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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C23G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C23G |
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管理番号 | 1379862 |
異議申立番号 | 異議2021-700765 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-08-04 |
確定日 | 2021-10-29 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6826713号発明「鋼板のアルカリ洗浄工程で使用されるゴムロール」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6826713号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6826713号(請求項の数2。以下,「本件特許」という。)は,平成31年3月22日を出願日とする特許出願(特願2019-55122号)に係るものであって,令和3年1月20日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和3年2月10日である。)。 その後,令和3年8月4日に,本件特許の請求項1及び2に係る特許に対して,特許異議申立人である浜俊彦(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1及び2に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 【請求項1】 鋼板の洗浄時の水素イオン指数(pH)が13以上の塩基性環境のアルカリ洗浄工程で使用され,鋼製ロールにゴムがライニングされたゴムロールであって, 前記ゴムは,アクリロニトリル結合量が5?21wt%であるクロロプレン-アクリロニトリル共重合体であるゴムロール。 【請求項2】 クロロプレン-アクリロニトリル共重合体のアクリロニトリル結合量は,5?18wt%である請求項1に記載のゴムロール。 第3 特許異議の申立ての理由の概要 本件特許の請求項1及び2に係る特許は,下記1及び2のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,甲第1号証?甲第10号証(以下,単に「甲1」等という。下記3を参照。)である。 1 申立理由1(サポート要件) 本件発明1及び2については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1及び2に係る特許は,同法113条4号に該当する。 2 申立理由2(進歩性) 本件発明1及び2は,甲1に記載された発明及び甲5?10に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1及び2に係る特許は,同法113条2号に該当する。 3 証拠方法 ・甲1 国際公開第2018/207940号 ・甲2 特開昭56-38336号公報 ・甲3 特開昭63-245449号公報 ・甲4 特開昭55-145715号公報 ・甲5 「冷間圧延鋼板の洗浄技術と環境負荷低減への取り組み」,表面技術,2018,Vol.69,No.10,p.446-450 ・甲6 特開2002-161384号公報 ・甲7 特開2000-283147号公報 ・甲8 特開昭63-125652号公報 ・甲9 特開2011-117043号公報 ・甲10 特開平10-280179号公報 第4 当審の判断 以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由2(進歩性) (1)甲1に記載された発明 甲1の記載(請求項1,6,16?19,22,[0002]?[0007],[0015],[0050],[0064],[0080],[0106],[0107],[0112]?[0154],表1,2)によれば,特に,請求項19,22に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「加硫成形体を用いたゴムロールであって, 加硫成形体が,不飽和ニトリル単量体単位が8?20質量%であるクロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを含む統計的共重合体の加硫成形体であって,JIS K6258に準拠して測定したIRM903オイルに対する耐油性がΔW<+15%である,ゴムロール。」(以下,「甲1発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると,両者は, 「ゴムロール。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点1 本件発明1では,ゴムロールが,「鋼板の洗浄時の水素イオン指数(pH)が13以上の塩基性環境のアルカリ洗浄工程で使用され」るのに対して,甲1発明では,ゴムロールの用途が特定されていない点。 ・相違点2 本件発明1では,ゴムロールが,「鋼製ロールにゴムがライニングされたゴムロール」であるのに対して,甲1発明では,ゴムロールの構造が特定されていない点。 ・相違点3 本件発明1では,ゴムロールにおける「前記ゴムは,アクリロニトリル結合量が5?21wt%であるクロロプレン-アクリロニトリル共重合体である」のに対して,甲1発明では,ゴムロールを形成する「加硫成形体が,不飽和ニトリル単量体単位が8?20質量%であるクロロプレン単量体単位と不飽和ニトリル単量体単位とを含む統計的共重合体の加硫成形体であって,JIS K6258に準拠して測定したIRM903オイルに対する耐油性がΔW<+15%である」点。 イ 相違点1の検討 (ア)甲1には,ゴムロールの用途について,以下の記載がある。 「ゴムロールには,製紙,製鉄,印刷などの種々の用途の要求特性に応じて,NBRやEPDM,CRなどのゴム材料が用いられている。CRは搬送する物体の摩擦に耐え得る良好な機械強度を有していることから,幅広いロール用途に使用されている。一方で,製鉄用,製紙用の工業用材料や製品の製造時など,油が付着する環境下で用いられるゴムロールには耐油性が不十分であり,改良が求められている。また,重量物を搬送するゴムロールは荷重により変形するという課題があり,改良を求められている。」([0106]) 「本実施形態の統計的共重合体は,ゴムロールの機械的強度と耐油性と耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)を高めることが可能である。これにより,従来のCRでは困難であった油が付着する環境下で用いられるゴムロールを製造することが可能である。」([0107]) (当審注:「NBR」はニトリルゴムを意味し([0089]),「EPDM」はエチレン・プロピレン・ジエンゴムを意味し([0091]),「CR」はクロロプレンゴムを意味する([0089])。) (イ)甲1の上記(ア)の記載によれば,甲1には,本実施形態の統計的共重合体は,ゴムロールの機械的強度,耐油性及び耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)を高めることが可能であるため,従来のCRでは困難であった,製鉄用,製紙用の工業用材料や製品の製造時等の,油が付着する環境下で用いられるゴムロールを製造することが可能であることが記載されているから,甲1発明に係るゴムロールを製鉄用のゴムロールとして使用する動機付けがあるといえる。 そして,製鉄時に鋼板のアルカリ洗浄工程が行われること,アルカリ洗浄工程においてゴムロールが用いられること,アルカリ洗浄工程で用いられるアルカリ洗浄液をpH13以上の強アルカリ性にすることは,申立人も主張するように,本件特許の出願時における周知技術と解される(甲5?10)。 (ウ)しかしながら,製鉄用のゴムロールといっても,様々な使用態様があり,アルカリ洗浄工程のほかにも,酸洗工程,焼鈍工程,めっき工程,洗浄工程等の,強アルカリ性以外の環境下で行われる各種の工程(例えば,酸洗工程は,強酸性の環境下で行われる。)においても,ゴムロールが使用されることが知られている(甲7【0002】)。 そうすると,甲1発明に係るゴムロールを製鉄用のゴムロールとして使用することが,直ちに,甲1発明に係るゴムロールを,pH13以上の強アルカリ性の環境下で行われるアルカリ洗浄工程においてゴムロールとして使用することを意味するとはいえない。 また,甲1の上記(ア)の記載から,当業者は,甲1発明に係るゴムロールが,機械的強度,耐油性及び耐へたり性(低い圧縮永久ひずみ性)に優れているために,製鉄等の油が付着する環境下において使用できることは理解できるとしても,甲1発明に係るゴムロールが,pH13以上の強アルカリ性の環境下における耐アルカリ性にも優れているかどうかは,甲1の記載のほか,甲5?10の記載を考慮しても,明らかではないから,そのような甲1発明に係るゴムロールが,実際に,pH13以上の強アルカリ性の環境下で行われるアルカリ洗浄工程においてゴムロールとして使用できるかどうかは,当業者といえども理解できるとはいえない。 そうすると,上記(イ)のとおり,甲1発明に係るゴムロールを製鉄用のゴムロールとして使用する動機付けがあるとしても,そうであるからといって,甲1発明に係るゴムロールを,pH13以上の強アルカリ性の環境下で行われるアルカリ洗浄工程においてゴムロールとして使用することが動機付けられるとはいえない。 (エ)以上によれば,甲1発明において,ゴムロールを「鋼板の洗浄時の水素イオン指数(pH)が13以上の塩基性環境のアルカリ洗浄工程」で使用することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 ウ 小括 したがって,相違点2及び3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲5?10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 申立人の主張について 申立人は,甲1の実施例3([0126]?[0128],[0142],[0146])に着目した,加硫ゴムに係る発明(甲1発明B)に基づく進歩性欠如を主張する(特許異議申立書21?22,28?31頁)。 しかしながら,申立人が主張する甲1発明Bを前提としても,本件発明1と甲1発明Bとは,少なくとも,上記アで認定した相違点1と同様の点で相違するところ,その相違点については,相違点1と同様の理由により,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 よって,申立人の主張は採用できない。 (3)本件発明2について 本件発明2は,本件発明1を引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲5?10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2についても同様に,甲1に記載された発明及び甲5?10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)まとめ 以上のとおり,本件発明1及び2は,甲1に記載された発明及び甲5?10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない したがって,申立理由2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由1(サポート要件) (1)ア 申立人は,本件発明1のうち,アクリロニトリル結合量が9.1wt%以外のクロロプレン-アクリロニトリル共重合体をゴムとして用いた場合に,「鋼板のアルカリ洗浄工程にてアルカリ水溶液及び脱脂油を含むpH13以上の混合液に対して好適に使用することができるゴムロールを提供する」(本件明細書【0009】)という課題を解決できることを裏付ける具体的な実証データは本件明細書には示されていないから,アクリロニトリル結合量が9.1wt%以外のクロロプレン-アクリロニトリル共重合体をゴムとして用いた場合であっても課題を解決できると当業者が認識することはできないと主張する(特許異議申立書13頁)。また,本件発明2についても,同様に主張する(同20?21頁)。 以下,検討する。 イ(ア)本件明細書には,「本発明に係るゴムロールは,鋼板のアルカリ洗浄工程で使用される洗浄液に対する体積変化率,強度及び硬度の変化が少なく安定した特性を有し,鋼板のアルカリ洗浄工程で好適に使用することができる。」(【0012】),「本ゴムロールは,冷延圧延された鋼板の焼鈍処理,あるいはめっきや塗装などの表面処理を行う前にpH13以上のアルカリ洗浄液を用いて,圧延油,防錆油の油汚れや鉄粉等の固体汚れを除去するために行われるアルカリ洗浄工程において使用される。本ゴムロールは,耐油性及び耐アルカリ性に優れ,かかるpH13以上のアルカリ水溶液に脱脂油を含む混合液に対して好適に使用することができる。」(【0014】)との記載がある。 また,本件明細書には,アルカリ洗浄液として,80℃苛性ソーダ3?5%+脱脂油(鉱物油系+エステル)4%を用い,発明例の供試材として,アクリロニトリル結合量が9.1wt%のクロロプレン-アクリロニトリル共重合体に係るゴムを使用し,JIS K6258に準じた浸漬試験を行い,体積変化率を測定したことが記載され(【0015】),その結果が図1に示されているが,発明例の体積変化率は小さく,1?4週間の浸漬試験においてほぼ一定であることが記載されている(【0016】)。 さらに,本件明細書には,上記と同一の供試材及び同一のアルカリ洗浄液を用いて,所定期間の浸漬試験を行い,JIS K6253に準じたゴム硬度測定試験を行ったことが記載され(【0017】),その結果が図2に示されているが,特性は図1に示す特性と似ており,発明例はゴム硬度変化率が小さく,浸漬期間0?3週間においてゼロであることが記載されている(【0018】)。 (イ)本件明細書の上記(ア)の記載によれば,本件明細書には,アクリロニトリル結合量が9.1wt%のクロロプレン-アクリロニトリル共重合体に係るゴムは,80℃苛性ソーダ3?5%+脱脂油(鉱物油系+エステル)4%であるアルカリ洗浄液に対して,体積変化率及び硬度の変化が小さいことが記載されているといえる。また,体積変化率及び硬度の変化が小さいことから,強度の変化も小さいと解される。 以上によれば,当業者であれば,アクリロニトリル結合量が9.1wt%のクロロプレン-アクリロニトリル共重合体に係るゴムは,鋼板のアルカリ洗浄工程にてアルカリ水溶液及び脱脂油を含むpH13以上の混合液に対して好適に使用できることが理解できる。 (ウ)ここで,クロロプレン-アクリロニトリル共重合体におけるアクリロニトリル結合量を9.1wt%から連続的に増減させた場合でも,技術常識に照らして,その特性は同等又は連続的に変化していくと考えられるから,アクリロニトリル結合量が9.1wt%以外のクロロプレン-アクリロニトリル共重合体に係るゴムであっても,一定程度は体積変化率,硬度及び強度の変化は小さいと解される。 そうすると,当業者であれば,アクリロニトリル結合量が9.1wt%以外のクロロプレン-アクリロニトリル共重合体に係るゴムであっても,鋼板のアルカリ洗浄工程にてアルカリ水溶液及び脱脂油を含むpH13以上の混合液に対して好適に使用できることが理解できるといえる。 (エ)これに対して,申立人は,アクリロニトリル結合量が9.1wt%以外のクロロプレン-アクリロニトリル共重合体をゴムとして用いた場合に,課題を解決できると当業者が認識することができないことについて,具体的な根拠を示して主張するものではない。 ウ 以上によれば,本件発明1について,特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものである。また,本件発明2についても,同様である。 よって,申立人の主張は採用できない。 エ なお,申立人は,上記アの主張に関連して,本件明細書の【0022】?【0027】の記載及び図4?6の内容の妥当性について論難する(特許異議申立書13?19頁)。 確かに,申立人が言及する本件明細書の記載及び図面には,その内容の妥当性につき疑義があると考えられる部分はあるものの,その当否にかかわらず,上記(1)で述べたとおり,本件発明1及び2について,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることに変わりはない。 (2)したがって,申立理由1(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-10-20 |
出願番号 | 特願2019-55122(P2019-55122) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C23G)
P 1 651・ 121- Y (C23G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 菅原 愛 |
特許庁審判長 |
平塚 政宏 |
特許庁審判官 |
祢屋 健太郎 井上 猛 |
登録日 | 2021-01-20 |
登録番号 | 特許第6826713号(P6826713) |
権利者 | 株式会社ミカサ |
発明の名称 | 鋼板のアルカリ洗浄工程で使用されるゴムロール |