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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1380302
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-13 
確定日 2021-12-24 
事件の表示 特願2015−225805「印刷装置、印刷装置の制御方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 1日出願公開、特開2017− 94507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成27年11月18日の出願であって、令和1年8月14日付けの拒絶理由の通知に対し、同年10月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年10月29日付けの最後の拒絶理由の通知に対し、令和2年1月10日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年1月20日付けで同月10日になされた手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対して同年4月13日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、当審における令和3年4月27日付けの拒絶理由の通知に対し、同年7月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和3年7月9日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
印刷装置であって、
前記印刷装置において入力された第1のユーザの情報に基づいて、当該ユーザが前記印刷装置にログインすることを許可されているか判定する認証手段と、
外部の中継装置を介さずにモバイル端末と無線通信を実行するダイレクト無線通信モードで動作する無線通信手段と、
前記ダイレクト無線通信モードで動作している前記無線通信手段が前記モバイル端末から印刷データと当該印刷データに付加された第2のユーザの情報とを受信した場合、前記モバイル端末から受信した前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、前記印刷装置において入力された前記第1のユーザの情報に基づいて前記印刷装置にログインすることを許可されていると前記認証手段により判定されて前記印刷装置にログイン中のユーザを、当該受信した印刷データの所有者として、当該受信した印刷データに関する処理を実行する処理手段と
を備え、
前記ダイレクト無線通信モードで動作している前記無線通信手段が前記モバイル端末から前記印刷データと当該印刷データに付加された前記第2のユーザの情報とを受信した場合に、前記処理手段により実行される前記処理とは、
前記受信した印刷データに基づく印刷を行い、かつ、前記モバイル端末から受信した前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、前記印刷装置にログイン中のユーザを当該受信した印刷データの所有者として、印刷履歴に記憶する処理、または、
前記受信した印刷データをすぐに印刷しないで一旦留め置く場合において、前記モバイル端末から受信した前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、前記印刷装置にログイン中のユーザを当該受信した印刷データの所有者として、当該受信した印刷データに関する情報を留め置き印刷画面に表示する処理、
のいずれかである
ことを特徴とする印刷装置。」

ここで、請求項1の「前記ダイレクト無線通信モードで動作している前記無線通信手段が前記モバイル端末から印刷データと当該印刷データに付加された第2のユーザの情報とを受信した場合」との記載に関連して、発明の詳細な説明には次の記載がある(下線は当審で付した。)。

「【0015】
モバイル端末102が印刷データを印刷装置100に送信する場合、印刷データに付加される情報は、モバイル端末102の機種情報や、“Mobile”という文字列である。従って印刷装置100にしてみれば、モバイル端末102から印刷データを受信した場合に、誰が印刷データのジョブオーナーであるか決定できないという課題がある。この課題を解決するために、本実施形態では、印刷データを受信した際に印刷装置100にログインしているユーザをジョブオーナーとして決定する仕組みを説明する。」

「【0035】
アクセスポイントモード用いてモバイル端末102を印刷装置100に無線接続した後、ユーザは、モバイル端末102上で印刷したい写真を選択する。そしてユーザが印刷指示をモバイル端末102に入力すると、モバイル端末102は、アクセスポイントモードによる無線通信を用いて印刷データを印刷装置100に送信する。このとき、モバイル端末102は、ジョブオーナーを示す情報として“Mobile”という文字列を印刷データに付加する。」

「【0051】
ステップS604の処理が実行されるのは、アクセスポイントモードによる無線通信で印刷装置100が印刷データを受信した場合である。アクセスポイントモードを用いて印刷装置100に印刷データを送信するのは、ほとんどモバイル端末であると予想される。ところが、モバイル端末が送信する印刷データには、モバイル端末の機種情報や“Mobile”という文字列が付加されているケースが多く、印刷装置100はジョブオーナー誰であるが(当審注:「誰であるが」は「が誰であるか」の誤記と認められる。)決定することができない。そこで本実施形態では、アクセスポイントモードで印刷データを受信した際に印刷装置100にログインしているユーザを、アクセスポイントモードで受信した印刷データのジョブオーナーであると見なす。
【0052】
次にステップS606について説明する。ステップS606において、CPU201は、受信した印刷データに基づいて、受信した印刷データのジョブオーナーを決定する。具体的に説明する。印刷ジョブには、ジョブオーナーを示す情報が付加されている。例えば印刷データに付加されている情報が“Tanaka”であれば、CPU201は、受信した印刷ジョブのジョブオーナーが“Tanaka”であると決定する。」

「【0054】
(パターン2)
受信した印刷データに基づく印刷処理を実行し、そして印刷履歴を記憶する処理を説明する。従来の印刷装置は、アクセスポイントモードによる無線通信で印刷データを受信した場合に、印刷履歴のジョブオーナーが“Mobile”となってしまっていた。図7(A)の印刷履歴画面700は、従来の印刷装置が表示する画面である。項目701によると、ジョブオーナーが“Mobile”となっていることがわかる。」

「【0056】
(パターン3)
受信した印刷データをすぐに印刷しないで一旦留め置く処理(HDD204に印刷データを記憶し、ユーザの印刷指示を受けて印刷処理を実行する処理)を説明する。従来の印刷装置は、アクセスポイントモードによる無線通信で印刷データを受信した場合に、留め置いている印刷データ(ユーザによる印刷指示待ちの印刷データ)のジョブオーナーが“Mobile”となってしまっていた。図8(A)の留め置き印刷画面800は、従来の印刷装置が表示する画面である。項目801によると、ジョブオーナーが“Mobile”となっていることがわかる。」

上記記載を参酌すれば、請求項1の「印刷データに付加された第2のユーザの情報」を「受信」することは、第2のユーザ情報が“Tanaka”である場合も記載されているが、モバイル端末102から印刷データを受信した場合に、誰が印刷データのジョブオーナーであるか決定できないという課題からすれば、モバイル端末の機種情報や“Mobile”という文字列が付加されている情報など、誰が印刷データのジョブオーナーであるかが特定できない情報を受信することと解するのが相当である。

3 拒絶理由
令和3年4月27日付けで当審が通知した拒絶理由のうち、請求項1の進歩性に係るものは、概略、次のとおりである。

進歩性)本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2に例示される周知技術1及び引用文献3に例示される周知技術3に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2014−216879号公報
引用文献2:特開2014−179926号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2015−54505号公報(周知技術を示す文献)

4 引用文献の記載
引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 「【0019】
また,本形態のクラウド印刷システム900では,ユーザがMFP100を利用するためには,ユーザ認証を成功させて利用を許可される必要がある。そのため,ユーザは,MFP100に対して,そのユーザが有するアカウントの情報を入力する。アカウントの情報には,ユーザを特定するユーザIDとパスワードとが含まれる。MFP100は,アカウントの情報が入力されると,その情報に基づいてユーザ認証を行い,認証成功を条件としてMFP100が有する各画像処理機能の利用を許可する。本形態では,MFP100が自装置の利用を許諾させるための作業を「ログイン」,その利用許諾を解除するための作業を「ログアウト」とする。」

イ 「【0026】
ネットワークインターフェース37はLANケーブルや無線通信等によってネットワークを介して接続されたデバイスと通信を行うためのハードウェアである。USBインターフェース38はUSBケーブルを介して接続されたデバイスと通信を行うためのハードウェアである。FAXインターフェース39は電話回線を介して接続されたデバイスと通信を行うためのハードウェアである。MFP100は,例えば,ネットワークインターフェース37を介してクラウドサーバ300から印刷ジョブを受信する。
【0027】
操作パネル40は,MFP100の外装に設けられ,ユーザ入力を受け付ける各種のボタンと,メッセージや設定内容を表示するタッチパネルとを有している。各種のボタンとしては,例えば,OKボタン,キャンセルボタン,テンキーがある。また,タッチパネルは,ユーザがタッチ操作することによっても各種の入力が可能であり,例えば,印刷設定やアカウントの情報がタッチパネルから入力される。この他,操作パネル40は,ログインあるいはログアウトを行うため入力操作や,サインインあるいはサインアウトを行うため入力操作や,各種の設定の入力操作を受け付ける。」

ウ 「【0036】
[MFPの動作概要]
MFP100は,前述したクラウド印刷の他にも,様々な印刷動作が可能である。例えば,図2に示したように,ネットワークインターフェース37,USBインターフェース38,あるいはFAXインターフェース39を介して,外部装置400から直接印刷ジョブを受け付け,その印刷ジョブを印刷することが可能である。」

エ 「【0043】
一方で,FAX印刷等,外部装置から受け付けた印刷ジョブを実行する場合,印刷ジョブにユーザ情報が含まれない場合がある。クラウド印刷についても,印刷ジョブにユーザ情報が含まれてない場合,ログインに必要なアカウントと,サインインに必要なアカウントとは別であることから,サインインによって通信が確立している状態であっても,クラウドサーバ300から受信した印刷ジョブがどのログインユーザに対応するかは不明になる。このように印刷ジョブのユーザを特定できない場合には,所定の決定条件に基づいて,利用情報テーブル341の累積枚数を更新する。所定の決定条件については,後述する印刷ジョブ管理処理で説明する。
【0044】
また,MFP100は,図5に示すように,ログインユーザごとに各画像処理の利用上限値を記憶する利用上限テーブル342をNVRAM34に記憶している。具体的に,利用上限テーブル342は,識別番号(ID)と,ユーザ名と,各画像処理の利用上限値と,設定の4つの項目を含むレコードを記憶している。画像処理としては,利用情報テーブル341と同様に,印刷,読取,コピー,FAX送信が含まれる。
【0045】
利用上限値は,各画像処理の利用範囲を規定するものであり,MFP100は,累積枚数が利用上限値に達した場合に,その画像処理の利用を禁止する。また,利用上限値に「×」が記憶されている場合には,利用枚数に関係なく,その画像処理の利用を禁止する。利用上限値は,管理者権限を有するユーザによって設定される。
【0046】
また,設定は,利用上限値を有効とするか無効とするかの設定を記憶するものであり,MFP100は,設定が無効の場合には,利用枚数を制限しない。なお,利用上限値の有効ないし無効の設定は,図5に示したようにユーザごとであってもよいし,画像処理ごとであってもよい。また,ユーザや画像処理を区別せず,利用上限値を有効とするか無効とするかの1つの設定を記憶するものであってもよい。
【0047】
[印刷ジョブ管理処理]
[第1の形態]
続いて,MFP100が実行する印刷ジョブ管理処理について,図6のフローチャートを参照しつつ説明する。第1の形態の印刷ジョブ管理処理は,MFP100が印刷ジョブを受け付けたことを契機に,CPU31によって実行される。
【0048】
第1の形態の印刷ジョブ管理処理では,先ず,受け付けた印刷ジョブに,ユーザを特定可能なユーザ情報が有るか否かを判断する(S101)。S101における特定とは,利用情報テーブル341に登録されるユーザの一人に特定できることを意味する。ユーザ情報が有る場合には(S101:YES),印刷ジョブのユーザを,ユーザ情報から特定されるユーザに決定する(S111)。S111で決定した情報は,印刷ジョブ管理処理が終了するまでRAM33に保持される。後述するS103,S122,S132,S141も同様である。
【0049】
ユーザ情報が無い場合には(S101:NO),自装置にログインしているユーザであるログインユーザがいるか否かを判断する(S102)。例えば,先に印刷ジョブをMFP100に送信して蓄積させておき,後からMFP100にログインしてその蓄積させておいた印刷ジョブを実行することが考えられる。そのため,ログインユーザがいる場合には(S102:YES),受け付けた印刷ジョブがログインユーザからの指示によるものである可能性が高い。そこで,印刷ジョブのユーザを,ログインユーザに決定する(S103)。」

オ 「【0054】
S103,S122,S132,S141,あるいはS111にて印刷ジョブのユーザを決定した後,MFP100は,画像形成部10による印刷ジョブの印刷を開始する(S104)。印刷が完了した後は,RAM33に記憶された印刷ジョブのユーザに対応するレコードを利用情報テーブル341から読み出し,印刷の累積枚数を更新する(S105)。S105の後,印刷ジョブ管理処理を終了する。」

以上の記載事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「MFP100であって、
MFP100の操作パネル40からユーザが有するアカウントの情報が入力されると、その情報に基づいてユーザ認証を行い、認証成功を条件としてMFP100が有する各画像処理機能の利用を許可する、MFP100の利用を許諾させるための作業(ログイン)を行う手段と、
無線通信等によってネットワークを介して接続されたデバイスと通信を行うためのネットワークインターフェース37とを備え、
ネットワークインターフェース37を介して外部装置400から直接印刷ジョブを受け付け、その印刷ジョブを印刷することが可能であり、
外部装置から受け付けた印刷ジョブを実行する場合、印刷ジョブにユーザ情報が含まれない場合があり、
MFP100が印刷ジョブを受け付けたことを契機に、受け付けた印刷ジョブに、ユーザを特定可能なユーザ情報が有るか否かを判断し、ユーザ情報が有る場合には、印刷ジョブのユーザを、ユーザ情報から特定されるユーザに決定し、ユーザ情報が無い場合には、自装置にログインしているユーザであるログインユーザがいるか否かを判断し、ログインユーザがいる場合には、印刷ジョブのユーザをログインユーザに決定し、
印刷ジョブのユーザを決定した後、印刷ジョブの印刷を開始し、印刷が完了した後は、RAM33に記憶された印刷ジョブのユーザに対応するレコードを利用情報テーブル341から読み出し,印刷の累積枚数を更新する、
MFP100。」

5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「MFP100」及び「アカウントの情報」は、本願発明の「印刷装置」、及び「第1のユーザの情報」に相当する。

(2)引用発明の「MFP100の操作パネル40からユーザが有するアカウントの情報が入力されると、その情報に基づいてユーザ認証を行い、認証成功を条件としてMFP100が有する各画像処理機能の利用を許可する、MFP100の利用を許諾させるための作業(ログイン)を行う手段」は、本願発明の「前記印刷装置において入力された第1のユーザの情報に基づいて、当該ユーザが前記印刷装置にログインすることを許可されているか判定する認証手段」に相当する。

(3)本願発明は「外部の中継装置を介さずにモバイル端末と無線通信を実行するダイレクト無線通信モードで動作する無線通信手段」を備えるものであるところ、引用発明は「無線通信等によってネットワークを介して接続されたデバイスと通信を行うためのネットワークインターフェース37」であって「外部装置400から直接印刷ジョブを受け付け」る「ネットワークインターフェース37」を有するものである。したがって、本願発明と引用発明とは「外部の中継装置を介さずに外部装置と無線通信を実行するダイレクト無線通信モードで動作する無線通信手段」を備える点で共通する。

(4)上記2で述べたように、本願発明の「印刷データに付加された第2のユーザの情報」を「受信」することは、誰が印刷データのジョブオーナーであるかが特定できない情報を受信することといえる。
そうすると、引用発明において「受け付けた印刷ジョブに、ユーザを特定可能なユーザ情報が有るか否かを判断」する「MFP100」が「ユーザ情報が含まれない」すなわち「ユーザ情報が無い」「印刷ジョブ」を「受け付け」ることは、「印刷ジョブ」に付加された、誰が「印刷ジョブ」の「ユーザ」であるかが「特定」できない情報を受信することといえるから、本願発明の「印刷データに付加された第2のユーザ情報」を「受信」することに相当する。
そして、引用発明における「ログインユーザ」は、「ユーザが有するアカウントの情報に基づいてユーザ認証が行われ、MFP100が有する各画像処理機能の利用を許可された」ユーザであるところ、引用発明における「外部装置から受け付けた印刷ジョブを実行する場合、印刷ジョブにユーザ情報が含まれない場合」に「ログインユーザがいる場合には、印刷ジョブのユーザをログインユーザに決定し、印刷ジョブのユーザを決定した後、印刷ジョブの印刷を開始し、印刷が完了した後は、RAM33に記憶された印刷ジョブのユーザに対応するレコードを利用情報テーブル341から読み出し,印刷の累積枚数を更新する」ことは、本願発明における「受信した前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、前記印刷装置において入力された前記第1のユーザの情報に基づいて前記印刷装置にログインすることを許可されていると前記認証手段により判定されて前記印刷装置にログイン中のユーザを、当該受信した印刷データの所有者として、当該受信した印刷データに関する処理を実行する」ことに相当する。
よって、本願発明と引用発明とは、「前記ダイレクト無線通信モードで動作している前記無線通信手段が前記外部装置から印刷データと当該印刷データに付加された第2のユーザの情報とを受信した場合、前記外部装置から受信した前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、前記印刷装置において入力された前記第1のユーザの情報に基づいて前記印刷装置にログインすることを許可されていると前記認証手段により判定されて前記印刷装置にログイン中のユーザを、当該受信した印刷データの所有者として、当該受信した印刷データに関する処理を実行する処理手段」を備えるものである点で共通する。

(5)引用発明の「印刷ジョブのユーザをログインユーザに決定し、印刷ジョブのユーザを決定した後、印刷ジョブの印刷を開始し、印刷が完了した後は、RAM33に記憶された印刷ジョブのユーザに対応するレコードを利用情報テーブル341から読み出し,印刷の累積枚数を更新する」ことは、ログインユーザを印刷ジョブのユーザとして、利用情報テーブルの累積枚数という印刷履歴に記憶するものといえるから、本願発明の「前記印刷装置にログイン中のユーザを当該受信した印刷データの所有者として、印刷履歴に記憶する」ことに相当する。
したがって、本願発明の「前記受信した印刷データに基づく印刷を行い、かつ、前記モバイル端末から受信した前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、前記印刷装置にログイン中のユーザを当該受信した印刷データの所有者として、印刷履歴に記憶する処理」と、引用発明の「外部装置から受け付けた印刷ジョブを実行する場合,印刷ジョブにユーザ情報が含まれない場合」に「ログインユーザがいる場合には、印刷ジョブのユーザをログインユーザに決定し、印刷ジョブのユーザを決定した後、印刷ジョブの印刷を開始し、印刷が完了した後は、RAM33に記憶された印刷ジョブのユーザに対応するレコードを利用情報テーブル341から読み出し,印刷の累積枚数を更新する」こととは、「前記受信した印刷データに基づく印刷を行い、かつ、前記外部装置から受信した前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、前記印刷装置にログイン中のユーザを当該受信した印刷データの所有者として、印刷履歴に記憶する処理」の点で共通する。

してみると、本願発明と引用発明とは、
「印刷装置であって、
前記印刷装置において入力された第1のユーザの情報に基づいて、当該ユーザが前記印刷装置にログインすることを許可されているか判定する認証手段と、
外部の中継装置を介さずに外部装置と無線通信を実行するダイレクト無線通信モードで動作する無線通信手段と、
前記ダイレクト無線通信モードで動作している前記無線通信手段が前記外部装置から印刷データと当該印刷データに付加された第2のユーザの情報とを受信した場合、前記外部装置から受信した前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、前記印刷装置において入力された前記第1のユーザの情報に基づいて前記印刷装置にログインすることを許可されていると前記認証手段により判定されて前記印刷装置にログイン中のユーザを、当該受信した印刷データの所有者として、当該受信した印刷データに関する処理を実行する処理手段と
を備え、
前記ダイレクト無線通信モードで動作している前記無線通信手段が前記外部装置から前記印刷データと当該印刷データに付加された前記第2のユーザの情報とを受信した場合に、前記処理手段により実行される前記処理とは、
前記受信した印刷データに基づく印刷を行い、かつ、前記外部装置から受信した前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、前記印刷装置にログイン中のユーザを当該受信した印刷データの所有者として、印刷履歴に記憶する処理である
印刷装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
印刷装置が、印刷データと当該印刷データに付加された第2のユーザの情報を受信する外部装置は、本願発明では「モバイル端末」であるのに対し、引用発明ではモバイル端末に特定されていない点。

6 判断
(1)印刷装置の分野において、外部の中継装置を介さずにモバイル端末と無線通信を実行するダイレクト通信モードで無線通信を行い、モバイル端末から印刷データを受信して印刷処理を行うことは、例えば、引用文献2の段落【0015】〜【0019】、【0025】に記載されているように、本願出願時における周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。
また、モバイル端末から印刷データを受信する場合には、印刷データにユーザ情報が付加されないことも、例えば、引用文献3の段落【0065】に記載されているように、本願出願時において周知技術(以下、「周知技術2」という。)であったといえる。
そして、引用発明の「外部装置」としてモバイル端末を採用することは周知技術1に鑑みれば当業者が適宜なし得たことであり、その際に、印刷データにユーザ情報が付加されないものとすることも周知技術2に鑑みれば当業者が適宜なし得たことである。
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明並びに周知技術1及び2から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(2)請求人は、令和3年7月9日の意見書において、引用文献1には「MFP100が印刷ジョブを受け付けたことを契機に、受け付けた印刷ジョブに、ユーザを特定可能なユーザ情報が有るか否かを判断し、ユーザ情報が有る場合には、印刷ジョブのユーザを、ユーザ情報から特定されるユーザに決定し、ユーザ情報が無い場合には、自装置にログインしているユーザであるログインユーザがいるか否かを判断し、ログインユーザがいる場合には、印刷ジョブのユーザをログインユーザに決定し、印刷ジョブのユーザを決定した後、当該ユーザが印刷不可であるか否かの判断を行い、印刷ジョブの印刷を開始する」ことが開示され、すなわち、引用文献1では、印刷ジョブにユーザ情報が付加されている場合は、その付加されているユーザ情報から特定されるユーザを、その印刷ジョブのユーザにしているところ、一方、本願では、ダイレクト無線通信モードで動作している無線通信手段がモバイル端末から印刷データと当該印刷データに付加された第2のユーザの情報とを受信した場合、前記第2のユーザの情報を当該受信した印刷データの所有者とせずに、代わりに、印刷装置にログイン中のユーザを、当該受信した印刷データの所有者とするようにしており、したがって、引用文献1から本願発明を容易に想到することはできない旨主張する。
しかしながら、上記5(4)で説示したように、引用発明において「受け付けた印刷ジョブに、ユーザを特定可能なユーザ情報が有るか否かを判断」する「MFP100」が「ユーザ情報が含まれない」すなわち「ユーザ情報が無い」「印刷ジョブ」を「受け付け」ることは、「印刷ジョブ」に付加された、誰が「印刷ジョブ」の「ユーザ」であるかが「特定」できない情報を受信することといえるから、本願発明の「印刷データに付加された第2のユーザ情報」を「受信」することに相当するといえるし、上記(1)で述べたように、引用発明の「外部装置」としてモバイル端末を採用することは周知技術1に鑑みれば当業者が適宜なし得たことであり、その際に、印刷データにユーザ情報が付加されないものとすることも周知技術2に鑑みれば当業者が適宜なし得たことであるから、請求人の主張は採用できない。

したがって、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-10-13 
結審通知日 2021-10-19 
審決日 2021-11-02 
出願番号 P2015-225805
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 藤田 年彦
吉村 尚
発明の名称 印刷装置、印刷装置の制御方法及びプログラム  
代理人 黒岩 創吾  
代理人 阿部 琢磨  

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