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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C
管理番号 1379616
審判番号 不服2019-3546  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-14 
確定日 2021-11-11 
事件の表示 特願2014-560017「容器健全性を確保するガラス包装」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 6日国際公開、WO2013/130721、平成27年 4月30日国内公表、特表2015-512853〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)2月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年2月29日、米国(US))を国際出願日とする特願2014-560017号であって、平成29年3月6日付けで拒絶理由通知がなされ、同年8月14日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年1月30日付けで拒絶理由通知がなされ、同年7月6日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月2日付けで拒絶査定がなされ、平成31年3月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和2年8月18日付けで当審より拒絶理由通知がなされ、令和3年2月17日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載(本願発明)
本願の請求項1?10に係る発明は、令和3年2月17日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項1】
ある厚さと第一の面と、第二の面とを有し、ガラスを含み、医薬品、ワクチン、生物製剤、食品、溶液のいずれかを保持するために採用される容器であって、
前記ガラスは、前記厚さが0.5mm?1.5mmの範囲のアルミノケイ酸塩ガラスであり、圧縮応力を受ける第一の領域であって、前記第一の面と前記第二の面のうちの少なくとも一方から前記ガラス内の層深度まで延びる第一の領域と、中心張力を受ける第二の領域であって、前記層深度から延びる第二の領域と、を有し、
前記中心張力が、15MPaより大きいか、これと等しく、
前記ガラスがヤング率Eとポアソンの比vを有し、(CT^(2)/E)・(t-2DOL)・(1-v)≧3.0MPa・μmであり、式中、CTが前記中心張力、tが前記厚さ、DOLが前記層深度であり、
前記中心張力は、亀裂先端が前記第一の面から前記第二の面へと前記厚さを貫通して自己進展するとともに、少なくとも前記第一の面を横切る横方向へ自己進展するのに十分であることを特徴とする容器。」

第3 当審が通知した拒絶理由
当審が通知した拒絶理由は、サポート要件違反についての拒絶理由を含むものであり、その内容は、要するに、次のとおりのものである。
・拒絶理由(サポート要件):
本件補正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえないし、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該課題を解決できる範囲のものであるともいえないから、本願特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合せず、本願は、同項の規定を満たしていない。

第4 当審の判断
当審は、審判請求人が令和3年2月17日に提出した意見書(当審からの審尋に対する回答を含む)及び手続補正書を参酌しても、依然として、上記第3に示した拒絶理由は解消しておらず、妥当なものであると判断する。その理由は以下のとおりである。

1 サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か(以下、両範囲をまとめて「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」という。)を検討して判断すべきものであると解される。

2 特許請求の範囲の記載
本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第2のとおりであり、「前記中心張力が、15MPaより大きいか、これと等しく、前記ガラスがヤング率Eとポアソンの比vを有し、(CT^(2)/E)・(t-2DOL)・(1-v)≧3.0MPa・μmであり、式中、CTが前記中心張力、tが全義厚さ、DOLが前記層深度である」との特定事項を含む「容器」の発明であるといえる。

3 発明の詳細な説明の記載
摘記は省略するが、発明の詳細な説明には、本願発明の【技術分野】(【0002】)、【背景技術】(【0003】)、【発明の概要】(【0004】?【0009】)、【発明を実施するための形態】(【0011】?【0050】)及び「代表的な実施形態」(【0051】?【0057】)についての記載がある。

4 サポート要件適合性について(特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討)
(1)本願発明の課題
本願明細書の発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題について項目立てた記載箇所は見当たらないが、【発明の概要】の欄の【0004】には、次の記載がある。
「本開示は、例えば、これらに限定されないが、医薬品またはワクチン、および食品容器(例えば、瓶、ベビーフード用広口瓶その他)を気密および/または滅菌状態に保持するためのバイアル等の強化ガラス容器または器物を提供する。強化ガラス容器には表面の圧縮と容器壁内の張力を発生させる強化工程が施行される。強化工程は、壁内の張力が、壁貫通亀裂によって滅菌性が損なわれた場合に容器の壊滅的故障を確実に起こし、それゆえ製品を使用不能とするのに十分に大きくなるように設計される。この張力は、それを超えると容器の壊滅的故障が増進されるという閾値中心張力より大きく、それゆえ容器の健全性が侵害される可能性が大幅に低減し、または排除される。」
上記記載によると、本願発明の課題の一側面は、「壁内の張力が、壁貫通亀裂によって滅菌性が損なわれた場合に容器の壊滅的故障を確実に起こし、それゆえ製品を使用不能とするのに十分に大きくなるように設計される」ことによって、「気密および/または滅菌状態に保持するためのバイアル等の強化ガラス容器または器物を提供する」ことであると解される。
さらに、【背景技術】の欄の【0003】には、「壁厚を貫通して延びる亀裂が入ることがあり、これは内容物の滅菌状態を損なうものの、包装の壊滅的故障には至らない。このような亀裂は、使用現場で医療従事者や最終消費者により発見されるとリコールの対象となりえ、製薬会社や食品製造会社にとって多大な損失となる可能性がある」との記載があり、【発明の概要】の欄の【0024】には、「一般的な、応力を受けないケース(A)では、1本の亀裂が例えばラベル等で隠れていると、患者または投与する医師は滅菌性が損なわれたことに気付かないかもしれない」との記載があり、また、【0015】には、「このような亀裂の分裂によって、容器の完全性の侵害が気付かれないままとなることが確実になく」との記載があることから、本願発明の課題の他の側面としては、亀裂の分裂による容器の完全性の侵害(容器の不良)に確実に気付くことができるようにすることであると解される。
すなわち、本願発明の課題は、端的に言えば、「壁内の張力が、壁貫通亀裂によって滅菌性が損なわれた場合に容器の壊滅的故障を確実に起こ」すことによって「気密および/または滅菌状態に保持するためのバイアル等の強化ガラス容器または器物を提供する」ことに加えて、亀裂の分裂による容器の不良を確実に認識することができるようにすることであるといえる。

(2)発明の詳細な説明に記載された具体例(実施例)について
まず、具体例(実施例)に着目してみると、発明の詳細な説明の中には【実施例】の欄は存在しないが、その代わりに「代表的な実施形態」が【0051】?【0057】に示されており、実施例相当の具体例を認めることができる。
実際、上記具体例として、「米国特許出願第13/660,450号明細書に記載されているアルカリ土類アルミノケイ酸ガラスバイアル」(【0052】)を用いてイオン交換等の処理を行い、所定の落下試験を行ったことが記載されている。
すなわち、当該具体例には、「呼び容積3.00ml、高さ3.70cm、直径16.75mm、壁厚1.1mm」の「アルカリアルミノケイ酸塩ガラスバイアル」を、「450℃のKNO_(3)(工業品グレード)の塩浴で8時間イオン交換した。すべてのバイアルは、320℃で1時間、発熱物質除去処理(depyrogenate)し、90℃未満の温度まで冷却」した(【0052】)ものの落下試験から、「被落下バイアルの健全性を損なうような故障の検出が容易となった。」(【0055】)こと、及び、前記イオン交換時間を変化させて中心張力を5.7?59.0MPaに変化させた場合の故障モード率(【図8】)や遅れ故障(【0056】)について記載されている。
しかしながら、上記具体例の中には、上記イオン交換したアルカリアルミノケイ酸塩ガラスバイアルについて、ヤング率E、ポアソン比v、層深度DOLが記載されておらず、そもそも、「(CT^(2)/E)・(t-2DOL)・(1-v)≧3.0MPa・μm」との不等式を満たすことを示すものは見当たらない。また、「米国特許出願第13/660,450号明細書に記載されているアルカリ土類アルミノケイ酸ガラスバイアル」は、「約67mol%?約75mol%のSiO_(2)、約6mol%?約10mol%のAl_(2)O_(3)、約5mol%?約12mol%のアルカリ酸化物、約9mol%?約15mol%のアルカリ土類酸化物を含む」ガラス組成(【0034】)を有しているといえるものの、当該ガラス組成から、ヤング率E、ポアソン比v、層深度DOLの値が一義的に決定されるものでもなく、上記不等式を満足することを当業者が認識できないため、上記イオン交換したアルカリアルミノケイ酸塩ガラスバイアルが、本願発明の具体例であるといえない。すなわち、上記「代表的な実施形態」には、本願発明に対応する具体例を見いだすことはできない。そうすると、発明の詳細な説明の「代表的な実施形態」の記載からは、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」に、本願発明を含むものとして認定することはできない。

(3)発明の詳細な説明の具体例(実施例)以外の記載及び技術常識について
さらに、上記「代表的な実施形態」以外の発明の詳細な説明の記載をみると、本願発明の上記特定事項について、「いくつかの実施形態において、閾値中心張力CT_(limit)は少なくとも約15MPaであり、これは1本の亀裂が横方向に分岐せずに進展するのに十分である。」(【0026】)、「壁厚が約0.5mm?約1.5mmの範囲のガラス容器の場合、保存弾性エネルギーSEEは、いくつかの実施形態において、亀裂が容器壁を貫通して横方向に自己進展するためには、少なくとも約3.0MPa・μm(すなわち、(CT^(2)/E)・(t-2DOL)・(1-v)≧3.0MPa・μm)であるべきである。」(【0027】)、及び、「【表1】

」(【0028】)等の形式的に記載されている箇所を認めることができるが、当業者といえども、そのような記載から本願発明の課題に係る性能・特性を予測し、もって当該課題が解決できると認識することはできない。
事実、平成30年11月2日付けの拒絶査定において引用された文献であって、本願の優先日前に公知である引用文献1(国際公開第2011/145661号)には、厚みが1.0mmであるイオン交換されたアルミノケイ酸塩ガラスに関し([0055]、[0060]、[表4]?[表11]等)、当該ガラスの厚さ、ヤング率E、ポアソン比σ、表面圧縮応力S、圧縮応力層深さtが記載されており([0055]?[0057]、[0060]、[0083]、[表4]?[表11]等)、当該数値から、中心張力CT=(CS×DOL)/(t-2DOL)、及び保存弾性エネルギーSEE=(CT^(2)/E)×(t-2DOL)×(1-σ)を算出すると、前記中心張力CTが15MPa超、及び、前記保存弾性エネルギーSEEが3.0MPa・μm以上との規定を満たす実施例(例えば、[表4]の例1?3など)が存在している。しかしながら、当該実施例のイオン交換されたアルミノケイ酸塩ガラスは、「厚さが0.5mm?1.5mmの範囲のアルミノケイ酸塩ガラス」という要件、中心張力が15MPaより大きいかこれと等しいという要件、及び(CT^(2)/E)・(t-2DOL)・(1-v)≧3.0MPa・μmであるという要件を全て具備しているにもかかわらず、「化学強化処理前の傷やガラス加工時の潜傷およびチッピング起因のクラックが発生しにくく、それが原因となっておこる化学強化ガラス使用時の自発的破壊の可能性が減少した化学強化ガラス」([0017])であることから、本願発明の上記課題を解決できるガラスであるとはいえない。
すなわち、中心張力が、15MPaより大きいか、これと等しく、(CT^(2)/E)・(t-2DOL)・(1-v)≧3.0MPa・μmを満足した場合に、亀裂が容器壁を貫通して横方向に自己進展し、本願発明の上記課題を解決できると認識することができるというに足りる本願の優先日前の技術常識も存在するとはいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の上記「代表的な実施形態」以外の記載及び本願優先日前の技術常識をさらに参酌しても、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」に、本願発明を含むものとして認定することはできない。

(4)上記(2)及び(3)で検討したとおり、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」は、本願発明を含むものではないのであるから、その範囲内に、上記第2の「特許請求の範囲の記載」(本願発明)が存在しないことは明らかである。
したがって、上記1の判断手法に照らすと、本願特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合しないというほかない。

5 審判請求人の主張
審判請求人は令和3年2月17日提出の意見書において、本願発明は、本件補正により付加された「厚さが0.5mm?1.5mmの範囲のアルミノケイ酸塩ガラス」という要件、中心張力が15MPaより大きいかこれと等しいという要件、及び(CT^(2)/E)・(t-2DOL)・(1-v)≧3.0MPa・μmであるという要件を具備することにより、上記課題を解決するものである旨主張している。
しかしながら、上記5(2)及び(3)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載を子細にみても、(CT^(2)/E)・(t-2DOL)・(1-v)に関して何ら検討がなされておらず、本願発明の課題を解決することの裏付けがないことは明らかであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

6 サポート要件についてのまとめ
以上のとおり、本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は同項所定の規定に違反するものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余の事項について検討するまでもなく、同法第49条第4号に該当するため拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-06-15 
結審通知日 2021-06-16 
審決日 2021-06-29 
出願番号 特願2014-560017(P2014-560017)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C03C)
P 1 8・ 537- WZ (C03C)
P 1 8・ 113- WZ (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 潤宮崎 大輔  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 末松 佳記
後藤 政博
発明の名称 容器健全性を確保するガラス包装  
代理人 柳田 征史  

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