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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1379774
異議申立番号 異議2020-700765  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-07 
確定日 2021-09-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6676720号発明「表示体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6676720号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6676720号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6676720号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年2月22日に出願した特願2016-31501号の一部を、平成30年7月6日に特願2018-129188号として新たな出願をし、その一部を、さらに平成30年10月11日に新たな出願としたものであって、令和2年3月16日に特許権の設定登録がされ、令和2年4月8日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立てに関する経緯は、次のとおりである。

令和2年10月 7日 :特許異議申立人谷口俊春(以下「申立人」と いう)による特許異議の申立て
令和3年 1月26日付け:取消理由通知書
令和3年 3月29日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和3年 5月21日 :申立人による意見書の提出

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
令和3年3月29日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6676720号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に対し、
「前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層に対し、前記一の表示体構成部材越しに紫外線照射することにより、前記粘着剤層を硬化させて前記硬化後粘着剤層とし、当該硬化後粘着剤層のゲル分率を40%以上とする」
とあるのを、
「前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層に対し、前記一の表示体構成部材越しに紫外線照射することにより、前記粘着剤層を硬化させて前記硬化後粘着剤層とし、当該硬化後粘着剤層のゲル分率を60%以上とする」
と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1に対し、
「紫外線吸収剤を含有する一の表示体構成部材と、
紫外線を透過しないか紫外線吸収剤を含有する他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する硬化後粘着剤層と
を備えた表示体の製造方法であって、」
とあるのを、
「紫外線吸収剤を含有する一の表示体構成部材と、
紫外線を透過しないか紫外線吸収剤を含有する他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する硬化後粘着剤層と
を備えた表示体の製造方法であって、
剥離シートと、一方の面が露出し、他方の面が前記剥離シートの剥離面に接するように積層された粘着剤層とを備える粘着シートを用意し、
前記粘着シートの露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか一方とを貼合し、
前記剥離シートを剥離して前記粘着剤層の前記他方の面を露出させ、当該露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか他方とを貼合し、」
と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する)。

2.一群の請求項
訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1?4〕について請求されている。

3.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明が、「硬化後粘着剤層のゲル分率」を「40%以上」と特定していたところ、これを「60%以上」とすることによって「硬化後粘着剤層のゲル分率」の範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という)に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書等の段落【0103】の、「また、粘着剤層11に対して紫外線吸収剤を含有する表示体構成部材越しに紫外線照射した場合、硬化後粘着剤層11’を構成する粘着剤のゲル分率は、下限値として40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、62%以上であることが特に好ましい。」との記載等に基づいて導き出されるものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項1は、上記ア.のとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア.訂正の目的
上記訂正事項2は、訂正前の請求項1に対し、「剥離シートと、一方の面が露出し、他方の面が前記剥離シートの剥離面に接するように積層された粘着剤層とを備える粘着シートを用意し、前記粘着シートの露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか一方とを貼合し、前記剥離シートを剥離して前記粘着剤層の前記他方の面を露出させ、当該露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか他方とを貼合し、」との記載を追加することで、「表示体の製造方法」を具体的に特定し、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、本件特許明細書等の段落【0024】の「図1に示すように、一例としての本実施形態に係る粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。」との記載、段落【0117】の「上記表示体2を製造するには、一例として、粘着シート1の一方の剥離シート12aを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11を、第1の表示体構成部材21の印刷層3が存在する側の面に貼合する。」との記載、段落【0118】の「また、他の例として、第1の表示体構成部材21および第2の表示体構成部材22の貼合順序を入れ替えてもよい。」との記載、及び、段落【0124】の「例えば、粘着シート1における剥離シート12a,12bのいずれか一方は省略されてもよい。また、第1の表示体構成部材21は、印刷層3以外の段差を有するものであってもよいし、段差を有していなくてもよい。」との記載等に基づいて導き出されるものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項2は、上記ア.のとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3.本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1?4に係る発明(以下、「本件訂正発明1?4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
紫外線吸収剤を含有する一の表示体構成部材と、
紫外線を透過しないか紫外線吸収剤を含有する他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する硬化後粘着剤層と
を備えた表示体の製造方法であって、
剥離シートと、一方の面が露出し、他方の面が前記剥離シートの剥離面に接するように積層された粘着剤層とを備える粘着シートを用意し、
前記粘着シートの露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか一方とを貼合し、
前記剥離シートを剥離して前記粘着剤層の前記他方の面を露出させ、当該露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか他方とを貼合し、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層に対し、前記一の表示体構成部材越しに紫外線照射することにより、前記粘着剤層を硬化させて前記硬化後粘着剤層とし、当該硬化後粘着剤層のゲル分率を60%以上とする
ことを特徴とする表示体の製造方法。
【請求項2】
前記硬化後粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率が、90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の表示体の製造方法。
【請求項3】
前記硬化後粘着剤層の段差追従率が、20%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示体の製造方法。
【請求項4】
前記硬化後粘着剤層が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と熱架橋剤(B)とから構成される架橋構造を有するとともに、紫外線硬化性成分(C)の硬化物を含有する粘着剤からなることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の表示体の製造方法。」

第4.取消理由の概要及び証拠方法
1.取消理由の概要
本件訂正請求による訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、令和3年1月26日付け取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

理由1(サポート要件)本件特許は、請求項1?4に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2(明確性)本件特許は、請求項3?4に係る発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由3(進歩性)本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証乃至甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2.証拠方法
甲第1号証:特開2006-301572号公報
甲第2号証:特開2013-203876号公報
甲第3号証:特開2015-199813号公報
甲第4号証:特開2012-211305号公報

第5.取消理由についての当審の判断
1.理由1(サポート要件)について
本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】?【0010】、【0012】の記載から見て、段差を有し、表示体構成部材が紫外線吸収剤を含有する場合でも、紫外線架橋性粘着剤層の「被膜強度が比較的高く、かつ、段差追従性および耐ブリスター性の両方に優れる粘着シート、段差追従性および耐ブリスター性の両方に優れる表示体、ならびにそれらの製造方法を提供すること」である。

(1)ゲル分率について
比較例1及び2で得られた硬化後粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有する樹脂板越しに紫外線照射した場合のゲル分率が55?58%と低く、耐ブリスター性の評価及び段差追従率が×となる一方で、実施例1?5で得られた硬化後粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有する樹脂板越しに紫外線照射した場合でも、ゲル分率が64?72%と高いことによって、優れた耐ブリスター性及び段差追従性を発揮するものである。
したがって、「ゲル分率」について、「60%以上とすること」を発明特定事項としている本件訂正発明1は、上記課題を解決することができるものであることは当業者であれば十分に認識することができるものである。

(2)光重合開始剤について
上記(1)のとおり、硬化後粘着剤層のゲル分率が60%以上であれば、耐ブリスター性及び段差追従性の両方に優れたものとなり、上記課題を解決することができるものであるから、本件訂正発明1において、光重合開始剤を発明特定事項としなくとも、硬化後粘着剤層のゲル分率が特定されていることにより、硬化後粘着剤層において、優れた耐ブリスター性及び段差追従性を発現することができるものであることは当業者であれば十分に認識することができるものである。
以上より、本件訂正発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものである。

なお、申立人は、令和3年5月21日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、「訂正によって、ゲル分率を40%から60%に限定されたということは、つまり粘着剤層がより硬くなるように限定したことになるので、それ相応の特殊な光重合開始剤を使用しない限りは、粘着剤層は十分に硬化しないはずと当業者は認識します。斯かる光重合開始剤が発明特定事項として請求項に何ら記載されていない以上、訂正発明すべての範囲において訂正発明の課題を解決できるとは認められません。この観点から、訂正発明は、特定の光重合開始剤を発明特定事項とすべきであることを付言します。」と主張するが、本件特許に係る発明が解決しようとする課題である優れた耐ブリスター性及び段差追従性の発現に対しては、硬化後粘着剤層のゲル分率が60%以上であれば解決することができることは当業者であれば十分に認識することができるものであって、硬化後粘着剤層のゲル分率を60%以上とすることができない特定の光重合開始剤以外の光重合開始剤は、本件訂正発明1の範囲外であるから、上記申立人の主張は採用できない。

2.理由2(明確性)について
本件訂正発明3は、「段差追従率が、20%以上である」ことを発明特定事項とするものである。
一方、明細書の発明の詳細な説明の段落【0105】には、段差追従率の定義として、「段差追従率(%)={(所定耐久試験後、気泡、浮き、剥がれ等が無く埋められた状態が維持された段差の高さ(μm))/(粘着剤層の厚み)}×100」と記載されており、また、段落【0141】?段落【0144】には、段差追従率の測定について記載されている。
ここで、「所定耐久試験後、気泡、浮き、剥がれ等が無く埋められた状態が維持された段差の高さ」とは、硬化後粘着剤層により印刷段差が完全に埋められている(気泡、浮き、剥がれ等が無く埋められた状態が維持された)と判断されたときの測定サンプル(耐久試験前)の段差の高さであり、また、「粘着剤層の厚み」とは、耐久試験後の粘着剤層の厚みではなく、測定サンプル(耐久試験前)の粘着剤層の厚みであるから、上記段差追従率の定義は明確である。
以上より、本件訂正発明3は明確である。
同様の理由により、本件訂正発明3を引用する本件訂正発明4も明確である。

なお、申立人は意見書において、「特許権者は意見書において、「所定耐久試験後、気泡、浮き、剥がれ等が無く埋められた状態が維持された段差の高さ」とは、硬化後粘着剤層により印刷段差が完全に埋められている(気泡、浮き、剥がれ等が無く埋められた状態が維持された)と判断されたときの、測定サンプル(耐久試験前)の段差の高さである点、並びに、「粘着剤層の厚み」とは、測定サンプル(耐久試験後)の粘着剤層の厚みではなく、測定サンプル(耐久試験前)の粘着剤層の厚みである旨を主張しています。しかしながら、訂正発明3は、それらの技術事項を示す発明特定事項が何ら特定されておらず、また、当業者における技術常識でもない以上、訂正発明3は依然として不明確であるといわざるを得ません。」と主張するが、本件訂正発明3は、「段差追従率が、20%以上である」ことを発明特定事項とするものであって、段差追従率の定義を発明特定事項としなくとも明確なものであるから、上記申立人の主張は採用できない。

3.理由3(進歩性)について
以下、申立人が証拠として提出した甲第1号証及び甲第2号証を「甲1」及び「甲2」と略記し、甲1に記載された発明を「甲1発明」、甲2に記載された技術的事項を「甲2技術的事項」という。
(1)引用文献に記載された事項、引用発明
ア.甲1に記載された事項、甲1発明
甲1には、以下の記載がある。下線は、理解の一助とするために当審にて付した。以下同様。
(ア)「【請求項1】
偏光子の両側に保護膜を有する偏光板であって、該偏光板が少なくとも片面に粘着層を有し、該粘着層が少なくとも、下記(A)並びに(B)、
(A)(a_(1))ホモポリマーとした時のTgが-30℃未満の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、
(a_(2))ホモポリマーとした時のTgが-30℃以上のビニル基を有する化合物、及び、
(a_(3))多官能性化合物(B)に対して反応性を有する官能基含有モノマー、からなる(メタ)アクリル系共重合体であって、モノマー単位の質量比で(メタ)アクリル酸エステル(a_(1))が75質量部以上で、ビニル基を有する化合物(a_(2))が25質量部以下であって、且つ官能基含有モノマー(a_(3))が、該モノマー(a_(1))と化合物(a_(2))の和100質量部に対して10質量部以下である共重合体100質量部、並びに
(B)官能基含有モノマー(a_(3))の官能基と反応して、架橋構造を形成可能な官能基を分子内中に少なくとも2個有する多官能性化合物0.005?5質量部、からなる(メタ)アクリル系共重合体の組成物を含有する粘着剤が塗設されて形成されており、さらに該粘着剤のゲル分率が40質量%以上90質量%以下であることを特徴とする偏光板。」
(イ)「【請求項25】
保護膜が、可塑剤、紫外線吸収剤、剥離促進剤、染料、及びマット剤のうち1種以上を含有していることを特徴とする請求項1から24のいずれかに記載の偏光板。」
(ウ)「【請求項27】
液晶セルと偏光板を有する液晶表示装置であって、該偏光板の少なくとも一が請求項1から26のいずれかに記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。」
(エ)「【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、高い光学的性能を有しつつ、温湿度変化や液晶表示装置の連続点灯による画面周辺部における光漏れを改善した偏光板および該偏光板を用いた液晶表示装置を提供することである。さらには、高い光学補償機能を有しつつ、温湿度変化や液晶表示装置の連続点灯による画面周辺部における光漏れを改善した偏光板および該偏光板を用いた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、鋭意検討した結果、偏光板の収縮に起因する偏光板の保護膜および粘着層にかかる応力を、偏光板を液晶セルのガラス板に貼り付ける側に設けられる粘着層を特定の組成とすることで抑制することができ、温湿度変化や連続点灯による画面周辺部における光漏れが改善できることを見出した。
本発明者らは、また、鋭意検討した結果、液晶セル表裏の偏光板の吸収軸が互いに直交しており、かつ吸収軸が液晶セルの長辺または短辺に平行な液晶表示装置においては、液晶セル表裏の偏光板の吸収軸が互いに直交しており、かつ吸収軸が液晶セルの長辺または短辺と45度をなす液晶表示装置とは異なり、偏光子の収縮応力に起因する画面周辺部の光漏れは、偏光板を液晶セルのガラス板に貼り付ける粘着層を硬くすることにより改善できることを見出した。
さらに、本発明者らは、液晶表示装置のバックライト表面の温度が液晶表示装置の連続点灯時の画面周辺部の光漏れに関連していることを突き止め、表面温度が40℃以下のバックライトを用いることで、連続点灯時の画面周辺部の光漏れを改善できることを見出した。」
(オ)「【発明の効果】
【0023】
本発明の偏光板および液晶表示装置は、温湿度変化又は液晶示装置の連続点灯時の黒表示の画面周辺部における光漏れが改善される。さらには、高い光学補償機能を有する偏光板が得られる。また、視野角補償効果に優れている。」
(カ)「【0025】
<粘着層>
まず、本発明に関する粘着層について説明する。
液晶表示装置を高温下に放置した場合、高温高湿から低温低湿へ環境を変化させた場合、連続してバックライトを表示させた場合などには、偏光板の寸法変化が生じ、この寸法変化に伴い、粘着層の発泡や、液晶セルなどの被着体からのハガレが生じやすくなる。従来の粘着層は、粘着剤の分子量を上げたり、架橋度を上げたりして、粘着層を上記のような過酷な条件下における使用に耐えるように改良されている。
【0026】
一方、TNモードのように液晶セル表裏の偏光板の吸収軸が互いに直交しており、かつ吸収軸が液晶セルの長辺または短辺と45度をなす液晶表示装置においては、偏光板の長期間の使用での偏光板の寸法変化によって生ずる内部応力が、偏光板周縁部に集中することによる液晶表示装置の画面周辺部の光漏れが生じることが問題となってきた。この光漏れは偏光板の寸法変化による内部応力を緩和することで改善することができ、このような緩和は粘着層を偏光板の寸法変改に追随させることにより実現されてきた。
【0027】
ところが、発明者らの検討の結果、VAモードのような液晶セル表裏の偏光板の吸収軸が互いに直交しており、かつ吸収軸が液晶セルの長辺または短辺と平行な液晶表示装置偏光板では、偏光子の収縮応力に起因する画面周辺部の光漏れは、逆に偏光板を液晶セルのガラス板に貼り付ける粘着層を硬くすることにより改善できることが明らかとなった。
【0028】
しかし上記のように粘着層を硬くすると、粘着力が低下し過酷な条件下において発生する発泡やハガレが生じる。今回本発明の発明者らは粘着層を三次元架橋(ゲル化)することで粘着層を硬くし、偏光板の寸法変化を防止した上で、ホモポリマーとした場合のTgが低い、つまり柔らかい(メタ)アクリル酸エステルを使用することで粘着力も確保出来ることを見出した。また、上記のような接着性能と硬さのバランスは分子量分布(高分子量成分と低分子量成分の比)、共重合体を構成するモノマー成分(低Tg、高Tg)の構成比、三次元架橋の程度(ゲル分率)により調整できる。」
(キ)「【0033】
(a_(3))(a_(13))(a_(23))多官能性化合物(B)に対して反応性を有する官能基含有モノマー 多官能性化合物に対して反応性を有する官能基含有モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチルアクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びマレイン酸ブチルなどのカルボキシル基を含有するモノマー;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びアリルアリコールなどの水酸基を含有するモノマー;アミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート及びビニルピリジンなどのアミノ基を含有するモノマー;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を含有するモノマー及びアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアセトアセチル基を含有するモノマーなどを挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。 これらの中でも、カルボキシル基を含有するモノマー及び水酸基を含有するモノマーが好ましい。」
(ク)「【0037】
このような多官能性化合物(B)の例としては、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、アミン系化合物、金属キレート系化合物及びアジリジン系化合物などを挙げることができる。」

以上を総合すると、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。
「液晶セルと偏光板を有する液晶表示装置であって、偏光子の両側に紫外線吸収剤を含有する保護膜を有する偏光板が、少なくとも片面に粘着層を有し、当該粘着層における粘着剤のゲル分率が40質量%以上90質量%以下である液晶表示装置及びその製造方法。」

イ.甲2技術的事項
甲2には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は、電子線又は紫外線等の活性エネルギー線を照射し、さらに必要に応じて加熱することにより種々のプラスチック製フィルム又はシートを接着することが可能な活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に関するものであり、高熱・高湿気雰囲気においても接着強度の低下が極めて少ない接着剤組成物に関するものである。・・・。」
(イ)「【0046】
これらの中でも、・・・、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド・・・が、紫外線吸収剤等を含有し透過性が低いフィルム越しに活性エネルギー線を照射する場合でも硬化性が良好なため、好ましい。
又、これら化合物を用いた場合に、フィルム端面のように酸素による硬化阻害を受けやすい個所の表面硬化性を向上させる目的で、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンのような、吸収波長が短くとも表面硬化性が良好となる光重合開始剤を組み合わせてもよい。」

以上を総合すると、甲2には、以下の甲2技術的事項が記載されている。
「紫外線等の活性エネルギー線を照射し、接着することが可能な活性エネルギー線硬化型接着剤組成物において、紫外線吸収剤等を含有し透過性が低いフィルム越しに活性エネルギー線を照射して接着する点。」

(2)本件訂正発明1について
ア.対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「紫外線吸収剤を含有する保護膜を有する偏光板」は、本件訂正発明1の「紫外線吸収剤を含有する一の表示体構成部材」に相当し、以下同様に、「液晶セル」は「他の表示体構成部材」に、「粘着層」は「粘着剤層」に、「ゲル分率が40質量%以上90質量%以下」の60質量%以上の範囲のゲル分率は「ゲル分率を60%以上」に、「液晶表示装置」は「表示体」にそれぞれ相当する。
(イ)甲1発明の「液晶セル」は、技術常識を参酌すると、通常、紫外線を透過しないものであるから、本件発明1の「紫外線を透過しないか紫外線吸収剤を含有する他の表示体構成部材」に相当する。
(ウ)甲1発明の「粘着層」は、液晶セルと偏光板を互いに貼合して一体化させるものであることは当業者にとって自明の事項であるから、本件訂正発明1の「前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層」に相当し、液晶セルと偏光板を互いに貼合して一体化させるためには、両面粘着シートの硬化が必要であることは技術常識であるから、本件発明1の「前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する硬化後粘着剤層」に相当する。
したがって、本件訂正発明1と甲1発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「紫外線吸収剤を含有する一の表示体構成部材と、
紫外線を透過しないか紫外線吸収剤を含有する他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する硬化後粘着剤層と
を備えた表示体の製造方法であって、
当該硬化後粘着剤層のゲル分率を60%以上とすることを特徴とする表示体の製造方法。」
<相違点1>
一の表示体構成部材と他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層に対し、本件訂正発明1は「前記一の表示体構成部材越しに紫外線照射することにより、前記粘着剤層を硬化させて前記硬化後粘着剤層と」するのに対し、甲1発明は、粘着剤層を硬化させる際に、一の表示体構成部材越しに紫外線照射を行わない点。
<相違点2>
本件訂正発明1は、「剥離シートと、一方の面が露出し、他方の面が前記剥離シートの剥離面に接するように積層された粘着剤層とを備える粘着シートを用意し、前記粘着シートの露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか一方とを貼合し、前記剥離シートを剥離して前記粘着剤層の前記他方の面を露出させ、当該露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか他方とを貼合」するのに対し、甲1発明は、そのような構成を備えない点。
イ.判断
上記相違点について検討する。
<相違点1>について
甲1発明は、特に、段落【0019】、【0020】、【0023】【0025】?【0028】を参照すると、粘着層を紫外線照射により硬化させるものではなく、粘着層を特定の組成とすることで、偏光板の収縮に起因する偏光板の保護膜および粘着層にかかる応力を抑制することができ、温湿度変化や連続点灯による両面周辺部における光漏れが改善できるものであり、甲2には、紫外線等の活性エネルギー線を照射し、接着することが可能な活性エネルギー線硬化型接着剤組成物において、紫外線吸収剤等を含有し透過性が低いフィルム越しに活性エネルギー線を照射して接着する点(甲2技術的事項)が記載されているが、甲1発明における特定の組成からなる粘着剤層を紫外線硬化性組成物からなる粘着剤層とすると、偏光板の収縮に起因する偏光板の保護膜および粘着層にかかる応力の抑制、及び温湿度変化や連続点灯による両面周辺部における光漏れが改善できない虞のあるものであるから、甲1発明に甲2技術的事項を適用することには阻害要因がある。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲2技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

なお、申立人は意見書において、「表示体の製造方法において、粘着剤層を熱硬化性樹脂で形成すること、及び、紫外線硬化性樹脂で形成することは、当業者において極めて一般的に行われていることでありますので、甲1発明における粘着剤層を、紫外線硬化性樹脂で形成された粘着剤層に置き換えることは当業者にとっては当然に成し得る事項です。」と主張するが、上記において述べたとおり、甲1発明において、粘着層を紫外線硬化性樹脂で形成することには阻害要因があるから、上記申立人の主張は採用できない。

(3)本件訂正発明2?4について
本件訂正発明2?4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件訂正発明2?4についても同様に、甲1発明及び甲2技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6.取消理由としなかった申立理由について
1.申立人の主張する申立理由のうち、取消理由としなかった理由
申立人の主張する特許法第36条第4項第1号に係る理由
本件特許請求の範囲1?4に記載された発明において、粘着剤層が、紫外線硬化性成分(C)、及び、濃度0.1質量%のアセトニトリル溶液における波長380nmの吸光度が0.3以上である光重合開始剤(D)を含まない場合に、段差追従性に優れる表示体を如何なる方法で製造できるのか不明である。

2.上記主張についての検討
本件特許明細書等の段落【0147】【表1】に記載されているような光重合開始剤(D)を用いることにより、本件訂正発明1?4は、硬化後粘着剤層のゲル分率を60%以上とすることができ、優れた耐ブリスター性及び段差追従性を発現することができるものであることは当業者であれば十分に認識することができる。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?4は、取消理由通知に記載した取消理由及び本件特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明1?4を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線吸収剤を含有する一の表示体構成部材と、
紫外線を透過しないか紫外線吸収剤を含有する他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する硬化後粘着剤層と
を備えた表示体の製造方法であって、
剥離シートと、一方の面が露出し、他方の面が前記剥離シートの剥離面に接するように積層された粘着剤層とを備える粘着シートを用意し、
前記粘着シートの露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか一方とを貼合し、
前記剥離シートを剥離して前記粘着剤層の前記他方の面を露出させ、当該露出した前記粘着剤層と、前記一の表示体構成部材または前記他の表示体構成部材のいずれか他方とを貼合し、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層に対し、前記一の表示体構成部材越しに紫外線照射することにより、前記粘着剤層を硬化させて前記硬化後粘着剤層とし、当該硬化後粘着剤層のゲル分率を60%以上とする
ことを特徴とする表示体の製造方法。
【請求項2】
前記硬化後粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率が、90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の表示体の製造方法。
【請求項3】
前記硬化後粘着剤層の段差追従率が、20%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示体の製造方法。
【請求項4】
前記硬化後粘着剤層が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と熱架橋剤(B)とから構成される架橋構造を有するとともに、紫外線硬化性成分(C)の硬化物を含有する粘着剤からなることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の表示体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-27 
出願番号 特願2018-192335(P2018-192335)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 市村 脩平  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 村山 達也
藤原 直欣
登録日 2020-03-16 
登録番号 特許第6676720号(P6676720)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 表示体の製造方法  
代理人 早川 裕司  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  
代理人 村雨 圭介  

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