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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
管理番号 1379872
異議申立番号 異議2021-700842  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-01 
確定日 2021-11-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6838184号発明「抗ウィルス性基体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6838184号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6838184号は、2018年10月12日(優先権主張 2017年10月12日(日本)、2018年3月28日(日本)及び2018年9月5日(日本))を国際出願日とする特願2019-519361号の一部を、令和1年7月23日に新たな特許出願とした特願2019-135462号の一部を、令和2年4月24日に新たな特許出願としたものであって、令和3年2月15日に特許権の設定登録がなされ、同年3月3日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?4に係る特許に対して、同年9月1日に特許異議申立人 岩部英臣(以下、「申立人」という。)から、特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件請求項1?4に係る発明
本件請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
基材表面に、銅化合物及び還元力のある光重合開始剤を含むバインダの硬化物が固着し、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から露出してなるとともに、前記バインダは、電磁波硬化型樹脂であり、
前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?4であり、前記バインダの硬化物は光触媒物質を含まないことを特徴とする抗ウィルス性基体。
【請求項2】
前記バインダの硬化物は、水に不溶性の重合開始剤を含む請求項1に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項3】
前記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の重合開始剤、ベンゾフェノン及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1または2のいずれか1項に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項4】
前記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を含み、前記アルキルフェノン系の重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5?3.0wt%、前記ベンゾフェノン系の重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5?2.0wt%である請求項3に記載の抗ウィルス性基体。」

第3 異議申立ての理由についての検討
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
甲第1号証:国際公開第2016/179058号
甲第1-1号証:特表2018-520989号公報
甲第2号証:米国特許出願公開第2013/0323642号明細書及び抄訳文
甲第3号証:特表2011-530400号公報
甲第4号証:特開2011-208093号公報
甲第5号証:特表2009-509023号公報
甲第6号証:特開2013-105947号公報
甲第7号証:特開2013-166705号公報
(以下、甲第1?7号証を「甲1」?「甲7」という。)

・申立ての理由
本件発明1?4は、甲1に記載された発明及び甲2?7に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1?4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立ての理由について
(1)甲1の記載事項(当審注:記載事項は、申立人が甲1の翻訳文として提出した甲1-1を参照した当審による翻訳文で示す。)
ア 「請求の範囲
1. 担体;及び
複数の銅含有粒子、並びに、ZnPT及びトラロピリルのいずれか一方又は両方を含むコ-バイオサイド
を含む材料であって、
1ガロンの担体ごとの前記銅含有粒子(g)、並びに、ZnPT及びトラロピリルのいずれか一方又は両方(g)の割合が、約0.005?約12の範囲内である、
材料。
2. 前記ZnPT及びトラロピリルのいずれか一方又は両方が、前記担体の約150mg/ガロン?担体の約40g/ガロンの範囲内で存在することを特徴とする、請求項1に記載の材料。

4. 前記銅含有粒子が、銅含有ガラス及び亜酸化銅のいずれか一方又は両方を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の材料。」

イ 「背景技術

[0003] バイオサイドは、通常、ペイント塗料及び他の担体に加えられ、微生物の攻撃からそれらの物質の完全性を守り、乾燥フィルム中での菌類及び藻類の成長を防止する。一般に市販されるバイオサイドは、ジンクピリチオンである。ジンクピリチオン(ZnPT)は、トリブチルスズの代替物として防汚塗料において銅(Cu)と共に広く用いられる。乾燥フィルム殺菌剤のためのZnPTの典型的な使用レベルは、約1質量%である;しかしながら、銅と組み合わせると、ZnPTは、1?100ppm(μg/L)の濃度範囲で殺藻作用を示した。
[0004] 別の一般に市販されるバイオサイドは、トラロピリル(Tralopyril)(4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル)である。トラロピリルは、船体又は他の海洋構造物上に塗布される防汚コーティングにおいて使用される防汚剤である;しかしながら、細菌に対するその作用は、十分ではない。
[0005] そのような乾燥フィルム殺菌作用を、より低い濃度の銅及び/又はより低い濃度のZnPT(例えば、15mg/GalのZnPT)、トラロピリル又はそれらの組合せを使用して維持することが必要とされる。
概要
[0006] 本開示のさまざまな態様は、菌類のような微生物に関して相乗効果を示す抗菌性材料に関する。1つ以上の実施の形態において、この材料は、コ-バイオサイドの銅イオン、並びに、ZnPT及びトラロピリルのいずれか一方を含む。いくつかの実施の形態において、銅イオンは、銅含有粒子の形態で存在する。適切な銅含有粒子は、銅含有ガラス及び亜酸化銅のいずれか一方又は両方を含んでもよい。1つ以上の実施の形態において、銅含有粒子は、酸化状態を維持するための追加の処理又は工程なしで、連続的な態様でCu^(1+)イオンを放出する。既知の銅材料及びZnPTのみでは、菌類の阻害を示さなかったことに留意すべきである。理論によって束縛されるものではないが、そのような相乗効果は、CuとのZnPTのトランスキレート化によるCuPTの形成に一部原因がある。CuPTは、海洋生物にとってZnPTよりも毒性であることが示されており、本明細書に記載される実施の形態は、CuPTが菌類に対して同じ効果を有しうることを示す。
[0007] 第1の態様は、担体、複数の銅イオン又は銅含有粒子を含むコーバイオサイド、並びにZnPT及びトラロピリルのいずれか一方又は両方を含む材料に関する。担体は、ポリマー、モノマー、結合剤又は溶媒を含んでもよい。いくつかの実施の形態において、担体は塗料である。いくつかの例において、担体のガロンごとの銅含有粒子(g)と担体のガロンごとのZnPT(g)及びトラロピリル(g)のいずれか一方との割合は、約0.005?約12の範囲内である。いくつかの実施の形態において、ZnPTは、担体の約150mg/ガロン?担体の約40g/ガロンの範囲内で存在する。材料は、過度のZnPTを含んでもよく、したがってZnを含んでもよい。
[0008] 銅含有粒子は、銅含有ガラス粒子及び/又は亜酸化銅粒子として存在してもよい。銅含有粒子は、約20g/ガロン以下の量で存在してもよい。」

ウ 「[0018] 本明細書において用いられる場合、「抗菌性」なる用語は、細菌、ウイルス及び/又は菌類を含む微生物を死滅させる又はその成長を阻害する材料又は材料表面を意味する。本明細書において用いられるこの用語は、材料又は材料表面がそのような科の全ての種の微生物を死滅させる又はその成長を阻害することを意味するのではなく、そのような科から1つ以上の種の微生物を死滅させる又はその成長を阻害することを意味する。」

エ 「[0024] 1つ以上の実施の形態において、材料は、ウイルスを評価するための修正されたJIS Z 2801(2000)試験条件(以下、「ウイルス用修正JIS Z 2801」)下で、マウスノロウイルス(Murine Norovirus)の濃度の2対数減少以上(例えば、4対数減少以上、又は5対数減少以上)を示し得る。ウイルス用修正JIS Z 2801(2000)試験は、本明細書にさらに詳細に記載される。」

オ 「[0031] 銅含有ガラスの1つ以上の実施の形態は、Cu種を含む。1つ以上の別の実施の形態では、Cu種は、Cu^(1+)、Cu^(0)、及び/又はCu^(2+)を含みうる。Cu種の総量は約10質量%以上であってよい。しかしながら、以下により詳細に議論されるように、Cu^(2+)量は最小限であるか、銅含有ガラスがCu^(2+)を実質的に含まないようにCu^(2+)量を減少させる。Cu^(1+)イオンは、銅含有ガラスの表面及び/又は全体の上または中に存在してもよい。いくつかの実施の形態では、Cu^(1+)イオンは、銅含有ガラスのガラス網目及び/又はガラスマトリックスの中に存在する。Cu^(1+)イオンがガラス網目中に存在する場合、Cu^(1+)イオンはガラス網目中の原子に原子的に結合する。Cu^(1+)イオンがガラスマトリックス中に存在する場合、Cu^(1+)イオンは、ガラスマトリックス中に分散するCu^(1+)結晶の形態で存在しうる。」

カ 「[0038] 本発明のガラス組成物中の銅含有酸化物は、得られるガラス中に存在するCu^(1+)イオンを形成する。銅は、本発明のガラス組成物及び/又は本発明のガラス組成物を含むガラスの中にCu^(0)、Cu^(1+)、及びCu^(2+)を含むさまざまの形態で存在しうる。Cu^(0)又はCu^(1+)の形態の銅は、抗菌活性を提供する。しかしながら、抗菌銅のこれらの状態の形成及び維持は困難であり、多くの場合、既知のガラス組成物中では、所望のCu^(0)又はCu^(1+)イオンの代わりにCu^(2+)イオンが形成される。」

キ 「[0057] いくつかの実施の形態では、銅含有ガラスは、約70質量%以上のCu^(1+)、及び約30質量%以下のCu^(2+)を含みうる。Cu^(2+)イオンは、黒銅鉱形態中、及び/又はさらにはガラス中(すなわち、結晶相としてではなく)に存在しうる。」

ク 「[0059] いくつかの実施の形態では、銅含有ガラスは、Cu^(2+)よりも多い量のCu^(1+)及び/又はCu^(0)を示しうる。例えば、ガラス中のCu^(1+)、Cu^(2+)、及びCu^(0)の総量に基づくと、Cu^(1+)及びCu^(0)を合わせたパーセント値は、約50%?約99.9%、約50%?約99%、約50%?約95%、約50%?約90%、約55%?約99.9%、約60%?約99.9%、約65%?約99.9%、約70%?約99.9%、約75%?約99.9%、約80%?約99.9%、約85%?約99.9%、約90%?約99.9%、約95%?約99.9%の範囲内、並びにそれらの間の全ての範囲内及び部分的範囲内となりうる。Cu^(1+)、Cu^(2+)、及びCu^(0)の相対量は、当該技術分野において既知のX線フォトルミネッセンス分光法(XPS)技術を用いて特定することができる。…」

ケ 「[0062] 銅含有ガラスは、シートとして提供してもよく、又は、粒子状(中空又は固体でもよい)、繊維状などの別の形状を有してもよい。1つ以上の実施の形態では、銅含有ガラスは、表面と、約5ナノメートル(nm)以下の深さで表面から銅含有ガラス中に伸長する表面部分とを含む。表面部分は、複数の銅イオンを含んでもよく、複数の銅イオンの少なくとも75%がCu^(1+)イオンを含む。例えば、場合によっては、表面部分中の複数の銅イオンの少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または少なくとも約99.9%がCu^(1+)イオンを含む。いくつかの実施の形態では、表面部分中の複数の銅イオンの25%以下(例えば、20%以下、15%以下、12%以下、10%以下、又は8%以下)がCu^(2+)イオンを含む。例えば、場合によっては、表面部分中の複数の銅イオンの20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、又は0.01%以下がCu^(2+)イオンを含む。いくつかの実施の形態では、銅含有ガラス中のCu^(1+)イオンの表面濃度が制御される。場合によっては、約4ppm以上のCu^(1+)イオン濃度を銅含有ガラスの表面上で提供することができる。」

コ 「[0071] 1つ以上の実施の形態では、本明細書に記載の銅含有ガラス及び/又は材料は、浸出液に曝露又は接触すると銅イオンを浸出する。1つ以上の実施の形態では、銅含有ガラスは、水を含む浸出液に曝露すると銅イオンのみを浸出する。
[0072] 1つ以上の実施の形態では、本明細書に記載の銅含有ガラス及び/又は物品は、調整可能な抗菌活性放出を有することができる。ガラス及び/又は材料の抗菌活性は、抗菌性ガラスと水などの浸出液との間の接触によって生じ得、浸出液によって、Cu^(1+)イオンが銅含有ガラスから放出される。この作用は水溶性と記載することができ、この水溶性を調整することでCu^(1+)イオンの放出を制御することができる。」

サ 「[0082] 1つ以上の実施の形態において、担体としては、本明細書に記載のようなポリマー、モノマー、結合剤、溶媒、又はそれらの組合せを挙げることができる。特定の実施の形態において、担体は、表面(内表面又は外表面を含みうる)への塗布のために使用される塗料である。
[0083] 本明細書に記載される実施の形態に使用されるポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、ポリオレフィン、硬化ポリマー、紫外線又はUV硬化ポリマー、ポリマーエマルジョン、溶剤系ポリマー、及びそれらの組合せを挙げることができる。…」

シ 「[0086] 本明細書に記載のように、本明細書に記載の銅含有ガラスを担体と組み合わせた後、その組合せ又は生じた材料を所望の物品に形成する又は表面に塗布することができる。材料が塗料を含む場合、塗料は層として表面に塗布してもよい。本明細書に記載の材料を使用して形成しうるそのような物品の例としては、電子デバイスの筐体(例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット、ビデオプレーヤー、情報端末装置、ラップトップコンピュータなど)、建築構造(例えば、カウンタートップまたは壁)、器具(例えば、クックトップ、冷蔵庫、および食器洗浄機の扉など)、情報表示装置(例えば、ホワイトボード)、及び自動車部品(例えば、ダッシュボードパネル、フロントガラス、窓部品など)が挙げられる。」

ス 「実施例
[0091] 以下の実施例によってさまざまの実施の形態がさらに明らかとなるであろう。
実施例1
[0092] ASTM 5590の下で菌類成長の制御を評価するために、例1A?1Fを調製した。例1A?1Fは、表1に示される組成物を含んだ。例1B?1Fで使用される銅含有ガラス粒子は、45モル%のSiO_(2)、35モル%のCuO、7.5モル%のK_(2)O、7.5モル%のB_(2)O_(3)、及び5モル%のP_(2)O_(5)の組成を含んだ。
[0093]

[0094] 例1A-1Fの塗料を、同じ紙基板上に塗布し、当該菌類の懸濁液と直接接触させることにより、A.pullulans(かび)又はA.niger/A.funiculosum(白かび)に暴露した。摂取された試料を、30℃/飽和湿度で密封された湿潤環境に配置し、28日間インキュベートした。抗菌能力を、塗料上の菌類の成長の割合の視覚評価により特定してもよい。観察された成長の割合に基づいて、数値スコアを各物質に割り当てる:0=成長なし、1=わずかな成長(10%未満)、2=小成長(10?30%)、3=中成長(30?60%)、4=大成長(60%?完全被覆)。表2は、3週間後の結果を示す。
[0095]

[0096] 表2に示されるように、ZnPT及び銅イオンの両方を含む塗料は、優れた能力を示した。」

(2)甲1に記載された発明
上記(1)スの記載からみて、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「基板表面に、銅含有ガラス、ZnPT及び対照塗料Aを含む塗料から形成された塗膜が固着した、A.pullulansに対する抗菌性基板。」

(3)本件発明1
ア 本件発明1と甲1発明の対比
上記(1)スの記載からみて、甲1発明の「銅含有ガラス」はCuOを含むものであるから、本件発明1の「銅化合物」に相当し、甲1発明の「基板表面に、銅含有ガラス、及びZnPT及び対照塗料Aを含む塗料から形成された塗膜が固着した、A.pullulansに対する抗菌性基板」は、本件発明1の「基材表面に、銅化合物を含むバインダの硬化物が固着し」た「基体」に相当すると認められる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「基材表面に、銅化合物を含むバインダの硬化物が固着し」た「基体」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1のバインダの硬化物は、「還元力のある光重合開始剤を含」むのに対し、甲1発明の塗料から形成された塗膜は、還元力のある光重合開始剤を含むのか明らかでない点。

相違点2:本件発明1の銅化合物は、「少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から露出してなる」のに対し、甲1発明のCuOを含む銅含有ガラスは、塗料から形成された塗膜の表面から露出しているか明らかでない点。

相違点3:本件発明1のバインダは「電磁波硬化型樹脂」であるのに対し、甲1発明の塗料から形成された塗膜は、電磁波硬化型樹脂であるか明らかでない点。

相違点4:本件発明1の銅化合物は、「X線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?4であ」るのに対し、甲1発明のCuOを含む銅含有ガラスは、(Cu(I)/Cu(II))が明らかでない点。

相違点5:本件発明1のバインダの硬化物は、「光触媒物質を含まないことを特徴とする」のに対し、甲1発明の塗料から形成された塗膜は光触媒物質を含まないか明らかでない点。

相違点6:本件発明1の基体は、「抗ウィルス性基体」であるのに対し、甲1発明の基板は、「A.pullulansに対する抗菌性基板」である点。

イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
甲1には、実施例で使用されている「対照塗料A」について、具体的な組成が記載されていない。
そして、塗料を構成するポリマーあるいはモノマーが確定しない甲1発明において、「還元力のある光重合開始剤」を要する「バインダ」を採用することは当業者が容易になし得たものとはいえない。甲1全体の記載及びその余の甲各号証を参照しても同様である。

上記相違点4について検討する。
甲1には、銅含有ガラス中のCu^(1+)、Cu^(2+)、及びCu^(0)の相対量をX線フォトルミネッセンス分光法(XPS)技術を用いて特定できることが記載されているに留まり(上記(1)ク)、Cu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))を特定の値に調整することは何ら記載も示唆もされていないから、甲1発明において、(Cu(I)/Cu(II))を0.4?4とすることを動機付けられるものではなく、甲1全体の記載及びその余の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得るということもできない。
そして、本件発明1は、還元力のある光重合開始剤を含むことにより銅化合物を還元させることができ、さらに(Cu(I)/Cu(II))を0.4?4とすることにより、銅の抗ウィルス活性を高めるという格別の効果を奏する。
よって、相違点2、3、5、6について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明及びその余の甲号証に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(イ)申立人は、申立ての理由において、以下のとおり主張する。
「…甲第1号証には抗菌性材料に含まれる担体として紫外線硬化ポリマーが記載されているが、光重合開始剤については明記されていない。しかし、紫外線硬化ポリマーを紫外線で硬化させる場合には、何らかの光重合開始剤を用いることは周知技術であり(例えば、甲第6号証には、光硬化性樹脂であるアクリレート樹脂について、UV光で硬化させたい場合には重合開始剤が必要となることが記載されている(段落0015、段落0027))。当業者であれば甲第1号証に基づき紫外線硬化ポリマーを用いる場合には、光重合開始剤を用いて硬化させるものであると理解するのが自然である。
次に甲第2号証には甲2記載事項として「紫外線等の電磁波の照射により光重合開始剤がCu(II)をCu(I)に還元する」点が記載されている。…
そして、…甲第2号証に記載されている光重合開始剤は、光重合開始剤として従来知られている一般的な開始剤であるから、甲1発明の紫外線硬化ポリマーを硬化させる際の開始剤として用いることについて十分な動機付けが存在し、甲第2号証に記載の光重合開始剤を採用することを阻害する要因も無い。
したがって、甲1発明に甲第2号証に記載の事項を適用して「還元力のある光重合開始剤を含む」ものとすることは容易である。」
「以上のように、甲第1号証には本件特許発明1に規定される数値範囲と重複する範囲の比率でCu(I)とCu(II)を含有することが開示されており、本件特許発明と同じく抗ウイルス効果を有することも記載されている。…そして数値範囲内である場合の抗ウイルス効果は、以上のように顕著性が認められない程度のものであるので、本件特許明細書に記載された抗ウイルス効果が出願時の技術常識から当業者が予測できたものである。」

甲1には、紫外線又はUV硬化ポリマーを用いることは記載されているが(上記(1)サ)、対照塗料Aの具体的な組成が明らかでなく、甲1に列挙された多数のポリマー(上記(1)サ)から、甲1発明の対照塗料Aとして紫外線又はUV硬化ポリマーのような「光重合開始剤」、ましてや「還元力のある光重合開始剤」を要すると解される材料を採用する動機付けを見いだすことはできず、また、本件発明1によって奏される上記の効果を予測することはできない。

甲1には、銅含有ガラス中のCu^(1+)、Cu^(2+)、及びCu^(0)の相対量をX線フォトルミネッセンス分光法(XPS)技術を用いて特定できることは記載されているが(上記(1)ク)、還元力のある光重合開始剤によりCu(II)をCu(I)に還元することは何ら記載も示唆もされていない。そして、甲2に光重合開始剤がCu(II)をCu(I)に還元することが記載されていても、甲2のCu(I)はアジド-アルキン反応における触媒であり、甲1発明の銅の抗菌活性とは関係がなく技術分野も異なることから、甲2の記載事項を甲1発明に適用し、さらに(Cu(I)/Cu(II))を0.4?4という特定の値とすることは、当業者が容易に想到し得たものでない。
また、甲1及びその余の甲号証の記載事項から、本件発明1の効果を予測することはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2?4
本件発明2?4は、本件発明1をさらに限定するものである。
したがって、本件発明1が甲1に記載された発明及びその余の甲号証に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2?4も甲1に記載された発明及びその余の甲各号証に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(5)まとめ
よって、申立ての理由には、理由がない。

3 まとめ
以上のことから、申立人が主張する申立ての理由には理由がなく、これらの申立ての理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件請求項1?4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-10-29 
出願番号 特願2020-77706(P2020-77706)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01N)
最終処分 維持  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
小堀 麻子
登録日 2021-02-15 
登録番号 特許第6838184号(P6838184)
権利者 イビデン株式会社
発明の名称 抗ウィルス性基体  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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