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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B
管理番号 1380180
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-13 
確定日 2021-12-08 
事件の表示 特願2016−503366「プロセス制御システムの情報をグラフィカルに表示するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔2014年(平成26年)9月18日国際公開、WO2014/145495、平成28年 7月14日国内公表、特表2016−520893〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)3月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年3月15日、アメリカ合衆国、2013年4月9日、アメリカ合衆国)を国際出願日として出願された特願2016−503366号であり、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。
平成27年 9月10日 :国内書面の提出
平成29年 3月15日 :手続補正書の提出
平成30年 3月14日付け :拒絶理由通知
平成30年 6月19日 :意見書の提出
平成30年11月 7日付け :拒絶査定
平成31年 3月13日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年 5月29日付け :前置報告
令和 1年10月31日付け :拒絶理由通知
令和 2年 5月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 9月24日付け :拒絶理由通知
令和 2年12月22日 :意見書の提出

第2 本願発明
令和2年5月7日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
プロセス制御システムのプロセス変数を監視することと、
前記監視されたプロセス変数の現在の状態を決定することと、
前記プロセス変数に関連付けられる傾向を決定することと、
前記プロセス変数に関連付けられる情報であって、前記プロセス変数の前記現在の状態及び前記プロセス変数の前記傾向を含む情報を表す第1のグラフィックを生成することと、
前記第1のグラフィックを、表示器を介してレンダリングすることと、を含み、
前記プロセス変数の前記現在の状態は、前記第1のグラフィックの輪郭の形状によって表される
方法。」

第3 拒絶の理由
令和2年9月24日付けで、本願発明に対し当審より通知した拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。
本願発明は、その出願の優先日前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平8−106321号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明に基いて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】プラントの液位を検出する検出手段と、この検出手段からの信号を入力するプロセス入力手段と、このプロセス入力手段からの信号の変動量を検出する変化検出手段と、前記信号レベルに応じた大きさの棒グラフを表示させるとともに、前記変化検出手段が検出した変動量に応じて表示出力する棒グラフの形状を変化させる表示制御手段とを有することを特徴とするプラント監視装置。
・・・
【請求項3】前記変化検出手段は、変動量を変動中か否かで検出し、前記表示制御手段は、前記変化検出手段の検出結果が変動中でない場合、棒グラフの先端形状を直線とし、前記変化検出手段の判定結果が変動中の場合、棒グラフの先端形状を波形とすることを特徴とする請求項1記載のプラント監視装置。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、液位を監視するプラント監視装置に関する。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】図14は、従来のプラント監視装置10のブロック図である。監視対象の複数のタンク101には、タンク101の液位(水位)の検出手段であるセンサ2がそれぞれ設置されている。プロセス計算機1のプロセス入力手段3は、各センサ2からの信号を周期的に入力している。表示制御手段5は、プロセス入力手段3が入力した信号レベルの大きさにより、表示装置であるCRT6へ表示させる棒グラフやデジタル量の大きさを変化させて表示している。
【0003】プラント監視装置10によりプラントの状態監視を行なう場合、CRT6には図15に示すプラント系統図100を絵図表示し、これを運転員が監視することによりプラントの運転状態を把握している。プラントに存在する各種監視対象のタンク101をプラント系統図100として表示する場合、タンク内の液位を棒グラフ102で表すか、あるいは数値103で表すか、もしくはその両方の組み合わせで表示しており、運転員はこの表示を目視することによりタンク液位の監視を行なっている。
【0004】このような装置により、液位等のプロセスデータの値は棒グラフ表示や数値表示を参照することにより確認できる。さらに、プロセスデータがある値を越えた、または、下回った場合に警報を発生させることや、あるいは棒グラフ表示や数値表示の表示色を警報状態であることを示す色に変化させることにより、運転員に注意を促すことも行なわれている。」

エ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】このような装置を用いた場合、前述のような警報状態監視を行なうことは容易であるが、これはある任意時刻の瞬時値が監視可能であるだけでありプロセスデータが変動しているか否かのプロセスデータの挙動までは監視できない。したがって、プロセスデータの挙動を表そうとする場合は、棒グラフ表示や数値表示を高速で表示更新する手法がとられている。高速で表示更新が行なえない装置の場合は、運転員が表示を注視して挙動が有るか否かを判定しなければならなかった。その場合、表示が更新されるまではプロセスデータの挙動に関しては有効な監視が行なえないので、緊急を要する場合には不都合があった。また、監視対象が複数存在する場合は、その複数の表示を全て注視しなければ挙動は確認できないので、運転員の負担が大きくなり十分な監視が行なえない問題があった。さらに、表示装置に表示されたものを記録として残すための手段としては、ハードコピーと呼ばれる表示装置上の表示イメージでの印刷物が使用されるが、この記録も任意時刻のプラント状態が記録されるだけであるので、プロセスデータの挙動を記録することはできず、挙動を確認するためには複数のハードコピーを採取し、その内容を比較して挙動を確認しなければならないという問題があった。本発明の目的は、運転員の液位のプロセス量の変化に対する判断が容易かつ敏速に行なえるプラント監視装置を得ることにある。」

オ 「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明においては、プラントの液位を検出する検出手段と、この検出手段からの信号を入力するプロセス入力手段と、このプロセス入力手段からの信号の変動量を検出する変化検出手段と、前記信号レベルに応じた大きさの棒グラフを表示させるとともに、前記変化検出手段が検出した変動量に応じて表示出力する棒グラフの形状を変化させる表示制御手段とを有することを特徴とするプラント監視装置を提供する。」

カ 「【0007】
【作用】このように構成された装置においては、プラントの液位が検出手段で検出され、この検出手段で検出されたプロセス量の信号がプロセス入力手段によって入力され、このプロセス入力手段で入力された信号の変動量が変化検出手段によって検出される。表示制御手段は、プロセス入力手段で入力された信号の大きさに応じて棒グラフを作成するとともに、この棒グラフの形状を変化
検出手段によって検出された変動量に応じて変化させる。」

キ 「【0008】
【実施例】以下、本発明の実施例を図1から図13を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施例のプラント監視装置20のブロック図である。監視対象の複数のタンク201には、タンク201の液位(水位)の検出手段であるセンサ22がそれぞれ設置されている。プロセス計算機21のプロセス入力手段23は、各センサ22を含むプラントからのプロセス量信号を周期的に入力している。変化検出手段24の構成要素である変化判定部27は、入力されたプロセス量が変動しているか否かを判定する。表示制御手段25は、変化判定部27により判定されたプロセス量の変動の有無と、前記プロセス量をもとに棒グラフ表示を行なうためのデータを作成する。表示装置であるCRT26は、表示制御手段25で作成された棒グラフデータを表示する。」

ク 「【0019】また、先端形状を変化させるのが、運転員の感覚として自然であるが、棒グラフ全体の輪郭がゆらぐように、側部を波形で表現してもよい。図7は、本発明の第2実施例のプラント監視装置30のブロック図である。【0020】この第2実施例のプロセス計算機31は、図1に示した第1実施例のプロセス入力手段23と同様の構成作用のプロセス入力手段33を備えている。変化検出手段34は、図1に示した第1実施例の変化判定部27と同様の作用の変化判定部37に加えて、プロセス量の変動量を判定する変動量判定部38を備えている。表示制御手段35は、プロセス量と、プロセス量の変動の有無、およびプロセス量の変動量も含む棒グラフ表示を行なうためのデータを作成する。」

ケ 「【0026】・・・図10は、本発明の第3実施例のプラント監視装置40のブロック図である。
【0027】この第3実施例のプロセス計算機41は、図1に示した第1実施例のプロセス入力手段23と同様の構成作用のプロセス入力手段43を備えている。変化検出手段44は、図1に示した第1実施例の変化判定部27と同様の作用の変化判定部47に加えて、プロセス量の増減の変化方向を判定する変化方向判定部49を備えている。表示制御手段45は、プロセス量と、プロセス量の変動の有無、およびプロセス量の変化方向も含む棒グラフ表示を行なうためのデータを作成する。」

コ 「【0033】図12は、本発明の第4実施例のプラント監視装置50のブロック図である。この第2実施例(審決注:「第4実施例」の誤記と認められる。)のプロセス計算機51は、図1に示した第1実施例のプロセス入力手段23と同様の構成作用のプロセス入力手段53を備えている。変化検出手段54は、図1に示した第1実施例の変化判定部27と同様の作用の変化判定部57と、図7に示した第2実施例の変動量判定部38と同様の作用の変動量判定部58と、図10に示した第3実施例の変化方向判定部49と同様の作用の変化方向判定部59とを備えている。表示制御手段55は、プロセス量と、プロセス量の変動の有無、プロセス量の変動量、およびプロセス量の変化方向を含む棒グラフ表示を行なうためのデータを作成する。
【0034】プラント監視装置50は、センサ22で測定したプラントのプロセス量の信号をプロセス入力手段53で入力する。プロセス量はある任意の周期で入力されており、変化判定部57は、第1実施例で示した作用により、プロセス量の変動の有無を判断する。変化判定部57でプロセス量に変動有りと判断された場合、変動量判定部58は、第2実施例で示した作用により、変動量の大小を判定する。また、変化方向判定部59は、第3実施例で示した作用により、プロセス量の変化方向を判定する。
【0035】表示制御手段55は、プロセス量の変動量の大小、変化方向、および今回のプロセス量の入力値をもとに棒グラフデータを作成し、CRT26に表示する。表示制御手段55で作成される棒グラフデータは、プロセス量が変化無しの場合は図2の形状A、変動量が大でかつ変化方向が増加の場合は形状G、変動量が小でかつ変化方向が増加の場合は形状G’、変動量が大でかつ変化方向が減少の場合は形状H、変動量が小で変化方向が減少の場合は形状H’となる。」

サ 「【0039】
【発明の効果】本発明によれば、運転員は、表示されたプロセス量を注視することなくプラントの液位の変化状態が容易に把握できるようになる。また、監視対象が複数存在するような複雑な系統においても監視すべき対象が容易に選別できるので、運転員の負荷を軽減させることができる。さらに、ハードコピーを採取する場合においても棒グラフの形状でプラントの状態が把握できるようになるので、プラント運転の履歴管理においてもハードコピーが有効な記録として利用できる。」

シ 「【図2】



(2)上記(1)の記載から以下の事項が理解できる。
ア 上記(1)コから、第4実施例のプラント監視装置のプロセス計算機51は、第1実施例のプロセス入力手段23と同様の構成作用のプロセス入力手段53、変化判定部27と同様の作用の変化判定部57と、第2実施例の変動量判定部38と同様の作用の変動量判定部58、第3実施例の変化方向判定部49と同様の作用の変化方向判定部59とを備えるとともに、表示制御手段55を備えるものであり、表示制御手段55は、プロセス量(液位)と、プロセス量(液位)の変動の有無、プロセス量(液位)の変動量、およびプロセス量(液位)の変化方向を含む棒グラフ表示を行なうためのデータを作成するものであること。

イ 上記(1)コ、シから、表示制御手段55は、棒グラフの先端形状について、プロセス量(液位)の変動量の大小、変化方向、および今回のプロセス量(液位)の入力値をもとに棒グラフデータを作成してCRTに表示するものであり、表示制御手段55で作成される棒グラフデータは、(a)プロセス量(液位)が変化無しの場合は図2の形状Aのように棒グラフの先端が直線、(b)変動量が大でかつ変化方向が増加の場合は形状Gのように、棒グラフの先端が上に向いた波形、変動量が小でかつ変化方向が増加の場合は形状G’のように、棒グラフの先端が形状Gよりも小さい上に向いた波形、変動量が大でかつ変化方向が減少の場合は形状Hのように、棒グラフの先端が下に向いた波形、変動量が小で変化方向が減少の場合は形状H’のように、棒グラフの先端が形状Hよりも小さい下に向いた波形となるもの、すなわち、プロセス量(液位)の変化(の有無)、変動量、変化方向(増加/減少等の方向)が、棒グラフの先端の形状で表されること。

ウ 上記(1)ア−シから、引用文献1には、プラント監視装置と同時に、プラントを監視する方法についても示されていること。

2 引用発明
上記1の(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、単に「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「プラントの監視対象の複数のタンクのプロセス量(液位)を監視することと、
前記監視されたプロセス量(液位)の変化及び変動量を変化判定部及び変動量判定部で判定することと、
前記プロセス量(液位)の変化方向を変化方向判定部により判定することと、
前記プロセス量(液位)の変化及び変動量と変化方向を含む情報を表す棒グラフを生成することと、
前記棒グラフをCRTに表示出力することと、を含み、
前記プロセス量(液位)の変化及び変動量と変化方向を含む情報は、棒グラフの先端形状によって表される
方法。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「プラントの監視対象の複数のタンクのプロセス量(液位)を監視すること」における「プラントの監視対象・・・を監視すること」は、プラントについての「プロセス制御システム」の一部をなすものといえるところ、引用発明の「プロセス量(液位)」は、プロセスに係るパラメータであるから、本願発明の「プロセス変数」に相当し、引用発明における「プラントの監視対象の複数のタンクのプロセス量(液位)を監視すること」は、本願発明の「プロセス制御システムのプロセス変数を監視すること」に相当する。
引用発明の「監視されたプロセス量(液位)の変化及び変動量を変化判定部及び変動量判定部で判定すること」における「プロセス量(液位)の変化及び変動量」は、その時点において液位が変動中か否か及びその量を表すものであるから、本願発明の「プロセス変数の現在の状態」に相当し、引用発明の「監視されたプロセス量(液位)の変化及び変動量を変化判定部及び変動量判定部で判定すること」は、本願発明の「監視されたプロセス変数の現在の状態を決定すること」に相当する。
引用発明の「プロセス量(液位)の変化方向を変化方向判定部により判定すること」における「プロセス量(液位)の変化方向」は、液位の増加/減少等の方向を表すものであるから、本願発明の「プロセス変数に関連づけられる傾向」に相当し、引用発明の「プロセス量(液位)の変化方向を変化方向判定部により判定すること」は、本願発明の「プロセス変数に関連付けられる傾向を決定すること」に相当する。
引用発明の「プロセス量(液位)の変化及び変動量と変化方向を含む情報を表す棒グラフを生成すること」における「棒グラフ」は、本願発明の「第1のグラフィック」に相当し、引用発明の「プロセス量(液位)の変化及び変動量と変化方向を含む情報」は、本願発明の「プロセス変数に関連付けられる情報であって、前記プロセス変数の前記現在の状態及び前記プロセス変数の前記傾向を含む情報」に相当するといえるから、引用発明の「プロセス量(液位)の変化及び変動量と変化方向を含む情報を表す棒グラフを生成すること」は、本願発明の「プロセス変数に関連付けられる情報であって、前記プロセス変数の前記現在の状態及び前記プロセス変数の前記傾向を含む情報を表す第1のグラフィックを生成すること」に相当する。
引用発明の「棒グラフをCRTに表示出力すること」における「CRT」は「表示器」であるから、本願発明の「第1のグラフィックを、表示器を介してレンダリングすること」とは、「第1のグラフィックを、表示器を介して表示すること」で共通する。
引用発明の「プロセス量(液位)の変化及び変動量と変化方向を含む情報は、棒グラフの先端形状によって表される」ことと、本願発明の「プロセス変数の前記現在の状態は、前記第1のグラフィックの輪郭の形状によって表される」こととは、「プロセス変数の前記現在の状態は、前記第1のグラフィックの形状によって表される」ことで共通する。

したがって、本願発明と引用発明は、
「プロセス制御システムのプロセス変数を監視することと、
前記監視されたプロセス変数の現在の状態を決定することと、
前記プロセス変数に関連付けられる傾向を決定することと、
前記プロセス変数に関連付けられる情報であって、前記プロセス変数の前記現在の状態及び前記プロセス変数の前記傾向を含む情報を表す第1のグラフィックを生成することと、
前記第1のグラフィックを、表示器を介して表示することと、を含み、
前記プロセス変数の前記現在の状態は、前記第1のグラフィックの形状によって表される
方法。」である点で一致し、次の各点において相違する。

相違点1:第1のグラフィックを、表示器を介して表示することに関し、本願発明は、第1のグラフィックを、表示器を介してレンダリングすることを含むのに対し、引用発明は、棒グラフをCRTに表示出力するものであるが、第1のグラフィックに相当する棒グラフを、表示器に相当するCRTを介してレンダリングするものかは不明である点。

相違点2:プロセス変数の現在の状態は、第1のグラフィックの形状によって表されることに関し、本願発明は、プロセス変数の現在の状態は、第1のグラフィックの輪郭の形状によって表されるのに対し、引用発明は、プロセス量(液位)の変化及び変動量と変化方向を含む情報は、棒グラフの先端形状によって表されるが、グラフィックである棒グラフの輪郭の形状によって表されているかは不明である点。

第6 判断
上記各相違点について検討する。
相違点1について、「レンダリング」は、データの集合を元に一定の処理や演算を行って画像や映像、音声等を生成することを意味するところ、引用発明は、プロセス量(液位)の状態から、プロセス量(液位)の変化及び変動量と変化方向を含む情報を表す棒グラフ表示を生成し、当該生成された棒グラフをCRTに表示出力することを意図するものであるから、プロセス量(液位)という(時系列で得られる)データの集合を元に、処理・演算を行って棒グラフという画像を生成しようとするものである。
そうすると、引用発明においてもレンダリングを行う動機は十分にあり、表示に際しレンダリングは一般的に行われていることであるから、引用発明において、棒グラフという画像を生成するための具体的な手段として、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項に想到することは当業者が容易になし得たものである。

相違点2について、「輪郭」は、物の外形を形作っている線を意味する語であるところ、引用発明の棒グラフの先端は、棒グラフという物の外形の一部である上辺をなすものであり、その外形を形作るものである。
そうすると、引用発明においても、棒グラフの輪郭をなす棒グラフの先端の形状により、プロセス量(液位)の状態が表されるものであるから、この点は実質的な相違点ではない。
仮に先端の形状が本願発明の輪郭の形状に当たらないとしても、上記第4の1(1)クの段落【0019】には、棒グラフ全体の輪郭を揺らぐよう表示することについて示唆もされているのであるから、引用発明の棒グラフの表示を、当該示唆に従って、棒グラフ全体の輪郭の表示によって表すようにし、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項に想到することは当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明において予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

第7 請求人の主張について
請求人は、当審が令和2年9月24日付けで通知した拒絶理由通知に対し、令和2年12月22日提出の意見書において、以下のとおり主張する。

引用文献1のプラント監視装置50においては、図2に示すように、水位の変動量の大小及び水位の変化方向を、棒グラフデータの長方形状の輪郭の内部において図形形状の変化として表示します。また、現在の水位については、前記長方形状の輪郭の内部における前記図形の上下方向の位置変化として表示します。
したがって、引例1のプラント監視装置50においては、水位の変動量の大小、水位の変化方向、及び現在の水位を、棒グラフデータの長方形状の輪郭全体の形状を変化させるのではなく、前記輪郭内部の図形の形状及び位置の変化として表示します。
これに対して、本願発明では、プロセス変数の変化や現在の状態を、第1のグラフィックの輪郭の形状の変化として表示します。
したがって、引用文献1は、本願発明の構成要件F(プロセス変数の現在の状態を第1のグラフィックの輪郭の形状によって表示する)を開示するものではありません。

上記の主張について、上記第6で相違点2について検討したとおり、引用発明においても、棒グラフの輪郭をなす棒グラフの先端の形状により、液位の状態が表されるものであるから、この点は実質的な相違点ではないし、仮に先端の形状によって表すことが本願発明の輪郭の形状によって表すことに当たらないとしても、上記第4の1(1)クの段落【0019】の示唆に従って、棒グラフ全体の輪郭の表示によって表すようにし、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項に想到することは当業者が容易になし得たものであるから、請求人の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 刈間 宏信
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-06-30 
結審通知日 2021-07-06 
審決日 2021-07-21 
出願番号 P2016-503366
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G05B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 田々井 正吾
見目 省二
発明の名称 プロセス制御システムの情報をグラフィカルに表示するシステム及び方法  
代理人 中島 淳  

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