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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1379708
審判番号 不服2021-2366  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-24 
確定日 2021-11-30 
事件の表示 特願2019-501269「弾性表面波素子」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月30日国際公開、WO2018/155305、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年) 2月15日(優先権主張 2017年(平成29年) 2月22日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 2年 5月 7日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 7月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年11月18日付け:拒絶査定
令和 3年 2月24日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和 2年11月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

1.特開2015-56712号公報
2.特開昭52-9389号公報


第3 本願発明
本願請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、令和 3年 2月24日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
LiNbO_(3)圧電単結晶を含む基板と、前記基板上に設けられた第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に設けられたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記第1誘電体層上に設けられた第2誘電体層とを備え、
前記第1誘電体層は、酸化ケイ素を含み、
前記LiNbO_(3)圧電単結晶のYカット角は、100°以上160°以下であり、
前記IDT電極に高周波信号が入力された場合に前記基板にレイリー波を発生させることで、前記基板において前記高周波信号を伝搬する
弾性表面波素子。
【請求項2】
前記第2誘電体層は、酸化ケイ素を含む
請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記第1誘電体層は前記第2誘電体層よりも厚みが薄い
請求項1または2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記IDT電極に高周波信号が入力され、前記弾性表面波素子にて前記レイリー波を発生させた場合に、前記レイリー波の振動の最大振幅の発生位置が、前記第2誘電体層内に存在する
請求項1?3のいずれか1項に記載の弾性表面波素子。」


第4 引用文献、引用発明等
1.特開2015-56712号公報(以下、「引用文献1」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の記載がある。(下線は当審が付与。)

「【0012】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について、図面を用いて説明する。図1は、実施の形態1における弾性波素子の断面模式図(IDT電極の電極指の延伸方向に垂直な断面模式図)である。
【0013】
図1において、弾性波素子1は、圧電基板2と、圧電基板2の上に形成されて例えばレイリー波等の表面波を主要弾性波として励振する電極指3を有するIDT電極と、圧電基板2の上方に電極指3を覆うように形成された酸化物からなる第1誘電膜4とを備える。ここで、電極指3のピッチはPである。また、弾性波素子1は、電極指3の上において、電極指3と第1誘電膜4との間に形成された非酸化物からなる第2誘電膜6を備える。さらに、弾性波素子1は、圧電基板2と電極指3との間に形成された第3誘電膜7とを備える。この第3誘電膜7を伝搬する横波の速度Sは圧電基板2を伝搬する主要弾性波の速度よりも速い。これにより、第3誘電膜7による損失を抑制しながら、弾性波素子1の電気機械結合係数をより小さく調整することができ、使用する携帯電話等の通信システムに最適な通過帯域幅を有するフィルタを構成することができる。
【0014】
さらに、またIDT電極における隣り合う電極指3の間にて、第1誘電膜4と第3誘電膜7とは接する。
【0015】
弾性波素子1は、電極指3の上に形成された非酸化物からなる第2誘電膜6によって、例えば電極指3の上に第1誘電膜4を形成するときに、電極指3の酸化が抑制される。すなわち、IDT電極における電極指3の腐食が抑制される。
【0016】
なお、弾性波素子1において、IDT電極における隣り合う電極指3の間にて、第3誘電膜に接する誘電膜を第1誘電膜4とすることにより、第2誘電膜6を形成することによって生じる主要弾性波の周波数変動を抑制している。これにより、該周波数変動による弾性波素子1の特性ばらつきを防止することができる。
【0017】
圧電基板2は、例えばレイリー波を主要弾性波として伝搬させる圧電基板であるが、SH波(Shear Horizontal波)やバルク波等の他の弾性波を主要弾性波として伝搬させる圧電基板であっても良い。ただし、上記「電極指3間において第3誘電膜7と接して第1誘電膜4を設けることによる主要弾性波の周波数変動の抑制効果」は、圧電基板2がレイリー波を主要弾性波として伝搬させる圧電基板である場合に顕著に現れる。圧電基板2がレイリー波を主要弾性波として伝搬する圧電基板の場合、圧電基板2は、カット角及び主要弾性波の伝搬方向がオイラー角(φ,θ,ψ)表示で、(φ,θ,ψ)=(-10°≦φ≦10°,33°≦θ≦43°,-10°≦ψ≦10°)を満たすニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系基板、或いは、(φ,θ,ψ)=(-1°≦φ≦1°,113°≦θ≦135°,-5°≦ψ≦5°)の水晶基板、或いは、(φ,θ,ψ)=(-7.5°≦φ≦2.5°,111°≦θ≦121°,-2.5°≦ψ≦7.5°)のタンタル酸リチウム(LiTaO_(3))系基板である。
【0018】
なお、圧電基板2は、上記以外のオイラー角を有する、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系、タンタル酸リチウム(LiTaO_(3))系、或いは、ニオブ酸カリウム(KNbO_(3))系の基板、又は薄膜など他の圧電媒質であっても構わない。例えば、圧電基板2は、SH波もしくはラブ波を伝搬する-25°?25°回転Yカットのニオブ酸リチウム、或いはSH波もしくはラブ波を伝搬する25°?50°回転Yカットのタンタル酸リチウム基板であっても良い。
【0019】
IDT電極は、弾性波素子1の上方からみて対になった櫛形電極の電極指3が噛み合うように圧電基板2上に配置された共振器等を構成する。IDT電極の電極指3は、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、チタン、タングステン、モリブデン、白金、又はクロムからなる単体金属、若しくはこれらを主成分とする合金、またはこれらの積層構造である。IDT電極の電極指3が積層構造の場合は、IDT電極の電極指3は、一例として、圧電基板2側から順に、モリブデンを主成分とするMo電極層と、このMo電極層の上に設けられたAlを主成分とするAl電極層とを有する。Mo電極層は相対的に密度が高いので、主要弾性波を圧電基板2の表面に閉じ込めることができ、Al電極層により、IDT電極の電極指3の電気抵抗を下げることができる。このMo電極層にはシリコン等の混合物が混入されていても良いし、Al電極層にはマグネシウム、銅、シリコン等の混合物が混入されていても良い。これにより、IDT電極の電極指3の耐電力性を向上することができる。
【0020】
このIDT電極の電極指3の総膜厚は、IDT電極の電極指3の総密度bとし、アルミニウムの密度をaとした場合、0.05λ×b/a以上0.15λ×b/a以下であることが望ましい。ここで、λはIDT電極の電極指3のピッチPの2倍で決まる波長である。このときに、弾性波素子1の表面に主要弾性波を集中させることができる。
【0021】
第1誘電膜4は、酸化物からなる無機絶縁膜である。この第1誘電膜4は、例えば、これを伝搬する横波の速度がIDT電極の電極指3によって励振される主要弾性波の速度より遅い媒質であり、一例として、酸化ケイ素(SiO_(2))を主成分とする媒質からなる。この酸化ケイ素は、圧電基板2の周波数温度係数(TCF:Temperature Coefficient of Frequency)と逆符号の周波数温度係数を有する。この酸化ケイ素を第1誘電膜4として使用することで、弾性波素子1の周波数温度特性を向上させることができる。
【0022】
第1誘電膜4が酸化ケイ素の場合、IDT電極の電極指3によって励振される主要弾性波の周波数温度特性の絶対値が所定値(40ppm/℃)以下になるようにその膜厚が設定されている。なお、本実施の形態でいう第1誘電膜4の膜厚とは、隣り合うIDT電極の電極指3の間における第1誘電膜4と第3誘電膜7との境界から第1誘電膜4の上面の距離Hを指す。上記所定値を満たす酸化ケイ素からなる第1誘電膜4の膜厚は、0.2λ以上0.5λ以下である。
【0023】
第2誘電膜6は、非酸化物からなる無機絶縁膜である。これにより、電極指3の上に第1誘電膜4を形成するときに、電極指3の酸化が抑制される。すなわち、電極指3の腐食が抑制される。この効果は、第2誘電膜6が窒化ケイ素などの窒化物或いは炭化ケイ素などの炭化物からなる無機絶縁膜である場合に顕著に現れる。また、第2誘電膜6は、例えば、これを伝搬する横波の速度がIDT電極の電極指3によって励振される主要弾性波の速度より速い媒質、或いは第1誘電膜4を伝搬する横波の速度より速い媒質であり、一例として、ダイヤモンド膜、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、窒化アルミニウム、または酸化アルミニウムを主成分とする媒質である。
【0024】
第3誘電膜7は、これを伝搬する横波の速度が圧電基板2を伝搬する主要弾性波の速度よりも速い媒質からなる。これにより、第3誘電膜7による損失を抑制しながら、弾性波素子1の電気機械結合係数をより小さく調整することができ、使用する携帯電話等の通信システムに最適な通過帯域幅を有するフィルタを構成することができる。圧電基板2が水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系、タンタル酸リチウム(LiTaO_(3))系、或いは、ニオブ酸カリウム(KNbO_(3))系である場合、第3誘電膜7として、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、ダイヤモンド膜、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン等を採用すればよい。
【0025】
また、第3誘電膜7は、その誘電率が圧電基板2の誘電率より小さい媒質でも良い。これにより、弾性波素子1の電気機械結合係数をより小さく調整することができ、使用する携帯電話等の通信システムに最適な通過帯域幅を有するフィルタを構成することができる。圧電基板2がニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系、タンタル酸リチウム(LiTaO_(3))系、或いは、ニオブ酸カリウム(KNbO_(3))系である場合、第3誘電膜7として、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、ダイヤモンド膜、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、窒化アルミニウム等を採用すればよい。」

「【0038】
本発明にかかる弾性波素子は、弾性波素子の信頼性と量産性を向上させるという効果を有し、携帯電話等の電子機器に適用可能である。」

「【図1】



したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「携帯電話等の電子機器に適用可能な弾性波素子1であって(【0038】)、
圧電基板2と、
圧電基板2の上に形成されて、レイリー波等の表面波を主要弾性波として励振する電極指3を有するIDT電極と、
圧電基板2の上方に電極指3を覆うように形成された酸化物からなる第1誘電膜4と、
電極指3の上において、電極指3と第1誘電膜4との間に形成された非酸化物からなる第2誘電膜6と、
圧電基板2と電極指3との間に形成された第3誘電膜7とを備え(【0013】)、
圧電基板2がレイリー波を主要弾性波として伝搬する圧電基板の場合、圧電基板2は、カット角及び主要弾性波の伝搬方向がオイラー角(φ,θ,ψ)表示で、(φ,θ,ψ)=(-10°≦φ≦10°,33°≦θ≦43°,-10°≦ψ≦10°)を満たすニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系基板であり(【0017】)、
第3誘電膜7は、圧電基板2がニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系である場合、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、ダイヤモンド膜、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン等を採用すればよい(【0024】)、
弾性波素子1。」


2.特開昭52-9389号公報(以下、「引用文献2」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の記載がある。(下線は当審が付与。)

「圧電体基板上にインターディジタル形電極を設けて構成した表面波装置は周知である。
この表面波装置の入力インピーダンスや出力インピーダンスを高くする方法として圧電体基板上に誘電体膜を介して電極を設けることも特開昭48-26452号に記載されて公知である。
しかしながらこの文献の技術を用いて表面波装置を製造したところ全く表面波の伝播のないことが判った。」(公報第1頁左欄第18行?右欄第8行)

「しかしながら、実際には60MHzを使用周波数とし、LiNbO_(3)の上にSiO_(2)(ε=4)をλ/15すなわち2μからλ/30すなわち1μの膜厚範囲で附着し、さらにくし形電極を設けて、構成した表面波素子は全く表面波が走らず、受電々極には信号が得られないことがわかった。」(公報第1頁右欄第15行?第2頁左上欄第1行)

「本発明は上記点に鑑みなされたもので弾性表面波が伝播し、しかも電極のインピーダンスを高くすることが可能な弾性表面波装置を提供するものである。」(公報第2頁左上欄第2?5行)

「さらにまた誘電率30?40のLiNbO_(3)圧電体基板上に誘電率3.5?4.6のSiO_(2)誘電体膜上に入・出力電極を形成した表面波装置において誘電体膜の厚さを300Åと2000Åにした時の特性は第7図の前記したd点J点である。
すなわちd点もJ点も第7図のPQRSを結ぶ四角形の範囲内にあり、表面波が伝播し、入・出力インピーダンスを高くすることができる。」(公報第3頁左上欄第18行?右上欄第5行)

したがって、上記引用文献2には、

「弾性表面波が伝播し、しかも電極のインピーダンスを高くすることが可能なように、誘電率30?40のLiNbO3圧電体基板上に誘電率3.5?4.6のSiO2誘電体膜上に入・出力電極を形成した表面波装置において、誘電体膜を適当な厚さとすること」(以下、「引用文献2記載技術」という。)

が記載されている。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)『LiNbO_(3)圧電単結晶を含む基板と、前記基板上に設けられた第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に設けられたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記第1誘電体層上に設けられた第2誘電体層とを備え、』について

(ア-1)
引用発明1の「圧電基板2」は、「レイリー波を主要弾性波として伝搬する圧電基板の場合、カット角及び主要弾性波の伝搬方向がオイラー角(φ,θ,ψ)表示で、(φ,θ,ψ)=(-10°≦φ≦10°,33°≦θ≦43°,-10°≦ψ≦10°)を満たすニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系基板」であるから、本願発明1の『LiNbO_(3)圧電単結晶を含む基板』とは、「LiNbO_(3)圧電基板」という点で共通している。

(ア-2)
引用発明1の「第3誘電膜7」は、「圧電基板2と電極指3との間に形成され」るものであり、引用文献1の【図1】の記載も参酌すると、本願発明1でいう『前記基板上に設けられた第1誘電体層』に対応するものである。

(ア-3)
引用発明1の「圧電基板2の上に形成されて、レイリー波等の表面波を主要弾性波として励振する電極指3を有するIDT電極」は、上記「(ア-2)」で言及した事項、及び、引用文献1の【図1】の記載から、本願発明1でいう『前記第1誘電体層上に設けられたIDT電極』に対応するものである。

(ア-4)
引用発明1の「圧電基板2の上方に電極指3を覆うように形成された酸化物からなる第1誘電膜4」は、上記「(ア-3)」で言及した事項、及び、引用文献1の【図1】の記載から、本願発明1でいう『前記IDT電極を覆うように前記第1誘電体層上に設けられた第2誘電体層』に対応するものである。

(ア-5)
上記「(ア-1)」から「(ア-4)」より、本願発明1と引用発明1とは、「LiNbO_(3)圧電基板と、前記基板上に設けられた第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に設けられたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記第1誘電体層上に設けられた第2誘電体層とを備え」るという点で共通している。


(イ)『前記第1誘電体層は、酸化ケイ素を含み、』について

引用発明1の「第3誘電膜7」としては、「圧電基板2がニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系である場合、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、ダイヤモンド膜、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン等を採用」されるのであるから、前記「第3誘電膜7」の具体的なものとして、本願発明1で特定されている『酸化ケイ素を含』むか否かは明らかでない。


(ウ)『前記LiNbO_(3)圧電単結晶のYカット角は、100°以上160°以下であり、』について

引用発明1の「圧電基板2」は、「レイリー波を主要弾性波として伝搬する圧電基板の場合、カット角及び主要弾性波の伝搬方向がオイラー角(φ,θ,ψ)表示で、(φ,θ,ψ)=(-10°≦φ≦10°,33°≦θ≦43°,-10°≦ψ≦10°)を満たすニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系基板」であるのに対し、本願発明1の『LiNbO_(3)圧電単結晶を含む基板』は、『LiNbO_(3)圧電単結晶のYカット角』が、『100°以上160°以下』とされ、「カット角」の範囲について、文言上の表現が相違する。


(エ)『前記IDT電極に高周波信号が入力された場合に前記基板にレイリー波を発生させることで、前記基板において前記高周波信号を伝搬する』について

引用発明1の「弾性波素子1」は、「携帯電話等の電子機器に適用可能」なものであるから、引用発明1のIDT電極に入力される信号は高周波信号であることは明らかである。
そして、引用発明1の「圧電基板2」は、「レイリー波を主要弾性波として伝搬する」ものであるから、本願発明1と引用発明1とは、『前記IDT電極に高周波信号が入力された場合に前記基板にレイリー波を発生させることで、前記基板において前記高周波信号を伝搬する』という点で共通している。


(オ)『弾性表面波素子』について

引用発明1の「弾性波素子1」が本願発明1でいう『弾性表面波素子』に対応することは明らかである。


上記「(ア)」から「(オ)」で対比した事項を踏まえると、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「LiNbO_(3)圧電基板と、前記基板上に設けられた第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に設けられたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記第1誘電体層上に設けられた第2誘電体層とを備え、
前記IDT電極に高周波信号が入力された場合に前記基板にレイリー波を発生させることで、前記基板において前記高周波信号を伝搬する
弾性表面波素子。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1における『基板』は、『LiNbO_(3)圧電単結晶を含む』ものであるのに対し、引用発明1における「圧電基板2」は、「ニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系基板」であって、『単結晶を含む』とは特定されていない点。

(相違点2)本願発明1においては、『第1誘電体層』が『酸化ケイ素』を含むのに対し、引用発明1の「第3誘電膜7」が酸化ケイ素を含むかどうかは、引用文献1には明示されていない点。

(相違点3)本願発明1の『LiNbO_(3)圧電単結晶を含む基板』は、『前記LiNbO_(3)圧電単結晶のYカット角』が『100°以上160°以下』であるのに対し、引用発明1の「圧電基板2」は、「カット角及び主要弾性波の伝搬方向がオイラー角(φ,θ,ψ)表示で、(φ,θ,ψ)=(-10°≦φ≦10°,33°≦θ≦43°,-10°≦ψ≦10°)を満たすニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))系基板」である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記(相違点2)について検討する。
本願発明1は『第1誘電体層』が『酸化ケイ素を含む』ことによって、本願明細書の段落【0012】に記載されるように、製造時において、酸化ケイ素を含む第1誘電体層の厚さばらつきが生じる場合であっても、弾性表面波素子の比帯域のばらつきを抑制することができるという効果を奏するものである。
一方、引用文献2記載技術は、「弾性表面波が伝播し、しかも電極のインピーダンスを高くする」ことを可能とするため、「LiNbO_(3)圧電体基板」上に「SiO_(2)誘電体膜」を適当な膜厚により形成するものであり、その目的及び効果は本願発明1のものとは異なるものである。
してみると、本願発明1において、『第1誘電体層』に『酸化ケイ素を含む』ものを用いることの目的、及び、そのような構成を採用することによって奏する効果の点については、引用文献1及び引用文献2には記載も示唆もされておらず、引用文献1及び引用文献2の記載からは予測し得ない効果を有するものといえる。
以上を踏まえると、本願発明1は、当業者といえども、引用発明1及び引用文献2記載技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2記載技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

本願発明2?4も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2記載技術に基いて容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
1.進歩性(特許法第29条第2項)について
本願発明1?4は、前述のとおり、上記相違点2に関する構成を備えるものであるから、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1、2基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

2.明確性(特許法第36条第6項第2号)について
特許請求の範囲の記載に明確でない点は認められない。したがって、原査定の理由2を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-11-10 
出願番号 特願2019-501269(P2019-501269)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H03H)
P 1 8・ 121- WY (H03H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 伊藤 隆夫
衣鳩 文彦
発明の名称 弾性表面波素子  
代理人 傍島 正朗  
代理人 吉川 修一  

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