの集中性(指向性)が強い。そのため、CO_(2)溶接における第1の溶接電流14の最大値は、450A以下が好ましい。第1の溶接電流14の最大値が450Aを超えると、板厚にもよるが、溶接対象物の溶け落ちが生じ易くなってしまう。」

エ 「【0041】また、ワイヤ2の送給制御として、溶接対象物の方向へ送給する正送(前進送給)と、その逆方向への送給である逆送(後退送給)とを繰り返すようにすることで、溶接性能を向上することができる。ワイヤ2を後退送給する場合、ワイヤ2と溶融プール6との間の距離を所定の距離(例えば、1mmから10mm程度)となるように制御することで、溶接の安定性が向上する。すなわち、ワイヤ2を後退送給することで、ワイヤ2の先端部と溶融プール6との間の距離を大きくすることが可能となり、微小短絡を抑制することができるので、スパッタの発生を抑制することができる。」

オ 「【0045】また、図示していないが、図3のような周期的な送給制御ではなく、溶接状態が短絡状態であることを検出すると逆送を行い、溶接状態がアーク状態であることを検出すると正送を行うように制御してもよい。」

(2)上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「溶接用のワイヤ2の先端部が、亜鉛メッキ鋼板である上板3および下板4との間の溶融プール6へ向けて、溶接状態がアーク状態であれば前進送給し、溶接状態が短絡状態であれば後退送給するようにワイヤ2の送給制御をしながら、前記上板3および下板4をCO_(2)溶接としてアーク溶接する工程を含み、
前記亜鉛メッキ鋼板の、目付量が45g/m^(2)であり、
前記ワイヤ2の直径を1.2mmとしたときに、ワイヤ2を後退送給する際に、前記ワイヤ2と前記溶融プール6との距離を所定の距離(例えば、1mmから10mm程度)となるように制御する、アーク溶接制御方法。」

第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「溶接用のワイヤ2」及び「溶接用のワイヤ2の先端部」は、それぞれ、本願発明1の「溶接ワイヤ」及び「溶接ワイヤの先端」に相当する。

イ 引用発明1の「亜鉛メッキ鋼板である上板3および下板4」は、母材として用いられることが明らかであって、本願発明1の「母材としての複数の溶融Zn系めっき鋼板」に相当する。

ウ 引用発明1の「上板3および下板4との間の溶融プール6」は、溶接がなされる部位であって、鋼板同士が当接することによって形成されるため、本願発明1の「鋼板同士が当接することによって形成される被溶接部」に相当する。

エ 引用発明1の「溶接状態がアーク状態」及び「溶接状態が短絡状態」は、それぞれ、本願発明1の「アーク期間中」及び「短絡期間中」に相当する。

オ 引用発明1の「ワイヤ2の先端部」の「前進送給」及び「後退送給」は、それぞれ、本願発明1の「溶接ワイヤの先端」の「前進」及び「後退」に相当する。

カ 引用発明1の「ワイヤ2の送給制御」は、本願発明1の「溶接ワイヤの送り出しを制御」に相当する。

キ 引用発明1の「前記上板3および下板4をCO_(2)溶接としてアーク溶接する工程」は、本願発明1の「母材同士をシールドガスの雰囲気中でアーク溶接する工程」であり、かつ「シールドガスとして、100体積%の二酸化炭素ガスを用」いることに相当する。

ク めっき鋼板のアーク溶接の技術分野における技術常識より、引用発明1の「前記亜鉛メッキ鋼板の、目付量」は、本願発明1の「前記被溶接部を形成する面におけるめっき付着量」に相当し、引用発明1の「目付量が45g/m^(2)」は、本願発明1の「めっき付着量が15g/m^(2)以上250g/m^(2)以下」に包含される部分で一致している。

ケ 引用発明1においても溶接部材を製造していることは明らかであり、引用発明1の「アーク溶接制御方法」は、本願発明1の「溶接部材の製造方法」に相当する。

コ 引用発明1の「ワイヤ2を後退送給する際に、前記ワイヤ2と前記溶融プール6との距離を所定の距離(例えば、1mmから10mm程度)となるように制御する」ことは、本願発明1の「前記短絡期間から前記アーク期間へ移行する際に、1.25R≦D≦8Rを満たす位置に前記溶接ワイヤを引き上げる」ことと、「前記溶接ワイヤの先端と前記溶接部との距離をDとしたときに、前記短絡期間から前記アーク期間へ移行する際に、Dが所定の距離を満たす位置に前記溶接ワイヤを引き上げる」ことでは共通する。

サ 上記ア-コより、本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
溶接ワイヤの先端が、母材としての複数の溶融Zn系めっき鋼板同士が当接することによって形成される被溶接部へ向けてアーク期間中は前進し、短絡期間中は前記被溶接部から後退するように前記溶接ワイヤの送り出しを制御しながら、前記母材同士をシールドガスの雰囲気中でアーク溶接する工程を含み、
前記シールドガスとして、100体積%の二酸化炭素ガスを用い、
前記溶融Zn系めっき鋼板の、前記被溶接部を形成する面におけるめっき付着量が45g/m^(2)であり、
前記溶接ワイヤの先端と前記溶接部との距離をDとしたときに、前記短絡期間から前記アーク期間へ移行する際に、Dが所定の距離を満たす位置に前記溶接ワイヤを引き上げる、溶接部材の製造方法。

[相違点]
短絡期間からアーク期間へ移行する際に、溶接ワイヤを引き上げる位置に関し、本願発明1では、「前記溶接ワイヤの先端と前記被溶接部との間の距離をD、前記溶接ワイヤの直径をRとしたときに、前記短絡期間から前記アーク期間へ移行する際に、1.25R≦D≦8Rを満たす位置に前記溶接ワイヤを引き上げる」のに対して、引用発明1では、Dが1mmから10mm程度の位置に溶接ワイヤを引き上げる点。

(2)判断
相違点について検討する。
上記相違点における、引用発明1の「Dが1mmから10mm程度の位置」は、引用発明1の溶接ワイヤの直径が1.2mmであることをふまえると、0.83R≦D<8.3Rの位置となる。
そうすると、本願発明1における数値範囲(1.25R≦D≦8R)は、引用発明1における数値範囲(0.83R≦D<8.3R)に全て含まれており、本願発明1は引用発明1の下位概念に当たる発明であるため、引用文献1において、本願発明1が開示されているとは認められない。
ここで、特許・実用新案審査基準(第III部第2章第3節 新規性進歩性の審査の進め方 3.2 先行技術を示す証拠が上位概念又は下位概念で発明を表現している場合の取扱い)を参酌すると、「(1) 先行技術を示す証拠が上位概念で発明を表現している場合 この場合は、下位概念で表現された発明が示されていることにならないから、審査官は、下位概念で表現された発明を引用発明として認定しない。ただし、技術常識を参酌することにより、下位概念で表現された発明が導き出される場合には、審査官は、下位概念で表現された発明を引用発明として認定することができる。」と記載されているため、引用文献1において、技術常識を参酌することにより、下位概念で表現された発明が導き出だせるかについて検討する。
本願発明1においては、溶接ワイヤの直径Rと、溶接ワイヤの先端と被溶接部との間の距離Dとの関係に着目して、R及びDを1.25R≦D≦8Rとの式で表される範囲内とすることにより、スパッタの発生を低減するという効果を奏するのに対して、引用文献1においては、溶接ワイヤの直径が1.2mmの場合にDが1mmから10m程度の位置に溶接ワイヤを引き上げることが例示されるのみで、異なる直径のワイヤを用いる際に溶接ワイヤの先端と被溶接部との間の距離を異なるものとすること、またそれによりスパッタの発生を低減することができるという効果について記載も示唆もされていない。また、この点が本願出願前において、技術常識であったとも認められず、本願発明1が、引用文献1から導きだせるとはいえない。
よって、上記相違点により、本願発明1は引用発明1に記載された発明であるとはいえない。
さらに、上記相違点に係る技術事項が、当業者が適宜成し得た設計的事項であるとも認められず、本願発明1が引用発明1に基いて当業者にとって容易になし得たものであるとはいえない。

2 小括
したがって、本願発明1は、原査定で引用された引用文献1に記載された発明ではない、又は引用文献1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-10-28 
出願番号 特願2019-157283(P2019-157283)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
P 1 8・ 113- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 松原 陽介
大山 健
発明の名称 溶接部材の製造方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
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