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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01L
管理番号 1380599
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-30 
確定日 2021-12-02 
事件の表示 特願2017−78122号「磁気検出装置、トルクセンサ及び電動パワーステアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018−179701号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年4月11日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。

令和 2年 6月29日付け:拒絶理由通知書
同年 8月20日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 9月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同月15日:原査定の謄本の送達)
同年11月30日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和 3年 2月 1日 :上申書の提出

第2 令和2年11月30日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年11月30日にされた補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の概要
令和2年11月30日にされた特許請求の範囲についての補正(以下「本件補正」という。)は、以下の(1)に示される本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(2)に示される本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は、補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
磁気検出装置であって、
貫通部を有する基板と、
前記貫通部に重複して前記基板に支持される磁気検出部と、
前記貫通部及び前記磁気検出部を挟むように配置され、磁気発生部からの磁束を前記磁気検出部に誘導する一対の磁気誘導部と、
少なくとも一部が前記貫通部の内部に設けられる軟磁性部材と、を備えることを特徴とする
磁気検出装置。」

(2) 本件補正後
「【請求項1】
磁気検出装置であって、
貫通部を有する基板と、
前記貫通部に重複して前記基板に支持される磁気検出部と、
前記貫通部及び前記磁気検出部を挟むように互いに間隔を空けて配置され、磁気発生部からの磁束を前記磁気検出部に誘導する一対の磁気誘導部と、
少なくとも一部が前記貫通部の内部に設けられる軟磁性部材と、を備えることを特徴とする
磁気検出装置。」

2 本件補正についての当審の判断
本件補正は、請求項1において、本件補正前の「前記貫通部及び前記磁気検出部を挟むように配置され、磁気発生部からの磁束を前記磁気検出部に誘導する一対の磁気誘導部」の「配置」が、「前記貫通部及び前記磁気検出部を挟むように互いに間隔を空け」た「配置」であることに限定したものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、以下では、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか否か、について検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2) 引用文献等
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由において引用された特開2016−102672号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。
「【0014】
図2に示すように、トルクセンサ10は、入力軸11、出力軸12、トーションバー13、多極磁石15、磁気ヨーク16、および、磁気検出装置1等を備える。図2においては、後述するヨーク保持部材19、集磁リング保持部材25、および、基板保持部材31等を省略した。
トーションバー13は、一端側が入力軸11に、他端側が出力軸12に、それぞれ固定ピン14で固定され、入力軸11と出力軸12とを回転軸Oの同軸上に連結する。トーションバー13は、棒状の弾性部材であり、ステアリングシャフト92に加わるトルクを捩れ変位に変換する。
多極磁石15は、円筒状に形成され、入力軸11に固定される。多極磁石15は、N極とS極とが周方向に交互に着磁される。本実施形態では、N極およびS極の数は12対、計24極である。
【0015】
図2および図3に示すように、磁気ヨーク16は、樹脂等の非磁性材により形成されるヨーク保持部材19に保持され、多極磁石15が発生する磁界内に磁気回路を形成する。本実施形態では、磁気ヨーク16は、ヨーク保持部材19にインサート成形される。
磁気ヨーク16は、入力軸11側に設けられる第1ヨーク17および出力軸12側に設けられる第2ヨーク18を有する。第1ヨーク17および第2ヨーク18は、ともに軟磁性体により環状に形成され、多極磁石15の径方向外側にて、出力軸12に固定される。
第1ヨーク17は、リング部171および爪175を有する。爪175は、リング部171の内縁に沿って全周に等間隔で設けられる。第2ヨーク18は、リング部181および爪185を有する。爪185は、リング部181の内縁に沿って全周に等間隔で設けられる。」
「【0017】
図4〜図12に示すように、磁気検出装置1は、集磁ユニット20、および、センサユニット30を備える。
集磁ユニット20は、第1集磁部材としての第1集磁リング21、第2集磁部材としての第2集磁リング22、および、集磁部保持部材としての集磁リング保持部材25を有する。
図2、および、図3に示すように、集磁リング21、22は、磁気ヨーク16の径方向外側に配置され、磁気ヨーク16からの磁束を集める。第1集磁リング21は入力軸11側に設けられ、第2集磁リング22は出力軸12側に設けられる。第1集磁リング21および第2集磁リング22は、インサート成形等により、集磁リング保持部材25に保持される。
【0018】
図9等に示すように、第1集磁リング21は、軟磁性体で形成され、略環状に形成されるリング部211、および、リング部211から径方向外側に突出した2つの集磁部215から構成される。第2集磁リング22は、第1集磁リング21と同様、軟磁性体で形成され、略環状に形成されるリング部221、および、リング部221から径方向外側に突出した2つの集磁部225から構成される。本実施形態では、第1集磁リング21と第2集磁リング22とは、略同様の形状であり、集磁部215が「第1集磁部」に対応し、集磁部225が「第2集磁部」に対応する。
第1集磁リング21の集磁部215と、第2集磁リング22の集磁部225とは、対向する面が略平行となるように設けられる。集磁部215、225の間には、後述する磁気センサ45が配置される。
「【0024】
図8、図11および図12等に示すように、センサユニット30は、基板保持部材31、蓋部材32、配線部材35、基板40、および、磁気センサ45等を有し、センサユニット収容部253、258により形成されるユニット収容室に配置される。」
「【0028】
図9〜図16に示すように、基板40は、略矩形の平板状に形成され、穴部41が形成される。本実施形態では、穴部41は、外縁から離間して形成される。穴部41は、磁気センサ45の個数に応じて形成される。本実施形態では、穴部41は、略矩形状に、2つ形成される。
【0029】
また、基板40には、配線挿通孔42、および、固定孔43が形成される。配線挿通孔42には、配線部材35の基板接続部351が挿入され、はんだ等により電気的に接続される。固定孔43には、基板保持部材31の柱状部312が挿入され、熱かしめ等により固定される。これにより、基板40は、基板保持部材31に固定される。
基板40には、チップコンデンサ44、および、磁気センサ45が表面実装される。チップコンデンサ44は、ノイズ除去等に用いられる。」
「【0033】
図11、図13〜図15に示すように、磁気センサ45の基板40と反対側の面である素子表面451と対向する箇所には、第1集磁リング21の集磁部215が配置される。素子表面451と集磁部215との間には、接触しない程度の隙間G1が形成される(図13参照)。
また、穴部41には、第2集磁リング22の集磁部225が配置される。磁気センサ45の基板40側の面である素子裏面452と集磁部225との間には、接触しない程度の隙間G2が形成される(図13参照)。なお、隙間G1、G2は、等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
図23に示す参考例では、基板49には穴部41が形成されていないので、基板49と集磁部225との間には、接触しない程度の隙間G3を設ける必要がある。ここで、磁気センサ45の厚みをD1、基板の厚みをD2とすると、集磁部215、225間の距離である磁気回路ギャップGは、D1+D2+G1+G3となり、磁気センサを表面実装しない場合と比較し、基板49の厚みD2の分、大きくなり、漏れ磁束が増加する。
【0035】
そこで本実施形態では、基板40に穴部41を設け、穴部41に集磁部225を配置しているので、磁気回路ギャップGは、D1+G1+G2となる(図13参照)。すなわち、穴部41に集磁部225を配置することにより、図23に示す参考例と比較して基板の厚みD2の分、磁気回路ギャップGを小さくできるので、磁気センサを表面実装しない場合と同程度の磁気回路を形成できる。」
「【図2】


「【図8】


「【図9】


「【図10】


「【図11】


「【図13】


「【図23】



引用発明の認定
上記アの記載内容を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「入力軸11、出力軸12、トーションバー13、多極磁石15、磁気ヨーク16、および、磁気検出装置1等を備えるトルクセンサ10の磁気検出装置1であって、(【0014】)
磁気ヨーク16は、多極磁石15が発生する磁界内に磁気回路を形成し、
(【0015】)
磁気検出装置1は、集磁ユニット20、および、センサユニット30を備え、
集磁ユニット20は、第1集磁部材としての第1集磁リング21、第2集磁部材としての第2集磁リング22、および、集磁部保持部材としての集磁リング保持部材25を有し、
集磁リング21、22は、磁気ヨーク16の径方向外側に配置され、磁気ヨーク16からの磁束を集めるものであり、(【0017】)
第1集磁リング21は、軟磁性体で形成され、略環状に形成されるリング部211、および、リング部211から径方向外側に突出した2つの集磁部215から構成され、
第2集磁リング22は、第1集磁リング21と同様、軟磁性体で形成され、略環状に形成されるリング部221、および、リング部221から径方向外側に突出した2つの集磁部225から構成され、
第1集磁リング21の集磁部215と、第2集磁リング22の集磁部225とは、対向する面が略平行となるように設けられ、
集磁部215、225の間には、磁気センサ45が配置され、
(【0018】)
センサユニット30は、基板40、および、磁気センサ45等を有し、
(【0024】)
基板40は、略矩形の平板状に形成され、穴部41が磁気センサ45の個数に応じて形成され、(【0028】)
基板40には、磁気センサ45が表面実装され、(【0029】)
磁気センサ45の基板40と反対側の面である素子表面451と対向する箇所には、第1集磁リング21の集磁部215が配置され、
素子表面451と集磁部215との間には、接触しない程度の隙間G1が形成され、
穴部41には、第2集磁リング22の集磁部225が配置され、
磁気センサ45の基板40側の面である素子裏面452と集磁部225との間には、接触しない程度の隙間G2が形成され、(【0033】)
穴部41に集磁部225を配置することにより、磁気回路ギャップGを小さくできる、(【0035】)
磁気検出装置1。」

ウ 引用文献2
(ア) 原査定の拒絶の理由において引用された実願昭49−31393号(実開昭50−120374号)のマイクロフィルム(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。
(明細書3頁4行〜4頁下から2行)
「本考案は、上記欠点を解決したもので以下一実施例を第3図について詳細に説明する。図において(2)は絶縁基板例えばセラミック基板で中央部に開口が設けられ、この開口に収束用のフェライト基板(8)が嵌着されている。
(9)(9)はセラミック基板(2)表面に蒸着或いは印刷等の方法により形成された金属薄膜である。(1)はフェライト基板(8)上部に配置された磁気抵抗効果素子で、金属薄膜(9)(9)と接続されている。磁気抵抗効果素子(1)はフェライト基板(9)に接着樹脂(3)で接着された状態で作製され、完成した素子(1)はフェライト基板(9)とともにセラミック基板(2)に逆様に載置されフェイスダウンボンデイングにより金属薄膜(9)(9)と接続される。(6)は、セラミック基板(2)表面の素子(1)周囲にモールドされた封止樹脂である。(4)(4)はセラミック基板(2)端部において金属薄膜(9)(9)に接続されるリード線である。この様な構造の磁気抵抗効果装置では、素子(1)と、リード線(4)(4)との間に金属薄膜(9)(9)が介在するためリード線(4)(4)が受ける熱及び物理的変形が素子(1)に伝わりにくく、また素子(1)と金属薄膜(9)(9)の接続部はセラミック基板(2)(2)とフェライト基板(9)との間に挟み込まれているため外気の影響を受けにくい。さらにセラミック基板(2)を充分大きくすれば素子(1)の厚みを増すことなく封止樹脂(6)を充分大きくすることができ、耐久性を著るしく向上させることができる。また、一般に磁気抵抗効果装置は、リード線(4)(4)の取出しが比較的難しいが、本考案によれば、セラミック基板(2)にリード線(4)(4)を取付けるため、この作業が容易となる。さらに、素子(1)の下部に収束用フェライト基板(8)及び上部にフェライト基板(9)を配置した構造であるので、装置の感度を向上させることができる。さらに、セラミック基板(2)の代りにアルミナ等の熱伝導性の良い材料を使用すれば素子(1)に生じた熱を効率良く放熱させることができるため出力を大きくすることができる。」



(イ) 上記摘記事項から、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる(以下「引用文献2記載事項」という。)
[引用文献2記載事項]
「磁気抵抗効果装置において、
セラミック基板(2)の中央部に開口が設けられ、この開口に収束用のフェライト基板(8)が嵌着されており、
フェライト基板(8)上部に磁気抵抗効果素子(1)が配置され、
磁気抵抗効果素子(1)の下部に収束用フェライト基板(8)及び上部にフェライト基板(9)を配置した構造であるので、装置の感度を向上させることができること。」

エ 引用文献3
当審が新たに引用する特開2008−249366号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。
「【0018】
本発明に係るトルク検出装置は、トーションバー3により連結された2つの軸(第1軸1及び第2軸2)に加えられる回転トルクを検出対象としており、第1軸1と一体的に回転する円筒磁石4と、第2軸2と一体的に回転する2個一組のヨークリング5a,5bと、ヨークリング5a,5bの外側を各別に囲繞するように配置され、夫々のヨークリング5a,5b内に生じる磁束を集める集磁リング6,6と、これらの集磁リング6,6間に配設された磁気センサ7,7とを備えて構成されている。」
「【0027】
このようにヨークリング5a,5bに発生した磁束は、集磁リング6,6に導かれ、集磁突起60,60に集まり、この集磁突起60,60間に漏れ出す。この漏れ出した磁束の密度は、集磁突起60,60の対向部間に配した磁気センサ7,7により検出される。この検出結果を用いて、第1軸1と第2軸2との間の相対角変位、即ち第1軸1及び第2軸2に加えられる回転トルクを求めることができる。」
「【0030】
図4は、集磁突起60,60近傍の拡大図であり、図4(a)は、磁気センサ7取付け前の状態を、図4(b)は、磁気センサ7取付け後の状態を夫々示している。磁気センサ7は、磁界によって電流の向きが曲げられることにより磁界及び電流の向きに直交する方向に電圧が生じるというホール効果を利用したホール素子である検出部7aと、検出部7aの出力電圧を増幅する増幅アンプとを一体的に備え、これらを外装材により覆ってなる公知のホールICである。
【0031】
図4(b)に示すように、集磁突起60,60の対向部間には、磁気センサ7の検出部7aが位置しており、この検出部7aを挟んで対向する集磁突起60,60及び磁気センサ7の対向面間には、磁性を有する磁性材9,9が介装してある。
【0032】
以上の構成により、集磁突起60,60の先端に集束された磁束は、磁性材9,9を経て磁気センサ7に導かれる。磁性材9,9が磁性を有するから、集磁突起60,60の先端に集束された磁束は、周りに殆ど漏れ出すことなく、磁性材9,9が当接している磁気センサ7を通ることとなる。この結果、検出部7aを通る磁束が増加するから、磁気センサ7により検出された磁束密度から前記相対角変位を求めることにより、高精度の回転トルクの検出が可能となる。
【0033】
磁性材9,9として、例えば、フェライト粉末等の軟磁性体製の粉末を混入したグリス又は硬化性樹脂を用いることができる。このような磁性材9,9は、図4(a)に示すように、磁気センサ7の検出部7aを挟む両面に塗布した後に、白抜き矢符にて示すように、装着孔80にホルダ70を差し込み、集磁突起60,60の対向部間に磁気センサ7を位置させることにより、集磁突起60,60と磁気センサ7との間に容易に介装することができる。このように、磁気センサ7の集磁突起60,60の対向部間への組み付けは、磁気センサ7に磁性材9,9を塗布した後に、ホルダ70をハウジング8に取付けることにすることができ、磁気センサ7を容易に組み付けることができる。
【0034】
磁性材9,9として硬化性樹脂を用いる場合、ホルダ70をハウジング8に取付けた後に、加熱又は紫外線照射により硬化性樹脂を硬化させる。この結果、高温状態になる又は振動が加えられる使用環境下においても、集磁リング6,6の集磁突起60,60と磁気センサ7,7との間における磁性材9,9の保持状態を維持することができ、安定的に高精度の回転トルクの検出が可能となる。」
「【図2】


「【図4】



オ 技術常識の認定
引用文献3記載事項から、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識A」という)。
[技術常識A]
「集磁する部材と磁気センサの間の空間に、フェライト粉末等の軟磁性体を含む磁性材を介装すると、磁束を周囲にほとんど漏れ出させることなく導くことができ、検出部を通る磁束が増加して高精度の検出が可能となること。」

(3) 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「磁気検出装置1」は、本件補正発明の「磁気検出装置」に相当する。

イ 引用発明の「基板40」は、本件補正発明の「基板」に相当する。また、「穴部41」には、「第2集磁リング22の集磁部225が配置」され、「磁気センサ45の基板40側の面である素子裏面452と集磁部225との間には、接触しない程度の隙間G2が形成」されることから、「磁気センサ45の基板40側の面である素子裏面452と集磁部225との間」に基板は存在せず、引用発明の「穴部41」の「穴」は、「基板」を貫通する「穴」であるといえる。よって、引用発明「穴部41」は、本件補正発明の「貫通部」に相当する。
そうすると、引用発明の「穴部41」が「形成」された「基板40」は、本件補正発明の「貫通部を有する基板」に相当する

ウ 引用発明の「磁気センサ45」は、本件補正発明の「磁気検出部」に相当する。また、引用発明の「磁気センサ45」は、「基板40」に「表面実装され」ているから、本件補正発明の「前記基板に支持される磁気検出部」に相当する。
そして、引用発明では、「穴部41が磁気センサ45の個数に応じて形成され」、「集磁部215、225の間には、磁気センサ45が配置され」、「穴部41」には「集磁部225が配置され」ているところ、このような配置における「磁気センサ45」と「穴部41」の相対的位置関係は、本件補正発明の「磁気検出部」が「前記貫通部に重複して」いることに相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明は、「前記貫通部に重複して前記基板に支持される磁気検出部」を備える点で一致する。

エ 引用発明の「磁界」を「発生」する「多極磁石15」は、本件補正発明の「磁気発生部」に相当する。
引用発明では、「磁気ヨーク16は、多極磁石15が発生する磁界内に磁気回路を形成し」、「集磁リング21、22は、磁気ヨーク16の径方向外側に配置され、磁気ヨーク16からの磁束を集めるものであり」、「第1集磁リング21の集磁部215と、第2集磁リング22の集磁部225とは、対向する面が略平行となるように設けられ、集磁部215、225の間には、磁気センサ45が配置され」、「磁気センサ45の基板40と反対側の面である素子表面451と対向する箇所には、第1集磁リング21の集磁部215が配置され」、「穴部41には、第2集磁リング22の集磁部225が配置され」ている。
したがって、引用発明の「集磁部215」と「集磁部225」は全体として、本件補正発明の「磁気発生部からの磁束を前記磁気検出部に誘導する一対の磁気誘導部」に相当する。
また、引用発明では、「磁気センサ45の基板40と反対側の面である素子表面451と対向する箇所には、第1集磁リング21の集磁部215が配置され」、「素子表面451と集磁部215との間には、接触しない程度の隙間G1が形成され」、「磁気センサ45の基板40側の面である素子裏面452と集磁部225との間には、接触しない程度の隙間G2が形成され」ているから、引用発明の「集磁部215」と「集磁部225」は全体として、本件補正発明の「前記磁気検出部を挟むように互いに間隔を空けて配置され」た「一対の磁気誘導部」に相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明は、「前記磁気検出部を挟むように互いに間隔を空けて配置され、磁気発生部からの磁束を前記磁気検出部に誘導する一対の磁気誘導部」を備える点で共通する。

(4) 一致点及び相違点
前記(3)の対比分析の内容をまとめると、本件補正発明と引用発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点において相違する。
[一致点]
「磁気検出装置であって、
貫通部を有する基板と、
前記貫通部に重複して前記基板に支持される磁気検出部と、
前記磁気検出部を挟むように互いに間隔を空けて配置され、磁気発生部からの磁束を前記磁気検出部に誘導する一対の磁気誘導部と、を備える
磁気検出装置。」

[相違点]
本件補正発明においては、「磁気発生部からの磁束を前記磁気検出部に誘導する一対の磁気誘導部」が「前記貫通部及び前記磁気検出部を挟むように互いに間隔を空けて配置され」ており、また、「少なくとも一部が前記貫通部の内部に設けられる軟磁性部材」を備えるのに対して、引用発明においては、「集磁部225」は「穴部41」に「配置」されており、「集磁部215」と「集磁部225」は全体として「穴部41」を挟むように互いに間隔を空けて配置されているとはいえず、また、「穴部41」の内部に軟磁性部材が設けられていない点。

(5) 判断
上記相違点について検討する。
ア 引用文献2記載事項には、セラミック基板(2)の中央部に設けられた開口に収束用のフェライト基板(8)が嵌着され、磁気抵抗効果素子(1)がフェライト基板(8)の上部に配置されることが開示されている(前記(2)ウ(イ)参照)。

イ また、「集磁する部材と磁気センサの間の空間に、フェライト粉末等の軟磁性体を含む磁性材を介装すると、磁束を周囲にほとんど漏れ出させることなく導くことができ、検出部を通る磁束が増加して高精度の検出が可能となること」は、技術常識である(前記(2)オの「技術常識A」参照)。

ウ 技術常識Aを考慮すると、引用文献2記載事項の「収束用のフェライト基板(8)」は、磁束を周囲にほとんど漏れ出させることがないように磁束を磁気抵抗効果素子(1)に導くための軟磁性体の部材であることは、当業者にとっては自明である。

エ ここで、引用発明において、集磁部225を穴部41に配置しているのは「磁気回路ギャップGを小さく」するためであるが、磁束が周りに殆ど漏れ出すことないようにして検出精度を向上させるための手段として、引用発明のように磁気回路のギャップを小さくすることと、引用文献2記載事項のよう磁性材料を用いて周囲に漏れ出さないように導くことは、均等手段であって、いずれも当業者が適宜選択できる設計事項にすぎない。

オ したがって、検出精度の向上のために、引用発明において、磁気回路のギャップを小さくすることに代えて、引用文献2に記載された磁束を周囲にほとんど漏れ出させることがないように磁束を導くための軟磁性体の部材を採用して、集磁部225が穴部41から離れて配置されるともに、穴部41の内部に磁束収束手段としての軟磁性体部材を設けることにより、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本件補正発明の奏する効果は、引用発明、引用文献2記載事項及び技術常識Aから予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものは認められない。

カ よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び技術常識Aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6) 請求人の主張について
ア 請求人の主張
(ア) 請求人は、審判請求書において次の主張をしている(下線は当審が付した。以下同様である。)。
「しかしながら、令和2年8月20日付で提出した意見書に記載した通り、引用文献1に引用文献2を適用することに阻害要因があります。具体的には、引用文献1の課題(目的)は、基板の穴部に集磁部を配置することにより磁気回路ギャップGを小さくすると共に部品点数を低減することにあります(引用文献1の段落0004,0007及び0047等参照)。引用文献2では、セラミック基板2’の開口にフェライト基板8が嵌着されています。そのため、引用文献1に引用文献2を適用した場合には、引用文献1における基板40の穴部41に引用文献2のフェライト基板8が嵌着されることになり、引用文献1の集磁部225を基板40の穴部41に配置することができなくなります。したがって、引用文献1に引用文献2を適用すると、引用文献1の「基板の穴部に集磁部を配置することにより磁気回路ギャップGを小さくすると共に部品点数を低減する」との目的を達成できなくなります。」
「加えて、本願発明1の課題は、磁気検出装置の検出感度を高めつつ組立性を向上させることにあります(段落0005,0062等参照)。具体的には、引用文献1に開示された磁気検出装置1では、磁気検出装置を組立てる際に、集磁部225と基板40の穴部41との位置を高い精度で合わせて穴部41へ集磁部225を挿入する必要があり、組立が困難です。本願発明1は、このような課題に鑑みてなされたものであり、磁気検出装置の検出感度を高めつつ組立性を向上させることを目的としています。引用文献1,2のいずれにも本願発明1の課題は開示されていません。本願発明1では、貫通部及び磁気検出部を挟むように間隔を空けて配置された一対の磁気誘導部の間における磁気ギャップを貫通部に軟磁性部材を設けることにより狭めて課題を解決しているところ、このような技術的思想は開示も示唆もされていません。」

(イ) 請求人は、令和3年2月1日に提出された上申書において次の主張をしている。
「引用文献1の段落0070及び0071に挙げられている部品、すなわち磁気センサ、磁気検出素子及び演算部は、磁気検出精度に関係するものではありません。したがって、引用文献1の段落0070及び0071の記載からは、磁気検出精度に関係しない部品の点数の増加につながるような事項を否定していないことが理解できるだけに過ぎません。引用文献1の他の段落を参照しても、磁気検出精度に関係する部品の点数の増加につながるような示唆はないため、磁気検出精度に関係する部品の点数の増加につながるような事項を行うことは、引用文献1の目的に反します。」

イ 請求人の主張について
(ア) 磁束漏れを防いで検出感度を高めるために、磁気ギャップを小さくすることや磁束を収束させることは、均等手段であり、互いに置換可能な手段であることは、当業者には明らかである。
また、検出精度に関係する部品の点数を低減、又は、増加させることは、求められる検出精度のレベル、装置全体のサイズ、製作コスト等を考慮して当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎない。
したがって、引用文献1において、磁気回路ギャップGを小さくするとともに部品点数を低減することは、変更修正を全く許さないほどの至上命題であるとは認められないから、引用文献1に引用文献2を適用すると引用文献1の目的を達成できなくなる旨の請求人の主張は、採用することはできない。

(イ) また、磁気検出装置の検出感度を高めつつ組立性を向上させるという効果は、引用文献3の段落【0032】及び【0033】に記載されており、本件補正発明が奏するものとして、当業者にとって予測困難なものではない。

(ウ) なお、引用文献1の段落【0034】及び【図23】には、基板49に穴部41が形成されていない参考例として、基板49と集磁部225との間に接触しない程度の隙間G3が設けられた磁気検出装置が開示されており、磁束漏れを防ぐために、引用文献2記載事項及び技術常識Aを適用して、基板49に貫通部を設け当該貫通部の内部に軟磁性部材を設けるようにして、本願発明(本件補正発明)のごとく構成することは当業者が容易に想到し得たことである。この場合には、請求人の上記主張があてはまらないから、いずれにしても前記(5)の結論が左右されることはない。

(7) 小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2において説示したとおり却下されたので、本願の請求項1〜8に係る発明は、令和2年8月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められる。そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記1(2)の本件補正前の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由は、次のとおりである。
本願発明は、下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開2016−102672号公報(再掲)
引用文献2:実願昭49−31393号(実開昭50−120374号)のマイクロフィルム(再掲)

3 引用文献に記載された事項
上記引用文献1には、[引用発明]において認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる(第2の2(2)イを参照。)。
上記引用文献2から、[引用文献2記載事項]において認定したとおりの技術事項がそれぞれ認められる(第2の2(2)ウ(イ)を参照。)。
上記引用文献3記載事項から、[技術常識A]において認定したとおりの技術常識が認められる(第2の2(2)オを参照。)。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「前記貫通部及び前記磁気検出部を挟むように互いに間隔を空けて配置され、磁気発生部からの磁束を前記磁気検出部に誘導する一対の磁気誘導部」において、「互いに間隔を空け」たという限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに他の構成を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の2において説示したとおり、引用発明、引用文献2記載事項及び技術常識Aに基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、引用発明、引用文献2記載事項及び技術常識Aに基づいて当業者が容易に発明することができたものである。


第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-09-30 
結審通知日 2021-10-05 
審決日 2021-10-18 
出願番号 P2017-078122
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01L)
P 1 8・ 121- Z (G01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 濱野 隆
清水 靖記
発明の名称 磁気検出装置、トルクセンサ及び電動パワーステアリング装置  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  

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