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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1379629
審判番号 不服2020-11779  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-24 
確定日 2021-11-11 
事件の表示 特願2018- 36849「電極及び配線形成用部材、及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月28日出願公開、特開2018- 99544〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月27日に出願した特願2015-232291号(以下「原出願」という。)の一部を平成30年3月1日に新たな特許出願としたものであって、同年10月18日に出願人名義変更届が提出され、同月23日に上申書が提出され、令和元年10月18日付けで拒絶理由が通知され、同年12月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年5月19日付けで拒絶査定がされたところ、同年8月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において令和3年2月17日付けで拒絶理由が通知され、同年4月7日に意見書及び手続補正書が提出され(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)、同月23日付けで最後の拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月17日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
第一ホットメルト層と第一絶縁層を備えるホットメルト付きシートと、
導電層と前記導電層に積層された第二ホットメルト層とを備えるホットメルト付き導電シートと、を備え、
前記ホットメルト付き導電シートは、所定形状に切り取られており、
前記ホットメルト付きシートの前記第一絶縁層の上に前記ホットメルト付き導電シートの第二ホットメルト層が貼り合わせられて、前記第一ホットメルト層、前記第一絶縁層、前記第二ホットメルト層、及び前記導電層がこの順に積層されており、心電図測定用衣服に用いられることを特徴とする電極及び配線形成用部材。」

第3 拒絶の理由
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、特許法第41条第1項の規定による優先権の基礎とされ、同法第41条第3項の規定により、その出願後に出願公開がされたものとみなされる以下の先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者が先願1に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が先願1の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

先願1:特願2015-114684号(特開2017-35457号)

第4 先願明細書等の記載事項等
1 先願の地位について
(1)先願1は、東洋紡株式会社により原出願の出願前である平成27年6月5日に出願され、その発明者は権義哲及び雲林院悠美子である。その後、平成28年5月31日に先願1に基づく優先権主張を伴う特願2016-109213号(以下「優先権主張出願」という。)が出願され、優先権主張出願は原出願の出願後である平成29年2月16日に出願公開(特開2017-35457号)がされた。

(2)本願発明1ないし4の発明者は、塩澤成弘、坂上友介、奥野彰文及び権義哲であり、先願明細書等に記載された発明の発明者は、権義哲及び雲林院悠美子であるから、本願発明1ないし4の発明者と先願明細書等に記載された発明の発明者とは同一でない。

(3)本願の出願時(原出願の出願時)の出願人は、学校法人立命館及び東洋紡株式会社であり、先願1の出願人は東洋紡株式会社であるから、本願の出願時における両出願の出願人は同一でない。

(4)先願明細書等の明細書(段落【0001】ないし【0077】)に記載された事項は、優先権主張出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0001】ないし【0016】、【0022】ないし【0062】、【0064】及び【0072】ないし【0090】に記載されており、優先権主張出願の出願公開により公開された。

(5)したがって、特許法第41条第3項の規定により、先願明細書等の明細書に記載された発明については、優先権主張出願の出願公開がされた時に先願1について出願公開がされたものとみなして、同法第29条の2本文の規定が適用される。

2 先願明細書等の明細書には、以下の記載がある(下線は当審で付加した)。
(先1-ア)「【0059】
以下の実施例、比較例で使用した絶縁層形成用樹脂、導電性ペーストは以下のようにして調製した。
(導電性ペースト)
表1に示す樹脂をジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させて、この溶液に、銀粒子(DOWAエレクトロニクス社製『凝集銀粉G-35』、平均粒径5.9μm)と、必要に応じて後述の方法で作製した表面処理カーボンナノチューブ(CNT)とを均一に分散した液を、各成分が表1に示す配合となるように加え、3本ロールミルにて混練して、導電ペーストとした。
【0060】
なお、表1に示す樹脂の詳細は、下記の通りである。
・ニトリル基含有ゴム:日本ゼオン社製『Nipol(登録商標)1042』(アクリロニトリル含量33.3質量%)
・硫黄含有ゴム:東レファインケミカル社製『チオコール(登録商標)LP-23』(硫黄含量21.5質量%)
・ポリエステル:東洋紡社製『バイロン(登録商標)RV630』
【0061】
また、表面処理カーボンナノチューブ(CNT)は、以下の方法で作製した。
(表面にアクリロニトリルブタジエンオリゴマーを有するCNTの作製)
50mgの多層カーボンナノチューブ(SWeNT MW100、SouthWest Nano Technologies社製、直径6?9nm、長さ5μm、アスペクト比556?833)を0.006mol/Lのo-フェニルフェニルグリシジルエーテルのエタノール溶液100mLに添加し、超音波処理を30分間行った。PTFE膜を用いてろ過し、エタノールで数回洗浄した後、乾燥させて表面にグリシジル基を有するカーボンナノチューブを作製した。
【0062】
次に、このカーボンナノチューブを、末端アミノ基アクリロニトリルブタジエンオリゴマーであるHyproTM 1300×16ATBN(アクリロニトリル含量18質量%、アミン等量900、Emerald Performance Materials社製)のテトラヒドロフラン溶液中に添加し、超音波処理機により30分間分散処理を行った。さらに60℃に加熱し、1時間超音波処理を行った後、PTFE膜を用いてろ過し、テトラヒドロフランで数回洗浄した後、乾燥させて表面にアクリロニトリルブタジエンオリゴマーを有するカーボンナノチューブを得た。
【0063】
なお、表1に示すポリウレタンシートの詳細は、下記の通りである。
・ホットメルト付きポリウレタンシート:日清紡社製『モビロン(登録商標)MF-10F3』
・ポリウレタンホットメルトシート:日清紡社製『モビロン(登録商標)MOB100』
【0064】
(製造例1?4)
表1に示す配合で調製した導電性ペーストを離型シートの上に塗布し、120℃の熱風乾燥オーブンで30分以上乾燥することにより、シート状の離型シート付き導電層を作製した。また、下記ポリウレタンシートは、ホットプレス機を用いて、圧力0.5kg/cm^(2)、温度130℃、プレス時間20秒の条件で、積層した。
【0065】
(製造例1、3)
次に、離型シート付き導電シートの上に表1に示すポリウレタンホットメルトシートを貼り合わせた後、離型フィルムを剥がし、ポリウレタンホットメル付き導電シートを得た。その後、表1に示すホットメルト付きポリウレタンシートを長さ19cm、幅2cmの領域の上に、ポリウレタンホットメル付き導電シートを長さ19cm、幅1cmのサイズで貼り合わせ、第一絶縁層と導電層を備えたパーツを形成した。次に、長さ19cm、幅5cmの2-Wayトリコット生地(グンセン(株)製『KNZ2740』、ナイロンヤーン:ウレタンヤーン=63%:37%(混率)、目付け194g/m^(2))の裏側に第一絶縁層と導電層を備えたパーツを積層して、伸縮性電極シートを得た。
【0066】
(製造例2、4)
次に、上記形成した第一絶縁層と導電層を備えたパーツを覆うような長さ17cm、幅2cmの領域に上記第一絶縁層を形成したものと同じホットメル付きポリウレタントシートを積層することにより、導電層の上に第二絶縁層を形成し、第一絶縁層/導電層/第二絶縁層の構成を有する伸縮性配線シートを得た。」

(先1-イ)「【0069】
<心電図測定方法とSN比算出方法>
実施例及び比較例の電極を備えたシャツを着用して、25℃50%RHの部屋で20分間安静を取った後、更に12分間の安静時の心電図を測定した。次に、時速2.7kmに設定したトレッドミルで12分間の歩行時の心電図を測定した。安静時と歩行時と共に最初の1分間と最後の1分間を除いた10分間の心電図の波形からR波の振幅の分散をシグナル(S)とし、R波とR波の間の波形の振幅の分散をノイズ(N)とし、S/Nの式でSN比を求めた。」

(先1-ウ)「【0071】
(電極配線例1)
製造例1、2において離型層付き導電層を作成後に所定のサイズ及び形状にカットして試料サイズを変更した操作を行い、電極は5cm×5cmの正方形で配線幅1cmの、第一絶縁層/導電層の構成の伸縮性電極と第一絶縁層/導電層/第二絶縁層の構成を有する伸縮性電極が一体化した試料を作成した。
【0072】
(電極配線例2)
製造例3、4において離型層付き導電層を作成後に所定のサイズ及び形状にカットして試料サイズを変更した操作を行い、電極は5cm×5cmの正方形で配線幅1cmの、第一絶縁層/導電層の構成の伸縮性電極と第一絶縁層/導電層/第二絶縁層の構成を有する伸縮性電極が一体化した試料を作成した。
【0073】
(実施例1?3、比較例1)
電極配線例1、2をそれぞれ、シャツの裏面側の表2に記載の位置に貼り付けた衣類を作成し、電極表面粗さを測定すると共に、被験者が衣類を装着して心電図を測定した。なお、実施例1?3の電極配線を貼り付けた衣類の形状の概略は図4の通りである。」

(2)(先1-ア)の段落【0064】に記載された「シート状の離型シート付き導電層」及び段落【0065】に記載された「離型シート付き導電シート」並びに(先1-ウ)の段落【0071】及び【0072】に記載された「離型層付き導電層」は、同じものを表すと認められることから、以下これらを「離型シート付き導電シート」と記すこととする。

上記(先1-ア)ないし(先1-ウ)の記載から、先願明細書等の明細書には、
「 導電性ペーストを離型シートの上に塗布し離型シート付き導電シートを作製し、
離型シート付き導電シートの上にポリウレタンホットメルトシートを貼り合わせた後、離型フィルムを剥がし、ポリウレタンホットメル付き導電シートを得、
ホットメルト付きポリウレタンシートの上に、ポリウレタンホットメル付き導電シートを貼り合わせて形成した第一絶縁層と導電層を備えたパーツであって、
離型シート付き導電シートを作成後に所定のサイズ及び形状にカットして第一絶縁層/導電層の構成の伸縮性電極と第一絶縁層/導電層/第二絶縁層の構成を有する伸縮性電極が一体化した電極配線を作成し、
電極配線をシャツの裏面側に貼り付けた衣類を作成し、被験者が衣類を装着して心電図を測定することに用いる、
第一絶縁層と導電層を備えたパーツ。」
の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1 本願発明1と先願発明とを対比する。
ア 先願発明の「ホットメルト付きポリウレタンシート」は、本願発明1の「第一ホットメルト層と第一絶縁層を備えるホットメルト付きシート」に相当する。

イ 先願発明の「ポリウレタンホットメル付き導電シート」は、本願発明1の「導電層と前記導電層に積層された第二ホットメルト層とを備えるホットメルト付き導電シート」に相当する。

ウ 先願発明の「離型シート付き導電シートを作成後に所定のサイズ及び形状にカットして」いることと、本願発明1の「前記ホットメルト付き導電シートは、所定形状に切り取られており」とは、「前記導電層は、所定形状に切り取られており」で共通する。

エ 先願発明の「ホットメルト付きポリウレタンシートの上に、ポリウレタンホットメル付き導電シートを貼り合わせて形成した」は、本願発明1の「前記ホットメルト付きシートの前記第一絶縁層の上に前記ホットメルト付き導電シートの第二ホットメルト層が貼り合わせられて、前記第一ホットメルト層、前記第一絶縁層、前記第二ホットメルト層、及び前記導電層がこの順に積層されており」に相当するといえる。

オ 先願発明の「電極配線をシャツの裏面側に貼り付けた衣類を作成し、被験者が衣類を装着して心電図を測定することに用いる」は、本願発明1の「心電図測定用衣服に用いられる」に相当する。

カ 先願発明の「第一絶縁層と導電層を備えたパーツ」は、本願発明1の「電極及び配線形成用部材」に相当する。

キ したがって、本願発明1と先願発明とは、
「 第一ホットメルト層と第一絶縁層を備えるホットメルト付きシートと、
導電層と前記導電層に積層された第二ホットメルト層とを備えるホットメルト付き導電シートと、を備え、
前記導電層は、所定形状に切り取られており、
前記ホットメルト付きシートの前記第一絶縁層の上に前記ホットメルト付き導電シートの第二ホットメルト層が貼り合わせられて、前記第一ホットメルト層、前記第一絶縁層、前記第二ホットメルト層、及び前記導電層がこの順に積層されており、心電図測定用衣服に用いられる電極及び配線形成用部材。」
の発明である点で一致し、次の点において相違する。

(相違点)
前記導電層は、所定形状に切り取られていることに関して、本願発明1においては、「前記ホットメルト付き導電シートは、所定形状に切り取られており」と特定されていることから、「ホットメルト付き導電シート」の「導電層」及び「第二ホットメルト層」は同じ形状であるといえるのに対し、先願発明においては、「離型シート付き導電シートを作成後に所定のサイズ及び形状にカットして」と特定されていることから、「離型シート付き導電シート」の段階でカットしているのか、「ポリウレタンホットメル付き導電シート」を得た後にカットしているのかが不明であり、「導電層」及び「ポリウレタンホットメルトシート」の部分が同じ形状であるかが不明な点。

2 上記相違点について検討する。
(1)先願発明の「離型シート付き導電シートを作成後に所定のサイズ及び形状にカット」するタイミングについて検討する。

ア 先願発明において、「離型シート付き導電シートを作成後に所定のサイズ及び形状にカット」するタイミングは特定されていないが、(ア)「離型シート付き導電シート」の段階でカットする、及び(イ)「ポリウレタンホットメル付き導電シート」を得た後にカットする、の2通りのタイミングが想定される。

イ 先願発明の「ポリウレタンホットメルトシート」は「導電層」を「ホットメルト付きポリウレタンシート」に貼り合わせるための接着層として機能するものであって、積層されるものであるから、先願発明において、「離型シート付き導電シートを作成後に所定のサイズ及び形状にカット」するタイミングは、「離型シート付き導電シート」の段階であっても、「ポリウレタンホットメル付き導電シート」を得た後の段階であってもよいものであり、どちらのタイミングを採用するかは設計事項であるといえる。

ウ そして、カットするタイミングとして「ポリウレタンホットメル付き導電シート」を得た後の段階を採用した場合、「導電層」及び「ポリウレタンホットメルトシート」の部分は同じ形状となる。

エ したがって、上記相違点は設計上の微差にすぎず、実質的な相違点であるとはいえないから、本願発明1は先願発明と実質的に同一である。

(2)さらに、先願発明の「離型シート付き導電シートを作成後に所定のサイズ及び形状にカット」するタイミングについて検討する。

ア 上記(先1-ウ)の「【0071】
(電極配線例1)
製造例1、2において離型層付き導電層を作成後に所定のサイズ及び形状にカットして試料サイズを変更した操作を行い、電極は5cm×5cmの正方形で配線幅1cmの、第一絶縁層/導電層の構成の伸縮性電極と第一絶縁層/導電層/第二絶縁層の構成を有する伸縮性電極が一体化した試料を作成した。」との記載から、「電極配線例1」の作成は、サイズ及び形状の変更以外は、「製造例1、2」と同様の方法により行うものといえる。

イ 上記(先1-ア)の「【0065】
(製造例1、3)
次に、離型シート付き導電シートの上に表1に示すポリウレタンホットメルトシートを貼り合わせた後、離型フィルムを剥がし、ポリウレタンホットメル付き導電シートを得た。その後、表1に示すホットメルト付きポリウレタンシートを長さ19cm、幅2cmの領域の上に、ポリウレタンホットメル付き導電シートを長さ19cm、幅1cmのサイズで貼り合わせ、第一絶縁層と導電層を備えたパーツを形成した。」との記載によれば、「製造例1」では、ポリウレタンホットメル付き導電シートを作成し、長さ19cm、幅1cmのサイズにカットしたものをホットメルト付きポリウレタンシートの上に貼り合わせているといえる。

ウ そうすると、上記ア及びイから、先願発明の「離型シート付き導電シートを作成後に所定のサイズ及び形状にカットし」は、「製造例1」のような製造方法を前提としたものであると解されるから、「ポリウレタンホットメル付き導電シート」を得た後にカットすることを意味しているといえる。
そして、「ポリウレタンホットメル付き導電シート」を得た後にカットした場合、「導電層」及び「ポリウレタンホットメルトシート」の部分は同じ形状となる。

エ したがって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。

(3)加えて、先願発明の「離型シート付き導電シートを作成後に所定のサイズ及び形状にカットし」が、「ポリウレタンホットメル付き導電シート」を得た後にカットすることを意味せず、「離型シート付き導電シート」の段階でカットするものであると解される場合について検討する。


(ア)接着層を有する部材を作成する際、作成する部材の所望のサイズよりも面積の大きい接着層を有するシート状の部材をあらかじめ作成した上で、所望のサイズに切断することは、従来周知(以下、当該周知な手法を「周知技術1」という。)であり、また、先願発明は、「離型シート付き導電シート」の段階でカットすることを格別の技術的要件とするものでもないから、どのタイミングでカットするかは単なる選択事項にすぎず、先願発明の「ポリウレタンホットメル付き導電シート」を形成する際、周知技術1を用いることも、設計事項にすぎない。
そして、周知技術1を用いた場合、「導電層」及び「ポリウレタンホットメルトシート」の部分は同じ形状となる。

(イ)したがって、上記相違点は、設計上の微差にすぎず、実質的な相違点ではない。


(ア)本願発明1は、「前記ホットメルト付き導電シートは、所定形状に切り取られており」と特定されているが、本願発明1は物の発明であることから、当該特定事項は、方法的な構成である、どのタイミングでシートを切り取るかということではなく、その結果として生じる、「ホットメルト付き導電シート」の「導電層」及び「第二ホットメルト層」は同じ形状であることを特定するものと解した場合について検討する。

(イ)先願発明の「ポリウレタンホットメルトシート」は「導電層」を「ホットメルト付きポリウレタンシート」に貼り合わせるための接着層として機能するものであるから、「ポリウレタンホットメルトシート」の部分と「導電層」の形状は同じであっても異なっていてもよいものであり、先願発明は、「ポリウレタンホットメルトシート」の部分と「導電層」の形状が同じであるものを排除するものではない。

(ウ)そして、接着対象物の形状とそれに設ける接着層の形状を同じ形状とすることは、様々な技術分野において、広く一般的に用いられている技術手段にすぎず、先願発明においても、接着対象物の形状とそれに設ける接着層の形状を同じ形状としている蓋然性は極めて高い。
仮に、そうでないとしても、先願発明において、「所定のサイズ及び形状にカット」した「離型シート付き導電シート」と同じサイズ及び形状に「ポリウレタンホットメルトシート」をカットし、両者をズレなく貼り合わせたものとして「ポリウレタンホットメル付き導電シート」を構成すること、すなわち、「導電層」及び「ポリウレタンホットメルトシート」の部分が同じ形状のものとすることは、上記した通常用いられている技術手段を単に採用したにすぎないものである。

(エ)したがって、上記相違点は、設計上の微差にすぎず、実質的な相違点ではない。

(4)小括
以上のとおりであるから、上記相違点は実質的な相違点であるとはいえず、本願発明1は先願発明と実質的に同一である。

3 請求人の主張について
(1)請求人は、令和3年6月17日提出の意見書において、以下の主張をする。
「本願請求項1のように『導電層』と『第二ホットメルト層』を積層状態で同じ形状で切り取ることによって、2層が一体化した同一形状のものが得られるため、これを『第一ホットメルト層と第一絶縁層を備えるホットメルト付きシート』上に配置すれば、各層のそれぞれを順次積層する場合よりも手間が省け、更には位置合わせが容易になります。
また本願請求項1は電極及び配線形成用部材に係る発明であるところ、電極や配線は製品毎に形状が異なり、特に柔軟なフィルム状のものを順次積層して電極や配線を組み立てる工程は自動機械化が難しいため人手での作業が必要となります。ここで上記の通り『導電層』と『第二ホットメルト層』が同一形状かつ一体化していることによって当該工程を容易化することができますので、これは上記組み立て工程上の大きなメリットであると言えます。
また、『導電層』と『第二ホットメルト層』は同一形状であるため、ホットプレス時によるホットメルト接着層のはみ出しを低減することができ、プレス機の熱板の汚れを低減することができるというメリットもあります。
更に、『導電層』と『第二ホットメルト層』が同一形状かつ一体化していることにより、『導電層』の一方面の全面にわたって『第二ホットメルト層』が存在することになる結果、『第二ホットメルト層』を介した『導電層』と『第一絶縁層』との接着強度が向上するという効果も発揮されます。
更に、『導電層』と『第二ホットメルト層』が同一形状かつ一体化していることにより、『導電層』の一方面の全面にわたって『第二ホットメルト層』が存在することになる結果、『導電層』と『第一絶縁層』の間に間隙が形成され難くなるため、間隙からの汗などの水分の侵入を回避し易くすることができますので、止水性も向上されます。
以上の通り、上記相違点を採用することにより、数多くの新たな効果が発揮されるため、上記相違点は微差であるとまでは言えないものと思料致します。
従いまして、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に係る発明と実質的同一の発明ではありません。」

(2)しかしながら、請求人が主張する効果は、いずれも周知技術1による自明な効果であって、新たな効果を奏するものとはいえない。
また、「手間が省け、更には位置合わせが容易」、「組み立て工程上の大きなメリットである」、及び「プレス機の熱板の汚れを低減することができるというメリット」といった効果は、製造方法に係る効果であって、物の発明である本願発明1の奏する効果であるとはいえない。
さらに、「『導電層』と『第一絶縁層』との接着強度が向上する」、及び「止水性も向上され」るという効果は、ホットメルト層の材料やホットプレスの条件による影響も受けるものであるとともに、「導電層」と「第二ホットメルト層」が同一形状ではなく、「第二ホットメルト層」の方が大きい場合でも得られる効果であるから、上記相違点に係る構成によりもたらされるものとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、先願発明と実質的に同一であり、しかも、本願発明1の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく、また、本願出願時において、その出願人が先願1の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-09-03 
結審通知日 2021-09-07 
審決日 2021-09-22 
出願番号 特願2018-36849(P2018-36849)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門田 宏  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 伊藤 幸仙
渡戸 正義
発明の名称 電極及び配線形成用部材、及びその製造方法  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  

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