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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 G03F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03F |
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管理番号 | 1379738 |
審判番号 | 不服2020-10589 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-07-30 |
確定日 | 2021-11-08 |
事件の表示 | 特願2019-125061「光感応性酸発生剤およびそれらを含むフォトレジスト」拒絶査定不服審判事件〔令和元年12月5日出願公開,特開2019-207415〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 (1) 特願2002-545309号(以下「もとの特許出願」という。)は,2001年(平成13年)11月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年(平成12年)11月3日 米国)を国際出願日とする出願である。 (2) 特願2008-32677号(以下「第二出願」という。)は,もとの特許出願の一部を平成20年2月14日(優先権主張は上記のとおりである。以下同じ。)に新たな特許出願としたものである。 (3) 特願2012-255880号(以下「第三出願」という。)は,第二出願の一部を平成24年11月22日に新たな特許出願としたものである。 (4) 特願2014-125020号(以下「第四出願」という。)は,第三出願の一部を平成26年6月18日に新たな特許出願としたものである。 (5) 特願2016-201651号(以下「第五出願」という。)は,第四出願の一部を平成28年10月13日に新たな特許出願としたものである。 (6) 特願2019-125061号(以下「本件出願」という。)は,第五出願の一部を令和元年7月4日に新たな特許出願としたものである。 本件出願の手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。 令和元年 8月 5日付け:手続補正書 令和元年11月15日付け:拒絶理由通知書 令和2年 2月21日付け:意見書 令和2年 2月21日付け:手続補正書 令和2年 3月25日付け:拒絶査定 令和2年 7月30日付け:審判請求書 令和2年 7月30日付け:手続補正書 令和2年10月23日付け:拒絶理由通知書 令和3年 4月26日付け:意見書 2 本願発明 本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は,令和2年2月21日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。なお、令和2年7月30日付け手続補正書では、特許請求の範囲は補正されていない。 「 組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含み,その光感応性酸発生剤が放射線で露光されることにより,化学式 R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H (式中,Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル,置換されていてもよい炭素環式芳香族基,置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり,R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし,R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく,CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)-基であることはなく,CF_(3)(CFH)-基であることはなく,C_(2)H_(5)(CF_(2))-基であることはない。) で表されるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる,フォトレジスト組成物。」 3 拒絶の理由 令和2年10月23日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由は,以下のとおりである。 ●理由1:(サポート要件)本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が,発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 ●理由2(進歩性)本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開2000-147753号公報 引用文献2:旧東ドイツ国経済特許第295421号明細書 引用文献3:特開平8-53442号公報 (当合議体注:引用文献1?引用文献3は,いずれも主引用例である。) ●理由3:(拡大先願)本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は,その優先権主張の日前の他の特許出願であって,その優先権主張の日後に出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本件出願の発明者が他の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件出願の時において,その出願人が他の特許出願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。 先願1:特願2000-321128号(特開2002-131897号) 第2 当合議体の判断 1 理由1(サポート要件)について (1) 発明の課題 本件出願の明細書の【0006】及び【0009】の記載からみて,本願発明の発明が解決しようとする課題は,「ポジ型,ネガ型のいずれのフォトレジスト組成物においても使用することができ,相分離やパーフルオロアルキル酸によって示されうる他の移動をする傾向がない光感応性酸発生剤を含むフォトレジスト組成物を提供すること」にあると認められる。 (2) 判断 前記(1)で述べた発明の課題に関して、本件出願の明細書には,本願発明の「光感応性酸発生剤」が,「ポジ型,ネガ型のいずれのフォトレジスト組成物においても使用することができ」ること,及び「相分離やパーフルオロアルキル酸によって示されうる他の移動をする傾向がない」ことについて,何ら理論的な説明がなされていない。また,本件出願の明細書には,本願発明の「光感応性酸発生剤」の要件を満たす具体的な化合物を合成してフォトレジスト組成物を作成したことまでは記載されている(【0106】?【0111】)が,その数は1つにとどまる。さらに,本件出願の明細書には,こうして作成したフォトレジスト組成物を使用して「レリーフ像を得る」(【0112】)という記載はあるが,その評価結果は開示されていない。 そうしてみると,本願発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができず,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が本件出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。 したがって,本願発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。 (3) 請求人の主張 請求人は,令和3年4月26日付け意見書において,概略,[A]本願発明の光感応性酸発生剤化合物を含むフォトレジスト組成物が優れたリソグラフィ性能を示すことは,【0009】に記載のとおりであり,[B]実施例(【0106】?【0108】)において,本願発明の光感応性酸発生剤化合物に該当する「ジ(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウム1,1-ジフルオロ-1-スルホネート-2-(1-ナフチル)エチレン」(以下「実施例化合物」という。)を合成し,[C]【0109】?【0112】において,実施例化合物を含むフォトレジスト組成物からレリーフ像を得ることを開示しており,[D]実験的事実としてこのフォトレジスト組成物からは好ましいレリーフ像が得られるのであるから,発明の詳細な説明の記載に不足はなく,[E]【0009】に記載のとおりであるから,実施例に記載された化合物を,本願発明の光感応性酸発生剤化合物の範囲にまで一般化可能であると主張する。 確かに,本件出願の明細書の【0106】?【0108】には,本願発明の化学式において,Rが1-ナフチル基,R^(1)及びR^(2)が水素である場合の化合物(実施例化合物)の合成過程が記載されている。また,【0109】?【0111】には,本願発明が前提とする紫外線の波長に適したものか否かは措くとして,ビニルフェノール,スチレン及びt-ブチルアクリレートの三元共重合体の樹脂バインダーと,実施例化合物と,乳酸エチル(溶媒)からなるフォトレジスト組成物を製造したことが,一応,記載されている。 しかしながら,【0112】においては,「塗装ウェーハを0.26N水酸化テトラメチルアンモニウムの水溶液で処理して,像形成させたレジスト層を現像し,レリーフ像を得る。」という記載はあるものの,その評価結果,すなわち,「相分離やパーフルオロアルキル酸によって示されうる他の移動をする傾向がないこと」を示す実験結果は,いっさい開示されていない(例えば,パーフルオロアルキル系の光感応性酸発生剤化合物との比較結果が示されていない。)。また,ネガ型フォトレジストへの適用については,例示すらない。 加えて,本願発明の光感応性酸発生剤化合物の範囲には,例えば,RがパーフルオロC_(4)アルキルであり,R^(1)もフッ素であり,R^(2)のみが水素である化合物も含まれるが,このような化合物と実施例化合物とが,「相分離やパーフルオロアルキル酸によって示されうる他の移動をする傾向」において,大きく相違することは,化合物の構造からみて明らかである。 したがって、請求人の主張は採用できない。 (4) 小括 本願発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 2 理由2(進歩性)引用文献1を主引用例とする場合について (1) 引用文献1の記載 引用文献1(特開2000-147753号公報)は,本件出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,イオン性および非イオン性光酸発生剤化合物の混合物を含有してなる新しいフォトレジスト組成物に関する。本発明の組成物は,サブミクロン寸法で高解像度の形状(feature)を実現することが可能な深UVフォトレジスト(193nmおよび248nmにおけるイメージングを含む)として極めて有用である。」 イ 「【0002】 【従来の技術】フォトレジストは,基板に画像を転写するための感光膜であり,ネガ画像またはポジ画像を形成する。基板上にフォトレジストを被覆後,被膜は,紫外線などの活性化エネルギー源にパターン形成フォトマスクを通して露光されて,フォトレジスト被膜に潜像を形成する。 …省略… 【0005】 【発明が解決しようとする課題】比較的最近,深UV光線(deep UV radiation)で光イメージングすることができるフォトレジストに対する関心が高まってきた。 …省略… 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者らは,フォトレジスト組成物に混合して優れたリトグラフ特性をもたらすことができる光酸発生剤化合物(PAG)の新しい混合物,特に化学増幅ポジ型レジストを発見した。好ましいPAG混合物は,深UV光線,特に248nmおよび/または193nmの露光波長に露光させると光活性化することができる。 【0007】本発明のPAG混合物は,少なくとも1種のイオン性PAGおよび少なくとも1種の非イオン性PAGを含む。 …省略… 【0008】本発明は,イオン性PAGおよび非イオン性PAGの混合物を含むフォトレジスト組成物も提供する。PAG混合物は,多様なレジスト系の中で用いることができ,好ましくは,PAG混合物は,樹脂バインダー成分としてアクリレート含有ポリマーをからなるレジスト組成物中で用いられる。 …省略… 【0011】 【発明の実施の形態】 …省略… 【0012】オニウム塩は,一般に,本発明により用いるために好ましいイオン性PAGである。 …省略… 【0023】本発明のPAG混合物およびフォトレジスト組成物の中で多様な非イオン性PAGを用いることができる。 …省略… 【0026】N-スルホニルオキシイミド光酸発生剤も本発明のPAG混合物および組成物中で非イオン性PAGとして用いるために適し,それらには,国際特許出願公開公報第WO94/10608号に開示されたN-スルホニルオキシイミド,例えば,下記の式, 【0027】 【化5】 【0028】(式中,炭素原子は,単結合,二重結合または芳香族結合を有する2炭素構造を形成し,あるいは3炭素構造を形成し,すなわち,環は代わりに5員環または6員環であり,XaRは,-C_(n)H_(2n+1)(式中,n=1?8),-C_(n)F_(2n+1)(式中,n=1?8),樟脳置換基,-2(9,10-ジエトキシアントラセン),-(CH_(2))_(n)-Zまたは-(CF_(2))_(n)-Z(式中,n=1?4,ZはH)C_(1?6)アルキル,樟脳置換基,-2-(9,10-ジエトキシアントラセンまたはフェニルなどのアリールである)であり,XおよびYは,(1)1個以上のヘテロ原子を含むことが可能な環式環または多環式環を形成する,または(2)縮合芳香族環を形成する,または(3)独立に水素,アルキルまたはアリールであることが可能である,もしくは(4)もう一つのスルホニルオキシイミド含有残基に結合されていてもよく,あるいは(5)ポリマー鎖または主鎖に結合されていてもよく,あるいは炭素原子は,下記の式, 【0029】 【化6】 【0030】(式中,R_(1)はH,1?4個の炭素を有するアセチル,アセタミド,アルキル(m=1?3),NO_(2)(m=1?2),F(m=1?5),Cl(m=1?2),CF_(3)(m=1?2),OCH_(3)(m=1?2)(mは別途に1?5でありうる)およびそれらの混合成分からなる群から選択される)を形成し,その場合,XおよびYは,(1)1個以上のヘテロ原子を含むことが可能な環式環または多環式環を形成する,または(2)縮合芳香族環を形成する,または(3)独立に水素,アルキルまたはアリールであることが可能である,もしくは(4)もう一つのスルホニルオキシイミド含有残基に結合されてもよく,あるいは(5)ポリマー鎖または主鎖に結合されてもよい)の化合物が挙げられる。 (当合議体注:【0028】の「ZはH)C_(1?6)アルキル,樟脳置換基,-2-(9,10-ジエトキシアントラセンまたは」は,「ZはH,C_(1?6)アルキル,樟脳置換基,-2-(9,10-ジエトキシアントラセン)または」の誤記である。) …省略… 【0048】上述したように,本発明のPAG混合物は,好ましくは,化学増幅ポジ型レジスト組成物中で用いられる。こうした組成物は,溶解抑制成分,例えば,光酸レービル部位(photoacid labile moieties)を有する樹脂を含む。好ましいデブロッキング成分(deblocking components)は,開裂して光発生された酸の存在下で極性酸基を形成することができる懸垂してなるエステル基を形成するアクリレート繰り返し単位を有する樹脂である。 …省略… 【0060】193nmイメージングの用途の場合,好ましくは,レジスト樹脂バインダー成分は,フェニルまたはその他の芳香族基を実質的に含まない。 …省略… 【0062】PAG混合物成分は,レジストの被覆層中で潜像の生成を可能にするために十分な量でフォトレジスト混合中に存在するべきである。 …省略… 【0064】本発明のレジストの樹脂バインダー成分は,一般に,レジストの露光された被膜層をアルカリ水溶液などで現像可能にするために十分な量を用いる。更に詳しくは,樹脂バインダーは,好ましくは,レジストの総固形分の50?約90重量%を含む。 【0065】本発明のフォトレジストは,一般に,本発明の光活性成分がこうしたフォトレジストの混合物中で用いられる先行技術の光活性化合物に置き換えられること以外は公知の手順に従って調製される。」 (2) 引用発明1 引用文献1の【0001】には,「イオン性および非イオン性光酸発生剤化合物の混合物を含有してな」り,「サブミクロン寸法で高解像度の形状」「を実現することが可能な深UVフォトレジスト」「として」「有用である」「フォトレジスト組成物」が記載されている。また,引用文献1の【0026】?【0027】には,「非イオン性PAGとして用いるために適し」た「化合物」として,「【化5】」「 」「(式中,XaRは,-C_(n)H_(2n+1)(式中,n=1?8),-C_(n)F_(2n+1)(式中,n=1?8),樟脳置換基,-2(9,10-ジエトキシアントラセン),-(CH_(2))_(n)-Zまたは-(CF_(2))_(n)-Z(式中,n=1?4,ZはH,C_(1?6)アルキル,樟脳置換基,-2-(9,10-ジエトキシアントラセン)またはフェニルなどのアリールである)であ」るものが記載されている。さらに,引用文献1の【0064】には,「レジストの樹脂バインダー成分は」,「レジストの露光された被膜層をアルカリ水溶液などで現像可能にするために十分な量」であることが記載されている。 そうしてみると,引用文献1には,次の「フォトレジスト組成物」の発明が記載されている(以下「引用発明1」という。)。なお,「PAG」を「光酸発生剤」に,「および」を「及び」に,「または」を「又は」に書き改めた。また,【化5】の式中,炭素原子,X及びYの説明は割愛した。 「 イオン性及び非イオン性光酸発生剤化合物の混合物を含有してなり,サブミクロン寸法で高解像度の形状を実現することが可能な深UVフォトレジストとして有用であるフォトレジスト組成物であって, 非イオン性光酸発生剤化合物として用いるために適した化合物が, 【化5】 (式中,XaRは,-C_(n)H_(2n+1)(式中,n=1?8),-C_(n)F_(2n+1)(式中,n=1?8),樟脳置換基,-2(9,10-ジエトキシアントラセン),-(CH_(2))_(n)-Z又は-(CF_(2))_(n)-Z(式中,n=1?4,ZはH,C_(1?6)アルキル,樟脳置換基,-2-(9,10-ジエトキシアントラセン)又はフェニルなどのアリールである)であり, レジストの樹脂バインダー成分は,レジストの露光された被膜層をアルカリ水溶液などで現像可能にするために十分な量である, フォトレジスト組成物。」 (3) 対比 本願発明と引用発明1を対比すると,以下のとおりとなる。 ア フォトレジスト組成物 引用発明1の「フォトレジスト組成物」は,「サブミクロン寸法で高解像度の形状を実現することが可能な深UVフォトレジストとして有用である」。 上記用途からみて,引用発明1の「フォトレジスト組成物」は,本願発明の「フォトレジスト組成物」に相当する。 イ 樹脂バインダ 引用発明1の「フォトレジスト組成物」において,「レジストの樹脂バインダー成分は,レジストの露光された被膜層をアルカリ水溶液などで現像可能にするために十分な量である」。 上記成分及び分量からみて,引用発明1の「樹脂バインダー」は,本願発明の「樹脂バインダ」に相当する。また,引用発明1の「フォトレジスト組成物」は,本願発明の「フォトレジスト組成物」における,「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダ」「を含み」という要件を満たす。 ウ 光感応性酸発生剤化合物 引用発明1の「フォトレジスト組成物」は,「イオン性及び非イオン性光酸発生剤化合物の混合物を含有してなり」,「深UVフォトレジストとして有用である」。また,引用発明1の「非イオン性光酸発生剤化合物」の構造は,次のとおりである。 【化5】 上記構造及び用途からみて,引用発明1の「非イオン性光酸発生剤化合物」は,「深UV」,すなわち深紫外線に感応して酸(RX_(a)SO_(3)H)を発生する剤である。 そうしてみると,引用発明1の「非イオン性光酸発生剤化合物」は,本願発明の「光感応性酸発生剤化合物」に相当する。また,引用発明1の「フォトレジスト組成物」は,本願発明の「フォトレジスト組成物」における,「光感応性酸発生剤化合物を含み」という要件を満たす。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明1は,次の構成で一致する。 「 組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含む,フォトレジスト組成物。」 イ 相違点 本願発明と引用発明1は,次の点で相違する。 (相違点1) 「光感応性酸発生剤」が,本願発明は,「放射線で露光されることにより,化学式 R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H (式中,Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル,置換されていてもよい炭素環式芳香族基,置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり,R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし,R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく,CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)-基であることはなく,CF_(3)(CFH)-基であることはなく,C_(2)H_(5)(CF_(2))-基であることはない。) で表されるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる」のに対して,引用発明1は,これに限らない点。 (5) 判断 引用発明1の「非イオン性光酸発生剤化合物」の構造は,次のとおりである。 【化5】 (式中,XaRは,-C_(n)H_(2n+1)(式中,n=1?8),-C_(n)F_(2n+1)(式中,n=1?8),樟脳置換基,-2(9,10-ジエトキシアントラセン),-(CH_(2))_(n)-Zまたは-(CF_(2))_(n)-Z(式中,n=1?4,ZはH,C_(1?6)アルキル,樟脳置換基,-2-(9,10-ジエトキシアントラセン)またはフェニルなどのアリールである) ここで,上記構造に接した当業者ならば,引用発明1の「非イオン性光酸発生剤化合物」として,例えば,「XaR」が「-(CF_(2))_(n)-Z」であり,「Z」が「フェニルなどのアリール」である選択肢を抽出し、この選択肢の「フォトレジスト組成物」を、具体的な技術思想を具備する発明とすることができる。そして,この「非イオン性光酸発生剤化合物」は,「深UV」,すなわち放射線で露光されることにより光酸発生剤として機能し,相違点1に係る本願発明の「化学式」の要件を満たす酸を発生させる。 そうしてみると,引用発明1を,相違点1に係る本願発明の構成を具備したものとすることは,引用発明1を具体化する当業者における単なる選択肢にすぎない。 なお,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,本願発明が,そのすべての範囲において,当業者が予測することができなかった効果や,本願発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するということはできない。 (6) 小括 本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 3 理由2(進歩性)引用文献2を主引用例とする場合について (1) 引用文献2の記載 引用文献2(旧東ドイツ国経済特許第295421号明細書)は,本件出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,その特許請求の範囲(1頁)の「1.」には,次の記載がある。 「 」 (参考訳:1つ以上の感光性成分,1つのポリ(三級ブトキシカルボニル-オキシ-スチレン)及び1つの溶媒又は溶媒混合物から成る,ポジ型に作用する写真複写用化学増幅レジストであって, 前記写真複写用レジストは,一般式Iで表される1つのスルホニウム塩, (式中,R^(1),R^(2)及びR^(3)は,水素,アルキル,置換されていない又は置換されたアリール又はヘテロアリールを意味し,かつA^((-))は, CF_(3)-(CXY)_(n)-CFZ-SO_(3)^((-)) かつ, X=H,F,CF_(3), Y=F, Z=H,F, n=0?6 又は, CF_(3)-(CXY)_(n)-B-(CFZ)_(m)-SO_(3)^((-)) かつ, B=O-CF_(2),O-C=O, X=H,F,CF_(3), Z=F,CF_(3), n=1?8, m=1,2 前記ポリ(三級ブトキシカルボニル-オキシ-スチレン)及び前記溶媒又は溶媒混合物から成っており,前記感光性成分は,全固体含有量に対して4重量%から25重量%の濃度で含まれていることを特徴とするポジ型に作用する写真複写用化学増幅レジスト。) なお,参考訳においては,上付きで丸囲いの「-」を,「^((-))」で表記した。 (2) 引用発明2 引用文献1の特許請求の範囲の「1.」に記載された「写真複写用化学増幅レジスト」の発明を,以下,引用発明2という。 (3) 対比,一致点及び相違点 ア 対比 本願発明と引用発明2を対比すると,引用発明2の「ポリ(三級ブトキシカルボニル-オキシ-スチレン)」,「一般式Iで表される1つのスルホニウム塩」及び「化学増幅レジスト」は,その構造や組成からみて,それぞれ本願発明の「樹脂バインダ」,「光感応性酸発生剤化合物」及び「フォトレジスト組成物」に相当する。また,引用発明2の「化学増幅レジスト」が,本願発明の「フォトレジスト組成物」における,「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含み」という要件を満たすことは自明である。 イ 一致点 本願発明と引用発明2は,次の構成で一致する。 「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含む,フォトレジスト組成物。」 ウ 相違点 本願発明と引用発明2は,次の点で相違する。 (相違点2) 「光感応性酸発生剤」が,本願発明は,「放射線で露光されることにより,化学式 R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H (式中,Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル,置換されていてもよい炭素環式芳香族基,置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり,R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし,R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく,CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)-基であることはなく,CF_(3)(CFH)-基であることはなく,C_(2)H_(5)(CF_(2))-基であることはない。) で表されるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる」のに対して,引用発明2は,これに限らない点。 (4) 判断 引用発明2の「一般式Iで表される1つのスルホニウム塩」の構造は,次のとおりである。 (式中,R^(1),R^(2)及びR^(3)は,水素,アルキル,置換されていない又は置換されたアリール又はヘテロアリールを意味し,かつA^((-))は, CF_(3)-(CXY)_(n)-CFZ-SO_(3)^((-)) かつ, X=H,F,CF_(3), Y=F, Z=H,F, n=0?6 又は, CF_(3)-(CXY)_(n)-B-(CFZ)_(m)-SO_(3)^((-)) かつ, B=O-CF_(2),O-C=O, X=H,F,CF_(3), Z=F,CF_(3), n=1?8, m=1,2 ここで,上記構造に接した当業者ならば,引用発明2の「一般式Iで表される1つのスルホニウム塩」として,例えば,「A^((-))」が「CF_(3)-(CXY)_(n)-CFZ-SO_(3)^((-))」であり,「Z」が「F」,「X」が「H」である選択肢(ただしn=0を除く)を抽出し、この選択肢の「化学増幅レジスト」を、具体的な技術思想を具備する発明とすることができる。そして,この「一般式Iで表される1つのスルホニウム塩」は,技術的にみて,紫外線,すなわち放射線で露光されることにより光酸発生剤として機能し,相違点2に係る本願発明の「化学式」の要件を満たす酸を発生させる。 そうしてみると,引用発明2を,相違点2に係る本願発明の構成を具備したものとすることは,引用発明2を具体化する当業者における単なる選択肢にすぎない。 なお,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,本願発明が,そのすべての範囲において,当業者が予測することができなかった効果や,本願発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するということはできない。 (5) 小括 本願発明は,引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 4 理由2(進歩性)引用文献3を主引用例とする場合について (1) 引用文献3の記載 引用文献3(特開平8-53442号公報)は,本件出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は対応するイオン交換(counter ion exchange)を含まないワンポット方(one-pot process )によってジアリールヨードニウムフルオロアルキルスルホネート塩を製造する方法及びこの方法によって得られた塩に関する。」 イ 「【0002】 【従来の技術】ヨードニウム塩は,多くの画像系において重要な物質である。このものは,重合反応若しくは解重合反応を開始させ,若しくは酸感受性基と反応するのに使用される遊離基,又は強プロトン酸を光化学的にその場で生産するのに使用することができる。一般に,このものは熱的に安定であるが,光化学的に不安定であって,例えばエポキシドタイプの樹脂の硬化のみならず,印刷板,リトグラフフィルム及び校正刷の如き画像関係において理想的な物質である。 …省略… 【0009】 【発明が解決しようとする課題】本発明者等は,硫酸を含まずまた相応するイオン交換を行うこともなく,ジアリールヨードニウムフルオロアルキルスルホネート塩を合成するための便利で,簡単で,安全で効果的なワンポット方法を新たに見い出した。 【0010】本発明の一側面は,次に示す工程を含むジアリールヨードニウムフルオロアルキルスルホネート塩を製造する新規な方法である。すなわち, (a)(i)電子中性基,電子供与基及びこれらの組合せたものから成る群から選ばれる1個以上の基で任意に置換された芳香族化合物であって,ここでの芳香族化合物は少なくとも1個のペンダント-Hを有し,そしてこの芳香族化合物は成分(b)のフルオロアルキルスルホン酸に対して反応性ではなく,(ii) 脂肪族無水物,脂環式無水物及びこれらの混合物から選ばれる無水物であって,この無水物は成分(b)のフルオロアルキルスルホン酸に対して反応性ではない1個以上の基で任意には置換され,そしてこの無水物は約4.2より大きいpka値を有する酸から誘導されたものであり,(iii )沃素酸のアルカリ金属塩,並びに(iv)任意には,成分(i)から(iii )に対して反応性ではない溶剤,を含む混合物を形成し, (b)この混合物に撹拌しながら,式R^(11)-CF_(2)-SOHのフルオロアルキルスルホン酸を加え,ここでR^(11)はアルキル基,クロロフルオロアルキル基,塩素化アルキル基及び弗素化アルキル基から成る群から選ばれ,ここでのフルオロアルキルスルホン酸はこのフルオロアルキルスルホン酸に対して反応性ではない溶剤に任意には溶解され,ここでの反応は発熱反応を調整する反応速度及び温度において反応が生ずるようにし, (c)発熱反応を調整する温度において,撹拌しながら反応を続けてジアリールヨードニウムフルオロアルキルスルホネート塩を形成する各工程を含むジアリールヨードニウムフルオロアルキルスルホネート塩の製造方法である。 【0011】本発明は,更に任意にはジアリールヨードニウムフルオロアルキルスルホネート塩を分離する工程(d)を包含する。 【0012】本発明はまた,本発明の製造方法に従って得られた塩を提供する。本発明方法に従って得られた好ましい塩は,次に示す式から選ばれるものである。 【化4】 及び 【化5】 ここで,mは0又は1の整数を表わし,Lは-O-,-NR^(12)-(ここでR^(12)は-H又はアルキル基を表わす)及び-(CR^(13)R^(14))n-(ここでR^(13)及びR^(14)は独立して-H又はアルキル基を表わし,そしてnは1から2の整数を表わす)から成る群から選ばれ,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(7),R^(8),R^(9)及びR^(10)は電子中性基及び電子供与基から成る群からいづれも独立して選ばれ,ここでの隣接したR^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(7),R^(8),R^(9),R^(10)基は任意にはお互に共に環を形成しても良く,そしてR^(11)はハロゲン基,アルキル基,クロロフルオロアルキル基,塩素化アルキル基及び弗素化アルキル基から成る群から選ばれる。 …省略… 【0018】芳香族化合物 本発明方法において使用される好ましい芳香族化合物は,電子中性置換基及び/又は電子豊当(電子供与)な置換基から成る群から選ばれ,ここで芳香族化合物は少なくとも1個の未置換部分(すなわち,少なくとも1個の-H)を有する。…省略… 【0024】無水物 本発明において使用される無水物は,良好な収率を得る理由から,好ましくはpka値が約4.2又はそれより大きい値,更にはより良き収率及び市場における入手容易性の理由から,pka値が4.5から約5.0の値を有する酸から誘導されるものである。pka値が4.2より低い値の酸から誘導される無水物は,収率を悪くする原因となる。 …省略… 【0027】沃素酸のアルカリ金属塩 本願において“アルカリ金属”とは,ナトリウム,カリウム,リチウム及びセシウムについてである。 …省略… 【0029】弗素化アルキルスルホン酸 本発明方法において使用されるフルオロアルキルスルホン酸は,式R^(11)-CF_(2)-SO_(3)Hであり,ここでR^(11)はアルキル基(通常,C_(1)?C_(20)),クロロフルオロアルキル基(通常,C_(1)?C_(20)),塩素化アルキル基(通常,C_(1)?C_(20))及び弗素化アルキル基(通常,C_(1)?C_(20))から成る群から選ばれる。 …省略… 【0033】任意の溶剤 使用されるフルオロアルキルスルホン酸に対して反応性ではなく,また採用される反応条件(例えば,強酸性条件及び酸化条件)のもとで,それ自体反応性ではない溶剤(通常,有機溶剤)は,本発明方法において任意に使用することができる。」 (2) 引用発明3 引用文献3の【0012】には【化4】として,次の「塩」の発明が記載されている(以下「引用発明3」という。)。 「 次の【化4】式で表される塩。 【化4】 ここで,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(7),R^(8),R^(9)及びR^(10)は電子中性基及び電子供与基からなる群からいずれも独立して選ばれ,ここでの隣接したR^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(7),R^(8),R^(9),R^(10)基は任意にはお互に共に環を形成しても良く,そしてR^(11)はハロゲン基,アルキル基,クロロフルオロアルキル基,塩素化アルキル基及び弗素化アルキル基から成る群から選ばれる。」 (3) 対比,一致点及び相違点 引用発明3の「塩」は,その構造からみて,本願発明の「光感応性酸発生剤化合物」に相当する。 そうしてみると,本願発明と引用発明3は「光感応性酸発生剤化合物」の点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点3A) 本願発明は,「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含み」という要件を具備する「フォトレジスト組成物」であるのに対して,引用発明3は,「塩」である点。 (相違点3B) 「光感応性酸発生剤」が,本願発明は,「放射線で露光されることにより,化学式 R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H (式中,Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル,置換されていてもよい炭素環式芳香族基,置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり,R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし,R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく,CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)-基であることはなく,CF_(3)(CFH)-基であることはなく,C_(2)H_(5)(CF_(2))-基であることはない。) で表されるα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる」のに対して,引用発明3は,これに限らない点。 (4) 判断 ア 相違点3Aについて 引用文献3の【0002】には,「ヨードニウム塩は,多くの画像系において重要な物質である。このものは,重合反応若しくは解重合反応を開始させ,若しくは酸感受性基と反応するのに使用される遊離基,又は強プロトン酸を光化学的にその場で生産するのに使用することができる。一般に,このものは熱的に安定であるが,光化学的に不安定であって,例えばエポキシドタイプの樹脂の硬化のみならず,印刷板,リトグラフフィルム及び校正刷の如き画像関係において理想的な物質である。」と記載されている。 上記記載からみて,引用発明3の「塩」を,フォトレジスト組成物の光酸発生剤として採用することは,引用文献3が示唆する用途にすぎない。 また,このようにしてなるものは,必然的に「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダ」を含むものとなる。 イ 相違点3Bについて 引用発明3の「塩」の構造は,次のとおりである。 【化4】 ここで,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(7),R^(8),R^(9)及びR^(10)は電子中性基及び電子供与基からなる群からいずれも独立して選ばれ,ここでの隣接したR^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(7),R^(8),R^(9),R^(10)基は任意にはお互に共に環を形成しても良く,そしてR^(11)はハロゲン基,アルキル基,クロロフルオロアルキル基,塩素化アルキル基及び弗素化アルキル基から成る群から選ばれる。 ここで,上記構造に接した当業者ならば,引用発明3の「塩」として,例えば,「R^(11)」が「アルキル基」である選択肢(ただし,炭素数が1のもの及び炭素数が22以上であるものを除く)を抽出し、この選択肢の「塩」を、具体的な技術思想を具備する発明とすることができる。そして,この「塩」は,技術的にみて,紫外線,すなわち放射線で露光されることにより光酸発生剤として機能し,相違点3Bに係る本願発明の「化学式」の要件を満たす酸を発生させる。 そうしてみると,引用発明3を,相違点3Bに係る本願発明の構成を具備したものとすることは,引用発明3を具体化する当業者における単なる選択肢にすぎない。 なお,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,本願発明が,そのすべての範囲において,当業者が予測することができなかった効果や,本願発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するということはできない。 (5) 小括 本願発明は,引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 5 理由3(拡大先願)について (1) 先願1の記載 先願1(特願2000-321128号)は,本件出願の優先権主張の日前の他の特許出願であって,その優先権主張の日後に出願公開(特開2002-131897号)がされた特許出願であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,先願発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,平版印刷板やIC等の半導体製造工程,液晶,サーマルヘッド等の回路基板の製造,更にその他のフォトファブリケーション工程に使用されるポジ型感光性組成物に関するものである。」 イ 「【0002】 【従来の技術】平版印刷板やIC等の半導体製造工程,液晶,サーマルヘッド等の回路基板の製造,更にその他のフォトファブリケーション工程に使用される感光性組成物としては,種々の組成物があり,一般的にフォトレジスト感光性組成物が使用され,それは大きく分けるとポジ型とネガ型の2種ある。 …省略… 【0008】 【発明が解決しようとする課題】したがって,本発明の目的は,超微細加工が可能な短波長の露光光源及びポジ型化学増幅レジストを用いたリソグラフィー技術にあって,解像力が向上し,現像残査が低減し,露光マージンや焦点深度等のプロセス許容性が改善されたポジ型レジスト組成物を提供することにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明によれば,下記構成のポジ型レジスト組成物が提供されて,本発明の上記目的が達成される。 【0010】(1) (A)活性光線の照射により下記一般式(X)で表されるスルホン酸を発生する化合物を少なくとも1種 (B)酸の作用により分解し,アルカリ現像液中での溶解度を増大させる基を有する樹脂 を含有することを特徴とするポジ型レジスト組成物。 【0011】 【化3】 【0012】一般式(X)中,R_(1a)?R_(13a)は,水素原子,アルキル基,ハロゲン原子で置換されたアルキル基,ハロゲン原子,水酸基を表す。Aは,ヘテロ原子を有する2価の連結基または単結合を表す。但し,Aが単結合の場合,R_(1a)?R_(13a)の全てが同時にフッ素原子を表すことはなく,またR_(1a)?R_(13a)の全てが同時に水素原子を表すことはない。mは0?12の整数を表す。nは0?12の整数を表す。qは1?3の整数を表す。 …省略… 【0019】 【発明の実施の形態】本発明は, 1. (A)活性光線の照射により下記一般式(X)で表されるスルホン酸を発生する化合物を少なくとも1種,及び (B)酸の作用により分解し,アルカリ現像液中での溶解度を増大させる基を有する樹脂を必須成分として含有するポジ型レジスト組成物(以下「第1組成物」ともいう)と, 2. (A)活性光線の照射により下記一般式(X)で表されるスルホン酸を発生する化合物を少なくとも1種 (C)酸の作用により分解し,アルカリ現像液への溶解性が増大する分子量3000以下の化合物,及び (E)アルカリ可溶性樹脂を必須成分として含有するポジ型レジスト組成物(以下「第2組成物」ともいう)を包含する。 …省略… 【0021】〔組成物に含有される各成分の説明〕 〔1〕(A)活性光線の照射により下記(当合議体注:「下記」は「上記」の誤記である。)一般式(X)で表されるスルホン酸を発生する化合物を少なくとも1種((A)成分又はスルホン酸発生剤ともいう)上記一般式(X)中,R_(1a)?R_(13a)は,水素原子,アルキル基,ハロゲン原子で置換されたアルキル基,ハロゲン原子,水酸基を表す。Aは,ヘテロ原子を有する2価の連結基または単結合を表す。但し,Aが単結合の場合,R_(1a)?R_(13a)の全てが同時にフッ素原子を表すことはなく,またR_(1a)?R_(13a)の全てが同時に水素原子を表すことはない。mは0?12の整数を表す。nは0?12の整数を表す。qは1?3の整数を表す。 【0022】R_(1a)?R_(13a)のアルキル基としては,置換基を有してもよい,メチル基,エチル基,プロピル基,n-ブチル基,sec-ブチル基,t-ブチル基のような炭素数1?12個のものが挙げられる。R_(1a)?R_(13a)のハロゲン原子としては,フッ素原子,塩素原子,沃素原子等が挙げられる。この置換基として好ましくは,炭素数1?4個のアルコキシ基,ハロゲン原子(フッ素原子,塩素原子,沃素原子),炭素数6?10個のアリール基,炭素数2?6個のアルケニル基,シアノ基,ヒドロキシ基,カルボキシ基,アルコキシカルボニル基,ニトロ基等が挙げられる。 【0023】Aにおけるヘテロ原子を有する2価の連結基としては,酸素原子,硫黄原子,-CO-,-COO-,-CONR-,-SO_(2)NR-,-CONRCO-,-SO_(2)NRCO-,-SO_(2)NRSO_(2)-,-OCONR-等が挙げられる。ここで,Rは水素原子,炭素数1?10個のアルキル基を表す。 【0024】上記一般式(X)で表されるスルホン酸としては,R_(1)a?R_(13)aの少なくとも1つがハロゲン原子を表すものが好ましく,さらに好ましくはR_(1)a?R_(13)aの少なくとも1つがフッ素原子を表すものが好ましい。上記の中でも,さらに好ましくは,CF_(8)(CF_(2))_(k)[A(CF_(2))_(k’)]_(q)SO_(3)H,CF_(3)(CF_(2))_(k)(CH_(2))_(k’)SO_(3)H,CH_(3)(CH_(2))_(k)(CF_(2))_(k’)SO_(3)Hで表される化合物が好ましく,CF_(3)CF_(2)-O-CF_(2)CF_(2)SO_(3)Hが特に好ましい。ここで,kは0?12の整数を表す。k’は1?12の整数を表す。qは前述と同義である。 【0025】本発明の(A)成分としては,上記一般式(X)で示すスルホン酸のスルホニウム塩またはヨードニウム塩が感度,解像力の点で好ましい。より好ましくはスルホニウム塩であり,これにより保存安定性がさらに向上する。 …省略… 【0032】以下に,(A)成分の具体例(上記一般式(I)?(III)で表される化合物の具体例も含む)を示すが,本発明はこれらに限定されるものではない。 …省略… 【0034】 【化7】 …省略… 【0039】 【化12】 …省略… 【0098】〔2〕(B)酸の作用により分解し,アルカリ現像液中での溶解度を増大させる基を有する樹脂((B)成分) (B)成分は,本発明の第1組成物に必須成分として用いられる。(B)成分は,酸により分解し,アルカリ現像液中での溶解性を増大させる基(酸で分解しうる基ともいう)を有する樹脂としては,樹脂の主鎖又は側鎖,あるいは,主鎖及び側鎖の両方に,酸で分解し得る基を有する樹脂である。この内,酸で分解し得る基を側鎖に有する樹脂がより好ましい。 …省略… 【0134】〔3〕(C)酸の作用により分解し,アルカリ現像液への溶解性が増大する分子量3000以下の化合物((C)成分) (C)成分は,第2組成物に必須成分として含有される成分であり,第1組成物には必要に応じて配合される成分である。(C)成分は,酸により分解し得る基を有し,アルカリ現像液中での溶解度が酸の作用により増大する,分子量3000以下,好ましくは200?2,000,更に好ましくは300?1,500の低分子量化合物である。この(C)成分は,非照射部のアルカリ現像液に対する溶解阻止剤として機能している。なお,以下の記載において,「酸分解性溶解阻止化合物」は(C)成分と同義である。 …省略… 【0162】 〔4〕(E)アルカリ可溶性樹脂((E)成分) (E)アルカリ可溶性樹脂は,本発明の第2組成物に必須の成分である。本発明の第1組成物には添加してもよい成分である。(E)アルカリ可溶性樹脂は,水に不溶でアルカリ現像液に可溶な樹脂であり,第2組成物のアルカリ溶解性を調節するために用いられる。この樹脂は,酸で分解し得る基を実質上有さない。 …省略… 【0174】〔6〕(G)フッ素系及び/又はシリコン系界面活性剤((G)成分) 本発明のポジ型レジスト組成物は,(G)成分を含有することが好ましい。(G)成分としては,フッ素系界面活性剤,シリコン系界面活性剤及びフッ素原子と珪素原子の両方を含有する界面活性剤の少なくとも1種の界面活性剤である。 …省略… 【0176】〔7〕本発明に使用されるその他の成分 本発明のポジ型レジスト組成物には必要に応じて,更に染料,顔料,可塑剤,上記以外の界面活性剤,光増感剤,及び現像液に対する溶解性を促進させるフェノール性OH基を2個以上有する化合物などを含有させることができる。 …省略… 【0181】〔ポジ型レジスト組成物の調製及びその使用〕以上,本発明のポジ型レジスト組成物に含有される各成分を説明した。次に,本発明のポジ型レジスト組成物の調製方法及びその使用方法について説明する。本発明の組成物は,上記各成分を溶解する前記溶媒に溶かして支持体上に塗布する。 …省略… 【0183】この際,上記溶媒に上記した(G)フッ素系及び/又はシリコン系界面活性剤を加えることが好ましい。 …省略… 【0184】上記組成物を精密集積回路素子の製造に使用されるような基板(例:シリコン/二酸化シリコン被覆,SiON,TiN,SOG)上にスピナー,コーター等の適当な塗布方法により塗布後,所定のマスクを通して照射し,ベークを行い現像することにより良好なレジストパターンを得ることができる。 【0185】また,露光光源がDUV光の場合,反射防止膜を設けた基板上へレジスト膜を塗布することが好ましい。 …省略… 【0218】 【発明の効果】本発明のポジ型レジスト組成物は,超微細加工が可能な短波長の露光光源及びポジ型化学増幅レジストを用いたリソグラフィー技術にあって,解像力が向上し,現像残査が低減し,露光マージンや焦点深度等のプロセス許容性が改善されている。また,照射用エネルギー線として電子線を用いた場合でも優れた性能を示す。」 (2) 先願発明 先願1の【0024】の記載からみて,先願1には,「上記一般式(X)で表されるスルホン酸」として,「CH_(3)(CH_(2))_(k)(CF_(2))_(k’)SO_(3)Hで表される化合物」が記載されている。そして,先願1の【0010】?【0012】の記載を勘案すると,先願1には,次の「ポジ型レジスト組成物」の発明が記載されている(以下「先願発明」という。)。 「 活性光線の照射によりCH_(3)(CH_(2))_(k)(CF_(2))_(k’)SO_(3)Hで表されるスルホン酸を発生する化合物を少なくとも1種, 酸の作用により分解し,アルカリ現像液中での溶解度を増大させる基を有する樹脂, を含有するポジ型レジスト組成物であって, kは0?12の整数を表し,k’は1?12の整数を表す, ポジ型レジスト組成物。」 (3) 対比,一致点及び相違点 ア 対比 本願発明と先願発明を対比すると,先願発明の「樹脂」,「化合物」及び「ポジ型レジスト組成物」は,その構造,機能及び組成からみて,それぞれ本願発明の「樹脂バインダ」,「光感応性酸発生剤化合物」及び「フォトレジスト組成物」に相当する。また,先願発明の「ポジ型レジスト組成物」が,本願発明の「フォトレジスト組成物」における,「組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含み」という要件を満たすことは自明である。 また,先願発明の「化合物」は,「活性光線の照射によりCH_(3)(CH_(2))_(k)(CF_(2))_(k’)SO_(3)Hで表されるスルホン酸を発生」し,「k’は1?12の整数を表す」から,先願発明の「化合物」は,本願発明の「その光感応性酸発生剤が放射線で露光されることにより,α,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる」という要件を満たす。 イ 一致点 本願発明と先願発明は,次の構成で一致する。 「 組成物の露光されたコーティング層を現像させるのに充分な量で樹脂バインダおよび光感応性酸発生剤化合物を含み,その光感応性酸発生剤が放射線で露光されることにより,α,α-ジフルオロアルキルスルホン酸を発生させる,フォトレジスト組成物。」 ウ 相違点 本願発明と先願発明は,次の点で,一応,相違する。 (相違点) 「α,α-ジフルオロアルキルスルホン酸」が,本願発明は,「化学式 R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)H (式中,Rが置換されていてもよいC_(1-20)アルキル,置換されていてもよい炭素環式芳香族基,置換されていてもよいヘテロ脂環式基又は置換されていてもよいヘテロ芳香族基であり,R^(1)とR^(2)がそれぞれ独立して水素または水素以外の置換基である。ただし,R(CR^(1)R^(2))がパーハロアルキルであることはなく,CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)-基であることはなく,CF_(3)(CFH)-基であることはなく,C_(2)H_(5)(CF_(2))-基であることはない。)」という要件を満たすものであるのに対して,先願発明は,この要件を満たさない場合がある点。 (4) 判断 上記相違点について検討すると,先願発明の「スルホン酸」は,k+k’が21を超える非実用的な場合,及び本願発明で除かれている場合(「k=5かつk’=2」と「k=1かつk’=2」)を除いて,上記相違点に係る本願発明の「化学式」の要件を満たす。 そうしてみると,上記相違点は,課題解決のための具体化手段における微差にすぎない。 (5) 小括 本願発明は,先願1に記載された発明と実質同一であるから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。 6 請求人の主張について 理由2(進歩性)及び理由3(拡大先願)に関して,請求人は,令和3年4月26日付け意見書において,概略,引用文献1?引用文献3には,本願発明の技術的思想,すなわち,フォトレジスト組成物中の光感応性酸発生剤化合物への放射線露光により発生するα,α-ジフルオロアルキルスルホン酸が,従来知られていた化学式R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)HのR(CR^(1)R^(2))がパーフルオロアルキル,CH_(3)(CH_(2))_(5)CF_(2)-基,CF_(3)(CFH)-基又はC_(2)H_(5)(CF_(2))-基である化合物でなくとも,R(CR^(1)R^(2))CF_(2)SO_(3)Hの基本骨格を有するものであれば,最終的に好ましいレリーフ像を得ることができる,という技術的思想は開示ないし示唆されておらず,また,先願1には,上記技術的思想は記載されていないと主張する。 しかしながら,本件出願の明細書には,最終的に好ましいレリーフ像が得られたことを示す評価結果は開示されていないことは既に述べたとおりである。 あるいは,引用発明1?引用発明3及び先願発明の用途を考慮すると,請求人が技術的思想として主張するものは,当業者が予測可能な範囲を超えないものである。 したがって,請求人の主張は採用できない。 第3 むすび 本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。また,本願発明は,特許法29条2項及び特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。 したがって,その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2021-05-27 |
結審通知日 | 2021-05-31 |
審決日 | 2021-06-21 |
出願番号 | 特願2019-125061(P2019-125061) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03F)
P 1 8・ 16- Z (G03F) P 1 8・ 537- Z (G03F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川口 真隆 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 河原 正 |
発明の名称 | 光感応性酸発生剤およびそれらを含むフォトレジスト |
代理人 | 佐伯 拓郎 |
代理人 | 中村 正展 |
代理人 | 佐伯 裕子 |