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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1380430
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-01 
確定日 2021-11-17 
事件の表示 特願2016−81060「光学部材,導電部材,電子デバイス,有機エレクトロルミネッセンス素子,及び,光学部材の製造方法,導電部材の製造方法,電子デバイスの製造方法,有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月19日出願公開,特開2017−191725〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2016−81060号(以下「本件出願」という。)は,平成28年4月14日を出願日とする特許出願であって,その手続等の概要は,以下のとおりである。
令和元年 9月27日付け:拒絶理由通知書
令和元年12月 9日付け:意見書
令和元年12月 9日付け:手続補正書
令和2年 6月 5日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 9月 1日付け:審判請求書
令和2年 9月 1日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年9月1日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の(令和元年12月9日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1及び請求項4の記載は,以下のとおりである。
「【請求項1】
基材と,
表面に凹凸構造を有し,凹部における厚さが10nm以上2000nm以下である凹凸層と,
前記基材と前記凹凸層との間に設けられた下地層と,を有し,
前記下地層に直に接して前記凹凸層が設けられている
光学部材。」

「【請求項4】
前記凹凸層が,樹脂材料を含む請求項1に記載の光学部材。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。下線は,本件補正前の請求項4からの,実質的な補正箇所を示す。
「【請求項1】
基材と,
表面に凹凸構造を有し,凹部における厚さが10nm以上2000nm以下である凹凸層と,
前記基材と前記凹凸層との間に設けられた下地層と,を有し,
前記下地層に直に接して前記凹凸層が設けられ,
前記下地層が,改質されたポリシロキサン,改質されたポリシラザン,改質されたポリシロキサザン,またはこれらの混合物から成るケイ素含有ポリマー改質層であり,
前記凹凸層が,樹脂材料を含む
光学部材。」

(3) 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項4に係る発明を特定するために必要な事項である「下地層」を,「改質されたポリシロキサン,改質されたポリシラザン,改質されたポリシロキサザン,またはこれらの混合物から成るケイ素含有ポリマー改質層であり」という要件を満たすものに限定して,本件補正後の請求項1に係る発明とする補正事項を含むものである。また,この補正は,本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0044】及び【0046】の記載に基づくものである。そして,本件補正前の請求項4に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は,同一である(明細書の【0001】及び【0006】)。
そうしてみると,本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに,同条5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された,特開2015−62184号公報(以下「引用文献1」という。)は,本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用になった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム上に,下層側から少なくとも第1ガスバリア層,応力緩和層,第2ガスバリア層を有する有機エレクトロルミネッセンス用フィルム基板であって,
前記第2ガスバリア層はセラミック層であり,
前記応力緩和層は,光を回折もしくは散乱させる機能を有する層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス用フィルム基板。
…省略…
【請求項3】
前記応力緩和層は,アクリル系,メタクリル系樹脂材料,ポリオレフィン樹脂,又はポリエチレンテレフタレートが用いられていることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス用フィルム基板。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機エレクトロルミネッセンス用フィルム基板,および該フィルム基板を用いた有機エレクトロルミネッセンスデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム基板を用いる有機エレクトロルミネッセンス(以下,有機ELともいう)発光デバイスにおいては,光取り出し効率が低いことが課題となっている。
…省略…
【0003】
光取りだし効率を向上させる手段としては,全反射する界面に,光を回折する構造を設ける方法が提案されている(特許文献1参照)。
…省略…
【0006】
一方で,有機ELデバイスは,湿気や酸素等のガスに敏感で,有機ELデバイスの寿命に大きな影響を及ぼす。樹脂フィルム基板は,これらの湿気や酸素に対するガスバリア性が低いため,湿気や酸素等のガスによる影響を防止するため,フィルム基板を用いる際にはガスバリア層を形成する必要がある。
【0007】
ガスバリア層に加えて,光取り出しの効率を向上させる層を設けることはコストが向上する,あるいは工程が増えるために品質が低下するという課題を抱えていた。
…省略…
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は,上記課題を鑑みてなされたものであり,その目的は,機能向上と同時に低コスト化を達成した有機エレクトロルミネッセンス用フィルム基板および有機エレクトロルミネッセンスデバイスを提供することにある。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス用樹脂フィルム基板は,プラスチックフィルム(樹脂フィルム)を基板としており,従来のガラス等の基板に比べ,軽量で,可撓性を有し,フレキシブルであるため好ましい。しかしながら,樹脂フィルムは,ガラス等に比較すると,水蒸気,酸素等に対するガスバリア性が劣るため,ガラスに匹敵するガスバリア性を備えたガラスに代わる樹脂フィルム基板の開発が行われている。本発明の有機EL用樹脂フィルム基板では,ガスバリア性に優れると共に,やはり有機EL素子の大きな課題である光取り出し効率の向上を同時に果たすべく,なされたものである。
【0019】
本発明は,ガスバリア性層および光を回折もしくは拡散する構造の両者を導入し,ガスバリア性と光取り出し効率の向上を同時に達成した有機EL用樹脂フィルム基板に関するものである。
…省略…
【0021】
本発明に係るガスバリア層は,酸素及び水蒸気の透過を阻止する膜であれば,その組成等は特に限定されるものではないが,…省略…特に酸化珪素,窒化珪素,酸窒化珪素,酸化アルミニウム,酸窒化アルミニウム等のセラミック膜が好ましい。
【0022】
本発明において,セラミック膜の製造方法としては,特に限定されるものではなく,例えば,金属化合物原料として珪素,チタン等のアルコキシド等を用いて,ゾルゲル法等,湿式法を用いて形成されたものであってもよいが,また,スパッタリング法,イオンアシスト法,あるいは後述するプラズマCVD法や大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法等を適用して形成されたものでもよい。
【0023】
スプレー法やスピンコ−ト法を用いるゾルゲル法等,湿式法は,分子レベル(nmレベル)の平滑性を得ることが難しく,また溶剤を使用するため,基材が有機材料である場合など,使用可能な基材または溶剤が限定される,という欠点があり,後述するプラズマCVD法や大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法を用いる方法が好ましい。
…省略…
【0032】
セラミック膜は緻密で,所定の硬度を有しているため,所望のガスバリア性能を達成するには,ガスバリア層の厚みを前記の範囲とし,いわゆる応力緩和層と組み合わせ,複数の層から構成した積層構成とすることが好ましい。
…省略…
【0033】
この様な応力緩和層に用いる樹脂材料としては,アクリル系,メタクリル系樹脂材料,エチレン,ポリプロピレン,ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)樹脂,また,ポリエチレンテレフタレート等の樹脂材料が好ましく,ガスバリア層を保持することができる有機材料で形成された膜であれば特に限定されるものではない。
…省略…
【0035】
本発明の有機EL用樹脂フィルム基材において用いられる樹脂フィルム基材としては,上述したバリア性を有するガスバリア層を保持することができる有機材料からなるフィルム基材であれば,特に限定されるものではない。
…省略…
【0039】
次に,有機EL素子からの光取りだし効率を向上させ,光を回折もしくは拡散させる凹凸構造について説明する。
…省略…
【0041】
本発明において,光を回折させる凹凸構造とは,具体的には,全反射が発生する界面に設けられ,一定のピッチ(周期)を有する凹凸状の構造からなるものである。
…省略…
【0046】
この様にして形成される回折格子として作用する凹凸構造の一例を図2に示す。凹部が円形と方形の凹部(孔)を基材表面に形成した例を示している。
…省略…
【0048】
これらの回折格子を樹脂材料膜上に形成しようとする場合には,インプリント手法等があり,例えば,ポリマー膜としてポリメチルメタクリレート(以下,PMMAと略記する)等の熱可塑性樹脂を成膜した後,凹凸が設けられた金型で加熱,加圧することで,金型の凹凸形状を転写するインプリント手法を用いることができる。また,紫外線硬化樹脂を塗布した後,凹凸が設けられた金型を密着させて紫外線を照射し,光重合により硬化して金型の凹凸を転写する手法を用いることができる。
…省略…
【0071】
この様なガスバリア層を有する本発明の有機EL用樹脂フィルム基板について,幾つかの実施の態様を以下に説明する。
【0072】
図3に本発明の実施態様の1つを示す。図3は,フィルム基板1上に応力緩和層4,ガスバリア層3,更に応力緩和層4を積層した構成であり,ガスバリア層上の応力緩和層表面,即ち,樹脂フィルム基板最表面に回折構造を設けたものである。
【0073】
ガスバリア層の最表面に光を回折する凹凸構造を設け,その上にITO/有機EL層/電極を構成することで,基板,ガスバリア層,ITO,有機EL層のいずれかの界面で全反射して,外部に取り出せなかった光を回折することで外部に取り出すことができる。
【0074】
フィルム基板としては,前記の樹脂フィルム中,例えば,PES(ポリエーテルスルホン)フィルム(厚み200μm)を用い,この上に先ず,応力緩和層ないし接着層として,PMMA膜を形成する。PMMA膜は,WO00/36665号パンフレットに記載された方法に従って真空蒸着装置内に導入ノズルからポリメチルメタクリレートオリゴマーを導入し,PESフィルム基板上に蒸着し,PMMA蒸着フィルムを真空蒸着装置から取り出した後,乾燥窒素気流下,紫外線を照射,重合させて,PMMAの重合膜を形成する(膜厚は,例えば,200nm)。
【0075】
この上に,ガスバリア層として,テトラエトキシシランを主体とする薄膜形成ガスと,放電ガスとしては窒素を用いて,大気圧プラズマCVD法により酸化珪素の膜を形成する(例えば膜厚200nm)。
【0076】
次いで,表面に光を回折する構造である凹凸が正方格子状に配列された応力緩和層の役割も有する樹脂層を形成する。樹脂層として,前記の方法で400nmの厚みでPMMA膜を形成し,表面にインプリント成型を行って凹凸構造を形成する。
【0077】
即ち,予め形成した型付けのためのエンボスを有するステンレスロールに加熱,押圧することで,インプリント成型を行う。凹凸は,例えば,直径150nm,深さ,120nmで正方格子状にピッチ300nmで形成する。光の回折作用により530〜580nmのいわゆる緑領域の光取り出し効率が高まる。
…省略…
【0184】
本発明の樹脂フィルム基板を光取りだし側の基板として用いることで,有機EL素子を水分や,酸素等の有害ガスから封止することができる。」

(2) 引用発明
ア 引用発明A
引用文献1の【0071】〜【0078】及び【図3】には,次の「有機EL用樹脂フィルム基板」の発明が記載されている(以下「引用発明A」という。)。なお,「PMMA」は「ポリメチルメタクリレート」に書き改めた。
「 フィルム基板としてポリエーテルスルホンフィルム(厚み200μm)を用い,この上に応力緩和層ないし接着層として,ポリメチルメタクリレート膜を形成し,
この上に,ガスバリア層として,酸化珪素の膜(膜厚200nm)を形成し,
次いで,表面に光を回折する構造である凹凸が正方格子状に配列された応力緩和層の役割も有する樹脂層を形成し,樹脂層として400nmの厚みでポリメチルメタクリレート膜を形成し,表面にインプリント成型を行って凹凸構造を形成し,
凹凸は,直径150nm,深さ120nmで正方格子状にピッチ300nmで形成し,光の回折作用により530〜580nmの緑領域の光取り出し効率が高まる,
有機EL用樹脂フィルム基板。」

イ 引用発明B
引用文献1の【請求項1】及び【請求項3】には,次の「有機エレクトロルミネッセンス用フィルム基板」の発明も記載されている(以下「引用発明B」という。)。
「 樹脂フィルム上に,下層側から少なくとも第1ガスバリア層,応力緩和層,第2ガスバリア層を有する有機エレクトロルミネッセンス用フィルム基板であって,
前記第2ガスバリア層はセラミック層であり,
前記応力緩和層は,光を回折もしくは散乱させる機能を有する層であり,アクリル系,メタクリル系樹脂材料,ポリオレフィン樹脂,又はポリエチレンテレフタレートが用いられている,
有機エレクトロルミネッセンス用フィルム基板。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明Aを対比すると,以下のとおりとなる。
ア 基材
引用発明Aの「有機EL用樹脂フィルム基板」は,「フィルム基板としてポリエーテルスルホンフィルム(厚み200μm)を用い,この上に応力緩和層ないし接着層として,ポリメチルメタクリレート膜を形成し」,「この上に,ガスバリア層として,酸化珪素の膜(膜厚200nm)を形成し」,「次いで」,「樹脂層として400nmの厚みでポリメチルメタクリレート膜を形成し,表面にインプリント成型を行って凹凸構造を形成し」たものである。
上記の構成から理解される積層構造(フィルム基板/応力緩和層ないし接着層/ガスバリア層/樹脂層)からみて,引用発明Aの「フィルム基板」,あるいは「フィルム基板」と「応力緩和層ないし接着層」を併せたものは,「ガスバリア層」や「樹脂層」との関係において,基材として機能するものといえる。
そうしてみると,引用発明Aの「フィルム基板」,あるいは「フィルム基板」と「応力緩和層ないし接着層」を併せたものは,本件補正後発明の「基材」に相当する。

イ 凹凸層
引用発明Aの「樹脂層」は,「400nmの厚みでポリメチルメタクリレート膜を形成し,表面にインプリント成型を行って凹凸構造を形成し」,「凹凸は,直径150nm,深さ120nmで正方格子状にピッチ300nmで形成し」たものである。
上記の構成から理解される形状からみて,引用発明Aの「樹脂層」は,「表面に」「凹凸構造を」有する層,すなわち凹凸層といえる。また,引用発明Aの「樹脂層」の凹部における厚さは,約304nmと見積もられる。加えて,引用発明Aの「樹脂層」は,樹脂材料としての「ポリメチルメタクリレート」を含むものである。
そうしてみると,引用発明Aの「樹脂層」は,本件補正後発明の「凹凸層」に相当する。また,引用発明Aの「樹脂層」は,本件補正後発明の「凹凸層」における,「表面に凹凸構造を有し,凹部における厚さが10nm以上2000nm以下である」及び「樹脂材料を含む」という要件を満たす。
(当合議体注:引用発明Aの「樹脂層」の「凹凸構造」は,300nm×300nmあたり直径150nmの凹部が1つの割合であること,及び「インプリント成型」により直径150nmの凹部の樹脂が,それ以外の部分(凸部)に回り込んで「凹凸構造」となると考えられることに基づいて計算すると,インプリントの型(の凸部)が「樹脂層」に約96nm進入したとき,ちょうど深さ120nmの凹部となる。したがって,凹部の厚さは,400nm−96nm=304nmと計算される。)

ウ 下地層
引用発明Aの「有機EL用樹脂フィルム基板」の積層構造は,前記アで述べたとおり,フィルム基板/応力緩和層ないし接着層/ガスバリア層/樹脂層である。
上記の積層構造からみて,引用発明Aの「ガスバリア層」は,「フィルム基板」(あるいは「フィルム基板」と「応力緩和層ないし接着層」を併せたもの)と「樹脂層」との間に設けられた層である。また,引用発明Aの「樹脂層」は,「ガスバリア層」に直に接して設けられたものである。
そうしてみると,引用発明Aの「ガスバリア層」は,本件補正後発明の「下地層」における,「前記基材と前記凹凸層との間に設けられた」及び「直に接して前記凹凸層が設けられ」という要件を満たす層である。そして,この点に着目すると,引用発明Aの「ガスバリア層」と本件補正後発明の「下地層」とは,「前記基材と前記凹凸層との間に設けられた」凹凸層直下の中間層という点で共通する。

エ 光学部材
引用発明Aの「有機EL用樹脂フィルム基板」は,「光の回折作用により530〜580nmの緑領域の光取り出し効率が高まる」ものである。
上記構成からみて,引用発明Aの「有機EL用樹脂フィルム基板」は,「光の回折作用」という光学的な機能を具備する部材といえる。
そうしてみると,引用発明Aの「有機EL用樹脂フィルム基板」は,本件補正後発明の「光学部材」に相当する。また,上記ア〜ウの対比結果を勘案すると,引用発明Aの「有機EL用樹脂フィルム基板」と本件補正後発明の「光学部材」とは,「基材と」,「凹凸層と」,凹凸層直下の中間層「と,を有し」ている点で共通する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明Aは,次の構成で一致する。
「 基材と,
表面に凹凸構造を有し,凹部における厚さが10nm以上2000nm以下である凹凸層と,
前記基材と前記凹凸層との間に設けられた凹凸層直下の中間層と,を有し,
前記凹凸層直下の中間層に直に接して前記凹凸層が設けられ,
前記凹凸層が,樹脂材料を含む
光学部材。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明Aは,以下の点で相違する,又は一応相違する。
(相違点1)
「凹凸層直下の中間層」が,本件補正後発明は,「改質されたポリシロキサン,改質されたポリシラザン,改質されたポリシロキサザン,またはこれらの混合物から成るケイ素含有ポリマー改質層であり」という要件を満たすものであるのに対して,引用発明Aは,「酸化珪素の膜」である点。

(相違点2)
「凹凸層直下の中間層」が,本件補正後発明は,「下地層」であるのに対して,引用発明Aは,「ガスバリア層」である点。

(5) 判断
ア 相違点1について
「改質されたポリシロキサン」「から成るケイ素含有ポリマー改質層」は,層の組成からみて,実質的に酸化珪素の層のことである(本件特許の明細書の【0044】)。
そうしてみると,相違点1は,相違点ではない。

なお,改質が不十分な場合,「改質されたポリシロキサン」「から成るケイ素含有ポリマー改質層」には,ポリシロキサンが含まれる可能性がある。しかしながら,引用発明Aの「酸化珪素の膜」(「ガスバリア層」)の製造工程は,【0075】に記載のとおりであるから,引用発明Aの「酸化珪素の膜」においても,多少なりとも「テトラエトキシシラン」の重合物(ポリシロキサン)が含まれるといえる。
製造工程に起因する痕跡を考慮しても,相違点1は,相違点ではない。

さらに進んで検討する。
原査定の拒絶の理由において引用された,国際公開2015/033853号(以下「引用文献2」という。)の[0033]には,「ガスバリアー層の材料としては,水,酸素等のガスの浸入を抑制することができる材料であればよく,例えば酸化ケイ素,二酸化ケイ素,窒化ケイ素等の無機化合物が挙げられる。」と記載され,[0034]には,「特定の雰囲気下で紫外線照射によって,金属酸化物,金属窒化物又は金属酸化窒化物を形成し得る化合物も好適に用いることができる。」及び「具体的には,Si−O−Si結合を有するポリシロキサン(ポリシルセスキオキサンを含む),Si−N−Si結合を有するポリシラザン,Si−O−Si結合とSi−N−Si結合の両方を含むポリシロキサザン等を挙げることができる。これらは,紫外線,エキシマ光等を照射することにより,低温でセラミック化する。」と記載されている。そして,引用文献2に記載された上記技術は,その記載ぶりからみて周知と認められる(以下「周知技術」という。)。
(当合議体注:引用文献2のほか,国際公開第2014/188913号([0001],[0271],[0274],[0298],[0336]),特開平10−212114号公報(【0002】,【0036】及び【0037】),特開2000−246830号公報(【0001】,【0011】,【0021】,【0024】及び【0025】),特開2012−121149号公報(【0001】,【0024】及び【0042】),特開2012−117150号公報(【0001】,【0016】,【0082】,【0106】及び【0184】)等も参照。)
そして,上記周知技術は,低温でガスバリアー層を形成することに適したものであるから,引用発明Aの「フィルム基板」の材質等からみて,「ガスバリア層」として採用するにふさわしいものといえる。
そうしてみると,引用発明Aの「ガスバリア層」として,上記周知技術を採用し,相違点1に係る本件補正後発明の構成を満たすものとすることは,当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 相違点2について
「下地層」について,本件出願の明細書の【0040】には,「下地層12は,基材11と凹凸層13との間に配置され,凹凸層13が下地層12上に直に接して設けられている。」と記載されている。これに対して,引用発明Aの「ガスバリア層」も,前記(3)ウで述べたとおりであるから,【0040】に記載の上記要件を満たすものである。
そうしてみると,相違点2は,相違点ではない。

さらに進んで検討する。
本件出願の明細書の【0041】及び【0042】には,「凹凸層13を形成するための層の下地として,凹凸層13を形成する材料と親和性の高い層を設けることが好ましい。」及び「ケイ素含有化合物を含む組成の材料を用いることが好ましい。」と記載されている。しかしながら,引用発明Aの「ガスバリア層」は「酸化珪素の膜」であり,また,前記アで述べたとおり周知技術を採用した後の「ガスバリア層」でみても,ケイ素含有化合物を含む組成の材料を用いてなる層である。
本件補正後発明の「下地層」を,【0041】及び【0042】に記載を考慮して限定解釈したとしても,相違点2は,相違点ではない。

(6) 発明の効果について
本件出願の明細書の【0009】の記載を考慮すると,本件補正後発明の効果は,「ナノインプリント技術を用いて作製した凹凸層を有し,凹凸層の形状安定性の向上が可能な光学部材」「を提供することができる。」というものと理解される。
しかしながら,引用発明Aの凹部における厚さは約304nmであるから,(材料の違いを勘案したとしても)凹凸部の形状安定性は良いと理解される。
したがって,本件補正後発明の効果は,引用発明Aも奏する効果である。仮にそうでないとしても,引用発明Aにおいて当業者が期待し得る効果にすぎない。
なお,本件出願の明細書の実施例(【0131】〜【0174】)を参照すると,凹凸層の有無による光取り出し効率の向上については確認されているが,「凹凸層の形状安定性の向上」については,確認されていないようである。

(7) 審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書の(3)D.において,「下地層が改質されたポリシロキサン,改質されたポリシラザン,改質されたポリシロキサザン,またはこれらの混合物から成るケイ素含有ポリマー改質層である構成とされ,凹凸層が樹脂材料を含み,凹凸層が下地層に直に接して形成されている,という技術的特徴によって,引用文献1〜引用文献3と本願発明とは相違しています。」及び「この相違点によって達成される技術的効果は,凹凸層を形成するための塗布液に対して親和性の高いケイ素含有ポリマー改質層を用いることにより,凹凸層の膜厚の均一性を高め,生産性を高め,凹凸層と下地層との間の親和性を高めることです。」と主張する。
しかしながら,本件補正後発明は,「凹凸層」の「樹脂材料」の種類(塗布液の組成)を何ら特定しないものである。そして,樹脂材料(塗布液の組成)によっては,「ケイ素含有ポリマー改質層」との親和性に劣る場合もある。
例えば,フッ素系UV硬化性樹脂は,通常,「ケイ素含有ポリマー改質層」のような無機材料からなる層との親和性が,極めて悪い。すなわち,本件出願の明細書の実施例において用いられている「フッ素系UV硬化性樹脂(旭硝子株式会社製の商品名「NIF」)」(【0150】)は,特に,無機材料に対する親和性が高くなるように組成が調製された,特殊なものである。
(当合議体注:これらの点は,川口外1名,「光ナノインプリント用含フッ素UV硬化樹脂(NIF)の特性向上」,[online],2013年,旭硝子研究報告 63,[令和3年4月11日検索],インターネット<URL:https://www.agc.com/innovation/library/pdf/63-04.pdf>(以下「参考文献」という。)の18頁「3.1.1 塗膜保持性の改善」及び19頁「3.1.3 プライマーレス化」の項の記載からみても明らかである。)
そうしてみると,審判請求人の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから,採用できない。

仮にそうでないとしても,上記参考文献の記載内容からみて,「光ナノインプリント用含フッ素UV硬化樹脂(NIF)」は,本件出願前の当業者に周知のものであったと理解される。そして,上記参考文献に記載の「含フッ素UV硬化樹脂(NIF)」は,「光ナノインプリント用」であるから,引用発明Aの「樹脂層」の材料として採用するに適したものと理解される。
そうしてみると,審判請求人が主張する事項は,仮に本願補正後発明の「樹脂材料」を実施例の材料(NIF)に限定解釈したとしても,引用発明Aにおいて上記参考文献に記載の「含フッ素UV硬化樹脂(NIF)」を採用する当業者が期待し得る効果にとどまるものである。
いずれにせよ,審判請求人の主張は採用できない。

(8) 引用発明Bについて
引用発明Aに替えて,引用発明Bを主引用発明としても,同様に,本件補正後発明は,引用発明Bに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9) 小括
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。あるいは,本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項4に係る発明は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,[A](新規性)本願発明は,本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[B](進歩性)本願発明は,本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開2015−62184号公報

3 引用文献1及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,同1(3)で述べた限定事項を除いたものである。また,本願発明の構成を全て具備し,これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2(3)〜(9)で述べたとおり,引用文献1に記載された発明であり,あるいは引用文献1に記載された発明に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると,本願発明も,引用文献1に記載された発明であり,あるいは,引用文献1に記載された発明に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条1項3号に該当し,あるいは,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 里村 利光
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-06-09 
結審通知日 2021-06-15 
審決日 2021-06-29 
出願番号 P2016-081060
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 572- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 光学部材、導電部材、電子デバイス、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び、光学部材の製造方法、導電部材の製造方法、電子デバイスの製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法  
代理人 特許業務法人信友国際特許事務所  

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