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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1379886
異議申立番号 異議2021-700601  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-23 
確定日 2021-11-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6804911号発明「抗ポルフィロモナス・ジンジバリス組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6804911号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 [第1]手続の経緯
特許第6804911号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年9月16日の出願であって、令和2年12月7日にその特許権の設定登録がされ、同年12月23日に特許掲載公報が発行され、令和3年6月23日にその特許に対し、特許異議申立人:山崎浩一郎(「崎」の原文はたつさき。以下、単に「申立人」ということがある)により特許異議の申立てがされたものである。

[第2]本件特許発明
特許第6804911号の請求項1?4の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
ラクトフェリンを有効成分として含む、ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための嚥下組成物。
【請求項2】
ラクトフェリンを有効成分として含む、唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用嚥下組成物。
【請求項3】
食品組成物又は医薬組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ラクトフェリンを含んだリポソームを有効成分として含む、請求項1?3のいずれかに記載の組成物。 」

(※当審注:
以下、上記請求項1?請求項4に係る発明を順に「特許発明1」?「特許発明4」ということがあり、また、これらをまとめて単に「特許発明」ということがある。)

[第3]特許異議申立ての理由
申立人は、特許異議申立書(以下、単に「異議申立書」ということがある)において、以下の甲第1号証?甲第10号証(以下、順に「甲1」?「甲10」等ということがある)を提出しつつ、特許発明は概要次の理由1?3(以下、「申立理由1」?「申立理由3」等ということがある)により取り消されるべきものと主張している。

1 申立理由1:特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)
(1) 特許発明1は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明である。
また、特許発明1は、甲5記載の周知技術からみて、甲4に記載された発明である。
(2) 特許発明2は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明である。
また、特許発明2は、甲8記載の周知技術からみて、甲6又は甲7に記載された発明である。
(3) 特許発明3は、甲1又は甲2に記載された発明である。
(4) 特許発明4は、甲3に記載された発明である。

2 申立理由2:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
(1) 特許発明1は、甲1及び甲3に記載された発明に基づいて、甲1に記載された発明及び甲6?甲9の記載事項に基づいて、甲2及び甲3に記載された発明に基づいて、甲2に記載された発明及び甲6?甲9の記載事項に基づいて、甲3に記載された発明及び甲6?甲9の記載事項に基づいて、若しくは、甲4に記載された発明及び甲5?甲9の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 特許発明2は、甲6又は甲7のいずれかに記載された発明、甲3の記載事項及び甲6?甲9の記載事項に基づいて、若しくは、甲1?甲3のいずれかに記載された発明及び甲8?甲9の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 特許発明3は、甲1及び甲10に記載された発明に基づいて、甲2及び甲10に記載された発明に基づいて、甲3及び甲10に記載された発明に基づいて、甲4及び甲10に記載された発明に基づいて、甲6及び甲10に記載された発明に基づいて、若しくは、甲7及び甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 特許発明4は、甲1及び甲3に記載された発明に基づいて、甲1及び甲10に記載された発明に基づいて、甲2及び甲3に記載された発明に基づいて、甲2及び甲10に記載された発明に基づいて、甲3に記載された発明に基づいて、甲3及び甲10に記載された発明に基づいて、甲4及び甲3に記載された発明に基づいて、甲4及び甲10に記載された発明に基づいて、甲6及び甲3に記載された発明に基づいて、甲6及び甲10に記載された発明に基づいて、甲7及び甲3に記載された発明に基づいて、若しくは、甲7及び甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 申立理由3:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)
請求項1?4の「嚥下組成物」の語が明確でないため、いかなるものがこれに該当するのか不明であり、発明が不明確である。

[甲号証]
・甲第1号証:日本歯科保存学雑誌, (2008) 51(3) p.281-291
・甲第2号証:Geriatr. Gerontol. Int., (2017) 17(5) p.714-721
(First published:06 May 2016)
・甲第3号証:国際公開第2010/041400号
・甲第4号証:第2回ラクトフェリンフォーラム実行委員会編「ラクトフェリン 2007」, (2007) p.214-219
・甲第5号証:Microbes and Infection, (2002) 4 p.679-683
・甲第6号証:Mucosal Immunology, (2015) 8(4) p.906-917
・甲第7号証:Jpn. J. Cancer Res., (2000) 91 p.1022-1027
・甲第8号証:食物学会誌,(2010) (65) p.5-12
・甲第9号証:歯科学報 (1999) 99(11) p.965-971
・甲第10号証:特開2004-359648号公報

(※当審注:
なお、申立人が提出した甲2のプリントアウト物では、頁番号が714-721ではなく1-8とされているが、以下、甲2の頁番号は統一して714-721と記す。)


[第4]当審の判断
当審は、申立人の主張する[第3]の申立理由1?3のいずれについても、理由がないものと判断する。
以下、[4-1]で、各甲号証の記載事項を摘示して記載すると共に、[4-2]で、特許発明には申立理由1、2における主引例:甲1?甲4、甲6、甲7のいずれに基づく新規性否定の理由も進歩性否定の理由も存在しないこと、及び、[4-3]で、申立理由3についても理由がないことについて、詳述する。

[4-1]甲号証の記載事項
(※当審注:
・下線は当審による。
・甲2、甲5、甲6、甲7は原文が英語のため、それぞれ申立人が提出した抄訳を考慮しつつ当審で作成した日本語訳文にて記す。)

(1)甲1
・甲1-1(標題)
「 歯周炎患者におけるウシラクトフェリン経口投与の影響 」

・甲1-2(抄録)
「 抄録: 母乳に含まれるラクトフェリン(LF)は鉄結合性糖タンパク質であり,抗菌作用などの生理活性を有することが知られている.本研究では,ウシLF配合錠菓(森永乳業)を3カ月間摂取した場合の歯周炎患者に及ぼす影響を,臨床的,細菌学的,および生化学的に検討した.
同意が得られた軽度慢性歯周炎患者18 名を無作為に,ウンLF 含有錠菓摂取群(実験群: 8名)およびプラセボ錠菓摂取群(コントロール群:10名)に分けて,ともに錠菓を1 日3回(1回2錠)3カ月間摂取し続けてもらった.錠菓摂取直前(ベースライン),摂取1週後,1カ月後,および3カ月後の来院時に,1)歯周組織検査,2)定量性PCR による歯肉縁下プラークおよび唾液細菌検査(総菌数,Porphyromonas gingivalis数, Prevotella intermedia数),3)サンドイッチELISA 法による歯肉溝滲出液(GCF)および唾液ヒト・ウシLF 濃度検査,4)リムルステストによるGCFおよび唾液エンドトキシン濃度検査,を二重盲検法にてそれぞれ行った.各来院時での検査結果の群間差をMann-Whitney U test にて統計解析した.
本実験期間中でウシLF 錠菓摂取に伴う副作用は一切認められず,同錠菓の安全性が再確認された.実験群ではコントロール群と比べてベースラインに対する歯肉縁下プラーク細菌数変化量の有意な低下が,総菌数(1カ月後〉,P.gingivalis数(1,3カ月後), P. intermedia数(1週後)においてそれぞれ認められた.唾液細菌数および臨床所見における群間差はみられなかった.ウシLF 濃度は,コントロール群と比べて実験群で有意に高いレベルが維持された.ヒトLF およびエンドトキシンの濃度変化量には群間差はみられなかったが,実験群のGCF では低レベルで推移する傾向が認められた.
以上から,ウシLF配合錠菓の継続的な経口投与により,歯周病原細菌が減少することが臨床レベルで初めて確認された.ウシLFのレベルがGCFである程度維持され,歯肉縁下プラーク細菌を抑制した可能性が考えられる.食品成分であるウシLF を配合した錠菓の経口投与は,より安全な歯周病の予防法として有望であることが示唆された. 」

・甲1-3(282頁右欄2?37行)
「 1.被験者
群馬県藤岡市近藤歯科医院を受診し,本研究の趣旨や内容を十分に理解したうえで,署名・捺印による同意が得られた歯周炎患者18 名を対象とした.・・・
・・・
2.錠菓
森永乳業にて製造されたウシLF0.3g配合錠菓およびウシLFが配合されていないプラセボ錠菓を用いた.ウシLF配合錠菓の成分は,還元麦芽糖水飴(マルチトール),粉あめ,コーンスターチ(デンプン),ステビア甘味料,ヨーグルト香料,グリセリン脂肪酸エステルである.プラセボ錠菓では,ウシLF の代わりにデキストリンを用いた.・・・
被験者18名には実験期間中どちらかの錠菓を1日3回(朝食後,昼食後,夕食後),1回2錠ずつ3カ月間摂取し続けてもらった.摂取方法は,錠菓を噛まずに口の中で溶かしてもらうように統一した.錠菓の割り当ては製造元で行い,被験者および実験担当者には錠菓の種類がわからない二重盲検法を採用した.また,毎日の錠菓摂取状況を被験者本人に記録してもらい,実験終了後に摂取記録表を回収した. 」

・甲1-4(285頁左欄1?15行)
「 3.細菌検査所見
・・・
2) P.gingivalis数について
錠菓摂取開始1カ月後および3カ月後で,歯肉縁下プラークのP.gingivalis数変化量で有 意な群間差が認められ,いずれも実験群で減少した(p<0.05).摂取1週後では有意差は認められなかったものの,コントロール群と比べて実験群において減少傾向がみられた.一方,唾液のP.gingivalis数変化量では有意な群間差は認められなかった(図2). 」

・甲1-5(286頁右欄5行?287頁右欄10行)
「 今回の定量的ポリメラーゼ連鎖反応では,生菌および死菌の双方を含めて定量した.ウシLF 配合錠菓を継続的に摂取した結果,歯肉縁下プラーク内の細菌の有意な減少が認められた.この抑制効果は,総細菌に限らず,歯周病原細菌P.gingivalis,P.intermediaでも同様に認められた.これまでに歯肉縁下プラーク細菌叢に対するウシLFの影響を検索した報告は全くなく,本研究により臨床レベルで初めて歯周病原細菌の抑制効果が確認された.
LF は,P.gingivalisのヘモグロビンレセプターと結合し遊離させることで鉄イオン摂取を遮断させ,P.gingivalisの増殖を抑制する^(9)).また,P.intermediaでは分子量57kDaのLF 結合性タンパクが同定され,LF による特異的な抗菌効果が実証されている^(7)).したがって,ウシLF 配合錠菓は,単に非特異的な抗菌剤としてだけでなく,歯周病原細菌特異的な抗菌剤として適用できるかもしれない.
歯肉縁下プラーク細菌での抑制効果は,LFの有効濃度の維持が関連していると考えられる.今回用いた錠菓のウシLF 配合量は1 錠当たり0.3gであり,実験期間中のGCFウシLF濃度はPeriopaper^((R))枚当たり約67?87ng であった.被験部位のポケット深さが4?5mmであることを考えるとGCF量は2μl程度であり^(18)),換算すると約34?44μg/mlとなる.唾液ウシLF 濃度は4?25μg/mlであり,約2?8倍濃度のウシLF がGCF で維持できたと推察される.LF は,グリコサミノグリカンなど細胞外基質タンパクと接着することが示されており^(26)),歯周ポケット内に残留しやすい傾向があるのかもしれない.また,in vitro実験で,P.intermedia接着阻害を示すLF 濃度は0.5?2,500μg/ml あるいは330μg/ml程度であったとの報告^(7,27))が認められることにより,本研究ではある程度の静菌的LF 濃度を維持できたのではないかと考えられる. 」

(※当審注:
上の甲1-5中の「Periopaper^((R))」における「(R)」は、原文中では○中にRで記載されている。)

・甲1-6(289頁左欄9?12行)
「 9) Shi Y, Kong W, Nakayama K:Human lactoferrin binds and removes the hemoglobin receptor protein of the periodontopathogen Porphyromonas gingivalis;J Biol Chem 275, 30002-30008, 2000. 」

(※当審注:
甲1-5第2段落中で引用されている参照文献9)(甲1-6)は、後で摘記する甲2中(甲2-7)で引用されている参照文献21(甲2-8)と同一の文献と認められる。)

(2)甲2
・甲2-1(標題)
「 高齢者の口腔衛生状態に対するラクトフェリン及びラクトペルオキシダーゼ含有食品の効果: 無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験 」

・甲2-2(要約)
「 目的: ラクトフェリン及びラクトペルオキシダーゼは口腔内病原体に対して抗菌作用を有する。この無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間試験では、ラクトフェリンおよびペルオキシダーゼ含有錠(LF+LPO錠)の高齢者の口腔衛生状態の改善における有効性を試験した。
方法: 合計46名(31名の介護施設入居者及び15名の健康な高齢者)の参加者が、ラクトフェリン及びラクトペルオキシダーゼ含有錠又はプラセボ錠のいずれかの投与を受けるために無作為に割付けられ、8週間毎食後に1錠を祇めてもらうよう依頼された。口腔内および細菌学的評価はベースライン時、4週時及び8週時に実施された。
結果: 有効性解析には合計47名(試験群n=20名、平均年齢80.4±6.4歳;プラセボ群n=17名、平均年齢85.9±6.7歳)の参加者が含まれていた。試験群では、4週時及び8週時にはベースライン時に比して舌苔中の総細菌数が有意に減少し、8週時にはPorphyromonas gingivalis及びFusobacterium nucleatumの菌数が有意に減少した。歯肉緑上プラーク中の総細菌数及びP.gingivalisの菌数は8週時に有意に減少した。さらに、歯肉縁上プラーク中のP.gingivalisの数の変化には、8週時において両群間で有意な差異があった。
結論:ラクトフェリン及びラクトペルオキシダーゼを含有する錠剤の摂取は、舌苔や歯肉縁上プラーク中に存在する歯周病菌に対して抗菌効果を及ぼすことを明らかにし、このことは、長期摂取により高齢者の口腔衛生が改善される可能性があることを示すものである。 」

・甲2-3(714頁右欄3?13行)
「 本研究で我々は、高齢者の健康及び口腔衛生の維持及び改善における、食品中に存在する多機能性タンパク質であるラクトフェリン(LF)及びラクトペルオキシダーゼ(LPO)の役割に着目した。LFは乳中に存在する80kDaの鉄結合性糖タンパク質であって、外分泌液、血漿並びに好中球二次顆粒の構成成分である。^(5)それは多様な生物学的活性を有しており、^(6)また抗菌作用及び免疫調節作用を有している。^(7)LFはまたバイオフィルム及び歯周炎菌の抑制剤でもあり、^(8)そしてCandida albicansの成長をin vitroで抑制する。^(9) 」

・甲2-4(715頁左欄23?34行)
「 LF+LPO錠
LF+LPO錠の総重量は1.0gであった。このLF+LPO錠は窒息や誤嚥を防ぐために易溶性の穿孔タイプのものであった。このLF+LPO錠は80mgのLF+LPO粉末(オーラバリア、森永乳業、東京、日本)が有効成分として混合されていた;80mgのLF+LPO粉末は20mgのLF、2.6mg(>25単位)のLPO、さらに2.6mg(>25単位)のグルコースオキシダーゼ、グルコース及びpH調整剤を含んでいた。プラセボ錠はLF+LPO粉末のかわりにデキストリン及び着色材料を含んでいた。LF+LPO錠及びプラセボ錠は重量、質感及び外観において同一であった。 」

・甲2-5(715頁右欄4?8行)
「 ・・・。参加者は、 LF+LPO錠の経口投与(試験群)とプラセボ錠の経口投与(プラセボ群)に無作為に割付けられた。彼らは8週間毎食後に錠剤を舐め、毎日の摂取状況を記録するよう依頼された。」

・甲2-6(716頁右欄8?27行)
「 細菌学的評価
歯肉縁上プラーク中の細菌数
8週間後のP. gingivalisの菌数の変化において群間で有意な差異が観察され、プラセボ群よりも試験群の方が低い値を示した(p<0.05;図2)。加えて、総菌数及びP. gingivalisの菌数は、試験群では8週間後にベースラインと比較して有意に減少した(それぞれP<0.01及びP<0.05)。プラセボ群では、 F.nucleatumの菌数が4週間後に有意に増加した(P<0.05)。

舌苔中の細菌数
試験群では、 舌苔中の総菌数は4週間後及び8週間後でベースラインと比較して顕著に減少し(それぞれP<0.05及びP<0.01;図3)、 P. gingivalisとF. nucleatum の菌数は8週間後で有意に減少した(P<0.05)。プラセボ群では、8週間後の総菌数がベースラインと比較して有意に減少した(P<0.01)。 」

・甲2-7(718頁左欄5行?719頁左欄5行)
「 歯周縁上プラークにおけるP. gingivalis 数の有意な減少がLF+LPO錠の継続摂取により生じ、P. gingivalis 数の変化における群間の差異が8週時においてみられた。これはこの歯周縁上プラークにおける歯周病細菌数の差異がみられることを示した最初の研究である。本研究で用いられた錠剤中のLF及びLPOの量(LF 20.0mg/錠、LPO 2.6mg/錠)は以前の治験で用いられた量(LF 100mg/錠、LPO 1.8mg/錠)に比して少なかったが、歯周病原性細菌への抑制効果が確認された。^(12)錠剤の抗微生物性構成要素は歯肉縁下プラークに比して舌苔及び歯肉縁上プラークへより容易に接近し得ることが示唆された。LFは、P.gingivalisの細胞表面のヘモグロビン受容体に結合してこれを除去し、その結果としてそのヘモグロビン鉄の取込み系を破壊することによる静菌活性を有している。^(21)LPO系はグラム陰性細菌に対し殺菌性を示し、グラム陽性細菌に対しては静菌性を示す。本研究の結果はLF+LPO錠の歯周病原性細菌への作用を示し、これらの作用は以前の報告と一致していた。細菌学的評価の結果において、統計学上の有意な変化を示す項目は・・・LF+LPO錠の長期間摂取を伴う8週間までに増大した。したがって、LF+LPO錠の歯周縁上プラーク中の細菌に対する抗微生物活性は一定の消費期間後に明らかになることが示唆された

・甲2-8(721頁右欄25?28行)
「 21 Shi Y, Kong W, Nakayama K. Human lactoferrin binds and removes the hemoglobin receptor protein of the periodontopathogen Porphromonas gingivalis. J Biol Chem 2000 ; 275 : 30002-30008. 」

(※当審注:
甲2-7中で引用されている参照文献21(甲2-8)は、先に摘記した甲1-5の第2段落中で引用されている参照文献9)(甲1-6)と同一の文献と認められる。)

(3)甲3
・甲3-1(請求の範囲)
「 [請求項1]
ラクトフェリンを有効成分として含有するバイオフィルム形成抑制剤。
[請求項2]
ラクトフェリンを8?2000μg/mlの濃度で含有する請求項1に記載のバイオフィルム形成抑制剤。
[請求項3]
ラクトフェリンが、アポラクトフェリン、天然型ラクトフェリン、またはホロラクトフェリンからなる群より選択された1種または2種以上である、請求項1?2の何れかに記載のバイオフィルム形成抑制剤。
[請求項4]
バイオフィルムがポルフィロモナス・ジンジバリス産生バイオフィルムである、請求項1?3の何れかに記載のバイオフィルム形成抑制剤。
・・・ 」

・甲3-2([0027])
「 [0027] [バイオフィルム]
細菌は、自らの生存環境を整えるために、菌体の周囲に物質を分泌して、いわば細菌の巣を形成する。本発明のバイオフィルムは、細菌が菌体の周囲に産生する多糖物質を主要成分とすることから、菌体外多糖物質と言われる物質である。このために、本明細書において、バイオフィルムは菌体外多糖と言い換えることができる。 」

・甲3-3([0029])
「 [0029] [細菌]
本発明での細菌は、バイオフィルムを形成する細菌であれば特に制限されるものではないが、口腔内でバイオフィルムを形成するグラム陰性嫌気性桿菌が好ましい。中でも、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インターメディア(Prevotera intermedia)、プレボテラ・ニグレセンス(Prevotera nigrescens)、タネレラ・フォルシセンシス(Tannerella forsythensis)、アグリガチバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、フソバクテリウム・ヌクレアトゥム(Fusobacterium nucleatum)が好ましく、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が特に好ましい。 」

・甲3-4([0030]?[0034])
「 [0030] [バイオフィルム形成抑制剤]
本発明のバイオフィルム形成抑制剤によれば、歯面や歯周ポケット、舌や頬におけるバイオフィルムの形成を抑制することによって、これらの部位への歯周病原細菌の付着や凝集を防止することができる。
[0031] 本発明におけるバイオフィルムの形成抑制とは、具体的には、バイオフィルムと呼ばれる菌体外多糖の量(特に質量)の増大を抑制すること、あるいは菌体外多糖の量(特に質量)を減少させることをいう。
[0032] 本発明のバイオフィルム形成抑制剤は非常に低い濃度において有効であり、ラクトフェリンについて殺菌作用も含めた如何なる作用効果も知られていないほどの低濃度において、バイオフィルム形成抑制効果を有効に発揮する。バイオフィルム形成抑制剤の投与時のラクトフェリン濃度として、ラクトフェリンを8?2000μg/ml(0.008?2mg/ml)の濃度で含有することが好ましく、31?2000μg/mlの濃度で含有することがより好ましく、50?2000μg/mlの濃度で含有することがさらに好ましい。好適な実施の一態様において、例えば、8?1000μg/ml、好ましくは31?1000μg/ml、さらに好ましくは130?1000μg/mlの範囲の濃度で使用することができ、あるいは例えば、8?500μg/ml、好ましくは31?500μg/ml、さらに好ましくは130?500μg/mlの範囲の濃度で使用することができる。
[0033] このため本発明のバイオフィルム形成抑制剤は、有効量を投与する場合の濃度が非常に低く、ラクトフェリンの安全性に加えて、この低濃度の観点からもまた副作用のおそれがなく、長期にわたる日常的な投与を行ったとしても、ヒトに対して安全性の不安は全くない。そのため、さらに、本発明の抑制剤は、ヒトに投与する場合に、年齢や性別に関係なく使用することができ、口腔内に付着することもなく、風味に関する問題が全くない。また、本発明の抑制剤は非常に安価に使用することができ、ヒトの口腔内に投与すれば、歯科医院での治療費の軽減も可能である。
[0034] 本発明のバイオフィルム形成抑制剤は、ラクトフェリンについて殺菌作用も含めた如何なる作用効果も知られていないほどの低濃度において、バイオフィルム形成抑制効果を有効に発揮する。すなわち、従来の知見からも、本発明のバイオフィルム形成抑制の効果は、ラクトフェリンの殺菌作用に基づくものではない。また、後述のように、本発明によれば、金属飽和してキレート能を有しないホロラクトフェリンによっても、バイオフィルム形成抑制効果が有効に発揮されていることからも、本発明のバイオフィルム形成抑制の効果は、ラクトフェリンの殺菌作用に基づくものではない。すなわち、本発明のバイオフィルム形成抑制剤は、ラクトフェリンの未知の性質を発見することによって、得られたものである。 」

・甲3-5([0037]?[0040])
「 [0037] 本発明のバイオフィルム形成抑制剤は、公知の方法により種々の態様に製剤化して投与することができ、好適な実施の態様において経口投与することができる。
・・・
[0039] 本発明のバイオフィルム形成抑制剤は、ラクトフェリンを薬学的に許容され得る賦形剤等の任意の添加剤を用いて製剤化することにより製造できる。製剤化にあたっては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。具体的製剤として、錠剤(糖衣錠、腸溶性コーティング錠、バッカル錠を含む。)、散剤、カプセル剤(腸溶性カプセル、ソフトカプセルを含む。)、顆粒剤(コーティングしたものを含む。)、丸剤、トローチ剤、封入リポソーム剤、液剤、又はこれらの製剤学的に許容され得る徐放製剤等を例示することができる。
[0040] 本発明のバイオフィルム形成抑制剤は、一定濃度のラクトフェリンを口腔内に保持することによって効果を発揮することから、トローチ剤の形態が特に好ましい。
本発明のバイオフィルム形成抑制剤がトローチ剤である場合、ラクトフェリンが口腔内に8?2000μg/mlの濃度で1時間以上残存することが好ましく、ラクトフェリンが口腔内に31?2000μg/mlの濃度で1時間以上残存することがより好ましく、ラクトフェリンが口腔内に130?2000μg/mlの濃度で1時間以上残存することがさらに好ましい。よって、該条件を満たすように、トローチ剤の大きさ、質量、硬度等の物性やラクトフェリンの配合量、使用する添加剤の種類や配合量等を調整することができる。
トローチ剤中のラクトフェリンの含有量は、当該トローチ剤の総質量に対し、10?30%であることが好ましく、15?25%であることがより好ましい。 」

・甲3-6([0059]?[0060])
「 [0059] [製造例1]
ラクトフェリン(森永乳業社製、鉄飽和度15%)300g、還元麦芽糖水飴(東和化成社製)810g、粉あめ(昭和産業社製)172.5g、コーンスターチ(三栄源エフ・エフ・アイ社製)1.5g、ヨーグルト香料(長谷川香料社製)6g、及びグリセリン脂肪酸エステル(三栄源エフ・エフ・アイ社製)45gを均一に混合して混合粉末を得た。
この混合粉末を、打錠機(畑鉄工所社製)を使用して、1錠当り1.5g、12錠/分の打錠速度で連続的に打錠し、硬度7.3kgのトローチ剤900錠(約1350g)を製造した。得られたトローチ剤1錠中のラクトフェリン含量は0.3gである。
[0060] [製造例2]
ラクトフェリン(森永乳業社製、鉄飽和度20%)250g、マルツデキストリン(松谷化学工業社製)635g、脱脂粉乳(森永乳業社製)85g、ステビア甘味料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)1g、ヨーグルト・フレーバー(三栄源エフ・エフ・アイ社製)5g、及びグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン社製)24gを均一に混合して混合粉末を得た。
この混合粉末を、打錠機(畑鉄工所社製)を使用して、1錠当り1.5g、12錠/分の打錠速度で連続的に打錠し、硬度8.5kgのトローチ剤600錠(約900g)を製造した。得られたトローチ剤1錠中のラクトフェリンの含有量は0.3gである。 」

・甲3-7([0064]?[0071])
「 [0064] ・・・
[試験例1]
・・・
[0065] (1)試料の調製
ラクトフェリン試料として、10%飽和量の鉄を結合した天然型ラクトフェリン(森永乳業社製)、鉄を全く結合していないアポラクトフェリン、鉄を飽和量結合したホロラクトフェリンを使用した。天然型ラクトフェリンは牛乳から精製したものを用いた。アポラクトフェリン及びホロラクトフェリンは、天然型ラクトフェリン(森永乳業社製)を原料として使用し、インオーガニカ・シミカ・アクタ(Inorganica Chimica Acta、スイス、1979年、第33巻、p.149-153)の方法に従ってそれぞれ製造した。
[0066] バイオフィルムを形成する細菌として、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手した。・・・
[0067] 試験用菌液は、ポルフィロモナス・ジンジバリスをヘミン(5μg/ml)、ビタミンK1(5μg/ml)、イーストエクストラクト(1mg/ml)を添加したトリプチケイス・ソイ液体培地(日本ベクトン・ディッキンソン社製)中で、37℃で培養することで調製し、バイオフィルム形成試験及び発育抑制試験に用いた。
[0068] (2)試験方法
バイオフィルム形成量の測定は、カレント・プロトコルズ・イン・マイクロバイオロジー(Current Protocols in Microbiology、アメリカ合衆国、2005年、p.1B.1.1-1B.1.17)に記載の方法に従い、マイクロタイタープレート・バイオフィルム・アッセイによって測定した。ポリ塩化ビニル製の96穴マイクロタイタープレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)のウェルに、0mg/ml(コントロール)、0.008mg/ml、0.031mg/ml、0.13mg/ml、0.5mg/ml、及び2mg/mlの4倍希釈系列の試験試料と、ヘミン(5μg/ml)、ビタミンK1(5μg/ml)、イーストエクストラクト(1mg/ml)を加えたトリプチケイス・ソイ液体培地100μlを添加し、約10^(7)/mlの試験菌を24時間培養した。試験試料として、アポラクトフェリン、天然型ラクトフェリン、ホロラクトフェリンを用いた。
[0069] 24時間の培養の後に、浮遊細菌を水で洗い流し、各ウェルを0.1%クリスタル・バイオレット液125μlで10分間インキュベートして、バイオフィルムに色素を吸着させた。水で洗浄後、空気中で乾燥し、それぞれのウェルを95%エタノール150μlで10分間インキュベートし、色素を抽出した。色素を抽出した溶液から125μlをポリスチレン製の96穴マイクロタイタープレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)に移し、マイクロプレート・リーダーMTP-32(コロナ電気社製)で550nmの吸光度を測定し、バイオフィルム形成量とした。各サンプル3検体についてバイオフィルム形成量を測定し、平均値を求めた。
[0070] (3)試験結果
ラクトフェリン類によるポルフィロモナス・ジンジバリスのバイオフィルム形成量の結果を図1に示す。・・・
[0071] すなわち、いずれのラクトフェリン類も0.008mg/ml?2mg/ml(8μg/ml?2000μg/ml)の濃度においてバイオフィルムを効果的に形成抑制することが明らかとなった。また、このバイオフィルム形成抑制の効果は、ラクトフェリンを最小の濃度で投与した場合にも十分に有意なものであり、ラクトフェリンの濃度を増大させるにつれて、その効果はさらに顕著なものとなった。また、ホロラクトフェリンにおいても他のラクトフェリンと同様に十分に有意なバイオフィルム形成抑制の効果が見られたことから、このバイオフィルム形成抑制の効果が、ラクトフェリンの殺菌作用を介した効果ではないことがわかった。

・甲3-8([0072]?[0082])
「 [0072] [試験例2]
・・・
[0073] (1)試料の調整
ラクトフェリン試料として、10%飽和量の鉄を結合した天然型ラクトフェリン(森永乳業社製)、鉄を全く結合していないアポラクトフェリン、鉄を飽和量結合したホロラクトフェリンを使用した。天然型ラクトフェリンは牛乳から精製したものを用いた。アポラクトフェリン及びホロラクトフェリンは、天然型ラクトフェリン(森永乳業社製)を原料として使用し、インオーガニカ・シミカ・アクタ(Inorganica Chimica Acta、スイス、1979年、第33巻、p.149-153)の方法に従ってそれぞれ製造した。
[0074] バイオフィルムを形成する細菌として、ポルフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277)をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手した。・・・
[0075] 試験用菌液は、ポルフィロモナス・ジンジバリスをヘミン5μg/ml、ビタミンK1 5μg/ml、イーストエクストラクト1mg/mlを添加したトリプチケイス・ソイ液体培地(日本ベクトン・ディッキンソン社製)中で、37℃で培養することにより調製した。
[0076] (2)試験方法
バイオフィルム残存量の測定は、カレント・プロトコルズ・イン・マイクロバイオロジー(Current Protocols in Microbiology、アメリカ合衆国、2005年、p.1B.1.1-1B.1.17)に記載の方法に従い、マイクロタイタープレート・バイオフィルム・アッセイによって測定した。ポリ塩化ビニル製の96穴マイクロタイタープレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)のウェルに、ヘミン5μg/ml、ビタミンK1 5μg/ml、イーストエクストラクト1mg/mlを加えたトリプチケイス・ソイ液体培地100μlを添加し、約10^(7)/mlの試験菌を24時間培養した。
[0077] 24時間の培養の後に、バイオフィルムが形成されたのを確認後、浮遊細胞を除去し、生理食塩水(0.85%NaCl(和光純薬社製)を使用)で洗浄し、バイオフィルムの増殖を停止させた後、生理食塩水に溶解したラクトフェリンを添加して5時間培養した。
[0078] ラクトフェリン試料の添加量は、0mg/ml(コントロール)、0.008mg/ml、0.031mg/ml、0.13mg/ml、0.5mg/ml、及び2mg/mlの4倍希釈系列である。ラクトフェリン試料を添加して5時間経過後にバイオフィルムの残存量を確認した。
[0079] 5時間経過後、浮遊細菌を水で洗い流し、各ウェルを0.1%クリスタル・バイオレット液125μlで10分間インキュベートして、バイオフィルムに色素を吸着させた。水で洗浄後、空気中で乾燥し、それぞれのウェルを95%エタノール150μlで10分間インキュベートし、色素を抽出した。色素を抽出した溶液から125μlをポリスチレン製の96穴マイクロタイタープレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)に移し、マイクロプレート・リーダーMTP-32(コロナ電気社製)で550nmの吸光度を測定し、バイオフィルム残存量とした。各サンプル3検体についてバイオフィルム残存量を測定し、平均値を求めた。
[0080] (3)試験結果
各ラクトフェリンを使用したときのバイオフィルム残存量を図2に示す。・・・
[0081] いずれのラクトフェリンも、いったん形成されたバイオフィルムの量を減少させる効果を十分に有意に示した。この効果は、ラクトフェリンを最小の濃度で投与した場合にも十分に有意なものであり、ラクトフェリンの濃度を増大させるにつれて、その効果はさらに顕著なものとなった。ホロラクトフェリンにおいても他のラクトフェリンと同様に十分に有意な効果が見られた。アポラクトフェリン及び天然型ラクトフェリンでは、その効果はさらに優れていた。
[0082] 本試験の結果から、ラクトフェリンにはバイオフィルムの新たな形成を阻害してその量の増大を抑制するだけでなく、既に形成されたバイオフィルムの量を減少させる効果を有することが判明した。また、いったん形成されたバイオフィルムの量の減少は、たとえ菌体を殺菌できたとしても説明できるものではない。すなわち、本発明によるバイオフィルム形成抑制は、殺菌作用とは異なった未知のメカニズムによるものであることがわかった。 」

・甲3-9([0083]?[0087])
「 [0083] [試験例3]
・・・
[0084] (1)試料の調製及び試験方法
試験例1と同様の方法にて、ラクトフェリン試料と歯周病原細菌を調製した。ポリ塩化ビニル製の96穴マイクロタイタープレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)のウェルに、0(コントロール)、0.13、0.5、2及び8mg/mlの4倍希釈系列のラクトフェリン試料と、ヘミン(5μg/ml)、ビタミンK1(5μg/ml)、イーストエクストラクト(1mg/ml)を加えたトリプチケイス・ソイ液体培地150μlを添加し、約10^(7)/mlの歯周病原細菌を8時間または24時間培養した。100μlの培養液をポリスチレン製の96穴マイクロタイタープレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)に移し、マイクロプレート・リーダーMTP-32(コロナ電気社製)で630nmの吸光度を測定し、細菌発育量とした。
[0085] (2)結果
ポルフィロモナス・ジンジバリスに0.13?8mg/mlのアポラクトフェリン、天然型ラクトフェリン、ホロラクトフェリンを添加して8時間培養したときの結果を図3に示す。ラクトフェリン類を含まないコントロールの発育量に対して、ほぼ同程度の結果となり、抗菌活性は全くみられなかった。
[0086] すなわち、アポラクトフェリン、天然型ラクトフェリン、及びホロラクトフェリンはいずれも、0.13?8mg/mlの濃度範囲において、ポルフィロモナス・ジンジバリスに対する抗菌効果を示さないことが明らかになった。
[0087] このように、ラクトフェリンはバイオフィルム形成抑制効果を示す濃度において、バイオフィルムの形成に関与する細菌の増殖を抑制せず、殺菌作用を全く発揮していなかった。このようにラクトフェリンが殺菌作用を発揮しない濃度で効果的にバイオフィルムの形成抑制の効果を発揮するという点で、従来から知られているような細菌の増殖抑制効果や死滅させる効果(殺菌効果)に基づいたメカニズム以外のメカニズムによって、バイオフィルムの形成を抑制するという効果が発揮されていることが明らかとなった。 」

(※当審注:
なお、特許明細書の【0004】?【0005】及び【0007】で「特許文献1」として引用されている
特開2013-75927号公報
に係る特許出願である
特願2013-17557号
は、甲3の国際出願に基づく日本国特許庁を指定官庁とする特許出願:特願2010-509607号 の分割出願であって、上記「特許文献1」の【0001】?【0107】並びに図1?図5の記載内容は、甲3の対応する[0001]?[0107]並びに図1?図5の記載内容と同じと認められる。 )

(4)甲4
・甲4-1(214頁 標題)
「 ラクトフェリンの口臭抑制効果 」

・甲4-2(214頁 中段要約欄2?10行)
「 ラクトフェリンの歯科応用の一例として,最近,社会全体の関心の高い口臭をとり上げ,その有用性を検討してみた.口臭の要因にはいろいろあるが,なかでも最大原因物質といわれている揮発性硫化物について簡易クロマトグラフィーを用いて測定し,検討した.また,口臭の大きな要因といわれている舌苔の性状変化についても併せて観察した.
今回用いたラクトフェリンは,牛乳から抽出したウシラクトフェリンを腸溶性カプセルに充填したもので,300mg/dayを1ヵ月間服用してもらい,1週ごとに揮発性硫化物を測定し,口臭の改善状況を観察した.その結果,腸溶性ラクトフェリンの服用は,揮発性硫化物の濃度軽減,舌苔の正常化など,口臭改善に有用性を認めた.また,治験者の歯周組織をはじめ口腔内環境の改善も顕著だったことから,さらに歯科疾患の他への応用も検討していく予定である. 」

・甲4-3(214頁左欄1?6行)
「 近年,口臭を主訴として歯科の外来を訪れる患者が増えている.口臭の病態は,原因疾患が認められない生理的なものと,原因物質が明らかなものがある.さらに患者の心理的要因が加わり,その病態は多岐にわたる.現在,一般に用いられている口臭の国際分類を表1に示す.」

・甲4-4(215頁 表1(※当審注:枠囲い線は省略))
「 表1 口臭症の国際分類
1.真性口臭症・・・社会的容認限度を超える明らかな口臭が認められるもの
1)生理的口臭
器質的変化,原因疾患がないもの
2)病的口臭
a)口腔由来の病的口臭
口腔内の原疾患,器質的変化,機能低下などによる口臭(舌苔,プラークなどを含む)
b)全身由来の病的口臭
耳鼻咽喉,呼吸器系疾患など
2.仮性口臭症・・・患者は口臭を訴えるが,社会的容認限度を超える口臭は認められず,検査結果などの説明により,訴えの改善が期待できるもの
3.口臭恐怖症・・・真性口臭症,仮性口臭症に対する治療では訴えの改善が期待できないもの 」

・甲4-5(214頁左欄7行?右欄12行、216頁左欄1行?右欄4行)
「 口臭の原因物質は,主に揮発性硫黄化合物(volatile sulfur compounds:VSC)といわれており,硫化水素,メチルメルカプタン,ジメチルサルファイドの三つのガスがその代表である.ケラチンなどの口腔粘膜脱離上皮細胞,唾液中の蛋白,食物残渣に含まれるシステイン,メチオニンなどが口腔内の偏性嫌気性菌によって代謝を受けVSCが産生される.システインを含むペプチドからは硫化水素が,メチオニンからはメチルメルカプタンが産生され,メチルメルカプタンはさらにメチル化され,ジメチルサルファイドが生成される.
またこれらの揮発性硫化物は,細胞や組織に対する毒性も強く,口臭の原因物質となるだけでなく,歯周病の原因にもなる.生成されたVSCは一度唾液中に溶け込み,引きつづき唾液から揮発し,呼気中に混入する.唾液が多量に分泌されると,唾液中の濃度は低下するし,唾液が少ないと逆に高濃度となって口臭の原因となる.したがって,唾液の減少を招く疾患や薬剤の服用は口臭の危険因子となる.睡眠時は唾液の分泌が止まるので起床時の口臭が最も強く出る.
筆者らは,ラクトフェリン腸溶性剤を2?4週間(0.25?0.5g/day)摂取したボランティアから体験談を集めたところ,服用前とくらべ,起床時における“口の中のネバネバ感”などの不快感が減り,“口の中のサラサラ感”などの爽快感が高まったなどの口腔内環境が改善される例を多数認めた.
そこで,充分インフォームド・コンセントの得られた患者を対象にラクトフェリンを服用してもらい,口臭測定を行い,その有用性を検討した.また,口臭発生の大きな要因となっている舌表面の舌苔の付着状況についても観察した. 」

・甲4-6(216頁右欄5?10行,218頁左欄1?11行)
「 材料と方法
今回の対象患者は12名(男2名,女10名),年齢は32?77歳.腸溶性ラクトフェリン(NRLファーマ社製)を300mg/day摂取,起床時より絶食,口腔内非清掃の状態で,毎週同時間に来院,口臭および口腔内の審査を行った.
口臭については,簡易ガスクロマトグラフィー方式のオーラルクロマ(アビリット社製)(図1)を用い,硫化水素,メチルメルカプタン,ジメチルサルファイドの濃度測定を行った.主に硫化水素は舌表面の舌苔から,メチルメルカプタンは歯周ポケットから,ジメチルサルファイドは摂取食物からの影響が大きいといわれている.
今回用いた測定器では,ジメチルサルファイドについては測定精度の問題から省略し,結果については硫化水素,メチルメルカプタンのみを示した.また併せて舌背表面の色調変化を観察した. 」

・甲4-7(218頁左欄12行?219頁左欄11行)
(※ 当審注:原文中の例えば ○中の1 は、(丸数字1) のように表記している.○中の2?○中の4 についても同様)
「 結果と考察
VSCの計測は,わずかな条件で大きく異なることから,不合理な測定器は省いて比較検討してみた.また1週ごとの計測ではばらつきが大きく(図2,3),傾向をうまく掴めなかったので4週後のデータ(図4,5)で傾向を比較した.また,メチルメルカプタン対硫化水素比(CH_(3)SH/H_(2)S)が歯周病の重症度に伴って上昇するといわれていることから,CH_(3)SH/H_(2)Sも検討してみた.
(丸数字1) 硫化水素は約91.7%が減少,喫煙者1人のみ上昇,非喫煙者の平均減少数が-4.28(ng/10mL)だったのにくらべ,喫煙者は-1.02(ng/10mL)の減少だった(表2).
(丸数字2) メチルメルカプタンは3名が計測不能で,残り9名のデータで検討した.約66.7%が減少,9名中3名が上昇,非喫煙者の平均減少量が-8.82(ng/10mL)にくらべ,喫煙者は-0.58(ng/10mL)であった(表3).
(丸数字3) CH_(3)SH/H_(2)Sも計測できた9名のデータで検討した.約55.6%が減少,非喫煙の平均減少量は-0.25,喫煙者は0.41上昇した.この結果は上記の二つのガスと同様の傾向を示したが,非喫煙者の6名のうち半数がわずかながら上昇しており,今後のさらなる検討の必要がある(表4).
(丸数字4) 一人の治験者の舌表面の光学写真を図6に提示したが,ラクトフェリン服用前にくらべ服用後は舌苔が薄くなる傾向を認めた.舌尖や舌縁部にはそれほど違いはないが,口臭の原因に大きく関与している舌背後方部において,舌正中溝が少しずつ露顕してくるのを認めた. 」

・甲4-8(219頁左欄12行?右欄4行)
「 口臭の原因に大きなウェイトを占めるのは,舌表面の舌苔の異常であるといわれている.舌苔は,舌背の糸状乳頭という上皮組織が毛のように伸び,そこに粘膜剥離上皮,白血球,細菌,食物残渣などが付着して白濁化したものである.乳頭は摂食時に舌の保護や食物をしっかり捕らえるためにあると考えられている.通常,毎日少しずつ伸びており,咀嚼や発音などの舌運動に伴って少しずつ削られるので,落屑と再生のバランスが保たれ,短い毛の状態である.
しかし,口腔の機能低下により,落屑が減り,異常に伸張し舌背に白い毛状となり,そこにプラークが付着し,舌表面に苔が生えたようになる.これが異常な舌苔である.異常な舌苔の誘因としては,ドライマウス,シェーグレン症候群,胃腸障害,糖尿病,腎疾患,血管疾患,喫煙,飲酒,各種薬物などがあげられている.これらと舌苔との関係は必ずしも明確ではないが,舌苔の異常な伸長は,ある種の防御反応として起こるようである.消化管に吸収障害がある場合,糸状乳頭の角質化が亢進して舌苔の伸長が起こる.これに白血球や食物残渣が付着して舌苔ができる.これは吸収障害で弱った粘膜を保護する目的と,消化管に食物があまりこないようにするためと考えられる.したがって,消化管の症状を改善させれば,舌苔の異常の改善も出来るはずである.
舌の表面は上皮細胞に覆われており,舌苔形成は角化現象の一種といわれている.また,上皮細胞におけるメラニン色素合成と酸化ストレスには相関があり,酸化ストレスを回避できれば,メラニン合成と角質化は防げるといわれている.したがって,舌苔の正常化はラクトフェリンによる酸化ストレス回避による若返り現象と関係しているものと思われる.」

・甲4-9(219頁右欄5?17行)
「 今回の治験例は多くはないが,喫煙・非喫煙者のいずれにもラクトフェリン服用後に明らかにVSCの減少傾向が認められたほか,舌苔の正常化傾向もみられた.ただし,非喫煙者にくらべ喫煙者のほうが減少傾向は鈍かった.ラクトフェリンを服用すると舌のみならず,歯周組織の改善傾向も認められた,特に歯周ポケット測定時における出血部位の割合(bleeding on plobing:BOP)は顕著な低下を認めた.舌苔や歯周ポケット内の細菌などのさまざまな因子がVSCに関係しているといわれているが,ラクトフェリンの抗菌作用や免疫力向上作用により口腔内環境が改善したためVSCの減少につながったものと考えられる. 」

・甲4-10(219頁右欄18?41行)
「 最近,口臭で悩んでいる患者は増加傾向にあり,さまざまな口臭防止商品が数多く発売されてきているが,直接口臭を防止する作用は弱く,香料によるにおいの遮蔽効果を狙ったものや精神的に安心感を与えるような心理効果を狙ったものなどが多く,根本的な口臭発生の原因除去にはつながっていない.ラクトフェリンは全身的な体調の改善をきたしながら,副次的には口腔内環境も改善し,その結果として口臭の減少も期待できる.またラクトフェリンの場合は,原田らの報告^(1))にもあるように抗ストレス作用があるため,病的口臭症のみならず,仮性口臭症,口臭恐怖症などの心因的要因の絡んだ口臭症の改善にも期待できる.
従来,歯科疾患の予防には歯磨きを主体として行われてきており,免疫賦活によるものは過去にも類例がない.もともと歯科疾患は,口腔内の日和見病原微生物により惹起されるものであるから,それらを免疫的に排除する方法は合理的である.今後さらに検討し,歯科の臨床現場においてラクトフェリンの応用を考えていきたい.

文 献
1)原田悦守:ミルク由来ラクトフェリンの体内移行動態とその新規作用-抗ストレス,鎮痛,抗炎症作用-. 慢性疼痛 23(1):9-22,2004. 」

(5)甲5
・甲5-1(標題)
「 口臭-歯周細菌間の相関関係 」

・甲5-2(要約欄)
「 硫化水素、 メチルメルカプタン、 及びジメチルスルファイドを含む揮発性硫黄化合物(VSCs)は、口臭に主に関与している。最近、メチルメルカプタンを生成するL-メチオニン-α-デアミノ-γ-メルカプトメタン-リアーゼをコードするmgl遺伝子がPorphyromonas gingivalisからクローニングされた。本稿では、口腔内細菌によるVSCs形成のメカニズムとその病原的役割について考察する。 」

・甲5-3(681頁右欄3?19行)
「 5.口腔内細菌によるVSCsの形成
P.gingivalis、P.intermedia、F.nucleatum、・・・はL-システイン補充ブロス培養下で硫化水素を産生する。P.gingivalis、P.intermedia、及びF.nucleatumはメチルメルカプタンをも産生する[11-13]。
我々は、 P.gingivalis、F.nucleatum、Actinobacillus actinomycetemcomitans、及びEscherichia coliがL-メチオニンからメチルメルカプタンを生成する能力を調べた[26]。上記の反応の蒸気に含まれる密閉管内の細胞懸濁液を含む反応混合物の蒸気中のメチルメルカプタンの量は、ガスクロマトグラフィーにより測定した。 P.gingivalisとF.nucleatumはL-メチオニンからメチルメルカプタンを生成した。 A.actinomycetemcomitansとE.coliはメチルメルカプタンを生成しなかった。 これらの研究は、多くの歯周病菌がVSCsを形成する能力が高いことを示す。 」

(6)甲6
・甲6-1(標題)
「 ラクトフェリンは、βグリカンへの結合及び古典的TGF-βシグナル伝達の活性化を介してIgA及びIgG2bアイソタイプへの切り換えを引き起こす 」

・甲6-2(要約)
「 ラクトフェリン(LF)は、多面的な鉄結合糖タンパク質であって、液性免疫応答を調節することが知られている。しかしながら、Ig合成におけるその正確な役割は未だ解明されていない。本稿では、我々はマウスB細胞によるIg産生へのLFの作用及びその基礎をなすメカニズムを調査した。LFは、トランスフォーミング成長因子(TGF)-β1のように、B細胞を刺激してIgA及びIgG2bを産生せしめたが、他のアイソタイプは下方制御した。限界希釈分析を用いて、LFがIgA分泌性B細胞の発生頻度を増大せしめることが示された。このことはIg生殖系列α(GLα)転写物の増大と並行しており、LFがIgA(への)転換因子としての役割を演じていることを示すものである。興味深いことに、LFは直接βグリカン(TGF-β受容体III、TβRIII)と相互作用して次にTβRI及びSmad3のリン酸化をTβRIII/TβRII/TβRI複合体の形成を介して誘導し、IgAアイソタイプへの切り替えを導いた。LFの経口投与は腸管/血清IgA産生並びにIgAプラズマ細胞数を粘膜固有層において増大させた。最後に、我々は、LFが、非毒素産生性S.typhimuriumが経口接種された際にアジュバント活性を有し、毒素産生性S.typhimuriumの胃内感染に対して防護作用を与えることを見出した。これらが示唆するのは、LFが粘膜性/全身性IgA応答に重要な作用を有し腸管病原体に対する保護に寄与し得るということである。」

・甲6-3(907頁左欄20?42行)
「 これまでLFは免疫系において多機能であることが明らかにされて来ているが、^(15)リポ多糖(LPS)刺激マウスB細胞によるIg合成への直接的な影響を詳細に検討した研究はない。そこで、我々はまず、精製マウス脾臓B細胞によるIg産生に対するLFの効果を調べた。この実験において、TGF-β1が陽性対照として用いられた、というのは、TGF-β1はIgA及びIgG2bのクラス切り換え因子として知られているからである。^(3-5)TGF-β1と同様に、LFはlgA及びIgG2bのアイソタイプの産生を有意に増加させ、同時にlgMの産生を下方制御した(図1a)。ヒト及びウシには鉄飽和度に応じて3つの形態のLF、即ちアポLF(Fe^(3+)0%)、ホロLF(Fe^(3+)100%)、及び天然型LF(Fe^(3+)50%)が存在し、それぞれ異なる生物学的活性を発揮する。我々は、これら3つの形態のIg合成を刺激する能力を、LFの消化された形態であるLFペプシン加水分解物(LFH)と一緒に比較した。図1bに示されるように、LFHを除く3つの形態のLFはIgA及びIgG2bの産生を増加させ、この活性には鉄含有率ではなくLFの構造的完全性が関係していることが示唆された。脾臓には、濾胞性(FO)B細胞及び辺縁帯(MZ)B細胞の2種の識別可能なB細胞集団が存在する。MZ B細胞は主にIgA産生に対してLFに反応したが、両B細胞集団はIgG2b産生に対してほぼ同じ反応を示した(図1C)。 」

・甲6-4(912頁右欄1行?914頁左欄9行)
「 LFは強力な粘膜アジュバント活性を示す
in vivoでのIg産生におけるLFの役割を決定するために、LFがマウスに経口投与され、ELISAがIg合成測定のため実施された。LFの投与は、糞便ペレット中のIgA及び血漿中のIgA/IgG2bのより高いレベルをもたらし、これと同時にIgMの減少がもたらされた(図6a)。我々の観測と一致して、LFの経口投与はPP B細胞によるIgA/IgG2b産生(図6b及び補足図7A)及び粘膜固有層におけるIgA担持プラズマ細胞(B220、細胞内IgA^(+))(図6c)を顕著に増加させた。Ag特異的Ig産生に対するLFのアジュバント効果を試験するために、マウスは週3回LFを経口で3週間プレ投与され、次いで胃内に10^(8)CFUの非毒素産生性S.typhimuriumが胃内接種され、そしてLFが8日目及び15日目に投与された。S.typhimurium特異的IgsはELISAで21日目に測定された。LF処置は、糞便及び血清中のAg特異的なIgA、IgG2b及びIgGlのレベルを顕著に増加させた(図6d及び補足図7B)。我々はまた、LFの毒素産生性S.typhimurium感染に対する防護作用も試験した。マウスは最初に非毒素産生性S.typhimuriumを、LFを伴うか又は伴わずに接種され、次いで胃内で毒素産生性S.typhimuriumに感染させられた(図6e)。非毒素産生性S.typhimurium+LFの接種は、非毒素産生性S.typhimuriumのみの投与に比して、感染マウスの生存率を顕著に増強した。これらの発見が意味するのは、LFが腸管感染に対する防護作用による粘膜アジュバント活性を示すということである。 」

・甲6-5(916頁左欄24?39行)
「 Salmonella感染研究。 5匹のBalb/cマウス(7週齢)2群に対し、経口で100μlのPBSに溶解された天然LF(5mg kg^(-1))が週3回で10週間投与された。血清及び糞便ペレットが採取、貯蔵され、ELISA用に上清が収集される前に10,000×gで10分間遠心分離された。LFのアジュバント効果を試験するため、5匹のBalb/cマウス(7週齢)2群に対し経口でLF(5mg kg^(-1))が週3回で10週間投与された。マウスは経口で100μl用量(10^(8)CFU)の非病原性S.typhimuriumFB331株(・・・)が最初のLF処置から7日後及び14日後に接種された。糞便ペレット及び血清が21日目に採取、貯蔵され、S.typhimurium特異的IgA産生が抗原特異的ELISAにより測定された。S.typhimurium感染に対するLFの防護効果を試験するために、マウスに対し10^(8)CFUの毒素産生性S.typhimurium(ST198株)が胃内に投与された。 」

(7)甲7
・甲7-1(標題)
「 ラクトフェリンによる腫瘍担持マウス腸管粘膜免疫の活性化 」

・甲7-2(要約)
「 我々は以前、ウシラクトフェリン(bLF)の経口投与が、腫瘍担持マウスの血中CD4^(+)及びCD8^(+)T細胞並びにNK(アシアロGM1^(+))細胞を顕著に増大させ抗転移活性を増強することを実証した。本稿では我々は、bLF及びbLF-加水分解物(bLFH)の経口投与がマウス、特にCo26Lu細胞が皮下移植された腫瘍担持動物、のリンパ組織や小腸の粘膜固有層におけるCD4^(+)及びCD8^(+)T細胞並びにアシアロGM1^(+)細胞の強い増加と関連していることを記述する。さらに、当該小腸の粘膜固有層におけるIgM^(+)及びIgA^(+)B細胞もまたbLFやbLFHにより著しく増大した。ウシアポトランスフェリン(bTF)はそのような活性を示さなかった。結腸では、CD8^(+)細胞のみがbLF処置により著しく増大したが、アシアロGM1^(+)細胞は顕著に減少した。bLF及びbLFHはサイトカインを誘導してT細胞、B細胞及びアシアロGM1^(+)細胞を活性化した。bLFやbLFHの投与は、小腸粘膜におけるインターロイキン-18(IL-18)、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)及びカスパーゼ-1の産生を増大させたが、bTFは増大させなかった。特に高レベルのIL-18が小腸上皮細胞中に見出された。しかも、bLF及びbLFHの投与は小腸におけるIFN-γ提示細胞を誘導したが、bTHは誘導しなかった。カスパーゼ-1は、プロIL-18を成熟IL-18に処理し、これもまたbFLやbFLH処理に続いて小腸上皮細胞中で誘導されたが、bTF処理に続いては誘導されなかった。これらの結果が示唆するのは、bLF処置によるIL-18及びIFN-γ並びにカスパーゼ1の増強された産生は腸管粘膜免疫の上昇のために重要であるかもしれない、ということである。 」

・甲7-3(1023頁左欄11?20行)
「 マウス結腸癌26Lu(Co26Lu)の移植 高転移性のCo26Lu株^(11))(・・・)がマウス右大腿部中に皮下移植された。bLF、bLFH及びbTFが経口で毎日300mg/kg、11日目から3日間、腫瘍担持又は非担持マウスに投与された。
組織切片及び染色 300mg/kgのbLFが3日間経口投与された24時間後、マウスは麻酔されて殺され、小腸が切除された。・・・ 」

・甲7-4(1023頁左欄40行?1024頁左欄9行)
「 結果
マウス小腸及び大腸におけるT,B及びアシアロGM1^(+)細胞へのbLF、bLFH及びbTFの経口投与の影響 bLF及びbLFHの投与は肺転移に対し予防上及び治療上の効果を有している。^(1))本研究では、我々は経口投与されたbLF又はbLFHが正常又は腫瘍担持マウスの小腸及び大腸のリンパ組織において免疫調節機能を有しているか否かを調べた。bLFの経口投与はCD4^(+)(図1)、CD8^(+)(図2)、及びアシアロGM1^(+)細胞(図3)の小腸リンパ組織(A)並びに粘膜固有層(B)における細胞数を顕著に増大させたが、bTFは増大させなかった。大腸のリンパ組織では、CD8^(+)細胞もまたbLF処置により顕著に増大した(図4B)。対照的に、アシアロGM1^(+)細胞は顕著に減少した(図4C)。IgM^(+)(図5A)及びIgA^(+)(図5B)細胞もまた、小腸において、特に腫瘍担持マウスで顕著に増大した。
bLF、bLFH及びbTF処置によるIL-18及びIFN-γ陽性細胞の誘導 IL-18は恒常的に(構成的に)小腸上皮で発現している。^(8)) bLFがマウスに経口投与された場合、高レベルのIL-18が小腸上皮内に見出された(図6、A及びB)。IL-18はT細胞及びNK細胞を活性化することが報じられており^(12)、13))、それらはIFN-γを産生する。^(14)) 図6C及び6DはIFN-γ陽性細胞はbLFで顕著に増大したが、bTF処置で群では増大しなかった(表1)。bLF及びbLFH処置は、非処置腫瘍担持マウスに比してIFN-γ陽性細胞を1.8倍及び2.0倍増大させた。
bLF、bLFH及びbTF処置後のカスパーゼ-1産生 マウスIL-18はプロIL-18(24kD)として合成され、IL-1β変換酵素(ICE、カスパーゼ-1)により切断されて活性体(18kD)となる。^(15)) 図6E及びFに示されるとおり、カスパーゼ-1はまたbLF後に上昇したが、bTF処置後には上昇しなかった。 」

(8)甲8
・甲8-1(標題)
「 ヒト外分泌液中の食品タンパク質特異的IgAおよびその免疫複合体 」

・甲8-2(5頁左欄12行?6頁左欄18行)
「 腸管の粘膜固有層には全身に存在する形質細胞の約70?80%を占めるIgA産生細胞が存在しており,ホーミング現象によって遠隔の粘膜固有層や,乳腺,唾液腺,涙腺などの腺組織へも移行してIgAを産生する。IgAは全免疫グロブリン産生量の60%以上を占め,そのうち2/3以上,1日3,000mgにも及ぶ分泌型lgA(secretory IgA:sIgA)が粘膜表層に分泌され,体内に侵入する抗原や異物に対する最前線の感染防御に重要な役割を果たしている。IgAには血清型IgAとsIgAがあり,血清型lgAは単量体で,sIgAは血清型IgA二分子に糖タンパク質のJ鎖とsecretory component(SC)が結合している。循環系の免疫グロブリンの主役はIgGで,IgAは脇役に過ぎないが,粘膜局所においてはその位置関係は逆転し,sIgAが主要な役割を担う^(2))。
これまでslgAのほとんどが微生物やハウスダストに対するものであると報告され,食物抗原に対するものは注目されていなかったが,我々は,ヒト母乳中に主要食物アレルゲンである卵白オボムコイドが特異的slgAとの免疫複合体として存在していることを発見した^(3))。Corthesyらが,腸管M細胞に発現されたIgA受容体がIgA免疫複合体を積極的に取り込んで抗原特異的IgA産生を誘導すると報告していることから^(4,5)),我々は,「母乳中のlgA免疫複合体を介した離乳あるいは経口免疫寛容」なる母乳の新たな生理機能を提唱し,母乳哺育の重要性に言及してきた^(6,7,8,9))。
本研究では,唾液および涙中の食物抗原特異的IgAおよびIgA免疫複合体を解析し,母乳のみならず外分泌液におけるこれらの存在の普遍性を確認した。また,唾液は,性,年齢に関係なく,無痛,無侵襲かつ連続的に容易に採取できる生体試料として注目されており,母乳と異なり研究対象を大きく広げることが可能になる。これらの唾液の利点を生かし,唾液中の食物抗原特異的IgAによる食物アレルギー評価系の確立を目指し解析を行った。 」

・甲8-3(6頁左欄19行?右欄46行)
「 II.試料および方法
1)唾液および涙の採取および処理
唾液試料への食事残渣の混入を防ぐために,唾液採取は食後を避けて行うこととした。さらに,唾液採取前には研磨剤を付けずに約3分間,舌下も含めて出血しないように歯を磨いた後,水道水で十分うがいをした。うがい後は水道水によって唾液が薄まっているので,すぐに唾液採取を開始せずしばらく待ち,きれいに洗った手で脱脂綿を折りたたんで舌下に入れた。3分後,唾液を吸収した脱脂綿をきれいな手で取り出し,15mL遠心チューブに入れて直ちに凍結し,IgA測定まで-20℃ で保存した。測定時に試料を緩慢解凍し15mL遠心チューブの蓋に脱脂綿をかませた状態で,10,000g×10分,4℃ で遠心することにより唾液を回収し,沈殿した夾雑物を除いた上清を唾液試料とした。
・・・
2)試料中のIgAの測定(酵素免疫吸着測定法: Enzyme Linked Immunosorbent Assay)
唾液および涙試料中の総IgA,および食品タンパク質・IgA免疫複合体をサンドイッチELISA,食品タンパク質特異的lgAを固相ELISAにより測定した。
2-1)総lgAの測定
・・・
2-2)食品タンパク質・IgA免疫複合体の測定
卵白タンパク質であるオボアルブミン(OVA),オボムコイド(OM),および牛乳タンパク質であるカゼインについてのIgA免疫複合体を測定した。すなわち,抗OVAポリクローナル抗体,もしくは抗OMポリクローナル抗体,もしくは抗カゼインポリクローナル抗体が固相化,ブロッキングされているELISAプレート(森永生科学研究所より供与)に試料を50μL供し,37℃で1時間反応させた。その後は,総lgAの測定と同様に行った。また,各IgA免疫複合体の標準品は市販品として存在しないため,検量線も総IgAと同じ条件で作製した。よって,本研究で示すIgA免疫複合体量はsIgA当量で示している。
2-3)食品タンパク質特異的lgAの測定
OVA(京都大学 北畠研究室),OM(第一化成),もしくはα-カゼイン(SIGMA)をそれぞれ5μg/ml,50μL/wellで固相化し,1%BSA/PBSによりブロッキングした。その後は,IgA免疫複合体の測定と同様に行った。よって,本研究では特異的IgAもsIgA当量として示している。 」

・甲8-4(7頁左欄11行?8頁左欄7行)
「 III.結果および考察
1.外分泌液中における食品タンパク質・lgA免疫複合体の存在
1)唾液中の食品タンパク質・lgA免疫複合体
平均年齢22.6±0.5歳成人男女12名から,3分おきに5回唾液採取を行い,OVAとIgAとの免疫複合体(OVA・IgA免疫複合体)およびOVA特異的IgAを測定し,両者の経時的濃度変化を見た。すると,OVA・IgA免疫複合体と特異的IgAの両者が測定でき,唾液中にも母乳同様に食品タンパク質特異的なIgAおよびIgA免疫複合体が存在することが確認できた(図1)。ここで測定されたlgA免疫複合体が口腔内に残った食事残渣のOVAと唾液中に分泌されたOVA特異的IgAとの免疫複合体の可能性も考えられるが,この場合,唾液の分泌と特異的IgAによる中和によりOVA・IgA免疫複合体は経時的に減少することが予想される。しかしながら,OVA・IgA免疫複合体とOVA特異的IgAの比率はほぼ一定であったことから,OVA・IgA免疫複合体は免疫複合体として唾液中に分泌されていると考えられた。唾液採取毎に歯磨き,およびうがいを行った場合でも同様の結果が得られたことからも,免疫複合体がそのまま唾液中に分泌されているものと考えられる。また,以下に述べるように,OMや牛乳カゼインの免疫複合体も唾液中に確認された。
2)涙中の食品タンパク質・lgA免疫複合体
次に,平均年齢22.6±0.5歳成人女性14名(A?L)に協力を頂き,食後を避けた自由な時間に涙と唾液の同時採取を1週間に3回行った。個人の中でも,3回の採取試料における検出レベルにばらつきの大きいものが多かったが,両外分泌液中にカゼイン・IgA免疫複合体が同レベル(唾液45.6±37.3ng/ml,涙液47.3±43.5ng/ml)で検出できた(図2-1)。また,両外分泌液中のlgA免疫複合体量は,総IgA量の約1万分の1であった(図2-1,2)。他の食品タンパク質・IgA免疫複合体および特異的IgAに関しても,同様の結果が得られた。以前,同時採取した唾液と母乳中のIgA免疫複合体および特異的IgAを解析したところ,唾液の方が母乳の約10倍高値を示し,母乳と唾液では両者のlgA濃度に相関が見られた。しかし,唾液と涙液における食品タンパク質特異的IgA濃度には相関関係は見られなかった。
以上の結果より,食品タンパク質が涙中に存在し,これがIgA免疫複合体を形成していることから,外分泌液中にIgA免疫複合体が分泌されることは,個体,食品タンパク質,外分泌液の違いに依存しない普遍的事実であることが明らかとなった。食事後血中に食品タンパク質が検出されること^(10))や,外分泌液中にlgAが多く存在することは今までに報告されてきたが,母乳同様食品タンパク質がlgAとの免疫複合体として唾液や涙に存在することは,世界初の発見である。また,両外分泌液の成人1日における分泌量が唾液約1.5?2L,涙約2?3mLであることを考えると,涙中に分泌される絶対量としてのIgA免疫複合体の分泌量は微々たるものであが,涙中の食品タンパク質・IgA免疫複合体の存在は,食品タンパク質特異的lgA産生前駆細胞のホーミングに組織選択性が無いことを示唆している。
2.ライフステージによる唾液中のIgAおよびlgA免疫複合体の濃度変化
次に,0?12ヵ月(平均5.4±3.8ヵ月齢)の健康な乳児13名,成人男女12名(平均22.6±0.5歳),授乳婦16名(平均31.8±3.8歳)から唾液を採取し,OVA特異的lgA及びOVA・IgA免疫複合体を測定したところ,両者共に乳児より成人(特異的lgA:p〈0.01,免疫複合体:p<0.01),成人より授乳婦(特異的IgA:p<0.05,免疫複合体:p<0.01)で高値を示した(図3)。乳児の唾液でも,IgA免疫複合体と特異的IgAの両者の存在が確認できたが,検出レベルは約50ng/ml程度と成人に比べ低かったことから,乳児期は成人のように安定したIgA産生へ至るまでの過渡期的状態であることを示している。 」

・甲8-5(11頁左欄20行?右欄12行)
「 IV.今後に向けて
我々はこれまでに,母乳中のlgA免疫複合体による経口免疫寛容の誘導食物アレルギーの予防というアイデアを提唱してきたが,本研究により,IgA免疫複合体が母乳のみならず外分泌液中に普遍的に存在することが明らかとなった。今後の課題として,食品を摂取してから外分泌液中にIgA免疫複合体として分泌されるまでの過程についても興味が持たれる。・・・。腸管上皮のパイエル板M細胞は元より高分子の物質をトランスサイトーシスにより体内に取り込む細胞である。IgA免疫複合体を効率よく取り込む鍵となるIgA受容体を発現しているこのパイエル板M細胞は,その細胞直下に免疫系を有する^(5))。このため取り込まれたタンパク質は抗原提示細胞によって分解されて提示され,速やかに免疫の活性化に使われる。これに対して近年,Jangらは,絨毛にもM細胞を発見した^(21))。絨毛M細胞下には免疫系がなく,取り込まれたタンパク質は抗原提示細胞による分解を受けることはない。このいわゆる腸の穴とも言える絨毛M細胞は細菌をも通すと言われており,これがIgA免疫複合体の形成に使われる食品タンパク質の取り込み口になっているのではないかと想像される。しかしながら,取り込まれたタンパク質が免疫系を感作せずに体内を巡り体外に分泌されるまでの過程には,まだ何か驚くべきメカニズムが隠されているかもしれない。こうして取り込まれた食事由来タンパク質をリサイクルして外分泌液中にIgA免疫複合体として分泌し,常に自ら免疫系の活性化を行う機構が本来我々には備わっているのではないだろうか。今後,母乳および唾液中のIgA免疫複合体が,我が子および自分自身のための食物アレルギー予防の天然の飲むワクチンであることの証明を目指していきたいと考えている。 」

(9)甲9
・甲9-1(標題)
「 唾液分泌型IgAによる歯周病原菌感染予防戦略 」

・甲9-2(965頁左欄1行?右欄8行)
「 1)はじめに
歯周病は,個人の生活習慣と密接に関連した感染症である。そして,歯の支持組織で起こる炎症である。現在,歯周病の発生,進行に関わる細菌として,Porphyromonas gingivalis, Bacteroides forsythus, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Campylobacter rectus, Treponema deiticolaなどが注目されており,これらの菌の感染により歯周組織の破壊が進行すると考えられている^(1))。
ヒトの体内に広がる粘膜は・・・摂食,消化吸収,呼吸,性交渉等で外界と接することになる。このとき,病原微生物を含めた様々な異種抗原も外界から入ってくることになり,特に口腔,鼻腔の粘膜はそのとき病原微生物に対して,最初の防御壁になる^(2,3))。
粘膜面における体液性免疫反応はIgGが主体の血清中とはやや異なり,分泌型IgAが防御の主体としての役割を担っており,それを誘導するのが,局所で抗原を取り込む器官に存在している,腸管関連リンパ組織(gut associated lymphoid tissues,GALT)鼻腔に存在する鼻咽腔関連リンパ組織(Nasal associated lymphoid tissues,NALT)等のIgA誘導組織と,実際に分泌型IgAを粘膜に分泌する唾液腺,小腸や大腸の粘膜にみられる乳腺および腔枯膜の腺などのIgA実効組織である(図1,2)。局所の粘膜に投与された抗原は,IgA誘導組織に取り込まれ抗原情報が各種の免疫担当細胞に提示される。この抗原情報を持った免疫担当細胞は,局所のIgA実効組織だけではなく,全身の粘膜面にあるIgA実効組織に到達し,全身で抗体が産生されることになる^(4))。 」

・甲9-3(966頁 図1説明文)
「 図1 腸管粘膜のパイエル板が分泌型IgA抗体誘導組織であり,分泌型IgAが分泌される粘膜が実効組織である。マクロファージから抗原提示を受けたヘルパーT細胞とIgA産生B細胞は,腸管リンパ節から胸管を経て血流中に入り実効組織にホーミングする。そこでTh2型ヘルパーT細胞の産生するIL-4,IL-5,IL-6の影響下で分泌型IgA産生形質細胞へと分化して,J鎖で結びつけた2量体のIgAを分泌する。粘膜上反を通過するさいに分泌片を共有して,分泌型IgAとなる 」

・甲9-4(965頁右欄9行?967頁左欄6行)
「 近年,この粘膜免疫のコンセプトを応用したワクチンが注目を浴びている。粘膜免疫ワクチンは,経口,あるいは経鼻で投与される,いわゆる“吸う”,あるいは“飲む”ワクチンであり,有効に抗原に対する特異的な抗体を誘導させる免疫方法の確立や,注射によるワクチンと比較して抗原量が多くなってしまうことなど課題もあるが,今までの注射によるワクチンと比較して,疼痛を伴わず投与が容易であること等のメリットも多い^(5))。
口腔の疾患であり,また粘膜の感染症である歯周病における予防ワクチンの開発を考えたときに,上記のような粘膜免疫のコンセプトを応用したワクチンを検討することは非常に有益であると考えられる。
我々は,A. actinomycetemcomitansの宿主への定着因子である線毛の一部のアミノ酸配列を読みとると共に,その遺伝子をクローニングすることができた^(6,7))。私共は線毛のアミノ酸配列の中で免疫原性の高いと考えられる合成ペプチドを複数作りその合成ペプチド抗原による粘膜免疫ワクチンの開発を試みている。また,P.gingivalisに対する粘膜免疫を応用した歯周病原菌感染予防ワクチンについても検討しており,それらを紹介する。 」

・甲9-5(969頁右欄5行?970頁左欄24行)
「 3)P.gingivalis感染防御性DNAワクチン
合成ペプチドワクチンや特定の遺伝子を組み込んだDNAワクチンは,新世代ワクチンと言われる。私共は,P.gingivalisの付着に閲わる遺伝子を組み込んだDNAワクチンの開発にも取り組んでいる。
DNAワクチンの特徴は,細胞内で発現させた抗原による抗体産生を導くものであり,免疫原性が高い利点がある。さらに主要組織適合性抗原(major histocompatibility antigen, MHC)クラスIおよびクラスIIに関連した抗原性刺激となるため強い細胞性免疫を誘導することも可能である。私共は,P.gingivalisのアルギニン特異的システインプロテアーゼ(Arg-gingipain)という付着因子としても作用する遠伝子を,組み込んだDNAワクチンを作製した。このプラスミドDNAをマウスに遺伝子銃などで注射すると血清中に本プロテアーゼに対する抗体咋生がみられることを確認した。この抗体がin vitroで,P.gingivalisの付着を抑えたり,免疫後マウスやサルに感染防御性抗体を導くか否かなどについてさらに検討を加えている^(10))。
特に,本DNAワクチン抗原を耳下腺に接種することにより,効果的に感染を防ぐ分泌型IgA産生を誘導することができるか否かについても展開していく計画である。 」

(10)甲10
・甲10-1(特許請求の範囲)
「 【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質が封入され、レシチン及びステロールを含んだリポソームを含有することを特徴とする経口摂取用組成物。
・・・
【請求項7】
生理活性蛋白質が、ラクトフェリン、トランスフェリン、インターフェロン、インターロイキン及びリゾチームからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の経口摂取用組成物。
【請求項8】
生理活性蛋白質が、ラクトフェリンである請求項7に記載の経口摂取用組成物。
【請求項9】
経口摂取用組成物が食品組成物である請求項1?8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
薬学的に許容される担体を含有し、経口摂取用組成物が医薬組成物である請求項1?8のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
【請求項11】
医薬組成物が免疫増強剤である請求項10に記載の経口摂取用組成物。 」

・甲10-2(【0002】?【0016】)
「 【0002】
【従来の技術】
ペプチド性化合物、フラボノイド等の生理活性物質を経口摂取した場合、胃酸や消化管内の種々の酵素の作用により分解され容易に不活化されてしまう。また、ペプチド性化合物等の生理活性物質は水溶性である場合が多く、その分子量も大きいため消化管粘膜からの膜透過性が悪いために、消化管からほとんど吸収されない。現在、ペプチド性化合物の吸収を上げるためには、主にタンパク分解酵素阻害剤を併用する方法と剤型修飾を施す方法とが検討されている。タンパク質分解酵素阻害剤の具体例としてはアプロチニンやバシトラシンなどが応用されている。一方、剤型修飾を施す方法としてはペプチドが胃酸によって分解されるのを防止するために腸溶性コーティングを施した製剤などが利用されている。しかし、腸溶剤は、固形製剤に限られ、液体製剤などの種々の形態とすることができず、特に食品に配合することが困難である。また、腸溶剤は、消化管粘膜からの透過性を改善することはできないため、消化管からの吸収にはあまり影響しない。
【0003】
近年、剤型修飾を施す方法の一つとして微粒子製剤を薬物キャリアーとして利用する研究が精力的になされており、その中の一つとして、リポソームを経口投与の薬物キャリアーとして利用する検討も過去になされてきている。例示すれば、通常経口投与では無効とされていたインスリンを修飾したリポソームに封入することによって経口投与時のインスリンのバイオアベイラビリティーが増加することが認められている(非特許文献1?3)。また、エリスロポエチンをリポソームに封入することによりそのバイオアベイラビリティーが上昇することも報告されている(非特許文献4)。しかしながら、これらのペプチド性化合物封入リポソームは注射に比べて高投与量が必要であることや吸収が変動し易いこと等の難点があり、現在においてまだ完全な実用化に至っておらず、ペプチド性化合物は臨床では注射剤として利用されているのが現状である。
・・・
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、免疫増強作用を有する経口摂取用組成物を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために脂質膜微小運搬体であるリポソームに生理活性物質を封入することによって、免疫増強作用を有するリポソーム含有経口摂取用組成物としたものである。
・・・
【0016】
本発明では、レシチンとして、卵黄レシチン、大豆レシチン、ナタネレシチン、コーンレシチン、ひまわりレシチン、ピーナッツレシチンなどが挙げられる。本発明では、これらの水素添加物を用いることもできる。レシチンはホスファチジルコリン又は1,2-ジアシルグリセロール 3-ホスホコリンとも称され、一般的に、グリセロールの1位及び2位に脂肪酸が結合している。本発明では、上記例示のレシチンに加えて、1位及び2位の両方又は片方に炭素数12?24の不飽和脂肪酸が結合しているレシチンを使用することが好ましく、1位に炭素数12?24の飽和脂肪酸、2位に炭素数12?24の不飽和脂肪酸が結合しているレシチンを使用することが特に好ましい。ここで、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸は直鎖状及び分枝状のいずれでもよい。このようなレシチンを使用することにより、リポソームに封入された生理活性物質の腸吸収性が向上する。好ましい不飽和脂肪酸としては、炭素数16?18の不飽和脂肪酸を使用でき、特に2位にオレイン酸、リノール酸が多く結合したレシチンを使用することにより、より腸吸収性の向上が期待できる。 」

・甲10-3(【0034】?【0036】)
「 【0034】
本発明の経口摂取用食品組成物は、リポソームに封入された生理活性物質の機能に応じた健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品等の用途に用いることができる。
【0035】
また、本発明の経口摂取用組成物は、生理活性物質を封入したリポソーム及び薬学的に許容される担体を含有し、液剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤などの固形剤或いは当該液剤又は固形剤を封入したカプセル剤等の経口投与可能な医薬組成物として使用できる。薬学的に許容される担体としては、賦形剤、希釈剤等が挙げられる。また、医薬組成物は香料
等の各種添加剤を含むこともできる。このような医薬組成物は、リポソームに封入された生理活性物質の機能に応じ、各種疾患の予防又は治療剤として用いることができる。
【0036】
特に、ラクトフェリンを封入したリポソームを含有する経口投与用組成物は、その投与により、IFN-α、IFN-γ、IL-4、IL-12、B細胞、T細胞、ヘルパーT細胞等の値の向上がみられることから、免疫増強作用を有しており、重症急性呼吸器症候群(SARS)、HIV感染症(AIDSなど)、ウイルス性肝炎(急性A型肝炎、急性B型肝炎、急性C型肝炎、急性E型肝炎、慢性B型肝炎、慢性C型肝炎など)、ウイルス性結膜炎、腸管感染症(コレラ、腸チフス、パラチフス、サルモネラ感染症、細菌性赤痢、食中毒、アデノウイルス性腸炎などのウイルス性腸管感染症)、結核、細菌性疾患(ペスト、野兎病、炭疽、ブルセラ症、ハンセン病、マイコバクテリア感染症、破傷風、ジフテリア、百日咳、敗血症、レジオネラ症など)、梅毒、淋病感染症、クラミジア感染症、トリコモナス症、オウム病、トラコーマ、チフス、リケッチア症、ポリオ、狂犬病、日本脳炎などのウイルス性脳炎、ウイルス性髄膜炎、テング熱、黄熱などのウイルス性出血、ヘルペスウイルス感染症、肺炎、ガン等の予防又は治療に有効である。特に、肺炎、ウイルス性肝炎に有効である。 」

・甲10-4(【0038】?【0041】)
「 【0038】
実施例1
ラクトフェリン封入リポソームの調製
薄膜水和法により、ラクトフェリンを封入したリポソーム製剤を調製した。卵黄レシチンとフィトステロールをモル比が7:3となるように量りとり(卵黄レシチン 63.0mg、フィトステロール 14.55mg)、エタノール 6mlを加えて溶解した。この溶液からロータリーエバポレーターにて溶媒留去し、薄膜を形成させた。この薄膜にラクトフェリン180mgを溶解させたクエン酸緩衝液(pH 6.69)の6mlを加え、ボルテックスミキサーにより2000rpmにて3分間程度撹拌を行い、リポソーム懸濁液を得た。この懸濁液を0.4μmの孔径のポリカーボネート膜を用いて濾過し、ラクトフェリン封入リポソームを得た。なお、このリポソームを1%リンタングステン酸処理によりネガティブ染色し、乾燥後、これを電子顕微鏡で観察して、多重膜リポソームが形成されていることを確認した。
【0039】
実施例2
ラクトフェリン封入リポソーム錠の製造
表1に示した原料を混合した後、350μm幅の篩にかけ、篩を通過したものを単発式打錠機にて直径11.0mmに直接圧縮し、錠剤(1錠あたり0.5g)を作成した。
【0040】
【表1】


【0041】
なお、ラクトフェリン封入リポソームは実施例1で得られたリポソーム懸濁液を凍結乾燥したものであり、1錠あたりのラクトフェリン含有量は25mgである。 」

・甲10-5(【0042】?【0048】)
「 【0042】
実施例3
ヒトに対するラクトフェリン封入リポソーム含有錠剤の摂取試験
本試験の目的と内容を理解し、文書及び口頭にて同意を得られた26歳?37歳までの健常人5名を対象とした。なお、試験開始前2週間以内にラクトフェリンを含有する食品を摂取した者、食物アレルギーを有する者は除外した。
【0043】
試験デザインはオープントライアル試験とした。被験者5名に実施例2で得られた錠剤を1回4錠、1日3回、食間に摂取するよう指導した。摂取期間は1週間とした。試験食品は1ボトルに120錠入れて配布した。
【0044】
摂取前及び摂取1週間後に被験者から採血を行い、一般血液検査(アルブミン、A/G比、GOT、GPT、γ-GTP、ALP、血糖、HbA1c、中性脂肪、総コレステロール、HDL-コレステロール、動脈硬化指数、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、アミラーゼ、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット値、血小板数、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球)の測定を行った。免疫学的検査[全血法IFN-α産生能、PHA刺激サイトカイン産生能(IFN-γ、IL-4、IL-12)、NK活性値(40:1)、B-cell(CD19)、T-cell(CD3+56-)、ヘルパー T-cell(CD4)]の測定を行った。
【0045】
一般血液検査の結果はすべて正常範囲内の値であり、安全性に問題ないことが確認された。
【0046】
次に、免疫学的検査の結果を表2に示す。試験食品1週間摂取後に、B-cell、T-cell、ヘルパーT-cellの数が有意に増加した(図1)。一方、NK活性に変化が認められなかった。PHA刺激によるサイトカイン産生において、IFN-γ、IL-4、IL-12の産生能が増加していることより(図2)、ヘルパーT-cellのTh1、Th2タイプのサイトカインの両方を活性化した。また、全血法におけるIFN-αの産生能においても有意な増加が認められた(図3)。
【0047】
以上より、ラクトフェリン封入リポソームはC型肝炎をはじめとする種々の感染症、ウイルス性疾患やガンなどに対して有効である。
【0048】
【表2】



・甲10-6(【0053】?【0054】)
「 【0053】
【発明の効果】
生理活性蛋白質を経口摂取したとき、胃酸や胃内、小腸内のタンパク分解酵素によって分解され生理活性が抑制されてしまうため、経口摂取による利用が普及していなかったが、蛋白質をリポソームに封入することにより、ペプチド性化合物の生理活性の低下を抑制または生理活性を増強することができるため、このリポソームの経口摂取により蛋白質の生理活性を有効に利用できる。
【0054】
特にラクトフェリン封入リポソームは、その投与により、IFN-α、IFN-γ、IL-4、IL-12、B細胞、T細胞、ヘルパーT細胞等の値の向上がみられることから、免疫増強作用を有しており、各種の感染症、肝炎、ガン等の予防又は治療に有効である。このため、ラクトフェリン封入リポソームを含有する経口摂取用組成物は、食品組成物、医薬組成物として有用である。 」


[4-2]申立理由1,2について

(※当審注:
以下、特許明細書又は甲号証の記載に応じ、特許発明における「ラクトフェリン」を「LF」と記すことがあり、また、同「ポルフィロモナス・ジンジバリス」(「Porphyromonas gingivalis」)を「P.gingivalis」又は「P.g」と記すことがある。)

1.甲1を主引例とする新規性及び進歩性の判断

1.1.甲1に記載された発明
[4-1](1)の摘記甲1-1?甲1-5のうち、甲1-2?甲1-4によれば、甲1には、次の発明:
「 ウシラクトフェリン(LF)が配合された錠菓であって、歯周炎患者に対し噛まずに口の中で溶かして作用させることにより、当該患者における歯肉縁下プラーク内のPorphyromonas gingivalis数を減少させるための、錠菓 」
(以下、単に「甲1発明」ということがある)が、記載されているものと認められる。

1.2.特許発明との対比・判断

(1)特許発明1について
ア. 特許発明1と甲1発明とを対比するに、
・甲1発明に係る錠菓は、LF及びそれ以外の成分を含む組成物を錠剤形態としたものであること(甲1-3);
・甲1発明の「患者における歯肉縁下プラーク内のPorphyromonas gingivalis数を減少させるための」が、特許発明1における「ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための」に相当すること;
を踏まえると、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための組成物 」
の点で一致するが、次の点1):
1) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明1が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲1発明は適用対象者において「噛まずに口の中で溶かして」作用させるものである点
(以下、単に「相違点1」ということがある)において、相違する。

イ.以下、上記相違点1について判断する。

(ア)(特許発明1に係る「嚥下」組成物について)
「嚥下」とは、一般的に、飲み込むことにより体内に取り入れることを意味するから、特許発明1に係る「嚥下組成物」とは、そのように飲み込むことで体内に取り入れられる組成物であることは明らかである。そして、特許発明1には、「嚥下」されるまでに組成物が口腔内に一定時間とどまることを特定する記載は何ら存在しない。
また、これらのことと符号して、特許明細書中の【0035】においても、特許発明に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味について、次のように記載されている。(下線は当審による。以下同様。)
「 【0035】
本発明に包含される上記抗P.g経口組成物(及び含有されるラクトフェリン)は、口腔内に存在するP.gに対して直接作用させることで効果を奏するのではなく、嚥下する(つまり、飲み込む)ことにより、間接的にP.gを抑制する効果を奏するものである。従って、当該抗P.g経口組成物は、好ましくは嚥下組成物であるということができる。ここでの嚥下組成物は、経口組成物であり、且つ飲み込むことを目的に用いられる組成物という意味合いである。つまり、使用後に吐き出すことを目的としている組成物や、最終的には飲み込むとしても口腔内で長時間保持して口腔内に適用することを目的とする組成物等は、ここでの嚥下組成物には該当しない。例えば、口腔用ケア組成物(歯磨組成物、マウスウォッシュ、口臭ケア組成物等)は飲み込むことを目的としておらず、ここでいう嚥下組成物ではない。また、ガムや噛みタバコ等、使用後に吐き出すことを前提としたものも、ここでいう嚥下組成物ではない。また、トローチやキャンディー(飴)等、口腔内で長時間保持して嗜好するものも、ここでいう嚥下組成物ではない。通常の食品組成物及び服用するための医薬品組成物が好ましい嚥下組成物として例示できる。 」

以上の点を踏まえると、特許発明1に係る「嚥下」組成物とは、有効成分であるラクトフェリン(LF)を口腔内で当該口腔内に存在するP.gに対し直接作用させてその抑制及び/又は除去をもたらすように用いられるものではなく、同じ経口投与ではあっても文字通り「嚥下」され(「飲み込」まれ(若しくは、飲み下され))てその後に間接的に口腔内のP.gに作用するものである、と把握することができる。
( 後述する特許発明2?4に係る「嚥下」組成物についても同様である。)

(イ)(相違点1について)
a.他方、甲1発明に係る錠菓は、経口投与されるものであるとはいえ、P.gのヘモグロビン受容体によるヘモグロビンからの鉄イオン摂取を遮断することによりP.gに対し直接的な抗菌活性を示すことが知られたLF(甲1-5第2段落)を、適用対象歯周炎患者の口腔内で噛まずに口の中で溶かして(甲1-3)作用させるものであって、当該LFを一定以上の濃度で口腔内に維持することにより(甲1-5第3段落)P.gに対して直接的に抗菌作用を及ぼすものである。そして、甲1には、そのような甲1発明に係る錠菓を、口の中で溶かしてLFを作用させることに代えて、嚥下して(飲み込んで(飲み下して))作用させること、及び、そうすることにより、当該嚥下された後のLFが口腔内での存在によることなく間接的に口腔内のP.gに対し抑制及び/又は除去作用をもたらしめ得ること、について、何ら具体的に記載乃至示唆されていない。
してみれば、甲1の記載からでは、甲1発明に係る錠菓を、口の中で溶かして用いることに代えて嚥下させて用いることにより、口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめることについて、当業者が容易に想到し得たということはできない。

b.また、次の(a)?(i)に述べるとおり、甲2?甲10には、甲1発明に係る錠菓を嚥下して(飲み込んで)LFを作用させること、及び、そうすることにより、当該嚥下された後のLFを以て、口腔内での直接的な作用によることなく間接的に口腔内のP.gに対し抗菌作用をもたらしめることについて、何ら具体的な動機付けとなる記載乃至示唆を見出すことはできない。

(a) 甲2には、高齢者における舌苔や歯肉縁上プラーク内のPorphyromonas gingivalis及びFusobacterium nucleatumを含む歯周病菌の数を減少させるための、ラクトフェリン(LF)及びラクトペルオキシダーゼ(LPO)を含む錠剤(LF+LPO錠剤)について記載されている(甲2-2?甲2-6)が、ここでいう錠剤は、口腔内で舐めて作用させるものであり(甲2-2、甲2-5)、この点、甲1発明に係る錠菓と同様である。また、甲2には、当該LF+LPO錠剤を舐めて作用させることに代えて嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、そうすることにより、当該嚥下された後のLFが、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについてまでは、記載も示唆もされていない。

(b) 甲3には、ラクトフェリンを8?2000μg/mlの濃度で有効成分として含有する経口投与用のバイオフィルム形成抑制剤であって、バイオフィルムが口腔内でバイオフィルムを形成するグラム陰性嫌気性桿菌であるP.gにより産生されたものである、バイオフィルム形成抑制剤について記載されている(甲3-1の請求項1,2及び4;甲3-7、甲3-8等)。
しかしながら、ここでいうバイオフィルム形成抑制剤は、「一定濃度のラクトフェリンを口腔内に保持することによって効果を発揮する」ものであって、例えばトローチ剤である場合「ラクトフェリンが口腔内に8?2000μg/mlの濃度で1時間以上残存することが好まし」いとされているものである((甲3-5[0040])。そして、実際、バイオフィルム形成抑制に係る試験(甲3-7、甲3-8)で採用されているマイクロタイタープレート・バイオフィルム・アッセイ系では、ポリ塩化ビニル製の96穴マイクロタイタープレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)のウェル内で、LF試料とP.gとを共存させて24時間(甲3-7)、若しくは、LF試料と同菌により形成されたバイオフィルムとを共存させて5時間(甲3-8)、それぞれ培養させているところ、これらの試験条件は、実際の被験者においてLF試料を口腔内で(即ち、口腔内のP.g若しくはそれにより形成された口腔内バイオフィルムの共存下で)上記各時間の間保持した場合に相当するものである。
また、甲3には、LFを腸溶性コーティング錠又は腸溶性カプセルとして製剤化することや封入リポソーム剤とし得ることの記載もみられる(甲3-5[0039])が、甲3には、そのような腸溶性コーティング錠等を実際に製造して経口投与し、そのバイオフィルム形成抑制効果が得られたことを裏付ける記載が認められるわけではなく、ましてや、甲3発明をそのような腸溶性コーティング錠等に製剤化して経口投与することにより、腸内で溶出されたLFが、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについてまでは、当業者といえども何ら具体的に想起し得たとはいえない。
しかも、そもそも甲3における「8?2000μg/ml」のLF濃度は、バイオフィルム形成抑制には有効であっても、P.gに対し直接的な抗菌作用を及ぼし得る程の濃度のものですらない(甲3-4[0032]?[0034]、甲3-9)。
そうすると、これらの甲3の記載を以ては、甲1発明のような口腔内で溶かして作用させる錠菓を口腔中で一定時間以上保持することなく嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、そうすることにより、当該嚥下された後のLFが口腔内での存在によることなく間接的に口腔内のP.gに対し抗菌作用をもたらしめることの動機付けは、当業者といえども得ることはできなかったというほかはない。

(c) 甲4には、牛乳から抽出したLFを腸溶性カプセルに充填してなる経口服用剤について記載されており、当該LF含有腸溶性カプセルが、実際の経口服用により、口腔内VSC産生の抑制や異常な舌苔の軽減化をもたらし口臭を抑制し得ることが記載されている(甲4-1、甲4-2、甲4-6?甲4-8)。
しかしながら、甲4で経口服用されているLFは、上述のとおり「腸溶性」カプセルに充填されてなるもの、即ち、腸内でカプセルから溶出されて作用することが企図されているものであって、上記カプセルを敢えて口腔中で溶かしてLFを口腔内に溶出せしめ、当該LFを直接的に口腔内で作用させることを企図したものでないことは明らかである。そして、甲4には、腸内でカプセルから溶出されたLFが、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめた、といったような、腸内LFによる抗P.g免疫賦活作用がもたらされたことを裏付ける、現実の試験結果等の具体的な記載も認められない。
そうすると、かかる甲4の記載を以ては、当業者といえども、甲1発明のような口腔中で溶かしてLFを作用させることが企図された錠菓を、甲4の腸溶性カプセルのように(口腔中で溶かすことなく)腸内でLFが作用するように服用することの動機付けを直ちに得ることができたとはいえないし、ましてや、そのように服用することで、当該腸内のLFの作用により、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについてまでは、当業者といえども容易に想起し得たとはいえない。

(d) 甲5には、P.gingivalis(P.g)やF.nucleatumといった歯周病菌が口臭に関与する揮発性硫黄化合物(VSC)である硫化水素やメチルメルカプタンを生成する能力が高いことが記載されている(甲5-1?甲5-3)。
しかしながら、甲5には、当該P.gに対し抗菌作用をもたらすためにLFを用いることは具体的に記載乃至示唆されておらず、ましてや、甲1発明に係るLF配合錠菓を嚥下させる(飲み込ませる)こと、及び、そうすることで、当該嚥下された錠菓中のLFを以て、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについてまでは、当業者といえども具体的に想起し得たとはいえない。

(e) 甲6には、非毒素産生性S.typhimurium(Ag)の胃内接種に際して経口投与LFを併用することにより、糞便及び血清中のAg特異的なIgA、IgG2b及びIgGlのレベルを顕著に増加させ、その後の毒素産生性S.typhimurium(腸管感染性)の胃内接種に対してより強い防護作用がもたらされたこと、即ち、経口投与LFによる非毒素産生性S.typhimurium免疫接種に際してのアジュバント作用が発揮されたことが記載されている(甲6-2、甲6-4)。
しかしながら、かかる甲6の記載は、上述のとおり、腸内感染性の毒素産生性S.typhimuriumに対する特異的な免疫防護作用を付与するための非毒素産生性S.typhimuriumの胃内接種において、それに対するより高められた免疫応答を誘導するアジュバントとしてLFが併用経口投与され得ることを示すものであって、甲1における歯周炎患者等の口腔内に存在するP.gを標的とすることや、当該P.gの抑制又は除去のために、例えば口腔内唾液中のsIgAを分泌促進せしめることについて、何ら記載も示唆もされていない。
また、そもそも甲6は、甲1のようなLFの口腔内での直接的抗菌作用に係るものではなく、甲1発明に係る錠菓を口の中で溶かして用いることに代えて嚥下させて用いることで、口腔内で直接的にP.gに対し抗菌作用を及ぼしめることについて、何ら動機付けとなるものではない。

(f) 甲7には、結腸癌細胞であるCo26Luが皮下移植された腫瘍担持マウスにおいて、LFを経口投与することにより、小腸粘膜においてCD4^(+)及びCD8^(+)T細胞並びにNK(アシアロGM1^(+))細胞が増加し、またIgM^(+)及びIgA^(+)B細胞並びにIL-18、IFN-γ及びカスパーゼ-1の産生が増大し、以て腸管粘膜免疫の増強をもたらされたことが記載されている(甲7-1?甲7-4)。
しかしながら、かかる甲7の記載は、上述のとおり、結腸腫瘍を担持する動物において、LFの経口投与により、小腸粘膜において、非腫瘍担持動物に比してより大きいCD4^(+)及びCD8^(+)T細胞並びにNK(アシアロGM1^(+))細胞の増加や、IgM^(+)及びIgA^(+)B細胞並びにIL-18、IFN-γ及びカスパーゼ-1の産生増がみられたことを示すものであって、甲1における歯周炎患者等の口腔内に存在するP.gを標的とすることや、当該P.gの抑制のために、例えば口腔内唾液中のsIgAの分泌促進を企図することについて、何ら具体的に記載乃至示唆するものではない。
また、そもそも甲7は、甲6と同様、甲1のようなLFの口腔内での直接的抗菌作用に係るものではなく、甲1発明に係る錠菓を口の中で溶かして用いることに代えて嚥下させて用いることで、口腔内で直接的にP.gに対し抗菌作用を及ぼしめることについて、何ら動機付けとなるものではない。

(g) 甲8には、腸管粘膜に存在するIgA産生細胞はホーミング現象によって遠隔の粘膜固有層や乳腺、唾液腺、涙腺等へも移行してIgAを産生する(甲8-2)ところ、OVAやOM等のアレルゲンとして周知の食品タンパク質がIgAとの免疫複合体として母乳のみならず唾液や涙液中にも微量存在することが見出された旨記載され(甲8-3?甲8-4)、併せて、それらの免疫複合体が上記食品タンパク質に対し常に自らの免疫系の活性化を行うよう作用しているのではないか、との示唆がなされている(甲8-5)。
しかしながら、甲8は、歯周炎患者等の口腔内に存在するP.gを抗菌の標的とすることや、LFを経口で「嚥下」させることによりその後のLFを以て、口腔内P.gに対し間接的に抗菌作用を及ぼしめることについて、何ら具体的に記載乃至示唆するものではない。

(h) 甲9には、「唾液分泌型IgAによる歯周病原菌感染予防戦略」(甲9-1)として、マクロファージから抗原提示を受けたヘルパーT細胞とIgA産生B細胞は、腸管リンパ節から胸管を経て血流中に入り実効組織である唾液腺、乳腺等にホーミングし、そこでTh2型ヘルパーT細胞の産生するIL-4,IL-5,IL-6の影響下で分泌型IgA産生形質細胞へと分化してsIgAを分泌すること(甲9-2、甲9-3)を踏まえ、歯周病の発生、進行に関わる細菌であるP.gのアルギニン特異的システインプロテアーゼ遠伝子を組み込んだDNAワクチンを作製し、これを遺伝子銃等で導入したり耳下腺に接種したりすることで効果的にP.g感染を防ぐsIgA産生の誘導が見込まれること(甲9-4、甲9-5)が記載されている。
しかしながら、甲9もまた、LFを経口で「嚥下」させることによりその後のLFを以て口腔内P.gに対し間接的に抗菌作用を及ぼしめることについて、何ら具体的に記載乃至示唆するものではない。

(i) 甲10には、生理活性蛋白質であるLFをレシチン及びステロールを含むリポソーム中に封入してなる経口摂取用組成物であって(甲10-1請求項1、8、甲10-4)、胃腸のタンパク質分解酵素による生理活性の低下が抑制され(甲10-6【0053】)またLFの腸吸収性が向上され(甲10-2【0016】)てなる組成物が記載されている。また、当該LF封入リポソームを含む経口投与用組成物が、実際に健常人被験者に経口投与されることで当該被験者における血中のIFN-α、IFN-γ、IL-4、IL-12、B細胞、T細胞、ヘルパーT細胞等の値の向上をもたらし、以て免疫増強作用を有しているといえることも、そのことを示す試験結果のデータと共に記載されている(甲10-3【0036】、甲10-6【0054】、甲10-5)。
即ち、甲10に係るLF封入リポソーム含有経口摂取用組成物は、LFの腸での吸収性を高めて免疫応答を増強せしめることを企図して製剤化されてなるものであって、甲1発明に係る錠菓のように口の中で溶かしてLFの抗菌作用を口腔内で直接的に及ぼしめることを企図するものではないから、甲10を併せみた当業者といえども、甲1発明に係る錠菓において、例えば口の中で溶かすことなくそのまま嚥下して(飲み込んで)LFを腸内まで達せしめことに代えて甲10記載の上記LF封入リポソーム含有経口摂取用組成物を用いることの動機付けを直ちに得ることができたとはいえない。
また、そもそも甲10は、歯周炎患者等の口腔内に存在するP.gを抗菌の標的とすることや、上記免疫増強作用として、LFの腸での吸収後の腸管免疫賦活化及びそれに伴う唾液内sIgA分泌を特に促進する作用をもたらしめることについて、何ら具体的に記載乃至示唆するものでもない。

c.以上のa.及びb.(a)?(i)での検討を踏まえると、甲1?甲10の記載事項のいずれか一又は二以上を併せ考慮しても、甲1発明に係る錠菓を嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、そうすることにより、当該嚥下された後のLFにより、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについてまでは、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。

(ウ)(特許発明の効果について)
a.(a) 特許明細書の【実施例】の項(【0046】?【0054】)には、概要次の(i)?(iii)の試験結果が記載されている。

(i)(【0046】?【0049】;図1)
・MLF-EX(森永乳業株式会社製、ウシ由来LFを90%以上含む食品用原料)を大豆レシチンで構成されるリポソーム中に封入せしめた懸濁液にデキストリンを加えて乾燥粉末化し、さらに他成分を加えて打錠してなるLF内包リポソーム含有錠剤(1錠300mgあたりLF45mg含有)を製造した。
・当該LF内包リポソーム含有錠剤を、被験者(【0048】)に対し1日6錠ずつ4週間被験者に摂取させた群(LLF群)において、唾液中のsIgA(分泌型免疫グロブリンA)濃度およびsIgA分泌速度は、0週と比較して2週および4週に増加し、また、唾液sIgA分泌速度、唾液sIgA濃度及びsIgA分泌速度のΔ4週(0週目から4週目までの変化量)は、プラセボ群(LFをデキストリンに置き換えたプラセボ錠剤を同様に投与した群)に比して、有意又は有意傾向を以て増加した(図1)。
(ii)(【0050】?【0052】;図2)
・上記LF内包リポソーム含有錠剤を、成人女性(平均年齢58.7歳)(【0050】。なお、【0040】には、特に30歳以上のヒトにおける歯周病の割合は非常に高いことが記載されている)に対し、1日6錠ずつ3ヶ月間摂取させたところ、それら被験者の摂取直前及び摂取3ヶ月後の各採血試料中の抗P.g血漿抗体価(IgG抗体価)は、平均値及び中央値共にLF摂取前より摂取後の方が低下していた(図2)。
・(i)の唾液中へのIgA分泌促進に係る試験結果に加え、このP.gに対する血漿抗体価の低下に係る試験結果からも、LFを摂取することでP.gの活動を抑制し及び/又は除去できることが分かった。
(iii)(【0053】?【0054】;図3,図4)
・賦形剤の組成を変えた以外は(i)と同様に製造したLF内包リポソーム含有錠剤(1錠300mgあたりLF45mg含有)を、歯周病罹患者(42?59歳、いずれも歯周ポケット≧3mmの部位を5箇所以上有する者)(【0053】)を被験者として1日4錠ずつ4週間摂取させた後、アンケートを取ったところ、歯茎からの出血及び歯茎の膨張(はれ)のいずれについても、LFを摂取することで改善されることが分かり(図3)、この点からも、LF摂取によりP.gの活動を抑制し及び/又は除去できることが裏付けられた。
・また、被験者から試験開始時及び4週間目の歯肉溝滲出液(GCF)を採取してIL-6(炎症性サイトカインであって、P.gの存在により強く誘導されることが知られている)の濃度を測定し比較したところ、平均値、中央値共にLFを摂取することで低下する傾向があることが分かり(図4)、このことからも、LFを摂取することでP.gの活動を抑制し及び/又は除去できることが裏付けられた。

(b) なお、ここで、(a)の【実施例】の項中(【0046】?【0054】)には、上記(a)の(i)?(iii)中の各被験者によるLF内包リポソーム含有錠剤の「摂取」が「嚥下」によること(口腔中に保持せずに飲み込む(飲み下す)こと)の特段の記載はないが、次の二点:
・(b1) 当該【実施例】の項中には、上の(i)?(iii)の試験において、錠剤を「口腔内に存在するP.gに対して直接作用させ」(【0035】)た旨、及び/又は、「口腔内で長時間保持して口腔内に適用」(【0035】)した旨の、特段の記載はないこと;
・(b2) 特許明細書の【0004】?【0007】では、先行技術文献である「特許文献1」として 特開2013-75927号公報(甲3の国際出願に基づく日本国特許庁を指定官庁とする特許出願である特願2010-509607号 の分割出願:特願2013-17557号 の公開公報。[4-1](3)の「(※当審注)」欄参照)が挙げられ、当該「特許文献1」に記載されている「バイオフィルム形成抑制剤」は、甲3と同様の、「一定濃度のラクトフェリンを口腔内に保持することによって効果を発揮する」ものであって、例えばトローチ剤である場合「ラクトフェリンが口腔内に8?2000μg/mlの濃度で1時間以上残存することが好まし」いとされている(甲3では甲3-5[0040]。要すれば上の(イ)b.(b)も併せて参照のこと)ところ、これは特許明細書の【0035】にいう「口腔内に存在するP.gに対して直接作用させ」る場合に相当するが、特許明細書中では、そのような「特許文献1」の内容を踏まえた上で、
「 【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特許文献1のようにラクトフェリンを直接P.gに作用させるのではなく、ラクトフェリンを経口摂取することによって、P.gを抑制できることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。 」
とされていること;
を併せ踏まえると、上記【0007】の「特許文献1のようにラクトフェリンを直接P.gに作用させるのではなく、ラクトフェリンを経口摂取すること」における「経口摂取」に相当する作用様式と介される、【実施例】中の上の(i)?(iii)の試験における各被験者によるLF内包リポソーム含有錠剤の「摂取」は、甲1、甲2や上記「特許文献1」(又は甲3)等におけるような、LFを一定濃度以上の条件下で口腔内に保持することによってLFを口腔内で直接P.gに作用させたのではなく、当該錠剤を特許発明のように「嚥下」して(飲み込んで(若しくは飲み下して))作用させたものとみるのが自然である。

b. 即ち、特許明細書の【実施例】には、上記相違点1に係る事項を併せ具備してなる特許発明に係る「嚥下」組成物が、次の(b1)及び(b2):
(b1) 唾液中のsIgA濃度及びその分泌速度を促進すると共に、血中の抗P.g抗体価(IgG抗体価)は減少せしめること;
(b2) (b1)の唾液sIgAの分泌促進及び血中抗P.gIgG抗体価の減少に伴って、歯周病罹患者口腔中の歯茎の状態を改善し、且つ、それら患者の歯肉溝滲出液中のIL-6(P.gの存在により強く誘導される炎症性サイトカイン)の濃度を低下させること;
を併せもたらす、という、各甲号証の記載乃至示唆からは予期し得ない、口腔内P.gの抑制及び/又は除去に係る種々の優れた効果を併せ奏することが、示されているといえる。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明1は、甲1発明と上記相違点1において相違していることから、特許発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、特許発明1は、甲1発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)特許発明2について
ア. (1)ア.で述べたことを踏まえつつ、特許発明2と甲1発明とを対比するに、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、組成物 」
の点で一致するが、(1)ア.で挙げた次の点1):
1) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明2が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲1発明は適用対象者において「噛まずに口の中で溶かして」作用させるものである点
(上述の相違点1)に加え、次の点2):
2) 「組成物」の用途に関し、特許発明2が「唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用」のものであるのに対し、甲1発明は「歯周炎患者における歯肉縁下プラーク内のPorphyromonas gingivalis数を減少させるため」のものである点
(以下、単に「相違点2」ということがある)において、相違する。

イ.以下、上の相違点1、2について検討する。

(ア)(特許発明2に係る「嚥下」組成物について)
特許発明2に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、(1)イ.(ア)で特許発明1に係る「嚥下」組成物について述べたのと同様である。

(イ)(相違点1について)
他方、(1)イ.(イ)a.?b.で述べたとおり、甲1発明に係るLF含有錠菓は、歯周炎患者の口腔内で噛まずに口の中で溶かして(甲1-3)LFを作用させるものであって、当該LFを一定以上の濃度で口腔内に維持することにより(甲1-5)P.gに対して直接的に抗菌作用を及ぼすものであるところ、甲1?甲10の記載事項を併せ考慮しても、甲1発明に係る錠菓を嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、そうすることにより、当該嚥下された後のLFにより、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについてまでは、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。

(ウ)(相違点2について)
上述のとおり、甲1の記載から、甲1発明に係る錠菓が、口の中で溶かしてLFを口腔内でP.gに対し直接作用させて抗菌作用を及ぼしめることを企図するものであることが把握できるが、そのような甲1の記載からでは、LFが有効量腸内に達して腸管粘膜層におけるIgA産生細胞の増大、及びそのホーミング現象による唾液腺での口腔内sIgA分泌促進に寄与すること、及び、そのことによって口腔内のP.gに対し抗菌作用を(間接的に)有意にもたらすことについて、当業者といえども何ら具体的に想起し得るものではない。口腔内のP.g等の歯周病菌を標的としていない甲6、甲7の記載事項や、LFの使用について何ら具体的に示唆されてもいない甲8、甲9の記載事項、若しくは、その他の甲2?甲5、甲10の記載事項を併せ踏まえても同様である。

(エ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明2は、上記相違点1及び2に係る事項を併せ具備することにより、(1)イ.(ウ)で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明2は、甲1発明と上記相違点1及び2において相違していることから、甲1に記載された発明ではなく、また、特許発明2は、甲1発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)特許発明3,4について
特許発明3、4は、いずれも特許発明1又は特許発明2を直接又は間接的に引用してなる従属発明である。
そうすると、これらの特許発明3、4についてはいずれも、特許発明1、2に係る上記相違点1、2以外の相違点の有無、並びにその容易想到性等について検討するまでもなく、特許発明1について(1)に、また、特許発明2について(2)で述べたのと同様の理由により、甲1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲1発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)小括
よって、申立理由1、2のうち、甲1を主引例とする新規性否定、進歩性否定に係る申立理由は、いずれも理由がない。

2.甲2を主引例とする新規性及び進歩性の判断

2.1.甲2に記載された発明
[4-1](2)の甲2-2?甲2-6によれば、甲2には、次の発明:
「 ラクトフェリン(LF)及びラクトペルオキシダーゼ(LPO)を含むLF+LPO錠剤であって、舐めて作用させることにより、高齢者の舌苔や歯肉縁上プラーク内のPorphyromonas gingivalis及びFusobacterium nucleatumを含む歯周病菌の数を減少させるための、LF+LPO錠剤 」
(以下、単に「甲2発明」ということがある)が、記載されているものと認められる。

2.2.特許発明との対比・判断

(1)特許発明1について
ア.特許発明1と甲2発明とを対比するに、
・甲2発明に係る錠剤は、LF及びそれ以外のLPOやその他の成分を含む組成物を錠剤形態としたものであること(甲2-4);
・甲2発明の「高齢者の舌苔や歯肉縁上プラーク内のPorphyromonas gingivalis・・・を含む歯周病菌の数を減少させるための」が、特許発明1における「ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための」に相当すること;
を踏まえると、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための組成物 」
の点で一致するが、次の点3):
3) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明1が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲2発明は適用対象者(高齢者)において「舐めて」作用させるものである点
(以下、単に「相違点3」ということがある)において、相違する。

イ.以下、上記相違点3について検討する。

(ア)(特許発明1に係る「嚥下」組成物について)
特許発明1に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、1.2.(1)イ.(ア)で述べたとおりである。

(イ)(相違点3について)
a.他方、甲2発明に係るLF+LPO錠剤は、口腔中で「舐め」ることにより当該錠剤中のLF(及びLPO)を口腔中で溶出させて作用させることを企図するものと解される。そして、当該LFのP.gに対する抗菌作用が、P.gのヘモグロビン受容体によるヘモグロビンからの鉄イオン摂取を遮断することによる、P.gに対する直接的な抗菌活性に基づくものであることが、参照文献21(甲2-8)を引用しつつ示唆されている(甲2-7。なお、この「参照文献21」は、甲1の参照文献「9)」と同一文献である。要すれば[4-1](2)の「(※当審注)」欄参照))。
そうすると、甲2に記載された、甲2発明に係るLF+LPO錠剤中のLFは、甲1発明に係るLF配合錠菓中のLFと同様に、P.gに対し直接的な抗菌活性を示すことが知られたLFを適用対象者(高齢者)の口腔内で噛まずに(「舐めて」)溶かし、当該口腔内のP.gに対して上記の直接的な抗菌作用を及ぼすように適用されると解されるものである。

そして、甲2には、そのような甲2発明に係る錠剤を、口の中で舐めて溶かして作用させることに代えて、嚥下して(飲み込んで(飲み下して))作用させること、及び、当該嚥下された後の錠剤中のLFにより、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについて、何ら具体的に記載乃至示唆されていない。
してみれば、甲2の記載からでは、甲2発明に係る錠剤を、「舐めて」(即ち、口の中で噛まずに溶かして)用いることに代えて嚥下させて用いること、及び、そうすることにより口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめることについて、当業者が容易に想到し得たということはできない。

b.また、1.2.(1)イ.(イ)a.?b.や同(2)イ.(イ)での相違点1に係る検討結果と同様に、甲1?甲10の記載事項のいずれか一又は二以上を併せ考慮しても、甲2発明に係る錠剤を嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、当該嚥下された後の錠剤中のLFにより、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについて、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。

(ウ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明1は、上記相違点3に係る事項を併せ具備することにより、1.2.(1)イ.(ウ)で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明1は、上記相違点3において甲2発明と相違していることから、甲2に記載された発明ではなく、また、特許発明1は、甲2発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)特許発明2について
ア. (1)ア.で述べたことを踏まえつつ、特許発明2と甲2発明とを対比するに、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、組成物 」
の点で一致するが、(1)ア.で挙げた次の点3):
3) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明2が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲2発明は適用対象者(高齢者)において「舐めて」作用させるものである点
(上述の相違点3)に加え、次の4):
4) 「組成物」の用途に関し、特許発明2が「唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用」のものであるのに対し、甲2発明は「舌苔や歯肉縁上プラーク内のPorphyromonas gingivalis・・・を含む歯周病菌の数を減少させるための」ものである点
(以下、単に「相違点4」ということがある)において、相違する。

イ.以下、上の相違点3、4について検討する。

(ア)(特許発明2に係る「嚥下」組成物について)
特許発明2に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、(1)イ.(ア)で特許発明1に係る「嚥下」組成物について述べたのと同様である。

(イ)(相違点3について)
他方、(1)イ.(イ)a.?b.で述べたとおり、甲2発明に係るLF+LPO錠剤は、被験者である高齢者の口腔内で舐めて(即ち、噛まずに)口の中で溶かしてLFを作用させるものであり、当該LFを一定以上の濃度で口腔内に維持することによりP.gに対して直接的に抗菌作用を及ぼすことを企図したものである(甲2-7)ところ、甲1?甲10の記載事項を併せ考慮しても、甲2発明に係る錠剤を嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、そうすることにより、当該嚥下された後のLFにより、口腔内での直接的作用によることなく間接的に口腔内のP.gに対し抗菌作用をもたらしめること、について、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。

(ウ)(相違点4について)
上述のとおり、甲2の記載から、甲2発明に係る錠剤が、「舐め」ることにより口の中で溶かしてLFを口腔内でP.gに対し直接作用させて抗菌作用を及ぼしめることを企図するものであることが把握できるが、そのような甲2の記載からでは、LFが有効量腸内に達して腸管粘膜層におけるIgA産生細胞の増大、及びそのホーミング現象による唾液腺での口腔内sIgA分泌促進に寄与すること、並びに、そのことによっても口腔内のP.gに対し抗菌作用が(間接的に)有意にもたらされ得ることについて、当業者といえども何ら具体的に想起し得るものではない。口腔内のP.g等の歯周病菌を標的としていない甲6、甲7の記載事項や、LFの使用について何ら具体的に示唆されてもいない甲8、甲9の記載事項、若しくは、その他の甲1、甲3?甲5、甲10の記載事項を併せ踏まえても同様である。

(エ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明2は、上記相違点3及び4に係る事項を併せ具備することにより、(1)イ.(ウ)で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明2は、甲2発明と上記相違点3及び4において相違していることから、甲2に記載された発明ではなく、また、特許発明2は、甲2発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)特許発明3,4について
特許発明3、4は、いずれも特許発明1又は特許発明2を直接又は間接的に引用してなる従属発明である。
そうすると、これらの特許発明3、4についてはいずれも、特許発明1、2に係る上記相違点3、4以外の相違点の有無、並びにその容易想到性等について検討するまでもなく、特許発明1について(1)に、また、特許発明2について(2)で述べたのと同様の理由により、甲2に記載された発明であるとはいえないし、また、甲2発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)小括
よって、申立理由1、2のうち、甲2を主引例とする新規性否定、進歩性否定に係る申立理由は、いずれも理由がない。

3.甲3を主引例とする新規性及び進歩性の判断

3.1.甲3に記載された発明
甲3-1の請求項1の発明に係るバイオフィルム形成抑制剤に関し、同請求項4中の「ポルフィロモナス・ジンジバリス」が「口腔内でバイオフィルムを形成するグラム陰性嫌気性桿菌」(甲3-3)であること、並びに、当該剤が好ましくは経口投与に適するよう製剤化されてなるものであること(甲3-5)を踏まえると、甲3-1の請求項1、2及び4によれば、甲3には、次の発明:
「 ラクトフェリンを8?2000μg/mlの濃度で有効成分として含有する、経口投与用のバイオフィルム形成抑制剤であって、バイオフィルムが口腔内でポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)により形成されるものである、バイオフィルム形成抑制剤 」
(以下、単に「甲3発明」ということがある)が記載されているものと認められる。

3.2.特許発明との対比・判断

(1)特許発明1について
ア.特許発明1と甲3発明とを対比するに、
・甲3発明に係る剤は、好適にはLF及びそれ以外の成分を含む組成物を製剤化して用いられるものであること(甲3-5、甲3-6);
を踏まえると、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、経口投与用の組成物 」
の点で一致するが、次の点5)、6):
5) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明1が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲3発明ではそのような限定はない点
6) 「組成物」の用途に関し、特許発明1が「ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための」ものであるのに対し、甲3発明が「バイオフィルム形成抑制」のためのものであって「バイオフィルムが口腔内でポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)により形成されるものである」点
(以下、単に「相違点5」、「相違点6」ということがある)において、相違する。

イ.以下、上記相違点5、6について検討する。

(ア)(特許発明1に係る「嚥下」組成物について)
特許発明1に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、1.2.(1)イ.(ア)で述べたとおりである。

(イ)(相違点5について)
a.他方、甲3発明に係るバイオフィルム形成抑制剤は、1.2.(1)イ.(イ)b.(b)で述べたとおり、「一定濃度のラクトフェリンを口腔内に保持することによって効果を発揮する」ものである(甲3-5[0040])。
そして、そのような甲3発明に係る甲3の記載からでは、甲3発明に係る剤を口腔中で一定時間以上保持することなく嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、そうすることで、当該嚥下された後の錠剤中のLFにより、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについて、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。なお、この点、甲3におけるLFを腸溶性コーティング錠又は腸溶性カプセルとして製剤化することや封入リポソーム剤とし得ることの記載(甲3-5[0039])を考慮しても同様である(要すれば[4-1](3)の甲3の記載事項、及びそれを踏まえた1.2.(1)イ.(イ)b.(b)の説示事項を併せ参照のこと)。

b.また、1.2.(1)イ.(イ)や2.2.(1)イ.(イ)等での相違点1や相違点3に係る検討結果を踏まえると、甲1?甲10の記載事項のいずれか一又は二以上を併せ考慮しても、甲3発明に係る剤を嚥下して(飲み込んで)作用させることについて、当業者といえども容易に想到し得たということはできないし、ましてや、そのように嚥下して(飲み込んで)作用させることにより、その後のLFが口腔内での存在によることなく間接的に口腔内のP.gに対し抗菌作用をもたらしめることも、当業者にとり容易に想起し得なかったというほかはない。

(ウ)(相違点6について)
(イ)で述べたとおり、甲3の記載からでは、甲3発明に係る剤を口腔中で一定時間以上保持することなく嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、そうすることで、当該嚥下された後の錠剤中のLFにより、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについて、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。
また、そもそも甲3における「8?2000μg/ml」のLF濃度は、バイオフィルム形成抑制には有効であっても、P.gに対し直接的な抗菌作用を及ぼし得る程の濃度のものですらない(甲3-4[0032]?[0034]、甲3-9。また、要すれば1.2.(1)イ.(イ)b.(b)の説示事項を併せ参照のこと)。
そうすると、これの点からみて、甲3の記載を以ては、甲3発明に係るバイオフィルム形成抑制剤を口腔中で一定時間以上保持することなく嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、そうすることにより、当該嚥下された後のLFが口腔内での存在によることなく間接的に口腔内のP.gに対し抗菌作用をもたらしめることの動機付けは、当業者といえども到底得ることはできなかったというほかはない。甲1、甲2、甲4?甲10の記載事項を併せ考慮しても同様である。

(エ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明1は、上記相違点5及び相違点6に係る事項を併せ具備することにより、1.2.(1)イ.(ウ)等で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明1は、甲3発明と上記相違点5、6において相違していることから、甲3に記載された発明ではなく、また、特許発明1は、甲3発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)特許発明2について
ア. (1)ア.で述べたことを踏まえつつ、特許発明2と甲3発明とを対比するに、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、組成物 」
の点で一致するが、次の点7)、8):
7) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明2が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲3発明ではそのような限定はない点
8) 「組成物」の用途に関し、特許発明2が「唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用」のものであるのに対し、甲3発明が「バイオフィルム形成抑制」のためのものであって「バイオフィルムが口腔内でポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)により形成されるものである」点
(以下、順に「相違点7」、「相違点8」ということがある)において、相違する。

イ.以下、上の相違点7、8について検討する。

(ア)(特許発明2に係る「嚥下」組成物について)
特許発明2に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、(1)イ.(ア)で特許発明1に係る「嚥下」組成物について述べたのと同様である。

(イ)(相違点7について)
相違点7は特許発明1における上記相違点5と実質的に同じであることから、相違点5について(1)イ.(イ)a.?b.で述べたとおり、甲1?甲10の記載事項を併せ考慮しても、甲3発明に係る剤を嚥下して(飲み込んで)作用させること、及び、そうすることで、当該嚥下された後のLFにより、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらすことについて、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。

(ウ)(相違点8について)
上述のとおり、甲3の記載から、甲3発明に係る剤が「一定濃度のラクトフェリンを口腔内に保持することによって効果を発揮する」ものであること(甲3-5[0040])が把握できるが、そのような甲3の記載からでは、LFが有効量腸内に達して腸管粘膜層におけるIgA産生細胞の増大、及びそのホーミング現象による唾液腺での口腔内sIgA分泌促進に寄与すること、並びに、そのことによっても口腔内のP.gに対し抗菌作用が(間接的に)有意にもたらされ得ることについて、当業者といえども何ら具体的に想起し得るものではない。口腔内のP.g等の歯周病菌を標的としていない甲6、甲7の記載事項や、LFの使用について何ら具体的に示唆されてもいない甲8、甲9の記載事項、若しくは、その他の甲1、甲2、甲4、甲5、甲10の記載事項を併せ踏まえても同様である。

(エ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明2は、上記相違点7及び相違点8に係る事項を併せ具備することにより、1.2.(1)イ.(ウ)等で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明2は、甲3発明と上記相違点7及び8において相違していることから、甲3に記載された発明ではなく、また、特許発明2は、甲3発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)特許発明3,4について
特許発明3、4は、いずれも特許発明1又は特許発明2を直接又は間接的に引用してなる従属発明である。
そうすると、これらの特許発明3、4についてはいずれも、特許発明1、2に係る上記相違点7、8以外の相違点の有無、並びにその容易想到性等について検討するまでもなく、特許発明1について(1)に、また、特許発明2について(2)で述べたのと同様の理由により、甲3に記載された発明であるとはいえないし、また、甲3発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)小括
よって、申立理由1、2のうち、甲3を主引例とする新規性否定、進歩性否定に係る申立理由は、いずれも理由がない。

4.甲4を主引例とする新規性及び進歩性の判断

4.1.甲4に記載された発明
[4-1](4)の甲4-1、甲4-2、甲4-5?甲4-7によれば、甲4には、次の発明:
「 ラクトフェリンを腸溶性カプセルに充填してなる、口臭抑制用の経口服用剤 」
(以下、単に「甲4発明」ということがある)が記載されているものと認められる。

4.2.特許発明との対比・判断

(1)特許発明1について
ア.特許発明1と甲4発明とを対比するに、甲4発明に係る剤が少なくともLF及び腸溶性カプセル構成成分を含む組成物と認められるものであることを踏まえると、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、経口投与用の組成物 」
の点で一致するが、次の点9)、10):
9) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明1が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲4発明ではそのような特段の限定はない点
10) 「組成物」の用途に関し、特許発明1が「ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための」ものであるのに対し、甲4発明が「口臭抑制用」のものである点
(以下、単に「相違点9」、「相違点10」ということがある)において、相違する。

イ.以下、相違点9、10について検討する。

(ア)(特許発明1に係る「嚥下」組成物について)
特許発明1に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、1.2.(1)イ.(ア)で述べたとおりである。

(イ)(相違点9について)
甲4発明に係る経口服用剤は、LFが「腸溶性」カプセルに充填されてなるもの、即ち、嚥下された(飲み込まれた)後に腸内でカプセルからLFが溶出して作用するものと認められることから、例えば甲1?甲3のような、LFを口腔内に溶出せしめて当該LFを口腔内で作用させるものではなく、そのまま「嚥下」させて(飲み込ませて)腸内に達するように作用させるものである。
よって、甲4発明に係る経口服用剤は、上述の(ア)の「嚥下」組成物に該当するものということができるから、相違点9は、実質的な相違点ではない。

(ウ)(相違点10について)
a.甲4には、甲4発明に係る剤の抑制対象である口臭の最大原因物質が、硫化水素、メチルメルカプタン及びジメチルサルファイドの三種を代表化合物とするVSC(揮発性硫化物)であり(甲4-2、甲4-5)、それらVSCが、粘膜脱離上皮細胞、唾液中の蛋白、食物残渣に由来するシステイン、メチオニン等が口腔内の偏性嫌気性菌による代謝を受けて産生されることも併せて記載されている(甲4-5)。そして、ここでいう偏性嫌気性菌の代表の一としてP.gが挙げられることも、甲5(甲5-2?甲5-3)等の記載にみられるように、公知又は周知であったと認められる。

しかしながら、甲4には、併せて、
・口臭の病態は多岐にわたること(甲4-3、甲4-4);
や、
・口臭の原因に大きなウェイトを占めるのは舌苔の異常であるところ、当該舌苔の異常の誘因としては、「ドライマウス,シェーグレン症候群,胃腸障害,糖尿病,腎疾患,血管疾患,喫煙,飲酒,各種薬物など」が挙げられ、また、消化管の症状を改善させれば舌苔の異常の改善も出来るはずであること(甲4-8第1?第2段落);
・酸化ストレスを回避できればメラニン合成と角質化が防げるといわれており、したがって、甲4-7でみられたような舌苔の正常化は、LFによる酸化ストレス回避による若返り現象と関係しているものと思われること(甲4-8第3段落);
等も記載されていることを踏まえると、これらの甲4の記載から、少なくとも、甲4発明に係る剤の抑制対象である口臭の原因が、専ら(若しくは主として)P.g等の口腔内偏性嫌気性細菌の増加/活性化と密接に関連しているものと理解することはできない。

そうすると、甲4発明に係る剤における「口臭抑制」と、特許発明1に係る組成物における「ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去する」こととは、実質的に同等の用途であるとはいえない。
よって、特許発明1と甲4発明とは、相違点10において明確に相違する。

b.また、甲4には、甲4発明に係る剤の経口服用により、口腔内VSC(揮発性硫黄化合物)産生の抑制や異常な舌苔の軽減化をもたらし口臭を抑制し得る旨記載されている(甲4-1、甲4-2、甲4-6?甲4-7)ことと併せて、LFの服用により舌のみならず歯周組織の改善傾向も認められ、特に歯周ポケット測定時における出血部位の割合(bleeding on plobing:BOP)は顕著な低下が認められた旨記載されており、この点について、「舌苔や歯周ポケット内の細菌などのさまざまな因子がVSCに関係しているといわれているが,ラクトフェリンの抗菌作用や免疫力向上作用により口腔内環境が改善したためVSCの現象につながったものと考えられる」との考察がなされている(甲4-9)。

しかしながら、甲4には、甲4発明に係る剤の経口服用後に腸内でカプセルから溶出されたLFが、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめた、といったような、腸内LFによる抗P.g免疫賦活作用がもたらされたことを裏付ける、現実の試験結果等の具体的な記載までがなされているわけではない。
また、甲4には、上述のような歯周ポケットにおける出血等を伴うことが周知である歯周病の原因として、VSCそれ自体も挙げられることが記載されている(甲4-5第2段落)。

そうすると、これらの甲4の記載からでは、上述のLFの服用による歯周組織の改善傾向が、例えば(LFによる)何らかの消化管の症状の改善(甲4-8第2段落)や、LFの酸化ストレス回避作用に基づく舌苔の正常化(甲4-8第3段落)を介した口腔内VSCの減少(のみ)に因るのではなく、口腔内のVSC産生菌であるP.gに対する抗菌作用又は免疫力向上作用を介した口腔内VSCの減少に因るものである、とまでは、たとえ当業者といえども直ちに推測し得たとはいえない。

c.以上のa.?b.での検討を併せ踏まえれば、甲4発明に係る剤を経口服用することで、腸内で溶出されたLFにより、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめる、といったような間接的な抗P.g作用をもたらしめることまでも、甲4の記載に基づいて当業者が容易に想到し得た、とまではいえない。口腔内のP.g等の歯周病菌を標的としていない甲6、甲7の記載事項や、LFの使用について何ら具体的に示唆されてもいない甲8、甲9の記載事項、若しくは、その他の甲1?甲3、甲5、甲10の記載事項を併せ考慮しても同様である。

(エ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明1は、上記相違点10に係る事項を併せ具備することにより、1.2.(1)イ.(ウ)等で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明1は、甲4発明と上記相違点10において相違していることから、特許発明1は甲4に記載された発明ではなく、また、特許発明1は、甲4発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)特許発明2について

ア. (1)ア.で述べたことを踏まえつつ、特許発明2と甲4発明とを対比するに、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、経口投与用の組成物 」
の点で一致するが、次の点11)、12):
11) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明2が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲4発明ではそのような特段の限定はない点
12) 「組成物」の用途に関し、特許発明2が「唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用」のものであるのに対し、甲4発明が「口臭抑制用」のものである点
(以下、単に「相違点11」、「相違点12」ということがある)において、相違する。

イ.以下、相違点11、12について検討する。

(ア)(特許発明2に係る「嚥下」組成物について)
特許発明2に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、(1)イ.(ア)で特許発明1に係る「嚥下」組成物について述べたのと同様である。

(イ)(相違点11について)
相違点11は特許発明1における上記相違点9と実質的に同じであることから、相違点9について(1)イ.(イ)で述べたのと同様の理由により、相違点11は、実質的な相違点ではない。

(ウ)(相違点12について)
(1)イ.(ウ)a.?c.で相違点10について検討したとおり、甲4発明に係る剤を経口服用することで、口臭抑制のみならず、例えば腸内で溶出されるLFによる腸管免疫系の刺激作用を介した唾液中のsIgA分泌の促進作用をももたらしめることについて、甲4の記載に基づいて当業者が容易に想到し得た、とまではいえないし、ましてや、当該分泌促進されたsIgAによる口腔内のP.gに対する抗菌作用をももたらしめることについてまで、甲4の記載に基づいて当業者が容易に想到し得た、ともいえない。口腔内のP.g等の歯周病菌を標的としていない甲6、甲7の記載事項や、LFの使用について何ら具体的に示唆されてもいない甲8、甲9の記載事項、若しくは、その他の甲1?甲3、甲5、甲10の記載事項を併せ考慮しても同様である。

(エ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明2は、上記相違点12に係る事項を併せ具備することにより、1.2.(1)イ.(ウ)等で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明2は、甲4発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)特許発明3,4について
特許発明3、4は、いずれも特許発明1又は特許発明2を直接又は間接的に引用してなる従属発明である。
そうすると、これらの特許発明3、4についてはいずれも、特許発明1、2に係る上記相違点10、12以外の相違点の有無、並びにその容易想到性等について検討するまでもなく、特許発明1について(1)に、また、特許発明2について(2)で述べたのと同様の理由により、甲4発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
よって、申立理由1、2のうち、甲4を主引例とする新規性否定、進歩性否定に係る申立理由は、いずれも理由がない。

5.甲6を主引例とする新規性及び進歩性の判断

5.1.甲6に記載された発明
[4-1](6)の甲6-2、甲6-4、甲6-5によれば、非毒素産生性S.typhimurium(Ag)の経口投与による胃内免疫接種に際し、PBSに溶解したLF液剤の経口投与を併用することにより、糞便及び血清中のAg特異的なIgA、IgG2b及びIgGlのレベルを顕著に増加させ、その後の毒素産生性S.typhimurium(腸管感染性)の胃内接種に対してより強い防護作用がもたらされること(即ち、経口投与LF液剤による非毒素産生性S.typhimurium免疫接種に際してのアジュバント作用が発揮されたこと)が把握できるから、甲6には、次の発明:
「 マウスへの非毒素産生性S.typhimuriumの経口投与による胃内免疫接種において、糞便及び血清中の特異的なIgA、IgG2b及びIgGlのレベルを増加させ、毒素産生性S.typhimuriumの腸管感染に対しより強い防護作用をもたらすための、LFを有効成分とする経口投与液剤 」
(以下、単に「甲6発明」ということがある)が、記載されているものと認められる。

5.2.特許発明との対比・判断

(1)特許発明1について

ア. 特許発明1と甲6発明とを対比するに、甲6発明に係る剤がLF及びPBSを含んでおり(甲6-5)組成物と認められるものであることを踏まえると、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、経口投与用の組成物 」
の点で一致するが、次の点13)、14):
13) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明1が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲6発明ではそのような特段の限定はない点
14) 「組成物」の用途に関し、特許発明1が「ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための」ものであるのに対し、甲6発明が「マウスへの非毒素産生性S.typhimuriumの経口投与による胃内免疫接種において、糞便及び血清中の特異的なIgA、IgG2b及びIgGlのレベルを増加させ、毒素産生性S.typhimuriumの腸管感染に対しより強い防護作用をもたらすための」ものである点
(以下、単に「相違点13」、「相違点14」ということがある)において、相違する。

イ.以下、相違点13、14について検討する。

(ア)(特許発明1に係る「嚥下」組成物について)
特許発明1に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、1.2.(1)イ.(ア)で述べたとおりである。

(イ)(相違点13について)
甲6には、甲6発明に係る剤の経口投与時に、当該剤を投与対象マウスの口腔内で一定時間以上保持せしめたこと等の特段の記載はない。また、甲6には、甲6発明に係る剤に含まれるLFの作用により、非毒素産生性S.typhimurium(Ag)投与マウスの粘膜固有層における腸管免疫系が刺激されてIgA産生細胞が増大したことが記載されているところ(甲6-2、甲6-4)、これは、同剤中のLFが経口投与後に(胃腸内での過度な消化等を受けることなく)腸内(の免疫系)に達して作用し得たことを示すものである。
そうすると、甲6発明に係る剤中のLFは、例えば甲1?甲3のような、口腔中でLFを口腔内に溶出せしめて当該LFを口腔内で作用させるものではなく、そのまま「嚥下」させて(飲み込ませて)腸内に達するように作用させるものであると認められる。
よって、甲4発明に係る経口服用剤は、上述の(ア)の「嚥下」組成物に該当するものということができるから、相違点13は、実質的な相違点ではない。

(ウ)(相違点14について)
甲6には、甲6発明に係る剤の標的を口腔中のP.gとすることや、甲6発明に係る剤中のLFにより唾液中のsIgA分泌を促進せしめて当該sIgAにより口腔中のP.gに対する抗菌作用をもたらしめることについて、記載も示唆もされていない。
また、同じく口腔内のP.gを標的としていない甲7の記載事項や、LFの使用について何ら具体的に示唆されてもいない甲8、甲9の記載事項、若しくは、その他の甲1?甲5、甲10の記載事項を併せ考慮したところで、甲6発明に係る剤を、唾液中のsIgA分泌を促進せしめることで当該sIgAにより口腔中のP.gに対する抗菌作用をもたらしめるために用いることについて、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。

(エ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明1は、上記相違点14に係る事項を併せ具備することにより、1.2.(1)イ.(ウ)等で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明1は、甲6発明と上記相違点14において相違していることから、特許発明1は甲6に記載された発明ではなく、また、特許発明1は、甲6発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)特許発明2について

ア. (1)ア.で述べたことを踏まえつつ、特許発明2と甲6発明とを対比するに、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分として含む、経口投与用の組成物 」
の点で一致するが、次の点15)、16):
15) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明2が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲6発明ではそのような特段の限定はない点
16) 「組成物」の用途に関し、特許発明2が「唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用」のものであるのに対し、甲6発明が「マウスへの非毒素産生性S.typhimuriumの経口投与による胃内免疫接種において、糞便及び血清中の特異的なIgA、IgG2b及びIgGlのレベルを増加させ、毒素産生性S.typhimuriumの腸管感染に対しより強い防護作用をもたらすための」ものである点
(以下、単に「相違点15」、「相違点16」ということがある)において、相違する。

イ.以下、相違点15、16について検討する。

(ア)(特許発明2に係る「嚥下」組成物について)
特許発明2に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、(1)イ.(ア)で特許発明1に係る「嚥下」組成物について述べたのと同様である。

(イ)(相違点15について)
相違点15は特許発明1における上記相違点13と実質的に同じであることから、相違点13について(1)イ.(イ)で述べたのと同様の理由により、相違点15は、実質的な相違点ではない。

(ウ)(相違点16について)
(1)イ.(ウ)で特許発明1における相違点14について述べたとおり、甲6には、甲6発明に係る剤の標的を口腔中のP.gとすることや、甲6発明に係る剤中のLFにより唾液中のsIgA分泌を促進せしめることについて、一切記載も示唆もされていないから、かかる甲6の記載を以て、甲6発明に係る剤を口腔唾液内へのsIgA分泌を促進するために用いることについて、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。甲1?甲6、甲8?甲10の記載事項を併せ考慮しても同様である。

(エ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明2は、上記相違点16に係る事項を併せ具備することにより、1.2.(1)イ.(ウ)等で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明2は、甲6発明と上記相違点16において相違していることから、特許発明2は甲6に記載された発明ではなく、また、特許発明2は、甲6発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)特許発明3,4について
特許発明3、4は、いずれも特許発明1又は特許発明2を直接又は間接的に引用してなる従属発明である。
そうすると、これらの特許発明3、4についてはいずれも、特許発明1、2に係る上記相違点14、16以外の相違点の有無、並びにその容易想到性等について検討するまでもなく、特許発明1について(1)に、また、特許発明2について(2)で述べたのと同様の理由により、甲6に記載された発明ではなく、また、甲6発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
よって、申立理由1、2のうち、甲6を主引例とする新規性否定、進歩性否定に係る申立理由は、いずれも理由がない。

6.甲7を主引例とする新規性及び進歩性の判断

6.1.甲7に記載された発明
[4-1](7)の甲7-1?甲7-4によれば、甲7には、次の発明:
「 Co26Lu腫瘍を担持するマウスにおいて、小腸粘膜におけるCD4^(+)及びCD8^(+)T細胞並びにNK(アシアロGM1^(+))細胞を増加させ、またIgM^(+)及びIgA^(+)B細胞並びにIL-18、IFN-γ及びカスパーゼ-1の産生を増強せしめ、腸管粘膜免疫の上昇をもたらすための、LFを有効成分とする経口投与剤 」
(以下、単に「甲7発明」ということがある)が、記載されているものと認められる。

6.2.特許発明との対比・判断

(1)特許発明1について

ア. 特許発明1と甲7発明とを対比するに、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分とする、経口投与物 」
の点で一致するが、次の点17)?19):
17) 特許発明1がLFを有効成分として含む「組成物」の形態であるのに対し、甲7発明は「組成物」形態であることの特段の限定はない点
18) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明1が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲7発明ではそのような特段の限定はない点
19) 「組成物」の用途に関し、特許発明1が「ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するため」のものであるのに対し、甲7発明が「Co26Lu腫瘍を担持するマウスにおいて、小腸粘膜におけるCD4^(+)及びCD8^(+)T細胞並びにNK(アシアロGM1^(+))細胞を増加させ、またIgM^(+)及びIgA^(+)B細胞並びにIL-18、IFN-γ及びカスパーゼ-1の産生を増強せしめ、腸管粘膜免疫の上昇をもたらすため」のものである点
(以下、順に「相違点17」?「相違点19」ということがある)において、相違する。

イ.以下、相違点17?19について検討する。

(ア)(特許発明1に係る「嚥下」組成物について)
特許発明1に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、1.2.(1)イ.(ア)で述べたとおりである。

(イ)(相違点17について)
甲7発明に係るLFの経口投与に際し、LFを例えば甲6-5のPBSのような適切な溶媒若しくはその他の賦形剤等と混合して液剤等の組成物形態として投与することは、当該分野において慣用手段であるから、甲7発明におけるLFを組成物の形態として投与することは、甲7中に実質的に記載された範囲であるか、仮にそうでなくとも、当業者にとり上記慣用手段の付加により補い得る範囲の事項に過ぎない。
そうすると、相違点17は、実質的な相違点とはいえない。

(ウ)(相違点18について)
甲7には、甲7発明に係る剤の経口投与時に、当該剤を投与対象マウスの口腔内で一定時間以上保持せしめたこと等の特段の記載はない。また、甲7には、甲7発明に係る剤に含まれるLFの作用により、非毒素産生性S.typhimurium(Ag)投与マウスの粘膜固有層における腸管免疫系が刺激されてIgA産生細胞が増大したことが記載されているところ(甲7-2、甲7-4)、これは、同剤中のLFが経口投与後に(胃腸内での過度な消化等を受けることなく)腸内(の免疫系)に達して作用し得たことを示すものである。
そうすると、甲7発明に係る剤中のLFは、例えば甲1?甲3のような、口腔中でLFを口腔内に溶出せしめて当該LFを口腔内で作用させるものではなく、そのまま「嚥下」させて(飲み込ませて)腸内に達するように作用させるものであると認められる。
よって、甲7発明に係る剤は、上述の(ア)の「嚥下」組成物に該当するものということができるから、相違点18は、実質的な相違点ではない。

(エ)(相違点19について)
甲7には、甲7発明に係る剤の標的を口腔中のP.gとすることや、甲7発明に係る剤中のLFにより唾液中のsIgA分泌を促進せしめて当該sIgAにより口腔中のP.gに対する抗菌作用をもたらしめることについて、一切記載も示唆もされていない。
また、同じく口腔内のP.gを標的としていない甲6の記載事項や、LFの使用について何ら具体的に示唆されてもいない甲8、甲9の記載事項、若しくは、その他の甲1?甲5、甲10の記載事項を併せ考慮したところで、甲7発明に係る剤を、唾液中のsIgA分泌を促進せしめることを介して当該sIgAにより口腔中のP.gに対する抗菌作用をもたらしめるために用いることについて、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。

(オ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明1は、上記相違点19に係る事項を併せ具備することにより、1.2.(1)イ.(ウ)等で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明1は、甲7発明と上記相違点19において相違していることから、特許発明1は甲7に記載された発明ではなく、また、特許発明1は、甲7発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)特許発明2について

ア.特許発明2と甲7発明とを対比するに、両者は
「 ラクトフェリンを有効成分とする、経口投与物 」
の点で一致するが、次の点20)?22):
20) 特許発明2がLFを有効成分として含む「組成物」の形態であるのに対し、甲7発明は「組成物」形態であることの特段の限定はない点
21) 「組成物」の作用様式に関し、特許発明2が適用対象者において「嚥下」させて作用させるものであるのに対し、甲7発明ではそのような特段の限定はない点
22) 「組成物」の用途に関し、特許発明2が「唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用」のものであるのに対し、甲7発明が「Co26Lu腫瘍を担持するマウスにおいて、小腸粘膜におけるCD4^(+)及びCD8^(+)T細胞並びにNK(アシアロGM1^(+))細胞を増加させ、またIgM^(+)及びIgA^(+)B細胞並びにIL-18、IFN-γ及びカスパーゼ-1の産生を増強せしめ、腸管粘膜免疫の上昇をもたらすため」のものである点
(以下、順に「相違点20」?「相違点22」ということがある)において、相違する。

イ.以下、相違点20?22について検討する。

(ア)(特許発明2に係る「嚥下」組成物について)
特許発明2に係る組成物における「嚥下(組成物)」の意味については、(1)イ.(ア)で特許発明1に係る「嚥下」組成物について述べたのと同様である。

(イ)(相違点20について)
相違点20は特許発明1における上記相違点17と実質的に同じであることから、相違点17について(1)イ.(イ)で述べたのと同様の理由により、相違点20は、実質的な相違点ではない。

(ウ)(相違点21について)
相違点21は特許発明1における上記相違点18と実質的に同じであることから、相違点18について(1)イ.(ウ)で述べたのと同様の理由により、相違点21は、実質的な相違点ではない。

(エ)(相違点22について)
(1)イ.(エ)で特許発明1における相違点19について述べたとおり、甲7には、甲7発明に係る剤の標的を口腔中のP.gとすることや、甲7発明に係る剤中のLFにより唾液中のsIgA分泌を促進せしめることについて、一切記載も示唆もされていないから、かかる甲7の記載を以て、甲7発明に係る剤を口腔唾液内へのsIgA分泌を促進するために用いることについて、当業者といえども容易に想到し得たということはできない。甲1?甲6、甲8?甲10の記載事項を併せ考慮しても同様である。

(オ)(特許発明の効果について)
そして、特許発明2は、上記相違点22に係る事項を併せ具備することにより、1.2.(1)イ.(ウ)等で述べたとおりの、甲1?甲10の記載からは予期し得ない、特許明細書に記載された種々の優れた効果を奏するものである。

ウ. 以上のア.?イ.での検討のとおり、特許発明2は、甲7発明と上記相違点22において相違していることから、特許発明2は甲7に記載された発明ではなく、また、特許発明2は、甲7発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)特許発明3,4について
特許発明3、4は、いずれも特許発明1又は特許発明2を直接又は間接的に引用してなる従属発明である。
そうすると、これらの特許発明3、4についてはいずれも、特許発明1、2に係る上記相違点19、22以外の相違点の有無、並びにその容易想到性等について検討するまでもなく、特許発明1について(1)に、また、特許発明2について(2)で述べたのと同様の理由により、甲7に記載されて発明ではなく、また、甲7発明及び甲1?甲10の記載事項のいずれか1又は2以上に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
よって、申立理由1、2のうち、甲7を主引例とする新規性否定、進歩性否定に係る申立理由は、いずれも理由がない。

7.申立人の主張について
なお、申立理由1に関し、申立人は異議申立書において、主引例とする甲1?甲4、甲6、甲7について、概要次の(1)(i)?(vi)の主張をしているが、以下の(2)で述べるとおり、それらの主張はいずれも当を得たものではなく、採用できない。

(1)申立人の主張の概要

(i) 甲1に記載されているのは「錠菓」であり、出願時の技術常識に基づけば、錠菓が嚥下して摂取されるものであることは明らかであるし、甲1には甲1発明に係る錠菓を口腔内で長時間保持して口腔内に適用することを目的としたという明示的な記載もない。また、錠菓は一般的に口腔内で容易に崩壊し得ることから噛まずに口の中で溶かした後に続けて嚥下されて経口摂取されるものである。
よって、甲1における錠菓について「摂取方法は、錠菓を噛まずに口の中で溶かしてもらうように統一した。」と記載されていることのみをもって、「口腔内で長時間保持して口腔内に適用することを目的とする組成物」(特許明細書【0035】)であると認めることはできない。
仮に、LF含有組成物を例えば口腔内で溶かして摂取した場合と、口腔内に保持させずに嚥下した場合とで、摂取形態が形式的に異なるとしても、いずれもLF含有組成物を経口摂取し、最終的には嚥下されるものであるから、特許発明1と甲1発明とは実施上区別がつかず、実質的に甲1発明は特許発明1に係る嚥下組成物と同一である。

(ii) 甲2にも、LF+LPO錠剤を口腔内で長時間保持して口腔内に適用することを目的としたという明示的な記載はない。また、錠剤は一般的に口腔内で容易に崩壊し得ることから噛まずに口の中で溶かした後に続けて嚥下されて経口摂取されるものである。
よって、甲2における錠剤について「舐めて摂取してもらった」と記載されていることのみをもって、「口腔内で長時間保持して口腔内に適用することを目的とする組成物」(特許明細書【0035】)であると認めることはできない。
仮に、LF含有組成物を例えば口腔内で溶かして摂取した場合と、口腔内に保持させずに嚥下した場合とで、摂取形態が形式的に異なるとしても、いずれもLF含有組成物を経口摂取し、最終的には嚥下されるものであるから、特許発明1と甲2発明とは実施上区別がつかず、実質的に甲2発明は特許発明1に係る嚥下組成物と同一である。

(iii) 甲3には、LFを含むバイオフィルム形成抑制剤が、その殺菌作用とは異なる作用に基づき、バイオフィルムの形成を抑制する、即ち、バイオフィルムを巣とするボルフィロモナス・ジンジバリスの活動を抑制することが記載されている。また、当該バイオフィルム形成抑制剤として、糖衣錠、腸溶性コーティング状、カプセル剤(腸溶性カプセル等を含む)、顆粒剤封入リポソーム剤などが挙げられており、これらはいずれも口腔内に保持させずに嚥下されるものである。
したがって、甲3には、
(a’’)ラクトフェリンを有効成分として含む、
(b’’)ポルフィロモナス・ジンジバリスの活動を抑制することができる、
(c’’)嚥下組成物
(甲3発明)が記載されており、特許発明1は当該甲3発明と同一である。

(iv) 甲4における腸溶性カプセルは口腔内に保持させずに嚥下されるものであること等を踏まえると、甲4には
(a’’’)ラクトフェリンを有効成分として含む、
(b’’’)揮発性硫黄化合物を抑制することができる及び/又は歯周組織を含む口腔内環境を改善することができる、
(c’’’)嚥下組成物
(甲4発明)が記載されている。
甲4には、「ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための」について明示的な記載はないが、甲5に記載されるように、口臭の原因物質であるVSC(揮発性硫黄化合物)はP.gにより生成されるものであり、また歯周病とは歯周組織の悪化であるところ、特許明細書【0002】にもあるようにP.gは歯周病の病原菌の1つである。
そうすると、甲4発明に係る組成物のVSC抑制作用及び/又は歯周組織を含む口腔内環境の改善作用が生じる機序としてP.gの抑制及び/又は除去が生じている蓋然性が高い。してみれば、特許発明1は、甲4発明の医薬用途(VSCの抑制及び/又は歯周組織を含む口腔内環境の改善)をその機序(P.gの抑制及び/又は除去)で書き換えて表現したものに過ぎず、この点、実質的に同一であると言え、特許発明1は甲4発明と同一である。

(v) 甲6には、
(d)ラクトフェリンを有効成分として含む、
(e)糞便及び血清中のIgAの分泌を促進できる、
(f)経口摂取組成物
(甲6発明)が記載されている。
甲6発明においては、唾液内への免疫グロブリンAの分泌が促進されることは直接的に特定されていないが、甲8に記載されるように、IgA産生細胞が唾液腺を含む全身の粘膜に移行し、IgAを産生することは周知であるから、甲6発明において、唾液内へのIgA分泌も促進されている蓋然性が高い。したがって、特許発明2と甲6発明とは、唾液内へのIgAの分泌を促進するものである点でも一致する。
また、甲6発明は、嚥下で摂取されるものであることを直接特定していないが、被験動物において経口投与後に飲み下されて実質的に嚥下摂取されていた蓋然性が高く、甲6発明は実質的に嚥下組成物を開示しているといえる。

(vi) 甲7には、唾液内への免疫グロブリンAの分泌が促進されることは直接的に特定されていないが、甲8に記載されるように、IgA産生細胞が唾液腺を含む全身の粘膜に移行し、IgAを産生することは周知であるから、甲7発明において、唾液内へのIgA分泌も促進されている蓋然性が高い。したがって、特許発明2と甲7発明とは、唾液内へのIgAの分泌を促進するものである点でも一致する。
また、甲7発明は、嚥下で摂取されるものであることを直接特定していないが、被験動物において経口投与後に飲み下されて実質的に嚥下摂取されていた蓋然性が高く、甲7発明は実質的に嚥下組成物を開示しているといえる。

(2)申立人の主張(i)?(vi)に対する合議体の判断

ア.(i)?(iii)について
1.2.(1)イ.(ア)?(イ)、2.2.(1)イ.(ア)?(イ)及び3.2.(1)イ.(ア)?(イ)で相違点1、3及び5について詳述したとおり、
・特許発明に係る「嚥下組成物」とは、有効成分であるラクトフェリン(LF)を口腔内で当該口腔内に存在するP.gに対し直接作用させてその抑制及び/又は除去をもたらすように用いられるものではなく、同じ経口投与ではあっても文字通り「嚥下」され(飲み込まれ(若しくは、飲み下され))てその後に間接的に口腔内のP.gに作用するものである;
のに対し、
・甲1発明?甲3発明はいずれも、口腔内で保持することによりLFを口腔内に溶出せしめ、当該口腔内のLFを口腔内で直接作用せしめるものである;
ことから、かかるLFの作用様式において、両者は明確に相違している。
また、それ故に、単に両者が共に経口摂取され最終的には嚥下されるものであることを以て、両者が実質的に同一であるなどとはいえない。

イ.(iv)について
4.2.(1)イ.(ウ)で相違点10について詳述したとおり、甲4には、甲4発明の経口服用により、腸内で溶出したLFを以て、例えば腸管免疫系の刺激作用を介して唾液中のsIgA分泌を促進せしめ、当該分泌促進されたsIgAが口腔内のP.gに対し抗菌作用を及ぼしめた、といったようなことを裏付ける、現実の試験結果等の具体的な記載までがなされているわけではない。
また、甲4には、
・口臭の病態は多岐にわたること(甲4-3、甲4-4);
や、
・口臭の原因に大きなウェイトを占めるのは舌苔の異常であるところ、当該舌苔の異常の誘因としては、「ドライマウス,シェーグレン症候群,胃腸障害,糖尿病,腎疾患,血管疾患,喫煙,飲酒,各種薬物など」が挙げられ、また、消化管の症状を改善させれば舌苔の異常の改善も出来るはずであること(甲4-8第1?第2段落);
・酸化ストレスを回避できればメラニン合成と角質化が防げるといわれており、したがって、甲4-7でみられたような舌苔の正常化は、LFによる酸化ストレス回避による若返り現象と関係しているものと思われること(甲4-8第3段落);
等が記載されていることを踏まえると、これらの甲4の記載から、少なくとも、甲4発明に係る剤の抑制対象である口臭の原因が、専ら(若しくは主として)P.g等の口腔内偏性嫌気性細菌の増加/活性化と密接に関連しているものと理解することはできない。
そうすると、甲4発明に係る「口臭抑制」のための剤と、特許発明1に係る組成物における「ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去する」ための組成物とは、その用途において同等とはいえない。

ウ.(v)、(vi)について
5.2.(2)イ.(ウ)及び6.2.(2)イ.(エ)で相違点14及び19について述べたとおり、甲6にも甲7にも、甲6発明又は甲7発明の標的を口腔中のP.gとすることや、甲6発明に係る剤中のLFにより唾液中のsIgA分泌を促進せしめることについて、一切記載も示唆もされていないから、それら甲6発明、甲7発明のいずれも、その用途において特許発明1、2のいずれとも明確に相違している。

8.1.?7.のまとめ
以上1.?7.で述べたとおりであるから、申立人のいう申立理由1(【第3】1(1)?(4))、申立理由2((【第3】2(1)?(4))のいずれも、理由がない。


[4-3]申立理由3について

(1) [4-2]1.2.(1)イ.(ア)で述べたとおり、「嚥下」とは、一般的に、飲み込むことにより体内に取り入れることを意味するから、本件の請求項1及び2に記載の「嚥下組成物」とはその記載から、そのように飲み込むことで体内に取り入れられる組成物であることは明らかである。この一方、本件の請求項1?4のいずれにも、組成物が嚥下されるまでに、口腔内に一定時間とどまることを特定する記載は何ら存在しない。そして、特許明細書の【0035】の記載からみても、特許発明に係る「嚥下」組成物とは、有効成分であるラクトフェリン(LF)を口腔内で当該口腔内に存在するP.gに対し直接作用させてその抑制及び/又は除去をもたらすように用いられるものではなく、同じ経口投与ではあっても文字通り「嚥下」され(飲み込まれ(若しくは、飲み下され))てその後に間接的に口腔内のP.gに作用するものであり、口腔内に一定時間保持されることを要さないものである。

即ち、経口投与されたLFが口腔内でP.gに直接作用する組成物は、特許発明に係る「嚥下」組成物に該当しないものと理解できるのであるから、同じ「経口」投与であるとはいえ、例えば甲1発明?甲3発明のような、口腔内での保持によりLFが当該口腔内で直接(抗P.g作用又はP.gによるバイオフィルム形成の抑制といった)作用をもたらしめるものは、その作用様式において特許発明に係る「嚥下」組成物と異なるものであることは、特許明細書の【0035】等の記載を踏まえた当業者であれば、明確に区別して把握することができる。

(2) よって、「嚥下組成物」とは、飲み込むことで体内に取り入れられる組成物であることはその記載から明らかであるし、そして、特許明細書の記載を踏まえた当業者であれば、本件の請求項1?4の「嚥下組成物」としていかなるものがこれに該当し、また、いかなるものがこれに該当しないのかを、理解することができるといえるから、「嚥下組成物」の語が明確でない、とはいえない。
そうすると、本件の請求項1?4における記載によって特定される特許発明1?4が不明確である、とはいえない。

(3) なお、申立人は、特許異議申立書において、特許発明では経口摂取してから「嚥下」するまでの口腔内での保持時間の長さが特定されていないことを指摘しているが、そのことは上の(1)?(2)の判断事項を何ら妨げるものではない。

(4) よって、申立理由3は、理由がない。


[第5]むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-11-08 
出願番号 特願2016-182196(P2016-182196)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡邉 潤也  
特許庁審判長 森井 隆信
特許庁審判官 冨永 みどり
大久保 元浩
登録日 2020-12-07 
登録番号 特許第6804911号(P6804911)
権利者 サンスター株式会社
発明の名称 抗ポルフィロモナス・ジンジバリス組成物  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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