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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1379597
審判番号 不服2020-246  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-08 
確定日 2021-11-10 
事件の表示 特願2015- 17909「紫外発光ダイオードおよびそれを備える電気機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 3日出願公開、特開2015-216352〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月30日(優先権主張 平成26年4月24日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月12日 :手続補正書の提出
平成30年 3月14日付け:拒絶理由通知書
平成30年 7月20日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 9月26日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成30年11月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月22日付け:拒絶理由通知書
平成31年 7月16日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 9月30日付け:拒絶査定
令和 2年 1月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 3月 2日 :手続補正書(方式)の提出
令和 2年 7月29日 :審査官による面接
令和 3年 3月12日 :当審による面接

第2 令和2年1月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年1月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所として、請求人が付したものである。)
「単結晶基板と、
AlNとGaNの成分をもつ結晶により作られ、該基板に接して配置され、n型導電層を含んでおり、220nm以上280nm以下の範囲のいずれかの波長を主要波長に持つ放射UVを発する紫外発光層と、
該n型導電層上の再結合層と、
該再結合層上のp型導電層と、
該p型導電層に電気的に接続しているAlNとGaNの混晶のp型コンタクト層と、
前記紫外発光層から発せられる前記放射UVを反射し、該p型コンタクト層に電気的に接続している金属膜である反射電極と、
前記p型コンタクト層と前記金属膜とによって挟むように設けられているオーミックコンタクトを実現するための挿入金属層であって、前記挿入金属層は、前記p型コンタクト層上に、その一部のみを覆うようにパターン化されて配置されている厚み約1nmのNi膜を含み、パターン化された前記挿入金属層が存在しない位置においては前記p型コンタクト層および前記反射電極が接した積層構造をなし、パターン化された前記挿入金属層が存在する位置においては、前記p型コンタクト層、前記挿入金属層、および前記反射電極をこの順に含む積層構造をなすようになっている挿入金属層と、
パターン化されたp型GaN層と
を備えており、
前記p型コンタクト層の組成Al_(x)Ga_(1-x)NにおけるAlN混晶組成比xが、前記放射UVの主要波長の値をW(単位:nm)として、
x_(min)=-0.006W+2.26
により求まる下限値x_(min)以上の値にされかつ0.58以上であって、前記p型コンタクト層は、前記放射UVが一度通過する際の前記放射UVに対する透過率が95%以上であり、
前記反射電極が、前記挿入金属層が存在しない位置においては前記p型コンタクト層に直に接し、前記挿入金属層が存在する位置においては、前記挿入金属層を挟んで前記p型コンタクト層上に配置されているものであり、
前記パターン化された前記p型GaN層の少なくとも一部が、多層構造の前記p型コンタクト層とパターン化された前記挿入金属層との双方に直に接して挟まれているものである、紫外発光ダイオード。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成31年7月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「単結晶基板と、
AlNとGaNの成分をもつ結晶により作られ、該基板に接して配置され、n型導電層を含んでおり、220nm以上350nm以下の範囲のいずれかの波長を主要波長に持つ放射UVを発する紫外発光層と、
該n型導電層上の再結合層と、
該再結合層上のp型導電層と、
該p型導電層に電気的に接続しているAlNとGaNの混晶のp型コンタクト層と、
前記紫外発光層から発せられる前記放射UVを反射し、該p型コンタクト層に電気的に接続している金属膜である反射電極と、
前記p型コンタクト層と前記金属膜とによって挟むように設けられているオーミックコンタクトを実現するための挿入金属層であって、前記挿入金属層は、前記p型コンタクト層上に、その一部を覆って配置されている挿入金属層と
を備えており、
前記p型コンタクト層の組成Al_(x)Ga_(1-x)NにおけるAlN混晶組成比xが、前記放射UVの主要波長の値をW(単位:nm)として、
x_(min)=-0.006W+2.26
により求まる下限値x_(min)以上の値にされており、
前記反射電極が、前記挿入金属層が存在しない位置においては前記p型コンタクト層に直に接し、前記挿入金属層が存在する位置においては、前記挿入金属層を挟んで前記p型コンタクト層上に配置されているものである、紫外発光ダイオード。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「紫外発光層」の「主要波長」について、補正前の「350nm以下」を「280nm以下」と限定し、
「挿入金属層」について、「その一部のみを覆うようにパターン化されて配置されている厚み約1nmのNi膜を含み、パターン化された前記挿入金属層が存在しない位置においては前記p型コンタクト層および前記反射電極が接した積層構造をなし、パターン化された前記挿入金属層が存在する位置においては、前記p型コンタクト層、前記挿入金属層、および前記反射電極をこの順に含む積層構造をなすようになっている」と限定を付加し、
「p型コンタクト層の組成Al_(x)Ga_(1-x)NにおけるAlN混晶組成比x」について、「0.58以上」と限定し、
「p型コンタクト層」について、「前記放射UVが一度通過する際の前記放射UVに対する透過率が95%以上」と限定し、
「p型コンタクト層」と「挿入金属層」との配置関係について、「パターン化されたp型GaN層」及び「前記パターン化された前記p型GaN層の少なくとも一部が、多層構造の前記p型コンタクト層とパターン化された前記挿入金属層との双方に直に接して挟まれている」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「前田哲利, 平山秀樹,透明p型AlGaNを用いた高効率深紫外LEDの実現,信学技報,日本,一般社団法人 電子情報通信学会,2013年11月21日,vol. 113,no. 331,pp. 87-90」(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。

a 「2.高Al組成p-AlGaNコンタクト層の開発
図1に(a)高Al組成(63%)p-AlGaNコンタクト層(組成波長265nm)を用いた277nm発光LEDサンプル構造図および(b)組成波長265nmおよび270nmのp-AlGaNコンタクト層をもつ277nm発光LEDの電流ーEQE特性を示す。

図1 (a)高Al組成(63%)p-AlGaNコンタクト層(組成波長265nm)を用いた277nm発光LEDの構造図および(b)組成波長265nmおよび270nmのp-AlGaNコンタクト層をもつ277nm発光LEDの電流-EQE特性

作成したLEDサンプル構造は、C面サファイア基板上に高品質AlNテンプレートバッファー層を形成し、その上にn-AlGaNバッファ層、AlGaN/AlGaN 3層MQW層およびp-AlGaN MQB電子ブロック層を成長した。最後に、最表面層としてp-AlGaNコンタクト層を成長した。」(第88頁左欄第4行?第41行)
b 「LEE改善効果を確かめるために、各LEDサンプルには、従来Ni/Au電極(反射率:約20%)と高反射Ni/Al電極(反射率:約80%)を施し、電極間によるEQE比較を行った。なお、我々は、すでにDUV光に対して高反射率、かつ、オーミックコンタクトのNi(1nm)/Al(150nm)p型電極を開発済みである。」(第88頁右欄第15行?第20行)
c「265-279nm発光の全6サンプルにおいて,Ni/Al電極によるEQEは、Ni/Au電極のEQEより高い値を示した。特に発光波長277と279nmの2サンプルにつては、Ni/AuからNi/Al電極の樅き換えによって、EQEがおよそ1.7倍に増加を示した。この結果は、277nm以上の長波光に対してp-AlGaNコンタクト層には高い透明性があることを示す。おそらく、p-AlGaNコンタクト層の透過率は90%以上あるものと推定される。」(第88頁右欄第28行?第35行)

(イ)上記(ア)より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。

<引用発明>
「高Al組成(63%)p-AlGaNコンタクト層(組成波長265nm)を用いた277nm発光LEDであって、
C面サファイア基板上に、
高品質AlNテンプレートバッファー層と、
n-AlGaNバッファ層と、
AlGaN/AlGaN 3層MQW層と、
p-AlGaN MQB電子ブロック層と、
高Al組成(63%)p-AlGaNコンタクト層と、(以上、上記a)
高反射Ni(1nm)/Al(150nm)電極と、を備え、(上記b)
高Al組成(63%)p-AlGaNコンタクト層の透過率は90%以上であるものと推定される、(上記c)
277nm発光LED。(上記a)」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「特表2012-533874号公報」(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【0005】
その結果、従来技術のUV-LEDは、紫外領域の抽出効率が低いという弱点がある。生成した光子の量に対して規格化した非結合光子の量は、僅か4%?10%である。」
「【0006】
本発明の目的は、従来技術の1以上の不都合を回避または克服することである。特に、本発明の目的は、光の非結合が高いUV-LEDを提供することである。
【0007】
上記目的は、紫外スペクトル領域用の発光ダイオードに使用するための構造化されたp型コンタクトであって、放射ゾーンに接する第1の表面、および第1の表面の逆を向く側の第2の表面を有するp型コンタクト層を含み、
(a)p型コンタクト層の第2の表面の5%?99.99%に直接接し、200nm?400nmの波長の紫外領域の光、好ましくは270nmの光に対して、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%の最大反射率を有する材料を含むまたは該材料で構成されたコーティングを有し、
(b)p型コンタクト層の第2の表面に直接設けられた複数のp型注入部を有し、p型コンタクト層(2)がp型ドープAlGaNを有するまたはp型ドープAlGaNで構成されることを特徴とするp型コンタクトを提供することで達成される(以下の記述において、「p型ドープコンタクト」および「p型コンタクト」の用語は同じ意味で使用される)。」
「【0014】
p型注入部は、p型コンタクト層と電流源または電圧源の極との効率的なオーミック接続を可能にする少なくとも1つのp型注入金属層を有する。p型注入部はそれ自体が紫外反射性である必要はないので、好適な材料の選択は、紫外領域において良好な反射率を有するものに限られない。その結果、従来技術においてp型注入部の作製時に既に使用されている材料および金属を使用することが可能である。特に、p型注入部は、Au,Ni,Pd,Pt,Rh,Ti,Ni/Au,Pd/Ti/Au,Pd/Pt/AuもしくはPt/Ti/Auを含みまたはAu,Ni,Pd,Pt,Rh,Ti,Ni/Au,Pd/Ti/Au,Pd/Pt/AuもしくはPt/Ti/Auで構成される、p型注入金属層を有することが可能である。p型注入部は、このようなp型注入金属層のほかに、p型コンタクト層と電流源または電源の極とのオーミック接続がp型注入部によって妨げられあるいは機能的に著しく損なわれるという事態を、追加の層が引き起こさない限り、追加の金属層および/または非金属層を有することが可能である。特に、p型注入部は、たとえばp型GaNもしくはp型InGaNの、p型ドープ半導体を含みまたはp型ドープ半導体で構成されるp型注入層をも、有することができる。これは、特に、p型コンタクト層(2)の第2の表面(B)を形成し、p型注入部が直接設けられる半導体層が、p型ドープAlGaNを有しまたはp型ドープAlGaNで構成されるときに、好ましい。結果として、電気的特性に対する発光の比率が特に良好であることを特徴とするp型コンタクトが得られる。」
「【0025】
図1は、本発明に係るp型ドープコンタクトの典型的な実施形態を示す図である。本発明に係るp型ドープコンタクト1は、p型コンタクト層2および複数のp型注入部5を有する。p型コンタクト層2は、ここでは、LED配置において好適な放射ゾーンに接し得るように設計された第1の表面Aを有する。p型コンタクト層2は第2の表面を有しており、コーティング8および複数のp型注入部5が、第1の表面Aの逆を向く表面Bの側に設けられている。p型コンタクト層2は、p型AlGaN層によって形成されており、したがって、特に紫外透明性である。
【0026】
複数のp型注入部5はp型コンタクト層2の表面Bに配置されており、p型注入部5は表面Bに直接接続されている。p型注入部5は、p型注入部5とp型コンタクト層2とのオーミックコンタクトを達成するように、設計されており、これによって、p型コンタクト層2を(少ない抵抗損失で)電流源または電圧源の極に導電的に接続することが可能になる。p型注入部5は2つの層を有しており、具体的には、表面Bの逆を向くp型注入金属層6、たとえばNi/Au金属層、および、p型注入金属層6とp型コンタクト層2との間に配置された追加のp型注入層7、たとえばp型(In)GaN半導体層である。p型注入金属層6は、電流源および/または電圧源の極との低抵抗コンタクトをもたらすために使用されている。p型注入層7は、p型コンタクト層2への見込まれる最も効果的な電流注入を達成するために使用されている。p型注入部5は、均等に離間して、p型コンタクト層2の表面Bに固定されている。
【0027】
p型注入部5によって占められていない表面Bの部分は、波長270nmの光の少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%を反射する材料のコーティング8を有している。図1の例においては、コーティング8は、50?350nmの層厚を有するアルミニウム層(Al)で構成されている。」
「【0029】
図3は、図1に示す本発明に係るp型ドープコンタクトのp型コンタクト層の第2の表面Bの、コーティング8およびp型注入部5を含む構造を示す上面図である。p型注入部5は、0.5μmの最大幅の正方形状を有する。p型注入部5は、ここでは、p型コンタクト層2の表面Bに均一に分布し、各々が隣接するそれぞれのp型注入部5から均一な1μmの距離だけ離間している。p型注入部5によって占められていない表面Bの部分は、270nmにて88%の反射率を有するアルミニウムで構成されたコーティング8を有する。コーティング8は、p型コンタクト層2の表面Bの90%程度を覆う。結果として、コーティング8およびp型注入部5を含む全表面Bは、約79%の最大反射率を有する。この反射率は、従来の低抵抗p型コンタクトが達成し得るいかなる反射率よりも高い。」
「【0036】
図5は、本発明に係るp型コンタクトを含む本発明に係る発光ダイオードの典型的な実施形態の断面図である。
【0037】
本発明によれば、紫外発光ダイオードは、p型注入部を含むp型コンタクトを包含し、p型注入部は各々、p型注入金属層6およびp型(In)GaN注入層7で構成される。示した例では、p型(In)GaN注入層7は、各々、マグネシウム(Mg)ドープ濃度[Mg]=1E20cm-3の、10nm寸法のp型(In)GaNを有する。P型(In)GaN注入層7は、p型ドープAlGaNで構成されたp型コンタクト層2に直接接している。示した例では、p型コンタクト層は、p型Al0.45Ga0.55Nおよびp型Al0.55Ga0.45Nの組成の2つのp型ドープAlGaN層の交互配列2aで構成され、個々の層は2nmの厚さを有し、p型コンタクト層は合計で一方の組成の50層および他方の組成の50層を有し、それらの層は[Mg]=5E19cm-3のMgドープ濃度を有する。p型注入部の逆を向くp型コンタクト層の側は、p型Al0.60Ga0.40N([Mg]=1E20cm-3)の組成を有する、20nm厚の終端層2bを有する。p型注入部に接するp型コンタクト層2の表面は、本発明に係るコーティングで覆われている。示した例では、コーティング8は、p型コンタクト層2の表面のみを覆うのではなく、p型注入部をも覆うように構成されている。示した例では、p型注入部の逆を向くp型コンタクト層2の側には、多重量子井戸構造9が接している。この多重量子井戸構造9は、n層の量子井戸層とn+1層のバリヤー層の規則的配列で構成することができる。示した例では、多重量子井戸構造9は、6nm厚の(In)Al0.5Ga0.5Nバリヤー層9a、ならびに、2nm厚の(In)Al0.4Ga0.6N量子井戸層9bおよび6nm厚の(In)Al0.5Ga0.5Nバリヤー層9cが3回繰り返す層配列で構成されている。p型コンタクト層の逆を向く多重量子井戸構造9の側には、シリコン(Si)ドープ濃度[Si]=5E18cm-3のn型Al0.5Ga0.5Nで構成される1500nm厚の層10が、バリヤー層9cに続いている。n型ドープ層10には、非ドープAl0.5Ga0.5Nで構成される200nm厚の層11が続く。これにはさらに、非ドープAlNで構成される1000nm厚の層12が続く。この層12は、p型コンタクトの逆を向く側のサファイヤ層13で覆われている。」
「【0041】
図6は、非構造化Pdコンタクトを有しかつAlコーティングを有しない参照ダイオードとの比較における、種々のナノピクセルLEDについての測定した光出力-電流曲線を示す。最良の結果は、FF=89%でかつTi接着層を有しないナノピクセルLEDで達成された。50mAの順方向電流にて、このナノピクセルLEDは、1.36mWの光出力を有し(ウェハ上で測定した)、これは、参照ダイオードの光量(50mAで0.45mW)の3倍を超えている。」
「図3


「図5


(イ)上記(ア)の記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
a 【0007】に記載のとおり、引用文献2には、「紫外スペクトル領域用の発光ダイオードに使用するための構造化されたp型コンタクト」、「p型コンタクト層の第2の表面に直接設けられた複数のp型注入部」及び「p型コンタクト層の第2の表面の5%?99.99%に直接接し、200nm?400nmの波長の紫外領域の光、少なくとも60%の最大反射率を有する材料を含むまたは該材料で構成されたコーティング」が記載されており、【0007】の「……構造化されたp型コンタクトであって、……を有するp型コンタクト層を含み」との記載を踏まえると、当該「構造化されたp型コンタクト」は、「p型コンタクト層」を含むものと理解できる。
また、【0025】には、「p型コンタクトは、紫外透明性である」と記載されている。
そうすると、引用文献2に記載された「構造化されたp型コンタクト」は、「紫外透明性であるp型コンタクト層」、「p型コンタクト層の第2の表面に直接設けられた複数のp型注入部」及び「p型コンタクト層の第2の表面の5%?99.99%に直接接し、200nm?400nmの波長の紫外領域の光に対して、少なくとも60%の最大反射率を有する材料を含むまたは該材料で構成されたコーティング」を含むものと理解できる。
b p型コンタクト層について、【0025】より、p型コンタクト層2は、紫外透明性であるp型AlGaN層によって形成されている。
c p型注入部について、【0026】より、p型注入部5は、均等に離間して、p型コンタクト層2の表面Bに固定されている。
d コーティングについて、【0027】より、コーティング8は、アルミニウム層(Al)で構成されている。
e 図3より、p型コンタクト層の表面(第2の表面B)に、均等に離間して配置されたp型注入部5、がみてとれる。
f 図5より、p型コンタクト層2の表面に均等に離間して配置されたp型(In)GaN注入層7、当該注入層7上に形成されたp型注入金属層6、p型コンタクト層2の表面であって注入層7が配置されていない表面及び注入金属層6の表面に配置されたコーティング8が、みてとれる。
また、技術常識を踏まえると、「(In)GaN」とは、GaNであってInを含んでもよいことを意味すると解することが自然といえる。
g 【0026】及び【0037】より、p型注入金属層6は、たとえばNi/Au金属層より構成されること、p型コンタクト層2は、Al組成比が異なるp型ドープAlGaN層の交互配列2a及び終端層2bより構成されることが、理解できる。
また、【0014】の記載「(前略)特に、p型注入部は、(中略)Au,Ni,Pd,Pt,Rh,Ti,Ni/Au,Pd/Ti/Au,Pd/Pt/AuもしくはPt/Ti/Auで構成される、p型注入金属層を有することが可能である」を踏まえれば、p型注入金属層6として、「Ni」も記載されているといえる。
h 上記a?dを踏まえつつ、上記e?gより、引用文献2には、「従来技術のUV-LEDは、紫外領域の抽出効率が低い」(【0005】)という課題を解決するべく、電極構造を「p型コンタクト層の表面に均等に離間して配置されたp型注入部(p型GaN注入層及びNiより構成されるp型注入金属層)」及び「p型コンタクト層の表面であってp型注入部が配置されていない表面及びp型注入金属層の表面に配置されアルミニウムより構成されたコーティング」とした上で、p型コンタクト層を、「紫外透明性である、Al組成比が異なるp型ドープAlGaN層の交互配列」とすること(以下、「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「C面サファイア基板」は、本件補正発明の「単結晶基板」に相当する。
(イ)引用発明の「277nm発光LED」は、「C面サファイア基板」上に形成された、「高品質AlNテンプレートバッファ層」、「n-AlGaNバッファ層」、「AlGaN/AlGaN 3層MQW層」及び「p-AlGaN MQB電子ブロック層」からなる、「積層構造」を備えている。
ここで、当該「積層構造」は、「AlGaN」より形成され、「C面サファイア基板」上に形成され、「n-AlGaNバッファ層」を含んでおり、「AlGaN/AlGaN 3層MQW層」は、「277nm」で「発光」するものである。
してみると、引用発明は、本件補正発明の「AlNとGaNの成分をもつ結晶により作られ、該基板に接して配置され、n型導電層を含んでおり、220nm以上280nm以下の範囲のいずれかの波長を主要波長に持つ放射UVを発する紫外発光層」を備えるといえる。
(ウ)引用発明の「n-AlGaNバッファ層」、「AlGaN/AlGaN3層MQW層」及び「p-AlGaN MQB電子ブロック層」は、本件補正発明の「n型導電層」、「再結合層」及び「p型導電層」に相当し、「該n型導電層上の再結合層」及び「該再結合層上のp型導電層」との構成を備えるといえる。
(エ)引用発明の「高Al組成(63%)p-AlGaNコンタクト層」は、「p-AlGaN MQB電子ブロック層」上に形成されているから、「高Al組成(63%)p-AlGaNコンタクト層」と「p-AlGaN MQB電子ブロック層」とは、電気的に接続されているといえる。
また、当該「p-AlGaNコンタクト層」は、AlGaNより形成されているのであるから、「AlNとGaNの混晶」といえる。
したがって、引用発明の「高Al組成(63%)p-AlGaNコンタクト層」は、本件補正発明の「p型コンタクト層」に相当し、「該p型導電層に電気的に接続しているAlNとGaNの混晶」との構成を満たしているといえる。
(オ)引用発明の「高反射Ni/Al電極」は、DUV光に対して高反射率、かつ、p-AlGaNコンタクト層とオーミックコンタクトが得られる電極であるところ、技術常識を踏まえると、「Ni」が「オーミックコンタクト」に、「Al」が「DUV光に対する反射」に寄与していると理解できる。また、当該「Al」は「Ni」を介して、「p-AlGaNコンタクト層」と電気的に接続している。
したがって、引用発明の「高反射Ni/Al電極」における「Al」は、本件補正発明の「反射電極」に相当するといえ、「前記紫外発光層から発せられる前記放射UVを反射し、該p型コンタクト層に電気的に接続している金属膜である」といえる。
(カ)上記(オ)のとおり、引用発明の「高反射Ni/Al電極」における「Ni」は、「p-AlGaNコンタクト層」と「オーミックコンタクト」するものであり、「p-AlGaNコンタクト層」と「Al」との間に配置されていることから、本件補正発明の「挿入金属層」に相当し、「前記p型コンタクト層と前記金属膜とによって挟むように設けられているオーミックコンタクトを実現するための挿入金属層であ」るといえる。
(キ)本件補正発明では、「p型コンタクト層」の「AlN混晶組成比」について、
「前記p型コンタクト層の組成Al_(x)Ga_(1-x)NにおけるAlN混晶組成比xが、前記放射UVの主要波長の値をW(単位:nm)として、
x_(min)=-0.006W+2.26
により求まる下限値x_(min)以上の値にされかつ0.58以上であって」と特定している。
ここで、上記式より、発光波長が「277nm」のときの「AlN混晶組成比x」を計算すると、x_(min)(277nm)は、「0.598」と算出される。
しかるに、引用発明は、「277nm」で発光するLEDであるところ、引用発明の「p-AlGaNコンタクト層」のAlN混晶組成比は、「0.63」であるから、当該「p-AlGaNコンタクト層」は、「0.598」及び「0.58」より大きなAlN混晶組成比で形成されているといえる。
したがって、引用発明は、本件補正発明の「前記p型コンタクト層の組成Al_(x)Ga_(1-x)NにおけるAlN混晶組成比xが、前記放射UVの主要波長の値をW(単位:nm)として、
x_(min)=-0.006W+2.26
により求まる下限値x_(min)以上の値にされかつ0.58以上であって」との特定を満たしているといえる。
(ク)引用発明の「277nm発光LED」は、発光波長が「277nm」であるから、本件補正発明の「紫外発光ダイオード」に相当するといえる。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「単結晶基板と、
AlNとGaNの成分をもつ結晶により作られ、該基板に接して配置され、n型導電層を含んでおり、220nm以上280nm以下の範囲のいずれかの波長を主要波長に持つ放射UVを発する紫外発光層と、
該n型導電層上の再結合層と、
該再結合層上のp型導電層と、
該p型導電層に電気的に接続しているAlNとGaNの混晶のp型コンタクト層と、
前記紫外発光層から発せられる前記放射UVを反射し、該p型コンタクト層に電気的に接続している金属膜である反射電極と、
前記p型コンタクト層と前記金属膜とによって挟むように設けられているオーミックコンタクトを実現するための挿入金属層と、
を備えており、
前記p型コンタクト層の組成Al_(x)Ga_(1-x)NにおけるAlN混晶組成比xが、前記放射UVの主要波長の値をW(単位:nm)として、
x_(min)=-0.006W+2.26
により求まる下限値x_(min)以上の値にされかつ0.58以上である、紫外発光ダイオード。」

<相違点>
・相違点1
「p型コンタクト層」上に形成された、光反射及びオーミックコンタクトの構成について、
本件補正発明は、「前記挿入金属層は、前記p型コンタクト層上に、その一部のみを覆うようにパターン化されて配置されている厚み約1nmのNi膜を含み、パターン化された前記挿入金属層が存在しない位置においては前記p型コンタクト層および前記反射電極が接した積層構造をなし、パターン化された前記挿入金属層が存在する位置においては、前記p型コンタクト層、前記挿入金属層、および前記反射電極をこの順に含む積層構造をなすようになっている挿入金属層と、
パターン化されたp型GaN層とを備えており、
前記反射電極が、前記挿入金属層が存在しない位置においては前記p型コンタクト層に直に接し、前記挿入金属層が存在する位置においては、前記挿入金属層を挟んで前記p型コンタクト層上に配置されているものであり、
前記パターン化された前記p型GaN層の少なくとも一部が、多層構造の前記p型コンタクト層とパターン化された前記挿入金属層との双方に直に接して挟まれているものである」のに対して、引用発明は、「反射電極」及び「挿入金属層」は備えるものの、そのような構成ではない点。

・相違点2
「p型コンタクト層」の「透過率」について、
本件補正発明は、「前記放射UVが一度通過する際の前記放射UVに対する透過率が95%以上」であるのに対して、引用発明は、「277nm」の光に対して、その透過率は、「90%以上であるものと推定される」ものの「95%以上」であるかは、不明である点。

(4)判断
以下、相違点1及び2について検討する。
ア 相違点1について
(ア)引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用することについて
上記(2)イ(イ)hのとおり、引用文献2に記載された技術的事項は、「紫外領域の抽出効率が低い」という課題を解決するものであるから、種々の紫外発光ダイオードに適用し得るものということができる。
ここで、上記2(2)ア(ア)b及びcの記載より、引用文献1には、高反射電極を用いることによりLEEを改善することができるとの知見が開示されていると理解できるので、引用発明に接した当業者には、光を反射する電極構造を採用する動機があるということができる。
そして、引用文献2の【0029】に記載のとおり、引用文献2に記載された電極構造は、従来の電極構造に対して優位なものである。
したがって、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たことであり、適用にあたって、「高Al組成(63%)p-AlGaNコンタクト層」を「紫外透明性である、Al組成比が異なるp型ドープAlGaN層の交互配列」とすること、及び「Niより構成されるp型注入金属層」の厚みを1nmとすることは、当業者が適宜なし得る設計上の事項に過ぎないといえ、結果として、相違点1に係る構成は、満たされることとなる。

(イ)相違点1についての結論
そうすると、引用発明において、引用文献2に記載された技術的事項を適用することにより、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明の「p-AlGaNコンタクト層」は、引用文献2に記載された技術的事項を適用することにより、「Al組成比が異なるp型ドープAlGaN層の交互配列からなる」ものに置換されることとなる。
ここで、上記2(2)イ(イ)bのとおり、引用文献2に記載された「p型コンタクト層」は、「紫外透明性」であり、引用発明の「p-AlGaNコンタクト層」が、277nmの光に対して、90%以上の透過率であるものと推定されていることを踏まえれば、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用するに際して、Al組成比が異なるp型ドープAlGaN層の交互配列からなるp型コンタクト層の277nmの光に対する透過率は、90%以上に設計されることが自然といえる。
そして、引用発明の「p-AlGaNコンタクト層」及び引用文献2に記載された「p型コンタクト層」は、共に発光光(紫外光)を吸収しないように構成されるものであるから、発光光(紫外光)に対する透過率を高めることは、当業者であれば容易に想起し得る事項といえる。
したがって、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用するに際して、「Al組成比が異なるp型ドープAlGaN層の交互配列からなるp型コンタクト層」の277nmの光に対する透過率を「95%以上」として構成することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 小括
上記ア及びイのとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

エ 本件補正発明の効果について
そして、上記相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書にて、以下のことを主張している。
(ア)引用文献2は、引用し得ない文献であること。(審判請求書第6頁第19行?第8頁第39行)
a 図6で示されている実験データは、380nmの波長の光であり、p型コンタクト層は、「200nm厚のMgドープGaN」であるから、引用文献2は、紫外域でのp-AlGaNと反射電極の現実の技術的効果をなんら開示も示唆もしていない。よって、引用文献2の開示は、本願のような220nm以上280nm以下という紫外域の波長でのp-AlGaNと反射電極の効果を示唆しているとはいえないこと。
b 引用文献2には、【0004】にて、p型GaNが200?400nmの波長範囲で「顕著な吸収」をもつと指摘しているにも関わらず、発明の開示において「200nm厚のMgドープGaN」を採用している。(【0039】)
このように、MgドープGaNが顕著な吸収を示す380nmで図6の対照実験を示している引用文献2は、技術的に矛盾した内容を記載しており、技術的意義の不確かで不可解な開示がなされいる文献であるから、引用し得ない文献であること。

(イ)引用文献2を考慮しても本願に係る発明を容易想到とするための論理付けができないこと。(審判請求書第8頁第41行?第9頁第25行)
a 引用文献2は、p-AlGaNをp型コンタクト層2に採用することで紫外域での高い出力が得られることを何ら示唆していないこと。
b 引用文献2は、挿入金属層が「パターン化されて配置されている」、「厚み約1nmのNi膜」を含む点について開示も示唆もしていないこと。

(ウ)進歩性の判断に参酌すべき有利な効果。(審判請求書第8頁第27行?第40行)
a Ni膜が厚み約1nmであるので、パターン化された挿入金属層が存在する位置であってもNi膜による反射率低下は少ないこと。
b パターン化されたp型GaN層がp型コンタクト層とパターン化された挿入金属層との双方に直に接して挟まれているので、反射電極の挿入金属層のNi膜と相まって、良好なオーミックコンタクトも実現すること。

しかしながら、下記のとおりであるから、審判請求人の主張は、上記判断を左右するものではない。
上記(ア)a及びbに対して、引用文献1の図6に記載されたLEDが、380nmで発光し、p型GaNコンタクト層を備えることは事実であるとしても、【0038】において、「例4:本発明に係るUV-LEDと従来技術との比較」と記載のとおり、図6で示される事項は、「非構造化Pdコンタクトを有しかつAlコーティングを有しない参照ダイオードとの比較」(【0041】)であるから、当該LEDは、比較のために作成されたLEDであると解することが自然といえる。
そうすると、「非構造化コンタクト(従来)」と「構造化されたp型コンタクト」との比較において、発光波長及びp型コンタクト層の材料は、同じであればよいものと理解できるから、その波長及び材料が「380nm」及び「p型GaNコンタクト層」であることは、比較実験において本質的な問題ではないものと理解できる。
よって、当該LEDの発光波長及びp型コンタクト層の材料は、比較実験の結果を明らかとするために採択されたにすぎないものと解される。
また、引用文献2の【0035】?【0037】には、紫外発光ダイオードの典型的な実施形態として、各層のAl組成比も明記された実施形態が記載されており、量子井戸層(Al_(0.4)Ga_(0.6)N)のAl組成比からみれば、紫外光を発光するLEDであることは明らかといえるから、引用文献2には、紫外LEDの実施例は記載されているものと解される。
よって、図6の記載をもって、発光波長が「220nm以上280nm以下」のLEDは引用文献2には記載されてはいない、とまではいえないものであると共に、上記比較実験より、その技術的効果も示されているものといえる。
また、上記のとおり、図6に記載されたLEDは、比較のために作成されたLEDであり、その技術的意義は明らかといえる。

上記(イ)aに対して、上記(2)イ(イ)bのとおり、「p型コンタクト層2は、紫外透明性であるp型AlGaN層によって形成されて」おり、紫外光(発光光)はp型コンタクトで吸収されないのであるから、引用文献2には、紫外域での高い出力が得られることを示しているといえる。
上記(イ)bに対して、上記(2)イ(イ)hのとおり、引用文献2の「p型注入電極層」は、均等に離間して配置されており、上記アのとおり、「p型注入金属層」の厚みを1nmとすることは、当業者が適宜なし得る設計上の事項である。

上記(ウ)aに対して、引用文献1の記載(上記(2)ア(ア)b)や技術常識に照らして、当業者には自明な効果といえる。
上記(ウ)bに対して、引用文献2の「特に、p型注入部は、たとえばp型GaNもしくはp型InGaNの、p型ドープ半導体を含みまたはp型ドープ半導体で構成されるp型注入層をも、有することができる。これは、特に、p型コンタクト層(2)の第2の表面(B)を形成し、p型注入部が直接設けられる半導体層が、p型ドープAlGaNを有しまたはp型ドープAlGaNで構成されるときに、好ましい。」(【0014】)との記載を、技術常識に照らしてみれば、当該「p型GaN」が、電極の接触抵抗の低減(良好なオーミックコンタクト)に寄与していることは明らかといえる。

カ 結論
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年1月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成31年7月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

引用文献1:前田哲利, 平山秀樹,透明p型AlGaNを用いた高効率深紫外LEDの実現,信学技報,日本,一般社団法人 電子情報通信学会,2013年11月21日,vol. 113,no. 331,pp. 87-90
引用文献2:特表2012-533874号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1?2及びその記載事項は、前記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、
「紫外発光層」の「主要波長」について、「280nm以下」との限定事項を「350nm以下」と、その数値範囲を広げ、
「挿入金属層」について、「その一部のみを覆うようにパターン化されて配置されている厚み約1nmのNi膜を含み、パターン化された前記挿入金属層が存在しない位置においては前記p型コンタクト層および前記反射電極が接した積層構造をなし、パターン化された前記挿入金属層が存在する位置においては、前記p型コンタクト層、前記挿入金属層、および前記反射電極をこの順に含む積層構造をなすようになっている」との限定事項を削除し、
「p型コンタクト層の組成Al_(x)Ga_(1-x)NにおけるAlN混晶組成比x」について、「0.58以上」との限定事項を削除し、
「p型コンタクト層」について、「前記放射UVが一度通過する際の前記放射UVに対する透過率が95%以上」との限定事項を削除し、
「p型コンタクト層」と「挿入金属層」との配置関係について、「パターン化されたp型GaN層」及び「前記パターン化された前記p型GaN層の少なくとも一部が、多層構造の前記p型コンタクト層とパターン化された前記挿入金属層との双方に直に接して挟まれている」との限定事項を削除するものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-08-20 
結審通知日 2021-08-24 
審決日 2021-09-16 
出願番号 特願2015-17909(P2015-17909)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 忠紀島田 英昭皆藤 彰吾波多江 進  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 吉野 三寛
野村 伸雄
発明の名称 紫外発光ダイオードおよびそれを備える電気機器  
代理人 岡本 正之  

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