• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
管理番号 1380291
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-30 
確定日 2021-12-14 
事件の表示 特願2015−225522「複数の内燃機関から成るシステムを運転するための方法および制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月2日出願公開、特開2016−102495〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月18日(パリ条約による優先権主張2014年(平成26年)11月27日(DE)ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成31年3月22日付け(発送日:平成31年3月25日)で拒絶理由通知がされ、令和元年9月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和元年11月6日付け(発送日:令和元年12月2日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して令和2年3月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
そして、当審において、令和2年12月1日付け(発送日:令和2年12月7日)で拒絶理由通知がされ、令和3年6月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、令和3年6月7日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 【請求項1】
複数の内燃機関(2、3;22、23)から成るシステム(1;21)を運転するための方法であって、前記内燃機関(2、3;22、23)は、作動している内燃機関(2、3;22、23)によって提供される部分駆動出力が、少なくとも1つの共通の消費部(4;24)によって取り出されるように連結されており、前記内燃機関(2、3;22、23)は、前記部分駆動出力の総計に相当する、作動している前記内燃機関(2、3;22、23)によって提供される総駆動出力が、少なくとも、共通の前記あるいは各消費部(4;24)のために要求される出力に相当するように運転される方法において、
要求される出力を提供しつつ、作動している各内燃機関(2、3;22、23)のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれの前記内燃機関(2、3;22、23)は、この個別の運転ポイントで運転されて、つまり前記システム(1:21)にとって、排出量限界値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるようになり、
前記システム(1;21)の少なくとも1つの作動している内燃機関(2、3;22、23)は、この内燃機関の、触媒浄化前のNOx排出量および/あるいは触媒浄化前のCO2排出量および/あるいは過給圧および/あるいは燃料噴射圧および/あるいは圧縮率および/あるいは空燃比および/あるいは排ガス温度が、前記システム(1;21)の作動している別の前記あるいは各内燃機関(2、3;22、23)の対応する運転パラメータと相違するように、個別の運転ポイントで運転されることを特徴とする方法。」

第3 当審の拒絶理由通知書の概要
当審の拒絶の理由である、令和2年12月1日付け拒絶理由通知の理由1は、この出願の下記の請求項に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

・請求項 1ないし9
・引用文献等 1、3及び4、又は、2ないし6

<引用文献等一覧>
1.特開昭57−203839号公報
2.特開2004−239179号公報
3.特開2014−181576号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2012−225320号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2006−77608号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2006−274935号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、当審の拒絶の理由に引用された特開昭57−203839号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「内燃機関プラントの制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。

(1)「本発明は複数個の内燃機関で1本の被駆動軸を駆動する内燃機関プラントの制御装置に関する。
従来は複数の機関により1個または複数個のプロペラ及び発電機を駆動する機関は,第1図に示すように,各機関の出力状態を均一に保つため制御装置(負荷平衡制御装置)により制御される。なお,同図は船舶の2機1軸式のものを示し,101はNo.1機関,102はNo.2機関,103は駆動歯車,104は被駆動歯車,105はプロペラ軸,106はプロペラ,107は回転数制御装置,108は負荷平衡制御装置である。
しかし,この制御方法は,機関の効率を考えると好ましくなく,燃費も悪くなっている。即ち,2機関である負荷を負担する場合,従来は2機関が1/2ずつ負荷を負担する制御装置になっているため,2機関を合せた合計の効率が最適値にならず燃費も悪くなっていた。例えば11,000PS必要な場合,片方で6,500PS,他方で4,500PSの負荷を分担すると,従来の5,500PSずつ分担の場合より約7%の燃費の節約となった。
この点を改良した制御装置としては第2図に示すものがあるが,この装置は機関の使用状態が不均一であり機関の保守上好ましくない。即ち,第2図で示す2機関のうち,一方をNo.1機関(マスター機関)とし,他方をNo.2機関とした時には,この装置ではNo.1機関の負荷が大となる欠点がある。
この作動の概要は,回転数設定ハンドル1により指令された信号21とフライホイール2を介して回転数検出装置6から得られる機関回転数信号22との差の信号23が信号加減算器7により得られる。信号23は回転数制御装置8を介して回転数設定ハンドル1に相当する負荷出力信号11及び12との加え合せが加算器10により行われる。この信号は燃料噴射ポンプ5に伝達され噴射燃料量が制御される。同ポンプ5から送られた燃料は燃料噴射装置4を介してシリンダ3内に噴射され,燃焼により出力が得られる。
回転数制御装置8は第3図のように積分器13,比例器14,微分器15を組合せたもので一般に周知であり,それらの出力信号は加算器16で加へ合せられる。
また,最適負荷制御装置9は,第4図に示すように,回転数に相当して要求される綜合出力(負荷として作用)を負担するのに最も効率的な負荷配分曲線として事前に得られている曲線(No.1機関出力,No.2機関出力として明示している)に沿う信号を第2図の符号11,12として出力する。即ち,回転数設定ハンドル1のハンドル設定(回転数設定:固定ピッチプロペラ船の場合回転数により負荷が設定されたことになる)に対し,第5図に示すように,最も効率が高くなる負荷配分を計算する関数発生器9a,9b(各機関に対応して最適負荷制御装置9を構成する)を通して,各各の機関に最適噴射量を設定する。即ち,信号11,12は最適噴射量の出力を示す。」(1ページ右下欄7行ないし2ページ左下欄2行)

(2)(1)の記載事項と併せて第1、2及び4図を参酌すると、No.1機関101及びNo.2機関102の2つの内燃機関のそれぞれの出力であるNo.1機関出力及びNo.2機関出力が、1つのプロペラ106によって取り出されるようになっており、No.1機関出力とNo.2機関出力の総計が要求される総合出力に相当するように構成されているといえる。

(3)(1)の記載事項における「最適負荷制御装置9は、第4図に示すように、回転数に相当して要求される総合出力(負荷として作用)を負担するのに最も効率的な負荷配分曲線として事前に得られている曲線(No.1機関出力、No.2機関出力として明示している)に沿う信号を第2図の符号11、12として出力する。」という記載及び第4図の図示内容を踏まえると、回転数に対応してNo.1機関出力とNo.2機関出力のそれぞれ個別の値、すなわちポイントが算出されていることが明らかであるから、No.1機関出力とNo.2機関出力のそれぞれの個別の値は、個別のポイントに相当するといえる。

したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明1>
「No.1機関101及びNo.2機関102の2つの内燃機関から成る内燃機関プラントを駆動するための制御方法であって、前記内燃機関は、駆動している内燃機関によるNo.1機関出力及びNo.2機関出力が、1つの共通のプロペラ106によって取り出されるようになっており、前記内燃機関は、前記No.1機関出力及び前記No.2機関出力の総計に相当する、駆動している前記内燃機関による総合出力が、共通のプロペラ106のために要求される出力に相当するように駆動される制御方法において、
要求される出力を提供しつつ、駆動しているNo.1機関101及びNo.2機関102のために個別のポイントが算出され、No.1機関101及びNo.2機関102は、この個別のポイントで運転されて、
前記内燃機関プラントの作動しているNo.1機関101は、このNo.1機関101の回転数に対応したNo.1機関出力が、前記内燃機関プラントの作動している別のNo.2機関102の回転数に対応したNo.2機関出力と相違するように、個別のポイントで運転される、制御方法。」

2 引用文献2について
本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、当審の拒絶の理由に引用された特開2004−239179号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「エンジンシステム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0007】
この発明によれば、システム全体の目標空燃比が設定されている場合に、第1エンジンの空燃比を目標空燃比からずれたものに設定することができるので、第1エンジンの燃焼に自由度を持たせることができる。くわえて、第1エンジンの空燃比と目標空燃比とのずれを補償するように第2エンジンの燃焼を制御するから、システム全体の空燃比を目標空燃比と一致させることが可能である。ここで、空燃比とは空気(酸素)と燃料との重量比をいう。また、第1エンジン及び第2エンジンは、燃料を燃焼させることによってエネルギーを取り出すものであればどのようなものであっても良く、内燃機関又は外燃機関のいずれであってもよい。」

(2)「【0025】
【発明の実施の形態】
図1に、本発明に係る燃焼制御装置を適用した車両の概略構成を示す。車両に用いるエンジンシステムは、プライマリーエンジン1、セカンダリーエンジン2、及び三元触媒7を備える。プライマリーエンジン1は多気筒のガソリンエンジン(内燃機関)であって、気筒毎に燃焼室(図示しない)を備える。これらの燃焼室には吸気通路3及び連結通路4が繋がっている。一方、セカンダリーエンジン2は、外燃機関であり燃焼室を備える。この燃焼室には連結通路4及び排気通路5が繋がっている。ここで、連結通路4は、プライマリーエンジン1の排気通路として機能するとともにセカンダリーエンジン2の吸気通路として機能する。また、例えば、プライマリーエンジン1の出力はセカンダリーエンジン2の出力より大きく、それらの出力比は10:1に設定されている。」

(3)「【0027】
プライマリーエンジン1には、各気筒の燃焼室に燃料を噴射するための燃料噴射弁1A,1B,1C,1Dが取付けられている。各燃料噴射弁1A〜1Dから噴射される燃料の量は、制御装置10から出力される制御信号によって調整される。そして、燃料と吸気通路3内へ導入された外気とからなる混合気は、各燃焼室内へ導入される。各燃焼室に導入された混合気に着火するために、点火プラグ(図示せず)がプライマリーエンジン1に取付けられている。各点火プラグはディストリビュータ(図示せず)にて分配された点火信号に基づいて駆動される。ディストリビュータは、プライマリーエンジン1のクランク軸の回転角に同期して生成した点火信号を点火プラグに分配する。燃焼室内へ導入された混合気は点火プラグの点火によって燃焼される。この燃焼によりプライマリーエンジン1の駆動力が発生する。燃焼室で発生した排気ガスは連結通路4を経てセカンダリーエンジン2へ供給される。プレイマリーエンジン1の排気ガスは高温であり、熱エネルギーを含んでいる。セカンダリーエンジン2は、この熱エネルギーを回収する。
【0028】
セカンダリーエンジン2の上流には、燃料を噴射するための燃料噴射弁2Aが取付けられている。なお、燃料噴射弁2Aをセカンダリーエンジン2に設け、その燃焼室に燃料を噴射するようにしてもよい。燃料噴射弁2Aから噴射される燃料の量は、制御装置10から出力される制御信号によって調整される。これにより、セカンダリーエンジン2の空燃比が制御される。
【0029】
排気通路5には三元触媒7が設けられている。三元触媒7にはその温度に応じた検出信号を出力する温度センサ15が取り付けられている。三元触媒7は白金ロジウム系の物質を触媒として用い、酸化と還元とを同時に行う。具体的には、NOxから酸素を取り上げ、その酸素でCOとHCを酸化させる。従って、NOxは窒素N2に、COとHCはCO2とH2Oになる。この結果、三元触媒7は排気ガス中のCO、HC、及びNOxの三種の有害物質を同時に浄化することが可能である。但し、三元触媒7が有効に作用するためには、燃焼が理論空燃比付近である必要がある。その理由は、空燃比がリッチであれば不完全燃焼が起こり、COやHCが多く排出されてしまい、酸化させるための酸素が足りなくなる。また、逆に空燃比がリーンであれば排気ガス中に酸素が多く残存する。このため、わざわざNOxから酸素を取り上げるまでもなく酸素が供給されてしまい、NOxを十分に還元できないからである。
【0030】
セカンダリーエンジン2の出力は、例えば、ターボチャージャー、ターボオルタ、ランキンサイクル、スターリングサイクル、熱電素子等によって取り出すことができる。これらは、セカンダリーエンジン2のエネルギーを回収するエネルギー回収手段として機能する。この例では、スターリングサイクルを用いてセカンダリーエンジン2から機械エネルギーを取り出して発電機20を駆動している。発電機20によって発電された電力はバッテリ21に蓄電される。インバータ22は制御装置10からの指令に従ってモータ23を駆動する。モータ23のシャフトは動力分割機構24を介して車輪25と連結されている。一方、プライマリーエンジン1で発生する駆動力は動力分割機構24を介して車輪25へ伝達される。すなわち、本実施形態の車両には、プライマリーエンジン1の駆動力とモータ23の駆動力によって走行するハイブリッドシステムが採用されている。このハイブリッドシステムでは、インバータ22を制御することによって走行力をアシストすることが可能である。
【0031】
なお、セカンダリーエンジン2から取り出された機械エネルギーを何等かの機構を介して動力分割機構24へ伝達することも可能である。しかし、機械エネルギーの伝達は電気エネルギーの伝送と比較して一般に損失が大きい。従って、効率の観点からは、上述した例のように発電によって電気エネルギーを取り出すことが好ましい。
【0032】
制御装置10は、CPU、RAM、及びROMを備える。ROMには制御プログラムが記憶されており、CPUは制御プラグラムに従って各種の演算を実行する。RAMはCPUの作業領域として機能する。制御装置10は、各種のセンサからの信号に基づいて運転状態を把握して、車両全体を制御する制御中枢として機能する。具体的には、以下の制御を実行する。
【0033】
まず、空燃比制御について説明する。空燃比制御では、プライマリーエンジン1及びセカンダリーエンジン2を総合して1つのエンジンシステムとして見たとき、制御装置10は、エンジンシステムの空燃比が理論空燃比となるようにエンジン1及び2の燃焼を制御する。吸入空気量に対して燃料が希薄であると排気ガスに含まれるNOxが増加し、吸入空気量に対して燃料が濃いと排気ガスに含まれるHC及びCOが増加する。理論空燃比は、排気ガスに含まれるNOx並びにHC及びCOが均衡して最も少なくなる空燃比である。従って、エンジンシステムの空燃比を理論空燃比と一致させることで、エミションの量を最も削減することができる。
【0034】
ところで、効率が最も高い空燃比は、理論空燃比に対してリーン(燃料が希薄)である。プライマリーエンジン1で発生する駆動力は走行に直結しており、セカンダリーエンジン2から得られるエネルギーと比較して損失が少ない。そこで、通常の走行時等、エネルギー効率を優先する運転状態では、プライマリーエンジン1の空燃比が理論空燃比に対してリーンとなるようにプライマリーエンジン1の燃料噴射量が制御される。また、セカンダリーエンジン2の燃料噴射量は、プライマリーエンジン1の空燃比と理論空燃比とのずれを補償して、エンジン1及び2を総合した空燃比が理論空燃比となるように制御される。以下、空燃比制御の詳細について、エンジンシステムを第1乃至第3態様に分けて説明する。
【0035】
第1態様のエンジンシステムは図1に実線で示す場合である。すなわち、セカンダリーエンジン2の吸気がプライマリーエンジン1の排気だけでまかなわれる。そして、セカンダリーエンジン2の下流には、その排気ガスに含まれる酸素量に応じた検出信号を出力する酸素センサ12(第1検出手段)が配設されている。この場合、制御装置10は、以下の手順によってエンジン1及び2の燃料噴射量を制御する。プライマリーエンジン1に対して、制御装置10は、まず、エアフロメータ11から検出信号に基づいて吸入空気量を特定する。次に、制御装置10はリーンに設定した空燃比と吸入空気量とに基づいて燃料噴射量を算出する。次に、制御装置10は算出された燃料噴射量となるように燃料噴射弁1A〜1Dの開度を制御する。
【0036】
次に、セカンダリーエンジン2に対して、制御装置10は、まず、酸素センサ12からの検出信号に基づいて、セカンダリーエンジン2の排気ガスに含まれる酸素量を特定する。次に、制御装置10は特定した酸素量が理論空燃比となるように燃料噴射量を算出する。次に、制御装置10は算出された燃料噴射量が得られるように燃料噴射弁2Aの開度を制御する。換言すれば、排気ガスに含まれる酸素量を燃料噴射量にフィードバックすることによって、制御装置10は、エンジンシステム全体の空燃比と理論空燃比とのずれを補償している。
【0037】
この空燃比制御によれば、出力の大半を占めるプライマリーエンジン1の空燃比をリーンとすることによって、プライマリーエンジン1のエネルギー効率を大幅に向上させることができ、ひいてはエンジンシステム全体の効率を向上させることができる。また、三元触媒7は上述したように燃焼を理論空燃比付近で行った場合にNOx並びにCO及びHCを同時に浄化するから、エンジンシステム全体の空燃比が理論空燃比となるようにセカンダリーエンジン2の空燃比を制御するから、エミションを大幅に削減することができる。すなわち、従来のエンジンでは、両立させることができなかったエネルギー効率の向上とNOx等のエミションの低減とを同時に実現させ、さらに、排熱エネルギーを回収することが可能となる。」

(4)「【0049】
次に、車両全体のシステム制御について説明する。この車両には、上述したようにハイブリッドシステムが採用されている。制御装置10は、時々刻々変化する運転状態に対応して、モータ23で発生させる出力とエンジンシステムで発生させる出力とを決定する。図1に示すエンジンシステムではセカンダリーエンジン2の出力は、電力として取り出されバッテリ21に充電される。そして、必要に応じてバッテリ21に蓄電された電力を用いてモータ23が駆動され駆動力が取り出される。
【0050】次に、車両の始動停止制御について説明する。図4は、始動停止制御における制御装置10の動作を示すフローチャートである。制御装置10は、イグニッションキーのキーポジションを常時監視しており、キーポジションがオンになったことを検知すると(ステップS11)、プライマリーエンジン1を始動させる(ステップS12)。この後、制御装置10はセカンダリーエンジン2を始動させる(ステップS13)。ここで、エンジンの始動とは燃料の燃焼開始時をいう。プライマリーエンジン1を先に始動させたのは、プライマリーエンジン1のエネルギー効率がセカンダリーエンジン2よりも優れているからである。
【0051】次に、ドライバーがイグニッションキーを操作してキーポジションをオフにすると、制御装置10はこれを検知して(ステップS14)、セカンダリーエンジン2を停止させる(ステップS15)。この後、制御装置10はプライマリーエンジン1を停止させる(ステップS16)。始動時と同様にエンジンのエネルギー効率の向上を図るためである。なお、ハイブリッドシステムでは、効率の観点から走行に必要な駆動力をプライマリーエンジン1からモータ23へ切り替えることがある。この場合、制御装置10はプライマリーエンジン1及びセカンダリーエンジン2の運転を停止させるが、その順番はステップS15及びS16に示すように最初にセカンダリーエンジン2を停止させ次にプライマリーエンジン2を停止させる。また、ハイブリッドシステムにおいてエンジンシステムから出力を取り出す場合には、ステップS12及びS13に示すように最初にプライマリーエンジン1を始動させ次にセカンダリーエンジン2を始動させる。
【0052】また、エンジン1及び2から高出力を取り出す場合には排気系の温度を下げることが好ましい。このような場合には、プライマリーエンジン1の空燃比がリッチとなるように制御装置10は燃料噴射量を制御する。燃料の気化熱によって、排気ガスの温度を下げることができるからである。
【0053】さらに、プライマリーエンジン1の燃焼がリッチである場合には、セカンダリーエンジン2への燃料供給を停止するように制御装置10は燃料噴射弁2Aを制御することが好ましい。エンジンシステムが図1の実線で示されるようにセカンダリーエンジン2の吸気がプライマリーエンジン1の排気ガスだけであれば、その排気ガスには酸素が殆ど含まれていないため、燃料を供給しても燃焼させることができないからである。」

(5)(3)の記載事項における「一方、プライマリーエンジン1で発生する駆動力は動力分割機構24を介して車輪25へ伝達される。」という記載(段落【0030】)及び「なお、セカンダリーエンジン2から取り出された機械エネルギーを何等かの機構を介して動力分割機構24へ伝達することも可能である。」という記載(【0031】)を踏まえると、引用文献2には、プライマリーエンジン1とセカンダリーエンジン2のそれぞれで発生する駆動力が共通の動力分割機構24に伝達されるように構成することが記載されているといえる。

(6)(4)の記載事項(段落【0049】)を踏まえると、プライマリーエンジン1とセカンダリーエンジン2の出力は制御装置10によって決定されていることから、両エンジンは制御装置10によって要求される出力を提供するよう、運転されているといえる。

(7)(3)の記載事項(段落【0034】)を踏まえると、プライマリーエンジン1の空燃比がリーンのときに、セカンダリーエンジン2はプライマリーエンジン1とセカンダリーエンジン2を総合した空燃比が理論空燃比となるよう制御されていることから、引用文献2には、プライマリーエンジン1とセカンダリーエンジン2とは両者の空燃比が互いに異なるように運転されることが記載されているといえる。
そして、エンジンの運転において空燃比は多数の運転パラメータのうちの一つであることが当業者の技術常識であることを踏まえると、空燃比を設定することは運転ポイントを設定することといえるから、それぞれの空燃比が算出されるとともにそれぞれの空燃比で運転されるプライマリーエンジン1とセカンダリーエンジン2は、個別の運転ポイントが算出されるとともに、個別の運転ポイントで運転されるものであるといえる。

したがって、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明2>
「内燃機関であるプライマリーエンジン1と外燃機関であるセカンダリーエンジン2の2つのエンジンから成るエンジンシステムを運転するための方法であって、前記エンジンは、作動しているエンジンによって提供されるプライマリーエンジン1及びセカンダリーエンジン2のそれぞれで発生する駆動力が、共通の動力分割機構24に伝達されるように構成されており、前記エンジンが運転される方法において、
要求される出力を提供しつつ、作動しているプライマリーエンジン1及びセカンダリーエンジン2のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれのプライマリーエンジン1及びセカンダリーエンジン2は、この個別の運転ポイントで運転されて、
前記エンジンシステムの作動しているプライマリーエンジン1の空燃比が、作動している別のセカンダリーエンジン2の空燃比と相違するように、個別の運転ポイントで運転される方法。」

第5 対比、判断について
1 引用発明1を主引用発明とするとき
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「No.1機関101及びNo.2機関102の2つの内燃機関」は、その機能、構成又は技術的意義からみて本願発明の「複数の内燃機関(2、3;22、23)」に相当し、以下同様に、「内燃機関プラントを駆動するための制御方法」は「システム(1;21)を運転するための方法」に、「駆動している内燃機関によるNo.1機関出力及びNo.2機関出力」は「作動している内燃機関(2、3;22、23)によって提供される部分駆動出力」に、「1つの共通のプロペラ106」は「少なくとも1つの共通の消費部(4;24)」に、「取り出されるようになっており」は「取り出されるように連結されており」に、「No.1機関出力及びNo.2機関出力の総計に相当する、駆動している前記内燃機関による総合出力」は「前記部分駆動出力の総計に相当する、作動している前記内燃機関(2、3;22、23)によって提供される総駆動出力」に、「共通のプロペラ106のために要求される出力に相当するように駆動される制御方法」は「少なくとも、共通の前記消費部(4;24)のために要求される出力に相当するように運転される方法」に、「個別のポイント」は「個別の運転ポイント」に、それぞれ相当する。

引用発明1の「要求される出力を提供しつつ、駆動しているNo.1機関101及びNo.2機関102のために個別のポイントが算出され、No.1機関101及びNo.2機関102は、この個別のポイントで運転される」と、本願発明の「要求される出力を提供しつつ、作動している各内燃機関(2、3;22、23)のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれの前記内燃機関(2、3;22、23)は、この個別の運転ポイントで運転されて、つまり前記システム(1:21)にとって、排出量限界値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるようになり」とは、上記相当関係を踏まえると、「要求される出力を提供しつつ、作動している各内燃機関のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれの前記内燃機関は、この個別の運転ポイントで運転されて」という限りにおいて一致する。
また、引用発明1の「前記内燃機関プラントの作動しているNo.1機関101は、このNo.1機関101の回転数に対応したNo.1機関出力が、前記内燃機関プラントの作動している別のNo.2機関102の回転数に対応したNo.2機関出力と相違するように、個別のポイントで運転される」と、本願発明の「前記システム(1;21)の少なくとも1つの作動している内燃機関(2、3;22、23)は、この内燃機関の、触媒浄化前のNOx排出量および/あるいは触媒浄化前のCO2排出量および/あるいは過給圧および/あるいは燃料噴射圧および/あるいは圧縮率および/あるいは空燃比および/あるいは排ガス温度が、前記システム(1;21)の作動している別の前記あるいは各内燃機関(2、3;22、23)の対応する運転パラメータと相違するように、個別の運転ポイントで運転される」とは、上記相当関係を踏まえると、「前記システムの少なくとも1つの作動している内燃機関は、この内燃機関の、所定の運転パラメータが、前記システムの作動している別の前記内燃機関の対応する運転パラメータと相違するように、個別の運転ポイントで運転される」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「複数の内燃機関から成るシステムを運転するための方法であって、前記内燃機関は、作動している内燃機関によって提供される部分駆動出力が、少なくとも1つの共通の消費部によって取り出されるように連結されており、前記内燃機関は、前記部分駆動出力の総計に相当する、作動している前記内燃機関によって提供される総駆動出力が、少なくとも、共通の前記消費部のために要求される出力に相当するように運転される方法において、
要求される出力を提供しつつ、作動している各内燃機関のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれの前記内燃機関は、この個別の運転ポイントで運転されて、
前記システムの少なくとも1つの作動している内燃機関は、この内燃機関の、所定の運転パラメータが、前記システムの作動している別の前記内燃機関の対応する運転パラメータと相違するように、個別の運転ポイントで運転される、方法。」

<相違点1A>
「要求される出力を提供しつつ、作動している各内燃機関のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれの前記内燃機関は、この個別の運転ポイントで運転されて」という事項に関して、本願発明はさらに「つまり前記システム(1:21)にとって、排出量限界値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるようになり」との事項を備えるのに対して、引用発明1はかかる事項を備えるか不明な点。

<相違点1B>
1つの作動している内燃機関と作動している別の内燃機関とで相違するように、個別の運転ポイントで運転される「所定の運転パラメータ」に関して、本願発明においては「触媒浄化前のNOx排出量および/あるいは触媒浄化前のCO2排出量および/あるいは過給圧および/あるいは燃料噴射圧および/あるいは圧縮率および/あるいは空燃比および/あるいは排ガス温度」であるのに対して、引用発明1においては回転数に対応した各機関の「出力」である点。

上記相違点1Aについて検討する。
内燃機関の技術分野において、排出ガスの制限値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるように運転することは、本願の優先日前において周知の技術課題(以下、「周知の課題」という。)である(例えば、引用文献3の段落【0042】及び【0075】並びに引用文献4の段落【0014】及び【0036】等を参照のこと。)。
また、引用発明1も引用文献1の(1)の記載事項(2ページ左上欄3行ないし6行)を踏まえると、燃費の節約を課題としており、排出ガスや運転コストの低減について示唆があるといえるから、引用発明1において、上記周知の課題に鑑みて、排出ガスの制限値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるようにすることは、当業者が容易になし得たことにすぎない。
したがって、引用発明1において、上記周知の課題に鑑みて、上記相違点1Aに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

上記相違点1Bについて検討する。
引用発明1は、回転数に対応したNo.1機関出力とNo.2機関出力とが相違するように、個別のポイントで運転されるものである。内燃機関の運転パラメータにおいて、触媒浄化前のNOx排出量、触媒浄化前のCO2排出量、過給圧、燃料噴射圧、圧縮率、空燃比及び排ガス温度といったパラメータは、内燃機関の出力と関連するものであることが当業者の技術常識であるから、異なる内燃機関において各内燃機関の出力が異なる場合、このうちの少なくともいずれかのパラメータの数値が異なる蓋然性が極めて高いといえる。
そうすると、No.1機関101とNo.2機関102とでそれぞれの回転数に対応した出力が異なる引用発明1において、触媒浄化前のNOx排出量、触媒浄化前のCO2排出量、過給圧、燃料噴射圧、圧縮率、空燃比及び排ガス温度のうちいずれかの運転パラメータが相違するように、個別の運転ポイントで運転することは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、引用発明1において、上記相違点1Bに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の奏する作用効果は、当業者であれば引用発明1及び周知の課題から予測し得たものである。
よって、本願発明は、引用発明1及び周知の課題に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 引用発明2を主引用発明とするとき
本願発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「エンジンシステム」は、その機能、構成又は技術的意義からみて本願発明の「システム」に相当し、以下同様に、「プライマリーエンジン1及びセカンダリーエンジン2のそれぞれで発生する駆動力」は「部分駆動出力」に、「共通の動力分割機構24」は「少なくとも1つの共通の消費部(4;24)」に、「動力分割機構24に伝達されるように構成されており」は「消費部(4;24)によって取り出されるように連結されており」に、「個別の運転ポイント」は「個別の運転ポイント」に、それぞれ相当する。

引用発明2の「内燃機関であるプライマリーエンジン1と外燃機関であるセカンダリーエンジン2の2つのエンジン」において、「プライマリーエンジン1」、「セカンダリーエンジン2」及び「エンジン」はいずれも「機関」といえるから、引用発明2の「内燃機関であるプライマリーエンジン1と外燃機関であるセカンダリーエンジン2の2つのエンジン」と本願発明の「複数の内燃機関(2、3;22、23)」とは、「複数の機関」という限りにおいて一致する。
引用発明2の「プライマリーエンジン1」は内燃機関であるから、「作動しているプライマリーエンジン1」は本願発明の「作動している内燃機関」に相当する。一方、引用発明2の「セカンダリーエンジン2」は「プライマリーエンジン1」とは別の作動している機関であるから、引用発明2の「作動している別のセカンダリーエンジン2」と本願発明の「作動している別の前記あるいは各内燃機関(2、3;22、23)」とは、「作動している別の機関」という限りにおいて一致する。
引用発明2の「前記エンジンは、作動しているエンジンによって提供されるプライマリーエンジン1及びセカンダリーエンジン2のそれぞれで発生する駆動力が、共通の動力分割機構24に伝達されるように構成されており、前記エンジンが運転される方法において」と本願発明の「前記内燃機関(2、3;22、23)は、作動している内燃機関(2、3;22、23)によって提供される部分駆動出力が、少なくとも1つの共通の消費部(4;24)によって取り出されるように連結されており、前記内燃機関(2、3;22、23)は、前記部分駆動出力の総計に相当する、作動している前記内燃機関(2、3;22、23)によって提供される総駆動出力が、少なくとも、共通の前記あるいは各消費部(4;24)のために要求される出力に相当するように運転される方法において」とは、上記相当関係を踏まえると、「前記機関は、作動している機関によって提供される部分駆動出力が、少なくとも1つの共通の消費部(4;24)によって取り出されるように連結されており、前記機関が運転される方法において」という限りにおいて一致する。
引用発明2の「要求される出力を提供しつつ、作動しているプライマリーエンジン1及びセカンダリーエンジン2のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれのプライマリーエンジン1及びセカンダリーエンジン2は、この個別の運転ポイントで運転されて」と本願発明の「要求される出力を提供しつつ、作動している各内燃機関(2、3;22、23)のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれの前記内燃機関(2、3;22、23)は、この個別の運転ポイントで運転されて、つまり前記システム(1:21)にとって、排出量限界値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるようになり」とは、上記相当関係を踏まえると、「要求される出力を提供しつつ、作動している各機関のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれの前記機関は、この個別の運転ポイントで運転されて」という限りにおいて一致する。
また、引用発明2の「前記エンジンシステムのプライマリーエンジン1の空燃比が、セカンダリーエンジン2の空燃比と相違するように、個別の運転ポイントで運転される」と本願発明の「前記システム(1;21)の少なくとも1つの作動している内燃機関(2、3;22、23)は、この内燃機関の、触媒浄化前のNOx排出量および/あるいは触媒浄化前のCO2排出量および/あるいは過給圧および/あるいは燃料噴射圧および/あるいは圧縮率および/あるいは空燃比および/あるいは排ガス温度が、前記システム(1;21)の作動している別の前記あるいは各内燃機関(2、3;22、23)の対応する運転パラメータと相違するように、個別の運転ポイントで運転される」とは、上記相当関係を踏まえると、「前記システム(1;21)の少なくとも1つの作動している機関は、この機関の、空燃比が、前記システム(1;21)の作動している別の前記機関の対応する空燃比と相違するように、個別の運転ポイントで運転される」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「複数の機関から成るシステムを運転するための方法であって、前記機関は、作動している機関によって提供される部分駆動出力が、少なくとも1つの共通の消費部によって取り出されるように連結されており、前記機関が運転される方法において、
要求される出力を提供しつつ、作動している各機関のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれの前記機関は、この個別の運転ポイントで運転されて、
前記システムの少なくとも1つの作動している内燃機関は、この内燃機関の、空燃比が、前記システムの作動している別の機関の対応する空燃比と相違するように、個別の運転ポイントで運転される方法。」

<相違点2A>
「複数の機関」に関して、本願発明においては「複数の内燃機関」であり、個別の運転ポイントが算出され、個別の運転ポイントで運転される機関が「内燃機関」であるのに対して、引用発明2においては、複数のエンジンのうち「プライマリーエンジン1」が内燃機関であるものの「セカンダリーエンジン2」が外燃機関である点。

<相違点2B>
「前記機関は、作動している機関によって提供される部分駆動出力が、少なくとも1つの共通の消費部によって取り出されるように連結されており、前記機関が運転される方法」に関して、本願発明においては、内燃機関が「前記部分駆動出力の総計に相当する、作動している前記内燃機関(2、3;22、23)によって提供される総駆動出力が、少なくとも、共通の前記あるいは各消費部(4;24)のために要求される出力に相当するように」運転されるのに対して、引用発明2においては、かかる事項を備えるか不明な点。

<相違点2C>
「要求される出力を提供しつつ、作動している各機関のために個別の運転ポイントが算出され、それぞれの前記機関は、この個別の運転ポイントで運転されて」という事項に関して、本願発明はさらに「つまり前記システム(1:21)にとって、排出量限界値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるようになり」との事項を備えるのに対して、引用発明2はかかる事項を備えるか不明な点。

<相違点2D>
「前記システムの少なくとも1つの作動している内燃機関は、この内燃機関の空燃比が、前記システムの作動している別の機関の対応する空燃比と相違するように、個別の運転ポイントで運転される」に関して、本願発明においては「前記システム(1;21)の少なくとも1つの作動している内燃機関(2、3;22、23)は、この内燃機関の、触媒浄化前のNOx排出量および/あるいは触媒浄化前のCO2排出量および/あるいは過給圧および/あるいは燃料噴射圧および/あるいは圧縮率および/あるいは空燃比および/あるいは排ガス温度が、前記システム(1;21)の作動している別の前記あるいは各内燃機関(2、3;22、23)の対応する運転パラメータと相違するように、個別の運転ポイントで運転される」のに対して、引用発明2においては作動しているプライマリーエンジン1の空燃比が、作動している別の機関であるセカンダリーエンジン2の空燃比と相違するように、個別の運転ポイントで運転されるものの、かかる事項を備えるか不明な点。

上記相違点2Aについて検討する。
2つの異なるエンジンから成るエンジンシステムの技術分野において、共通の構成部品を駆動する主エンジンと副エンジンの両方を内燃機関で構成することは、本願の優先日前において周知技術(以下、「周知技術」という。)にすぎない(例えば、引用文献5の段落【0015】及び【0026】ないし【0029】並びに図1や、引用文献6の段落【0015】及び【0037】並びに図1を参照のこと。)。
そして、引用文献2の段落【0025】に「プライマリーエンジン1の出力はセカンダリーエンジン2の出力より大きく、それらの出力比は10:1に設定されている。」と記載されるように、引用発明2は、プライマリーエンジン1とセカンダリーエンジン2という2つの異なるエンジンから成るエンジンシステムを備えるものである上、引用文献2の段落【0007】には、「また、第1エンジン及び第2エンジンは、燃料を燃焼させることによってエネルギーを取り出すものであればどのようなものであっても良く、内燃機関又は外燃機関のいずれであってもよい。」と記載されているから、2つの異なるエンジンの構成として上記周知技術を採用して、2つの異なるエンジンを両方とも内燃機関から成るシステムとすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、引用発明2において、上記周知技術を採用して、上記相違点2Aに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

上記相違点2Bについて検討する。
引用文献2の段落【0031】及び図1から、動力分割機構24にプライマリーエンジン1とセカンダリーエンジン2の両方のエンジンからの駆動力を伝達するものが記載されているといえるから、両エンジンの駆動力の総計が要求される出力に相当するものとなっているといえる。
また、仮に両エンジンの駆動力の総計が要求される出力と異なっているとしても、引用発明2のエンジンシステムにおいて要求される出力を提供するために各エンジンを駆動することは当業者が通常行うことにすぎないから、引用発明2において両エンジンの駆動力の総計を要求される出力に相当させることは当業者であれば容易になし得ることである。
したがって、引用発明2において、上記相違点2Bに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

上記相違点2Cについて検討する。
内燃機関の技術分野において、排出ガスの制限値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるように運転することは、本願の優先日前において周知の技術課題(以下、「周知の課題」という。)である(例えば、引用文献3の段落【0042】及び【0075】並びに引用文献4の段落【0014】及び【0036】等を参照のこと。)。
引用文献2の段落【0004】、【0005】及び【0069】にエネルギー効率向上とエミッション低減を両立させることが記載されていることから、引用発明2において、上記周知の課題に鑑みて、排出ガスの制限値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、引用発明2において、上記周知の課題に鑑みて、上記相違点2Cに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

上記相違点2Dについて検討する。
引用発明2の「空燃比」は、本願発明における運転パラメータとして択一的に特定される「触媒浄化前のNOx排出量および/あるいは触媒浄化前のCO2排出量および/あるいは過給圧および/あるいは燃料噴射圧および/あるいは圧縮率および/あるいは空燃比および/あるいは排ガス温度」のうちの一つに該当するものであるから、相違点2Dは実質的なものではない。
また、空燃比以外の運転パラメータについても、引用文献2の段落【0025】の記載事項からみて、「プライマリーエンジン1」と「セカンダリーエンジン2」の出力比が「10:1」に設定されることを考慮すると、上記(1)において上記相違点1Bで検討したのと同様に、引用発明2において、「プライマリーエンジン1」と「セカンダリーエンジン2」の2つのエンジンの対応する運転パラメータのうち上記相違点2Dで特定されるいずれかが相違するように運転される蓋然性が極めて高いといえる。
そうすると、プライマリーエンジン1とセカンダリーエンジン2とで空燃比及び出力が異なる引用発明2において、触媒浄化前のNOx排出量、触媒浄化前のCO2排出量、過給圧、燃料噴射圧、圧縮率、空燃比及び排ガス温度のうちいずれかの運転パラメータが相違するように、個別の運転ポイントで運転することは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、引用発明2において、上記相違点2Dに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の奏する作用効果は、当業者であれば引用発明2、周知の課題及び周知技術から予測し得たものである。
よって、本願発明は、引用発明2、周知の課題及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 請求人の主張について
請求人は、令和3年6月7日に提出された意見書の「(3)本願発明と引用発明との対比」において、「当該相違点1Bに関し、引用文献1では、「最適負荷制御装置9は、第4図に示すように、回転数に相当して要求される総合出力(負荷として作用)を負担するのに最も効率的な負荷配分曲線として事前に得られている曲線(No.1機関出力、No.2機関出力として明示している)に沿う信号を第2図の符号11、12として出力する。」と記載されているように、No.1機関出力とNo.2機関出力との負荷配分を決定するパラメータは、「回転数に相当して要求される総合出力」のみです。
この決定された負荷配分によって、結果的にNo.1機関とNo.2機関における触媒浄化前のNOx排出量、触媒浄化前のCO2排出量、過給圧、燃料噴射圧、圧縮率、空燃比及び排ガス温度といったパラメータが、異なってくることはあり得ることです。
しかしながら、結果的にパラメータが相違してしまうことと、これらのパラメータが両機関において相違するように個別の運転ポイントを算出することは異なる技術です。」と主張する。
請求人の上記主張は、要すれば、本願発明は、意図して複数の内燃機関の間の運転パラメータが互いに相違するように個別の運転ポイントを算出するのに対して、引用発明1は、結果的に運転パラメータが互いに異なっているものの、意図して複数の内燃機関の間の運転パラメータが互いに相違するように個別の運転ポイントを算出するものではないから、本願発明は、引用発明1及び周知の課題に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない、と解される。
しかしながら、本願請求項1の「作動している各内燃機関(2、3;22、23)のために個別の運転ポイントが算出され」という記載や、「各内燃機関(2、3;22、23)の対応する運転パラメータと相違するように、個別の運転ポイントで運転される」という記載を組み合わせて解したとしても、意図して複数の内燃機関の間の運転パラメータが互いに相違するように個別の運転ポイントを算出するとは把握できない。
仮に、本願請求項1の記載が、請求人の上記主張のように把握できたとしても、前記第4の1(1)で示したように、引用発明1は「最も効率が高くなる負荷配分を計算する関数発生器9a,9b(各機関に対応して最適負荷制御装置9を構成する)を通して,各各の機関に最適噴射量を設定する。」ものであり、また、前記第4の2(3)で示したように、引用発明2は「そこで、通常の走行時等、エネルギー効率を優先する運転状態では、プライマリーエンジン1の空燃比が理論空燃比に対してリーンとなるようにプライマリーエンジン1の燃料噴射量が制御される。また、セカンダリーエンジン2の燃料噴射量は、プライマリーエンジン1の空燃比と理論空燃比とのずれを補償して、エンジン1及び2を総合した空燃比が理論空燃比となるように制御される。」(段落【0034】)ものであるから、引用発明1又は引用発明2に基いて、意図して複数の内燃機関の間の運転パラメータが互いに相違するように個別の運転ポイントを算出することは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、請求人は、令和3年6月7日に提出された意見書の「(3)本願発明と引用発明との対比」において、「たしかに、空燃比は、運転パラメータの1つに挙がっています。しかしながら、本願請求項1発明の方法は全体として、システム(1:21)にとって、排出量限界値を守りつつ運転コストの発生が最小限になるように、かつ前記システム(1;21)の少なくとも1つの作動している内燃機関(2、3;22、23)は、この内燃機関の、触媒浄化前のNOx排出量および/あるいは触媒浄化前のCO2排出量および/あるいは過給圧および/あるいは燃料噴射圧および/あるいは圧縮率および/あるいは空燃比および/あるいは排ガス温度が、前記システム(1;21)の作動している別の前記あるいは各内燃機関(2、3;22、23)の対応する運転パラメータと相違するように、個別の運転ポイントで運転される、方法である。
上記のように引用文献2には、エンジン1及び2を総合した空燃比が理論空燃比となるための方法は記載されているが、上記のような本願請求項1発明の方法に関しては開示も示唆もされていません。」と主張する。
しかしながら、本願請求項1の記載では、運転パラメータに関して、触媒浄化前のNOx排出量、触媒浄化前のCO2排出量、過給圧、燃料噴射圧、圧縮率、空燃比、排ガス温度のうち、少なくともいずれか1つが別の内燃機関の対応する運転パラメータと相違していれば足りる、選択的表現となっている。
そうすると、引用発明2は空燃比が別の内燃機関のものと相違しているので、運転パラメータに関して本願発明の発明特定事項を充足していることになるから、請求人の上記主張は当を得ているとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知の課題、又は、引用発明2、周知の課題及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 金澤 俊郎
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-07-08 
結審通知日 2021-07-12 
審決日 2021-07-27 
出願番号 P2015-225522
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02D)
P 1 8・ 537- WZ (F02D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 高島 壮基
鈴木 充
発明の名称 複数の内燃機関から成るシステムを運転するための方法および制御装置  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ