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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1379439
審判番号 不服2021-5472  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-27 
確定日 2021-10-28 
事件の表示 特願2018-195385「光学部材および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 4月23日出願公開、特開2020- 64160〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2018-195385号(以下「本件出願」という。)は、平成30年10月16日を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年10月12日付け:拒絶理由通知書
令和2年12月 2日提出:意見書
令和3年 2月 1日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和3年 4月27日提出:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項10に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1?請求項10に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項7を引用する請求項8に係る発明は、次のものである(以下「本願発明8」という。また、請求項1?10に係る発明を総称して「本願発明」という。)。
「【請求項7】
第一主面および第二主面を有する円偏光板と、第一主面および第二主面を有するパターン状の光反射層と、画像表示パネルとを備え、
前記円偏光板の第一主面と前記光反射層の第二主面とが対向するように配置されており、前記画像表示パネルは、前記光反射層の第一主面側に配置されており、
前記円偏光板は、第二主面側から入射する光を円偏光として第一主面側に射出するように構成されており、
前記光反射層は光遮蔽性であり、かつ前記光反射層の第二主面が、前記円偏光板側からの光を固定端反射する、画像表示装置。
【請求項8】
前記光反射層と前記画像表示パネルとの間にタッチパネルを備える、請求項7に記載の画像表示装置。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、請求項8に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1:国際公開第2016/009913号
引用文献2:国際公開第2013/161894号
引用文献3:国際公開第2014/167815号
(当合議体注:主引用例は引用文献1であり、引用文献2?3は周知技術を例示するための文献である。)


第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献1(国際公開第2016/009913号)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「技術分野
[0001]
本発明は、静電容量式タッチパネルに係り、上部粘着層および下部粘着層の伸び率が所定の範囲である静電容量式タッチパネルに関する。
背景技術
[0002]
タブレットPC、カーナビゲーション、自動券売機、ATM装置など各種装置等へのタッチパネルの搭載率が上昇しており、多点検出が可能な静電容量方式のタッチパネルが特に利用されている(特許文献1)。
なお、通常、タッチパネルには、その周縁部分に配線(いわゆる引き出し配線)を設ける必要があり、タッチ面を構成する保護基板面側からこれらの配線が見えないように、保護基板の周縁部分に印刷等で枠状の加飾層(装飾部)が設けられる。
先行技術文献
特許文献
[0003]
特許文献1 : 特開2008-310551号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0004]
近年、静電容量式タッチパネルの性能向上のために、位置検出をより高い精度で行うことが求められている。特に、携帯電話や携帯ゲーム機などの携帯機器への静電容量式タッチパネルの搭載率が上昇しており、これらの機器を使用する際には入力領域全体に渡って操作者のタッチ操作が実施され、加飾層近傍の入力領域(入力領域の周縁部分)でもタッチ操作が実施される場合が多い。
また、近年、静電容量式タッチパネルを搭載した機器の使用期間が長期化しており、製造から長期間経過した後も、誤動作の発生が抑制されることが望ましい。
しかしながら、従来公知の静電容量式タッチパネルでは、製造から長期間(例えば、6か月)経過した後、加飾層近傍の入力領域で誤動作が生じやすく、更なる改良が必要であった。
[0005]
本発明は、上記実情に鑑みて、製造から長期間経過した後であっても、加飾層近傍の入力領域での誤動作が生じにくい静電容量式タッチパネルを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0006]
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、静電容量式タッチパネル中に含まれる上部粘着層および下部粘着層の伸び率を制御することにより、上記課題が解決できることを見出した。
つまり、以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
[0007]
(1) 表示装置と、下部粘着層と、静電容量式タッチパネルセンサーと、上部粘着層と、保護基板とをこの順で備える静電容量式タッチパネルであって、
保護基板の表示装置側の表面に加飾層が配置され、
上部粘着層の伸び率が1500%以上であり、
下部粘着層の伸び率が600%以下である、静電容量式タッチパネル。
(2) 上部粘着層の伸び率が、下部粘着層の伸び率の4倍以上である、(1)に記載の静電容量式タッチパネル。
(3) 上部粘着層の伸び率が1800%以上である、(1)または(2)に記載の静電容量式タッチパネル。
(4) 下部粘着層の伸び率が500%以下である、(1)?(3)のいずれかに記載の静電容量式タッチパネル。
(5) 静電容量式タッチパネルセンサーが、基板両面に検出電極を備える積層体、または、片面に検出電極を備える検出電極付き基板同士を粘着層にて貼り合せた積層体である、(1)?(4)のいずれかに記載の静電容量式タッチパネル。
(6) 検出電極が、金、銀、銅、アルミニウム、酸化インジウム錫、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化ガリウム、酸化チタン、銀パラジウム合金、および、銀パラジウム銅合金からなる群から選択されるいずれかで構成される、(5)に記載の静電容量式タッチパネル。
(7) 表示装置の表示画面の対角線方向のサイズが5インチ以上である、(1)?(6)のいずれかに記載の静電容量式タッチパネル。
発明の効果
[0008]
本発明によれば、製造から長期間経過した後であっても、加飾層近傍の入力領域での誤動作が生じにくい静電容量式タッチパネルを提供することができる。
図面の簡単な説明
[0009]
[図1] 従来技術の問題点を説明するためのタッチパネルの一部拡大断面図である。
[図2] 従来技術の問題点を説明するためのタッチパネルの一部拡大断面図である。
[図3] (A)は本発明の静電容量式タッチパネルの一実施形態の断面図であり、(B)は本発明の静電容量式タッチパネルの一実施形態の上面図である。
[図4] 静電容量式タッチパネルセンサーの一実施形態の平面図である。
[図5] 図4に示した切断線A-Aに沿って切断した断面図である。
[図6] 第1検出電極の拡大平面図である。
[図7] 静電容量式タッチパネルセンサーの他の実施形態の一部断面である。
[図8] 静電容量式タッチパネルセンサーの他の実施形態の一部断面である。
発明を実施するための形態
[0010]
以下に、本発明の静電容量式タッチパネル(以後、単にタッチパネルとも称する)の好適態様について図面を参照して説明する。
なお、本明細書において「?」を用いて表される数値範囲は、「?」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明における図は模式図であり、各層の厚みの関係や位置関係などは必ずしも実際のものとは一致しない。
[0011]
本発明のタッチパネルの特徴点としては、上部粘着層および下部粘着層の伸び率を制御している点が挙げられる。このような構成にすることにより、所望の効果が得られる理由について、以下に詳述する。
まず、タッチパネルの代表的な構成としては、表示装置、下部粘着層、静電容量式タッチパネルセンサー、上部粘着層、および、保護基板がこの順で積層されている。保護基板の表示装置側の表面上には、保護基板の周辺領域に枠状の加飾層が配置され、引き出し配線を隠す役割を果たしている。
本発明者は、従来技術の問題点に関して鋭意検討を行ったところ、主に以下の2点が関連していることを知見した。
まず、保護基板と上部粘着層とを貼り合せる際には、加飾層の段差に追従するように上部粘着層が貼り合わされる。しかしながら、従来技術においては、時間の経過と共に上部粘着層の保護基板からの剥がれが起こり、加飾層近傍において保護基板と上部粘着層との間に空隙が生じる場合がある。より具体的には、図1に示すように、加飾層50を表面に有する保護基板52と上部粘着層54との間に空隙56が発生することがある。特に、上部粘着層の厚みが薄いほど、この現象は生じやすい。このような空隙は上部粘着層とは異なる比誘電率を有するため、静電容量の当初設定されていた値からのずれが生じ、動作不良につながる。これに対して、本発明では、伸び率の高い上部粘着層を使用することにより、段差追従性が従来よりも一層改善され、空隙の発生が抑制されている。
また、下部粘着層は表示装置上に配置され、その上には静電容量式タッチパネルセンサーが配置される。製造後所定期間経過すると、静電容量式タッチパネルセンサーの重みによって下部粘着層が側面からはみ出る場合がある。より具体的には、図2に示すように、表示装置58と静電容量式タッチパネルセンサー60との間に挟まされた下部粘着層62の側面64において、はみ出しが生じる。特に、下部粘着層にはノイズ低減などの点から、比較的厚い粘着層が使用される場合があり、そのような場合、上述したように粘着層がはみ出しやすい。このようなはみ出しが発生すると、はみ出し部に近接する下部粘着層の厚みが薄くなる。粘着層の厚みは静電容量と関係しているため、このような厚みの低下は動作不良につながる。特に、粘着層の厚みが薄くなった入力領域の周縁部分での動作不良につながる。これに対して、本発明では、伸び率の低い下部粘着層を使用することにより、上記はみ出しの発生が従来よりも抑制されている。
以上をまとめると、保護基板と上部粘着層との間の空隙は加飾層近辺で生じやすく、かつ、上述した下部粘着層のはみ出しによる厚みの低下も下部粘着層の周縁部分、言い換えれば加飾層近辺にて発生しやすい。この2つの点が、加飾層近傍の入力領域での誤動作を招いていたと推測される。そこで、本発明では、上部粘着層および下部粘着層の伸び率を所定範囲に制御することにより、上記問題の発生を抑制し、結果としてタッチパネルの誤動作の発生を抑制している。
[0012]
図3(A)は、本発明の静電容量式タッチパネルの断面図である。図3(B)は、本発明の静電容量式タッチパネルの上面図であり、図3(A)は図3(B)中の切断線X-Xに沿って切断した断面図である。
図3(A)に示すように、静電容量式タッチパネル10は、表示装置12と、下部粘着層14と、静電容量式タッチパネルセンサー16と、上部粘着層18と、保護基板20とをこの順で備える。また、図3(B)に示すように、保護基板20の表示装置12側の表面上には、保護基板20の周縁部分に枠状に加飾層21が配置される。なお、図3(B)において、加飾層21よりも内部の領域が、入力領域E_(I)に該当する。
この静電容量式タッチパネル10においては、保護基板20の入力領域E_(I)表面(タッチ面)に指が近接、接触すると、指と静電容量式タッチパネルセンサー16中の検出電極との静電容量が変化する。ここで、図示しない位置検出ドライバは、指と検出電極との間の静電容量の変化を常に検出している。この位置検出ドライバは、所定値以上の静電容量の変化を検出すると、静電容量の変化が検出された位置を入力位置として検出する。このようにして、静電容量式タッチパネル10は、入力位置を検出することができる。
以下、静電容量式タッチパネル10の各部材について詳述する。まず、本発明の特徴点である上部粘着層18および下部粘着層14の態様について詳述し、その後、他の部材について詳述する。」

イ 「[0027]
(表示装置)
表示装置12は、画像を表示する表示面を有する装置であり、表示画面側に各部材(例えば、下部粘着層14が配置される。
表示装置12の種類は特に制限されず、公知の表示装置を使用することができる。例えば、陰極線管(CRT)表示装置、液晶表示装置(LCD)、有機発光ダイオード(OLED)表示装置、真空蛍光ディスプレイ(VFD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、表面電界ディスプレイ(SED)、電界放出ディスプレイ(FED)または電子ペーパー(E-Paper)などが挙げられる。
[0028]
(保護基板)
保護基板20は、上部粘着層18上に配置される基板であり、外部環境から後述する静電容量式タッチパネルセンサー16や表示装置12を保護する役割を果たすと共に、その主面はタッチ面を構成する。
保護基板として、透明基板であることが好ましく、プラスチック板(プラスチックフィルム)、ガラス板などが用いられる。基板の厚みはそれぞれの用途に応じて適宜選択することが望ましい。
上記プラスチック板を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、EVA等のポリオレフィン類;ビニル系樹脂;その他、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)、シクロオレフィン系樹脂(COP)等を用いることができる。
また、保護基板20としては、偏光板、円偏光板などを用いてもよい。
[0029]
(加飾層)
加飾層21は、保護基板20の表示装置12側の表面上に配置される層であり、後述する静電容量式タッチパネルセンサー中の引き出し配線を隠すことができ、意匠性を高めるための層としての役割を果たす。加飾層21は、通常、後述する静電容量式タッチパネルセンサーの入力領域E_(I)の外側に位置する外側領域E_(0)に配置されることが好ましい。
図3においては、加飾層21は、枠状(額縁状)に配置されているが、この態様に限定されず、適宜変更可能である。
[0030]
加飾層21としては、例えば、黒色または白色に着色された層が使用される。
加飾層21の材料は特に制限されないが、例えば、バインダー樹脂および着色剤を含有する着色樹脂組成物が挙げられる。また、加飾層には、金属層を用いることもできる。
加飾層21の形成方法としては、保護基板20上に形成可能な方法であれば特に限定されない。着色樹脂組成物を用いる場合には、例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷等の印刷法、インクジェット法、フォトリソグラフィー法等が挙げられる。また、金属層の場合には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等が挙げられる。
[0031]
加飾層の厚みとしては、目的に応じて適宜選択されるが、5?50μmの場合が多く、タッチパネルの薄型化の点から、5?30μmが好ましい。
[0032]
(静電容量式タッチパネルセンサー)
静電容量式タッチパネルセンサー16は、表示装置12上(操作者側)に配置され、人間の指などの外部導体が接触(接近)するときに発生する静電容量の変化を利用して、人間の指などの外部導体の位置を検出するセンサーである。
静電容量式タッチパネルセンサー16の構成は特に制限されないが、通常、検出電極(特に、X方向に延びる検出電極およびY方向に延びる検出電極)を有し、指が接触または近接した検出電極の静電容量変化を検出することによって、指の座標を特定する。」

ウ 「[図3]



(2)引用発明
ア 上記(1)によれば、引用文献1の[0012]及び[図3]には、「保護基板20」及び「加飾層21」を備える「静電容量式タッチパネル10」が記載されている。

イ 上記アによれば、引用文献1には、次の静電容量式タッチパネルの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「表示装置12と、下部粘着層14と、静電容量式タッチパネルセンサー16と、上部粘着層18と、保護基板20とをこの順で備え、
保護基板20の表示装置12側の表面上には、保護基板20の周縁部分に枠状に加飾層21が配置され、
表示装置12は、画像を表示する表示面を有する装置であり、
静電容量式タッチパネルセンサー16は、人間の指などの外部導体が接触(接近)するときに発生する静電容量の変化を利用して、人間の指などの外部導体の位置を検出するセンサーである、
静電容量式タッチパネル10。」

2 対比及び判断
(1)対比
本願発明8と引用発明を対比する
ア 画像表示パネル
引用発明の「表示装置12」は、「画像を表示する表示面を有する装置であ」ることから、本願発明8の「画像表示パネル」に相当する。

イ タッチパネル
引用発明の「静電容量式タッチパネル10」は、「表示装置12と、下部粘着層14と、静電容量式タッチパネルセンサー16と、上部粘着層18と、保護基板20とをこの順で備え」、当該「静電容量式タッチパネルセンサー16は、人間の指などの外部導体が接触(接近)するときに発生する静電容量の変化を利用して、人間の指などの外部導体の位置を検出するセンサーである」。
上記機能及び構成からみて、引用発明の「静電容量式タッチパネルセンサー16」は、本願発明8の「タッチパネル」に相当する。

ウ 画像表示装置
引用発明の「静電容量式タッチパネル10」は、上記ア?イで述べた「表示装置12」及び「静電容量式タッチパネルセンサー16」を具備するものであり、「表示装置12」を具備する以上、画像を表示する機能を有する装置といえる。
上記機能及び構成からみて、引用発明の「静電容量式タッチパネル10」は、本願発明8の「画像表示装置」に相当する。
以上総合すると、引用発明の「静電容量式タッチパネル10」と本願発明8の「画像表示装置」とは、「画像表示パネル」及び「タッチパネル」「を備える」「画像表示装置」である点で共通する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明8と引用発明は、次の点で一致する。
「画像表示パネルとタッチパネルを備える画像表示装置。」

イ 相違点
本願発明8と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明8が、「第一主面および第二主面を有する円偏光板と、第一主面および第二主面を有するパターン状の光反射層と」「を備え」、「前記円偏光板の第一主面と前記光反射層の第二主面とが対向するように配置されており、前記画像表示パネルは、前記光反射層の第一主面側に配置されており、前記円偏光板は、第二主面側から入射する光を円偏光として第一主面側に射出するように構成されており、前記光反射層は光遮蔽性であり、かつ前記光反射層の第二主面が、前記円偏光板側からの光を固定端反射する」のに対し、引用発明においては、このように特定されていない点。
(相違点2)
「タッチパネル」が、本願発明8では、「前記光反射層と前記画像表示パネルとの間に」備えられているのに対し、引用発明は、このように特定されていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
引用文献1には、「保護基板20としては、偏光板、円偏光板などを用いてもよい。」([0028])及び「例えば、黒色または白色に着色された層が使用される・・・中略・・・また、加飾層には、金属層を用いることもできる。」([0030])と記載されている。そうしてみると、引用文献1には、[A]「保護基板20」として「円偏光板」を採用すること及び[B]「加飾層21」として「金属層」を用いることが、選択肢の1つとして明確に記載されており、「保護基板20」及び「加飾層21」として、上記[A]及び[B]の組み合わせは、引用文献1に記載されているに等しい事項であるか、少なくとも選択肢の1つとして当業者が明確に把握し得る事項といえる。
加えて、円偏光板を用いて、外部から入射し、内部反射した光を遮蔽する技術は、例えば、引用文献2の[0018]及び引用文献3の[0066]に記載されているように周知技術であるところ、引用文献1の[0028]に選択肢の1つとして示された「円偏光板」が、同様の目的での利用を意図したものであることは、当該周知技術を心得た当業者にとっては自明の事項である。
そうしてみると、引用文献1の上記記載に接した当業者は、引用発明の「静電容量式タッチパネル10」を具体化するに際して、「保護基板20」及び「加飾層21」として上記組み合わせの採用を試みることは、容易に着想し得ることであって、その結果、相違点1に係る本願発明8の構成に到るといえる。
すなわち、上記組み合わせを採用してなる引用発明は、(ア)「円偏光板」及び「金属層」(本願発明8の「光反射層」に相当)は、それぞれ第一主面及び第二主面を有し、各主面を「保護基板20」(円偏光板)側から順に「第二主面」及び「第一主面」とすると、「円偏光板の第一主面と前記光反射層の第二主面とが対向するように配置されており」、「パターン状の」「光反射層は光遮蔽性であ」るものとなり、(イ)「画像表示パネルは、前記光反射層の第一主面側に配置され」、(ウ)「円偏光板は、第二主面側から入射する光を円偏光として第一主面側に射出するように構成され」、(エ)「光反射層の第二主面が、前記円偏光板側からの光を固定端反射」するものとなる。
(当合議体注:上記(エ)について、「光反射層」(金属層)が「円偏光板側からの光を固定端反射する」ことは当業者にとって自明の事項である。)
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明8の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである

イ 相違点2について
引用発明の「静電容量式タッチパネル10」は、「表示装置12と、下部粘着層14と、静電容量式タッチパネルセンサー16と、上部粘着層18と、保護基板20とをこの順で備え」ていることから、「保護基板20の表示装置12側の表面上」に「配置され」る「加飾層21」を光反射層とした場合、「静電容量式タッチパネルセンサー16」は、自然と「前記光反射層と前記画像表示パネルとの間に」備えられるものとなる。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明8の構成に想到することは、当業者が容易になし得たことである

(4)発明の効果について
本願発明の効果として、本件出願の明細書の【0012】には、「加飾パターン部分に光反射層が設けられているため、画像表示パネル側からの光の遮蔽性に優れ、駆動素子や引出配線等が外部から視認されないようにすることができる。また、光反射層よりも視認側に円偏光板が配置されていることにより、光反射層で反射した外光は円偏光板により吸収され、外部からは反射光が視認され難いため、意匠性に優れる。当該構成では、加飾パターン部分の厚みを小さくできるため、フレキシブルディスプレイやフォルダブルディスプレイ等への適用も容易である。」と記載されている。
しかしながら、光反射層で反射した外光が円偏光板により吸収されることで、画像表示パネル側からの光が遮蔽されることは、当業者であれば当然に熟知している技術的事項である。
すなわち、引用発明が、「円偏光板20」及び「金属膜」(光反射層)の組み合わせを採用した場合に画像表示パネル側からの光の遮蔽性に優れ、駆動素子や引出配線等が外部から視認されないようにすることができることは、引用文献2?3に記載される技術常識に基づいて当業者であれば当然に予測できる効果にすぎない。
また、結果として、「円偏光板20」及び「金属膜」(光反射層)の組み合わせを採用した引用発明は、意匠性に優れ、加飾パターン部分の厚みを小さくできることから、フレキシブルディスプレイやフォルダブルディスプレイ等への適用が容易なものとなる。
以上によれば、上記効果は、引用発明及び周知技術に基づいて容易に想到し得る発明(構成)が具備する効果であるか、当業者が予測することができるものであって、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるということはできない。

(5)請求人の主張について
ア 請求人は、令和3年4月27日提出の審判請求書において、
「・・・しかしながら、仮に、(A)固定端反射光を円偏光板で遮へいすることが周知であったとしても、当該周知技術を足掛かりとして、引用発明において、保護基板としての円偏光板、加飾層としての金属層(反射層)の組合せを採用することが容易であると判断する合理的な理由が、拒絶理由通知および拒絶査定には示されておらず、上記(A)の周知技術の存在と、本願発明1の構成が容易想到であるとする結論との因果関係が不明であると言わざるを得ません。
・・・中略・・・周知技術を示す文献として提示された引用文献2および引用文献3は、いずれも、OLEDディスプレイの反射型電極による外光の反射に起因する視認性の低下を防止する目的で、円偏光板を配置するとの技術内容を開示しており、OLEDの反射電極の他に、OLEDの有機層と無機層との界面やタッチパネルの透明導電膜の界面での反射光も円偏光板により遮蔽可能であるとの記載が認められるものの、これらの記載を上位概念化した「固定端反射光を円偏光板で遮へいする」との技術事項までが直接的に記載されているとは認められず、ましてや引用文献2,3には何らの記載もない加飾層からの反射光を円偏光板により遮蔽するとの概念が生じるとは認められません。
引用文献2,3の記載を根拠として、OLEDディスプレイの反射型電極による外光の反射に起因する視認性の低下を防止する目的で、視認側に円偏光板を配置して反射光を遮蔽するとの技術事項が「周知」であると認定できると仮定し、これに加えて、仮に周知技術であることを理由に、当該知見を引用文献1に記載の発明に適用することができたとしても、引用文献1の[0028]の記載を参照することにより、引用発明の保護基板20として円偏光板を採用し、表示装置12や静電容量式タッチパネルセンサー16の電極からの反射光を円偏光板により遮蔽するとの構成を導き得るに過ぎません。
周知技術として引用された引用文献2,3に記載されている範囲を逸脱して、円偏光板による反射光の遮蔽とは何らの関連性も認められない引用文献1の[0030]の記載を参照し、(保護基板20として円偏光板を採用することに加えて)加飾層21として金属層等の光反射性材料を採用することが容易であるとの拒絶査定における認定・判断は、客観的証拠に基づくものとは言い難く、当該結論を導くプロセスの合理性も認められません。」と主張している。
しかしながら、上記(3)に示したとおりである。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。


第3 まとめ
本願発明8は、引用文献1に記載された発明及び周知技術等に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-08-19 
結審通知日 2021-08-24 
審決日 2021-09-08 
出願番号 特願2018-195385(P2018-195385)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
下村 一石
発明の名称 光学部材および画像表示装置  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  

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