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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1379814
異議申立番号 異議2020-700368  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-29 
確定日 2021-10-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6615063号発明「ノロウイルスに対して防御免疫応答を付与する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6615063号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-19〕について訂正することを認める。 特許第6615063号の請求項1ないし12、14ないし19に係る特許を維持する。 特許第6615063号の請求項13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6615063号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?19に係る特許についての出願は、平成28年7月29日に出願(優先日 2007年9月18日)され、令和1年11月15日にその特許権の設定登録がされ、令和1年12月4日に特許掲載公報が発行された。
本件特許に対し、令和2年5月29日に、合同会社SAS(以下「申立人」という。)による特許異議の申立てがされ、以後の経緯は、概略次のとおりである。
令和2年 8月21日付け: 取消理由通知書
令和2年11月30日付け: 特許権者による意見書及び訂正請求書
令和3年 2月12日付け: 特許異議申立人による意見書
令和3年 3月15日付け: 決定の予告
令和3年 6月16日付け: 特許権者による意見書及び訂正請求書
なお、申立人に、令和3年6月16日付けの訂正請求があった旨の通知をして、期間を定めて意見を求めたが、期間内に申立人から意見の提出はなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年6月16日付けの訂正請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和2年11月30日付けの訂正請求は取り下げられたものと見なされる。令和3年6月16日付けの訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、以下の訂正を求めるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在する」と記載されているのを、「前記ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在し、前記ワクチンが、粘膜、鼻腔内、または筋肉内に投与される」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「前記送達剤が生体付着剤である」と記載されているのを、「前記ワクチンが粘膜に投与され、前記送達剤が生体付着剤である」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項12に、「前記ワクチンが液体製剤である」と記載されているのを、「前記ワクチンが液体製剤であり、筋肉内に投与される」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項14に「前記ワクチンが鼻腔内に投与される、請求項13に記載のワクチン組成物。」とあるうち、引用する請求項13のうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群Iウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)および少なくとも1つのノロウイルスウイルス遺伝子群IIウイルス株からのノロウイルスVLPを含む、ヒトにおいてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するためのワクチン組成物であって、前記ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在し、前記ワクチンが鼻腔内に投与される、ワクチン組成物。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正後の請求項1は、前記ワクチンが、粘膜、鼻腔内、または筋肉内に投与される」との記載により、訂正後の請求項1にかかる発明におけるワクチンの投与経路を具体的に特定し、限定するものである。すなわち、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1は、請求項13及び明細書【0011】、【0043】及び【0051】の記載から導き出される構成であり、訂正事項1による訂正は、明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正後の請求項5は「前記送達剤が生体付着剤である」との記載により、訂正後の請求項5に係る発明におけるワクチンの投与経路をより具体的に特定し、さらに限定するものである。すなわち、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項2は、請求項13及び明細書【0011】、【0043】及び【0051】の記載から導き出される構成であり、訂正事項2による訂正は、明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正後の請求項12は、「筋肉内に投与される」との記載により、訂正後の請求項12に係る発明におけるワクチンの投与経路をより具体的に特定し、さらに限定するものである。すなわち、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項3は、請求項13及び明細書【0011】、【0043】及び【0051】の記載から導き出される構成であり、訂正事項3による訂正は、明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、請求項13を削除するというものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項4は、請求項13を削除するというものであるから、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、請求項13を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項14が請求項13の記載を引用する記載であるところ、訂正事項4で削除された請求項13のうち請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改める訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明または同4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることをも目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項5は、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改める訂正であり、実質的な内容の変更を伴うものではなく、請求項13及び14の記載から導き出される構成であるから、訂正事項3による訂正は、明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(6)一群の請求項
訂正前の請求項1?19について、請求項2?19は、それぞれ、請求項1を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
訂正前の請求項5?9について、請求項6?9は、それぞれ、請求項5を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。
訂正前の請求項13?16について、請求項14?16は、それぞれ、請求項13を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項4によって記載が訂正される請求項13に連動して訂正されるものである。
訂正前の請求項14について、請求項15及び16は、それぞれ、請求項14を引用しているものであって、訂正事項5によって記載が訂正される請求項14に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?19に対応する訂正後の請求項1?19は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(7)小括
上記のとおり、訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項の規定に適合し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するから、適法なものである。

第3 本件特許の発明
上記第2のとおり、本件訂正は適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲は、以下のとおりとなる。(以下、訂正後の特許請求の範囲の請求項の番号によって、請求項を「訂正請求項1」、請求項に係る発明を「本件訂正発明1」などといい、また、まとめて「本件訂正発明」ということがある。)
【請求項1】
少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群Iウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)および少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群IIウイルス株からのノロウイルスVLPを含む、ヒトにおいてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するためのワクチン組成物であって、前記ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在し、前記ワクチンが、粘膜、鼻腔内、または筋肉内に投与される、ワクチン組成物。
【請求項2】
前記ノロウイルスVLPが一価VLPである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
第1のノロウイルスVLPがノーウォークウイルスVLPであり、第2のノロウイルスVLPがヒューストンウイルスVLPである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
前記ワクチンが送達剤をさらに含む、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
前記ワクチンが粘膜に投与され、前記送達剤が生体付着剤である、請求項4に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
前記生体付着剤が粘膜付着剤である、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記粘膜付着剤が、デルマタン硫酸、コンドロイチン、ペクチン、ムチン、アルギン酸塩、ポリ(アクリル酸)の架橋誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、レクチン、線毛タンパク質、およびカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される、請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
前記粘膜付着剤が多糖である、請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
前記多糖が、キトサン、キトサン塩、またはキトサン塩基である、請求項8に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
前記ワクチンがアルミニウム塩をさらに含む、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
前記ワクチンが粉末製剤である、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
前記ワクチンが液体製剤であり、筋肉内に投与される、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項13】(削除)
【請求項14】
少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群Iウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)および少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群IIウイルス株からのノロウイルスVLPを含む、ヒトにおいてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するためのワクチン組成物であって、前記ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在し、前記ワクチンが鼻腔内に投与される、ワクチン組成物。
【請求項15】
前記ワクチンが、鼻通路の近くに保持される前記ワクチンを含む1つ以上のデバイスからの鼻道内における迅速な被着によって、鼻粘膜に投与される、請求項14に記載のワクチン組成物。
【請求項16】
前記ワクチンが、一方または両方の鼻孔に投与される、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
前記ノロウイルスVLPが、約0.01%(w/w)?約80%(w/w)の濃度で存在する、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項18】
前記ノロウイルスVLPが、前記組成物中に1投与あたり約100μg以下の用量で存在する、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項19】
前記ワクチンが、ノロウイルス感染の1つ以上の症状に対して防御する、請求項1に記載のワクチン組成物。

第4 取消理由の概要
令和2年11月30日付けの訂正請求により訂正された請求項1?19に係る特許に対して、当審が令和3年3月15日付けの決定の予告で通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。(以下、令和2年11月30日付けの訂正により訂正された特許請求の範囲に記載された発明を、請求項の番号によって、「訂正発明1」などという。)
発明の詳細な説明の記載は、訂正発明1?5、10、11、13、17?19について当業者がそれら発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく(理由1:実施可能要件)、訂正発明1?5、10、11、13、17?19は、発明の詳細な説明に記載したものでないから(理由2:サポート要件)、訂正発明1?5、10、11、13、17?19についての特許は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113号第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1 明細書及び図面の記載
(1)明細書の記載
ア 技術分野
【0002】
発明の分野
本発明は、ワクチン、特に、ノロウイルスのワクチンの分野に属する。加えて、本発明は、ワクチン組成物を調製する方法および防御免疫応答を誘導する方法に関する。

イ 背景技術
【0005】
ノロウイルスは、非分節RNAゲノムを含有する一本鎖のプラスセンスRNA ウイルスである。ウイルスゲノムは、3つのオープンリーディングフレームをコードし、後方の2つのフレームは、それぞれ、メジャーなカプシドタンパク質およびマイナーな構造タンパク質の産生を指令する(Glass et al. 2000)。真核細胞発現系において高レベルで発現させる場合、NV、および他の所定のノロウイルスのカプシドタンパク質が自己アセンブルして、天然のノロウイルスビリオンに構造的に類似するVLPを形成する。透過型電子顕微鏡で観察する場合、VLPは、ヒト糞便サンプルから単離される感染性ビリオンとは形態学的に区別できない。
【0006】
ノロウイルスに対する免疫応答は複雑であり、防御に関して相関する事柄が、現在解明されつつある。天然のウイルスによって実施されたヒト志願者試験によって、粘膜から誘導されるメモリー免疫応答が感染に対して短期間の防御を提供することが実証され、ワクチンを仲介する防御が可能であることが示唆された(Lindesmith et al. 2003;Parrino et al. 1997;Wyatt et al, 1974)。
【0007】
ノロウイルスをインビトロで培養することはできないが、VLPが入手可能であり、それらを多量に産生させることが可能であるため、ノロウイルスカプシドの抗原および構造としての仕組みの定義が、かなり進められた。VLPは、ウイルスカプシドタンパク質の真正の高次構造を保存する一方、感染性の遺伝子材料が欠如する。従って、VLPは、ウイルスと細胞受容体との機能的相互作用を模倣し、それによって、適切な宿主免疫応答を誘発する一方、複製または感染を引き起こす能力を欠く。NIHとの共同で、Baylor College of Medicineでは、学術的な研究者主導型(investigator-sponsored)の第I相臨床治験において、ヒト志願者のNVVLPに対する体液性、粘膜および細胞性免疫応答に関する試験が行われた。経口投与されたVLPは、健常な成人において安全かつ免疫原性である(Ball et al. 1999;Tacket et al. 2003)。他の学術的な施設では、動物モデルの前臨床実験により、細菌外毒素アジュバントを鼻腔内に投与した場合、VLPに対する免疫応答が増強されることが実証された(Guerrero et al. 2001;Nicollier-Jamot et al. 2004;Periwal et al. 2003;Souza et al. (2007) Vaccine, doi:10.1016/j.vaccine.2007.09.040)。しかし、いずれの試験においても、何らかのノロウイルスワクチンを使用して、ノロウイルスに対する防御免疫を達成することが可能であることについては報告されていない。

ウ 課題を解決するための手段
【0008】
発明の概要
本発明は、少なくとも1つのノロウイルス抗原を含むワクチンを投与することを含む、被験体、特に、ヒト被験体におけるノロウイルス感染に対する防御免疫を誘導する方法を提供する。一実施形態では、抗原はノロウイルスのウイルス様粒子(VLP)である。本発明の方法において使用されるワクチンは、1つ以上のアジュバントをさらに含んでもよい。ノロウイルスVLPは、遺伝子群Iもしくは遺伝子群IIのウイルスまたはそれらの混合物から選択することができる。一実施形態では、ワクチンは、約0.01%?約80重量%の濃度でノロウイルスVLPを含む。別の実施形態では、ワクチンは、1用量あたり約1μg?約100mgの用量のノロウイルスVLPを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、ワクチンは、抗原取り込みを増強するか、デポー効果を提供するか、送達部位における抗原保持時間を増加するか、または送達部位における細胞タイトジャンクションの弛緩を介して免疫応答を増強するように機能する送達剤をさらに含む。送達剤は、生体付着剤、好ましくは、デルマタン硫酸、コンドロイチン、ペクチン、ムチン、アルギン酸塩、ポリ(アクリル酸)の架橋誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖類、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、レクチン、線毛タンパク質、およびカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される粘膜付着剤であり得る。好ましくは、粘膜付着剤は多糖である。より好ましくは、粘膜付着剤は、キトサン、またはキトサン塩もしくはキトサン塩基などのキトサンを含有する混合物である。
【0010】
他の実施形態では、ワクチンはアジュバントを含む。前記アジュバントは、toll様受容体(TLR)アゴニスト、モノホスホリル脂質A(MPL(登録商標))、合成脂質A、脂質A擬似体または類似体、アルミニウム塩、サイトカイン、サポニン、ムラミルジペプチド(MDP)誘導体、CpGオリゴ、グラム陰性細菌のリポ多糖(LPS)、ポリホスファゼン、エマルジョン、ビロソーム(virosomes)、コキレート(cochleate)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLG)微小粒子、ポロキサマー粒子、微小粒子、内毒素、例えば、細菌内毒素およびリポソームからなる群から選択されてもよい。好ましくは、アジュバントはtoll様受容体(TLR)アゴニストである。より好ましくは、アジュバントはMPL(登録商標)である。
【0011】
本発明の方法は、液体または乾燥粉末として処方されたノロウイルスワクチンを投与することを含む。乾燥粉末製剤は、直径約10?約500マイクロメートルの粒度を含有してもよい。ワクチンを投与するための適切な経路は、粘膜、筋肉内、静脈内、皮下(subcutaneous)、皮内、真皮下(subdermal)、または経皮経路を含む。特に、投与経路は、筋肉内または粘膜経路であってもよく、好適な粘膜投与経路は、鼻腔内、経口、もしくは膣投与経路を含む。別の実施形態では、ワクチンは、点鼻スプレー、点鼻薬、または乾燥粉末として処方され、ここで、ワクチンは、鼻通路の近くに保持される前記ワクチンを含有するデバイスからの鼻道内における迅速な被着によって投与される。別の実施形態では、ワクチンは、一方または両方の鼻孔に投与される。

エ 発明を実施するための形態
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、被験体においてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発する方法に関する。特に、本発明は、ノロウイルスVLPおよび少なくとも1つのアジュバントを含むワクチンをヒトに投与する方法を提供し、ここで、ワクチンは、ノロウイルス感染の少なくとも1つの症状に対して防御する。それに加えて、またはその代わりに、ワクチンは、少なくとも1つの送達剤をさらに含んでもよい。

【0030】
アジュバント
本発明は、ノロウイルス抗原と共に使用するためのアジュバントを含む組成物をさらに提供する。ほとんどのアジュバントは、水酸化アルミニウムまたは鉱油などの、迅速な異化作用から抗原を防御するように設計された物質、およびボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)またはヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に由来するタンパク質などの、免疫応答の刺激因子を含有する。適切なアジュバントは市販されており、例えば、フロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Pifco Laboratories, Detroit, Mich.);Merckアジュバント65(Merck and Company, Inc., Rahway, N.J.);水酸化アルミニウムゲル(alum)またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;カルシウム、鉄または亜鉛の塩;アシル化チロシンアシル化糖の不溶性懸濁液;カチオンまたはアニオン誘導体化多糖類;ポリホスファゼン;生分解性マイクロスフェア;ならびにQuilAがある。
【0031】
また、適切なアジュバントとして、toll様受容体(TLR)アゴニスト、モノホスホリル脂質A(MPL)、合成脂質A、脂質A擬似体または類似体、アルミニウム塩、サイトカイン、サポニン、ムラミルジペプチド(MDP)誘導体、CpGオリゴ、グラム陰性細菌のリポ多糖(LPS)、ポリホスファゼン、エマルジョン、ビロソーム、コキレート、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLG)微小粒子、ポロキサマー粒子、微小粒子、およびリポソームが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、アジュバントは、細菌に由来する外毒素である。また、3DMPLまたはQS21などのTh1型応答を刺激するアジュバントも好適である。

【0035】
送達剤
本発明はまた、抗原取り込みを増強するか、デポー効果を提供するか、または送達部位における抗原保持時間を増加する(例えば、抗原の排除を遅延する)ように機能する送達剤を含む組成物を提供する。そのような送達剤は、生体付着性剤であってもよい。特に、生体付着剤は、キトサン、キトサン塩、またはキトサン塩基(例えば、キトサングルタミン酸)などの粘膜付着性剤であってもよい。
【0036】
甲殻類の外殻のキチンに由来する正に荷電した直鎖状多糖であるキトサンは、上皮細胞およびそれらの表面を覆う粘膜層のための生体付着剤である。キトサンを伴う抗原の製剤は、それらの鼻粘膜との接触時間を増加し、それ故、デポー効果による取り込みを増加する(Ilium et al. 2001;2003;Davis et al. 1999;Bacon et al. 2000;van der Lubben et al. 2001;2001;Lim et al. 2001)。キトサンは、動物モデルおよびヒトの両方においてインフルエンザ、百日咳およびジフテリアを含むいくつかのワクチンの鼻送達システムとして試験されている(Ilium et al. 2001;2003;Bacon et al. 2000;Jabbal-Gill et al. 1998;Mills et al. 2003;McNeela et al. 2004)。これらの治験では、キトサンが、全身免疫応答を非経口ワクチン接種に等価なレベルまで増強することを示した。加えて、粘膜分泌液においてもまた、有意な抗原特異的IgAレベルが測定された。それ故、キトサンは、鼻ワクチンの有効性を顕著に増強することができる。さらに、その物理学的特長のため、キトサンは、粉末として処方される鼻腔内ワクチンに特に良好に適している(van der Lubben et al. 2001;Mikszta et al. 2005;Huang et al. 2004)。

【0039】
ワクチンおよび抗原製剤
本発明の組成物は、ワクチンまたは抗原製剤としての投与のために処方することができる。本明細書において使用する用語「ワクチン」は、脊椎動物に投与することが可能な形態であり、感染を防御および/または改善するため、ならびに/あるいは感染の少なくとも1つの症状を減少させるため、ならびに/あるいは別の用量のVLPもしくは抗原の効力を増強するために、免疫を誘導するのに十分な防御免疫応答を誘導する上記のような本発明のノロウイルスVLPまたは他のノロウイルス抗原を含有する製剤を指す。本明細書において使用する用語「抗原製剤」または「抗原組成物」は、脊椎動物に投与する場合、例えば、哺乳動物が免疫応答を誘導する製剤を指す。本明細書において使用する用語「免疫応答」は、体液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方を指す。・・・ノロウイルス由来の胃腸炎の臨床症状として、悪心、下痢、軟便、嘔吐、発熱、および全身の倦怠感が挙げられる。疾患症状を減少または解消する防御免疫応答は、ノロウイルスの集団発生の拡大を減少または停止させる。ワクチンの調製については、Vaccine Design(“The subunit and adjuvant approach” (eds Powell M. F. Newman M. J.) (1995) Plenum Press New York)に概説されている。本発明の組成物は、例えば、口、消化器、および呼吸器(例えば、鼻)粘膜のうちの1つ以上への送達のために、処方することができる。
【0040】
組成物が、呼吸器(例えば、鼻)粘膜への送達を意図する場合、典型的に、エアゾルまたは点鼻薬として投与するための水溶液としてか、あるいは、例えば、鼻道内における迅速な被着のための乾燥粉末として、処方される。点鼻薬として投与するための組成物は、そのような組成物に通常含まれるタイプの1つ以上の賦形剤、例えば、保存剤、粘度調整剤、張度調整剤、緩衝剤などを含有してもよい。増粘剤は、微結晶セルロース、キトサン、澱粉、多糖類などであり得る。乾燥粉末として投与するための組成物もまた、そのような組成物に通常含まれる1つ以上の賦形剤、例えば、粘膜付着性剤、充填剤、ならびに適切な粉末流動およびサイズ特徴を送達するための剤を含有してもよい。充填剤ならびに粉末流動化およびサイズ剤として、マンニトール、スクロース、トレハロース、およびキシリトールを挙げることができる。
【0041】
一実施形態では、本発明のノロウイルスワクチンまたは抗原製剤は、免疫原として1つ以上のノロウイルス遺伝子群抗原、MPL(登録商標)などのアジュバント、粘膜表面への付着を促進するためのキトサンなどのバイオポリマー、ならびにマンニトールおよびスクロースなどの充填剤を含有する。例えば、ノロウイルスワクチンは、1つ以上のノロウイルス遺伝子群抗原(例えば、ノーウォークウイルス(Norwalk virus)、ヒューストンウイルス(Houston virus)、スノーマウンテンウイルス(Snow Mountain virus))、MPL(登録商標)アジュバント、キトサン粘膜付着剤、ならびに充填剤としておよび適切な流動特徴を提供するためのマンニトールおよびスクロースを含有する10mgの乾燥粉末として処方してもよい。製剤は、約7.0mg(25?90%w/wの範囲)のキトサン、約1.5mgのマンニトール(0?50%w/wの範囲)、約1.5mgのスクロース(0?50%w/wの範囲)、約25μgのMPL(登録商標)(0.1?5%w/wの範囲)、および約100μgのノロウイルス抗原(0.05?5%w/wの範囲)を含んでもよい。
・・・
【0043】
別の実施形態では、抗原およびワクチン組成物は、被験体へのその後の投与のために、液体として処方することができる。鼻腔内投与を意図する液体製剤は、ノロウイルス遺伝子群抗原、アジュバント、およびキトサンなどの送達剤を含む。筋肉内(i.m.)投与のための液体製剤は、ノロウイルス遺伝子群抗原、アジュバント、および緩衝液を含み、送達剤(例えば、キトサン)を伴わない。
・・・
【0051】
本発明の抗原およびワクチン製剤は、非粘膜を介して投与してもよく、または粘膜経路を介して投与してもよい。これらの投与は、非経口的注入(例えば、静脈内、皮下、および筋肉内)、または他の従来の直接的経路、例えば、口腔/舌下、直腸、経口、鼻、局所(例えば、経皮および眼)、膣、肺、動脈内、腹腔内、眼内、もしくは鼻腔内経路を介するか、あるいは特定の組織へ直接的なインビボ投与を含んでもよい。・・・
・・・
【0056】
本発明は、ワクチンを被験体に投与することを含む、被験体において、ノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するための方法を提供し、ここで、前記ワクチンは、ノロウイルスVLPおよび少なくとも1つのアジュバントを含む。・・・ワクチンの有効性が血清抗体と相関する、米国において現在許諾されているいくらかのワクチンとは異なり、研究により、ノーウォークウイルス(Norwalk virus)に対する血清抗体の力価の増加などの免疫応答のマーカーは、ヒトの防御免疫に関連しないことが示されている(Johnson et al. (1990) J. Infectious Diseases 161:18-21)。さらに、ヒトにおけるノーウォーク(Norwalk)ウイルス暴露について調べた別の研究により、ノーウォーク(Norwalk)感染に対する感受性は、多機能的であり、分泌型の状態およびメモリー粘膜免疫応答などの因子を含むことが示された(Lindesmith et al (2003) Nature Medicine 9: 548-553)。ノロウイルスは、インビトロで培養することができないため、現在利用可能なウイルス中和アッセイは存在しない。中和アッセイの代わりとして役立つ機能アッセイは、血球凝集阻害(HAI)アッセイである。ノロウイルスVLPは赤血球抗原に結合するため、HAIは、ノロウイルスワクチンから誘導される抗体が、ノロウイルスVLPによる抗原被覆赤血球の凝集を阻害する能力を測定する。このアッセイでは、一定量のノロウイルスVLPを、免疫した被験体由来の一定量の赤血球および血清と混合する。血清サンプルが機能的抗体を含有する場合、抗体は、赤血球への結合についてVLPと競合し、それによって、赤血球の凝集を阻害する。

オ 実施例
【0062】
実施例1.ウサギにおけるノロウイルスワクチン製剤のGLP毒性試験
本試験の目的は、ウサギへの3回の鼻腔内投薬後、ノーウォークウイルス(Norwalk virus)-ウイルス様粒子(NV-VLP)ワクチンの潜在的毒性を評価することであった。NV-VLPワクチンは、(10mgの乾燥粉末あたり)25μgの遺伝子群IVLP、25μgのMPL、7mgのキトサングルタミン酸、1.475mgのマンニトール、および1.475mgのスクロースを含有した。試験は、8週間の期間、行った。4週間の非処置回復間隔後、効果の持続性、可逆性、または発症の遅延を評価した。60匹のニュージーランドホワイト(New Zealand White)種ウサギ(30匹/性別)を、無作為に3つの群(10匹のウサギ/性別/群)に割り当てた。群1の動物には、投薬しなかった(即ち、未処置)。群2の動物に、10mg/鼻孔(合計で20mg)のプラセボ(即ち、アジュバント/賦形剤:MPL、キトサン、スクロース、およびマンニトール)を投与した。群3の動物に、10mg/鼻孔(合計で20mg)のNV-VLPワクチン(1つの鼻孔あたり25μgの抗原(合計で50μg)を示す)を投与した。群2および3の動物に対し、試験日(SD)1、22、および43日目に、Bespak Unidose鼻腔内乾燥粉末デバイスを使用する鼻腔内投与によって、投薬を行った。・・・
【0063】
【表1】

・・・
【0066】
ELISAによりNV-VLP特異的IgGについて分析した血清学的サンプルは、単回投薬の10日目に、免疫動物の30%において測定可能な抗NV-VLP力価を示した(図1を参照のこと)。22および43日目の追加処置により、抗体陽転した動物数および産物特異的抗体のレベルの両方が増加し、73日目までに、免疫動物の90%が抗体陽転した。未処置またはマトリックス処置対照のうち、定量化可能なレベルのNV-VLP特異的抗体を有するものは認められなかった(データ示さず)。
【0067】
1、15および29日目に同じ製剤で鼻腔内に免疫を行ったさらなる組のウサギのメモリーB細胞応答を評価することによって、免疫応答をさらに特徴付けた。国際出願第PCT/US07/79929号(その全体が参照により本明細書に援用される)に記載のように、メモリーB細胞応答を測定した。最後の追加処置の156日後に採取した組織では、末梢血液、脾臓、および最も顕著には、腸間膜リンパ節においてNV-VLP-特異的メモリーB細胞の存在が認められた。腸間膜リンパ節の抗原-特異的メモリーB細胞は、IgA陽性であった。さらに、NV-VLP-特異的抗体-分泌長寿命形質細胞が骨髄に存在した。
【0068】
実施例2.ヒトにおけるノーウォーク(Norwalk)ワクチン製剤の用量増加安全性試験
ノロウイルス遺伝子群1ワクチンの安全性および免疫原性に関する二重盲検比較用量増加第1相試験を行った。ワクチンは、鼻腔内投与のために設計された乾燥粉末マトリックス中の凍結乾燥されたノーウォーク(Norwalk)ウイルス様粒子(VLP)からなった。ワクチン被験体は、Hの1型抗原分泌型である健常成人志願者を含んだ。Hの1型抗原分泌型の登録の根拠は、Hの1型抗原分泌型がノーウォーク(Norwalk)ウイルス感染に感受性である一方、非分泌型は耐性であることである。対照として、それぞれの用量レベルの2例のさらなる志願者に、マトリックス単独を投与した。乾燥粉末マトリックスは、25μgのMPL(登録商標)アジュバント、7mgのキトサン、1.5mgのマンニトール、および1.5mgのスクロースを含んだ。志願者に、0および21日目に投薬し、各投薬後の症状について、7日間の日誌を書くように要求した。血清学、抗体分泌細胞(ASC)のための血液、ならびに粘膜抗体評価のための糞便および唾液サンプルを採取した。
【0069】
ノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンの成分を表3に列挙する。ワクチンを鼻腔内送達デバイス内に包装する。単回投与のノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンを、単回用量のBespak(Milton Keynes, UK)UniDose DP乾燥粉末鼻腔内送達デバイスに包装した。各デバイスは、10mgの乾燥粉末ワクチン製剤を送達した。ワクチンの各用量は、2つの送達デバイス(各鼻孔において1つ)よりなった。全ワクチン用量は、20mgの乾燥粉末であった。アジュバント/賦形剤の製剤は、製剤にノーウォーク(Norwalk)VLP抗原が含まれないことを除いて、ノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンと同じである。アジュバント/賦形剤の製剤(乾燥粉末マトリックスとも称される)を、表4にまとめて示す。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
具体的には、ワクチンの用量増加を、次のとおりに行った:健常者の適切なスクリーニング後、3例の志願者の群を無作為に分けて、鼻腔内経路により、5μgのノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンおよび乾燥粉末マトリックス(n=2)または乾燥粉末マトリックス単独(n=1)のいずれかを投与した。これらの3例の志願者を、21日間、安全性について追跡し、それらの安全性データを、独立した安全性監視者(Independent Safety Monitor)(ISM)が検討した。ISMの承認を基に、21日目に、これらの個体に、前回投与したワクチンまたはマトリックスの2回目の投薬を行い、4例のさらなる志願者を無作為に分けて、鼻腔内により、5μgのVLPタンパク質および乾燥粉末マトリックス(n=3)またはマトリックス単独(n=1)のいずれかを投与した。ISMは、この第2の群由来の安全性データを再検討し、ISMの承認を基に、1回目の投薬の21日後に、2回目の鼻腔内投薬を行った。志願者は、各投薬後の症状について7日間の日誌を書いた。ISMが、次のより高い用量への増加が許容可能であることを決定した後、7例の志願者の別の群を無作為に分け、0日目および21日目に、鼻腔内経路により、15μgのVLPタンパク質(n=5)または乾燥粉末マトリックス単独(n=2)を含有するいずれかのノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンを投与した。さらに、7日間の症状日誌に記録を付けさせ、21日目の2回目の投薬前に、ISMが再検討を行った。最後に、最初の2回の投薬コホート由来の安全性データの再検討後、ISMは、用量増加が許容可能であることを決定し、7例の志願者の最終群を無作為に分けて、0日目および21日目に、鼻腔内経路によって、50μgのVLPタンパク質(n=5)または乾燥粉末マトリックス単独(n=2)を含有するいずれかのノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンを投与した。21日目の2回目の投薬前に、7日間の症状日誌および安全性データを、ISMが再度検討を行った。
・・・
【0076】
免疫化の前および7±1、21±2、28±2、56±2、および180±14日目に血液を採取して、酵素免疫測定法(ELISA)により、ノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンに対する血清抗体を測定した。各用量のワクチンまたは乾燥粉末マトリックス単独の投与の前および投与後7日目に、末梢血リンパ球を採取して、ELISPOTアッセイにより抗体分泌細胞を検出した。ワクチン接種前およびワクチン接種後21±2、56±2および180±14日目に、全血を入手して、ノーウォーク(Norwalk)VLP抗原に対する応答におけるサイトカイン産生およびリンパ球増殖を含む細胞性免疫の将来の研究のために、細胞を分離し、凍結した。抗ノーウォーク(Norwalk)VLPsIgAスクリーニングのために、免疫化前および7±1、21±2、28±2、56±2日目、および180±14日目に、全糞便サンプルを採取した。免疫化前および7±1、21±2、28±2、56±2日目に、市販のデバイス(Salivette, Sarstedt, Newton, NC)により、唾液を採取し、56日目に粘膜抗体について陽性であった場合、180±14日目のサンプルを採取し、抗ノーウォーク(Norwalk)V LP sIgAについてスクリーニングした。最後に、最も高い用量のノーウォーク(Norwalk)VLP(50μg、上記の第3のコホート)を投与した志願者由来の血液を、0、21、56および180日目に、メモリーB細胞についてスクリーニングした。
【0077】
以下の方法を使用して、免疫した個体または乾燥粉末マトリックス単独を投与した個体から採取した血液、糞便、および唾液サンプルを分析した:
A.ELISAによる血清抗体測定
精製された組み換えノーウォーク(Norwalk)VLPを標的抗原として使用するELISAによるノーウォークウイルス(Norwalk virus)に対する抗体の測定のために、ワクチン接種前およびワクチン接種後の複数の時点において、20mLの血液を採取して、コード化された標本をスクリーニングした。簡単に説明すると、炭酸コーティング緩衝液pH9.6中ノーウォーク(Norwalk)VLPを使用して、マイクロタイタープレートをコーティングした。コーティングしたプレートを洗浄し、ブロッキングし、2倍連続希釈の試験血清と共にインキュベートし、続いて、洗浄およびヒトIgG、IgM、およびIgAに特異的な酵素-コンジュゲート第二抗体試薬とのインキュベーションを行った。適切な基質溶液を添加し、発色させ、プレートを読み取り、IgG、IgM、およびIgAのエンドポイント力価を、各抗体クラスの参照標準曲線と比較して、決定した。陽性の応答を、ワクチン接種後の力価の4倍上昇として定義した。ワクチン用量のそれぞれについての56日目(2回目の免疫化の35日後)の血清力価を、図2に示す。結果は、IgGおよびIgAについての血清力価の用量依存的増加を示す。IgGおよびIgAの両方について有意な血清力価を、50μgのノロウイルス抗原を含有するワクチンを投与した志願者において観察した。
【0078】
B.抗体分泌細胞アッセイ
ASCアッセイのために、ヘパリン処理血液(コホート1および2について30mL、コホート3について25mL)からPBMCを採取して、ノーウォーク(Norwalk)VLPに対する抗体を分泌する細胞を検出した。ノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンまたは乾燥粉末マトリックス単独の投与後0、7±1、21±2、および28±2日目に、これらのアッセイを実施した。各投薬の各時点における応答率および106個のPBMCあたりのASCの平均数について記載した。陽性の応答を、すべての被験体についてのワクチン接種前の平均計数を超える少なくとも3標準偏差(SD)である106個のPBMCあたりのワクチン接種後のASC計数(対数的測度(log metric))および少なくとも8つのASCスポットとして定義したが、これは、類似のアッセイで決定した培地により刺激された陰性対照のウェル(2つのスポット)+3SDの平均に対応する。
【0079】
50μg用量のノーウォーク(Norwalk)VLPのASCアッセイの結果を、図3に示す。循環IgGおよびIgA抗体を分泌する細胞が、初回および追加ワクチン接種の7日後に観察されたが、これは、ワクチンが免疫原性であることを示唆する。
【0080】
C.機能的抗体応答の測定
上記の段落Bに記載のように採取した機能的抗体応答血清の測定をさらに分析して、抗ノーウォークウイルス(Norwalk virus)抗体の機能的特性を決定した。2倍連続希釈の試験血清を、ノーウォーク(Norwalk)VLP(防御免疫応答を示す機能アッセイ)によって、赤血球の血球凝集を阻害するそれらの能力に関して、分析した。陽性の応答を、ワクチン接種後の力価の4倍上昇として定義した。50μg用量のノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンを投与した5例の被験体について、56日目(追加処置の35日後)における血清力価および血球凝集阻害力価を表6に示す。結果は、血清IgG力価によって測定され抗体陽転応答を示した個体の75パーセント(75%)がまた、血球凝集阻害によって測定されるとヒト赤血球上の結合性受容体を遮断することが可能な機能的抗体応答を呈したことを示す。
【0081】
【表6】


(2)図面

図1


図2


図3


2 決定の予告における取消理由について
(1)理由1(実施可能要件)について
ア 訂正請求項1について
(ア)実施可能要件について
訂正請求項1の記載からみて、本件訂正発明1は、ノロウイルスVLPの生体に対する作用を利用して、ヒトにおいてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するためのワクチンの有効成分とする点に技術的特徴を有する医薬用途発明であると認められる。
一般に、医薬の有効成分となる化学物質の構造や名称のみから生体に対する作用を予測することは困難であるから、医薬用途発明について、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度の記載がされたものであるといえるためには、薬理試験結果または薬理試験と同視し得る程度の記載によって、その発明が、その医薬用途に使用できることが客観的に理解できるように裏付けられている必要がある。

(イ)明細書における試験及び試験結果の記載について
(i)実施例1
明細書の記載を検討すると、実施例1には、10mgの乾燥粉末あたり、25μgの遺伝子群I VLP、25μgのMPL、7mgのキトサングルタミン酸、1.475mgのマンニトール、および1.475mgのスクロースを含有するNV-VLPワクチンを用いたウサギにおけるノロウイルスワクチン製剤のGLP毒性試験が記載されている(【0062】)。実施例1の試験において、10mg/鼻孔のNV-VLPワクチン(1つの鼻孔あたり25μgの抗原(合計で50μg)を示す)を鼻腔内乾燥粉末デバイスを使用して鼻腔内投与を行った群3のウサギでは、NV-VLP特異的IgGが、単回投薬の10日目に、免疫動物の30%において測定可能な抗NV-VLP力価を示し、22および43日目の追加処置により、抗体陽転した動物数および産物特異的抗体のレベルの両方が増加し、73日目までに、免疫動物の90%が抗体陽転したことが記載されている(【0062】?【0066】、図1)。また、1、15および29日目に同じ製剤で鼻腔内に免疫を行ったさらなる組のウサギのメモリーB細胞応答を評価した結果、最後の追加処置の156日後に採取した組織では、末梢血液、脾臓、および最も顕著には、腸間膜リンパ節においてNV-VLP-特異的メモリーB細胞の存在が認められた。腸間膜リンパ節の抗原-特異的メモリーB細胞は、IgA陽性であり、さらに、NV-VLP-特異的抗体-分泌長寿命形質細胞が骨髄に存在したことが記載されている(【0067】)。

(ii)実施例2
明細書の実施例2には、25μgのMPL(登録商標)アジュバント、7mgのキトサン、1.5mgのマンニトール、および1.5mgのスクロースを含む、鼻腔内投与のために設計された乾燥粉末マトリックス中の凍結乾燥されたノーウォーク(Norwalk)ウイルス様粒子(VLP)からなるワクチンを用いたヒトにおけるノーウォーク(Norwalk)ワクチン製剤の用量増加安全性試験が記載されている(【0068】)。実施例2で用いられたキトサンは、送達剤のうち、送達部位における抗原保持時間を増加することを介して免疫応答を増強するように機能する粘膜付着剤であると認められる(【0009】【0035】【0036】【0040】【0041】【0043】)。実施例2には、乾燥粉末鼻腔内送達デバイスで、10mgの乾燥粉末ワクチン製剤を各鼻孔に送達したことが記載され(【0068】【0069】)、乾燥粉末ワクチン製剤は、10mg乾燥粉末あたり2.5、7.5、25、または50μgのノーウォークVLPを含むものであったことが記載されている(【0070】【表3】)。そして、実施例2においては、用量増加が許容可能であることを決定した後に、7例の志願者を無作為に分けて、0日目および21日目に、鼻腔内経路によって、50μgのVLPタンパク質(n=5)または乾燥粉末マトリックス単独(n=2)を含有するいずれかのノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンを投与したことが記載されている(【0072】)。
処置の前後の時点で、免疫した個体または乾燥粉末マトリックス単独を投与した個体から採取した血液、糞便、および唾液サンプルを分析したことが記載され(【0076】【0077】)、以下の結果が記載されている。

A.ELISAによる血清抗体測定
IgG、IgM、およびIgAのエンドポイント力価を、各抗体クラスの参照標準曲線と比較して決定したワクチン用量のそれぞれについての56日目(2回目の免疫化の35日後)の血清力価を図2に示す。結果は、IgGおよびIgAについての血清力価の用量依存的増加を示す。陽性の応答を、ワクチン接種後の力価の4倍上昇として定義し、IgGおよびIgAの両方について有意な血清力価を、50μgのノロウイルス抗原を含有するワクチンを投与した志願者において観察した(【0077】)。

B.抗体分泌細胞アッセイ
50μg用量のノーウォーク(Norwalk)VLPのASCアッセイの結果を図3に示す。循環IgGおよびIgA抗体を分泌する細胞が、初回および追加ワクチン接種の7日後に観察されたが、これは、ワクチンが免疫原性であることを示唆する(【0078】【0079】図3)。

C.機能的抗体応答の測定
50μg用量のノーウォーク(Norwalk)VLPワクチンを投与した5例の被験体について、56日目(追加処置の35日後)における血清力価および血球凝集阻害力価を表6に示す(【0080】【0081】表6)。陽性の応答を、ワクチン接種後の力価の4倍上昇として定義し、結果は、血清IgG力価によって測定され抗体陽転応答を示した個体の75パーセント(75%)がまた、血球凝集阻害によって測定されるとヒト赤血球上の結合性受容体を遮断することが可能な機能的抗体応答を呈したことを示す(【0056】【0080】)。

(ウ)本件訂正発明1のワクチンとしての効果について
(i)実施例の試験結果から効果が推認できる用量の範囲について
上記(イ)のとおり、実施例1の試験において、乾燥粉末ワクチン製剤として50μg用量のノーウォークVLPを投与したウサギでは、NV-VLP特異的IgGの陽転及び末梢血液、脾臓、および最も顕著には、腸間膜リンパ節においてNV-VLP-特異的メモリーB細胞の存在が認められ、腸間膜リンパ節の抗原-特異的メモリーB細胞は、IgA陽性であったことが示されている。また、上記(イ)のとおり、実施例2の試験において、乾燥粉末ワクチン製剤として50μg用量のノーウォークVLPを投与したヒトでは、IgGおよびIgAの両方について有意な血清力価を示し、循環IgGおよびIgA抗体を分泌する細胞が、初回および追加ワクチン接種の7日後に観察されたこと、力価の4倍上昇として定義した血清IgG力価の陽転応答を示した個人の75パーセント(75%)がまた、血球凝集阻害によって測定されるとヒト赤血球上の結合性受容体を遮断することが可能な機能的抗体応答を呈したことが示されている。そうすると、乾燥粉末ワクチン製剤として経鼻投与されたノーウィークVLPによって、単にノーウォークウイルスに対する抗体価が上昇するだけでなく、VLPの機能を阻害する抗体を誘導することができ、NV-VLP-特異的メモリーB細胞の存在によって、抗体産生の能力が長期に付与され、ワクチンとしての効果が得られるものであることが裏付けられていると認められる。
また、実施例2におけるIgGおよびIgA血清力価に関し、陽性の応答を、ワクチン接種後の力価の4倍上昇として定義しているところ(【0077】)、2回目の免疫化の35日後の血清力価を示した図2によれば、50μgの用量における血清力価は、IgAでは4.5倍、IgGでは4.7倍と、いずれも4倍を超える抗体応答をもたらしている。そうすると、実施例2において投与された用量である15μgと50μgのうち、陽性の応答が得られた用量は50μgのみであるとしても、陽性の応答を誘発するために必要な最小用量は、50μgよりも少ないことは明らかである。そして、図2から、IgA及びIgGの両方について、抗体価の上昇倍率と、VLPの用量との間に用量依存性があることが見て取れ、30μgの半分の用量である15μgにおいて、抗体力価がIgA2.5倍、IgGで1.9倍に上昇していることも考慮すると、組成物中にVLPを30μg含む用量で実施例2と同様に投与した場合にも、十分な効果が得られると推認される。

(ii)乙1の試験結果について
令和2年11月30日付けの意見書とともに、筋肉内投与による試験結果が記載された乙1が提出されている。乙1の試験は、遺伝子型IのノロウイルスVLPであるGI.1VLPと、遺伝子型IIのノロウイルスVLPであるGII.4VLPを、それぞれ15μgずつ含む15/15群、GI.1VLP15μg及びGII.4VLP50μgを含む15/50群、GI.1VLP50μg及びGII.4VLP50μgを含む50/50群、GI.1VLP50μg及びGII.4VLP150μgを含む50/150群に分けて、ワクチンを投与したものである。そして、乙1の表には、15/15群、15/50群、50/50群、50/150群のGI.1特異的pan-Ig抗体価倍増が、それぞれ、18.1、19.0、36.5、18.7であったことが示され、また、15/15群、15/50群、50/50群のそれぞれについて、アジュバントを添加しない群、アジュバントとしてMPLを15μg添加した群、MPLを50μg量添加した群についてのpan-Ig抗体価倍増が大きく変わらないことも示されている。
GI.IノロウイルスVLPを15μg含み、ワクチン組成物中に30μgのノロウイルスVLPを含む用量で投与された群である15/15群においても、GI.1特異的pan-Ig抗体価倍増が、18.1であることから、上記(i)における、組成物中にVLPを30μg含む用量で実施例2と同様に投与した場合にも、十分な効果が得られるとの推認は、実際、正しいものであるといえる。
実施例2の試験に用いた製剤は、アジュバントであるMPL(【0030】【0031】)と送達剤であるキトサン(【0035】【0036】)を含むものであるのに対し、乙1に記載の試験で用いた製剤は、キトサン等の送達剤を含まないが、【0043】に「鼻腔内投与を意図する液体製剤は、ノロウイルス遺伝子群抗原、アジュバント、およびキトサンなどの送達剤を含む。筋肉内(i.m.)投与のための液体製剤は、ノロウイルス遺伝子群抗原、アジュバント、および緩衝液を含み、送達剤(例えば、キトサン)を伴わない。」との記載があり、乙1の製剤は、この記載に対応するものと理解できることからも、乙1の試験結果を明細書の記載内容を説明するための資料として参酌することは許されるといえる。
なお、「ノーウォークウイルスワクチンの研究開発」と題する2002年に発行された論文である甲3には、野生株ウイルスを用いた試験において、抗原性の近いNVとMontogomery Country agentの間には、交差免疫がみられるが、抗原性の遠いNVとHVの間にはみられないという成績が得られていることが記載されている。甲3には、この記載に続けて、「しかし、これは野生株ウイルスを用いた志願試験による成績であり、rNVVLPsを用いるとどうなるかはわからないという。なぜならば、同じ胃腸炎ウイルスで多数の血清型があるロタウイルスでは、VLPを用いると広範な交差免疫反応抗体が誘導されるからである。実際、NVでは交差反応性の単クローン抗体が得られている。」(p.1226右欄5行?12行)との記載がある。
そうすると、本件特許出願時において、野生株ウイルスを用いた場合とは異なり、ノーウォークVLPを免疫原とした場合には、交差免疫が得られる蓋然性が高いと考えられていたと認められるから、当業者であれば、本件特許の明細書に記載された実施例の試験は、単一のVLPを用いたものであっても、VLPの合計の用量が同じ場合について、同様に免疫化が可能であると理解するといえる。

(iii)本件訂正発明1が包含する投与経路について
本件訂正発明1のワクチン組成物は、粘膜、鼻腔内、または筋肉内に投与されるものである。

明細書に記載の実施例2では、キトサンを含む製剤が粘膜の一種である鼻腔内へ投与を行っているところ、当該製剤が含むキトサンは、VLPを粘膜に付着させる粘膜付着剤であり、送達部位における抗原保持時間を増加することによって、免疫応答を増強するように機能すると認められる(【0009】【0035】【0036】【0040】【0041】【0043】)。そして、鼻腔と同様の粘膜へ投与する製剤についても、当業者であれば、明細書の記載から、粘膜付着剤を添加するなどの方法により、免疫応答を増強したワクチン組成物とすることを理解するといえる。また、訂正発明1のワクチン組成物は、鼻道内に迅速に被着され(【0011】【0040】)、粘膜付着剤の作用により送達部位における抗原保持時間の増加を介して、免疫応答が増強される鼻粘膜投与製剤や、筋肉注射の製剤のように、直接、迅速にワクチンが組織に送達されるとともに、送達部位における抗原保持時間が確保されるような、免疫応答を増強したワクチン組成物であると認められるから、当業者であれば、明細書の記載から、本件訂正発明1がワクチンとしての効果が得られるものであることを理解する。
よって、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

イ 訂正請求項2?12、14?19について
本件訂正により、訂正前の請求項13は削除された。そして、削除されずに残った訂正後の請求項に係る発明である本件訂正発明2?12、14?19も、粘膜、鼻腔内、または筋肉内のいずれかに投与されるものであるから、上記アのとおり、これらの発明についても、発明の詳細な説明の記載は、当業者がそれら発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(2)理由2(サポート要件)について
訂正後の特許請求の範囲の記載および【0002】?【0007】の記載からみて、本件訂正発明の課題は、ヒトにおいてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するためのノロウイルスVLPに基づくワクチンを提供することであると認められる。
これに対し、上記(1)のとおり、本件訂正発明1?12、14?19は、明細書の記載から、当業者がワクチンとしての効果が得られることを理解するものである。
したがって、本件訂正発明1?12、14?19は、発明の詳細な説明の記載から、本件訂正発明の課題を解決可能であると当業者が認識可能な範囲内のものであるから、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。

3 決定の予告で採用しなかった特許異議の申立ての理由について
(1)理由の概要
異議申立の理由は、本件特許の請求項1、2、18、19の発明は、本件特許 の出願前(優先日前)に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証(以下、単に「甲1」などという。)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、18、19に係る特許は、特許法第29条2項に違反してされたものであるから、取り消されるべきであるという理由を含むものであるが、この理由は、決定の予告では採用しなかった取消理由である。
甲1:特表2009-516529号公報
甲2:J.Gastroenterology,117,40-48,1999

(2)甲1の記載
【請求項1】
a)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド;
b)配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド;および
c)ノロウイルスまたはサポウイルス抗原をコードする配列、およびアジュバントをコードする配列を含む、ポリヌクレオチド
からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、組換え型ポリヌクレオチド。
・・・
【請求項9】
(a)請求項1?7のいずれか1項に記載の組換え型ポリヌクレオチド、および/またはノロウイルスもしくはサポウイルスの2種以上の株に由来する少なくとも2種のポリペプチド;ならびに
(b)薬学的に許容される賦形剤
を含む、組成物。
・・・
【請求項26】
ウイルス様粒子(VLP)もさらに含む、請求項9?25のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
前記ウイルス様粒子がノロウイルスまたはサポウイルスに由来する、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記ウイルス様粒子(VLP)が、ノロウイルスまたはサポウイルスの異なる株に由来する少なくとも2種の抗原を含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
少なくとも1種の抗原が、ノーウォークウイルス(NV)、スノーマウンテンウイルス(SMV)、ハワイウイルス(HV)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるウイルスに由来する、請求項28に記載の組成物。

【0002】
(技術分野)
本発明は、一般的にノロウイルスおよび/またはサポウイルスに対する免疫応答を誘発する組成物に関する。特に、本発明は、ノロウイルスおよび/もしくはサポウイルス抗原をコードする核酸、ならびに/または構造ポリペプチド、非構造ペプチド、およびポリタンパク質を含めた免疫原性ポリペプチド、ならびにそれらの断片、ならびに/またはマルチエピトープ融合タンパク質、および/または1つ以上の遺伝子型および/またはノロウイルスおよびサポウイルスの分離株に由来するウイルス様粒子を含む免疫原性組成物に関する。免疫原性組成物はさらに、ロタウイルスに由来する抗原など、下痢性疾患の原因となる病原体に対する免疫化に使用することのできる抗原を含めた、ノロウイルスまたはサポウイルス抗原以外の抗原を含んでもよい。また、本発明の免疫原性組成物により免疫応答を誘発する方法、ならびにノロウイルスおよび/またはサポウイルス感染症を治療する方法も記載する。

【0007】
(要旨)
本発明は、ノロウイルスおよびサポウイルス抗原を含む免疫原性組成物を提供する。特に、本発明は、1種以上のキャプシドタンパク質もしくはその断片、ならびに/またはノロウイルスおよび/もしくはサポウイルスの1種以上の株に由来する他の免疫原性ウイルスポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0008】
また、ノロウイルスまたはサポウイルスに由来するマルチエピトープ融合抗原またはポリタンパク質融合抗原の産生方法も記載する。免疫原性ポリペプチド、ペプチド、および/またはVLPは、アジュバント(例えば、LT-K63またはLT-R72などの大腸菌熱不安定性毒素(LT)の解毒された突然変異体)と混合されるか共発現されてもよい。本発明のポリヌクレオチドは、免疫化、または免疫原性ウイルスポリペプチドおよびウイルス様粒子(VLP)の産生において使用することができる。免疫原性組成物は、本明細書に記載するような、1種以上のポリヌクレオチド、ポリペプチド、ペプチド、VLP、および/またはアジュバントを含んでもよい。特に好ましいのは、すべての病原性ノロウイルスおよび/またはサポウイルスのすべてまたは成分を含む免疫原性組成物である。さらに、ノロウイルスまたはサポウイルス抗原以外の抗原を、免疫原性組成物(例えば、混合ワクチン)において使用してもよい。例えば、免疫原性組成物は、ロタウイルスに由来する抗原などの下痢性疾患を引き起こす病原体に対する免疫化において使用することのできる、他の抗原を含んでもよい。
【0009】
本発明はまた種々のプロセスも提供する。
【0010】
一実施形態において、本発明は、本発明のポリペプチドを産生するプロセスであって、ポリペプチドの発現を誘導する条件下において本発明の核酸で形質転換される宿主細胞を培養することを含む、プロセスを提供する。一例として、ノロウイルスまたはサポウイルスタンパク質が組換え技術によって発現され、組換え型サブユニットノーウォークまたはノーウォーク関連ワクチンを含む免疫原性組成物を開発するために使用されてもよい。あるいは、酵母細胞内において、またはバキュロウイルス/昆虫細胞の方法またはVEE/SINアルファウイルスの方法を使用して、ウイルス様粒子(VLP)を調製するために、ウイルスキャプシドタンパク質遺伝子が使用されてもよい。

【0347】
F.免疫原性組成物
本発明は、本明細書に開示される、1種以上の免疫原性核酸、ポリペプチド、ポリタンパク質、マルチエピトープ融合タンパク質および/またはVLPを含む組成物をも提供する。異なるペプチド、ポリタンパク質およびマルチエピトープ融合タンパク質が、単一の製剤中で一緒に混合されてもよい。このような組み合わせでは、免疫原性組成物の抗原は、1種以上のポリペプチド、またはマルチエピトープポリペプチド、またはポリタンパク質中に存在してもよい。

【0472】
本発明の免疫原性組成物は、種々の形態で調製することができる。例えば、組成物は、液体または懸濁液のいずれかの注射剤として調製することができる。溶液、または懸濁液に適した固体形態、注射前の液体媒体も調製することができる(例えば、凍結乾燥組成物または噴霧凍結乾燥組成物)。組成物は、局所投与のために、例えば、軟膏、クリームまたは粉末として調製することができる。組成物は、経口投与のために、例えば、錠剤またはカプセルとして、スプレーとして、またはシロップ(風味をつけてもよい)および/または速溶性投与形態として調製することができる。組成物は、経肺投与のために、例えば、微粉末またはスプレーを使用して吸入剤として調製することができる。組成物は、坐薬またはペッサリーとして調製することができる。組成物は、鼻、耳または眼投与、例えば、ドロップとして調製することができる。このような医薬組成物の調製は、一般の当業者の範囲内である。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences,Mack PublishingCompany,Easton,Pa.,18thedition,1990を参照されたい。
【0473】
組成物は、一緒にした組成物が罹患体への投与の直前に再構築されるように、キットの形態であってもよい。このようなキットは、本明細書に開示するような、1種以上のノロウイルスおよび/またはサポウイルス抗原、または液状におけるこのような抗原をコードする核酸、および任意の追加抗原およびアジュバントを含んでもよい。
【0474】
ポリペプチド抗原または核酸分子を含む、本発明の免疫原性組成物は、好ましくはワクチン組成物である。このような組成物のpHは、好ましくは6?8、好ましくは約7である。pHは、緩衝剤の使用により維持することができる。組成物は、無菌および/または発熱物質フリーであり得る。組成物は、ヒトに関して等張性である。本発明のワクチンは、予防的または治療的のいずれかで使用することができるが、通常は予防的であり、動物(ペットおよび実験動物を含む)、特にヒトを治療するために使用することができる。
【0475】
ワクチンとして使用される免疫原性組成物には、免疫学的有効量の抗原および/または抗原をコードする核酸、および必要に応じて任意の他の成分が含まれる。「免疫学的有効量」とは、単一投与またはシリーズの一部としてのいずれかによる個体への投与量が治療または予防に有効であることを意味する。この量は、治療される個体の健康および身体状態、年齢、治療される個体の分類群(例えば、ヒト、非ヒト霊長類など)、抗体を産生する個体の免疫システムの能力、所望の保護の度合い、ワクチンの製剤、医学的状況の治療する医師の評価、および他の関連する因子に依存して変化する。この量が、所定の試験により決定することができる、相対的に広い範囲内に入ることが予想される。

【実施例】
【0525】
実施例1
酵母におけるノーウォークウイルスキャプシドタンパク質の発現
サッカロミセス・セレビシエにおけるノーウォークウイルス(NV)のVLPの産生のための構築物を、ウイルスキャプシドタンパク質をコードする配列を、酵母発現ベクターpBS24.1にクローニングすることによって生成した。pBS24.1ベクターは、全体が参考として本明細書で援用される、1989年7月19に出願された、米国特許出願第382,805号に一般的に詳述されている。pBS24.1ベクターは酵母における自己複製のための2μ配列、選択マーカーとしての酵母遺伝子leu2dおよびURA3を含む。βラクタマーゼ遺伝子、およびプラスミド複製に必要な、複製のColE1オリジンも、この発現ベクター内に存在する。発現の調節は、ハイブリッドADH2/GAPDHプロモーター(米国特許第6,183,985号に開示されている)およびα因子ターミネーターの制御下にある。
【0526】
生成され、NVキャプシドタンパク質の発現のために使用される構築物には、orf2の修飾されたポリヌクレオチド配列を含むNV.orf2(配列番号1)、およびorf2+orf3の修飾されたポリヌクレオチド配列を含むNV.orf2+3(配列番号2)が含まれる。GenBank受入番号M87661に由来するDNA配列に基づく、合成オリゴヌクレオチドを使用して、orf2(主要キャプシド遺伝子)およびorf2+3のコード配列を生成した。発現ベクター内へのNV.orf2およびNV.orf2+3のクローニングを促進するため、orf2およびorf3に多くのサイレント突然変異を導入した(図1)。
・・・
【0536】
実施例2
昆虫細胞内でのノーウォークウイルスキャプシドタンパク質の発現
昆虫細胞系におけるNVキャプシドorf2およびNVキャプシドorf2+3の発現について、PBLUEBAC4.5バキュロウイルス発現ベクター中にクローニングすることのできるNheI/SalI断片を形成するために以下の操作を実施した。最初に、orf2およびorf2+3のHindIII/Sal断片の5’末端を修飾し、HindII制限部位をNheI制限部位と置換した。これは、開始部位にNheI部位を含む63塩基対の合成オリゴ、キャプシドタンパク質の1?21アミノ酸をコードする配列、および末端のKpnI部位を使用して実施した。次いで、それぞれpSP72.NV.orf2#1およびpSP72.NV.orf2+3#16を、KpnIおよびSalIで消化し、次いでゲル電気泳動分離バンドを精製することにより、1534塩基対のKpnI/SalINV.orf2断片、および2235塩基対のKpnI/SalINV.orf2+3断片を分離した。NheI/KpnIオリゴおよびKpnI/SalI断片を、PCET906Aシャトルベクター(MLLabs)に連結した。連結混合物でコンピテントHB101を形質転換し、ルリア-アンピシリンプレートにプレーティングした。ミニプレップ解析、所望のクローンの特定、および配列確認の後、プラスミドpCET906A.TPAL.orf2#21およびpCET906A.TPAL.orf2+3#34を増幅した(図10)。
【0537】
pCET906A.TPAL.orf2#21およびpCET906A.TPAL.orf2+3#34をNheIおよびSalIで消化し、NV.orf2をコードする1602塩基対の断片、およびNV.orf2+3をコードする2303塩基対の断片をそれぞれゲル分離した。orf2およびorf2+3のNheI/SalI断片をPBLUEBAC4.5のNheI/SalI昆虫細胞発現ベクター(Invitrogen)に連結し、プラスミドPBLUEBAC4.5NV.orf2#2およびPBLUEBAC4.5.NV.orf2+3#12を得た(図11)。
【0538】
NV.orf2またはorf2+3をコードする配列を、既述の通り、PBLUEBAC4.5トランスファーベクターを通じて、2μgのトランスファーベクターを0.5μgの直線化した野生型ウイルスでSF9細胞に共トランスフェクトすることにより、オートグラフ・カリフォルニアバキュロウイルス(AcNPV)に組み換えた(Kittsetal.,1991)。組換え型バキュロウイルスをプラーク精製(Smithetal.,1991)によって分離した。血清非含有培地中で2?10の感染の多様性(moi)で、1.5×106個SF9細胞/mLの懸濁培養液を、関連するバキュロウイルスにより感染の48時間後に回収した(Maiorellaetal.,1988)。市販されている。RIDASCREENノロウイルス免疫検定(SciMedxCorporation)を使用して、培地中に組換えタンパク質を検出した(図12)。ショ糖勾配沈降法(Kirnbaueretal.J.Virol.(1993)67:6929-6936)により培地からVLPを精製し、ピーク画分中のVLPの存在を電子顕微鏡で確認した(図13)。
【0539】
実施例3
マルチエピトープ融合タンパク質の産生
ノロウイルスMD145-12(配列番号13)に対して番号付けされた、アミノ酸約1?696を含むNterm-NTPase融合体をコードするポリヌクレオチドをノロウイルスから分離する。この構築物を、ノロウイルスMD145-12に対して番号付けした、ポリタンパク質のアミノ酸約1190?1699をコードするポリメラーゼポリペプチドを含むポリヌクレオチドと融合させる。得られた融合タンパク質が、そのC末端にポリメラーゼにコードされるポリペプチドを含むように、ポリメラーゼオードポリヌクレオチド配列を、構築物のNterm-NTPaseコード部分から下流に融合する。構築物を、プラスミド、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アルファウイルス、および酵母ベクターにクローニングする。さらに、構築物を組換え発現ベクターに挿入し、宿主細胞を形質転換し、Nterm-NTPase-Pol融合タンパク質を産生するために使用する。
・・・
【0549】
実施例11
ノロウイルス抗原およびアジュバントの組み合わせによる免疫
以下の実施例は、マウスモデルにおける、NV、SMVおよびHV抗原の種々の組み合わせを使用した免疫を示す。NV、SMVおよびHV抗原は、本明細書に記載の通り調製し、特徴付ける。CD1マウスを9個の群に分け、以下のように免疫化する。
【0550】


(3)引用発明
甲1の請求項26?29の記載から、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

(引用発明)
ウイルス様粒子(VLP)を含み、ウイルス様粒子(VLP)が、ノーウォークウイルス(NV)、スノーマウンテンウイルス(SMV)、ハワイウイルス(HV)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、異なる株に由来する少なくとも2種の抗原を含む、組成物。

(4)対比・判断
ア 訂正請求項1について
(ア) 本件訂正発明1と引用発明を対比する。
引用発明のノーウォークウイルスは、訂正発明1のノロウイルス遺伝子群Iウイルス株に相当し、引用発明のスノーマウンテンウイルス(SMV)及びハワイウイルス(HV)は、本件訂正発明1のノロウイルス遺伝子群IIウイルス株に相当する(【0474】【0475】)。甲1には、ノロウイルス抗原を含む組成物を、ヒトにおいてノロウイルス感染症に対するワクチンとすることが記載されているから(【0002】、【0007】?【0010】、【0472】?【0475】)、引用発明のワクチンは、本件訂正発明1のヒトにおいてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するためのワクチン組成物に相当する。
したがって、本件訂正発明1と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。

(一致点)
少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群Iウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)抗原および少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群IIウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)抗原を含む、ヒトにおいてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するためのワクチン組成物。

(相違点)
本件訂正発明1は、少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群Iウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)および少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群IIウイルス株からのノロウイルスVLPを含み、ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在し、前記ワクチンが、粘膜、鼻腔内、または筋肉内に投与されるのに対し、引用発明は、少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群Iウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)および少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群IIウイルス株からのノロウイルスVLPを含み、ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在し、前記ワクチンが、粘膜、鼻腔内、または筋肉内に投与されるものであることが特定されていない点。

(イ)上記相違点につき、検討する。
抗原に関し、甲1における、より具体的な記載をみると、甲1には、「(技術分野)/本発明は、一般的にノロウイルスおよび/またはサポウイルスに対する免疫応答を誘発する組成物に関する。特に、本発明は、ノロウイルスおよび/もしくはサポウイルス抗原をコードする核酸、ならびに/または構造ポリペプチド、非構造ペプチド、およびポリタンパク質を含めた免疫原性ポリペプチド、ならびにそれらの断片、ならびに/またはマルチエピトープ融合タンパク質、および/または1つ以上の遺伝子型および/またはノロウイルスおよびサポウイルスの分離株に由来するウイルス様粒子を含む免疫原性組成物に関する。」(【0002】)、「F.免疫原性組成物/ 本発明は、本明細書に開示される、1種以上の免疫原性核酸、ポリペプチド、ポリタンパク質、マルチエピトープ融合タンパク質および/またはVLPを含む組成物をも提供する。異なるペプチド、ポリタンパク質およびマルチエピトープ融合タンパク質が、単一の製剤中で一緒に混合されてもよい。」(【0347】)との記載があり、請求項26及び27を引用する請求項28には、ウイルス様粒子(VLP)を含み、ウイルス様粒子(VLP)が、ノロウイルスまたはサポウイルスの異なる株に由来する少なくとも2種の抗原を含む組成物が記載されている。(注:/は改行を表す。)
その上で、甲1【0550】には、「表3 免疫化計画」として、免疫組成物の組成が記載され、そのうち、群1?4には、「NV、SMV、HV抗原(それぞれ5μg)」を含む組成物であることが記載されている。
しかしながら、甲1の表3に記載の組成物における抗原が具体的にどのような物質であるのかは特定して記載されていない。そして、【0549】に「NV、SMVおよびHV抗原は、本明細書に記載の通り調製し、特徴付ける。」との記載があり、【0347】に、免疫原性組成物の成分として、免疫原性核酸、ポリペプチド、ポリタンパク質、マルチエピトープ融合タンパク質および/またはVLPが挙げられるとともに、実施例1では、サッカロミセス・セレビシエにおけるノーウォークウイルス(NV)のVLPの産生のためノーウォークウイルスキャプシドタンパク質の発現が記載され(【0525】?【0535】)、実施例2には、昆虫細胞内でのノーウォークウイルスキャプシドタンパク質の発現が記載されているものの(【0536】?【0538】)、実施例3には、ノロウイルス由来のタンパク質から構築したマルチエピトープ融合タンパク質である、Nterm-NTPase-Pol融合タンパク質が記載されており(【0539】?【0548】)、甲1には、甲1の表3に記載の組成物における抗原がVLPであることが明らかであるとはいえず、SMVおよびHV抗原については、それらを製造した実施例の記載もない。
また、仮に、甲1【0002】、【0347】、【0525】?【0549】、請求項28における上記記載において、VLPを免疫原性組成物の成分とすることが示唆されているとしても、甲1の表3(【0550】)中、群1?4の組成物中の1投与あたりの抗原の量は、合計15μgであり、本件訂正発明1における抗原の用量である、1投与あたり約30μg?約200μgの用量の範囲外であり、甲1には、抗原の用量を本件訂正発明1における約30μg??約200μgとすることについての記載も示唆もなく、甲1の記載から、引用発明におけるノロウイルス抗原の用量として、上記相違点におけるVLPの用量を導き出すことはできない。
甲2には、経口ノロウイルスVLPワクチンの第1相試験を行った結果が記載されている。甲2には、rNV VLPs(組換えノーウォークウイルスのウイルス様粒子)をヒトに100μg又は250μg投与した結果、副作用が見られなかったこと、血清中のrNV VLPsに反応するIgGが用量依存的に増加したことが記載されている。(p.40左欄 背景及び目的)
しかしながら、甲2には、少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群Iウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)および少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群IIウイルス株からのノロウイルスVLPを組み合わせて、ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在するようにすることに対する示唆を与えるような記載はない。
また、ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在することが、当業者に自明であるような技術常識の存在も見当たらない。
また、甲1及び2のいずれにも、本件訂正発明1における所定の用量でVLP粒子を含むワクチン組成物を粘膜、鼻腔内、または筋肉内に投与することについて、記載も示唆もない。
したがって、相違点に係る構成を備えるものとすることは、甲1及び甲2から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

イ 訂正請求項2、18、19について
本件訂正発明2、18、19は、いずれも、本件訂正発明1をさらに限定した発明であり、本件訂正発明1が甲1及び甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件訂正発明2、18、19も、甲1及び甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。

(5)小括
以上のとおり、訂正発明1、2、18、19は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、取消理由通知で採用しなかった、請求項1、2、18、19に係る特許は特許法第29条第2項に違反してされたものであるから、取り消されるべきであるとの特許異議の申立ての理由は、理由がない。

第6 むすび
上記第2のとおり、本件訂正は適法なものであって、認められるべきものである。
そして、上記第5 2(1)のとおり、発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明について当業者がそれら発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、上記第5 2(2)のとおり、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件訂正発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、特許法第113号第4号によって、取り消されるべきものでない。
また、上記第5 3のとおり、本件訂正発明1、2、18、19は、その他の特許異議の申立ての理由によって取り消すことはできない。
上記第2のとおり、本件訂正により請求項13は削除されたので、特許法第120条の8により準用する同法第135条の規定により、請求項13についての特許異議の申立ては却下すべきものである。
よって、上記結論のとおり、決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群Iウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)および少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群IIウイルス株からのノロウイルスVLPを含む、ヒトにおいてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するためのワクチン組成物であって、前記ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在し、前記ワクチンが、粘膜、鼻腔内、または筋肉内に投与される、ワクチン組成物。
【請求項2】
前記ノロウイルスVLPが一価VLPである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
第1のノロウイルスVLPがノーウォークウイルスVLPであり、第2のノロウイルスVLPがヒューストンウイルスVLPである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
前記ワクチンが送達剤をさらに含む、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
前記ワクチンが粘膜に投与され、前記送達剤が生体付着剤である、請求項4に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
前記生体付着剤が粘膜付着剤である、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記粘膜付着剤が、デルマタン硫酸、コンドロイチン、ペクチン、ムチン、アルギン酸塩、ポリ(アクリル酸)の架橋誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、レクチン、線毛タンパク質、およびカルボキシメチルセルロースからなる群から選択される、請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
前記粘膜付着剤が多糖である、請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
前記多糖が、キトサン、キトサン塩、またはキトサン塩基である、請求項8に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
前記ワクチンがアルミニウム塩をさらに含む、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
前記ワクチンが粉末製剤である、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
前記ワクチンが液体製剤であり、筋肉内に投与される、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群Iウイルス株からのノロウイルスウイルス様粒子(VLP)および少なくとも1つのノロウイルス遺伝子群IIウイルス株からのノロウイルスVLPを含む、ヒトにおいてノロウイルス感染に対する防御免疫を誘発するためのワクチン組成物であって、前記ノロウイルスVLPの少なくとも1つのタイプが、前記組成物中に1投与あたり約15μg?約50μgの用量で存在し、全ノロウイルスVLP抗原が、前記組成物中に1投与あたり約30μg?約200μgの用量で存在し、前記ワクチンが鼻腔内に投与される、ワクチン組成物。
【請求項15】
前記ワクチンが、鼻通路の近くに保持される前記ワクチンを含む1つ以上のデバイスからの鼻道内における迅速な被着によって、鼻粘膜に投与される、請求項14に記載のワクチン組成物。
【請求項16】
前記ワクチンが、一方または両方の鼻孔に投与される、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
前記ノロウイルスVLPが、約0.01%(w/w)?約80%(w/w)の濃度で存在する、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項18】
前記ノロウイルスVLPが、前記組成物中に1投与あたり約100μg以下の用量で存在する、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項19】
前記ワクチンが、ノロウイルス感染の1つ以上の症状に対して防御する、請求項1に記載のワクチン組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-29 
出願番号 特願2016-149168(P2016-149168)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 春田 由香  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 進士 千尋
齋藤 恵
登録日 2019-11-15 
登録番号 特許第6615063号(P6615063)
権利者 タケダ ワクチン,インコーポレイテッド
発明の名称 ノロウイルスに対して防御免疫応答を付与する方法  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  
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