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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
管理番号 1379619
審判番号 不服2020-3281  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-10 
確定日 2021-11-11 
事件の表示 特願2017- 92890「真空ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月16日出願公開、特開2017-203458〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成29年5月9日(パリ条約による優先権主張2016年5月10日 欧州特許庁)の出願であって、平成30年3月13日付けで拒絶理由が通知され、平成30年8月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成31年1月22日付けで拒絶理由(最後)が通知され、令和元年7月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和元年11月6日付けで令和元年7月25日になされた手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年3月10日に拒絶査定不服審判請求がなされ、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、当審により令和3年1月20日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、令和3年4月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項に係る発明は、令和3年4月12日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「真空ポンプ、特にターボ分子ポンプであって、真空ポンプの可動の部分の駆動の為、特に真空ポンプのポンプローター(149)の駆動の電動モーター(125)を有し、その際、電動モーター(125)は、ローター及びステーター(217)を有し、その際、ステーター(217)は各電気的な導体より形成される、ステーター側の磁場の発生の為の三つの巻線(301,303,305)を有し、前記磁場は、ローターの回転駆動のためローターのローター側の磁場と協働する真空ポンプにおいて、
真空ポンプの外側からアクセス可能で、かつ、真空ポンプ(111)の内部に案内される、少なくとも6の電気的な接点(403,405,407,409,411,413)を有する電気的な接続部(401)が設けられていること、及び各巻線(301,303,305)の両方の端部(U1,U2、V1,V2,W1,W2)の其々が、電気的な接点(403,405,407,409,411,413)のうちの一つと接続されており、ステーター(217)の巻線(301,303,305)が、ステーター側の磁場の3で割り切れる次数を複数有する調波が防止されるようなピッチを有し、
電動モーター(125)が同期モーターであり、同期モーターのローターが、ローター側の磁場の発生のため、ローターの周囲方向において位置をずらして配置された複数の永久磁石を有し、
永久磁石が、ローター内に埋め込まれている
ことを特徴とする真空ポンプ。」

第3 拒絶の理由
令和3年1月20日付けで当審が通知した拒絶理由のうち、進歩性に関するものの概要は、次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1-4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2、3に例示される従来周知の事項、及び引用文献4、5に例示される従来周知の事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2016-59270号公報
引用文献2:特開平11-69701号公報
引用文献3:特開2004-254445号公報
引用文献4:特開2009-213282号公報
引用文献5:特開2002-199680号公報

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
令和3年1月20日付け拒絶理由通知で引用された、この出願の優先日前に頒布された刊行物である、引用文献1には、図面とともに、次の記載がある。(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。)
(ア)「・・・真空ポンプ、特にターボ分子ポンプ又はターボ分子ポンプの為の予真空ポンプであって、真空ポンプによってガスをポンピングするためのポンプ機構と、該ポンプ機構を駆動するための、特にシンクロモーターとして形成された電動モーター(100)を有し、その際、電動モーター(100)が、ステーター(102)と、該ステーター(102)と協働する、回転軸を中心として回転可能なローター(106)とを有し、・・・(中略)・・・真空ポンプ。」(請求項1)
(イ)「ステーター側の各電気的相巻線が、分配された単相巻の形式、または分配された二層巻の形式、またはトゥースコイル巻線の形式でステーターに配置されていることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の真空ポンプ。」(請求項13)
(ウ)「収容部内に配置された複数の永久磁石は、結合としてより高い磁場を発生するので、電動モーターの性能が改善されることが可能である。・・・」(段落【0019】)
(エ)「発明に係る真空ポンプの電動モーターにおいて、特に電動モーターがシンクロ機械として形成されているとき、更に、小さな有効空隙と、ローターコアの内部に配置された永久磁石に基づいて、表面に対して取り付けられた永久磁石に対してより弱い電流を有する弱め磁界運転が可能である。公知の弱め磁界運転においては、永久磁石によって発生される磁場は、電気的に励起されるステーターの対向磁場によって弱められる。・・・」(段落【0035】)
(オ)「該ポンプ22は、ターボ分子ポンプとして形成されており、・・・」(段落【0042】)
(カ)「真空ポンプ22は、モーター室74を有する。・・・」(段落【0048】)
(キ)「モーター室74内には、電動モーター、特にシンクロモーターとして形成された真空ポンプの駆動モーターが配置されている。駆動モーターは、ローター32の回転的駆動の為に使用され、そしてコア84及び図2に簡略的にのみ表されている複数のコイル10を有するモーターステーター82を有する。・・・」(段落【0049】)
(ク)「駆動モーターのローター(回転子又は電機子とも称される)は、ローター軸36によって形成されている。このローター軸は、モーターステーターを通って延在している。ローター軸36のうち、モーターステーター82を通って延在する部分には、半径方向外側で永久磁石装置88が固定されている。モーターステーター82と、ローター軸36のモーターステーター82を通って延在する部分の間には、半径方向のモーター間隙90が形成されている。このモーター間隙を介いて、モーターステーター82と永久磁石装置88は、駆動トルクの伝達の為にお互いに磁気的に影響を及ぼし合う。」(段落【0050】)
(ケ)「発明に係る真空ポンプの、図2の半径方向の断面に表された電動モーター100は、外側に位置するステーター102と、該ステーター102と協働する、回転軸104を中心として回転可能なローター106を有する。ローター106は、コア107を有する。・・・(中略)・・・ローター106は、ローター106の周囲方向で見て、所定の数量のローター極108を有している。その際、コア107の内部の各ローター極108に対して、収容部110が設けられている。この収容部内に、永久磁石112が配置されている。」(段落【0052】)
(コ)「図2内に表された例においては所定の数量のローター極108とは、6つのローター極である。各収容部110内には、ローター106の周囲方向Uで見て、二つの永久磁石112が相前後して配置されている。・・・」(段落【0054】)
(サ)「ステーター102の側には、複数のステーター歯116が設けられている。これらは、半径方向内側に向かって突き出している。ステーター側には、公知の方法で、電気的な相巻線(独語:Wicklungsstraenge)が設けられている。・・・」(段落【0059】)
(シ)「図2の電動モーター100は、図1の真空ポンプ22のモーター室74内に、図1に関して記載された駆動モーターの替えて組み込まれることが可能である。その際、ローター106はローター軸36と連結されるので、ローター軸36はローター106によって駆動されることが可能である。これによって真空ポンプが形成される。その電動モーター100はローター側の永久磁石112を有し、この永久磁石は、ローター106の内部に配置され、これによってローター106内に埋没する、または埋め込まれている。」(段落【0060】)
(ス)上記(イ)、(エ)、(サ)の記載から、ステーター102は、対向磁場を電気的に励起する電気的な相巻線を有していることが理解できる。
(セ)上記(ウ)、(エ)、(キ)、(ク)の記載から、ステーター102側の対向磁場は、ローター106の回転的駆動の為にローター106側の磁場と磁気的に影響を及ぼし合うことが理解できる。
(ソ)上記(ウ)、(ク)、(ケ)、(コ)の記載、図2から、ローター106が、ローター106側の磁場の発生のため、ローター106の周囲方向において位置をずらして配置された複数の永久磁石112を有することが理解できる。

(2)引用発明
引用文献1の上記記載事項からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「真空ポンプ、特にターボ分子ポンプであって、真空ポンプによってガスをポンピングするためのポンプ機構を駆動するため、特にローター32の回転的駆動の為に使用される電動モーター100を有し、その際、電動モーター100は、ローター106及びステーター102を有し、その際、ステーター102は、対向磁場を電気的に励起する電気的な相巻線を有し、ステーター102側の対向磁場は、ローター106の回転的駆動の為にローター106側の磁場と磁気的に影響を及ぼし合う真空ポンプにおいて、
電動モーター100がシンクロモーターとして形成されており、シンクロモーターのローター106が、ローター106側の磁場の発生のため、ローター106の周囲方向において位置をずらして配置された複数の永久磁石112を有し、
永久磁石112が、ローター106内に埋め込まれている
真空ポンプ」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「真空ポンプ」は、本願発明の「真空ポンプ」に相当し、以下同様に、「ターボ分子ポンプ」は「ターボ分子ポンプ」に、「真空ポンプによってガスをポンピングするためのポンプ機構」は「真空ポンプの可動の部分」に、「真空ポンプによってガスをポンピングするためのポンプ機構を駆動するため」という事項は「真空ポンプの可動の部分の駆動の為」という事項に、「ローター32」は「ポンプローター(149)」に、「電動モーター100」は「電動モーター(125)」に、「ローター32の回転的駆動の為に使用される電動モーター100」という事項は「真空ポンプのポンプローター(149)の駆動の電動モーター(125)」という事項に、「ローター106」は「ローター」に、「ステーター102」は「ステーター(217)」に、「対向磁場」は「ステーター側の磁場」に、「シンクロモーター」は「同期モーター」に、「電動モーター100がシンクロモーターとして形成されており」という事項は「電動モーター(125)が同期モーターであり」という事項に、「永久磁石112」は「永久磁石」に、それぞれ相当する。
(イ)モーターの分野における当業者の技術常識から、引用発明の「ステーター102」が有する「対向磁場を電気的に励起する電気的な相巻線」が、三相巻線であること、及び各々が電気的な導体より形成されることは明らかである。そうしてみると、引用発明の「ステーター102は、対向磁場を電気的に励起する電気的な相巻線を有し、ステーター102側の対向磁場は、ローター106の回転的駆動の為にローター106側の磁場と磁気的に影響を及ぼし合う」という事項は、本願発明の「ステーター(217)は各電気的な導体より形成される、ステーター側の磁場の発生の為の三つの巻線(301,303,305)を有し、前記磁場は、ローターの回転駆動のためローターのローター側の磁場と協働する」という事項に相当する。

以上の対比を総合すると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「真空ポンプ、特にターボ分子ポンプであって、真空ポンプの可動の部分の駆動の為、特に真空ポンプのポンプローターの駆動の電動モーターを有し、その際、電動モーターは、ローター及びステーターを有し、その際、ステーターは各電気的な導体より形成される、ステーター側の磁場の発生の為の三つの巻線を有し、前記磁場は、ローターの回転駆動のためローターのローター側の磁場と協働する真空ポンプにおいて、
電動モーターが同期モーターであり、同期モーターのローターが、ローター側の磁場の発生のため、ローターの周囲方向において位置をずらして配置された複数の永久磁石を有し、
永久磁石が、ローター内に埋め込まれている真空ポンプ」

<相違点1>
本願発明は、「真空ポンプの外側からアクセス可能で、かつ、真空ポンプ(111)の内部に案内される、少なくとも6の電気的な接点(403,405,407,409,411,413)を有する電気的な接続部(401)が設けられていること、及び各巻線(301,303,305)の両方の端部(U1,U2、V1,V2,W1,W2)の其々が、電気的な接点(403,405,407,409,411,413)のうちの一つと接続されて」いるのに対して、引用発明は、巻線と真空ポンプの外側との電気的な接続態様が不明である点。

<相違点2>
本願発明は、「ステーター側の磁場の3で割り切れる次数を複数有する調波が防止されるようなピッチを有」するのに対して、引用発明は、そのようなピッチを有するか否かが不明である点。

第6 判断
相違点1と相違点2をあわせて検討する。
モーターの技術分野において、各国の電源事情の違い等による複数の電源の形態にユーザが対応するため又はモーターの共通化によるコスト低減のため、モーターの結線方式を星形結線又は三角結線に外部から変更可能とすることを前提として、モーター本体の外側からアクセス可能な少なくとも6の電気的な接点を有する電気的な接続部を設け、モーターの三相巻線の各端部が、前記電気的な接点のうちの一つと接続されるよう構成することは、引用文献2の段落【0004】-【0028】、【0033】-【0041】、図1-4、9-18、引用文献3の段落【0004】-【0021】、図1-6等にも開示されているとおり、従来周知の技術的事項(以下「周知事項1」という。)である。
また、モーターの技術分野において、三角結線とされたモーターでは、第3次高調波成分により三角結線内部に循環電流が発生することは、特開2005-51950号公報の段落【0016】、特開2011-244591号公報の段落【0017】、特開平6-133483号公報の段落【0013】等にも示されているように、この出願の優先日前に広く知られており(以下「周知課題」という。)、かかる周知課題の解決手段として、界磁極数が2n、スロット数が3n(nは自然数)のいわゆる2P3S×nの構造(この場合、コイルピッチ/極ピッチ角=2/3となる)のモーター構成を採ることが、引用文献4の段落【0023】、特開2005-51950号公報の段落【0017】-【0018】等にも開示されているとおり、従来周知の技術的事項(以下「周知事項2」という。)であり、当該モーター構成においては、第3次高調波だけでなく第3次高調波の倍数の第9次高調波や第15次高調波といった複数の高調波の影響も防止されるものである。
そして、引用発明においても、各国の電源事情の違い等による複数の電源の形態にユーザが対応すること、又はモーターの共通化によりコストを低減することは、当業者であれば当然考慮する課題であり、引用発明に周知事項1を適用し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、引用発明に周知事項1を適用したものにおいては、モーターの結線方式として三角結線が選択され得るため、周知課題が内在することは明らかであるから、周知課題を解決するために周知技術2を適用し、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることに格別の困難性はない。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明が奏する作用効果は、引用発明、周知事項1及び周知事項2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

第7 請求人の主張について
請求人は、令和3年4月12日提出の意見書において、「引用例4は、『3次高調波を発生させない』点を開示します(明細書[0023])。引用例5は、『5次及び7次の高調波を0とする』点を開示します(明細書[0003]等)。これらの事項は、本願の請求項1に記載の『ステーター側の磁場の調波が防止される』点に相当します。しかしながら、本願の請求項1に記載の『ステーター側の磁場の3で割り切れる次数を複数有する調波が防止される』点は、引用例1?5に開示・示唆されていません。」と主張している。
しかしながら、令和3年1月20日付けの拒絶理由通知において、引用文献4及び引用文献5は、モーターの技術分野において、モーターの性能低下の原因となる、磁石の回転によりステーター側に発生する高調波を低減するため、極ピッチに対するコイルピッチの比を最適な値に調整することが周知の事項であることを示すために挙げた文献であり、『ステーター側の磁場の3で割り切れる次数を複数有する調波が防止される』点は、引用文献5には開示されていないものの、引用文献4には開示されている。
そして、上述のとおり、三角結線とされたモーターでは、第3次高調波成分により三角結線内部に循環電流が発生するという周知課題の解決手段として、界磁極数が2n、スロット数が3n(nは自然数)のいわゆる2P3S×nの構造(この場合、コイルピッチ/極ピッチ角=2/3となる)のモーター構成を採ることは、引用文献4の段落【0023】、特開2005-51950号公報の段落【0017】-【0018】等にも開示されているとおり、従来周知の技術的事項であり、当該モーター構成においては、第3次高調波だけでなく第3次高調波の倍数の第9次高調波や第15次高調波といった複数の高調波の影響も防止されるものである。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知事項1及び周知事項2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-06-02 
結審通知日 2021-06-09 
審決日 2021-06-23 
出願番号 特願2017-92890(P2017-92890)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F04D)
P 1 8・ 537- WZ (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 達朗  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 柿崎 拓
田合 弘幸
発明の名称 真空ポンプ  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 江崎 光史  
代理人 中村 真介  

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