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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1380623
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-11 
確定日 2021-12-01 
事件の表示 特願2019−528660「有機半導体デバイスのパッケージング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月 7日国際公開、WO2018/098875、令和 1年12月12日国内公表、特表2019−536245〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2019−528660号(以下「本件出願」という。)は、2016年(平成28年)12月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年12月2日、中国)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年 6月15日付け:拒絶理由通知書
令和2年 8月27日 :意見書
令和2年 8月27日 :手続補正書
令和2年 9月16日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年12月11日 :審判請求書
令和2年12月11日 :手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1〜請求項7に係る発明は、令和2年12月11日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項7に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 【請求項1】
有機半導体デバイスのパッケージング方法であって、
フレキシブル基板上に有機半導体デバイスを形成するステップと、
前記フレキシブル基板上において、前記有機半導体デバイスの両側にそれぞれ位置し且つ前記有機半導体デバイスと所定の間隔を維持するフォトレジストブロックを作製するステップと、
前記フォトレジストブロック、前記有機半導体デバイス、及び前記フレキシブル基板上に、前記有機半導体デバイスを完全に覆う無機層を堆積するステップと、
前記フォトレジストブロック及びその上の無機層を除去するステップと、
前記有機半導体デバイス及び前記フレキシブル基板上の無機層上に有機層を堆積するステップと、を含み、
前記フォトレジストブロックを作製するステップは、
前記フレキシブル基板及び前記有機半導体デバイス上にフォトレジスト層を塗布するステップと、
所定のフォトマスクブランクスで前記フォトレジスト層を露光するステップと、ここで、前記フォトマスクブランクスは遮光部とそれぞれ前記遮光部の両側に位置する光透過部とを含み、前記遮光部は前記有機半導体デバイスと対向し、前記遮光部の両側はそれぞれ前記有機半導体デバイスの両側を超えており、
露光されたフォトレジスト層を現像して、前記遮光部に対応するフォトレジスト層を除去するステップと、を含み、
これらのステップによって、前記フォトレジストブロックを作製する、
ことを特徴とする有機半導体デバイスのパッケージング方法。」

3 原査定の拒絶の理由
本願発明は、原査定時の請求項1に係る発明に対応するものであるところ、この発明に対する原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1に係る発明は、その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2009−158249号公報
引用文献3:国際公開第2013/145139号
(当合議体注:主引用例は引用文献1であり、引用文献3は周知技術を例示するための文献である。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献1(特開2009−158249号公報)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す(以下、同様である。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、封止膜を備えた有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機発光層を含む発光部と、発光部を封止するための封止膜を備えた有機EL素子が知られている。
【0003】
特許文献1には、基板と、基板上に順に積層された陽極、有機発光層及び陰極を含む発光部と、それらを封止するための封止膜とを備えた有機EL素子が開示されている。封止膜は、SiO2等の共有結合結晶の無機物からなる。
【0004】
この有機EL素子では、封止膜を形成することにより、有機発光層を含む発光部に水への水の侵入を抑制できる。
【特許文献1】特開平7−142168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の有機EL素子では、結合が切れにくく、1ユニットが大きい共有結合結晶の無機物により封止膜を構成しているので、水に対する遮断性が充分ではない。このため、水により発光部が劣化するといった課題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、水による発光部の劣化を抑制できる有機EL素子を提供することを目的としている。
・・・中略・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1実施形態を説明する。図1は、第1実施形態による有機EL素子の断面図である。
【0015】
図1に示すように、第1実施形態による有機EL素子1は、基板2と、発光部3と、封止膜4とを備えている。
【0016】
基板2は、光を透過可能なSiO2からなる。基板2の厚みは、特に限定されるものではないが、発光部3からの光の拡散を抑制したい場合には、100μm以下が好ましい。尚、基板2を変形可能な樹脂製のフレキシブル基板により構成してもよい。
【0017】
発光部3は、基板2の一方の面(以下、表面)2aに形成されている。発光部3は、アノード電極11と、有機発光層12と、カソード電極13とを備えている。
【0018】
アノード電極11は、有機発光層12に正孔を注入するためのものである。アノード電極11は、光を透過可能な約100nmの厚みを有するITO(インジウムスズ酸化物)からなる。アノード電極11は、基板2の表面2a上に形成されている。
【0019】
有機発光層12は、白色の光を発光するためのものである。有機発光層12は、アノード電極11上に電気的に接続された状態で形成されている。有機発光層12には、正孔輸送層及び電子輸送層がアノード電極11から順に積層されている。正孔輸送層には、約50nmの厚みを有するNPD(ジフェニルナフチルジアミン)膜等を採用可能である。電子輸送層には、約50nmの厚みを有するキノリノールアルミ錯体(Alq3)膜に色素を混入させたものを採用可能である。また、アノード電極11からの正孔注入を促進するために銅フタロシアニン(CuPc)をアノード電極11と有機発光層12との間に積層してもよい。
【0020】
カソード電極13は、有機発光層12に電子を注入するためのものである。カソード電極13は、約100nmの厚みを有するMg/Ag合金またはAl膜等からなる。カソード電極13は、有機発光層12上に形成されている。これにより、有機発光層12は、アノード電極11とカソード電極13とによって挟まれる。
【0021】
封止膜4は、発光部3が水や酸素等により劣化することを抑制するためのものである。封止膜4は、発光部3の一部を覆うように形成されている。具体的には、封止膜4は、アノード電極11の一部と、有機発光層12の側面と、カソード電極13とを覆うように形成されている。封止膜4は、Liを含むイオン結晶からなるイオン結晶層からなる。ここで、Liを含むイオン結晶とは、LiBxNy、LiBxOy、LiBxNyOz等を適用することができる。
【0022】
次に、上述した有機EL素子1の動作説明を行う。
【0023】
まず、アノード電極11とカソード電極13との間に電圧が印加される。これにより、アノード電極11から有機発光層12に正孔が注入されるとともに、カソード電極13からは有機発光層12に電子が注入される。注入された正孔と電子は、有機発光層12内で再結合して、光を発光する。その後、光は、アノード電極11及び基板2を透過して外部へと照射される。
【0024】
次に、上述した有機EL素子1の製造方法について説明する。図2〜図5は、各製造工程における第1実施形態の有機EL素子の断面図である。
【0025】
まず、図2に示すように、フォトリソグラフィー技術及びリフトオフ法等により、パターニングされたアノード電極11を、基板2の表面2aに形成する。
【0026】
次に、図3に示すように、開口部15aが形成されたメタルマスク15を用いて、アノード電極11上の所望の領域に有機発光層12を蒸着法により形成する。
【0027】
次に、図4に示すように、開口部16aが形成されたメタルマスク16を用いて、有機発光層12上にカソード電極13を蒸着法により形成する。
【0028】
次に、図5に示すように、フォトリソグラフィー技術によりレジスト膜17を形成する。その後、反応性ガスを導入可能なスパッタ法により、発光部3を覆うように、イオン結晶からなる封止膜4を成膜した後、レジスト膜17を除去する。これにより、図1に示す有機EL素子1が完成する。
【0029】
上述したように第1実施形態による有機EL素子1は、結合の切れ易いイオン結晶(例えば、LiBxNy)からなる封止膜4を備えている。ここで、従来の封止膜に用いられていた共有結合結晶のSiO2は1ユニットが巨大な複数のSiO2となる。一方、イオン結晶からなる封止膜4では、結晶の1ユニットを各元素(Li、B、N)と見なすことができる。これにより、1ユニットが小さくなるので、封止膜4は、共有結合結晶からなる封止膜に比べて、膜内の隙間を低減することができる。この結果、封止膜4は、より多くの水を遮断することができるので、発光部3の劣化を抑制できる。更に、水分子よりも分子サイズの大きい酸素ガスに対しても、遮断性が向上するので、発光部3の酸化を抑制することができる。」

イ 「【0032】
(第2実施形態)
次に、第1実施形態の有機EL素子を部分的に変更した第2実施形態による有機EL素子について説明する。図6は、第2実施形態による有機EL素子の断面図である。尚、第1実施形態と同様の構成には、同じ符号を付けて説明を省略する。
【0033】
図6に示すように、第2実施形態による有機EL素子1Aの封止膜4Aは、第1封止層21と第2封止層22とが順に積層された積層構造を有する。【0034】 以下、第1封止層21と第2封止層22との組み合わせについて説明する。
【0035】
<2つの異なるイオン結晶層の組み合わせ>
第1封止層21を第1イオン結晶からなる第1イオン結晶層により構成し、第2封止層22を第1イオン結晶とは異なる第2イオン結晶からなる第2イオン結晶層により構成してもよい。ここで異なるイオン結晶としては、例えば、LiBxNy、LiBxOyまたはLiBxNyOzのいずれか2つを採用することができる。尚、このように封止膜4Aを無機物である2種類の層により構成する場合は、異なる2種類のターゲットを用いて、順に成膜することができる。
【0036】
<イオン結晶層と無機層との組み合わせ>
第1封止層21をイオン結晶からなるイオン結晶層により構成し、第2封止層22を共有結合結晶の無機物からなる無機層により構成してもよい。ここで、無機層を構成する共有結合結晶としては、SiN、SiON等を採用することができる。
【0037】
<イオン結晶層と有機層との組み合わせ>
第1封止層21をイオン結晶からなるイオン結晶層により構成し、第2封止層22を有機材料からなる有機層により構成してもよい。ここで有機層を構成する有機材料としては、CFx等を採用することができる。このように有機層を採用することにより、封止膜4A内で有機層が緩衝膜となり亀裂などを抑制できる。尚、有機層を成膜する方法としては、CVD法やイオンプレーティング法等を適用することができる。
【0038】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。以下、上記実施形態を一部変更した変更形態について説明する。」

ウ 「【図1】



エ 「【図2】



オ 「【図3】



カ 「【図4】



キ 「【図5】



ク 「【図6】



(2)引用発明
ア 引用文献1の【0014】〜【0021】及び【図1】には、第1実施形態による「有機EL素子」が記載されている。また、引用文献1の【0024】〜【0029】には、【図2】〜【図5】に示す各製造工程を含む、当該「有機EL素子」の「製造方法」により、上記「有機EL素子」が完成することが記載されている。
ここで、「封止膜4」は、「発光部3を覆うように」「成膜した」ものであり(引用文献1の【0028】)、「発光部3は、アノード電極11と、有機発光層12と、カソード電極13とを備え」たものである(引用文献1の【0017】)。そうしてみると、上記「有機EL素子」は、[A]「レジスト膜」が基板上に設けられる構成及び[B]スパッタ法により、「アノード電極」、「有機発光層」、「カソード電極」及び「フレキシブル基板」上に、封止膜が形成される構成を具備しているといえる。
(当合議体注:「アノード電極11」は、「基板2の表面2aに」「パターニングされた」ものであるから、「レジスト膜」は、基板上に直接設けられる、あるいは、アノード電極を介して基板2の上に設けられるとみることができる。)

イ 引用文献1の【0028】及び【図5】の記載から、「レジスト膜」は、「有機発光層」及び「カソード電極」の両側にそれぞれ位置し且つ「有機発光層」及び「カソード電極」と所定の間隔を維持して形成されたものであることが理解される。

ウ 引用文献1の【0016】及び【0029】の記載から、当業者は、第1実施形態の「有機EL素子」として、「基板2」が「変形可能な樹脂製のフレキシブル基板により構成」され、かつ、「封止膜4」が「LiBxNy」からなる具体的な態様を把握することができる。

エ 以上ア〜ウによれば、引用文献1には、次の有機EL素子の製造方法の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「フォトリソグラフィー技術及びリフトオフ法等により、パターニングされたアノード電極を、フレキシブル基板の表面に形成し、
開口部15aが形成されたメタルマスクを用いて、アノード電極上の所望の領域に有機発光層を蒸着法により形成し、
開口部16aが形成されたメタルマスクを用いて、有機発光層上にカソード電極を蒸着法により形成し、
フレキシブル基板上に、フォトリソグラフィー技術により、有機発光層及びカソード電極の両側にそれぞれ位置し且つ有機発光層及びカソード電極と所定の間隔を維持するレジスト膜を形成し、その後、アノード電極、有機発光層、カソード電極及びフレキシブル基板上に、反応性ガスを導入可能なスパッタ法により、アノード電極の一部と、有機発光層の側面と、カソード電極とを覆うように、LiBxNyからなる封止膜を成膜した後、レジスト膜を除去する、
有機EL素子の製造方法。」

(3)引用文献3の記載
原査定で引用された、引用文献3(国際公開第2013/145139号)は、本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献であるところ、そこには以下の記載がある。

ア 「[0015] 部分被覆部材2は、それ自体を単独で形成することもできるが、他の部材の形成と同時又は同工程で形成することで、工程の簡略化が可能になる。図1(a)に示すように、部分被覆部材2は、素子3の複数の電極を互いに区分する隔壁12と同時又は同じ工程で形成することができる。部分被覆部材2及び隔壁12は、例えば、フォトリソグラフィ工程でパターン形成されたレジスト層である。部分被覆部材2及び隔壁12の形成方法の一例を示すと、基板1上に感光性樹脂層を塗布し、部分被覆部材2及び隔壁12のパターンを有するフォトマスクを介した露光及び現像を行うことで、部分被覆部材2及び隔壁12のレジスト層パターンを形成する。この際、レジスト層の厚さ方向の露光量の違いから生じる現像速度の差を利用して、側部が下向きの逆テーパー面2a,12aを有する部分被覆部材2及び隔壁12を形成することができる。
[0016] 図1(b)に示した第2工程では、具体的には、基板上の下部電極10上に素子3を形成する。素子3は、隔壁12の間に形成される。素子3の一例として有機EL素子を形成する場合には、下部電極10上に有機層13を積層し、その上に上部電極14を積層する。この際、隔壁12のパターンを下部電極10と交差する方向にストライプ状に形成しておくことで、上部電極14を隔壁12で区分されたストライプ状のパターンに形成することができる。基板1上の素子3が形成された領域が素子形成領域1Bになる。
[0017] 図1(c)に示した第3工程では、素子3及び部分被覆部材2を覆うように基板1上に被覆膜4が成膜される。被覆膜4は、素子3が有機EL素子の場合は有機EL素子を気密に封止する封止膜になる。被覆膜4は、例えば無機膜であり、一例として、原子層堆積(ALD)法によって形成することができる。ALD法によって成膜される被覆膜4は、接続端子領域1A及び素子形成領域1Bを含む基板1上の全面に形成される。
[0018] 図1(d1),(d2)に示した第4工程では、部分被覆部材2上の被覆膜4にクラック4Aが形成される。クラック4Aは、接続端子領域1A上の部分被覆部材2と被覆膜4に紫外線照射処理又は加熱処理又はレーザー照射を施すことで形成することができる。この際、部分被覆部材2と被覆膜4は、紫外線照射処理又は加熱処理又はレーザー照射に対して膨張率又は収縮率が異なる材料が用いられる。膨張率又は収縮率の違いで互いに接触する部分被覆部材2と被覆膜4に内部応力が発生し、強度の弱い被覆膜4にクラック(亀裂)4Aが形成されることになる。
[0019] 具体的には、部分被覆部材2をレジスト層で形成し、被覆膜4を無機膜で形成して、接続端子領域1A上の部分被覆部材2と被覆膜4に紫外線照射処理を施すことで、部分被覆部材2の方が被覆膜4より大きい膨張率を示し、被覆膜4にクラック4Aが形成される。部分被覆部材2が逆テーパー面2aを有する場合には、部分被覆部材2の上端縁の鋭角なエッジに対応してクラック4Aが形成され易くなる。この際には、クラック4Aは、部分被覆部材2の端部に沿って形成される。
[0020] 部分被覆部材2と被覆膜4への紫外線照射処理又は加熱処理又はレーザー照射は、図1(d1)に示すように直接被覆膜4上へ施してもよいし、図1(d2)に示すように、被覆膜4上に別の部分被覆部材2Sを積層して、その別の部分被覆部材2Sを介して施してもよい。別の部分被覆部材2Sは、部分被覆部材2上の被覆膜4に内部応力を発生しやすくするための部材であり、部分被覆部2に対して更に大きい膨張率又は収縮率を有する部材、或いは部分被覆部材2に対して逆の膨張率又は収縮率(部分被覆部材2が膨張するときには部分被覆部材2Sは収縮し、部分被覆部材2が収縮するときには部分被覆部材2Sは膨張する)を有する部材などを選択するのが好ましい。
[0021] 前述したように部分被覆部材2と隔壁12を同一工程で形成する場合には、隔壁12が形成された箇所の被覆膜4にはクラックが入らないようにすることが必要になる。このための手法としては、まず、隔壁12又は部分被覆部材2の材料として、隔壁12を形成するための硬化工程での処理程度ではクラックが入らない程度の収縮率を有する材料を用いる。そして、クラック4Aを生じさせる際には、部分被覆部材2以外を遮光(マスク)し、部分被覆部材2に対して隔壁12の硬化時以上の強い紫外線を照射する。或いは、CO2レーザー等の、樹脂に対して吸収・発熱するレーザーを用い、これを隔壁12の硬化後に選択的に部分被覆部材2上の被覆膜4に対して照射する。
[0022] また、部分被覆部材2と隔壁12を別工程で形成し、部分被覆部材2と隔壁12を異なる材料にする場合には、隔壁12に対して膨張率や収縮率が大きい材料を部分被覆部材2に用いる。この場合には、フォトリソグラフィ、印刷、インクジェットなどによるパターン形成方法を部分被覆部材2の形成に採用することができる。この場合も、選択的に部分被覆部材2上の被覆膜4に対して紫外線やレーザー照射を行ったり、部分的に加熱したりする方法を採用することができる。
[0023] 図2は、本発明の実施形態に係る電子デバイスの製造方法であって、部分被覆部材と共に接続端子領域上の被覆膜を除去する工程を示している。図2に示した工程では、部分被覆部材2と共に接続端子領域1A上の被覆膜4を除去して、接続端子11を露出させる。部分被覆部材2上の被覆膜4は、クラック4Aの形成によって除去しやすくなっている。また、クラック4Aの形成によって、被覆膜4の下に処理液を浸透させることができるので、この処理液によって部分被覆部材2を溶解させることができる。具体的には、処理液が入った容器内に基板1全体を浸漬することで、クラック4Aが入った接続端子領域1Aに処理液を浸透させる。この際、素子形成領域1Aは被覆膜4によって覆われているので、処理液の影響を受けない。基板1が複数の素子形成領域1Bを有する多面取り基板の場合には、基板1全体を処理液に浸漬させる1つの工程で、基板1上における複数の接続端子領域1Aの被覆膜4を同時に除去して接続端子11を露出させることができる。」

イ 「[図1]



ウ 「[図2]



(4)引用文献4の記載
本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、米国特許出願公開2012/0225510号(以下「引用文献4」という。)には以下の記載がある。

ア 「[0024]The present invention provides a method for encapsulating a substrate, which comprises:
[0025] (a1) providing a substrate with a plurality of chips mounted on top side of the substrate;
[0026] (b1) compressing a dry film photoresist on the top side of the substrate to form a photoresist layer;
[0027] (c1) exposing the photoresist layer to a light source through a mask to form unexposed photoresist regions and exposed photoresist regions;
[0028] (d1) developing the photoresist layer to uncover underlying portions of the unexposed photoresist regions:
[0029] (e1) molding the top side of the substrate with a molding material;
[0030] (f1) curing the molding material; and
[0031] (g1) removing the exposed photoresist regions from the substrate with a photoresist-removing agent.
[0032] Any substrate useful in the fabrication of electronic elements is applicable to the present invention. For example, the Substrate can be an indium tin oxide (ITO) glass, silicon, silicon oxide, silicon nitride, GaN. Sapphire. InGaN. AlInGaP, or ceramics. In step (al), the chips can be mounted on the Substrate in flip-chip manner or in wirebonding manner. The chips can be, for example, LED chips, CMOS image sensor chips.
[0033] Any known negative type dry film photoresist can be applied to step (b1) of the present invention. Examples of commercially available dry film photoresists include, but are not limited to, photosensitive acrylate, DuPont Riston(R), MPFR).
[0034] In step (c1), the mask can carry any desired pattern consisting of opaque and clear features. The pattern defines the regions of the photoresist to be exposed to the light source. The light source can be, for example, infrared light, broad band ultraviolet light, deep ultraviolet light, extra ultraviolet light, e-beam and x-rays.
[0035] Step (d1) is carried out with a developing solution. Any known developing solution can be applied to step (d1) of the present invention. Preferably, an aqueous solution of sodium carbonate having a concentration of 0.1 to 1.5 V/v% is used in the developing step.
[0036] Step (e1) can be carried out in any known molding manner, for example, by inkjet-printing or screen-printing. If this step is carried out by inkjet-printing, a printing apparatus disclosed in, for example, U.S. Pat. No. 6.286,941 B1 can be used.
[0037] Any known molding material can be applied to the present invention. Suitable molding materials include, but are not limited to, silicon, epoxy and acrylate. Preferably, the molding materials form a conformal coating on the chips mounted on the top side of the substrate.
[0038] Step (f1) can be carried out by heating the substrate or subjecting the Substrate to a light source mentioned above, depending on the nature of the molding material described in step (e1).
[0039] In step (g1), the photoresist-removing agent is a mixture of 1-60% N-Methyl-2-Pyrrolidone (NMP), 1-50% poly(propylene glycol) diamines (PPG-diamine) and 10-30% dimethyl sulfoxide (DMSO) and 1-20% KOH under 40-100 degree C. for 10-60 minutes, preferably 70 degree C. and 20 minutes. In FIGS. 1a to 1e, a plurality of chips 12 are mounted on a top side of a substrate 11 as shown in FIG. 1a and a photoresist 13 is compressed to the top side of the substrate 11 as shown in FIG. 1b. After the exposing and developing steps, the underlying portions of the unexposed photoresist regions are uncovered as shown in FIG.1c. Then, a molding material is applied to the chips 12 mounted on the top side of the substrate 11 to form a conformal coating 15 as shown in FIG.1d. In FIG. 1e, the exposed photoresist regions are removed from the top side of the substrate 11.」
(参考訳:
[0024] 本発明は、基板をカプセル化する方法を提供するものであり、以下を含む:
[0025](a1)上面に複数のチップが実装された基板を提供すること;
[0026](b1)基板の上面にドライフィルムフォトレジストを圧縮してフォトレジスト層を形成すること;
[0027](c1)マスクを介してフォトレジスト層を光源からの光に露光させ、未露光フォトレジスト領域および露光フォトレジスト領域を形成すること;
[0028](d1)フォトレジスト層を現像して、露光されていないフォトレジスト領域の下にある部分を露出させること:
[0029](e1)基板の上面を成形材料で成形すること;
[0030](f1)成形材料を硬化させること;及び
[0031](g1)露光されたフォトレジスト領域をフォトレジスト除去剤で基板から除去すること。
[0032]電子素子の製造に有用な任意の基板が本発明に適用可能である。例えば、基板は、インジウムスズ酸化物(ITO)ガラス、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、GaN、サファイア、InGaN、AlInGaN、又は、セラミックとすることができる。ステップ(a1)では、チップをフリップチップ方式またはワイヤボンディング方式で基板上に搭載することができる。チップは、例えば、LEDチップ、CMOSイメージセンサーチップであり得る。
[0033]本発明の工程(b1)には、公知のネガ型ドライフィルムフォトレジストを適用することができる。市販のドライフィルムフォトレジストとしては、感光性アクリレート、デュポンリストン(登録商標)、MPF(登録商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
[0034]ステップ(c1)において、マスクは、不透明な特徴及び透明な特徴からなる任意の所望のパターンを運ぶことができる。パターンは、光源からの光で露光するフォトレジストの領域を定める。光源は、例えば、赤外光、広帯域紫外光、深紫外光、極紫外光、電子ビーム及びX線であり得る。
[0035]工程(d1)は、現像液を用いて実施される。本発明の工程(d1)には、公知の現像液を適用することができる。現像工程では、0.1〜1.5v/v%の炭酸ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
[0036]ステップ(e1)は、任意の既知の成形方法、例えば、インクジェット印刷又はスクリーン印刷によって行うことができる。この工程をインクジェット記録により行う場合、例えば、No.6,286,941 Bに開示された印刷装置を用いることができる。
[0037]成形材料としては、公知のものを本発明に適用することができる。適切な成形材料には、シリコン、エポキシ、及びアクリレートが含まれるが、これらに限定されない。成形材料は、基板の上面に取り付けられたチップ上にコンフォーマルコーティングを形成することが好ましい。
[0038]工程(f1)は、工程(e1)に記載の成形材料の性質に応じて、基板を加熱するか、又は基板を上述の光源に晒すことによって実施することができる。
[0039]ステップ (g1) において、フォトレジスト除去剤は、1〜60%のN-メチル-2-ピロリドン (NMP)、1〜50%のポリ (プロピレングリコール) ジアミン(PPG-ジアミン)、10〜30%のジメチルスルホキシド(DMSO)及び1〜20%のKOHを40〜100℃で10〜60分、好ましくは70℃で20分混合したものである。図1a〜図1eにおいて、図1aに示されるように基板11の上面に複数のチップ12が搭載され、図1bに示されるようにフォトレジスト13が基板11の上面で圧縮されている。露光及び現像工程の後、露光されていないフォトレジスト領域の下にある部分が図1cに示すように露出される。次に、図1dに示すように、基板11の上面に搭載されたチップ12に成形材料を塗布してコンフォーマルコーティング15を形成する。図1eにおいて、露光したフォトレジスト領域が基板11の上面から除去される。)

イ 「第1b図、第1c図



(5)引用文献5の記載
本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開平10−134964号公報(以下「引用文献5」という。)には以下の記載がある。

ア 「【0033】次に、この第1の実施の形態の表示装置の製造方法を図2乃至図5に基づいて説明する。ここで、図2および図3は、透明支持基板1にアノード2をパターニングした後有機EL層4を形成しカソード5を形成するまでの工程順の断面図である。また、図4および図5は、表示素子の製造工程で用いるシャドウマスクの平面図である。
【0034】図2(a)に示すように、透明支持基板1にストライプ状のアノード2を形成する。ここで、このアノード2はITOで構成される。次に、ネガ型のドライフィルムレジスト6をラミネータで透明支持基板1上に張り付ける。そして、フォトマスク7を使って露光機により近紫外光8を照射し、ストライプ状の光学パターンをドライフィルムレジスト6に転写する。ここで、ネガ型のドライフィルムレジスト6は東京応化工業(株)製の商品名α−450を使用した。また、透明支持基板1へのラミネートは温度85〜115℃、圧力2〜4kg/cm2の条件で毎分1〜3mの速さで行った。なお、フォトマスク7の遮光パターン9はITOのストライプ列に対して交差するように配列され、幅0.4mmで間隔ピッチ1.0mmのストライプの行31本となる。そして、両端の行2本の外側にそれぞれ間隔0.6mmを隔てて充分幅の広い遮光パターンが配置してある。
【0035】この近紫外光8の照射で、露光領域は架橋して不溶性となり、未露光部分は現像及び剥離洗浄により除去できるようになる。次に、Na2CO3の0.8〜1.2%水溶液で現像する。そして、剥離洗浄をKOHの2〜4%水溶液で行う。このような現像及び剥離洗浄は、透明支持基板上のドライフィルムレジスト6を下面として400rpmで回転させ、現像液または剥離液をレジストにスプレーして行った。そして、剥離後3000rpmで60秒間回転させ、130度のクリーンオーブン内で60分の乾燥させた。」


イ 「【図2】



(6)引用文献6の記載
本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2003−59663号公報(以下「引用文献6」という。)には以下の記載がある。

ア 「【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明のEL素子の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明のEL素子の製造方法の一例を示すものである。この例においては、まず図1(a)に示すように、透明基材1上にライン状の第1電極層2が形成され、この第1電極層2上に一定の間隔をおいて形成された有機EL層3と、この有機EL層3上に積層されたフォトレジスト4とが形成されている(基材調製工程、図1(a))。
【0018】この状態を基材表面側からみた平面図が図2である。上述したように、図1上にストライプ状の第1電極層2が形成されており、有機EL層上に積層されたフォトレジスト4がパターン状に形成されている。この図2の第2電極層2に平行なA−A断面矢視図が図1(a)となるのである。
【0019】次に、このような基材1上の全面にわたって、ネガ型の感光性隔壁形成用塗工液を塗布して、隔壁形成用材料層5を形成する(隔壁形成用材料層形成工程、図1(b))。
【0020】そして、このようにして形成された隔壁形成用材料層5の上面からフォトマスク6を介して露光する(露光工程、(図1(c)))。この際、隔壁形成用材料層は、ネガ型の感光性材料であるので、露光された部分が硬化し、露光されていない部分が現像されて除去されるものである。したがって、この場合は隔壁を形成する部位のみを露光し、他の部分はフォトマスク5により遮光されて紫外光等の活性放射線が露光されない。これにより、発光層を含む有機EL層3の劣化を防止することが可能となる。
【0021】このようにして露光工程が終了した後、現像することにより底部から頂部にかけて徐々に大きくなる、いわゆる逆テーパー状の隔壁7が形成される(現像工程、図1(d))。この状態を、基材上面から見たのが図3である。図3から明らかなように、第1電極層2上に所定の間隔で形成されている有機EL層およびその上に積層されているフォトレジスト4の間に、上記第1電極層2と交差するように、直線状に隔壁7が形成されている。
【0022】このような隔壁7を形成した後、有機EL層3上のフォトレジスト4を剥離し(剥離工程、図1(e))、最後に第2電極層8を蒸着して(蒸着工程、図1(f))、封止等することによりEL素子を形成することができる。」

イ 「【図1】



2 対比及び判断
(1)対比
ア フレキシブル基板上に有機半導体デバイスを形成するステップ
引用発明の「フレキシブル基板」は、その文言が意味するとおり、本願発明の「フレキシブル基板」に相当し、引用発明の「有機発光層」は、技術的にみて有機半導体からなる層に該当する。また、引用発明の「製造方法」は、「アノード電極を、フレキシブル基板の表面に形成し、開口部15aが形成されたメタルマスクを用いて、アノード電極上の所望の領域に有機発光層を蒸着法により形成し、開口部16aが形成されたメタルマスクを用いて、有機発光層上にカソード電極を蒸着法により形成」する工程を含む。
上記工程からみて、引用発明の「有機EL素子」は、「基板の表面」に、「アノード電極」が、その上に「有機発光層」が、さらにその上に「カソード電極」が形成され、「アノード電極の一部と、有機発光層の側面と、カソード電極とを覆うように、LiBxNyからなる封止膜」が「成膜」された構造を具備するものといえる。ここで、いわゆる、有機電界発光素子(OLED)は、有機層が2つの電極の間に挟まれた構成が基本構造であることが技術常識であるから、引用発明の「有機EL素子」における、上記「アノード電極」、「有機発光層」及び「カソード電極」が、本願発明の「有機半導体デバイス」に相当するといえる。
(当合議体注:後記ウに示すように、引用発明の「封止膜」は、本願発明の「無機層」に相当するところ、上記認定は、本願発明の「有機半導体デバイス」が、少なくとも「基板」及び「無機層」を含まないことからも導くことができる事項である。なお、仮に本願発明の「有機半導体デバイス」が「アノード電極」を含まない、すなわち、「基板」が「アノード電極」を含むものであると理解した場合には、後記相違点1は一致点となる。)
以上を踏まえると、引用発明の上記工程は、本願発明の「有機半導体デバイスを形成するステップ」に相当し、「フレキシブル基板上に」「形成する」という要件を満たす。

イ フォトレジストブロックを作製するステップ
引用発明の「レジスト膜」は、「フォトリソグラフィー技術により」「形成」され、「有機発光層及びカソード電極の両側にそれぞれ位置し且つ有機発光層及びカソード電極と所定の間隔を維持する」ものであり、「LiBxNyからなる封止膜を成膜した後」、「除去」されるものである。
上記構成及び役割からみて、引用発明の「レジスト膜」は、本願発明の「フォトレジストブロック」に相当する。
そうしてみると、引用発明の「フレキシブル基板上に、フォトリソグラフィー技術により、有機発光層及びカソード電極の両側にそれぞれ位置し且つ有機発光層及びカソード電極と所定の間隔を維持するレジスト膜を形成」する工程は、本願発明の「フォトレジストブロックを作製するステップ」に相当し、「フレキシブル基板上において」「作製する」点において共通する。

ウ 無機層を堆積するステップ
引用発明の「封止膜」は、「LiBxNyからな」り、「レジスト膜を形成し」た「後」、「アノード電極、有機発光層、カソード電極、及びフレキシブル基板上に、反応性ガスを導入可能なスパッタ法により、アノード電極の一部と、有機発光層の側面と、カソード電極とを覆うように」「成膜」されるものである。ここで、「LiBxNy」が、無機材料であることは技術常識である。
上記構成及び機能からみて、引用発明の「封止膜」は、本願発明の「無機層」に相当し、さらに、本願発明に「無機層」における、「前記有機半導体デバイスを覆う」との要件を満たす。
以上総合すると、引用発明の「製造方法」における、「アノード電極、有機発光層、カソード電極及びフレキシブル基板上に、反応性ガスを導入可能なスパッタ法により、アノード電極の一部と、有機発光層の側面と、カソード電極とを覆うように、LiBxNyからなる封止膜を成膜」する工程は、本願発明の「無機層を堆積するステップ」に相当し、本願発明における、「前記有機半導体デバイス、及び前記フレキシブル基板上に、前記有機半導体デバイスを」「覆う」「無機層を堆積するステップ」であるとの要件を満たす。

エ 除去するステップ
上記ア〜ウの対比結果から、引用発明の「製造方法」における、「レジスト膜を除去する」工程は、本願発明の「除去するステップ」に相当し、上記工程及びステップは、「フォトレジストブロック」「を除去するステップ」である点で共通する。

オ 有機半導体デバイスのパッケージング方法
引用発明の「有機EL素子の製造方法」は、上述したア〜エのステップを含むものであり、実質的に「アノード電極」、「有機発光層及びカソード電極」のパッケージングを行うものであるから、本願発明の「有機半導体デバイスのパッケージング方法」に相当する。
以上ア〜オの対比結果を総合すると、引用発明の「有機EL素子の製造方法」と、本願発明の「有機半導体デバイスのパッケージング方法」とは、「フレキシブル基板上に有機半導体デバイスを形成するステップ」、「前記フレキシブル基板上において」「フォトレジストブロックを作製するステップ」、「前記有機半導体デバイス、及び前記フレキシブル基板上に、前記有機半導体デバイスを」「覆う無機層を堆積するステップ」及び「前記フォトレジストブロック」「を除去するステップ」を含む点で共通する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「有機半導体デバイスのパッケージング方法であって、
フレキシブル基板上に有機半導体デバイスを形成するステップと、
前記フレキシブル基板上において、フォトレジストブロックを作製するステップと、
前記有機半導体デバイス、及び前記フレキシブル基板上に、前記有機半導体デバイスを覆う無機層を堆積するステップと、
前記フォトレジストブロックを除去するステップと、を含む、
有機半導体デバイスのパッケージング方法。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違又は一応相違する。
(相違点1)
「無機層」が、本願発明で、「前記有機半導体デバイスを完全に覆う」のに対し、引用発明においては、一応、完全に覆われているとされていない点。
(相違点2)
本願発明が、「前記有機半導体デバイス及び前記フレキシブル基板上の無機層上に有機層を堆積するステップ」を含むのに対し、引用発明は、このステップを含んでいない点。
(相違点3)
本願発明が、「無機層を堆積するステップ」では、「前記フォトレジストブロック」「上に」「無機層を堆積」し、「除去するステップ」では、「前記フォトレジストブロック」「の上の無機層を除去する」ものであり、さらに、「前記フォトレジストブロックを作製するステップ」では、「前記フレキシブル基板及び前記有機半導体デバイス上にフォトレジスト層を塗布するステップと、
所定のフォトマスクブランクスで前記フォトレジスト層を露光するステップと、ここで、前記フォトマスクブランクスは遮光部とそれぞれ前記遮光部の両側に位置する光透過部とを含み、前記遮光部は前記有機半導体デバイスと対向し、前記遮光部の両側はそれぞれ前記有機半導体デバイスの両側を超えており、
露光されたフォトレジスト層を現像して、前記遮光部に対応するフォトレジスト層を除去するステップと、を含み、
これらのステップによって、前記フォトレジストブロックを作製する」ものであり、当該「フォトレジストブロック」が「前記有機半導体デバイスの両側にそれぞれ位置し且つ前記有機半導体デバイスと所定の間隔を維持する」ものであるのに対し、引用発明はこれらの点について定かではない点。

(3)判断
ア 相違点1について
最初に、本願発明の「前記有機半導体デバイスを完全に覆う無機層」について、「完全に覆う」の意味について検討する。
本件出願の明細書及び図面において、「有機半導体デバイス」の電極に関する言及や記載はないものの、本件優先日前の技術常識を考慮すると、「有機半導体デバイス」は、当然に、電力を供給するために電極の一部が引き出された構成を備えており、本件出願の明細書及び図面においては、当該構成については敢えて言及していない(言及する必要がない)と考えるのが自然である。そうしてみると、本願発明においても、電力供給のために引き出された電極の一部については無機層で覆われていないものと認められる。
そうしてみると、本願発明における「完全に覆う」は、電力供給のために引き出された電極の一部を除いたその他の部分を覆うことを意味すると解するのが自然である。
このような解釈を前提とすれば、引用発明の「封止膜」も、「反応性ガスを導入可能なスパッタ法により」、電力供給のために引き出された部分を除いた「アノード電極の一部と、有機発光層の側面と、カソード電極とを覆う」ものであるから、引用発明の「有機EL素子」は、実質的に、本願発明の「前記有機半導体デバイスを完全に覆う」という構成を具備する。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。
また、仮に相違点であったとしても、電極の一部(電力供給のために露出しておくべき部分)以外を可能な限り覆うように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 相違点2について
引用文献1の【0032】〜【0037】には、「第1実施形態の有機EL素子を部分的に変更した第2実施形態による有機EL素子」として、「有機EL素子1Aの封止膜4A」が「第1封止層21と第2封止層22とが順に積層された積層構造を有する」構成を備えるものが記載されている。また、同文献の【0037】には、「第1封止層21をイオン結晶からなるイオン結晶層により構成し、第2封止層22を有機材料からなる有機層により構成」することが記載されている。
そうしてみると、上記記載に接した当業者が、上記記載に基づいて、引用発明の「LiBxNyからなる封止膜」を、イオン結晶(LiBxNy)からなる第1封止層と第1封止層に積層(堆積)された有機層からなる第2封止層の2層構造とすることは容易に想到し得たことである。
よって、相違点2に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
上記アと同様に、本願発明の「前記遮光部は前記有機半導体デバイスと対向し、前記遮光部の両側はそれぞれ前記有機半導体デバイスの両側を超えており」という要件は、「前記遮光部」が電力供給のために引き出された部分を除く「アノード電極の一部」、「有機発光層及びカソード電極」と対向し、「前記遮光部の両側はそれぞれ」電力供給のために引き出された部分を除く「アノード電極の一部」、「有機発光層及びカソード電極」「の両側を超えており」と解するのが自然である。以上を前提に、以下、検討する。
引用発明の「製造方法」は、「フォトリソグラフィー技術により、有機発光層及びカソード電極の両側にそれぞれ位置し且つ有機発光層及びカソード電極と所定の間隔を維持するレジスト膜を形成」する工程を含むものであり、フォトリソグラフィー技術の具体的な記載はないものの、当業者であればレジスト層等の形成のために周知のフォトリソグラフィー技術が適用できることを理解するといえる。
ここで、例えば、引用文献3の[0015]、[0017]、[0019]、[0021]、[0023]、[図1]及び[図2]には、フォトリソグラフィーにおいて、フォトマスクを介して露光を行うことで、レジスト層パターンを形成する技術及びレジスト層(部分被覆部材2)を無機膜(被覆膜4)で覆った後に、レジスト膜上の無機膜をレジスト膜と共に除去する周知技術が記載されている。
また、フォトリソグラフィー技術として、フォトマスクを介して露光・現像した場合に、露光していない部分を残し、露光した部分を除去するポジ型のフォトレジストを用いる技術と、露光した部分を残し、露光していない部分を除去するネガ型のフォトレジストを用いる技術の2種類が知られており、何れも本件優先日前に周知技術である(特にネガ型のフォトレジストを利用する技術については、引用文献3(当合議体注:同文献[0021]の「部分被覆部材2に対して隔壁12の硬化時以上の強い紫外線を照射する」という記載から、レジスト(隔壁12)の硬化時に紫外線を照射した部分を残すネガ型のフォトレジストを用いていることが理解できる。)のほか、上記1(4)〜(6)を参照。)。
そうしてみると、引用発明において、レジスト膜を形成するためのフォトリソグラフィー技術として、上記周知技術を採用し、「無機層を堆積するステップ」では、「前記フォトレジストブロック」「上に」「無機層を堆積」し、「除去するステップ」では、「前記フォトレジストブロック」「の上の無機層を除去する」ものとすることは当業者であれば適宜なし得ることであり、また、ネガ型のレジスト膜を採用することも当業者の選択枝の一つといえる。
ここで、引用発明において、ネガ型のレジスト膜を採用して上記フォトリソグラフィー技術により「有機発光層及びカソード電極の両側にそれぞれ位置し且つ有機発光層及びカソード電極と所定の間隔を維持するレジスト膜」を形成すれば、引用発明の「フォトレジストブロックを作製するステップ」は、必然的に、「所定のフォトマスクブランクスで前記フォトレジスト層を露光するステップ」を含み、「露光するステップ」では「前記フォトマスクブランクスは遮光部とそれぞれ前記遮光部の両側に位置する光透過部とを含み、前記遮光部は前記有機半導体デバイスと対向し、前記遮光部の両側はそれぞれ前記有機半導体デバイスの両側を超えており」という要件を満たすことになる。
そうすると、引用発明及び上記周知技術に基づいて推考される発明は、本願発明の、「無機層を堆積するステップ」では、「前記フォトレジストブロック」「上に」「無機層を堆積」し、「除去するステップ」では、「前記フォトレジストブロック」「の上の無機層を除去」し、「前記フォトレジストブロックを作製するステップ」では、「前記フレキシブル基板及び前記有機半導体デバイス上にフォトレジスト層を塗布するステップと、所定のフォトマスクブランクスで前記フォトレジスト層を露光するステップと、ここで、前記フォトマスクブランクスは遮光部とそれぞれ前記遮光部の両側に位置する光透過部とを含み、前記遮光部は前記有機半導体デバイスと対向し、前記遮光部の両側はそれぞれ前記有機半導体デバイスの両側を超えており、露光されたフォトレジスト層を現像して、前記遮光部に対応するフォトレジスト層を除去するステップと、を含み、これらのステップによって、前記フォトレジストブロックを作製する」という要件を満たすものとなる。
また、このようにしてフォトレジストブロックを作製した場合、「フォトレジストブロック」は、「前記有機半導体デバイスの両側にそれぞれ位置し且つ前記有機半導体デバイスと所定の間隔を維持する」ものとなる。
以上総合すると、相違点3に係る本願発明の構成は、引用発明において、当業者が周知技術を採用することによって、容易に想到し得る事項である。

(4)発明の効果について
本願発明の効果として、本件出願の明細書の【0013】には、「このようなパッケージング構造は、従来の薄膜パッケージングプロセスにおける無機層の堆積に必要とされる堆積マスクを省略するだけでなく、OLEDデバイスの水分及び酸素に対するバリア性を効果的に向上させ、それにより、OLEDデバイスの寿命を延長する。」と記載されている。
しかしながら、当該効果は引用発明及び周知技術に基づき推考される発明も奏する効果である。

(5)請求人の主張について
ア 請求人は、令和2年12月11日付け審判請求書において、
「 それに対し、引用文献1の段落0021には、「封止膜4は、発光部3の一部を覆うように形成されている。具体的には、封止膜4は、アノード電極11の一部と、有機発光層12の側面と、カソード電極13とを覆うように形成されている。」が記載され、図1を参照すれば、アノード電極11の一部が露出しています。即ち、引用文献1では、封止膜4は、発光部3の一部を覆うのであって、完全に発光部3を覆うものではありません。
よって、引用文献1には、「前記フォトレジストブロック、前記有機半導体デバイス、及び前記フレキシブル基板上に、前記有機半導体デバイスを完全に覆う無機層を堆積するステップ」が開示されていません。」と主張している(以下「主張1」という。)。
しかしながら、上記2(3)に記載したとおり、「無機層」が「前記有機半導体デバイスを完全に覆う」点については実質的な相違点ではない。
したがって、請求人の上記主張1は、採用することができない。

イ また、請求人は、上記審判請求書において、
「 引用文献3の段落0015には、「部分被覆部材2及び隔壁12の形成方法の一例を示すと、基板1上に感光性樹脂層を塗布し、部分被覆部材2及び隔壁12のパターンを有するフォトマスクを介した露光及び現像を行うことで、部分被覆部材2及び隔壁12のレジスト層パターンを形成する。」が記載され、図1を参照すれば、引用文献3には、単に、レジストパターンを有するフォトマスクを露光及び現像を行うことで、部分被覆部材を形成することが開示されているのであって、本願発明における「フォトレジストブロックを作製するステップ」についての具体的な手法は開示されていません。
引用文献3では、部分被覆部材2及び隔壁12を形成した後に、素子3を形成しますので(図1(a)−図1(b))、明らかに異なる技術であり、引用文献1に適用することはできません。そして、引用文献3において、部分被覆部材2及び隔壁12のパターンを有するフォトマスクを介した露光及び現像を行うことで、部分被覆部材2及び隔壁12のレジスト層パターンを形成することは、接続端子11を被覆及び露出させたり、素子3を隔離させたりするためであり、部分被覆部材2及び隔壁12は、最終的な完成品として基板1上に形成されるものです。
本願発明においては、フォトレジストブロック130aは、有機半導体デバイス120を完全に覆う無機層140を堆積するために形成されるものであり、最終的に除去されて完成品として基板上に存在しません。
よって、引用文献3は、本願発明における「フォトレジストブロックを作製するステップ」とは明らかに異なる技術であり、引用文献1に適用したとしても、本願発明には至りません。」とも主張している(以下「主張2」という。)。
しかしながら、上記2(3)に記載したとおり、フォトマスクを用いて露光を行うフォトリソグラフィー技術は、引用文献3に具体的な記載がなくても、例えば、引用文献4の[0026]〜[0028]、[0033]〜[0034]、[0039]、第1b図、第1c図、引用文献5の【0034】〜【0035】、【図2】及び引用文献6の【0019】〜【0020】、【図1】等を例示するまでもなく、本件優先日前における周知慣用技術である。そして、請求人が主張する、「フォトレジストブロックを作製するステップ」についての具体的な手法は、上記周知慣用技術を心得た当業者が引用発明において普通に採用を試みる事項にすぎない。さらに、引用文献3は、引用発明のレジスト膜の形成及び除去のための周知技術として引用したにすぎないものであり、また、引用文献3の「部分被覆部材2」(フォトレジスト層)は最終的に「被覆膜4」(無機層)と共に除去されるものであるから([0023]、[図2])、「部分被覆部材2及び隔壁12は、最終的な完成品として基板1上に形成されるものです。」という記載は誤りである。
したがって、請求人の上記主張2は、採用することができない。

第3 まとめ
本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 里村 利光
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-06-25 
結審通知日 2021-06-29 
審決日 2021-07-13 
出願番号 P2019-528660
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 下村 一石
関根 洋之
発明の名称 有機半導体デバイスのパッケージング方法  
代理人 TRY国際特許業務法人  

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