• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1379818
異議申立番号 異議2021-700174  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-18 
確定日 2021-10-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6743162号発明「タイヤ加硫金型」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6743162号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第6743162号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6743162号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)9月28日を国際出願日とする出願であって、令和2年7月31日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年8月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年2月18日に特許異議申立人 福森 加寿子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされ、同年4月19日付けで取消理由が通知され、同年6月18日に特許権者 TOYO TIRE株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月25日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、特許異議申立人からは、意見書の提出はなかったものである。

第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和3年6月18日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「タイヤを加硫成型するタイヤ加硫金型において、タイヤのサイドウォール部を成型するサイド成型面を有する上下一対のサイドモールドを備え、」とあるのを、「タイヤを加硫成型するタイヤ加硫金型において、タイヤのサイドウォール部を成型するサイド成型面を有する上下一対のサイドモールドと上下一対のビードリングとを備え、」に、訂正すると共に、同じく特許請求の範囲の請求項1に、「前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備えるタイヤ加硫金型。」とあるのを、「前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備え、前記凹部のタイヤ径方向内側は、前記ビードリングによって覆われるようになっているタイヤ加硫金型。」に、訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2および3についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)請求項1の訂正について
請求項1の訂正のうち、「タイヤを加硫成型するタイヤ加硫金型において、タイヤのサイドウォール部を成型するサイド成型面を有する上下一対のサイドモールドと上下一対のビードリングとを備え、」との訂正は、「タイヤ加硫金型」を、「上下一対のビードリング」を備えるものに限定するものであり、「前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備え、前記凹部のタイヤ径方向内側は、前記ビードリングによって覆われるようになっているタイヤ加硫金型。」との訂正は、「タイヤ加硫金型」の「凹部のタイヤ径方向内側」を「ビードリングによって覆われる」ものに限定するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項1の訂正は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0017】及び【0028】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(2)請求項2の訂正について
請求項2は請求項1を引用していることから、請求項2についての訂正も、請求項1についての訂正と同様である。

(3)請求項3の訂正について
請求項3は請求項1又は2を引用していることから、請求項3についての訂正も、請求項1又は2についての訂正と同様である。

3 むすび
以上のとおり、請求項1ないし3についての訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、請求項1ないし3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項2ないし3は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし3は一群の請求項に該当するものである。そして、請求項1ないし3についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし3に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という場合がある。)は、令和3年6月18日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
タイヤを加硫成型するタイヤ加硫金型において、
タイヤのサイドウォール部を成型するサイド成型面を有する上下一対のサイドモールドと上下一対のビードリングとを備え、
前記サイドモールドは、サイドモールド本体と、複数のピースと、隙間とを備え、
前記サイドモールド本体は、前記サイド成型面に開口する凹部を周方向に間隔をあけて複数備え、
前記ピースは、前記凹部に嵌まり前記サイドモールド本体とともに前記サイド成型面を形成し、
前記隙間は、前記サイドモールド本体と前記ピースとの間に形成され、前記サイド成型面に開口し、
前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備え、前記凹部のタイヤ径方向内側は、前記ビードリングによって覆われるようになっているタイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記曲面は、曲率半径が1mm以上の円弧からなる円弧面である請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記内側内壁面と前記ピースとの間隔が0.5mm以上、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面と前記ピースとの間隔が0.05mm以下である請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年2月18日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲第2号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由3(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)申立理由4(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(5)申立理由5(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(6)申立理由6(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(7)申立理由7(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、その理由の概略は以下のとおりである。
ア 本件特許発明1では「サイドモールドは、サイドモールド本体と、複数のピースと、隙間とを備え」と特定されており、この「ピース」には、文字や記号を刻印するための替駒やプレート、インサート等が含まれるところ、発明の詳細な説明には、タイヤ周方向に分割された複数のサイドセグメントをサイドモールド本体とピースとで構成する態様が記載されているのみであるから、本件特許発明に係る範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。

イ 本件特許発明1では「外側内壁面及び径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面」と特定されているが、発明の詳細な説明には、「凹部25の外側内壁面25aと径方向内壁面25cとを繋ぐ曲面25d」及び「凹部25の外側内壁面25aや径方向内壁面25cとの接続部分を湾曲面25d‘1で構成し、その間を平面部25d’2で連結してなる曲面25d‘」が記載されているのみであり、「曲面を含む面」は記載も示唆もされていない。

ウ 本件特許発明1では「凹部を周方向に間隔をあけて複数備え」と特定され、この「凹部」が「曲面を含む面とを備える」と特定されているが、この特定では、複数の凹部のうち、一部の凹部が曲面を含む面を備える態様を含んでいるところ、発明の詳細な説明には、ピースが嵌まる全ての凹部が曲面である態様が記載されているのみであるから、本件特許発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。

エ 本件特許発明3では「内側内壁面とピースとの間隔が0.5mm以上、外側内壁面及び径方向内壁面と前記ピースとの間隔が0.05mm以下である」と特定されているが、発明の詳細な説明には、「一定間隔の第4隙間29d」と記載されているのみであり、本件特許発明3の「間隔」が発明の詳細な説明の何に対応するものであるのか不明瞭となり、サポート要件に違反する。

(8)申立理由8(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、その理由の概略は以下のとおりである。
ア 請求項1には「外側内壁面及び径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面」と記載されているが、「なめらかに」は、比較の程度が不明確な表現であり、その結果、「なめらかに接続する」がどのような接続を意図しているのか特定できず、明確ではない。

イ 請求項1に記載の「曲面を含む面」とは、どのような面を特定しようとしているのか、明確ではない。

ウ 発明の詳細な説明では「外側内壁面」が円弧面であるところ、「外側内壁面」と「曲面を含む面」との境界が明確ではなく、また、「径方向内壁面」の形状が特定されていないことから、本件特許発明の「凹部」が、例えば、円筒状の凹部や小判状の凹部を含むのか否か、明確ではない。

(9)証拠方法
甲第1号証:特開2015-51605号公報
甲第2号証:特開2001-179751号公報
甲第3号証:特開2002-326227号公報
甲第4号証:特開平6-64068号公報
甲第5号証:特開平8-132447号公報
甲第6号証:米山猛著,「機械設計の基礎知識 はじめて設計をする人へ」,初版11刷,日刊工業新聞社,2002年4月30日,p.90-95,104-105,138-139
甲第7号証:真柄卓司,外3名,「ワイヤ放電加工における形状精度に関する研究(第2報)-仕上加工における工作物角部(コーナ部)加工精度の向上-」,電気加工学会誌,1992年,Vo1.26,No.52
甲第8号証:登録実用新案第3182945号公報
甲第9号証:畠中徹,「金型とエッジ」,精密工学会誌,1988年,54巻,11号,p.2056-2058
なお、証拠の表記は、特許異議申立書に添付された証拠説明書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由の概要
令和3年4月19日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(甲3に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、上記発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)取消理由2(甲4に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、上記発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)取消理由3(甲1に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、上記発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)取消理由4(甲2に基づく新規性進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、上記発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第5 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(甲3に基づく新規性進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、図面とともにおおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。他の証拠についても同様。
・「【請求項1】タイヤのサイドウォール部を成形するサイドウォール成形面を具えたサイドプレートを有するタイヤ加硫金型であって、
前記サイドプレートは、サイドプレート本体と、このサイドプレート本体に嵌め込まれた嵌め込み片とを含むとともに、
前記サイドウォール成形面を、前記サイドプレート本体がなす主面と、前記嵌め込み片がなす補助面とを含んで形成し、しかもサイドプレート本体と前記嵌め込み片との間に空気が通過可能な微小隙間を有することを特徴とするタイヤ加硫金型。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、タイヤ加硫中における空気の排出性を高めサイドウォール部の成形不良を減じるのに役立つタイヤ加硫金型、タイヤの製造方法及びタイヤに関する。」
・「【0004】本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、タイヤの外観を損ねることなく加硫中における空気の排出性を高め、サイドウォール部の成形不良を減じるのに役立つタイヤ加硫金型、タイヤの製造方法及びタイヤを提供することを目的としている。」
・「【0012】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。図1は本実施形態のタイヤ加硫金型1の断面図、図2はその部分拡大図、図3はその要部斜視図をそれぞれ示している。図においてタイヤ加硫金型1は、一対のサイドプレート2、2と、そのタイヤ半径方向外側に配されたトレッド成形リング3と、前記サイドプレート2のタイヤ半径方向内側に配されたビード成形リング6とを具えるものを例示している。
【0013】前記トレッド成形リング3は、例えばタイヤ周方向に分割された複数個のセグメント3aを連結することにより環状に形成されるものである。またトレッド成形リング3は、少なくともタイヤTのトレッド部Dを成形しうるトレッド成形面7を具え、タイヤTに所望のトレッドパターンを付与しうる。トレッド成形リング3を構成する各セグメント3aは、図示しない移動機構によってタイヤ半径方向内外に移動できる。
…(中略)…
【0015】またサイドプレート2は、そのタイヤ軸方向内側面にタイヤTのサイドウォール部Sを成形するサイドウォール成形面4を具える。さらにサイドプレート2は、本例ではタイヤ半径方向外端側が前記トレッド成形リング3に連なりかつタイヤ半径方向内端側がタイヤTのビード部Bを保持成形するビード成形リング6に連なるサイドプレート本体2aと、このサイドプレート本体2aに嵌め込まれた1以上の嵌め込み片2bとからなるものを例示している。これらは適宜の金属材料で形成され、本実施形態ではとも鉄を主体とした同一の金属材料によって形成されたものを示すが、特に限定はされない。
【0016】前記嵌め込み片2bは、図2、図3に示すように、前記サイドプレート本体2aに形成した孔部11に例えばサイドウォール成形面4側から挿入されることにより嵌着されている。なお嵌め込み片2bは、前記孔部11から取り外しすることができる。
【0017】前記孔部11は、本例ではサイドプレート本体2aをタイヤ軸方向内、外に貫通するとともに嵌め込み片2bの外周面12と当接しうる内周面13を具えた透孔として形成されたものを示す。また孔部11は、図2に略示する如く、前記内周面13のうち、サイドウォール成形面4に対する法線Nに対して小角度θでかつ孔部11の開口面積を減じる向きに傾く少なくとも一つの狭持面14を具える。また嵌め込み片2bには、この狭持面14に沿う嵌着面15を具え、該嵌め込み片2bをサイドウォール成形面側から孔部11に挿入していくことにより、孔部11の内周面13と嵌め込み片2bの外周面12と互い強く接触させ締まり嵌めしうる。なお前記小角度θは、特に限定されないが、好ましくは0°以上かつ3°以下とすることが望ましい。また孔部11の構成は、上記態様に限定されるものではなく、嵌め込み片2bを嵌め込みうるものであれば種々の態様を採用しうる。例えば図8に示すように、孔部11の内周面13をサイドウォール成形面4に対して直角に形成する一方、嵌め込み片2bの外周面12は、前記内周面13と嵌合する小長さの平坦面23と、内周面13から離間する向きに傾く傾斜面24とで構成しても良い。この例では平坦面23の長さは0.5mm程度としている。また小角度θは、前記範囲と同程度としている。
【0018】前記サイドウォール成形面4は、前記サイドプレート本体2aのタイヤ軸方向内側面なす主面4aと、前記嵌め込み片2bのタイヤ軸方向内側面がなす補助面4bとを含んで形成される。またサイドプレート本体2aと前記嵌め込み片2bとの間には、空気が通過可能な微小隙間10が形成されている。本実施形態の微小隙間10は、サイドプレート本体2aの孔部11と嵌め込み片2bとの間に凹溝等の積極的な機械加工を施してはおらず、サイドプレート本体2aの孔部11に嵌め込み片11を密に嵌め込むような場合でも不可避的に生じる両者間の物理的な微小間隙を利用している。
【0019】このような微小隙間は、加硫中において、タイヤT(ないし生カバーL)とサイドウォール成形面4との間の空気を金型外部に排気できかつ該微小隙間10内への多量のゴムの浸入を防止できる。従って、このような嵌め込み片2bをサイドプレート本体2aの適所の位置(例えば、タイヤ周方向及び/又はタイヤ半径方向に間隔を隔てた位置)、さらには空気が溜まりやすい位置に設けることにより、スピューをサイドウォール部Sに形成することなし、或いはスピューの本数を減じつつ、サイドウォール部Sで空気の排気を可能としうる。これによりタイヤTのサイドウォール部Sにおけるベア等の成形不良を防止しうる。
【0020】前記微小隙間10は、特に限定はされないが、その間隙が例えば0μmよりも大かつ100μm以下、さらに好ましくは5?10μmであるのが望ましい。前記間隙が100μmを超えると、空気の排気効率は向上するものの該隙間に多量のゴムが浸入し易くなり、成形後のタイヤTに目立つバリが形成される傾向がある。逆に前記微小隙間10の間隙が5μm未満であると、空気が通過する際の抵抗が大きく十分な排気をなし得ない傾向がある。
【0021】このような微小隙間10は、前記嵌め込み片2bの周囲に沿って連続して形成されるのが望ましく、これによって、より広範囲の位置から効率良く空気の排出を可能としうる。また例えば孔部11の内周面13又は/及び嵌め込み片2bの外周面12の表面粗さを、主面4a及び補助面4bよりも大とすることによって、両者の境界面により複雑な経路で微小隙間10を形成することもできる。なお孔部11には、例えば真空ポンプ等を連係させることにより、前記微小隙間10からの強制的に吸気を行うことも好ましく実施しうる。
【0022】また、サイドウォール成形面4において、前記主面4aと補助面4bとは、実質的に連続して同一平面ないし曲面を形成することもできるが、より好ましくは図2、図に示す本実施形態のように、前記嵌め込み片2bがなす補助面4bを、主面4aに対して小深さdで凹ませることが望ましい。タイヤTのサイドウォール部Sには、図4に示すように、タイヤブランド名、製造メーカ名等が加硫成形によって凸模様15として形成される。このような凸模様15は、サイドウォール成形面4に凹部を彫刻することで加硫成形される。しかし、サイドウォール成形面4に彫刻された凹部には空気が溜まりやすく、特にその表面積が大になるほど、この傾向が顕著に現れる。
…(中略)…
【0028】上述のように、本実施形態のタイヤ加硫金型を用いてタイヤを加硫成形することにより、タイヤTのサイドウォール部Sを精度良く成形できる。特に近年では軽量化を図るべくサイドウォール部Sのサイドウォールゴムの厚さが小のタイヤ、より好ましくはサイドウォールゴムの厚さtが1.0?2.0mm程度に設定されたものがあるが、このようなタイヤTはサイドウォール部でのゴムの流れが少なくベアに対しては一般的に不利となる。このようなタイヤに対して本発明を採用することにより、薄いサイドウォールゴムを有するタイヤでも成形不良を減じて成形できる。
【0029】また補助面4bを主面4aから凹ませたときには、この補助面4bを利用してサイドウォール部Sにベタ模様などを精度良く成形するのに好適である。また上述のようなサイドウォール成形面4を採用するときには、該サイドウォール成形面4からベントホールを無くすことや、或いはベントホールの数を減じることが可能となるため、サイドウォール部Sへのスピューの本数を従来に比して減じることが可能である。
【0030】以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、嵌め込み片2bは、例えば表面に凹凸を形成することによって、中抜き部分を有する文字(例えば「R」、「O」など)についてもベタ模様15A又は袋文字模様15Bなどで精度良く成形できる。また嵌め込み片2bは、2重以上の入れ子式として形成することもでき、これによってより複雑な形状の模様、文字等を成形するのに役立つ。
また、本発明のタイヤ加硫金型1は、サイドプレート2以外の構成については、例示の実施形態に限定されることなく種々変形が可能であるのは言うまでもない。」
・「【図1】


・「【図3】


・「【図4】


・「【図8】



イ 甲3発明
甲3の図4からは、凸模様15が周方向に間隔をあけて複数備えられていることが看取できるから、当該凸模様15に対応する孔部11も周方向に間隔をあけて複数備えられていることは明らかである。
甲3の図3からは、孔部11が、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面とを備えていることが看取できる。
これらの点を踏まえつつ、甲3に記載された事項を、特に発明の実施の形態に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

<甲3発明>
「タイヤTを加硫成形するタイヤ加硫金型1において、
タイヤTのサイドウォール部Sを成形するサイドウォール成形面4を有する一対のサイドプレート2と一対のビード成形リング6とを備え、
前記サイドプレート2は、サイドプレート本体2aと、複数の嵌め込み片2bと、微小隙間10とを備え、
前記サイドプレート本体2aは、前記サイドウォール成形面4に開口する孔部11を周方向に間隔をあけて複数備え、
前記嵌め込み片2bは、前記孔部11に嵌まり前記サイドプレート本体2aとともに前記サイドウォール成形面4を形成し、
前記微小隙間10は、前記サイドプレート本体2aと前記嵌め込み片2bとの間に形成され、前記サイドウォール成形面4に開口し、
前記孔部11は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面とを備えるタイヤ加硫金型1。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「加硫成形」は、本件特許発明1における「加硫成型」に相当し、以下同様に、「サイドウォール成形面4」は「サイド成型面」に、「サイドプレート2」は「サイドモールド」に、「ビード成形リング6」は「ビードリング」に、「サイドプレート本体2a」は「サイドモールド本体」に、「嵌め込み片2b」は「ピース」に、「微小隙間10」は「隙間」に、それぞれ相当する。
当業者が甲3の図3をみれば、甲3発明における「一対のサイドプレート2」、「一対のビード成形リング6」は、それぞれ、本件特許発明1における「上下一対のサイドモールド」、「上下一対のビードリング」に相当するといえる。
甲3発明における「孔部11」は、「サイドウォール成形面4に開口」するものであり、甲3の図8に示されている凹部を形成する構造のものでも良いことが記載(甲3の段落【0017】)されていることから、本件特許発明1における「凹部」に相当するといえる。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「タイヤを加硫成型するタイヤ加硫金型において、
タイヤのサイドウォール部を成型するサイド成型面を有する上下一対のサイドモールドと上下一対のビードリングとを備え、
前記サイドモールドは、サイドモールド本体と、複数のピースと、隙間とを備え、
前記サイドモールド本体は、前記サイド成型面に開口する凹部を周方向に間隔をあけて複数備え、
前記ピースは、前記凹部に嵌まり前記サイドモールド本体とともに前記サイド成型面を形成し、
前記隙間は、前記サイドモールド本体と前記ピースとの間に形成され、前記サイド成型面に開口し、
前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面とを備えるタイヤ加硫金型。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
外側内壁面と径方向内壁面を接続する部分に関して、本件特許発明1は、「外側内壁面及び径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面」を備えていると特定するのに対し、甲3発明は、そのような面を備えているのか否か不明である点。
<相違点3-2>
サイドモールド本体のサイド成型面に開口する凹部に関して、本件特許発明1は、「凹部のタイヤ径方向内側」が「ビードリングによって覆われる」と特定するのに対し、甲3発明の「孔部11」は、「ビード成形リング6」によって覆われていない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点3-2について検討する。
<相違点3-2について>
相違点3-2は、実質的な相違点である。
そして、甲3の段落【0022】によると、甲3発明の「タイヤ加硫金型1」の「孔部11」は、タイヤにタイヤブランド名、製造メーカ名等の文字を付けるために設けられているものであるから、その部分をあえて、「ビード成形リング6」で覆う構成とする動機付けはない。
また、他の証拠にも、上記構成とする動機付けとなる記載はない。
さらに、本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0040】及び【0047】に記載されているように、ビードリングで覆われる隙間の幅を大きく設定することができるため、凹部内でピースの位置を調整する際の調整代とすることができるという当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲3発明において、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

(ウ)まとめ
よって、相違点3-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有した上でさらに限定を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由1によっては取り消すことはできない。

2 取消理由2(甲4に基づく新規性進歩性)について
(1)甲4に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、図面とともにおおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 タイヤのサイドウオールの外側表面を成形するための少なくとも1つのシェル (1)を有し、このシェル (1)がサイドウオール上に成形される任意輪郭のマークのネガを備えているタイヤ用金型において、シェル (1)は少なくとも1つのマークのための孔 (3)を有し、この孔 (3)のシェル (1)の成形面側の形は上記マークの輪郭に正確に一致しており、この孔 (3)は嵌め込み部品(4, 6, 70)が挿入されて塞がれ、この嵌め込み部品(4, 6, 70)とシェル (1)との間の隙間は金型の外部と連通して確実にガス抜きできることを特徴とする金型。」
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はタイヤの成形金型に関するものであり、特に、タイヤ側面(サイドウオール)にマークを付ける金型に関するものである。」
・「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、タイヤ成形金型のシェル上で転写成形によってマークを簡単に付けることができるようにするために、タイヤのサイドウオールに大きな凹凸のマークを形成する際に生じるガス抜きの問題を、金型のシェルにガス抜き孔を形成せずに、全て解決することにある。本発明の他の目的は、タイヤ側面とこの側面上に成形されたマークとのコントラスト効果をより容易に得ることができるようにすることにある。本発明のさらに他の目的は、文字、数字、さらにはロゴやその他の識別サイン等のマーク入れに適した解決法を提供することにある。」
・「【0007】
【実施例】図1は本発明の金型の放射方向断面図である。この図にはシェル1と円錐形タガ20によって閉位置に保持されたセクター2とが見える。シェル1にはマークの輪郭の正確な像に合わせて作られた孔3が形成されている。図示した例ではマークは文字であり、マークだけを取り出して示した時の形は図2に示してある。
【0008】図3?図6から分かるように、シェル1の背面には、放射方向断面で見た場合に、シェルの内側輪郭表面の接線(この接線はシェル1の孔3が形成された区域の平均的な傾斜に対応するように選択される)に対して平行な平らな支持面10が形成されている。なお、シェル1のゴムの成形を行う面(この面は前面または内側表面とよぶ)と反対側の面をシェル1の背面または外側表面とよぶ。この構造から、シェル1の厚さは孔3が形成されている全区域でほぼ一定であり、嵌め込み部品の設計と挿入は容易である。シェル1が取付けられている支持部材7の形状はシェル1の背面に対応している。支持部材7は、シェル1に形成された平らな支持面10に対応する平らな支持面70を有している。シェル1はネジ12によって支持部材7上に固定される。形成すべきマークの正確な形を有する孔3は当業者には公知の種々の方法、例えば、放電加工、ワイヤ放電加工、切断工具による切除、レーザカッティング、さらには高圧水の噴出による切除等で形成することができる。
【0009】図3?5は、本発明による取外し可能な部品の3つの実施例を示している。取外し可能な部品は、形成すべきマークの正確な形を有するインサート(挿入物)4である。このインサート4は孔3の中で摺動可能な状態で取付けられており、インサート4の摺動をブロックする手段(場合によっては、1方向のみの摺動をブロックする手段)を設けることもできる。このインサート4とシェル1との相対位置に応じて、成形時によって浮き出しマーク(図3参照)か、凹んだマーク(図4参照)か付けられる。シェル1に対するインサート4の侵入深さまたは突出高さの調節は極めて簡単であり、インサート4の所望の深さまたは高さに応じてシム5を入れるだけでよい。インサート4はタイヤ成形圧力の作用でシェル1に対して後退する傾向があるが、その摺動はシム5によって阻止される。
…(中略)…
【0013】こうして作られたインサート4の厚さは孔3の位置でシェル1の厚さに正確に一致している。タイヤ上で浮き出たマークにする場合には、シェル1の表面に対してインサート4を対応する深さだけ孔3の中に押し込む必要がある。そのために、孔3の位置に対向した支持部材7の表面70に溝71が形成されている。この溝71はインサート4を孔3の中に押し込むのに十分な深さにする。これによってインサート4はシェル1の表面から下がった位置を取ることができる。
【0014】インサート4とシェル1との間およびシェル1と支持部材7との間には隙間が常に存在するので、タイヤ成形時に閉じ込められた空気はこの隙間を通って外部に向かうことができる。従って、タイヤ上に目に見える跡を全く残さないで金型のガス抜きをすることができる。インサート4とシェル1との間の隙間が十分に小さければ(通常、0.05 mm 以下) 、ゴムがインサート4とシェル1との間に流入すること無しに、空気をこの隙間から逃がすことができる。この隙間がこの値よりわずかに大きくなると、少量のゴムがインサート4とシェル1との間に流入して、小さな成形バリができることがある。しかし、この成形バリはマークの境界に対応する部分に正確に局在化しているので、ほとんど目立たない。従って、成形されたタイヤの審美的な観点が悪くなることはない。当然ながら、シェル1と支持部材7との間に空気が金型の外部に向かって確実に流れるようにする溝を形成して、空気を外部に導くのが好ましい。
…(中略)…
【0016】また、A、B、D、O等の文字や閉じた輪郭を有するその他の文字や記号の場合には、輪郭と輪郭によって囲まれた閉じた面との間、例えば文字Oの外側輪郭とその内部との間に高さの差ができるようにインサートを加工または成形しなければならない。タイヤ側面で文字が (マークの輪郭によって囲まれた凹凸の深さに応じて) 凹んで形成される場合には、シェルの表面とほぼ平行な横方向の小さいガス抜き孔を形成してガス抜きを行ってマークの輪郭の内側から外側へ空気を導くことが望ましい。あるいは、閉じた表面に本発明を適用して、いわゆる文字の閉じた表面を切り離すこともできる。」
・「【図1】


・「【図2】



イ 甲4発明
甲4の図2からは、孔3が周方向に間隔をあけて複数備えられていること、及び孔3が、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面とを備えていることが看取できる。
この点を踏まえつつ、甲4に記載された事項を、特に実施例に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

<甲4発明>
「タイヤを成形するタイヤ成形金型において、
タイヤのサイドウオールを成形する内側表面を有する上下一対のシェル1を備え、
前記シェル1は、インサート4と、隙間とを備え、
前記シェル1は、前記内側表面に開口する孔3を周方向に間隔をあけて複数備え、
前記インサート4は、前記孔3に嵌まり前記シェル1とともに前記内側表面を形成し、
前記隙間は、前記シェル1と前記インサート4との間に形成され、前記内側表面に開口し、
前記孔3は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面とを備えるタイヤ成形金型。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
タイヤは加硫により製造されることが技術常識であることから、甲4発明における「成形」は、本件特許発明1における「加硫成型」に相当する。
甲4発明における「サイドウオール」は、本件特許発明1における「サイドウォール部」に相当し、以下同様に、「内側表面」は「サイド成型面」に、「シェル1」は「サイドモールド」に、「インサート4」は「ピース」に、それぞれ相当する。
甲4発明における「タイヤ成形金型」は、タイヤを成形するものであるから、当然「上下一対のビードリング」を備えるものである。
甲4発明における「シェル1」の「孔3」以外の部分は、本件特許発明1における「サイドモールド本体」に相当する。
甲4発明における「孔3」は、「内側表面に開口」するものであるし、また、甲4の図1を参酌すれば「孔3」が支持部材7で覆われていることから、本件特許発明1における「凹部」に相当するといえる。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「タイヤを加硫成型するタイヤ加硫金型において、
タイヤのサイドウォール部を成型するサイド成型面を有する上下一対のサイドモールドと上下一対のビードリングとを備え、
前記サイドモールドは、サイドモールド本体と、複数のピースと、隙間とを備え、
前記サイドモールド本体は、前記サイド成型面に開口する凹部を周方向に間隔をあけて複数備え、
前記ピースは、前記凹部に嵌まり前記サイドモールド本体とともに前記サイド成型面を形成し、
前記隙間は、前記サイドモールド本体と前記ピースとの間に形成され、前記サイド成型面に開口し、
前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面とを備えるタイヤ加硫金型。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-1>
外側内壁面と径方向内壁面を接続する部分に関して、本件特許発明1は、「外側内壁面及び径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面」を備えていると特定するのに対し、甲4発明は、そのような面を備えているのか否か不明である点。
<相違点4-2>
サイドモールド本体のサイド成型面に開口する凹部に関して、本件特許発明1は、「凹部のタイヤ径方向内側」が「ビードリングによって覆われる」と特定するのに対し、甲4発明は、そのような特定がない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点4-2について検討する。
<相違点4-2について>
相違点4-2は実質的な相違点である。
そして、甲4の段落【0004】及び【0007】ないし【0009】によると、甲4発明の「孔3」は、タイヤに文字、数字、ロゴやその他の識別サイン等のマークを付けるために設けられているものであるから、その部分をあえて、ビードリングで覆う構成とする動機付けはない。
また、他の証拠にも、上記構成とする動機付けとなる記載はない。
さらに、本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0040】及び【0047】に記載されているように、ビードリングで覆われる隙間の幅を大きく設定することができるため、凹部内でピースの位置を調整する際の調整代とすることができるという当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲4発明において、相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

(ウ)まとめ
よって、相違点4-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4発明であるとはいえないし、また、甲4発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有した上でさらに限定を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4発明であるとはいえないし、また、甲4発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由2によっては取り消すことはできない。

3 取消理由3(甲1に基づく新規性進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、図面とともにおおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
タイヤ加硫金型のタイヤ成型面に着脱可能に装着され、タイヤの外表面に識別表示を形成するための表示刻印プレートであって、
前記識別表示を形成するための表示形成部が設けられた表示形成面を備え、
前記表示形成部に対して正対するように前記表示形成面を見て、タイヤ周方向の中央を通りタイヤ径方向に延びる第1基準線またはタイヤ径方向の中央を通りタイヤ周方向に延びる第2基準線に対して非対称な形状を表することを特徴とする表示刻印プレート。」
・「【0001】
本発明は、タイヤ成型時に識別表示を形成するための表示刻印プレート、この表示刻印プレートを用いたタイヤ加硫金型、および、このタイヤ加硫金型を用いて成型したタイヤに関する。」
・「【0006】
本発明は、タイヤ加硫金型に表示刻印プレートが誤った姿勢で装着されるのを防止することを課題とする。」
・「【0022】
図1に概念的に示すように、タイヤのサイドウォール部には、製造番号および製造年月日を含む識別表示が形成されている。識別表示は、工場コード、サイズコード、設計コード、週セリアルおよび年セリアルを有する。そのうち、週セリアルは1週間毎に変更され、年セリアルは1年毎に変更される。なお、図面に記載した週セリアルの「02」は年の第2週目であることを示し、年セリアルの「13」は2013年であることを示す。
【0023】
(第1実施形態)
図2および図3は、本発明の第1実施形態に係る表示刻印プレート25を用いたタイヤ加硫金型(以下「金型」と略する。)10を示す。この金型10は、空気入りタイヤ(タイヤ)40のサイドウォール部42の外表面を形成するサイド型部12Bに、識別表示44の一部を形成するための表示刻印プレート25(25A,25B)が着脱可能に配設される。
【0024】
図2に示すように、金型10は、図5に示す空気入りタイヤ40において、トレッド部41が当接するトレッド型部11と、サイドウォール部42が当接する一対のサイド型部12A,12Bと、ビード部43を嵌合保持するビードリング部13とを備える。トレッド型部11は、周方向に所定間隔をもって複数個に分割して成形され、これらを連結することにより円環状に形成される。これらを型締めすることにより、内部に空気入りタイヤ40の外表面を成型する連続したタイヤ成型面14が形成される。
【0025】
トレッド型部11のタイヤ成型面14aには、所定パターンの溝部を成型するための図示しない骨部(凸部)と、陸部を成型するための凹部が設けられている。サイド型部12A,12Bのタイヤ成型面14bには、製造メーカのロゴを形成するためのロゴ刻印部(図示せず)と、製品の識別表示44を形成するための識別表示刻印部15とが設けられている。ロゴ刻印部は、タイヤ成型面14bに凹部を設けることで構成される。識別表示刻印部15は、ビードリング部13の近傍に位置するように、タイヤ成型面14bに凹部または凸部を設けることで構成される。
【0026】
図3に示すように、識別表示刻印部15は、実質的に表示内容を変更する必要がない不変部16と、表示内容の変更頻度が低い第1可変部18Aと、表示内容の変更頻度が高い第2可変部18Bとを備える。不変部16は、図1における工場コードおよびサイズコードに対応する。第1可変部18Aは、トレッドパターンの設計変更等により変更される設計コードに対応する。第2可変部18Bは、定期的に変更される週セリアルおよび年セリアルに対応する。不変部16には、設定された英数文字(反転文字)に応じた文字溝17が刻設されている。第1および第2可変部18A,18Bには、第1の表示刻印プレート25Aに対応する形状の第1のプレート配設凹部19Aと、第2の表示刻印プレート25Bに対応する形状の第2のプレート配設凹部19Bとが設けられている。
【0027】
図2に示すように、表示刻印プレート(セリアルプレート)25A,25Bは、プレート配設凹部19A,19Bの深さより薄い肉厚の金属プレートである。この表示刻印プレート25A,25Bの表面(表示形成面)25aには、設定された英数文字(反転文字)に応じた文字突起(表示形成部)26A,26Bが刻設(浮き彫り)されている。この文字突起26A,26Bの突出部分を含めた表示刻印プレート25A,25Bの肉厚が、プレート配設凹部19A,19Bの深さと実質的同一に設定される。表示刻印プレート25A,25Bの外周部には、プレート配設凹部19A,19Bへの装着作業性を向上するために、文字突起26A,26Bを形成した表面25aから逆側の裏面25bへ向けて内向きに傾斜したテーパ状の側面27A,27Bが形成されている。なお、側面27A,27Bは、テーパ状とする構成に限らず、表面25aおよび裏面25bに対して直交方向に延びるように表示刻印プレート25A,25Bをプレス成形してもよい。
…(中略)…
【0031】
表示刻印プレート25A,25Bの表面25aの左縁30A,30Bは、直線部31A,31Bと、左上隅縁(第1角縁部)32A,32Bと、左下隅縁(第2角縁部)33A,33Bとを備える。また、表示刻印プレート25A,25Bの表面25aの右縁34A,34Bは、直線部35A,35Bと、右上隅縁(第3角縁部)36A,36Bと、右下隅縁(第4角縁部)37A,37Bとを備える。
【0032】
直線部31A,31B,35A,35Bは、上縁28A,28Bおよび下縁29A,29Bの曲率中心からタイヤ径方向に延びる。また、直線部31A,35Aと直線部31B,35Bは、第1基準線L1に対して線対称である。左上隅縁32A,32Bは、直線部31A,31Bの上端に連続するとともに、上縁28A,28Bの左端に連続する所定曲率の円弧状である。左下隅縁33A,33Bは、直線部31A,31Bの下端に連続するとともに、下縁29A,29Bの左端に連続する所定曲率の円弧状である。右上隅縁36A,36Bは、直線部35A,35Bの上端に連続するとともに、上縁28A,28Bの右端に連続する所定曲率の円弧状である。右下隅縁37A,37Bは、直線部35A,35Bの下端に連続するとともに、下縁29A,29Bの右端に連続する所定曲率の円弧状である。言い換えれば、各隅縁は、隣接する縁の角部を丸面取りした構成である。
【0033】
表示刻印プレート25Aは、左上隅縁32Aと左下隅縁33Aの曲率を同一とし、右上隅縁36Aと右下隅縁37Aの曲率を同一とする一方、左隅縁32A,33Aと右隅縁36A,37Aの曲率を異ならせている。同様に、表示刻印プレート25Bは、左上隅縁32Bと左下隅縁33Bの曲率を同一とし、右上隅縁36Bと右下隅縁37Bの曲率を同一とする一方、左隅縁32B,33Bと右隅縁36B,37Bの曲率を異ならせている。具体的には、表示刻印プレート25Aの左上隅縁32Aおよび左下隅縁33Aと表示刻印プレート25Bの右上隅縁36Bおよび右下隅縁37Bとを同一曲率R1とし、表示刻印プレート25Aの右上隅縁36Aおよび右下隅縁37Aと表示刻印プレート25Bの左上隅縁32Bおよび左下隅縁33Bとを同一曲率R2としている。そして、曲率R1は、曲率R2より小さくしている。これらの曲率半径の差は、表示刻印プレート25A,25Bの径方向の高さが5mmから15mmの場合、1.0mm以上が好ましく、2.0mm以上とすることがより好ましい。これは、曲率半径の差が1.0mm未満の場合には、異なる曲率の隅縁であっても無理入れすることで装着できるためである。
【0034】
これら表示刻印プレート25A,25Bを装着するプレート配設凹部19A,19Bは、文字突起26A,26Bに対して正対するように表面25aを見た状態で、上縁28A,28Bに対応する形状の上壁面20A,20Bと、下縁29A,29Bに対応する形状の下壁面21A,21Bと、左縁30A,30Bに対応する形状の左壁面22A,22Bと、右縁34A,34Bに対応する形状の右壁面23A,23Bと、これらの端部を閉塞する底壁面24A,24Bとを備える。
【0035】
表示刻印プレート25A,25Bを用いた金型10によって空気入りタイヤ40を成型する場合には、まず、図示しない開閉機構によって金型10を型開きする。そして、サイド型部12Bのプレート配設凹部19A,19Bに対応する表示刻印プレート25A,25Bを装着する。
…(中略)…
【0038】
表示刻印プレート25A,25Bを装着すると、型開きした金型10の内部に未加硫のグリーンタイヤ(生タイヤ)をタイヤ軸方向が上下になるようにセットして型締めする。その後、グリーンタイヤの内部からゴムバッグを膨張させ、加熱手段(図示せず)によってグリーンタイヤを拡張変形させる。これにより、グリーンタイヤにおいて、外周部がトレッド型部11のタイヤ成型面14aに押し当てられ、両側部がサイド型部12A,12Bのタイヤ成型面14bに押し当てられ、加硫される。
【0039】
図5に示すように、成型された空気入りタイヤ40には、外周部にトレッド型部11のタイヤ成型面14aの凹凸形状に対応したトレッドパターンからなるトレッド部41が形成される。また、両側部にサイド型部12A,12Bのタイヤ成型面14bに押し当てられ、刻印部の凹凸形状に対応したロゴおよび識別表示44を有するサイドウォール部42が形成される。そして、サイドウォール部42の径方向内側に、ホイールのリムに密着するビード部43が形成される。
【0040】
サイドウォール部42の識別表示44は、不変部16により成型される第1文字表示45と、第1可変部18Aによる第2文字表示46と、第2可変部18Bによる第3文字表示47とを備える。第1文字表示45は、文字溝17により設定されたコードの英数文字であり、外表面から突出するように形成されている。第2および第3文字表示46,47は、文字突起26A,26Bにより設定されたコードおよびセリアルの英数文字であり、外表面から窪むように形成されている。第2および第3文字表示46,47は、プレート配設凹部19A,19Bの形状に対応する枠部48A,48B内に形成されている。
【0041】
枠部48A,48Bは、プレート配設凹部19A,19Bと表示刻印プレート25A,25Bとの間に形成される段差(プレート配設凹部19A,19Bと表示刻印プレート25A,25Bとの隙間)により、表示刻印プレート25A,25Bの反転形状に一致した非対称および非対称な形状で、外表面から突出している。即ち、枠部48A,48Bは、表示刻印プレート25A,25Bと同様に、全長が異なる。そして、枠部48A,48Bの図心αに対して非対称である。また、タイヤ周方向の中央を通りタイヤ径方向に延びる基準線に対して非対称である。さらに、タイヤ径方向の中央を通りタイヤ周方向に延びる基準線に対して非対称である。但し、枠部48A,48Bは、外表面から突出した構成に限らず、プレート配設凹部19A,19Bから表示刻印プレート25A,25Bを突出させることにより凹状に窪むようにしてもよい。また、プレート配設凹部19A,19Bと表示刻印プレート25A,25Bの表面25aとを同一平面状とし、プレート配設凹部19A,19Bの外周の各壁面と表示刻印プレート25A,25Bの外周の各縁との隙間により、線状に突出する環状枠により構成してもよい。」
・「【図2】


・「【図3】


・「【図4】


・「【図5】



イ 甲1発明
甲1の図3、図5からは、プレート配設凹部19A,19Bが周方向に間隔をあけて複数備えられていることが看取できる。
甲1の段落【0032】には、左上隅縁32A,32Bは、直線部31A,31Bの上端に連続するとともに、上縁28A,28Bの左端に連続する所定曲率の円弧状であり、右上隅縁36A,36Bは、直線部35A,35Bの上端に連続するとともに、上縁28A,28Bの右端に連続する所定曲率の円弧状である旨が記載されていることから、左上隅縁32A,32B、右上隅縁36A,36Bは、直線部35A,35B、上縁28A,28Bになめらかに接続する曲面であるといえる。そして、甲1の段落【0034】、図3等によると、プレート配設凹部19A,19Bの形状は、表示刻印プレート25A,25Bと対応しており、表示刻印プレート25A,25Bと略同一の形状となっているといえるから、プレート配設凹部19A,19Bにおける左上隅縁32A,32B、右上隅縁36A,36Bに対応する壁面は、プレート配設凹部19A,19Bの上壁面20A,20Bと前記左壁面22A,22B、右壁面23A,23Bとをなめらかに接続する曲面を含む面であるといえる。
これらの点を踏まえつつ、甲1に記載された事項を、特に第1実施形態に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「タイヤ40を加硫成型するタイヤ加硫金型10において、
タイヤ40のサイドウォール部42を成型するタイヤ成型面14bを有する上下一対のサイド型部12A,12Bと、上下一対のビードリング部13とを備え、
前記サイド型部12A,12Bは、識別表示刻印部15と、表示刻印プレート25A,25Bと、隙間とを備え、
前記識別表示刻印部15は、前記タイヤ成型面14bに開口するプレート配設凹部19A,19Bを周方向に間隔をあけて複数備え、
前記表示刻印プレート25A,25Bは、前記プレート配設凹部19A,19Bに嵌まり前記識別表示刻印部15とともに前記タイヤ成型面14bを形成し、
前記隙間は、前記識別表示刻印部15と前記表示刻印プレート25A,25Bとの間に形成され、前記タイヤ成型面14bに開口し、
前記プレート配設凹部19A,19Bは、タイヤ径方向外側を区画する上壁面20A,20Bと、タイヤ径方向内側を区画する下壁面21A,21Bと、前記上壁面20A,20Bと前記下壁面21A,21Bとの間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する左壁面22A,22B、右壁面23A,23Bと、前記上壁面20A,20B及び前記左壁面22A,22B、右壁面23A,23Bをなめらかに接続する曲面を含む面とを備えるタイヤ加硫金型10。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
甲1発明における「タイヤ成型面14b」は、本件特許発明1における「サイド成型面」に相当し、以下同様に、「サイド型部12A,12B」は「サイドモールド」に、「ビードリング部13」は「ビードリング」に、「識別表示刻印部15」は「サイドモールド本体」に、「表示刻印プレート25A,25B」は「ピース」に、「プレート配設凹部19A,19B」は「凹部」に、「上壁面20A,20B」は「外側内壁面」に、「下壁面21A,21B」は「内側内壁面」に、「左壁面22A,22B、右壁面23A,23B」は「一対の径方向内壁面」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「タイヤを加硫成型するタイヤ加硫金型において、
タイヤのサイドウォール部を成型するサイド成型面を有する上下一対のサイドモールドと上下一対のビードリングを備え、
前記サイドモールドは、サイドモールド本体と、複数のピースと、隙間とを備え、
前記サイドモールド本体は、前記サイド成型面に開口する凹部を周方向に間隔をあけて複数備え、
前記ピースは、前記凹部に嵌まり前記サイドモールド本体とともに前記サイド成型面を形成し、
前記隙間は、前記サイドモールド本体と前記ピースとの間に形成され、前記サイド成型面に開口し、
前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備えるタイヤ加硫金型。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
サイドモールド本体のサイド成型面に開口する凹部に関して、本件特許発明1は、「凹部のタイヤ径方向内側」が「ビードリングによって覆われる」と特定するのに対し、甲1発明の「プレート配設凹部19A,19B」は、「ビードリング部13」によって覆われていない点。

(イ)判断
上記相違点1-1について検討する。
<相違点1-1について>
相違点1-1は実質的な相違点である。
そして、甲1の段落【0026】によると、甲1発明の「タイヤ加硫金型10」の「プレート配設凹部19A,19B」は、タイヤに、定期的に変更される週セリアルおよび年セリアルを表示刻印するための「表示刻印プレート25A,25B」が装着される部分であるから、その部分をあえて、「ビードリング部13」で覆う構成とする動機付けはない。
また、他の証拠にも、上記構成とする動機付けとなる記載はない。
さらに、本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0040】及び【0047】に記載されているように、ビードリングで覆われる隙間の幅を大きく設定することができるため、凹部内でピースの位置を調整する際の調整代とすることができるという当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有しさらに限定を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由3によっては取り消すことはできない。

4 取消理由4(甲2に基づく新規性進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、図面とともにおおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 タイヤトレッド部のプロファイル面に対応した凹凸部を備えた複数のピースと、タイヤショルダーからサイド部を成形する上下一対のサイドモールドとから成る加硫成形用金型の製造方法であって、
予めダイカスト鋳造の第1ショットまたは機械加工により中空部を備えたスピューレス粗材を製造し、その後、スピューレス粗材の中空部に同種金属または異種金属を第2ショットしてスピューレス粗材の組立体を製造すると共に、この両スピューレス粗材の鋳継ぎ部に、金属材料の凝固収縮による微細な隙間を形成し、前記サイドモールドのプロファイル面側の必要箇所に、前記スピューレス粗材の組立体が嵌合する凹部を形成し、この凹部に前記スピューレス粗材の組立体を嵌合固定し、その後、サイドモールドの加工代の必要部位に機械加工若しくは放電加工でプロファイル面を形成し、次いで必要部位に文字彫刻加工を施した後、このサイドモールドをベースプレートに組込んで固定するタイヤ加硫成形用金型の製造方法。
…(中略)…
【請求項4】 前記凝固収縮により形成される微細な隙間は、0.005 ?0.06mmである請求項1,2または3に記載のタイヤ加硫成形用金型。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、タイヤ加硫成形用金型の製造方法に係わり、更に詳しくは文字彫刻を施すサイドモールドのスピューレス化を図ったタイヤ加硫成形用金型の製造方法に関するものである。」
・「【0010】この発明の目的は、特に文字彫刻を施すサイドモールドのスピューレス化を図り、サイドブランド部の外観を向上させると共に、ブランド切替えも容易に行うことが出来るようにしてコストダウンを図ることが出来るタイヤ加硫成形用金型の製造方法を提供することにある。」
・「【0013】
【発明の実施の形態】以下、添付図面に基づき、この発明の実施形態を説明する。
【0014】図1(a)?(h)は、この発明を実施したスピューレス化を図ったサイドモールドの製造工程を示している。
【0015】この発明の実施形態では、先ずサイドモールドのスピューレス化を図るために、図1(a)に示すように、アルミニュウムを材料としてスピューレス粗材1a,1bを製作する。
【0016】即ち、ベースとなるスピューレス粗材1aは、ダイカスト鋳造で第1ショットするか、または機械加工により中空部2を備えた板状のスピューレス粗材1aを製作する。そして、この第1ショットによるスピューレス粗材1aの中空部2に同種または異種の金属材料(スピューレス粗材1b)をダイカスト鋳造で第2ショットとして、第1ショットと第2ショットとの鋳継ぎ部Pに、金属材料の凝固収縮による微細な隙間(例えば、0.005 ?0.06mm)を形成する。
【0017】また、スピューレス粗材1aの背面側からは、前記第2ショットのスピューレス粗材1bまでの排気孔3を加工する。なお、第1ショット及び第2ショットの粗材は、共通部品または内径毎に標準化するのが好ましい。
【0018】次に、図1(b)に示すように、鉄やスチール等を粗材としたサイドモールド4のプロファイル面4aの必要箇所に、前記スピューレス粗材1aが嵌合する凹部5と、ボルト挿通孔6を機械加工等により形成する。そして、この凹部5にスピューレス粗材1a,1bを嵌合し、サイドモールド4の背面側からボルト等の締結部材7を介して締め付け固定する(図1(c)参照)。
【0019】その後、図1(d)に示すように、サイドモールド4のプロファイル面4aの加工代4xの必要部位に機械加工(ターニング加工)若しくは放電加工でブランド面を形成する(図1(e)参照)。そして、このプロファイル面4a(ブランド面)の必要部位に図1(f)に示すように文字彫刻Wの加工を施した後、このサイドモールド4を、予め形成してある鉄またはスチール製のベースプレート8に組込んで、サイドモールド4の背面側からボルト等の締結部材9により締め付け固定するものである(図1(g),(h)参照)。
【0020】なお、図1(f)において、Qは従来のベントホールの位置を示しており、図1(h)において、10は前記排気孔3に連通する排気通路を示している。
【0021】また、前記サイドモールド4の粗材も、スピューレス粗材1a,1bの粗材(アルミニュウム)と同様に標準化するのが望ましい。
【0022】以上のように、この発明の実施形態では、予めダイカスト鋳造の第1ショットまたは機械加工により中空部2を備えたスピューレス粗材1aを製造し、その後、スピューレス粗材1aの中空部2に同種金属等を第2ショットしてスピューレス粗材1bを製造すると共に、スピューレス粗材1aと1bとの鋳継ぎ部Pに、金属材料の凝固収縮による微細な隙間を形成する。
【0023】そして、前記サイドモールド4のプロファイル面4aの必要箇所に、前記スピューレス粗材1a,1bが嵌合する凹部5を形成し、この凹部5に前記スピューレス粗材1aと1bを嵌合固定し、その後、サイドモールド4の加工代4xの必要部位に機械加工若しくは放電加工でプロファイル面4aを形成する。
…(中略)…
【0026】
【発明の効果】この発明は、上記のように予めダイカスト鋳造の第1ショットまたは機械加工により中空部を備えたスピューレス粗材を製造し、その後、スピューレス粗材の中空部に同種金属または異種金属を第2ショットしてスピューレス粗材の組立体を製造すると共に、この両スピューレス粗材の鋳継ぎ部に、金属材料の凝固収縮による微細な隙間を形成し、前記サイドモールドのプロファイル面側の必要箇所に、前記スピューレス粗材の組立体が嵌合する凹部を形成し、この凹部に前記スピューレス粗材の組立体を嵌合固定し、その後、サイドモールドの加工代の必要部位に機械加工若しくは放電加工でプロファイル面を形成し、次いで必要部位に文字彫刻加工を施した後、このサイドモールドをベースプレートに組込んで固定するので、以下のような優れた効果を奏するものである。
○1.(合議体注:「○」1は○の中に1が表記される記号である。以下同様。)特に文字彫刻を施すサイドモールドのスピューレス化を図り、サイドブランド部の外観を向上させることが出来る。
○2.サイドモールドを分割することにより、共通部品を持つことが出来、またブランド切替えも容易に行うことが出来るようにしてコストダウンを図ることが出来る。
○3.ブランド部分を分解出来るので、クリーニングを容易に行うことが出来る。
○4.モールドの任意の位置に必要な排気性能を確保できる隙間を形成して、外観が良好で寸法精度が高いタイヤを製造することが出来る。
○5.隙間は第2ショットの鋳造条件で、その隙間量をコントロールすることが出来る。
○6.タイヤ加硫後にスピューを取り除く工程を必要とせず、スピューの痕跡をタイヤ表面に残すことなくタイヤ外観を良好にすることが出来る。」
・「【図1】



イ 甲2発明
甲2の図1からは、中空部2が、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備えていることが看取できる。
この点を踏まえつつ、甲2に記載された事項を、特に発明の実施の形態に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2発明>
「タイヤを加硫成形するタイヤ加硫成形用金型において、
タイヤのサイド部を成形するプロファイル面4aを有する上下一対のサイドモールド4を備え、
前記サイドモールド4は、スピューレス粗材1aと、複数のスピューレス粗材1bと、隙間とを備え、
前記スピューレス粗材1aは、前記プロファイル面4aに開口する中空部2を周方向に間隔をあけて複数備え、
前記スピューレス粗材1bは、前記中空部2に嵌まり前記スピューレス粗材1aとともに前記プロファイル面4aを形成し、
前記隙間は、前記スピューレス粗材1aと前記スピューレス粗材1bとの間に形成され、前記プロファイル面4に開口し、
前記中空部2は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備えるタイヤ加硫成形用金型。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「加硫成形」は、本件特許発明1における「加硫成型」に相当し、以下同様に、「タイヤ加硫成形用金型」は「タイヤ加硫金型」に、「サイド部」は「サイドウォール部」に、「プロファイル面4a」は「サイド成型面」に、「スピューレス粗材1b」は「ピース」に、それぞれ相当する。
甲2発明における「タイヤ加硫成形用金型」は、タイヤを成形するものであるから、当然「上下一対のビードリング」を備えるものである。
甲2発明における「サイドモールド4」及び「スピューレス粗材1a」の部分は、本件特許発明1における「サイドモールド本体」に相当するといえる。
甲2発明における「中空部2」は、「プロファイル面4に開口」するものであるし、また、甲2の図1を参酌すれば、「中空部2」に底部が存在していることが看取できることから、本件特許発明1における「凹部」に相当するといえる。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「タイヤを加硫成型するタイヤ加硫金型において、
タイヤのサイドウォール部を成型するサイド成型面を有する上下一対のサイドモールドと上下一対のビードリングとを備え、
前記サイドモールドは、サイドモールド本体と、複数のピースと、隙間とを備え、
前記サイドモールド本体は、前記サイド成型面に開口する凹部を周方向に間隔をあけて複数備え、
前記ピースは、前記凹部に嵌まり前記サイドモールド本体とともに前記サイド成型面を形成し、
前記隙間は、前記サイドモールド本体と前記ピースとの間に形成され、前記サイド成型面に開口し、
前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備えるタイヤ加硫金型。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
サイドモールド本体のサイド成型面に開口する凹部に関して、本件特許発明1は、「凹部のタイヤ径方向内側」が「ビードリングによって覆われる」と特定するのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。

(イ)判断
上記相違点2-1について検討する。
<相違点2-1について>
相違点2-1は実質的な相違点である。
そして、甲2の段落【0022】及び【0026】によると、甲2発明の「中空部2」は、排気性能を確保するための隙間を設けるために備えられたものであるから、その部分をあえて、ビードリングで覆う構成とする動機付けはない。
また、他の証拠にも、上記構成とする動機付けとなる記載はない。
さらに、本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0040】及び【0047】に記載されているように、ビードリングで覆われる隙間の幅を大きく設定することができるため、凹部内でピースの位置を調整する際の調整代とすることができるという当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

(ウ)まとめ
よって、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえないし、また、甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有しさらに限定を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、また、甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由4によっては取り消すことはできない。

第6 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は申立理由7(サポート要件)及び申立理由8(明確性要件)である。
そこで、申立理由7及び8について以下検討する。

1 申立理由7(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫金型に関する。」
・「【0005】
そこで、下記特許文献1では、タイヤ周方向に分割された複数のサイドセグメントをタイヤ周方向に連ねることによりリング状のサイドモールドを形成するタイヤ加硫金型が提案されている。このタイヤ加硫金型では、サイドセグメントの合わせ面によってタイヤ半径方向にのびる複数の隙間をサイド成型面に形成し、この隙間からグリーンタイヤとサイドモールドとの間に存在する空気を排出する。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなタイヤ加硫金型では、複数のサイドセグメント同士を連結してサイド成型面を備えるサイドモールドを形成するため、個々のサイドセグメントに存在する寸法誤差やサイドセグメントを連結する際に生じる組み付け誤差が累積する。そのため、グリーンタイヤとサイドモールドとの間に存在する空気を排出する隙間を精度良くサイド成型面に形成することが困難となり、隙間が広すぎてゴムがはみ出したり、あるいは、隙間が狭すぎて排気性能が不足してタイヤの外表面に凹みが生じる等の成型不良が発生しやすいという問題がある。
【0008】
そこで、サイド成型面に開口する凹部にピースを嵌め込み、ピースの周囲にサイド成型面に開口する隙間を形成し、この隙間からグリーンタイヤとサイドモールドとの間に存在する空気を排出することが考えられる。このようなタイヤ加硫金型では、ピースを固定する際に生じる取付位置の誤差が累積しないが、凹部の内角部を精度良く形成することが難しく、ピースの周囲に形成される隙間を所望の幅に精度良く設けるのが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、以上の問題に鑑み、サイド成型面に開口する凹部を精度良く設けることができ、グリーンタイヤとサイドモールドとの間に存在する空気を排出する隙間をサイド成型面に精度良く設けることができるタイヤ加硫金型を提供することを目的とする。」
・「【発明の効果】
【0014】
本実施形態のタイヤ加硫金型では、サイド成型面に開口する凹部を精度良く設けることができ、グリーンタイヤとサイドモールドとの間に存在する空気を排出する隙間をサイド成型面に精度良く設けることができる。」
・「【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係るタイヤ加硫金型10の断面図である。このタイヤ加硫金型10は、タイヤ軸方向が上下になるようにセットされた未加硫のグリーンタイヤTを加熱及び加圧により加硫成型する成型金型であり、トレッドモールド12と、上下一対のサイドモールド14、15と、上下一対のビードリング16,17とを備える。
【0018】
トレッドモールド12は、タイヤのトレッド部を成型するトレッド成型面12aを有する金型である。トレッドモールド12は、タイヤ周方向に分割された複数のセクタからなる。複数のセクタは、タイヤ放射方向(タイヤ径方向)に拡縮変位可能に設けられている。各セクタを型閉め位置に配置した型閉め状態では、タイヤ周方向に隣り合うセクタが、互いに寄り集まって環状をなしている。
【0019】
グリーンタイヤTの上方に位置する上側サイドモールド14は、グリーンタイヤTの上側のサイドウォール部を成型するサイド成型面14aを有するリング状の金型である。グリーンタイヤTの下方に位置する下側サイドモールド15は、グリーンタイヤTの下側のサイドウォール部を成型するサイド成型面15aを有するリング状の金型である。
【0020】
ビードリング16は、上側サイドモールド14のビードリング固定部18に載置されボルトなどにより固定された上側ビードリングである。上側ビードリング16は、グリーンタイヤTの上側のビード部を成型するビード成型面16aを有する金型である。
【0021】
ビードリング17は、下側サイドモールド15のビードリング固定部19に載置されボルトなどにより固定された下側ビードリングである。下側ビードリング17は、グリーンタイヤTの下側のビード部を成型するビード成型面17aを有する金型である。
【0022】
図2は、下側サイドモールド15を分解して示す断面斜視図である。なお、上側サイドモールド14及び下側サイドモールド15は、サイド成型面14aとサイド成型面15aの形状が異なる場合があるが、いずれもサイドモールド本体20、21とピース22,23と、隙間28、29を備え基本的な構成が同一である。そのため、ここでは下側サイドモールド15について説明し、上側サイドモールド14について詳細な説明を省略する。
【0023】
下側サイドモールド15は、サイドモールド本体21と、複数のピース23と、サイドモールド本体21とピース23との間に形成された隙間29とを備える。
【0024】
サイドモールド本体21は、アルミニウムやアルミニウム合金や鉄などの金属材料からなる平板リング状の基部24を有している。基部24のタイヤ径方向内側には、ビードリング17を固定するビードリング固定部19が設けられている。基部24のタイヤ径方向外側には、タイヤ周方向に間隔を開けて設けられた複数の凹部25と、タイヤ周方向に隣り合う凹部25の間に設けられた基部24から上方へ突出する複数の凸部26と、凹部25及び凸部26のタイヤ径方向外側に設けられた環状突起34とが設けられている。
【0025】
凹部25は、タイヤ周方向及びタイヤ径方向に閉塞し、平面視(タイヤ回転軸方向視)においてサイド成型面15aに開口する窪みであり、凹部25の内部にピース23が嵌め込まれている。
【0026】
より詳細には、図3及び図4に示すように、凹部25は、タイヤ径方向外側を区画するタイヤ周方向に延びる外側内壁面25aと、タイヤ径方向内側を区画するタイヤ周方向に延びる内側内壁面25bと、外側内壁面25aと内側内壁面25bとの間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面25c、25cと、外側内壁面25a及び一対の径方向内壁面25c、25cを接続する曲面25d、25dとを備える。
【0027】
本実施形態では、外側内壁面25a及び内側内壁面25bは、いずれも水平断面がタイヤ回転軸を中心とする同心円の円弧からなる円弧面であり、径方向内壁面25c,25cは、タイヤ径方向に延びる平面からなる。また、曲面25d、25dは、水平断面が円弧からなる円弧面であり、例えば、曲率半径が1mm以上の円弧からなる円弧面であることが好ましい。
…(中略)…
【0045】
更に、本実施形態では、凹部25の外側内壁面25aと径方向内壁面25cとを、直接突き合わせることなく曲面25dを介して両内壁面25a、25cをなめらかに連結しているため、凹部25の内角部分(外側内壁面25aと径方向内壁面25cの接合部分)を精度良く形成することができ、ピース23の周囲に形成される隙間29を所望の幅に精度良く設けることができる。その結果、隙間29が広すぎてゴムがはみ出したり、あるいは、隙間29が狭すぎて排気性能が不足することが抑えられ、成型不良が発生しにくくなる。
…(中略)…
【0051】
上記した第1実施形態では、凹部25の外側内壁面25aと径方向内壁面25cとを繋ぐ曲面25dを水平断面が円弧からなる円弧面の場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、外側内壁面25aと径方向内壁面25cとをなめらかに接続する曲面であればよい。例えば、図9に示すように、凹部25の外側内壁面25aや径方向内壁面25cとの接続部分を湾曲面25d‘1で構成し、その間を平面部25d’2で連結してなる曲面25d‘であってもよい。」
・「【図1】


・「【図3】


・「【図6】


・「【図9】



(4)発明の課題
発明の詳細な説明の段落【0009】によると、本件特許発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「サイド成型面に開口する凹部を精度良く設けることができるタイヤ加硫金型を提供すること」である。

(5)サポート要件についての判断
発明の詳細な説明の記載、特に段落【0045】、【0051】の記載に基づけば、当業者は、タイヤ加硫金型のサイドモールド本体において、凹部の外側内壁面と径方向内壁面とをなめらかに連結している曲面を有するものであれば、発明の課題を解決すると認識する。
そして、本件特許発明には、「前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備え」との特定がされている。
したがって、本件特許発明に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 1(7)アのように主張している。しかし、凹部の外側内壁面と径方向内壁面とをなめらかに連結している曲面を有するものであれば、「ピース」がどのような種類のものであったとしても、当業者は発明の課題を解決すると認識する。
さらに、特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 1(7)イのように主張している。しかし、凹部の外側内壁面と径方向内壁面とをなめらかに連結している曲面を有するものであれば、発明の課題を解決すると当業者は認識し、「曲面を含む面」の実施例が2つしかないからといって、発明の課題が解決できないとはいえない。
また、許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 1(7)ウのように主張している。しかし、凹部の外側内壁面と径方向内壁面とをなめらかに連結している曲面を有するものであれば、発明の課題を解決すると当業者は認識し、ピースが嵌まる全ての凹部が曲面を備える態様しか記載がないからといって、発明の課題が解決できないとはいえない。
そして、特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 1(7)エのように主張している。しかし、本件特許発明3の「間隔」は、発明の課題を解決する手段とは関係がない。
したがって、特許異議申立人の前記各主張は採用できない。

(6)むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、申立理由7によっては取り消すことはできない。

2 申立理由8(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)明確性要件についての判断
本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載は、その記載自体明確であり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないから、明確性要件を充足する。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 1(8)アのように主張している。しかし、「なめらかに接続」の「なめらか」とは、何かと比較している程度を示すものではなく、当業者が段落【0045】、【0051】、図3、図9をみれば、外側内壁面と径方向内壁面とが、「直接突き合わさることなく曲面を介して接続」していることを示していると解することができるから、特許請求の範囲の記載は明確である。
さらに、特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 1(8)イのように主張している。しかし、「曲面を含む面」とは、「面」が「曲面」を備えていればよいのであるから、特許請求の範囲の記載自体に不明確な点はない。
また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 1(8)ウのように主張している。しかし、「外側内壁面」、「径方向内壁面」、「曲面を含む面」が区別できるのであれば本件特許発明であり、「外側内壁面」、「径方向内壁面」、「曲面を含む面」が区別できないのであれば本件特許発明とはならないから、特許請求の範囲の記載は明確である。
したがって、特許異議申立人の前記各主張は採用できない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、申立理由8によっては、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。

第7 結語
上記第5及び6のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを加硫成型するタイヤ加硫金型において、
タイヤのサイドウォール部を成型するサイド成型面を有する上下一対のサイドモールドと上下一対のビードリングとを備え、
前記サイドモールドは、サイドモールド本体と、複数のピースと、隙間とを備え、
前記サイドモールド本体は、前記サイド成型面に開口する凹部を周方向に間隔をあけて複数備え、
前記ピースは、前記凹部に嵌まり前記サイドモールド本体とともに前記サイド成型面を形成し、
前記隙間は、前記サイドモールド本体と前記ピースとの間に形成され、前記サイド成型面に開口し、
前記凹部は、タイヤ径方向外側を区画する外側内壁面と、タイヤ径方向内側を区画する内側内壁面と、前記外側内壁面と前記内側内壁面との間においてタイヤ周方向一方側及び他方側を区画する一対の径方向内壁面と、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面をなめらかに接続する曲面を含む面とを備え、前記凹部のタイヤ径方向内側は、前記ビードリングによって覆われるようになっているタイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記曲面は、曲率半径が1mm以上の円弧からなる円弧面である請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記内側内壁面と前記ピースとの間隔が0.5mm以上、前記外側内壁面及び前記径方向内壁面と前記ピースとの間隔が0.05mm以下である請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-24 
出願番号 特願2018-541727(P2018-541727)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B29C)
P 1 651・ 113- YAA (B29C)
P 1 651・ 537- YAA (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 北澤 健一  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 岩田 健一
大島 祥吾
登録日 2020-07-31 
登録番号 特許第6743162号(P6743162)
権利者 TOYO TIRE株式会社
発明の名称 タイヤ加硫金型  
代理人 富田 克幸  
代理人 芝 哲央  
代理人 林 栄二  
代理人 蔦田 正人  
代理人 星野 寛明  
代理人 星野 寛明  
代理人 中村 哲士  
代理人 蔦田 正人  
代理人 芝 哲央  
代理人 瓜本 忠夫  
代理人 富田 克幸  
代理人 中村 哲士  
代理人 有近 康臣  
代理人 瓜本 忠夫  
代理人 正林 真之  
代理人 有近 康臣  
代理人 林 一好  
代理人 林 栄二  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ