• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1380609
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-03 
確定日 2021-11-26 
事件の表示 特願2017−547114「単一自由度の心腔セグメント化による心臓性能の超音波診断」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月15日国際公開、WO2016/142183、平成30年 3月22日国内公表、特表2018−507738〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)2月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年3月10日 米国、同年3月10日 米国、同年3月30日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成31年2月22日に手続補正書が提出され、令和元年12月11日付けで拒絶理由が通知され、令和2年6月17日に意見書が提出され、同年7月27日付けで拒絶査定されたところ、同年12月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和2年12月3日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和2年12月3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

「 【請求項1】
超音波画像において心臓の内腔の境界を決定する超音波診断イメージングシステムであって、
心臓画像データのソースと、
前記心臓画像データに応答する境界検出プロセッサであって、前記心臓画像データにおいて心筋の少なくとも内側境界及び外側境界を識別する境界検出プロセッサと、
ユーザが、前記内側境界及び前記外側境界に対しユーザ規定される心腔境界を示すことを可能にするユーザ制御器と、
前記ユーザ制御器及び前記境界検出プロセッサに結合される心腔境界描出器であって、前記心臓画像データにおいて、前記境界検出プロセッサによって識別された前記内側境界及び前記外側境界の少なくとも一方に対し、前記ユーザ規定される心腔境界を位置付ける、心腔境界描出器と、
を有し、
前記ユーザ制御器は、前記ユーザ規定される心腔境界の位置について、百分率として較正される、単一自由度変数を調整するように更に構成され、前記単一自由度変数は、前記内側境界からの前記ユーザ規定される心腔境界のオフセットと前記外側境界から前記内側境界までの距離との間の関係であり、
前記境界検出プロセッサは、半自動の心臓境界画像プロセッサを更に有し、
前記半自動の心臓境界画像プロセッサは、前記ユーザ制御器に結合され、更に、心臓画像における一つ又はそれより多くのランドマークに応答し、
前記境界検出プロセッサは、前記ユーザ入力されるか、又は前記境界検出プロセッサによって自動的に識別される前記一つ又はそれより多くのランドマークにフィットされる既定のテンプレートを選択し、前記内側境界及び/又は前記外側境界として前記テンプレートを提供する、
超音波診断イメージングシステム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成31年2月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
超音波画像において心臓の内腔の境界を決定する超音波診断イメージングシステムであって、
心臓画像データのソースと、
前記心臓画像データに応答する境界検出プロセッサであって、前記心臓画像データにおいて心筋の少なくとも内側境界及び外側境界を識別する境界検出プロセッサと、
ユーザが、前記内側境界及び前記外側境界に対しユーザ規定される心腔境界を示すことを可能にするユーザ制御器と、
前記ユーザ制御器及び前記境界検出プロセッサに結合される心腔境界描出器であって、前記心臓画像データにおいて、前記境界検出プロセッサによって識別された前記内側境界及び前記外側境界の少なくとも一方に対し、前記ユーザ規定される心腔境界を位置付ける、心腔境界描出器と、
を有し、
前記ユーザ制御器は、前記ユーザ規定される心腔境界の位置について、百分率として較正される、単一自由度変数を調整するように更に構成され、前記単一自由度変数は、前記内側境界からの前記ユーザ規定される心腔境界のオフセットと前記外側境界から前記内側境界までの距離との間の関係である、
超音波診断イメージングシステム。」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「境界検出プロセッサ」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献等

ア 引用文献1について

(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1:特開2010−259656号公報には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている(下線は当審で付与したものである。以下、同様。)。

(引1ア)
「【0015】
図1は本実施形態に係る超音波診断装置100のブロック図である。
【0016】
超音波診断装置100は、装置本体11に、超音波プローブ12、入力装置13およびモニタ14を接続して構成される。装置本体11はさらに、送受信ユニット21、Bモード処理ユニット22、ドプラ処理ユニット23、画像生成回路24、画像メモリ25、制御プロセッサ(CPU)26、内部記憶装置27、ソフトウェア格納部28、画像解析部29およびインタフェース部30を含む。
【0017】
超音波プローブ12は、圧電セラミック等の音響/電気可逆的変換素子としての圧電振動子を複数有する。複数の圧電振動子は並列され、超音波プローブ12の先端に装備される。超音波プローブ12は、送受信ユニット21からの駆動信号に基づき超音波を発生し、被検体Pからの反射波を電気信号(エコー信号)に変換する。
【0018】
入力装置13は、オペレータからの各種条件や関心領域(ROI)などの指定を入力する。入力装置13は、例えば各種スイッチ、ボタン、トラックボール、マウス、キーボード、あるいはタッチコマンドスクリーン等の周知の入力デバイスを適宜に含み得る。
【0019】
モニタ14は、画像生成回路24からの画像信号が表す画像を表示する。モニタ14としては、例えば液晶表示器やCRT(cathode-ray tube)などの周知の表示装置を利用できる。
【0020】
送受信ユニット21は、トリガ発生回路、遅延回路およびパルサ回路等を内蔵してる。パルサ回路は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。遅延回路は、チャンネル毎に超音波をビーム状に集束し、かつ送信指向性を決定するのに必要な遅延を各レートパルスに与える。トリガ発生回路は、このレートパルスに基づくタイミングでパルスが生じる駆動信号を超音波プローブ12に出力する。また送受信ユニット21は、アンプ回路、A/D変換器および加算器等を内蔵している。アンプ回路は、超音波プローブ12から出力されたエコー信号をチャンネル毎に増幅する。加算器は、各チャネルのエコー信号に受信指向性を決定するのに必要な遅延を個別に与え、その後に加算する。この加算により、エコー信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的なビームが形成される。送受信ユニット21は、合成後のエコー信号をBモード処理ユニット22およびドプラ処理ユニット23に送る。
【0021】
Bモード処理ユニット22は、対数変換器、包絡線検波回路およびアナログディジタル(A/D)コンバータ等を内蔵している。対数変換器は、エコー信号を対数変換する。包絡線検波回路は、対数変換器からの出力信号の包絡線を検波する。アナログディジタルコンバータは、包絡線検波回路による検波信号をディジタル化し、検波データとして出力する。
【0022】
ドプラ処理ユニット23は、エコー信号から速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワー等の血流情報を多点について求め、この血流情報を出力する。
【0023】
画像生成回路24は、Bモード処理ユニット22から出力された検波データに基づいて、フレーム相関や座標変換などの空間的分布情報を演算し、この空間的分布情報を表す超音波診断画像を生成する。また画像生成回路24は、ドプラ処理ユニット23から出力された血流情報に基づいて、平均速度画像、分散画像、パワー画像、あるいはこれらの組み合わせ画像を超音波診断画像として生成する。画像生成回路24は、これらの超音波診断画像を画像メモリ25に表示画像として展開する。そして画像生成回路24は、画像メモリ25に展開された表示画像を表す画像信号をモニタ14へ出力する。
【0024】
画像メモリ25は、モニタ14に表示するための表示画像のデータを展開した状態で記憶する。
【0025】
制御プロセッサ26には、バスを介して送受信ユニット21、画像メモリ25、内部記憶装置27、ソフトウェア格納部28、画像解析部29およびインタフェース部30が接続されている。制御プロセッサ26は、内部記憶装置27に記憶された装置制御プログラムに従って動作することにより、次のような各種の機能を実現する。この機能の1つは、既存の超音波診断装置が備える各種の機能を実現するように超音波診断装置100の各部を制御する。上記の機能の1つは、例えば入力装置13を操作してのユーザ指示に応じて補正率を設定する。上記の機能のもう1つは、ユーザ指示に応じての補正率の設定を考慮して標準的な補正率を更新する。
【0026】
内部記憶装置27は、装置制御プログラムおよびデータ群を記憶する。内部記憶装置27が記憶するデータ群には、診断プロトコルや送受信条件を表すデータが含まれる。またデータ群には、後述する標準補正値を表すデータが含まれる。
【0027】
ソフトウェア格納部28は、制御プロセッサ26が上記の制御を実行するための手順を記述したソフトウェアを格納する。
【0028】
画像解析部29は、画像メモリ25に記憶された表示画像データに基づいて検査対象物についての表面の輪郭を抽出する。画像解析部29は、抽出した輪郭に関する特徴値を測定する。そして画像解析部29は、測定した特徴値を制御プロセッサ26により設定された補正率に従って変化させるように輪郭を補正する。
【0029】
インタフェース部30は、入力装置13、ネットワーク、あるいは外部記憶装置(図示せず)等と制御プロセッサ26との情報の授受を仲介する。」

(引1イ)
「【0030】
次に以上のように構成された超音波診断装置100の動作について説明する。
【0031】
被検体Pからの反射波を受けて超音波プローブ12から出力されたエコー信号に基づいて送受信ユニット21、Bモード処理ユニット22またはドプラ処理ユニット23、ならびに画像生成回路24によって生成された超音波診断画像は、表示画像として画像メモリ25に展開される。そして画像メモリ25に展開された画像メモリ25に展開された表示画像を表した画像信号を画像生成回路24がモニタ14へ出力することによって、モニタ14において表示画像が表示される。
【0032】
さて、検査対象物の輪郭の自動トレースの実施がユーザにより要求されたならば、制御プロセッサ26は図2に示すような処理を開始する。
【0033】
ステップSa1において制御プロセッサ26は、解析を実施するように画像解析部29に指示する。この指示を受けるとステップSb1において画像解析部29は、画像メモリ25に画像メモリ25に展開されている表示画像を解析し、心筋の輪郭を抽出するとともに、その輪郭に基づいて心筋の厚みを測定する。
【0034】
具体的には画像解析部29は、表示画像の輝度が大幅に変化する変化点を多数検出し、これらの変化点をトレースするトレースラインとして心筋の輪郭を抽出する。かくして、例えば表示画像が図3に細線で示すような画像である場合、例えば左心室の心腔側の面については図3に破線で示すような輪郭が抽出される。同様にして、右心室の心腔側の面や、心筋の外側の面についても輪郭が抽出される。以下、心腔側の面について抽出した輪郭を内輪郭、心筋の外側の面について抽出した輪郭を外輪郭と称する。
【0035】
また画像解析部29は、図4に示すように内輪郭上の複数の変化点Pdのそれぞれに関して、当該変化点Pdで内輪郭に直交する直線(図4中に破線で示す)の内輪郭と外輪郭との間の長さとして、あるいは左心室の内輪郭と右心室の内輪郭との間の長さとして心筋の厚みを測定する。なお、厚みを求める対象とする変化点Pdは、内輪郭を抽出するために検出した変化点の全てとしても良いし、一部のみとしても良い。
【0036】
ステップSb2において画像解析部29は、抽出した輪郭および測定した厚みを制御プロセッサ26に通知する。そしてこれをもって画像解析部29は、図2の処理を終了する。
【0037】
ステップSa2において制御プロセッサ26は、上記のように画像解析部29から通知された輪郭に基づいて、抽出された輪郭を表示画像において表すための輪郭画像を生成する。
【0038】
ステップSa3において制御プロセッサ26は、標準補正率による自動補正機能(以下、標準補正)が有効に設定されているか否かを確認する。なお当該標準補正の有効/無効は、制御プロセッサ26がユーザの指示に応じて予め設定する。
【0039】
標準補正が有効に設定されているならば制御プロセッサ26は、ステップSa3からステップSa4へ進む。ステップSa4において制御プロセッサ26は、輪郭画像を標準補正率で補正する。なお、検査対象物が心筋である場合、内輪郭のみを補正することとする。
【0040】
具体的には例えば図5に示すように、複数の変化点Pdのそれぞれを、各変化点Pdに関して測定された厚みを標準補正率で変化させるように移動させて複数の補正点Pcを求める。より具体的には、内輪郭の垂線上の位置を、内輪郭と交差する位置(変化点Pdの位置)を0%の位置、外輪郭と交差する位置を100%の位置とし、標準補正率に相当する位置として補正点Pcを求める。そしてこれらの複数の補正点Pcをトレースするトレースラインとして補正された内輪郭を求める。
【0041】
ステップSa4での補正が終了したならば、制御プロセッサ26はステップSa5へ進む。一方、標準補正が無効に設定されているならば、制御プロセッサ26はステップSa3からステップSa5へ進む。ステップSa5において制御プロセッサ26は、ステップSa4を標準補正が有効である場合にはステップSa4で補正した輪郭画像を、また標準補正が無効である場合にはステップSa2で生成した輪郭画像を、例えば図6に示すようにモニタ14における表示画像に重畳表示する。このときに制御プロセッサ26は、図6に示すように適用済みの補正率を表すGUI(graphical user interface)51もモニタ14に表示させる。
【0042】
ステップSa6において制御プロセッサ26は、補正率の変更が要求されるのを待ち受ける。制御プロセッサ26は、例えばGUI51に含まれたスライダ51aを左右に移動させる操作として補正率の変更の要求を受け付ける。
【0043】
補正率の変更がユーザにより要求されたならば制御プロセッサ26は、ステップSa6からステップSa7へ進む。ステップSa7において制御プロセッサ26は、ユーザの要求に応じた補正率を設定する。具体的には制御プロセッサ26は、例えばスライダ51aの位置に応じて補正率を設定する。
【0044】
ステップSa8において制御プロセッサ26は、輪郭画像をステップSa7で新たに設定した補正率で補正する。この補正のための処理は、標準補正と同様である。
【0045】
ステップSa9において制御プロセッサ26は、表示画像に重畳表示する輪郭画像をステップSa8にて補正したものに更新する。そしてこののちに制御プロセッサ26は、ステップSa10,11の待ち受け状態に移行する。
【0046】
制御プロセッサ26は、ステップSa10,11の待ち受け状態にあるときに補正率のさらなる変更がユーザにより要求されたならば、ステップSa10からステップSa7に移行し、ステップSa7乃至ステップSa9を上述と同様に処理する。
【0047】
制御プロセッサ26は、ステップSa10,11の待ち受け状態にあるときに補正率の確定がユーザにより要求されたならば、ステップSa11からステップSa12に移行する。ステップSa12において制御プロセッサ26は、この時点で設定されている補正率を加味するように標準補正率を更新する。更新後の標準補正率をどのように求めるかは任意であるが、例えば過去に確定された補正率の平均値などのような統計値を求めて、これを更新後の標準補正率とすることが考えられる。
【0048】
標準補正率を更新し終えたならば、制御プロセッサ26は図2に示す処理を終了する。なお、ステップSa12が完了した場合以外においても、ユーザによる終了指示がなされたならば制御プロセッサ26は図2に示す処理を終了する。」

(引1ウ)図1

(引1エ)図2

(引1オ)図3

(引1カ)図4

(引1キ)図5

(引1ク)図6


(イ)引用文献1に記載された発明
上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 装置本体11に、超音波プローブ12、入力装置13およびモニタ14を接続して構成され、装置本体11はさらに、送受信ユニット21、Bモード処理ユニット22、ドプラ処理ユニット23、画像生成回路24、画像メモリ25、制御プロセッサ(CPU)26、内部記憶装置27、ソフトウェア格納部28、画像解析部29およびインタフェース部30を含む、超音波診断装置100であって、
被検体Pからの反射波を受けて超音波プローブ12から出力されたエコー信号に基づいて送受信ユニット21、Bモード処理ユニット22またはドプラ処理ユニット23、ならびに画像生成回路24によって生成された超音波診断画像は、表示画像として画像メモリ25に展開され、そして画像メモリ25に展開された表示画像を表した画像信号を画像生成回路24がモニタ14へ出力することによって、モニタ14において表示画像が表示され、
検査対象物である心筋の輪郭の自動トレースの実施がユーザにより要求されたならば、制御プロセッサ26は、解析を実施するように画像解析部29に指示し、この指示を受けると画像解析部29は、画像メモリ25に展開されている表示画像の輝度が大幅に変化する変化点を多数検出し、これらの変化点をトレースするトレースラインとして心筋の輪郭を抽出し、心腔側の面について抽出した輪郭を内輪郭、心筋の外側の面について抽出した輪郭を外輪郭と称し、
画像解析部29は、輪郭画像を標準補正率で補正する上の複数の変化点Pdのそれぞれに関して、当該変化点Pdで内輪郭に直交する直線の内輪郭と外輪郭との間の長さとして、心筋の厚みを測定し、
画像解析部29は、抽出した輪郭および測定した厚みを制御プロセッサ26に通知し、
制御プロセッサ26は、画像解析部29から通知された輪郭に基づいて、抽出された輪郭を表示画像において表すための輪郭画像を生成し、
制御プロセッサ26は、標準補正率による自動補正機能(以下、標準補正)が有効に設定されているか否かを確認し、
標準補正が有効に設定されているならば制御プロセッサ26は、内輪郭と交差する位置(変化点Pdの位置)を0%の位置、外輪郭と交差する位置を100%の位置とし、標準補正率に相当する位置として補正点Pcを求め、そしてこれらの複数の補正点Pcをトレースするトレースラインとして補正された内輪郭を求めることにより、内輪郭を標準補正率で補正し、
制御プロセッサ26は、標準補正が有効である場合には補正した輪郭画像を、また標準補正が無効である場合には生成した輪郭画像を、モニタ14における表示画像に重畳表示し、このときに制御プロセッサ26は、適用済みの補正率を表すGUI51もモニタ14に表示させ、
制御プロセッサ26は、GUI51に含まれたスライダ51aを左右に移動させる操作として補正率の変更の要求を受け付け、
補正率の変更がユーザにより要求されたならば制御プロセッサ26は、スライダ51aの位置に応じて補正率を設定し、
制御プロセッサ26は、内輪郭を新たに設定した補正率で補正し、この補正のための処理は、標準補正と同様であり、
制御プロセッサ26は、表示画像に重畳表示する内輪郭を補正したものに更新し、そしてこののちに制御プロセッサ26は、待ち受け状態に移行し、
制御プロセッサ26は、待ち受け状態にあるときに補正率の確定がユーザにより要求されたならば、この時点で設定されている補正率を加味するように標準補正率を更新する、超音波診断装置100。」

イ 引用文献2について

(ア)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2:特表2009−530008号公報には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。

(引2ア)
「【請求項1】
三次元で組織を示す超音波診断撮影システムであって:
診断される対象物の三次元超音波データセット;
前記三次元超音波データセットにおける前記対象物の対向する境界を特定するように動作する境界処理器;及び
前記対象物の厚さ寸法を含む、前記対象物の三次元画像を生成するように、前記対象物の前記対向する境界の前記特定に対応する三次元画像レンダリング処理器;
を有する超音波診断撮影システム。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断撮影システムであって、前記組織は心臓の組織を有し、前記対象物は、前記心臓の心腔の心筋を有する、超音波診断撮影システム。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断撮影システムであって、前記心臓の前記心腔は、左心室、右心室、左心房又は右心房の一を有する、超音波診断撮影システム。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波診断撮影システムであって、前記境界処理器は、自動境界検出処理器又は半自動境界検出処理器を有する、超音波診断撮影システム。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波診断撮影システムであって、前記組織は心臓の組織を有し、前記自動境界検出処理器又は半自動境界検出処理器は、前記心筋の心内膜及び心外膜を特定するように動作する、超音波診断撮影システム。」

(引2イ)
「【0001】
本発明は、医療診断用超音波システム、特に、心筋挙動の定量化診断を実行する超音波システムに関する。」

(引2ウ)
「【0006】
先ず、図1を参照するに、本発明の原理に従って構成される超音波診断撮影システムが、ブロック図の形で示されている。超音波プローブ12は、超音波パルスを送受信する超音波トランスデューサのアレイ14を有する。そのアレイは、二次元撮影のためのリニアアレイ又はカーブドアレイであることが可能である、若しくは三次元で操舵される電子ビームのためのトランスデューサ要素の二次元マトリクスであることが可能である。下で説明する三次元データセット及び画像は、好適には、二次元アレイプローブを用いて取得される。アレイ14における超音波トランスデューサは、超音波エネルギーを送信し、この送信に応じて返されるエコーを受信する。送信周波数制御回路20は、そのアレイ14における超音波トランスデューサに結合された送信/受信(T/R)スイッチ22を介して、好ましい周波数又は周波数帯域において、超音波エネルギーの送信を制御する。トランスデューサアレイが、信号を送信するように、アクティブにされる時間は、内部システムクロック(図示せず)に対して同期化されることが可能であり、又は心周期等の身体的機能に同期化されることが可能であり、その心周期の間、心周期波形がECG装置26により与えられる。心拍が、ECG装置26により与えられる波形により決定される周期の好ましい位相にあるとき、プローブは、超音波画像を取得するように命令される。送信周波数制御回路20により生成される超音波エネルギーの周波数及び帯域幅は、中央制御器28により生成される制御信号ftrにより制御される。
・・・
【0011】
コントラスト信号処理器38と、Bモード処理器36と、ドップラ処理器40と、3D画像メモリ44からの三次元画像信号とからの信号は、シネループ(Cineloop(登録商標))メモリ48に結合される。画像データは、好適には、それぞれの時間に得られた画像に対応する画像データの各々の集合と共に、集合でシネループ(登録商標)メモリ48に記憶される。グループの状態の画像データが、心拍中のそれぞれの時間において組織の灌流を示すパラメトリック画像を表示するように用いられることが可能である。シネループ(登録商標)メモリ48に記憶されている画像データのグループはまた、後の解析のために、ディスクドライブ又はディジタルビデオレコーザ等の永久メモリ装置に記憶されることが可能である。この実施形態においては、画像はまた、QLAB(登録商標)処理器50に結合され、その処理器において画像は解析され、心筋の三次元表現が、下記のように生成される。QLAB(登録商標)処理器はまた、画像における解剖学的構造の種々の特徴の定量的な測定を行い、米国特許出願公開第2005/0075567号明細書及び国際公開第2005/054898号パンフレットに記載されている自動境界トレーシングにより、組織の境界及び輪郭を表す。QLAB(登録商標)処理器により生成されるデータ及び画像は、ディスプレイ52に表示される。
・・・
【0013】
QLAB(登録商標)処理器は、画像における組織の構造の境界又は輪郭をトレースすることができる。このトレースは、米国特許第6,491,636号明細書に記載されている完全自動化手段により、又は上記の米国特許出願公開第2005/0075567号明細書に記載されている自動化支援境界検出により行われることが可能である。後者の技術は、トレースされる境界を表示する画像を先ず、選択することにより行われる。図3a、3b及び3cは、LVの境界がトレースされるLV画像を示している。ユーザは、画像においてカーソルを操作するワークステーションのキーボードにより、又は超音波システム制御パネルにおいて通常、位置付けられているマウス又はトラックボール等のポインティングデバイスにより、画像において第1ランドマークを指定する。図3aの実施例においては、指定された第1ランドマークは医療用僧帽弁輪(MMA)である。ユーザが、画像においてそのMMAをクリックするとき、図において数字“1”で示されている白色の制御点のようなグラフィックマーカが現れる。その場合、ユーザは、第2ランドマークを、この実施例においては、横方向僧帽弁輪(LMA)を指定し、それは、図3bにおいて数字“2”で示されている第2白色制御点により印付けされている。その場合、QLAB(登録商標)処理器により生成された線は、2つの制御点を自動的に接続し、この縦方向の左心室のビューの場合、僧帽弁面を示す。その場合、ユーザは、心内膜の心尖にポインタを移動し、その心内膜の心尖は、左心室の心腔内の最上点である。ユーザが、図においてこの第3のランドマークにポインタを移動させるとき、左心室の心内膜の心腔のテンプレート形状はカーソルに追随し、ポインタが心腔の心尖を追求するにつれて、変形し、伸長する。図3cにおける白色の線として示されているこのテンプレートは、第1制御点1及び第2制御点2により固定され、第3制御点を通り、その第3制御点は、ユーザが心尖においてポインタをクリックするときに、心尖に位置付けられ、その心尖は第3制御点3に位置している。位置付けが行われるとき、心内膜の心腔のテンプレートは、図3Cに示す心内膜の近似のトレースを与える。図3cの実施形態においては、左心室を二分する黒色の線は、それが心尖に近づき、心尖を指定するにつれて、ポインタに追随する。この黒色の線は、僧帽弁面を示す線の中心と左心室の心尖との間に固定され、僧帽弁の中心と心腔の心尖との間の中心線を実質的に示す。商業上の実施において、QLAB(登録商標)処理器は、Philips Medical Sysrtems社(米国マサチューセッツ州アンドーバー)製のオフラインワークステーションにおいて又は搭載された超音波システムにおいて利用可能である。自動境界処理は、他の手段により完全自動化することが可能である。
・・・
【0017】
本発明の原理に従って、QLAB(登録商標)処理器50はまた、図7に示す心筋の心外膜の境界をトレースすることができる。心外膜の境界とトレースは、図3a、3b及び3cに示す心内膜特定ステップから開始する連続する処理において実行されることが可能である。このように規定される心内膜の境界を用いて、ユーザは、カーソルを心外膜の心尖に、最上点を心筋の外側面に移動させる。その場合、ユーザは、心外膜の心尖をクリックし、“4”で印付けされる第4制御点が位置付けられる。その場合、図7に示す心外膜の境界を近似して描く第2トレースが、自動的に現れる。図7における外側の白色の境界線で示されているこの第2トレースはまた、第1制御点及び第2制御点により固定され、心外膜の心尖において位置付けられた第4制御点を通る。それらの2つのトレースは、心筋の境界の近似の輪郭である。
【0018】
最終ステップとして、ユーザは、トレースが心筋の境界について、適切に、輪郭を描くように、図7に示すトレースを調整することを望む可能性がある。“+”のシンボルで図中に示している複数の小さい制御点が、各々のトレースの周囲において位置付けられている。それらの小さい制御点の数及び間隔は、設計上の選択である、又はユーザが設定することができる変数であることが可能である。ユーザは、心筋の境界をより正確に描くように、それらの制御点を又はそれらの制御点に近接して指してクリックし、輪郭をドラッグすることが可能である。境界を伸長する又はドラッグするこの処理は、“ラバーバンディング”として知られていて、上記の米国特許第6,491,636号明細書の特に図9に詳細に記載されている。ラバーバンディングによる調整の代替として、より複雑な実施形態において、近似された境界は、そして近似された組織の境界の周囲が、画素についての強度情報を用いる画像処理により画像の境界に対して自動的に調整されることが可能である。終了されるとき、境界は、画像における心筋の画像の画素を囲むことにより、心筋の境界を正確に描くことが可能である。」

(引2エ)図1


(引2オ)図3A

(引2カ)図3B

(引2キ)図3C

(引2ク)図7


(イ)引用文献2に記載された技術事項
(引2ウ)の「QLAB(登録商標)処理器50」、「完全自動化手段」及び「自動化支援境界検出」手段は、それぞれ、(引2ア)の「境界処理器」、「完全自動境界検出処理器」及び「半自動境界検出処理器」に対応するものであるから、この点を含め上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用文献2の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「 心筋挙動の定量化診断を実行する超音波システムであって、
画像は、境界処理器50に結合され、
前記境界処理器50は、画像における組織の構造の境界又は輪郭をトレースすることができ、このトレースは、米国特許第6,491,636号明細書に記載されている完全自動化手段である自動境界検出処理器により、又は米国特許出願公開第2005/0075567号明細書に記載されている自動化支援境界検出手段である半自動境界検出処理器により行われることが可能であり、自動境界検出処理器又は半自動境界検出処理器は、前記心筋の心内膜及び心外膜を特定するように動作し、
半自動境界検出処理器は、トレースされる境界を表示する画像を先ず、選択することにより行われ、ユーザは、画像においてカーソルを操作するワークステーションのキーボードにより、又は超音波システム制御パネルにおいて通常、位置付けられているポインティングデバイスにより、画像において第1ランドマークを指定し、指定された第1ランドマークは医療用僧帽弁輪(MMA)であり、ユーザが、画像においてそのMMAをクリックするとき、数字“1”で示されている白色の制御点のようなグラフィックマーカが現れ、その場合、ユーザは、第2ランドマークの横方向僧帽弁輪(LMA)を指定し、それは、数字“2”で示されている第2白色制御点により印付けされ、その場合、境界処理器50により生成された線は、2つの制御点を自動的に接続し、この縦方向の左心室のビューの場合、僧帽弁面を示し、その場合、ユーザは、心内膜の心尖にポインタを移動し、その心内膜の心尖は、左心室の心腔内の最上点であり、ユーザが、この第3のランドマークにポインタを移動させるとき、左心室の心内膜の心腔のテンプレート形状はカーソルに追随し、ポインタが心腔の心尖を追求するにつれて、変形し、伸長し、白色の線として示されているこのテンプレートは、第1制御点1及び第2制御点2により固定され、第3制御点を通り、その第3制御点は、ユーザが心尖においてポインタをクリックするときに、心尖に位置付けられ、その心尖は第3制御点3に位置し、位置付けが行われるとき、心内膜の心腔のテンプレートは、心内膜の近似のトレースを与え、
境界処理器50はまた、心筋の心外膜の境界をトレースすることができ、心外膜の境界とトレースは、心内膜特定ステップから開始する連続する処理において実行されることが可能であり、このように規定される心内膜の境界を用いて、ユーザは、カーソルを心外膜の心尖に、最上点を心筋の外側面に移動させ、その場合、ユーザは、心外膜の心尖をクリックし、“4”で印付けされる第4制御点が位置付けられ、その場合、心外膜の境界を近似して描く第2トレースが、自動的に現れ、外側の白色の境界線で示されているこの第2トレースはまた、第1制御点及び第2制御点により固定され、心外膜の心尖において位置付けられた第4制御点を通り、それらの2つのトレースは、心筋の境界の近似の輪郭である、超音波システム。」

ウ 引用文献3について
引用文献2に記載され、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3:米国特許第6491636号明細書には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている(原文に続き当審訳を示す。以下、同様。)

(引3ア)
「Once these three major landmarks of the LV have been located, one of a number of predetermined standard shapes for the LV is fitted to the three landmarks and the endocardial wall. Three such standard shapes are shown in FIGS. 5a, 5b, and 5c. The first shape, border 62, is seen to be relatively tall and curved to the left. The second shape, border 64, is seen to be relatively short and rounded. The third shape, border 66, is more triangular. Each of these standard shapes is scaled appropriately to fit the three landmarks 26,36,46. After an appropriately scaled standard shape is fit to the three landmarks, an analysis is made of the degree to which the shape fits the border in the echo data. This may be done, for example, by measuring the distances between the shape and the heart wall at points along the shape. 」(5欄39行〜52行)
「LVのこれらの3つの主要なランドマークが配置されると、LVのための多数の所定の標準的な形状の1つが3つのランドマークおよび心内壁に適合される。そのような3つの標準形状が、図5a、5b、及び5Cに示されている。第1の形状である境界線62は、比較的背が高く、左に湾曲していることが分かる。第2の形状である境界線64は、比較的短く、丸みを帯びていることが分かる。第3の形状である境界線66は、より三角形に近い。これらの標準的な形状のそれぞれは、3つのランドマーク26,36,46に合うように適切にスケーリングされる。適切にスケーリングされた標準形状が3つのランドマークにフィットした後、その形状がエコーデータのボーダーにフィットする度合いの分析が行われる。これは、例えば、形状に沿った点で形状と心臓壁の間の距離を測定することによって行うことができる。」

(引3イ)FIG.5a〜5c

エ 引用文献4について
引用文献2に記載され、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4:米国特許出願公開第2005/0075567号明細書には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。

(引4ア)
「[0041] Examples of the templates which are stored by the border template storage device 146 are shown in FIGS. 9a-9d. FIGS. 9a-9c are examples of endocardial border templates and illustrate three general endocardial shapes which may be represented. The template 82 of FIG. 9a is horseshoe-shaped and is generally selected by clinicians for the majority of cases. FIG. 9b shows a more circular, bulbous template 84 which may be selected for some cases and FIG. 9c shows a more pyramidal or triangular template 86 which may be selected for other cases. The user can select a desired template after acquiring an image to be traced, at which time the user can visually see the general shape of the patient's endocardium and therefore can choose the appropriate template. FIG. 9d is an example of a template 88 for the epicardial border of the left ventricle.」
「[0041]境界テンプレート記憶装置146によって記憶されるテンプレートの例は、図9a〜9dに示されている。図9a〜9cは、心内膜の境界テンプレートの例であり、表現され得る3つの一般的な心内膜の形状を示している。図9aのテンプレート82は、馬蹄形であり、一般的に臨床医が大多数の場合に選択するものである。図9bは、より円形で球根状のテンプレート84を示しており、これはいくつかの症例に対して選択される可能性があり、図9cは、よりピラミッド状または三角形のテンプレート86を示しており、これは他の症例に対して選択される可能性がある。ユーザは、トレースする画像を取得した後に、所望のテンプレートを選択することができ、その際、ユーザは、患者の心内膜の一般的な形状を視覚的に確認することができ、したがって、適切なテンプレートを選択することができる。図9dは、左心室の心外膜境界部のテンプレート88の一例である。」

(引4イ)FIG.9A〜9D


(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「心筋」の「内輪郭」は、「心腔側の面について抽出した輪郭」であるから、本件補正発明の「心臓の内腔の境界」に相当する。また、引用発明の「超音波診断装置100」は、本件補正発明の「超音波診断イメージングシステム」に相当する。
よって、引用発明の「超音波診断画像」において「心筋」の「内輪郭を求める」「超音波診断装置100」は、本件補正発明の「超音波画像において心臓の内腔の境界を決定する超音波診断イメージングシステム」に相当する。

イ 引用発明の「心筋」の「表示画像」は、本件補正発明の「心臓画像データ」に相当する。また、引用発明の「画像メモリ25」は、本件補正発明の「ソース」に相当する。
よって、引用発明の「心筋」の「表示画像として」「展開され」る「画像メモリ25」は、本件補正発明の「心臓画像データのソース」に相当する。

ウ 引用発明の「内輪郭」及び「外輪郭」は、それぞれ本件補正発明の「内側境界」及び「外側境界」に相当する。また、引用発明の「画像解析部29」は、本件補正発明の「境界検出プロセッサ」に相当する。そして、引用発明の「画像メモリ25に展開されている表示画像」の「解析を実施する」「画像解析部29」は、「表示画像」に応答する「画像解析部29」といえることから、本件補正発明の「前記心臓画像データに応答する境界検出プロセッサ」に相当する。
よって、引用発明の「画像メモリ25に展開されている表示画像」の「解析を実施する」「画像解析部29」であって、「画像メモリ25に展開されている表示画像の輝度が大幅に変化する変化点を多数検出し、これらの変化点をトレースするトレースラインとして心筋の」「内輪郭」及び「外輪郭」「を抽出」する「画像解析部29」は、本件補正発明の「前記心臓画像データに応答する境界検出プロセッサであって、前記心臓画像データにおいて心筋の少なくとも内側境界及び外側境界を識別する境界検出プロセッサ」に相当する。

エ 引用発明の「補正された内輪郭」は、本件補正発明の「ユーザ規定される心腔境界」に相当する。また、引用発明の「GUI51」は、本件補正発明のユーザ制御器」に相当する。そして、引用発明の「スライダ51aを左右に移動させる操作として補正率の変更の要求を受け付け」る「GUI51」は、「補正率の変更がユーザにより要求されたならば」、「制御プロセッサ26」は、「スライダ51aの位置に応じて補正率を設定し」、「内輪郭と交差する位置(変化点Pdの位置)を0%の位置、外輪郭と交差する位置を100%の位置」の間で、「新たに設定した」「補正率に相当する位置として補正点Pcを求め、そしてこれらの複数の補正点Pcをトレースするトレースラインとして補正された内輪郭を求める」ことから、「ユーザ」が、「画像解析部29」により「抽出」された「内輪郭」と「外輪郭」の間で、「補正された内輪郭」の「位置」を示すためのものといえる。
よって、引用発明の「ユーザ」が、「画像解析部29」によって「抽出」された「内輪郭」と「外輪郭」の間で、「補正された内輪郭」の「位置」を示すための「GUI51」は、本件補正発明の「ユーザが、前記内側境界及び前記外側境界に対しユーザ規定される心腔境界を示すことを可能にするユーザ制御器」に相当する。

オ 引用発明の「制御プロセッサ26」は、本件補正発明の「心腔境界描出器」に相当する。また、引用発明の「画像解析部29から通知された輪郭に基づいて、抽出された輪郭を表示画像において表すための輪郭画像を生成し」、「生成した輪郭画像を、モニタ14における表示画像に重畳表示し、このときに」「補正率を表すGUI51もモニタ14に表示させ」る「制御プロセッサ26」は、「画像解析部29」及び「GUI51」に結合される「制御プロセッサ26」といえることから、本件補正発明の「前記ユーザ制御器及び前記境界検出プロセッサに結合される心腔境界描出器」に相当する。そして、引用発明の「制御プロセッサ26」は、「モニタ14における表示画像」において、「補正率の変更がユーザにより要求されたならば」、「スライダ51aの位置に応じて補正率を設定し」、「内輪郭と交差する位置(変化点Pdの位置)を0%の位置、外輪郭と交差する位置を100%の位置」の間で、「新たに設定した」「補正率に相当する位置として補正点Pcを求め、そしてこれらの複数の補正点Pcをトレースするトレースラインとして補正された内輪郭を求める」ことから、「モニタ14における表示画像」において、「画像解析部29」により「抽出」された「内輪郭」に対し、「GUI51」を用いて「補正された内輪郭を求める」ものといえる。
よって、引用発明の「画像解析部29」及び「GUI51」に結合される「制御プロセッサ26」であって、「モニタ14における表示画像」において、「画像解析部29」により「抽出」された「内輪郭」に対し、「GUI51」を用いて「補正された内輪郭を求める」「制御プロセッサ26」は、本件補正発明の「前記ユーザ制御器及び前記境界検出プロセッサに結合される心腔境界描出器であって、前記心臓画像データにおいて、前記境界検出プロセッサによって識別された前記内側境界及び前記外側境界の少なくとも一方に対し、前記ユーザ規定される心腔境界を位置付ける、心腔境界描出器」に相当する。

カ 引用発明の「補正率」は、本件補正発明の「単一自由度変数」に相当する。また、引用発明の「GUI51」が、「補正された内輪郭」の「位置」について、「内輪郭と交差する位置(変化点Pdの位置)を0%の位置、外輪郭と交差する位置を100%の位置」の間で、「スライダ51aを左右に移動させる操作」して「補正率に相当する位置」を「変更」することは、「GUI51」が、「補正された内輪郭」の「位置」について、「内輪郭」「0%」〜「外輪郭」「100%」百分率の間で「補正率」を「変更」することであるから、本件補正発明の「前記ユーザ制御器は、前記ユーザ規定される心腔境界の位置について、百分率として較正される、単一自由度変数を調整するように更に構成され」ることに相当する。そして、引用発明の「補正率」が、「内輪郭と交差する位置(変化点Pdの位置)を0%の位置、外輪郭と交差する位置を100%の位置」の間で表されることは、内輪郭から外輪郭までの距離に対する、内輪郭から補正された内輪郭までの距離の割合として表されることであるから、本件補正発明の「前記単一自由度変数は、前記内側境界からの前記ユーザ規定される心腔境界のオフセットと前記外側境界から前記内側境界までの距離との間の関係であ」ることに相当する。
よって、引用発明の「GUI51」が、「補正された内輪郭」の「位置」について、「内輪郭と交差する位置(変化点Pdの位置)を0%の位置、外輪郭と交差する位置を100%の位置」の間で、「スライダ51aを左右に移動させる操作」して「補正率に相当する位置」を「変更」し、「補正率」が、「内輪郭と交差する位置(変化点Pdの位置)を0%の位置、外輪郭と交差する位置を100%の位置」の間で表されることは、本件補正発明の「前記ユーザ制御器は、前記ユーザ規定される心腔境界の位置について、百分率として較正される、単一自由度変数を調整するように更に構成され、前記単一自由度変数は、前記内側境界からの前記ユーザ規定される心腔境界のオフセットと前記外側境界から前記内側境界までの距離との間の関係であ」ることに相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「 超音波画像において心臓の内腔の境界を決定する超音波診断イメージングシステムであって、
心臓画像データのソースと、
前記心臓画像データに応答する境界検出プロセッサであって、前記心臓画像データにおいて心筋の少なくとも内側境界及び外側境界を識別する境界検出プロセッサと、
ユーザが、前記内側境界及び前記外側境界に対しユーザ規定される心腔境界を示すことを可能にするユーザ制御器と、
前記ユーザ制御器及び前記境界検出プロセッサに結合される心腔境界描出器であって、前記心臓画像データにおいて、前記境界検出プロセッサによって識別された前記内側境界及び前記外側境界の少なくとも一方に対し、前記ユーザ規定される心腔境界を位置付ける、心腔境界描出器と、
を有し、
前記ユーザ制御器は、前記ユーザ規定される心腔境界の位置について、百分率として較正される、単一自由度変数を調整するように更に構成され、前記単一自由度変数は、前記内側境界からの前記ユーザ規定される心腔境界のオフセットと前記外側境界から前記内側境界までの距離との間の関係である、
超音波診断イメージングシステム。」

(相違点)
本件補正発明では、「前記境界検出プロセッサは、半自動の心臓境界画像プロセッサを更に有し、
前記半自動の心臓境界画像プロセッサは、前記ユーザ制御器に結合され、更に、心臓画像における一つ又はそれより多くのランドマークに応答し、
前記境界検出プロセッサは、前記ユーザ入力されるか、又は前記境界検出プロセッサによって自動的に識別される前記一つ又はそれより多くのランドマークにフィットされる既定のテンプレートを選択し、前記内側境界及び/又は前記外側境界として前記テンプレートを提供する」のに対し、引用発明では、そのような特定がない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

ア 引用文献2の技術事項(上記(2)のイ(イ)参照。)は、画像における左心室(LV)の心腔の境界をトレースする超音波システムにおいて、境界処理器50が、半自動境界検出処理器を有し、半自動境界検出処理器は、表示された左心室(LV)画像において、ユーザは、第1のランドマークとして医療用僧帽弁輪(MMA)、第2のランドマークとして横方向僧帽弁輪(LMA)を指定した後に、第3のランドマークとして内心膜の心尖を指定することで、心内膜の心腔のテンプレートが変形・伸縮し、心内膜の心腔に近似のトレースを与えるものである。また、半自動境界検出処理器は、表示された左心室(LV)画像において、ユーザは、第1のランドマークとして医療用僧帽弁輪(MMA)、第2のランドマークとして横方向僧帽弁輪(LMA)を指定した後に、第4のランドマークとして心外膜の心尖を指定することで、心外膜の心腔のテンプレートが変形・伸縮し、心外膜の心腔に近似のトレースを与えるものである。そして、半自動境界検出処理器が、心腔のテンプレートによって左心室(LV)の心腔に近似のトレースを与える以上、患者の心腔に適したテンプレートを選択していることは明らかである。そのことは、引用文献2の技術事項である米国特許第6491636号明細書(上記(2)のウの引用文献3を参照。)、及び米国特許出願公開第2005/0075567号明細書(上記(2)のエの引用文献4を参照。)が、自動境界検出処理器又は半自動境界検出処理器において、心腔における複数のテンプレートの中から選択できるようになっていることからも裏付けられる。
すると、引用文献2の技術事項は、上記相違点に係る本件補正発明の構成である「前記境界検出プロセッサは、半自動の心臓境界画像プロセッサを更に有し、
前記半自動の心臓境界画像プロセッサは、前記ユーザ制御器に結合され、更に、心臓画像における一つ」「より多くのランドマークに応答し、
前記境界検出プロセッサは、前記ユーザ入力される」「前記一つ」「より多くのランドマークにフィットされる既定のテンプレートを選択し、前記内側境界及び」「前記外側境界として前記テンプレートを提供する」ことに相当する構成を備えているといえる。

イ そして、引用文献2の技術事項は、心腔の境界処理を、完全自動化又は半自動化の一方で行うものであるから、引用発明において、完全自動化した「画像解析部29」での境界処理の他に、半自動化した境界処理ができるようにすることは、引用文献1及び2に接した当業者であれば容易に思い付くことである。

ウ してみると、引用発明において、引用文献2の技術事項を適用し、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

エ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1〜4の記載から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(5)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明、及び引用文献2の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「引用文献1及び2には、本願の補正後の請求項1の構成要件である前記境界検出プロセッサは、半自動の心臓境界画像プロセッサを更に有し、前記半自動の心臓境界画像プロセッサは、前記ユーザ制御器に結合され、更に、心臓画像における一つ又はそれより多くのランドマークに応答し、前記境界検出プロセッサは、前記ユーザ入力されるか、又は前記境界検出プロセッサによって自動的に識別される前記一つ又はそれより多くのランドマークにフィットされる既定のテンプレートを選択し、前記内側境界及び/又は前記外側境界として前記テンプレートを提供する」構成については開示も示唆もされていない。引用文献1は、輝度の変化に基づいて輪郭が自動抽出されることを開示するにすぎない。引用文献2は、画像内の2つの点が自動的に接続されることを開示するにすぎない。したがって、引用文献1及び2に記載の発明は、本願の補正後の請求項1に記載の発明とは顕著に相違する。本願の補正後の請求項1に記載の発明によれば、輪郭描出は標準化され、それ故にすべてのユーザにとって受け入れ可能な輪郭描出が可能になる。本願発明の課題及び前記効果は引用文献1及び2において認識されているわけでもないので、本願発明を成す動機づけとなり得るものが存在しない。よって、当業者は引用文献1及び2から、ユーザ独自の要求に応じたトレーシング精度を改善することには想到しえても、本願の補正後の請求項1に記載の発明には容易に想到できるものではない。」と主張する。
しかしながら、上記主張については、上記2の「(3)対比」及び「(4)判断」で検討したとおりであるから、採用できない。

4 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
令和2年12月3日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成31年2月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、本願の優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2010−259656号公報
引用文献2:特表2009−530008号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2並びにその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項」を削除したものである。
そうすると、前記第2の[理由]2(3)での対比を踏まえると、本願発明と引用発明とに相違するところはないから、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。また、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項」を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献2の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号又は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 井上 博之
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-06-28 
結審通知日 2021-06-29 
審決日 2021-07-12 
出願番号 P2017-547114
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 113- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 伊藤 幸仙
▲高▼見 重雄
発明の名称 単一自由度の心腔セグメント化による心臓性能の超音波診断  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 五十嵐 貴裕  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ