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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1379813
異議申立番号 異議2020-700617  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-19 
確定日 2021-10-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6650064号発明「全固体リチウムイオン電池用正極活物質、電極および全固体リチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6650064号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第6650064号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6650064号の請求項1?13に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成31年3月29日の出願であって、令和2年1月21日にその特許権の設定登録がなされ、同年2月19日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、同年8月19日に特許異議申立人金澤毅(以下、「申立人」という。)より請求項1?13(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、令和2年10月26日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年12月18日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、令和3年2月10日に、令和2年12月18日になされた訂正請求に係る訂正後の請求項1?13に対して、申立人から意見書が提出され、その後、令和3年3月1日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、同年4月23日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、同年6月14日に、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)後の請求項1?13に対して、申立人から意見書が提出され、さらに、同年7月5日付けで当審より特許権者に対して審尋がなされ、同年7月21日に特許権者より回答書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6650064号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?13について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、令和2年12月18日になされた訂正請求は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
また、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、」を「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に用いられ、リチウム金属複合酸化物の結晶である粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、」に、本件訂正前の「比α/βが1.0以上であり、酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池用の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。」を「比α/βが1.0以上である全固体リチウムイオン電池用正極活物質。」に、それぞれ訂正する。

(2)訂正事項2
請求項6について、本件訂正前の「前記粒子は、前記粒子の表面に金属複合酸化物からなる被覆層を有する」を、「前記粒子の表面にさらに金属複合酸化物からなる被覆層を有し、前記金属複合酸化物はリチウムイオン伝導性を有する」に訂正する。

2 当審の判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池用の全固体リチウムイオン電池用正極活物質」という記載において、「酸化物固体電解質を含む」ものが、「全固体リチウムイオン電池」なのか「電池用正極活物質」なのかが明瞭でなかったところ、上記記載を「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」とした上で、請求項1の冒頭に、新たに、「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に用いられ、」との記載を加えて、「酸化物固体電解質を含む」ものが「全固体リチウムイオン電池」であることを、明瞭にするものである。
また、それに加えて、訂正前の「粒子」について、「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む」ものであったが、願書に添付した明細書【0189】を根拠として、「リチウム金属複合酸化物の結晶である」ものに限定したものである。
したがって、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項6の発明特定事項である「金属複合酸化物」について、願書に添付した明細書【0129】を根拠として、「リチウムイオン伝導性を有する」ことを特定し、さらに、上記訂正事項1により、請求項6が引用する請求項1の「粒子」について、「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む」ものであったが、「リチウム金属複合酸化物の結晶である」ものに限定したことに伴い、訂正前の請求項6の「粒子の表面に金属複合酸化物からなる被覆層を有する」事項について、「粒子の表面にさらに金属複合酸化物からなる被覆層を有」するとしたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

2-2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?13は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?13は一群の請求項であり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
そして、本件訂正については、本件訂正が認められたときに特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?13〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2-3 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、本件訂正に係る各訂正事項には、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和3年4月23日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?13〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
令和3年4月23日に特許権者が行った請求項1?13についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?13に係る発明(以下、請求項1?13に係る発明をそれぞれ「本件発明1」?「本件発明13」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に用いられ、リチウム金属複合酸化物の結晶である粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記粒子は、レーザー回折式粒度分布測定によって測定される体積基準の累積分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、関係式(D90-D10)/D50≧0.90が成り立ち、
前記結晶は、CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1.0以上である全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
前記遷移金属が、Ni、Co、Mn、Ti、Fe、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム金属複合酸化物は、下記式(1)で表される請求項2に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) (1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.10≦x≦0.30、0<y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦w≦0.10を満たす。)
【請求項4】
上記式(1)において1-y-z-w≧0.50、かつy≦0.30を満たす請求項3に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
前記粒子は、一次粒子と、前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記一次粒子および前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成され、
前記粒子における前記単粒子の含有率は、20%以上である請求項1から4のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項6】
前記粒子の表面にさらに金属複合酸化物からなる被覆層を有し、前記金属複合酸化物はリチウムイオン伝導性を有する請求項1から5のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を含む電極。
【請求項8】
固体電解質をさらに含む請求項7に記載の電極。
【請求項9】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟持された固体電解質層と、を有し、
前記固体電解質層は、第1の固体電解質を含み、
前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、
前記正極活物質層は、請求項1から6のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質または請求項7もしくは8に記載の電極を含む全固体リチウムイオン電池。
【請求項10】
前記正極活物質層は、前記全固体リチウムイオン電池用正極活物質と、第2の固体電解質とを含む請求項9に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項11】
前記第1の固体電解質と、前記第2の固体電解質とが同じ物質である請求項10に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項12】
前記第1の固体電解質は、非晶質構造を有する請求項9から11のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項13】
前記第1の固体電解質は、酸化物固体電解質である請求項9から12のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。」


2 特許異議申立理由及び取消理由の概要
2-1 令和3年3月1日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要
(1)本件特許は、請求項1?13に係る発明が、「被覆層」の存在により本件発明の課題を解決し得るとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

2-2 令和2年10月26日付けで通知された取消理由の概要
(1)本件特許は、その特許請求の範囲の記載が下記(1)-1、(1)-2の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(1)-1 請求項5の「粒子における前記単粒子の含有率」
(1)-2 請求項1の「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池用の全固体リチウムイオン電池用正極活物質」

(2)上記2-1の(1)と同じ。

2-3 取消理由または取消理由(決定の予告)を通知しなかった特許異議申立理由
(1)本件の発明の詳細な説明は、単粒子の含有率を20%以上とする手段が記載されていないから、請求項5?13に係る発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)請求項1?13に係る発明は、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン及び酸素のみを所定の割合で含む正極活物質以外の正極活物質を含むため、本件発明の課題を解決し得るとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)本件の発明の詳細な説明には、本件発明の課題に含まれている、「正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うこと」について何ら評価がなされていないため、請求項1?13に係る発明は、本件発明の課題を解決し得るとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(4)本件特許の請求項1?13に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証または甲第2号証に記載された発明、及び、下記の甲第3号証及び甲第4号証から導き出せる周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

甲第1号証:国際公開第2015/182665号
(申立人が提出した甲第1号証、以下、「甲1」という。)
甲第2号証:国際公開第2016/060105号
(申立人が提出した甲第2号証、以下、「甲2」という。)
甲第3号証:特開2019-29344号公報
(申立人が提出した甲第3号証、以下、「甲3」という。)
甲第4号証:特開2015-72818号公報
(申立人が提出した甲第4号証、以下、「甲4」という。)


3 本件明細書の記載
本件特許についての出願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある。
「【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、電池性能を向上させることができる全固体リチウムイオン電池用正極活物質を提供することを目的とする。また、このような全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極および全固体リチウムイオン電池を提供することを併せて目的とする。」

「【0027】
本実施形態の正極活物質は、以下の要件を満たす。
(要件1)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含む。
【0028】
(要件2)粒子は、レーザー回折式粒度分布測定によって測定される累積分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、関係式(D90-D10)/D50≧0.90が成り立つ。
【0029】
(要件3)結晶は、CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1.0以上である。」

「【0033】
さらに詳しくは、リチウム金属複合酸化物は、下記組成式(1)で表される。
Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) ・・・(1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦x≦0.30、0≦y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦w≦0.10を満たす。)」

「【0103】
発明者らの検討により、従来の液系リチウムイオン二次電池の正極に用いた場合には、良好な電池性能を示す正極活物質であっても、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合には、性能が不十分であるものがあることが分かった。このような全固体リチウムイオン二次電池に固有の知見に基づいて、発明者らが検討したところ、上述の要件1?要件3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、高い初期充電容量が測定されることが分かった。
【0104】
まず、本実施形態の正極活物質においては、要件1を満たすことで、リチウムイオンの挿入及び脱離を良好に行うことができる。
【0105】
また、本実施形態の正極活物質においては、要件2を満たす。全固体リチウムイオン二次電池の正極においては、正極活物質と固体電解質との間で、リチウムイオンの授受が行われる。このような全固体リチウムイオン二次電池においては、要件2を満たすような広い粒度分布を有することで、正極活物質同士または正極活物質と固体電解質との接触面積が広がりやすい。これにより、本実施形態の正極活物質を全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合、正極活物質と固体電解質との間でリチウムイオンの授受が行われやすい。
【0106】
さらに、本実施形態の正極活物質において要件3を満たすこととは、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の結晶が、層状構造の積層方向に異方成長していることを意味する。要件3を満たすリチウム金属複合酸化物は、層状構造の積層方向と交差する方向から層間にリチウムイオンを挿入および脱離しやすい。そのため、本実施形態の正極活物質が要件3を満たすと、電池性能を向上させやすい。」

「【0128】
(その他の構成2)
本実施形態の正極活物質は、正極活物質を構成する粒子の表面に、金属複合酸化物からなる被覆層を有することが好ましい。
【0129】
被覆層を構成する金属複合酸化物としては、リチウムイオン伝導性を有するものが用いられる。
【0130】
このような金属複合酸化物としては、例えば、Liと、Nb、Ge、Si、P、Al、W、Ta、Ti、S、Zr、Zn、VおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素との金属複合酸化物を挙げることができる。
【0131】
本実施形態の正極活物質が被覆層を有すると、正極活物質と固体電解質との界面における高抵抗層の形成を抑制し、全固体電池の高出力化が実現できる。このような効果は、固体電解質として硫化物系固体電解質を用いる硫化物系全固体電池において得られやすい。」

「【0214】
単粒子前駆体および二次粒子前駆体を混合時に所定の質量比で混合することで、得られる単粒子と二次粒子の存在比率をおおよそ制御できる。
【0215】
なお、混合以降の工程において単粒子前駆体および二次粒子前駆体がそれぞれ凝集、あるいは分離し単粒子前駆体を基にした二次粒子あるいは、二次粒子前駆体を基にした単粒子も存在し得るが、単粒子前駆体と二次粒子前駆体との混合比率および混合以降の工程の条件を調整することで、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物における単粒子と二次粒子の存在比率は制御することができる。」

「【0302】
<実施例1>
(正極活物質1の製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0303】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.50:0.20:0.30となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0304】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが11.1になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0305】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と水酸化リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下970℃で4時間焼成し、正極活物質1を得た。
【0306】
(正極活物質1の評価)
正極活物質1の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.05、y=0.50、z=0.30、w=0であった。」

「【0310】
<実施例2>
(正極活物質2の製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0311】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.55:0.20:0.25となるように混合して、混合原料液2を調製した。
【0312】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが12.0になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得た。得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2を得た。
【0313】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子2と水酸化リチウム一水和物粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.03となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成し、次いで酸素雰囲気下960℃で5時間焼成し、さらに大気雰囲気下400℃で5時間焼成して、リチウム金属複合酸化物を得た。得られたリチウム金属複合酸化物を正極活物質2とした。
【0314】
(正極活物質2の評価)
正極活物質2の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.03、y=0.20、z=0.25、w=0であった。」

「【0318】
<実施例3>
(正極活物質3の製造)
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子2と水酸化リチウム一水和物粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成し、次いで酸素雰囲気下1015℃で5時間焼成し、さらに大気雰囲気下400℃で5時間焼成して、リチウム金属複合酸化物を得た。
【0319】
得られたリチウム金属複合酸化物をピンミル型粉砕機(インパクトミルAVIS100、ミルシステム株式会社製)で粉砕した後、ターボスクリーナ(TS125×200型、フロイント・ターボ株式会社製)で篩分けした。ピンミル型粉砕機およびターボスクリーナの運転条件は下記の通りとした。
(ピンミル型粉砕機運転条件)
回転数:16000rpm、供給速度:8kg/hr
(ターボスクリーナ運転条件)
使用スクリーン:45μmメッシュ、ブレード回転数:1800rpm、供給速度:50kg/hr
【0320】
ターボスクリーナにおいてスクリーンを通過した粉末を回収することで、正極活物質3を得た。
【0321】
(正極活物質3の評価)
正極活物質3の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.05、y=0.20、z=0.25、w=0であった。」

「【0325】
<実施例4>
(正極活物質4の製造)
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.88:0.08:0.04となるように混合して、混合原料液を調製したこと、および反応槽内の溶液のpHを12.4になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下したこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4を得た。
【0326】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4と、水酸化リチウム粉末と、硫酸カリウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05、K_(2)SO_(4)/(LiOH+K_(2)SO_(4))=0.1(mol/mol)となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下800℃で10時間焼成して、リチウム金属複合酸化物を含む混合物4を得た。
【0327】
混合物4と純水(水温5℃)とを、混合物4と純水との合計量に対する混合物4の割合が30質量%となるように混合し、得られたスラリーを10分間撹拌した。
【0328】
スラリーを脱水し、得られた固形物を、上記スラリーの調整に用いた混合物4の2倍の質量の純水(液温5℃)ですすいだ(リンス工程)。固形物を再度脱水し、80℃で15時間真空乾燥させた後、150℃で8時間真空乾燥させることで、正極活物質4を得た。
【0329】
(正極活物質4の評価)
正極活物質4の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.05、y=0.08、z=0.04、w=0であった。」

「【0333】
<実施例5>
(正極活物質5の製造)
反応槽内の溶液のpHを11.2になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下したこと、液温を70℃に保持したこと以外は、実施例4と同様にしてニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を含む沈殿物を得た。
【0334】
得られた沈殿物をカウンタージェットミル(100AFG型、ホソカワミクロン株式会社製)で粉砕することで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5を得た。カウンタージェットミルの運転条件は下記の通りとした。
(カウンタージェットミル運転条件)
粉砕圧力:0.59MPa、分級回転数:17000rpm、供給速度:2kg/hr
【0335】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5と、水酸化リチウム粉末と、硫酸カリウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.20、K_(2)SO_(4)/(LiOH+K_(2)SO_(4))=0.1(mol/mol)となるように秤量して混合したこと以外は、実施例4と同様にして正極活物質5を得た。
【0336】
(正極活物質5の評価)
正極活物質5の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.20、y=0.08、z=0.04、w=0であった。」

「【0340】
<実施例6>
(正極活物質6の製造)
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.91:0.07:0.02となるように混合して、混合原料液を調製したこと、および反応槽内の溶液のpHを12.3になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下したこと以外は、実施例4と同様にして、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物6を得た。
【0341】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物6と、水酸化リチウム粉末と、硫酸カリウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.26、K_(2)SO_(4)/(LiOH+K_(2)SO_(4))=0.1(mol/mol)となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下790℃で10時間焼成し、リチウム金属複合酸化物を含む混合物6を得た。
【0342】
混合物6と純水(水温5℃)とを、混合物6と純水との合計量に対する混合物6の割合が30質量%となるように混合し、得られたスラリーを10分間撹拌した。
【0343】
スラリーを脱水し、得られた固形物を、上記スラリーの調整に用いた混合物4の2倍の質量の純水(水温5℃)ですすいだ(リンス工程)。固形物を再度脱水し、80℃で15時間真空乾燥させた後、150℃で8時間真空乾燥させた。
【0344】
得られた粉末を、ターボスクリーナ(フロイント・ターボ株式会社製)で篩別することで、正極活物質6を得た。ターボスクリーナの運転条件、篩別条件は、実施例3と同じとした。
【0345】
(正極活物質6の評価)
正極活物質6の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.02、y=0.07、z=0.02、w=0であった。」

「【0378】
表3においては、初期充電容量について以下のように評価し、評価結果を「評価」欄に示した。評価においては、◎、〇を良品、△、×を不良品と判断した。
◎:初期充電容量が100mAh/g以上
〇:初期充電容量が40mAh/g以上100mAh/h未満
△:初期充電容量が10mAh/g以上40mAh/h未満
×:初期充電容量が10mAh/g未満」

「【0381】
【表3】



【表4】





4 各甲号証の記載
(1)甲1
(1)-1 甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。なお、各甲号証に記載された発明の認定に関連する箇所に、当審で下線を付した。特に断りがない限り、以下、同じ。
「[0001]本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関するものである。」

「発明の効果
[0017]本発明によれば、高いサイクル特性、かつ、高い放電容量を有するリチウム二次電池用正極活物質を提供することができる。また、このようなリチウム二次電池用正極活物質を用いた正極、リチウム二次電池を提供することができる。本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、特に車載用用途に好適なリチウム二次電池に有用である。」

「[0019][リチウム二次電池用正極活物質]
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、少なくともニッケル、コバルト及びマンガンを含有し、層状構造を有するリチウム二次電池用正極活物質(以下、単に「リチウム含有複合金属酸化物」とする場合がある。)であって、下記要件(1)?(3)を満たすものである。
(1)一次粒子径が0.1μm以上1μm以下であり、50%累積体積粒度D_(50)が1μm以上10μm以下
(2)90%累積体積粒度D_(90)と10%累積体積粒度D_(10)との比率D_(90)/D_(10)が2以上6以下
(3)中和滴定により測定された粒子表面の残存アルカリに含まれる炭酸リチウム量が0.1質量%以上0.8質量%以下
以下、順に説明する。
[0020]本実施形態の正極活物質は、前記層状構造が、以下組成式(I)で表される層状構造であることが好ましい。
Li_(a)Ni_(1-x-y-z)Mn_(x)Co_(y)M_(z)O_(2) ・・・(I)
(ここで、aは0.9≦a≦1.2、xは0<x<0.4、yは0<y<0.4、zは0≦z<0.1、1-x-y-zは、0.5<1-x-y-z≦0.65、Mは、Mg、Al、Zrの内いずれか1種以上の金属である。)。」

「[0026](層状構造)
まず、本実施形態のリチウム含有複合金属酸化物の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造または単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。」

「[0032](粒子径)
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の粒子形態は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子、あるいは一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された二次粒子との混合物である。本実施形態において、正極活物質の一次粒子径は、0.1μm以上1μm以下である。より初回クーロン効率を高めるリチウム二次電池を得る意味で、一次粒子径は0.2μm以上0.9μm以下であることが好ましく、0.25μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。一次粒子の平均粒子径は、SEMで観察することにより測定することができる。
[0033]本実施形態において正極活物質の二次粒子径は、1μm以上10μm以下である。
低温(たとえば0℃)環境下における放電容量を高めるリチウム電池を得る意味で、二次粒子径は9μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、7μm以下であることがさらに好ましい。また、電極密度を高める意味では、二次粒子径は2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることがさらに好ましい。」

「[0038](結晶子サイズ)
本実施形態の正極活物質においては、放電容量を高めるリチウム電池を得る意味で、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピーク(以下、ピークAと呼ぶこともある)における結晶子サイズが600Å以上であることが好ましく、650Å以上であることがより好ましく、700Å以上であることがさらに好ましい。また、サイクル特性を高めたリチウム電池を得る意味で、ピークAにおける結晶子サイズは1400Å以下であることが好ましく、1300Å以下であることがより好ましく、1250Å以下であることがさらに好ましい。
ピークAの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
また、高い電流レートにおける放電容量を高めるリチウム電池を得る意味で、2θ=44.6±1°の範囲内のピーク(以下、ピークBと呼ぶこともある)における結晶子サイズは350Å以上700Å以下であることが好ましく、400Å以上700Å以下であることが好ましく、450Å以上700Å以下であることが好ましく、500Å以上675Å以下であることがより好ましい。
ピークBの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。 さらに、高温(たとえば60℃)環境下での保存特性を高めるリチウム電池を得る意味で、ピークAにおける結晶子サイズをピークBにおける結晶子サイズで除した値は、0.8以上2.8以下であることが好ましく、1.2以上2.2以下であることがより好ましい。」

「[0101]上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖またはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi_(2)S-SiS_(2)、Li_(2)S-GeS_(2)、Li_(2)S-P_(2)S_(5)、Li_(2)S-B_(2)S_(3)、Li_(2)S-SiS_(2)-Li_(3)PO_(4)、Li_(2)S-SiS_(2)-Li_(2)SO_(4)、Li_(2)S-GeS_(2)-P_(2)S_(5)などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
[0102]また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。」

「実施例
[0106]次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
本実施例においては、リチウム含有複合金属酸化物(正極活物質)の評価、正極およびリチウム二次電池の作製評価を、次のようにして行った。
・・・(略)・・・
[0109]3.リチウム二次電池用正極活物質の累積粒度の測定
測定するリチウム含有複合金属酸化物の粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、該粉末を分散させた分散液を得た。得られた分散液についてマルバーン社製マスターサイザー2000(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から見て10%累積時、50%累積時、90%累積時の体積粒度をそれぞれ、D_(10)、D_(50)、D_(90)とした。
[0110]4.リチウム二次電池用正極活物質の結晶子サイズ測定
リチウム含有複合金属酸化物の粉末X線回折測定は、X線回折装置(X‘Prt PRO、PANalytical社)を用いて行った。得られたリチウム含有複合金属酸化物を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10°?90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE5を用い、該粉末X線回折図形からピークAに対応するピークの半値幅およびピークBに対応するピークの半値幅を得て、Scherrer式により、結晶子サイズを算出した。
・・・(略)・・・
[0114](2)正極の作製
後述する製造方法で得られるリチウム含有複合金属酸化物(正極活物質)と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いた。
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、正極を得た。この正極の電極面積は1.65cm^(2)とした。
[0115](3)リチウム二次電池(コイン型セル)の作製
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
「(2)正極の作製」で作成した正極を、コイン型電池R2032用のコインセル(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上に積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層(厚み16μm))を置いた。ここに電解液を300μL注入した。用いた電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとの16:10:74(体積比)混合液に、ビニレンカーボネートを1vol%、LiPF_(6)を1.3mol/Lとなるように溶解して調製した。
・・・(略)・・・
[0120](実施例1)
1.リチウム含有複合金属酸化物1の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
[0121]硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.60:0.20:0.20となるように混合して、混合原料液を調整した。
[0122]次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、反応槽内の溶液のpHが12.2になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1を得た。得られた粒子を、濾過後水洗し、100℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1の乾燥粉末を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1のBET比表面積は、10.3m^(2)/gであった。
[0123]以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1の乾燥粉末と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、焼成物1Aを得た。次いで、得られた焼成物1Aを酸素雰囲気下850℃で10時間焼成して、目的のリチウム含有複合金属酸化物1すなわちリチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物1を得た。
[0124]2.リチウム含有複合金属酸化物の評価
得られたリチウム含有複合金属酸化物1の組成分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnのモル比は、1.05:0.61:0.20:0.19であった。
[0125]リチウム含有複合金属酸化物1の一次粒子径、50%累積体積粒度D_(50)は、それぞれ0.28μm、6.4μmであった。また、10%累積体積粒度D_(10)、90%累積体積粒度D_(90)は、それぞれ3.2、12.4μmであり、D_(90)/D_(10)は、3.9であった。
[0126]リチウム含有複合金属酸化物1のピークA、ピークBから算出される結晶子サイズは、それぞれ700Å、425Åであった。
[0127]リチウム含有複合金属酸化物1のBET比表面積は、0.60m^(2)/gであり、(α/β)/1000は、1.17であった。
・・・(略)・・・
[0130]3.リチウム二次電池の電池評価
正極活物質1を用いてコイン型電池を作製し、サイクル試験を実施した。1回目の放電容量、200回目の放電容量、放電容量維持率は、それぞれ151mAh/g、139mAh/g、92%であった。」

(1)-2 甲1に記載された発明
ア 上記(1)-1の[0115]、[0130]によれば、甲1の実施例1のリチウム含有複合金属酸化物1は、電解液を用いたリチウム二次電池(コイン型セル)に用いるものである。

イ そうすると、上記(1)-1より、実施例1のリチウム含有複合金属酸化物1に注目すると、甲1(特に、[0026]、[0038]、[0114]、[0115]、[0124]?[0126]、[0130])には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「リチウム含有複合金属酸化物1である正極活物質1であって、
リチウム含有複合金属酸化物1の結晶構造は、層状構造であり、
リチウム含有複合金属酸化物1の組成分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnのモル比は、1.05:0.61:0.20:0.19であり、
リチウム含有複合金属酸化物1の50%累積体積粒度D_(50)は、6.4μmであり、また、10%累積体積粒度D_(10)、90%累積体積粒度D_(90)は、それぞれ3.2、12.4μmであり、
2θ=18.7±1°の範囲内のピークをピークAとし、2θ=44.6±1°の範囲内のピークをピークBとしたとき、リチウム含有複合金属酸化物1のピークA、ピークBから算出される結晶子サイズは、それぞれ700Å、425Åである、電解液を用いたリチウム二次電池(コイン型セル)に用いる正極活物質。」

(2)甲2
(2)-1 甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
「[0001]本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関するものである。」

「[0007]上記の課題を解決するため、本発明は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1以上1.75以下であり、以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
Li[Li_(x)(Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)M_(d))_(1-x)]O_(2) ・・・(I)
(ここで、0≦x≦0.2、0.3<a<0.7、0<b<0.4、0<c<0.4、0≦d<0.1、a+b+c+d=1、Mは、Fe、Cr、Ti、Mg、AlおよびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属である。)」

「[0017]本発明によれば、高い初回クーロン効率を示すリチウム二次電池用正極活物質を提供することができる。また、このようなリチウム二次電池用正極活物質を用いた正極、およびリチウム二次電池を提供することができる。本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、特に車載用用途に好適なリチウム二次電池に有用である。」

「[0029](層状構造)
まず、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。」

「[0035](結晶子サイズ)
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピーク(以下、ピークAと呼ぶこともある)における結晶子サイズαと2θ=44.6±1°の範囲内のピーク(以下、ピークBと呼ぶこともある)における結晶子サイズβとの比α/βが1以上1.75以下である。
[0036]本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質のピークAにおける結晶子サイズαおよびピークBにおける結晶子サイズβは、以下のようにして確認することが出来る。
[0037]まず、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質について、CuKαを線源とし、かつ回折角2θの測定範囲を10°以上90°以下とする粉末X線回折測定を行い、ピークAおよびピークBに対応するピークを決定する。さらに、決定したそれぞれのピークの半値幅を算出し、Scherrer式 D=Kλ/Bcosθ (D:結晶子サイズ、K:Scherrer定数、B:ピーク半値幅)を用いることで結晶子サイズを算出することが出来る。該式により、結晶子サイズを算出することは従来から使用されている手法である(例えば「X線構造解析-原子の配列を決める-」2002年4月30日第3版発行、早稲田嘉夫、松原栄一郎著、参照)。以下にリチウム二次電池用正極活物質が空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造である場合を例に、図面を用いてより具体的に説明する。」

「[0043](粒子径)
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の粒子形態は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子、あるいは一次粒子が凝集して形成された二次粒子と一次粒子との混合物である。本実施形態において、リチウム二次電池用正極活物質の平均一次粒子径は、充電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、0.05μm以上であることが好ましく、0.08μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。また、より初回クーロン効率が高いリチウム二次電池を得る観点から平均一次粒子径は1μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。
前記平均一次粒子径の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
平均一次粒子は、SEMで観察することにより測定することができる。
・・・(略)・・・
[0045]本実施形態においてリチウム二次電池用正極活物質の50%累積体積粒度D_(50)は、低温(たとえば0℃)環境下における放電容量を高めるリチウム二次電池を得る観点から、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、7μm以下であることがさらに好ましい。また、電極密度を高める観点からは、50%累積体積粒度D_(50)は1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。」

「[0109]上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi_(2)S-SiS_(2)、Li_(2)S-GeS_(2)、Li_(2)S-P_(2)S_(5)、Li_(2)S-B_(2)S_(3)、Li_(2)S-SiS_(2)-Li_(3)PO_(4)、Li_(2)S-SiS_(2)-Li_(2)SO_(4)、Li_(2)S-GeS_(2)-P_(2)S_(5)などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
[0110]また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。」

「実施例
[0114]次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
・・・(略)・・・
[0117]3.リチウム二次電池用正極活物質の累積粒度の測定
測定するリチウム含有複合金属酸化物の粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、該粉末を分散させた分散液を得た。得られた分散液についてマルバーン社製マスターサイザー2000(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から見て10%累積時、50%累積時、90%累積時の体積粒度をそれぞれ、D_(10)、D_(50)、D_(90)とした。
[0118]4.リチウム二次電池用正極活物質の結晶子サイズ測定
リチウム含有複合金属酸化物の粉末X線回折測定は、X線回折装置(X‘Prt PRO、PANalytical社)を用いて行った。得られたリチウム含有複合金属酸化物を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10°?90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE5を用い、該粉末X線回折図形からピークAに対応するピークの半値幅およびピークBに対応するピークの半値幅を得て、Scherrer式により、結晶子サイズαおよびβを算出した。
・・・(略)・・・
[0120](2)正極の作製
・・・(略)・・・
[0121](3)リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製
「(2)リチウム二次電池用正極の作製」で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上に積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層(厚み16μm))を置いた。ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネート(以下、ECということがある。)とジメチルカーボネート(以下、DMCということがある。)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCということがある。)の30:35:35(体積比)混合液にLiPF_(6)を1モル/リットルとなるように溶解したもの(以下、LiPF_(6)/EC+DMC+EMCと表すことがある。)を用いた。
[0122]次に、負極としてリチウム金属を用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型電池R2032。以下、「コイン型ハーフセル」と称することがある。)を作製した。
・・・(略)・・・
[0129](実施例1)
1.リチウム二次電池用正極活物質1の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
[0130]硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.60:0.20:0.20となるように混合して、混合原料液を調整した。
[0131]次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、反応槽内の溶液のpHが12.4になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、濾過後水洗し、100℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1のBET比表面積は、39.9m^(2)/gであった。
[0132]以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.12となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質1を得た。
[0133]2.リチウム二次電池用正極活物質1の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質1の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、a=0.60、b=0.20、c=0.20、d=0.00であった。
[0134]リチウム二次電池用正極活物質1のピークA、ピークBから算出される結晶子サイズαおよびβは、それぞれ407Å、390Åであり、結晶子サイズαと結晶子サイズβとの比α/βは1.04であった。
[0135]リチウム二次電池用正極活物質1の平均一次粒子径、50%累積体積粒度D_(50)は、それぞれ0.15μm、4.8μmであった。また、10%累積体積粒度D_(10)、90%累積体積粒度D_(90)は、それぞれ2.6μm、7.4μmであり、D_(90)/D_(10)は、2.8であった。
[0136]リチウム二次電池用正極活物質1のBET比表面積は、3.2m^(2)/gであった。また、タップかさ密度は1.52g/ccであった。
[0137]3.リチウム二次電池の電池評価
リチウム二次電池用正極活物質1を用いてコイン型ハーフセルを作製し、初回充放電試験を実施した。初回充電容量、初回放電容量、初回クーロン効率はそれぞれ183mAh/g、176mAh/g、96.2%であった。」

(2)-2 甲2に記載された発明
ア 上記(2)-1の[0121]、[0137]によれば、甲2の実施例1のリチウム二次電池用正極活物質1は、電解液を用いたリチウム二次電池(コイン型ハーフセル)に用いるものである。

イ そうすると、上記(2)-1より、実施例1のリチウム二次電池用正極活物質1に注目すると、甲2(特に、[0007]、[0029]、[0035]、[0121]、[0133]?[0135])には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「リチウム二次電池用正極活物質1であって、
リチウム二次電池用正極活物質1の結晶構造は、層状構造であり、
リチウム二次電池用正極活物質1の組成分析を行い、下記の組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、a=0.60、b=0.20、c=0.20、d=0.00であり、
リチウム二次電池用正極活物質1の50%累積体積粒度D_(50)は、4.8μmであり、また、10%累積体積粒度D_(10)、90%累積体積粒度D_(90)は、それぞれ2.6μm、7.4μmであり、
2θ=18.7±1°の範囲内のピークをピークAとし、2θ=44.6±1°の範囲内のピークをピークBとしたとき、リチウム二次電池用正極活物質1のピークA、ピークBから算出される結晶子サイズαおよびβは、それぞれ407Å、390Åであり、結晶子サイズαと結晶子サイズβとの比α/βは1.04である、電解液を用いたリチウム二次電池(コイン型ハーフセル)に用いるリチウム二次電池用正極活物質1。
Li[Li_(x)(Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)M_(d))_(1-x)]O_(2) ・・・(I)」

(3)甲3の記載
「【0027】
ここで、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物に加えて、さらに被覆材を含む。被覆材は、リチウム複合酸化物の表面を被覆している。また、被覆材は、電子伝導率が10^(6)S/m以下であって、上述のリチウム複合酸化物と同一ではない材料である。当該被覆材が、上述のリチウム複合酸化物の表面を被覆することで、上述のリチウム複合酸化物と電解質との接触が抑制される。また、被覆材の電子伝導率が低いことにより、リチウム複合酸化物と電解質との間の電子の授受が抑制され、これに起因する副反応を抑止できる。これにより、抵抗層の生成またはガスの脱離が抑制される。このため、サイクル特性の高い電池を実現できる。」

「【0202】
実施の形態2における電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、非水電解質二次電池、全固体電池、など、として、構成されうる。
・・・(略)・・・
【0248】
また、実施の形態2における電池において、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0249】
固体電解質としては、有機ポリマー固体電解質、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、など、が用いられる。
・・・(略)・・・
【0252】
酸化物固体電解質としては、例えば、LiTi_(2)(PO_(4))_(3)およびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO_(3)系のペロブスカイト型固体電解質、Li_(14)ZnGe_(4)O_(16)、Li_(4)SiO_(4)、LiGeO_(4)およびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、Li_(7)La_(3)Zr_(2)O_(12)およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、Li_(3)NおよびそのH置換体、Li_(3)PO_(4)およびそのN置換体、など、が用いられうる。」

(4)甲4の記載
「【0041】
B.リチウム固体電池
次に、本発明のリチウム固体電池について説明する。図3は、本発明のリチウム固体電池の一例を示す概略断面図である。図3に示されるリチウム固体電池20は、正極活物質層11と、負極活物質層12と、正極活物質層11および負極活物質層12の間に形成された固体電解質層13と、正極活物質層11の集電を行う正極集電体14と、負極活物質層12の集電を行う負極集電体15と、これらの部材を収納する電池ケース16と、を有する。本発明においては、正極活物質層11が、上述した被覆正極活物質を含有する。また、その被覆正極活物質は固体電解質材料と接する。被覆正極活物質は、正極活物質層に含まれる固体電解質材料と接していても良く、固体電解質層に含まれる固体電解質材料と接していても良い。
【0042】
本発明によれば、正極活物質層が上述した被覆正極活物質を含有することから、電池抵抗が低いリチウム固体電池とすることができる。
以下、本発明のリチウム固体電池について、構成ごとに説明する。
・・・(略)・・・
【0050】
3.固体電解質層
本発明における固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層であり、少なくとも固体電解質材料を含有する層である。固体電解質材料としては、Liイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、硫化物固体電解質材料、酸化物固体電解質材料、窒化物固体電解質材料、ハロゲン化物固体電解質材料等を挙げることができ、中でも、硫化物固体電解質材料が好ましい。酸化物固体電解質材料に比べて、Liイオン伝導性が高いからである。なお、硫化物固体電解質材料は、酸化物固体電解質材料よりも反応性が高いため、正極活物質と反応しやすく、正極活物質との間に高抵抗層を形成しやすい。
・・・(略)・・・
【0057】
一方、酸化物固体電解質材料としては、例えば、NASICON型酸化物、ガーネット型酸化物、ペロブスカイト型酸化物等を挙げることができる。NASICON型酸化物としては、例えば、Li、Al、Ti、PおよびOを含有する酸化物(例えばLi_(1.5)Al_(0.5)Ti_(1.5)(PO_(4))_(3))、Li、Al、Ge、PおよびOを含有する酸化物(例えばLi_(1.5)Al_(0.5)Ge_(1.5)(PO_(4))_(3))を挙げることができる。ガーネット型酸化物としては、例えば、Li、La、ZrおよびOを含有する酸化物(例えばLi_(7)La_(3)Zr_(2)O_(12))を挙げることができる。ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、Li、La、TiおよびOを含有する酸化物(例えばLiLaTiO_(3))を挙げることができる。」


5 当審の判断
5-1 取消理由及び取消理由(決定の予告)を通知した理由について
(1)特許法第36条第6項第1号について(上記2の2-1の(1))
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載によれば、「正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、電池性能を向上させることができる全固体リチウムイオン電池用正極活物質を提供すること」、「また、このような全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極および全固体リチウムイオン電池を提供すること」(【0008】)である。

イ そして、本件明細書の「要件1?要件3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、高い初期充電容量が測定されることが分かった」(上記3の【0103】)との記載、及び、本件明細書の実施例において、初期充電容量を評価している(上記3の【0378】、【0381】参照。)ことから、上記アの「電池性能を向上させる」とは、初期充電容量を向上させることであると認められる。

ウ 上記ア、イの検討を踏まえると、結局、本件発明が解決しようとする課題は、「正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、初期充電容量を向上させることができる全固体リチウムイオン電池用正極活物質を提供すること」、「また、このような全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極および全固体リチウムイオン電池を提供すること」であると認められる。

エ そして、本件明細書には、被覆層を有さない実施例1?6の正極活物質を、全固体リチウムイオン電池の正極活物質として用いた場合、高い初期充電容量が得られていることが示されている(上記3の【0302】?【0305】、【0310】?【0313】、【0318】?【0320】、【0325】?【0328】、【0333】?【0335】、【0340】?【0344】、【0378】、【0381】参照。)。

オ ここで、本件発明が上記ウの課題を解決し得る機序について、本件明細書の【0027】?【0029】及び【0104】?【0106】に記載されており、該記載からすると、本件発明は、本件明細書【0027】及び【0029】にそれぞれ記載された要件1及び要件3(以下、単に「要件1」及び「要件3」という。)を満たすことにより、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の結晶が、層状構造の積層方向に異方成長しているため、層状構造の積層方向と交差する方向から層間にリチウムイオンを挿入および脱離しやすくなり、また、本件明細書【0028】に記載された要件2(以下、単に「要件2」という。)を満たすことにより、正極活物質同士または正極活物質と固体電解質との接触面積が広がり、正極活物質と固体電解質との間でリチウムイオンの授受が行われやすくなるとのことである。

カ 一方、請求項1を引用している請求項6は、上記1で示したとおりであり、「粒子の表面にさらに金属複合酸化物からなる被覆層を有」するものである。

キ 上記オによれば、要件1?3を満たすことで、層状構造の積層方向と交差する方向から層間にリチウムイオンを挿入および脱離しやすくなり、かつ、正極活物質同士または正極活物質と固体電解質との接触面積が広がり、正極活物質と固体電解質との間でリチウムイオンの授受が行われやすくなるとのことであるとのことであるから、上記カの「被覆層」の材料によっては、上記ウの課題を解決しない場合もあり得る。

ク しかしながら、上記1で示したとおり、請求項6の「被覆層」を構成する「金属複合酸化物はリチウムイオン伝導性を有する」ことが特定されているし、本件発明6は、「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」の発明であるから、令和3年7月21日付けの回答書(第3頁第2?7行)において、特許権者が主張するように、「被覆層」の材料は、「リチウムイオン伝導性が低く、ほとんどない」ような材料ではなく、「電池として使える程度の適切なリチウムイオン伝導性」を有する材料であることは当然のことであって、本件発明6の「リチウムイオン伝導性を有する」金属複合酸化物とは、そのような「通常の被覆層」が備えるリチウムイオン伝導性を有するものであることは、当業者であれば、当然理解できることである。

ケ そうすると、本件発明6の「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」が「被覆層」を有するものであったとしても、上記ウの課題を解決し得るものであるといえる。

コ また、本件発明1は、「リチウム金属複合酸化物の結晶である粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質」(当審注:下線は強調のため当審で付した。)であって、「被覆層」を含むものではないから、上記ウの課題を解決し得るものである。

サ よって、請求項1及びそれを直接又は間接的に引用する請求項2?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

5-2 取消理由を通知し、取消理由(決定の予告)を通知しなかった理由について
(1)特許法第36条第6項第2号について
(1)-1 請求項5の「粒子における前記単粒子の含有率」について(上記2の2-2の(1)の(1)-1)
ア 請求項5には、「粒子は、一次粒子と、前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記一次粒子および前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成され、前記粒子における前記単粒子の含有率は、20%以上である」と記載されている。

イ しかしながら、請求項5の「単粒子の含有率」について、どのような算出法に基づく含有率を採用するのかが、本件明細書には明記されていない。

ウ ここで、粒子群における特定の形態の粒子の「含有率」を算出する場合、当該含有率には、個数割合の含有率、質量割合の含有率、体積割合の含有率が考えられる。

エ そして、当該含有率についてどの含有率を採用するかにより、同一の「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」であっても、上記アの「単粒子の含有率」が、請求項5に係る発明に含まれたり、含まれなかったりすることがあり得る。

オ 一方、本件明細書には、「単粒子前駆体および二次粒子前駆体を混合時に所定の質量比で混合することで、得られる単粒子と二次粒子の存在比率をおおよそ制御できる」(【0214】)と記載されている。

カ また、本件明細書には、「混合以降の工程の条件を調整することで、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物における単粒子と二次粒子の存在比率は制御することができる」(【0215】)と記載されている。

キ そして、上記カのように、「単粒子と二次粒子の存在比率」を「制御する」には、上記オの「混合」以降に、当該「存在比率」が確認できないと「制御」することが困難であると考えられるところ、単粒子前駆体および二次粒子前駆体を混合した後は、「質量割合」を確認することは困難であると考えられる。

ク また、令和2年12月18日付けの意見書において、特許権者は「請求項5に記載の単粒子の含有率は、「個数割合の含有率」である」(第3頁第16行)と主張しており、本件明細書には、当該主張と矛盾する記載も見当たらない。

ケ そうすると、請求項5の「単粒子の含有率」は、「個数割合の含有率」を意味しているといえ、請求項5の上記アの記載は明確であるから、請求項5及びそれを直接又は間接的に引用する請求項6?13に係る発明は、明確である。

(1)-2 請求項1の「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池用の全固体リチウムイオン電池用正極活物質」について(上記2の2-2の(1)の(1)-2)
ア 本件訂正前の請求項1には、「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池用の全固体リチウムイオン電池用正極活物質」と記載されていたところ、この記載は、「酸化物固体電解質」が「全固体リチウムイオン電池」に「含」まれるのか、「正極活物質」に「含」まれるのかが不明瞭であった。

イ しかしながら、本件訂正により、「酸化物固体電解質」が「全固体リチウムイオン電池」に「含」まれることが明らかとなった。

ウ よって、請求項1及びそれを直接又は間接的に引用する請求項2?13に係る発明は、明確である。

5-3 取消理由または取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由
(1)特許法第36条第4項第1号について(上記2の2-3の(1))
ア 本件発明5は、「粒子は、一次粒子と、前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記一次粒子および前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成され、前記粒子における前記単粒子の含有率は、20%以上である」との発明特定事項を含むものである。

イ そして、本件明細書には、「単粒子前駆体および二次粒子前駆体を混合時に所定の質量比で混合することで、得られる単粒子と二次粒子の存在比率をおおよそ制御できる」(【0214】)と記載されており、本件明細書において、具体的に製造した実施例等の記載がなくても、このような方法によれば、「粒子における前記単粒子の含有率」を「20%以上」とすることができる。

ウ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明5及びそれを直接又は間接的に引用する本件発明6?13について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(2)特許法第36条第6項第1号について
(2)-1 正極活物質の組成について(上記2の2-3の(2))
ア 上記5-1の(1)のア?ウで検討したとおり、本件発明が解決しようとする課題は、「正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、初期充電容量を向上させることができる全固体リチウムイオン電池用正極活物質を提供すること」、「また、このような全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有する電極および全固体リチウムイオン電池を提供すること」であると認められる。

イ そして、本件明細書には、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、及び、酸素からなる、実施例1?6の正極活物質を、全固体リチウムイオン電池の正極活物質として用いた場合、高い初期充電容量が得られていることが示されている(上記3の【0302】?【0306】、【0310】?【0314】、【0318】?【0321】、【0325】?【0329】、【0333】?【0336】、【0340】?【0345】、【0378】、【0381】参照。)。

ウ ここで、本件発明が上記アの課題を解決し得る機序について、本件明細書の【0027】?【0029】及び【0104】?【0106】に記載されており、該記載からすると、要件1及び要件3を満たすことにより、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の結晶が、層状構造の積層方向に異方成長しているため、層状構造の積層方向と交差する方向から層間にリチウムイオンを挿入および脱離しやすくなり、また、要件2を満たすことにより、正極活物質同士または正極活物質と固体電解質との接触面積が広がり、正極活物質と固体電解質との間でリチウムイオンの授受が行われやすくなるとのことである。

エ そして、上記ウの機序は、結晶構造や粒度分布に起因するものであるから、正極活物質が、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、及び、酸素からなる正極活物質でなくても、要件1?3を満たすことにより奏するものであることが理解できる。
すなわち、正極活物質が、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、及び、酸素からなる正極活物質でなくても、要件1?3を満たすことにより、上記アの課題を解決し得ることが理解できる。

オ よって、請求項1及びそれを直接又は間接的に引用する請求項2?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)-2 リチウムイオンの授受の評価について(上記2の2-3の(3))
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(2)-1のアのとおりである。

イ そして、上記(2)-1のウのとおり、本件明細書の記載によれば、本件発明1は要件1?3を満たすことにより、リチウムイオンを挿入および脱離しやすくなるものであることが理解できる。

ウ また、本件明細書において、実施例1?6の正極活物質を、全固体リチウムイオン電池の正極活物質として用いた場合、高い初期充電容量が得られていることが示されており(上記3の【0378】、【0381】参照。)、この結果から、要件1?3を含む本件発明1の正極活物質が、リチウムイオンを挿入および脱離しやすくなっていることが間接的にも理解できる。

エ したがって、要件1?3を含む本件発明1は、上記(2)-1のアの課題の一部である、「正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ」るとの課題を解決し得るものである。

オ よって、請求項1及びそれを直接又は間接的に引用する請求項2?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(3)特許法第29条第2項について(上記2の2-3の(4))
(3)-1 甲1を主たる引用文献とした場合
(3)-1-1 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「電解液を用いたリチウム二次電池(コイン型セル)」と本件発明1の「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池」とは、「リチウムイオン電池」で共通する。

イ 甲1発明の「リチウム含有複合金属酸化物1である」事項は、50%累積体積粒度D_(50)等が測定されていることから粒子であることが明らかであるので、本件発明1の「リチウム金属複合酸化物の結晶である粒子からなる」事項に相当する。

ウ 甲1発明の「リチウム含有複合金属酸化物1の結晶構造は、層状構造であり、リチウム含有複合金属酸化物1の組成分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnのモル比は、1.05:0.61:0.20:0.19であ」る事項は、本件発明1の「層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有」する事項に相当する。

エ 甲1には、「マルバーン社製マスターサイザー2000(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た」([0109])と記載されている。
そして、甲1発明の「リチウム含有複合金属酸化物1の50%累積体積粒度D_(50)は、6.4μmであり、また、10%累積体積粒度D_(10)、90%累積体積粒度D_(90)は、それぞれ3.2、12.4μmであ」る事項について、本件発明1の「関係式(D90-D10)/D50」を算出すると、(12.4-3.2)/6.4=1.44となるから、当該事項は、本件発明1の「粒子は、レーザー回折式粒度分布測定によって測定される体積基準の累積分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、関係式(D90-D10)/D50≧0.90が成り立」つ事項に相当する。

オ 甲1には、「リチウム含有複合金属酸化物の粉末X線回折測定は、X線回折装置(X‘Prt PRO、PANalytical社)を用いて行った。得られたリチウム含有複合金属酸化物を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10°?90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE5を用い、該粉末X線回折図形からピークAに対応するピークの半値幅およびピークBに対応するピークの半値幅を得て、Scherrer式により、結晶子サイズαおよびβを算出した」([0110])と記載されている。
そして、甲1発明の「2θ=18.7±1°の範囲内のピークをピークAとし、2θ=44.6±1°の範囲内のピークをピークBとしたとき、リチウム含有複合金属酸化物1のピークA、ピークBから算出される結晶子サイズは、それぞれ700Å、425Åである」事項について、本件発明1の「比α/β」を算出すると、700/425=1.65となるから、当該事項は、本件発明1の「結晶は、CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1.0以上である」事項に相当する。

カ 上記ア?オより、本件発明1と甲1発明とは、
「リチウムイオン電池に用いられ、リチウム金属複合酸化物の結晶である粒子からなるリチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記粒子は、レーザー回折式粒度分布測定によって測定される体積基準の累積分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、関係式(D90-D10)/D50≧0.90が成り立ち、
前記結晶は、CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1.0以上であるリチウムイオン電池用正極活物質。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1)
「リチウムイオン電池」について、本件発明1は、「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池」であるのに対し、甲1発明は、「電解液を用いた」ものであって、全固体電池ではない点。

(3)-1-2 相違点についての検討
ア 甲1には、「上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい」([0101])と記載されている。

イ また、甲3に、「リチウムイオン二次電池」(【0202】)において、「固体電解質としては、・・・(略)・・・酸化物固体電解質・・・(略)・・・など、が用いられる」(【0249】)、甲4に、「リチウム固体電池」(【0042】)において、「固体電解質としては、・・・(略)・・・例えば、・・・(略)・・・酸化物固体電解質材料・・・(略)・・・等を挙げることができ」(【0050】)、と記載されていることから、リチウムイオン電池の固体電解質として、酸化物固体電解質を用いることは周知である。

ウ そうすると、甲1発明において、その電解質として電解液に代えて酸化物固体電解質を用いる動機があるといえる。

エ ここで、本件明細書には、「発明者らの検討により、従来の液系リチウムイオン二次電池の正極に用いた場合には、良好な電池性能を示す正極活物質であっても、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合には、性能が不十分であるものがあることが分かった・・・(略)・・・上述の要件1?要件3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、高い初期充電容量が測定されることが分かった。」(【0103】)と記載されている。

オ また、本件明細書の実施例の記載によれば、全固体リチウムイオン電池に用いた実験結果である【0381】の表3において、比較例2は実施例1よりも特性が劣っているのに対し、液系のリチウムイオン電池に用いた実験結果である【0382】の表4において、比較例2は実施例1よりも良好な特性が得られていることから、全固体リチウムイオン電池において、良好な特性を得られていない正極活物質であっても、液系のリチウムイオン電池に用いた場合には、良好な特性が得られることもあることが示されている。

カ 上記エ、オからすると、本件発明1の正極活物質は、液系のリチウムイオン電池に用いた場合には、良好な特性が得られることもあったとしても、全固体リチウムイオン電池において、良好な特性が得られるとの予測性がないものであるといえる。

キ したがって、上記ウで検討したように、たとえ、甲1発明において、その電解質として電解液に代えて酸化物固体電解質を用いる動機があったとしても、上記カからすると、その際の効果には予測性がない、すなわち、良好な特性が得られるかが予測困難であるといえる。

ク よって、甲1発明において、その電解質として電解液に代えて酸化物固体電解質を用いることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ケ また、本件発明2?5、7?13は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1で検討した理由と同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

コ さらに、本件発明6は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1と同様に「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に用いられ」るものであって、本件発明6と甲1発明とは、上記相違点1と同様の相違点を有するから、本件発明6も、本件発明1で検討した理由と同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)-2 甲2を主たる引用文献とした場合
(3)-2-1 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「電解液を用いたリチウム二次電池(コイン型ハーフセル)」と本件発明1の「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池」とは、「リチウムイオン電池」で共通する。

イ 甲2発明の「リチウム二次電池用正極活物質1」は、50%累積体積粒度D50等が測定されていることから粒子であることが明らかであるし、「リチウム二次電池用正極活物質1の結晶構造は、層状構造であり、リチウム二次電池用正極活物質1の組成分析を行い、下記の組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、a=0.60、b=0.20、c=0.20、d=0.00であ」ったものであるから、
「Li[Li_(x)(Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)M_(d))_(1-x)]O_(2) ・・・(I)」
本件発明1の「リチウム金属複合酸化物の結晶である粒子からなる」事項を含むものである。

ウ 甲2発明の「リチウム二次電池用正極活物質1の結晶構造は、層状構造であり、リチウム二次電池用正極活物質1の組成分析を行い、下記の組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、a=0.60、b=0.20、c=0.20、d=0.00」
「Li[Li_(x)(Ni_(a)Co_(b)Mn_(c)M_(d))_(1-x)]O_(2) ・・・(I)」である事項は、本件発明1の「層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有」する事項に相当する。

エ 甲2には、「マルバーン社製マスターサイザー2000(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た」([0117])と記載されている。
そして、甲2発明の「リチウム二次電池用正極活物質1の50%累積体積粒度D_(50)は、4.8μmであり、また、10%累積体積粒度D_(10)、90%累積体積粒度D_(90)は、それぞれ2.6μm、7.4μmであ」る事項について、本件発明1の「関係式(D90-D10)/D50」を算出すると、(7.4-2.6)/4.8=1となるから、当該事項は、本件発明1の「粒子は、レーザー回折式粒度分布測定によって測定される体積基準の累積分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、関係式(D90-D10)/D50≧0.90が成り立」つ事項に相当する。

オ 甲2には、「リチウム含有複合金属酸化物の粉末X線回折測定は、X線回折装置(X‘Prt PRO、PANalytical社)を用いて行った。得られたリチウム含有複合金属酸化物を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10°?90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE5を用い、該粉末X線回折図形からピークAに対応するピークの半値幅およびピークBに対応するピークの半値幅を得て、Scherrer式により、結晶子サイズαおよびβを算出した」([0118])と記載されている。
そうすると、甲2発明の「2θ=18.7±1°の範囲内のピークをピークAとし、2θ=44.6±1°の範囲内のピークをピークBとしたとき、リチウム二次電池用正極活物質1のピークA、ピークBから算出される結晶子サイズαおよびβは、それぞれ407Å、390Åであり、結晶子サイズαと結晶子サイズβとの比α/βは1.04である」事項は、本件発明1の「結晶は、CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1.0以上である」事項に相当する。

カ 上記ア?オより、本件発明1と甲2発明とは、
「リチウムイオン電池に用いられ、リチウム金属複合酸化物の結晶である粒子からなるリチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記粒子は、レーザー回折式粒度分布測定によって測定される体積基準の累積分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、関係式(D90-D10)/D50≧0.90が成り立ち、
前記結晶は、CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1.0以上であるリチウムイオン電池用正極活物質。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点2)
「リチウムイオン電池」について、本件発明1は、「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池」であるのに対し、甲2発明は、「電解液を用いた」ものであって、全固体電池ではない点。

(3)-2-2 相違点についての検討
ア 甲2には、「上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい」([0109])と記載されている。

イ また、上記(3)-1の(3)-1-2のイで検討したとおり、リチウムイオン電池の固体電解質として、酸化物固体電解質を用いることは周知である。

ウ そうすると、甲2発明において、その電解質として電解液に代えて酸化物固体電解質を用いる動機があるといえる。

エ しかしながら、上記(3)-1の(3)-1-2のカで検討したとおり、本件発明1は、液系のリチウムイオン電池に用いた場合には、良好な特性が得られることもあったとしても、全固体リチウムイオン電池において、良好な特性が得られるとの予測性がないものである。

オ したがって、上記ウで検討したように、たとえ、甲2発明において、その電解質として電解液に代えて酸化物固体電解質を用いる動機があったとしても、上記エからすると、その際の効果の予測性がない、すなわち、良好な特性が得られるかが予測困難であるといえる。

カ よって、甲2発明において、その電解質として電解液に代えて酸化物固体電解質を用いることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ また、本件発明2?5、7?13は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1で検討した理由と同様の理由により、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ク さらに、本件発明6は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1と同様に「酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に用いられ」るものであって、本件発明6と甲1発明とは、上記相違点2と同様の相違点を有するから、本件発明6も、本件発明1で検討した理由と同様の理由により、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


6 申立人の主張について
(1)申立人は令和3年6月14日付けの意見書において、次のア?オの主張をしている。
ア 特許権者は令和3年4月23日付けの意見書において、本件発明1は被覆層を有しないものであり、また、本件発明6は被覆層を有するものである旨主張しているが、本件発明1は本件発明6を包含するものであるから、特許権者の主張は特許請求の範囲の記載と整合していない(第2頁第17行?最終行)。

イ 本件発明6の「被覆層」は、イオン伝導性が低く、イオン伝導性がほとんどないようなものも包含するものであるから、「リチウムイオンの授受をスムーズに行うこと」を可能にするという、本件発明の課題を解決できない場合を包含するものである(第3頁第2?21行)。

ウ 本件発明6の「リチウムイオン伝導性を有する」とは、どの程度の伝導性を有するのかが不明であるから、本件発明6は明確でない(第3頁第22行?第4頁第1行)。

エ 請求項1と請求項9との記載は、酸化物固体電解質について整合していない(第4頁第4?19行)。

オ 特許権者が、令和2年12月18日付けの意見書において、本件発明5の「単粒子の含有率」が「個数割合の含有率」である根拠としているのは、本件明細書【0122】?【0125】の記載であるが、該記載には、単粒子の平均粒径を算出する際に、所定数の単粒子を選択し測定対象とすることが開示されているのみであって、本件発明5の「単粒子の含有率」が「個数割合の含有率」である裏付けとはならない(第4頁第22行?第7頁第2行)。

なお、令和3年6月14日付けの意見書第7頁第5行?第9頁第22行の主張については、全て異議申立理由と同様の主張であり上記5「当審の判断」において検討済みであるから、ここではあらためて検討しない。

(2)上記(1)のア?オの申立人の主張についての検討は、次のとおりである。
ア 本件発明1は被覆層を有しないものであることは明らかであり、そして、本件発明6は「粒子の表面にさらに金属複合酸化物からなる被覆層を有」(当審注:下線は強調のため当審で付した。)する「請求項1から5のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質」の発明であって、被覆層を有するものであると解されるから、申立人の上記(1)のアの主張には理由がない。

イ 本件発明6は「全固体リチウムイオン電池用正極活物質」についての発明であるから、「被覆層を有す」る「正極活物質」は、「全固体リチウムイオン電池」として適切な動作をするものであることは当然であって、「被覆層」についても同様のことがいえる。
そうすると、本件発明6の「被覆層」は、イオン伝導性が低く、イオン伝導性がほとんどないようなものも包含するものとはいえないから、申立人の上記(1)のイの主張には理由がない。

ウ 上記イで検討したとおり、「被覆層」は、「全固体リチウムイオン電池」が適切な動作をするものであることは当然であって、「リチウムイオン伝導性」についても「全固体リチウムイオン電池」が適切な動作をする程度ものであると解されるから、本件発明6は明確であって、申立人の上記(1)のウの主張には理由がない。

エ 申立人の上記(1)のエの主張は、新たな申立理由にあたるから採用しない。

オ 確かに、本件明細書【0122】?【0125】の記載は、本件発明5の「単粒子の含有率」が「個数割合の含有率」である裏付けとはならないが、上記5の5-2の(1)
の(1)-1で検討したとおり、本件発明5の「単粒子の含有率」が「個数割合の含有率」であると考えられるから、申立人の上記(1)のオの主張には理由がない。


7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1?13に係る特許は、令和2年10月26日付けで通知された取消理由通知書に記載した取消理由、令和3年3月1日付けで通知された取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件特許の請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に用いられ、リチウム金属複合酸化物の結晶である粒子からなる全固体リチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、
前記粒子は、レーザー回折式粒度分布測定によって測定される体積基準の累積分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、関係式(D90-D10)/D50≧0.90が成り立ち、
前記結晶は、CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1.0以上である全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
前記遷移金属が、Ni、Co、Mn、Ti、Fe、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム金属複合酸化物は、下記式(1)で表される請求項2に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) (1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.10≦x≦0.30、0<y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦w≦0.10を満たす。)
【請求項4】
上記式(1)において1-y-z-w≧0.50、かつy≦0.30を満たす請求項3に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
前記粒子は、一次粒子と、前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記一次粒子および前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成され、
前記粒子における前記単粒子の含有率は、20%以上である請求項1から4のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項6】
前記粒子の表面にさらに金属複合酸化物からなる被覆層を有し、前記金属複合酸化物はリチウムイオン伝導性を有する請求項1から5のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を含む電極。
【請求項8】
固体電解質をさらに含む請求項7に記載の電極。
【請求項9】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟持された固体電解質層と、を有し、
前記固体電解質層は、第1の固体電解質を含み、
前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、
前記正極活物質層は、請求項1から6のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質または請求項7もしくは8に記載の電極を含む全固体リチウムイオン電池。
【請求項10】
前記正極活物質層は、前記全固体リチウムイオン電池用正極活物質と、第2の固体電解質とを含む請求項9に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項11】
前記第1の固体電解質と、前記第2の固体電解質とが同じ物質である請求項10に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項12】
前記第1の固体電解質は、非晶質構造を有する請求項9から11のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項13】
前記第1の固体電解質は、酸化物固体電解質である請求項9から12のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-27 
出願番号 特願2019-66770(P2019-66770)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮田 透  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 粟野 正明
土屋 知久
登録日 2020-01-21 
登録番号 特許第6650064号(P6650064)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 全固体リチウムイオン電池用正極活物質、電極および全固体リチウムイオン電池  
代理人 加藤 広之  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 加藤 広之  
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