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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
管理番号 1379860
異議申立番号 異議2021-700700  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-20 
確定日 2021-11-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6818405号発明「乳酸菌の免疫賦活作用を増強する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6818405号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6818405号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年11月10日に出願され、令和3年1月5日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年7月20日に特許異議申立人 勝野賢一は特許異議の申立てを行った。


第2 本件発明
特許第6818405号の請求項1?8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリグリセリン及びショ糖からなる群から選択される多価アルコールと、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選択される脂肪酸のエステル結合物を有効成分として含む乳酸菌免疫賦活作用増強組成物と免疫賦活作用を有する乳酸菌とを接触させ、その後乳酸菌を洗浄し前記乳酸菌免疫賦活作用増強組成物を取り除くことを含む、乳酸菌免疫賦活作用増強組成物と接触させていない免疫賦活作用を有する乳酸菌と比較して免疫賦活作用が増強され、多価アルコールと脂肪酸のエステル結合物を含まない乳酸菌を生産する方法。
【請求項2】
多価アルコールと脂肪酸のエステル結合物が有機酸修飾を受けていない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
免疫賦活作用を有する乳酸菌濃度1に対して、多価アルコールと脂肪酸のエステル結合物の濃度を0.02?8の範囲として接触させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
免疫賦活作用を有する乳酸菌がインターフェロン産生細胞のインターフェロン産生を誘導し得る乳酸菌である、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
免疫賦活作用を有する乳酸菌がインターフェロン産生細胞のインターフェロンα産生を誘導し得る乳酸菌である、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
免疫賦活作用を有する乳酸菌がLactococcus garvieae(ラクトコッカス・ガルビエアエ)、Lactococcus lactis subsp.cremoris(ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス)、Lactococcus lactis subsp.lactis(ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス)、Lactococcus lactis subsp.hordniae (ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ホールドニアエ)、Leuconostoc lactis(ロイコノストック・ラクティス)、Pediococcus damnosus(ぺディオコッカス・ダムノーサス)、Streptococcus thermophilus(ストレプトコッカス・サーモフィラス)、Lactobacillus brevis subsp. coagulans(ラクトバチルス・ブレービス・サブスピーシーズ・コアギュランス)及びEnterococcus faecalis(エンテロコッカス・フェカリス)からなる群から選択される請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
免疫賦活作用を有する乳酸菌がLactococcus lactis JCM5805である、請求項4?6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ポリグリセリン及びショ糖からなる群から選択される多価アルコールと、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸からなる群から選択される脂肪酸のエステル結合物と免疫賦活作用を有する乳酸菌とを接触させ、その後乳酸菌を洗浄し脂肪酸のエステル結合物を取り除くことを含む、乳酸菌の免疫賦活作用を、エステル結合物と接触させていない免疫賦活作用を有する乳酸菌の免疫賦活作用よりも増強する方法。」
なお、以下では本件の請求項1?8の特許に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」などという。


第3 申立理由の概要
特許異議申立人 勝野賢一は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲の記載は実施可能要件及びサポート要件を充足しないこと(取消理由1)並びに、本件の請求項1?8に係る発明の特許は、甲第5?10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること(取消理由2)から、請求項1?8に係る発明の特許は特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号を満足せず、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?8に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

甲第5号証(甲5):特開2007-131610号公報
甲第6号証(甲6):J.Agric.Food Chem.2010,Vol.58,No.10,
p.6498-6502
甲第7号証(甲7):特開2010-265184号公報
甲第8号証(甲8):特開2014-131504号公報
甲第9号証(甲9):特開2012-229258号公報
甲第10号証(甲10):特開2005-89437号公報


第4 甲号証の記載
1.甲5
(1-1)「【請求項1】
(a)乳酸菌を培養する段階;及び(b)前記乳酸菌培養液を熱処理する段階と、を含む免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤の製造方法。
【請求項2】
前記培養に用いられる培地は、0.1?1重量%の界面活性剤と0.01?0.1重量%の炭酸塩をさらに含有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記界面活性剤は、ポリソルベート80である請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲)
(1-2)「【0001】
本発明は、免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法に係り、より詳しくは、乳酸菌を界面活性剤及び炭酸塩を含有する培養培地において培養した後、死菌化させることを特徴とする、免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法に関する。」
(1-3)「【0008】
本発明において表面発現の宿主細胞として用いられている乳酸菌は、昔から我々の食生活と深い関連性を有しながら、発酵食品などの製造に重要な役割を果たしている安全な(GRAS:generally recognized as safe)菌であり、農産物から動物の身体に至るまで自然界に広く分布している。この種の乳酸菌は、腸内有害菌の抑制作用及び浄腸作用、血中コレステロールの減少機能、栄養学的な価値の増進、病原体の感染抑制の作用、肝硬変(liver cirrhosis)の改善作用、抗ガン作用、老化抑制作用、免疫増強作用(マクロファージの活性化を通じた免疫増強作用)などの効能を有しており、その活用分野が広くなりつつある。」
(1-4)「【0013】
本発明において、前記培養に用いられる培地は、0.1?1重量%の界面活性剤と0.01?0.1重量%の炭酸塩をさらに含有することを特徴とし、前記界面活性剤は、ポリソルベート80であることを特徴とする。また、前記(a)段階は、pHを6.0?7.0に保持しながら行うことを特徴とし、前記熱処理は、80?120℃において5?30分間行うことを特徴とする。」
(1-5)「【0031】
実施例3:ターゲットタンパク質の発現及び乳酸菌の成長に対する界面活性剤の効果
実施例2の乳酸菌形質転換体(PEDSc表面発現乳酸菌)を界面活性剤ポリソルベート80入り培地において培養した後、生菌数と表面発現タンパク質の発現量の測定実験を行うことにより、界面活性剤が抗原タンパク質表面発現乳酸菌の成長及び最終生菌数と抗原タンパク質の発現量に及ぼす効果を確認した。
【0032】
カセイ菌の培養に用いられる基本培地(1%カゼイン加水分解物、1.5%酵母エキス、2%ブドウ糖(dextrose)、0.2%クエン酸アンモニウム、0.5%酢酸ナトリウム、0.01%硫酸マグネシウム、0.05%硫酸マンガン及び0.2%リン酸2カリウム)に界面活性剤ポリソルベート80を0.1、0.2、0.5、1.0%ずつ加えた後、121℃、10分間滅菌を行った。
【0033】
界面活性剤ポリソルベート80が濃度別に加えられている滅菌済み各培地を3L発酵器に2.0L分入れ、5ml、100ml培地の種培養の2段階を経てPEDSc表面発現乳酸菌を5%(v/v)接種した後、30℃、24時間培養した。
【0034】
24時間の培養時点における生菌数と表面発現タンパク質の発現量を比較した。界面活性剤ポリソルベート80が加えられていない培地において培養したものを対照群として用いた。
【0035】
表1に示すように、界面活性剤の添加濃度が高くなるほど、培養液内の生菌数は高く観察され、1.0%の界面活性剤が加えられた場合に最大値として対照群に比べて約1.8倍高い生菌数が確認された。1菌体当たり一定量のPgsA-PEDSc融合タンパク質が表面発現されているため、生菌数の増加は融合タンパク質の増加を意味し、これより、界面活性剤の添加により培養液内に表面発現されたPgsA-PEDSc融合タンパク質の量が増えるということを確認することができた。
【0036】
【表1】(表は省略)
【0037】
生菌数を測定した24時間の培養時点において菌体を回収してウェスタンブロット法を行うことにより、PgsAと融合されて発現されたPEDScの表面発現量を確認した。
【0038】
実験群において回収されたPgsA-PEDSc表面発現カセイ菌の全細胞を同じ細胞濃度に調節し、これらのうち一定量を抽出してタンパク質を変性して試料を用意し、これをSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した後、分画されたタンパク質をPVDF(polyvinylidene-difluoride membranes;Bio-Rad)メンブレンに移した。タンパク質が移されたPVDFメンブレンをブロッキング緩衝溶液(50mMトリス塩酸、5%スキムミルク(skim milk)、pH8.0)において1時間振ってブロッキングした後、ブロッキング緩衝溶液にPgsAに対するウサギ由来のポリクローン1次抗体を1000倍希釈して12時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝溶液により洗浄し、ブロッキング緩衝溶液にビオチンが接合されたウサギに対する2次抗体を1000倍希釈して4時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝溶液により洗浄し、アビジン-ビオチン(avidin-biotin)を1時間反応させた後、再び洗浄した。洗浄されたメンブレンに基質(H202)と発色試薬(DAB)を加えて発色を行うことにより、PgsAに対する特異抗体と前記融合タンパク質との特異的な結合を確認した(図3)。
【0039】
その結果、図3に示すように、約45.9kDaのPgsA-PEDSc融合タンパク質が検出され、検出される量は培地に加えられた界面活性剤の濃度に応じて比例的に増えていた。
【0040】
前記結果から、培地に一定濃度の界面活性剤を加える場合、ターゲットタンパク質が表面発現された乳酸菌の最大の成長値と菌体当たりタンパク質の表面発現量が両方とも増えるということが確認できた。」
(1-6)「【0058】
実施例7:死菌化乳酸菌の免疫増強効果
死菌化過程を経た乳酸菌と死菌化過程を経ていない生存乳酸菌の免疫増強効果は、樹状細胞(dendritic cell)の刺激(成熟)を通じて樹状細胞から分泌されるサイトカインIL-10及びIL-12 p70のそれぞれに対するELISAキット(ヒトIL-10 Duoset ELISA Development system,ヒトIL-12 p70 Duoset ELISA Development system,R&D systems)を用いて測定した。
・・・・
【0063】
その結果、図8に示すように、死菌化させたカセイ菌添加群と死菌化させたPEDSc表面発現カセイ菌添加群は他の群と比較して樹状細胞から高い数値のIL-10及びIL-12 p70分泌を誘導するということを確認することができた。この結果より、死菌化乳酸菌が生存乳酸菌よりも免疫増強、特に樹状細胞の成熟誘導の面において一層優れた効果を有するということが分かった。」
(1-7)「【0065】
本発明は乳酸菌培養液を熱処理する段階を含む、免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤及びその製造方法を提供する効果がある。本発明によれば、表面発現されたターゲットタンパク質の機能的な損傷の防止効果だけではなく、増強された免疫増強効果を有する乳酸菌製剤の製造が可能になる。本発明の方法に従い製造された死菌化乳酸菌は、生菌に比べて改善された免疫増強効果を示し、しかも量産が可能であることから、飼料添加剤、動物薬品あるいはワクチンなどに有効である。」

2.甲6
「食品用培地。 KT-11の培養には、微生物用の市販食品培地であるBerlex 60(Berlex Fermentation Technologies,Oita,Japan)を使用した。食品用培地は、2%グルコースと0.1%のSunsoft Q-17S(太陽化学、東京)を含む13.33%のBerlex 60水溶液を、食品添加物用苛性ソーダ(旭硝子、東京)でpH6.4に調整し、121℃で15分間滅菌したものを使用した。」(6498頁、右欄「MATERIALS AND METHODS」の「Food Grade Medium」)

3.甲7
(3-1)「【0001】
本発明は乳酸菌の免疫賦活剤としての用途、特に該免疫賦活剤を配合した飼料組成物に関する。」
(3-2)「【0003】
免疫は多細胞生物において異種生物の排除を目的に獲得された機能であり、自己と異なる抗原の認識、補体や抗体による不活性化、食細胞による破壊、感染細胞のアポトーシス誘導などにより異物を排除する。免疫は自然免疫と適応免疫に大別されるが、後者は補体や食細胞などの自然免疫で病原体が排除されず感染巣が形成された場合に発動される。
微生物やウイルスに進入された場合、最初にそれを認識する細胞はマクロファージや樹状細胞であり、それらの細胞はToll-like receptor(TLR)をはじめとして多くのレセプターを発現している。TLRは微生物の特異なRAMPs(pathogen-associated molecular patterns)を認識し、免疫反応を誘導する。乳酸菌などグラム陽性菌の細胞壁は自然免疫を刺激し、PAMPsとしてペプチドグルカン、リポテイコ酸を含み、それぞれTLR2、TLR2とTLR6との複合体によって認識される。TLRの刺激はMyD88分子を介してNF-κBを活性化し、IL-12やインターフェロンα、βの産生を誘導してNK細胞など他の免疫担当細胞を活性化する。また、TLR4は大腸菌などグラム陰性菌のリポ多糖体(LPS)を認識し、NF-κBを活性化してTNF-αやIL-6を産生する。」
(3-3)「【0029】
本発明の免疫賦活剤を用い、マウスの大腸菌に対する感染抵抗性試験を行った。
<菌の調製例>
Lactobacillus sakei HS1株をGYP培地(蒸留水100mLにグルコース1g、酵母エキス1g、ペプトン0.5g、酢酸ナトリウム0.2g、塩類溶液0.5mL、ツイーン80溶液1mLを加えてオートクレーブ殺菌する)に接種し、30℃で2日間培養した。
増殖した菌体を遠心分離して集菌し、さらにリン酸緩衝液(PBS)を加えて遠心分離後、分離した菌体をPBSにて2回洗浄した。洗浄した菌体に0.05%ツイーン20含有PBSを加え、沸騰水中で15分間の加熱処理を施し、放冷後PBSで3回洗浄して凍結した。その後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥(乾燥温度35℃)し、乾燥菌体粉末を得た。」
4.甲8
(4-1)「【0001】
本発明は、IL-12産生誘導能を有する乳酸菌及びその製造方法に関する。」
(4-2)「【0012】
本発明に用いる乳酸菌は、IL-12産生誘導能を有する乳酸菌であればよく、特に限定されない。例えばエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(E. faecium)等のエンテロコッカス属に属する微生物、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidphilus)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・マリ(L.mali)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ブヒネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・ジョンソニー(L.johnsonii)、ラクトバチルス・ガリナラム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・アミロボラス(L.amylovorus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・ラムノーザス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・ケフィア(L.kefir)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・クリスパタス(L.crispatus)等のラクトバチルス属に属する微生物、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)等のストレプトコッカス属に属する微生物、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属に属する微生物、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズクレモリス(Lactococcus lactis sp cremoris)に属する微生物、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(B.adolescentis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B.breve)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(B.catenulatum)等のビフィドバクテリウム属に属する微生物などが挙げられる。」

5.甲9
(5-1)「【0001】
本発明は、抗原提示細胞からのインターフェロンα産生能を増強する作用を有するナノ型乳酸菌に関する。」
(5-2)「【0023】
本発明の「ナノ型乳酸菌の菌体」の原料となる乳酸菌の具体例としては、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidphilus)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・マリ(L.mali)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ブヒネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・ジョンソニー(L.johnsonii)、ラクトバチルス・ガリナラム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・アミロボラス(L.amylovorus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・ラムノーザス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・ケフィア(L.kefir)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・クリスパタス(L.crispatus)等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)等のエンテロコッカス属細菌、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(B.adolescentis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B.breve)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(B.catenulatum)等のビフィドバクテリウム属細菌などが挙げられる。」

6.甲10
「【0007】
本発明における乳酸菌は、食品に利用されている菌及びその近縁であり、グラム陽性菌で、ペプチドグリカンを菌体表面に配している。使用される乳酸菌は、・・・・乳酸球菌ではラクトコッカス・ラクティス(Lt.lactis)JCM5805、・・・」


第5 当審の判断
1.取消理由1について
(1)サポート要件
本件発明1の解決しようとする課題は、乳酸菌免疫賦活作用増強組成物と接触させていない免疫賦活作用を有する乳酸菌と比較して免疫賦活作用が増強され、多価アルコールと脂肪酸のエステル結合物を含まない乳酸菌を生産する方法の提供であると認められる。そして、多価アルコールと脂肪酸のエステル結合物を含まないことは、請求項1に特定される「脂肪酸のエステル結合物を有効成分として含む乳酸菌免疫賦活作用増強組成物と免疫賦活作用を有する乳酸菌とを接触させ、その後乳酸菌を洗浄し前記乳酸菌免疫賦活作用増強組成物を取り除くこと」のうち「その後乳酸菌を洗浄し前記乳酸菌免疫賦活作用増強組成物を取り除くこと」によりもたらされるといえるから、免疫賦活作用の増強は、乳酸菌免疫賦活作用増強組成物に有効成分として含まれるエステル結合物と『免疫賦活作用を有する乳酸菌』との接触によりもたらされることが理解される。
これに対して、発明の詳細な説明の実施例には、『免疫賦活作用を有する乳酸菌』として生きた「JCM805株」を用い、エステル結合物として「ショ糖パルミチン酸エステル」を用い、一定の濃度(2.5mg/ml又は50mg/ml)の乳酸菌に対してエステル結合物の濃度を変化させて接触させて洗浄したものが、未処理のものと比較して高いインターフェロン-α誘導活性を示したこと(実施例1?3、図1?3)、『免疫賦活作用を有する乳酸菌』として殺菌した「JCM805株」を用い、エステル結合物として「ショ糖パルミチン酸エステル」、「ショ糖ステアリン酸エステル」、「ショ糖オレイン酸エステル」を接触させて洗浄したものが、未処理のものと比較して高いインターフェロン-α誘導活性を示したこと(実施例4、図4)、及び、『免疫賦活作用を有する乳酸菌』として殺菌した「JCM805株」を用い、エステル結合物として「ポリグリセリンステアリン酸エステル」2種を接触させて洗浄したものが、未処理のものと比較して高いインターフェロン-α誘導活性を示したこと(実施例5、図5)が記載されており、これらの記載から、実施例における各具体例では上記課題が解決できることが認められる。

ア 乳酸菌の種類に関して
特許明細書の段落【0029】には、「本発明の乳酸菌の免疫賦活作用を増強する方法により免疫賦活作用を増強させる乳酸菌は、本発明の組成物が存在しない状態でも元々免疫賦活作用を有している乳酸菌である。ここで、免疫賦活作用を有しているとは、乳酸菌がin vitro及びin vivoで、インターフェロン産生細胞である免疫担当細胞に作用しインターフェロン産生を促進する活性を有していることをいう。」と記載されているから、本件発明にいう『免疫賦活作用を有する乳酸菌』とは、生体に対してインターフェロン産生を促進する活性を有する乳酸菌であると認められる。また、特許明細書の段落【0052】に記載されるように、本件発明の乳酸菌は各種の飲食品に添加されるものであり、飲食品の製造には加熱工程などを経ることが一般的であることから、『免疫賦活作用を有する乳酸菌』は、生きていても、殺菌されていても、免疫担当細胞に作用してインターフェロン産生を促進する活性を有するものであることが理解される。そして、実施例で用いられた「JCM805株」はインターフェロン産生を誘導する活性を有するものであるが、「JCM805株」と同様にインターフェロン産生を促進する活性を有する乳酸菌が数多く存在することは技術常識であり、これらの乳酸菌には、「JCM805株」と共通するインターフェロン産生活性化の機序が存在することが推認される。
実施例には「JCM805株」以外の乳酸菌を用いた具体例は記載されていないが、当業者であれば、実施例の記載を参考として、発明の詳細な説明(段落【0029】?【0038】に記載される『免疫賦活作用を有する乳酸菌』に対して請求項1に特定されるエステル結合物を接触させ、その後乳酸菌を洗浄することで、免疫賦活作用が増強された乳酸菌を生産する方法を合理的に理解することができ、上記課題を解決できると認められる。

イ エステル結合物と乳酸菌の使用量及び接触方法に関して
実施例には、上記した特定の方法で接触させた場合についてしか記載されていないが、当業者であれば、実施例の記載から免疫賦活作用の増強に必要なエステル結合物と乳酸菌の使用量や接触方法を技術的に関連付けて把握することができ、発明の詳細な説明、特に段落【0040】?【0043】の記載も参酌して、『免疫賦活作用を有する乳酸菌』に対して請求項1に特定されるエステル結合物を接触させ、その後乳酸菌を洗浄することで、免疫賦活作用が増強された乳酸菌を生産する方法を合理的に理解することができ、上記課題を解決できると認められる。

ウ エステル結合物の種類に関して
実施例には、生きた「JCM805株」については、特定のエステル結合物(ショ糖パルミチン酸エステル)を使用した場合についてしか記載されていないが、上記アで述べたとおり、本件発明にいう『免疫賦活作用を有する乳酸菌』は、生きていても、殺菌されていても、免疫担当細胞に作用してインターフェロン産生を促進する活性を有していることが理解されるところ、エステル結合物による増強作用についても、乳酸菌が生きていても、殺菌されていても発揮されると考えられ、実施例には殺菌された乳酸菌に関して各種のエステル結合物による効果が示されているから、当業者であれば、実施例の記載を参考として、『免疫賦活作用を有する乳酸菌』に対して請求項1に特定される「ポリグリセリン及びショ糖からなる群から選択される多価アルコールと、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選択される脂肪酸のエステル結合物」を接触させ、その後乳酸菌を洗浄することで、免疫賦活作用が増強された乳酸菌を生産する方法を合理的に理解することができ、上記課題を解決できると認められる。

以上のとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものと認められる。また、本件発明8、及び、請求項1を引用する本件発明2?7についても、同様に、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものと認められる。

(2)実施可能要件
上記(1)で述べたとおりであるから、本件発明1?本件発明8について、発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(3)異議申立人の主張について
特許異議申立人は概ね次の点を主張している。
本件出願時において乳酸菌による免疫賦活作用の有無や程度の強弱は、属種が共通している乳酸菌であっても株毎に異なることは技術常識であるから、「JCM805株」の結果に基づいて、これとは異なる属や種に属する乳酸菌の結果を推認することはできない。
甲第4号証として国際公開第2015/182735号を示し、甲4には「JCM805株」とショ糖オレイン酸エステルとを混合した場合に、乳酸菌のみの場合と比べて、インターフェロン-α誘導活性が弱められたこと、すなわち、エステル結合物との接触により免疫賦活作用が増強されない場合があることが示されているから、「JCM805株」の結果に基づいて、これとは異なる属や種に属する乳酸菌や、乳酸菌の生死の状態について任意の乳酸菌の結果を推認することはできない。
本件特許明細書の実施例5には、ポリグリセリンステアリン酸エステルとしてSWA-15DとS-28Dを使用した例が示されているが、S-28Dの例は統計的優位性が確認されていない。

そこで、以下検討する。
本件発明において、『免疫賦活作用を有する乳酸菌』として使用される乳酸菌の種類とエステル結合物の種類の組み合わせによっては、免疫賦活作用の増強の程度が実施例に示されたものほどではない場合があるかもしれないが、本件発明1?本件発明8には増強の程度が特定されている訳でもなく、増強の程度の違いを理由に本件発明1?本件発明8がサポート要件を満足しないとはいえない。また、仮に免疫賦活作用が増強されない組み合わせがあったとしても、そのような組み合わせによる方法は、本件発明1?本件発明8に該当しないというだけであり、そのことを理由として本件発明1?本件発明8がサポート要件や実施可能要件を満足しないとまではいえない。
なお、異議申立人の実施例5及び図5に基づく主張は、本件特許明細書の表8の(2)と(3)記載からみてSWA-15DとS-28Dとを取り違えて主張するものと認められるところ、図5の(2)もエステル結合物の処理を行わない(1)と比較して免疫賦活作用が増強されていると認められる。

2.取消理由2について
(1)甲5に記載の発明
上記第4の1.に摘記した甲5の記載から、甲5には次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「(a)乳酸菌を培養する段階;及び(b)前記乳酸菌培養液を熱処理する段階と、を含む免疫機能が強化された死菌化乳酸菌製剤の製造方法であって、
前記培養に用いられる培地は、0.1?1重量%の界面活性剤と0.01?0.1重量%の炭酸塩をさらに含有する、製造方法。」

(2)本件発明1について
本件発明1と甲5発明を対比する。引用発明の「乳酸菌」は、本件発明1の「免疫賦活作用を有する乳酸菌」に相当すると認められ、引用発明の「免疫機能が強化」は、本件発明1の「免疫賦活作用が増強」に相当すると認められる。また、引用発明の「0.1?1重量%の界面活性剤」を含有する培地で「乳酸菌を培養する段階」は、本件発明1の「ポリグリセリン及びショ糖からなる群から選択される多価アルコールと、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選択される脂肪酸のエステル結合物を有効成分として含む乳酸菌免疫賦活作用増強組成物と免疫賦活作用を有する乳酸菌とを接触させ」ることと、「界面活性剤成分を含む組成物と免疫賦活作用を有する乳酸菌とを接触させ」る点で共通すると認められる。
そうすると、両者は、
「界面活性剤を含む組成物と免疫賦活作用を有する乳酸菌とを接触させ、免疫賦活作用が増強され乳酸菌を生産する方法。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
(相違点1)
界面活性剤を含む組成物について、本件発明1には「ポリグリセリン及びショ糖からなる群から選択される多価アルコールと、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選択される脂肪酸のエステル結合物を有効成分として含む乳酸菌免疫賦活作用増強組成物」が特定されているのに対して、甲5発明には特定されていない点。
(相違点2)
本件発明1には「その後乳酸菌を洗浄し前記乳酸菌免疫賦活作用増強組成物を取り除くことを含む」こと、乳酸菌が「多価アルコールと脂肪酸のエステル結合物を含まない」ことが特定されているのに対して、甲5発明には特定されていない点。
(相違点3)
免疫賦活作用の増強について、本件発明1では「乳酸菌免疫賦活作用増強組成物と接触させていない免疫賦活作用を有する乳酸菌と比較」することが特定されているのに対して、甲5発明には特定されていない点。

(相違点1)について
甲5には界面活性剤として「ポリソルベート80」のみが記載されており、他の種類の界面活性剤を使用することについては記載も示唆もされていない。また、甲6?甲10にも、甲5発明のポリソルベート80を他の種類の界面活性剤とすることについて記載も示唆されていない。
したがって、相違点1は当業者が容易になし得る事項であるとはいえない。
そして、本件発明1は殺菌された乳酸菌であっても「乳酸菌免疫賦活作用増強組成物と接触させていない免疫賦活作用を有する乳酸菌と比較して免疫が増強され」るものであるが、一方、甲5発明にいう「免疫機能が強化」される作用とは、甲5の実施例3の「培地に一定濃度の界面活性剤を加える場合、ターゲットタンパク質が表面発現された乳酸菌の最大の成長値と菌体当たりタンパク質の表面発現量が両方とも増えるということが確認できた。」(上記第4の1.(1-5))との記載を考慮すると、界面活性剤の使用により乳酸菌の培養による増殖が増大したことに基づくものと考えられるから、本件発明1にいう「免疫賦活作用が増強」される作用とは異なる作用であると認められる。
そうすると、本件発明1においては、甲5の記載から予測できない効果が奏されたと認められ、また、「免疫賦活作用が増強」の点は、本件発明1と甲5発明と文言上の一致点ではあるものの、実質的な一致点ではないともいえる。
よって、(相違点2)、(相違点3)について検討するまでもなく、本件発明1は甲5?甲10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?本件発明8について
本件発明2?本件発明7は、本件発明1をさらに限定したものであり、上記(2)に示した理由により、甲5?甲10に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。
また、本件発明8は甲5に記載された発明に対して、乳酸菌に接触させるものが「ポリグリセリン及びショ糖からなる群から選択される多価アルコールと、パルミチン酸、ステアリン酸及びパルミチン酸からなる群から選択される脂肪酸のエステル結合物」であるという相違点を有し、この相違点についても、上記(2)に示した理由と同様の理由から容易想到とはいえない。
したがって、本件発明8も、甲5?甲10に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-10-27 
出願番号 特願2015-220653(P2015-220653)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 上條 肇
特許庁審判官 中島 庸子
伊藤 良子
登録日 2021-01-05 
登録番号 特許第6818405号(P6818405)
権利者 キリンホールディングス株式会社
発明の名称 乳酸菌の免疫賦活作用を増強する方法  
代理人 平木 祐輔  
代理人 田中 夏夫  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
代理人 藤田 節  
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