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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1379504
審判番号 不服2020-16674  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-03 
確定日 2021-11-24 
事件の表示 特願2018- 14583「リチウムイオン二次電池」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月 8日出願公開、特開2019-133820、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年 1月31日の出願であって、令和 2年 3月30日付けで拒絶理由が通知され、同年 5月28日付けで意見書が提出されたものの、同年 9月 1日付けで拒絶査定がされた。
これに対し、同年12月 3日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同日付で手続補正書が提出され、当審より令和 3年 8月23日付けで拒絶理由が通知され、同年 9月 2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和 3年9月 2日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、下線は補正された箇所を表す。

「【請求項1】
負極および電解液を含むリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、負極合材層を含み、
前記負極合材層は、負極活物質およびバインダを含み、
前記負極活物質は、ケイ素と黒鉛との混合物、または、酸化ケイ素と黒鉛との混合物のいずれかであり、
前記バインダは、主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなるシクロオレフィンポリマーからなり、
前記ハードセグメントは、2以上の単環から構成される炭素数が7?30である脂環式炭化水素構造からなり、剛直な構造を有し、
前記ソフトセグメントは、炭素数が2?10である鎖式炭化水素構造からなり、
前記ハードセグメントと前記ソフトセグメントとのモル比は、前記ハードセグメント:前記ソフトセグメント=80?20:20?80である、リチウムイオン二次電池。」

第3 原査定の拒絶理由及び当審から通知された拒絶理由の概要
1 原査定の拒絶理由の概要
原査定(令和2年 9月 1日付け拒絶査定)における拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1.出願時の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?7に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.米国特許出願公開第2012/0308889号明細書
2.国際公開第2013/065738号
3.特開平05-230144号公報
4.特開昭61-271308号公報
5.特開2004-346274号公報
6.特開平06-041364号公報
7.WEST,James C.ほか,ゴムの科学と技術[第17回],日本ゴム協会誌,1984年,57(1),45-65

2 当審から通知された拒絶理由の概要
当審から通知された拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1.(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が下記ア?ウの点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

ア 本願発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「ケイ素(Si)と黒鉛との混合物、または、酸化ケイ素(SiO)と黒鉛との混合物を負極活物質として含むリチウムイオン二次電池において、サイクル特性の低下を抑制すること」であると認められる。

イ しかしながら、審判請求時の本願請求項1に係る発明における「バインダ」は、「主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなるシクロオレフィンポリマーを含み」と、いわゆるオープンクレーム形式で特定されているために、バインダの主鎖にヘテロ原子を有するものも含まれ、主鎖中に含まれるヘテロ原子が添加剤や水分と反応して、バインダの主鎖が切断され、電池のサイクル特性が低下するので、上記課題が解決しない発明が含まれている。

ウ また、本願の請求項1には「ハードセグメント」について「2以上の単環から構成される炭素数が7?30である脂環式炭化水素構造を含み」と記載されているだけで、「剛直な構造を有している」ものであることが特定されていないため、上記「ハードセグメント」には、ノルボルネン系モノマーを重合してなる単量体単位を有する重合体だけでなく、複数個(例えば2個)のシクロヘキサンが結合したものであって、必ずしも剛直な構造とはいえないものも含まれており、そのため、Si化合物の体積が膨張・収縮した際において、バインダの変形やSi化合物の移動(位置ずれ)が抑制されず、バインダと負極活物質との密着およびバインダと負極集電体との密着が維持されないので、サイクル特性の低下が抑制されず、したがって、上記課題が解決しない発明が含まれている。

第4 引用文献
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
本願の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、「NEGATIVE ELECTRODE AND RECHARGEABLE LITHIUM BATTERY INCLUDING SAME(当審訳:負極及びこれを含むリチウム二次電池)」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。(「…」によって記載の省略を表す。翻訳は当合議体が作成したものであり、下線は当審による。以下同様。)

1ア「[0002] 1. Field of the Invention
[0003] An embodiment of the present invention relates to a negative electrode and a rechargeable lithium battery including the same, and more particularly, to a negative electrode being capable of improving capacity and cycle-life of a rechargeable lithium battery and a rechargeable lithium battery including the negative electrode.」
(当審訳:[0002]1. 発明の分野
[0003]本発明の実施形態は、負極及びこれを含むリチウム二次電池に関し、特にその負極を含むリチウム二次電池の容量とサイクル寿命を向上させることができる負極及びこれを含むリチウム二次電池に関する。)

1イ「[0006] A rechargeable lithium battery including an organic electrolyte solution has twice or even more discharge voltage in comparison with a rechargeable lithium battery including a conventional alkali aqueous solution. The rechargeable lithium battery including the organic electrolyte solution therefore has higher energy density in comparison with the rechargeable lithium battery including the conventional alkali aqueous solution. Accordingly, a rechargeable lithium battery including an organic electrolyte solution has an advantage of being smaller in size and lighter in weight and has higher capacity of charge and discharge. A rechargeable lithium battery may include a carbon-based material as a negative active material which is the main component consisting of a negative electrode.
[0007] The carbon-based material however has a limited capacity of charge and discharge and thus has a limited range of applications. Accordingly, an alternative negative active material has been researched to satisfy the recently increasing requirement of a rechargeable lithium battery with higher capacity of charge and discharge. For example, a lithium metal has higher energy density; however, the lithium metal has problems of safety and shorter cycle-life due to growth of a dentrite phase during the repetitive charges and discharges.
[0008] In addition, a lithium alloy having higher capacity of charge and discharge and replacing the lithium metal has been actively researched. For example, silicon (Si) has a maximum theoretical capacity of 4000 mAh/g when Si reacts with lithium. Accordingly, a Si-based material has much bigger theoretical capacity than a carbon-based material; therefore, the Si-based material is very promising to be used as the negative active material of the battery.
[0009] However, since Si may crack due to volume change during the charge and discharge of the battery, such crack may cause Si active material particles to be destroyed. Accordingly, the Si active material may significantly deteriorate the battery's capacity of charge and discharge, because the cycles of charge and discharge of the battery may increase, and the Si active material may resultantly deteriorate cycle-life of a battery.」
(当審訳:[0006]有機電解液を含むリチウム二次電池は、従来のアルカリ水溶液を含むリチウム二次電池と比較して、2倍またはそれ以上の放電電圧を有している。そのため、有機電解液を含むリチウム二次電池は、従来のアルカリ水溶液を含むリチウム二次電池に比べてエネルギー密度が高い。また、有機電解液を含むリチウム二次電池は、サイズが小さく、質量が軽く、高い充放電容量を有するという利点を有している。リチウム二次電池は、負極の主要構成成分である負極活物質として炭素系材料を含むことができる。
[0007]しかしながら、前記炭素系物質は、充放電の容量が限られており、そのため、限られた範囲の用途を有する。そこで、高い充放電容量を備えたリチウム二次電池についての最近の増大する要求を満足させるために、代替の負極活物質が研究されている。例えば、リチウム金属は、高いエネルギー密度を有するが、リチウム金属は、充放電の繰り返し中にデンドライト相が成長することに起因する、安全性と短いサイクル寿命という問題を有している。
[0008]加えて、リチウム金属に代わり、より高い充放電容量を有するリチウム合金が積極的に研究されている。例えば、シリコン(Si)は、リチウムと反応したときに4000mAh/gの理論最大容量を有している。これにより、Si系材料は、炭素系材料よりも、はるかに大きな理論容量を有しているので、Si系材料は、電池の負極活物質として使用するのに非常に有望である。
[0009]しかし、Siは、電池の充放電の間の体積変化により亀裂を生じ、このような亀裂は、Si活物質粒子の破壊を引き起こす恐れがある。そのため、電池の充放電サイクルが多くなると、Si活物質は電池の充放電容量を大幅に低下させ、結果的にSi活物質は電池のサイクル寿命を低下させる。)

1ウ「[0010] An aspect of the present invention provides a negative electrode being capable of improving capacity and cycle-life characteristics of a rechargeable lithium battery.
[0011] Another aspect of the present invention provides a rechargeable lithium battery having improved capacity and cycle-life characteristics.」
(当審訳:[0010]本発明の一態様は、リチウム二次電池の容量特性及びサイクル寿命特性を向上させることができる負極を提供する。
[0011]本発明の別の態様は、改善された容量特性及びサイクル寿命特性を有するリチウム二次電池を提供する。)

1エ「[0012] One embodiment of the present invention provides a negative electrode for a rechargeable lithium battery. The negative electrode for a rechargeable lithium battery may include a silicon-based active material including a silicon-based material or the silicon-based material coated with conductive carbon on the surface, a polynorbornene shape memory polymer represented by the following Chemical Formula 1 and having a weight average molecular weight ranging from 5,000 to 300,000, and a conductive material.

[0013] In the above Chemical Formula 1, R_(1) may be selected from hydrogen, a substituted or unsubstituted C1 to C15 alkyl group, a carboxylic acid ester group (-COOR_(2)), a silyl group (-SiR_(4)R_(5)R_(6)), an alkoxysilyl group -Si(OR_(7))(OR_(8))(OR_(9)), and a siloxyl group (-OSi(R_(10))(R_(11))(R_(12)),
[0014] R_(2) to R_(12) may be independently either the same as or different from each other, and may be selected from a substituted or unsubstituted C1 to C15 alkyl group, a substituted or unsubstituted C3 to C15 cycloalkyl group, a substituted or unsubstituted C3 to C15 heterocycloalkyl group, a substituted or unsubstituted C6 to C20 aryl group, and a substituted or unsubstituted C2 to C20 heteroaryl group.
[0015] The shape memory polymer may have an average particle diameter of 20 nm to 50 μm.
[0016] The silicon-based material may include at least one selected from Si, SiOx (0 [0017] Z may be selected from Mg, Ca, Sr, Ba, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Zr, Nb, Mo, Ru, Rh, Pd, Ag, Cd, Hf, Ta, W, Re, Os, Ir, Pt, Au, Hg, Al, Sn, Sb, and a combination thereof.
[0018] The conductive material may include at least one selected from natural graphite, artificial graphite, carbon black, acetylene black, ketjen black, and a carbon fiber.
[0019] The shape memory polymer may be included in a weight ranging from 5 wt % to 200 wt % based on the silicon-based active material. [0020] The conductive material may also be included in a weight ranging from 5 wt % to 200 wt % based on the silicon-based active material.
[0021] Another embodiment of the present invention provides a rechargeable lithium battery that includes the negative electrode, a positive electrode including a positive active material, and a non-aqueous electrolyte.
[0022] The negative electrode includes a silicon-based active material that may increase capacity and a shape memory polymer and thus, may improve cycle-life characteristic of a rechargeable lithium battery. 」
(当審訳:[0012]本発明の一実施形態は、リチウム二次電池用負極を提供する。リチウム二次電池用負極は、シリコン系材料又は表面が導電性カーボンで被覆されたシリコン系材料を含むシリコン系活物質、下記化学式1で表され重量平均分子量が5,000?300,000の範囲を有するポリノルボルネン系形状記憶ポリマー、及び導電性材料を含むことができる。
[化学式1]

[0013]上記化学式1において、R_(1)は、水素、置換または非置換C1?C15アルキル基、カルボン酸エステル基(-COOR_(2))、シリル基(-SiR_(4)R_(5)R_(6))、アルコキシシリル基-Si(OR_(7))(OR_(8))(OR_(9))及びシロキシル基(-OSi(R_(10))(R_(11))(R_(12))から選択され、
[0014]R_(2?)R_(12)は、独立して、同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは無置換の炭素数1?15のアルキル基、置換もしくは無置換のC3?C15のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のC3?C15ヘテロシクロアルキル基、置換または非置換の炭素数6?20のアリール基、及び置換または非置換のC2?C20のヘテロアリール基から選択されてもよい。
[0015]形状記憶ポリマーは、20nm?50nmの平均粒子径を有することができる。
[0016]シリコン系材料は、Si、SiOx(0<x<2)、Si-Z合金(ここで、Zはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移元素、13族元素、14族元素、15族元素、希土類元素、及びそれらの組合せから選択される元素である)、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを含んでもよい。
[0017]Zは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Al、Sn、Sb、及びそれらの組合せから選択することができる。
[0018]導電性材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及び炭素繊維から選択される少なくとも1つを含むことができる。
[0019]形状記憶ポリマーは、シリコン系活物質を基準にして5質量%?200質量%の範囲の量で含まれていてもよい。
[0020]導電性材料はまた、シリコンベース活性材料を基準にして5重量%?200重量%の範囲の量で含まれていてもよい。
[0021]本発明の別の実施形態は、負極と、正極活物質を含む正極と、非水電解質とを備えたリチウム二次電池を提供する。
[0022]負極は、容量を増大させることができるシリコン系活物質と形状記憶ポリマーを含み、これにより、リチウム二次電池のサイクル寿命特性を向上させることができる。)

1オ「DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION

[0030] The negative electrode for a rechargeable lithium battery constructed with one embodiment of the present invention includes a polynorbornene shape memory polymer represented by the following Chemical Formula 1.

[0031] In Chemical Formula 1, R_(1) is selected from the group consisting of hydrogen, a substituted or unsubstituted C1 to C15 alkyl group, a carboxylic acid ester group (-COOR_(2)), a silyl group (-SiR_(4)R_(5)R_(6)), an alkoxysilyl group -Si(OR_(7))(OR_(8))(OR_(9)), and a siloxyl group (-OSi(R_(10))(R_(11))(R_(12)), and
[0032] R_(2) to R_(12) are independently either the same as or different from each other, and selected from a substituted or unsubstituted C1 to C15 alkyl group, a substituted or unsubstituted C3 to C15 cycloalkyl group, a substituted or unsubstituted C3 to C15 heterocycloalkyl group, a substituted or unsubstituted C6 to C20 aryl group, and a substituted or unsubstituted C2 to C20 heteroaryl group.
[0033] Examples of the polynorbornene shape memory polymer represented by Chemical Formula 1 include polynorbornene, poly(ethyl norbornene), poly(butyl norbornene), poly(hexyl norbornene), poly(norbornene carboxylic acid methyl ester), poly(norbornene carboxylic acid n-butyl ester), poly(trimethylsilyl norbornene), poly(triethoxysilyl norbornene), poly(trimethylsiloxy norbornene), and the like.
[0034] The polynorbornene shape memory polymer represented by Chemical Formula 1 may have a weight average molecular weight of 5,000 to 300,000. When the polynorbornene shape memory polymer has a weight average molecular weight of 5,000 or more, the polynorbornene shape memory polymer may effectively control volume expansion of the silicon-based active material which will later be discussed in detail. When the polynorbornene shape memory polymer has a weight average molecular weight of 300,000 or less, negative active material slurry for a rechargeable lithium battery may be easily prepared, and such negative active material slurry may easily suppress the disadvantageous resistance increase of a substrate. The term “weight average molecular weight” (Mw) is given to describe the molecular weight of a polymer:

where Ni is the number of molecules which have molecular weight Mi.
[0035] In accordance with one embodiment of the present invention, a negative electrode may further include a silicon-based active material and a conductive material as well as the shape memory polymer.
[0036] The silicon-based active material may include either a silicon-based material or a silicon-based material coated with conductive carbon on the surface. The silicon-based material may include at least one selected from Si, SiOx (0 [0037] Non-limiting examples of Z include Mg, Ca, Sr, Ba, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Zr, Nb, Mo, Ru, Rh, Pd, Ag, Cd, Hf, Ta, W, Re, Os, Ir, Pt, Au, Hg, Al, Sn, Sb, and a combination thereof.
[0038] Silicon has theoretical capacity of 4017 mAh/g. Accordingly, silicon may accomplish high-capacity of a rechargeable lithium battery compared with a carbon-based active material which has a theoretical capacity of 380 mAh/g.
[0039] In accordance with one embodiment of the present invention, the negative electrode may further include a carbon-based active material, together with the silicon-based active material. At this time, the mixing ratio of the silicon-based active material and the carbon-based active material may be suitably controlled considering the capacity and the intended use of the battery. The carbon-based active material includes crystalline carbon, amorphous carbon, and mixtures thereof. In some embodiments, the crystalline carbon may be non-shaped, or sheet, flake, spherical, or fiber shaped natural graphite or artificial graphite. In some embodiments, the amorphous carbon may be a soft carbon, a hard carbon, mesophase pitch carbonized products, fired coke, and the like.
[0040] The conductive material may include one or more selected from the group consisting of natural graphite, artificial graphite, carbon black, acetylene black, ketjen black, and a carbon fiber.
[0041] The polynorbornene shape memory polymer represented by Chemical Formula 1 may not only be very elastic, but also may recover and maintain the original elasticity and polymer characteristics when the original conditions of the polynorbornene shape memory polymer, such as stress, temperature, or the like, are restored after the polynorbornene shape memory polymer is transformed under hazard conditions, for example, under the firing. In addition, the polynorbornene shape memory polymer may maintain a property of recovering an original structure even after being repetitively transformed and restored multiple times.
[0042] Accordingly, the polynorbornene shape memory polymer may play a role of buffering stress generated when a silicon-based active material is expanded and contracted in volume during the charge and discharge of a rechargeable lithium battery, and the polynorbornene shape memory polymer may effectively help the silicon-based active material which is expanded during the charge of the battery recover its original volume during the discharge of the battery. Therefore, the polynorbornene shape memory may improve cycle-life characteristics of a rechargeable lithium battery including the negative electrode constructed with one embodiment of the present invention.
[0043] The shape memory polymer may be controlled to have an average particle diameter ranging from 20 nm to 20 μm. The average particle diameter may be obtained by dividing the sum of the diameters of all the observed particles by the number of the observed particles. When the shape memory polymer has an average particle diameter within the range of from 20 nm to 20 μm, the shape memory polymer may be uniformly dispersed in a silicon-based active material and a conductive material, and an electrode with high density may be readily produced.
[0044] The shape memory polymer may be included in a weight ranging from 5 wt % to 200 wt % based on the weight of a silicon-based active material. When the shape memory polymer is included within the range of from 5 wt % to 200 wt %, stress due to volume change of the silicon-based active material may be efficiently removed and the original volume of the silicon-based active material may be efficiently restored.
[0045] The conductive material may be included in a weight ranging from 5 wt % to 200 wt % based on the active material. When the conductive material is included within the above identified range, a rechargeable lithium battery may be controlled to have electrochemical characteristics and energy density per weight within desired ranges.
[0046]… The polynorbornene shape memory polymer may be used as a binder.…」
(当審訳:発明の詳細な説明

[0030]本発明の一実施形態で作製したリチウム二次電池用負極活物質は、下記化学式1で表されるポリノルボルネン系形状記憶ポリマーを含む。
[化学式1]

[0031]化学式1において、R_(1)は、水素、置換または非置換C1?C15アルキル基、カルボン酸エステル基(-COOR_(2))、シリル基(-SiR_(4)R_(5)R_(6))、アルコキシシリル基-Si(OR_(7))(OR_(8))(OR_(9))及びシロキシル基(-OSi(R_(10))(R_(11)) (R_(12))からなる群から選択され、
[0032]R_(2?)R_(12)は、独立して、同一または異なって、置換または無置換の炭素数1?15のアルキル基、置換もしくは無置換のC3?C15のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のC3?C15ヘテロシクロアルキル基、置換または非置換の炭素数6?20のアリール基、及び置換または非置換のC2?C20のヘテロアリール基から選択される。
[0033]化学式1で表されるポリノルボルネン系形状記憶ポリマーの例は、ポリノルボルネン、ポリ(エチルノルボルネン)、ポリ(ブチルノルボルネン)、ポリ(ヘキシルノルボルネン)、ポリ(ノルボルネンカルボン酸メチルエステル)、ポリ(ノルボルネンカルボン酸n-ブチルエステル)、ポリ(トリメチルシリルノルボルネン)、ポリ(トリエトリキシシリルノルボルネン)、ポリ(トリメチルシロキシノルボルネン)等を含む。
[0034]化学式1で表されるポリノルボルネン系形状記憶ポリマーは、5,000?300,000の重量平均分子量を有することができる。ポリノルボルネン系形状記憶ポリマーが5,000以上の重量平均分子量を有する場合、ポリノルボルネン系形状記憶ポリマーは、後に詳細に説明するシリコン系活物質の体積膨張を効果的に制御することができる。ポリノルボルネン系形状記憶ポリマーが300,000以下の重量平均分子量を有する場合、リチウム二次電池用負極活物質のスラリーが容易に調製でき、かつ、この負極活物質スラリーは、基板の不利な抵抗上昇を容易に抑制することができる。用語「重量平均分子量」(Mw)は、ポリマーの分子量を表現するために与えられる。


ここで、Niは分子量Miを有する分子の数である。
[0035]本発明の一実施形態によれば、負極は、形状記憶ポリマーと、さらに、シリコン系負極活物質及び導電性材料を含むことができる。
[0036]シリコン系負極活物質は、シリコン系材料又は表面に導電性カーボンで被覆されたシリコン系材料のいずれかを含むことができる。シリコン系材料は、Si、SiOx(0<x<2)、Si-Z合金(ここで、Zはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移元素、13族元素、14族元素、15族元素、希土類元素、及びそれらの組合せから選択される)、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを含んでもよい。
[0037]Zの非限定的な例には、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Al、Sn、Sb、及びこれらの組み合わせが含まれる。
[0038]シリコンは、4017mAh/gの理論容量を有する。したがって、シリコンは380mAh/gの理論容量を有する炭素系活物質と比較して、リチウム二次電池の高容量化を達成することができる。
[0039]本発明の一実施形態によれば、負極は、シリコン系活物質とともに、さらに炭素系活物質を含んでいてもよい。このとき、シリコン系活物質と炭素系活物質の混合比率は、電池の容量及び使用目的を考慮して適切に制御することができる。炭素系負極活物質は、結晶質炭素、非晶質炭素、及びこれらの混合物を含む。いくつかの実施形態において、結晶質炭素は、非定形、シート状、フレーク状、球形又は繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛であってもよい。いくつかの実施形態では、非晶質炭素は、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソフェーズピッチ炭化物、焼成されたコークスなどであってもよい。
[0040]導電性材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及び炭素繊維からなる群から選択される1つ又は複数を含むことができる。
[0041]化学式1で表されるポリノルボルネン系形状記憶ポリマーは、とても弾性的であるだけでなく、例えば焼成のような過酷な条件下でポリノルボルネン系形状記憶ポリマーが変化した後でも、応力、温度等の条件が回復すれば、本来の弾性とポリマー特性を回復し維持することができる。さらに、変化と復元を何回も繰り返した後でも、ポリノルボルネン系形状記憶ポリマーは元の構造を回復する特性を維持することができる。
[0042]したがって、ポリノルボルネン形状記憶ポリマーは、リチウム二次電池が充放電する間にシリコン系活物質が体積膨張・収縮するときに生じる応力を緩衝する役割を果たしていると考えられ、また、ポリノルボルネン形状記憶ポリマーは、二次電池の充電時に膨張したシリコン系活物質が放電時に元の体積に戻るのを効果的に助けると考えられる。このため、ポリノルボルネン形状記憶ポリマーは、本発明の一実施例に従って構成された負極を含むリチウム二次電池のサイクル寿命特性を向上させることができる。
[0043]形状記憶ポリマーは、20nm?20μmの範囲の平均粒径を有するように制御することができる。平均粒径は、全ての観察された粒子の直径の和を観察粒子数で得ることができる。形状記憶ポリマーが20nm?20μmの範囲内の平均粒子径を有する場合、形状記憶ポリマーは、シリコン系活物質及び導電性物質内に均一に分散させることができ、密度の高い電極を容易に製造することができる。
[0044]形状記憶ポリマーは、シリコン系活物質の質量に基づいて5質量%?200質量%の範囲の量で含まれていてもよい。形状記憶ポリマーが5質量%?200質量%の範囲内で含まれる場合には、シリコン系活物質の体積変化による応力をより効果的に除去することができ、シリコン系活物質の元の体積を効率的に復元することができる。
[0045]導電性材料は活性材料を基準にして5質量%?200質量%の範囲の量で含まれていてもよい。導電性材料が上記で特定した範囲内で含まれる場合、リチウム二次電池が所望の範囲の電気化学的特性及び質量当たりのエネルギー密度を有するように制御することができる。
[0046]…ポリノルボルネン系形状記憶ポリマーは、バインダとして使用することができる。…)

1カ「[0077] The following examples illustrate embodiments of the present invention in more detail. These examples are however not in any sense to be interpreted as limiting the scope of the present invention.

Experimental Examples 1-5 and Comparative Experimental Examples 1-2
Preparation of Negative Electrode
[0078] Each constituent element is mixed as provided in the following Table 1 using a planetary mixer, respectively preparing mixtures, and adding the mixtures to an N-methylpyrrolidone (NMP) solvent to prepare negative active material slurry. The slurry is coated on a copper current collector and the coated current collector is dried in a 120° C. oven and then compressed, fabricating a negative electrode, according to Experimental Examples 1 and 2 and Comparative Experimental Examples 1 to 5.

[0079] The polynorbornene has an average particle diameter of 10 μm, and a weight average molecular weight 20,000. The carbon-based active material has a size of about 10 μm, and is graphite (MC08).
[0080] Fabrication of Battery Cell
[0081] On the other hand, positive electrode slurry is prepared by adding 90 g of LiCoO_(2) as a positive active material, 5 g of polyvinylidene fluoride (PVDF) as a binder, 5 g of acetylene black as a conductive material to 50 g of an NMP solvent. The positive electrode slurry is coated on an aluminum current collector. The coated current collector is dried in a 120° C. oven and then compressed, fabricating a positive electrode.
[0082] Then, non-aqueous electrolyte is prepared by dissolving LiBF_(4) and LiPF_(6) to have a total concentration of 1.15M in an organic solvent in an organic solvent prepared by mixing ethylene carbonate (EC): ethylmethyl carbonate (EMC): diethyl carbonate (DEC) in a volume ratio of 3:2:5.
[0083] A coin-type rechargeable lithium battery cell is fabricated by interposing a polyethylene material film as a separator between the positive and negative electrodes and then implanting the non-aqueous electrolyte therein.
[0084] Cycle-life Characteristic Evaluation
[0085] Each of coin-type rechargeable lithium battery cells respectively including the negative active material according to Experimental Examples 1 and 2 and Comparative Experimental Examples 1 to 5 is once charged and discharged at 0.1 C to perform a formation process and evaluated regarding capacity retention (cycle-life characteristic). The results are provided in the following Table 2. Then, the discharge capacity ratio of the battery cells is calculated by dividing 50^(th) cycle discharge capacity by the 1^(st) cycle discharge capacity after repetitively performing 50 cycles of charges and discharges at 1.0 C at 25° C. and measuring capacity retention (cycle-life characteristic).

[0086] Referring to Table 2, since the rechargeable lithium battery cells according to Experimental Examples 1 and 2 have higher capacity retention at the 50th cycle than the ones according to Comparative Experimental Examples 1 to 5, the rechargeable lithium battery cells including a negative active material constructed with the embodiments of the present invention has improved cycle characteristic.」
(当審訳:[0077]以下の実施例は、本発明の実施形態をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでではない。

実験例1-5及び比較実験例1-2
負極の製造
[0078]各構成部材を遊星式混合装置を用いて、以下の表1に記載のように混合し、それぞれの混合物を調製し、N-メチルピロリドン(NMP)溶媒を添加して負極活物質スラリーを調製した。このスラリーを銅集電体の上に被覆し、被覆された集電体を、120℃のオーブン中で乾燥した後、圧延して、実験例1、実験例2、及び比較実験例1?5の負極を製造した。
表1
----------------------------------------
実験例1 …
----------------------------------------
シリコン系 SiO_(x)(x=1) …
活物質 1.6g …

炭素系 6.4g …
活物質
バインダ ポリノルボルネン …
1g …

導電性 カーボンブラック …
材料 1g …

増粘剤 - …

溶媒 20g …
(NMP)
----------------------------------------
(表1は一部抜粋のみ掲載)

[0079]ポリノルボルネンは、平均粒径10μm、重量平均分子量は20,000であった。炭素系活物質は、大きさが約10μmであり、黒鉛(MC08)である。
[0080]電池の製造
[0081]一方、正極スラリーは、正極活物質としてのLiCoO_(2)90g、バインダとしてのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)5g、導電物質としてのアセチレンブラック5gをNMP溶媒50gに添加することによって調製した。この正極スラリーをアルミニウム集電体上に被覆した。コーティングされた集電体を、120℃のオーブンで乾燥した後、圧延して正極を作製した。
[0082]そして、非水電解質は、3:2:5の体積比のエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):ジエチルカーボネート(DEC)を混合した有機溶媒中、有機溶媒中において1.15Mの全濃度を有するように、LiBF_(4)及びLiPF_(6)を溶解して調製した。
[0083]コイン型リチウム二次電池は、正極と負極との間にセパレータとしてポリエチレンフィルムを介在させた後、前記非水電解質を注入して製造した。
[0084]サイクル寿命特性評価
[0085]実施例1、実施例2、及び比較実験例1?5に係る負極活物質をそれぞれ含むコイン型リチウム二次電池の各々を、いったん0.1Cで充放電を行って形成工程を行い、容量維持率(サイクル寿命特性)を評価した。結果は以下の表2に提供される。そして、電池の放電容量比は、1.0C、25℃で充放電し容量保持(サイクル寿命特性)を測定することを50サイクル繰り返した後、50サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除算することによって電池の放電容量率(サイクル寿命特性)を算出した。
表2 …
[0086]表2を参照すると、実験例1、実験例2によるリチウム二次電池は、比較例1?5よりも50サイクル目でより高い容量保持率を有しており、本発明の実施形態により構成された負極活物質を含むリチウム二次電池は、優れたサイクル特性を有している。)

第5 当審の判断
1 引用文献1を主たる引用文献とする進歩性(原査定の拒絶理由)について
(1)引用文献1に記載された発明
ア 上記1ウによれば、引用文献1において解決しようとする課題は、リチウム二次電池の容量特性及びサイクル寿命特性を向上させることができる負極を提供することと、改善された容量特性及びサイクル寿命特性を有するリチウム二次電池を提供すること(以下、単に「課題」という。)である。

イ 上記アの課題を解決するための手段として、上記1エによれば、シリコン系材料又は表面が導電性カーボンで被覆されたシリコン系材料を含むシリコン系活物質、化学式1で表され重量平均分子量が5,000?300,000の範囲を有するポリノルボルネン系形状記憶ポリマー、及び導電性材料を含むリチウム二次電池用負極が開示されているとともに([0012])、この負極と、正極活物質を含む正極と、非水電解質とを備えたリチウム二次電池が開示されている([0021])。

ウ 上記イの負極やリチウム二次電池が上記アの課題を解決できる理由について、上記1オによれば、シリコンが高い理論容量を有し、リチウム二次電池の高容量化を達成することができ([0038])、また、ポリノルボルネン形状記憶ポリマーが、リチウム二次電池が充放電する間にシリコン系活物質が体積膨張・収縮するときに生じる応力を緩衝する役割を果たすとともに、二次電池の充電時に膨張したシリコン系活物質が放電時に元の体積に戻るのを効果的に助け、リチウム二次電池のサイクル寿命特性を向上させることができるためであることが開示されている([0042])。

エ 上記1エによれば、ポリノルボルネン系形状記憶ポリマーの具体例として、上記化学式1においてR_(1)が水素のもの([0013])、シリコン系負極活物質の具体例として、Si、SiO_(x)(0<x<2)等のシリコン系活物質が例示されている([0016])。

オ 上記1オによれば、負極は、シリコン系活物質とともに、さらに炭素系活物質を含んでいてもよく、炭素系負極活物質は、天然黒鉛または人造黒鉛であってもよいこと([0039])、及び、ポリノルボルネン系形状記憶ポリマーは、バインダとして使用することができることが開示されている([0046])。

カ 上記1カによれば、上記アの課題を解決し得る、上記イのリチウム二次電池の具体例として、シリコン系活物質としてのSiOx(x=1))と、炭素系活物質としての黒鉛(MC08)と、バインダとしての重量平均分子量が20,000のポリノルボルネンと、導電性材料としてのカーボンブラックを混合し、N-メチルピロリドン(NMP)溶媒を添加した負極活物質スラリーを銅集電体の上に被覆し、乾燥、圧延して製造した実験例1の負極と、正極と、有機溶媒にLiBF_(4)及びLiPF_(6)を溶解して調製した非水電解質とを備えたリチウム二次電池が記載されている([0078]?[0083]、表1)。

キ 上記1ア?1カの記載及び上記ア?カの検討によれば、特に実験例1の負極を採用したリチウム二次電池に注目すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「負極と、正極と、有機溶媒にして調製した非水電解質とを備えたリチウム二次電池であって、前記負極は、シリコン系活物質としてのSiO_(x)(x=1)と、炭素系活物質としての黒鉛(MC08)と、バインダとしての重量平均分子量が20,000のポリノルボルネンと、導電性材料としてのカーボンブラックを混合し、N-メチルピロリドン(NMP)溶媒を添加した負極活物質スラリーを、銅集電体の上に被覆し、乾燥、圧延して製造してなる、リチウム二次電池。」

(2)本願発明と引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「シリコン系活物質としてのSiO_(x)(x=1)」は、本願明細書(【0004】、【0025】-【0026】)において「酸化ケイ素」が「(SiO)」と記載されていることからみて、本願発明の「酸化ケイ素」に相当する。

イ 引用発明1の「ポリノルボルネン」は、その分子構造が、上記1エの「化学式1」において、R_(1)が水素の場合に該当し、モノマーの炭素数が7であり、二つの単環を有する二環式アルケンであり、架橋構造を有していて剛直な構造であるといえることから、本願発明の「前記バインダは、主鎖がハードセグメント」を含む「シクロオレフィンポリマーからなり」、「ハードセグメントは、2以上の単環から構成される炭素数が7?30である脂環式炭化水素構造からなり、剛直な構造を有し」という特定事項を満たすものである。

ウ 引用発明1の「非水電解質」は、LiBF_(4)及びLiPF_(6)を溶解する有機溶媒であるから、本願発明の「電解液」に相当する。

エ 引用発明1の「負極」は、シリコン系活物質と炭素系活物質とバインダとを含む負極活物質スラリーを、銅集電体の上に被覆し、乾燥、圧延して製造してなるものである。そのため、この「負極」において「銅集電体」の上には、負極活物質スラリーを乾燥、圧延したものからなり、シリコン系活物質と炭素系活物質とバインダとを含む層が形成されているといえる。そして、この「層」は、本願発明の「負極合材層」に相当する。

オ したがって、本願発明と引用発明1は、次の点で一致し、相違する。
(一致点)
「負極および電解液を含むリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、負極合材層を含み、
前記負極合材層は、負極活物質およびバインダを含み、
前記負極活物質は、酸化ケイ素と黒鉛との混合物であり、
前記バインダは、主鎖がハードセグメントを含むシクロオレフィンポリマーからなり、
前記ハードセグメントは、2以上の単環から構成される炭素数が7?30である脂環式炭化水素構造からなり、剛直な構造を有する、リチウムイオン二次電池。」

(相違点1)
「バインダ」の「シクロオレフィンポリマー」が、本願発明においては「主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなる」とともに「前記ソフトセグメントは、炭素数が2?10である鎖式炭化水素構造を含み、前記ハードセグメントと前記ソフトセグメントとのモル比は、前記ハードセグメント:前記ソフトセグメント=80?20:20?80である」のに対して、引用発明1はハードセグメントである「ポリノルボルネン」のみである点。

(3)相違点についての判断
ア 引用文献2の記載事項
本願の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、「全固体二次電池」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。

2ア「技術分野
[0001] 本発明は、全固体リチウムイオン二次電池等の全固体二次電池に関する。
背景技術
[0002] 近年、リチウム電池等の二次電池は、携帯情報端末や携帯電子機器などの携帯端末に加えて、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車など、様々な用途での需要が増加している。
[0003] 用途が広がるに伴い、二次電池の更なる安全性の向上が要求されている。安全性を確保するために、液漏れを防止する方法や、引火性が高く漏洩時の発火危険性が非常に高い有機溶媒電解質に代えて、無機固体電解質を用いる方法が有効である。
[0004] 特許文献1には、無機固体電解質として硫化物固体電解質材料と、バインダーとして水素添加スチレン-ブタジエンゴムとを含む電極層を有する全固体二次電池が記載されている。
先行技術文献
特許文献
[0005]特許文献1 : 特開2011-134675号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0006] しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1の全固体二次電池では、初期放電容量や高温保持特性等の電池特性が低下するおそれがあることがわかった。
[0007] したがって、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、初期放電容量や高温保持特性に優れる全固体二次電池を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らは、上述した課題を解決するべく鋭意検討した結果、全固体二次電池の初期放電容量や高温保持特性等の電池特性が低下する一因が、バインダーとして用いる重合体中の炭素-炭素不飽和結合の存在にあることをつきとめた。特許文献1に記載されている水素添加スチレン-ブタジエンゴムは、その重合体中において、スチレン単位の芳香環は水素化されずに多量に残存していることがわかった。そこで、さらに検討を進めた結果、バインダーとして、脂環式構造を有する重合体を用いることにより、上記課題を解決することを見いだし、本発明を完成するに至った。
[0009] このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極と、固体電解質層とを有する全固体二次電池であって、
正極活物質層、負極活物質層または固体電解質層の少なくとも一層に、脂環式構造を含有してなる重合体と無機固体電解質とが含まれることを特徴とする全固体二次電池。
[0010]…
発明の効果
[0016] 本発明によれば、脂環式構造を含有してなる重合体を用いることで、無機固体電解質の分散性が向上する。その結果、得られるスラリー組成物の塗工性が良好になり、優れた柔軟性や強度を有する電極活物質層や固体電解質層を得ることができ、全固体二次電池の初期放電容量や高温保持特性が向上する。」

2イ「発明を実施するための形態
[0017] 本発明の全固体二次電池は、正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極と、固体電解質層とを有し、正極活物質層、負極活物質層または固体電解質層の少なくとも一層に、好ましくは全ての層に、脂環式構造を含有してなる重合体と無機固体電解質とを含む。
[0018]脂環式構造を含有してなる重合体
本発明において脂環式構造を含有してなる重合体(以下において、「脂環式構造含有重合体」と記載することがある。)とは、重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を含有する重合体である。重合体の主鎖及び側鎖のいずれに脂環式構造を有していてもよいが、重合体の強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。
[0019] 脂環式構造としては、芳香環を水素化した構造であることが好ましく、具体的には、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられ、重合体の熱安定性等の観点からシクロアルカン構造が好ましい。
[0020] 脂環式構造を構成する炭素原子数は、通常4?30個、好ましくは5?20個、より好ましくは6?15個の範囲にある。炭素原子数がこの範囲にあると、得られる重合体の耐熱性に優れる。
[0021] 脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、重合体の使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは20?60重量%、より好ましくは25?55重量%、特に好ましくは30?50重量%である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、得られる重合体の耐熱性に優れる。なお、脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位以外の残部は、使用目的に応じて適宜選択される。
[0022] 脂環式構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び(1)?(4)の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、得られる重合体の耐熱性、強度等の点から、ノルボルネン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体及びこれらの水素化物が好ましく、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体及びこれらの水素化物がより好ましく、ビニル脂環式炭化水素系重合体及びその水素化物が特に好ましい。
[0023](1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体を重合してなるものであり、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
[0024] 開環重合によって得られるものとして、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物などが挙げられる。付加重合によって得られるものとしてノルボルネン系単量体の付加重合体及びノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物が、重合体の耐熱性、強度等の観点から好ましい。
[0025] ノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.0^(1,6).1^(2,5)]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.1^(2,5)]デカ-3-エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.1^(2,5).1^(7,10)]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。
置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが例示でき、上記ノルボルネン系単量体は、これらを2種以上有していてもよい。具体的には、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.1^(2,5).1^(7,10)]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.1^(2,5).1^(7,10)]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.1^(2,5).1^(7,10)]ドデカ-3-エンなどが挙げられる。
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
[0026]…
[0030] ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセンなどの炭素数2?20のα-オレフィン、及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンなどのシクロオレフィン、及びこれらの誘導体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α-オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
[0031] これらの、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体とを付加共重合する場合は、付加重合体中のノルボルネン系単量体由来の構造単位と付加共重合可能なその他の単量体由来の構造単位との割合が、重量比で通常30:70?99:1、好ましくは50:50?97:3、より好ましくは70:30?95:5の範囲となるように適宜選択される。

[0109] (負極活物質)
負極活物質としては、グラファイトやコークス等の炭素の同素体が挙げられる。前記炭素の同素体からなる負極活物質は、金属、金属塩、酸化物などとの混合体や被覆体の形態で利用することも出来る。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物や硫酸塩、金属リチウム、Li-Al、Li-Bi-Cd、Li-Sn-Cd等のリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物、シリコーン等を使用できる。」

2ウ「実施例
[0129] 以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。各特性は、以下の方法により評価する。なお、本実施例における「部」および「%」は、特に断りのない限り、それぞれ、「重量部」および「重量%」である。
[0130]<粒度分布(平均粒子径)>
レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて固体電解質層用スラリー組成物中の無機固体電解質の分散粒子径を測定し、体積平均粒子径D50を求め、下記基準で分散性を評価した。体積平均粒子径D50が小さいほど凝集度が低く分散性に優れることを示している。
A:10μm未満
B:10μm以上?20μm未満
C:20μm以上?30μm未満
D:30μm以上?50μm未満
E:50μm以上
[0131]<電池特性:初期放電容量>
10セルの全固体二次電池を25℃において、0.1Cの定電流法によって4.3Vまで充電し、その後0.1Cにて3.0Vまで放電し、0.1C放電容量xを求めた。活物質の理論容量Xに対して、放電容量比(x/X(%))を求め、平均値を以下の基準で評価した。放電容量比(x/X)が高いほど初期放電容量に優れることを示す。
A:90%以上
B:80%以上90%未満
C:70%以上80%未満
D:60%以上70%未満
E:60%未満
[0132]<電池特性:高温保持特性>
10セルの全固体二次電池を25℃において、0.1Cの定電流法によって4.3Vまで充電し、その後0.1Cにて3.0Vまで放電し、0.1C放電容量xを求めた。その後0.1Cにて4.3Vまで充電し、その後80℃恒温槽内で7日間静置後、0.1Cにて3.0Vまで放電し、放電容量yを求めた。10セルの平均値を測定値とし、静置後の放電容量yと0.1C放電容量xの電気容量の比(y/x(%))で表される容量保持率を求め、高温保持特性を、以下の基準で評価した。この値が高いほど出力特性に優れている、すなわち内部抵抗が小さいことを意味する。
A:90%以上
B:80%以上90%未満
C:70%以上80%未満
D:60%以上70%未満
E:60%未満
[0133]<水素化率>
水素化率は、水素化反応前後に 1H-NMRスペクトルを測定して水素化反応前後での主鎖及び側鎖部分の不飽和結合及び芳香環の不飽和結合に対応するシグナルの積分値の減少量を元に算出した。
[0134](実施例1)
〔脂環式構造含有重合体(ブロック共重合体水素化物(I))の製造〕
充分に窒素置換された、攪拌装置を備えた反応器に脱水シクロヘキサン550部、脱水スチレン25.0部、n-ジブチルエーテル0.475部を入れ、60℃で攪拌しながらn-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.515部を加えて重合を開始した。攪拌しながら60℃で60分反応させた。ガスクロマトグラフィーにより測定したこの時点で重合転化率は99.5%であった。
次に、脱水イソプレン50.0部を加えそのまま30分攪拌を続けた。この時点で重合転化率は99%であった。
その後、更に、脱水スチレンを25.0部加え、60分攪拌した。この時点での重合転化率はほぼ100%であった。ここでイソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止し、ブロック共重合体(i)を得た。得られたブロック共重合体(i)の重量平均分子量(Mw)は81,400、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
[0135] 次に、上記ブロック共重合体(i)を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒としてシリカ-アルミナ担持型ニッケル触媒(日揮化学工業社製;E22U、ニッケル担持量60%)4.0部及び脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度170℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行った。水素化反応後のブロック共重合体水素化物(I)の重量平均分子量(Mw)は86,200、分子量分布(Mw/Mn)は1.06であった。
[0136] 水素化反応終了後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去した後、リン系酸化防止剤である6-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン(スミライザー(登録商標)GP、住友化学社製)0.1部を溶解したキシレン溶液1.0部を添加して溶解させた。
次いで、上記溶液を、ゼータープラスフィルター30H(キュノー社製、孔径0.5?1μm)にて濾過し、更に別の金属ファイバー製フィルター(孔径0.4μm、ニチダイ社製)にて順次濾過して微小な固形分を除去した後、円筒型濃縮乾燥器(コントロ、日立製作所社製)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去し、濃縮乾燥器に直結したダイから溶融状態でストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーでカットしてブロック共重合体水素化物(I)のペレット85部を得た。得られたブロック共重合体水素化物(I)の重量平均分子量(Mw)は85,300、分子量分布(Mw/Mn)は1.11であった。水素化率はほぼ100%であった。また、ブロック共重合体水素化物(I)における重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との重量分率は、wA:wB=50:50であった。
[0137]〔正極活物質層用スラリー組成物の製造〕
正極活物質としてコバルト酸リチウム(平均粒子径:11.5μm)100部と、無機固体電解質としてLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラス(Li_(2)S/P_(2)S_(5)=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)150部と、導電剤としてアセチレンブラック13部と、バインダーとなる重合体としてブロック共重合体水素化物(I)のシクロヘキサン溶液を3部(固形分相当)とを混合し、さらに有機溶媒としてシクロヘキサンで固形分濃度78%に調整した後にプラネタリーミキサーで60分混合した。さらにシクロヘキサンで固形分濃度74%に調整した後に10分間混合して正極活物質層用スラリー組成物を調製した。正極活物質層用スラリー組成物の粘度は、6100mPa・sであった。
[0138]〔負極活物質層用スラリー組成物の製造〕
負極活物質としてグラファイト(平均粒子径:20μm)100部と、無機固体電解質としてLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラス(Li_(2)S/P_(2)S_(5)=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)50部と、バインダーとなる重合体としてブロック共重合体水素化物(I)のシクロヘキサン溶液を3部(固形分相当)とを混合し、さらに有機溶媒としてシクロヘキサンを加えて固形分濃度60%に調整した後にプラネタリーミキサーで混合して負極活物質層用スラリー組成物を調製した。負極活物質層用スラリー組成物の粘度は、6100mPa・sであった。
[0139]〔固体電解質層用スラリー組成物の製造〕
無機固体電解質としてLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラス(Li_(2)S/P_(2)S_(5)=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:1.2μm、累積90%の粒子径:2.1μm)100部と、バインダーとなる重合体としてブロック共重合体水素化物(I)のシクロヘキサン溶液を3部(固形分相当)とを混合し、さらに有機溶媒としてシクロヘキサンを加えて固形分濃度30%に調整した後にプラネタリーミキサーで混合して固体電解質層用スラリー組成物を調製した。固体電解質層用スラリー組成物の粘度は、52mPa・sであった。この固体電解質層用スラリー組成物を用いて、粒度分布を評価した。結果を表1に示す。
[0140]〔全固体二次電池の製造〕
集電体(アルミニウム、厚み15μm)の表面に上記正極活物質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、20分)させて50μmの正極活物質層を形成して正極を製造した。また、別の集電体(銅、厚み10μm)の表面に上記負極活物質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、20分)させて30μmの負極活物質層を形成して負極を製造した。
[0141] 次いで、上記正極活物質層の表面に、上記固体電解質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、10分)させて11μmの固体電解質層を形成した。
[0142] 正極活物質層の表面に積層された固体電解質層と、上記負極の負極活物質層とを貼り合わせ、プレスして全固体二次電池を得た。プレス後の全固体二次電池の固体電解質層の厚さは9μmであった。この電池を用いて初期放電容量及び高温保持特性を評価した。結果を表1に示す。
[0143](実施例2)

[0152](実施例7) バインダーとなる重合体として、ブロック共重合体水素化物(I)の代わりに、下記のノルボルネン系重合体水素化物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各スラリー組成物、全固体二次電池を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
[0153]〔脂環式構造含有重合体(ノルボルネン系重合体水素化物)の製造〕
(開環重合)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン700部に、1-ヘキセン0.89部、ジイソプロピルエーテル1.06部、トリイソブチルアルミニウム0.34部、及びイソブチルアルコール0.13部を室温で反応器に入れ混合した。そこへ、2-ノルボルネン(2-NB)250部、5-ビニル-2-ノルボルネン(以下、「VNB」とすることがある。)1.25部及び六塩化タングステン1.0%トルエン溶液26部を、55℃に保ちながら、2時間かけて連続的に添加し重合を行い、開環重合体を得た。重合転化率は、ほぼ100%であった。なお、分岐剤であるVNBの配合量は、ノルボルネン系単量体である2-NBの合計100モル%としたときに、0.39モル%であった。
[0154] (水素添加反応)
上記で得た開環重合体を含む反応溶液を耐圧の水素化反応器に移送し、そこへ、ケイソウ土担持ニッケル触媒(T8400、ニッケル担持率58%、ズードヘミー触媒社製)1.0部を加え、200℃、水素圧4.5MPaで6時間反応させた。この溶液を、珪藻土を濾過助剤としてステンレス製金網を備えた濾過器により濾過し、触媒を除去した。得られた反応溶液を3000部のイソプロピルアルコール中に撹拌下に注いで水素化物を沈殿させ、濾別して回収した。さらに、アセトン500部で洗浄したのち、0.13×10 3Pa以下、100℃に設定した減圧乾燥器中で48時間乾燥し、ノルボルネン系重合体水素化物として結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を190部得た。 得られたノルボルネン系重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)は115,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.10であった。水素化率はほぼ100%であった。
[0155](比較例1)

[0156]
[表1]

[0157]
表1から、実施例1?7の、正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極と、固体電解質層とを有する全固体二次電池であって、正極活物質層、負極活物質層、または固体電解質層の少なくとも一層に、脂環式構造を含有してなる重合体と無機固体電解質とが含まれる全固体二次電池は、初期放電容量及び高温保持特性に優れることが分かる。また、固体電解質層用スラリー組成物中の固体電解質の分散性に優れる。
一方、脂環式構造を含有してなる重合体が含まれない比較例1は、各評価のバランスに劣る。」

イ 引用文献2に基く検討
(ア)上記2アによれば、引用文献2において発明が解決しようとする課題は「初期放電容量や高温保持特性に優れる全固体二次電池を提供する」ことであり([0007])、全固体二次電池の負極活物質層等のバインダーとして脂環式構造を含有してなる重合体を用いることにより、上記課題を解決できると記載されている([0008])。そして、上記2ウによれば、脂環式構造を含有する重合体として、2-ノルボルネン(2-NB)と5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)との開環重合体を水素化したノルボルネン系重合体水素化物を用いると、上記課題を解決できることが具体的に開示されている(実施例7)。また、上記2イによれば、脂環式構造を有する重合体としては、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体等が挙げられ([0024])、上記その他の単量体としては、エチレン、プロピレン等が挙げられること([0030])、及び、付加重合体中のノルボルネン系単量体由来の構造単位と付加共重合可能なその他の単量体由来の構造単位との割合は、重量比で通常30:70?99:1の範囲となるように適宜選択されること([0031])、が開示されている。

(イ)ここで、上記2イに記載の「その他の単量体」としてのエチレン、プロピレン等は、本願発明の「炭素数が2?10である鎖式炭化水素構造を含」む「ソフトセグメント」に相当するものということができる。

(ウ)しかしながら、上記2アや2ウに見られるように、引用文献2の上記「初期放電容量や高温保持特性に優れる全固体二次電池を提供する」との課題は、バインダーとして脂環式構造を有する重合体を用いるという手段により解決すると記載されているところ、引用発明1はバインダとして既にポリノルボルネンを採用していることから、引用文献2の上記課題を既に解決しているといえるし、引用文献2には、ポリノルボルネンに比べて、ノルボルネンとエチレンとの共重合体の方が、初期放電容量や高温保持特性の点で優れていると把握できる記載もない。
そうすると、引用発明1のリチウム二次電池において、初期放電容量や高温保持特性に優れるものとすべきとの課題が内在しているとしても、引用文献2の記載に接した当業者が、引用発明1のバインダとして採用されているポリノルボルネンに代えて、上記2イの記載の中から、ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体を選択し、さらに、その他の単量体としてエチレンやプロピレンをノルボルネンに付加共重合させたものを用いようとする動機付けを見いだすことはできない。

ウ 引用文献3の記載事項
本願の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、「形状回復性成形体」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。

3ア「【請求項1】 環状オレフィンとα-オレフィンとを共重合して得られる共重合体であってガラス転移温度(Tg)が10℃以下である環状オレフィン系共重合体により形成されたことを特徴とする形状回復性成形体。
【請求項2】 環状オレフィンがノルボルネン又はノルボルネン誘導体である請求項1記載の形状回復性成形体。
【請求項3】 環状オレフィン系共重合体の融点が90℃以下である請求項1又は2記載の形状回復性成形体。」

3イ「【0001】
【産業上の利用分野】 本発明は、工業用成形品、玩具類、シール・被覆用品等として有効に使用できる形状回復性成形体に関し、さらに詳述すると、室温で変形加工を行なうことができるとともに、一定温度以上に加熱することにより元の形状に回復させることができる形状回復性成形体に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】 従来、形状記憶樹脂としては、ノルボルネンゴム系、トランスポリイソプレン系、架橋ポリエチレン系等のものが知られている。
しかし、これらの形状記憶樹脂は、分子鎖のからみ合いを多くするために超高分子量体としたり、電子線照射などで架橋結合を生じさせたりしたものであるため、一般の熱可塑樹脂で用いられる熱溶融成形法で加工することが不可能であるか非常に困難であった。また、不飽和結合を含むため耐侯性が劣る上、透明性にも問題があった。
【0003】 これに対し、形状記憶性を示し、かつ上述した問題をなくした樹脂として、特定の環状オレフィンとエチレンとのランダム共重合体であって、ガラス転移温度(Tg)が20?80℃のものが開示されている(特開昭61-211315号公報)。
しかし、特開昭61-211315号公報の共重合体からなる成形品は、Tgが室温以上であるため、図2に示すようにまずTg以上、成形温度未満の温度領域で樹脂成形品に変形を与え、次いでTg未満に冷却して変形を固定し、使用時には再度Tg以上の温度まで加熱して元の形状に回復させるというプロセスを採るものであった。このため、成形品に変形を与えるために特定の温度制御された設備を必要とするという問題があった。
また、特開昭61-211315号公報に記載された共重合体は、Tgが室温以下の場合には形状記憶性を示さず、またTgが室温以上の場合には常温において剛性が高くなり、成形品が弾性を示さなくなる。このため、使用分野が大きく制限されていた。
【0004】 さらに、Tgが10℃以上の形状記憶樹脂(特開昭59-535528号公報)及びTgが-10℃以下の形状記憶樹脂(特開昭62-86025号公報)が提案されている。
しかし、前者の樹脂はやはり図2のような形状記憶プロセスを採るものであり、後者の樹脂は結晶化して透明性が十分でないこと、ゴム加硫物であるため再成形利用ができないという欠点を有するものであった。
【0005】 本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、室温で弾性を示すとともに、室温で変形加工を行なうことが可能であり、しかも成形性、耐侯性、透明性、再成形性に優れた形状回復性成形体を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】 本発明者らは、鋭意検討を行なった結果、特定のガラス転移温度(Tg)を有する特定構造の環状オレフィン系共重合体を成形材料として用いた場合、上記目的が効果的に達成されることを知見し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、環状オレフィンとα-オレフィンとを共重合して得られる共重合体であって、ガラス転移温度(Tg)が10℃以下である環状オレフィン系共重合体からなる形状回復性成形体を提供する。
【0007】 本発明で用いる環状オレフィン系共重合体は、Tgが10℃以下であるため、通常の温度領域(室温)において小さな歪に対してはゴムと同様に優れた弾性回復性を示す。また、室温において成形品に大きな歪を与え、成形品を強制的に変形させても、室温以上、成形温度未満の温度領域まで加熱すると、容易に元の形に回復する。
したがって、本発明の成形体は、図1に示すように、室温領域で任意に変形させることができるとともに、加熱することにより良好に元の形状に回復させることができる。このような形状記憶合金と類似の形状回復性を示す樹脂成形体は従来知られていなかったものである。
【0008】 また、本発明で用いる環状オレフィン系共重合体は、通常の高分子量タイプではないため成形が容易であるとともに、不飽和結合を含まないため耐侯性に優れ、かつ透明性が良好なものである。
【0009】 以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の形状回復性成形体は、環状オレフィンとα-オレフィンとを共重合して得られる環状オレフィン系共重合体からなる。
ここで、上記α-オレフィンとしては、必ずしも限定されないが、例えば下記一般式[X]
【化1】

(式[X]中、Raは水素原子又は炭素数1?20の炭化水素基を示す。)
で表わされる繰り返し単位を与えるものが挙げられる。
上記一般式[X]で示される繰り返し単位において、Raは水素原子又は炭素数1?20の炭化水素基を示している。
【0010】 ここで、炭素数1?20の炭化水素基として、具体的には、例えばメチル基,エチル基,イソプロピル基,n-プロピル基,イソブチル基,n-ブチル基,n-ヘキシル基,n-オクチル基,n-オクタデシル基等を挙げることができる。
また、一般式[X]で示される繰り返し単位を与えるα-オレフィンの具体例としては、例えば、エチレン,プロピレン,1-ブテン,3-メチル-1-ブテン,4-メチル-1-ペンテン,1-ヘキセン,1-オクテン,1-デセン,1-エイコセン等を挙げることができる。
【0011】 また、前記環状オレフィンとしては、必ずしも限定されないが、例えば下記一般式[Y]
【化2】

(式[Y]中、R^(b)?R^(m)はそれぞれ水素原子、炭素数1?20の炭化水素基又はハロゲン原子,酸素原子若しくは窒素原子を含む置換基を示し、nは0以上の整数を示す。R^(j)又はR^(k)とR^(l)又はR^(m)とは互いに環を形成してもよい。また、R^(b)?R^(m)はそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。)
で表わされる繰り返し単位を与えるものが挙げられる。
上記一般式[Y]で表わされる繰り返し単位において、R^(b)?R^(m)は、それぞれ水素原子、炭素数1?20の炭化水素基又はハロゲン原子,酸素原子若しくは窒素原子を含む置換基を示している。
【0012】…
【0014】 一般式[Y]で示される繰り返し単位を与える環状オレフィンの具体例としては、例えば、ノルボルネン、…等を挙げることができる。これらの中では、ノルボルネン又はその誘導体が特に好ましい。
【0015】 …
【0018】 本発明で用いる環状オレフィン系共重合体において、α-オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率[x]と環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率[y]の割合([x]:[y])は、α-オレフィン、環状オレフィンの種類及び組合わせにより異なり、一般的に規定することは必ずしもできないが、通常70?99.8モル%:30?0.2モル%、好ましくは80?99モル%:20?1モル%である。
環状オレフィン繰り返し単位の含有率[y]が30モル%を超える場合はTgが室温より高くなることがあり、0.2モル%未満である場合は形状回復性、透明性が低下することがある。」

3ウ「【0058】
【実施例】 次に、実施例及び比較例により本発明を具体的に示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
まず、形状回復性成形体の製造に先立ち、下記参考例1?4の環状オレフィン系共重合体を製造した。
【0059】参考例1
(1)テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸フェロセニウムの調製
フェロセン(Cp_(2)Fe)20ミリモルと、濃硫酸40ミリリットルとを室温で1時間反応させ、濃紺色溶液を得た。この溶液を1リットルの水に投入、攪拌し、得られた深青色の水溶液をテトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸リチウム20ミリモルの水溶液500ミリリットルに加えた。沈澱してきた淡青色固体を濾取し、水500mlを用いて5回洗浄した後、減圧乾燥したところ、目的とした生成物テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸フェロセニウム([Cp_(2)Fe][B(C_(6)F_(5))_(4)])17ミリモルを得た。
【0060】(2)エチレンと2-ノルボルネンとの共重合
窒素雰囲気下、室温において30リットルのオートクレーブにトルエン15リットル、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)23ミリモル、ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド0.11ミリモル、上記(1)で調製したテトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸フェロセニウム0.15ミリモルをこの順番に入れ、続いて2-ノルボルネンを70重量%含有するトルエン溶液2.25リットル(2-ノルボルネンとして15.0モル)を加え、90℃に昇温したのち、エチレン分圧が7Kg/cm^(2)になるように連続的にエチレンを導入しつつ110分間反応を行なった。
反応終了後、ポリマー溶液を15リットルのメタノール中に投入してポリマーを析出させ、このポリマー濾取して乾燥して、環状オレフィン系共重合体(a1)を得た。環状オレフィン系共重合体(a1)の収量は3.48Kgであった。重合活性は347Kg/gZrであった。
【0061】 得られた環状オレフィン系共重合体(a1)の物性は下記の通りであった。^(13)C-NMRの30ppm付近に現れるエチレンに基づくピークとノルボルネンの5及び6位のメチレンに基づくピークの和と32.5ppm付近に現れるノルボルネンの7位のメチレン基に基づくピークとの比から求めたノルボルネン含量は9.2モル%であった。135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]は0.99dl/g、X線回折法により求めた結晶化度は1.0%であった。測定装置として東洋ボールディング社製パイプロン11-EA型を用い、巾4mm,長さ40mm,厚さ0.1mmの測定片を昇温速度3℃/分、周波数3.5Hzで測定し、この時の損失弾性率(E”)のピークからガラス転移温度(Tg)求めたところ、Tgは3℃であった。測定装置としてウォーターズ社製ALC/OPC150Cを用い、1,2,4-トリクロルベンゼン溶媒、135℃で、ポリエチレン換算で重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn,分子量分布(Mw/Mn)を求めたところ、Mwは54,200、Mnは28,500、Mw/Mn=1.91であった。パーキンエルマー社製7シリーズのDSCによって10℃/分の昇温速度で、-50℃?150℃の範囲で融点(Tm)を測定したところ、Tmは73℃(ブロードなピーク)℃であった。
【0062】参考例2
参考例1の(2)において、ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライドの使用量を0.075ミリモル、2-ノルボルネンの使用量を7.5モルとした以外は、参考例1と同様にして環状オレフィン系共重合体(a2)を得た。環状オレフィン系共重合体(a2)の収量は2.93Kg、重合活性は428Kg/gZrであった。また、参考例1と同様にして求めたノルボルネン含量は4.9モル%、極限粘度[η]は1.22dl/g、ガラス転移温度(Tg)は-7℃、Mwは72,400、Mnは36,400、Mw/Mnは1.99、融点(Tm)は84℃(ブロードなピーク)であった。
【0063】参考例3
参考例1の(2)において、ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライドの使用量を0.064ミリモル、テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸フェロセニウムの使用量を0.11ミリモル、2-ノルボルネンの使用量を7.5モル、重合温度を70℃、エチレン分圧を9Kg/cm^(2)とした以外は、参考例1と同様にして環状オレフィン系共重合体(a3)を得た。
環状オレフィン系共重合体(a3)の収量は2.36Kg、重合活性は460Kg/gZrであった。また、参考例1と同様にして求めたノルボルネン含量は4.5モル%、極限粘度[η]は3.07dl/g、ガラス転移温度(Tg)は-8℃、Mwは213,000、Mnは114,000、Mw/Mnは1.87、融点(Tm)は81℃(ブロードなピーク)であった。
【0064】参考例4
参考例1の(2)において、トリイソブチルアルミニウムの代わりにエチルアルミニウムセスキクロリドを300ミリモル、ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライドの代わりにVO(OC_(2)H_(5))C_(l2)を30ミリモル用い、かつテトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸フェロセニウムを使用せず、また2-ノルボルネンの使用量を7.5モル、重合温度を40℃、エチレン分圧を3Kg/cm^(2)、重合時間を180分間とした以外は、参考例1と同様にして環状オレフィン系共重合体(a4)を得た。環状オレフィン系共重合体(a4)の収量は420gであった。また、参考例1と同様にして求めたノルボルネン含量は18モル%、極限粘度[η]は1.09dl/g、融点(Tm)は105℃(シャープなピーク)、ガラス転移温度(Tg)は25℃、Mw/Mnは2.95であった。
【0065】 次に、上記参考例1?4で得られた環状オレフィン系共重合体a1?a4及び市販の熱可塑性樹脂を用いた実施例及び比較例を示す。
実施例1
参考例1で得られた共重合体a1をプレス成形(プレス温度:190℃)して厚さ0.1mmのシートを作成し、幅20mm,長さ100mmの短冊状試験片を切り出した。これをオートグラフ(チャック間80mm)にセットし、室温にてチャック間320mmになるまで引っ張り、2分間放置した。試験片をオートグラフより取り外し、温度60℃の水に浸したところ、1秒以内に長さ103mmまで形状が回復した。下記式による残留歪は3%であった。
残留歪(%)={(回復後の試験片の長さ/試験片の最初の長さ)-1}×100
【0066】
実施例2?4,比較例1?2
表1に示す共重合体を用いたこと及び形状回復時の水温を変更したこと以外は、実施例1と同様にして成形、試験を行なった。
回復に要した時間及び残留歪は表1に示した通りであった。
【0067】
【表1】

【0068】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の形状回復性成形体は、(1)優れた形状回復性を有する、(2)室温で弾性を示す、(3)成形品の成形、変形を室温で行なうことができる、(4)耐侯性、透明性に優れる、といった特性を有する。」(当審注:○付きの数字を表示できないので( )付きの数字を用いている。)

エ 引用文献3に基く検討
(ア)上記3ア、3イによれば、引用文献3には、工業用成形品等に使用できる形状回復性成形体に関し、室温で変形加工を行なうことができるとともに、一定温度以上に加熱することにより元の形状に回復させることができる形状回復性成形体として、環状オレフィンとα-オレフィンとを共重合して得られる共重合体であってガラス転移温度(Tg)が10℃以下である環状オレフィン系共重合体により形成され(【請求項1】、【0006】)、環状オレフィンがノルボルネン又はノルボルネン誘導体である形状回復性成形体が開示されている(【請求項2】、【0010】)。そして、上記3ウによれば、具体例としてエチレンと2-ノルボルネンとの共重合体が開示されている(【0060】)。

(イ)ここで、上記3ウに記載のエチレンは、本願発明の「炭素数が2?10である鎖式炭化水素構造を含」む「ソフトセグメント」に相当するものということができる。

(ウ)しかしながら、引用文献3の形状回復性成形体である環状オレフィン系共重合体が、形状回復性に優れている共重合体であるとしても、工業用製品等に使用されることが記載されているだけであり、リチウム二次電池のバインダとして使用する際に有用であることは記載も示唆もされていないし、引用文献3において、ノルボルネンの単独重合体に比べて、エチレンと2-ノルボルネンとの共重合体の方が形状回復特性において優れていることを把握できる記載はない。
したがって、引用発明1のリチウム二次電池において、シリコン系活物質が体積膨張・収縮するときに生じる応力を緩衝するバインダとして採用されているポリノルボルネンに代えて、引用文献3に記載された、エチレンと2-ノルボルネンを共重合して得られる環状オレフィン系共重合体を用いようと当業者が試みる動機付けを見いだすことはできない。
さらに、上記3イや3ウに見られるように、引用文献3において開示されている、共重合体におけるエチレンと2-ノルボルネンの含有率について、ノルボルネンの含有率が通常30?0.2モル%とするとの記載があるとしても(【0018】)、実施例においては、ノルボルネン含量が9.2モル%(参考例1)、4.9モル%(参考例2)、4.5モル%(参考例3)、18モル%(参考例4)と、本願発明の範囲(80?20)よりもはるかに少ないものであり、本願発明が特定しているハードセグメントの割合の範囲「80?20」内とする動機付けも見いだすことはできない。

オ 引用文献4の記載事項
本願の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、「非晶性環状オレフィンランダム共重合体の製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。

4ア「[産業上の利用分野]
本発明は、非晶性環状オレフインランダム共重合体の製法に関する。さらに詳細には、透明性、耐熱性、耐熱老化性、耐薬品性、耐溶剤性、誘電特性および種々の機械的特性に優れ、かつ分子量分布、組成分布が狭い非晶性環状オレフインランダム共重合体の製法を提供するものである。」
(第1頁右欄4?11行)

4イ「[発明が解決しようとする問題点]
本発明者らは、従来のポリオレフイン又はオレフイン共重合体が前述のような欠点を有することに鑑み、透明性、耐熱性、耐熱老化性、耐薬品性、耐溶剤性、誘電特性、機械的性質などのバランスのとれた合成樹脂を検討した結果、可溶性バナジウム化合物及び有機アルミニウム化合物から形成される触媒の存在下に、エチレンと環状オレフインとを特定の条件下で連続的に共重合して得られる非晶性環状オレフインランダム共重合体が前記目的を達成することを見出し、本発明に到達した。」(第2頁右上欄20行?左下欄10行)

4ウ「実施例1
攪拌翼を備えた2lガラス製重合機を用いて連続的に、エチレンと6-エチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン(表3の(ア):以下MBHと略)の共重合反応を行なつた。…エチレン・MBHランダム共重合体が毎時25gの速度で得られた。…

実施例2?8および比較例1?3
実施例1の共重合条件を表4のようにした以外は同様にして連続共重合を行った。得られた共重合体の物性を表4に示した。…

」(第6頁右下欄17行?第9頁上欄)

カ 引用文献4に基く検討
(ア)上記4ア、4イによれば、引用文献4には、透明性、耐熱性、耐熱老化性、耐薬品性、耐溶剤性、誘電特性および種々の機械的特性に優れ、かつ分子量分布、組成分布が狭い非晶性環状オレフインランダム共重合体の製法として、可溶性バナジウム化合物及び有機アルミニウム化合物から形成される触媒の存在下に、エチレンと環状オレフインとを特定の条件下で連続的に共重合して非晶性環状オレフインランダム共重合体を得る製法が開示されている。そして、上記4ウによれば、具体例として、上記製法で得たエチレンと6-エチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプトー2-エン(MBH)のランダム共重合体が開示されている。

(イ)ここで、上記4ウに記載のMBH、エチレンは、それぞれ、本願発明の「2以上の単環から構成される炭素数が7?30である脂環式炭化水素構造を含」む「ハードセグメント」、「炭素数が2?10である鎖式炭化水素構造を含」む「ソフトセグメント」に相当するものということができる。

(ウ)しかしながら、引用文献4には、エチレンとMBHのランダム共重合体をリチウム二次電池のバインダとして適用することについての明示的な記載はないし、上記ランダム共重合体の有する上記種々の機械的特性が、優れた応力緩和特性を示唆するものであるとしても、当該機械的特性について、環状オレフインの単独重合体と、エチレンとMBHとの共重合体との特性の差異を把握できる記載はなく、引用発明1において、ポリノルボルネンに代えてエチレンとMBHとのランダム共重合体を用いようと当業者が試みる動機付けを見いだすことはできない。

キ 小括
以上の検討から、引用発明1において、引用文献2?4の記載に基いて、上記相違点1に係る本願発明の特定事項を備えるものとすることが当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。

(4)追加の検討
上記(3)で検討したとおり、引用文献2?4のいずれにも、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明の特定事項を備えるものとする動機付けを見出すことができないが、仮に、引用発明1と引用文献2?4が、ポリノルボルネンを用いる同一技術分野に属するものであることを動機付けとして、引用発明1において、引用文献2?4の記載に基いて、上記相違点に係る本願発明の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであったとした場合に、本願発明の効果が予測し得るものであるかについて、追加の検討を行う。

ア 本願明細書の記載
本願発明において、「バインダ」の「シクロオレフィンポリマー」として、「主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなる」とともに「前記ソフトセグメントは、炭素数が2?10である鎖式炭化水素構造を含み、前記ハードセグメントと前記ソフトセグメントとのモル比は、前記ハードセグメント:前記ソフトセグメント=80?20:20?80である」ものを採用することによる効果について、本願明細書には、次の記載がある。

5ア「【0015】
本開示に係るリチウムイオン二次電池は、負極合材層に含まれるバインダとして、主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなるシクロオレフィンポリマーを含む。また、バインダは主査(当審注:「主鎖」の誤記と解される。)にヘテロ構造を有さない。上記ハードセグメントは、2以上の単環から構成される炭素数が7?30である脂環式炭化水素構造を含み、剛直な構造を有していると考えられる。また、上記ソフトセグメントは、炭素数が2?10である鎖式炭化水素構造を含み、柔らかく、伸縮性を有すると考えられる。
【0016】
そのため、充放電に伴ってSi化合物が膨張・収縮した場合、以下の現象(1)?(3)が発生し得ると考えられる。これらの現象が相互作用することにより、負極活物質の孤立化が防止された結果として導電ネットワークが維持され、サイクル特性の低下が抑制されると期待される。
【0017】
(1)充放電時のLiイオンの挿入・脱離に伴い、Si化合物の体積が膨張・収縮(変形)する。
(2)バインダは、主鎖にハードセグメントを含む。係るハードセグメントは、上述の通り剛直な構造を有している。そのため、Si化合物の体積が膨張・収縮した際において、バインダの変形が抑制されると考えられる。これにより、Si化合物の移動(位置ずれ)も抑制され、バインダと負極活物質との密着およびバインダと負極集電体との密着が維持されると考えられる。結果として、負極活物質の孤立化が抑制されると考えられる。
(3)バインダは、主鎖にソフトセグメントを含む。係るソフトセグメントは、柔らかく、伸縮性を有する構造を有している。そのため、Si化合物の体積が膨張・収縮した際において、バインダにかかる応力を緩和する作用を有すると考えられる。すなわち、ソフトセグメントは、Si化合物の膨張・収縮に追従するように変化すると考えられる。これにより、バインダに靱性が付与されるものと考えられる。バインダに靱性が付与されることにより、バインダの破壊が防止されると期待される。バインダの破壊が防止されるため、ハードセグメントによる負極活物質の孤立化を抑制する効果がより得られるものと考えられる。」

5イ「【0029】
(バインダ)
バインダは、主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなる、シクロオレフィンポリマーを含む。本明細書において「シクロオレフィンポリマー」とは、シクロオレフィンモノマーを重合してなる単量体単位を有する単独重合体または共重合体を示す。本明細書において「シクロオレフィンモノマー」とは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素-炭素二重結合を有する化合物を示す。シクロオレフィンモノマーとしては、たとえばノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0030】
バインダは、たとえば下記一般式(1)で表される構造を有してもよい。下記一般式(1)において、R_(1)はハードセグメントであり、R_(2)はソフトセグメントである。すなわちバインダは、主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなるシクロオレフィンポリマーを含む。係るシクロオレフィンポリマーの重量平均分子量は、たとえば10^(4)以上10^(8)以下であってもよい。
【0031】
【化1】

(式中、ハードセグメントであるR_(1)は2以上の単環から構成される炭素数が7?30である脂環式炭化水素構造であり、ソフトセグメントであるR_(2)は炭素数が2?10である鎖式炭化水素構造であり、R_(3)およびR_(4)は水素、または炭素数1?10の炭化水素基であってヘテロ原子を含有してもよく、aおよびbは1以上4以下の整数である。)
【0032】
上記一般式(1)において、側鎖にカルボキシル基、アミド基、ヒドロキシル基等の極性基が含まれることが望ましい。側鎖に極性基が含まれることにより、バインダと負極集電体21との密着性が向上すると考えられる。更には、バインダの凝集力も向上するものと考えられる。
【0033】
上記一般式(1)において「x+y=100」である際、「x」および「y」は、「20≦x≦80」、かつ、「20≦y≦80」の関係を満たす。すなわち、ハードセグメントとソフトセグメントとのモル比は、ハードセグメント:ソフトセグメント=80?20:20?80である。「x」および「y」は、「40≦x≦60」、かつ、「40≦y≦60」の関係を満たすことが望ましい。
【0034】
上記一般式(1)において「x+y=100」である際、「x」が20未満である場合(すなわち、「y」が80を超える場合)、バインダ中のハードセグメントが不足していると考えられる。そのため、バインダと負極活物質との密着性や、バインダと負極集電体21との密着性が低下するおそれがある。また、「x」が80を超える場合(すなわち、「y」が20未満の場合)、バインダ中のソフトセグメントが不足していると考えられる。そのため、バインダの靱性が低下し、Si化合物の膨張・伸縮にバインダが追従できず、導電ネットワークが切断され、サイクル特性の低下が十分に抑制されない可能性がある。」

5ウ「【実施例】
【0047】
以下本開示の実施例が説明される。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない
【0048】
<リチウムイオン二次電池の製造>
《実施例1》
1.正極の製造

【0050】
2.負極の製造
以下の材料が準備された。
負極活物質:黒鉛と酸化SiOとの混合物[黒鉛/SiO=95/5(質量比)]
バインダ:下記表1に示すように、ノルボルネンが付加重合することで生じる構造(ハードセグメント)と、エチレン由来の構造(ソフトセグメント)とを含む、シクロオレフィンポリマー
溶媒:水
負極集電体:Cu箔(厚さ12μm)
【0051】
負極活物質、バインダおよび溶媒が混合されることにより、負極合材スラリーが調製された。固形分の混合比は「負極活物質:バインダ=99:1(質量比)」である。また、バインダ(シクロオレフィンポリマー)の主鎖に含まれるハードセグメントとソフトセグメントとのモル比が、80:20となるようにバインダは調製された。負極合材スラリーが負極集電体21の表面(表裏両面)に塗布され、乾燥された。これにより、負極合材層22が形成された。負極合材層22が圧延された。圧延後の負極合材層22は、140μmの厚さを有していた。これにより負極20が製造された。負極20がシート状に裁断された。
【0052】
3.組み立て
上記の負極20(シート状)9枚と、上記の正極10(シート状)8枚と、セパレータ18枚と、が準備された。セパレータ30は、PP製の多孔質膜、PE製の多孔質膜、およびPP製の多孔質膜がこの順序で積層されることにより、構成されている。複数の負極20の各々と複数の正極10の各々とが、積層方向の両方の外縁に負極20が位置するように、セパレータ30を挟んで交互に積層され、積層型の電極群40が作製された。
【0053】
電極群40がアルミラミネートフィルム製の外装材50に収納された。外装材50に電解液が注入された。電解液は以下の成分を含む。電解液には、添加剤およびラジカル捕捉剤が更に混合されている。外装材50が密封された。以上より実施例1に係るラミネート型電池100が製造された。電池100は、600mAhの設計容量を有する。
【0054】
Li塩:LiPF_(6)(1.1mоl/l)
溶媒:[EC:DMC:EMC=3:4:3(体積比)]
【0055】
《実施例2および実施例3》
下記表1に示されるように、負極20の製造に用いられるバインダの主鎖に含まれるハードセグメントとソフトセグメントとのモル比が変更さたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0056】
《実施例4?実施例6》
下記表1に示されるように、負極20の製造に用いられるバインダ(シクロオレフィンポリマー)において、ハードセグメントがノルボルナジエンが付加重合することで生じる構造とされたこと、ソフトセグメントがイソプロピレン由来の構造とされたこと、および、該バインダの主鎖に含まれるハードセグメントとソフトセグメントとのモル比が変更さたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0057】
《比較例1および比較例2》
下記表1に示されるように、負極20の製造に用いられるバインダの主鎖に含まれるハードセグメントとソフトセグメントとのモル比が変更さたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0058】
《比較例3》
下記表1に示されるように、負極20の製造に用いられるバインダを、SBRとしたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0059】
《比較例4》
下記表1に示されるように、負極20の製造に用いられるバインダを、アクリル系樹脂が付加重合することで生じる構造からなるポリマーとしたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0060】
<評価>
25℃に設定された恒温槽内に電池100が配置された。2.5?4.2Vの充放電が500回繰り返された。充電電流および放電電流は300mAである。サイクル試験後の電池容量がサイクル試験前の電池容量で除されることにより、容量維持率が算出された。結果は下記表1の「500サイクル後容量維持率」に示されている。容量維持率が高い程、サイクル耐久性が高いことを示している。
【0061】
【表1】



イ 本願発明の効果について
(ア)上記5アによれば、バインダが、剛直な構造を有するハードセグメントを主鎖に含むと、Si化合物の体積が膨張・収縮した際において、バインダの変形が抑制され、Si化合物の移動も抑制され、バインダと負極活物質との密着およびバインダと負極集電体との密着が維持され、負極活物質の孤立化が抑制され、結果として、サイクル特性の低下が抑制され(【0015】、【0017】)、また、バインダが、柔らかく伸縮性を有する構造を有するソフトセグメントを主鎖に含むと、Si化合物の体積が膨張・収縮した際において、バインダにかかる応力を緩和し、バインダに靱性が付与され、バインダの破壊が防止され、ハードセグメントによる負極活物質の孤立化を抑制する効果がより得られ、結果として、サイクル特性の低下が抑制されるものである(【0015】、【0017】)。

(イ)また、上記5イによれば、ハードセグメントのモル比が20未満である場合、バインダ中のハードセグメントが不足し、バインダと負極活物質との密着性や、バインダと負極集電体21との密着性が低下するおそれがあり、ハードセグメントのモル比が80を超える場合、バインダ中のソフトセグメントが不足してバインダの靱性が低下し、Si化合物の膨張・伸縮にバインダが追従できず、導電ネットワークが切断され、サイクル特性の低下が十分に抑制されないという問題が生じる(段落【0031】、【0033】?【0034】)と記載されている。

(ウ)ここで、上記5ウを参照することにより、上記(ア)、(イ)の事項が実験的に裏付けられているかについて検討する。
まず、負極の製造に用いられたバインダの材料のみが異なる、実施例1?6及び比較例1?2の電池と、比較例3?4の電池を対比して、バインダとしてハードセグメントとソフトセグメントの双方を含むものを用いたことによる効果を確認する。上記5ウの【表1】の記載から、バインダとしてハードセグメントとソフトセグメントの双方を含むものを用いた実施例1?6及び比較例1?2の電池は、バインダとしてこれらの少なくとも一方を含まないものを用いた比較例3?4の電池に比べて、500サイクル後の容量維持率が同等であるかより高くなることが読み取れ、サイクル特性向上の効果を確認することができる。
また、同じバインダの種類を採用している実施例1?3の電池と比較例1?2の電池を対比して、バインダにおけるハードセグメントとソフトセグメントのモル比を変えたときの効果を確認する。上記5ウの表1の記載から、バインダとしてハードセグメント:ソフトセグメントがそれぞれ80:20、60:40、30:70であるものを用いた実施例1?3の電池は、バインダとしてハードセグメント:ソフトセグメントが95:5、10:90であるものを用いた比較例1?2の電池に比べて、容量維持率が高くなることが読み取れ、サイクル特性向上の効果を確認することができる。

(エ)してみると、上記(ア)、(イ)の本願発明の機序についての記載は、上記(ウ)で確認したとおり、実験的な裏付けを伴った妥当なものということができる。

(オ)以上の検討から、本願発明は、「バインダ」の「シクロオレフィンポリマー」として、「主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなる」とともに「前記ハードセグメントは、2以上の単環から構成される炭素数が7?30である脂環式炭化水素構造からなり、剛直な構造を有し」ており、「前記ソフトセグメントは、炭素数が2?10である鎖式炭化水素構造からなり」、「前記ハードセグメントと前記ソフトセグメントとのモル比は、前記ハードセグメント:前記ソフトセグメント=80?20:20?80である」ものを採用したことにより、「Si化合物の体積が膨張・収縮した際において、剛直な構造のハードセグメントが一定量含まれることにより、バインダの変形を抑制し負極活物質の孤立化を抑制することでサイクル特性の低下を抑制するとともに、柔らかく伸縮性を有する構造のソフトセグメントが一定量含まれることにより、バインダの破壊を防止し、負極活物質の孤立化を抑制することでサイクル特性の低下を抑制する」という効果を奏するものということができる。

オ 引用文献1?7に基く効果の予測性について
上記エ(オ)に記載した本願発明の効果が、引用文献1?7の記載に基いて予測可能であるかについて検討する。
(ア)引用文献1には、バインダのシクロオレフィンポリマーとしてハードセグメントのみが含まれており、ソフトセグメントを含むことについて記載されていないから、バインダがハードセグメント及びソフトセグメントの両者を備えることによる、上記エの効果については記載も示唆もされていない。

(イ)引用文献2には、初期放電容量や高温保持特性に優れる全固体二次電池を提供することを課題とすることが記載され(上記(3)アの2ア[0006])、サイクル特性を向上するという本願発明とは目的を異にするものである。また、負極活物質としてグラファイト以外にケイ素についても挙げられているし(同[0109])、バインダとしてノルボルネン系単量体とエチレン等の他の単量体の付加重合体が挙げられているが(同[0024]、[0030])、実施例では負極活物質としてグラファイトが採用され、バインダとしてエチレン等の他の単量体が付加重合されていないブロック共重合体水素化物が採用されたものが記載されているにすぎず(同[0138])、負極活物質であるシリコンが充放電時に膨張・収縮した場合に上記付加重合体がバインダの変形を抑制し負極活物質の孤立化を抑制することでサイクル特性の低下を抑制しバインダの変形を抑制するという効果を奏するものであるかについては記載されておらず、不明である。

(ウ)引用文献3には、室温で弾性を示すとともに、室温で変形加工を行なうことが可能であり、しかも成形性、耐侯性、透明性、再成形性に優れた形状回復性成形体を提供すること(上記(3)ウの3イ段落【0005】)、上記形状回復性成形体は環状オレフィンとα-オレフィンとを共重合することにより得られること(同【0006】)が記載されているが、引用文献3には上記形状回復性成形体をリチウム二次電池のバインダに適用することは記載されておらず、サイクル特性が向上するという本願発明の効果を示唆するものであるとはいえない。

(エ)引用文献4には、透明性、耐熱性、耐熱老化性、耐薬品性、耐溶剤性、誘電特性および種々の機械的特性に優れ、かつ分子量分布、組成分布が狭い非晶性環状オレフインランダム共重合体の製法を提供すること(上記(3)オの4ア、4イ)が課題として記載され、種々の共重合体について、エチレン含量、極限粘度〔η〕、ヨウ素価、結晶化度、ヘイズ、ガラス転移温度(DMA-Tg)、及び融点(DSC-Tm)という共重合体物性の測定結果が示されているものの(上記2-4.の4ウ 表4)、引用文献3には上記形状回復性成形体をリチウム二次電池のバインダに適用することは記載されておらず、サイクル特性が向上するという本願発明の効果を示唆するものであるとはいえない。

(オ)周知技術を示すものとして引用された引用文献5(特開2004-346274号公報)、引用文献6(特開平6-41364号公報)、引用文献7(WEST, James C. ほか,ゴムの科学と技術[第17回],日本ゴム協会誌,1984年,57(1),45-65)には、ハードセグメントとソフトセグメントの重合体が、強靱性や柔軟性等の機械的特性の優れたものとなることが記載されているものの、そのような重合体をリチウム二次電池のバインダとして適用することは記載されておらず、サイクル特性が向上するという本願発明の効果を示唆するものであるとはいえない。

(カ)以上の検討から、上記エ(オ)に記載した本願発明の効果は、引用文献1?7のいずれにも記載も示唆もされていないから、引用文献1?7の記載から当業者が予測できたものとはいえない。

カ 本願発明の効果についてのまとめ
以上の検討から、本願発明は、引用文献1?7からは当業者が予測することができない効果、すなわち、顕著な効果を有するものといえる。

(5)進歩性の検討についてのまとめ
本願発明は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2?4に記載された事項及び引用文献5?7に記載の周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 サポート要件(当審から通知された拒絶理由)について
ア 上記第3の2アに記載したとおり、本願発明が解決しようする課題は、「ケイ素(Si)と黒鉛との混合物、または、酸化ケイ素(SiO)と黒鉛との混合物を負極活物質として含むリチウムイオン二次電池において、サイクル特性の低下を抑制すること」であると認められる(段落【0010】参照。)。

イ そして、令和 3年 9月 2日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)前の請求項1に記載された「バインダ」は、「主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなるシクロオレフィンポリマーを含み」と、いわゆるオープンクレーム形式で特定されていたために、バインダの主鎖にヘテロ原子を有するものも含まれ、主鎖中に含まれる当該ヘテロ原子が添加剤や水分と反応して、バインダの主鎖が切断され、電池のサイクル特性が低下するため、上記課題が解決しない発明が含まれていた。

ウ また、本件補正前の請求項1には「ハードセグメントは、2以上の単環から構成される炭素数が7?30である脂環式炭化水素構造を含み」と記載されているだけで、「剛直な構造を有している」ものであることが特定されていなかったため、上記記載により定義される「ハードセグメント」には、例えば、シクロヘキサンが複数個(例えば2個)結合している、次の参考図の分子構造を有するものが含まれ得ると解される。
(参考図)

そのため、Si化合物の体積が膨張・収縮した際において、バインダの変形やSi化合物の移動(位置ずれ)が抑制されず、バインダと負極活物質との密着およびバインダと負極集電体との密着が維持されないので、サイクル特性の低下が抑制されず、したがって、上記課題が解決しない発明が含まれていた。

エ しかしながら、本件補正によって、請求項1の「バインダ」について「主鎖がハードセグメントとソフトセグメントとからなるシクロオレフィンポリマーからなり」と補正されたために、バインダの主鎖にヘテロ原子を有するものであって、当該ヘテロ原子が添加剤や水分と反応して、バインダの主鎖が切断され、電池のサイクル特性が低下するようなバインダは含まれないこととなった。
また、請求項1の「ハードセグメント」について「剛直な構造を有している」ことが特定されたため、上記参考図のような、バインダの変形やSi化合物の移動(位置ずれ)が抑制されず、バインダと負極活物質との密着およびバインダと負極集電体との密着が維持されないので、サイクル特性の低下が抑制されないものも含まれないこととなった。

オ したがって、本件補正によって、課題を解決することのできない発明は本願発明1から排除されたので、上記イ、ウに記載したサポート要件についての拒絶理由は解消した。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2?4に記載された事項及び引用文献5?7に記載の周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
また、本願は、特許請求の範囲の記載が、課題を解決することのできない発明が排除された点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものではない。
したがって、原査定の拒絶理由及び当審から通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-11-08 
出願番号 特願2018-14583(P2018-14583)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
P 1 8・ 537- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 池渕 立
土屋 知久
発明の名称 リチウムイオン二次電池  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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