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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1380509
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-08 
確定日 2021-11-18 
事件の表示 特願2016− 91571「スポーツ器具を解析するための方法、システム及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月16日出願公開、特開2017− 35452〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月28日(パリ条約による優先権主張2015年7月2日(以下「優先日」という。)、同年9月8日米国)の出願(外国語書面出願)であって、令和1年12月18日付けで拒絶理由が通知され、令和2年3月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年7月3日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年10月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 令和2年10月8日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年10月8日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和2年3月3日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1へと補正することを含むものである。(下線は当審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
コンピューティングデバイスであって、
命令を記憶するように構成されるコンピューター可読メモリと、
プロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
スポーツ器具の運動に応答して生成されたデータを受信する命令であって、前記データは前記スポーツ器具の前記運動の第1の特徴に関連する第1のデータを含む、命令と、
前記データを解析してスキル値を決定する命令と、
前記スキル値と、付加データ及びユーザデータの少なくとも一方とに基づいて少なくとも2つのスポーツ器具の群から推奨されるスポーツ器具を決定する命令と、
前記推奨されるスポーツ器具に関連する情報を送信する命令と、
を実行するように構成され、前記第1のデータは、前記スポーツ器具の前記運動中に該スポーツ器具上の第1の場所によって生成された軌道の少なくとも2つの異なる方向セグメント間の比較に基づく、コンピューティングデバイス。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
コンピューティングデバイスであって、
命令を記憶するように構成されるコンピューター可読メモリと、
プロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
スポーツ器具の運動に応答して生成されたデータを受信する命令であって、前記データは前記スポーツ器具の前記運動の第1の特徴に関連する第1のデータを含む、命令と、
前記データを解析してスキル値を決定する命令と、
前記スキル値と、付加データ及びユーザデータの少なくとも一方とに基づいて少なくとも2つのスポーツ器具の群から推奨されるスポーツ器具を決定する命令と、
前記推奨されるスポーツ器具に関連する情報を送信する命令と、
を実行するように構成され、前記第1のデータは、前記スポーツ器具の前記運動中に該スポーツ器具上の第1の場所によって生成された軌道の少なくとも2つの異なる方向セグメント間の比較に基づき、
前記付加データは、前記コンピューティングデバイスの場所に関連するデータ、気候条件、気象情報、気圧、芝条件、及び、湿度の少なくとも1つを含み、
前記ユーザデータは、ユーザの場所、年齢、性別、家系、国籍、身長、体重、腕丈、胴丈、体型、手首から地面までの長さ、前記ユーザの好み、前記ユーザによって現在又は過去に使用されたゴルフクラブ、前記ユーザのハンディキャップ、前記ユーザのプレイの頻度、及び、前記ユーザのプレイの場所の少なくとも1つを含む、コンピューティングデバイス。」

2 本件補正の適否について
本件補正により、本件補正前の発明特定事項である「付加データ」について、「前記付加データは、前記コンピューティングデバイスの場所に関連するデータ、気候条件、気象情報、気圧、芝条件、及び、湿度の少なくとも1つを含み」との限定を付加し、「ユーザデータ」について、「前記ユーザデータは、ユーザの場所、年齢、性別、家系、国籍、身長、体重、腕丈、胴丈、体型、手首から地面までの長さ、前記ユーザの好み、前記ユーザによって現在又は過去に使用されたゴルフクラブ、前記ユーザのハンディキャップ、前記ユーザのプレイの頻度、及び、前記ユーザのプレイの場所の少なくとも1つを含む」との限定を付加するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、本願の願書の最初に添付したものとみなされた明細書(外国語書面の翻訳文)の
「【0068】
データ224は付加データ234を更に含む。付加データ234は、コンピューティングデバイス210及び/又はセンサー252の場所に関連するデータを含むことができる。その場所は、グローバルポジショニングシステム(GPS)又は別の適切な位置特定デバイスを利用して求めることができる。付加データ234は、気候条件を含む、その場所に関連する気象情報を更に含むことができ、気象情報は、センサーデータ256b、センサー設定258b及び/又はスイングパラメーター233に要素の1つとして組み込むことができる。付加データ234は、センサーデータ256a/256bをより正確に記録するために、又は推奨エンジンにより多くのデータを与えるために、気圧、芝条件、湿度、及びセンサー設定258a/258bを更新するために手動で、又は動的に利用することができる他の情報を考慮に入れるように、スイングパラメーター233に要素の1つとして組み込まれる場合がある。
【0069】
データ224はユーザーデータ235を含む。ユーザーデータ235は場所、年齢、性別、家系、国籍、身長、体重、腕丈、胴丈、体型、手首から地面までの長さ、及び基準ゴルフクラブ250のユーザー202に関連する他のユーザーデータ235を含むことができる。ユーザーデータ235は、望ましい、又は望ましくないゴルフクラブタイプのような、ユーザー202の好みを更に含むことができる。ユーザーデータ235は、ユーザー202によって現在使用されているか、又は過去に使用されたゴルフクラブ、ユーザー202のハンディキャップ、及び/又はユーザー202のプレイの頻度及び場所のような、ユーザー202の履歴データを含むことができる。そのようなデータは、同じ、又は類似の解析プロセス又は装置を用いてユーザーに提供される、あらかじめ測定、計算及び/又は出力された情報を含むこともできる。幾つかの実施態様では、基準ゴルフクラブ250は、ユーザー202によってカスタマイズすることができるか、又はセンサー設定258bに含まれるのとは異なる特性を有することができる。そのような実施態様では、ユーザーデータ235は、長さ、ロフト及びライ特性を含む、基準ゴルフクラブ250の調整された特性のような、ユーザー202のカスタマイズ情報を更に含むことができる。センサーデータ256a/256bをより正確に記録するために、又は推奨エンジンにより多くのデータを与えるために、ユーザーデータ235を手動で、又は動的に利用して、センサー設定258a/258bを更新することができる。」
「【0097】
推奨エンジン225は、付加データ234を利用して、推奨されるゴルフクラブ228、シャフト231及びボール233を決定することができる。例えば、付加データ234が場所データを含む場合には、推奨エンジン225は、その場所において入手可能であるゴルフクラブ228、シャフト231及びボール233のみを推奨することができる。その場合、例えば、ユーザー202が米国に住んでいる場合には、推奨エンジン225は、データベース226から、米国において入手可能である商品のみを推奨することになる。別の例として、付加データ234が芝条件を含む場合には、推奨エンジン225は、それらの芝条件において良好な結果をもたらすボール233のみを推奨することができる。芝条件のそのような判断は、GPS又は他の送信された場所データを用いて決定されることになる地理的な場所の相関関係とすることができる。
【0098】
推奨エンジン225は、ユーザーデータ235を利用して、推奨されるゴルフクラブ228、シャフト231及びボール233を判断することができる。例えば、ユーザーデータ235がユーザー202の身長及び性別を含む場合には、推奨エンジン235は、その性別及び身長のユーザーに対して推奨されるゴルフクラブ228、シャフト231及びボール233のみを推奨することができる。例えば、ユーザー202がドロー又はフェードを補正するゴルフクラブ、又はウエイトインサートを備えないゴルフクラブを好むことを指定する場合には、推奨エンジン225は、ドロー及びフェードを補正することができ、及び/又はウエイトインサートを備えないゴルフクラブ228のみを推奨することができる。」
の記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

3 独立特許要件について
本件補正の目的が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1(2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由において引用され本願の優先日前の平成26年12月15日に頒布された特開2014−233420号公報(以下「引用例」という。)には、には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブの試打結果に基づく、試打者のスイング特性を示す複数種類の特性データを取得する特性データ取得手段と、
前記複数種類の特性データのうちの少なくとも1つの特性データに基づいて、予め類型化したスイングタイプの中から試打者のスイングタイプを判定する判定手段と、
前記複数種類の特性データのうちの少なくとも1つの特性データに基づいて、ゴルフクラブの構成部品を特徴づける特性値に関する試打者の推奨値を演算する演算手段と、
ゴルフクラブの構成部品と前記スイングタイプ及び前記特性値との対応関係を示す部品情報と、試打者の前記スイングタイプ及び前記推奨値とに基づいて、前記部品情報に含まれる構成部品の中から、推奨構成部品を選択する選択手段と、を備える、
ことを特徴とする選択支援装置。

【請求項5】
前記複数種類の特性データは、バックスイングとダウンスイングでのヘッドの軌跡の相違、及び、ダウンスイングとフォロースイングでのヘッドの軌跡の相違、の少なくともいずれか一方に関するデータを少なくとも含み、
前記判定手段は、前記軌跡の相違に関するデータに基づいて前記スイングタイプを判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の選択支援装置。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド、シャフトといったゴルフクラブの構成部品の選択支援技術に関する。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
市場に流通している構成部品の種類は多岐に渡っており、スイングタイプの区分けのみではゴルファーに適した部品の絞り込みが困難な場合がある。よって、ゴルファーに適した構成部品を効率的に推奨できる方法が要望されている。
【0005】
本発明の目的は、ゴルファーに適した構成部品を効率的に推奨できる仕組みを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、例えば、ゴルフクラブの試打結果に基づく、試打者のスイング特性を示す複数種類の特性データを取得する特性データ取得手段と、前記複数種類の特性データのうちの少なくとも1つの特性データに基づいて、予め類型化したスイングタイプの中から試打者のスイングタイプを判定する判定手段と、前記複数種類の特性データのうちの少なくとも1つの特性データに基づいて、ゴルフクラブの構成部品を特徴づける特性値に関する試打者の推奨値を演算する演算手段と、ゴルフクラブの構成部品と前記スイングタイプ及び前記特性値との対応関係を示す部品情報と、試打者の前記スイングタイプ及び前記推奨値とに基づいて、前記部品情報に含まれる構成部品の中から、推奨構成部品を選択する選択手段と、を備える、ことを特徴とする選択支援装置が提供される。」
エ 「【0009】<第1実施形態>
図1は本発明の一実施形態に係る選択支援装置1を適用した情報配信システム100の構成の説明図である。情報配信システム100は、選択支援装置1を情報配信サーバとしてゴルフクラブに関する情報を配信するシステムである。選択支援装置1は、ネットワーク2を介して携帯端末4やパソコン5と通信可能であり、携帯端末4やパソコン5からの要求を受信して、ゴルフクラブに関する情報をこれらに送信する。ネットワーク2は例えばインターネットである。
【0010】 選択支援装置1は、例えば、一般的なサーバコンピュータから構成され、CPU11、記憶部12及び通信インタフェース13を含む。記憶部12は、例えば、RAM、ROM、ハードディスク等である。CPU11は記憶部12に記憶されたプログラムを実行し、特に、後述するゴルフクラブの構成部品の選択支援に関する処理を実行する。通信インタフェース13はネットワーク2を介した他の装置(携帯端末4やパソコン5等)とのデータ通信を行うためのインタフェースである。
【0011】 記憶部12には、ゴルフクラブの構成部品に関する部品情報12aが蓄積されている。ゴルフクラブとしては、例えば、ドライバ等のウッド型のゴルフクラブ、ユーティリティ型(ハイブリッド型)のゴルフクラブ、アイアン型のゴルフクラブ、パター等の各種ゴルフクラブを挙げることができる。構成部品としては、例えば、ヘッド、シャフト、グリップ、フェルール等を挙げることができる。
【0012】 なお、この部品情報12aの全部又は一部は、ネットワーク2を介して通信可能なサーバ3に蓄積することも可能である。この場合、選択支援装置1はネットワーク2を介してサーバ3にアクセスし、部品情報12aを取得することが可能である。
【0013】 選択支援装置1は、ゴルフクラブの試打結果に基づく試打者のスイング特性に応じたゴルフクラブの構成部品の情報を提供する。スイング特性を計測するシステムとしては、どのような構成でもよいが、本実施形態では計測システムM1と計測システムM2とを例示する。
【0014】 計測システムM1は、携帯端末4とセンサ41とを含み、ゴルファーが個人的にスイング特性を計測するのに適したシステムである。携帯端末4は例えばスマートフォンであり、センサ41との近距離無線通信機能と、ネットワーク2を介した無線通信機能とを備える。センサ41は、ゴルフクラブ6に装着されてその3次元的な挙動を計測するセンサであり、例えば、9軸センサ(加速度3軸、角速度3軸、方位3軸)である。ゴルフクラブ6は、ヘッド61とシャフト62とを含み、センサ41は例えばシャフト62に装着される。ゴルファーは、練習場等で、センサ41を装着したゴルフクラブ6で試打を行う。すると、センサ41によりその挙動が計測され、計測結果としての複数種類の特性データがセンサ41から携帯端末4へ送信される。携帯端末4は受信した特性データをそのまま、或いは、選択支援装置1側で処理可能な所定の形式の特性データとする。
【0015】 計測システムM2は、パソコン5と複数の撮影装置51とを含み、ゴルフショップ等においてスイング特性を計測するのに適したシステムである。パソコン5は、撮影装置51が撮影した画像の処理機能と、ネットワーク2を介した無線通信機能とを備える。撮影装置51は例えばビデオカメラである。ゴルファーは試打室等でゴルフクラブ6で試打を行う。試打室等において複数の撮影装置51により試打者を多方向から撮影し、ゴルフクラブ6の3次元的な挙動が撮影される。撮影画像は特性データとしてパソコン5に取り込まれて解析され、選択支援装置1側で処理可能な所定の形式の複数種類の特性データとする。
【0016】 図2(A)は情報配信システム100における情報のやり取りを概説した図である。上述した計測システムM1又はM2において、ゴルフクラブの試打結果に基づく、試打者のスイング特性を示す特性データが計測される。携帯端末4或いはパソコン5は、例えば、選択支援装置1がネットワーク2上で提供するWebページにアクセスし、ゴルフクラブの推奨構成部品の情報の提供要求とともに計測した特性データを送信する。選択支援装置1は受信した特性データに基づいて推奨構成部品を選択し、その情報を要求元の携帯端末4或いはパソコン5に送信する。試打者は、携帯端末4或いはパソコン5において、試打者のスイング特性に応じたゴルフクラブの部品の情報が得られることになる。こうしてゴルファーの部品選択を支援することができる。」
オ 「【0018】 特性データとしては、ヘッドスピード、スイング距離差、スイング角度差、インパクトフェースアングル、インパクトゾーンにおけるヘッド軌道、インパクトゾーンにおけるフェース変化率等が挙げられる。ヘッドスピードは広く知られるように、打撃直前でのヘッドの速度であり、飛距離能力に関する試打者のスイング特性の指標となりえる。
【0019】 スイング距離差とスイング角度差とは、スイング中のヘッドの軌跡に関する特性である。図3(A)及び(B)はその一例の説明図である。同図に示すように、飛球線方向に沿う水平方向をY軸、Y軸と直交する水平方向をX軸、鉛直方向をZ軸とした仮想の3次元空間を想定する。なお、これらの座標軸設定は、例えば、テークバック直後のヘッドの移動方向をY軸方向として設定してもよい。
【0020】 スイング距離差は、例えば、図3(A)に示すように、スイング中のゴルフクラブ6のヘッド61の軌跡をY?Z平面に投影した場合における、バックスイングのヘッド6の軌跡BSとダウンスイングのヘッド6の軌跡DSとの相違D1と定義することができる。相違D1はY方向の最大相違距離である。相違D1が大きいほど、タメの効いたスイングであり、したがって、上級者である傾向にある。また、ヘッドスピードが速い傾向にある。
【0021】 スイング角度差は、例えば、図3(B)に示すように、スイング中のゴルフクラブ6のヘッド61の軌跡をX?Z平面に投影した場合における、フォロースイングのヘッド6の軌跡FSの水平面に対する角度θfsと、ダウンスイングのヘッド6の軌跡DSの水平面に対する角度θdsとの相違D2と定義することができる。角度θfsは、例えば、打撃位置Yと打撃位置Y1からY方向に所定距離だけヘッド61が進んだ位置とを結ぶ線分の水平面に対する角度とすることができる。同様に、角度θdsは、例えば、打撃位置Y1と打撃位置Y1からY方向に所定距離だけヘッド61が戻った位置とを結ぶ線分の水平面に対する角度とすることができる。
【0022】 相違D2がプラス側に大きいほど(角度θdsに対して角度θfsが大きいほど)、打球がフック傾向となる。逆にマイナス側に大きいほど(角度θdsに対して角度θfsが小さいほど)、打球がスライス傾向になる。」
カ 「【0030】 図2(B)に戻り、S2ではS1で取得した複数種類の特性データのうちの少なくとも1つの特性データに基づいて、予め類型化したスイングタイプの中から試打者のスイングタイプを判定する。本実施形態の場合、スイングタイプを4種類に分類しており、その評価指標をスイング距離差D1と、スイング角度差D2との2種類としている。
【0031】 図6(B)は4種類のスイングタイプの分類例の説明図である。同図では、スイング距離差D1を横軸、スイング角度差D2を縦軸とし、その2次元座標を4種類の領域Ra〜Rdに区分けして4種類のスイングタイプ(a〜d)に分類している。
【0032】 領域Raのスイングタイプaはスイング距離差D1が大きく、スイング角度差D2がプラス側に大きい。したがって、タメが大きくてドロー系のスイングタイプである。領域Rbのスイングタイプbはスイング距離差D1が小さく、スイング角度差D2がプラス側に大きい。したがって、タメが小さくてドロー系のスイングタイプである。領域Rcのスイングタイプcはスイング距離差D1が大きく、スイング角度差D2がマイナス側に大きい。したがって、タメが大きくてフェード系のスイングタイプである。領域Rdのスイングタイプdはスイング距離差D1が小さく、スイング角度差D2がマイナス側に大きい。したがって、タメが小さくてフェード系のスイングタイプである。」
キ 「【0041】
さて、本実施形態では、S1で取得した特性データを、所定の式に代入することにより、特性値に関する試打者の推奨値を演算する。ここでは、α及びβを係数として、以下の式1により推奨値を演算する。
式1 推奨値=特性データ×α+β
このような演算方式により、比較的簡易に推奨値を得ることができる。」

そうすると、上記アからキの記載事項より、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「CPU11、記憶部12及び通信インタフェース13から構成される選択支援装置1であって、
携帯端末4とセンサ41とを含む計測システムM1は、ゴルファーが、練習場等で、センサ41をシャフトに装着したゴルフクラブ6で試打を行うと、センサ41によりその挙動が計測され、計測結果としての複数種類の特性データがセンサ41から携帯端末4へ送信され、携帯端末4は受信した特性データをそのまま、或いは、選択支援装置1側で処理可能な所定の形式の特性データとするもので、
計測システムM1において、ゴルフクラブの試打結果に基づく、試打者のスイング特性を示す特性データが計測されると、携帯端末4は、計測した特性データを送信し、選択支援装置1は受信した特性データに基づいてゴルフクラブの推奨構成部品を選択し、その情報を要求元の携帯端末4に送信し、
前記特性データは、バックスイングとダウンスイングでのヘッドの軌跡の相違に関するデータであって、
前記判定手段は、前記軌跡の相違に関するデータに基づいて予め類型化したスイングタイプの中から試打者のスイングタイプを判定する判定手段と、
前記複数種類の特性データのうちの少なくとも1つの特性データに基づいて、ゴルフクラブの構成部品を特徴づける特性値に関する試打者の推奨値を演算する演算手段と、
ゴルフクラブの構成部品と前記スイングタイプ及び前記特性値との対応関係を示す部品情報と、試打者の前記スイングタイプ及び前記推奨値とに基づいて、前記部品情報に含まれる構成部品の中から、推奨構成部品を選択する選択手段と、を備える、
選択支援装置1。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア 後者の「選択支援装置1」、「記憶部12」、「CPU11」、「『ゴルフクラブ6で』の『試打』」、「センサ41によりその挙動が計測され、計測結果としての複数種類の特性データ」、「バックスイングとダウンスイングでのヘッドの軌跡」、「『特性データに基づいて』、『演算』された『推奨値』」、「コルフクラブの推奨構成部品」、「シャフト」、「バックスイングとダウンスイングでのヘッドの軌跡の相違に関するデータ」は、それぞれ、前者の「コンピューティングデバイス」、「命令を記憶するように構成されるコンピューター可読メモリ」、「プロセッサ」、「スポーツ器具の運動」、「スポーツ器具の運動に応答して生成されたデータ」、「スポーツ器具の運動の第1の特徴」、「『データを解析し』た『スキル値』」、「推奨されるスポーツ器具」、「スポーツ器具上の第1の場所」、「『軌道の少なくとも2つの異なる方向セグメント間の比較に基づ』く『第1のデータ』」に相当する。
イ 後者の「ヘッドの軌跡の相違に関するデータ」は、シャフトに装着したセンサ41から送信された特性データであるから、前者の「第1のデータ」と後者の「ヘッドの軌跡の相違に関するデータ」とは、「スポーツ器具の前記運動中に該スポーツ器具上の第1の場所によって生成された」ものとの点で一致する。
ウ 後者の「携帯端末4」は、計測した特性データを送信し、「選択支援装置1」は受信した特性データに基づいて、推奨値を演算するものであるから、「選択支援装置1」の「CPU11」は、特性データを受信する命令、及び推奨値を決定する命令を実行しているといえるから、前者の「プロセッサ」と、後者の「CPU11」とは、「データを受信する命令」と、「スキル値を決定する命令」とを実行する点で一致する。
エ 後者の「試打者のスイングタイプ」は、試打者のスイングを類型化したタイプの中から判定したものであって、ユーザ個人に係るデータといえるのであるから、前者の「ユーザデータ」に相当する。
そうすると、後者の「選択支援装置1」の「選択手段」は、試打者の前記スイングタイプ及び前記推奨値とに基づいて、前記部品情報に含まれる構成部品の中から、推奨構成部品を選択するものであるから、後者の「選択支援装置1」の「選択手段」は、「スキル値と、ユーザデータとに基づいて少なくとも2つのスポーツ器具の群から推奨されるスポーツ器具を決定する」ものといえる。そして、「選択支援装置1」の「選択手段」は、「選択支援装置1」の「CPU11」の構成要素であることは、情報処理装置における技術常識といえる事項であるから、前者の「プロセッサ」と、後者の「CPU11」とは、「スキル値と、ユーザデータとに基づいて少なくとも2つのスポーツ器具の群から推奨されるスポーツ器具を決定する命令」とを実行する点で一致する。
オ 後者の「選択支援装置1」は、「ゴルフクラブの推奨構成部品を選択し、その情報を要求元の携帯端末4に送信する」ものであって、後者の「選択支援装置1」の「CPU11」は、「ゴルフクラブの推奨構成部品の情報を要求元の携帯端末4に送信する」命令を実行しているといえるから、前者の「プロセッサ」と、後者の「CPU11」とは、「推奨されるスポーツ器具に関連する情報を送信する命令」とを実行する点で一致する。

したがって、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
[一致点]
「コンピューティングデバイスであって、
命令を記憶するように構成されるコンピューター可読メモリと、
プロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
スポーツ器具の運動に応答して生成されたデータを受信する命令であって、前記データは前記スポーツ器具の前記運動の第1の特徴に関連する第1のデータを含む、命令と、
前記データを解析してスキル値を決定する命令と、
前記スキル値と、ユーザデータとに基づいて少なくとも2つのスポーツ器具の群から推奨されるスポーツ器具を決定する命令と、
前記推奨されるスポーツ器具に関連する情報を送信する命令と、
を実行するように構成され、前記第1のデータは、前記スポーツ器具の前記運動中に該スポーツ器具上の第1の場所によって生成された軌道の少なくとも2つの異なる方向セグメント間の比較に基づく、コンピューティングデバイス。」

[相違点]
「ユーザデータ」が、本願補正発明は、「ユーザの場所、年齢、性別、家系、国籍、身長、体重、腕丈、胴丈、体型、手首から地面までの長さ、前記ユーザの好み、前記ユーザによって現在又は過去に使用されたゴルフクラブ、前記ユーザのハンディキャップ、前記ユーザのプレイの頻度、及び、前記ユーザのプレイの場所の少なくとも1つを含むもの」であるのに対し、引用発明の「スイングタイプ」である点。

(4)判断
上記相違点について、以下、検討する。
ゴルフクラブの構成部品の選択支援技術の分野において、ゴルフクラブフィッティングに際し、ユーザの「体型」を「ユーザデータ」として考慮することは、周知の技術手段といえる(例えば、特開2002−119621号公報(【0031】等参照。)及び特開2014−23751号公報(【0012】、【0031】、【0041】等参照。)。以下「周知の技術手段」という。)
してみると、引用発明において、ユーザデータといえる「スイングタイプ」に替えて、前記周知の技術手段を適用し、スキル値と、ユーザの体型とに基づいて少なくとも2つのスポーツ器具の群から推奨されるスポーツ器具を決定するようにし、上記相違点1に係る本願補正発明とすることは、当業者が容易になし得るものである。

また、本願補正発明の効果も、引用発明及び上記周知の技術手段から、当業者が予測し得る程度のものといえる。

したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、引用発明及び上記周知の技術手段から、当業者が容易に発明できた発明であって、特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反してされたものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年3月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
コンピューティングデバイスであって、
命令を記憶するように構成されるコンピューター可読メモリと、
プロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
スポーツ器具の運動に応答して生成されたデータを受信する命令であって、前記データは前記スポーツ器具の前記運動の第1の特徴に関連する第1のデータを含む、命令と、
前記データを解析してスキル値を決定する命令と、
前記スキル値と、付加データ及びユーザデータの少なくとも一方とに基づいて少なくとも2つのスポーツ器具の群から推奨されるスポーツ器具を決定する命令と、
前記推奨されるスポーツ器具に関連する情報を送信する命令と、
を実行するように構成され、前記第1のデータは、前記スポーツ器具の前記運動中に該スポーツ器具上の第1の場所によって生成された軌道の少なくとも2つの異なる方向セグメント間の比較に基づく、コンピューティングデバイス。」(以下「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献:特開2014−233420号公報

3 引用例
令和1年12月18日付けの拒絶理由通知に引用された引用例(上記引用文献:特開2014−233420号公報)の記載内容は上記「第2 3(2)引用例」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本願補正発明の「付加データ」について、「前記付加データは、前記コンピューティングデバイスの場所に関連するデータ、気候条件、気象情報、気圧、芝条件、及び、湿度の少なくとも1つを含み」との限定、及び「ユーザデータ」について、「前記ユーザデータは、ユーザの場所、年齢、性別、家系、国籍、身長、体重、腕丈、胴丈、体型、手首から地面までの長さ、前記ユーザの好み、前記ユーザによって現在又は過去に使用されたゴルフクラブ、前記ユーザのハンディキャップ、前記ユーザのプレイの頻度、及び、前記ユーザのプレイの場所の少なくとも1つを含む」との限定を省くものである。

そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 3(3)対比」での検討を勘案すると、両者は、以下の点で一致し、相違するところはない。
[一致点]
「コンピューティングデバイスであって、
命令を記憶するように構成されるコンピューター可読メモリと、
プロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
スポーツ器具の運動に応答して生成されたデータを受信する命令であって、前記データは前記スポーツ器具の前記運動の第1の特徴に関連する第1のデータを含む、命令と、
前記データを解析してスキル値を決定する命令と、
前記スキル値と、ユーザデータとに基づいて少なくとも2つのスポーツ器具の群から推奨されるスポーツ器具を決定する命令と、
前記推奨されるスポーツ器具に関連する情報を送信する命令と、
を実行するように構成され、前記第1のデータは、前記スポーツ器具の前記運動中に該スポーツ器具上の第1の場所によって生成された軌道の少なくとも2つの異なる方向セグメント間の比較に基づく、コンピューティングデバイス。」

したがって、本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記引用例に記載された発明である。


5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-08-31 
結審通知日 2021-09-07 
審決日 2021-09-28 
出願番号 P2016-091571
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A63B)
P 1 8・ 575- Z (A63B)
P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 古川 直樹
藤本 義仁
発明の名称 スポーツ器具を解析するための方法、システム及び装置  
代理人 杉本 弘樹  
代理人 立花 顕治  

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