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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1379778
異議申立番号 異議2020-700193  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-23 
確定日 2021-09-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6588666号発明「イミダゾールジペプチドを含む剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6588666号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、5、6〕について訂正することを認める。 特許第6588666号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6588666号(以下「本件特許」という。)に係る特願2019-19712号は、平成26年7月11日(優先権主張 平成26年3月28日)を出願日とする特願2014-142910号の一部を、平成31年2月6日に新たな出願としたもの(以下「本件出願」という。)であって、令和1年9月20日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がなされ、同年10月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和2年3月23日に異議申立人岩田康男(以下「申立人1」という。)により請求項1?7に係る本件特許に対する特許異議の申立てがなされ、令和2年4月3日に異議申立人山口麻美(以下「申立人2」という。)により請求項1?7に係る本件特許に対する特許異議の申立てがなされた。
以後の主要な経緯は以下のとおりである。

令和2年 7月30日付け 取消理由通知書
同年10月 1日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年11月 6日 意見書の提出(申立人1)
同年11月10日 意見書の提出(申立人2)
同年11月26日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 1月26日付け 通知書(指定期間を30日延長する旨を通知)
同年 3月 4日 意見書の提出(特許権者)
同年 5月19日付け 申立人1及び申立人2に対する審尋
同年 6月22日 回答書の提出(申立人1)
同年 6月22日 意見書(2)の提出(申立人2)

第2 令和2年10月1日提出の訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)について

1 請求の趣旨
本件訂正請求は、「特許第6588666号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2、5及び6について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、当審合議体により、訂正箇所に下線を付した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2の記載
「【請求項2】
カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、加齢による認知機能の低下の改善、加齢による論理記憶の低下の改善、および認知症(ただしアルツハイマー型認知症を除く。)の発症のリスクの低減からなる群より選択される少なくとも一のための、経口剤(ただしセロトニン分泌の活性化により改善される疾患または対象の処置のための剤を除く。)。」を、
「【請求項2】
ラット以外を対象とする、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、加齢による認知機能の低下の改善、加齢による論理記憶の低下の改善、および認知症(ただしアルツハイマー型認知症を除く。)の発症のリスクの低減からなる群より選択される少なくとも一のための、経口剤(ただしセロトニン分泌の活性化により改善される疾患または対象の処置のための剤を除く。)。」に訂正する。
そして、訂正事項1による訂正により、請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項5及び6も連動して訂正される。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項5及び6は、訂正請求の対象である請求項2を直接的又は間接的に引用する関係であるから、本件訂正は、一群の請求項〔2、5、6〕について請求されたものである。

3 訂正の適否の判断
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項2の「経口剤」を「ラット以外を対象とする」ものに限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0075】?【0106】には、経口剤を、ラット以外の対象である「40歳以上の健常人ボランティア」に投与することが記載されているので、訂正前の請求項2の「経口剤」を「ラット以外を対象とする」ものに限定する訂正により、新たな技術的事項が導入されるとはいえない。
そうすると、訂正事項1による訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって新規事項の追加に該当するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。訂正事項1による訂正に連動して訂正される、訂正後の請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項5及び6についても同様である。
また、訂正前の請求項2、5及び6に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4 小括
上記のとおり、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、5、6〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明

前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
40歳以上の者を対象とする、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、加齢による認知機能の低下の改善、加齢による論理記憶の低下の改善、および認知症(ただしアルツハイマー型認知症を除く。)の発症のリスクの低減からなる群より選択される少なくとも一のための、経口剤。
【請求項2】
ラット以外を対象とする、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、加齢による認知機能の低下の改善、加齢による論理記憶の低下の改善、および認知症(ただしアルツハイマー型認知症を除く。)の発症のリスクの低減からなる群より選択される少なくとも一のための、経口剤(ただしセロトニン分泌の活性化により改善される疾患または対象の処置のための剤を除く。)。
【請求項3】
40歳以上の者を対象とする、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、脳の委縮の抑制、加齢に伴う後部帯状回における海馬との機能連結の低下の改善、または前認知症段階からの進行および発症に伴って低下する後部帯状回部位の血流の維持のための、経口剤。
【請求項4】
カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、脳の委縮の抑制、加齢に伴う後部帯状回における海馬との機能連結の低下の改善、または前認知症段階からの進行および発症に伴って低下する後部帯状回部位の血流の維持のための、経口剤(ただしセロトニン分泌の活性化により改善される疾患または対象の処置のための剤を除く。)。
【請求項5】
40歳以上の者を対象とする、請求項2または4に記載の剤。
【請求項6】
カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを、鶏肉抽出物として含有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドをリード化合物として用いる、加齢による認知機能の低下の改善、加齢による論理記憶の低下の改善、および認知症(ただしアルツハイマー型認知症を除く。)の発症のリスクの低減からなる群より選択される少なくとも一のための有効成分を探索する方法。」

以下、それぞれの請求項に係る発明を、請求項番号に対応して「本件訂正発明1」?「本件訂正発明7」ともいい、本件訂正発明1?7をまとめて「本件訂正発明」ともいう。

第4 令和2年7月30日付けで通知した取消理由について

令和2年7月30日付けで通知した取消理由は、本件訂正による訂正前の請求項2に係る特許に対する[取消理由1](新規性)であり、その要旨は以下のとおりである。

[取消理由1](新規性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるので、下記の請求項に係る本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

・請求項2
・引用文献1:Rejuvenation Res.,「NT-020, a Natural Therapeutic Approach to Optimize Spatial Memory Performance and Increase Neural Progenitor Cell Proliferation and Decrease Inflammation in the Aged Rat」,2010, Vol.13,No.5, pp.581-588(申立人2が提出した甲第1号証)

そして、上記[取消理由1](新規性)は、上記「第2」で説示した本件訂正によって、請求項2の「経口剤」が「ラット以外を対象とする」ものに限定されたことにより、解消された。

第5 令和2年11月26日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要

令和2年11月26日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、本件訂正による訂正後の請求項2に係る特許に対する[取消理由2](進歩性)であり、その要旨は以下のとおりである。

[取消理由2](進歩性)
本件特許の請求項2に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

・請求項2
・引用文献1:Rejuvenation Res.,「NT-020, a Natural Therapeutic Approach to Optimize Spatial Memory Performance and Increase Neural Progenitor Cell Proliferation and Decrease Inflammation in the Aged Rat」,2010, Vol.13,No.5, pp.581-588(申立人2が提出した甲第1号証)

第6 [取消理由2](進歩性)についての当審の判断

1 引用文献の記載事項及び引用発明

(1)引用文献1に記載された事項
上記[取消理由2](進歩性)における引用文献1(申立人2が提出した甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。引用文献1は外国語で記載されているため、当審合議体による日本語訳で摘記する(摘記1eの図面以外)。なお、下線は当審合議体が付した。

(1a)
「我々は、ブルーベリー由来のポリフェノール、緑茶、カルノシンのようなアミノ酸といった天然物が、高い抗酸化性、抗炎症性を有し、血液や脳、生体内の他の組織における活性酸素種(ROS)による損傷作用を低減することを示してきた。さらに、我々は、これらを組み合わせた栄養物(NT-020と称される)が相乗的な効果を生み出し、試験管内、生体内での幹細胞の増殖を促進することも示してきた。本研究で、我々はNT-020の神経新生とモリス水迷路(MWM)でのパフォーマンスに及ぼす影響を調べた。高齢(20ヶ月)の雄フィッシャー344ラットは、135.0mg/kg/日(n=13)のNT-020を投与された。若齢(3ヶ月)(n=10)及び高齢(20ヶ月)(n=13)対照の雄フィッシャー344ラットは、強制経口投与により水で処置された。全てのグループの投与期間は4週間であった。全高齢ラットの比較ではMWMのパフォーマンスに有意な差異は認められなかったが、加齢による障害を示した高齢ラットのデータを比較すると、トレーニングの最終日にグループ間で有意差があり、処置グループは対照よりも優れたパフォーマンスを示した。」(p.581の「Abstract」の3?14行)

(1b)
「NT-020の供給源
NT-020の成分は、ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンである。NT-020は、特許による独占権を取得した製剤であり、Natura Therapeutics株式会社から入手できる。」(p.582右欄31?34行)

(1c)
「ラットでのNT-020による経口処置
高齢ラットは1日あたり135.0mg/kgのNT-020の強制経口投与で処置された。若齢及び高齢対照ラットは、水を強制経口投与された。全てのグループを4週間に亘って処置した。」(p.582右欄44?48行)

(1d)
「結果
認知機能
ラットは、5日連続でトレーニングされ、1日あたり4回、隠された足場を見つけるという、標準的なモリス水迷路を用いて、空間記憶力を試験された。認知障害を示すグループと、認知障害を示さないグループとで、ラットの分布に対する治療の効果を決定するために、我々はトレーニング5日目におけるパフォーマンスを調べた。第1A図は、全個体の足場までの累積距離を示している。第1B図は、足場までの累積距離を用いた、個々のラットの5日目のパフォーマンスの散布図である。高齢対照グループ内で、パフォーマンスに大きなばらつきが見られる。21ヶ月齢では、動物の約30%のみが加齢による障害(AI)であると考えられ、この値が他の研究におけるAIを定義するために使用されてきた。そして、このグループにおける障害の分布は、他の公開されたデータと比べられる。より保守的に、高齢対照ラットのAIは、このグループの動物うち、最も悪いパフォーマンスを示した40%と定義された。高齢対照グループの累積距離における最悪スコアを処置グループにおけるAIのカットオフ値とすると、処置グループではわずか一匹のラットのみが足場までの累積距離におけるAIと考えられた。さらに、2つの処置グループを比較するために、我々は、各グループ(高齢対照と、高齢のNT-020投与群)の最悪パフォーマンスのラットをMWMの学習獲得段階の全期間に亘って比較した(第1C図)。処置グループは、足場までの累積距離において、高齢対照グループと有意に異なっていた。このように、NT-020で処置した高齢グループでは、高齢対照グループと比べ、AIのラットが明らかに少ない分布を示し、その差は有意なものである。」(p.585左欄9行?同頁右欄15行)
(当審注:「第1B図は、足場までの累積距離を用いた、個々のラットの5日目のパフォーマンスの散布図である。」及び「…各グループ(高齢対照と、高齢のNT-020投与群)の最悪パフォーマンスのラットをMWMの学習獲得段階の全期間に亘って比較した(第1C図)。」との記載は、各図の内容からみて、それぞれ、「第1C図は、足場までの累積距離を用いた、個々のラットの5日目のパフォーマンスの散布図である。」及び「…各グループ(高齢対照と、高齢のNT-020投与群)の最悪パフォーマンスのラットをMWMの学習獲得段階の全期間に亘って比較した(第1B図)。」の誤記と推定される。)

(1e)


第1図 足場までの累積距離。(A)全個体のモリス水迷路での学習獲得パフォーマンス。全個体の期間内の学習をグラフ化すると、若齢ラットが高齢ラットに比べて優れたパフォーマンスをしており、年齢間で明らかな差が見られる。その後、4及び5日目までに処置グループと高齢対照グループとの差異が現れ始める。(B)大きいスコアを示した40%のラットが対照及びNT-020処置のためのAIグループとして調べられたところ、5日目にグループ間で有意差があった…(C)個別のラットの5日目のパフォーマンスが、個体毎の大きなばらつきを示すために表示されており、そのばらつきはNT-020処置グループでは小さかった。」(p.583、第1図及び第1図の下部の説明)

(1f)
「20ヶ月齢では、認知機能スコアにかなりの広がりがあり、30%のラットのみが加齢による認知機能の低下を示すと考えられた。NT-020による処置後は、加齢による認知機能障害を示すラットの数が有意に減少し、認知機能スコアの広がりも低減された。この結果は本質的に予備的であり、加齢による障害を示したグループにのみ見られる効果ではあるものの、これらの結果は、ラットのプレスクリーニングを行い、加齢によって障害を受けないラットによる希釈化作用の問題が解消されるよう、より詳しく調べられるべきである。これは、ヒトが年齢とともに同様の範囲の認知機能を示すため、重要であり、これは、正常の上限範囲にあるヒトでさえ、これらの治療アプローチからいくらかの認知利益を達成し得ることを示唆する。」(p.587右欄12?27行)

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1は、ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンを組み合わせて含有する「NT-020と称される」栄養物による、神経新生及びモリス水迷路(MWM)でのパフォーマンスに及ぼす影響について記載された論文である(摘記1a及び1b)。
そして、引用文献1には、NT-020と称される栄養物をラットに経口投与した実験において、空間記憶力を試験するモリス水迷路(MWM)を用いて効果を調べたところ、上記栄養物を経口投与した高齢ラットのグループでは、上記栄養物を経口投与していない高齢ラットの対照グループと比べて、モリス水迷路におけるパフォーマンスが悪い個体、すなわち空間記憶力が低い個体が明らかに減少したことが記載されている(摘記1c?1e)。
さらに、引用文献1には、上記実験で示された結果を踏まえて、高齢ラットに対する上記栄養物の経口投与によって、加齢による認知機能障害を示すラットの数が有意に減少し、認知機能スコアの広がりも低減されたという考察が記載されている(摘記1f)。
これらの記載から、引用文献1には、次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンを組み合わせて含有する、NT-020と称される栄養物であって、高齢ラットに経口投与され、加齢による認知機能障害を示すラットの数を有意に減少させ、認知機能スコアの広がりを低減するための、栄養物。」

2 本件訂正発明2と引用発明との対比・判断
(1)対比
本件訂正発明2は、上記「第3」で説示した以下のとおりの発明である。

「【請求項2】
ラット以外を対象とする、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、加齢による認知機能の低下の改善、加齢による論理記憶の低下の改善、および認知症(ただしアルツハイマー型認知症を除く。)の発症のリスクの低減からなる群より選択される少なくとも一のための、経口剤(ただしセロトニン分泌の活性化により改善される疾患または対象の処置のための剤を除く。)。」

引用発明の「NT-020と称される栄養物」は高齢ラットに経口投与されるものであるから本件訂正発明2の「経口剤」に相当し、引用発明における「カルノシン」は本件訂正発明2における「カルノシン」に相当する。
また、引用発明における「加齢による認知機能障害を示すラットの数を有意に減少させ、認知機能スコアの広がりを低減するための」という用途は、本件訂正発明2における用途の一つである「加齢による認知機能の低下の改善」のためという用途に相当する。
そして、引用文献1には、高齢ラットで示された実験結果(摘記1c?1e)が、セロトニン分泌の活性化に起因する結果であることは記載されておらず、引用発明の栄養物が「セロトニン分泌の活性化により改善される疾患または対象の処置のための剤」であるとはいえない。
そうすると、本件訂正発明2と引用発明とは、下記の点で一致及び相違する。

(一致点)
「カルノシンを含有する、加齢による認知機能の低下の改善のための、経口剤(ただしセロトニン分泌の活性化により改善される疾患または対象の処置のための剤を除く。)。」

(相違点1)
本件訂正発明2は「ラット以外を対象とする」ものであるのに対し、引用発明は「高齢ラット」を対象とするものである点。

(相違点2)
本件訂正発明2は「カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチド」を含有するものであるのに対し、引用発明は「ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンを組み合わせて含有する」ものである点。

(2)判断
ア 相違点1について
引用文献1には、「これは、ヒトが年齢とともに同様の範囲の認知機能を示すため、重要であり、これは、正常の上限範囲にあるヒトでさえ、これらの治療アプローチからいくらかの認知利益を達成し得ることを示唆する。」(摘記1f)という記載がある。
そうすると、上記記載、及び高齢ラットで示された実験結果(摘記1c?1e)を参酌した当業者は、年齢とともに高齢ラットと同様の範囲の認知機能を示すヒトを対象にした場合でも、認知機能において何らかの利益が得られることを期待して、引用発明における対象をヒトを含む「ラット以外」の対象にすることを容易に想到しえたといえる。

イ 相違点2について

(ア)引用文献1には、ブルーベリー由来のポリフェノール、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンを組み合わせたNT-020と称される栄養物が相乗的な効果を生み出すこと(摘記1a)が記載されているので、上記ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンの組合せは、引用発明における必須の有効成分であり、この組合せにおける各成分が相まって相乗的な効果を生み出す、一体不可分の組合せであることが記載されていると認められる。

(イ)本件訂正発明2は、本件特許明細書における「〔有効成分〕本発明は、イミダゾールジペプチドおよびその代謝産物からなる群より選択される少なくとも一を有効成分とする剤に関する。」(【0012】)という記載から、有効成分として「カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチド」を含むものである。
そして、本件特許明細書には、経口剤に、有効成分以外の他の成分として、食品又は医薬として許容される種々の添加剤や、アミノ酸類若しくは不飽和脂肪酸類等の機能性成分を配合できることが記載されているが(【0049】?【0051】)、有効成分として、引用文献1に記載されている上記一体不可分の組合せ(ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンの組合せ)を配合することは記載されていない。

(ウ)上記(ア)で説示したように、引用発明における有効成分は、相乗的な効果を生み出す一体不可分の組合せ(ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンの組合せ)を必須の有効成分とするものであり、上記一体不可分の組合せから、上記(イ)で説示した「カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチド」(本件訂正発明2における有効成分)というイミダゾールジペプチドのみを有効成分として認識することを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

ウ 効果について
(ア)本件特許明細書には、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)を対象とした臨床試験における、評価1(認知機能の改善効果、脳の萎縮等に対する効果、遺伝子発現解析等、【0075】?【0094】)及び評価2(認知症の進行に伴い変化する脳血流を直接測るMRI撮像法による解析等、【0098】?【0106】)の結果が記載されている。
そして、本件特許明細書には、上記結果を踏まえて、有効成分として「カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチド」を含む経口剤により、脳の機能老化及び認知症の発症を予防する働きが得られるという効果が奏されたこと(【0107】等)が記載されている。

(イ)一方、引用文献1には、NT-020と称される栄養物を高齢ラットに経口投与した実験で、加齢による認知機能障害を示すラットの数が有意に減少し、認知機能スコアの広がりも低減されたという効果が奏されたこと(摘記1d?1f)が記載されているが、上記効果は、引用発明の「NT-020と称される栄養物」における有効成分が、相乗的な効果を生み出す上記一体不可分の組合せ(ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンの組合せ)を含むものであることにより奏された効果であり、本件訂正発明2の有効成分であるカルノシン等のイミダゾールジペプチドのみにより奏された効果とはいえない。

(ウ)そうすると、有効成分として上記一体不可分の組合せを含む引用発明によりラットに対して奏された効果(上記(イ))に基づいて、有効成分として上記一体不可分の組合せを含むものではない経口剤を「ラット以外」の対象である40歳以上の健常ボランティア(ヒト)に投与して奏された効果(上記(ア))を、当業者が予測しえたとはいえない。

(エ)以上のとおりであるから、本件訂正発明2により奏される効果(上記(ア))は、引用発明及び引用文献1の記載から、当業者が予測しえない格別顕著な効果である。

3 申立人の主張について
当審合議体は、申立人1及び申立人2に対し、令和3年5月19日付けで以下の趣旨の審尋を通知した。
[当審において通知した[取消理由2](進歩性)に対し、特許権者は、令和3年3月4日提出の意見書において、本件訂正発明2は、引用発明及び引用文献1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない旨を主張している。特許権者の上記主張に対して意見があれば回答されたい。]
上記審尋に対する申立人1及び2の回答書又は意見書における主張について、以下に検討する。

(1)申立人1は、令和3年6月22日提出の回答書において、以下の趣旨の主張をしている。
[特許権者は、ラットの場合はカルノシンが直接脳へ送られて効果を発揮するが、ヒトの場合はカルノシン分解酵素によってカルノシンはβ-アラニンとL-ヒスチジンに分解されるので、ラットの効果をそのままヒトへ応用することを当業者は思いつかないと主張しているが、摂取したカルノシンが血清カルノシンナーゼによりβ-アラニンとL-ヒスチジンに分解されても、脳や骨格筋においてカルノシン合成酵素で再合成されることを踏まえて、引用文献1(p.587右欄12?27行等)でもヒトへの応用が可能なことが記載されている。]
上記主張について検討する。
申立人1が指摘するカルノシン合成酵素は、脳だけではなく骨格筋等の脳以外の部位にも存在する酵素であるから、経口投与されたカルノシンが、脳において、実際にどの程度の割合で再合成されるのかは不明である。
そして、引用発明における有効成分を「カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチド」(本件訂正発明2における有効成分)にすることを当業者が容易に想到しえたとはいえないことは、上記2(2)イで説示したとおりである。
加えて、相乗的な効果を生み出す上記一体不可分の組合せ(ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンの組合せ)を含むものではない、「カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチド」を有効成分とする本件訂正発明2により奏された効果(上記2(2)ウ(ア))が、引用発明及び引用文献1の記載から当業者が予測しえない格別顕著な効果であることは、上記2(2)ウで説示したとおりである。
よって、申立人1の上記主張を参酌しても、上記2の判断に誤りはない。

(2)申立人2は、令和3年6月22日提出の意見書(2)において、以下の趣旨の主張をしている。
(i)仮にカルノシン分解酵素の存在がカルノシンによる効果の発揮に影響を与える可能性を考慮したとしても、ヒトをはじめとする哺乳動物にはカルノシン合成酵素が存在するので、カルノシンが再合成されるので、カルノシン分解酵素活性が高いヒト等を対象とした場合の効果について、予測できないとする特許権者の主張は理由がない。
(ii)甲第5号証には、血中にカルノシン分解酵素を有するヒトに対して、カルノシン(カプセル)を経口投与したところ、認知機能が改善したことが記載されている。
上記主張について検討する。
申立人2が上記(i)で指摘するカルノシン合成酵素によるカルノシンの再合成については、上記(1)で説示したとおりである。
また、申立人2が上記(ii)で指摘する甲第5号証は、湾岸戦争病(GWI)と称される疾患を有するヒトの治療について記載された文献であるが(下記第7の4(1)の甲5’の項目を参照。)、湾岸戦争病(GWI)による認知機能の低下が改善される作用機序と、加齢による認知機能の低下が改善される作用機序とが同一であるとはいえないのであるから、甲第5号証の記載を参酌しても、引用発明から本件訂正発明2の構成を得ることを当業者が想到しえたとはいえず、本件訂正発明2により奏された効果(上記2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。
よって、申立人2の上記主張を参酌しても、上記2の判断に誤りはない。

4 小括
以上1?3を総合すると、本件訂正発明2は、引用発明及び引用文献1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえないので、本件請求項2に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであるとはいえない。

第7 取消理由として採用しなかった申立理由について

1 申立人1による申立理由の概要
本件請求項1?7に係る発明は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1?7に係る特許は特許法第113条第2号により取り消されるべきである。

[証拠方法]
・甲第1号証:Current Pharmaceutical Design,2013,Vol.19,p.2722-2727
・甲第2号証:国際公開第2012/128982号
・甲第3号証:特開平9-20661号公報
・甲第4号証:特開2007-314467号公報
・甲第5号証:国際公開第2013/021962号
(再公表特許WO2013/021962)
・甲第6号証:国際公開第2007/116987号
(再公表特許WO2007/116987)
以下、申立人1が提示した甲第1号証?甲第6号証を、それぞれ甲1?甲6のように記載する。

2 申立人2による申立理由の概要

(1)本件請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)本件請求項1?7に係る発明は、甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

以上、(1)及び(2)により、本件請求項1?7に係る特許は特許法第113条第2号により取り消されるべきである。

[証拠方法]
・甲第1号証:Rejuvenation Res, 2010, Vol.13, No.5, p.581-588
・甲第2号証:国際公開第2007/116987号
・甲第3号証:Int J Prev Med., 2013 Jun, Vol.4, No.6, p.624-630
・甲第4号証:Arch.Gerontol.Geriatr., 1999, Vol.29, p.107-113
・甲第5号証:Global Journal of Health Science, 2013, Vol.5, No.3, p.69-81
・甲第6号証:Behavioural Brain Research, Available online 30 October 2013, Vol.259, p.60-69
・甲第7号証:Cellular and Molecular Neurobiology, 1997, Vol.17, No.2, p.259-271
・甲第8号証:Cellular and Molecular Neurobiology, 1999, Vol.19, No.1, p.45-56
・甲第9号証:Biochemistry and Molecular Biology, 2007, Vol.40, No.1, p.125-129
以下、申立人2が提示した甲第1号証?甲第9号証を、それぞれ甲1’?甲9’のように記載する。

3 申立人1が主張する申立理由について
申立人1が主張する申立理由(上記1)は、取消理由1及び2で採用していない。

(1)甲1?甲6に記載された事項
申立人1が提示した甲1?甲6には、それぞれ以下の事項が記載されている。外国語の記載は、必要に応じて当審合議体による訳文を記載する。また、下線は当審合議体が付した。

[甲1(Current Pharmaceutical Design,2013,Vol.19,p.2722-2727)に記載された事項]

(1a)「多くの栄養補助食品や機能性食品は、加齢に伴う認知機能の低下や神経変性疾患の発症リスクを遅らせるのに有用である。L-カルノシン及びEGCGは、加齢及び慢性疾患に関連する酸化ストレスを調節する潜在的役割があるため、特に注目されている天然物である。」(p.2722の「Abstract」の第2?3文)

(1b)「加齢は、脳機能の破壊及びニューロン喪失に対する感受性の増加と関連している。・・・機能性食品を豊富に含む食事を摂取すると、加齢に伴う認知機能低下や神経変性疾患の発症リスクを抑えるのに役立つ可能性がいくつかの研究から示唆されている[11-14]。(-)-エピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)及びL-カルノシン(β-アラニル-L-ヒスチジン、L-Car)は、血液脳関門を通過し、脳内に蓄積することができるごく少数の栄養補助食品の一つである[15-16]。」(p.2722左欄15?24行)

(1c)「結論
・・・著者らの研究は、EGCGとL-Carの併用投与が、それらの各単独と比較して、より明らかな抗酸化活性を有することを示す。したがって、著者らの知見は、EGCGとL-Carの相乗的抗酸化効果が脳老化の予防における成功的アプローチである可能性を示す。最後に、本研究は、酸化ストレス関連疾患に対する保護におけるEGCG及びL-Carの有望な治療機序を支持する。」(p.2726の「CONCLUSION」)

(1d)ラットの脳由来の細胞を用いて、神経細胞死の予防におけるEGCG/L-Car補給の相乗効果等についての実験結果が記載されている(p.2723?2724の「MATERIALS AND METHODS」及び「RESULTS」)

上記のように、甲1には、(-)-エピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)及びL-カルノシン(β-アラニル-L-ヒスチジン、L-Car)との組合せによる相乗効果(摘記1c及び1d)について記載されているので、有効成分としてL-カルノシンを含むがEGCGを含まない組成物が記載されているとはいえない。
そして、甲1には本件訂正発明における用途は記載されておらず、甲1に記載された事項から本件訂正発明の構成を得ることを当業者が想到しえたとはいえない。
さらに、甲1に記載されたラットの脳由来の細胞を用いた実験結果から、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲2(国際公開第2012/12898号)に記載された事項]

(2a)「1.動物において加齢に伴う疾病を改善するのに有用な組成物であって、1種又は複数の不飽和脂肪酸(UFA)、1種又は複数の一酸化窒素放出化合物(NORC)、1種又は複数の抗糖化剤、及び初乳のうちの少なくとも2つの組み合わせを治療有効量含む組成物。
・・・
5.加齢に伴う疾病が、免疫機能の低下、認知力の低下、筋力の低下、平衡感覚の低下、及び酸化ストレスからなる群から選択される1つ又は複数である、請求項1に記載の組成物。
・・・
12.抗糖化剤が、カルノシン、ベンフォチアミン、ピリドキサミン、α-リポ酸、塩化フェナシルジメチルチアゾリウム、タウリン、アミノグアニジン、レスベラトロール、及びアスピリンからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。」(請求項1、5及び12)

(2b)「認知障害は、様々な形、例えば、いくつかの徴候の中でも特に、短期記憶喪失、学習能力の低下、学習速度の低下、注意力の低下、運動能力の低下、及び/又は痴呆の形で現れ得る。」([0004])

(2c)「好ましい実施形態では、本発明の組成物は、ヒト並びにイヌ及びネコなどのコンパニオンアニマルを含む動物による摂取に適した食品組成物中の成分として、動物に投与される。」([0066])

(2d)糖尿病を誘発させたマウスに対し、対照食としてAIN-93M飼料、又は試験食として80mg/kgのα-リポ酸、100mg/kgの魚油、1.5グラム/kgのウシ初乳、及び0.5グラム/kgのシトルリンを補給したAIN-93M飼料を摂取させた([0097])、物体認識試験(実施例1)、T迷路学習試験(実施例2)及びT迷路記憶試験(実施例3)それぞれにおいて、対照食よりも試験食を摂取したマウスの方が優れた結果を示したことが記載されている。

上記のように、甲2は、1種又は複数の不飽和脂肪酸(UFA)、1種又は複数の一酸化窒素放出化合物(NORC)、1種又は複数の抗糖化剤、及び初乳のうちの少なくとも2つの組合せを含む組成物について記載された文献であり、抗糖化剤の例としてカルノシンが記載されている(摘記2a)。
しかし、甲2の実施例では、糖尿病を誘発させたマウスを対象とし、α-リポ酸、魚油、ウシ初乳及びシトルリンを補給したAIN-93M飼料を用いているので、甲2に記載された事項から、本件訂正発明の構成を得ることを当業者が想到しえたとはいえない。
そして、甲2に記載された事項から、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲3(特開平9-20661号公報)に記載された事項]

(3a)「【請求項1】 アンセリン、カルノシン、バレニン、π-メチルヒスチジン及びτ-メチルヒスチジンの群から選ばれた1種以上のイミダゾール化合物を含有してなる学習能力向上組成物。」

(3b)「また本発明の機能性食品は、健康な人への利用にとどまらず、痴呆症の老人や、医師の指示に基づく栄養士の管理下にある患者等に与えることもできる。」(【0027】)

(3c)実施例では、健康な男子大学生16名に対して、1本あたりアンセリンを150mg及びカルノシンを50mg含有する鶏肉エキス(BRAND′S TRADITIONAL ESSENCE OF CHICKEN;Cerebos Pacific Ltd .)を1日1回2本、1週間飲用した場合と、これらのイミダゾール化合物を含有しないゼラチン水溶液(プラセボ)を1日1回2本、1週間飲用した場合とで、計算力試験及び短期記憶力試験を実施し、自覚される精神的疲労感、活力感等の比較をした実験において、鶏肉エキスを飲用した群の方が優れた結果を示したことが記載されている(【0034】?【0039】)。

上記のように、甲3には、「アンセリン、カルノシン、バレニン、π-メチルヒスチジン及びτ-メチルヒスチジンの群から選ばれた1種以上のイミダゾール化合物を含有してなる学習能力向上組成物」の発明(摘記3a)が記載されている。
しかし、甲3の実施例における対象は健康な男子大学生であり、通常、大学生は10代後半?20代前半であると解されるので、甲3に記載された事項から、本件訂正発明の構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、また、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲4(特開2007-314467号公報)に記載された事項]

(4a)「【請求項1】
カルノシンを有効成分とし、虚血後に過剰放出される亜鉛に基づく神経細胞死を抑制することを特徴とする脳血管性認知症の予防または治療用飲食物。」

(4b)「本発明は、以下の効果を奏する。
(1)脳虚血に由来する神経細胞の脱落を予防あるいは阻害する。
(2)カルノシンは、生体内成分であるため、副作用が少なく、日常的に長期にわたり安全に使用できる。この点は、虚血時の治療薬として使用されているフリーラジカルスカベンジャーが、虚血発作後直ぐに投与しなければならないものであるのとは大きく異なる。」(【0013】)

(4c)カルノシンが、亜鉛によるラット海馬初代培養神経細胞の神経細胞死を、カルノシンの濃度依存的に阻害していることが確認されたこと(実施例1、【0021】?【0025】)、及びカルノシンが、亜鉛による不死化視床下部神経細胞(GT1-7細胞)の神経細胞死を、カルノシンの濃度依存的に阻害していることが確認されたこと(実施例2、【0026】?【0030】)が記載されている。

上記のように、甲4には、「カルノシンを有効成分とし、虚血後に過剰放出される亜鉛に基づく神経細胞死を抑制することを特徴とする脳血管性認知症の予防または治療用飲食物。」の発明(摘記4a)が記載されているが、甲4の実施例における対象はラット海馬初代培養神経細胞又は不死化視床下部神経細胞(GT1-7細胞)である。
そうすると、甲4に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲5(国際公開第2013/021962号の再公表特許(A1))に記載された事項]

(5a)「【請求項1】
アルツハイマー病を診断するための診断キットであって、
被験体である哺乳動物の体液試料中の補体C3タンパク質に由来する糖鎖の量を定量的に検出するための糖鎖検出手段を有する診断キット。」

(5b)「【0006】
現在アルツハイマー病の診断は神経心理学検査、画像診断、神経生理学的検査、生物学的検査等により総合的に行っている。神経心理学検査として、mini-mental state examination(MMSE)、改訂版長谷川式簡易認知機能評価スケール(HDS-R)、Alzheimer's disease assessment scale(ADAS-cog)等がある。画像診断として、computed tomography(CT)、magnetic resonance imaging(MRI)single photon emission computed tomography(SPECT)、positron emission tomography(PET)等がある。アルツハイマー病においてSPECTやPETで早期から後部帯状回の脳血流低下、酸素代謝及び糖代謝の低下を確認することができ、進行とともに側頭葉、頭頂葉の脳血流、糖代謝が低下していく。」

上記のように、甲5には、アルツハイマー病を診断するための診断キットについて記載されているが、本件訂正発明に係る組成物又は方法についての記載はないので、甲5に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。
なお、甲5(国際公開第2013/021962号の再公表特許(A1))は本件出願の優先日である平成26年3月28日よりも後である平成27年3月5日に発行されたものであるが、国際公開第2013/021962号の国際公開日は上記優先日より前の平成25年2月14日であり、甲5に記載された事項と、国際公開第2013/021962号に記載された事項は同一内容である。

[甲6(国際公開第2007/116987号の再公表特許(A1))に記載された事項]

(6a)「【請求項1】
鶏肉抽出物を含有することを特徴とする学習機能向上効果及び抗不安効果を有する機能性食品。
【請求項2】
鶏肉抽出物が、 カルノシンを 3?2 0重量% (固形分換算)、 アンセリンを 5 ?3 0重量% (固形分換算) を含有する請求項 1記載の機能性食品。」

(6b)「先行文献は、学習能力の向上や精神疲労の予防などの効果については挙げているが、実施例に男子大学生を用いるなど、高齢者や若年性認知症患者における学習機能の低下抑制に関しては全く触れられておらず、このような人々に対する効果は未知である。・・・このような現状に鑑み、本発明は、学習機能の向上、認知症の防止あるいは抑制、肉体的又は精神的ストレスに対する緩和作用、さらには世の中の漠然とした不安感に対するリラックス効果を目的とした機能性食品及び薬剤を提供するものである。」(2頁49行?3頁6行)

(6c)「また、本発明の学習機能向上効果及び抗不安効果を有する薬剤は、鶏肉抽出物、カルノシン及びアンセリンからなる群から選ばれた少なくとも一種を有効成分として含有する薬剤であり、学習能力の低下した疾患(例えば、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症など)、前述の精神的不安に起因する疾患の治療に利用される。具体的には、認知症治療剤、抗不安剤、抗うつ剤、睡眠剤が包含される。」(5頁3?7行)

(6d)「また、本発明の機能性食品及び薬剤は、ヒトのみならず、各種動物の学習効果向上や不安の解消にも有用である。本明細書においては、動物とは便宜上、ヒト以外の哺乳動物を意味し、係る哺乳動物としては、例えば、馬、牛、豚、羊などの家畜類、例えば、犬、猫などの伴侶動物が例示できる。」(5頁26?30行)

(6e)最終的にカルノシン+アンセリン濃度が約10%(w/v%)となるように鶏肉抽出物(CBEX)を調製したこと(実施例1の「鶏肉抽出物の製造」)、9週齢のマウスにCBEXを投与した群で学習行動が改善され、抗不安効果が示されたこと(試験例1)、12週齢時のラットに対するCBEX単回投与により、セロトニン(5-ハイドロキシトリプタミン、5-HT)の代謝産物である5-ハイドロキシインドール酢酸(5-HIAA)が増加し、抗不安・抗うつ作用に関与するセロトニンの分泌が活性化されることが判明したこと(試験例2)、及び12週齢ラットに対するカルノシンの大脳皮質内投与により、5-HIAAが増加し、セロトニン分泌の活性化が認められたこと(試験例3)が記載されている。

上記のように、甲6には、「カルノシンを 3?2 0重量% (固形分換算)、 アンセリンを 5 ?3 0重量% (固形分換算)を含む鶏肉抽出物を含有する機能性食品」の発明(摘記6a)が記載されているといえる。
しかし、甲6には、本件訂正発明における用途が記載されているとはいえず、甲6の実施例における対象はマウス又はラットであるから、甲6に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

(2)小括
上記(1)で説示した事項に加えて、甲1?甲6に記載された事項を総合して判断しても、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、また、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。
よって、申立人1が主張する申立理由により、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立人2が主張する申立理由について
申立人2が主張する申立理由(上記2)のうち、取消理由1及び2で採用した理由は、本件請求項2に係る特許に対する、甲1’に基づく特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項である。

(1)甲1’?甲9’に記載された事項
甲1’?甲9’には、それぞれ以下の事項が記載されている。外国語の記載は、必要に応じて当審合議体による訳文を記載する。また、下線は当審合議体が付した。

[甲1’(Rejuvenation Res.,2010, Vol.13,No.5, p.581-588)に記載された事項]
甲1’は、令和2年11月26日付けで通知した取消理由(決定の予告)における引用文献1であり、甲1’に記載された事項は、上記第6の1(1)で説示したとおりであり、甲1’における対象はラットであるから、甲1’に本件訂正発明1?5が記載されているとはいえない。
そして、甲1’に記載された発明(引用発明)を、相乗的な効果を生み出す一体不可分の組合せ(ブルーベリー、緑茶、ビタミンD3及びカルノシンの組合せ)を含むものではない、「カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチド」を有効成分として含む経口剤にして、本件訂正発明に係る構成を得ることを容易に想到しえたとはいないことは、上記第6の2(2)イで説示したとおりである。
加えて、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果を当業者が予測しえたとはいえないことは、上記第6の2(2)ウで説示したとおりである。

[甲2’(国際公開第2007/116987号に記載された事項]

甲2’は、申立人1が提出した甲6であり、甲6(甲2’)に記載された事項は、上記3(1)の甲6の項目で説示したとおりである。
そして、甲2’(甲6)に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえないことは、上記3(1)の甲6の項目で説示したとおりである。

[甲3’(Int J Prev Med.,2013, Vol.4,No.6, p.624-630)に記載された事項]

甲3’には、「・・・生殖老化期において、ラットの11.8日はヒトの1年に相当する。」(「Reproductive senescence:The rat is no longer sexually active!」の項目における最終文。)という記載がある。
しかし、甲3’には、本件訂正発明における有効成分又は用途についての記載はないので、甲3’に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲4’(Archives of Gerontology and Geriatrics, 1999, Vol.29,p.107-113)に記載された事項]

甲4’のFig.1.(p.110)には神経筋疾患患者の骨格筋におけるカルノシン含量の経時変化が記載されており、Fig.2. (p.111)にはラットの骨格筋におけるカルノシン含量の経時変化が記載されている。そして、これらのFigureには、ヒトの骨格筋及びラットの骨格筋のいずれにおいても、加齢に伴ってカルノシン量が減少することが示されている。
しかし、甲4’には本件訂正発明における用途についての記載はないので、甲4’に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲5’(Global Journal of Health Science, 2003,Vol.5,No.3,p.69-81)に記載された事項]

「湾岸戦争病のカルノシン治療:ランダム化比較試験
・・・
1990-1991年の湾岸戦争退役軍人の約25%は、湾岸戦争病(GWI)又は慢性多発症状病(CMI)と称される、無能疲労、広範囲の疼痛及び認知機能障害を経験している。主要な理論は、戦時曝露が活性酸素種(ROS)の長期産生および中枢神経系傷害を開始したことを提唱する。内因性抗酸化剤L-カルノシン(β-アラニル-L-ヒスチジン)は、神経組織におけるフリーラジカルスカベンジャーであるため、潜在的な治療である。L-カルノシンによる栄養補給がGWIにおける疼痛、認知及び疲労を有意に改善するかどうかを決定するために、25人のGWI対象を含む無作為化二重盲検プラセボ対照12週間用量漸増試験を用いた。L-カルノシンは、4週間間隔で500、1000及び1500mgを増加させて投与した。結果には、主観的疲労、疼痛及び心理社会的質問表、並びにActiWatch Scoreによって記録された瞬間的疲労および活動レベルが含まれていた。認知機能は、WAIS-R数字記号置換試験によって評価した。カルノシンは、2つの潜在的に有益な効果を有した:WAIS-Rスコアは有意に増加し、過敏性腸症候群に関連する下痢の減少があった。他の有意な増分変化は見られなかった。したがって、12週間のカルノシン(1500 mg)は、GWIにおいて有益な認知効果を有し得る。疲労、疼痛、痛覚過敏、活動および他の結果は、処置に対して抵抗性であった。」(p.69のタイトル?Abstract)

上記のように、甲5’には、湾岸戦争病(GWI)と称される疾患を有するヒトの治療について記載されているが、湾岸戦争病(GWI)による認知機能の低下が改善される作用機序と、加齢による認知機能の低下が改善される作用機序とが同一であるとはいえないのであるから、甲5’に記載された事項から、本件訂正発明の構成を得ることを当業者が想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲6’(Behaviour Brain Research, Available online 30 October 2013,Vol.259,p.60-69)に記載された事項]

「老化による記憶障害は、神経機能の低下及び神経変性の増加の結果であると考えられている。酸化的損傷の蓄積及び抗酸化防御システムの減少は、生体老化及び機能的老化に重要な役割を果たす。」(「ABSTRACT」の1?3行)

上記のように、甲6’は老化による記憶障害について記載された文献であり、本件訂正発明における有効成分又は用途についての記載はないので、甲6’に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲7’(Cellular Molecular Neurobiology,1997,Vol.17,No.2,p.259-271)に記載された事項]

「カルノシンがフリーラジカルに対する内因性神経保護剤であるという生化学的および生理学的証拠
・・・
要約
1. カルノシン、アンセリン、ホモカルノシンは、脳と筋肉に集中する内因性ジペプチドであり、その生物学的機能は疑わしいままである。
2. 2つの分離された酵素システムと2つの虚血性脳損傷モデルを使用して、これらの化合物がフリーラジカルによる分子及び細胞の損傷に対する内因性保護物質として機能するという仮説を検証した。カルノシンとホモカルノシンはどちらも、最適な条件下で測定された脳のNa、K-ATPaseを活性化し、過酸化水素とのインキュベーションによって引き起こされるその活性の喪失を減らすのに効果的である。
3. 対照的に、3つの内因性ジペプチドはすべて、フリーラジカルによって活性化される酵素である脳のチロシンヒドロキシラーゼの活性を低下させる。虚血にさらされた海馬の脳スライスでは、カルノシンは興奮性の喪失までの時間を増加させた。
4. 実験的低圧低酸素下のラットでのインビボ実験において、カルノシンは、立って呼吸する能力を失うまでの時間を増加させ、回復するまでの時間を減少させた。
5. これらの作用は、フリーラジカル、特にヒドロキシルラジカルを中和するカルノシン及び関連化合物の効果によって説明できる。すべての実験において、カルノシンの有効濃度は脳で見られる濃度と同等かそれよりも低かった。これらの観察結果は、フリーラジカルによる損傷に対する保護がカルノシン、アンセリン、及びホモカルノシンの主要な役割であるという結論をさらに裏付けるものである。」(p.259-260のタイトル?「SUMMARY」)

上記のように、甲7’には、カルノシン、アンセリン及びホモカルノシンがフリーラジカルに対する内因性神経保護剤であることが記載されているが、本件訂正発明における用途についての記載はないので、甲7’に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲8’(Cellular and Molecular Neurobiology,1999,Vol.19,No.1,p.45-56)に記載された事項]

「カルノシン:虚血性脳の内因性神経保護剤
・・・
要約
1.天然の親水性神経ペプチドであるカルノシンが、活性酸素種(ROS)の病理学的発生に及ぼす生物学的影響をレビューする。
2.in vitro実験で観察された直接的な抗酸化作用について説明する。
3.カルノシンは代謝に間接的に影響を与えることがわかった。これらの効果は、ROSの代謝回転調節と脂質過酸化(LPO)プロセスに反映される。
4.脳虚血の間、カルノシンは神経保護剤として作用し、脳血流の回復、脳波検査(EEG)の正常化、乳酸蓄積の減少、およびROSに対する酵素的保護に貢献する。
5.提示されたデータは、カルノシンが、好ましくない条件下で脳の恒常性をサポートするニューロンの必須代謝経路の特定の調節因子であることを示している。」(p.45のタイトル?「SUMMARY」)

上記のように、甲8’には、カルノシンが虚血性脳の内因性神経保護剤であることが記載されているが、本件訂正発明における用途についての記載はないので、甲8’に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

[甲9’(Journal of Biochemistry and Molecular Biology,2007,Vol.40, No.1,p.125-129)に記載された事項]

「シトクロムc /過酸化水素システムによるニューロフィラメント-Lの修飾に対するヒスチジンジペプチドの保護効果
・・・
ニューロフィラメント-L(NF-L)は神経細胞骨格の主要な要素であり、神経細胞の生存に不可欠である。さらに、NF-Lの異常は神経変性疾患を引き起こす。カルノシン及び関連する内因性ヒスチジンジペプチドは、酸化や糖化などのタンパク質修飾を防ぐ。本研究では、ヒスチジンジペプチド、カルノシン、ホモカルノシン、又はアンセリンがシトクロムcとH_(2)O_(2)間の反応中の酸化的修飾からNF-Lを保護するかどうかを調査した。カルノシン、ホモカルノシン、アンセリンはすべて、シトクロムc / H_(2)O_(2)を介したNF-Lの凝集を防いだ。さらに、これらの化合物はまた、ジチロシンの形成を効果的に阻害し、この阻害は、酸化的に修飾されたタンパク質の形成の減少に関連していることが見出された。我々の結果は、カルノシン及びヒスチジンジペプチドが、神経変性障害によって引き起こされるような変性損傷につながる病態生理学的条件下で脳タンパク質に対して抗酸化作用を有することを示唆している。」(p.125のタイトル?同頁左欄1?18行)

上記のように、甲9’には、カルノシン、ホモカルノシン及びアンセリンが神経変性障害によって引き起こされるような変性損傷につながる病態生理学的条件下で脳タンパク質に対して抗酸化作用を有することが記載されているが、本件訂正発明における用途についての記載はないので、甲9’に記載された事項から、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果(上記第6の2(2)ウ(ア))を当業者が予測しえたとはいえない。

(2)小括
上記(1)で説示した事項のとおり、本件訂正発明は、甲1’に記載された発明ではなく、甲1’又は甲2’に記載された発明を主引用発明として、甲1’?甲9’に記載された事項を総合して判断しても、本件訂正発明に係る構成を得ることを当業者が容易に想到しえたとはいえず、また、40歳以上の健常ボランティア(ヒト)で奏された本件訂正発明の効果を当業者が予測しえたとはいえない。
よって、申立人2が主張する申立理由により、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。

第8 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正後の請求項1?7に係る特許を、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、又は特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由(申立人1及び申立人2が主張する申立理由)によっては、取り消すことはできない。
また、他に上記訂正後の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40歳以上の者を対象とする、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、加齢による認知機能の低下の改善、加齢による論理記憶の低下の改善、および認知症(ただしアルツハイマー型認知症を除く。)の発症のリスクの低減からなる群より選択される少なくとも一のための、経口剤。
【請求項2】
ラット以外を対象とする、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、加齢による認知機能の低下の改善、加齢による論理記憶の低下の改善、および認知症(ただしアルツハイマー型認知症を除く。)の発症のリスクの低減からなる群より選択される少なくとも一のための、経口剤(ただしセロトニン分泌の活性化により改善される疾患または対象の処置のための剤を除く。)。
【請求項3】
40歳以上の者を対象とする、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、脳の委縮の抑制、加齢に伴う後部帯状回における海馬との機能連結の低下の改善、または前認知症段階からの進行および発症に伴って低下する後部帯状回部位の血流の維持のための、経口剤。
【請求項4】
カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを含有する、脳の委縮の抑制、加齢に伴う後部帯状回における海馬との機能連結の低下の改善、または前認知症段階からの進行および発症に伴って低下する後部帯状回部位の血流の維持のための、経口剤(ただしセロトニン分泌の活性化により改善される疾患または対象の処置のための剤を除く。)。
【請求項5】
40歳以上の者を対象とする、請求項2または4に記載の剤。
【請求項6】
カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドを、鶏肉抽出物として含有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも一のイミダゾールジペプチドをリード化合物として用いる、加齢による認知機能の低下の改善、加齢による論理記憶の低下の改善、および認知症(ただしアルツハイマー型認知症を除く。)の発症のリスクの低減からなる群より選択される少なくとも一のための有効成分を探索する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-01 
出願番号 特願2019-19712(P2019-19712)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 鳥居 福代
前田 佳与子
登録日 2019-09-20 
登録番号 特許第6588666号(P6588666)
権利者 日本ハム株式会社 国立大学法人九州大学 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 国立大学法人 東京大学
発明の名称 イミダゾールジペプチドを含む剤  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 小山 有  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 森本 敏明  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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