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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1380191
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-05 
確定日 2021-12-15 
事件の表示 特願2017− 43319「大面積ペロブスカイト膜の製造方法、ペロブスカイト太陽電池モジュール、並びにその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017−188668〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年3月7日(パリ条約による優先権主張2016年4月1日,台湾)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 5月17日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月28日 :意見書,手続補正書の提出
平成31年 1月29日付け:拒絶査定
令和 元年 6月 5日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 令和元年6月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1,2の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「【請求項1】
導電基板に前駆体溶液を数十秒供給することによって,フィルムを形成するステップと,
前記数十秒で形成された前記フィルムを逆溶剤に浸漬することによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,
前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれ,
前記ペロブスカイト膜のペロブスカイト結晶は前記導電基板上に連続且つ均一に分布されるとともに,前記ペロブスカイト結晶の分布面積は25cm2〜10000cm2であり,前記導電基板の面積は25cm2〜10000cm2であることを特徴とする,大面積ペロブスカイト膜の製造方法。
【請求項2】
導電基板に前駆体溶液を数十秒供給することによって,フィルムを形成するステップと,
赤外線を用いて前記数十秒で形成された前記フィルムを加熱することによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,
前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれ,
前記ペロブスカイト膜のペロブスカイト結晶は前記導電基板上に連続且つ均一に分布されるとともに,前記ペロブスカイト結晶の分布面積は25cm2〜10000cm2であり,前記導電基板の面積は25cm2〜10000cm2であることを特徴とする,大面積ペロブスカイト膜の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年8月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1,2の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
導電基板に前駆体溶液を供給することによって,フィルムを形成するステップと,
前記フィルムを逆溶剤に浸漬することによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,
前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれ,
前記ペロブスカイト膜のペロブスカイト結晶は前記導電基板上に連続且つ均一に分布されるとともに,前記ペロブスカイト結晶の分布面積は25cm2〜10000cm2であり,前記導電基板の面積は25cm2〜10000cm2であることを特徴とする,大面積ペロブスカイト膜の製造方法。
【請求項2】
導電基板に前駆体溶液を供給することによって,フィルムを形成するステップと,
赤外線で前記フィルムを加熱することによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,
前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれ,
前記ペロブスカイト膜のペロブスカイト結晶は前記導電基板上に連続且つ均一に分布されるとともに,前記ペロブスカイト結晶の分布面積は25cm2〜10000cm2であり,前記導電基板の面積は25cm2〜10000cm2であることを特徴とする,大面積ペロブスカイト膜の製造方法。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1,2に記載された発明を特定するために必要な事項について,上記のとおり限定を付加するものであって,本件補正前の請求項1,2に記載された発明と本件補正後の請求項1,2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1,2に記載される発明(以下「本件補正発明1」,「本件補正発明2」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明1,2は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,T.M.Schmidt et al.,Upscaling of Perovskite Solar Cells:Fully Ambient Roll Processing of Flexible Perovskite Solar Cells with Printed Back Electrodes,Advanced Energy Materials,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,2015年 8月 5日,Vol.5 Issue15,pp.1500569-1-9,https;//doi.org/10.1002/aenm.201500569(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(日本語訳は,当審で作成した。下線は,当審で付加した。以下同じ。)
「Upscaling of Perovskite Solar Cells:Fully Ambient Roll Processing of Flexible Perovskite Solar Cells with Printed Back Electrodes」(1/9ページ表題)
(日本語訳:ペロブスカイト太陽電池の高性能化―裏面電極の印刷を用いた完全な周囲条件下でのロール方式によるフレキシブルなペロブスカイト太陽電池の作製)








」(1/9ページ左欄1行−2/9ページ左欄末行)
(日本語訳:周囲条件下でのスロットダイ方式ロールコーティングなど拡張可能な技術を用いたフレキシブル基板のデバイス作製が進歩し,ペロブスカイト太陽電池の規模を拡大する取り組みが行われている。カーボンおよび銀の両方を用いて裏面電極を印刷することは,この取り組みにおいて必要不可欠である。順構造および逆構造の両デバイス構造を調査することで,ペロブスカイト層に正しい構造を形成することは,ペロブスカイトが塗装される表面によって左右されることが多く,作製に大きく関わってくることがわかった。望ましい層構造を形成するための所要時間は5分から45分の範囲で短縮でき,これはペロブスカイトの前駆体によるものである。前者の5分というタイムスケールは量産と相性がよく,後者の45分は研究室での実験に最適である。十分に拡張性のある作製方法を積極的に用いた場合,太陽電池の性能は約50%と大幅な損失となることがわかったが,これはポリマー太陽電池など他の印刷可能な太陽電池技術で測定されたものと同程度である。裏面に電極を蒸着した酸化インジウムスズ(ITO)‐ガラスにスピンコーティングした場合に生まれるデバイスの電力交換効率(PCE)は9.4%になる。裏面に電極を印刷したフレキシブルであるITO‐ポリエチレンテレフタレート(PET)にスロットダイコーティングを用いて作製した場合,同じ種類のデバイスおよび有効面積の電力交換効率は4.9%になる。

1. はじめに
過去3年間において有機無機複合型のハライドペロブスカイト太陽電池の材料は大きな進歩を遂げた。2011年から2014年までに限っては,ペロブスカイトを基にした太陽電池の最大電力交換効率は,6.5%[1]から19.3%[2]まで向上した。さらにペロブスカイト太陽電池は,安価で地球に豊富にある材料で製造されるため,コストが節減でき,高効率で将来性のある太陽電池[3,4]の候補である。ペロブスカイト太陽電池の飛躍的な進歩は,低コストでハイスピードな量産には適していないスピンコーティング[5]や物理的な蒸着[6]などの作製技術を用いて生産される小規模面積の研究所のデバイスにまで及んだ。ロール・ツー・ロール(R2R)方式による作製など量産方法に似た印刷およびコーティング技術を用いたペロブスカイト太陽電池の作製は,研究所の外でそのまま適用できる目覚ましい進歩となるだろう。
ロール・ツー・ロール方式の作製にはいくつかの要件があり,使用する基板や材料に制限がある。ハイスピードな生産のために,基板はフレキシブルである必要があり,またロール・ツー・ロール方式の処理に一般的に使用する材料を用いるため,低温加工(140℃未満)が必要である。そのため,450℃から500℃の焼結[7]が必要なメゾスコピックTiO2層を太陽電池に使用することは自動的に除外となる。
すでに開発されている高効率のペロブスカイト太陽電池の作製スキームに基づき,実際に拡張性の高い作製方法を開発するための課題には,次の3つの重要な手段が含まれる。(1)有効なペロブスカイト層を形成するために拡張可能なコーティング技術や印刷技術を使用すること,(2)低温加工(140℃未満)を必要とするフレキシブル基板上で太陽電池を処理すること,(3)下層部分にダメージを与えることなく活物質にしっかり接触した裏面に電極を印刷またはコーティングすること。今のところ個々の手段に対する解決策は別途報告されているだけである。最初の手段であるペロブスカイト層の形成に関しては,スピンコーティング[5],スプレーコーティング[8],蒸着[6],インクジェット印刷[9],スロットダイコーティング[10]など多様な蒸着技術が使用されている。これは1ステップ法の蒸着(通常,ヨウ化メチルアンモニウム(MAI)および二塩化鉛(PbCl2)/ヨウ化鉛(PbI2)の混合物)または2ステップ法の蒸着(通常,先にPbI2層を蒸着してからディップコーティング[11]またはスピンコーディング[12]のいずれかでMAIを蒸着する一連の蒸着)のいずれかをベースにしている。一般的に2ステップ法のコーティング処理により,同様の方法で生産されたサンプル間の電力交換効率偏差が少なく,極めて均質なペロブスカイト層を作製できる[13]。スピンコーティングを用いたPbCl2をベースにした1ステップ法のコーティング方法では,現在19.3%[2]という公表されたデータの中で最も高い電力交換効率が示されている。量産に関しては,フレキシブル基板にロール・ツー・ロール方式の作製方法を用いる場合,スプレーコーティング技術およびスロットダイ蒸着技術のみが適合する。これら2つの蒸着技術のうち,スロットダイコーティングは,すべてロール・ツー・ロール方式[14, 15]を用いた有機薄膜太陽電池(OPV)の量産において,非常に効果的であることが示されており,たとえガラス基板[10]に使用した場合でも,ロール・ツー・ロール方式に適合する方法であることがすでに報告されており,ペロブスカイト太陽電池の大規模な作製においておそらく第一候補である。
フレキシブル基板の低温加工という2つ目の要件に関して,PET基板上に作製されたペロブスカイト太陽電池デバイスについての同様の報告が数件ある。しかし,これらはすべてスピンコーティング法や真空蒸着法[16-22]などの拡張不可能な作製手段を用いている。
最後の手段は,真空蒸着させる裏面電極に代わるものを採用することである(高効率なペロブスカイトデバイスおいて,裏面電極への真空蒸着の採用が最も多く報告されている)。このような電極の成功例には,積層[23]およびスプレーコーティング[24]やメソポーラスグラファイト/カーボン電極を創造的に使うことが含まれる[25]。しかし,ハイスピードな処理での実際の互換性については,これらの方法はいずれも未だ証明されていない。それとは対照的に,電極の印刷は,すでにロール・ツー・ロール方式で作製された有機薄膜太陽電池に定着した工程であり,特にシルバーベースのインクおよびカーボンベースのインク両方を使用したスクリーン印刷においては実行可能であることが示されているため,ペロブスカイト太陽電池[26, 27]を量産する上で明快な選択肢とみなされている。
本研究では,完全に周囲条件下において,1ステップ法および2ステップ法によるペロブスカイト層の形成に基づき,十分に拡張性の高いロール・ツー・ロール方式に適した2つの作製手順の開発についての説明と比較を行う。高性能化は3つの手段を用いたアプローチで行うものとする。まず始めにスクリーン印刷された電極を導入し,その後硬質ガラス基板からフレキシブルPET基板に作製方法を移行してから,最後にスロットダイコーティングを用いて,ロールコーターで太陽電池の積層を作製する。)




」(2/9ページ図1a)
(日本語訳:1ステップ法による順構造
銀(全面に電極)
ZnO
PCBM
ヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)+二塩化鉛(PbCl2)(1ステップ法)
PEDOT:PSS
ITO基板)




」(2/9ページ図1の説明)
(日本語訳:図1 aおよびbはペロブスカイト太陽電池の構造を示す。cは1ステップ法による順構造の方法または2ステップ法の逆構造の方法のいずれかを用いた最高性能値のデバイスを示す。両方のデバイスはガラス/ITO基板および蒸着した銀の電極を使用する。)






」(3/9ページ左欄7行−4/9ページ左欄5行)
(日本語訳:2.2裏面電極の蒸着から裏面電極の印刷へ
高性能化のための方法の主な手段の1つとして,裏面に電極を蒸着することで必要とされる真空工程を省く方法がある。有機薄膜太陽電池の分野において,電極のスクリーン印刷[14, 28]を導入することでこれは実現可能であることが示されている。有機薄膜太陽電池の場合,スクリーン印刷はフラットベッドスクリーン印刷による単一デバイスのバッチ処理から,ロータリースクリーン印刷を用いた継続的なロール・ツー・ロール方式による処理まで,PV性能において,まったく,あるいは,ほぼ変化がない[26]非常に拡張性の高い方法であることが示されている。本研究の目的のために,図2aで示した単一デバイスのバッチ処理のために作られた小さなベンチトップスケールのスクリーン印刷機を使用した。ロール・ツー・ロール方式を稼動することが可能な大型機と同一の機械であるため,印刷処理の拡張性が確保された。複数の層すべての湿式処理と同じように,使用されたインクが下層に悪影響を及ぼし得るが,もしそうであった場合にはインクおよび処理は非直交であるとみなされる。電極のスクリーン印刷と同様にその課題は,十分な直交溶媒の合成物と有益な硬化条件[14, 28]とを組み合わせる直交電極インクを特定することである。)




」(3/9ページ図2の説明)
(日本語訳:図2 aは単一デバイス印刷中のスクリーン印刷のセットアップを示す写真で,挿入部分はスクリーンが持ち上げられた直後の寸法5×2.5cm2のガラス基板を示す。bは熱硬化カーボンインク,UV硬化シルバーインク,熱硬化シルバーインクのいずれかを用いた3つの異なる電極の印刷方法と比較した場合の一般的な1ステップ法によるデバイスのJ-V特性を示す。カーボンおよびUVインクは,太陽電池積層の下層部分に有害なダメージを与えるが(実線),熱硬化は有害なダメージを与えていない(点線)。挿入部分は信号強度が青色から黄色へ変化することでデバイスの不具合箇所を明らかにするものであり,それぞれのデバイスのレーザー光誘起電流(LBIC)マップを示している。熱硬化デバイスのLBICは寸法を測定するためにmmグリッドを用いる。cおよびdは,1ステップ法および2ステップ法によるデバイスそれぞれのJ-V特性の比較で,蒸着した電極(実線)または印刷した電極(点線)を示す。また,挿入部分はデバイスのLBICマップを示し,印刷されたデバイスのLBICにmmグリッドを用いる。すべてのLBICの強度は各デバイスに対するピーク強度が正常化されているため比較はできない。)








」(5/9ページ左欄26行−7/9ページ左欄26行)
(日本語訳:2.4 スピンコーティングからロールコーティングへ
ペロブスカイト太陽電池を直接ロール・ツー・ロール方式に適合させ,高性能化を可能にするために残された最後の手法は,フレキシブル基板上のペロブスカイト層をスピンコーティングからスロットダイコーティングに移行して形成することである。このコーティング方法は,以前より大規模なロール・ツー・ロール方式による太陽電池処理[32]を高性能化する上で優れたツールであることが示されてきた小さなロールコーターのセットアップを用いて行われた。スロットダイコーティングの写真を図6aに示す。これは1ステップ法および2ステップ法によるペロブスカイトのどちらの種類にも使用可能なスロットダイコートのデバイスであり,J-V特性は図6bおよび表1に示されている。さらにこのデバイスは印刷した裏面電極で作られたため,ロール・ツー・ロール方式に完全に適合しており,高性能化が可能な状態にある。スピンコーティングを用いて製造されたITO-ガラス基板上の太陽電池と比較すると,予想された電力交換効率の低下がロールコート電池で見られる。

2.4.1 1ステップ法によるロールコーティング
表1の証拠として,1ステップ法による太陽電池では,ITO-ガラス上にスピンコーティングを用いた場合の最大電力交換効率9.4%は,フレキシブル基板上にスロットダイコーティングを用いることで最大電力交換効率は4.9%にまで低下する。ここでもまた,原子間力顕微鏡(AFM)による測定では,この低下はペロブスカイト結晶のサイズの違いに関係があることが示されている。1ステップ法による太陽電池について,図5eはスロットダイ方式ロールコーティングを用いて形成したペロブスカイト層には,所々に広がる相互作用する結晶構造がどのように含まれているかを示している。サイズとして,これはITO-ガラス上でスピンコーティングされた1ステップ法によるペロブスカイトで見られたものとが似ている(図5a)。また,中間層には所々に小型の結晶構造があり,質としては,ITO-PET上でスピンコーティングされた1ステップ法によるサンプルで見られたものとさらよく似ている(図5c)。そのため2種類の結晶構造を有することにより,大型の結晶(ITO-ガラス)でみられた9.4%の電力交換効率よりも低い結果(4.9%)だが,小型の結晶(ITO-PET)でみられた4.2%よりも高い結果となった。観測結果の差はコーティング方法および基板の両方が起因することは明らかだが,理解しきるにはまだほど遠い。少なくともMAI+PbCl2層形成における動力学は非常に複雑であるため,継続調査の課題となる [33-35]。基板依存性の観点から,基板表面の粗さおよび結晶などのパラメーターについては,最後のセクションで考察する内容になるだろう。コーティング法の依存性に関して,その違いは2つの方法によって生じる多様な乾燥条件から生じるようだ[36]。スピンコーティングは乾燥中に高いせん断力を示し,放射状の表面に流れが生じることで堆積工程を乱して,結晶の成長を妨げる可能性がある。一方,スロットダイコーティングはメニスカスの周囲でのみせん断率は高くなるが,低いコーティング温度でN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)など乾燥に長時間を要する溶剤を用いた場合,ゆっくりと蒸着し,堆積に時間がかかるため,結晶の成長を促進させる可能性がある。これらの現象を積極的に深く理解することは,本研究の対象範囲外ではあるが,後の研究の課題となるだろう。

2.4.2 2ステップ法によるロールコーティング
2ステップ法による太陽電池では,電力交換効率の低下はより顕著になり,6.2%(ガラス上のスピンコーティング)から2.6%(スロットダイ方式ロールコーティング)にまで落ち込んでいる。同様に,図5fには原子間力顕微鏡(AFM)によって,2ステップ法によりロールコーティングされた表面と,スピンコーティングされた表面との大きな違いが示されている。これは,図5bおよび図5dが示す大型の結晶構造(ペロブスカイト結晶)がほぼ完全に欠如することにより生じるものである。また,これは結晶サイズとデバイス効率間で観察された相関関係と一致する。スピンコーティングおよびロールコーティング間において類似する大きな違いは,図S3(補足資料)の原子間力顕微鏡(AFM)の画像が示す,PETベース電池の積層上にあるPbI2膜の表面構造にて観察される。スピンコーティングされた表面はさらに大きなピン状の構造で,より多くの細孔が生じ,MAI浸透の高効率化につながる可能性がある。全体では,2ステップ法のスロットダイ方式ロールコーティング法によるデバイスの電力交換効率は2.6%であり,ITO-ガラス上のスピンコーティングによるデバイスの電力交換効率(6.2%),およびITO-PET上のスピンコーティングによるデバイスの電力交換効率(5.4%)で示された数値と比べてずっと低い。これは類似した課題について説明をしたHwang氏らによる研究結果と等しい。その研究課題とは,2ステップ法によるスロットダイコーティングにおいて,主な課題をPbI2層の構造に特定し,ガス焼き入れと封入保管保存を組み合わせて曇ったPbI2膜を作製することで解決するというものであった[10]。しかし,類似する曇ったPbI2膜の生産が成功に至らないため,電力交換効率は低下した。

3. 結論と展望
本研究において,2種類のペロブスカイト太陽電池の高性能化の例示と比較に成功し,拡張不可能な最先端の研究所での作製手順から,完全な周囲条件下でスロットダイ方式ロールコーティングおよびスクリーン印刷を用いた作製まで進行させた。段階的なスキームにおいて高性能化を推進することによって,PbCl2+MAIの前駆体に1ステップ法による蒸着をベースにして作製した順構造タイプのデバイス結果と,PbI2およびMAIの前駆体に2ステップ法による蒸着をベースにして作製した逆構造タイプのデバイスの結果を比較し,以下の効果を問題点から逆算して解明(デコンボリューション)することに成功した。(1)電極の蒸着から電極の印刷へ,(2)硬質ガラス基板からフレキシブルPET基板へ,そして最終的に(3)太陽電池の積層の形成に,スピンコーティングではなくむしろスロットダイ方式ロールコーティングを使用することである(スキーム1を参照)。
測定結果によると,両方の種類の太陽電池において約50%の大幅な性能損失が結果として表れ,1ステップ法によるデバイスの電力交換効率は9.4%から4.9%にまで低下した。この結果は特に基板の変更に対して敏感な反応を示した。一方,2ステップ法によるデバイスでは,主にスピンコーティングからスロットダイ方式ロールコーティングに変更することで性能が低下した。最終的な電極をうまく印刷するには,インクの製法および硬化方法に大きく左右されることがわかった。一方,逆構造タイプのデバイスでは全体的な適合性がわずかに高いことが示された。
最終的に,完全に周囲条件下で処理されたロールコーティング法によるフレキシブルなペロブスカイト太陽電池の測定結果(ロール・ツー・ロール方式を用いた量産に完全に適合する印刷した電極を含む)として,デバイス効率は約5%となった。このように,本研究は安定性[37, 38]および環境への配慮[4]に取り組むと共に,ペロブスカイトが太陽発電技術の将来的な低コスト化の実現可能性を示す最初の兆しとなることを示す。)






」(7/9ページ左欄27行−8/9ページ50行)
(日本語訳:4. 実験項
材料について:PbCl2(98%)およびPbI2(99.999%)はSigma-Aldrich社製を使用した。PC(60)BM(PCBM)はMerck Chemicals社製を使用した。P3HT(Sepiolid P-200)はBASF社より購入した。ZnOナノ粒子は,文献[39]に従って用意し,56mg mL-1の濃度のアセトンに分散させた。ヨウ化メチルアンモニウム(MAI)は文献に[40]に従って用意した。4083 PEDOT:PSSは,Heraeus社製のClevious P VP AI 4083である。ITO-ガラスはLuminescence Technology社より調達し,パターン作製されたITO-PET基板はCP-films社製で,1.0μmのガラス繊維を通したものである。DuPont 5025のシルバーインクおよびカーボンインクはAcheson社製(PF407)である。UV硬化するシルバーインクREXALPHAシリーズのRAFS FD 018はTOYO製である。封入のためのバリア箔は3M社製で,テープを用いた試験では同社製のスコッチマジックテープを使用して行った。
スピンコーティングに使用するデバイスの準備:スピンコーティングを始める前にイソプロピルアルコール(IPA)で5分間超音波洗浄を行いITO-ガラス基板を洗浄した。一方,ITO-PET基板にはIPAですすぐ処理のみを行った。スピンコーティング中に安定させるためにITO-PET基板をスライドガラス上に載せた。1ステップ法による蒸着処理について(1)(smother filmにするため1/3の量のIPAを添加した)4083 PEDOT:PSSを約15秒間,2000rpm(回転数)でサンプルにスピンコーティングし,その後,5分間150℃の電熱板上で熱処理を加えた。(2)DMFに300mg mL-1のPbCl2+MAI(化学量論混合比1:3)を混合した溶液を15秒間,2000rpmで冷却サンプルにスピンコーティングした。その後,15秒間サンプルを休ませ,45分間,110℃で焼きなまし処理を行った。(3)クロロベンゼンに40mg mL-1のPCBMを混合した溶液を30秒間,1000rpmでサンプルにスピンコーティングを行った。(4)56mg mL-1のZnOを15秒間,2000rpmでサンプルにスピンコーティングし,その後,2分間120℃の電熱板上で熱処理を加えた。2ステップによる蒸着処理について(1)56mg mL-1のZnOを15秒間,2000rpmでサンプルにスピンコーティングし,その後,2分間120℃の電熱板上で熱処理を加えた。(2)クロロベンゼンに40mg mL-1のPCBMを混合した溶液を30秒間,2000rpmでサンプルにスピンコーティングした。(3)電熱板を用いてサンプルを70℃に温めておき,DMFに70℃の400mg mL-1のPbI2を混合した溶液を15秒間,4000rpmでサンプルにスピンコーティングし,70℃の電熱板上に再度置いた。(4)電熱板を用いてサンプルを70℃に温めておき,IPAに70℃の40mg mL-1のMAIを混合した溶液を15秒間,4000rpmでサンプルにスピンコーティングし,110℃の電熱板上で5分間焼きなましを行った。(5)クロロベンゼンに20mg mL-1のP3HTを混合した溶液を15秒間,2000rpmでサンプルにスピンコーティングした。(6)超音波処理でIPAに溶解させたPEDOT:PSSを最終工程で15秒間,2000rpmでサンプルにスピンコーティングした。
スロットダイコーティングに使用するデバイスの準備:ITOのパターンが形成されたPET箔をロールコーター[41]のドラムに固定し,40℃(1ステップ法処理)または50℃(2ステップ法処理)のいずれかの温度に設定した。その後の層は11mmのメニスカス幅を加える特注のスロットダイコーティングヘッドを使用してコーティングした。1ステップ法によるデバイスについて:まず,PEDOT:PSS(1/3の量のIPAを添加した4083 PEDOT:PSS)をポンプ速度0.08mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で10分間,金属箔に焼きなましを施した。次に,DMF溶液に350mg mL-1のPbCl2+MAI(化学量論混合比1:3)を混合した溶液をポンプ速度0.017mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で40分間,金属箔に焼きなましを施した。続いて,(クロロベンゼンに20mg mL-1を添加した)PCBM層をポンプ速度0.03mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングした。(アセトンに56mg mL-1を添加した)ZnOの最終層をポンプ速度0.02mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で5分間,金属箔に焼きなましを施した。2ステップ法によるデバイスについて:まず(アセトンに56mg mL-1を添加した)ZnOをポンプ速度0.04mL min-1およびウェブ速度1m min-1,30℃でスロットダイコーティングし,その後110℃で5分間,金属箔に焼きなましを施した。続いて,コーティング温度を50℃まで上げ,(クロロベンゼンに20mg mL-1を添加した)PCBM層をポンプ速度0.08mL min-1およびウェブ速度1m min-1でスロットダイコーティングした。次にDMF溶液に400mg mL-1のPbI2を混合した溶液をポンプ速度0.02mL min-1およびウェブ速度1m min-1でスロットダイコーティングした。その後,MAI層をポンプ速度0.03mL min-1およびウェブ速度1m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で5分間,金属箔に焼きなましを施した。それから,(クロロベンゼンに20mg mL-1を添加した)P3HT層をポンプ速度0.1mL min-1およびウェブ速度1m min-1でスロットダイコーティングした。PEDOT:PSSの最終層(速乾PEDOT:PSS)をポンプ速度0.12mL min-1およびウェブ速度1m min-1でスロットダイコーティングした。
電極の蒸着について:次のインクのいずれかを使用し,Alraum Technik AT 301M スクリーン印刷機を用いて最終電極に印刷を行った。DuPont 5025のシルバーインク(膜厚6μmにおいてRsh< 1Ω sq-1),REXALPHAシリーズのRAFS FD 018 UVシルバーインク(Rsh < 1Ω sq-1),Acheson PF407カーボンインク(Rsh=50Ω sq-1)。蒸着した銀の電極はターボポンプで真空した特注の蒸発器真空チャンバーを用いて準備し,1.0×10-5mバー未満の圧力でシャドーマスクを通して銀の熱蒸着を行った。
封入およびJ-V特性について:サンプルは3M社製のバリア箔を用いて封入した。封入後,(LBICで測定した有効面積が0.2cm2〜0.5cm2の)デバイスをSteuernagel社製の太陽シミュレーターによる1000W m-2の白色光で(AM 1.5G),5mVの電圧ステップを使用した順方向電圧の掃引-0.1Vから1.0Vまでを用い,0.05Vs-1の掃引速度を生じさせて,Keithley社製の2400ソースメータを使用してJ-V特性を測定した。この設定はほぼ定常値であった。1ステップ法によるデバイスに2分間120℃で焼きなましを施し,約10分間(ガラス)または30分間(PET)太陽シミュレーターで照射した後に性能のピークを示した。2ステップ法によるデバイスでは,焼きなましまたは照射による改善はみられなかった。
原子間力顕微鏡(AFM)について:AFMはPPP-NCLRカンチレバー(NANOSENSORS社製)を使い,間欠接触モードで動作させたN8 NEOS(Bruker Nano GmbH社製)で行った。毎分1ラインの走査速度で画像を測定した。画像はSPIP6.3.4(Image Metrology A/S)ソフトウェアを用いて解析した。
走査型電子顕微鏡(SEM)について:SEMはZeiss社製のSUPRA-35走査型電子顕微鏡を用いて行った。断面サンプルは,カーボンコーティング(5nm未満)およびその後の5keVでの画像処理前に,12時間真空状態を保った後,30秒間液体窒素にさらし,デバイスを割って準備した。」

(イ)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は,ペロブスカイト太陽電池の高性能化―裏面電極の印刷を用いた完全な周囲条件下でのロール方式によるフレキシブルなペロブスカイト太陽電池の作製に関するものであること。

b ペロブスカイト太陽電池の飛躍的な進歩は,低コストでハイスピードな量産には適していないスピンコーティングや物理的な蒸着などの作製技術を用いて生産されていた小規模面積の研究所のデバイスに及び,ロール・ツー・ロール(R2R)方式による作製などの量産方法に似た印刷およびコーティング技術を用いることで,ペロブスカイト太陽電池が研究所の外でそのまま作製できるようになること。

c ペロブスカイト層の形成に関しては,スピンコーティング,スプレーコーティング,蒸着,インクジェット印刷,スロットダイコーティングなど多様な蒸着技術が使用されており,これらの蒸着技術は1ステップ法の蒸着(通常,ヨウ化メチルアンモニウム(MAI)および二塩化鉛(PbCl2)/ヨウ化鉛(PbI2)の混合物)または2ステップ法の蒸着(通常,先にPbI2層を蒸着してからディップコーティングまたはスピンコーディングのいずれかでMAIを蒸着する一連の蒸着)のいずれかをベースにしていること。

d 引用文献1に記載された研究の目的のために,図2aで示した単一デバイスのバッチ処理のために作られた小さなベンチトップスケールのスクリーン印刷機を使用したが,この小さなベンチトップスケールのスクリーン印刷機と,ロール・ツー・ロール方式を稼動することが可能な大型機とは,同一の機構を備えた機械であるため,印刷処理の拡張性が確保されること。

e 図2 aは単一デバイス印刷中のスクリーン印刷のセットアップを示す写真で,挿入部分はスクリーンが持ち上げられた直後の寸法5×2.5cm2のガラス基板を示すこと。

f 引用文献1の「4. 実験項」には,以下の方法が記載されていること。
「ITO-ガラス基板を洗浄する工程と,
(1)(smother filmにするため1/3の量のIPAを添加した)4083 PEDOT:PSSを約15秒間,2000rpm(回転数)で前記基板にスピンコーティングし,その後,5分間150℃の電熱板上で熱処理を加える工程と,
(2)DMFに300mg mL-1のPbCl2+MAI(化学量論混合比1:3)を混合した溶液を15秒間,2000rpmで冷却した前記基板にスピンコーティングし,その後,15秒間サンプルを休ませ,45分間,110℃で焼きなまし処理を行う工程と,
(3)クロロベンゼンに40mg mL-1のPCBMを混合した溶液を30秒間,1000rpmでサンプルにスピンコーティングを行う工程と,
(4)56mg mL-1のZnOを15秒間,2000rpmでサンプルにスピンコーティングし,その後,2分間120℃の電熱板上で熱処理を加える工程とを含むスピンコーティングによる蒸着処理,
を含むデバイスの製造方法。」

g 引用文献1の「4. 実験項」には,以下の方法が記載されていること。
「ITOのパターンが形成されたPET箔をロールコーターのドラムに固定し,40℃の温度に設定し,その後の層は11mmのメニスカス幅を加える特注のスロットダイコーティングヘッドを使用してコーティングする工程であって,
まず,PEDOT:PSS(1/3の量のIPAを添加した4083 PEDOT:PSS)をポンプ速度0.08mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で10分間,金属箔に焼きなましを施す工程と,
次に,DMF溶液に350mg mL-1のPbCl2+MAI(化学量論混合比1:3)を混合した溶液をポンプ速度0.017mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で40分間,金属箔に焼きなましを施す工程と,
続いて,(クロロベンゼンに20mg mL-1を添加した)PCBM層をポンプ速度0.03mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングする工程と,
(アセトンに56mg mL-1を添加した)ZnOの最終層をポンプ速度0.02mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で5分間,金属箔に焼きなましを施す工程とを含むスロットダイコーティング蒸着処理,
を含むデバイスの製造方法。」

h 上記f及びgで作製されたデバイスの特性は,太陽シミュレーターによる1000W m-2の白色光を用い,Keithley社製の2400ソースメータを使用して測定されること。

i 1ステップ法による順構造の方法を用いて製造されたペロブスカイト太陽電池は,
銀(全面に電極)
ZnO
PCBM
ヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)+二塩化鉛(PbCl2)
PEDOT:PSS
ITO基板
の構造を備えること。

(ウ)上記(ア),(イ)から,引用文献1には,次の各発明(以下「引用発明1」,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1>
「ITO-ガラス基板を洗浄する工程と,
(1)(smother filmにするため1/3の量のIPAを添加した)4083 PEDOT:PSSを約15秒間,2000rpm(回転数)で前記基板にスピンコーティングし,その後,5分間150℃の電熱板上で熱処理を加える工程と,
(2)DMFに300mg mL-1のPbCl2+MAI(CH3NH3PbI3)(化学量論混合比1:3)を混合した溶液を15秒間,2000rpmで冷却した前記基板にスピンコーティングし,その後,15秒間サンプルを休ませ,45分間,110℃で焼きなまし処理を行う工程と,
(3)クロロベンゼンに40mg mL-1のPCBMを混合した溶液を30秒間,1000rpmでサンプルにスピンコーティングを行う工程と,
(4)56mg mL-1のZnOを15秒間,2000rpmでサンプルにスピンコーティングし,その後,2分間120℃の電熱板上で熱処理を加える工程とを含むスピンコーティングによる蒸着処理,
を含むペロブスカイト太陽電池の製造方法。」

<引用発明2>
「ITOのパターンが形成されたPET箔をロールコーターのドラムに固定し,40℃の温度に設定し,その後の層は11mmのメニスカス幅を加える特注のスロットダイコーティングヘッドを使用してコーティングする工程であって,
まず,PEDOT:PSS(1/3の量のIPAを添加した4083 PEDOT:PSS)をポンプ速度0.08mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で10分間,金属箔に焼きなましを施す工程と,
次に,DMF溶液に350mg mL-1のPbCl2+MAI(CH3NH3PbI3)(化学量論混合比1:3)を混合した溶液をポンプ速度0.017mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で40分間,金属箔に焼きなましを施す工程と,
続いて,(クロロベンゼンに20mg mL-1を添加した)PCBM層をポンプ速度0.03mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングする工程と,
(アセトンに56mg mL-1を添加した)ZnOの最終層をポンプ速度0.02mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で5分間,金属箔に焼きなましを施す工程とを含むスロットダイコーティング蒸着処理,
を含むペロブスカイト太陽電池の製造方法。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され,本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったM.Xiao et al.,A Fast Deposition-Crystallization Produce for Highly Efficient Lead Iodide Perovskite Thin-Film Solar Cells,Angewandte Communications,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,2014年 9月 8日,Vol.53, Issue37,pp.9898-9903,https://doi.org/10.1002/anie.201405334,(以下「引用文献2」という。)には,次の記載がある。
「A Fast Deposition-Crystallization Produce for Highly Efficient Lead Iodide Perovskite Thin-Film Solar Cells」(9898ページ表題)
(高効率なヨウ化鉛ペロブスカイト薄膜太陽電池の高速結晶堆積法)





」(9898ページ左欄17行−同ページ右欄8行)
(日本語訳:色素増感太陽電池[1],有機薄膜太陽電池[2],コロイドナノ結晶太陽電池[3]などの薄膜太陽電池は,低コストの材料と組み合わせることが可能で費用対効果の高い方法で作製でき,非常に有望な再生可能エネルギー技術であるとみなされている。近年では,CH3NH3PbI3およびCH3NH3Pbl3Cl3(メチルアンモニウム塩化鉛)などのアルキルアンモニウム鉛(II)ハロゲン化合物は,集光性が高く,キャリア移動度の高い,容易な溶液加工性[4-31]を備えた高効率の太陽光発電材料であることが知られている。これらの有機無機鉛(II)複合物質は,一般式ABX3によって周知のペロブスカイト構造で結晶化される。ウラニアまたは酸化アルミニウムなどのメソポーラスの足場を活用するペロブスカイト太陽電池は,ヨウ化鉛光吸収体であり,有機正孔輸送材料(HTM)で,一般的に有機半導体正孔輸送層(spiro-OMeTAD)(2,2’,7,7’-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)-9,9’-bifluorene)からなり,10%を上回る電力交換効率を実現している[6, 7]。ヨウ化鉛(PbI2)でスピンコーティングを施した後,CH3NH3Iの溶液を暴露してCH3NH3PbI3を作製すること,または,2つのソースによる蒸着技術を用いて平面ヘテロ接合型の太陽電池[16-18]を作製することを伴う2ステップの一連の蒸着技術を用いることによって,電力交換効率は15%にまで改善した。)




」(9899ページ左欄9−51行)
(日本語訳:本書では,一段階での溶剤導入高速結晶堆積法(FDC)について解説する。FDC法により平面で非常に均一なCH3NH3PbI3の薄膜が作られる。このシンプルなアプローチでは,基板上にCH3NH3PbI3のDMF溶液によるスピンコーティングを施し,その後すぐに未乾燥塗膜をクロロベンゼン(CBZ)などの第2の溶剤に暴露して,結晶化を誘発する。このFDC法のスピンコーティング法により,1つの工程による処理であるという利点と,膜の形成が1分以内に完了する短時間での蒸着という利点とがもたらされる。高結晶型の単一粒子から構成されるペロブスカイト膜が作製され,これは,平面ヘテロ接合型の太陽電池の構成に使用されると,標準のAM 1.5の条件下で最大16.2%の電力交換効率をうみだす。さらに,この工程は,その再生可能性が,調製された10個のデバイス群につき,平均効率13.9%±0.7%と非常に高い。この簡易な方法は,高効率なCH3NH3PbI3ベースの太陽電池高速で作製するために応用することができると思料する。
CH3NH3PbI3膜を作製するためのFDC法を図1に示す。まず,高密度酸化チタン(IV)(TiO2)層(厚さ約30nm)を,噴霧熱分解を使用して,フッ素ドープ酸化スズ(FTO)をコーティングしたガラス上に堆積させた。その後,CH3NH3PbI3のDMF溶液(45wt%)を5000rpmでTiO2層上にスピンコーティングした。一定の遅延時間(例えば,6秒)の後,第2の溶剤を基板にすばやく添加した。第2の溶剤の役割は,混合溶剤におけるCH3NH3PbI3の溶解度を急速に減少させ,それにより膜内の結晶の成長および高速の核形成を促すことである。クロロベンゼン,ベンゼン,キシレン,トルエン,メタノール,エタノール,エチレングリコール,2‐プロパノール,クロロホルム,テトラヒドロコルチゾール(THF),アセトニトリル,ベンゾニトリルを含む,一連の12の溶剤を用いて試験を行った。第2の溶剤を添加した時に瞬間的に膜が黒くなることにより,望ましい材料が形成されたという証拠が得られた。対照的に,第2の溶剤を添加しない従来のスピンコーティングでは,未乾燥塗膜がゆっくりと乾燥し,光沢のある灰色の膜を得た。その後,膜を100℃で10分間アニーリングし,残留溶剤を蒸発させてさらに結晶化を促した。)

(イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術が記載されていると認められる。
a CH3NH3PbI3およびCH3NH3PbI3Cl3(メチルアンモニウム塩化鉛)などのアルキルアンモニウム鉛(II)ハロゲン化合物は,集光性が高く,キャリア移動度の高い,容易な溶液加工性を備えた高効率の太陽光発電材料であり,これらの有機無機鉛(II)複合物質は,一般式ABX3によって周知のペロブスカイト構造で結晶化されること。

b 基板上にCH3NH3PbI3のDMF溶液によるスピンコーティングを施し,その後すぐに未乾燥塗膜をクロロベンゼン(CBZ)などの第2の溶剤に暴露して,結晶化を誘発することにより平面で非常に均一なCH3NH3PbI3の薄膜を作製する溶剤導入高速結晶堆積法(FDC)は,膜の形成が1分以内に完了する短時間での蒸着という利点をもたらすこと。

ウ 引用文献3
(ア)同じく原査定に引用され,本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,国際公開第2015/059436号(以下「引用文献3」という。)には,次の記載がある。
「Summary of the Invention
According to a first aspect of the invention there is provided a method of making a photovoltaic device including: providing a substrate; forming a compact layer on the substrate; characterised in that the compact layer is coated
a) with a precursor solution including metal oxide nanoparticles and perovskites, and said precursor solution is exposed to NIR radiation so the nanoparticles form a scaffold for the perovskites which can allow for light absorption and electron transportation in the compact layer when exposed to light, following which a conductor layer is attached to the scaffold or
b) a precursor solution including metal oxide is formed on the compact layer and treated with NIR radiation to form a scaffold and then a precursor solution containing perovskites is applied to the scaffoldand exposed to NIR radiation so the perovskites can allow for light absorption and electron transportation in the compact layer when exposed to light, following which a conductor layer is attached to the scaffold .
It is envisaged that the NIR radiation is applied having a wavelength in the range of 700 and 2500nm to the precursor solution. The NIR treatment heats the precursor solution so the perovskite precursor solution crystallizes to form the scaffold. 」(明細書2ページ16行−3ページ8行)
(日本語訳:【発明の概要】
本発明の第1の態様によれば,光起電素子の製造方法であって,
基板を設けることと,
基板上に緻密層を形成すること,
を含み,
緻密層に,
a)金属酸化物ナノ粒子とペロブスカイトとを含む前駆体溶液を塗布し,この前駆体溶液を近赤外線に暴露させることにより,ナノ粒子がペロブスカイトの足場を形成し,これによって,光に暴露させたときに緻密層における光吸収および電子輸送が可能となり,続いて足場に導体層が付着するか,又は
b)金属酸化物を含む前駆体溶液を緻密層上に形成し,近赤外線により処理して足場を形成し,次いでペロブスカイトを含有する前駆体溶液を足場に塗布し,近赤外線に暴露させることにより,ペロブスカイトが,光に暴露させたときに緻密層における光吸収および電子輸送が可能となり,続いて足場に導体層が付着する,
ことを特徴とする方法が提供される。
前駆体溶液に,700〜2500nmの範囲の波長を有する近赤外線を照射することが想定される。NIR処理は前駆体溶液を加熱することにより,ペロブスカイト前駆体溶液が結晶化して足場を形成する。)

「The perovskite is treated using NIR to rapidly crystallise the perovskites rapidly.」(明細書6ページ24行)
(NIRを用いてペロブスカイトを処理し,ペロブスカイトを迅速に結晶化させる。)

(イ)上記記載から,引用文献3には,次の技術が記載されていると認められる。
ペロブスカイトの前駆体溶液に,700〜2500nmの範囲の波長を有する近赤外線を照射するNIR処理は,前駆体溶液を加熱することにより,ペロブスカイト前駆体溶液を迅速に結晶化すること。

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明1,2と引用発明1,2とを対比する。
(ア)引用発明1の「ITO-ガラス基板」,及び,引用発明2の「ITOのパターンが形成されたPET箔」は,それぞれ,本件補正発明1の「導電基板」,及び,本件補正発明2の「導電基板」に相当する。

(イ)引用発明1の「DMFに300mg mL-1のPbCl2+MAI(CH3NH3PbI3)(化学量論混合比1:3)を混合した溶液」,及び,引用発明2の「DMF溶液に350mg mL-1のPbCl2+MAI(CH3NH3PbI3)(化学量論混合比1:3)を混合した溶液」は,それぞれ,本件補正発明1の「前駆体溶液」,及び,本件補正発明2の「前駆体溶液」に相当する。

(ウ)上記(2)イ(イ)aのとおり,引用文献2にも記載されているように,CH3NH3PbI3が,一般式ABX3によって周知のペロブスカイト構造で結晶化されることは技術常識である。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)から,引用発明1の「DMFに300mg mL-1のPbCl2+MAI(CH3NH3PbI3)(化学量論混合比1:3)を混合した溶液を15秒間,2000rpmで冷却した前記基板にスピンコーティングし,その後,15秒間サンプルを休ませ,45分間,110℃で焼きなまし処理を行う工程」と,
本件補正発明1の「導電基板に前駆体溶液を数十秒供給することによって,フィルムを形成するステップと,前記数十秒で形成された前記フィルムを逆溶剤に浸漬することによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれ,前記ペロブスカイト膜のペロブスカイト結晶は前記導電基板上に連続且つ均一に分布されるとともに,前記ペロブスカイト結晶の分布面積は25cm2〜10000cm2であり,前記導電基板の面積は25cm2〜10000cm2であることを特徴とする,大面積ペロブスカイト膜の製造方法」とは,
導電基板に前駆体溶液を供給することによって,フィルムを形成するステップと,
前記フィルムによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,
前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれる,
ペロブスカイト膜の製造方法である点で一致する。

(オ)引用発明2の「DMF溶液に350mg mL-1のPbCl2+MAI(CH3NH3PbI3)(化学量論混合比1:3)を混合した溶液をポンプ速度0.017mL min-1およびウェブ速度0.5m min-1でスロットダイコーティングし,その後110℃で40分間,金属箔に焼きなましを施す工程」と,
本件補正発明2の「導電基板に前駆体溶液を数十秒供給することによって,フィルムを形成するステップと,赤外線を用いて前記数十秒で形成された前記フィルムを加熱することによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれ,前記ペロブスカイト膜のペロブスカイト結晶は前記導電基板上に連続且つ均一に分布されるとともに,前記ペロブスカイト結晶の分布面積は25cm2〜10000cm2であり,前記導電基板の面積は25cm2〜10000cm2であることを特徴とする,大面積ペロブスカイト膜の製造方法」とは,
導電基板に前駆体溶液を供給することによって,フィルムを形成するステップと,
前記フィルムを加熱することによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,
前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれる,
ペロブスカイト膜の製造方法である点で一致する。

イ 以上のことから,本件補正発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「導電基板に前駆体溶液を供給することによって,フィルムを形成するステップと,
前記フィルムによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,
前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれる,
ペロブスカイト膜の製造方法。」

【相違点1】
前駆体溶液の供給が,本件補正発明1では,「数十秒」であるのに対し,引用発明1は,「15秒間」である点。
【相違点2】
前駆体溶液のフィルムからのペロブスカイト膜の形成が,本件補正発明1では,「前記フィルムを逆溶剤に浸漬すること」によって行われるのに対し,引用発明1は,当該構成について特定されていない点。
【相違点3】
ペロブスカイト膜が,本件補正発明1では,「前記ペロブスカイト膜のペロブスカイト結晶は前記導電基板上に連続且つ均一に分布されるとともに,前記ペロブスカイト結晶の分布面積は25cm2〜10000cm2であり,前記導電基板の面積は25cm2〜10000cm2であることを特徴とする,大面積」であるのに対し,引用発明1は,当該構成について特定されていない点。

ウ 以上のことから,本件補正発明2と引用発明2との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「導電基板に前駆体溶液を供給することによって,フィルムを形成するステップと,
前記フィルムを加熱することによって,ペロブスカイト膜を形成するステップとを備え,
前記ペロブスカイト膜を構成するペロブスカイトの一般式はABX3で示され,前記前駆体溶液の溶質には少なくともA,B,及びXが含まれる,
ペロブスカイト膜の製造方法。」

【相違点4】
前駆体溶液の供給が,本件補正発明2では,「数十秒」であるのに対し,引用発明2は,当該構成について特定されていない点。
【相違点5】
前駆体溶液のフィルムを加熱することによるペロブスカイト膜の形成が,本件補正発明2では,「赤外線を用いて」行われるのに対し,引用発明2は,当該構成について特定されていない点。
【相違点6】
ペロブスカイト膜が,本件補正発明2では,「前記ペロブスカイト膜のペロブスカイト結晶は前記導電基板上に連続且つ均一に分布されるとともに,前記ペロブスカイト結晶の分布面積は25cm2〜10000cm2であり,前記導電基板の面積は25cm2〜10000cm2であることを特徴とする,大面積」であるのに対し,引用発明2は,当該構成について特定されていない点。

(4)判断
以下,相違点について検討する。
ア 相違点1について
スピンコーティングにおいて,前駆体溶液を供給する時間は,スピンコートすべき基板の面積等の条件に基づいて,基板表面の全体にわたって均一な膜厚を得るために適宜定めるべき設計事項であって,引用発明1で「15秒間」とされている時間を「数十秒」とすることは,当業者が容易になし得たことである。
また,前駆体溶液を供給する時間を「数十秒」としたことによる格別の効果は,本願明細書には記載されていない。
したがって,引用発明1において,本件補正発明1の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
上記(2)イ(イ)bのとおり,引用文献2には,基板上にCH3NH3PbI3のDMF溶液によるスピンコーティングを施し,その後すぐに未乾燥塗膜をクロロベンゼン(CBZ)などの第2の溶剤に暴露して,結晶化を誘発することにより平面で非常に均一なCH3NH3PbI3の薄膜を作製する溶剤導入高速結晶堆積法(FDC)は,膜の形成が1分以内に完了する短時間での蒸着という利点をもたらすことが記載されている。
してみれば,平面で非常に均一な膜の形成を短時間に完了させるという利点を得るために,引用発明1において,スピンコーティングを施し,その後すぐに未乾燥塗膜をクロロベンゼン(CBZ)などの第2の溶剤,すなわち,逆溶剤に浸漬して,結晶化を誘発させることは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,引用発明1において,本件補正発明1の相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
上記(2)ア(イ)d及びeのとおり,引用文献1には,当該文献に記載された研究の目的のために,寸法5×2.5cm2のガラス基板を用いた単一デバイスのバッチ処理のために作られた小さなベンチトップスケールのスクリーン印刷機が使用されているが,この小さなベンチトップスケールのスクリーン印刷機と,ロール・ツー・ロール方式を稼動することが可能な大型機とは,同一の機構を備えた機械であるため,印刷処理の拡張性が確保されることが記載されている。
してみれば,引用文献1には,当該文献に記載された技術を,研究所の外で実用化するにあたり,当該文献で用いられた,5×2.5cm2の寸法よりも大面積な基板にペロブスカイト膜を製造することが示されているといえる。
そうすると,5×2.5cm2の寸法よりも大面積な基板として,25cm2〜10000cm2の範囲に含まれる面積を有する基板を選び,当該基板の25cm2〜10000cm2の面積にわたりペロブスカイト結晶が分布するように,ペロブスカイト結晶を連続且つ均一に形成することは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,引用発明1において,本件補正発明1の相違点3に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

エ 相違点4について
スロットダイコーティングにおいて,前駆体溶液を供給する時間は,基板の長さと,ウェブ速度によって定まるから,引用発明2において,前駆体溶液を供給する時間を,「数十秒」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。
また,前駆体溶液を供給する時間を「数十秒」としたことによる格別の効果は,本願明細書には記載されていない。
したがって,引用発明2において,本件補正発明2の相違点4に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

オ 相違点5について
上記(2)ウ(イ)のとおり,引用文献3にも記載されているように,加熱手段として,赤外線を用いることは周知の技術である。
しかも,上記(2)ウ(イ)のとおり,引用文献3に記載されているように,ペロブスカイトの前駆体溶液に,700〜2500nmの範囲の波長を有する近赤外線を照射するNIR処理は,前駆体溶液を加熱することにより,ペロブスカイト前駆体溶液を迅速に結晶化することが知られているのであるから,引用発明2において,前駆体溶液のフィルムを加熱してペロブスカイト膜を形成するにあたり,赤外線を用いることは当業者が容易になし得たことである。
したがって,引用発明2において,本件補正発明2の相違点5に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

カ 相違点6について
上記(2)ア(イ)d及びeのとおり,引用文献1には,当該文献に記載された研究の目的のために,寸法5×2.5cm2のガラス基板を用いた単一デバイスのバッチ処理のために作られた小さなベンチトップスケールのスクリーン印刷機が使用されているが,この小さなベンチトップスケールのスクリーン印刷機と,ロール・ツー・ロール方式を稼動することが可能な大型機とは,同一の機構を備えた機械であるため,印刷処理の拡張性が確保されることが記載されている。
してみれば,引用文献1には,当該文献に記載された技術を,研究所の外で実用化するにあたり,当該文献で用いられた,5×2.5cm2の寸法よりも大面積な基板にペロブスカイト膜を製造することが示されているといえる。
そうすると,5×2.5cm2の寸法よりも大面積な基板として,25cm2〜10000cm2の範囲に含まれる面積を有する基板を選び,当該基板の25cm2〜10000cm2の面積にわたりペロブスカイト結晶が分布するように,ペロブスカイト結晶を連続且つ均一に形成することは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,引用発明2において,本件補正発明2の相違点6に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

キ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明1及び本件補正発明2の奏する作用効果は,引用発明1,2及び引用文献2,3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

ク したがって,本件補正発明1及び本件補正発明2は,引用発明1,2及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年6月5日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年8月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1,2に係る発明(以下「本願発明1」,「本願発明2」という。)は,その請求項1,2に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1ないし15に係る発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2,3に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:T.M.Schmidt et al.,Upscaling of Perovskite Solar Cells:Fully Ambient Roll Processing of Flexible Perovskite Solar Cells with Printed Back Electrodes,Advanced Energy Materials,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,2015年 8月 5日,Vol.5 Issue15,pp.1500569-1-9,https;//doi.org/10.1002/aenm.201500569
引用文献2:M.Xiao et al.,A Fast Deposition-Crystallization Produce for Highly Efficient Lead Iodide Perovskite Thin-Film Solar Cells,Angewandte Communications,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,2014年 9月 8日,Vol.53, Issue37,pp.9898-9903,https://doi.org/10.1002/anie.201405334
引用文献3:国際公開第2015/059436号

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明1,2は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明1,2から,限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明1,2が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明1,2及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1,2も,引用発明1,2及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明1,2は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 辻本 泰隆
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2020-06-18 
結審通知日 2020-06-23 
審決日 2020-07-08 
出願番号 P2017-043319
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 加藤 浩一
西出 隆二
発明の名称 大面積ペロブスカイト膜の製造方法、ペロブスカイト太陽電池モジュール、並びにその製造方法  
代理人 伊藤 捷雄  

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