• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  F16C
審判 全部無効 2項進歩性  F16C
管理番号 1380175
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-01-12 
確定日 2021-09-16 
訂正明細書 true 
事件の表示 上記当事者間の特許第5892573号「2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器」の特許無効審判事件についてされた令和 2年 4月15日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和02年(行ケ)第10066号、令和 3年 1月14日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5892573号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。 特許第5892573号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 特許第5892573号の請求項2ないし3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の2を請求人の負担とし、3分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続経緯
1 一次審決までの経緯
特許第5892573号(以下、「本件特許」という。)は、平成24年5月30日に出願された特願2012−123093号の一部を平成26年11月14日に新たな特許出願として特願2014−232176号とし、さらにその一部を、平成27年5月14日に新たな特許出願としたものであって、平成28年3月4日に請求項1ないし3に係る発明について特許権の設定登録がされたもので、その後、平成30年1月12日に請求人四方工業株式会社から特許無効審判が請求されたものである。以下、特許無効審判が請求された以降の一次審決までの経緯を整理して示す。
平成30年1月12日付け 審判請求書及び甲第1号証ないし甲第4号証
平成30年2月13日付け 手続補正書(方式)(請求人)
平成30年4月23日付け 答弁書及び訂正請求書
平成30年5月10日付け 手続補正書(被請求人)
平成30年6月13日付け 審理事項通知書
平成30年7月9日付け 口頭審理陳述要領書及び甲第5号証ないし
甲第8号証(請求人)
平成30年7月23日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成30年8月6日 口頭審理
平成30年10月23日付け 審決の予告
平成30年12月27日付け 訂正請求書
平成31年4月3日付け 訂正拒絶理由通知書及び職権審理結果通知書
平成31年4月26日付け 意見書及び甲第9号証ないし甲第13号証
(請求人)
令和1年5月8日付け 意見書及び手続補正書(被請求人)
令和1年6月3日付け 手続補正書(方式)(被請求人)
令和1年7月19日付け 手続補正書(方式)(被請求人)
令和1年9月13日付け 審判事件弁駁書並びに甲第14及び15号証
(請求人)
令和1年10月23日付け 審決の予告
令和1年12月27日付け 訂正請求書
令和2年2月19日付け 審判事件弁駁書及び甲第16号証(請求人)
令和2年4月15日付け 一次審決

2 一次審決
上記一次審決の結論は、「特許第5892573号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。特許第5892573号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」というものであった。

3 審決取消訴訟
被請求人は、一次審決の取消しを求めて、知的財産高等裁判所に訴えを提起し、知的財産高等裁判所は、上記訴えを、令和2年(行ケ)第10066号事件として審理し、令和3年1月14日に「1 特許庁が無効2018−800003号事件について令和2年4月15日にした審決のうち、特許第5892573号の請求項2及び3に係る部分を取り消す。2 原告のその余の請求を棄却する。」との判決を言渡し、該判決はその後確定した(以下、この判決を単に「判決」という。)。

4 差戻し後の審理について
上記経緯より、被請求人が令和1年12月27日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3のとおり訂正することを求めた(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求の内容を「本件訂正」という。)ものに対し、一次審決において本件訂正を認めた部分については、判決において判断に相違はない。
また、一次審決のうち、請求項1に係る発明についての特許を無効とする部分について、被請求人による請求は判決において棄却されているものであるが、請求項1ないし3は、一群の請求項であるから、当審は、令和3年4月21日付けの審理再開通知書において、請求項1に係る発明についての一次審決を特許法第181条第2項の規定により取り消している。
よって、差戻し後の本件無効審判においてさらに審理すべき請求項は、請求項1ないし3である。
なお、被請求人は、令和3年2月8日に訂正請求申立書を提出しているが、判決は、一次審決のうち、特許第5892573号の請求項2及び3に係る部分を取り消すものであるから、該判決により取り消された一次審決は、特許法第134条の3に規定する特許無効審判の審決(審判の請求に理由がないとするものに限る。)に該当しないことが明らかであり、該申立書に対して、合議体は令和3年4月21日付けで却下理由を通知し、令和3年6月11日付け手続却下の決定をした。

第2 訂正の適否
被請求人は、特許法第164条の2第2項の規定により審判長が指定した期間内である、令和2年1月6日に訂正請求書(令和1年12月27日付け)を提出し、本件訂正請求をした。
以下、本件訂正請求について検討する。
なお、平成30年12月27日付け訂正請求書による訂正の請求によって、平成30年4月23日付け訂正請求書による訂正の請求は、取り下げられたものとみなされ、本件訂正請求によって、平成30年12月27日付け訂正請求書による訂正の請求は、取り下げられたものとみなされる(特許法第134条の2第6項)。

1 訂正の内容
被請求人の本件訂正請求の趣旨は、特許第5892573号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、本件訂正請求の内容(本件訂正)は、以下のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を以下のように訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。
「【請求項1】
所定間隔を空けて設けられ、第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を、前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で一体に形成したロック部材とで構成し、さらに前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転時にフリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段と、前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に吸込み機能を発揮させる吸い込み手段と、前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転角度を規制するストッパー手段を設け、前記フリクショントルク発生手段を、前記第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側と前記選択的回転規制手段の一方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有するフリクションプレートと、前記フリクションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーと、前記フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し軸方向へスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーを有するものとし、前記吸い込み手段を前記選択的回転規制手段の他方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受部と第2軸受部を有する連結部材と、この連結部材に隣接して設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトに回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に取り付けられた第1カムフォロワーと第2カムフォロワーとを有するものとし、この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接して設けた前記フリクショントルク発生手段と前記吸い込み手段の両方に作用する弾性手段とを設けたことを特徴とする、2軸ヒンジ。」

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を以下のように訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。
「【請求項2】
所定間隔を空けて設けられ、第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと、第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を、所定間隔を開けて設けられ、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成る連結部材及びスライドガイド部材と、前記連結部材及び前記スライドガイド部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記連結部材と前記スライドガイド部材に対しスライド可能に係合されると共に、前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム部材の間に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で一体に形成したロック部材、とで構成することにより、前記第1の筐体と前記第2の筐体が共に閉成状態にある時には前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのどちらかの回転が許容されて前記第1の筐体と前記第2の筐体の相対的な開閉操作を行い、前記第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトのいずれか一方が回転が許容された際には、他方の回転を規制するように構成することにより、前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上下方向に開閉操作できるように成したことを特徴とする、2軸ヒンジ。」

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「フリクショントルク発生手段」及び「吸い込み手段」について、それぞれ限定構成を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1によって「フリクショントルク発生手段」及び「吸い込み手段」について付加された構成は、願書に添付した明細書の段落【0026】、【0030】、【0035】、及び【図7】に記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるということができる。
また、訂正事項1によって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、当該訂正事項1により、訂正前の特許請求の範囲に含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「選択的回転規制手段」について限定構成を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項2によって「選択的回転規制手段」について付加された構成は、願書に添付した明細書の段落【0023】〜【0025】及び【図7】に記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるということができる。
また、訂正事項2によって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、当該訂正事項2により、訂正前の特許請求の範囲に含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項3は請求項1及び2を引用するものであるから、請求項3は、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1及び2に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜3〕について請求されたものである。

(4)小括
上記(1)〜(3)で説示のとおり、本件訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号を目的とするものに該当し、同条第3項の規定に適合するとともに、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜3〕について訂正を認める。

第3 本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明について
上記第2のとおり、本件訂正請求が認められるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、次のとおりのものである。

[本件発明1]
「【請求項1】
所定間隔を空けて設けられ、第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を、前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で一体に形成したロック部材とで構成し、さらに前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転時にフリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段と、前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に吸込み機能を発揮させる吸い込み手段と、前記第1ヒンジシャフト及び 又は前記第2ヒンジシャフトの回転角度を規制するストッパー手段を設け、前記フリクショントルク発生手段を、前記第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側と前記選択的回転規制手段の一方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有するフリクションプレートと、前記フリクションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーと、前記フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し軸方向へスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーを有するものとし、前記吸い込み手段を前記選択的回転規制手段の他方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受部と第2軸受部を有する連結部材と、この連結部材に隣接して設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトに回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に取り付けられた第1カムフォロワーと第2カムフォロワーとを有するものとし、この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接して設けた前記フリクショントルク発生手段と前記吸い込み手段の両方に作用する弾性手段とを設けたことを特徴とする、2軸ヒンジ。」
[本件発明2]
「【請求項2】
所定間隔を空けて設けられ、第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと、第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を、所定間隔を開けて設けられ、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成る連結部材及びスライドガイド部材と、前記連結部材及び前記スライドガイド部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記連結部材と前記スライドガイド部材に対しスライド可能に係合されると共に、前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム部材の間に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で一体に形成したロック部材、とで構成することにより、前記第1の筐体と前記第2の筐体が共に閉成状態にある時には前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのどちらかの回転が許容されて前記第1の筐体と前記第2の筐体の相対的な開閉操作を行い、前記第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトのいずれか一方が回転が許容された際には、他方の回転を規制するように構成することにより、前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上下方向に開閉操作できるように成したことを特徴とする、2軸ヒンジ。」
[本件発明3]
「【請求項3】
前記請求項1〜2に各記載の2軸ヒンジを用いたことを特徴とする、端末機器。」

第4 当事者の主張及び提出した証拠の概要
1 請求人
請求人は、「特許第5892573号の請求項1〜3に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、審判請求書とともに甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、また、平成30年7月9日付け口頭審理陳述要領書において、甲第5号証ないし甲第8号証を提出するとともに、審判請求書及び口頭審理陳述要領書において、以下の無効理由を主張している。
なお、審判請求書で主張していた「無効理由2(2)」を平成30年7月9日付け口頭審理陳述要領書で、下記「無効理由2−2」とする補正は、特許法第131条の2第2項の規定に基づき、平成30年8月6日の口頭審理において行われた補正許否の決定により、許可すると決定した(第1回口頭審理調書、参照。)。
また、平成31年4月26日付け意見書とともに、甲第9号証ないし甲第13号証が提出され、さらに、令和1年9月13日付け審判事件弁駁書とともに、甲第14号証及び甲第15号証が提出され、加えて、令和2年2月19日付け審判事件弁駁書とともに、甲第16号証が提出されている。
差戻し後の本件無効審判において、さらに審理すべき請求項1ないし3についての無効理由は、以下のとおりである。

・無効理由1−1−1:
本件発明1及び3は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当して特許を受けることができないものであり、本件発明1及び3に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
・無効理由1−1−2:
本件発明1及び3は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当して特許を受けることができないものであり、本件発明1及び3に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
・無効理由1−2:
本件発明2及び3は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当して特許を受けることができないものであり、本件発明2及び3に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
・無効理由2−1−1:
本件発明1及び3は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1及び3に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
・無効理由2−1−2:
本件発明1及び3は、甲第2号証に記載された発明、又は、甲第2号証に記載された発明と周知技術(甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された周知技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1及び3に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
・無効理由2−2:
本件発明2及び3は、甲第2号証に記載された発明、又は、甲第2号証に記載された発明と周知技術(甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証に記載された周知技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明2及び3に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

・証拠方法
甲第1号証 :中華民国実用新案公告第M428641U1号公報
甲第2号証 :中華民国実用新案公告第M430142U1号公報
甲第3号証 :特開2007−107690号公報
甲第4号証 :特開2011−89637号公報
甲第5号証 :本件特許の審査過程における拒絶理由通知書(2015年
9月8日起案)
甲第6号証 :特開2011−214674号公報
甲第7号証 :特開2012−97846号公報
甲第8号証 :特開2009−63039号公報
甲第9号証 :特開平9−41768号公報
甲第10号証:特開平11−44332号公報
甲第11号証:特開2001−107941号公報
甲第12号証:特開平10−26127号公報
甲第13号証:特開2002−333008号公報
甲第14号証:平成30年10月29日知財高裁判決(平成29年(行ケ
)第10150号審決取消請求事件判決)
甲第15号証:平成18年9月12日知財高裁判決(平成17年(行ケ)
第10632号特許取消決定取消請求事件判決)
甲第16号証:特許第4440189号公報

2 被請求人
被請求人は、「本件特許第5892573号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された発明に対する無効審判請求は成り立たず、本件特許は維持されるべきものである、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、平成30年4月23日付け答弁書及び平成30年7月23日付け口頭審理陳述要領書において、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできないと主張している。

第5 当審の判断
1 各甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに次の記載がある。
(a1)

(第4頁第2行ないし第6行)
「翻訳:【考案が属する技術分野】
本考案は2軸式ヒンジ装置に関し、上カバー及びベースを有する折畳み式電子製品内に設置され、上カバーがベースに対して回転する機能を提供し、例えばノート型パソコン、電子書籍などの折畳み式電子製品であり、本考案は特にギア比を有する2軸式ヒンジを指している。」
(a2)

(第4頁第7行ないし第19行)
「翻訳:【背景技術】
折畳み式電子製品、例えばノート型パソコン、電子書籍などは、使用の便宜を図るため、時には180度またはそれ以上の角度まで開放することが求められる。この種の折畳み式電子製品の要求について、現在すでに2軸式ヒンジの設計があり、ヒンジ中に上カバーと共に回動する第1回転軸と、ベースと共に回動する第2回転軸とを有し、かつ、180度まで開放しても、上カバーとベースに取り付けられているヒンジの端部とが当接する問題は発生しない。同時に、2つの回転軸を同期して回動させるために、2つの回転軸上にギヤセット構造が設けられる。関連する先行実用新案としては、中華民国実用新案M396575『ヒンジ構造』、M388823『2軸連動式ヒンジ』及びM326330『同期回動式ヒンジ』などを参照することができる。
既知の2軸式ヒンジでは、開放または閉合過程において、その機構の設計により、第1回転軸と第2回転軸とが同時に相対回動するが、トルク値の変化により、第1回転軸及び第2回転軸の瞬間回動量の違いにより速度緩急に落差を生じ、開放または閉合動作をスムーズに連続することができなくなるため、改善が待たれている。」
(a3)



(第6頁第18行ないし第8頁下から第4行)
「翻訳:【考案を実施するための形態】
第1図及び第2図を参照すると、本考案では、上カバー及びベースを有する折畳み式電子製品(図未表示)に設置される位置制限機能を有する2軸式ヒンジが提供されており、それは主に、第1回転軸11、第2回転軸12、第1トルク装置21、第2トルク装置22、第1固定フレーム31、第2固定フレーム32、ストッパ機構40及び位置制限構造50により構成される。
本考案の第1回転軸11は、第1軸部111及び第1接続部112を有し、第2回転軸12は、第2軸部121及び第2接続部122を有する。第1回転軸11と第2回転軸12とは軸方向上で平行に設置される。
第1トルク装置21は、第1軸部111上に設置されて回転トルクを提供し、第2トルク装置22は、第2軸部121上に設置されて回転トルクを提供する。第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、それぞれ第1軸部111及び第2軸部121上に嵌接される複数の弾性片211、221を有するとともに、それぞれ固定ネジ212、222で第1軸部111及び第2軸部121に螺合して固定される。第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、それぞれ第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223を圧迫して、上カバーに、ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を備えさせる。第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は、それぞれ支持片512の外側面に接触するとともに、その間の接触面上にそれぞれ互いに対応する凸ブロック213a、223a(第1A図参照)及び凹部512aが設けられて、自動閉合機能を達成する。この機能については関連する先行考案中の説明を参照することができる。
本考案の第1固定フレーム31は、上カバーに固定接合されるとともに、第1回転軸11の第1接続部112に固定嵌接されて共に回動する。第2固定フレーム32は、ベースに固定接合されるとともに、第2回転軸12の第2接続部122に固定嵌接されて共に回動する。
ストッパ機構40は、それぞれ第1軸部111及び第2軸部121上に固定嵌接されて共に回動する第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412を有する。第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は、一方の支持片511の外側面に位置するとともに、それぞれ第1扇形ブロック411a及び第2扇形ブロック412aを有し、第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は、それぞれ支持片511上で外に突出した第1ストッパ凸点511a及び第2ストッパ凸点511b(第1B図参照)とそれぞれある開放角度で互いに干渉して、それぞれ第1回転軸11及び第2回転軸12の回動角度を制限する。
更に、位置制限構造50は、一対の支持片511、512を有し、その間に第1位置制限カム521、第2位置制限カム522及び切換え片53が設けられる。第1位置制限カム521に第1位置制限口521aが設けられるとともに、第1軸部111上に嵌設されて共に回動し、第2位置制限カム522に第2位置制限口522aが設けられるとともに、第2軸部121上に嵌設されて共に回動する。切換え片53は揺動可能なホイール部533を有し、両側の短軸534により支持片511及び512上に枢軸接続されて揺動可能であるとともに、ホイール部533に第1位置制限カム521と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロック532が外向きに突設される。
第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸点511aとが互いに干渉すると、切換え片53が揺動し、第1位置制限ブロック531が第1位置制限口521a内に嵌入して、第1回転軸11が回動不能となり、第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し、第2ストッパ輪412と当該第2ストッパ凸点511bとが互いに干渉すると、切換え片53が揺動し、第2位置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して、第2回転軸12が回動不能となり、第1回転軸11のみが回動可能となるように制限する。その動作については以下において説明する。」
(a4)



(第8頁下から第3行ないし第10頁第12行)
「翻訳:また、位置制限構造50の切換え片53上の第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロック532の両側面に、それぞれ一対の第1ガイドブロック531a及び一対の第2ガイドブロック532aが突設され、共に回動する当該対第1ガイドブロック532a(当審注:「531a」の誤記と認められる。)及び第2ガイドブロック532aは、それぞれ当該対支持片511、512上にそれぞれ開設されたガイド溝511c、512c内に伸入して、切換え片53の揺動範囲を制限する。
第3図〜第6図に示されている本考案の開放動作図を参照する。第3図において、また第7図においても併せて示すように、上カバー及びベースの閉合状態、つまり0度の場合は、切換え片53の第2位置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して、第2回転軸12が回動不能となり、第1回転軸11のみが矢印に示されている通り回動可能となるように制限し、上カバーをベースに対して開放する。第4図を参照すると、第1回転軸11が120度まで回動した場合、第2固定フレーム32が点線位置から実線位置まで回動し、第8図に併せて示すように、第1ストッパ輪411の第1扇形ブロック411aと第1ストッパ凸点511aとが互いに当接して干渉を生じ、第1回転軸11は再回動不能となる。
再開放のために付勢されると、第2位置制限カム522の第2位置制限口522aと切換え片53の第2位置制限ブロック532とが脱離を開始し、第2位置制限カム522の外縁を利用して第2位置制限ブロック532を押し出し、第5図に示されている通り、切換え片53を矢印G1方向に揺動させ、第1位置制限ブロック531を第1位置制限カム521の第1位置制限口521aに嵌入させて、第1回転軸11が回動不能となり、第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し、その際には、第2回転軸12を180度まで回動して、第2固定フレーム32を点線位置から実線位置まで回動させる。第1回転軸11は、開放方向上にその回動を止めるストッパ機構40を有しているが、位置制限機構50の第1位置制限ブロック531が第1位置制限カム521の第1位置制限口521a内に嵌入しない場合、逆向きの閉合動作時に、第1回転軸11が誤回動して、動作不調を生じる可能性がある。
その後、第6図に示されている通り、第2回転軸12が制限されずに持続的に回動して、第2固定フレーム32を図に示されている下向き位置まで回転させる。
同様に、逆向きの閉合動作時には、第2回転軸12が制限されずに先ず回動することができるが、第4図に類似した位置まで回動すると、その際にはストッパ機構40中の第2ストッパ輪412の第2扇形ブロック412aと第2ストッパ凸点511bとが当接して互いに干渉して、第2回転軸12を回動不能とさせ、更に開閉のために付勢されると、第1位置制限カム521の第1位置制限口521aと切換え片53の第1位置制限ブロック531とが脱離を開始し、第1位置制限カム521の外縁を利用して第1位置制限ブロック531を押し出して、切換え片53を揺動させ、第2位置制限ブロック532を第2位置制限カム522の第2位置制限口522aに嵌入させて、第2回転軸12が回動不能となり、第1回転軸11のみが回動可能となるように制限し、第3図に示されている閉合位置まで回動する。
明らかに、本考案は、ストッパ機構40及び位置制限構造50の協調動作を利用し、開放または閉合動作時に、第1回転軸11及び第2回転軸12を順次回動させて、同時回動の瞬間回動量の違いにより速度緩急に落差を生じることによる動作不調問題を排除し、開放または閉合動作時に拘わらず、良好な操作効果を備えさせる。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、図面とともに次の記載がある。
(b1)

「翻訳:【考案が属する技術分野】【0001】本考案は2軸ヒンジに関するものであり、特に開閉が安定した2軸ヒンジを指している。」
(b2)


「翻訳:【背景技術】【0002】一般の蓋開放式電子装置、例えばノート型パソコン、携帯電話などでは、当該電子装置のディスプレイとキーボードとの間にヒンジが設置され、ディスプレイとキーボードとを接続するとともに、ディスプレイをキーボードから開く際に必要とするトルクを提供する。最も早期には1軸式のヒンジが蓋開放式電子装置上に装設され、ディスプレイをキーボードに対して枢軸回転させて開放する目的を達成していたが、ディスプレイ及びキーボードの外観ハウジングの設計の制限を受け、ディスプレイハウジング及びキーボードハウジングを一定角度まで開放すると相互に干渉してそれ以上開放できなくなるため、干渉を回避するためには外観設計上で構造面の妥協を余儀なくされるため、外観設計が制限を受けることになる。
【0003】公知のヒンジの欠陥を改善するため、既存の中華民国実用新案の第M388822号は、回動変位可能な2軸ヒンジであって、ディスプレイ支持フレームに第1回転軸を結合し、ベース支持フレームに第2回転軸を結合し、かつ、第1回転軸が可動で第2回転軸周りを回動し、第1回転軸の位置を改変して、第1回転軸を上向きまたは後向きに変位させ、ディスプレイ支持フレームが上向きまたは後向きに変位するように従動させることにより、開放時にディスプレイハウジングとベースハウジングとが相互に干渉することを回避することができる。併せてトラックパッド及び制御部材の作動制限により、ディスプレイ支持フレームの回動角度が第1回転軸及び第2回転軸の回動角度の総和となり、ディスプレイの回動角度が分散して2つの回転軸の個別の回動角度により達成され、それにより回転軸の摩耗が低減され、寿命が増加する。
【0004】この種の設計は、開放時におけるディスプレイハウジングとベースハウジングとの相互干渉を回避することができるが、依然として180度を超えて開放することはできず、現在市場で流行しているタッチ式または手書き入力操作を有する電子装置の、簡便にタッチ入力するために、ディスプレイハウジングとキーボードハウジングとを180度よりも大きく反転可能であるとの要求、または簡便に把持してタッチ操作を行うために逆方向に折り重ねるとの要求に対応することができない。
【0005】現在のタッチ式電子装置の趨勢に合致可能とするため、中華民国実用新案第M413776号では単一パッケージ式2軸ヒンジが提供されており、軸スリーブと、当該軸スリーブに設置される第1回動部材及び第2回動部材とを含み、当該軸スリーブは、接続板と、当該接続板に設置される第1嵌接部及び第2嵌接部とを有し、当該第1嵌接部及び当該第2嵌接部にそれぞれ第1軸接通路及び第2軸接通路が設けられて、それぞれ当該第1回動部材及び当該第2回動部材が設置され、かつ、当該第1嵌接部の端縁の当該接続板の一方の側と当該接続板とに当該第1軸接通路に連通する第1切欠きが形成され、当該第2嵌接部の端縁の当該接続板の他方の側と当該接続板とに当該第2軸接通路に連通する第2切欠きが形成され、2軸ヒンジを順次枢軸回転させることができるばかりではなく、大角度の回動を提供して、更に開放が軽く閉合が重いという効果を達成することもできる。この種の設計のわずかな欠点は、当該第1回動部材と第2回動部材とは、ディスプレイハウジングとキーボードハウジングとを相対的に開放する際に、共に回動可能であるが、ディスプレイハウジングがまだ180度まで開放されていない場合は、当該軸スリーブが第2回動部材を支点として共に回転し、使用者がディスプレイハウジングの開放角度をうまく調整できないことにあり、改善が待たれている。」
(b3)


「翻訳:【考案の概要】【0006】本考案の主な目的は、公知の2軸ヒンジはその両回転軸が同時に回転可能であるとの問題を解決することにある。
【0007】上記目的を達成するため、本考案では、開閉が安定した2軸ヒンジが提供されており、接続部材と、当該接続部材に設置される第1回動部材及び第2回動部材とを含み、当該第1回動部材は、第1回転軸及び当該第1回転軸に接続される第1組付部を含み、当該第1回転軸は、当該第1回転軸の周縁に設けられた第1当接部及び当該第1当接部上において当該第1回転軸に沿って軸方向に開設された第1位置決め凹溝を有する。当該第2回動部材は、第2回転軸及び当該第2回転軸に接続される第2組付部を含み、当該第2回転軸は、当該第2回転軸の周縁に設けられた第2当接部及び当該第2当接部上において当該第2回転軸に沿って軸方向に開設された第2位置決め凹溝を有する。当該接続部材は、当該第1回転軸を貫設するための第1貫設孔と、当該第2回転軸を貫設するための第2貫設孔と、当該第1貫設孔と当該第2貫設孔との間に設けられた軌道部と、当該軌道部上に設けられ、当該軌道部に沿って摺動する摺動位置決め部とを含む。当該摺動位置決め部は、当該第2当接部の当接を受けて当該第1位置決め凹溝内に係合して、当該第1回転軸の回動が第1制限状態を有するように制限し、当該摺動位置決め部は、当該第1当接部の当接を受けて当該第2位置決め凹溝内に係合して、当該第2回転軸の回動が第2制限状態を有するように制限する。」
(b4)




「翻訳:【考案を実施するための形態】【0015】図1を参照すると、それは本考案における開閉が安定した2軸ヒンジの外観概略図であり、図2、図3は本考案における開閉が安定した2軸ヒンジの構造分解概略図であり、図示されている通り、本考案は開閉が安定した2軸ヒンジであって、主に、接続部材3と、当該接続部材3に設置される第1回動部材1及び第2回動部材2とを含み、当該第1回動部材1は、第1回転軸11及び当該第1回転軸11に接続される第1組付部12を含み、当該第1回転軸11は、当該第1回転軸11の周縁に設けられた第1当接部112及び当該第1当接部112上において当該第1回転軸11に沿って軸方向に開設された第1位置決め凹溝111を有する。当該第2回動部材2は、第2回転軸21及び当該第2回転軸21に接続される第2組付部22を含み、当該第2回転軸21は、当該第2回転軸21の周縁に設けられた第2当接部212及び当該第2当接部212上において当該第2回転軸21に沿って軸方向に開設された第2位置決め凹溝211を有する。当該接続部材3は、当該第1回転軸11を貫設するための第1貫設孔31と、当該第2回転軸21を貫設するための第2貫設孔32と、当該第1貫設孔31と当該第2貫設孔32との間に設けられた軌道部33と、当該軌道部33上に設けられ、当該軌道部33に沿って摺動する摺動位置決め部34とを含む。当該摺動位置決め部34は、当該第2当接部212の当接を受けて当該第1位置決め凹溝111内に係合して、当該第1回転軸11の回動が第1制限状態を有するように制限し、当該摺動位置決め部34は、当該第1当接部112の当接を受けて当該第2位置決め凹溝211内に係合して、当該第2回転軸21の回動が第2制限状態を有するように制限する。
【0016】本考案の具体的な実施形態において、当該第1回転軸11は、第1位置制限部113を更に有し、当該第2回転軸21は、第2位置制限部213を更に有し、当該接続部材3は、それぞれ当該第1位置制限部113に当接して当該第1回転軸11の回動を制限する第1位置決め部35と、当該第2位置制限部213に当接して当該第2回転軸21の回動を制限する第2位置決め部36とを更に含む。また、本考案で開示されている開閉が安定した2軸ヒンジは、軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を更に含む。当該軸スリーブ4は、当該接続部材3に接続される接続板41と、当該接続板41に設置され、それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は、収容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ、当該軸スリーブ4と当該接続部材3とを収容し、当該接続板41と当該ハウジング5とに、相互に対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ、当該ハウジング5の収容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。
【0017】図4−1から図4−5を参照すると、それは開閉が安定した2軸ヒンジの動作概略図であり、図示されている通り、当該開閉が安定した2軸ヒンジは、枢軸回転式の電子装置6上、例えばノート型パソコン、タブレット型コンピュータ、携帯電話などに応用することができ、当該第1回動部材1(図1に示されている通り)の第1組付部12で当該電子装置6の上カバー61を接続するとともに、当該第2回動部材2(図1に示されている通り)の第2組付部22により当該電子装置6の下カバー62を接続する。図4−1に示されている通り、当該上カバー61が当該下カバー62に閉合すると、当該摺動位置決め部34が、同時に当該第2位置決め凹溝211と当該第1当接部112とに当接して当該第2回転軸21の回動を制限し、かつ、当該第2回転軸21の第2位置制限部213(図2に示されている通り)と当該接続部材3の第2位置決め部36とが当接して位置制限関係を構成する。」
(b5)



「翻訳:【0018】当該上カバー61を開放するように付勢されると、当該第1回転軸11の回転トルクが当該第2回転軸21の回転トルクよりも小さいため、当該第2回転軸21と当該ハウジング5とは不動を保持し、当該上カバー61は当該第1回転軸11に連動して当該第2回転軸21と当該ハウジング5に対して回転し、その際、当該摺動位置決め部34は依然として当該第1当接部112の当接を受けて当該第2位置決め凹溝211に係合し、当該第2回転軸21の回動を制限する(図4−2に示されている通り)。引き続き当該上カバー61を反転するように付勢され、当該上カバー61が当該第1回転軸11に連動して引き続き180度まで回転すると、当該第1回転軸11の当該第1位置決め凹溝111の開口部分と当該第2回転軸21の当該第2位置決め凹溝211の開口部分とが対向し、その際、当該摺動位置決め部34は当該第1当接部112の当接を受けずに当該接続部材3上の当該軌道部33に沿って自在に摺動可能となり、当該第2回転軸21も当該摺動位置決め部34の制限を受けないため、自在に回動可能となる。同時に、当該第1回転軸11の当該第1位置制限部113が当該接続部材3の当該第1位置決め部35に当接し、位置制限関係を構成して、当該第1回転軸11の継続した回転を制限する(図4−3に示されている通り)。
【0019】当該上カバー61を引き続き枢軸回転させる場合は、当該第1回転軸11と当該接続部材3とが位置制限を構成するため、比較的大きな力を付勢して、当該ハウジング5を当該第2回転軸21に対して回転させて、当該第2回転軸21の第2位置制限部213を当該接続部材3の第2位置決め部36から脱離させ、当該上カバー61を180度を超えるまで枢軸回転させなければならず、同時に、当該摺動位置決め部34が当該第2位置決め凹溝211から脱離するとともに、当該第2当接部212の当接を受けて当該第1位置決め凹溝111内に係合することにより、当該第1回転軸11が同時に回動できないように制限する(図4−4に示されている通り)。当該上カバー61 が引き続き力を受けて360度まで回転した場合、当該摺動位置決め部34は依然として当該第2当接部212の当接を受けて当該第1位置決め凹溝111内に係合して、当該第1回転軸11が同時に回動不能とし、その際、当該上カバー61はすでに完全に当該下カバー62の下方まで枢軸回転している(図4−5に示されている通り)。当該上カバー61を当該下カバー62の上方に復帰させる必要がある場合は、当該下カバー62が枢軸回転するように付勢し、当該下カバー62が180度回転すると、当該第2回転軸21の当該第2位置制限部213と当該接続部材3の当該第2位置決め部36とが当接し、位置制限関係を構成して当該第2回転軸21の回動を停止する。更に引き続き当該下カバー62が回転するように付勢すると、その際、当該摺動位置決め部34は当該第1当接部112の当接を受けて当該第2位置決め凹溝211内に係合して、当該第2回転軸21の同時回動を制限し、当該下カバー62が180度回転するのを待った後、当該上カバー61は当該下カバー62の上方に再度閉合する。
【0020】以上の記載をまとめると、本考案では、当該摺動位置決め部34が当該第1位置決め凹溝111と当該第2当接部212とに同時に当接することを利用して、当該第1回転軸11が当該摺動位置決め部34の制限を受けて回動不能となり、かつ、当該摺動位置決め部34が当該第2位置決め凹溝211と当該第1当接部112とに同時に当接することにより、当該第2回転軸21が当該摺動位置決め部34の制限を受けて回動不能となる。それにより、2軸が同時に回動するとの問題が発生することはない。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面(特に、【図7】)とともに、次の記載がある。
「【0001】
この発明は、チルトヒンジ及びこのチルトヒンジを含んだ表示装置に関し、特に、回動抵抗の発生手段としてスプリングピンを用いたチルトヒンジ及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビジョン装置、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話機の一層の薄型化が求められており、これら表示装置を備えた機器に用いるチルトヒンジも小型化した上で、使用箇所に応じたフリクショントルクを奏出できるものが求められている。」
「【0016】
続いて、図2を参照して、フリクショントルクの発生機構について説明する。図2は、本実施形態に係るチルトヒンジの軸方向断面図(a)と径方向断面図(b)である。図2(a)、(b)に示されたように、組み立てた状態において、スプリングピン3のバネ力によって、シャフト2の外周面2a及びスプリングピン3の外周面3aと、ケース1の内周面1aが互いに押しつけられる結果、シャフトの軸方向長さとスプリングピン3のバネ圧に応じたフリクショントルクが発生する。
【0017】
例えば、ノート型パーソナルコンピュータのキーボード側筐体(図示せず)にケース1を取り付け、ディスプレイ側筐体にシャフト2を取り付けた場合において、ディスプレイ側筐体を、別途規制される回動可能範囲(例えば、90°〜150°)で回動させ、任意の角度で停止保持させることが可能となる。」
「【0021】
続いて、上記第1の実施形態にそれぞれ節度発生機構、吸込み機構を付加した他の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下、上記第1の実施形態で説明した事項は省略し、その相違する部分についてのみ説明する。
【0022】
図4は、本発明の第2の実施形態に係るチルトヒンジのケースの断面図(a)とシャフトの断面図(b)である。図4を参照すると、ケース1の内周面1aに、少なくともスプリングピン3がはまり込むに足る長さ(軸方向幅)と、幅を有するクリック溝1cが設けられている。なお、図4の(b)に示したとおり、シャフト2の構成は、上記第1の実施形態のものと同様である。
【0023】
図5は、本実施形態に係るチルトヒンジの動作を説明するための図であり、図5の(a)〜(c)は、それぞれチルトヒンジを第1の停止角度(0°)から第2の停止角度(90°)まで回動させた状態を表している。
【0024】
図5の(a)の位置では、スプリングピン3の外周の一部が図5上方に配置されたクリック溝1cにはまり込んでおり、シャフト2の回動が規制された状態となっている。図5の(a)の状態から、回動側の部材に所定の力を加えることによって、スプリングピン3がシャフト2側に押し込まれクリック溝1cを脱して、図5の(b)の状態となる。
【0025】
そして、図5の(c)の位置に至ると、スプリングピン3の外周の一部が図5左方に配置されたクリック溝1cにはまり込み、再び、シャフト2の回動が規制された状態となる。
【0026】
以上のように、上記クリック溝1cを備えた構成によれば、所望の角度位置でシャフト2を停止させることが可能となる。また、クリック溝1cの幅及び深さを適宜変更することによって、回動抵抗を調整することも可能である。」
「【0028】
図6は、本発明の第3の実施形態に係るチルトヒンジのケースの断面図(a)とシャフトの断面図(b)である。図6を参照すると、ケース1の内周面1aの所定角度範囲wにわたって、第1の実施形態のケース1の内周面より窪んだ凹部1dが形成されている。
【0029】
凹部1dは、略レの字状に緩やかな傾斜面と急斜面とから構成され、かつ、スプリングピン3の長さ以上の回転軸方向の奥行き(幅)を有しており、前記緩やかな傾斜面は、フリクショントルクが漸増乃至漸減する区間を構成している。
【0030】
図7は、上記第3の実施形態同様に緩やかな傾斜面を有するチルトヒンジの動作を説明するための図であり、図7の(a)〜(c)は、それぞれチルトヒンジを0°から−90°まで回動させた状態を表している。
【0031】
図7の(a)の位置では、スプリングピン3がシャフト2側に押し込まれ、一定のフリクショントルクが発生した状態となっている。図7の(b)の位置でスプリングピン3の外周の一部が凹部1dの入り口に差し掛かり、スプリングピン3がケース1側に吸い込まれ始め、シャフト2を反時計回りに回動させる方向に付勢力が発生する。
【0032】
その後、図7の(c)の位置に至るまで、スプリングピン3がケース1側に吸い込まれていく間、絶えずフリクショントルクが漸減していくため、図7の(a)の位置よりも小さな力でシャフト2を反時計回りに回動させることが可能となる。反対に、上記区間でシャフト2を時計回りに回動させる場合は、スプリングピン3を押し込む分、上記反時計回りに回動させる場合よりも大きな力が必要となる。
【0033】
そして、最終的に図7の(c)の位置に至ると、スプリングピン3が前記傾斜面の最深部に当接した状態となり、シャフト2の回動が規制される。
【0034】
以上のように、本実施形態によれば、前記緩やかな傾斜面にスプリングピン3が当接する範囲において、回動方向に応じ回動抵抗を変化させ、また、凹部最深部において回動角度を保持することが可能となる。また、このように凹部1dを備えたケース1においても、シャフト2のスプリングピン押入溝2bと凹部1dとを対向させたスプリングピン3を押入しやすい状態(図7の(c))にしてから、スプリングピン3を押入する手順を取ることが可能となり、チルトヒンジの組み立て作業が一層容易化されるという利点がある。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、図面(特に、【図3】ないし【図7】)とともに、次の記載がある。
「【技術分野】【0001】
本発明は、ノート型パソコン、ラップトップ型パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)、及びカーナビゲーション装置といった電子機器の開閉装置並びにこの開閉装置を用いた電子機器に関する。」
「【実施例1】【0024】
本発明に係る開閉装置4は、とくに図4乃至図7に示したように、第1の筐体2の後部上端に設けた取付凹部2b内へ取り付けた取付部材5と、第2の筐体3の後端部下面に設けた取付凹部3b内に取り付けた支持部材6と、この支持部材6を取付部材5に対して回転可能に連結するヒンジシャフト7と、取付部材5に対して支持部材6を、第2の筐体3の第1の筐体2に対する閉成状態でロックする回転制御手段8とで構成されている。」
「【0028】
回転制御手段8は、フリクション機構9と吸い込み機構10とから成り、フリクション機構9は、その中心部軸方向に設けた変形挿通孔11aへヒンジシャフト7の大径変形軸部7bを挿通させて、当該ヒンジシャフト7に回転規制されて取り付けられると共に、フランジ部7aと取付部材5の一方の側板5bとの間に介在させたフリクションワッシャー11と、その中心部軸方向に設けた変形挿通孔12aへヒンジシャフト7の小径変形軸部7cを挿通させて、当該ヒンジシャフト7に回転を規制されて取り付けられると共に、支持部材6の側板6aの側に設けられたワッシャー12と、その中心部軸方向に設けた挿通孔13aへヒンジシャフト7の小径変形軸部7cを挿通させてワッシャー12と支持部材6の側板6aとの間に介在させたスプリングワッシャー13と、ヒンジシャフト7の小径変形軸部7cのかしめ部7dとで構成されている。
【0029】
吸い込み機構10は、例えばSUM製の中心部軸方向へ変形挿通孔14aと、外周をその軸方向に渡って削り取ることによって形成した平坦なカム部14bと、変形挿通孔14aへヒンジシャフト7の大径変形軸部7bを挿通させたカム手段14と、取付部材5の後板5cに設けた取付部5hにその一端部15aを挿入固定させた自由端側にカールさせた弾接部15bを有し、この弾接部15bをカム手段14の外周に摺接させている弾性手段15とで構成されている。尚、この吸い込み機構10は、第2の筐体3の第1の筐体2に対する開閉操作時に、弾性手段15の弾接部15bとカム手段14の湾曲外周14cとの間で圧接状態となるため、ここでもフリクショントルクを発生させることができる構成である。
【0030】
そして、フリクション機構9にあっては、フリクションワッシャー11、カム手段14、ワッシャー12、スプリングワッシャー13を上述したように配置した後に、ヒンジシャフト7の小径変形軸部7cが支持部材6の側板6aより突出した部分を所定のかしめトルクでかしめてかしめ部7dとすることにより、フリクションワッシャー11の一側部と、取付部材5の側板5bとの間、及びワッシャー12ともう一方の側板5bとの間にそれぞれフリクショントルクが発生する構成となっている。」
「【0032】
まず、図4に示したように、ノート型パソコン1の第1の筐体2に対して第2の筐体3を閉じた閉成状態においては、弾性手段15の弾接部15bがカム手段14の平坦なカム部14bに当接していることによって、第2の筐体3は第1の筐体2に対して閉成状態でロックされている。
【0033】
次に、ノート型パソコン1を使用すべく使用者が第1の筐体2に対して第2の筐体3を開くと、支持部材6及びヒンジシャフト7と共にカム手段14が回転し、第2の筐体3は、吸い込み機構10のカム手段14が、その外周で弾性手段15の弾接部15bをその圧接弾力に抗して下押しすることによって、図4から図7に示したように0°から180°まで開かれる。次いで、この開いた第2の筐体3を閉じる際には、通常の閉成操作で閉じて行き、約5°の閉成角度になると、とくに図5に示したように、弾性手段15の弾接部15bが、カム手段14の平坦なカム部14bに当接し始めることから、第2の筐体3は急速に吸い込まれるように閉じられ、この閉じた状態において、とくに図4に示したように、弾性手段15の弾接部15bが平坦なカム部14bと圧接状態となることにより、第2の筐体3は第1の筐体2に対して閉成状態でロックされることになる。このようにして回転制御手段8の吸い込み機構10は機能する。
【0034】
次に、開閉操作の途中にあっては、回転制御手段8のフリクション機構9のフリクションワッシャー11がヒンジシャフト7と共に回転して、取付部材5の一方の側板5bとの間でフリクショントルクが発生し、さらに、弾性手段15の弾接部15bとカム手段14の湾曲外周14cとの間にもフリクショントルクが発生することから、任意の開閉角度で第2の筐体3を第1の筐体2に対して停止保持させることが可能である。」

(5)甲第6号証
甲第6号証には、図面(特に、【図4】、【図6】及び【図10】)とともに、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材と第2部材とを連結し、この第1部材と第2部材とを任意の角度位置に保持するための角度保持機能を備えるトルクヒンジ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、パーソナルコンピュータにおける液晶ディスプレイや、あるいは通常のテレビにおいては、画面を見やすい角度に調整可能であって、且つ調整した角度を保持することができる角度保持機能を備えたトルクヒンジ装置が採用されている。
【0003】
従来、このような角度保持機構を備えたトルクヒンジ装置の例として、図10に示す構成が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
このトルクヒンジ装置は、第1部材10が第2部材20に対して、回動可能であって、且つ設定した角度で保持できるように設けられているものである。
第1部材10は、第2部材20に取り付けられる軸部12を有している。軸部12は、断面円形の一部を切り欠いてフラットな平面部分11が形成された形状であって、この平面部分11は円の中心を挟んで対向するように円の直径に対して線対称となる位置に形成されている。
第1部材10の先端部13は、ディスプレイ等の他の部材に取り付けられるような構造となっている。
【0004】
第2部材20は、第1部材10の軸部12に対して回動可能な部材であり、他の部材へ取り付け可能な板状の取り付け部21と、取り付け部21の表面に対して垂直に立設されている軸取り付け部22とを有している。軸取り付け部22には、第1部材10の軸部12を挿通可能な挿通孔24が形成されている。
【0005】
第1部材10と第2部材20との取り付けは、2枚のフリクションワッシャ26、スプリングワッシャ27、ストッパ28を介して行われる。
まず、第1部材10の軸部12にフリクションワッシャ26を挿通させる。フリクションワッシャ26の中心孔は、軸部12の断面形状と同一形状に形成されており、フリクションワッシャ26は軸部12に対しては回動せずに固定される。
そして、軸部12を第2部材20の挿通孔24に挿通させ、挿通孔24を挿通した軸部12に先ほどのフリクションワッシャ26と同一形状のフリクションワッシャ26と、スプリングワッシャ27とストッパ28を順に挿通させる。
【0006】
フリクションワッシャ26、軸取り付け部22、フリクションワッシャ26、スプリングワッシャ27を圧接した状態で、ストッパ28を軸部12に対してかしめて固定する。
このような構成によれば、第2部材20の軸取り付け部22の両面にフリクションワッシャ26が所定の摩擦力をもって接触しているので、第1部材10の軸部12に対して第2部材20を回動させようとすると、所定の回動トルクが必要となり、第1部材10と第2の部材とを任意の角度に回動させた位置で保持させることができる。」
「【0008】
従来のトルクヒンジ装置においては、複数枚のワッシャが必要であり、構成部品の部品点数が多いという課題があった。そして、このような多い部品を組み付けるため加工工程も多くなっているので、加工工程の削減を図りたいという要望もあった。
さらに、従来のトルクヒンジ装置は、複数枚のワッシャを軸部に対して組み付けて行くので、軸部の軸線方向に沿って厚い構成となってしまい、薄型化・小型化の要請に応えることができないという課題もあった。
【0009】
そこで本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、部品点数を減らして加工工程を削減するとともに、薄型化が可能なトルクヒンジ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかるトルクヒンジ装置によれば、第1部材と第2部材とを相対的に回動可能に装着し、且つ任意の回動角度においてその角度を保持することができるトルクヒンジ装置において、前記第1部材は、回動中心となるように形成された柱状または筒状の軸部が設けられ、軸部に対して回動不能に装着され、且つ外径方向に向けて付勢力を有する付勢部が形成された外径付勢ワッシャが設けられ、前記第2部材は、外径付勢ワッシャを収納する収納孔が形成され、外径付勢ワッシャが収納孔の内壁面を付勢部によって押圧しつつ収納孔内で回動可能となるように設けられ、前記第2部材および外径付勢ワッシャを軸部から抜け落ちないようにするために軸部に固定されるストッパが設けられていることを特徴としている。
この構成を採用することによって、軸部に対して回動不能な外径付勢ワッシャが第2部材の収納孔の内壁面を押圧しつつ回動する。このため、必要なトルクは、外径付勢ワッシャの付勢部と第2部材の収納孔の内壁面との間で発生する。したがって、フリクションワッシャ等を複数枚使用してトルクを出すことがなく、部品点数を削減できる。そして、軸部方向に対してフリクションワッシャ等を複数枚重ねることがないので薄型化を図れる。」
「【0026】
外径付勢ワッシャ40は、第2部材34の収納孔42内に収納される。このとき、外径付勢ワッシャ40の付勢部46が、収納孔42の内壁面を押圧するので、外径付勢ワッシャ40と第2部材34は、付勢部46が内側から第2部材34を押圧することによりトルクが発生する。
このように、トルクの発生箇所を収納孔の内壁面と、この内壁面に接触する部位だけで出しているので、部品点数の削減や薄型化を図ることができる。
【0027】
また、腕状の付勢部46の先端部近傍には、外方に突出する凸部50が形成されており、この凸部50を収納可能な大きさの凹部52が、第2部材34の収納孔42の内壁面に形成されている。
本実施形態では、付勢部46は中心を点対称とした2箇所に形成されているので、凸部50も1つの外径付勢ワッシャ40に対して2箇所に形成されている。
このような構成を採用することで、第2部材34を外径付勢ワッシャ40に対して回動させた場合、凸部50が凹部52に入り込んでいない箇所では大きいトルクが発生し、凸部50が凹部52に入り込んだときには、その位置で一旦停止する。もう一度回動を開始させる際には大きなトルクが必要となる。この凸部50が凹部52に入り込む位置での感触をクリック感として操作者に認識させることができるので、予め決まった回動角度を操作者は認識しやすくなる。」

(6)甲第7号証
甲第7号証には、図面(特に、【図3】ないし【図6】)とともに、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばノート型パソコンのような比較的大型のキーボード部を有する第1筐体とディスプレイ部を有する第2筐体とから成る電子機器において、前記第2筐体を第1筐体に対して上下方向へ開閉可能、かつ水平方向へ回転可能に取り付ける際に用いて好適な2軸ヒンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機のような小型の電子機器の2軸ヒンジとして、下記特許文献1に記載されたような、第1筐体に対して第2筐体を上下方向へ開閉させ、任意の開閉角度で停止保持できる開閉用ヒンジと、第2筐体の第1筐体に対する上下方向の所定の開閉角度で、開閉用ヒンジのヒンジシャフトに対して直交する方向へ第2筺体を第1筺体に対して回転させることのできる回転用ヒンジとを有しているものが公知である。」
「【0028】
第1筐体2に対して第2筐体3を閉じた図3に示した状態においては、図4に示したように、ベースフレーム9と支持部材11は、ヒンジシャフト7aとチルトヒンジシャフト14を支点にして回転し、共に前側へ倒れている。この閉成状態から第2筐体3を第1筐体2に対して上方へ押して開くと、軸ヒンジ7とチルトヒンジ8が動作して第2筐体3は第1筐体2に対して開かれ、チルト機構15により、任意の開成角度で、第2筐体3を第1筐体2に対して停止保持させておくことができる。この上下方向の開成角度はストッパープレート20により規制され、実施例のもので最大180°である。
【0029】
即ち、第2筐体3を第1筐体2に対して上下方向へ開閉させると、支持部材11と共にベースフレーム9が開閉用ヒンジAを介して回転し、ベースフレーム9のチルトヒンジ8側の側板9bの一方の側に圧接しているフリクションワッシャー16とベースフレーム9の側板9bの一方の側との間、及びベースフレーム9のチルトヒンジ8側の側板9bの他方の側に固定させた第1カムワッシャー17に圧接している第2カムワッシャー18との間にフリクショントルクが発生し、第2筐体3はフリーストップに開閉される。」

(7)甲第8号証
甲第8号証には、図面(特に、【図5】)とともに、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の部材と第2の部材とを相対回動しうるように連結するチルトヒンジ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンや、情報携帯端末であるPDA(Personal Digital Assistants)など情報分野における個人用の端末機器は、キーボードやテンキー等が配置された装置本体(以下、単に本体と称する場合がある)と、液晶ディスプレイ装置等(以下、単に表示部と称する場合がある)とがチルトヒンジ装置によって連結されているものが多い。
チルトヒンジ装置は、本体に対して表示部を開いた際に、所定の角度で安定して停止することができるような構造となっている。」
「【0021】
第1のトルクヒンジ部36は、回動中心となるシャフト46と、シャフト46の周囲にシャフト46の軸線方向に沿って順番に配置される各ワッシャとを有する。また第1のトルクヒンジ部36のシャフト46は、本体31側で大径となる頭部48が形成されている。
シャフト46の周囲に配置される各ワッシャ等の配置は、本体31に近い方から順に、第1のワッシャ50、連結アーム40、第2のワッシャ52、スプリングワッシャ54の順番である。スプリングワッシャ54は、シャフト46の軸線方向に弾性を有するように形成されている。
【0022】
また、第1のトルクヒンジ部36には、第1のトルクヒンジ部36を本体31の側面に取り付けるための固定板44が設けられている。固定板44は、第1のトルクヒンジ部36のシャフト46の一端部46a(本体31側面から外方に離間した側の端部)を回動不能に保持すべく、シャフト46の断面形状と同一の形状を有し、シャフト46を挿入可能な大きさの挿通孔44aが形成されている。
挿通孔44aに挿入されたシャフト46の一端部46aは、シャフト46の頭部48との間でかしめられ、固定板44に固定される。
【0023】
シャフト46が固定板44と頭部48との間でかしめられると、スプリングワッシャ54がワッシャの厚さ方向に圧縮される。このことにより、第1のワッシャ50と第2のワッシャ52が所定の力で連結アーム40を挟みつける。したがって、連結アーム40は、所定のトルクをかけたときにシャフト46の周囲を回動し、トルクを解除した位置で固定される。
なお、連結アーム40の一端部に形成された挿通孔40aは、円形であり、挿入されるシャフト46の外径よりも大径である。」
「【0027】
第2のトルクヒンジ部38は、回動中心となるシャフト58と、シャフト58の周囲にシャフト58の軸線方向に沿って順番に配置される各ワッシャとを有する。第2のトルクヒンジ部38のシャフト58は、表示部34側で大径となる頭部60が形成されている。
シャフト58の周囲に配置される各ワッシャ等の配置は、表示部34に近い方から順に、第3のワッシャ62、連結アーム40、第4のワッシャ64、スプリングワッシャ66、押さえワッシャ68の順番である。スプリングワッシャ66は、シャフト58の軸線方向に弾性を有するように形成されている。
【0028】
押さえワッシャ68は、第2のトルクヒンジ部38のシャフト58の一端部58a(表示部34側面から外方に離間した側の端部)を回動不能に保持すべく、シャフト58の断面形状と同一の形状を有し、シャフト68を挿入可能な挿通孔68aが形成されている。
挿通孔68aに挿入されたシャフト58の一端部58aは、シャフト58の頭部60との間でかしめられ、押さえワッシャ68に固定される。
【0029】
シャフト58が押さえワッシャ68と頭部60との間でかしめられると、スプリングワッシャ66がワッシャの厚さ方向に圧縮される。このことにより、第3のワッシャ62と第4のワッシャ64が所定の力で連結アーム40を挟みつける。したがって、連結アーム40は、所定のトルクをかけたときにシャフト58の周囲を回動し、トルクを解除した位置で固定される。
なお、連結アーム40の他端部に形成された挿通孔40bは、円形であり、挿入されるシャフト58の外径よりも大径である。」

(8)甲第10号証
甲第10号証には、図面(特に、【図3】)とともに、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明はラップトップ型のパソコン或はワードプロセッサのようなOA機器のディスプレー体を開閉する際に用いて好適なチルトヒンジに関する。
【0002】
【従来の技術】この出願人は、先に装置本体側へ取り付けられる取付部材と、ディスプレー体を支持するために取付部材の軸受プレートに小径部を軸受させた回転シャフトと、この回転シャフトと軸受プレートの一側面の間、及び軸受プレートの他側面と回転シャフトのかしめ端との間に各種ワッシャーを介在させて回転シャフトが所定の回転トルクを与えられた時にのみ回転するように構成した、構造簡単で安定したフリクショントルクをディスプレー体の全開成角度に渡って得ることのできる、ラップトップ型のパソコンやワードプロセッサのようなOA機器のディスプレー体を支持するチルトヒンジを提案した。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年ではこれらのO機器はますます小型化、かつ薄型化しており、ディスプレー体を支持するチルトヒンジは、より一層小型で耐久性と高い回転トルクを有することが求められるようになって来ている。」
「【0012】次に、フリクション機構10について説明すると、回転シャフト7の大径部7bと軸受プレート5の一側面との間には、例えば燐青銅のような金属製の第1フリクションワッシャー11がその挿通孔11aに小径部7aを挿通させつつ介在させてある。フリクションワッシャー11の外周からは係止突片11bが突設され、大径部7bの外周に設けた係止部7eと係合している。軸受プレート5bの他側面には同じく例えば燐青銅のような金属製の第2フリクションワッシャー12とスプリングワッシャー13が、その挿通穴12a、13aを回転シャフト7の小径部7aに通すことによって介在させてある。第2フリクションワッシャー12の外周からは係止突片12bが突設されており、軸受プレート5bに設けた係止穴5cと係合するようになっている。スプリングワッシャー13にはさらに押え用平ワッシャー14がその挿通穴14aへ回転シャフト7の小径部7aを通すことによって当接されており、この小径部7aの端部をかしめることにより、とくに図2に示したように、第1フリクションワッシャー11と第2フリクションワッシャー12が取付部材5の軸受プレート5bの両側へ圧接させられるようになっている。大径部7bの外径と第1フリクションワッシャー11の外径は略同一であり、押え用平ワッシャー14の外径と第2フリクションワッシャー12及びスプリングワッシャー13の外径とは略同一であることから、第1フリクションワッシャー11と第2フリクションワッシャー12は全面に渡って均等に取付部材5の軸受プレート5bとスプリングワッシャー13へ圧接させられることになる。第1フリクションワッシャー11と軸受プレート5bとの間、及びスプリングワッシャー13と第2フリクションワッシャー12との間には、図示してない潤滑剤が塗布されている。さらに、回転シャフト7の変形取付部7dには、作動プレート16がその変形孔16aへ変形取付部7dを挿入することによって嵌着され、周溝7eにその半径方向より嵌入させたEリング17によって抜け出ないように固定されている。とくに図2に示したように、18は例えばマイクロスイッチであり、ディスプレー体4の開閉時に共に回転する回転シャフト7を介して作動プレート16の作動片16bによって開閉されるようになっている。
【0013】
【発明の効果】請求項1によれば、フリクショントルクが第1フリクションワッシャーと軸受プレートとの間、第2フリクションワッシャーとスプリングワッシャーとの間に発生するように構成し、かつこの2つのフリクションワッシャーを共に金属製としたので、かしめトルクを強くすることが可能となりこれらの相乗効果によりヒンジを小型化しつまり各ワッシャーの外径を小型にし(軸方向の長さをつめること)ても、大きなフリクショントルクを得ることができるものである。また、第1フリクションワッシャーと軸受プレートの間、及び第2フリクションワッシャーとスプリングワッシャーとの間に潤滑剤を塗布したので、永年使用の後においてもフリクション面の摩耗をなくし、異音やきしみ音の発生及びトルクの減少を有効的に防止することができる上に、押えワッシャーによってスプリングワッシャーの第2フリクションワッシャーに対する押圧面が均一になるので、安定したフリクショントルクを得ることができるという効果を奏し得る。」

(9)甲第11号証
甲第11号証には、図面(特に、【図1】及び【図3】)とともに、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、とくに携帯用パソコン等のOA機器のディスプレー体の開閉用に用いて好適なチルトヒンジに関する。
【0002】
【従来の技術】この種のチルトヒンジとしてかしめを用いたものが公知であり、このものは取付プレート部とこの取付プレート部から直角方向へ折り曲げられた軸受プレート部を有する取付部材と、この取付部材の前記軸受プレート部に設けた軸受孔に回転可能に軸支された軸支部とこの軸支部の一方に連設された大径部とを有する回転シャフトと、この回転シャフトの大径部と前記軸受プレート部との一側面との間に該回転シャフトに拘束されつつ前記軸支部をその中心部に設けた軸挿孔に挿通させて設けた第1フリクションワッシャーと、前記軸受プレート部の他側面に接して前記回転シャフトに拘束されつつその中心部に設けた軸挿孔へ前記軸支部を挿通させつつ設けた第2フリクションワッシャーと、この第2フリクションワッシャーに接して前記回転シャフトに拘束されつつその中心部に設けた軸挿孔へ前記軸支部を挿通させつつ設けたスプリングワッシャーと、このスプリングワッシャーに接してその中心部に設けた軸挿孔へ前記軸支部を挿通させつつ設けた押え用ワッシャーと、この押え用ワッシャーより突出した前記軸支部の端部をかしめることによって形成されたかしめ部とから成るチルトヒンジが公知である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来公知の上記チルトヒンジは、それなりの高い回転トルクを創出できるが、要求されるさらに高い回転トルクを得ようとしてかしめ部に対するかしめトルクを上げようとしても、スプリングワッシャーが直にフリクションワッシャーに圧接していることから来る圧接摺動面積の少なさから、高いフリクショントルクが得られなかったり、さらには長年使用する摩擦摺動部分が磨耗して初期のフリクショントルクが得られないという問題があった。
【0004】最近の携帯用パソコンの普及はめざましく、ますます小型化かつ薄型化しており、その中でディスプレー体を装置本体に対してフリーストップに開閉させるチルトヒンジも、安価かつ小型で高トルクを有するものが要求されている。
【0005】この発明の目的は、安価かつ小型でも高いフリクショントルクを長期間に渡って安定的に創出できる、チルトヒンジを提供せんとするにある。」
「【0012】取付部材1の軸受プレート部1bの両側には、各々軸挿孔4a、5aを設けた平面略おたまじゃくし形状の第1、第2フリクションプレート4、5が、該軸挿孔4a、5aへ軸支部2dを回転可能に挿通させつつ添設されており、この第1、第2フリクションプレート4、5はその各尾部4b、5bに突起4c、5cを有し、この突起4c、5cを軸受プレート部1bに設けた係止孔1dに挿入係止させることにより、軸受プレート部1bへ固定されている。この第1、第2フリクションプレート4、5は耐磨耗性に富んだ例えばSK−5の金属プレートを用いているが、このものに限定されない。
【0013】第1、第2フリクションプレート4、5の各一側面には、軸挿孔4a、5aを中心にして放射状に複数の油溜部4d、4d・・・、5d、5dが設けられている。第1フリクションプレート4と大径部2aとの間には、その中心部に設けた軸挿孔6aへ軸支部2dを挿通させつつ第1フリクションワッシャー6が配置されている。この第1フリクションワッシャー6の大径部2a側と圧接する側の外周には、複数の爪部6b、6b・・・が軸挿孔6aを中心にして放射状に設けられており、大径部2aに喰い込んで回転シャフト2に拘束され、共に回転するよう構成されている。この第1フリクションワッシャー6の爪部6bを設けた側と反対側のフリクションプレート4と圧接する部分には、軸挿孔6aと同心状に凹部6cが設けられている。
【0014】第2フリクションプレート5の開放側面に接してその中心部に設けた軸挿孔7aへ軸支部2dを挿通させつつ第2フリクションワッシャー7が設置されている。この第2フリクションワッシャー7の開放端面側の後述する固定ワッシャー8と圧接する側の外周には、複数の爪部7b、7b・・・が軸挿孔7aを中心にして放射状に設けられており、固定ワッシャー8に喰い込んで、後述するように固定ワッシャー8を介して回転シャフト2に拘束され、共に回転するよう構成されている。この第2フリクションワッシャー7の爪部7bを設けた側と反対側の第2フリクションプレート5と圧接する部分には、軸挿孔7aと同心状に凹部7cが設けられている。
【0015】第2フリクションワッシャー7の爪部7bを設けた側に圧接して固定ワッシャー8が、その中心部に設けた変形軸挿孔8aに変形部2fを挿通させることによって、回転シャフト2に拘束され共に回転するように設けられており、第2フリクションワッシャー7に設けた爪部7bが固定ワッシャー8の片面側に喰い込むことにより、この固定ワッシャー8を介して回転シャフト2に拘束され、共に回転するように構成されている。尚、この第2フリクションワッシャー7の軸挿孔7aを変形部2fに合った変形軸挿孔として、回転シャフトへ直に拘束させるようにしても良い。
【0016】9は例えば2枚のウェーブワッシャーを重ねて成るスプリングワッシャーであり、固定ワッシャー8に接してその中心部に設けた軸挿孔9aへかしめ軸部2eを挿通させつつ設けられている。尚、このスプリングワッシャー9の形状や使用枚数に限定はない。
【0017】このスプリングワッシャー9に接して、その中心部に設けた軸挿孔10aへかしめ軸部2eを挿通させつつ押え用ワッシャー10が設けられている。この押え用ワッシャー10より突出したかしめ軸部2eの端部をかしめて、かしめ部11を形成させることにより、第1、第2フリクションワッシャー6、7と第1、第2フリクションプレート4、5を圧接状態にして、回転シャフト2を回転させた時に、第1及び第2フリクションプレート4、5と第1、第2各フリクションワッシャー6、7との間にフリクショントルクが発生するように構成されている。」

(10)甲第12号証
甲第12号証には、図面(特に、【図1】及び【図4】)とともに、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ワープロやノート型パソコン等のOA機器、或は小型の液晶テレビ等のディスプレー体(開閉体)を、装置本体に対して中間開成角度に支持する際に用いて好適なチルトヒンジ関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種のチルトヒンジとして、装置本体側に取り付けられるブラケットと、このブラケットの軸受部に回転自在に取り付けられたところの開閉体の端部へ取り付けられる構造の回転シャフトと、この回転シャフトの大径部と前記軸受部の一側面との間に該回転シャフトを中心部に挿通させつつ介在されたスライディングプレートと、前記軸受部の他側面に中心部に前記回転シャフトを挿通させつつ順に設けられたフリクションプレート、スプリングワッシャー、押えワッシャーとから成り、前記回転シャフトの端部をかしめることによって発生する前記スプリングワッシャーを介して前記フリクションプレートを軸受部に押圧させて、回転シャフトを回転させた時に前記フリクションプレートと軸受部との間でフリクショントルクを発生させるようにしたものが公知である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来のチルトヒンジは、構造が簡単であり、ラップトップ型のワープロやパソコン等のOA機器で余り高いトルクを必要としないものには、最適のものであったが、より小型のOA機器に対応し、回転シャフトをさらに小径にして、しかも高トルクを必要とするものの場合には、この従来のものでは充分に対応できないという問題が生じた。
【0004】この発明の目的は、回転シャフトを従来のものよりも小径にしても高トルクを創出できる、チルトヒンジを提供せんとするにある。」
「【0009】
【作用】請求項1のように構成すると、小径の回転シャフトを用いても、押圧ワッシャーによって第1及び第2フリクションプレートの軸受部に対する摺動面がフラットになり、特定個所での摺動がなくなり、弾性手段によって、第1及び第2フリクションプレートが回転シャフトの大径部とブラケットの軸受部との間、及び軸受部と押圧ワッシャーとの間に強く挟まれ、第1フリクションプレートと押圧ワッシャーは回転シャフトの回転と共に回転することから、第1フリクションプレートは軸受部との間、第2フリクションプレートは押圧ワッシャーとの間に各々強いフリクションが発生する。」
「【0014】大径部5と軸受部2の一側面との間には、例えば燐青銅のような粘性と耐摩耗性に富んだ材料で構成した第1フリクションプレート9が介在されており、その中心部に設けた挿通孔9aに小径部6を挿通させつつその外周に設けた係止片9bを大径部に設けた係止用切欠5aと係合させている。尚、この第1フリクションプレート9は、図4の(a)、(b)に示したように、その面部にグリス溜りとなる小孔91aを設けた第1フリクションプレート91としたり、切欠92aや92bを設けた第1フリクションプレート92とすることができる。
【0015】軸受部2の他側面側には、外周に軸受部2に設けた係止用切欠2bに係止させる係止片10bを有する例えば燐青銅のような材料で作った第2フリクションプレート10がその挿通孔10aに小径部6を挿通させつつ設けられており、この第2フリクションプレート10に隣接して、中心部に変形孔11aを変形部7に挿通させて回転シャフト3と共に回転するように材厚のある面圧ワッシャー11が設けられ、この面圧ワッシャー11に隣接して一対の皿バネ12、12から成る弾性手段13が、その中心部に設けた挿通孔12a、12aへ変形部7を挿通させつつ設けられている。尚、この第2フリクションプレート10にも、図示はしないが第1フリクションプレート9と同じように小孔や切欠から成るグリス溜りを設けることができる。」

(11)甲第13号証
甲第13号証には、図面(特に、【図1】)とともに、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、本体部と反復開閉する蓋部とを有する小型OA機器、例えばノート型パソコンなどの、キーボート部とディスプレー部を結合し開閉および任意の角度に保持することができるようなフリクションヒンジ等に用いられる摩擦部材に関する。
【0002】
【従来の技術】この種のヒンジとして、ブラケットに設けた軸受部に回転シャフトを回転自在に挿入し、そのブラケットの両側または片側にワッシャー状の摩擦部材(フリクションプレート)を回転シャフトと共に回転可能に設け、そしてフリクションプレートを皿ばね等の付勢手段によりブラケットに圧接させて、ブラケットと回転シャフトとの間にフリクショントルクを生じさせるようにした構造のものがある。このようなヒンジは、ブラケットを例えばキーボード部側に固定し、回転シャフトをディスプレー部側に固定して用いれば、所定の回転トルクを与えたときディスプレー部を開閉することができ、また任意の角度に開いた状態て静止させることができる。このようなフリクションヒンジは、ブラケットは炭素鋼やステンレス鋼製で、相手部材の摩擦部材はブラケットと同じ材料或いはリン青銅で作られ、それらの摺動部にはグリースが塗布されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような小型OA機器、例えばノート型パソコン等のヒンジは、開閉を繰り返しても各摺動部材の摩耗がなく、回転トルクに変化を生じないことが要求される。摩擦摺動部材の摩耗は摩擦に変化をもたらし、回転トルクが変わることにより、開閉の感触が変わり、或いは、回転トルクが増加した場合は、ディスプレー部を開く際にキーボード部が共に持ち上がるようになったり、回転トルクが減少した場合には、ディスプレー部を所望の角度に保持できない状態が起こる。また、摩耗粉は潤滑グリースやヒンジの周囲を汚染したり、パソコン内にこぼれ落ちた場合は機器を故障させる原因になるおそれがある。一方、摺動部へのグリース塗布は潤滑のために不可欠であるが、塗布作業が繁雑であり、周囲の余剰なグリースは、機器を構成する樹脂製構造物の変質を助長することになり、また、摺動部のグリースが消費された際、周辺からの補給が不確実であり、長期にわたって潤滑性能を確保できなくなるおそれがある。この発明は、このような課題を背景とし、長期にわたって、より安定した回転トルクを維持できるヒンジを提供することを目的とする。」
「【0015】2.ヒンジ試験装置
図1は、本発明の実施例で用いたフリクションヒンジの断面図である。軸受孔1aがあるブラケット1(オーステナイト系ステンレス鋼、SUS304製)が図示していない基盤に固定されている。可動軸3は、大径部3a、断面が小判形をした軸部3b、ねじ部3cからなっている。摩擦部材2a、2bはブラケット1を挟んで配置され、摩擦部材2bの外側には座金5a、板ばね4及び座金5bを付設し、ナット6により締め付けられ、これらは可動軸3と一体に回転する。板ばね4は摩擦部材2a、2bをブラケット1に圧接させる付勢手段であり、ブラケット1と摩擦部材2a、2bとに所定の摩擦力が生ずる。可動軸3を角度180度の領域内で往復揺動させ、所定回数揺動させたのちに、ロックトルク(静止トルク)を測定して、その変化量によりロックトルクの安定性を評価する。試験方法は、ヒンジ装置のナット6を締め付けて、ロックトルク(静止トルク)の初期値を50kgf・mmに設定する。そして、可動軸3を角度180度の範囲内で2万回往復開閉し、千回、5千回、1万回、2万回におけるロックトルクの測定を行いまた摺動部の状態を観察する。」

2 無効理由についての当審の判断
請求人の主張する無効理由は、上記「第4 1」のとおりであるが、次のとおりまとめることができるので、以下この観点から検討する。
(i)甲第1号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由(無効理由1−1−1、2−1−1)
(ii)甲第2号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由(無効理由1−1−2、1−2、2−1−2、2−2)

(1)甲第1号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由について
ア 甲第1号証に記載された発明
上記1(1)に摘示した甲第1号証の記載及び図面の記載からすると、甲第1号証には、以下のとおりの甲1発明が記載されていることが認められる。

[甲1発明]
「上カバー及びベースを有する折畳み式電子製品に設置される位置制限機能を有する2軸式ヒンジであって、
少なくとも第1軸部111及び第1接続部112を有する第1回転軸11と、
少なくとも第2軸部121及び第2接続部122を有し、前記第1回転軸11と軸方向上で平行に設置される第2回転軸12と、
前記第1軸部111上に設置されて回転トルクを提供する第1トルク装置21と、前記第2軸部121上に設置されて回転トルクを提供する第2トルク装置22と、
前記上カバーに固定接合されるとともに、前記第1接続部112に外嵌されて固定されて前記第1回転軸11とともに回転する第1固定フレーム31と、前記ベースに固定接合されるとともに、前記第2接続部122に外嵌されて固定されて前記第2回転軸12とともに回転する第2固定フレーム32と、
それぞれ前記第1軸部111及び第2軸部121上に外嵌されて固定されて共に回転する第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412を有し、前記第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は、それぞれ第1扇形部411a及び第2扇形部412aを有し、前記第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は、それぞれ第1ストッパ凸部511a及び第2ストッパ凸部511bとそれぞれ一定の開放角度で互いに干渉して、それぞれ前記第1回転軸11及び第2回転軸12の回転角度を制限するストッパ機構40と、
一対の支持片511、512を有し、その間に第1位置制限カム521、第2位置制限カム522及び切換片53が設けられ、前記第1位置制限カム521に第1位置制限口521aが設けられるとともに、前記第1軸部111上に嵌着されて共に回転し、前記第2位置制限カム522に第2位置制限口522aが設けられるとともに、前記第2軸部121上に嵌着されて共に回転し、前記切換片53は揺動可能な輪部533を有するとともに、前記輪部533に前記第1位置制限カム521と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロック532が外向きに突設され、前記第1ストッパ輪411と前記第1ストッパ凸部511aとが互いに干渉すると、前記切換片53が揺動し、前記第1位置制限ブロック531が前記第1位置制限口521a内に嵌入して、前記第1回転軸11が回転不能となり、前記第2回転軸12のみが回転可能となるように制限し、前記第2ストッパ輪412と前記第2ストッパ凸部511bとが互いに干渉すると、前記切換片53が揺動し、前記第2位置制限ブロック532が前記第2位置制限口522a内に嵌入して、前記第2回転軸12が回転不能となり、前記第1回転軸11のみが回転可能となるように制限する位置制限構造50とを含み、
さらに、一対の支持片511、512のうち、支持片512は、第1回転軸11及び第2回転軸12をそれぞれ回転可能に挿通させる円形の孔を有しており、第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は、それぞれ、第1回転軸11及び第2回転軸12に回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に支持片512に隣接して取り付けられており、第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は、それぞれ支持片512の外側面に接触するとともに、その接触面に凸ブロック213a、223aが設けられており、支持片512の外側面であって、第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223と接触する部分にはそれぞれ凹部512aが設けられており、前記第1トルク装置21及び前記第2トルク装置22は、前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223に接して設けられて、それぞれ前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223を圧迫して、支持片512の外側面に設けられた凹部512aと、前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223の凸ブロック213a、223aとの間の接触により前記上カバーに、前記ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を備えさせるものである、位置制限機能を有する2軸式ヒンジ。


イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「2軸式ヒンジ」ないし「位置制限機能を有する2軸式ヒンジ」は、本件発明1の「2軸ヒンジ」に相当する。
b 甲1発明の「第1回転軸11」及び「第2回転軸12」は、それぞれ本件発明1の「第1ヒンジシャフト」及び「第2ヒンジシャフト」に相当する。
c 甲1発明の「一対の支持片511、512」は、所定間隔を空けて設けられているものであり、これらによって、「第2回転軸12」は「前記第1回転軸11と軸方向上で平行に設置される」ものであり(甲第1号証の第1図を参照。)、また、「第1回転軸11」及び「第2回転軸12」は互いに回転可能になるように連結されているといえる。したがって、甲1発明の「一対の支持片511、512」は、本件発明1の「所定間隔を空けて設けられ」「第1ヒンジシャフトと」「第2ヒンジシャフトとを平衡状態で互いに回転可能となるように連結した部材」に相当する。
d 甲1発明は、「第1回転軸11」が「少なくとも第1軸部111及び第1接続部112を有」し、「第2回転軸12」が「少なくとも第2軸部121及び第2接続部122を有し」、「上カバー及びベースを有する折畳み式電子製品」の「前記上カバーに固定接合されるとともに、前記第1接続部112に外嵌されて固定されて前記第1回転軸11とともに回転する第1固定フレーム31と、前記ベースに固定接合されるとともに、前記第2接続部122に外嵌されて固定されて前記第2回転軸12とともに回転する第2固定フレーム32と」「を含」むものであるから、甲1発明の「第1回転軸11」は「上カバー」側へ取り付けられ、「第2回転軸12」は「ベース」側へ取り付けられているといえる。したがって、甲1発明の「上カバー」及び「ベース」は、それぞれ本件発明1の「第1の筐体」及び「第2の筐体」に相当する。
e 上記a〜dより、甲1発明の「上カバー及びベースを有する折畳み式電子製品に設置される位置制限機能を有する2軸式ヒンジであって、少なくとも第1軸部111及び第1接続部112を有する第1回転軸11と、少なくとも第2軸部121及び第2接続部122を有し、前記第1回転軸11と軸方向上で平行に設置される第2回転軸12と」、「前記上カバーに固定接合されるとともに、前記第1接続部112に外嵌されて固定されて前記第1回転軸11とともに回転する第1固定フレーム31と、前記ベースに固定接合されるとともに、前記第2接続部122に外嵌されて固定されて前記第2回転軸12とともに回転する第2固定フレーム32と」「を含」むことは、本件発明1の「第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した」ことに相当する。
f 甲1発明の「位置制限構造50」は、「前記第1回転軸11が回転不能となり、前記第2回転軸12のみが回転可能となるように制限し」、「前記第2回転軸12が回転不能となり、前記第1回転軸11のみが回転可能となるように制限する」ものであるから、第1回転軸11と第2回転軸12を交互に回転させる選択的回転規制手段といえる。また、甲1発明の「位置制限構造50」は、一対の支持片511、512の間に第1位置制限カム521、第2位置制限カム522及び切換片53が設けられたものである。したがって、甲1発明の「位置制限構造50」は、本件発明1の「選択的回転規制手段」に相当するとともに、甲1発明の「一対の支持片511、512」「の間に」設けた「前記第1回転軸11が回転不能となり、前記第2回転軸12のみが回転可能となるように制限し」、「前記第2回転軸12が回転不能となり、前記第1回転軸11のみが回転可能となるように制限する」「位置制限構造50」は、本件発明1の「所定間隔を空けて設けられ」た「部材間に」設けた「前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段」に相当する。
g 甲1発明の「位置制限構造50」は、「一対の支持片511、512を有し、その間に第1位置制限カム521、第2位置制限カム522及び切換片53が設けられ」ているものであるところ、その「第1位置制限カム521」は、「第1位置制限口521aが設けられるとともに、前記第1軸部111上に嵌着されて共に回転」するものであり、また、「第2位置制限カム522」は、「第2位置制限口522aが設けられるとともに、前記第2軸部121上に嵌着されて共に回転」するものであるから、甲1発明の「第1位置制限カム521」及び「第2位置制限カム522」は、第1回転軸11と第2回転軸12のそれぞれに回転を拘束させて当該第1回転軸11と当該第2回転軸12と共に回転可能に設けられているものといえる。したがって、甲1発明の「第1位置制限カム521」及び「第2位置制限カム522」は、それぞれ本件発明1の「第1ロックカム部材」及び「第2ロックカム部材」に相当する。
また、甲1発明の「切換片53」は、「揺動可能な輪部533を有するとともに、前記輪部533に前記第1位置制限カム521と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロック532が外向きに突設され、前記第1ストッパ輪411と前記第1ストッパ凸部511aとが互いに干渉すると、前記切換片53が揺動し、前記第1位置制限ブロック531が前記第1位置制限口521a内に嵌入して、前記第1回転軸11が回転不能となり、前記第2回転軸12のみが回転可能となるように制限し、前記第2ストッパ輪412と前記第2ストッパ凸部511bとが互いに干渉すると、前記切換片53が揺動し、前記第2位置制限ブロック532が前記第2位置制限口522a内に嵌入して、前記第2回転軸12が回転不能となり、前記第1回転軸11のみが回転可能となるように制限する」ものであるから、第1位置制限カム521及び第2位置制限カム522の間に変位可能に設けられ、第1回転軸11及び第2回転軸12のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックする部材であるといえる。そして、第1回転軸11と第1位置制限カム521及び第2回転軸12と第2位置制限カム522は共に回転するものである。したがって、甲1発明の「切換片53」は、本件発明1の「ロック部材」に相当する。
h 上記f及びgより、甲1発明の「一対の支持片511、512を有し、その間に第1位置制限カム521、第2位置制限カム522及び切換片53が設けられ、前記第1位置制限カム521に第1位置制限口521aが設けられるとともに、前記第1軸部111上に嵌着されて共に回転し、前記第2位置制限カム522に第2位置制限口522aが設けられるとともに、前記第2軸部121上に嵌着されて共に回転し、前記切換片53は揺動可能な輪部533を有するとともに、前記輪部533に前記第1位置制限カム521と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロック532が外向きに突設され、前記第1ストッパ輪411と前記第1ストッパ凸部511aとが互いに干渉すると、前記切換片53が揺動し、前記第1位置制限ブロック531が前記第1位置制限口521a内に嵌入して、前記第1回転軸11が回転不能となり、前記第2回転軸12のみが回転可能となるように制限し、前記第2ストッパ輪412と前記第2ストッパ凸部511bとが互いに干渉すると、前記切換片53が揺動し、前記第2位置制限ブロック532が前記第2位置制限口522a内に嵌入して、前記第2回転軸12が回転不能となり、前記第1回転軸11のみが回転可能となるように制限する位置制限構造50とを含」むことは、本件発明1の「この選択的回転規制手段を、前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で一体に形成したロック部材とで構成」することとの対比において、「この選択的回転規制手段を、前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間に変位可能に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところのロック部材とで構成」するとの限度で共通する。
i 甲1発明の「前記第1回転軸11及び第2回転軸12の回転角度を制限するストッパ機構40」は、第1回転軸11及び第2回転軸12それぞれの回転角度を規制するストッパー手段であるといえる。したがって、甲1発明の「それぞれ前記第1軸部111及び第2軸部121上に外嵌されて固定されて共に回動する第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412を有し、前記第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は、それぞれ第1扇形部411a及び第2扇形部412aを有し、前記第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は、それぞれ第1ストッパ凸部511a及び第2ストッパ凸部511bとそれぞれ一定の開放角度で互いに干渉して、それぞれ前記第1回転軸11及び第2回転軸12の回転角度を制限するストッパ機構40」は、本件発明1の「前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転角度を規制するストッパー手段」に相当する。
j 甲1発明の「支持片512」は、「第1回転軸11及び第2回転軸12をそれぞれ回転可能に挿通させる円形の孔を有して」いるから、それぞれの孔は軸受機能ををもつ軸受部を有しているといえ、また、「一対の支持片511、512」の間に「切換片53が設けられ」ていることからして、「切換片53」の「他方の側」といえる外側に設けられているといえる。
したがって、甲1発明の「第1回転軸11及び第2回転軸12をそれぞれ回転可能に挿通させる円形の孔を有して」いる「支持片512」は、本件発明1の「前記選択的回転規制手段の他方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受部と第2軸受部を有する連結部材」に相当する。
k 甲1発明の「第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223」は、「それぞれ、第1回転軸11及び第2回転軸12に回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に支持片512に隣接して取り付けられて」ているから、本件発明1の「連結部材に隣接して設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトに回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に取り付けられた第1カムフォロワーと第2カムフォロワー」に相当する。
l 甲1発明は、「第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は、それぞれ支持片512の外側面に接触するとともに、その接触面に凸ブロック213a、223aが設けられており、支持片512の外側面であって、第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223と接触する部分にはそれぞれ凹部512aが設けられており」、「支持片512の外側面に設けられた凹部512aと、前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223の凸ブロック213a、223aとの間の接触により前記上カバーに、前記ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を備えさせるもので」ある。
ここで自動閉合機能は、吸い込み機能であるといえるから、甲1発明の「支持片512」と「第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223」の両者で、本件発明1の「連結部材」と「第1カムフォロワーと第2カムフォロワーとを有する」「吸い込み手段」に相当するとともに、本件発明1の「前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に吸込み機能を発揮させる」に相当する機能を発揮させているといえる。
m 甲1発明の「前記第1トルク装置21及び第2トルク装置22」は、「前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223に接して設けられて、それぞれ前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223を圧迫して、支持片512の外側面に設けられた凹部512と、前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223の凸ブロック213a、223aとの間の接触により前記上カバーに、前記ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を備えさせるものである」から、自動閉合機能のための弾性手段であるといえ、本件発明1の「弾性手段」に相当する。
したがって、甲1発明の「前記第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223に接して設けられて、それぞれ前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223を圧迫して、支持片512の外側面に設けられた凹部512と、前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223の凸ブロック213a、223aとの間の接触により前記上カバーに、前記ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を備えさせるものである」ことは、本件発明1の「この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接して設けた前記フリクショントルク発生手段と前記吸い込み手段の両方に作用する弾性手段とを設けた」こととの対比において、「この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接して設けた前記吸い込み手段に作用する弾性手段とを設けた」との限度で共通する。
ここで、判決において、本件発明1と甲1発明1の一致点及び相違点の認定に関し、「ウ なお、甲1文献(当審注:「甲第1号証」のこと。以下同様。)の第1図によると、甲1発明のヒンジの第1回転軸11の第1軸部111及び第2回転軸12の第2軸部121の各断面の形状は略長方形であり、また、第1軸部111が挿通する弾性片211及び第1自動閉合輪213並びに第2軸部121が挿通する弾性片221及び第2自動閉合輪223に設けられた各孔の形状はいずれも略長方形であることが認められるから、弾性片211及び第1自動閉合輪213は、第1回転軸11に、弾性片221及び第2自動閉合輪223は、第2回転軸12に、それぞれ回転が拘束されて取り付けられていると認められる。そうすると、上記の各弾性片の間の各接触面及び各弾性片と第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223との間の各接触面にフリクショントルクは発生しないというべきである。そして、前記2(1)(当審注:本審決の上記「1(1)(a3)」のこと。)のとおり、甲1文献(当審注:「甲第1号証」のこと。)には、『第1トルク装置21は、第1軸部111上に設置されて回転トルクを提供し、第2トルク装置22は、第2軸部121上に設置されて回転トルクを提供する。第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、それぞれ第1軸部111及び第2軸部121上に嵌接される複数の弾性片211、221を有するとともに、それぞれ固定ネジ212、222で第1軸部111及び第2軸部121に螺合して固定される。第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、それぞれ第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223を圧迫して、上カバーに、ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を備えさせる。第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は、それぞれ支持片512の外側面に接触するとともに、その間の接触面上にそれぞれ互いに対応する凸ブロック213a、223a(第1A図参照)及び凹部512aが設けられて、自動閉合機能を達成する。この機能については関連する先行考案中の説明を参照することができる。』との記載があるが、同記載に、上記のとおり、甲1発明の第1トルク装置21及び第2トルク措置22内にフリクショントルクは発生しないことを併せ考慮すると、第1トルク装置21及び第2トルク措置22は、支持片512と第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223に自動閉合機能を持たせるための回転トルクを提供する部材であり、本件発明1の『弾性手段』に当たるというべきである。」(判決書第99頁ないし第100頁「3 取消事由1のうち甲1発明を主引用発明とした場合の本件発明1の進歩性について(2)ウ」)と判断されており、この判断は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、当合議体を拘束する。このため、上記対比中のm、以下の<一致点1>及び<相違点1’>は、いずれも判決による拘束を受けた内容となっている。

n 以上のとおりであるから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

<一致点1>
「所定間隔を空けて設けられ、第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を、前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間に変位可能に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところのロック部材とで構成し、さらに前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に吸込み機能を発揮させる吸い込み手段と、前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転角度を規制するストッパー手段を設け、前記吸い込み手段を前記選択的回転規制手段の他方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受部と第2軸受部を有する連結部材と、この連結部材に隣接して設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトに回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に取り付けられた第1カムフォロワーと第2カムフォロワーとを有するものとし、この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接して設けた前記吸い込み手段に作用する弾性手段とを設けた、2軸ヒンジ。」
<相違点1’>
本件発明1は、「前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転時にフリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段」を設け、同フリクション発生手段が「前記第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側と前記選択的回転規制手段の一方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有するフリクションプレートと、前記フリクションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーと、前記フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し軸方向へスライド可能であるが、回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーを有するもの」であり、また、本件発明1の「弾性手段」は、「吸い込み手段」と「フリクショントルク発生手段」の「両方に作用する」ものであるのに対し、甲1発明は、「前記第1軸部111上に設置されて回転トルクを提供する第1トルク装置21と、前記第2軸部121上に設置されて回転トルクを提供する第2トルク装置22と」が、「支持片512の外側面に接触する」「前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223に接して設けられており、また、「前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223を圧迫」するものとされている点。
<相違点2>
本件発明1の「ロック部材」は、「単一の部材で一体に形成した」ものであり、「前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ」ているものであるのに対し、甲1発明の「切換片53」は、単一の部材で一体に形成したものであるとは特定されておらず、「前記切換片53は揺動可能な輪部533を有するとともに、前記輪部533に前記第1位置制限カム521と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限部531及び第2位置制限部532が外向きに突設され」ているものである点。

(イ)判断
a 相違点1’について
判決において、相違点1’の判断に関し、以下のとおり判断されており、この判断は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、当合議体を拘束する。
「(ア)本件特許に係る特許請求の範囲の記載及び前記1で認定した本件明細書の記載(当審注:本件特許明細書の【0005】の記載のこと。)からすると、本件発明は、ノートパソコンをタブレットとしても用いることができるようにするために、第1の筐体と第2の筐体を0度から少なくとも180度以上好ましくは360度に渡って規則性を持って開閉でき、任意の開閉角度で安定停止状態で開閉できる2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器を提供しようとするものであると認められる。
そして、本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載によると、本件発明1は、フリクショントルク発生手段の構成について、第1ヒンジシャフト及び第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させたフリクションプレートと、第1ヒンジシャフト及び第2ヒンジシャフトに回転を拘束させて取り付けた二つのフリクションワッシャーを有するものとし、フリクションプレートと各フリクションワッシャーとを隣接させるものとしていることから、フリクションプレートと各フリクションワッシャーとの間の接触面においてフリクショントルクを発生させるものとしていると認められるところ、一方で、本件発明1は、吸い込み手段の構成について、第1ヒンジシャフト及び第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた連結部と、第1ヒンジシャフト及び第2ヒンジシャフトに回転を拘束させて取り付けた二つのカムフォロアーを有するものとし、連結部と各カムフォロアーを隣接させるものとしていることから、吸い込み手段の構成は、摩擦を発生させる構成に関しては、フリクショントルク発生手段と同一の構成となっている。そして、本件明細書には、フリクショントルク発生手段が吸い込み手段よりも大きな摩擦を発生させることや、そのための具体的構成については記載されていないこと、前記1(当審注:本件特許明細書のこと。)のとおり、本件明細書には、『・・・尚、この際におけるフリクショントルクは、吸い込み手段17の第1吸い込み手段17aによっても創出されるが、これは補助的なものであり、この場合の主たるフリクショントルクは、フリクショントルク発生手段16の第1フリクショントルク発生手段16aによって創出される。』(段落【0030】)、『・・・尚、この際におけるフリクショントルクは、吸い込み手段17の第2吸い込み手段17bによっても創出されるが、これは補助的なものであり、この時の主たるフリクショントルクは、フリクショントルク発生手段16の第2フリクション手段16bによって創出される。』(段落【0035】)との記載があることからすると、本件発明1においては、フリクショントルクは、フリクショントルク発生手段のみによって発生するのではなく、少なくとも吸い込み手段からも発生しているというべきである。
したがって、本件発明1の『フリクショントルク』とは、任意の開閉角度で自由に停止保持させることを可能とするフリクショントルクを意味するが、同フリクショントルクを『フリクショントルク発生手段』のみによって発生する必要はないというべきである。そして、ヒンジが上記のフリクショントルクを発生させており、同ヒンジにおいて、フリクショントルクのほとんどを発生させているなど、同ヒンジのフリクショントルク発生機能を担っていると明確に認識できる部材がない場合は、同フリクショントルクを発生させる部材であって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を有する部材であれば、本件発明1の『フリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段』に当たると解するのが相当である。
(イ)a(a)前記2(当審注:本審決の上記「1 各甲号証の記載」のこと。)のとおり、甲4文献(当審注:甲第4号証のこと。以下、対応する各甲号証を括弧で記載。)、甲6文献(甲第6号証)〜甲8文献(甲第8号証)、甲10文献(甲第10号証)〜甲13文献(甲第13号証)には、ノート型パソコン等の折り畳み式の電子機器に使用されるヒンジに、任意の開閉角度で自由に停止保持させることを可能とするフリクショントルクを発生させる機能を持たせること、同機能を実現する方法としては、複数のプレート状の部材やワッシャー状の部材を隣接させ、これらを弾性手段等により圧接し、プレート状の部材又はワッシャー状の部材の接触面においてフリクショントルクを発生させるという方法があること、フリクショントルクを発生させる部材の一つはシャフトの回転に伴って回転しない部材である必要があることが記載されており、同記載からすると、上記の各記載事項は周知であったと認められる(同技術を『本件周知技術』という。)。
(b)この点、原告は、台湾公開TW20122206A1公報(甲51)及び特開2012−256305号公報(甲52)の折り畳み式の電子機器に使用されているヒンジは、第1の筐体に対して第2の筐体を中間開閉角度で保持するフリクショントルクを発生しないから、ノート型パソコン等の折り畳み式の電子機器に使用されるヒンジが上記のようなフリクショントルクを発生させる機能を有するとは限らないと主張する。
しかし、上記各文献の折り畳み式の電子機器は、第2の筐体を中間開閉角度で支える部材を備えているから(甲51、52)、そのヒンジに上記のようなフリクショントルクを発生させる必要はないものである。
かえって、上記各文献の折り畳み式の電子機器において、第2の筐体を中間開閉角度で支える部材がないのであれば、その代わりに、ヒンジに上記のフリクショントルクを発生させる機能を持たせる必要があるというべきである。
b 前記2(1)(当審注:上記1(1)のこと。)のとおり、甲1文献(甲第1号証)には、『第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、それぞれ第1軸部111及び第2軸部121上に嵌接される複数の弾性片211、221を有するとともに、それぞれ固定ネジ212、222で第1軸部111及び第2軸部121に螺合して固定される。第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、それぞれ第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223を圧迫して、上カバーに、ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を備えさせる。』と記載されているが、同記載と甲1文献(甲第1号証)の第1図からすると、甲1発明のストッパ機構40、位置制限構造50、支持片512及び第1トルク発生装置・第2トルク発生装置は、第1回転軸11・第2回転軸12の各フランジ部と固定ネジ212・222の間に設置され、ストッパ機構40、位置制限構造50及び支持片512は、第1トルク発生装置・第2トルク発生装置によって圧迫されていることが認められる。前記2(1)(当審注:上記1(1)のこと。)のとおり甲1発明のヒンジはノート型パソコンにも使用されるものであること及び本件周知技術に、甲1(甲第1号証)には前記a(b)のような筐体を中間開閉角度で支える部材は記載されていないことを考慮すると、支持片511と第1ストッパ輪411・第2ストッパ輪412の間、支持片511と第1位置制限カム521・第2位置制限カム522の間、第1位置制限カム521・第2位置制限カム522と支持片512の間、支持片512と第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223の間に摩擦が生じており、これらの摩擦が合わさることにより、任意の開閉角度で自由に停止保持させることを可能とするフリクショントルクが発生しているものと認められる。また、支持片511と第1ストッパ輪411・第2ストッパ輪412の間、支持片511と第1位置制限カム521・第2位置制限カム522の間、第1位置制限カム521・第2位置制限カム522と支持片512の間、支持片512と第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223の間に生じる摩擦の程度については、いずれも同程度の面積の接触面から発生しているから、それらに顕著な差があるとは認められず、したがって、いずれかが、フリクショントルクのほとんどを発生させているなど、ヒンジのフリクショントルク発生手段を担っていると明確に認識できる部材であるということはできない。
そして、甲1文献(甲第1号証)の記載によると、支持片511は、第1回転軸11及び前記第2回転軸12の各フランジ側と位置制限構造50の一方の側に設けられ、二つの孔に第1回転軸11と第2回転軸12を回転可能に挿通させており、第1ストッパ輪411は、支持片511の隣に位置し、第1回転軸11に対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束されて取り付けられており、第2ストッパ輪412は、持片511(当審注:「支持片511」の誤記。)の隣に位置し、第2回転軸12に対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束されて取り付けられていると認められる。
したがって、支持片511及び第1ストッパ輪411・第2ストッパ輪412は、本件発明1の『フリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段』に当たるというべきである。
c そして、前記(2)ウ(当審注:上記(ア)mにおいて引用した判決書の(2)ウ)のとおり、第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、本件発明1の『弾性手段』に当たり、また、上記bのとおり、ストッパ機構40及び支持片512は、第1トルク発生装置・第2トルク発生装置によって圧迫されているから、甲1発明においては、『弾性手段』は、『吸い込み手段』と『フリクショントルク発生手段』の双方に作用するといえる。
d 以上より、相違点1’は、実質的な相違点ということはできない。」(判決書第100ないし104頁「3 取消事由1のうち甲1発明を主引用発明とした場合の本件発明1の進歩性について(3)相違点の判断」)
したがって、相違点1’は、実質的な相違点ということはできない。

b 相違点2について
(a)甲1発明の「切換片53」の構成は、揺動可能な輪部533を有するとともに、輪部533に第1位置制限カム521と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロック532が外向きに突設されるというものであるところ、このような構成の部材は、製造コスト、手間等を考慮して単一の部材で一体として形成することが当業者にとって格別困難であったとはいえないから、「切換片53」を単一の部材として構成するか、複数の部材を組み立てたものとして構成するかは、当業者が適宜選択し得るものである。
(b)また、甲第1号証によると、第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532の両側面に突設されたそれぞれ一対の第1ガイドブロック531a及び一対の第2ガイドブロック532aは、支持片511、512上に設けられたガイド溝511c、512c内に挿入されて、輪部533の両側に設けられた短軸534を中心として切換片53が揺動することにより、一対の第1ガイドブロック531a及び一対の第2ガイドブロック532aが、ガイド溝511c、512c内で揺動するものであることが認められるところ、本件発明1の選択的回転規制手段を構成する「ロック部材」は、「前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ」ていれば足りるから、同「ロック部材」の「スライド」は、甲1発明の「切換片53」の上記のような態様の「揺動」も含むものと認められる。
したがって、相違点2のうち、本件発明1の「ロック部材」が、「前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ」ているのに対し、甲1発明の「切換片53」は、「前記切換片53は揺動可能な輪部533を有するとともに、前記輪部533に前記第1位置制限カム521と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロック532が外向きに突設され」ている点は、実質的な相違点ということはできない。
(c)よって、当業者は、相違点2に係る甲1発明の構成を本件発明1の構成とすることを容易に想到することができたといえる。

c 作用効果について
本件発明1の作用効果についても、甲1発明に基いて、あるいは、甲1発明及び本件周知技術に基いて当業者であれば予測しうるものであり格別なものとはいえない。

d 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に基いて、あるいは、甲1発明及び本件周知技術に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件発明3について
本件発明3は、請求項1に記載の2軸ヒンジ、すなわち、本件発明1を用いた端末機器であるといえる。
したがって、本件発明3と甲1発明とは、上記イ(ア)で摘示した相違点1’及び2で相違するとともに、さらに、本件発明3が本件発明1(2軸ヒンジ)を用いた端末機器であるのに対し、甲1発明(位置制限機能を有する2軸式ヒンジ)の用途については特定されていない点で相違し、その余の点で一致するといえる。
しかしながら、甲第1号証には、甲1発明を用いた端末機器であるノート型パソコン等の折り畳み式電子機器が記載されている(以下、「甲第1号証に記載の技術的事項1」という。)。
してみれば、上記イ(イ)での説示を踏まえれば、本件発明3は、甲1発明及び甲第1号証に記載の技術的事項1に基いて、あるいは、甲1発明、本件周知技術及び甲第1号証に記載の技術的事項1に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものである。

エ 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由に対する被請求人の主張について
a 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由に対する被請求人の主張
甲第1号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由に対する被請求人の主張のうち主なものは概略次のとおりである。
(a)甲第1号証に記載の「第1トルク装置21と第2トルク装置22」では、2軸ヒンジに必要なフリクショントルクが得られない。本件特許発明1は、別に専用のフリクションプレートを用いて、吸い込み手段とは別にフリクショントルク発生手段を設けるものである。
したがって、甲1号証に記載の発明の「第1トルク装置21と第2トルク装置22」は、本件特許発明1の「吸い込み手段」を構成するものであって、「フリクショントルク発生手段」を構成するものではない(答弁書第4頁第6行〜第5頁第9行、口頭審理陳述要領書第2頁下から4行〜第3頁第14行、同第4頁第9行〜第23行)。
(b)「フリクションプレートやフリクションワッシャーといった場合には、当然に摩擦係数が高く、かつ耐摩耗を有する材料を使用するわけで、それによって、例えば10万回という使用回数に対しても初期設定の摩擦トルクが極力低下しない材料を用いています。・・・甲第1号証において指示記号511と411及び412で示されているものは、・・・いずれもフリクション部材である旨の記載はありません。よって、これらの部材間にフリクションが発生したとしても、それは本件特許でいうフリクショントルク発生手段ではないことは明らかであります。」(令和1年12月27日付け訂正請求書第8頁第6行〜第16行)
(c)「訂正請求項1に記載のフリクショントルク発生手段と吸い込み手段と弾性手段の各構成と組み合わせは、甲第1号証と甲第2号証には記載も示唆もされておりません。さらに、その他の甲第3号証〜甲第4号証と甲第6号証〜甲第8号証に各記載された公知のフリクショントルク発生手段と対比いたしましても、このフリクショントルク発生手段の要部を選択的回転規制手段に隣接して設けた点と、第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能、かつ回転可能に挿通させたフリクションプレート、及びこのフリクションプレートそれぞれ2軸ヒンジの第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトに対して軸方向へスライド可能、かつ回転を拘束させたフリクションワッシャーを圧接させるように成した点は、記載も示唆もされていず、構成上の違いとその作用効果上の違いは明確であります。即ち、フリクショントルク発生手段そのものが公知であったとしても、公知技術のものとは異なる構成へのヒンジへ、どの様に配置し組み込むかにつきましては創造性が必要とされるものであり、そこに保護されるべき発明が認められるべきものと思料いたします。・・・」(令和1年12月27日付け訂正請求書第8頁第17行〜第9頁第6行)

b 被請求人の主張に対する当審の判断
(a)上記主張(a)について
上記イ(イ)aで説示のとおり、甲1発明の支持片511及び第1ストッパ輪411・第2ストッパ輪412は、本件発明1の「フリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段」に当たる。また同様に、甲1発明の第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、本件発明1の「弾性手段」に当たり、甲1発明のストッパ機構40及び支持片512は、第1トルク発生装置・第2トルク発生装置によって圧迫されているから、甲1発明においては、「弾性手段」は、「吸い込み手段」と「フリクショントルク発生手段」の双方に作用するといえるものである。
したがって、被請求人の上記(a)の主張は採用できない。
(b)上記主張(b)について
本件特許明細書の記載(段落【0006】)によると、本件発明の目的は、ノートパソコンのような端末機器の第1の筐体と第2の筐体を0度から少なくとも180度以上好ましくは360度にわたって規則性を持って開閉でき、任意の開閉角度で安定停止状態で開閉できる2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器を提供することにあると認められ、本件特許明細書には、本件発明1の備えるフリクショントルクを、通常のフリクショントルクとは異なる耐久性を有するものとする記載はない。
そして、本件特許に係る特許請求の範囲請求項1の記載によると、本件発明1は、フリクショントルク発生手段の構成について、第1ヒンジシャフト及び第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させたフリクションプレートと、第1ヒンジシャフト及び第2ヒンジシャフトに回転を拘束させて取り付けた二つのフリクションワッシャーを有するものとし、フリクションプレートと各フリクションワッシャーとを隣接させるものとしていることから、フリクションプレートと各フリクションワッシャーとの間の接触面においてフリクショントルクを発生させるものとしていると認められるところ、上記イ(イ)aのとおり、甲1発明のフリクショントルク発生手段の構成は、支持片511が、第1回転軸11及び前記第2回転軸12の各フランジ側と位置制限構造50の一方の側に設けられ、二つの孔に第1回転軸11と第2回転軸12を回転可能に挿通させており、第1ストッパ輪411が、支持片511の隣に位置し、第1回転軸11に対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束されて取り付けられており、第2ストッパ輪412が、支持片511の隣に位置し、第2回転軸12に対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束されて取り付けられているというものであるから、本件発明1のフリクショントルク発生手段の構成と甲1発明のフリクショントルク発生手段の構成は同一であると認められ、したがって、両者で、発生するフリクショントルクの程度に差異があるとは認められない。
したがって、被請求人の上記(b)の主張は採用できない。
(c)上記主張(c)について
上記イ(イ)aで説示のとおり、甲1発明の支持片511及び第1ストッパ輪411・第2ストッパ輪412は、本件発明1の「フリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段」に当たる。
また同様に、甲1発明の第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、本件発明1の「弾性手段」に当たる。
さらに、上記イ(ア)lで説示のとおり、甲1発明の「支持片512」と「第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223」の両者で、本件発明1の連結部材と第1カムフォロワーと第2カムフォロワーとを有する「吸い込み手段」に相当するものである。
そうすると、甲1発明のストッパ機構40及び支持片512は、第1トルク発生装置・第2トルク発生装置によって圧迫されているから、甲1発明においては、「弾性手段」は、「吸い込み手段」と「フリクショントルク発生手段」の双方に作用するといえるものであって、甲1発明はフリクショントルク発生手段と吸い込み手段と弾性手段の各構成と組み合わせを有しているものといえる。
したがって、被請求人の上記(c)の主張は採用できない。

(2)甲第2号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の上記1(2)の摘示事項(b4)及び図4−1から図4−5までの記載から、「電子装置6の上カバー61と前記電子装置6の下カバー62が合計360度に渡って上下方向に開閉操作ができるものである」ことが認定できる。
上記1(2)の記載事項及び上記認定事項より、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

[甲2発明]
「第1回転軸11及び前記第1回転軸11に接続され、電子装置6の上カバー61を接続する第1取付部12を含み、前記第1回転軸11は、前記第1回転軸11の周縁に設けられた第1当接部112及び前記第1当接部112上において前記第1回転軸11に沿って軸方向に開設された第1位置決め凹溝111を有する第1回動部材1と、
第2回転軸21及び前記第2回転軸21に接続され、電子装置6の下カバー62を接続する第2取付部22を含み、前記第2回転軸21は、前記第2回転軸21の周縁に設けられた第2当接部212及び前記第2当接部212上において前記第2回転軸21に沿って軸方向に開設された第2位置決め凹溝211を有する第2回動部材2と、
前記第1回転軸11を貫設するための第1貫設孔31と、前記第2回転軸21を貫設するための第2貫設孔32と、前記第1貫設孔31と前記第2貫設孔32との間に設けられた軌道部33と、前記軌道部33上に設けられ、前記軌道部33に沿って摺動する摺動位置決め部34とを含み、前記摺動位置決め部34は、前記第2当接部212の当接を受けて前記第1位置決め凹溝111内に係合して、前記第1回転軸11の回転が第1制限状態を有するように制限し、前記摺動位置決め部34は、前記第1当接部112の当接を受けて前記第2位置決め凹溝211内に係合して、前記第2回転軸21の回動が第2制限状態を有するように制限する接続部材3とを含み、前記電子装置6の上カバー61と前記電子装置6の下カバー62が合計360度に渡って上下方向に開閉操作ができるものであり、
前記第1回転軸11は、第1位置制限部113を更に有し、前記第2回転軸21は、第2位置制限部213を更に有し、前記接続部材3は、それぞれ前記第1位置制限部113に当接して前記第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と、前記第2位置制限部213に当接して前記第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを更に含む2軸ヒンジ。」

イ 本件発明2について
先に、本件発明2について検討する。
(ア)対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「2軸ヒンジ」は、本件発明2の「2軸ヒンジ」に相当する。
b 甲2発明の「電子装置の上カバー61」及び「電子装置6の下カバー62」は、それぞれ本件発明2の「第1の筐体」及び「第2の筐体」に相当する。この点を踏まえれば、甲2発明の「第1回転軸11」は、「電子装置の上カバー61を接続する第1取付部12」に接続されるものであるから、本件発明2の「第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフト」に相当する。同様に、甲2発明の「第2回転軸21」は、「電子装置の下カバー62を接続する第2取付部22」に接続されるものであるから、本件発明2の「第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフト」に相当する。
c 甲2発明の「接続部材3」は、「前記第1回転軸11を貫設するための第1貫設孔31と、前記第2回転軸21を貫設するための第2貫設孔32と」を有するものであるから、第1回転軸11と第2回転軸21とを互いに回転可能に連結する部材といい得るし、機能的にみて第1回転軸11と第2回転軸21とは平行状態に連結されているといえる(甲第2号証の図1〜3を参照。)。したがって、甲2発明の「接続部材3」は、本件発明2の「所定間隔を空けて設けられ」た「部材」との対比において、「部材」との限度で共通する。
d 甲2発明の「摺動位置決め部34」は、「接続部材3」に設けられた「軌道部33に沿って摺動する」ものであり、「前記第2当接部212の当接を受けて前記第1位置決め凹溝111内に係合して、前記第1回転軸11の回転が第1制限状態を有するように制限し」、「前記第1当接部112の当接を受けて前記第2位置決め凹溝211内に係合して、前記第2回転軸21の回転が第2制限状態を有するように制限する」ものであるから、「摺動位置決め部34」の摺動すなわちスライドによって、第1回転軸11と第2回転軸12を交互に選択的に回転させているといえる。したがって、甲2発明は、第1回転軸11と第2回転軸12を交互に選択的に回転させる回転規制手段を設けているといえる。
e 上記b〜dより、甲2発明の「第1回転軸11及び前記第1回転軸11に接続され、電子装置6の上カバー61を接続する第1取付部12を含み、前記第1回転軸11は、前記第1回転軸11の周縁に設けられた第1当接部112及び前記第1当接部112上において前記第1回転軸11に沿って軸方向に開設された第1位置決め凹溝111を有する第1回動部材1と、第2回転軸21及び前記第2回転軸21に接続され、電子装置6の下カバー62を接続する第2取付部22を含み、前記第2回転軸21は、前記第2回転軸21の周縁に設けられた第2当接部212及び前記第2当接部212上において前記第2回転軸21に沿って軸方向に開設された第2位置決め凹溝211を有する第2回動部材2と、前記第1回転軸11を貫設するための第1貫設孔31と、前記第2回転軸21を貫設するための第2貫設孔32と、前記第1貫設孔31と前記第2貫設孔32との間に設けられた軌道部33と、前記軌道部33上に設けられ、前記軌道部33に沿って摺動する摺動位置決め部34とを含み、前記摺動位置決め部34は、前記第2当接部212の当接を受けて前記第1位置決め凹溝111内に係合して、前記第1回転軸11の回転が第1制限状態を有するように制限し、前記摺動位置決め部34は、前記第1当接部112の当接を受けて前記第2位置決め凹溝211内に係合して、前記第2回転軸21の回転が第2制限状態を有するように制限する接続部材3とを含」むことは、本件発明2の「所定間隔を空けて設けられ、第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと、第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け」との対比において、「第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと、第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け」るとの限度で共通する。
f 甲2発明の「第1当接部112」は、「前記第1回転軸11の周縁に設けられた」ものであり、第1回転軸11に回転を拘束させて当該第1回転軸11と共に回転可能に設けられているといえる。同様に、甲2発明の「第2当接部212」は、「前記第2回転軸21の周縁に設けられた」ものであり、第2回転軸21に回転を拘束させて当該第2回転軸21と共に回転可能に設けられているといえる。したがって、甲2発明の「第1当接部112」及び「第2当接部212」は、それぞれ本件発明2の「第1ロックカム部材」及び「第2ロックカム部材」に相当する。
g 上記d及びfより、甲2発明の「摺動位置決め部34」は、本件発明2の「ロック部材」に相当する。
また、上記cより、甲2発明の「接続部材3」は、第1回転軸11と第2回転軸21をそれぞれ回転可能に挿通させてなる部材であって、当該「接続部材3」に対し、「摺動位置決め部34」はスライド可能に係合されて、摺動するものである。
さらに、甲2発明の「摺動位置決め部34」は、「記第1位置決め凹溝111内に係合して、前記第1回転軸11の回転が第1制限状態を有するように制限し」、「前記第2位置決め凹溝211内に係合して、前記第2回転軸21の回動が第2制限状態を有するように制限する」ものであるから、「第1当接部112」と「第2当接部212」の間に設けられているといえる。
したがって、甲2発明の「前記第1回転軸11は、前記第1回転軸11の周縁に設けられた第1当接部112及び前記第1当接部112上において前記第1回転軸11に沿って軸方向に開設された第1位置決め凹溝111を有」し、「前記第2回転軸21は、前記第2回転軸21の周縁に設けられた第2当接部212及び前記第2当接部212上において前記第2回転軸21に沿って軸方向に開設された第2位置決め凹溝211を有し」、「前記第1回転軸11を貫設するための第1貫設孔31と、前記第2回転軸21を貫設するための第2貫設孔32と、前記第1貫設孔31と前記第2貫設孔32との間に設けられた軌道部33と、前記軌道部33上に設けられ、前記軌道部33に沿って摺動する摺動位置決め部34とを含み、前記摺動位置決め部34は、前記第2当接部212の当接を受けて前記第1位置決め凹溝111内に係合して、前記第1回転軸11の回転が第1制限状態を有するように制限し、前記摺動位置決め部34は、前記第1当接部112の当接を受けて前記第2位置決め凹溝211内に係合して、前記第2回転軸21の回転が第2制限状態を有するように制限する接続部材3とを含」むことは、本件発明2の「この選択的回転規制手段を、所定間隔を開けて設けられ、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成る連結部材及びスライドガイド部材と、前記連結部材及び前記スライドガイド部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記連結部材と前記スライドガイド部材に対しスライド可能に係合されると共に、前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム部材の間に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で一体に形成したロック部材と、で構成する」との対比において、「この選択的回転規制手段を、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成る部材と、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記部材に対しスライド可能に係合されると共に、前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム部材の間に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところのロック部材と、で構成する」との限度で共通する。
h 甲2発明の「前記電子装置6の上カバー61と前記電子装置6の下カバー62が合計360度に渡って上下方向に開閉操作ができる」ことは、本件発明2の「前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上下方向に開閉操作できるように成したこと」に相当する。
そして、甲2発明の「前記電子装置6の上カバー61と前記電子装置6の下カバー62が合計360度に渡って上下方向に開閉操作ができる」のは、甲2発明において、「前記摺動位置決め部34は、前記第2当接部212の当接を受けて前記第1位置決め凹溝111内に係合して、前記第1回転軸11の回転が第1制限状態を有するように制限し、前記摺動位置決め部34は、前記第1当接部112の当接を受けて前記第2位置決め凹溝211内に係合して、前記第2回転軸21の回転が第2制限状態を有するように制限」することによって、電子装置6の上カバー61と下カバー63が共に閉成状態にある時には、第1回転軸11の回転が許容されて上カバー61と下カバー63の相対的な開閉操作を行い、第2回転軸21の回転が許容された際には第1回転軸11の回転を規制するように構成されているからである(甲第2号証の図4−1〜図4−5を参照。)。
したがって、甲2発明の「前記摺動位置決め部34は、前記第2当接部212の当接を受けて前記第1位置決め凹溝111内に係合して、前記第1回転軸11の回転が第1制限状態を有するように制限し、前記摺動位置決め部34は、前記第1当接部112の当接を受けて前記第2位置決め凹溝211内に係合して、前記第2回転軸21の回転が第2制限状態を有するように制限」し、「前記電子装置6の上カバー61と前記電子装置6の下カバー62が合計360度に渡って上下方向に開閉操作ができる」ことは、本件発明2の「前記第1の筐体と前記第2の筐体が共に閉成状態にある時には前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのどちらかの回転が許容されて前記第1の筐体と前記第2の筐体の相対的な開閉操作を行い、前記第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトのいずれか一方が回転が許容された際には、他方の回転を規制するように構成することにより、前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上下方向に開閉操作できるように成したこと」に相当する。
i 以上のとおりであるから、本件発明2と甲2発明の一致点及び相違点は次のとおりとなる。

<一致点2>
「第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと、第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成る部材と、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記部材に対しスライド可能に係合されると共に、前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム部材の間に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところのロック部材と、で構成することにより、前記第1の筐体と前記第2の筐体が共に閉成状態にある時には前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのどちらかの回転が許容されて前記第1の筐体と前記第2の筐体の相対的な開閉操作を行い、前記第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトのいずれか一方が回転が許容された際には、他方の回転を規制するように構成することにより、前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上下方向に開閉操作できるように成した、2軸ヒンジ。」
<相違点A>
本件発明2は、「第1ヒンジシャフト」と「第2ヒンジシャフト」とを「平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材」を「所定間隔を開けて(当審注:「空けて」の誤記と認められる。)設けられ」「て成る連結部材及びスライドガイド部材」とし、「第1ロックカム部材」、「第2ロックカム部材」及び「ロック部材」は、「前記連結部材及び前記スライドガイド部材の間に」「設けられ」ており、しかも、「ロック部材」は、「前記連結部材と前記スライドガイド部材に対しスライド可能に係合される」ものであるのに対し、甲2発明は、第1回転軸11と第2回転軸21とを平行状態で互いに回転可能となるように連結する部材である「接続部材3」に対して、「第1当接部112」及び「第2当接部212」は隣接して設けられ、また、「摺動位置決め部34」は、「接続部材3」の「軌道部33に沿って摺動する」ように設けられている点。
<相違点B>
ロック部材に関し、本件発明2は、「単一の部材で一体に形成した」ものであるのに対し、甲2発明の「摺動位置決め部34」は、単一の部材で一体に形成したものであるとは特定されていない点。

(イ)判断
a 相違点Aについて
判決において、本件発明2と甲2発明の相違点Aに関し、以下のとおり判断されており、この判断は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、当合議体を拘束する。

「本件審決は、甲1文献(甲第1号証)には甲1文献(甲第1号証)記載技術的事項2、すなわち、『2軸式ヒンジにおいて、第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となるように連結する、一対の支持片511、512の間に、第1位置制限カム521、第2位置制限カム522及び一対の支持片511、512に対し、両側の短軸534により揺動可能である切換片53を設けることにより、第1回転軸11と第2回転軸12を交互に回転させるようにする』という技術事項が記載されているところ、甲2発明において、『接続部材3』を一対とすれば、第1回転軸11及び第2回転軸21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして、甲2発明に甲1文献(甲第1号証)記載技術的事項2を適用して、甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明1の構成とすることは容易であると判断し、被告も同様の主張をする。
しかし、前記2(2)(当審注:上記1(2))のとおり、甲2文献(甲第2号証)には、『本考案で開示されている開閉が安定した2軸ヒンジは、軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を更に含む。当該軸スリーブ4は、当該接続部材3に接続される接続板41と、当該接続板41に設置され、それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は、収容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ、当該軸スリーブ4と当該接続部材3とを収容し、当該接続板41と当該ハウジング5とに、相互に対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ、当該ハウジング5の収容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。』(段落【0016】)との記載があり、同記載と甲2文献(甲第2号証)の【図2】からすると、甲2発明に係るヒンジは、接続部材3に接続される接続板41と、同接続板41に設置され、それぞれ第1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えていることが認められ、同部材により、第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転可能に支持できるから、甲2発明においては、甲1文献(甲第1号証)記載技術的事項2を適用する必要はない。
また、前記3(1)(当審注:上記2(1)ア[甲1発明]のこと。)のとおり、甲1発明における支持片512は、第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223と共に自動閉合機能を発揮する部材を構成すること、第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイドブロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝512cを備えて、切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していること、第1トルク装置21及び第2トルク装置22は、第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223に接して設けられ、第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223を圧迫しており、この作用により、上記の自動閉合機能が発揮されることが認められるから、これらの部材(第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223、支持片512、切換片53)は、機能的に連動しており、一体的に構成されているといえる。また、甲1発明における支持片511は、第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412と一体となってストッパ機構を構成すること、第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸点511aとが互いに干渉すると、切換え片53(当審注:「切換片53」の誤記。)が揺動し、第1位置制限ブロック531が第1位置制限口521a内に嵌入して、第1回転軸11が回動不能となり、第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し、第2ストッパ輪412と当該第2ストッパ凸点511bとが互いに干渉すると、切換え片53(当審注:「切換片53」の誤記。)が揺動し、第2位置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して、第2回転軸12が回動不能となり、第1回転軸11のみが回動可能となるように制限すること、第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイドブロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝511cを備えて、切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していることが認められるから、これらの部材(切換片53、第1位置制限カム521・第2位置制限カム522、支持片511、第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411)も、機能的に連動しており、一体的に構成されているといえ、さらに、これらの部材と上記の第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223、支持片512も一体的に構成されているといえる。そして、上記のとおり、甲2発明は、軸スリーブ4及びハウジング5を備えることにより、第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転可能に支持できる構成を有しており、甲1文献(甲第1号証)記載技術事項2を適用する必要がないことを考慮すると、上記の一体的に構成された部材から、支持片511及び支持片512のみを取り出して、一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用する動機付けはないというべきである。
また、前記(1)(当審注:上記ア[甲2発明]のこと。)のとおり、甲2発明の接続部材3は、第1位置制限部113に当接して第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と、第2位置制限部213に当接して第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを有するのであるから、甲2発明は、甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備えていると認められ、また、前記(2)(当審注:上記イ(ア)<一致点2>のこと。)のとおり、甲2発明は、選択的回転規制手段を有しているところ、甲1発明の上記の一体的に構成された部材は、ストッパ機構と選択的回転規制手段を含むものであるから、甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発明に適用しようする(当審注:「適用しようとする」の誤記。)動機付けもないというべきである。
したがって、甲2発明に甲1文献(甲第1号証)記載技術的事項2を適用する動機付けはないというべきであり、甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構成とすることが甲1文献(甲第1号証)により動機付けられているということはできない。」(判決書第111ないし第114頁「4 取消事由2のうち甲2発明を主引用発明とした場合の本件発明2の進歩性について(3)ア」)

ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a 本件発明1は、文言上、本件発明2と「所定間隔を空けて設けられ、第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を」、「部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と」、「前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で一体に形成したロック部材」「とで構成」した「2軸ヒンジ」で共通し、また、実質的に、「ロック部材」が「前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム部材」の間にスライド可能に設けられている点で共通するので、本件発明1と甲2発明とは、上記イ(ア)a〜gで検討したと同様の相当関係を有する。
b 甲2発明は、「第1回転軸11」の「第1位置制限部113」及び「第2回転軸21」の「第2位置制限部213」が、「接続部材3」の「第1位置決め部35」及び「第2位置決め部36」にそれぞれ当接することによって、第1回転軸11と第2回転軸21の制限するものであるので、本件発明1の「ストッパー手段」の構成を備えているといえる。
したがって、甲2発明の「前記第1回転軸11は、第1位置制限部113を更に有し、前記第2回転軸21は、第2位置制限部213を更に有し、前記接続部材3は、それぞれ前記第1位置制限部113に当接して前記第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と、前記第2位置制限部213に当接して前記第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを更に含む」ことは、本件発明1の「前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転角度を規制するストッパー手段を設け」ることに相当する。
c 以上のとおりであるから、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

<一致点3>
「第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところのロック部材とで構成し、さらに前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転 角度を規制するストッパー手段を設けた、2軸ヒンジ。」
<相違点C>
本件発明1は、「第1ヒンジシャフト」と「第2ヒンジシャフト」とを「平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材」を「所定間隔を空けて設けられ」た部材とし、「第1ロックカム部材」及び「第2ロックカム部材」は、「各部材の間に」「設けられ」ており、「ロック部材」は、「前記第1ロック部材及び前記第2ロック部材の間にスライド可能に設けられ」ているものであるのに対し、甲2発明は、第1回転軸11と第2回転軸21とを平行状態で互いに回転可能となるように連結する部材である「接続部材3」に対して、「第1当接部112」及び「第2当接部212」は隣接して設けられ、また、「摺動位置決め部34」は、「接続部材3」の「軌道部33に沿って摺動する」ように設けられている点。
<相違点D>
ロック部材に関し、本件発明1は、「単一の部材で一体に形成した」ものであるのに対し、甲2発明の「摺動位置決め部34」は、単一の部材で一体に形成したものであるとは特定されていない点。
<相違点E>
本件発明1は、「前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転時にフリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段と、前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に吸い込み機能を発揮させる吸い込み手段」を設けており、「前記フリクショントルク発生手段を、前記第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側と前記選択的回転規制手段の一方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有するフリクションプレートと、前記フリクションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーと、前記フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能であるが、回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーを有するものとし、前記吸い込み手段を前記選択的回転規制手段の他方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受部と第2軸受部を有する連結部材と、この連結部材に隣接して設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトに回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に取り付けられた第1カムフォロワーと第2カムフォロワーとを有するものとし、この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接して設けた前記フリクショントルク発生手段と前記吸い込み手段の両方に作用する弾性手段とを設け」ているのに対し、甲2発明はそのような手段を設けているか否かについては特定されていない点。

(イ)判断
a 相違点Cについて
相違点Cは上記イ(ア)の相違点Aと実質的に同じである。
したがって、上記イ(イ)のaでの説示と同じ理由により、甲2発明において相違点Cに係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たものということはできないものである。

b 小括
以上のとおりであるから、相違点D及び相違点Eについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に甲1文献(甲第1号証)記載技術的事項2を適用して当業者が容易に発明をすることができたということはできないものである。

エ 本件発明3について
本件発明3は、請求項1に記載の2軸ヒンジ、または請求項2に記載の2軸ヒンジ、すなわち、本件発明1または本件発明2を用いた端末機器であるといえる。
したがって、上記イ及びウでの説示を踏まえると、本件発明3は、甲2発明及び甲第1号証に記載の技術的事項2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

3 無効理由についての小括
上記2のとおりであるから、無効理由についての当審の判断は、次のとおりである。
(1)本件発明1について
本件発明1は、甲1発明に基いて、あるいは、甲1発明及び本件周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明1は、甲2発明及び甲第1号証に記載の技術的事項2に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできないものである。
(2)本件発明2について
本件発明2は、甲2発明及び甲第1号証に記載の技術的事項2に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできないものである。
(3)本件発明3について
本件発明1を用いた発明である本件発明3は、甲1発明及び甲第1号証に記載の技術的事項1に基いて、あるいは、甲1発明、本件周知技術及び甲第1号証に記載の技術的事項1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2を用いた発明である本件発明3は、甲2発明に甲第1号証に記載の技術的事項2を適用して当業者が容易に発明をすることができたということはできないものである。

第6 まとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件の請求項1に係る発明の特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
一方、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件の請求項2及び3に係る発明についての特許を無効にすべきものとすることはできないし、また、他に無効にすべき理由も見当たらない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、その3分の2を請求人の負担とし、3分の1を被請求人の負担とする。

したがって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔を空けて設けられ、第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を、前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で一体に形成したロック部材とで構成し、さらに前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転時にフリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段と、前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に吸込み機能を発揮させる吸い込み手段と、前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転角度を規制するストッパー手段を設け、前記フリクショントルク発生手段を、前記第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側と前記選択的回転規制手段の一方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有するフリクションプレートと、前記フリクションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたけたフリクションワッシャーと、前記フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し軸方向へスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーを有するものとし、前記吸い込み手段を前記選択的回転規制手段の他方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受部と第2軸受部を有する連結部材と、この連結部材に隣接して設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトに回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に取り付けられた第1カムフォロワーと第2カムフォロワーとを有するものとし、この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接して設けた前記フリクショントルク発生手段と前記吸い込み手段の両方に作用する弾性手段とを設けたことを特徴とする、2軸ヒンジ。」。
【請求項2】
所定間隔を空けて設けられ、第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと、第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け、この選択的回転規制手段を、所定間隔を開けて設けられ、前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成る連結部材及びスライドガイド部材と、前記連結部材及び前記スライドガイド部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と、前記連結部材と前記スライドガイド部材に対しスライド可能に係合されると共に、前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム部材の間に設けられ、前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で一体に形成したロック部材、とで構成することにより、前記第1の筐体と前記第2の筐体が共に閉成状態にある時には前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのどちらかの回転が許容されて前記第1の筐体と前記第2の筐体の相対的な開閉操作を行い、前記第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトのいずれか一方が回転が許容された際には、他方の回転を規制するように構成することにより、前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上下方向に開閉操作できるように成したことを特徴とする、2軸ヒンジ。
【請求項3】
前記請求項1〜2に各記載の2軸ヒンジを用いたことを特徴とする、端末機器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-07-14 
結審通知日 2021-07-19 
審決日 2021-08-04 
出願番号 P2015-099418
審決分類 P 1 113・ 121- ZDA (F16C)
P 1 113・ 851- ZDA (F16C)
P 1 113・ 113- ZDA (F16C)
最終処分 03   一部成立
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 杉山 健一
間中 耕治
登録日 2016-03-04 
登録番号 5892573
発明の名称 2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器  
代理人 稲葉 和久  
代理人 横本 幸昌  
代理人 横本 幸昌  
代理人 伊藤 捷雄  
代理人 岡部 博史  
代理人 鮫島 睦  
代理人 伊藤 捷雄  
代理人 山田 裕三  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ