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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1380450
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-10 
確定日 2021-12-28 
事件の表示 特願2016−518930「少なくとも1つの物体を光学的に検出する検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日国際公開、WO2014/198623、平成28年9月23日国内公表、特表2016−529473号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月5日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張、2013年6月13日欧州特許庁、及び、2014年3月12日ドイツ連邦共和国)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
平成28年 2月12日 :翻訳文の提出
平成28年 2月15日 :手続補正書の提出
平成30年 4月20日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月 7日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年12月13日付け:拒絶理由通知書
平成31年 3月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 8月30日付け:拒絶理由通知書
令和 元年12月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 5月26日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 6月 9日 :原査定の謄本の送達)
令和 2年 9月10日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年9月10日付けでされた補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の概要
令和2年9月10日付けでされた特許請求の範囲についての補正(以下「本件補正」という。)は、以下の(1)に示される本件補正前の請求項19の記載を、以下の(2)に示される本件補正後の請求項19の記載に補正することを含むものである。下線は、補正箇所を示す。

(1)本件補正前
「【請求項19】
少なくとも1つの物体(118)の位置を決定する方法であって、
前記方法は、少なくとも1つの検出ステップおよび少なくとも1つの評価ステップを含み、
前記少なくとも1つの検出ステップでは、前記物体(118)から検出器(110)へと進む少なくとも1つの光線(150)が、前記検出器(110)の少なくとも1つの光学センサ(112)により検出され、前記少なくとも1つの光学センサ(112)が、画素(154)の少なくとも1つのマトリクス(152)を有し、
前記少なくとも1つの評価ステップでは、前記光線(150)により照射された前記光学センサ(112)の画素(154)の強度分布が決定され、前記強度分布を用いることにより、前記物体(118)の少なくとも1つの、光軸(142)に沿った縦方向座標が決定され、
前記強度分布を近似した少なくとも1つの強度分布関数を決定する、
方法。」

(2)本件補正後
「【請求項19】
少なくとも1つの物体(118)の位置を決定する方法であって、
前記方法は、少なくとも1つの検出ステップおよび少なくとも1つの評価ステップを含み、
前記少なくとも1つの検出ステップでは、前記物体(118)から検出器(110)へと進む少なくとも1つの光線(150)が、前記検出器(110)の少なくとも1つの光学センサ(112)により検出され、前記少なくとも1つの光学センサ(112)が、画素(154)の少なくとも1つのマトリクス(152)を有し、
前記少なくとも1つの評価ステップでは、前記光線(150)により照射された前記光学センサ(112)の画素(154)の強度分布が決定され、前記強度分布を用いることにより、前記物体(118)の少なくとも1つの、光軸(142)に沿った縦方向座標が決定され、
前記強度分布を近似した少なくとも1つの強度分布関数を決定し、
前記強度分布が、前記光学センサ(112)の前記光軸(142)に垂直な平面における前記各画素(154)の横方向位置の関数としての強度を含む、
方法。」

2 本件補正についての当審の判断
本件補正は、請求項19において、「前記強度分布が、前記光学センサ(112)の前記光軸(142)に垂直な平面における前記各画素(154)の横方向位置の関数としての強度を含む」という事項を追加する補正を含むところ、この補正は、本件補正前の「前記光線(150)により照射された前記光学センサ(112)の画素(154)の強度分布」の内容を限定したものである。
そして、本件補正前の請求項19に記載された発明と、本件補正後の請求項19に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、以下では、本件補正後における請求項19に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか否か、について検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、次に特定されるとおりのものである。
「少なくとも1つの物体(118)の位置を決定する方法であって、
前記方法は、少なくとも1つの検出ステップおよび少なくとも1つの評価ステップを含み、
前記少なくとも1つの検出ステップでは、前記物体(118)から検出器(110)へと進む少なくとも1つの光線(150)が、前記検出器(110)の少なくとも1つの光学センサ(112)により検出され、前記少なくとも1つの光学センサ(112)が、画素(154)の少なくとも1つのマトリクス(152)を有し、
前記少なくとも1つの評価ステップでは、前記光線(150)により照射された前記光学センサ(112)の画素(154)の強度分布が決定され、前記強度分布を用いることにより、前記物体(118)の少なくとも1つの、光軸(142)に沿った縦方向座標が決定され、
前記強度分布を近似した少なくとも1つの強度分布関数を決定し、
前記強度分布が、前記光学センサ(112)の前記光軸(142)に垂直な平面における前記各画素(154)の横方向位置の関数としての強度を含む、
方法。」

(2)引用文献等
ア 引用文献6
原査定の拒絶の理由において引用された、池岡 宏 外1名、水平合焦面の被写界深度の変化を利用した広範囲・実時間距離推定方式、映像情報メディア学会誌、映像情報メディア学会、2009年12月10日、Vol.64、No.3、405〜412頁(以下「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。

「2.画像ぼけを利用した従来方式の実時間利用時の問題点
図1のように,DFF方式やDFD方式では,イメージセンサに正対する合焦面(POF)を多数配置し,多重フォーカス画像を取得することで,距離推定を行う.
DFF方式は,画素毎に多重フォーカス画像中で最も先鋭度の高い合焦位置を見つけ,距離推定を行う方式である.
(中略)
一方,DFD方式は,画像のぼけ量の変化から距離を推定する方式であり,DFF方式と比較し撮像枚数が非常に少なくて済む.しかし,一般にぼけ量の変化を検出できる範囲は狭いため,物体表面の微細な凹凸等の計測には適しているが,車載用途など広範囲の検出が必要なアプリケーションでは扱いにくい.」(406頁左欄)

「4.2 ガウス曲線による先鋭度曲線の近似
先鋭度曲線のガウス近似の妥当性を調べるために,空間中に点光源があるものと仮定する.点光源の光が傾斜したレンズを通して,センサ面に作ったぼけが,合焦面・点光源間距離に応じてどのように変化するかを調べた.
まず,合焦面・点光源間距離を与えると,カメラ・点光源間の距離値(1,000mmに固定)より,錯乱円のサイズ(mm)が求まる.その際,レンズ焦点距離は90mm,レンズ傾斜角は38°,センサ・レンズ中心間距離は117.5mmとした.次に縦センササイズ14.9mm,縦画素数3168pixelsの関係から錯乱円のサイズ(mm)を画素数(pixels)に換算する.なお,以上の条件は,次章の実験時のものと同じにしている.
ここで,点広がり関数(PSF)を仮定する必要があるが,その際,一般のDFD方式を含めてぼけを扱う多くの方式で採用されている積分値1で規格化されたガウス関数を用いることにする.続いて,錯乱円の中心を注目画素の中心とみなし,錯乱円の半径を標準偏差の3倍とした(全光量の99.7%が錯乱円内に投影されるとする).なお,注目画素の中心を0とすると,注目画素の定積分範囲を−0.5〜0.5,近傍画素の定積分範囲を−1.5〜−0.5(または0.5〜1.5)として,画素単位の入射光量を算出し,さらにd値=|2×近傍画素の積分値−2×注目画素の積分値|を計算する.その結果,光源・合焦面間距離(d値が0.01以上となる範囲を1mm単位)をパラメータとして算出した近似ガウス関数との誤差は8.1%であった.したがって,底辺部の比較的小さなd値を除けば,ガウス曲線に近い形状を示していることから,本稿ではガウス曲線を先鋭度曲線近似のモデルに採用し議論を進める.
また,後で比較対象とするDFD方式についても,レンズ傾斜角を0°する以外は同様の条件で,ガウス近似を行った際の誤差を計算したところ,4.1%であった.
なお,誤差率は,各光源・合焦面間距離におけるd値の近似誤差の和を,近似ガウス関数で得られた近似値の総和で割って求めた.」
(408頁左欄〜409頁左欄)

引用発明の認定
上記アの記載内容を総合すれば、引用文献6には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「DFD方式による距離推定方法であって、
イメージセンサに正対する合焦面(POF)を多数配置し、多重フォーカス画像を取得することで、画像のぼけ量の変化から距離推定を行い、
点広がり関数(PSF)が、積分値1で規格化されたガウス関数であると仮定し、
錯乱円の中心を注目画素の中心とみなし、錯乱円の半径を標準偏差の3倍とした(全光量の99.7%が錯乱円内に投影されるとする)、
DFD方式による距離推定方法。」

ウ 引用文献8
当審が新たに引用する特開2001−208524号公報(以下「引用文献8」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。

「【0006】これに対して、1つの撮像系から得た複数の画像から画像の奥行き情報を得る方法として、DFD(Depth From Defocus)と呼ばれる方法が一般に知られている。DFDは、画像のぼけ情報から被写体の距離を推定する方法であり、複数の撮像系を必要としないことや、複雑な演算を必要としないといった利点を有している。
【0007】このDFDの原理を図5を用いて説明する。図5において、対象物体Aまでの距離a0は、当該対象物体Aが合焦する位置b0が既知であれば、レンズRの焦点距離fから、(1)式を用いて算出することができる。
【0008】
【数1】

【0009】DFDにおいては、撮像面位置と対象物体Aの合焦位置とが異なることを前提として、撮像面上に投影された像のぼけの程度から合焦位置b0を求め、これを(1)式に代入することにより、対象物体Aまでの距離a0を算出する。
【0010】いま、撮像面がb1にある場合、距離a0の物体表面上の点は撮像面上において錯乱円と呼ばれる円形に拡散し、(2)式で表される像i1を形成する。
【0011】
【数2】

【0012】ここで、*は畳込演算を示す。またhd1は拡散の状態を示す関数PSF(Point Spread Function:点広がり関数)であり、撮像面と合焦位置との距離b0−b1に比例する錯乱円直径d1に依存する。そこで、錯乱円直径d1をパラメータとするPSFのモデルを仮定し、観測画像i1から錯乱円直径d1を推定する。但し(2)式からも分かるように、観測画像i1は対象物体の像i0に依存しているため、このままでは錯乱円直径d1を求めることができない。
【0013】そこで、異なる撮像面位置b2における観測画像i2を撮像し、画像の周波数領域上における観測画像i1と観測画像i2との比を取ることにより、(3)式のように観測画像とPSFの関係を導くことができる。
【0014】
【数3】

【0015】ここで、I1、I2、I0、Hd1、Hd2はそれぞれ観測画像i1及びi2、合焦画像i0、PSFhd1及びhd2のフーリエ変換である。この(3)式と図5の幾何学的関係により、対象物体Aに依存することなく錯乱円直径d1及びd2を算出することができる。」

「【0024】(1)第1の実施の形態
(1−1)第1の実施の形態の構成
図1において、1は全体として本発明の第1の実施の形態による画像処理装置を示し、撮像手段としての撮像装置10は、まず第1の撮像面位置で撮像対象を撮像し、第1の画像信号i1(x,y)をメモリ11に供給する。続いて撮像装置10は第2の撮像面位置で撮像対象を撮像し、第2の画像信号i2(x,y)を周波数分析器12A〜12Cに供給する。
【0025】ここで、第1の画像信号i1(x,y)及び第2の画像信号i2(x,y)は輝度信号でなり、(x,y)は画像上の位置を表す座標である。また、第1の画像信号i1(x,y)及び第2の画像信号i2(x,y)はそれぞれ撮像面位置が異なるため、焦点ずれによるぼけの程度がそれぞれ異なる。」

「【図1】



「【図5】



エ 技術常識の認定
引用文献8の記載事項から明らかなように、DFD(Depth From Defocus)に係る次の2つの技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下、それぞれ「技術常識1」及び「技術常識2」という)。

[技術常識1](DFDの原理について)
「DFDは、1つの撮像系から得た複数の画像から画像の奥行き情報を得る方法であり、画像のぼけ情報から被写体の距離を推定する方法であり、
DFDの原理は、撮像面位置と対象物体Aの合焦位置とが異なることを前提として、撮像面上に投影された像のぼけの程度から合焦位置b0を求め、これを(1)式に代入することにより、対象物体Aまでの距離a0を算出するものであり(fはレンズの焦点距離を表す。)、

(【0006】〜【0008】、【図5】)
DFDにおいては、撮像面がb1にある場合、距離a0の物体表面上の点は撮像面上において錯乱円と呼ばれる円形に拡散して(2)式で表される像i1を形成し、

ここで、*は畳込演算を示す。また、hd1は拡散の状態を示す関数PSF(Point Spread Function:点広がり関数)であり、撮像面と合焦位置との距離b0−b1に比例する錯乱円直径d1に依存する。
(【0009】〜【0012】、【図5】)
異なる撮像面位置b2における観測画像i2を撮像し、画像の周波数領域上における観測画像i1と観測画像i2との比を取ることにより、(3)式のように観測画像とPSFの関係を導き、対象物体Aに依存することなく錯乱円直径d1及びd2を算出すること。

ここで、I1、I2、I0、Hd1、Hd2はそれぞれ観測画像i1及びi2、合焦画像i0、PSFhd1及びhd2のフーリエ変換である。
(【0012】〜【0015】、【図5】)」

[技術常識2](DFDにおける撮像手段及び画像信号について)
「DFDにおける撮像手段は、2つの撮像面位置で撮像対象を撮像して、それぞれの画像信号i(x,y)を取得するものであり、
画像信号i(x,y)は、画像上の位置座標(x,y)における輝度信号であること。」(【0024】〜【0025】)

(3)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 技術常識1を踏まえると、DFDは、画像のぼけ情報から被写体の距離を推定する方法であるから、引用発明の「DFD方式による距離推定方法」は、画像のぼけ情報から被写体の距離を推定する方法であることは自明である。
ここで、上記「被写体」は、本件補正発明の「少なくとも1つの物体(118)」に相当する。
また、本願明細書の段落【0015】には、「本明細書において、位置という用語は、物体および/または該物体の少なくとも一部の空間中での位置および/または方位に関する少なくとも1つの情報を表す。したがって、上記少なくとも1つの情報は、物体の少なくとも1つの点と少なくとも1つの検出器との間の少なくとも1つの距離を示唆していてもよい。より詳しく以下に概説する通り、この距離は、縦方向座標であってもよいし、物体の点の縦方向座標の決定に寄与するものであってもよい。」と記載されているから、本件補正発明の「少なくとも1つの物体(118)の位置」とは、物体と検出器との間の距離を意味する。
そうすると、上記「被写体の距離」は、本件補正発明の「少なくとも1つの物体(118)の位置」に相当し、上記「距離を推定する」ことは、本件補正発明の「位置を決定する」ことに相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「少なくとも1つの物体の位置を決定する方法」である点で一致する。

イ 引用発明の「多重フォーカス画像を取得する」ことは、本件補正発明の「少なくとも1つの検出ステップ」に相当し、引用発明の「画像のぼけ量の変化から距離推定を行」うことは、本件補正発明の「少なくとも1つの評価ステップ」に相当する。
よって、本件補正発明と引用発明は、「前記方法は、少なくとも1つの検出ステップおよび少なくとも1つの評価ステップを含み」という点で一致する。

ウ 引用発明は、「DFD方式による距離推定」を行うための検出装置の存在を当然の前提としているから、このような検出装置は、本件補正発明の「検出器(110)」に相当する。
引用発明の「多重フォーカス画像を取得する」「イメージセンサ」は、本件補正発明の「前記物体(118)から検出器(110)へと進む少なくとも1つの光線(150)」を「検出」する「前記検出器(110)の少なくとも1つの光学センサ(112)」に相当する。
また、技術常識2を踏まえると、DFDにおける撮像手段は、2つの撮像面位置で撮像対象を撮像して、それぞれの画像信号i(x,y)を取得するものであり、画像信号i(x,y)は、画像上の位置座標(x,y)における輝度信号であるところ、このような撮像手段は、xy平面上に2次元配列された画素を有していることは自明であるから、引用発明の「イメージセンサ」は、2次元イメージセンサであることは明らかであり、本件補正発明の「画素(154)の少なくとも1つのマトリクス(152)を有」する「前記少なくとも1つの光学センサ(112)」に相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明は、「前記少なくとも1つの検出ステップでは、前記物体から検出器へと進む少なくとも1つの光線が、前記検出器の少なくとも1つの光学センサにより検出され、前記少なくとも1つの光学センサが、画素の少なくとも1つのマトリクスを有し」という点で一致する。

エ 技術常識2を踏まえると、DFDの撮像手段により取得された画像信号i(x,y)は、xy平面上にある画素の位置(x,y)における輝度の大きさである。
また、技術常識1を踏まえると、DFDにおいては、物体表面上の点は撮像面上において錯乱円と呼ばれる円形に拡散した像を形成するから、引用発明の「錯乱円の中心を注目画素の中心とみなし」た「画像のぼけ量」は、注目画素の中心から円形に拡散した輝度の大きさの広がり具合を意味する。
したがって、引用発明の「画像のぼけ量」は、本件補正発明の「前記光線(150)により照射された前記光学センサ(112)の画素(154)の強度分布」に相当する。

オ 技術常識1を踏まえると、DFDにおいては、物体表面上の点の撮像面上において形成された観測画像i1は、拡散の状態を示す関数であるPSFを用いて(2)式で表される。

ここで、上記(2)式は、PSFである関数hd1と合焦画像i0を畳込演算(コンボリューション積分)することにより、観測画像i1が得られることを意味するから、観測画像i1の錯乱円(円形に拡散した像)は、PSFを用いて近似されているといえる。
そうすると、引用発明の「点広がり関数(PSF)が、積分値1で規格化されたガウス関数であると仮定」することは、「画像のぼけ量」を「ガウス関数」で近似することを意味するところ、このような「ガウス関数」で近似されたものは、「画像のぼけ量」を表す関数であるといえるから、本件補正発明の「前記強度分布を近似した少なくとも1つの強度分布関数」に相当する。

カ 引用発明の「錯乱円の中心を注目画素の中心とみなし、錯乱円の半径を標準偏差の3倍とした(全光量の99.7%が錯乱円内に投影されるとする)」ことは、「画像のぼけ量」を表すパラメータである「錯乱円の半径」と、「ガウス関数」の具体的関数形を規定するパラメータである「標準偏差」の関係を設定することを意味するから、このことは、本件補正発明の「前記強度分布を近似した少なくとも1つの強度分布関数を決定」することに相当する。
よって、上記エ及びオの検討内容も踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「前記光線により照射された前記光学センサの画素の強度分布が決定され」ることを含み、「前記強度分布を近似した少なくとも1つの強度分布関数を決定」することを含む点で一致する。

キ 引用発明の「イメージセンサ」は、「合焦面(POF)」に「正対」しており、技術常識2を踏まえると、xy平面上に2次元配列された画素を有しており、「イメージセンサ」が取得する「多重フォーカス画像」は、画像上の位置座標(x,y)における輝度信号であることは自明である。
ここで、上記xy平面は、本件補正発明の「前記光学センサ(112)の前記光軸(142)に垂直な平面」に相当し、上記画像上の位置座標(x,y)は、本件補正発明の「前記各画素(154)の横方向位置」に相当するから、上記画像上の位置座標(x,y)における輝度信号は、本件補正発明の「前記光学センサ(112)の前記光軸(142)に垂直な平面における前記各画素(154)の横方向位置の関数としての強度」に相当する。
また、技術常識1を踏まえると、DFDは、1つの撮像系から得た複数の画像から画像の奥行き情報を得る方法であるから、引用発明の「推定」される「距離」は、画像の奥行き情報であり、本件補正発明の「前記物体(118)の少なくとも1つの、光軸(142)に沿った縦方向座標」に相当する。
そして、引用発明の「画像のぼけ量の変化から距離推定を行」うことは、本件補正発明の「前記強度分布を用いることにより、前記物体(118)の少なくとも1つの、光軸(142)に沿った縦方向座標が決定され」ることに相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明は、「前記強度分布を用いることにより、前記物体の少なくとも1つの、光軸に沿った縦方向座標が決定され」ることを含み、「前記強度分布が、前記光学センサの前記光軸に垂直な平面における前記各画素の横方向位置の関数としての強度を含む」点で一致する。

ク 上記イ、カ及びキを踏まえると、本件補正発明と引用発明は、
「前記少なくとも1つの評価ステップでは、前記光線により照射された前記光学センサの画素の強度分布が決定され、前記強度分布を用いることにより、前記物体の少なくとも1つの、光軸に沿った縦方向座標が決定され、
前記強度分布を近似した少なくとも1つの強度分布関数を決定し、
前記強度分布が、前記光学センサの前記光軸に垂直な平面における前記各画素の横方向位置の関数としての強度を含む、」
という点で一致する。

上記ア〜クの検討内容をまとめると、本件補正発明と引用発明は、構成上すべての点で一致するから、本件補正発明は、引用文献6に記載された「DFD方式による距離推定方法」と構成上相違するところはない。
したがって、本件補正発明は、引用文献6に記載された発明である。

(4)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、次のア及びイの主張をしている。
ア「本願新請求項1に係る発明によれば、光学センサの画素の強度分布に基づいて、信頼性が高く、低コストの空間中の物体の位置を検出することができます。
ここで、画素の強度とは、光学センサ(CCDなど)が有する画素マトリクスの各画素の照射強度を表しており、強度分布は、図3A−3Cに記載のような光軸に垂直な平面における画素の横方向位置の関数としての強度を含みます。このような強度分布は1つの画像から得られ、すなわち、1つの画像からでも位置決定が可能です。」

イ 「引用文献6は、「画素の強度分布」、特に、「前記光学センサ(112)の前記光軸(142)に垂直な平面における前記各画素(154)の横方向位置の関数としての強度を含む」「強度分布」を記載も示唆もしません。
引用文献6の技術では、イメージセンサに対してレンズ主平面が傾けて配置されます(引用文献6の図2)。

イメージセンサで得られた画像について、画素の先鋭度(sharpness)曲線を推定し、これに基づいて距離推定が行われます。先鋭度dは下記式で与えられます:

(x、y:座標、l:輝度、i=0,1,2:合焦面位置)
たとえば下図左側の撮像画像(a)に上式(17)を適用して、下図(b)のd値出力が得られます。
(図面省略)
このように、引用文献6では、センサ面に対して傾いた光線が入射されるイメージセンサにおける、輝度に基づく画素の先鋭度dが用いられます。
したがって、引用文献6は、「画素の強度分布」の使用を記載しません。また、引用文献6では、あえて、一般的な光学系とは異なり、センサ平面に対して傾斜した光軸で光を照射しています(特に引用文献6の3.1項)。このことから、引用文献6において、一般的な光学系と同様に、光軸に対して垂直に光を照射するようにすることは、当業者にとって容易なものではないと思量いたします。
また、引用文献6では、3つの合焦面内(3つの画像)の先鋭度の推定が距離推定に必要です。これに対して、本願発明によれば、1つの平面内(すなわち1つの画像)の分布から距離を推定できます。
以上のことから、本願の新請求項1およびこれを引用する請求項2−13、18、20−27に係る発明は、引用文献6に記載された発明でも、引用文献6に記載された発明および引用文献7に記載の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないと思量いたします。本願の新請求項19に係る発明についても同様です。」

しかしながら、上記アの主張については、本件補正発明には、強度分布が1つの画像から得られ、1つの画像からでも位置決定が可能である旨の特定はないから、請求人の上記主張は、特許請求の範囲の記載から離れたところのものであって、採用することはできない。
また、上記イの主張は、引用文献6の「3.アオリ撮像と被写界深度を利用した距離推定」と「4.水平合焦面の被写界深度を用いた距離推定方式の提案」において開示された距離推定法についてのものであって、引用発明として認定した「DFD方式による距離推定方法」についてのものではないから、採用することはできない。

(5)小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2において説示したとおり却下されたので、本願の請求項1〜27に係る発明は、令和元年12月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜27に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項19に係る発明(以下「本願発明」という。)は次に特定されるとおりである。
「【請求項19】
少なくとも1つの物体(118)の位置を決定する方法であって、
前記方法は、少なくとも1つの検出ステップおよび少なくとも1つの評価ステップを含み、
前記少なくとも1つの検出ステップでは、前記物体(118)から検出器(110)へと進む少なくとも1つの光線(150)が、前記検出器(110)の少なくとも1つの光学センサ(112)により検出され、前記少なくとも1つの光学センサ(112)が、画素(154)の少なくとも1つのマトリクス(152)を有し、
前記少なくとも1つの評価ステップでは、前記光線(150)により照射された前記光学センサ(112)の画素(154)の強度分布が決定され、前記強度分布を用いることにより、前記物体(118)の少なくとも1つの、光軸(142)に沿った縦方向座標が決定され、
前記強度分布を近似した少なくとも1つの強度分布関数を決定する、
方法。」

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由2は、次のとおりである。
理由2
本願発明は、下記の引用文献6に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。



引用文献6:池岡 宏 外1名、水平合焦面の被写界深度の変化を利用した広範囲・実時間距離推定方式、映像情報メディア学会誌、映像情報メディア学会、2009年12月10日、Vol.64、No.3、405〜412頁(再掲)

3 引用文献に記載された事項
上記引用文献6には、前記第2の2(2)イ[引用発明]において認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
また、上記引用文献8から、前記第2の2(2)エ[技術常識1]及び[技術常識2]において認定したとおりの技術常識が認められる。

4 対比
本願発明は、本件補正発明の「前記強度分布が、前記光学センサ(112)の前記光軸(142)に垂直な平面における前記各画素(154)の横方向位置の関数としての強度を含む」という限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに他の構成を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2(3)において説示したとおり、技術常識1及び2を踏まえると、引用発明とすべての点で一致するから、本願発明も、同様に引用発明とすべての点で一致する。
すなわち、本願発明は、引用文献6に記載された「DFD方式による距離推定方法」と構成上相違するところはなく、引用文献6に記載された発明である。

第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 居島 一仁
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-07-19 
結審通知日 2021-07-26 
審決日 2021-08-12 
出願番号 P2016-518930
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01S)
P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 岸 智史
濱野 隆
発明の名称 少なくとも1つの物体を光学的に検出する検出器  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 永島 秀郎  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 森田 拓  
代理人 二宮 浩康  

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