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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1379878
異議申立番号 異議2021-700852  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-02 
確定日 2021-11-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6839314号発明「ウエハ載置装置及びその製法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6839314号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6839314号の請求項1?5に係る特許についての出願は,令和2年3月13日(優先権主張 平成31年3月19日)に出願され,令和3年2月16日にその特許権の設定登録がされ,同年3月3日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,同年9月2日に特許異議申立人 小澤佳郎(以下,「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6839314号の請求項1?5の特許に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1?5」といい,まとめて「本件発明」ともいう。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
上面にウエハ載置面を有し,電極が内蔵された円盤状のセラミックプレートと,
前記セラミックプレートの前記ウエハ載置面とは反対側の下面に配置された円盤状の冷却プレートと,
前記セラミックプレートの下面にある接着面と前記冷却プレートの上面にある接着面とを接着する樹脂製の接着シート層と,
を備え,
前記セラミックプレートの接着面及び前記冷却プレートの接着面のうちの少なくとも一方は,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い,
ウエハ載置装置。
【請求項2】
前記電極は,ヒータ電極であり,前記セラミックプレートのうち前記内周部に対応する内周ゾーンと,前記セラミックプレートのうち前記外周部に対応する外周ゾーンと,に個別に内蔵されている,
請求項1に記載のウエハ載置装置。
【請求項3】
前記セラミックプレートの接着面及び前記冷却プレートの接着面は,半径135mm以上である,
請求項1又は2に記載のウエハ載置装置。
【請求項4】
前記セラミックプレートの接着面及び前記冷却プレートの接着面のうちの少なくとも一方は,前記外周部の表面粗さRaが1.6μmよりも粗い,
請求項1?3のいずれか1項に記載のウエハ載置装置。
【請求項5】
(a)電極が内蔵された円盤状のセラミックプレートと,円盤状の冷却プレートと,接着シートと,を用意する工程と,
(b)前記セラミックプレートと前記冷却プレートとを前記接着シートを用いて接着する工程と,
を含み,
前記工程(a)で用意する前記セラミックプレート及び前記冷却プレートのうち少なくとも一方は,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面を有し,
前記工程(b)では,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い前記接着面で接着する,
ウエハ載置装置の製法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠として甲第1号証?甲第4号証を提出し,以下の理由により,請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(新規性)
本件発明1,3?5は,甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,請求項1,3?5に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 申立理由2(進歩性)
本件発明1,3?5は,甲第1号証に記載された発明に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,また,本件発明2は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1?5に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1?5は,発明の詳細な説明に記載されたものではないから,請求項1?5に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 申立理由4(明確性)
本件発明1?5は,特許請求の範囲の記載が明確でないから,請求項1?5に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2003-224180号公報
甲第2号証:特開2016-1757号公報
甲第3号証:「株式会社キーエンス社」の「粗さ入門.com」の「表面粗さとは」と題するページ,[online],[令和3年8月19日検索],インターネット<URL:https://www.keyence.co.jp/ss/products/microscope/roughness/basics/about.jsp>
甲第4号証:特開2014-5230号公報

第4 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願の優先日前に公知となった甲第1号証(特開2003-224180号公報)には,以下の事項が記載されている(なお,下線は当合議体が付加したものである。以下,同様である。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,半導体ウエハ等のウエハを支持するのに用いるウエハ支持部材に関するものであり,特にウエハを吸着保持する載置面側の温度が高く,載置面と反対側の温度が低い場合でも載置面の反りが小さいウエハ支持部材に関するものである。」

「【発明の実施の形態】以下,本発明の実施形態について説明する。
【0014】図1は本発明のウエハ支持部材の一例を示す断面図である。
【0015】このウエハ支持部材1は,静電チャック部2とベース部材7とを接着層9を介して接合したもので,上記静電チャック部2は,円盤状をした板状セラミック体3の一方の主面を,半導体ウエハ等のウエハWを載せる載置面4とし,上記板状セラミック体3の他方の主面5に一対の静電吸着用電極6を備えたもので,ベース部材7には冷却ガスや冷却水を流すための流体通路8を形成してある。
【0016】図2は本発明のウエハ支持部材の他の例を示す断面図である。
【0017】このウエハ支持部材11は,静電チャック部12とベース部材17とを接着層19を介して接合したもので,上記静電チャック部12は,板状セラミック体13の一方の主面を,半導体ウエハ等のウエハWを載せる載置面14とし,上記板状セラミック体13中に一対の静電吸着用電極16を備えたもので,ベース部材17には冷却ガスや冷却水を流すための流体通路18を形成してある。
・・・
【0033】その為,板状セラミック体3の他方の主面5に静電吸着用電極6を形成する場合,他方の主面5は算術平均粗さ(Ra)で5.0μm以下としておくことが好ましい。
・・・
【0037】次に,図1及び図2に示すウエハ支持部材1,11の製造方法について説明する。
・・・
【0039】図1に示すように,板状セラミック体3の他方の主面5に静電吸着用電極6を備えた静電チャック部2を形成する場合,焼結された板状セラミック体3を用意し,研磨加工,ラッピング,あるいはブラスト加工を施して上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整する。好ましくは上下面の表面粗さを算術平均粗さ(Ra)で2μm?5μmとすることが良い。
・・・
【0041】また,図2に示すように,板状セラミック体13中に静電吸着用電極16を埋設した静電チャック部12を形成する場合,未焼成のセラミックグリーンシートを複数枚用意し,数枚積層した後,金属ペーストを印刷するか,あるいは金属ペーストをシート状とした静電吸着用電極16を載せ,残りのセラミックグリーンシートを重ねて積層した後,焼成することにより静電吸着用電極16が埋設された板状セラミック体13を製作し,さらに板状セラミック体13に研磨加工,ラッピング,あるいはブラスト加工を施して上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整することにより静電チャック部12を製作するか,あるいは金型にて未焼成のセラミック成形体を形成した後,金属ペーストを印刷するか,あるいは金属箔又は金属メッシュからなる静電吸着用電極16を載せ,さらにセラミック粉末を充填してホットプレス成形法により一体的に焼成して静電吸着用電極16が埋設された板状セラミック体13を製作し,さらに板状セラミック体13に研磨加工,ラッピング,あるいはブラスト加工を施して上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整することにより静電チャック部12を製作する。なお,上下面の表面粗さは算術平均粗さ(Ra)で2μm?5μmとなるようにすることが好ましい。
【0042】次に,アルミニウム,銅,アルミニウム合金,銅合金,あるいは多孔質セラミック体の開気孔中にアルミニウムを充填した複合材からなり,内部に流体通路8,18を有するベース部材7,17を用意し,ベース部材7,17の接合面に接着剤を塗布した後,図1又は図2に示す静電チャック部2,12の他方の主面5,15を貼り合わせ,接着剤を硬化させる。」

「【0047】
【実施例】・・・
【0049】具体的には,静電チャック部2を形成する板状セラミック体3には,直径300mm,厚み1mmの円板状をした窒化アルミニウム質焼結体を用い,その上下面に研削加工やブラスト加工を施して略同じ表面粗さとなるように加工した後,板状セラミック体3の他方の主面5の略全面にメッキ法にてNi膜を被着した後,エッチング加工により不要箇所を除去し,一対の半円状をした静電吸着用電極6を形成して静電チャック部2を構成した。
【0050】次に,静電チャック部2の静電吸着用電極6側にポリイミド樹脂からなる絶縁層を被着し,さらにシリコン系接着剤を塗布した後,直径300mm,厚み36mmのアルミニウムからなるベース部材7を貼り合わせ,熱を加えて接着剤を硬化させた後,静電チャック部2の載置面4に研磨加工を施して載置面4と反対側の表面5との表面粗さを異ならせることにより試料としてのウエハ支持部材を製作した。」

「【図1】

【図2】



2 本件特許に係る出願の優先日前に公知となった甲第2号証(特開2016-1757号公報)には,以下の事項が記載されている。
「【0009】
(一実施形態)
以下,一実施形態を説明する。
図1(a)に示すように,静電チャックは,ベースプレート(基台)10と,接着層20と,静電チャック(ESC)基板30を有している。静電チャック基板30は,接着層20によりベースプレート10上に接着されている。
・・・
【0014】
図1(a)に示すように,静電チャック基板30は,基板本体(基体)31と,基板本体31に内蔵された静電電極32及び抵抗発熱体33を有している。基板本体31は,基板Wが載置される基板載置面31a(図1(a)において上面)と,接着層20側であってベースプレート10の上面10aと対向し,接着層20により接着される接着面31b(図1(a)において下面)を有している。基板載置面31aと接着面31bは,互いに平行である。
・・・
【0018】
抵抗発熱体33は,基板本体31において,静電電極32と,接着面31bとの間に内設されている。
抵抗発熱体33は,第1の抵抗発熱体33aと第2の抵抗発熱体33bを含む。第1及び第2の抵抗発熱体33a,33bは,基板本体31内において,基板載置面31aと平行な面上に配置されている。第1及び第2の抵抗発熱体33a,33bは静電電極32と電気的に絶縁されている。
【0019】
図2(a)に示すように,第1の抵抗発熱体33aは,基板本体31の中央部に配置されている。第2の抵抗発熱体33bは,基板本体31の外周部に配置されている。尚,図2(a)は,第1及び第2の抵抗発熱体33a,33bが形成された領域を示すものである。即ち,図2(b)に示すように,第1及び第2の抵抗発熱体33a,33bは,所定の抵抗値となるように幅が設定された配線パターンにより構成されている。配線パターンは,第1及び第2の抵抗発熱体33a,33bが形成された領域において,発熱密度が均一となるように配設されている。なお,第1の抵抗発熱体33aの抵抗値は例えば82オーム(Ω)に設定され,第2の抵抗発熱体33bの抵抗値は例えば75オーム(Ω)に設定されている。」

「【図1】

【図2】



3 甲第3号証(「株式会社キーエンス社」の「粗さ入門.com」の「表面粗さとは」と題するページ,[online],[令和3年8月19日検索],インターネット<URL:https://www.keyence.co.jp/ss/products/microscope/roughness/basics/about.jsp>)には,以下の事項が記載されている。




4 本件特許に係る出願の優先日前に公知となった甲第4号証(特開2014-5230号公報)には,以下の事項が記載されている。
「【0010】
ところで,本願発明者らが,ブラスト処理が終了した表面を実際に観察したところ,測定箇所によるバラツキが大きいものの,さまざまな周期の凹凸が合わさって表面の凹凸が形成されていることを知見している。つまり,ブラスト処理が終了した表面の性状を測定するにあたっては,さまざまな周期の凹凸が含まれるようにある程度は広い範囲に亘って測定をしないと,局所的な特徴だけを捉えた結果となってしまう可能性が大である。」

第5 当審の判断
1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)甲号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記第4 1の記載によれば,甲第1号証には,以下の発明が記載されていると認められる。
「静電チャック部12とベース部材17とを接着層19を介して接合したウエハ支持部材11であって,
上記静電チャック部12は,円板状をした窒化アルミニウム質焼結体を用いた板状セラミック体13の一方の主面を,半導体ウエハ等のウエハWを載せる載置面14とし,上記板状セラミック体13中に一対の静電吸着用電極16を備えたものであり,
ベース部材17は,直径300mm,厚み36mmのアルミニウムからなり,冷却ガスや冷却水を流すための流体通路18を形成してあり,
接着層は,シリコン系接着剤からなり,
板状セラミック体13は,研磨加工,ラッピング,あるいはブラスト加工を施して上下面の表面粗さが略同じ粗さに調整されている,
ウエハ支持部材11。」(以下,「甲1-1発明」という。)

「円板状をした窒化アルミニウム質焼結体を用い,静電吸着用電極16が埋設された板状セラミック体13を製作し,さらに,板状セラミック体13に研磨加工,ラッピング,あるいはブラスト加工を施して上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整することにより静電チャック部12を製作する工程と,
直径300mm,厚み36mmのアルミニウムからなり,内部に冷却ガスや冷却水を流すための流体通路18を有するベース部材17を用意し,ベース部材17の接合面にシリコン系接着剤を塗布した後,静電チャック部12の他方の主面15を貼り合わせ,シリコン系接着剤を硬化させる工程と,
を有するウエハ支持部材11の製造方法。」(以下,「甲1-2発明」という。)

イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の前記第4 2の記載によれば,甲第2号証には,以下の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「ベースプレート(基台)10と,接着層20と,静電チャック(ESC)基板30を有している静電チャックであって,
静電チャック基板30は,接着層20によりベースプレート10上に接着されており,
静電チャック基板30は,基板本体(基体)31と,基板本体31に内蔵された静電電極32及び抵抗発熱体33を有しており,
抵抗発熱体33は,第1の抵抗発熱体33aと第2の抵抗発熱体33bを含み,
第1の抵抗発熱体33aは,基板本体31の中央部に配置されており,第2の抵抗発熱体33bは,基板本体31の外周部に配置されている,
静電チャック。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
(ア)甲1-1発明の「静電チャック部12」は,「円板状をした窒化アルミニウム質焼結体を用いた板状セラミック体13の一方の主面を,半導体ウエハ等のウエハWを載せる載置面14とし,上記板状セラミック体13中に一対の静電吸着用電極16を備えたものであ」るから,上面にウエハ載置面を有し,「一対の静電吸着用電極16」が内蔵されているといえる。
また,甲1-1発明の「円板状」と,本件発明1の「円盤状」とは,同義であるといえる。
そうすると,甲1-1発明の「円板状」,「一対の静電吸着用電極16」は,それぞれ,本件発明1の「円盤状」,「電極」に相当し,甲1-1発明の「円板状をした窒化アルミニウム質焼結体を用いた板状セラミック体13の一方の主面を,半導体ウエハ等のウエハWを載せる載置面14とし,上記板状セラミック体13中に一対の静電吸着用電極16を備えた」「静電チャック部12」は,本件発明1の「上面にウエハ載置面を有し,電極が内蔵された円盤状のセラミックプレート」に相当する。

(イ)甲1-1発明の「直径300mm,厚み36mmのアルミニウムからなり,冷却ガスや冷却水を流すための流体通路18を形成してあり」,「静電チャック部12」と「接着剤19を介して接合」される「ベース部材17」は,円盤状であって,「静電チャック部12」の「半導体ウエハ等のウエハWを載せる載置面14」とは反対側の下面に「接着層19を介して接合」されることは明らかであるから,本件発明1の「前記セラミックプレートの前記ウエハ載置面とは反対側の下面に配置された円盤状の冷却プレート」に相当する。

(ウ)甲1-1発明の「静電チャック部12とベース部材17と」は「接着層19を介して接合」されているから,「静電チャック部12」の下面にある接着面と,「ベース部材17」の上面にある接着面とが接着されているといえる。
そして,甲1-1発明の「シリコン系接着剤からな」る「接着層19」と,本件発明1の「樹脂製の接着シート層」とは,接着層である点で共通する。
そうすると,甲1-1発明の「静電チャック部12とベース部材17とを」「接合」する「シリコン系接着剤からな」る「接着層19」と,本件発明1の「前記セラミックプレートの下面にある接着面と前記冷却プレートの上面にある接着面とを接着する樹脂製の接着シート層」とは,「前記セラミックプレートの下面にある接着面と冷却プレートの上面にある前記接着面とを接着する」接着層である点で共通する。

(エ)甲1-1発明の「板状セラミック体3」は,「研磨加工,ラッピング,あるいはブラスト加工を施して上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整されている」ところ,「静電チャック部12」は,「円板状をした窒化アルミニウム質焼結体を用いた板状セラミック体13の一方の主面を,半導体ウエハ等のウエハWを載せる載置面14とし」ており,また,前記(ウ)で検討したように,「静電チャック部12」の下面にある接着面と,「ベース部材17」の上面にある接着面とが接着されるものである。
そうすると,甲1-1発明の「静電チャック部12」の接着面は,「表面粗さを略同じ粗さに調整されている」といえる。
一方,本件発明1の「前記セラミックプレートの接着面」は,「内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い」ものである。

(オ)甲1-1発明の「ウエハ支持部材11」は,本件発明1の「ウエハ載置装置」に対応する。

(カ)以上から,本件発明1と甲1-1発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。

<一致点>
「上面にウエハ載置面を有し,電極が内蔵された円盤状のセラミックプレートと,
前記セラミックプレートの前記ウエハ載置面とは反対側の下面に配置された円盤状の冷却プレートと,
前記セラミックプレートの下面にある接着面と前記冷却プレートの上面にある接着面とを接着する接着シート層と,
を備える,
ウエハ載置装置。」

<相違点>
相違点1-1:「前記セラミックプレートの下面にある接着面と前記冷却プレートの上面にある接着面とを接着する」接着層について,本件発明1は,「樹脂製の接着シート層」であるのに対し,甲1-1発明は,「シリコン系接着剤からな」る「接着層」である点。
相違点1-2:「セラミックプレートの接着面」について,本件発明1は,「内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い」ものであるのに対し,甲1-1発明は,「表面粗さが略同じ粗さに調整されている」点。

イ 判断
事案に鑑み相違点1-2から検討する。
(ア)甲第1号証には,「静電チャック部12」の接着面について,内周部よりも外周部の表面粗さRaを粗くすることは,何ら記載も示唆もされていない。
そうすると,甲1-1発明において,「静電チャック部12」の接着面が,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗くなっているとはいえないから,相違点1-2は実質的な相違点である。
したがって,相違点1-1について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1-1発明ではない。

(イ)また,「静電チャック部12」の接着面の内周部よりも外周部の表面粗さRaを粗くすることは,本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったとはいえないから,甲1-1発明において,相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって,相違点1-1について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1-1発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。

(3)本件発明2について
本件発明2は,本件発明1の全ての構成を有するものであるから,本件発明2と甲1-1発明とは,少なくとも前記相違点1-1及び1-2の点で相違する。
そして,甲第2号証には,前記(1)イで認定したとおりの甲2発明が記載されているものの,相違点1-2に係る本件発明2の構成については,何ら記載も示唆もされていない。
したがって,甲1-1発明に甲2発明を適用しても,相違点1-2に係る本件発明2の構成は得られない。
よって,その余の相違点について判断するまでもなく,本件発明2は,甲1-1発明及び甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものでもない。

(4)本件発明3,4について
本件発明3,4は,いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるかから,前記(2)イで検討したのと同様の理由により,本件発明3,4は,甲1-1発明ではないし,また,甲1-1発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものでもない。

(5)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1-2発明とを対比する。
(ア)甲1-2発明の「静電チャック部12」は,「円板状をした窒化アルミニウム質焼結体を用い,静電吸着用電極16が埋設された板状セラミック体13を製作し,さらに,板状セラミック体13に研磨加工,ラッピング,あるいはブラスト加工を施して上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整することにより」「製作」されるものであるから,「静電吸着用電極16」が内蔵されているといえる。
また,甲1-2発明の「円板状」と,本件発明5の「円盤状」とは,同義であるといえる。
そうすると,甲1-2発明の「円板状」,「静電吸着用電極16」は,それぞれ,本件発明5の「円盤状」,「電極」に相当し,甲1-2発明の「円板状をした窒化アルミニウム質焼結体を用い,静電吸着用電極16が埋設された板状セラミック体13を製作し,さらに,板状セラミック体13に研磨加工,ラッピング,あるいはブラスト加工を施して上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整することにより」「製作」される「静電チャック部12」は,本件発明5の「電極が内蔵された円盤状のセラミックプレート」に相当する。

(イ)甲1-2発明の「直径300mm,厚み36mmのアルミニウムからなり,内部に冷却ガスや冷却水を流すための流体通路18を有するベース部材17」は,円盤状であることは明らかであるから,本件発明5の「円盤状の冷却プレート」に相当する。

(ウ)甲1-2発明の「シリコン系接着剤」と,本件発明5の「接着シート」とは,接着材料である点で共通する。

(エ)甲1-2発明は,「ベース部材17を用意」しているところ,「ベース部材17の接合面に接着剤を塗布した後,前記静電チャック部12の他方の主面15を貼り合わせ」る前に,「静電チャック部12」及び「接着剤」も用意していることは明らかであるから,甲1-2発明と本件発明5とは,「(a)電極が内蔵された円盤状のセラミックプレートと,円盤状の冷却プレートと」,接着材料と,を「用意する工程」を含んでいる点で共通する。

(オ)甲1-2発明の「ベース部材17の接合面にシリコン系接着剤を塗布した後,前記静電チャック部12の他方の主面15を貼り合わせ,シリコン系接着剤を硬化させる工程」は,「静電チャック部12」と「ベース部材17」とを「シリコン系接着剤」を用いて接着しているといえるから,甲1-2発明と本件発明5とは,「(b)前記セラミックプレートと前記冷却プレート」とを接着材料を「用いて接着する工程」を含んでいる点で共通する。

(カ)前記(エ)で検討したように,甲1-2発明は,「ベース部材17の接合面に接着剤を塗布した後,前記静電チャック部12の他方の主面15を貼り合わせ」る前に,「静電チャック部12」も用意していることは明らかであり,また,前記(オ)で検討したように,甲1-2発明の「ベース部材17の接合面に接着剤を塗布した後,前記静電チャック部12の他方の主面15を貼り合わせ,接着剤を硬化させる工程」は,「静電チャック部12」と「ベース部材17」とを「接着剤」を用いて接着しているといえるところ,甲1-2発明において,「静電チャック部12」は,「板状セラミック体13に研磨加工,ラッピング,あるいはブラスト加工を施して上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整することにより」「製作する」ものであるから,用意する「静電チャック部12」は,「上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整」されている接着面を有しているといえる。
一方,本件発明5は,「前記工程(a)で用意する前記セラミックプレート」は,「内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面を有し」ている。
そうすると,甲1-2発明と本件発明5とは,「前記工程(a)で用意する前記セラミックプレート」は,「接着面を有し」ている点で共通する。

(キ)前記(カ)で検討したように,甲1-2発明において,用意する「静電チャック部12」は,「上下面の表面粗さを略同じ粗さに調整」されている接着面を有しているといえるから,「ベース部材17の接合面に接着剤を塗布した後,前記静電チャック部12の他方の主面15を貼り合わせ,接着剤を硬化させる工程」では,前記接着面で接着するものといえる。
そうすると,甲1-2発明と本件発明5とは,「前記工程(b)では」,「前記接着面で接着する」点で共通する。

(ク)甲1-2発明の「ウエハ支持部材11の製造方法」は,本件発明5の「ウエハ載置装置の製法」に対応する。

(ケ)以上から,本件発明5と甲1-2発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。

<一致点>
「(a)電極が内蔵された円盤状のセラミックプレートと,円盤状の冷却プレートと,接着材料と,を用意する工程と,
(b)前記セラミックプレートと前記冷却プレートとを前記接着材料を用いて接着する工程と,
を含み,
前記工程(a)で用意する前記セラミックプレート及び前記冷却プレートのうち少なくとも一方は,接着面を有し,
前記工程(b)では,前記接着面で接着する,
ウエハ載置装置の製法。」

<相違点>
相違点2-1:接着材料について,本件発明5は,「接着シート」であるのに対し,甲1-2発明は,「接着剤」である点。
相違点2-2:「セラミックプレート」の「接着面」について,本件発明5は,「内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い」のに対し,甲1-2発明は,「表面粗さが略同じ粗さに調整されている」点。

イ 判断
事案に鑑み相違点2-2から検討する。
(ア)甲第1号証には,「静電チャック部12」の接着面について,内周部よりも外周部の表面粗さRaを粗くすることは,何ら記載も示唆もされていない。
そうすると,甲1-2発明において,「静電チャック部12」の接着面が,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗くなっているとはいえないから,相違点2-2は実質的な相違点である。
したがって,相違点2-1について検討するまでもなく,本件発明5は,甲1-2発明ではない。

(イ)また,「静電チャック部12」が,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面を有することは,本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であったとはいえないから,甲1-2発明において,相違点2-2に係る本件発明5の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって,相違点2-1について検討するまでもなく,本件発明5は,甲1-2発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。

(6)異議申立人の主張について
新規性についての異議申立人の主張(異議申立書20頁下から7行?21頁22行)
甲1-1発明では,機械研磨の1つであるブラストによる加工処理によって,接着層と接着する静電チャック部の接着面の表面粗さRaを調整しており(【0039】,【0041】),ここで,ブラストなどの機械研磨によって研磨対象面の全面に均一な研磨処理を施した場合でも,研磨対象面の表面粗さRaは,研磨対象面の全面において一定となるものではなく,表面粗さRaが相対的に大きい部分と小さい部分とが混在することは,周知の事実であるから,甲1-1発明では,中央寄りの部分の表面粗さRaよりも外側寄りの部分の表面粗さRaの方が大きい接着面は,意図しなくても形成される。
また,「ラッピング」は,一般的に,数μm以上の粗い砥粒と,金属やセラミックスなどの硬質工具を用いて,可能限り高速で所定の形状や寸法に近づける研磨方法であり,数μm以下の微細砥粒と合成樹脂などの軟質工具を用いて表面粗さを低減させるポリシングに比べて研磨対象面を粗く研磨するため,研磨対象面の各所における表面粗さRaには,大小関係が発生しやすいから,接着面の外側寄りの部分と中央寄りの部分との間において,外側寄りの部分の表面粗さRaの方が中央寄りの部分の表面粗さRaよりも大きくなる関係がさらに生じやすくなるから,甲第1号証には,内周部の表面粗さRaよりも外周部の表面粗さRaが大きい静電チャック部が記載されているといえる。

進歩性についての異議申立人の主張(異議申立書21頁22行?22頁7行)
甲第1号証にも記載されているように,接着層を介して接合される一対の部材のうちの一方の部材において,接着層に接着する接着面の表面粗さを一定の範囲内に調整することは,一方の部材と接着層との接合力を高めるための周知の技術であるから,接着面の表面粗さを一定の範囲内に調整するのであれば,上述したようなブラストによる加工処理やラッピングによる研磨では,接着面全面における表面粗さのばらつきは一定の範囲内でばらつくこととなり,接着面全面における表面粗さの大小関係を意図的に調整しなくても,接着面の中央寄りの部分の表面粗さと接着面の外側寄りの部分の表面粗さとの間には,大小関係が生じるため,研磨された接着面において,外側寄りの部分の表面粗さRaの方が中央寄りの部分の表面粗さRaよりも大きくなる蓋然性は高いから,本件特許発明1は,甲第1号証に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。また,そうしたことによる効果も特別なものとは言えないため,本件特許発明1は,進歩性を欠如する発明である。

ウ 判断
前記ア及びイの異議申立人の主張は,いずれも証拠の記載に基づくものではないし,研磨対象面の全面をラッピングやブラスト加工によって研磨した際に,内周部の表面粗さRaよりも外周部の表面粗さRaの方が必ず大きくなるともいえないから,異議申立人の前記主張はいずれも採用できない。

(7)小括
以上のとおり,本件発明1,3?5は,甲第1号証に記載された発明ではなく,特許法第29条第1項第3号に該当しないから,請求項1,3?5に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず,申立理由1には理由がない。
また,本件発明1,3?5は,甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないし,本件発明2は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項1?5に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず,申立理由2には理由がない。

2 申立理由3(サポート要件)について
(1)本件特許の願書に添付した明細書(以下,「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
ウエハ載置装置としては,上面にウエハ載置面を有する円盤状のセラミックプレートと,セラミックプレートのウエハ載置面とは反対側の下面に配置された円盤状の冷却プレートとが,樹脂製の接着シートで接着されたものが知られている(例えば特許文献1)。特許文献1のウエハ載置装置は,セラミックプレートと冷却プレートを接着シートで貼り合わせて積層体とし,積層体を加熱しながら真空プレスして製造される。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,特許文献1のウエハ載置装置では,接着シート層の厚みが外周部で薄くなり,接着シート層の厚みが均一でないことがあった。接着シート層の厚みが均一でないと,接着シート層を介したセラミックプレートと冷却プレートとの間の熱伝導に違いが生じ,ウエハの面内温度が不均一になる。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり,接着シート層の厚みを均一にして,ウエハの面内温度を均一にすることを主目的とする。」

「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のウエハ載置装置は,
上面にウエハ載置面を有し,電極が内蔵された円盤状のセラミックプレートと,
前記セラミックプレートの前記ウエハ載置面とは反対側の下面に配置された円盤状の冷却プレートと,
前記セラミックプレートの下面にある接着面と前記冷却プレートの上面にある接着面とを接着する樹脂製の接着シート層と,
を備え,
前記セラミックプレートの接着面及び前記冷却プレートの接着面のうちの少なくとも一方は,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗いものである。
【0007】
このウエハ載置装置では,セラミックプレートの下面にある接着面及び冷却プレートの上面にある接着面のうちの少なくとも一方において,内周部よりも外周部の表面粗さ(算術平均粗さ)Raが粗い。接着面の両方において内周部と外周部の表面粗さRaが同じ場合には,プレスの際などに,外周部の接着シート層が内周部より薄くなりやすい。これは,セラミックプレートと冷却プレートに挟まれた接着シートは,外周だけが拘束されておらず,外周部ほど伸展しやすいためと考えられる。そこで,接着シートが伸展しやすい外周部において,接着面の表面粗さRaを粗くすれば,外周部での接着シートの伸展がアンカー効果によって抑制され,ウエハ載置装置の接着シート層の厚みを均一にできる。したがって,ウエハの面内温度を均一にできる。接着面の両方において,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗ければ,接着シート層の厚みをより均一にでき,好ましい。なお,内周部の接着面の表面粗さRaを粗くして外周部の表面粗さRaと同じとした場合,外周部だけでなく内周部での接着シートの伸展も抑制されるため,外周部の接着シートの層が内周部より薄くなることに変わりはない。このため,内周部よりも外周部の表面粗さRaを粗くする必要がある。表面粗さRaが粗い部分,つまり外周部は,接着面の直径の85%より外周の部分としてもよいし,接着面の直径の90%より外周の部分としてもよいし,接着面の直径の95%より外周の部分としてもよい。
・・・
【0009】
本発明のウエハ載置装置において,前記電極は,ヒータ電極であり,前記セラミックプレートのうち前記内周部に対応する内周ゾーンと,前記セラミックプレートのうち前記外周部に対応する外周ゾーンと,に個別に内蔵されていてもよい。接着面の外周部の表面粗さRaを粗くすれば,上述の通り接着シート層の厚みを均一にできるため,接着シート層の厚みの違いによって生じる熱伝導の違いを小さくできる。しかし,内周部と外周部とで接着面の表面粗さRaが異なるため,接着シート層を介したセラミックプレートと冷却プレートとの間の熱伝導には,程度は小さいものの,内周部と外周部とで違いが生じることがある。ここでは,内周ゾーンのヒータ電極と,外周ゾーンのヒータ電極とを個別に内蔵している。そのため,内周部と外周部との熱伝導の違いに応じて,内周ゾーンのヒータ電極と外周ゾーンのヒータ電極とを個別に温度制御することができ,ウエハの面内温度をより均一にできる。
【0010】
本発明のウエハ載置装置において,前記セラミックプレートの接着面及び前記冷却プレートの接着面は,半径135mm以上であるものとしてもよい。セラミックプレートの接着面及び冷却プレートの接着面の半径が135mm以上の場合には,接合面全面の表面粗さRaに差がないと外周部の接着シートが内周部よりも特に薄くなりやすい。このため,本発明を適用する意義が高い。この場合,内周部と外周部との境界は,半径135mm以上の円としてもよい。
【0011】
本発明のウエハ載置装置において,前記セラミックプレートの接着面及び前記冷却プレートの接着面のうちの少なくとも一方は,前記外周部の表面粗さRaが1.6μmよりも粗いものとしてもよい。こうすれば,外周部でのアンカー効果が大きいため,外周部での接着シートの伸展がより抑制され,接着シート層の厚みをより均一にできる。内周部の表面粗さRaは,例えば1.6μm以下としてもよい。内周部で接着シートが適度に伸展し,接着シート層の厚みをより均一にできる。
【0012】
本発明のウエハ載置装置の製法は,
(a)電極が内蔵された円盤状のセラミックプレートと,円盤状の冷却プレートと,接着シートと,を用意する工程と,
(b)前記セラミックプレートと前記冷却プレートとを前記接着シートを用いて接着する工程と,
を含み,
前記工程(a)で用意する前記セラミックプレート及び前記冷却プレートのうち少なくとも一方は,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面を有し,
前記工程(b)では,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い前記接着面で接着する。
【0013】
このウエハ載置装置の製法によれば,外周部での接着シートの伸展がアンカー効果によって抑制されるため,ウエハ載置装置の接着シート層の厚みを均一にできる。したがって,ウエハの面内温度を均一にできる。接着面の両方において,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗ければ,接着シート層の厚みをより均一にできるため,より好ましい。」

「【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態を,図面を参照しながら以下に説明する。図1は本発明のウエハ載置装置の一実施形態である静電チャックヒータ10の斜視図,図2は図1のA-A断面図,図3はヒータ電極22,24を平面視したときの説明図,図4はセラミックプレート20の下面図,図5は冷却プレート30の平面図である。図6は静電チャックヒータ10の製法を示す説明図である。
【0016】
静電チャックヒータ10は,上面にウエハ載置面20aを有するセラミックプレート20と,セラミックプレート20のウエハ載置面20aとは反対側の下面20bに配置された冷却プレート30とを備えている。セラミックプレート20の接着面である下面20bと冷却プレート30の接着面である上面30aとは,樹脂製の接着シート層40を介して接着されている。
【0017】
セラミックプレート20は,窒化アルミニウムやアルミナなどに代表されるセラミック材料からなる円盤状のプレートである。セラミックプレート20の直径は特に限定されるものではないが,例えば300mm程度である。セラミックプレート20には,図2に示すように,内周ヒータ電極22と外周ヒータ電極24と静電電極28とが内蔵されている。内周ヒータ電極22及び外周ヒータ電極24は,例えば,モリブデン,タングステン又は炭化タングステンを主成分とするコイル又は印刷パターンで作製されている。内周ヒータ電極22は,セラミックプレート20と同じ中心を持ち直径がセラミックプレート20よりも小さい円形の内周ゾーンZ1(図3の仮想境界Bの内側)の全体に行き渡るように,一端22aから他端22bまで一筆書きの要領で配線されている。内周ゾーンZ1の直径は特に限定されるものではないが,好ましくは,セラミックプレート20の直径の85%以上95%以下であり,例えば270mm程度である。内周ヒータ電極22の一端22aと他端22bは,内周電源22pに接続されている。外周ヒータ電極24は,内周ゾーンZ1を取り囲む環状の外周ゾーンZ2(図3の仮想境界Bの外側)の全体に行き渡るように,一端24aから他端24bまで一筆書きの要領で配線されている。外周ヒータ電極24の一端24aと他端24bは,外周電源24pに接続されている。静電電極28は,例えば,モリブデン,タングステン又は炭化タングステンを主成分とするメッシュ又はプレートで作製され,セラミックプレート20のウエハ載置面20aと平行に設けられている。静電電極28は,図示しない静電電極用電源に接続されている。
【0018】
セラミックプレート20の下面20bは,図4に示すように,内周部20iよりも外周部20oの表面粗さRaが粗くなっている。外周部20oの表面粗さRaは特に限定されるものではないが,例えば1.6μmよりも粗い。図4では,表面粗さRaが1.6μmよりも粗い部分を網掛けで示し,それ以外の部分は白色で示した。内周部20iと外周部20oとの境界は,平面視したときに,図3の仮想境界Bと一致するようになっている。
【0019】
冷却プレート30は,アルミニウムやアルミニウム合金などに代表される金属からなり,直径がセラミックプレート20よりも大きい円盤状のプレートである。冷却プレート30は,図2に示すように,直径がセラミックプレート20と同じ円形の上面30aと,上面30aよりも低位で上面30aの外周を取り囲む円環状の段差面30cとを有している。上面30aにはセラミックプレート20が接着され,段差面30cには図示しないフォーカスリング(保護リングともいう)が載置される。冷却プレート30の内部には,冷媒流路32が設けられている。冷媒流路32は,セラミックプレート20が配置された全域に行き渡るように,入口から出口まで一筆書きの要領で設けられている。冷媒流路32の入口及び出口は,図示しない外部冷却装置に接続されており,出口から排出された冷媒は,外部冷却装置で温度調整されたあと再び入口に戻されて冷媒流路32内に供給される。
【0020】
冷却プレート30の上面30aは,図5に示すように,内周部30iよりも外周部30oの表面粗さRaが粗くなっている。外周部30oの表面粗さRaは特に限定されるものではないが,例えば1.6μmよりも粗い。図5では,表面粗さRaが1.6μmよりも粗い部分を網掛けで示し,それ以外の部分は白色で示した。内周部30iと外周部30oとの境界は,平面視したときに,図3の仮想境界Bと一致するようになっている。
【0022】
次に,静電チャックヒータ10の製法について説明する。この製法は,セラミックプレート20と冷却プレート30と接着シート40sとを用意する工程(a)と,セラミックプレート20と冷却プレート30とを接着シート40sを用いて接着する工程(b)とを含む。
【0023】
工程(a)で用意するセラミックプレート20は,上述したセラミックプレート20と同じものであり,内周ヒータ電極22と外周ヒータ電極24と静電電極28とが内蔵されている。セラミックプレート20の下面20bは,図6(a)に示すように,内周部20iよりも外周部20oの表面粗さRaが粗くなっている。こうしたセラミックプレート20の製造時には,例えば,下面20b全体の表面粗さRaが1.6μm以下のセラミックプレートを用意し,外周部20oに研磨やエッチングなど粗化処理を施して外周部20oの表面粗さRaを1.6μmより粗くしてもよい。
【0024】
工程(a)で用意する冷却プレート30は,上述した冷却プレート30と同じものであり,内部に冷媒流路32が設けられている。冷却プレート30の上面30aは,図6(a)に示すように,内周部30iよりも外周部30oの表面粗さRaが粗くなっている。こうした冷却プレート30の製造時には,例えば,上面30a全体の表面粗さRaが1.6μm以下の冷却プレートを用意し,外周部30oに研磨やエッチングなどの粗化処理を施して外周部30oの表面粗さRaを1.6μmより粗くしてもよい。
【0025】
工程(a)で用意する接着シート40sは,シリコーン樹脂やアクリル樹脂,ポリイミド樹脂,エポキシ樹脂などに代表される絶縁性を有する樹脂製のシートである。接着シート40sは,セラミックプレート20の下面20b及び冷却プレート30の上面30aと直径が略同じ円形のシートである。接着シート40sは,単層構造でもよいし,多層構造でもよい。接着シート40sの具体例としては,ポリプロピレン製の芯材の両面にアクリル樹脂層を備えたシートや,ポリイミド製の芯材の両面にシリコーン樹脂層を備えたシート,エポキシ樹脂単独のシートなどが挙げられる。
【0026】
工程(b)では,まず,セラミックプレート20の下面20bと冷却プレート30の上面30aとの間に接着シート40sが介在するようにセラミックプレート20と冷却プレート30と接着シート40sとを配置し,積層体10sを製造する(図6(b)参照)。続いて,積層体10sを加熱しながら真空プレスによる加圧を行い,接着シート40sを硬化させて,セラミックプレート20と冷却プレート30とを接着シート層40で強固に接着する(図6(c)参照)。加熱温度は特に限定されず,接着シート40sの種類に応じて設定すればよいが,例えば90?180℃程度である。加圧力は特に限定されず,接着シート40sの種類に応じて設定すればよいが,例えば0.4?1.5MPa程度である。90?110℃で加熱する場合には1.1?1.5MPaで加圧し,160?180℃で加熱する場合には0.4?0.8MPaで加圧してもよい。接着シート40sが外周にはみ出した場合には,はみ出した接着シート40sを除去してもよい。
・・・
【0028】
以上説明した本実施形態の静電チャックヒータ10及びその製法では,接着面である下面20b及び上面30aにおいて,内周部20i,30iよりも外周部20o,30oの表面粗さRaが粗い。このため,外周部での接着シート40sの伸展がアンカー効果によって抑制され,接着シート層40の厚みを均一にできる。したがって,ウエハWの面内温度を均一にできる。
・・・
【0030】
また,静電チャックヒータ10において,セラミックプレート20の下面20b及び冷却プレート30の上面30aの半径が135mm以上である場合には,接合面全面の表面粗さRaに差がないと外周部の接着シート40sが内周部よりも特に薄くなりやすい。このため,本発明を適用する意義が高い。
【0031】
また,静電チャックヒータ10において,接着面である下面20b及び上面30aにおいて,外周部20o,30oの表面粗さRaが1.6μmよりも粗い場合には,外周部20o,30oでのアンカー効果が大きい。このため,外周部では接着シート40sの伸展がより抑制され,接着シート層40の厚みをより均一にできる。また,内周部20i,30iの表面粗さRaが1.6μm以下であれば,内周部20i,30iでのアンカー効果は比較的小さい。このため,内周部では接着シート40sが適度に伸展し,接着シート層40の厚みをより均一にできる。なお,外周部20o,30oの表面粗さRaの上限は,特に限定されないが,例えば3.2μm以下としてもよいし,内周部20i,30iの表面粗さRaの2倍以下としてもよい。こうすれば,凹凸の奥まで接着シート40sが入り込みやすく,隙間が生じにくい。」

(2)判断
ア 本件発明が解決しようとする課題
本件明細書の【0005】の記載によれば,本件発明が解決しようとする課題は,「接着シート層の厚みを均一にして,ウエハの面内温度を均一にすること」である。

イ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載について
発明の詳細な説明において,【発明を実施するための形態】の【0015】?【0026】には,ウエハ載置装置の一実施形態である静電チャックヒータ及びその製法が記載されているところ,同【0015】?【0020】には,「上面にウエハ載置面を有し,電極が内蔵された円盤状のセラミックプレートと,
前記セラミックプレートの前記ウエハ載置面とは反対側の下面に配置された円盤状の冷却プレートと,
前記セラミックプレートの下面にある接着面と前記冷却プレートの上面にある接着面とを接着する樹脂製の接着シート層と,
を備え,
前記セラミックプレートの接着面及び前記冷却プレートの接着面のうちの少なくとも一方は,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い,
ウエハ載置装置。」が記載されており,また,同【0015】,【0022】?【0026】には,「(a)電極が内蔵された円盤状のセラミックプレートと,円盤状の冷却プレートと,接着シートと,を用意する工程と,
(b)前記セラミックプレートと前記冷却プレートとを前記接着シートを用いて接着する工程と,
を含み,
前記工程(a)で用意する前記セラミックプレート及び前記冷却プレートのうち少なくとも一方は,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面を有し,
前記工程(b)では,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い前記接着面で接着する,
ウエハ載置装置の製法。」が記載されている。
そして,同【0028】の記載によれば,上記ウエハ載置装置及びその製法は,接着面である下面及び上面において,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗いため,外周部での接着シートの伸展がアンカー効果によって抑制され,接着シート層の厚みを均一にでき,したがって,ウエハWの面内温度を均一にできるといえる。
なお,【課題を解決するための手段】の【0006】,【0007】及び【0012】,【0013】にも同様の記載がある。

ウ 前記イで示した,発明の詳細な説明に記載されたウエハ載置装置及びその製法と,本件発明1及び5とは,同様の構成を有するものであるから,本件発明1及び5は,発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そして,前記イで示したウエハ載置装置及びその製法は,接着面である下面及び上面において,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗いため,外周部での接着シートの伸展がアンカー効果によって抑制され,接着シート層の厚みを均一にでき,したがって,ウエハの面内温度を均一にできるといえるものであるから,本件発明1及び5は,接着シート層の厚みを均一にして,ウエハの面内温度を均一にするという前記課題を解決し得るものであることが理解できる。
以上によれば,本件発明1及び5は,発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものである。

エ 発明の詳細な説明の【発明を実施するための形態】の【0017】,【0030】,【0018】には,本件発明2?4と同様の構成が記載されているから,本件発明2?4は,発明の詳細な説明に記載された発明であるといえ,また,本件発明2?4は,いずれも本件発明1の構成を有するものであるから,本件発明1と同様に,発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものである。

オ 異議申立人の主張について
(ア)本件特許の請求項1?4
a 理由1:本件発明1の接着面における「内周部」と「外周部」との関係について
(a)異議申立人の主張(異議申立書30頁最下行?32頁17行)
本件特許の請求項1には,接着面における「内周部」と「外周部」との関係について,何ら記載がされていない。例えば,「外周部」は,本件特許の図4に示すような環形状であるのか,または,「内周部」の外側に局所的に存在するものなのかについて,本件特許の請求項1には,何ら記載されていないため,本件特許の請求項1に係る発明に,「外周部」が環形状でなく局所的に存在する形態などが含まれることになり,この形態では,「外周部」によるアンカー効果が期待できない部分が発生するため,接着面全体において接着シート層の厚みが均一にならない。また,例えば,接着面における「内周部」が占める割合が1%であって,「外周部」が占める割合が99%である場合のように,接着面の表面粗さを全面的に均一にした場合と大差がない形態も含まれることとなるが,このような場合,接着面全体において接着シート層の厚みが均一にならない可能性がある。このように,本件特許の請求項1には,接着面における「内周部」と「外周部」との形状や面積割合などの関係について何ら記載がされていないため,本件特許の請求項1に係る発明は,本件特許の課題である「接着シート層の厚みを均一にして,ウエハの面内温度を均一にする」(本件特許の明細書段落0005)効果がない形態を含むこととなる。したがって,本件特許の請求項1は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。

(b)判断
本願発明1における「外周部」の「外周」とは,「ものの外側に沿ったまわり」(広辞苑,第六版,DVD-ROM版)を意味するものであるから,本件発明1の「外周部」は,内周の外側にそったまわりの部分であると認められ,当該「外周部」は,環形状であるといえる。このことは,本件明細書の【0007】の「表面粗さRaが粗い部分,つまり外周部は,接着面の直径の85%より外周の部分としてもよいし,接着面の直径の90%より外周の部分としてもよいし,接着面の直径の95%より外周の部分としてもよい。」との記載や,同【0010】の「セラミックプレートの接着面及び冷却プレートの接着面の半径が135mm以上の場合には,接合面全面の表面粗さRaに差がないと外周部の接着シートが内周部よりも特に薄くなりやすい。このため,本発明を適用する意義が高い。この場合,内周部と外周部との境界は,半径135mm以上の円としてもよい。」との記載とも整合する。
そして,同【0028】の記載によれば,「内周部」よりも,環形状である「外周部」の表面粗さRaが粗いと,外周部での接着シート40sの伸展がアンカー効果によって抑制され,接着シート層の厚みを均一にできるため,ウエハWの面内温度を均一にできることが理解できる。
したがって,本件発明1は,「接着シート層の厚みを均一にして,ウエハの面内温度を均一にする」との前記課題を解決し得ない形態を含むものではない。
よって,異議申立人の前記主張は採用できない。

b 理由2:本件発明1の「表面粗さRa」について
(a)異議申立人の主張(異議申立書32頁18行?34頁下から4行)
表面粗さRaは測定条件によって変化するため,表面粗さRaの大小を比較する場合には,表面粗さRaを測定するときの基準長さの設定方法や表面粗さRaの具体的な測定箇所および測定箇所の数など,表面粗さRaの測定条件が開示されている必要があるが,本件特許の請求項1や明細書には,表面粗さRaの測定に関する情報は,一切開示されていない。このため,例えば,全面的に表面粗さを均一にした測定対象面に対しても,領域ごとの表面粗さRaに大小関係があるかのような測定もできてしまうため,本件特許の請求項1に係る発明は,「接着シート層の厚みを均一にして,ウエハの面内温度を均一にする」(本件特許の明細書段落0005)ことができない形態を含むこととなる。したがって,本件特許の請求項1は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。

(b)判断
本件明細書【0007】の「表面粗さ(算術平均粗さ)Ra」との記載によれば,請求項1に記載されている「表面粗さRa」は,算術平均粗さRaである。
そして,本件明細書には,「表面粗さ(算術平均粗さ)Ra」の定義や測定方法について何ら記載されていない。
ここで,表面粗さ(算術平均粗さ)Raは,JIS B0601:2013に記載の方法により行うことが当業者の技術常識であるところ,当該JIS B0601:2013には,以下の記載がある。





上記非周期的な粗さ曲線のために評価手順によれば,基準長さlrは一義的に決まり,「表面粗さRa」も一義的に決まるものであるといえる。なお,「測定箇所および測定箇所の数」については,上記JIS B0601:2013においては規定されていない。
したがって,本件発明1の「表面粗さRa」は一義的に決まるものである。
よって,異議申立人が主張するように,全面的に表面粗さを均一にした測定対象面に対しても,領域ごとの表面粗さRaに大小関係があるかのような測定もできてしまうとはいえないし,本件発明1は,「接着シート層の厚みを均一にして,ウエハの面内温度を均一にする」ことができない形態を含むものではない。
よって,異議申立人の前記主張は採用できない。

(イ)本件特許の請求項5
a 異議申立人の主張(異議申立書34頁下から3行?35頁13行)
請求項5の「内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面」は,意図的に「外周部」を「内周部」より粗くしたものを用意することなのか,単に測定の結果によって外周が粗いと判定されたものなのかが,本件特許の請求項5の記載からは明確になっていない。このため,例えば,単に測定の結果によって接着面の「外周部」が粗いと判定されたものを含む場合,「(4-3-1) 本件特許の請求項1?4」で述べたような,接着面における「内周部」と「外周部」との関係によっては,上記課題を解決できない形態を含むことになる。したがって,本件特許の請求項5は,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。

b 判断
請求項5の「内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面」は,意図的に「外周部」を「内周部」より粗くしたものを用意するもの,及び,単に測定の結果によって外周が粗いと判定されたもののいずれも含むものと解される。
そして,本件明細書には,従来の「ウエハ載置装置としては,上面にウエハ載置面を有する円盤状のセラミックプレートと,セラミックプレートのウエハ載置面とは反対側の下面に配置された円盤状の冷却プレートとが,樹脂製の接着シートで接着されたものが知られている」(【0002】)が,この「ウエハ載置装置では,接着シート層の厚みが外周部で薄くなり,接着シート層の厚みが均一でないことが」あり,「接着シート層の厚みが均一でないと,接着シート層を介したセラミックプレートと冷却プレートとの間の熱伝導に違いが生じ,ウエハの面内温度が不均一になる」(【0004】)ため,「本発明のウエハ載置装置の製法」は,「前記工程(a)で用意する前記セラミックプレート及び前記冷却プレートのうち少なくとも一方は,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面を有し,前記工程(b)では,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い前記接着面で接着する」(【0012】)ことによって,「外周部での接着シートの伸展がアンカー効果によって抑制されるため,ウエハ載置装置の接着シート層の厚みを均一にでき」るため,「ウエハの面内温度を均一にできる」(【0013】)ことが記載されている。
そうすると,従来のウエハ載置装置の製法では,セラミックプレート及び冷却プレートの接着面は,いずれも,均一の表面粗さRaを有しているのに対して,本件発明5では,セラミックプレート及び冷却プレートのうち少なくとも一方の接着面を,意図的に,内周部よりも外周部の表面粗さRaを粗くしていると解するのが自然である。
このことは,本件明細書【0023】の「セラミックプレート20の下面20bは,図6(a)に示すように,内周部20iよりも外周部20oの表面粗さRaが粗くなっている。こうしたセラミックプレート20の製造時には,例えば,下面20b全体の表面粗さRaが1.6μm以下のセラミックプレートを用意し,外周部20oに研磨やエッチングなど粗化処理を施して外周部20oの表面粗さRaを1.6μmより粗くしてもよい。」及び同【0024】の「冷却プレート30の上面30aは,図6(a)に示すように,内周部30iよりも外周部30oの表面粗さRaが粗くなっている。こうした冷却プレート30の製造時には,例えば,上面30a全体の表面粗さRaが1.6μm以下の冷却プレートを用意し,外周部30oに研磨やエッチングなどの粗化処理を施して外周部30oの表面粗さRaを1.6μmより粗くしてもよい。」との記載とも整合する。
そして,セラミックプレート及び冷却プレートのうち少なくとも一方の接着面を,意図的に,内周部よりも外周部の表面粗さRaを粗くすれば,測定の結果は,必然的に内周部よりも外周部の表面粗さRaの方が粗いと判定される。
したがって,本件発明5は,前記課題を解決できない形態を含むものではない。
よって,異議申立人の前記主張は採用できない。

カ 小括
以上のとおり,本件発明1?5は,発明の詳細な説明に記載されたものであるから,請求項1?5に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず,申立理由3には理由がない。

4 申立理由4(明確性)について
(1)判断
本件発明1?5は,前記第2に示したとおりのものであり,その記載は,いずれも明確である。

(2)異議申立人の主張について
ア 本件特許の請求項1?4
(ア)異議申立人の主張(異議申立書35頁15行?36頁11行)
前記2(2)オ(ア)a(a)及びb(a)で述べたように,本件特許の請求項1には,「内周部」および「外周部」のそれぞれの形状や,接着面における「内周部」と「外周部」との面積比率など,接着面における「内周部」と「外周部」との関係について,何ら記載がされておらず,表面粗さRaの測定対象である「内周部」と「外周部」とを特定することができないため,本件特許の請求項1に係る発明を特定することはできない。また,表面粗さRaには,上述したように,ばらつきが生じるため,「内周部」の表面粗さRaと「外周部」の表面粗さRaとの大小を比較するためには,表面粗さRaを測定するときの基準長さの設定方法や表面粗さRaの具体的な測定箇所および測定箇所の数など,表面粗さRaの測定条件が必要である。しかしながら,本件特許の請求項1や明細書には,このような情報は,一切開示されておらず,どのように表面粗さRaを測定するのかが不明である。このように,本件特許の請求項1に係る発明は,明確ではなく,特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない

(イ)判断
前記2(2)オ(ア)a(b)で検討したとおり,本件発明1の「外周部」は,内周の外側にそったまわりの部分であると認められ,当該「外周部」は,環形状であるといえ,そうすると,「内周部」は,環形状の「外周部」に囲まれた部分であるといえるから,本件発明1の「内周部」及び「外周部」は,明確に特定することができる。
また,前記2(2)オ(ア)b(b)で検討したとおり,本件発明1の「表面粗さRa」は一義的に決まるものである。
したがって,本件発明1は明確であるから,異議申立人の前記主張は採用できない。

イ 本件特許の請求項5について
(ア)異議申立人の主張(異議申立書36頁12?23行)
前記2(2)オ(イ)aで述べたように,「内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面」が,意図的に「外周部」を「内周部」より粗くしたものを用意することなのか,単に測定の結果によって外周が粗いと判定されたものを用意することなのかが記載されていない。したがって,「前記工程(a)で用意する前記セラミックプレート及び前記冷却プレートのうち少なくとも一方は,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面を有し,前記工程(b)では,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い前記接着面で接着する」とする本件特許の請求項5に係る発明は,明確ではなく,特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。

(イ)判断
前記2(2)オ(イ)bで検討したとおり,請求項5の「内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面」は,意図的に「外周部」を「内周部」より粗くしたものを用意するもの,及び,単に測定の結果によって外周が粗いと判定されたもののいずれも含むものと解され,また,本件明細書の記載とも整合するから,請求項5の「前記工程(a)で用意する前記セラミックプレート及び前記冷却プレートのうち少なくとも一方は,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い接着面を有し,前記工程(b)では,内周部よりも外周部の表面粗さRaが粗い前記接着面で接着する」との記載は明確である。
したがって,異議申立人の前記主張は採用できない。

ウ 小括
以上のとおり,本件発明1?5は,特許請求の範囲の記載が明確であるから,請求項1?5に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず,申立理由4には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-11-04 
出願番号 特願2020-43623(P2020-43623)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杢 哲次  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 河本 充雄
▲吉▼澤 雅博
登録日 2021-02-16 
登録番号 特許第6839314号(P6839314)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 ウエハ載置装置及びその製法  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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