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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1380239
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-10 
確定日 2021-12-01 
事件の表示 特願2018−116125「マイクロ波プラズマ処理を使用した多相複合材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月 6日出願公開、特開2018−192471〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年3月18日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年3月18日及び2014年3月13日 2件とも米国〕を国際出願日とする特願2016−504326号の一部を、平成30年6月19日に新たな特許出願としたものであって、
平成30年7月18日に手続補正がなされ、平成31年4月17日付けの拒絶理由通知に対し、令和元年7月22日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
令和元年9月5日付けの拒絶査定(謄本発送は同年9月10日)に対し、令和2年1月10日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、令和2年7月2日に上申書の提出がなされ、
令和2年9月15日付けの当審による拒絶理由通知に対し、令和3年3月26日付けで意見書の提出とともに誤訳訂正書を提出してする手続補正がなされたものである。
なお、令和2年6月22日に請求人は「アマスタン・テクノロジーズ・エル・エル・シー」から現名称に名称変更をした。

第2 本願発明について
本願の請求項1〜24に係る発明は、令和3年3月26日付けの誤訳訂正書を提出してする手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜24に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。
「マイクロ波生成プラズマを使用して粒子を作製する方法であって、
塩溶液の前駆体液滴をマイクロ波プラズマトーチ中へ導入すること、
マイクロ波生成プラズマに向かう少なくとも1つの同軸層流のガス流を使用して前記前駆体液滴を連行すること、
前記前駆体液滴を前記マイクロ波生成プラズマ内の高温に暴露すること、および
前記マイクロ波生成プラズマ中での前記前駆体液滴の滞留時間を制御すること
を含み、
前記のマイクロ波プラズマ中での前記前駆体液滴の滞留時間を制御することは、プラズマプルームの容積を制御することを含む、方法。」

第3 令和2年9月15日付けの拒絶理由通知の概要
令和2年9月15日付けの拒絶理由通知では、理由1として「この出願の請求項1〜25に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1〜2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との拒絶の理由が指摘されるとともに、次の刊行物1〜2が提示されている。
刊行物1:米国特許出願公開第2008/0173641号明細書
刊行物2:特開平5−269372号公報

第4 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
(1)上記刊行物1には、和訳にして、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「1.材料を処理するためのマイクロ波プラズマ装置であって、プラズマ室;マイクロ波放射を生成するためのマイクロ波放射源;プラズマ室にマイクロ波放射源からのマイクロ波放射を案内する導波管;プラズマ室にガスを提供するためのプラズマ室との流体連通の供給;及びプラズマ室にプロセス材料を導入するためのプラズマ室と連通された材料供給システムを含み、ここでマイクロ波放射はプラズマジェットを形成するためにガスと連結され、ここでプロセス材料はプラズマジェットとの接触を通じて製品材料が形成される装置。」

摘記1b:段落0022
「[0022]図1を参照するに、本発明の実施態様に相当する材料処理のためのマイクロ波プラズマ装置10は、導波管12を貫通するプラズマ室18へのマイクロ波源16からのマイクロ波放射14を案内する導波管12を含んでいる。装置10は、プラズマ室18にプロセス材料22を供給する材料供給システム20、プラズマ室18にプロセスガス26を供給する加圧源24、及びプラズマ室18に包囲ガス30を供給する加圧源28も含んでいる。装置10は、マイクロ波源16に対するプラズマ室18からのマイクロ波放射の反射を最小限にするためのマイクロ波源16と導波路12に連通するインピーダンス整合部32をさらに含んでいる。装置10は、導波路12に連通する反射電力保護装置34を含み得る。・・・」

摘記1c:段落0031
「[0031]別の実施形態では、図3に示すように、エミッタロッド90が、材料供給システム20から管64を通って突出している。材料供給システム20は、エミッタロッド90がプラズマ室18の内部へ供給する摩擦ホイール92を備えている。コンピュータ制御可能なDCステッピングモータ(図示せず)が摩擦ホイール92を駆動する。DCステッピングモータを制御するためのコンピュータプログラムは、プラズマジェットの温度、マイクロ波源の出力レベル、プロセスガスの質量速度、及びエミッタロッドの長さ94のような、検出又は派生した変数に基づいてモータ角度を調整する。図3に示す実施形態によれば、加圧された供給源24が、材料供給システム20と流体連通しており、プロセスガス26はエミッタ管64を介してプラズマ室18に流入する。」

摘記1d:段落0043〜0044
「[0043]…液滴89は、混合室87を通って流れる搬送ガスとして搬送ガス80中に懸濁される。搬送ガス80は、エミッタ管64を通ってプラズマ室18に提供される噴射機62を介して供給されるプロセスガス26と完全に混合するように、材料22がプロセスガス26のプラズマジェット36中に同伴されるようになる。例えば、プロセス材料22を含有する液滴は、直径が約10ミクロン(10μm)であってもよく、搬送ガス80は、軸54に実質的に平行な線に沿って、プラズマ室18の中に注入されてもよい。…
[0044]液滴89の実質的な均一性は、従前に達成可能であったものよりも実質的に向上した、大きさ、速度、温度、及び溶融状態の均一性を有する製品材料100の提供を、マイクロ波プラズマ装置10ができるようにする。図2に示す実施形態では、製品材料100は、ターゲット102に向かう実質的な速度を有する溶融液滴又は部分溶融粒子としてプラズマ室18から排出される。製品材料100の全てが、粒子又は液滴の、大きさ、速度、温度、及び相において、実質的に均一である。」

摘記1e:段落0050及び0052
「[0050]約1キロワット(1kW)以上のマイクロ波源の出力レベルでは、マイクロ波放射は軸54に実質的に平行に例外的な長さにまで、プラズマジェット36の長さを増大させることができ、その長さはRF及びDCアーク放電により得られる最大の長さを超える。他の変数としては、マイクロ波源16の出力レベル、プロセスガス26の速度によりプラズマジェット36の長さを大きくすることができる。しかしながら、プロセスガス26の過度の速度または質量流量は、プロセスガスに結合するマイクロ波放射14の能力を超えることがあり、それによってプラズマジェット36を消滅させる。…例示的な実施形態では、プラズマジェット36は、5インチにまで伸ばされる。…
[0052]プロセス材料22の望ましい組成物は、限定されないが、酸化物、窒化物及び炭化物のセラミックス、希土類のセラミック、金属及び金属合金のいずれかである。」

摘記1f:段落0055〜0056
「[0055]本発明の別の利点は、その設計により、ガスの制御された層流に原料を軸方向に注入することを可能にすることである。その結果、注入された粒子の熱履歴は、他の粒子の熱履歴と非常に類似している。例えば、十分に発達した流れのために、チューブ中心から半径の1/2以内に注入された粒子は、25%以内の同様の速度を有する。これによって、類似の滞留時間と類似する融解挙動を示すようになる。
[0056]本発明の別の利点は、軸方向の注入の構成は、非常に均一な大きさの液滴を生成する圧電液滴製造器の使用を可能にすることである。このほぼ均一な滞留時間と組み合わされた場合には、従来技術と比較して、高度に均質な被膜及び粉末を製造する非常に均一な溶融状態となる。」

摘記1g:図1




摘記1h:図3




(2)上記刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:請求項1
「【請求項1】液状物を供給する供給管とガス供給管とを合わせ持つ多重管構造を有する原料供給ノズルをプラズマ炎中に挿入し、プラズマ炎中に液状物が供給できるプラズマ装置を用いてセラミックス粉末を製造する方法において、(I)1種類の金属元素を有する金属化合物あるいは2種類以上の混合物、(II)2種類以上の金属元素を有する金属化合物、のうち(I)および/または(II)を溶媒中に溶解および/または分散させた液状物をプラズマ炎中に供給することを特徴とするセラミックス粉末の製造方法。」

摘記2b:段落0021〜0022
「【0021】…さらに特定のプラズマ条件、液状物中の正味の原材料の濃度および分散粒子の粒度条件の時に、球状のセラミックス粉末を製造できる。加えて液状物中の正味の原材料の濃度および分散粒子の粒度条件をさらに適切に選ぶことにより、セラミックスの超微粒子が得られる。
【0022】用いるプラズマ源としては、好ましくは、高周波誘導プラズマ、マイクロ波誘導プラズマあるいはECRプラズマなど何れでも良いが、これのみに限定されるものではなく、例えば直流アークプラズマも使用可能である。」

摘記2c:段落0027〜0028
「【0027】実施例1〜7
各セラミックスの前駆体である市販のシュウ酸マグネシウム、シュウ酸バリウム、シュウ酸アルミニウム、シュウ酸イットリウム、シュウ酸ランタン、アンモニウムミョウバン、水酸化アルミニウムの篩分けを行ない、粒径45μm以下のの粉末を得た。この粉末10gに対して純水100mlを加え、液状物を調製した。
【0028】次に高周波誘導プラズマ装置において、原料供給ノズルの先端がプラズマ炎中に位置するように原料供給ノズルを設置し、プラズマ炎を発生させ、このプラズマ炎中に先に調製した液状物を原料供給ノズルにより噴霧供給した。この時の実験条件を表1に示す。液状物は、1.0ml/分の割合で原料供給ポンプを用い供給した。その結果、プラズマ炎の乱れもなく、液状原料を安定供給でき、セラミックス粉末を得た。得られたセラミックス粉末は、メノー乳鉢により粉砕後、X線回折実験を行ない、最強ピーク強度比を求めた。その結果を表2に示す。」

2.刊行物1に記載された発明
摘記1bの「図1を参照するに、本発明の実施態様に相当する材料処理のためのマイクロ波プラズマ装置10は、…プラズマ室18にプロセス材料22を供給する材料供給システム20、プラズマ室18にプロセスガス26を供給する加圧源24…も含んでいる。」との記載、
摘記1cの「DCステッピングモータを制御するためのコンピュータプログラムは、プラズマジェットの温度、マイクロ波源の出力レベル、プロセスガスの質量速度、及びエミッタロッドの長さ94のような、検知又は派生した変数に基づいてモータ角度を調整する。」との記載、
摘記1dの「液滴89は、混合室87を通って流れる搬送ガスとして搬送ガス80中に懸濁される。搬送ガス80は、エミッタ管64を通ってプラズマ室18に提供される噴射機62を介して供給されるプロセスガス26と完全に混合するように、材料22がプロセスガス26のプラズマジェット36中に同伴されるようになる。例えば、プロセス材料22を含有する液滴は、直径が約10ミクロン(10μm)であってもよく、搬送ガス80は、軸54に実質的に平行な線に沿って、プラズマ室18の中に注入されてもよい。…液滴89の実質的な均一性は、従前に達成可能であったものよりも実質的に向上した、大きさ、速度、温度、及び溶融状態の均一性を有する製品材料100の提供を、マイクロ波プラズマ装置10ができるようにする。…製品材料100の全てが、粒子又は液滴の、大きさ、速度、温度、及び相において、実質的に均一である。」との記載、
摘記1fの「ほぼ均一な滞留時間と組み合わされた場合には、従来技術と比較して、高度に均質な被膜及び粉末を製造する非常に均一な溶融状態となる。」との記載、及び
摘記1gの図1の記載からみて、刊行物1には、
『プラズマ室18にプロセス材料22を供給し、プラズマ室18にプロセスガス26を供給する、マイクロ波プラズマ装置10を用いる、材料処理の方法であって、
プロセス材料22を含有する液滴は直径が約10ミクロンであり、搬送ガス80は、軸54に実質的に平行な線に沿って、プラズマ室18の中に注入され、
搬送ガス80は、噴射機62を介して供給されるプロセスガス26と完全に混合して、材料22がプロセスガス26のプラズマジェット36中に同伴され、
プラズマジェットの温度、マイクロ波源の出力レベル、プロセスガスの質量速度、及びエミッタロッドの長さの変数に基づいて、コンピュータプログラムによる制御を行い、
ほぼ均一な滞留時間と組み合わされて、高度に均質な粉末を製造する非常に均一な溶融状態となり、
粒子の大きさが均一性を有する製品材料100を提供する方法。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

3.対比
本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「マイクロ波プラズマ装置10」を用いる「粒子の大きさが均一性を有する製品材料100を提供する方法」は、本1発明の「マイクロ波生成プラズマを使用して粒子を作製する方法」に相当する。
刊1発明の「プロセス材料22を含有する液滴」を「軸54に実質的に平行な線に沿って、プラズマ室18の中に注入」する構成は、刊1発明の「液滴」と「プラズマ室18」の各々が本1発明の「前駆体液滴」と「マイクロ波プラズマトーチ」の各々に対応するので、本1発明の「前駆体液滴をマイクロ波プラズマトーチ中へ導入すること」に相当する。
刊1発明の「搬送ガス80は、噴射機62を介して供給されるプロセスガス26と完全に混合して、材料22がプロセスガス26のプラズマジェット36中に同伴」は、刊1発明の「プラズマジェット36」と「プロセスガス26」と「材料22」の各々が本1発明の「マイクロ波生成プラズマ」と「同軸層流のガス流」と「前記前駆体液滴」の各々に対応するので、本1発明の「マイクロ波生成プラズマに向かう少なくとも1つの同軸層流のガス流を使用して前記前駆体液滴を連行すること」に相当する。
刊1発明の「ほぼ均一な滞留時間」と組み合わされて、高度に均質な粉末を製造する「非常に均一な溶融状態」は、刊1発明の材料22を含有する液滴がプラズマジェット36の中で「溶融状態」になる程度の高温にさらされていることから、本1発明の「前記前駆体液滴を前記マイクロ波生成プラズマ内の高温に暴露すること」に相当する。

してみると、本1発明と刊1発明は
『マイクロ波生成プラズマを使用して粒子を作製する方法であって、
前駆体液滴をマイクロ波プラズマトーチ中へ導入すること、
マイクロ波生成プラズマに向かう少なくとも1つの同軸層流のガス流を使用して前記前駆体液滴を連行すること、
前記前駆体液滴を前記マイクロ波生成プラズマ内の高温に暴露すること、
を含む、方法。』という点において一致し、次の(α)及び(β)の点において一応相違する。

(α)前駆体液滴が、本1発明は「塩溶液」からなるのに対して、刊1発明は「塩溶液」からなるものとして特定されていない点

(β)本1発明は「前記マイクロ波生成プラズマ中での前記前駆体液滴の滞留時間を制御することを含み、前記のマイクロ波プラズマ中での前記前駆体液滴の滞留時間を制御することは、プラズマプルームの量を制御することを含」むのに対して、刊1発明は、当該「前記マイクロ波生成プラズマ中での前記前駆体液滴の滞留時間を制御することを含み、前記のマイクロ波プラズマ中での前記前駆体液滴の滞留時間を制御することは、プラズマプルームの容積を制御することを含」むか否か不明な点

4.判断
(1)上記(α)の相違点について
刊行物2には「マイクロ波誘導プラズマ」をプラズマ源(摘記2bの段落0022)とした「金属化合物…を溶媒中に溶解および/または分散させた液状物をプラズマ炎中に供給することを特徴とするセラミックス粉末の製造方法」に関する発明(摘記2aの請求項1)が記載され、具体的には「セラミックスの前駆体である市販のシュウ酸マグネシウム」等の「粉末10gに対して純水100mlを加え、液状物を調製」し、この「調製した液状物」を「プラズマ炎中」に噴霧供給する発明(摘記2cの段落0027〜0028の実施例)が記載されている。
そして、刊1発明を含む刊行物1に記載の発明では「プロセス材料22の望ましい組成物は、限定されない」が「セラミック」などの材料が好ましいとされている(摘記1eの段落0052)。
してみると、刊行物1及び2に記載の発明は『マイクロ波誘導プラズマをプラズマ源とした粉末の製造方法』に関する技術分野に属するという点で共通するものであるところ、このような技術分野において、原材料を「セラミックスの前駆体」である「シュウ酸マグネシウム」等を水で溶解した「塩溶液」の形態で供給することは、刊行物2に記載されるように普通に知られているので、望ましいプロセス材料として「セラミック」を想定している刊1発明の「プロセス材料22を含有する液滴」を、刊行物2に記載の「セラミックスの前駆体」であるシュウ酸マグネシウム等の「塩溶液の前駆体液滴」とすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。

(2)上記(β)の相違点について
ア 刊行物1の段落0043〜0044(摘記1d)の「液滴89は…搬送ガス80中に懸濁され…エミッタ管64を通ってプラズマ室18に提供され…材料22が…プラズマジェット36中に同伴されるようになる。…液滴89の実質的な均一性は…向上した、大きさ、速度、温度、及び溶融状態の均一性を有する製品材料100の提供を…できるようにする。」との記載にあるように、刊行物1に記載の発明は「液滴」の均一性を向上させることで、大きさや速度や温度などの均一性を有する製品材料100の提供を可能にしているものである。
イ そして、刊行物1の段落0031(摘記1c)の「図3に示すように、エミッタロッド90が、…管64を通って突出し…DCステッピングモータを制御するためのコンピュータプログラムは、プラズマジェットの温度、マイクロ波源の出力レベル、プロセスガスの質量速度、及びエミッタロッドの長さ94のような…変数に基づいてモータ角度を調整する。」との記載にあるように、刊1発明は「コンピュータプログラムによる制御」によってエミッタロッド90の先端部分の突出位置を上下することで、プラズマ室18内に形成される「プラズマジェット」の大きさ(容積)や、これを通過する「液滴」の速度(単位時間当たりの移動距離)などを変動させ、これにより「大きさ、速度、温度、及び溶融状態の均一性を有する製品材料100の提供」を可能にしているものであって、プラズマジェットの大きさ(容積)や、これを通過する液滴の速度などを変動させる制御によって、液滴のプラズマ中の滞留時間(容積が大きくなれば滞留時間も長くなり、液滴の移動速度が遅くなれば滞留時間も長くなる)が制御されることは明らかである。
ウ してみると、刊1発明は、コンピュータプログラムによる「制御」によって、エミッタロッド90の突出位置を調整し、プラズマ室18の内部にあるプラズマジェット36(プラズマプルーム)の大きさ(容積)を変動させて、当該プラズマジェット36の中を通過する「液滴」の「速度」などの均一性を制御しているといえるので、刊1発明は、本1発明の「前記マイクロ波生成プラズマ中での前記前駆体液滴の滞留時間を制御することを含み、前記のマイクロ波プラズマ中での前記前駆体液滴の滞留時間を制御することは、プラズマプルームの容積を制御することを含」むという構成を実質的に具備しているといえるものである。したがって、上記(β)の点に実質的な差異があるとはいえない。
エ 仮に上記(β)の点が、実質的な差異があったとしても、刊行物1の段落0055〜0056(摘記1f)の記載にあるように均一な滞在時間とするために「前駆体液滴の滞留時間」を制御することは刊1発明においても必要なことであり、刊行物1の段落0050(摘記1e)の「マイクロ波源16の出力レベル、プロセスガス26の速度によりプラズマジェット36の長さを大きくすることができる。」との記載にあるように、プラズマジェットの長さも刊1発明において調整可能であり、かつ所定の処理を行うために何らかの制御が必要であることも明らかである。そして、「前記のマイクロ波プラズマ中での前記前駆体液滴の滞留時間を制御することは、プラズマプルームの容積を制御することを含む」ことは、令和3年3月26日付けの意見書の3.(A)(3)において「液滴がプラズマを通過するとき、プラズマプルームを通過するのに費やした時間自体(すなわち滞留時間)は、容積(または空間サイズ)がより小さいプラズマと比較して、大きなプラズマを通過するときの方が大きくなる。これは、他の全ての範囲においても等しく、プラズマを通過するのに費やす時間は、プラズマの容積または空間サイズが大きくなるにつれて大きくなるからことから明らか」と主張するように自明のことである。したがって、上記(β)は、当業者が刊行物1の記載及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到しうることである。
オ なお、同意見書の3.(B)において『刊行物1の「コンピュータプログラム」についての唯一の言及は、例えば段落[0031]にある、「DCステッピングモーターを制御するコンピュータプログラムは、プラズマジェット温度などの検出または導出された変数に基づいてモーター角度を調整する」という部分になります。なお、このモーターは刊行物1には具体的には示されておらず、単に摩擦ホイール(図3の要素92)を駆動するのに用いて、エミッタロッド(図3の要素90)の位置を制御するとあるのみです。この教示からは、刊行物1に記載されたコンピュータプログラムが、エミッタロッド(90)を動かすために摩擦ホイール(92)のモーターを制御することは明らかです。また、エミッタロッドはプラズマの点火に使用されるため、チャンバー内のプラズマプルームの位置に影響を与える可能性があるものの、プラズマプルームの容積(すなわち、空間サイズ)、つまりどれだけの時間、粒子がプラズマプルーム内に位置するのかということには影響しません。』と主張するが、図3(摘記1h)のエミッタロッド90の先端部分の突出位置が上下(長さ94)に制御されれば、プラズマジェット36の上端の位置も上下に変動し、その一方で、プラズマ室18の出口52の位置は上下に変動しないので、結果としてプラズマジェット36の容積に影響が生じることは明らかであって、上記「プラズマプルームの容積…には影響しません」との主張は採用できない。

(3)本1発明の効果について
本願明細書の段落0018には「概して均一粒径及び均一熱履歴を有する粒子を生成することである。」との記載があるところ、刊行物1の段落0044(摘記1d)には「従前に達成可能であったものよりも実質的に向上した、大きさ、速度、温度、及び溶融状態の均一性を有する製品材料100の提供」との記載があるので、得られる粒子の「粒径」や「熱履歴」の均一性は、刊行物1に実質的に記載された効果であり、本1発明に格別予想外の効果があるとは認められない。

(4)まとめ
以上総括するに、本1発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、本1発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 門前 浩一
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-06-16 
結審通知日 2021-06-22 
審決日 2021-07-14 
出願番号 P2018-116125
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
木村 敏康
発明の名称 マイクロ波プラズマ処理を使用した多相複合材料の製造方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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