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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1379853
異議申立番号 異議2021-700620  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-02 
確定日 2021-10-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6810543号発明「小麦ふすま加工品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6810543号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6810543号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成28年6月24日の出願であって、令和2年12月15日に特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日にその特許公報が発行され、その後、令和3年7月2日に、特許異議申立人 中嶋 美奈子(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?5に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であり、糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である、小麦ふすま加工品。
【請求項2】
パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である請求項1に記載の小麦ふすま加工品。
【請求項3】
小麦ふすまを開放系の装置を用いて、温度が150?400℃である過熱水蒸気(但し、高圧過熱水蒸気は除く)により処理する工程を含み、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合を8.5?13%とし、糊化した澱粉の含有量を1?6.8質量%とする、小麦ふすま加工品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の小麦ふすま加工品を含む食品。」

第3 特許異議申立理由
1 サポート要件
異議申立理由1-1:請求項1、2、4、5に係る発明について、本件特許明細書の【0009】【0012】には、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量の小麦ふすま加工品のエグミ及び臭み、焙煎臭との関係の記載があるものの、表1の実施例及び比較例のエグミ及び臭み、焙煎臭の評価結果を比較すると、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量は、小麦ふすま加工品のエグミ及び臭み、焙煎臭に影響を及ぼさないと推測できるから、当業者が課題を解決できると認識できず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由1-2:請求項1、2、4、5に係る発明について、小麦ふすま加工品の加工の方法について限定されておらず、焙煎処理によって、本件特許発明を満たすものが含まれるが、焙煎処理した場合は、焙煎臭を有しているから課題を解決していないと推定できるから、課題を解決できない範囲を含み、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由1-3:請求項3に係る発明について、【0018】【0021】に過熱水蒸気処理の作用や温度範囲の記載があるものの、実施例の表1,2の結果から評価結果と過熱水蒸気温度の明確な関係がなく、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量が、過熱水蒸気処理の時間や小麦ふすまの水分量にも影響を受けていること、焙煎臭がアクリルアミド含有量や過熱水蒸気処理の時間にも影響を受けていると確認できるから、当業者が課題を解決できると認識できないので、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 実施可能要件
異議申立理由2:請求項3に係る発明について、小麦ふすま加工品の可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量とエグミ及び臭み、焙煎臭と、過熱水蒸気の温度との間に明確な関係が認められず、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量が過熱水蒸気の温度だけでなく、過熱水蒸気処理の時間や小麦ふすまの水分量にも影響を受けているので、本件特許発明を実施するには、各種条件を設定する必要があり、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤を要するから、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 新規性
異議申立理由3-1:請求項1、2、4、5に係る発明は、本件特許出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、2、4、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
異議申立理由3-2:請求項1、2に係る発明は、本件特許出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、下記の甲第3号証の記載を参照すると、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

4 進歩性
異議申立理由4-1:請求項1に係る発明は、本件特許出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の甲第1号証又は甲第2号証又は甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
異議申立理由4-2:請求項2、4、5に係る発明は、本件特許出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の甲第1号証又は甲第2号証又は甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明および甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された技術常識に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2、4、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
異議申立理由4-3:請求項3に係る発明は、本件特許出願の出願前に外国において頒布された刊行物である下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



甲第1号証:特開2012-254024号公報
甲第2号証:特開平11-103800号公報
甲第3号証:特許第4837184号公報
甲第4号証:米国特許出願公開2015/0250212号公報
甲第5号証:特開昭58-183050号公報

第4 当審の判断
異議申立理由1(サポート要件)について
1 異議申立理由1-1、1-2、1-3について
特許異議申立人は、前記第3 1に記載のようにサポート要件について理由を述べている。

2 判断
(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題
本件特許発明1?2の課題は、【0005】の【発明が解決しようとする課題】の記載、及び明細書全体の記載からみて、小麦ふすま本来の風味を有し、且つ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが低減された小麦ふすま加工品を提供することを提供すること、本件特許発明3の課題は、該小麦ふすま加工品の製造方法を提供すること、本件特許発明4、5の課題は、それぞれ、該ふすま加工品を含む穀物組成物、食品を提供することにあるといえる。

(3)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「小麦ふすま加工品」であって、
「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ること、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことが特定された物の発明が記載されている。
また、請求項2には、請求項1において、「パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である」ことが特定された物の発明が記載されている。
そして、請求項3には、「小麦ふすま加工品の製造方法」であって、「小麦ふすまを開放系の装置を用いて、温度が150?400℃である過熱水蒸気(但し、高圧過熱水蒸気は除く)により処理する工程を含」むことと、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合を8.5?13%とし、糊化した澱粉の含有量を1?6.8質量%とする」ことが特定された方法の発明が記載されている。
さらに、請求項4には、「穀粉組成物」として、「請求項1又は2に記載の小麦ふすま加工品を含む」こと、請求項5には、「食品」として、「請求項1又は2に記載の小麦ふすま加工品を含む」ことを特定した物の発明が、それぞれ記載されている。

(4)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書には、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除き、【0002】【0003】【0005】の発明が解決しようとする課題に関係した記載、【0007】の発明の効果に関する記載、【0009】?【0015】の小麦ふすま加工品についての、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合の上下限の技術的意義及び測定法、風味に関する用語の定義、糊化した澱粉の含有量の上下限の技術的意義及び測定法、脂質の含有量、水分含有量、平均粒径に関する記載がそれぞれなされている。
また、【0016】?【0029】の小麦ふすま加工品の製造方法についての、原料となる小麦ふすま、過熱水蒸気による処理の作用、過熱水蒸気処理の温度の上下限の技術的意義、過熱水蒸気の量、過熱水蒸気の処理時間、過熱水蒸気処理に使用する装置、加水工程、粉砕工程、平均粒径の調整方法に関する記載がそれぞれなされている。
さらに、【0030】?【0033】の小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物についての、その他の穀粉組成物成分、穀粉組成物の用途、小麦ふすま加工品の量の調整方法に関する記載がそれぞれなされている。
そして、【0034】?【0036】の小麦ふすま加工品を含む食品についての、食品の種類、パン類の例示、麺類又は皮類の例示に関する記載がそれぞれなされている。
また、【0037】?【0039】の小麦ふすま加工品を含む食品の製造方法についての、配合工程や生地を調製する工程、二次加工適性、小麦ふすま加工品の配合に関する記載がそれぞれなされている。
さらに、実施例として、試験例1では、実施例1?10、比較例1?3、参考例を製造し、各種成分の含有量の分析手法の記載、小麦ふすま加工品の評価内容の記載、試験結果としての表1の記載、「【0052】
可溶性タンパク質の割合が7.5?14%である実施例1?10の小麦ふすま加工品は、エグミ及び臭みが低減されていた。過熱水蒸気処理を行っていない比較例1の小麦ふすま加工品は、エグミ及び臭みが非常に強かった。比較例2及び3の小麦ふすま加工品は、過熱水蒸気処理を行ったが、可溶性 タンパク質の割合が15%超であり、エグミ及び臭みが非常に強く感じられた。参考例1の焙煎ふすまは、焙煎臭が非常に強く、小麦ふすま本来の好ましい風味が感じられなかった。これらの結果から、可溶性タンパク質の割合が15%以下であるとエグミ及び臭みが低減されることが確認された。
【0053】
可溶性タンパク質の割合が7.5%である実施例10は、エグミ及び臭みの低減効果は良好であったが、焙煎臭がやや強く感じられた。焙煎臭の付与を抑え、小麦ふすま本来の好ましい風味を維持する観点からは、可溶性タンパク質の割合は8%以上が好ましいことが示唆された。」との結果の考察の記載が示されている。
また、試験例2では、水を加え混合した実施例11?23、比較例4の製造と、表2の結果、「【0054】
<試験例2>
・・・ただし、実施例17、20、22、23、比較例4は、過熱水蒸気後の水分含有量が、それぞれ、20.5質量%、26.4質量%、17.3質量%、35.7質量%、43.0質量%であり、15質量%超であったため、得られた小麦ふすま加工品を50℃の送風乾燥機で乾燥させた後に、各種分析を行った。乾燥後の水分含有量は、表2に示すように、実施例17が10.8質量%、実施例20が5.2質量%、実施例22が4.5質量%、実施例23が5質量%、比較例4が5.6質量%であった。
・・・
【0056】
糊化した澱粉の含有量が1.5?8.1質量%である実施例11?23の小麦ふすま加工品は、エグミ及び臭みがほとんど感じられなかった。また、焙煎臭が弱く、小麦ふすま本来の風味が感じられた。糊化した澱粉の含有量が11質量%である比較例4は、エグミの強さは許容範囲であり、焙煎臭は全く感じられなかったことから、全体評価としては合格点であった。しかしながら、後述する試験例4および試験例5で示すように、糊化した澱粉の含有量が10質量%を超える小麦ふすま加工品は、二次加工適性に劣っていた。これらの結果から、糊化した澱粉の含有量は10質量%以下が好適であることが確認された。」との結果の考察の記載が示されている。
さらに、試験例3では、北海道産中力系、強力系、北米産薄力系、強力系小麦を原料に用い、実施例24?27、比較例5?8の製造、表3の結果、「【0059】
実施例24?27の結果から、小麦の種類にかかわらず、エグミ及び臭みが効果的に低減され、焙煎臭がなく、小麦ふすま本来の風味を有する小麦ふすま加工品が得られることが確認された。」との結果の考察の記載が示されている。
そして、試験例4,5では、実施例4,17,18,19,20,22及び比較例4の小麦ふすま加工品を使用して、それぞれ、パン、うどんを製造し、「【0062】
得られた小麦ふすま加工品を含有するパンは、全てエグミや臭みがなく、ふすま本来の好ましい風味も感じられる良好な品質の物であった。一方、実施例18、実施例20および実施例22の小麦ふすま加工品を含有するパンは、許容範囲ではあったものの、生地の丸めや成形を行う際に生地がややべた付く傾向が認められた。実施例18と実施例20とを比較すると、実施例18の小麦ふすま加工品を含有するパンの方がこの傾向が強く認められ、実施例20と実施例22とを比較すると、実施例22の小麦ふすま加工品を含有するパンの方がこの傾向が強く認められた。また、比較例4の小麦ふすま加工品を含有するパンは、ミキシング時のべた付きが強く、ミキサーへの生地の付着が多く認められた。また、生地の丸めや成形を行う際に、生地のべた付きが強かった。」「【0065】
得られた小麦ふすま加工品を含有するうどんは、全てエグミや臭みがなく、ふすま本来の好ましい風味も感じられる良好な品質の物であった。一方、実施例18、実施例20および実施例22の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地は、許容範囲ではあったものの、ロール製麺機にて圧延する際に生地がややべた付く傾向が認められた。実施例18と実施例20とを比較すると、実施例18の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地の方がこの傾向が強く認められ、実施例20と実施例22とを比較すると、実施例22の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地の方がこの傾向が強く認められた。また、比較例4の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地は、ロール製麺機にて圧延する際に、生地がべたつき、ロールへの生地の付着が多く認められた。
【0066】
試験例4及び試験例5の結果から、小麦ふすま加工品中の糊化した澱粉の含有量が11質量%であると二次加工適性に劣ることが確認された。また、糊化した澱粉の含有量を好ましくは6.8質量%以下、より好ましくは5.9質量%以下、さらに好ましくは4.0質量%以下とすることで、二次加工適性が良好になることが確認された。
【0067】
実施例18の小麦ふすま加工品と実施例20の小麦ふすま加工品を比較すると、糊化した澱粉の含有量は同程度であったが、可溶性タンパク質の割合は、実施例18が5.5%、実施例20が9.4%であり、実施例18の方が少なかった。また、試験例4及び試験例5において、実施例18の方が実施例20よりも生地がべたつく傾向にあることが確認された。これらの結果から、糊化した澱粉の含有量が同程度の場合、可溶性タンパク質の割合が少なくなるほど二次加工適性が劣る傾向にあることが示唆された。また、可溶性タンパク質の割合は、二次加工適性の観点から5%以上が好ましいことが示唆された。」との結果の考察の記載が示されている。

(5)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比等に基づく検討
上記(4)のとおり、本件特許発明1の各発明特定事項に対応して、本件特許明細書には、発明特定事項の測定方法やパラメータである「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合」や「糊化した澱粉の含有量」の数値範囲の技術的意義の一般的記載が存在し、課題に関連した「小麦ふすま本来の風味」の技術的意味やその他の水分量や過熱水蒸気処理等の製造方法の記載もあり、各特定事項間に技術的矛盾はなく、上下限付近を含めて各特定事項を満たす場合に本件特許発明1の効果を奏した多数の具体的検証結果の記載や実施例同士の課題解決の程度を含めた結果の考察の記載も存在する(満たさない比較例の結果及び考察もある。)のであるから、本件特許発明1の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明1の課題を解決できることを認識できるといえる。

また、本件特許発明2?5に関しても、【0033】?【0036】の小麦ふすま加工品の用途についての記載及び試験例4,5の記載、【0016】?【0029】の小麦ふすま加工品の製造方法についての記載、【0030】?【0033】の小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物についての記載、【0034】?【0039】の小麦ふすま加工品を含む食品及びその製造方法についての記載も併せて考慮すれば、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2?5の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明の課題を解決できることを認識できるといえる。

特許異議申立人は、異議申立理由1-1において、本件特許発明1,2,4,5に関し、本件特許明細書の【0009】【0012】の、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量の小麦ふすま加工品のエグミ及び臭み、焙煎臭との関係の記載と、表1の実施例及び比較例のエグミ及び臭み、焙煎臭の評価結果を比較すると、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量は、小麦ふすま加工品のエグミ及び臭み、焙煎臭に影響を及ぼさないと推測できるから、当業者が課題を解決できると認識できない旨主張している。
しかしながら、特許異議申立人の主張は、表1の実施例及び比較例の評価段階の数字に関し、たまたま、一つの観点のみの評価結果の変化だけに着目して、パラメータが変化した時に評価結果の段階に変化がないことのみをもって、本件特許明細書の【0009】【0012】のパラメータの技術的意義の記載との不整合を指摘しているが、本件特許発明の評価結果は、エグミ及び臭みの低減効果、焙煎臭の強さ、二次加工適性等の総合評価で判断され、総合的に優れた結果の得られた範囲を特許請求の範囲において、特定しているにすぎず、単独の観点で見たときの各パラメータの本件特許発明の数値範囲内での評価結果の変化自体を問題にしている発明ではない。
さらに、実施例1?23の結果について、全体を通してみれば、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量が変化することで、エグミ及び臭みの低減効果、焙煎臭の強さ、二次加工適性等の総合評価は、実際に変化していることも読み取れる。
したがって、上記主張のように、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量が、小麦ふすま加工品のエグミ及び臭み、焙煎臭に影響を及ぼさないとの推測が成り立つとはいえず、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

また、特許異議申立人は、異議申立理由1-2において、本件特許発明1,2,4,5に関し、小麦ふすま加工品の加工の方法について限定されておらず、焙煎処理によって、本件特許発明を満たすものが含まれるが、焙煎処理した場合は、焙煎臭を有しているから課題を解決していないと推定できるから、課題を解決できない範囲を含むので、当業者が課題を解決できると認識できない旨主張している。
しかしながら、本件特許発明1,2,4,5は、小麦ふすま加工品という物の発明であり、焙煎処理の工程の有無など特定事項となっていない発明であって、焙煎処理を行うことで、焙煎臭を生じることが技術常識であれば、当業者であれば、焙煎臭が問題となる程度の焙煎処理を本件特許発明1,2,4,5で行うことは、想定されていないことは、該発明の技術的思想からみて明らかである。
したがって、小麦ふすま加工品の加工の方法について限定がないからといって、小麦ふすま加工品という物の発明の製造過程で、あらゆる工程を含む場合が含まれることを前提とした特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

さらに、特許異議申立人は、異議申立理由1-3において、本件特許発明3に関し、【0018】【0021】に過熱水蒸気処理の作用や温度範囲の記載があるものの、実施例の表1,2の結果から評価結果と過熱水蒸気温度の明確な関係がなく、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量が、過熱水蒸気処理の時間や小麦ふすまの水分量にも影響を受けていること、焙煎臭がアクリルアミド含有量や過熱水蒸気処理の時間にも影響を受けていると確認できるから、当業者が課題を解決できると認識できない旨主張している。
しかしながら、特許異議申立人の主張は、実施例の比較から本件特許発明3の特定事項以外のパラメータでも評価結果が変化するとの結果のみをもって、本件特許明細書の【0018】【0021】のパラメータの技術的意義の記載との不整合を指摘しているが、上記本件特許明細書の記載は、パラメータの上下限の技術的意義を述べたもので、それ以外のパラメータで評価結果が変化をしないことを述べたものではないし、本件特許発明の評価結果は、エグミ及び臭みの低減効果、焙煎臭の強さ、二次加工適性等の総合評価で判断され、総合的に優れた結果の得られた範囲を特許請求の範囲において、可溶性タンパク質の割合、糊化した澱粉の含有量及び過熱水蒸気処理の温度を特定事項として選択し発明を特定しているにすぎない。
そして、結果として、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量が、過熱水蒸気処理の温度だけでなく、過熱水蒸気処理の時間や小麦ふすまの水分量にも影響を受けていることや、焙煎臭がアクリルアミド含有量と関連していることや過熱水蒸気処理の時間にも影響を受けていることが明細書の実施例の結果から理解できるからといって、過熱水蒸気処理の温度だけでなく時間も変化させた実施例や、水分量を変化させた実施例も検討し、一定程度の課題を解決できるとの同様の結果を得ているのであるから、それらの評価結果を変動させる可能性のあるパラメータをすべて発明の特定事項としなければ、サポート要件が満たされないことになるわけではないのは明らかである。
さらに、実施例1?23の可溶性タンパク質の割合、糊化した澱粉の含有量及び過熱水蒸気処理の温度が本件特許発明3の範囲となることで、製造された小麦ふすま加工品のエグミ及び臭みの低減効果、焙煎臭の強さ、二次加工適性等の総合評価は、一定水準以上の優れたものとなっていることも読み取れる。
したがって、上記主張のように、評価結果と過熱水蒸気温度の明確な関係がないとはいえないし、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量が、過熱水蒸気処理の時間や小麦ふすまの水分量にも影響を受けていることや、焙煎臭がアクリルアミド含有量と関連していることや過熱水蒸気処理の時間にも影響を受けていると理解できるからといって、過熱水蒸気処理の時間や小麦ふすまの水分量、アクリルアミド含有量の特定のない本件特許発明3が、当業者が課題を解決できると認識できないとはいえず、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

3 異議申立理由1の判断のまとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載について、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明の記載に記載されているといえるので、異議申立理由1には、理由がない。

異議申立理由2(実施可能要件)について
1 異議申立理由2について
特許異議申立人は、前記第3 2に記載のように実施可能要件について理由を述べている。

2 判断
(1)発明の詳細な説明の記載
異議申立理由1の2(4)に示すように、発明の詳細な説明には、本件特許発明3の特定事項に対応した小麦ふすま加工品の製造方法の関連記載を含めた記載がなされている。

(2)検討
前記異議申立理由1の2(4)のとおり、本件特許発明3の各発明特定事項に対応して、本件特許明細書には、発明特定事項の測定方法やパラメータである「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合」や「糊化した澱粉の含有量」の数値範囲の技術的意義の記載がある上に、【0016】?【0029】には、小麦ふすま加工品の製造方法についての、原料となる小麦ふすま、過熱水蒸気による処理の作用、過熱水蒸気処理の温度の上下限の技術的意義、過熱水蒸気の量、過熱水蒸気の処理時間、過熱水蒸気処理に使用する装置、加水工程、粉砕工程、平均粒径の調整方法に関する記載がそれぞれなされている。
さらに、本件特許発明3の小麦ふすま加工品の製造方法に該当する多数の具体的検証結果の記載や実施例同士の効果を含めた結果の考察の記載も存在する(満たさない比較例の結果及び考察もある。)のであるから、当業者であれば本件特許発明3の小麦ふすま加工品の製造方法を、それらの記載を参考に本件出願時の技術常識も考慮して、容易に実施することができるといえる。

特許異議申立人は、本件特許発明3について、小麦ふすま加工品の可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量とエグミ及び臭み、焙煎臭と、過熱水蒸気の温度との間に明確な関係が認められず、可溶性タンパク質の割合及び糊化した澱粉の含有量が過熱水蒸気の温度だけでなく、過熱水蒸気処理の時間や小麦ふすまの水分量にも影響を受けているので、本件特許発明3を実施するには、各種条件を設定する必要があり、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤を要するから、実施可能要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、本件の発明の詳細な説明には、可溶性タンパク質の割合、糊化した澱粉の含有量、過熱水蒸気処理の温度、過熱水蒸気処理の時間、小麦ふすまの水分量に関する記載がある上に、それらのパラメータを変化させた場合の技術的意義を含めた記載、及び評価結果を伴った実施例、比較例の記載があるのであるから、当業者が、それらの記載と本件出願時の技術常識も考慮して、本件特許発明3を実施するために、上記パラメータ(条件)を適切に設定することは、当業者に期待しうる程度を越える過度な試行錯誤であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

4 異議申立理由2の判断のまとめ
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、請求項3に係る発明を容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるので、異議申立理由2には、理由がない。

異議申立理由3(新規性)及び異議申立理由4(進歩性)について
1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、平均粒子径を20μm以下、かつ水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕することを特徴とする、小麦ふすま微粉の製造方法。
【請求項2】
原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、カオリン中石英成分の無定形化度が30%以上になる条件で粉砕することを特徴とする、小麦ふすま微粉の製造方法。
【請求項3】
前記メカノケミカル効果を有する媒体ミルが、媒体ボールミルである、請求項1又は2に記載の小麦ふすま微粉の製造方法。
【請求項4】
前記媒体ボールミルが、コンバージミルである、請求項3に記載の小麦ふすま微粉の製造方法。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載の製造方法によって得られた、含有成分が非晶質化した小麦ふすま微粉。
【請求項6】
請求項5に記載の小麦ふすま微粉を含む加工食品。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、食味が顕著に向上し、なおかつ有用成分が保持された小麦ふすま加工技術を開発することを目的とする。
また、本発明では、当該小麦ふすまを含む様々な加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて所定条件で粉砕することにより、成分が非晶質化した小麦ふすま微粉が得られることを見出した。
そして、当該処理を行った小麦ふすま微粉では、従来の小麦ふすまと比べて、舌ざわりが良くなるだけでなく、雑味の原因となる水溶性タンパク質の溶出や、独特の臭いの放散が抑えられるため、食味が顕著に向上することを見出した。
また、当該小麦ふすま微粉の製造工程では、焙煎や抽出工程がないため、ビタミンやミネラル、食物繊維、フェルラ酸などの機能性成分の分解や流亡の恐れもない。」

(1c)「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各種有用成分の分解や流亡がいずれもなく、且つ、ザラつき感や褐変、雑味の原因となる水溶性タンパク質の溶出や不快臭の放散も少ない、食味が顕著に向上した小麦ふすまを提供することが可能となる。
これにより、本発明では、小麦ふすまを食することが容易になるだけでなく、小麦ふすまを様々な加工食品へ添加することが可能となり、小麦ふすまに豊富に含まれる機能性成分、各種ビタミン、ミネラル、食物繊維などを多く含む食品の提供が可能となる。」

(1d)「【0019】
本発明の小麦ふすま微粉は、成分が非晶質化されることによって、雑味成分(特に水溶性タンパク質)や独特の臭い成分が小麦ふすま微粉に封じ込まれるため、小麦ふすまの食味が顕著に向上したものとなる。
また、上記粉砕工程では、小麦ふすまに含まれる様々な有用な成分(例えば、フェラル酸等の機能性成分、ビタミン、ミネラル、食物繊維など)の分解や流亡が起こらないため、これら有用成分を保持させることが可能となる。
なお、通常の粉砕機(気流粉砕機やジェットミル等)を用いて微粉を調製した場合、メカノケミカル効果の発現を期待することができず、成分を非晶質化させることができない。
【0020】
・水溶性タンパク質水抽出率からの非晶質化度の推定
本発明の小麦ふすま微粉では、このように成分が非晶質化することによって、水溶性タンパク質の水抽出率が未粉砕のものと比べて低下したものとなる。
従って、本発明では、水溶性タンパク質の水抽出を指標とすることによって、小麦ふすま微粉の非晶質化の度合いを推定することが可能となる。
【0021】
本発明の小麦ふすま微粉として好適な成分非晶質化度のものとしては、水溶性タンパク質の抽出率が、同条件で抽出した場合の未粉砕のものと比べて70%以下、好ましくは60%以下、さらには54%以下、のものを挙げることができる。
従って、上記微粉砕工程における粉砕時間としては、水溶性タンパク質の抽出率が当該範囲になるような時間を行うことが望ましい。
なお、水溶性タンパク質の抽出方法および定量方法は公知の方法を用いて行うことができるが、例えばブラッドフォード法を用いて、タンパク質を定量することができる。」

(1e)「【0028】
〔加工食品への応用〕
本発明の小麦ふすま微粉は、従来の小麦ふすまと比べて、食味が顕著に向上し、且つ、機能性成分も保持されたものである。従って、他の材料と配合(例えば1?50%)することによって、様々な加工食品の製造に好適に用いることができる。
特に、小麦粉を主原料とする加工食品に用いることができる。具体的には、パン、麺類、カップケーキやクッキーなどの菓子類、ピザ生地、餃子の皮、お好み焼き粉、てんぷら粉、からあげ粉など、に用いることができる。
また、小麦粉を主原料としない各種加工食品にも用いることができる。例えば、各種スープ類やごはんのふりかけに、用いることができる。
【実施例】
・・・
【0030】
〔実施例1〕 小麦ふすま微粉の製造
(1)コンバージミルを用いた粉砕
メカノケミカル効果を有する媒体ボールミルを用いて、小麦ふすま微粉を調製した。
まず、ビューラー社のテストミルを用いて小麦ふすまを得た。そして、特許第3486682号および特許第3533526号に記載の原理に基づくコンバージミル(真壁技研社製)のドラム(容量1000mL)(図1A,B参照)に、当該小麦ふすま30gと、媒体ボールとしてクロム鋼球(直径5mm)700gを投入し、回転数800rpmで、表1に示す各時間(0?120分間)粉砕することによって、小麦ふすま微粉を調製した。」

(1f)「【0033】
〔実施例2〕 水溶性タンパク質水抽出効率からの非晶質化度の推定
(1)小麦ふすま微粉からの水溶性タンパク質抽出
本発明の小麦ふすま微粉について、粉砕時間とタンパク質抽出率の関係を調べた。
まず、実施例1で得られた小麦ふすま微粉(試料1-5)各100mgに、10倍量(重量比)の蒸留水を加えて懸濁し、室温で1時間静置した。その後に再び懸濁してから、遠心(10,000×g、5分間)して上清を回収し、小麦ふすま水抽出液とした。
当該水抽出液に含まれるタンパク質の定量は、ブラッドフォード法の原理に基づくクイックスタートプロテインアッセイ(バイオラッド社)を用いて行った。なお、標準タンパク質には、ウシ血清アルブミンを用いた。結果を表2に示す。
【0034】
その結果、20分間以上の粉砕によって得られた小麦ふすま微粉(試料3-5)では、未粉砕のもの(試料1)と比べて、タンパク質の抽出率が70%以下に低下した。また、30分間以上の粉砕(試料4-5)によって60%以下に低下し、60分以上の粉砕(試料5)で55%以下に低下した。
なお、一般的な方法で微粉砕した場合には、重量当たりの表面積が増えるためにタンパク質が抽出されやすくなるが、本発明の小麦ふすま微粉では逆に、雑味の原因となる水溶性タンパク質が抽出されにくくなることが示された。
【0035】
【表2】



(1g)「【0049】
〔実施例6〕 小麦ふすま微粉を用いたカップケーキの製造
実施例1で得られた小麦ふすま微粉(試料4)を、市販薄力粉に対し重量比で20%混合した。そして、砂糖、無塩バター、卵、ベーキングパウダーと混合してから、容器に小分けし、180℃のオーブンで15分焼くことで、カップケーキを製造した(ケーキ1)。
また、対象として、小麦ふすまを全く用いずに、同様にして通常のカップケーキを製造した(ケーキ2)。
また、比較対照として、未粉砕の小麦ふすま(試料1)を用いて、同様にしてカップケーキを製造した(ケーキ3)。
【0050】
その結果、小麦ふすま微粉を加えて製造した場合(ケーキ1:本発明)、小麦ふすま微粉を加えない通常のもの(ケーキ2:対照)と比べて、ケーキの膨らみに遜色がなかった。また、味や香りの点では、むしろ通常のものよりも評価が高かった。
一方、未粉砕の小麦ふすまを加えた場合(ケーキ3:比較対象)、独特の臭いが強く、評価が低かった。」

(2)甲第2号証
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 小麦ふすまを脱脂した後、焙焼し、次いで粉砕することを特徴とする微粉砕小麦ふすまの製造方法。
【請求項2】 小麦ふすまの脂肪率が3重量%以下となるまで脱脂することを特徴とする請求項1記載の微粉砕小麦ふすまの製造方法。
【請求項3】 小麦ふすまの含水率が5重量%以下となるまで焙焼することを特徴とする請求項1または2記載の微粉砕小麦ふすまの製造方法。」

(2b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開昭62-87061号公報、特開平5-304915号公報、及び特開昭63-17674号公報の技術では、小麦ふすまを粒径の小さい微粉砕物とすることが困難で、保存安定性の向上が認められない。また特開平7-28697号公報では食感がざらつくという欠点を解決することができない。また水洗に伴う廃液が多量に発生するとともに、脱水、乾燥に時間、労力を要し、非常に効率が悪い。
【0006】したがって本発明は、食感のざらつきがなく、かつ保存安定性も向上した微粉砕化した小麦ふすまを、容易かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、小麦ふすまを脱脂し、次いで焙焼処理すれば、食感のざらつきがなく、また保存安定性にも優れた微粉砕小麦ふすまを容易かつ効率的に製造することができることを見出し、本発明を完成させた。」

(2c)「【0017】参考例1
オーストラリア産のスタンダード小麦のふすまを、クッカーを用いて0.5kg/cm^(2) で4分間蒸煮した後、98?100℃で8?10分間乾熱処理した。次いでこれをターボミルT-250を用いて粉砕した後、篩分けを行い、マイクロトラックFSAで測定した平均粒径(中央累積値、50%粒径、以下同じ)が、それぞれ18μm、33μm、40μm、46μmである4サンプルを得た。
【0018】参考例2
参考例1で得られた4サンプルを、一食あたり約5gの食物繊維(一食あたりの食物繊維摂取量の目安)が摂取できるように配合して、ホットケーキ、食パン、クッキー、ケーキマフィンを製造した。すなわちホットケーキは、ミックス中の小麦粉の26.6重量%(ミックスの20重量%)を上記サンプルで置換した以外は常法にしたがって製造した。食物繊維含量は5重量%であった。食パンは、ミックス中の小麦粉の9重量%(ミックスの7.9重量%)を上記サンプルで置換した以外は常法にしたがって製造した。食パンスライス2枚(70g×2)中の食物繊維含量は4gであった。またクッキーは、ミックス中の小麦粉の33.5重量%(ミックスの20重量%)を上記サンプルで置換した以外は常法にしたがって製造した。クッキー1枚(12g)中の食物繊維含量は1gであった。さらにケーキマフィンは、小麦粉の15重量%を上記サンプルで置換した以外は常法にしたがって製造した。ケーキマフィン1個(60g)あたりの食物繊維含量は2.5gであった。また対照として未処理小麦粉のみを用いてホットケーキ、食パン、クッキー、ケーキマフィンを製造した。」

(2d)「【0022】実施例1
オーストラリア産のスタンダードホワイト小麦のふすまを、10倍量のn-ヘキサンに室温下にて24時間浸漬した後、濾過及び加温してn-ヘキサンを除去させ(脱脂処理)、脂肪率を2重量%とした。次いで30分間で130℃まで昇温し、同温度で1時間乾熱処理し(焙焼処理)、水分含量を2重量%とした。これを超遠心粉砕機(Retsch社製)を用い、小麦ふすまの供給量を210?400g/時間の範囲で変化させて、微粉砕化した。」

(3)甲第3号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉または小麦粉及び澱粉からなる原料粉を焙焼するにあたり、未処理の原料粉のグルテンバイタリティを100としたときに、そのグルテンバイタリティが10?65になるように、加水することなく、品温110?160℃の条件下で50?150分間焙焼することを特徴とする、焼き菓子類用の焙焼小麦粉の製造法。
【請求項2】
小麦粉または小麦粉及び澱粉からなる原料粉を、未処理の原料粉のグルテンバイタリティを100としたときに、そのグルテンバイタリティが10?65になるように、加水することなく、品温110?160℃の条件下で50?150分間焙焼することによって得られる焙焼小麦粉を含有することを特徴とする、焼き菓子類用組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、焼き菓子類用の焙焼小麦粉の製造法およびその焙焼小麦粉を含有する焼き菓子類用組成物に関する。」

(3b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者等は、従来の種々の小麦粉を使用した場合に発生する、生地のべたつきを抑えるなど、その加工適性を向上させ、かつ粉臭さを解消し適度な焙焼香を有する焙焼小麦粉を得るべく、種々研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。
【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、小麦粉または小麦粉及び澱粉からなる原料粉を焙焼するにあたり、未処理の原料粉のグルテンバイタリティを100としたときに、そのグルテンバイタリティが10?65になるように、加水することなく、品温110?160℃の条件下で50?150分間焙焼することを特徴とする、焼き菓子類用の焙焼小麦粉の製造法である。
そして、本発明は、小麦粉または小麦粉及び澱粉からなる原料粉を、未処理の原料粉のグルテンバイタリティを100としたときに、そのグルテンバイタリティが10?65になるように、加水することなく、品温110?160℃の条件下で50?150分間焙焼することによって得られる焙焼小麦粉を含有することを特徴とする、焼き菓子類用組成物である。」

(3c)「【0012】
本発明における小麦粉のグルテンバイタリティは下記のようにして測定する。
[グルテンバイタリティの測定法]
(1)小麦粉の可溶性粗蛋白含量の測定:
(a)100mL容のビーカーに試料(小麦粉)を2g精秤して入れる。
(b)上記のビーカーに0.05規定酢酸40mLを加えて、室温で60分間撹拌して懸濁液を調製する。
(c)上記(b)で得た懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(d)上記で用いたビーカーを0.05規定酢酸40mLで洗って洗液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(e)上記(c)および(d)で回収した濾液を一緒にして100mLにメスアップする。
(f)ティケーター社(スウェーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに上記(e)で得られた液体の25mLをホールピペットで入れて、分解促進剤(日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」;硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(重量比))1錠および濃硫酸15mLを加える。
(g)上記したケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015型)を用いて、ダイヤル4で1時間分解処理を行い、さらにダイヤル9または10で1時間分解処理を自動的に行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型)を用いて、その分解処理を行った液体を蒸留および滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白含量を求める。
【0013】
(数1)
可溶性粗蛋白含量(%)=0.14×(T-B)×F×N×(100/S)×(1/25)
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定するかまたは力価の表示のある市販品を用いる)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0014】
(2)小麦粉の全粗蛋白含量の測定:
(a)上記(1)で用いたのと同じティケーター社のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、試料(小麦粉)を0.5g精秤して入れ、これに上記(1)の(f)で用いたのと同じ分解促進剤1錠および濃硫酸5mLを加える。
(b)上記(1)で用いたのと同じケルテックオートシステムのケルテック分解炉を用いて、ダイヤル9または10で1時間分解処理を行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれている上記(1)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、前記で分解処理を行った液体を蒸留および滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の全粗蛋白含量を求める。
【0015】
(数2)
全粗蛋白含量(%)=(0.14×T×F×N)/S)
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0016】
(3)グルテンバイタリティの算出:
上記(1)で求めた試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白含量及び上記(2)で求めた試料(小麦粉)の全粗蛋白含量から、下記の数式により試料(小麦粉)のグルテンバイタリティを求め、未処理の試料(小麦粉)のグルテンバイタリティを100としたときの相対値として表す。
【0017】
(数3)
グルテンバイタリティ(%)=(可溶性粗蛋白含量/全粗蛋白含量)×100
【0018】
上記した方法により得られた焙焼小麦粉を本発明の焼き菓子類用組成物の原材料として使用する。」

(3d)「【0021】
【表1】

・・・
【0024】
[参考例1?3および比較参考例1?4]
薄力粉100部を表4に示す加熱条件により焙焼処理を行った。得られた各焙焼小麦粉55g、サラダ油75g、水2400cc、牛すね肉300g、鶏皮100g、ベーコン20g、玉葱の薄切り40g、ニンジンの薄切り20g、トマト300gを用い、ブラウンソースを製造した。これらのブラウンソースについて各々表5に示す項目について10人のパネラーで5段階で評価した。その結果を表4に示す。
【0025】
【表4】



(4)甲第4号証
本願の出願前に外国で頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(4a)「1.食品の栄養価を高めるための方法であって、以下:
a.穀物ふすまを前処理すること、
b.0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理すること、ここで、該水分活性レベルは、SHSの実際の絶対圧力をSHSの実際の温度を有する飽和水蒸気の圧力で除した値として定義される、及び
c.前のステップで得られた穀物ふすまを食品または半製品に添加すること、を含む方法。
・・・
4.前記SHSが110?200℃の範囲の温度で実施される、請求項1に記載の方法。」
(請求の範囲1,4)

(4b)「さらなる実施形態において、本発明の方法において、ふすまは、小麦ふすま、米ぬか、トウモロコシふすま、オートブラン、大麦ふすまおよび雑穀ふすま、好ましくは小麦ふすままたはトウモロコシふすまから選択される。また、好ましい実施形態では、SHS処理は、110?200℃の範囲、より好ましくは120?160℃の範囲の温度で実施される。」([0011])

(4c)「インキュベーション後、穀物ふすまは蒸気プロセスに置かれるか、より一般的には、過熱水蒸気が材料を通して導かれることができる環境、好ましくは閉鎖した環境に置かれる。SHSを用いた全修飾プロセスは、好ましくは加圧下で実施される。SHSでのこの修飾プロセス中にも乾燥が行われるため、元の出発時よりも水分量が低い穀物ふすまバイオマスが得られる。それは、大気圧(1バール)から10バールまでの圧力下で実施することができるが、好ましくは、2?7、より好ましくは約4バールの圧力下で実施される。」([0054])

(4d)「約100℃から220℃の間の温度の水蒸気(過熱水蒸気、SHS) が生成され、穀物ふすまとともにチャンバーを通って導かれる。好ましくは、約120℃?160℃の蒸気が使用される。」([0055])

(4e)「マイクロパンは、5%の小麦ふすまを加えて配合された。未処理のふすまの添加は、対照と比較して、パン粉にわずかな灰色の色合いを引き起こした。この効果は、SHSで処理されたふすまでより強かった。より高温で処理されたふすまを含むパンでは、パン粉はより暗く、灰色の色調がより顕著であった。色の濃さは、ふすまの発色と一致していた。より高温により、材料中により多くの分解生成物が形成された。味評価は、120℃および140℃で処理されたふすまで製造されたパンにおける好ましいナッツと焙煎の風味を明らかにした。160℃に加熱されたふすまは、より苦い風味を有する傾向があった。」([0118])

(5)甲第5号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。
(5a)「特許請求の範囲
1 食物繊維として穀類ふすまを主材とし、これに醗酵乳および麦芽エキスを混合し不定形粒状とすることを特徴とした食物繊維を主体とする栄養補助食品
2 主材の穀類ふすまは180?290℃の過熱水蒸気による殺菌と膨化処理をすることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の食物繊維を主体とする栄養補助食品
3 穀類ふすまを50?80%、醗酵乳を10?40%、麦芽エキスを10?20%とすることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の食物繊維を主体とする栄養食品」

(5b)「この発明は、食生活において食べても消化されずそのまま排泄されてしまう食物成分の植物繊維を食べやすく、しかも醗酵乳を配合することにより整腸効果をねらい、栄養価の高い麦芽エキスを加えておいしくした食物繊維を主体とする栄養補助食品に関するものである。
近来白米を主食とし、大麦を混入することがなくなったり、小麦もふすまを除いて食用に供するなどの為に食物繊維が不足する傾向にあるが、食物繊維はそのままでは食用に不適当であるが、この発明はこれを処理することによりおいしく手軽に供給することを目的として開発したものです。
従来食物繊維製品として天然多糖類を用いた製剤すなわちマンナン系の膨潤剤、グアーガム・ローカストビーンガム等の天然多糖類、ペクチン等があるが、水とともに飲用する際に味が悪るく、歯や口腔の奥に接触するとその周辺の水分を吸つてくつつき不快な状態となつたりして服用しずらいのみならず、整腸作用にもこと欠き、食品とし要件を欠く問題点があつた。然るにこの発明は食物繊維として小麦粒中に11%含有しているふすまの活用を考え、栄養的価値を高めるようにしたものである。前記ふすまは通常食品としての衛生的処理がなされておらず、消化の点でも問題あるが、この発明では過熱水蒸気を使用して180℃?300℃の加熱によりこれらの問題を解決したのである。」(1頁左下欄下から3行?2頁左上欄3行)

(5c)「従つてこの発明は産業的にも価値のあるものと考えられる。すなわち食べにくく、食用として衛生的でない副産物の穀類ふすまをおいしく、しかも有用なものとして、安価に栄養補助に役立つ食品としたことは大変意義のあるものである。」(2頁右上欄3?7行)

2 甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて小麦ふすまを粉砕する小麦ふすま微粉の製造方法及び得られた成分が非晶質化した小麦ふすま微粉に関する文献であって、請求項1を引用する請求項5に係る発明として(摘記(1a))、以下の発明が記載されているといえる。

「原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、平均粒子径を20μm以下、かつ水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕する小麦ふすま微粉の製造方法によって得られた含有成分が非晶質化した小麦ふすま微粉」に係る発明(以下「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、摘記(2a)の請求項1に対応した実施例1の製造方法で製造した微粉砕化した小麦ふすまに関して、「実施例1
オーストラリア産のスタンダードホワイト小麦のふすまを、10倍量のn-ヘキサンに室温下にて24時間浸漬した後、濾過及び加温してn-ヘキサンを除去させ(脱脂処理)、脂肪率を2重量%とした。次いで30分間で130℃まで昇温し、同温度で1時間乾熱処理し(焙焼処理)、水分含量を2重量%とした。これを超遠心粉砕機(Retsch社製)を用い、小麦ふすまの供給量を210?400g/時間の範囲で変化させて、微粉砕化した。」(摘記(2d))との記載があるので、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「オーストラリア産のスタンダードホワイト小麦のふすまを、10倍量のn-ヘキサンに室温下にて24時間浸漬した後、濾過及び加温してn-ヘキサンを除去させ(脱脂処理)、脂肪率を2重量%とし、次いで30分間で130℃まで昇温し、同温度で1時間乾熱処理し(焙焼処理)、水分含量を2重量%とし、超遠心粉砕機(Retsch社製)を用い、小麦ふすまの供給量を210?400g/時間の範囲で変化させて、微粉砕化して製造した微粉砕小麦ふすま」に係る発明(以下「甲2発明」という。)。

(3)甲第4号証記載の発明
甲第4号証は、請求項1を引用する請求項4に係る発明として(摘記(4a))、以下の発明が記載されているといえる。

「食品の栄養価を高めるための方法であって、以下:
a.穀物ふすまを前処理すること、
b.0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理すること、ここで、該水分活性レベルは、SHSの実際の絶対圧力をSHSの実際の温度を有する飽和水蒸気の圧力で除した値として定義される、及び
c.前のステップで得られた穀物ふすまを食品または半製品に添加すること、を含み、
前記SHSが110?200℃の範囲の温度で実施される方法」に係る発明(以下、「甲4方法発明」という。)

また、上記製造方法によって、穀物ふすまを添加した食品又は半製品が製造されているのであるから、以下の発明も記載されているといえる。

「食品の栄養価を高めるための方法によって製造された食品又は半製品であって、以下:
a.穀物ふすまを前処理すること、
b.0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理すること、ここで、該水分活性レベルは、SHSの実際の絶対圧力をSHSの実際の温度を有する飽和水蒸気の圧力で除した値として定義される、及び
c.前のステップで得られた穀物ふすまを食品または半製品に添加すること、を含み、
前記SHSが110?200℃の範囲の温度で実施される方法によって製造された半製品又は食品」に係る発明(以下、「甲4発明」という。)

(4)甲第5号証に記載された発明
甲第5号証は、食生活において食べても消化されずそのまま排泄されてしまう食物成分の植物繊維を食べやすく、しかも醗酵乳を配合することにより整腸効果をねらい、栄養価の高い麦芽エキスを加えておいしくした食物繊維を主体とする栄養補助食品に関する文献であって(摘記(5b))、請求項1を引用する請求項2に係る発明として(摘記(5a))、以下の発明が記載されているといえる。

「食物繊維として180?290℃の過熱水蒸気による殺菌と膨化処理をした穀類ふすまを主材とし、これに醗酵乳および麦芽エキスを混合し不定形粒状とした食物繊維を主体とする栄養補助食品」に係る発明(以下「甲5発明」という。)。

3 対比・判断
甲第1号証に記載された発明との対比・判断(異議申立理由3-1、4-1、4-2について)
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、平均粒子径を20μm以下、かつ水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕する小麦ふすま微粉の製造方法によって得られた含有成分が非晶質化した小麦ふすま微粉」は、本件特許明細書において「加工品」の定義を特にしておらず、甲1発明は、少なくとも原料である小麦ふすまをメカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて粉砕加工しているのであるから、本件特許発明1の「小麦ふすま加工品」に該当する。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、
「小麦ふすま加工品。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件特許発明1においては、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることが特定されているのに対して、甲1発明においては、水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕する」ことが特定されているものの、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合の特定のない点。

相違点2-1:本件特許発明1においては、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことが特定されているのに対して、甲1発明においては、糊化した澱粉の含有量の特定のない点。

イ 判断
(ア)相違点1-1について
a 甲第1号証においては、甲1発明の認定の根拠となった特許請求の範囲の記載及び他の記載においても、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることについては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第1号証において、原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、平均粒子径を20μm以下、かつ水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕して小麦ふすま微粉を製造したことで、含有成分が非晶質化して水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるとの記載があるものの、該記載によって、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であることが記載されているに等しいといえないことは明らかで、本件出願時の技術常識でもない。
したがって、相違点1-1は、実質的な相違点である。

b そして、甲第1号証には、「小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて所定条件で粉砕することにより、成分が非晶質化した小麦ふすま微粉が得られることを見出し、当該処理を行った小麦ふすま微粉では、従来の小麦ふすまと比べて、舌ざわりが良くなるだけでなく、雑味の原因となる水溶性タンパク質の溶出や、独特の臭いの放散が抑えられるため、食味が顕著に向上することを見出した」(摘記(1b))と記載されており、雑味の原因となる水溶性タンパク質の溶出や、独特の臭いの放散が処理後結果的に抑えられることの認識があるにとどまり、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて所定条件で粉砕することにより、成分が非晶質化した小麦ふすま微粉を得ることを必須の解決手段とする発明であることが記載されているのであるから、甲1発明において、敢えてタンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に着目し、その割合を8.5?13%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に関する記載が全くないのであるから動機付けがないことは明らかである。

d したがって、甲1発明において、相違点1-1は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(イ)相違点2-1について
a 甲第1号証においては、甲1発明の認定の根拠となった特許請求の範囲の記載及び他の記載においても、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことについては、小麦ふすま加工品中の糊化した澱粉及びその割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第1号証において、原料である小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて、100℃以下の条件下において、平均粒子径を20μm以下、かつ水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕して小麦ふすま微粉を製造したことで、含有成分が非晶質化して水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるとの記載があるものの、該記載によって、糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%であることが記載されているに等しいといえないことは明らかで、本件出願時の技術常識でもない。
したがって、相違点2-1は、実質的な相違点である。

b そして、甲第1号証には、「小麦ふすまを、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて所定条件で粉砕することにより、成分が非晶質化した小麦ふすま微粉が得られることを見出し、当該処理を行った小麦ふすま微粉では、従来の小麦ふすまと比べて、舌ざわりが良くなるだけでなく、雑味の原因となる水溶性タンパク質の溶出や、独特の臭いの放散が抑えられるため、食味が顕著に向上することを見出した」(摘記(1b))と記載されており、雑味の原因となる水溶性タンパク質の溶出や、独特の臭いの放散が処理後結果的に抑えられることの認識があるにとどまり、メカノケミカル効果を有する媒体ミルを用いて所定条件で粉砕することにより、成分が非晶質化した小麦ふすま微粉を得ることを必須の解決手段とする発明であることが記載されているのであるから、甲1発明において、敢えて糊化した澱粉の含有量に着目し、その割合を1?6.8質量%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、糊化した澱粉の含有量に関する記載が全くないのであるから動機付けがないことは明らかである。

d したがって、甲1発明において、相違点2-1は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定したように、
「小麦ふすま加工品」であって、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であり、糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」との構成を採用することで、本件特許明細書【0007】に記載される「小麦ふすま本来の風味を有し、且つ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが低減された小麦ふすま加工品を提供することができる。」という予測できない顕著な効果を奏している。

(エ)特許異議申立人の主張について
a 特許異議申立人は、甲第1号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものにおいて、【0018】?【0020】の記載を指摘し、通常の粉砕を行ったものは、非晶質化していないもので、未粉砕のものと可溶性タンパク質量が同等であるとの推定のもと、本件特許明細書の比較例5,6,7,8の可溶性タンパク質量の値から「水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕する」との特定事項を参考に非晶質化した上記甲第1号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものの可溶性タンパク質量を計算すると本件特許発明の値に該当する蓋然性が高い旨主張している。
しかしながら、本件特許発明1の「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合」と甲第1号証の「水溶性タンパク質の抽出率」との間の技術的意味の異同はさておき、本件特許発明1の小麦ふすま加工品と甲第1号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものとは、原材料が同一であるとはいえないし、加工処理条件が全く異なるのであるから、本件特許明細書の比較例の可溶性タンパク質量の値を用いた甲第1号証に記載された発明に関する計算自体に意味がなく、さらに、甲第1号証の【0018】?【0020】には、非晶質化によって水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕のものに比べて低下したことや通常の粉砕機で非晶質化ができなかったことが記載されているにとどまり、通常の粉砕を行ったものは、非晶質化していないもので、未粉砕のものと可溶性タンパク質量が同等であるとの推定までができるとはいえず、この点でも計算の前提が成り立つとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

b 特許異議申立人は、甲第1号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものにおいて、甲第1号証の処理は、澱粉の糊化を進行させるものでないので、未粉砕のものと糊化した澱粉の含有量が同等であるとの推定のもと、本件特許明細書の比較例5,6,7,8の糊化した澱粉の含有量の値から上記甲第1号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものの糊化した澱粉の含有量の値を仮定すると本件特許発明の値に該当する蓋然性が高い旨主張している。
しかしながら、本件特許発明1の小麦ふすま加工品と甲第1号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものとは、原材料が同一であるとはいえないし、加工処理条件が全く異なるのであるから、本件特許明細書の比較例の糊化した澱粉の含有量の値を用いた甲第1号証に記載された発明に関する値の推定自体に意味がなく、さらに、澱粉の糊化は様々な要因で増減するのは当然で、甲第1号証の処理が、澱粉の糊化を進行させるものでなく、未粉砕のものと糊化した澱粉の含有量が同等であるとの推定、通常の粉砕を行ったものが未粉砕のものと糊化した澱粉の含有量が同等であるとの推定ができるとはいえず、この点でも上記仮定が成り立つとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

c 特許異議申立人は、甲第1号証記載の発明において、小麦ふすまの食味の向上等の目的のために、粉砕や加熱処理の条件を適宜変更する程度のことは、設計事項であり、結果として必然的に、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合も、糊化した澱粉の含有量も、本件特許発明1の数値範囲のものを容易に製造できた旨主張している。
しかしながら、甲第1号証記載の発明において、粉砕や加熱処理の条件を変更する具体的設計思想は何ら示されておらず、甲第1号証記載の発明の課題解決のための手段であるメカノケミカル効果を有する媒体を用いた粉砕を変更して、本件特許明細書の製造方法を採用する動機付けはないし、製造された小麦ふすま加工品のタンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合や、糊化した澱粉の含有量が、本件特許発明1の数値範囲のものとなる合理的根拠もない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ 甲1発明との対比・判断のまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(2)本件特許発明2,4,5について
ア 本件特許発明2,4,5は、いずれも、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)アで論じたのと同様の相違点を有する。

イ 本件特許発明2は、「パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である」点がさらに特定されており、甲1発明との間で、以下の相違点1-1、2-1に対応する相違点1’-1、2’-1に加えて、新たな相違点として、以下の相違点3-1が存在する。
相違点1’-1:本件特許発明2においては、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることが特定されているのに対して、甲1発明においては、水溶性タンパク質の抽出率が未粉砕と比べ70%以下になるように粉砕する」ことが特定されているものの、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合の特定のない点。
相違点2’-1:本件特許発明2においては、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことが特定されているのに対して、甲1発明においては、糊化した澱粉の含有量の特定のない点。
相違点3-1:本件特許発明2は、小麦ふすま加工品が、「パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である」ことが特定されているものの、甲1発明においては、用途の特定のない点。

相違点の判断(特許異議申立理由3-1,4-2)
甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、小麦ふすま加工品の用途に関しての記載があるものの、相違点3-1の判断をするまでもなく、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明2と甲1発明との対比における、本件特許発明1と甲1発明との対比における相違点1-1、2-1に対応する相違点1’-1、2’-1が実質的相違点であり、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

エ したがって、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

オ 本件特許発明4,5は、それぞれ、本件特許発明1の小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物、食品として特定したものにすぎず、それらの特定に伴う新たな相違点として、それぞれ、以下の相違点3’-1、相違点3’’-1を有する。
相違点3’-1:本件特許発明4は、小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物と特定されているのに対して、甲1発明は、小麦ふすま微粉である点。
相違点3’’-1:本件特許発明5は、小麦ふすま加工品を含む食品と特定されているのに対して、甲1発明は、小麦ふすま微粉である点。

そして、いずれの場合も、上記(1)アで論じたのと同様の相違点を有し、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、小麦ふすま加工品の食品用途に関しての記載があるものの、上記相違点3’-1、相違点3’’-1の判断をするまでもなく、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明4又は本件特許発明5と甲1発明との対比における、本件特許発明1と甲1発明との対比における相違点1-1、2-1に対応する、それぞれ、相違点1’’-1、2’’-1、相違点1’’’-1、2’’’-1が実質的相違点であり、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

カ したがって、本件特許発明4,5は、いずれも、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

(3)甲第1号証記載の発明に関する、異議申立理由3-1、4-1、4-2についてのまとめ
以上のとおり、甲第1号証記載の発明に関する、異議申立理由3-1、4-1、4-2については理由がない。

甲第2号証に記載された発明との対比・判断(異議申立理由3-2、4-1、4-2について)
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「オーストラリア産のスタンダードホワイト小麦のふすまを、10倍量のn-ヘキサンに室温下にて24時間浸漬した後、濾過及び加温してn-ヘキサンを除去させ(脱脂処理)、脂肪率を2重量%とし、次いで30分間で130℃まで昇温し、同温度で1時間乾熱処理し(焙焼処理)、水分含量を2重量%とし、超遠心粉砕機(Retsch社製)を用い、小麦ふすまの供給量を210?400g/時間の範囲で変化させて、微粉砕化して製造した微粉砕小麦ふすま」は、本件特許明細書において「加工品」の定義を特にしておらず、甲2発明は、少なくとも原料である小麦ふすまを、脱脂処理、焙焼処理、微粉砕化して製造した微粉砕小麦ふすまであるから、本件特許発明1の「小麦ふすま加工品」に該当する。
したがって、本件特許発明1は、甲2発明と、
「小麦ふすま加工品。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-2:本件特許発明1においては、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることが特定されているのに対して、甲2発明においては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合の特定のない点。

相違点2-2:本件特許発明1においては、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことが特定されているのに対して、甲2発明においては、糊化した澱粉の含有量の特定のない点。

イ 判断
(ア)相違点1-2について
a 甲第2号証においては、甲2発明の認定の根拠となった実施例1の記載及び他の記載においても、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることについては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第2号証において、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であることが記載されているに等しいといえる、本件出願時の技術常識もない。
したがって、相違点1-2は、実質的な相違点である。

b そして、甲第2号証には、「小麦ふすまを脱脂した後、焙焼し、次いで粉砕することを特徴とする微粉砕小麦ふすまの製造方法。」(摘記(2a))との記載及び「本発明は、食感のざらつきがなく、かつ保存安定性も向上した微粉砕化した小麦ふすまを、容易かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。・・・【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、小麦ふすまを脱脂し、次いで焙焼処理すれば、食感のざらつきがなく、また保存安定性にも優れた微粉砕小麦ふすまを容易かつ効率的に製造することができることを見出し、本発明を完成させた。」(摘記(2b))との記載を考慮すれば、食感のざらつきがなく、かつ保存安定性も向上した微粉砕化した小麦ふすまを、容易かつ効率的に製造する方法の提供を目的とし、脱脂した後、焙焼し、次いで粉砕することを必須の解決手段とする発明であることが記載されているのであるから、甲2発明において、敢えてタンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に着目し、その割合を8.5?13%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に関する記載が全くないのであるから動機付けにならないことは明らかである。

d したがって、甲2発明において、相違点1-2は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(イ)相違点2-2について
a 甲第2号証においては、甲2発明の認定の根拠となった実施例1の記載及び他の記載においても、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことについては、小麦ふすま加工品中の糊化した澱粉及びその割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第2号証において、本件出願時の技術常識を考慮しても、糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%であることが記載されているに等しいといえないことは明らかである。
したがって、相違点2-1は、実質的な相違点である。

b そして、甲第2号証には、上述のとおり、食感のざらつきがなく、かつ保存安定性も向上した微粉砕化した小麦ふすまを、容易かつ効率的に製造する方法の提供を目的とし、脱脂した後、焙焼し、次いで粉砕することを必須の解決手段とする発明であることが記載されているのであるから、甲2発明において、敢えて糊化した澱粉の含有量に着目し、その割合を1?6.8質量%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、糊化した澱粉の含有量に関する記載が全くないのであるから動機付けがないことは明らかである。

d したがって、甲2発明において、相違点2-2は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定した構成を採用することで、本件特許明細書【0007】に記載される「小麦ふすま本来の風味を有し、且つ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが低減された小麦ふすま加工品を提供することができる。」という予測できない顕著な効果を奏している。

(エ)特許異議申立人の主張について
a 特許異議申立人は、甲第2号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものにおいて、甲第3号証の表1,4のグルテンバイタリティの乾熱処理の温度上昇や時間との相関関係の結果を利用し、本件特許明細書の比較例5,6,7,8の可溶性タンパク質量の値から甲第3号証の表1,4の未処理の場合の値と処理時の変化割合を参考に、上記甲第2号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものの可溶性タンパク質量を計算すると本件特許発明の値に該当する蓋然性が高い旨主張している。
しかしながら、本件特許発明1の「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合」と甲第2号証の「グルテンバイタリティ」との間の技術的意味の異動はさておき、本件特許発明1の小麦ふすま加工品と甲第2号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものとは、原材料が同一であるとはいえないし、加工処理条件が全く異なるのであるから、本件特許明細書の比較例の可溶性タンパク質量の値を用いた甲第2号証に記載された発明に関する計算自体に意味がなく、さらに、甲第3号証の表1,4のグルテンバイタリティの乾熱処理の温度上昇や時間との相関関係の結果を利用したり、甲第3号証の表1,4の未処理の場合の値と処理時の変化割合を参考にすることにも根拠がなく、この点でも計算の前提が成り立つとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

b 特許異議申立人は、甲第2号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものにおいて、甲第2号証の処理は、澱粉の糊化を進行させるものでないので、未粉砕のものと糊化した澱粉の含有量が同等であるとの推定のもと、本件特許明細書の比較例5,6,7,8の糊化した澱粉の含有量の値から上記甲第2号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものの糊化した澱粉の含有量の値を仮定すると本件特許発明の値に該当する蓋然性が高い旨主張している。
しかしながら、本件特許発明1の小麦ふすま加工品と甲第2号証に記載された発明である小麦ふすまを加工したものとは、原材料が同一であるとはいえないし、加工処理条件が全く異なるのであるから、本件特許明細書の比較例の糊化した澱粉の含有量の値を用いた甲第2号証に記載された発明に関する値の推定自体に意味がなく、さらに、澱粉の糊化は様々な要因で増減するのは当然で、甲第2号証の処理が、澱粉の糊化を進行させるものでなく、未粉砕のものと糊化した澱粉の含有量が同等であるとの推定、実施例1の乾熱処理が未粉砕のものと糊化した澱粉の含有量が同等であるとの推定ができるとはいえず、この点でも上記仮定が成り立つとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

c 特許異議申立人は、甲第2号証記載の発明において、食感や保存安定性等の目的のために、粉砕や加熱処理の条件を適宜変更する程度のことは、設計事項であり、結果として必然的に、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合も、糊化した澱粉の含有量も、本件特許発明1の数値範囲のものを容易に製造できた旨主張している。
しかしながら、甲第2号証記載の発明において、粉砕や加熱処理の条件を変更する具体的設計思想は何ら示されておらず、甲第2号証記載の発明の課題解決のための手段である脱脂した後、焙焼し、次いで粉砕する製造方法を変更して、本件特許明細書の製造方法を採用する動機付けはないし、製造された小麦ふすま加工品のタンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合や、糊化した澱粉の含有量が、本件特許発明1の数値範囲のものとなる合理的根拠もない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ 甲2発明との対比・判断のまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第3号証を参照しても、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(2)本件特許発明2,4,5について
ア 本件特許発明2,4,5は、いずれも、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)アで論じたのと同様の相違点を有する。

イ 本件特許発明2は、「パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である」点がさらに特定されており、甲2発明との間で、新たな相違点として、以下の相違点3-2が存在する。

相違点3-2:本件特許発明2は、小麦ふすま加工品が、「パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である」ことが特定されているものの、甲2発明においては、用途の特定のない点。

相違点の判断(特許異議申立理由3-2,4-2)
甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、小麦ふすま加工品の用途に関しての記載があるものの、相違点3-2の判断をするまでもなく、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明2と甲1発明との対比における、本件特許発明1と甲2発明との対比における相違点1-2、2-2に対応する相違点1’-2、2’-2が実質的相違点であり、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

エ したがって、本件特許発明2は、甲第3号証を参照しても、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

オ 本件特許発明4,5は、それぞれ、本件特許発明1の小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物、食品として特定したものにすぎず、それらの特定に伴う新たな相違点として、それぞれ、以下の相違点3’-2、相違点3’’-2を有する。

相違点3’-2:本件特許発明4は、小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物と特定されているのに対して、甲2発明は、微粉砕小麦ふすまである点。
相違点3’’-2:本件特許発明5は、小麦ふすま加工品を含む食品と特定されているのに対して、甲2発明は、微粉砕小麦ふすまである点。

そして、いずれの場合も、上記(1)アで論じたのと同様の相違点を有し、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、小麦ふすま加工品の食品用途に関しての記載があるものの、上記相違点3’-1、相違点3’’-1の判断をするまでもなく、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明4又は本件特許発明5と甲2発明との対比における、本件特許発明1と甲2発明との対比における相違点1-2、2-2に対応する、それぞれ、相違点1’’-2、2’’-2、相違点1’’’-2、2’’’-2が実質的相違点であり、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

カ したがって、本件特許発明4,5は、いずれも、甲第3号証を参照しても、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

甲第4号証に記載された発明との対比・判断(異議申立理由4-1、4-2、4-3について)
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「食品の栄養価を高めるための方法によって製造された食品又は半製品であって、以下:
a.穀物ふすまを前処理すること、
b.0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理すること、ここで、該水分活性レベルは、SHSの実際の絶対圧力をSHSの実際の温度を有する飽和水蒸気の圧力で除した値として定義される、及び
c.前のステップで得られた穀物ふすまを食品または半製品に添加すること、を含み、
前記SHSが110?200℃の範囲の温度で実施される方法によって製造された半製品又は食品」は、本件特許明細書において「加工品」の定義を特にしておらず、甲4発明は、少なくとも原料である穀物ふすまである小麦ふすまを、前処理、0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で処理して製造した「半製品」であるから、本件特許発明1の「小麦ふすま加工品」に該当する。
したがって、本件特許発明1は、甲4発明と、
「小麦ふすま加工品。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-4:本件特許発明1においては、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることが特定されているのに対して、甲4発明においては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合の特定のない点。

相違点2-4:本件特許発明1においては、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことが特定されているのに対して、甲4発明においては、糊化した澱粉の含有量の特定のない点。

イ 判断
(ア)相違点1-4について
a 甲第4号証においては、甲4発明の認定の根拠となった特許請求の範囲の記載及び他の記載においても、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることについては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第4号証において、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であることが記載されているに等しいといえる、本件出願時の技術常識もない。
したがって、相違点1-4は、実質的な相違点である。

b そして、甲第4号証には、「インキュベーション後、穀物ふすまは蒸気プロセスに置かれるか、より一般的には、過熱水蒸気が材料を通して導かれることができる環境、好ましくは閉鎖した環境に置かれる。SHSを用いた全修飾プロセスは、好ましくは加圧下で実施される。SHSでのこの修飾プロセス中にも乾燥が行われるため、元の出発時よりも水分量が低い穀物ふすまバイオマスが得られる。それは、大気圧(1バール)から10バールまでの圧力下で実施することができるが、好ましくは、2?7、より好ましくは約4バールの圧力下で実施される。」(摘記(4c))との記載を考慮すれば、好ましくは閉鎖した環境で、好ましくは、2?7、より好ましくは約4バールの圧力下で実施されることが示唆されており、前処理と「0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理」することを必須の解決手段とする発明であることが記載されているのであるから、甲4発明において、敢えてタンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に着目し、その割合を8.5?13%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に関する記載が全くないのであるから動機付けがないことは明らかである。

d したがって、甲4発明において、相違点1-4は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(イ)相違点2-4について
a 甲第4号証においては、甲4発明の認定の根拠となった特許請求の範囲の記載及び他の記載においても、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことについては、小麦ふすま加工品中の糊化した澱粉及びその割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第4号証において、本件出願時の技術常識を考慮しても、糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%であることが記載されているに等しいといえないことは明らかである。
したがって、相違点2-4は、実質的な相違点である。

b そして、甲第4号証には、上述のとおり、好ましくは閉鎖した環境で、好ましくは、2?7、より好ましくは約4バールの圧力下で実施されることが示唆されており、前処理と「0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理」することを必須の解決手段とする発明であることが記載されているのであるから、甲4発明において、敢えて糊化した澱粉の含有量に着目し、その割合を1?6.8質量%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、糊化した澱粉の含有量に関する記載が全くないのであるから動機付けがないことは明らかである。

d したがって、甲4発明において、相違点2-4は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定した構成を採用することで、本件特許明細書【0007】に記載される「小麦ふすま本来の風味を有し、且つ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが低減された小麦ふすま加工品を提供することができる。」という予測できない顕著な効果を奏している。

ウ 甲4発明との対比・判断のまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(2)本件特許発明2,4,5について
ア 本件特許発明2,4,5は、いずれも、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)アで論じたのと同様の相違点を有する。

イ 本件特許発明2は、「パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である」点がさらに特定されており、甲4発明との間で、新たな相違点として、以下の相違点3-4が存在する。

相違点3-4:本件特許発明2は、小麦ふすま加工品が、「パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である」ことが特定されているものの、甲4発明においては、用途の特定のない点。

相違点の判断(特許異議申立理由4-2)
甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、小麦ふすま加工品の用途に関しての記載があるものの、相違点3-4の判断をするまでもなく、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明2と甲4発明との対比における、本件特許発明1と甲4発明との対比における相違点1-4、2-4に対応する相違点1’-4、2’-4が、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

エ したがって、本件特許発明2は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

オ 本件特許発明4,5は、それぞれ、本件特許発明1の小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物、食品として特定したものにすぎず、それらの特定に伴う新たな相違点として、それぞれ、以下の相違点3’-4、相違点3’’-4を有する。

相違点3’-4:本件特許発明4は、小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物と特定されているのに対して、甲4発明は、「半製品又は食品」である点。
相違点3’’-4:本件特許発明5は、小麦ふすま加工品を含む食品と特定されているのに対して、甲4発明は、「半製品又は食品」である点。

そして、いずれの場合も、上記(1)アで論じたのと同様の相違点を有し、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、小麦ふすま加工品の食品用途に関しての記載があるものの、上記相違点3’-4、相違点3’’-4の判断をするまでもなく、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明4又は本件特許発明5と甲4発明との対比における、本件特許発明1と甲4発明との対比における相違点1-4、2-4に対応する、それぞれ、相違点1’’-4、2’’-4、相違点1’’’-4、2’’’-4が当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

カ したがって、本件特許発明4,5は、いずれも、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

(3)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲4製造方法発明とを対比すると、甲4製造方法発明の「食品の栄養価を高めるための方法であって、以下:
a.穀物ふすまを前処理すること、
b.0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理すること、ここで、該水分活性レベルは、SHSの実際の絶対圧力をSHSの実際の温度を有する飽和水蒸気の圧力で除した値として定義される、及び
c.前のステップで得られた穀物ふすまを食品または半製品に添加すること、を含み、
前記SHSが110?200℃の範囲の温度で実施される方法」は、本件特許明細書において「加工品」の定義を特にしておらず、甲4方法発明は、少なくとも原料である小麦ふすまを、前処理、0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理するステップを有する方法であるから、本件特許発明3の「小麦ふすま加工品」の処理に関する「方法」に該当する。
したがって、本件特許発明3は、甲4方法発明と、
「小麦ふすま加工品の処理に関する方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-4’:本件特許発明3においては、製造される「小麦ふすま加工品」の「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることが特定されているのに対して、甲4方法発明においては、処理された穀物ふすまのタンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合の特定のない点。

相違点2-4’:本件特許発明3においては、製造される「小麦ふすま加工品」の「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことが特定されているのに対して、甲4方法発明においては、処理された穀物ふすまの糊化した澱粉の含有量の特定のない点。

相違点3-4’: 本件特許発明3においては、「小麦ふすまを開放系の装置を用いて、温度が150?400℃である過熱水蒸気(但し、高圧過熱水蒸気は除く)により処理する工程を含」むことが特定されているのに対して、甲4方法発明においては、「a.穀物ふすまを前処理すること、
b.0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理すること、ここで、該水分活性レベルは、SHSの実際の絶対圧力をSHSの実際の温度を有する飽和水蒸気の圧力で除した値として定義される」こと及び「SHSが110?200℃の範囲の温度で実施される」ことの特定があるものの、開放系の装置を用いて、温度が150?400℃である過熱水蒸気(但し、高圧過熱水蒸気は除く)により処理する工程を含」むことの特定のない点。
相違点4-4’: 本件特許発明3は、「小麦ふすま加工品の製造方法」であるのに対して、甲4方法発明においては、「穀物ふすまを食品または半製品に添加すること、を含」む、「食品の栄養価を高めるための方法」である点。

イ 判断
(ア)相違点1-4’について
a 甲第4号証においては、甲4方法発明の認定の根拠となった特許請求の範囲の記載及び他の記載においても、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることについては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第4号証において、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であることが記載されているに等しいといえる、本件出願時の技術常識もない。
したがって、相違点1-4’は、実質的な相違点である。

b そして、甲第4号証には、「インキュベーション後、穀物ふすまは蒸気プロセスに置かれるか、より一般的には、過熱水蒸気が材料を通して導かれることができる環境、好ましくは閉鎖した環境に置かれる。SHSを用いた全修飾プロセスは、好ましくは加圧下で実施される。SHSでのこの修飾プロセス中にも乾燥が行われるため、元の出発時よりも水分量が低い穀物ふすまバイオマスが得られる。それは、大気圧(1バール)から10バールまでの圧力下で実施することができるが、好ましくは、2?7、より好ましくは約4バールの圧力下で実施される。」(摘記(4c))との記載を考慮すれば、好ましくは閉鎖した環境で、好ましくは、2?7、より好ましくは約4バールの圧力下で実施されることが示唆されており、前処理と「0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理」することを必須の解決手段とする発明であることが記載されているのであるから、甲4方法発明において、敢えてタンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に着目し、その割合を8.5?13%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に関する記載が全くないのであるから動機付けがないことは明らかである。

d したがって、甲4方法発明において、相違点1-4は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(イ)相違点2-4’について
a 甲第4号証においては、甲4方法発明の認定の根拠となった特許請求の範囲の記載及び他の記載においても、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことについては、小麦ふすま加工品中の糊化した澱粉及びその割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第4号証において、本件出願時の技術常識を考慮しても、糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%であることが記載されているに等しいといえないことは明らかである。
したがって、相違点2-4’は、実質的な相違点である。

b そして、甲第4号証には、上述のとおり、好ましくは閉鎖した環境で、好ましくは、2?7、より好ましくは約4バールの圧力下で実施されることが示唆されており、前処理と「0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理」することを必須の解決手段とする発明であることが記載されているのであるから、甲4方法発明において、敢えて糊化した澱粉の含有量に着目し、その割合を1?6.8質量%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、糊化した澱粉の含有量に関する記載が全くないのであるから動機付けがないことは明らかである。

d したがって、甲4方法発明において、相違点2-4は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(ウ)相違点3-4’及び相違点4-4’について
甲4方法発明は、0.3と0.9の間に制御された水分活性レベルで過熱水蒸気(SHS)で穀物ふすまを処理すること、ここで、該水分活性レベルは、SHSの実際の絶対圧力をSHSの実際の温度を有する飽和水蒸気の圧力で除した値として定義される」こと及び「SHSが110?200℃の範囲の温度で実施される」ことの特定があるものの、開放系の装置を用いて、温度が150?400℃である過熱水蒸気(但し、高圧過熱水蒸気は除く)により処理する工程を含」むことの特定のないし、むしろ、好ましくは閉鎖した環境で、好ましくは、2?7、より好ましくは約4バールの圧力下で実施されることが示唆されており、「食品の栄養価を高めるための方法」であって、「小麦ふすま本来の風味を有し、且つ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが低減された小麦ふすま加工品を提供する」製造方法を目的とするものでもないので、甲4方法発明において、相違点3-4’及び相違点4-4’に関する本件特許発明3の構成をなすことは当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。

(エ)本件特許発明3の効果について
本件特許発明3は、前記第2の請求項3に特定した製造方法の構成を採用することで、本件特許明細書【0007】に記載される「小麦ふすま本来の風味を有し、且つ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが低減された小麦ふすま加工品を提供することができる。」という予測できない顕著な効果を奏している。

ウ 甲4製造方法発明との対比・判断のまとめ
したがって、本件特許発明3は、甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

甲第5号証に記載された発明との対比・判断(異議申立理由4-1、4-2について)
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「食物繊維として180?290℃の過熱水蒸気による殺菌と膨化処理をした穀類ふすま」は、本件特許明細書において「加工品」の定義を特にしておらず、甲5発明は、少なくとも原料である穀類ふすまである、小麦中のふすまを、過熱水蒸気による殺菌と膨化処理をしたふすまであるから、本件特許発明1の「小麦ふすま加工品」に該当する。
したがって、本件特許発明1は、甲5発明と、
「小麦ふすま加工品に関するもの」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-5:本件特許発明1においては、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることが特定されているのに対して、甲5発明においては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合の特定のない点。

相違点2-5:本件特許発明1においては、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことが特定されているのに対して、甲5発明においては、糊化した澱粉の含有量の特定のない点。

相違点3-5:本件特許発明1においては、「小麦ふすま加工品」自体であるのに対して、甲5発明は、「穀類ふすまを主材とし、これに醗酵乳および麦芽エキスを混合し不定形粒状とした食物繊維を主体とする栄養補助食品」である点。

イ 判断
(ア)相違点1-5について
a 甲第5号証においては、甲5発明の認定の根拠となった特許請求の範囲の記載及び他の記載においても、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることについては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第5号証において、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であることが記載されているに等しいといえる、本件出願時の技術常識もない。
したがって、相違点1-5は、実質的な相違点である。

b そして、甲第5号証には、「この発明は、食生活において食べても消化されずそのまま排泄されてしまう食物成分の植物繊維を食べやすく、しかも醗酵乳を配合することにより整腸効果をねらい、栄養価の高い麦芽エキスを加えておいしくした食物繊維を主体とする栄養補助食品に関するものである。・・・この発明はこれを処理することによりおいしく手軽に供給することを目的として開発したものです。・・・水とともに飲用する際に味が悪るく、歯や口腔の奥に接触するとその周辺の水分を吸つてくつつき不快な状態となつたりして服用しずらいのみならず、整腸作用にもこと欠き、食品とし要件を欠く問題点があつた。然るにこの発明は食物繊維として小麦粒中に11%含有しているふすまの活用を考え、栄養的価値を高めるようにしたものである。前記ふすまは通常食品としての衛生的処理がなされておらず、消化の点でも問題あるが、この発明では過熱水蒸気を使用して180℃?300℃の加熱によりこれらの問題を解決したのである。」(摘記(5b))との記載を考慮すれば、食物成分の植物繊維を食べやすく、しかも醗酵乳を配合することにより整腸効果をねらい、栄養価の高い麦芽エキスを加えておいしくした食物繊維を主体とする栄養補助食品を製造するために、食物繊維として小麦粒中に11%含有しているふすまの活用を考え、栄養的価値を高めるようにしたもので、過熱水蒸気処理で、衛生的処理、消化の問題点の解消を達成した発明であることが記載されているのであるから、甲5発明において、敢えてタンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に着目し、その割合を8.5?13%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合に関する記載が全くないのであるから動機付けがないことは明らかである。

d したがって、甲5発明において、相違点1-5は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(イ)相違点2-5について
a 甲第5号証においては、甲5発明の認定の根拠となった特許請求の範囲の記載及び他の記載においても、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことについては、小麦ふすま加工品中の糊化した澱粉及びその割合自体の記載がなく、当然割合の具体的範囲の記載も存在しない。
また、甲第5号証において、本件出願時の技術常識を考慮しても、糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%であることが記載されているに等しいといえないことは明らかである。
したがって、相違点2-5は、実質的な相違点である。

b そして、甲第5号証には、上述のとおり、食物成分の植物繊維を食べやすく、しかも醗酵乳を配合することにより整腸効果をねらい、栄養価の高い麦芽エキスを加えておいしくした食物繊維を主体とする栄養補助食品を製造するために、食物繊維として小麦粒中に11%含有しているふすまの活用を考え、栄養的価値を高めるようにしたもので、過熱水蒸気処理で、衛生的処理、消化の問題点の解消を達成した発明であるから、甲5発明において、敢えて糊化した澱粉の含有量に着目し、その割合を1?6.8質量%という特定の範囲に限定する動機付けは存在しない。

c また、その他の甲号証にも、糊化した澱粉の含有量に関する記載が全くないのであるから動機付けがないことは明らかである。

d したがって、甲5発明において、相違点2-5は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定した構成を採用することで、本件特許明細書【0007】に記載される「小麦ふすま本来の風味を有し、且つ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが低減された小麦ふすま加工品を提供することができる。」という予測できない顕著な効果を奏している。

ウ 甲5発明との対比・判断のまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(2)本件特許発明2,4,5について
ア 本件特許発明2,4,5は、いずれも、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)アで論じたのと同様の相違点を有する(本件特許発明4,5との対比においては、甲5発明は、それぞれ、「小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物」「小麦ふすま加工品を含む食品」であるともいえるので、相違点3-5に対応する相違点はない。)。

イ 本件特許発明2は、「パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である」点がさらに特定されており、甲5発明との間で、新たな相違点として、以下の相違点4-5が存在する。

相違点4-5:本件特許発明2は、小麦ふすま加工品が、「パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である」ことが特定されているものの、甲5発明においては、用途の特定のない点。

相違点の判断(特許異議申立理由4-2)
甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、小麦ふすま加工品の用途に関しての記載があるものの、相違点3-5の判断をするまでもなく、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明2と甲5発明との対比における、本件特許発明1と甲5発明との対比における相違点1-5、2-5に対応する相違点1’-5、2’-5が、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

エ したがって、本件特許発明2は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

オ 本件特許発明4,5は、それぞれ、本件特許発明1の小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物、食品として特定したものにすぎない。そして、いずれの場合も、上記(1)アで論じたのと同様の、以下の相違点1’’-5、2’’-5、相違点1’’’-5、2’’’-5を、それぞれ有している。

相違点1’’-5:本件特許発明4においては、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることが特定されているのに対して、甲5発明においては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合の特定のない点。
相違点2’’-5:本件特許発明4においては、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことが特定されているのに対して、甲5発明においては、糊化した澱粉の含有量の特定のない点。

相違点1’’’-5:本件特許発明5においては、「タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5?13%であ」ることが特定されているのに対して、甲5発明においては、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合の特定のない点。
相違点2’’’-5:本件特許発明5においては、「糊化した澱粉の含有量が1?6.8質量%である」ことが特定されているのに対して、甲5発明においては、糊化した澱粉の含有量の特定のない点。

、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、小麦ふすま加工品の食品用途に関しての記載があるものの、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明4又は本件特許発明5と甲5発明との対比における、本件特許発明1と甲5発明との対比における相違点1-5、2-5に対応する、それぞれ、相違点1’’-5、2’’-5、相違点1’’’-5、2’’’-5が当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

カ したがって、本件特許発明4,5は、いずれも、甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

4 異議申立理由3および4の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1、2、4、5は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、本件特許発明1、2は、甲第3号証を参照しても、甲第2号証に記載された発明とはいえない。
また、本件特許発明1、2は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、又は甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができるものとはいえないし、本件特許発明3は、甲第4号証から当業者が容易に発明することができるものとはいえないし、本件特許発明4、5は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、又は甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、及び甲第4号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえないので、異議申立理由3および4には、理由がない。

第5 むすび
したがって、請求項1?5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-10-11 
出願番号 特願2016-125405(P2016-125405)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 匡子  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 齊藤 真由美
瀬良 聡機
登録日 2020-12-15 
登録番号 特許第6810543号(P6810543)
権利者 昭和産業株式会社
発明の名称 小麦ふすま加工品  
代理人 渡邊 薫  

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