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審決分類 審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G01N
審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  G01N
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 一部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1379764
異議申立番号 異議2020-700541  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-31 
確定日 2021-09-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6640137号発明「X線検査装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6640137号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6640137号の請求項1、3、5、6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6640137号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成29年3月8日に出願され、令和2年1月7日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月5日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 7月31日 : 特許異議申立人 田口ひとみ(以下
「申立人」という。)による
請求項1,3,5,6に係る特許に対する
特許異議の申立て
令和2年10月21日付け: 取消理由通知書
令和2年12月25日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 2月18日 : 申立人による意見書の提出
令和3年 3月30日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 6月 3日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 7月 5日 : 申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求(令和3年6月3日提出の訂正請求書による訂正請求)による訂正の内容は、以下の(1)ないし(2)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
第1に「前記被検査物を透過したX線に基づいて前記被検査物の検査を行う」と記載されているのを、「前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行う」と訂正し、
第2に「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納されたX線照射部」と記載されているのを、「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲(Z)内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲の下端縁が水平なX線照射部」と訂正し、
第3に「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納されたX線検出部」と記載されているのを「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0008】において、
第1に「前記被検査物を透過したX線に基づいて前記被検査物の検査を行う」と記載されているのを、「前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行う」と訂正し、
第2に「前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の一方に収納されたX線照射部」と記載されているのを、「前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲Z内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲Zの下端縁が水平なX線照射部」と訂正し、
第3に「前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の他方に収納されたX線検出部」と記載されているのを、「前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部」と訂正する。

2. 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項、独立特許要件
(1)訂正事項1について
ア 請求項1に係る「前記被検査物を透過したX線に基づいて前記被検査物の検査を行う」は、「前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行う」を選択肢として含む上位概念であるから、「前記被検査物を透過したX線に基づいて前記被検査物の検査を行う」を「前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行う」に変更する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、「前記被検査物を透過したX線に基づいて前記被検査物の検査を行う」の具体例として、「前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行う」については、発明の詳細な説明の段落【0039】に「被検査物全体」を検査することが開示され、また段落【0002】の背景技術に「X線検査装置」の「代表的な使用例として」「製品中の異物を検出することが挙げられる」と記載されている。よって、「前記被検査物を透過したX線に基づいて前記被検査物の検査を行う」として、「前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行う」を用いてなる発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

イ 請求項1に係る「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納されたX線照射部」は、「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲(Z)内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲の下端縁が水平なX線照射部」を選択肢として含む上位概念であるから、「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納されたX線照射部」を「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲(Z)内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲の下端縁が水平なX線照射部」に変更する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納されたX線照射部」の具体例として、「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲(Z)内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲の下端縁が水平なX線照射部」については、発明の詳細な説明の段落【0030】には「前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲Z内でX線を照射し、」との記載があり、また段落【0031】には、「X線の照射範囲Zのうち、その水平な下端縁を搬送経路2の上面に略一致するように設定することができ、」との記載がある。よって、「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納されたX線照射部」として、「前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲(Z)内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲の下端縁が水平なX線照射部」を用いてなる発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

ウ 請求項1に係る「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納されたX線検出部」は、「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部」を選択肢として含む上位概念であるから、「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納されたX線検出部」を「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部」に変更する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納されたX線検出部」の具体例として、「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部」については、明細書記載の本願発明の「発明を実施するための形態」の記載に基づいて導き出される構成であり、発明の詳細な説明の段落【0039】には「ボトル等の縦長の被検査物であっても、その全体を適正な状態で検査することができる。」との記載がある。よって、「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納されたX線検出部」として、「前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部」を用いてなる発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

(2)訂正請求2について
段落【0008】について、
第1に「前記被検査物を透過したX線に基づいて前記被検査物の検査を行う」と記載されているのを、「前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行う」と訂正し、
第2に「前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の一方に収納されたX線照射部」と記載されているのを、「前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲Z内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲Zの下端縁が水平なX線照射部」と訂正し、
第3に「前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の他方に収納されたX線検出部」と記載されているのを、「前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部」とする訂正は、上記訂正事項1に係る訂正による特許請求の範囲の訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、上記訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)一群の請求項及び独立特許要件について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
また、本件においては、訂正前の請求項1,3,5,6について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1,3,5,6に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
そして、訂正後の請求項2及び4に記載された発明は、請求項1を引用する発明であり、請求項1に係る発明については下記「第4 3.」で検討したとおり、特許異議申立書において提出された甲第1ないし10号証に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易になしえた発明ではないから、訂正後の請求項2及び4に記載された発明も同様に、特許異議申立書において提出された甲第1ないし10号証に記載された発明及び周知技術からは当業者といえども本件特許出願前に容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものには該当しない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下「本件発明1ないし6」は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
所定の搬送方向に被検査物を搬送する既設の搬送経路(2)の上方に設定される検査空間(S)で前記被検査物にX線を照射し、前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行うX線検査装置 (1,1’,1”)であって、
前記搬送方向と直交する水平方向について前記検査空間の一方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に大きい遮蔽構造の第1収納部(4)と、前記検査空間の他方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に小さい遮蔽構造の第2収納部(5,5’) とを有し、前記第1収納部と前記第2収納部が、前記検査空間を挟むように配置されて前記検査空間の下方側を開放するように上方側で一体とされた筐体(3,3’) と、
前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲(Z)内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲の下端縁が水平なX線照射部(11) と、
前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部(12) と、
前記筐体の前記第1収納部を支持する脚部(6) と、
を備えたX線検査装置 (1,1’,1”) 。
【請求項2】
前記第2収納部(5’) が、前記検査空間(S)の他方側を開放するように前記第1収納部(4)に対して回動可能に取り付けられた請求項1記載のX線検査装置 (1’,1”)。
【請求項3】
前記脚部(6) が、4本の脚(7) と、前記各脚を連結する連結部材(8)とを含む請求項1又は2記載のX線検査装置 (1,1’,1”) 。
【請求項4】
前記脚部(6)の前記検査空間(S)側の面が、前記検査空間に対面している前記第1収納部(4)の垂直な壁面と同一平面を構成している請求項1乃至3の何れか一つに記載のX線検査装置 (1,1’,1”) 。
【請求項5】
前記筐体(3,3’)の上面が、前記搬送方向と直交する水平方向の長さが相対的に大きい遮蔽構造の第1収納部(4)側から、前記水平方向の長さが相対的に小さい遮蔽構造の第2収納部(5)側に向かうほど低くなるように傾斜している請求項1乃至4の何れか一つに記載のX線検査装置 (1,1’,1”)。
【請求項6】
前記X線検出部(12)は、前記搬送方向と直交する平面内において鉛直方向に並んだ複数の検出素子を有するラインセンサを有していることを特徴とする請求項請求項1乃至5の何れか一つに記載のX線検査装置 (1,1’,1”) 。」

なお、上記【請求項6】の「請求項請求項1乃至5の何れか一つに記載の」は、「請求項1乃至5の何れか一つに記載の」の誤記であることは明らかであるので、そのまま認定した。

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1、3,6に係る特許に対して、当審が令和3年3月30日に特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
請求項1,3,6に係る発明は、甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、又は甲第6号証に記載された発明、甲第9号証に開示された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1,3,6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
<引用文献等一覧>
甲第6号証:米国特許第6872001号明細書
甲第1号証:特表平11-514435号公報(周知技術を示す文献)
甲第2号証:“Fill_xr Sensor”カタログ(周知技術を示す文献)
甲第3号証:“Newton X2P”カタログ(周知技術を示す文献)
甲第4号証:“CL600-HF/RX”カタログ(周知技術を示す文献)
甲第9号証:特開2008-275452号公報
甲第7号証:特開2016-141541号公報(周知技術を示す文献)
甲第10号証:特開2016-176805号公報(周知技術を示す文献)

2.甲号証の記載
(1)甲第6号証
本件特許の出願前である2005年(平成17年)3月29日に頒布された刊行物である「米国特許第6872001号明細書」(以下「甲第6号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。和訳は当審の仮訳である。)

ア 「FIELD OF THE INVENTION
The present invention relates to the field of x-ray inspection of materials in containers, and more particularly to shielding of x-ray radiation for personnel protection in the sequential x-ray inspection of containers of food and beverages moving along a conveyor.」(第1欄第5-10行)
(当審仮訳:発明の技術分野
本発明は、容器内の物質のX線検査の分野に関し、より詳細にはコンベアに沿って移動する食品および飲料の容器の連続的なX線検査での人員保護のためのX線放射の遮蔽に関する。)

イ 「It is a primary object of the present invention to provide a shielding system for entry and exit openings in a shielding enclosure of an x-ray inspection system addressed to materials in containers moving along a conveyor, that will keep x-ray radiation leakage outside the enclosure to an acceptable limit, independent of the inter-spacing of the containers along the conveyor.」(第1欄第53-60行)
(当審仮訳:本発明の主目的は、コンベヤに沿って移動する容器内の材料のためのX線検査システムの遮蔽筐体の入口及び出口開口部のための遮蔽システムを提供し、コンベアに沿った容器の間隔に無関係に、許容可能な限界値に筐体の外側へのX線放射線漏れを維持することである。
)

ウ 「DETAILED DESCRIPTION
FIG. 1, a perspective view of an x-ray inspection station 10 of the present invention, showing the main enclosure 12 surrounding a conveyor 14 along which food/beverage containers 16 are moved from right to left into opening 12A’ and through enclosure 12 for x-ray inspection. Movement of containers 16 along conveyor 14 and the activation of x-ray apparatus in enclosure 12 are controlled by a microprocessor and control console (not shown), with status indicated by a multi-colored light indicator 18.
FIG. 2, a cross-sectional elevational view of inspection station 10 taken through axis 22 of FIG. 1, shows a normal close-spaced full load of containers 16 traveling from right to left along conveyor 14. Inside enclosure 12, are shown two swinging shield doors 18A and 18C, of a total of four, located as indicated in entry tunnel 12A and exit tunnel 12A respectively, against the sidewalls thereof.
FIG. 3, a cross-sectional plan view of inspection station 10 taken through axis 33 of FIG. 1, shows four swinging shield doors, 18A and 18B in entry tunnel 12A also 18C and 18D in exit tunnel 12A; the four doors, all hinged at the right hand side, are shown in a normal operating mode with the doors held in the open position against the tunnel sidewalls so as to allow free passage of the containers 16 along conveyor 14. Doors 18A are made from high density x-ray shielding material.
Within enclosure 12, an x-ray generator 20 is directed through a central container under test, as indicated by the broken line and arrow, to a sensor 22. The inspection station control system sets the speed of the conveyor 14, controls activation of x-ray generator 20 and evaluates the data from sensor 22. Optionally conveyer 14 may be made to run continuously at a designated speed, or to stop temporarily for each x-ray test.」(第2欄第44行-第3欄第11行)
(当審仮訳:詳細な説明
図1は、本発明のX線検査ステーション10の斜視図であり、は、X線検査のために開口12 A’から筐体12を通って右から左方向に食品/飲料容器16を移動するコンベヤ14を囲む本体筐体12を示している。コンベヤ14に沿ったコンテナ16および閉鎖容器12の中のX線装置の移動は、マイクロプロセッサ及び制御コンソール(図示せず)によって制御され、多色光インジケータ18によって示されるステータスとする。
図2は、図1の2-2軸に沿った検査ステーション10の断面立面図であり、コンベヤ14に沿って右から左に移動する通常の近接離間した満充填された容器16を示す。内側筐体12は、入口12A’および出口トンネル12Aに設置されている、側壁に対して揺動する、合計4個の2遮蔽ドア18A及び18Cが示されている。
図3は、図1の軸3-3に沿った検査ステーション10の横断平面図であり、ドアの通常の動作モードで示されているコンベア14容器16の自由な通過を許容するようになっている、トンネルの側壁に対して解放位置に保たれている、みな右側ヒンジの4つの遮蔽ドアである、入口トンネルの18Aと18B、出口トンネルの18Cと18Dが示されている。ドア18Aは高密度X線遮蔽材料から製作される。
筐体12内には、破線および矢印によって示されるように、センサ22に試験下の中央容器を通して導かれるX線発生器20が設けられている。検査ステーションの制御システムは、コンベヤ14の速度を設定し、X線発生器20の作動を制御し、センサ22からのデータを評価する。任意に、コンベア14は、指定された速度で連続的に動作すること、又は各々のX線試験のために一時的に停止するようにしてもよい。)

エ 「FIG.1



オ 「FIG.2



カ 「FIG.3



キ 上記「イ ないし カ」の記載及び図面から、「遮蔽筐体12は上面が水平面であり、内部にコンベア14上の食品・飲料容器を挟んでコンベア14に直交する水平方向にX線発生器20とセンサ22を配置し、X線発生器20は筐体12内の下部に4本の足がありコンベア14に直交する水平方向の幅が相対的に大きい空間内に配置され、センサ22は筐体12内の下部に足がなくコンベア14に直交する水平方の幅が相対的に小さい空間に配置され、筐体12の前記大きい空間と小さい空間とはコンベア14の上方と下方で接続されており、X線発生器20はコンベア14の搬送方向と直交する平面内でX線を照射する」ことが見てとれる。

上記甲第6号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第6号証には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「コンベアに沿って移動する食品および飲料の容器の連続的なX線検査での人員保護のためのX線放射の遮蔽に関するX線検査ステーション10において、
X線検査のために開口12 A’から遮蔽筐体12を通って右から左方向に食品/飲料容器16を移動するコンベヤ14を囲むX線検査システムの遮蔽筐体12を備え、
遮蔽筐体12内には、センサ22に試験下の中央容器を通してX線が導かれるX線発生器20が設けられており、
X線発生器20はコンベア14の搬送方向と直交する平面内でX線を照射し、
遮蔽筐体12は上面が水平面であり、内部にコンベア14上の食品・飲料容器を挟んでコンベア14に直交する水平方向にX線発生器20とセンサ22を配置し、X線発生器20は遮蔽筐体12内の下部に4本の足がありコンベア14に直交する水平方向の幅が相対的に大きい空間内に配置され、センサ22は遮蔽筐体12内の下部に足がなくコンベア14に直交する水平方向の幅が相対的に小さい空間に配置され、遮蔽筐体12の前記大きい空間と小さい空間とはコンベア14の上方と下方で接続されている、
X線検査ステーション10。」

(2)甲第1号証
本件特許の出願前である1999年(平成11年)12月7日に頒布された刊行物である「特表平11-514435号公報」(以下「甲第1号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)
ア 「発明の概要
本発明は、検査される各コンテナの多次元画像を生成するコンテナ検査システムを含む。」(明細書第8頁第21-23行)

イ 「好ましい実施例の記載
図1を参照すると、コンテナ検査システム100は、X線源102と、多重素子線形ダイオード検出器アレイ104と、制御装置106と、除外器(rejector)108とを含む。X線源102は、検出器アレイ104によって受信される垂直平面X線ビーム110を生成するように構成されている。ビーム110は、コンベヤ114の移動方向112に垂直である。」(明細書第12頁第10-15行)

ウ 「図2乃至図5を参照すると、検査システム100は、調整自在スタンド202に取り付けられたキャビネット200を含む。キャビネット200は、X線源102と、制御装置106と、サポート用電子回路を含んでいる。検出器アレイ104は、キャビネット200に接続されている調整自在トンネル・アセンブリ204に取り付けられている。」(明細書第13頁第26行-第14頁第3行)

エ 「線源102とビーム110と検出器104とのアラインメントは、線源102及び検出器104の両方をキャビネット200に接続することによって維持される。従って、図4に良く示すように、システムは、トンネル・アセンブリ204がコンベヤ114をまたがるとともにコンベヤ114と水平方向にアライメントされるように、システムの位置を決めることによって、容易に取り付けられる。」(明細書第14頁第22-26行)

オ 「図7に示すように、検出器アレイ104は、2つの16素子アレイ700を含む。」(明細書第16頁第8-9行)

カ 「【図4】



キ 上記甲第1号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の技術(以下「甲1開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「X線源102と、多重素子線形ダイオード検出器アレイ104と、制御装置106と、除外器(rejector)108とを含むコンテナ検査システム100において、
X線源102は、検出器アレイ104によって受信される垂直平面X線ビーム110を生成するように構成され、ビーム110は、コンベヤ114の移動方向112に垂直であり、
検査システム100は、調整自在スタンド202に取り付けられたキャビネット200を含み、
キャビネット200は、X線源102と、制御装置106と、サポート用電子回路を含んでおり、
検出器アレイ104は、2つの16素子アレイ700を含み、キャビネット200に接続されている調整自在トンネル・アセンブリ204に取り付けられており、
検査システム100は、トンネル・アセンブリ204がコンベヤ114をまたがるとともにコンベヤ114と水平方向にアライメントされるように、システムの位置を決めることによって、容易に取り付けられる、
コンテナ検査システム100。」

(3)甲第2号証
2013年に頒布されたカタログであるTeledyne TapTone社の「Fill_xr Sensor」のカタログ(以下「甲第2号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。和訳は当審仮訳である。)

ア 「X-Ray Sensor for Fill Level Inspection
The Tap Tone Fill_xr sensor uses low energy X-ray technology to inspect steel, aluminum, plastic and glass containers for proper fill level. The system can be configured to detect underfilled and overfilled containers. The sensor mounts on a remote variable heiqht stand and requires no modifications to the existing production conveyor. The Fill_xr sensor is compatible with the TapTone T550, T4000 HMI and PC, and PRO Series user interfaces and can be added to existing Tap Tone systems as an optional inspection.」(第1頁)
(当審仮訳: 充填レベル検査用X線センサー
Tap Tone Fill_xrセンサーは、低エネルギーX線技術を使用して、適切な充填レベルのための鋼、アルミニウム、プラスチックおよびガラス容器の検査を行います。 システムは、充填不足および充填過剰のコンテナを検出するように構成できます。 センサーはリモート可変高さスタンドに取り付けられ、既存の生産コンベヤーに変更を加える必要はありません。 Fill_xrセンサーは、TapTone T550、T4000 HMIとPC、およびPROシリーズのユーザーインターフェイスと互換性があり、オプションの検査として既存のTapToneシステムに追加できます。)

イ 「


(第1頁)

ウ 上記「イ」より、「下方が解放され、上方で2つの空間が接続された筐体」が見てとれる。

エ 上記甲第2号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第2号証には、次の技術(以下「甲2開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「Tap Tone Fill_xrセンサーは、低エネルギーX線技術を使用して、適切な充填レベルのための鋼、アルミニウム、プラスチックおよびガラス容器の検査を行い、リモート可変高さスタンドに取り付けられ、既存の生産コンベヤーに変更を加える必要はなく、下方が解放され、上方で2つの空間が接続された筐体を備えたセンサー。」

(4)甲第3号証
2013年に頒布されたカタログであるMiho Inspektionssysteme GmbH社の「Newton X2P」のカタログ(以下「甲第3号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。和訳は当審仮訳である。)

ア 「The miho Newton X2P is a X-ray fill level inspection unit that inspects cans, cartons lined with aluminium, foiled containers and bottles, and detects any underfilling and overfilling with the maximum level of reliability. It distinguishes itself by requiring less than a tenth of the average amount usually used for inspection by radiation for its measurement process. And thus the amount of radiation exposure is also reduced.
」(第1頁)
(当審仮訳:miho Newton X2Pは、缶、アルミニウムで裏打ちされたカートン、ホイルの容器やボトルを検査し、最高レベルの信頼性で充填不足および過充填を検出するX線充填レベル検査ユニットです。 それは、その測定プロセスのために放射線による検査に通常使用される平均量の10分の1未満を必要とすることによってそれ自体を区別します。 したがって、放射線被ばくの量も減少します。)

イ 「

」(第1頁)

ウ 「

」(第2頁)

エ 上記「イ」及び「ウ」より、「検査ユニット1は、下方が解放され、上方で2つの空間が接続された筐体を既存のコンベア上に設置したものである」ことが見てとれる。

オ 上記甲第3号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第3号証には、次の技術(以下「甲3開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「X線充填レベル検査ユニットは、缶、アルミニウムで裏打ちされたカートン、ホイルの容器やボトルを検査し、最高レベルの信頼性で充填不足および過充填を検出し、下方が解放され、上方で2つの空間が接続された筐体を既存のコンベア上に設置したものである、検査ユニット。」

(5)甲第4号証
2004年に頒布されたカタログであるFT System S.r.l社の「CL600-HF/RX」のカタログ(以下「甲第4号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。和訳は当審仮訳である。)

ア 「Fill level inspection CL600-HF/CL600-RX
A system for checking/measuring fill level in glass, PET or HDPE containers for "HF" (high frequency) series or any type of liquid in any kind of container including aluminium for "RX" (X-ray) series;
designed for plants where you need quick, real-time information on the filling system using graphic displays that show current average error and production total; connected in feedback to the filler, inspection results are recorded for all the valves and capping heads. It is also possible to perform sampling cycles with specific objectives.
Level inspections can be extended to check for caps, capsules, and wire cages, either in the same station or in remote stations.」(第1頁)
(当審仮訳: 充填レベル検査 CL600-HF/CL600-RX
「HF」(高周波)シリーズのガラス、PET、HDPE容器、または「RX」(X線)シリーズのアルミニウムを含むあらゆる種類の容器内のあらゆる種類の液体の充填レベルをチェック/測定するためのシステム。
現在の平均誤差と生産合計を示すグラフィックディスプレイを使用して、充填システムに関する迅速でリアルタイムの情報が必要なプラント向けに設計されています。 フィラーにフィードバックで接続され、すべてのバルブとキャッピングヘッドの検査結果が記録されます。 特定の目的でサンプリングサイクルを実行することも可能です。
レベル検査を拡張して、同じステーションまたはリモートステーションのいずれかで、キャップ、カプセル、およびワイヤーケージをチェックできます。)

イ 「CL600-RX

」(第1頁)

ウ 「

」(第2頁)

エ 上記「イ」及び「ウ」より、「CL600-RXは、下方が解放され、上方で2つの空間が接続された筐体を既存のコンベア上に設置したものである」ことが見てとれる。

オ 上記甲第4号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第4号証には、次の技術(以下「甲4開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「「HF」(高周波)シリーズのガラス、PET、HDPE容器、または「RX」(X線)シリーズのアルミニウムを含むあらゆる種類の容器内のあらゆる種類の液体の充填レベルをチェック/測定するためのシステムであり、下方が解放され、上方で2つの空間が接続された筐体を既存のコンベア上に設置したものであるCL600-RX。」

(6)甲第9号証
本件特許の出願前である2008年(平成20年)11月13日に頒布された刊行物である「特開2008-275452号公報」(以下「甲第9号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)
ア「【0001】
本発明は、筐体内において被検査物にX線を照射し、その透過量に基づいて該被検査物に混入している異物を検出するX線異物検出装置に係り、被検査物の出入口として筐体の両側面に設けられた開口を覆うためのサイドカバーの構造に関する。」

イ「【0017】
図1,2に示すように、この実施の形態のX線異物検出装置1は、箱型の筐体2を有し、四本の脚部3で設置面上に支持されている。この筐体2は、内部から有害な量のX線が外部に漏洩しないように放射線防護材料を用いて形成されている。また、筐体2の前面は開放されており、筐体2前面に前面開口を閉塞するための開閉自在な扉4が設けられている。さらに、筐体2の両側面には被検査物の出入口となる開口5,5が設けられている。そして、筐体2の両側面には、これらの開口5を覆うための後述するサイドカバー10が設けられている。」

ウ 「【図1】



エ 上記甲第9号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第9号証には、次の技術(以下「甲9開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「被検査物にX線を照射し、その透過量に基づいて該被検査物に混入している異物を検出するX線異物検査装置1において、筐体2を四本の脚部3で支えること、及び脚部3は連結部材により連結されること」

(7)甲第7号証
本件特許の出願前である2016年(平成28年)8月8日に頒布された刊行物である「特開2016-141541号公報」(以下「甲第7号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)
ア 「【0023】
図2に示すように、画像撮影装置11は、搬送装置12を跨ぐように設けられX線を遮蔽する筐体13と、搬送中の商品箱50(物品51)に対してX線を照射する第1及び第2のX線発生装置14・15と、商品箱50(物品51)を透過したX線を検出する第1及び第2のラインセンサ16・17と、CCDカメラ18と、シグナルタワー19と、から主に構成されている。」

イ 「【図2】



ウ 上記甲第7号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第7号証には、次の技術(以下「甲7開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「ベルトコンベア上の検査物に対しX線を用いて検査を行う際に、X線を検出するセンサを鉛直方向に複数素子を並べたラインセンサを用いる。」

(8)甲第10号証
本件特許の出願前である2016年(平成28年)10月6日に頒布された刊行物である「特開2016-176805号公報」(以下「甲第10号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)
ア 「【0022】
図2に示すように、X線照射検出装置11は、搬送装置12を跨ぐように設けられX線を遮蔽する筐体13と、搬送中の商品箱50(物品51)に対してX線を照射する第1及び第2のX線発生装置14・15(「X線照射部」の一例)と、商品箱50(物品51)を透過した透過X線を検出する第1及び第2のラインセンサ16・17(「X線検出部」の一例)と、CCDカメラ18と、シグナルタワー19と、から主に構成されている。」

イ 「【図2】



ウ 上記甲第10号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第10号証には、次の技術(以下「甲10開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「ベルトコンベア上の検査物に対しX線を用いて検査を行う際に、X線を検出するセンサを鉛直方向に複数素子を並べたラインセンサを用いる。」

(9)甲第5号証
本件特許の出願前である2001年(平成13年)5月1日に頒布された刊行物である「米国特許第6226081号明細書」(以下「甲第5号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(和訳は当審の仮訳である。)
ア The apparatus 10 comprises four (4) main assemblies assembled on a 6 foot(1.83 m) crank stand 90 for accurate and consistent positioning the first three assemblies being an optical head assembly or optical assembly 40, a light or illumination source assembly 50, and a bridge assembly 60 which connects assemblies 40 and 50, supporting and positioning them to straddle the bottling line 20. On top of the bridge assembly 60 is the fourth assembly, namely a bottle detect assembly 70, which operates to provide a signal indicating the presence of a bottle at a predetermined position between the light source assembly 50 and the optical assembly 40.(明細書第9欄第10-21行)
(当審仮訳:装置10は、正確かつ一貫した位置決めのために6フィート (1.83m)のクランクスタンド90上に組み立てられた4つのメインアセンブリを含み、最初の3つのアセンブリは、光学ヘッドアセンブリまたは光学アセンブリ40、光源または照明源アセンブリ50、及び、アセンブリ40と50を接続し、ボトリングライン20を跨ぐようにこれらを支持および位置決めするブリッジアセンブリ60である。ブリッジアセンブリ60の上には、第4のアセンブリであるボトル検出アセンブリ70があり、光源アセンブリ50と光学アセンブリ40との間の所定の位置にボトルが在ることを示す信号を提供するよう動作する。)

イ The height of assemblies 40 50 60 and 70 with respect to the bottles can be adjusted via the crank stand 90.(明細書第9欄第36-37行)
(当審仮訳:ボトルに対するアセンブリ40、50、60及び70の高さは、クランクスタン90を介して調整することができる。)

(10)甲第8号証
本件特許の出願前である2006年(平成18年)1月12日に頒布された刊行物である「特開2006-10637号公報」(以下「甲第8号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)
ア 「【0021】
1.本例のX線異物検出装置1(本装置)の構造(図1乃至図4を参照)
図1に示すように、本装置は4本の支持脚20を備えた基台21の上に設置されたX線遮蔽構造の筐体4を本体としている。図2乃至4に示すように、筐体4の内部には検査用の空間22が設けられ、この空間22の上方にはX線照射手段2が設けられ、同下方部にはX線検知手段3が設けられている。」

イ 「【図1】



3.当審の判断
本件発明1,3,6が、甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、又は甲第6号証に記載された発明、甲第9号証に開示された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるかについて検討する。
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲6発明とを比較する。
(ア)甲6発明の「右から左方向に食品/飲料容器16を移動するコンベヤ14」は、本件発明1における「所定の搬送方向に被検査物を搬送する」「搬送経路(2)」に相当する。
(イ)甲6発明の「コンベアに沿って移動する食品および飲料の容器の連続的なX線検査」を行う「X線検査ステーション10」は、「遮蔽筐体12内には、破線および矢印によって示されるように、センサ22に試験下の中央容器を通してX線が導かれるX線発生器20が設けられており」「遮蔽筐体12は」「内部にコンベア14上の食品・飲料容器を挟んでコンベア14に直交する水平方向にX線発生器20とセンサ22を配置し」ていることから、本件発明1と「搬送経路(2)の上方に設定される検査空間(S)で前記被検査物にX線を照射し、前記被検査物を透過したX線に基づいて前記被検査物の検査を行う」点で一致する。
(ウ)甲6発明の「X線検査ステーション10」は、本件発明1の「X線検査装置」に相当する。
(エ)甲6発明の「コンベア14の搬送方向と直交する平面内でX線を照射」する「X線発生器20」は、本件発明1の「搬送方向と直交する平面内」で「X線を照射」する「X線照射部」に相当する。
(オ)甲6発明の「センサ22」は、本件発明1の「被検査物」「を透過したX線を検出する」「X線検出部」に相当する。
(カ)甲6発明の「X線発生器20」が「配置」される「遮蔽筐体12内の下部に4本の足がありコンベア14に直交する水平方向の幅が相対的に大きい空間」は、本件発明1における「搬送方向と直交する水平方向について前記検査空間の一方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に大きい遮蔽構造の第1収納部」に相当し、甲6発明の「X線発生器20」は、本件発明1の「第1収納部」「に収納されたX線照射部」に相当する。
(キ)甲6発明の「センサ22」が「配置」される「筐体12内の下部に足がなくコンベア14に直交する水平方向の幅が相対的に小さい空間」は、本件発明1における「搬送方向と直交する水平方向について」「前記検査空間の他方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に小さい遮蔽構造の第2収納部」に相当し、甲6発明の「センサ22」は、本件発明1の「第2収納部」「に収納されたX線検出部」に相当する。
(ク)甲6発明の「X線発生器20」が「配置」される「遮蔽筐体12内の」「コンベア14に直交する水平方向の幅が相対的に大きい空間」の「下部」の「4本の足」は、本件発明1の「第1収納部を支持する脚部」に相当する。
(ケ)甲6発明の「遮蔽筐体12」は「遮蔽筐体12は上面が水平面であり、内部にコンベア14上の食品・飲料容器を挟んでコンベア14に直交する水平方向にX線発生器20とセンサ22を配置し、X線発生器20は筐体12内の下部に4本の足がありコンベア14に直交する水平方向の幅が相対的に大きい空間内に配置され、センサ22は遮蔽筐体12内の下部に足がなくコンベア14に直交する水平方向の幅が相対的に小さい空間に配置され、遮蔽筐体12の前記大きい空間と小さい空間とはコンベア14の上方と下方で接続されている」ことから、本件発明1における「第1収納部と」「第2収納部が、」「検査空間を挟むように配置されて」「上方側で一体とされた筐体」に相当する。

すると、本件発明1と、甲6発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「所定の搬送方向に被検査物を搬送する搬送経路の上方に設定される検査空間で前記被検査物にX線を照射し、前記被検査物を透過したX線に基づいて前記被検査物の検査を行うX線検査装置であって、
前記搬送方向と直交する水平方向について前記検査空間の一方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に大きい遮蔽構造の第1収納部と、前記検査空間の他方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に小さい遮蔽構造の第2収納部とを有し、前記第1収納部と前記第2収納部が、前記検査空間を挟むように配置されて上方側で一体とされた筐体と、
前記第1収納部に収納され、前記搬送方向と直交する平面内でX線を照射するX線照射部と、
前記第2収納部に収納され、前記被検査物を透過したX線を検出するX線検出部と、
前記筐体の前記第1収納部を支持する脚部と、
を備えたX線検査装置。」
一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、「搬送経路」が「既設」であり、既設の搬送経路にX線検査装置を設置するために「検査空間の下方側を開放するように上方側で一体とされた筐体」を備えるのに対し、甲6発明では、コンベア14が既設かどうかでは定かでなく、開口12A’から遮蔽筐体12を通っており、遮蔽筐体12の大きい空間と小さい空間とはコンベア14の上方と下方で接続されている点。
<相違点2>
被検査物の検査が、本件発明1では「被検査物全体を透過したX線に基づいて」「被検査物の異物検出を行う」検査であるのに対し、甲6発明では、試験下の中央容器を通したX線をセンサ22で検出しているが、中央容器全体をX線が透過しているのか不明であり、センサ22が中央容器全体を透過したX線を検出しているのか不明であり、センサ22で検出したX線から異物検出を行っているのか不明な点。
<相違点3>
前記搬送方向と直交する平面内でX線を照射するX線照射部が、本件発明1では、「三角形の面状に拡がる照射範囲(Z)内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲の下端縁が水平」であるのに対し、甲6発明では、X線発生器20が照射するX線の照射範囲が明示されていない点。

イ 判断
前記「ア」で記載した各相違点について判断する。
(ア)相違点1について
甲1開示技術ないし甲4開示技術には、既存のコンベア上の検査物に対し、下方が解放され、上方で2つの空間か接続された筐体を用いた、X線を用いた検査装置の技術が開示されている。この技術は、上記相違点1における本件発明1が備える発明特定事項と同等の技術であり、甲第1号証ないし甲第4号証が本件特許出願前に公知であることから、当該技術が本件発明1の出願前に周知の技術であると認められる。
ここで、甲第6号証と、甲第1号証ないし甲第4号証とは、コンベア上の検査物をX線を用いて検査する点で同一の技術分野に属するものであるから、甲6発明において、遮蔽筐体12の構造に甲1開示技術ないし甲4開示技術に開示されている上記周知技術を採用して、既存のコンベアに対してコンベア上の検査物の検査が行えるようにして本件発明1の装置を導き出すことは、当業者ならば容易になしえたことである。

(イ)相違点2について
検査物にX線を照射して検査を行うX線検査装置において、検査物全体を透過したX線に基づいて検査物の異物検査を行うことは、甲第9号証にX線異物検出装置として開示されているように周知である。
よって、甲6発明において、上記周知の検査手法を適用して試験下の中央容器全体にX線を透過させてセンサ22で検出して異物検査を行うようにすることは、当業者ならば容易になしえたことである。

(ウ)相違点3について
a 本件発明1におけるX線の「照射範囲の下端縁が水平」であることについては、本件明細書及び図面に以下の記載がある。
(a)【図1】

(b)【0030】
「・・・X線照射部11は、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲Z内でX線を照射し、被検査物を透過したX線が、鉛直方向に沿って配置されたX線検出部12のラインセンサに到達するようになっている。」
(c)【0031】
「・・・従って、必要に応じてX線検査装置1の脚部6の高さ及び搬送経路2の高さの一方又は両方を調整部10で調整すれば、X線照射部11からラインセンサに向けて照射されるX線の照射範囲Zのうち、その水平な下端縁を搬送経路2の上面に略一致するように設定することができ、これによってX線の照射範囲Zの位置を適正に設定できる。・・・」
(d)【0039】
「・・・そして、必要に応じてX線検査装置1の脚部6の高さ又は搬送経路2の高さを調整部10で調整すれば、X線照射部11からラインセンサに向けて照射されるX線の照射範囲Zのうち、その水平な下端縁を搬送経路2の上面に略一致するように設定することができる。・・・」

b 以上の記載から、「三角形の面状に拡がる照射範囲」「の下端縁が水平」とは、その表現から見て、文字どおり図1における三角形の照射範囲Zの下端縁が、図面垂直方向に水平であると解することが自然である。そして、このような解釈は上記(b)?(d)における「水平な下端縁を搬送経路2の上面に略一致するように設定することができる」こととも整合している。

c 甲6発明では、X線発生器20が照射するX線の照射範囲が明示されていないが、X線発生器は通常陰極からの熱電子を陽極に衝突させてX線を発生するものであるから、その原理上衝突点から放射状にX線が発生されることは、当業者において常識であり、甲6発明のX線発生器20においても、コンベア14の搬送方向と直交する平面内においてはX線発生器20のX線照射口を頂点とした三角形状に放射されることは、当業者にとって明示はなくても明らかである。
しかしながら、甲6発明のX線検査ステーション10では、X線発生器20のX線照射範囲とコンベア14の位置関係は固定であり、X線発生器20のX線照射範囲内に、少なくともコンベア14上の食品・飲料容器の一部が配置され、食品・飲料容器を透過したX線がセンサ22で測定できるようにし、X線検査時にX線が装置外部に漏洩するのを避けるために、コンベア14の搬送方向以外の周囲を遮蔽筐体12で囲うものであるから、X線照射範囲の下端縁を水平にしてX線照射範囲をコンベア14の上面より下方に拡がらないようにする技術思想は甲6発明にはなく、またその技術思想を導入しようという動機付けもない。

d また、甲6発明において、上記「(ア)」で検討した相違点1に係る構成を、甲1開示技術ないし甲4開示技術に開示されている上記周知技術を採用して遮蔽筐体12のコンベヤ14の下方を開放した構造を変更して得たとしても、それにより生じるコンベヤ14の下方のX線遮蔽能力の低下を補うためにX線照射範囲の下端縁を水平にしてX線照射範囲をコンベア14の上面より下方に拡がらないようにする技術思想を導入することは、甲6発明に周知技術を導入したことにより生じる課題をさらに解決するために新たな技術を導入することとなるので、当業者が容易になしえたことではない。

e さらに、甲6発明において、上記「(イ)」で検討した相違点2に係る構成を、上記周知の検査手法を適用して試験下の中央容器全体にX線を透過させてセンサ22で検出して異物検査を行うようにして得たとしても、コンベア14の搬送方向以外の周囲を遮蔽筐体12で囲う構成は備えたままであるから、X線照射範囲の下端縁を水平にしてX線照射範囲をコンベア14の上面より下方に拡がらないようにする技術思想を採用する動機は生じない。

f そして、搬送経路下方のX線遮蔽構造を不要にするためにX線発生器から照射されるX線の照射範囲の下端縁を水平にしつつ、被検査物全体をX線照射して透過したX線をX線検出器で検出して、被検査物の異物検出を行う技術は、甲第1ないし10号証には開示されておらず、本件特許出願前に周知である技術でもない。

(エ)まとめ
ゆえに、本件発明1は、甲第1ないし10号証に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易になしえた発明ではない。

(2)本件発明3及び6について
本件発明3及び6は、本件発明1を引用する発明であり、本件発明1については、上記「(1)」で検討したとおり、甲第1ないし10号証に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易になしえた発明ではないから、本件発明3及び6も、上記「(1)」と同様の理由により、甲第1ないし10号証に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易になしえた発明ではない。

(3)申立人の意見及び主張について
ア 令和3年7月5日付け意見書における申立人の意見の概要は、
(ア)甲第6号証に甲1?4開示技術等を適用する動機付けはある。
(イ)甲第6号証に甲1?4開示技術等を適用する阻害要因はない。
(ウ)「照射範囲の下端縁が水平」という構成の意味内容が不明であるから、記載要件を満たしていない。
(エ)以上より、訂正後の請求項1,3及び6は、甲第1ないし10号証に開示された発明及び周知技術から当業者が容易になしえた発明である。
というものである。

イ 令和3年2月18日付け意見書における申立人の意見の概要は、
(ア)請求項1の発明と甲1?4開示技術及び甲6発明とは、対象物にX線を照射し透過量に基づき対象物の状態を検査する技術であることに変わりはない。
(イ)請求項1の発明と甲6発明とは技術分野に相違はなく、甲1?4開示技術を甲6発明に適用することを妨げる特段の事情はない。
(ウ)請求項1の発明は、甲6発明に甲1?4開示技術を採用することによって容易に発明をすることができたものである。
(エ)甲6発明に甲1?4開示技術を採用することには特段の阻害事情はない。
(オ)以上より、訂正後の請求項1,3及び6は、甲第1ないし10号証に開示された発明及び周知技術から当業者が容易になしえた発明である。
というものである。

ウ 上記意見及び主張について検討する。
上記「ア(ア)及び(イ)」と「イ(ア)ないし(エ)」における、甲6発明に甲1?4開示技術を採用することは、上記「(1)イ(ア)」で検討したとおり、当業者が容易になしえたことであるから、「ア(ア)及び(イ)」と「イ(ア)ないし(エ)」における申立人の主張は、採用されている。
上記「ア(ウ)」については、上記「(1)イ(ウ)」で検討したとおり、搬送経路2が搬送する方向(図1において紙面垂直方向)において照射範囲(Z)の下端縁が「水平」となっていると読み取ることができる。よって、本件発明1は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。また、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号を満たす。ゆえに、上記「ア(ウ)」についての申立人の主張は、採用することができない。
上記「ア(エ)」と「イ(オ)」については、上記「(1)イ」で検討したとおり、本件発明1は、甲第1ないし10号証に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易になしえた発明ではない。ゆえに、上記「ア(エ)」と「イ(オ)」についての申立人の主張は、採用することができない。

4.小括
以上のことから、本件発明1,3及び6は、甲第6号証に記載された発明、甲第1ないし10号証に開示された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しない発明である。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.甲号証について
(1)申立人が特許異議申立書において証拠として提示した甲号証は以下のとおりである。
甲第1号証:特表平11-514435号公報
甲第2号証:“Fill_xr Sensor”カタログ
甲第3号証:“Newton X2P”カタログ
甲第4号証:“CL600-HF/RX”カタログ
甲第5号証:米国特許第6226081号明細書
甲第6号証:米国特許第6872001号明細書
甲第7号証:特開2016-141541号公報
甲第8号証:特開2006-10637号公報
甲第9号証:特開2008-275452号公報
甲第10号証:特開2016-176805号公報

(2)各甲号証の記載
各甲号証の記載については上記「第4 2.甲号証の記載」で述べたとおりである。

2.特許異議申立理由について
申立人が特許異議申立書において申し立てた理由の概要は以下のとおりである。
(1)異議申立理由1:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
ア 本件発明1は、甲第1?7号証に記載された発明から、当業者が容易に想到し得るものである。
イ 本件発明3は、甲第1?9号証に記載された発明から、当業者が容易に想到し得るものである。
ウ 本件発明6は、甲第1?7号証及び甲第10号証に記載された発明から、当業者が容易に想到し得るものである。
(2)異議申立理由2:特許法第36条第6項第2号、同条同項第1号、同条第4項第1号(同法第113条第4号)
ア 本件発明1は明確でなく、実質的には明細書や図面に記載されていないに等しく、当業者が当該発明を実施することができない。
イ 本件発明5は明確でなく、実質的には明細書や図面に記載されていないに等しく、当業者が当該発明を実施することができない。

3.当審の判断
(1)異議申立理由1について
異議申立理由1のうち甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした場合については、甲第1号証に記載された発明は、本件発明1とは、少なくとも上記「第4 3.(1)」で検討した<相違点3>の点で相違しており、<相違点3>については、上記「第4 3.(1)f」で検討したとおり、搬送経路下方のX線遮蔽構造を不要にするためにX線発生器から照射されるX線の照射範囲の下端縁を水平にしつつ、被検査物全体をX線照射して透過したX線をX線検出器で検出して、被検査物の異物検出を行う技術は、甲第1ないし10号証には開示されておらず、本件特許出願前に周知である技術でもないことから、甲1発明に上記<相違点3>に係る構成を採用することは、当業者が容易になしえたこととは認められない。
ゆえに、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第1ないし10号証に開示された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないし、本件発明1を引用する本件発明3及び6も同様の理由で、甲第1号証に記載された発明、甲第1ないし10号証に開示された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ゆえに、本件発明1,3及び6は、特許法第29条第2項の規定に該当しない発明である。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。

(2)異議申立理由2について
ア 本件発明1について
申立人は、特許異議申立書において、本件発明1における「水平方向の長さ」が明確でなく、そのため本件発明1は明確でなく、実質的には明細書や図面に記載されていないに等しく、当業者が当該発明を実施することができない旨主張する。
ここで、本件発明1における「水平方向の長さ」について検討する。
本件発明1には、「搬送方向と直交する水平方向について」という事項がある。搬送方向は、搬送経路2において被検査物を搬送する方向であるから1次元の方向であり、その搬送方向と直交するのは平面(2次元)である事が理解でき、平面なので鉛直方向と水平方向があるのは理解できる。
水平方向の長さは、本件特許公報の図面を見れば、【図1】ないし【図7】はすべて搬送方向を紙面垂直方向にとる図面であるから、図面横方向が水平方向の長さを表す方向であることが理解できる。よって、本件発明1は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。また、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号を満たす。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。

イ 本件発明5について
申立人は、特許異議申立書において、本件発明5における「水平方向の長さ」が明確でなく、そのため本件発明5は明確でなく、実質的には明細書や図面に記載されていないに等しく、当業者が当該発明を実施することができない旨主張する。
「水平方向の長さ」については、上記「ア」で検討したとおりである。
よって、本件発明5は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。また、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号を満たす。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。

4.小括
以上のことから、異議申立理由1については、上記「第4」で検討した以外の甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした場合についても、本件特許1,3及び6について理由はなく、異議申立理由2については、本件特許1及び5について理由はない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1,3,5,6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1,3,5,6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
X線検査装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮蔽されたX線の検査空間に被検査物を搬入し、検査空間内で被検査物にX線を照射し、被検査物を透過したX線に基づいて検査を行うX線検査装置に係り、特に、既設の搬送経路に後付けで組み込む作業を容易に行うことができ、X線照射部とX線検出部の組み込み後の相互位置関係の精度が高いX線検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線を遮蔽する構造の筐体を備え、この筐体内の遮蔽空間に被検査物を搬入し、遮蔽空間内で被検査物にX線を照射し、被検査物を透過したX線に基づいて被検査物の検査を行うX線検査装置が知られている。このようなX線検査装置の代表的な使用例としては、製品中の異物を検出することが挙げられる。このような適用例では、被検査物である製品の製造工場等に設置されている生産設備において、製品の搬送経路から既設のX線検査装置を取り外し、新たなX線検査装置を後付けで設置するケースが考えられる。あるいは、X線検査装置のない搬送経路に、新たなX線検査装置を後付けで設置するケースも考えられる。
【0003】
下記特許文献1には、構成部品がユニット化されたX線検査装置の発明が開示されている。このX線検査装置によれば、X線発生手段、検出手段、画像処理手段、表示手段、制御手段などの構成部品と、X線検査装置から周囲への漏洩X線量を抑えるために取付ける防護部品とを、用途に応じた部品構成でユニット化し、別種類の構成部品の交換を容易にできる効果がある。従って、この発明によれば、各ユニットを個々に搬送経路の所定位置に取り付けて一体化していくことができるので、前述したような既設の搬送経路にX線検査装置を後付けで組み込む適用例にも適応可能と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-39406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般にX線検査装置は、X線を照射するX線照射部と、被検査物を透過したX線を検出するX線検出部を有しているが、被検査物を挟んだX線照射部とX線検出部の配置については、所定の検査性能を実現するために設定された所期の位置関係を精密に再現する必要がある。このため、既設の搬送経路にX線照射部とX線検出部を適切に配置し、X線検査装置を搬送経路に対して正しく組み込むことは必ずしも容易ではない。
【0006】
上記特許文献1のユニット化されたX線検査装置を既設の搬送経路に組み込む場合にも、X線照射部とX線検出部の配置を所期の関係に精密に設定する必要性は変わらない。この場合には、ユニット化された各部を組み合わせてX線検査装置の中を搬送経路が貫通する構成とするため、既設の搬送経路に対する組み込み作業の容易性は高まると考えられる。しかしながら、組み立ての容易性と、独立した複数のユニットを組み立てた後に、X線照射部とX線検出部が精密な配置となるかは別の問題である。すなわち、上記特許文献1のユニット化されたX線検査装置によっても、別ユニットであるX線照射部とX線検出部を既設の搬送経路に対して適切な位置に取り付け、X線検査装置を搬送経路に対して正しく組み込むことは容易ではない。
【0007】
本発明は、以上説明した従来の技術における種々の課題に鑑みてなされたものであり、既設の搬送経路に後付けで組み込む作業を容易に行うことができ、しかもX線照射部とX線検出部の組み込み後の相互位置関係の精度が高いX線検査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載されたX線検査装置1,1’,1”は、
所定の搬送方向に被検査物を搬送する既設の搬送経路2の上方に設定される検査空間Sで前記被検査物にX線を照射し、前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行うX線検査装置1,1’,1”であって、
前記搬送方向と直交する水平方向について前記検査空間Sの一方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に大きい遮蔽構造の第1収納部4と、前記検査空間Sの他方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に小さい遮蔽構造の第2収納部5,5’とを有し、前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’が、前記検査空間Sを挟むように配置されて前記検査空間Sの下方側を開放するように上方側で一体とされた筐体3,3’と、
前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲Z内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲の下端縁が水平なX線照射部(11)と、
前記第1収納部4と前記第2収納部5,5’の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部12と、
前記筐体3,3’の前記第1収納部4を支持する脚部6と、
を備えている。
【0009】
請求項2に記載されたX線検査装置1’,1”は、請求項1記載のX線検査装置1,1’,1”において、
前記第2収納部5,5’が、前記検査空間Sの他方側を開放するように前記第1収納部4に対して回動可能に取り付けられている。
【0010】
請求項3に記載されたX線検査装置1,1’,1”は、請求項1又は2記載のX線検査装置1,1’,1”において、
前記脚部6が、4本の脚7と、前記各脚7を連結する連結部材8とを含んでいる。
【0011】
請求項4に記載されたX線検査装置1,1’,1”は、請求項1乃至3の何れか一つに記載のX線検査装置1,1’,1”において、
前記脚部6の前記検査空間S側の面が、前記検査空間Sに対面している前記第1収納部4の垂直な壁面と同一平面を構成している。
【0012】
請求項5に記載されたX線検査装置1,1’,1”は、請求項1乃至4の何れか一つに記載のX線検査装置1,1’,1”において、
前記筐体3,3’の上面が、前記搬送方向と直交する水平方向の長さが相対的に大きい遮蔽構造の第1収納部4側から、前記水平方向の長さが相対的に小さい遮蔽構造の第2収納部5側に向かうほど低くなるように傾斜している
【0013】
請求項6に記載されたX線検査装置1,1’,1”は、請求項1乃至5の何れか一つに記載のX線検査装置1,1’,1”において、
前記X線検出部12は、前記搬送方向と直交する平面内において鉛直方向に並んだ複数の検出素子を有するラインセンサを有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載されたX線検査装置によれば、X線検査装置を既設の搬送経路に組み込むと、筐体の第1収納部と第2収納部の隙間の空間が、搬送経路の上方に設定されるべき検査空間となる。従って、このX線検査装置を既設の搬送経路に組み込む場合には、まず、X線検査装置を持ち上げ、第1収納部と第2収納部の隙間の下側の開口が、床上に設置された搬送経路の真上にくるように、X線検査装置を配置する。次に、X線検査装置を下ろして脚部で床上に設置する。これで、X線検査装置の脚部の高さ及び搬送経路の高さとの関係にもよるが、第1収納部と第2収納部の隙間の下側の開口部と、搬送経路とが合致する状態となるので、必要に応じてX線検査装置の脚部の高さ及び搬送経路の高さの一方又は両方を調整する。
【0015】
これにより、既設の搬送経路にX線検査装置が後付けで組み込まれた状態、すなわち、第1収納部と第2収納部の隙間の下側の開口部に搬送経路があてがわれ、第1収納部と第2収納部の隙間の空間が、既設の搬送経路の上方の検査空間となった状態が、上述した容易な作業で得られた。
【0016】
また、第1収納部と第2収納部の一方にX線照射部が設けられ、他方にX線検出部が設けられており、その第1収納部と第2収納部は互いに一体とされて位置関係が固定されている。よって、既設の搬送経路に後付けで組み込んだX線検査装置であっても、検査空間を挟んで配置されたX線照射部とX線検出部の配置は、所定の検査性能を実現するために設定された所期の位置関係のままである。すなわち、後付けの組み込みによってX線照射部とX線検出部の位置関係がずれる恐れはない。
【0017】
請求項2に記載されたX線検査装置によれば、第2収納部を第1収納部に対して回動させれば、検査空間の他方側を開放することができる。そして、このように検査空間の他方側を開放した状態とすれば、脚部にキャスターを設けて床上を転動させるか、又はリフター等で床から少し持ち上げて移動させることにより、床上に既設の搬送経路を、第1収納部と第2収納部の隙間の空間に導入することができる。X線検査装置をクレーン等で大きく吊り上げる必要はない。導入後、第2収納部を第1収納部に向けて回動させ、検査空間の他方側を閉止すれば、既設の搬送経路にX線検査装置が後付けで組み込まれた状態が得られる。
【0018】
請求項3に記載されたX線検査装置によれば、筐体の第1収納部を支える脚部は、4本の脚を連結部材で連結した堅牢な構成となっている。従って、上述したように、X線検査装置を既設の搬送経路に対して組み込むために持ち上げたい場合には、リフター等を連結部材の下に差し入れて上昇させることでX線検査装置を床から安定して持ち上げた状態に保持することができる。
【0019】
請求項4に記載されたX線検査装置によれば、脚部の検査空間側の面が、検査空間に対面する第1収納部の垂直な壁面と同一平面を構成している。このため、持ち上げたX線検査装置を搬送経路の真上で下ろし、第1収納部と第2収納部の隙間の下側の開口部から搬送経路が挿入される際には、同一平面となった脚部の前記面と第1収納部の前記壁面が案内面になるため、搬送経路を検査空間に挿入する動作が安定する。
【0020】
請求項5に記載されたX線検査装置によれば、筐体の上面が、検査空間を挟んで対面する二つの収納部の、搬送方向と直交する水平方向の長さが相対的に小さい収納部側に向かうほど低くなるように傾斜しているため、水平方向の長さが相対的に長い収納部を支える脚部側に装置全体の重心が移り、結果的に脚部を設置した際の装置の転倒角が大きくなって設置の安定性が向上する構造となる。
【0021】
請求項6に記載されたX線検査装置によれば、鉛直方向に並んだ複数の検出素子を有するラインセンサを有しており、ラインセンサとX線照射部の位置関係は所定の検査性能を実現するために設定された所期の位置関係のままである。従って、必要に応じてX線検査装置の脚部の高さ及び搬送経路の高さの一方又は両方を調整することにより、X線照射部からラインセンサに向けて照射されるX線の照射範囲のうち、その下端縁を搬送経路の上面に略一致するように設定することにより、X線の照射範囲を適正に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態のX線検査装置の構造上の特徴を示す正面図である。
【図2】第1実施形態においてX線検査装置をリフターで移動する状態を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態においてX線検査装置をリフターで移動して搬送経路に組み込む作用を示す正面図である。
【図4】搬送経路に組み込んだ第1実施形態のX線検査装置において、被検査物の出入り口に遮蔽部材を取り付けた状態を示す図であって、分図(a)は正面図、分図(b)は分図(a)における矢視A図、分図(c)は左側面図である。
【図5】分図(a)は第2実施形態のX線検査装置の正面図であり、分図(b)は同X線検査装置の作用を示す正面図である。
【図6】第2実施形態においてX線検査装置をリフターで移動して搬送経路に組み込む作用を示す正面図である。
【図7】第2実施形態においてX線検査装置を脚部のキャスターで移動して搬送経路に組み込む作用を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1?図4を参照して第1実施形態のX線検査装置1を説明する。このX線検査装置1は、既設の搬送経路2に後付けで容易に組み込むことができ、組み込み後の各部の相互位置関係の精度が高いことを特徴とするものである。
【0024】
なお、これらの図では、図1、図3及び図4(a)を正面図とし、X線検査装置1が組み込まれる既設の搬送経路2は、正面図の紙面に直交する方向に被検査物を搬送するものとする。そして、図3に示すように、X線検査装置1を実際に使用する見地からは、装置を操作する操作盤(図示せず)が配置された左側面を正面側と称し、右側面を背面側と称するものとする。
【0025】
図1及び図2に示す第1実施形態のX線検査装置1は、既設の搬送経路2の上方から下ろして搬送経路2に被せて取り付ける。そのため、このX線検査装置1は、搬送経路2の真上に当たる検査空間Sを、上方から囲むような形状の筐体3を備えている。すなわち、この筐体3は、搬送経路2の搬送方向と直交する水平方向(図1中左右方向)について、検査空間Sの一方側に配置された遮蔽構造の第1収納部4と、検査空間Sの他方側に配置された遮蔽構造の第2収納部5とを備えており、第1収納部4と第2収納部5は上方で一体とされており、搬送経路2の入口となる図中正面側と、出口となる図中背面側と、搬送経路2が配置される図中下面側は、いずれも開放構造となっている。
なお、後述するように、使用時には、筐体3の入口と出口は遮蔽部材15で遮蔽される。
【0026】
図1に示すように、筐体3の上面は、被検査物の搬送方向と直交する平面(図1の紙面)内において、第1収納部4から第2収納部5に向かうほど低くなるように傾斜している。このため、第1収納部4の重量が第2収納部5に対して相対的に大きくなり、その結果第1収納部4の方へ装置全体の重心が移り、脚部を設置した際の装置の転倒角が大きくなって、装置の安定性が向上する。
【0027】
図1に示すように、X線検査装置1の第1収納部4の下面には、脚部6が取り付けられている。脚部6は、第1収納部4の四隅に垂直に設けられた4本の脚7と、各脚7を連結して補強する4本の連結部材8とを有している。脚部6は、第1収納部4及び第2収納部5の重量を支えるとともに、第1収納部4から片持ち状に背面側に突出した第2収納部5によるモーメントに抗して、X線検査装置1を設置面9上に安定的に支持することができる。
【0028】
図1に示すように、脚部6の脚7の下端には、調整部10が取り付けられており、各脚7の長さを調整することができる。4本の脚7の調整部10をそれぞれ操作し、各脚7の長さをそれぞれ調整することにより、設置面9の水平度に対応して筐体3を水平状態に設定することができる。また、各脚7の長さをそれぞれ調整することにより、設置面9上にある既設の搬送経路2の高さに合せて、筐体3の高さを調整することができる。
【0029】
図1に示すように、この脚部6の図中右側の面が、検査空間Sに対面する第1収納部4の垂直な壁面と同一平面を構成している。このため、後述するように、持ち上げたX線検査装置1を搬送経路2の真上で下ろし、第1収納部4と第2収納部5の隙間の下側の開口部から搬送経路2が挿入される際には、同一平面となった脚部6の前記面と第1収納部4の前記壁面が段差のない連続的な案内面Gになり、搬送経路2を検査空間Sに挿入する動作が安定する。
【0030】
図1に模式的に示すように、第1収納部4にはX線照射部11が収納され、第2収納部5にはX線検出部12が設けられている。X線検出部12は、前記搬送方向と直交する平面内において鉛直方向に並んだ複数の検出素子を有するラインセンサを備えている。X線照射部11は、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲Z内でX線を照射し、被検査物を透過したX線が、鉛直方向に沿って配置されたX線検出部12のラインセンサに到達するようになっている。
【0031】
第1収納部4と第2収納部5は一体構造であるため、第1収納部4に収納されたX線照射部11と、第2収納部5に収納されたラインセンサの位置関係は、所定の検査性能を実現するために設定された所期の位置関係のままである。従って、必要に応じてX線検査装置1の脚部6の高さ及び搬送経路2の高さの一方又は両方を調整部10で調整すれば、X線照射部11からラインセンサに向けて照射されるX線の照射範囲Zのうち、その水平な下端縁を搬送経路2の上面に略一致するように設定することができ、これによってX線の照射範囲Zの位置を適正に設定できる。
【0032】
検査時、被検査物は搬送経路2を搬送され、検査空間S内に入る。検査空間S内でX線照射部11がX線を照射する。被検査物を透過したX線はX線検出部12が検出する。X線検出部12によるX線の検出結果に基づいて、図示しない制御部が被検査物の検査結果を判定する。
【0033】
なお、この実施形態では、第1収納部4にX線照射部11があり、第2収納部5にX線検出部12があるものとしたが、逆でもよい。後述する第2実施形態でも同様である。
【0034】
以上のような構造のX線検査装置1を既設の搬送経路2に後付けで設置する作用を図2及び図3を参照して説明する。
図2に一部を示すように、X線検査装置1の搬送経路2への取り付けにはリフター13を用いる。ここでリフター13とは、工場内等で重量物の持ち上げ、高い位置での出し入れ、搬送等に使用される自走式の運搬装置であって、フォークリフトの要素を有しており、昇降する水平な複数本のフォークを備えている。図2及び図3中のリフター13はフォークの部分である。動力源としては、手動油圧式、電動バッテリー式等がある。
【0035】
図2に示すようにX線検査装置1の脚部6の連結部材8の下側に、リフター13が有する2本のフォークを差し込み、X線検査装置1の全体を設置面9から持ち上げる。図3に示すように、持ち上げ高さは、X線検査装置1を移動する際に第2収納部5の下端が搬送経路2と干渉しない程度とする。なお、リフター13のフォークを差し込む位置は、持ち上げ時の荷重に耐えられるような部位であればよく、ここでは連結部材8の下側としたが、例えば第1収納部の下側でもよい。
【0036】
X線検査装置1を必要な高さに持ち上げたリフター13を、搬送経路2に向けて進行させ、X線検査装置1の第1収納部4と第2収納部5の隙間の空間を、搬送経路2の真上に設定する。ここで、リフター13のフォークを下降させてX線検査装置1を設置面9上に着地させれば、第1収納部4と第2収納部5の隙間の空間の下部に搬送経路2が入り込む。第1収納部4と第2収納部5の隙間の下側の開口部から搬送経路2が入り込む際には、同一平面となった脚部6の右側の面と、第1収納部4の右側の壁面が案内面Gになるため、第1収納部4と第2収納部5の隙間に搬送経路2が入り込む動作が安定する。
【0037】
そして、必要に応じ、脚部6の4本の脚7の調整部10をそれぞれ操作し、各脚7の長さをそれぞれ調整する。これにより、設置面9の水平度に応じて筐体3を水平状態に設定できる。また、これと同時に、搬送経路2の高さに合せて筐体3の高さを調整できる。搬送経路2の高さを調整部10で調整してもよい。
【0038】
このように、実施形態のX線検査装置1を既設の搬送経路に組み込む作業は、大がかりなクレーンを用いて高く吊り上げて行う必要がなく、工場等で普通に備えつけられているリフターで簡単に実施することができる。
【0039】
第1収納部4と第2収納部5は一体構造なので、第1収納部4のX線照射部11と、第2収納部5のラインセンサの位置関係は、所定の検査性能を実現するために設定された所期の位置関係のまま変化することはなく、設置後も配置精度を維持することができる。そして、必要に応じてX線検査装置1の脚部6の高さ又は搬送経路2の高さを調整部10で調整すれば、X線照射部11からラインセンサに向けて照射されるX線の照射範囲Zのうち、その水平な下端縁を搬送経路2の上面に略一致するように設定することができる。これによって検査空間S内におけるX線の照射範囲Zを適正に設定することができ、ボトル等の縦長の被検査物であっても、その全体を適正な状態で検査することができる。
【0040】
図4は、搬送経路2に組み込んだX線検査装置1において、被検査物の出入り口に遮蔽部材15を取り付けた状態を示す図である。図4(a)はX線検査装置1を搬送経路2に組み込んだ状態を示しているが、何等の手当てをしないならば、搬送経路2の入口となる図中手前側と、出口となる図中奥側はいずれも開放された状態となってしまう。そこで、図4に示すように、実際の使用時にX線の漏洩がないように、筐体3の検査空間Sの入口と出口には、遮蔽部材15を設けてX線の漏洩を遮蔽する。搬送経路2は、検査空間S内と、検査空間Sの入口と出口に設けた遮蔽部材15の内部と、さらに遮蔽部材15の外部との間で、一体のベルトコンベアとして連続している。
【0041】
図5?図7を参照して第2実施形態のX線検査装置1’を説明する。このX線検査装置1’は、第1実施形態と同様の特徴を有する装置であるが、既設の搬送経路2に後付けで組み込む作業をさらに一層容易に行うことができることを特徴とするものである。検査空間Sを挟んで配置されるX線照射部11とX線検出部12の配置の精度は第1実施形態と同等である。
【0042】
図5に示す第2実施形態のX線検査装置1’の構成のうち、第1実施形態と同様の構成部分については、第1実施形態での説明に用いた符号を付して説明を省略し、第1実施形態における説明を援用するものとする。以下、第1実施形態と異なる構成部分及びその作用等を中心に説明する。
【0043】
図5に示すように、第2実施形態のX線検査装置1’の第2収納部5’は、検査空間Sの他方側(図中右側面側)にある第1収納部4の端部に対し、ヒンジ等の回動可能な連結手段20により、回動可能に取り付けられている。従って、第1収納部4は、図5(a)に示すように鉛直方向に平行な閉止位置に設定されれば検査空間Sを閉止し、図5(b)に示すように水平方向に平行な開放位置に設定されれば検査空間Sを他方側(図中右側面側)に向けて開放する。なお、第2収納部5’は、閉止位置と開放位置において固定することができる他、閉止位置と開放位置の途中の任意の位置で必要に応じて固定することもできる。
【0044】
なお、本実施形態では、連結手段20の一例としてヒンジを挙げたが、使用時には第1収納部4と第2収納部5を精度よく一体化でき、かつ搬送経路への組み込み時には第1収納部4と第2収納部5が相対的に離れて検査空間Sとなる隙間が開放できるような構造の連結手段であればよい。
【0045】
第2実施形態のX線検査装置1’を既設の搬送経路2に後付けで設置する作用を説明する。図6に一部を示すように、X線検査装置1’の搬送経路2への取り付けにはリフター13を用いる。図6に示すように、X線検査装置1’の第2収納部5’を開放位置又は開放位置に近い位置にまで開いて位置を固定する。次に、X線検査装置1’の脚部6の連結部材8の下側に、リフター13の2本のフォークを差し込み、X線検査装置1’の全体を設置面9から持ち上げる。図6に示すように、持ち上げ高さは、X線検査装置1’を移動する際に第2収納部5’の下端が搬送経路2と干渉しない程度であればよい。本実施形態では、第2収納部5’を開放した状態で、第1収納部4と第2収納部5’の間の空間(検査空間S)に搬送経路2を導入するため、図3に示した第1実施形態の場合ほど、X線検査装置1’を高く持ち上げる必要はない。
【0046】
X線検査装置1’を持ち上げたリフター13を、搬送経路2に向けて進行させることにより、X線検査装置1’の第1収納部4と第2収納部5’の隙間の検査空間Sとなる空間に搬送経路2を導入する。リフター13のフォークを下降させてX線検査装置1’を設置面9上に着地させる。第2収納部5’を閉止状態に戻してロックする。これにより、第1収納部4と第2収納部5’の隙間の空間の下部に搬送経路2が入り込み、X線検査装置1’の搬送経路2に対する組み込みが完了する。そして、第1実施形態と同様、必要に応じて脚部6の4本の脚7の調整部10と、搬送経路2の調整部10を適宜操作し、各脚7の長さ及び搬送経路の高さをそれぞれ調整する。
【0047】
第2実施形態のX線検査装置1”を既設の搬送経路2に後付けで設置する作用の変形例について、図7を参照して説明する。
図7に示すように、X線検査装置1”の搬送経路2への取り付けにはキャスター30を用いる。キャスター30とは、被搬送物の下部に取り付けて被搬送物を設置面9上に転動自在に支える移動用部材であり、自在に向きの変わる小さな車輪、ローラ、ころ等の転動部材で構成される。本例のキャスター30は、脚部6の4本の脚7の下端に取り付けられており、不使用時には設置面9に接しない位置に収納されており、使用時には装置全体を設置面9上に転動自在に支える。
【0048】
図7に示すように、X線検査装置1”の第2収納部5’を開放位置又は開放位置に近い位置にまで開いて位置を固定する。次に、X線検査装置1”をキャスター30によって搬送経路2に向けて進行させることにより、X線検査装置1”の第1収納部4と第2収納部5’の隙間の空間(検査空間Sとなる空間)に搬送経路2を導入する。キャスター30を収納状態としてX線検査装置1”を設置面9上に着地させる。第2収納部5’を閉止状態に戻してロックする。これにより、第1収納部4と第2収納部5’の隙間の空間の下部に搬送経路2が入り込み、X線検査装置1”の搬送経路2に対する組み込みが完了する。そして、第1実施形態と同様、必要に応じて脚部6の4本の脚7の調整部10と、搬送経路2の調整部10を適宜操作し、各脚7の長さ及び搬送経路の高さをそれぞれ調整する。
【符号の説明】
【0049】
1,1’,1”…X線検査装置
2…搬送経路
3,3’…筐体
4…第1収納部
5,5’…第2収納部
6…脚部
7…脚
8…連結部材
11…X線照射部
12…X線検出部
20…回動可能な連結手段
30…キャスター
S…検査空間
G…案内面
Z…X線の照射範囲
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の搬送方向に被検査物を搬送する既設の搬送経路(2)の上方に設定される検査空間(S)で前記被検査物にX線を照射し、前記被検査物全体を透過したX線に基づいて前記被検査物の異物検出を行うX線検査装置(1,1’,1”)であって、
前記搬送方向と直交する水平方向について前記検査空間の一方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に大きい遮蔽構造の第1収納部(4)と、前記検査空間の他方側に配置され、前記水平方向の長さが相対的に小さい遮蔽構造の第2収納部(5,5’)とを有し、前記第1収納部と前記第2収納部が、前記検査空間を挟むように配置されて前記検査空間の下方側を開放するように上方側で一体とされた筐体(3,3’)と、
前記第1収納部と前記第2収納部の一方に収納され、前記搬送方向と直交する平面内において三角形の面状に拡がる照射範囲(Z)内にX線を照射し、かつ、前記照射範囲の下端縁が水平なX線照射部(11)と、
前記第1収納部と前記第2収納部の他方に収納され、前記被検査物の全体を透過したX線を検出するX線検出部(12)と、
前記筐体の前記第1収納部を支持する脚部(6)と、
を備えたX線検査装置(1,1’,1”)。
【請求項2】
前記第2収納部(5’)が、前記検査空間(S)の他方側を開放するように前記第1収納部(4)に対して回動可能に取り付けられた請求項1記載のX線検査装置(1’,1”)。
【請求項3】
前記脚部(6)が、4本の脚(7)と、前記各脚を連結する連結部材(8)とを含む請求項1又は2記載のX線検査装置(1,1’,1”)。
【請求項4】
前記脚部(6)の前記検査空間(S)側の面が、前記検査空間に対面している前記第1収納部(4)の垂直な壁面と同一平面を構成している請求項1乃至3の何れか一つに記載のX線検査装置(1,1’,1”)。
【請求項5】
前記筐体(3,3’)の上面が、前記搬送方向と直交する水平方向の長さが相対的に大きい遮蔽構造の第1収納部(4)側から、前記水平方向の長さが相対的に小さい遮蔽構造の第2収納部(5)側に向かうほど低くなるように傾斜している請求項1乃至4の何れか一つに記載のX線検査装置(1,1’,1”)。
【請求項6】
前記X線検出部(12)は、前記搬送方向と直交する平面内において鉛直方向に並んだ複数の検出素子を有するラインセンサを有していることを特徴とする請求項請求項1乃至5の何れか一つに記載のX線検査装置(1,1’,1”)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-23 
出願番号 特願2017-43466(P2017-43466)
審決分類 P 1 652・ 853- YAA (G01N)
P 1 652・ 851- YAA (G01N)
P 1 652・ 536- YAA (G01N)
P 1 652・ 537- YAA (G01N)
P 1 652・ 121- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤田 都志行  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 幸仙
井上 博之
登録日 2020-01-07 
登録番号 特許第6640137号(P6640137)
権利者 アンリツ株式会社
発明の名称 X線検査装置  
代理人 鈴木 典行  
代理人 鈴木 典行  
代理人 西村 教光  
代理人 西村 教光  

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